説明

ポリイミドフィルムおよびその製造方法

【課題】 高ヤング率、高伸度、低吸水率、高ガラス転移温度および制御された線膨張率を有するポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】 フッ素元素を置換基として有する特定の構造を有するジアミン化合物として、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ー4,4’−ジアミノビフェニルを共重合成分として5−30モル%含有する共重合ポリイミドである。該ポリイミドで(1)ヤング率5GPa以上50GPa以下、(2)破断点伸度が10%以上50%以下、(3)吸水率が1.2%未満、(4)線膨張率がー5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下、(4)ガラス転移温度が300℃以上400℃以下、またはガラス転移温度を持たないフィルムである。該フィルムはジアミンとジカルボン酸を溶媒に溶解し、流延・製膜する方法により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子回路材料に好適に使用できるポリイミドフィルムおよびその製造方法に
関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは電子回路材料として広く用いられている。近年電子回路の小型化、ファインピッチ化に伴い、電子回路基板であるポリイミドフィルムにも薄膜化、高寸法安定性が求められるようになっている。薄膜でも形状を保持するためには、大きな剛性が求められる。また吸湿による寸法変化を低減する目的で低吸水率が求められる。
【0003】
特許文献1にはヤング率が500kg/mm以上と、比較的剛性の大きなポリイミドの開示がある。しかし、特許文献1に開示のポリイミドでは吸水率は1.4%以上の値しか得られていない(実施例3)。
【0004】
特許文献2や特許文献3には、吸水率低減を目的にフッ素化アルキル基を有するポリイミドの開示がある。しかしながらこのポリイミドは、次に述べる理由により複数のエーテル結合および/またはメチレン結合を有する屈曲性の構造単位を有するために、剛性が小さく、線膨張率が大きい問題がある。まず特許文献2の場合は、ワニス用途を目的としており、溶媒への溶解性が必要であるため屈曲成分を導入している。また、特許文献3の場合にはポリイミド光導波路の基板となるポリイミドフィルムを想定しており、現行のポリイミド光導波路の線膨張率(61ppm/℃あるいは82ppm/℃)と同様の線膨張率を得るために屈曲成分を導入している。電子回路材料用途に使用する高分子材料は、銅(16ppm/℃)やシリコン(4ppm/℃)と接触して使用されるため、線膨張率の差が大きいと、銅やシリコンとの剥離、割れが生じるため好ましくない。
【0005】
さらに特許文献4および非特許文献1には剛直な含フッ素ポリイミドからなる感光性
材料の開示がある。しかし、特許文献4に開示のポリイミドはヤング率およびガラス転移温度が低く、非特許文献1に開示のポリイミドは伸度が小さい問題がある。
【0006】
電子回路材料用高分子材料に求められる特性、つまり高ヤング率、高伸度、低吸水率、適度な線膨張率および高ガラス転移温度を全て満足するポリイミドフィルムはこれまでに得られていないのが現状である。
【特許文献1】特許第3351265号公報
【特許文献2】特公平2−14365号公報
【特許文献3】特許第3506320号公報
【特許文献4】特許第3332278号公報
【非特許文献1】高分子学会予稿集, 50, [4], 858 (2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。すなわち、本発明の目的は、高ヤング率、高伸度、低吸水率、制御された線膨張率および高ガラス転移温度を有するポリイミドフィルムおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するための本発明は、以下を特徴とする。
【0009】
すなわち、化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(1)〜(6)で示す割合で含み、かつ下記(i)〜(v)を満足するポリイミドフィルム。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
a+b+c+d=100 ・・・(1)
10≦d<46 ・・・(2)
5≦c<41 ・・・(3)
40≦a+d≦60 ・・・(4)
5≦a≦30 ・・・(5)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(6)
(ただし、式(1)〜(6)において、a〜dはそれぞれ化学式(I)〜(IV)で示される構造単位のモル分率を示す。)
(i)少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下
(ii)少なくとも一方向の破断点伸度が10%以上50%以下
(iii)吸水率が1.2%未満
(iv)線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下
(v)ガラス転移温度が300℃以上400℃以下、またはガラス転移温度を持たない
ただし、Rは下記化学式(V)で示される構造式から選ばれる基である。
【0015】
【化5】

【0016】
〜R18: 任意の基
【発明の効果】
【0017】
ポリイミドの持つ、高耐熱性や高剛性という利点を保持したまま、従来問題であった吸水率の高さを低減でき、電子回路の信頼性向上や、光学部品の寸法精度向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明のポリイミドは、以下に示す化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(1)〜(6)で示す割合で含み、かつ(i)〜(v)を満足することにより電子回路材料に適したポリイミドフィルムを得ることができる。
【0019】
【化6】

【0020】
【化7】

【0021】
【化8】

【0022】
【化9】

【0023】
a+b+c+d=100 ・・・(1)
10≦d<46 ・・・(2)
5≦c<41 ・・・(3)
40≦a+d≦60 ・・・(4)
5≦a≦30 ・・・(5)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(6)
(ただし、式(1)〜(6)において、a〜dはそれぞれ化学式(I)〜(IV)で示される構造単位のモル分率を示す。)
(i)少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下
(ii)少なくとも一方向の破断点伸度が10%以上50%以下
(iii)吸水率が1.2%未満
(iv)線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下
(v)ガラス転移温度が300℃以上400℃以下、またはガラス転移温度を持たない
ただし、Rは下記化学式(V)で示される構造式から選ばれる基である。
【0024】
【化10】

【0025】
〜R18: 任意の基
本発明のポリイミドは、(i)〜(v)を全て満足する点で従来のポリイミドと異なる。以下に例を挙げて説明する。
【0026】
ポリイミドは極性の高いイミド基を持つため吸水性が大きい問題があった。たとえば特許文献1(実施例1)に開示の化学式(VI)で示すポリイミドは、(i)、(ii)、(iv)、および(v)の物性は満足するが、(iii)吸水率が1.5%と高い問題がある。電子回路の信頼性向上のためには、(i)、(ii)、(iv)、および(v)を保持したまま(iii)を満足する必要がある。
【0027】
【化11】

【0028】
ポリイミドの吸水率低減方法としてはハロゲンや長鎖構造の導入が知られている。ハロゲンを導入したポリイミドとして、たとえば特許文献4(実施例1)に開示の化学式(VII)で示すポリイミドが知られている。
【0029】
【化12】

【0030】
このポリイミドは、化学式(VI)で示すポリイミドと比較して吸水率が低下する一方で、ガラス転移温度が低い問題がある。
【0031】
ハロゲンを導入したポリイミドの他の例として、非特許文献1に記載の化学式(VIII)で示すポリイミドが知られるが、伸度が小さいためにコーティング材料や膜での利用に留まっている。
【0032】
【化13】

【0033】
また、ハロゲンおよび長鎖構造を導入しているポリイミドの例として、特許文献2(実施例1)に開示の化学式(IX)で示すポリイミドが知られている。このポリイミドはワニス用途を想定しており、吸水率の低減に加え、有機溶剤に対する溶解性の向上を目的として長鎖構造を導入している。しかしながら、フィルム用途においては、長鎖構造を導入するとヤング率が低下したり、線膨張率が著しく大きくなったりする問題がある。
【0034】
【化14】

【0035】
本発明のポリイミドは化学式(VI)〜(VIII)で示すポリイミドの共重合体、およびその類似構造を有するが、これまで目的とする物性のフィルムを得るには至っていない。
【0036】
この原因として、この共重合系では多くの共重合比において、伸度が小さすぎるためフィルムが得られないか、または伸度の小さいフィルムしか得られないこと、およびポリイミドの前駆体の重合には、加熱と冷却を複雑に組み合わせた温度制御が必要であり、従来の重合方法では十分な分子量を持つポリイミド前駆体を得ることが困難であったことが要因と考えられる。
【0037】
たとえば、次のモル分率[a=25、b=25、c=45、d=5]や、[a=0、b=50、c=25、d=25]、[a=40、b=10、c=25、d=25](いずれもRは1,4−フェニレン残基である)では著しく伸度が小さいため、フィルムが極めて脆いか、またはフィルムを得ることができない。
【0038】
本発明のポリイミドフィルムの一例として、次のモル分率[a=25、b=25、c=25、d=25](Rは1,4−フェニレン残基である)が挙げられる。このポリイミド(またはその前駆体)は従来の手法で得ることは困難である。一般にポリイミド前駆体は氷冷または室温でジアミンの有機極性溶媒溶液に酸二無水物を添加して重合せしめる方法が知られているが、本発明で原料として用いる2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(以下TFMBということがある)、1,4−フェニレンジアミン(以下PDAということがある)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下BPDAということがある)は溶解性が小さいために、これらの原料をたとえば10質量%以上のフィルム製膜原液となるのに十分な濃度まで溶解せしめるためには加熱が必要である。十分に溶解させずに重合を行うと、溶け残った原料の周りに超重合物が付着し、溶解を阻害するために重合過程でも溶解せず、フィルム中の異物として残る。
【0039】
また、反応性の小さい原料を用いたポリイミド前駆体の重合では100℃を超える温度での反応が用いられることが多い。しかしながら、本発明のポリイミドの原料であるTFMBは100℃を超える温度で反応せしめると反応が十分に進行せず、得られるポリイミド前駆体の粘度が小さく、またこの前駆体から得られるポリイミドは伸度が小さい問題があった。
【0040】
これに対し本発明者らは鋭意検討の結果、以下の重合方法を採用した。即ち、ジアミンを溶媒に溶解させる過程では加熱し、BPDAを添加する過程で冷却、添加したBPDAを溶解させる過程で再び加熱、そしてBPDA溶解後から重合終了まで冷却する方法である。
【0041】
この方法を用いることによって、従来困難であった、化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を含む共重合系の一部の重合比についてフィルムを得ることが可能となった。さらに鋭意検討を重ねた結果、(i)、(ii)、(iii)、(iv)、および(v)の物性全てを満足するフィルムを得ることができた。
【0042】
本発明において、化学式(IV)で示される構造単位のモル分率dが式(2)を満たすことが重要である。
【0043】
10≦d<46 ・・・(2)
化学式(IV)で示す構造単位は屈曲したビフェニル部による自由度があり、フィルムの伸度向上に寄与する。
【0044】
dが10未満の場合、伸度が小さいためにフィルムが脆いか、あるいは製膜が著しく困難となる。dが46以上の場合、(ジアミンのモル分率)/(酸二無水物のモル分率)が0.95未満となり、酸二無水物が過剰となる。このため重合度が不十分となり、フィルムが脆いか、あるいは製膜が著しく困難となる。
【0045】
本発明において、化学式(III)で示される構造単位のモル分率cが式(3)を満たすことが重要である。
【0046】
5≦c<41 ・・・(3)
cが5未満の場合、ガラス転移温度が低くなるため、半田付け工程においてフィルムが変形する問題が生じやすい。cが41以上の場合、伸度が小さいためにフィルムが脆いか、あるいは製膜が著しく困難となる。
【0047】
化学式(I)で示される構造単位は剛直であるが、直線状のビフェニル部を有し、若干の自由度がある。フィルムの伸度を向上させるために、dが小さいときはaを大きくすることが好ましく、式(4)を満足することが重要である。
【0048】
40≦a+d≦60 ・・・(4)
a+dが40未満の場合は、伸度が小さいために製膜が著しく困難となる。a+dが60以上の場合には、ガラス転移温度が低くなる傾向がある。
【0049】
さらに、式(5)を満足していることも重要である。
【0050】
5≦a≦30 ・・・(5)
aが5未満の場合、吸水率が高い問題がある。aが30を超えると、次の2つに場合分けされ、それぞれ問題が生じる。aが30を超え、かつa+dが60未満の場合では、線膨張率が低くなったり伸度が小さくなる傾向がある。a+dが60以上の場合には、ガラス転移温度が低くなる傾向がある。
【0051】
また、aとdが、式(7)および(8)を満足していると、ヤング率が大きくなるので好ましい。
【0052】
20≦a≦30 ・・・ (7)
20≦d≦30 ・・・ (8)
最も好ましくは、式(7)、(8)を満たし、かつ式(15)を満たすことである。
【0053】
40≦a+d≦50 ・・・(15)
この範囲においては、ヤング率が特に大きく、かつガラス転移温度も320℃以上とすることがきるため好ましい。
【0054】
化学式(II)におけるRは、化学式(V)で示される構造のいずれでもよい。化学式(V)で示される構造は、メチレン結合、エーテル結合などの屈曲した成分を介さずに芳香環がパラ位で結合されている剛直構造であることが特徴である。Rは、好ましくは1,4−フェニレン残基、置換基を1〜4つ有する1,4−フェニレン残基、ビフェニル残基、置換基を1〜4つ有するビフェニル残基である。より好ましくは、1,4−フェニレン残基、置換基を1つ有する1,4−フェニレン残基、ビフェニル残基、置換基を1または2つ有するビフェニル残基である。さらに好ましくは、原料の入手の容易性および重合反応の反応性から化学式(X)で示される構造である。
【0055】
【化15】

【0056】
は最も好ましくは剛直性および原料入手の容易性に優れる1,4−フェニレン残基である。
【0057】
の置換基R〜R18は任意の基であるが、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、フッ素化アルキル基またはアルコキシ基、ハロゲン、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基である。より好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基、フッ素化アルキル基またはアルコキシ基、ハロゲンである。さらに好ましくは、炭素数1または2のアルキル基、フッ素化アルキル基であり、最も好ましくは、原料の入手の容易性および重合反応の反応性からメチル基である。
【0058】
化学式(V)で示される構造を与える原料として、1,4−フェニレンジアミン、2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン、2−フルオロ−1,4−フェニレンジアミン、2−トリフルオロメチル−1,4−フェニレンジアミン、2−ニトロ−1,4−フェニレンジアミン、2−メチル−1,4−フェニレンジアミン、ベンジジン、o−トリジン、m−トリジン、o−トリジンスルフォン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル−6,6’−ジスルホン酸、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’ −ジメトキシビフェニル、2,2’、5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、p−ターフェニルジアミン、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、2,7−ジアミノカルバゾール、2,7−ジアミノフルオレンや、これらの塩などが挙げられる。
【0059】
また、本発明において、式(6)を満足することは、良好なポリイミドフィルムを得るために重要である。
【0060】
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(6)
つまり、上記の範囲外ではジアミンあるいは酸二無水物が過剰となるため重合度が不十分となり、脆いフィルムとなるか、あるいはフィルムを得ることが困難となる。
【0061】
これら式(1)〜(6)の全てを満足することが目的とする物性のポリイミドフィルムを得るために重要である。
【0062】
また、本発明のポリイミドフィルムは以下の(i)〜(v)を全て満足している。
【0063】
(i)少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下
(ii)少なくとも一方向の破断点伸度が10%以上50%以下
(iii)吸水率が1.2%未満
(iv)線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下
(v)ガラス転移温度が300℃以上400℃以下、またはガラス転移温度を持たない
本発明において、たとえば次のモル分率[a=25、b=25、c=25、d=25]を上述の方法で重合し、製膜したフィルムは(i)、(ii)、(iii)、(iv)、および(v)の物性全てを満足することができる。
【0064】
以下、(i)〜(v)について説明する。
【0065】
本発明のポリイミドフィルムは少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下である。少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上であると、加工時、使用時に負荷される力に対して抵抗することが可能となる。また少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上であることによりフィルムの薄膜化が可能になる。全ての方向のヤング率が5GPa未満であると、加工時に変形を起こすことがある。
【0066】
また、ヤング率が50GPaを超えると、フィルムの靱性が低下し、製膜、加工が困難になることがある。ヤング率は、より好ましくは、少なくとも一方向において7GPa以上20GPa以下であり、さらに好ましくは、少なくとも一方向において8GPa以上10GPa以下である。最も好ましくは、少なくとも一方向において8GPa以上9GPa以下である。
【0067】
フィルムのヤング率は分子の配向度に影響を受ける。製膜工程において、フィルムの走行方向および/または幅方向に延伸することにより分子を配向させることができる。その結果、未延伸フィルムより大きいヤング率が得られる。延伸倍率は、1.05倍〜1.9倍が好ましい。
【0068】
また、ヤング率の最大値(Em)とそれと直交する方向のヤング率(Ep)の比、Em/Epが、1.1〜3であると、加工時の裁断性が向上するため好ましい。より好ましくは、1.2〜2.5であり、さらに好ましくは1.5〜2.5である。Em/Epが3を超えると、却って破断しやすくなることがある。
【0069】
また、本発明のポリイミドフィルムは、JIS−K7127−1999に準拠し、300mm/分での測定において、少なくとも一方向の破断伸度が10%以上であることが重要である。10%未満の場合は製膜時に乾燥収縮によって破れるなどの傾向がある。破断伸度の上限は特に限定されるものではないが、現実的には50%程度である。破断点伸度はより好ましくは12%以上30%以下であると成形、加工時の破断が少なくなるため好ましい。さらに好ましくは、15%以上17%以下である。
【0070】
フィルムの破断伸度は、ポリマーの分子構造以外に、分子量およびフィルム内の異物に大きく影響を受ける。このため、分子構造に対応した伸度を発現させるためには、高分子量であること、フィルム内の異物が少ないことが重要である。高分子量のポリマーを得るためには、原料、溶媒、反応器および生成ポリマーを十分に乾燥させておくことが好ましい。また、フィルム内の異物を少なくするためには、たとえばポリマーを重合した後にポリマーを濾過することが望ましい。
【0071】
本発明のポリイミドフィルムは、水中に48時間浸漬したときの吸水率が1.2%未満であることが重要である。1.2%以上の場合、半田リフロー時に水蒸気が発生して膨れが生じたり、湿度膨張による寸法変化が大きくなることがある。吸水率はより好ましくは1.0%以下、更に好ましくは0.9%以下であると、使用時、加工時の湿度変化による特性の変化が少なくなるため好ましい。ここでいう吸水率は、以下に述べる方法で測定する。まず、フィルムを水中に48時間浸漬し、取り出す。次に、表面に付着した水を拭き取り、TGA測定用パンに約20mgを入れる。10℃/分で200℃まで昇温し、測定開始の重さをW、150℃の時の重さをWとし、以下の式を用いて吸水率を求める。
【0072】
吸水率(%)=((W−W)/W)×100
装置:TGA50(島津製作所社製)
昇温速度:10℃/分
なお、吸水率は低い方が好ましいが、現実的には下限は0.001%程度である。
【0073】
本発明のポリイミドフィルムは、200℃から100℃の線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下であることが好ましい。電子回路材料や光学用途に使用する高分子材料は銅(16ppm/℃)やシリコン(4ppm/℃)と接触して使用されるため、線膨張率が25ppm/℃を超えたり、−5ppm/℃以下の場合、銅やシリコンとの剥離、割れが生じることがある。
【0074】
線膨張率は250℃まで昇温した後に200℃(T)から100℃(T)までの降温過程において測定する。25℃、65RH%における初期試料長をL、温度Tの時の試料長をL、温度Tの時の試料長をLとし、TからTの線膨張率を以下の式で求める。
【0075】
線膨張率(ppm/℃)=(((L−L)/L)/(T−T))×10
装置:セイコー電子社製 TMA/SS6000
昇温、降温速度:5℃/分
荷重:2g
線膨張率はより好ましくは0〜20ppm/℃であり、さらに好ましくは0〜18ppm/℃である。最も好ましくは、2〜17ppm/℃である。
【0076】
本発明のポリイミドフィルムは、ガラス転移温度が300℃以上400℃以下あるいはガラス転移温度を持たないことが重要である。電子回路基板の製造過程で使用する半田に対する耐熱性が必要なためである。本発明において「ガラス転移温度を持たない」とは、動的粘弾性測定(DMA)で、400℃までの測定において明確なtanδのピークが検出されないことを示す。ガラス転移温度は、320℃以上400℃以下あるいはガラス転移温度を持たないことがより好ましい。350℃以上400℃以下あるいはガラス転移温度を持たないことがさらに好ましい。近年では、環境への配慮から鉛フリー半田を使用する傾向があり、これは鉛含有半田より融点が高く、半田付け温度が230℃〜260℃の高温となるためである。
【0077】
また、本発明は、化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(9)〜(14)で示す割合で含み、かつ下記(i)〜(v)を満足するポリイミドフィルムであってもよい。
【0078】
【化16】

【0079】
【化17】

【0080】
【化18】

【0081】
【化19】

【0082】
90≦a+b+c+d<100 ・・・(9)
9≦d<46 ・・・(10)
4.5≦c<41 ・・・(11)
36≦a+d≦54 ・・・(12)
4.5≦a<30 ・・・(13)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(14)
(ただし、式(1)〜(6)において、a〜dはそれぞれ化学式(I)〜(IV)で示される構造単位のモル分率を示す。)
(i)少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下
(ii)少なくとも一方向の破断点伸度が10%以上50%以下
(iii)吸水率が1.2%未満
(iv)線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下
(v)ガラス転移温度が300℃以上800℃以下、またはガラス転移温度を持たない
ただし、Rは下記化学式(V)で示される構造式から選ばれる基である。
【0083】
【化20】

【0084】
〜R18:任意の基
つまり本発明のポリイミドフィルムは、その特性を損なわない限り、化学式(I)〜(IV)以外の成分を0mol%から10mol%未満共重合せしめた共重合体フィルムとしてもよい。化学式(I)〜(IV)以外の成分を10mol%以上共重合せしめた場合、(i)〜(v)の少なくとも1つを満足しなくなるため好ましくない。
【0085】
共重合するジアミンとしてはたとえば1,3−フェニレンジアミン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−フルオロフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノ−3−クロロフェニル)フルオレンビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’,5,5’−テトラクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジクロロ−4,4’−ジアミノ−5,5’−ジメトキシビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニルなどが挙げられる。
【0086】
また、共重合する酸二無水物としてはたとえば、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物類、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸二無水物類、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物類、1,1,1,3,3,3−4,4’−ヘキサフルオロプロピリデンビスフタル酸二無水物が挙げられる。
【0087】
また、本発明は、化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(1)〜(6)の割合で含むポリイミドおよび/または化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(9)〜(14)の割合で含むポリイミドを合計で80質量%〜100質量%含み、かつ下記(i)〜(v)を満足するポリイミドフィルムであってもよい。
【0088】
【化21】

【0089】
【化22】

【0090】
【化23】

【0091】
【化24】

【0092】
a+b+c+d=100 ・・・(1)
10≦d<46 ・・・(2)
5≦c<41 ・・・(3)
40≦a+d≦60 ・・・(4)
5≦a≦30 ・・・(5)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(6)
90≦a+b+c+d<100 ・・・(9)
9≦d<46 ・・・(10)
4.5≦c<41 ・・・(11)
36≦a+d≦54 ・・・(12)
4.5≦a<30 ・・・(13)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(14)
(ただし、式(1)〜(14)において、a〜dはそれぞれ化学式(I)〜(IV)で示される構造単位のモル分率を示す。)
(i)少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下
(ii)少なくとも一方向の破断点伸度が10%以上50%以下
(iii)吸水率が1.2%未満
(iv)線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下
(v)ガラス転移温度が300℃以上400℃以下、またはガラス転移温度を持たない
ただし、Rは下記化学式(V)で示される構造式から選ばれる基である。
【0093】
【化25】

【0094】
〜R18:任意の基
つまり、式(i)〜(v)に示される特性を損なわない限り、加工性改善や表面改質などを目的として他のポリマー成分をブレンドしたり、アロイ化したり、また任意の添加剤を含有せしめてもよい。他のポリマー成分や添加剤の割合は、0質量%から20質量%未満であることが好ましい。20質量%以上の割合で他のポリマー成分をブレンド、アロイ化したり、または添加剤を添加した場合には、(i)〜(v)の少なくとも1つを満足しなくなることがある。
【0095】
他のポリマー成分としては、例えばポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリベンゾオキサジアゾール、ポリイミド、芳香族ポリアミドなどが例示できる。
【0096】
表面形成を目的とした添加剤としてはたとえば、無機粒子ではSiO、TiO、Al、CaSO、BaSO、CaCO、チタン酸バリウム、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ゼオライト、その他の金属微粒子等が挙げられる。また、好ましい有機粒子としては、例えばポリイミド粒子、ポリアミド粒子、フッ素樹脂粒子等の有機高分子からなる粒子、あるいは、表面に上記有機高分子で被覆等の処理を施した無機粒子が挙げられる。
【0097】
次に本発明で用いるポリイミド(およびポリイミド前駆体)の製法を説明する。
【0098】
まず本発明で用いるポリイミドの前駆体について説明する。
【0099】
ポリイミド前駆体の重合反応は原料の添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族酸二無水物類を添加することが好ましい。すべてのジアミン成分を最初に反応系中に投入し、酸二無水物成分を添加する方法、または一方のジアミン成分と酸二無水物成分との反応を行った後に残りのジアミン成分、酸二無水物成分を添加する方法のいずれを用いてもよい。また、上記において使用する非プロトン性極性溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶媒、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶媒、フェノール、o−,m−,又はp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶媒、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができ、これらを単独又は混合物として用いるのが望ましいが、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。
【0100】
本発明で用いるポリイミド前駆体の有機溶媒溶液は、固形分を5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%を含有しており、またその粘度はブルックフィールド粘度計による測定値で10〜2,000Pa・s、好ましくは、100〜1,000Pa・sのものが、安定した送液のために好ましく使用される。また、有機溶媒溶液中のポリイミド前駆体は部分的にイミド化されていてもよい。
【0101】
ポリイミド前駆体の重合反応は、有機溶媒中で撹拌そして/または混合しながら、0〜100℃の温度の範囲で、10分〜30時間連続して進められるが、必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。
【0102】
一定の温度で重合せしめると、原料の溶解に著しく長時間を要する、あるいは副反応を伴い、十分な分子量のポリマーが得られないことがある。このため、少なくとも(a)〜(e)の工程を(a)〜(e)の順序で行いフィルムを製造することが好ましい様態である。
【0103】
(a)ジアミンと溶媒とを温度A(ただし、40℃≦A≦100℃)で攪拌し、ジアミンを溶解せしめる。
【0104】
(b)温度B(ただし、10℃≦B≦60℃)で攪拌し、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を添加する。ただし温度はA>Bである。
【0105】
(c)温度C(ただし、40℃≦C≦100℃)で攪拌し、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を溶解せしめる。ただし温度はB<Cである。
【0106】
(d)温度D(ただし、0℃≦D≦60℃)で攪拌し、ピロメリット酸二無水物を添加する。ただし温度はC>Dである。
【0107】
(e)上記(d)により得られた溶液を支持体上に流延した後、溶媒を除去し、次いで熱処理を行う。
【0108】
(a)の工程において、本発明で用いるTFMBおよびPDAはN−メチル−2−ピロリドンなどの溶媒に対する溶解度が小さい。このため、40℃〜100℃で攪拌して溶解することが、溶解速度向上のために好ましい。より好ましくは50℃〜60℃である。
【0109】
次に(b)の工程において、10℃〜60℃の範囲に保ちBPDAを添加する。60℃を超えるとBPDAと溶媒が反応してしまうことがある。また、10℃未満では溶解したジアミンの結晶が析出することがある。析出したジアミンの結晶は純度が高い結晶であるため、再度溶解せしめるには加熱と長時間を要する。
【0110】
次に(c)の工程において、40℃〜100℃の範囲で攪拌し、BPDAを溶解せしめる。副反応を抑制するためにはこの温度は低い方が好ましいが、BPDAは溶解性が悪いため、加熱が必要となる。十分にBPDAを溶解させずに重合を行うと、溶け残った原料の周りに超重合物が付着し、さらに溶解を阻害することがある。その結果、均一なポリイミド前駆体の有機溶媒溶液を得ることができなくなることがある。
【0111】
さらに(d)の工程において、0℃〜60℃の範囲で攪拌し、ピロメリット酸二無水物(以下PMDAということがある)を添加する。これは副反応を抑制するためである。PMDAは溶解性、反応性が良好のため0℃〜60℃の範囲で容易に溶解し反応する。
【0112】
重合反応中に系内を減圧状態にして脱泡することは、良質なポリイミド前駆体の有機溶媒溶液を製造するにあたって有効な方法である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加することによって、重合反応の制御を行ってもよい。
【0113】
上記の工程により重合されたポリイミド前駆体は、化学式(XI)〜(XIV)で示される構造単位を式(1)〜(6)の割合で含む。
【0114】
【化26】

【0115】
【化27】

【0116】
【化28】

【0117】
【化29】

【0118】
a+b+c+d=100 ・・・(1)
10≦d<46 ・・・(2)
5≦c<41 ・・・(3)
40≦a+d≦60 ・・・(4)
5≦a≦30 ・・・(5)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(6)
ただし、Rは下記化学式(V)で示される構造式から選ばれる基である。
【0119】
【化30】

【0120】
〜R18:任意の基
本発明のポリイミドフィルムは、上記ポリイミド前駆体を脱水環化せしめることで得られる。
【0121】
次にフィルム化((e)の工程)について説明する。上記のように調製されたポリアミック酸溶液は、いわゆる溶液製膜によりフィルム化が行われる。溶液製膜法には乾湿式法、乾式法、湿式法などがあるが、いずれの方法でもよい。ポリイミド前駆体溶液からポリイミドフィルムを製造する方法としては、閉環触媒および脱水剤を含有しないポリイミド前駆体溶液をスリット付き口金から支持体上に流延してフィルムに成形し、支持体上で加熱乾燥することにより自己支持性を有するゲルフィルムとなした後、支持体より剥離し、さらに高温下で乾燥熱処理することによりイミド化する熱閉環法、および閉環触媒および脱水剤を含有せしめたポリアミック酸混合物(溶液)をスリット付き口金から支持体上に流延してフィルム状に成形し、支持体上でイミド化を一部進行させて自己支持性を有するゲルフィルムとした後、支持体より剥離し、加熱乾燥/イミド化し、熱処理を行う化学閉環法が代表的な方法である。本発明では、どちらの閉環方法を採用してもよい。
【0122】
化学閉環工程で用いられる触媒の具体例としては、トリメチルアミン、トリエチレンジアミンなどの脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリンなどの芳香族第3級アミン、およびイソキノリン、ピリジン、ベータピコリンなどの複素環第3級アミンなどが挙げられるが、複素環式第3級アミンから選ばれる少なくとも一種類のアミンを使用するのが好ましい。
【0123】
また、化学閉環工程で用いられる脱水剤の具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸などの脂肪族カルボン酸無水物、および無水安息香酸などの芳香族カルボン酸無水物などが挙げられるが、無水酢酸および/または無水安息香酸が好ましい。ポリアミック酸混合物に対する閉環触媒の添加量は、閉環触媒の添加量(モル)/ポリアミド酸の含有量(モル)=0.5〜8の関係を満たす範囲であることが好ましく、またポリアミック酸に対する脱水剤の添加量は、脱水剤の添加量(モル)/ポリアミック酸の含有量(モル)=0.1〜4の関係を満たす範囲であることが好ましい。熱閉環法を例に、製膜方法をさらに詳細に説明する。
【0124】
ポリイミド前駆体溶液は、スリット状口金を通ってフィルム状に成型され、加熱された支持体上に流延され、支持体上で熱閉環反応をし、自己支持性を有するゲルフィルムとなって支持体から剥離される。上記支持体とは、金属製の回転ドラムやエンドレスベルトであり、その温度は液体または気体の熱媒によりおよび/または電気ヒーターなどの輻射熱により制御される。
【0125】
ポリイミド前駆体溶液は、支持体からの受熱および/または熱風や電気ヒーターなどの熱源からの受熱により30〜200℃、好ましくは40〜150℃に加熱されて有機溶媒などの揮発分を乾燥させることにより自己支持性のゲルフィルムとなる。次に支持体からゲルフィルムを剥離する。
【0126】
支持体から剥離されたゲルフィルムは、走行速度を規制しながら走行方向に延伸される。延伸は、140℃以下の温度で1.05〜1.9倍、好ましくは1.1〜1.6倍、さらに好ましくは1.1〜1.5倍の倍率で実施される。走行方向に延伸されたゲルフィルムは、テンター装置に導入され、テンタークリップに幅方向両端部を把持されて、テンタークリップと共に走行しながら、幅方法へ延伸される。上記の乾燥ゾーンで乾燥したフィルムは、熱風、赤外ヒーターなどで15秒から10分加熱される。次いで、熱風および/または電気ヒーターなどにより、250〜500℃の温度で15秒から20分熱処理を行う。この場合に急激に加熱すると、平面性を失うため、加熱方法を適宜選択するとよい。
【0127】
かくして得られる本発明のポリイミドフィルムの厚みは、3〜250μm、特に10〜100μmの範囲にあることが望ましい。ポリイミドフィルムの厚みが3μm未満では、形状を保持することが困難となり、また250μmを超えると、屈曲性に欠けるためフレキシブル回路基板用途やスティフナーなどには不向きな傾向となる。
【0128】
本発明のポリイミドは、片面または両面に熱可塑性ポリイミドを積層した積層フィルムとすることもできる。積層の方法としては、本発明のポリイミドおよび、熱可塑性ポリイミドをそれぞれ製膜し、重ね合わせる方法、先に製膜した本発明のポリイミドの上に熱可塑性ポリイミド溶液を展開して製膜する方法や、積層口金、ピノール、フィードブロックを用いて熱可塑性ポリイミド前駆体溶液および本発明のポリイミド前駆体溶液を積層し、これを製膜する方法などがあるが、いずれを用いても構わない。ポリイミドの層間の接着力が強く、また生産性に優れることからポリイミド前駆体溶液を積層し、これを製膜する方法が好ましい。
【0129】
耐熱性の高い接着剤である熱可塑性ポリイミドを積層することにより銅箔などの金属箔と強固に接着することが可能である。
【0130】
本発明のポリイミドフィルムおよび本発明の積層フィルムは高ヤング率、高伸度、低吸水率、高ガラス転移温度とともにシリコンや銅に適合した線膨張率を有するため、これらと接合、あるいは積層して用いると良好なフレキシブルプリント基板、半導体実装用基板、多層積層回路基板等の電子回路基板、光回路基板、光電複合回路基板、半導体用封止材料、分離膜、液晶光配向膜、電線被覆材料、複合材料を与える。
【0131】
本発明のポリイミドフィルムおよび/または本発明の積層フィルムと銅箔とを積層する方法は蒸着、スパッタ、メッキ、ラミネート、あるいは銅箔上に本発明のポリイミドフィルムおよび/または本発明の積層フィルムの前駆体をキャストして製膜する方法などが挙げられる。
【実施例】
【0132】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0133】
なお、物性の測定は次の方法に従って行った。
【0134】
(1)ヤング率および破断点伸度
フィルムを試料幅10mm、試料長約150mmにサンプリングし、23℃、65RH%で測定を行った。なお、測定は測定したい方向を試料長約150mmの方向に合わせた試料にて行う。
【0135】
装置:テンシロン万能試験機RTA−100(オリエンテック社製)
試験長:50mm
引張速度:300mm/分
(2)吸水率
フィルムを水中に48時間浸漬し、取り出した。次に、表面に付着した水を拭き取り、TGA測定用パンに約20mgを入れた。10℃/分で200℃まで昇温し、測定開始の重さをW、150℃の時の重さをWとし、以下の式を用いて吸水率を求めた。
【0136】
吸水率(%)=((W−W)/W)×100
装置:TGA50(島津製作所社製)
昇温速度:10℃/分
(3)線膨張率(CTE)
線膨張率は250℃まで昇温した後に200℃(T)から100℃(T)までの降温過程に於いて測定した。25℃、65RH%における初期試料長をL、温度Tの時の試料長をL、温度Tの時の試料長をLとし、TからTの線膨張係数を以下の式で求めた。
【0137】
線膨張率(ppm/℃)=(((L−L)/L)/(T−T))×10
装置:セイコー電子社製 TMA/SS6000
昇温、降温速度:5℃/分
荷重:2g
(4)ガラス転移温度(Tg) DMA測定
ガラス転移温度(Tg):tanδピークが最大点をとる温度をTgとした。なお、定義に従い、本測定法において400℃以下の温度で明確なtanδピークが認められなかった場合は、「Tgを持たない」とした。
【0138】
装置:粘弾性測定装置EXSTAR6000 DMS(セイコーインスツルメンツ社製)
測定周波数:1Hz
昇温速度:2℃/分
(実施例1)
300mlのセパラブルフラスコに、ジアミンとして2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)20mmolおよび1,4−フェニレンジアミン(PDA)70mmol、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)150mlを入れた。湯浴を用いて50℃に加熱し、窒素流通下でパドル型の攪拌羽根がついたメカニカルスターラーを用いて攪拌することでジアミンを溶解させた。ジアミンが十分に溶解したことを目視にて確認した。ジアミンの溶解には20分を要した。湯浴を外し、25℃で5分放置することで40℃まで冷却し、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)70mmolを8回に分けて加えた。その後、50℃、窒素流通下で50分攪拌することでBPDAを溶解させた。BPDAの溶解を目視にて確認した後、40℃に冷却し、ピロメリット酸二無水物(PMDA)をジアミン成分に対して97mol%となるように8回に分けて添加した。次いでPMDAを0.2mmolずつ加えて粘度調節を行い、ポリマー濃度20%、25℃における粘度100Pa・sのポリアミック酸溶液を得た。
【0139】
得られたポリマー溶液を、厚み200μmとなるようにガラス板上に流延し、100℃で20分乾燥させた。得られた膜を剥離し、金枠に固定後200℃で30分、300℃で20分、400℃で5分熱処理を施し、厚さ20.7μmのポリイミドフィルムを得た。
【0140】
(実施例2〜7)
TFMB、PDA、BPDA、PMDAを表に示した組成で用い、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0141】
(比較例1〜6)
TFMB、PDA、BPDA、PMDAを表に示した組成で用い、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを得た。
【0142】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(1)〜(6)で示す割合で含み、かつ下記(i)〜(v)を満足するポリイミドフィルム。
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

a+b+c+d=100 ・・・(1)
10≦d<46 ・・・(2)
5≦c<41 ・・・(3)
40≦a+d≦60 ・・・(4)
5≦a≦30 ・・・(5)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(6)
(ただし、式(1)〜(6)において、a〜dはそれぞれ化学式(I)〜(IV)で示される構造単位のモル分率を示す。)
(i)少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下
(ii)少なくとも一方向の破断点伸度が10%以上50%以下
(iii)吸水率が1.2%未満
(iv)線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下
(v)ガラス転移温度が300℃以上400℃以下、またはガラス転移温度を持たない
ただし、Rは下記化学式(V)で示される構造式から選ばれる基である。
【化5】

〜R18:任意の基
【請求項2】
さらに、次式(7)および(8)を満足している、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
20≦a≦30 ・・・ (7)
20≦d≦30 ・・・ (8)
【請求項3】
化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(9)〜(14)で示す割合で含み、かつ下記(i)〜(v)を満足するポリイミドフィルム。
【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

90≦a+b+c+d<100 ・・・(9)
9≦d<46 ・・・(10)
4.5≦c<41 ・・・(11)
36≦a+d≦54 ・・・(12)
4.5≦a<30 ・・・(13)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(14)
(ただし、式(1)〜(6)において、a〜dはそれぞれ化学式(I)〜(IV)で示される構造単位のモル分率を示す。)
(i)少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下
(ii)少なくとも一方向の破断点伸度が10%以上50%以下
(iii)吸水率が1.2%未満
(iv)線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下
(v)ガラス転移温度が300℃以上400℃以下、またはガラス転移温度を持たない
ただし、Rは下記化学式(V)で示される構造式から選ばれる基である。
【化10】

〜R18:任意の基
【請求項4】
化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(1)〜(6)の割合で含むポリイミドおよび/または化学式(I)〜(IV)で示される構造単位を式(9)〜(14)の割合で含むポリイミドを合計で80質量%〜100質量%含み、かつ下記(i)〜(v)を満足するポリイミドフィルム。
【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

a+b+c+d=100 ・・・(1)
10≦d<46 ・・・(2)
5≦c<41 ・・・(3)
40≦a+d≦60 ・・・(4)
5≦a≦30 ・・・(5)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(6)
90≦a+b+c+d<100 ・・・(9)
9≦d<46 ・・・(10)
4.5≦c<41 ・・・(11)
36≦a+d≦54 ・・・(12)
4.5≦a<30 ・・・(13)
0.95≦(a+b)/(c+d)≦1.05 ・・・(14)
(ただし、式(1)〜(14)において、a〜dはそれぞれ化学式(I)〜(IV)で示される構造単位のモル分率を示す。)
(i)少なくとも一方向のヤング率が5GPa以上50GPa以下
(ii)少なくとも一方向の破断点伸度が10%以上50%以下
(iii)吸水率が1.2%未満
(iv)線膨張率が−5ppm/℃を超えて25ppm/℃以下
(v)ガラス転移温度が300℃以上400℃以下、またはガラス転移温度を持たない
ただし、Rは下記化学式(V)で示される構造式から選ばれる基である。
【化15】

〜R18:任意の基
【請求項5】
少なくとも以下の(a)〜(e)の工程をこの順序で有する、請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
(a)ジアミンと溶媒とを温度A(ただし、40℃≦A≦100℃)で攪拌し、ジアミンを溶解せしめる。
(b)温度B(ただし、10℃≦B≦60℃)で攪拌し、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を添加する。ただし温度はA>Bである。
(c)温度C(ただし、40℃≦C≦100℃)で攪拌し、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を溶解せしめる。ただし温度はB<Cである。
(d)温度D(ただし、0℃≦D≦60℃)で攪拌し、ピロメリット酸二無水物を添加する。ただし温度はC>Dである。
(e)上記(d)により得られた溶液を支持体上に流延した後、溶媒を除去し、次いで熱処理を行う。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムの少なくとも片面に熱可塑性ポリイミドを積層した積層フィルム。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミドフィルムまたは請求項6に記載の積層フィルムを用いた回路基板。

【公開番号】特開2008−214412(P2008−214412A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51096(P2007−51096)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】