説明

ポリイミドフィルムの製造方法

【課題】表面異物付着量の極めて少ない、絶縁性に優れたポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリイミドを主瀬尾分とし、フィルム表面の付着異物として、鉄、クロム、ニッケルの3種類の元素含有量が合計で0.5ng/cm以下のポリイミドフィルムの製造方法で、テンターにより460℃以上の高温域で熱処理をする工程を有し、かつ該熱処理工程においてテンター摺動部にタングステン元素を含有する固体潤滑剤を用いることを特徴とする、ポリイミドフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム表面の付着異物として、鉄、クロム、ニッケルの3種類の元素含有量が少なくかつモリブデンおよびまたはタングステン元素が少ない、導電性異物による表面汚染の少ない、主として半導体や実装基板用途などに適したクリーンなポリイミドフィルムに関するするものであり、ポリイミドフィルムを製造する際の最終熱処理時に、前駆体フィルムを高温熱処理してポリイミドフィルムとなす際におけるテンター式(フィルム搬送)処理部に特定の製造装置を使用することで得ることができるポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムを製造するとき、未乾燥前駆体フィルム(グリーンフィルム)を高温でイミド化するが、この場合未乾燥な前駆体フィルムを搬送しながら熱処理し乾燥および熱処理を行う際にこれらの溶媒を少なからず保有しているフィルムや前駆体フィルムは一般的に乾燥される従って収縮する。このようなフィルムの搬送・乾燥・熱処理において、フィルムの幅方向の両側端部を多数のピンやクリップで保持することによりフィルムの幅方向を張設した状態で搬送しフィルムを製造する装置として、所謂テンターと呼ばれるフィルム(シート)のテンター式搬送装置が知られている(特許文献1参照)。
また、ポリイミドフィルムの製造にテンター式搬送装置を使用することも多数知られている(特許文献2参照)。
【0003】
フィルム搬送装置は、布を染色した後の乾燥工程で布に皺が発生しないように乾燥する用途への使用も古くから良く知られている。布の乾燥の他にも溶剤製膜法での未乾燥なプラスチックフィルムのフィルムを乾燥工程で搬送しながら乾燥する場合にも使用される。 フィルム搬送装置を使用することにより乾燥・熱処理時の熱でフィルムがその幅方向に収縮するのを抑制し、乾燥・熱処理後のフィルムに収縮による皺が発生しないようにすることができる。フィルムの収縮はフィルムの幅方向に限らず全方向に生じるが、フィルムの搬送方向は搬送テンションが作用しており収縮に対しての抑制効果がある。このように、未乾燥のフィルムを乾燥・熱処理する際にフィルムのテンター式搬送装置を使用して搬送することにより、乾燥・熱処理されたフィルムに必要な強度及び平面性を確保することができる。
【0004】
特にポリイミドフィルムの製造に用いられるテンターは300℃を越える温度での熱処理を行うため、工業的に安定した生産を行うためにはテンター自体の耐熱性、耐久性が肝要となってくる。特にフィルムを搬送する駆動部分には高い耐熱性を有するステンレス鋼などが用いられる訳であるが、こと摺動部分に限っては潤滑油を使うことが出来ないため、金属部品同士の摩擦摩耗が生じる。このため、装置の寿命には限界があり、さらに摩耗により生じた金属微粉によるフィルム製品の汚染等の問題が生じている(特許文献3〜5参照)。
【0005】
【特許文献1】特公昭 39−029211号公報
【特許文献2】特開平 09−188763号公報
【特許文献3】特開2007−170493号公報
【特許文献4】特開平 11−166539号公報
【特許文献5】特開2005−325182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、鉄、クロム、ニッケルの3種類の元素含有量が少なくかつモリブデンおよびまたはタングステン元素が少ない表面異物による汚染の少ないポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリイミドフィルムの製造に用いられるテンター式搬送装置において、摺動部に特定の固体潤滑化合物を用いることにより、鉄、クロム、ニッケルの3種類の元素含有量が少なくかつモリブデンおよびまたはタングステン元素が少ない表面異物による汚染の少ないクリーンなポリイミドフィルムの製造が可能であることを見出した。

すなわち本発明は以下の構成になる。1.芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリイミドを主瀬尾分とし、フィルム表面の付着異物として、鉄、クロム、ニッケルの3種類の元素含有量が合計で0.5ng/cm以下のポリイミドフィルムの製造方法で、テンターにより460℃以上の高温域で熱処理をする工程を有し、かつ該熱処理工程においてテンター摺動部にタングステン元素を含有する固体潤滑剤を用いることを特徴とする、ポリイミドフィルムの製造方法。
2.前記固体潤滑剤において、タングステンが硫化物として含有されている1.に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリイミドを主瀬尾分とし、フィルム表面の付着異物として、鉄、クロム、ニッケルの3種類の元素含有量が合計で0.5ng/cm以下のポリイミドフィルムの製造方法で、テンターにより460℃以上の高温域で熱処理をする工程を有し、かつ該熱処理工程においてテンター摺動部にタングステン元素を含有する固体潤滑剤を用いることを特徴とする、ポリイミドフィルムの製造方法により製造されたポリイミドフィルムは、本来の高耐熱性と併せて、絶縁性に優れたクリーンなフィルムであり、半導体や実装回路基板用途などに安心して幅広く使用することができ工業的に極めて有意義である。
本発明のポリイミドフィルムの製造に適した装置は、摺動部に耐熱性と絶縁性を両立する固体潤滑剤を用いたものであり、300℃以上、好ましくは380℃以上、なお好ましくは460℃以上という高温域でも潤滑作用を維持することができ、フィルムのスムースな搬送が可能で、かつフィルム製造の際にフィルムに余計な振動を与えることなく、高品質なポリイミドフィルムが得られ易く、ポリイミドフィルム製造の生産性に寄与しうるものである。
特定の潤滑材をイミド化の際に摺動部に使用することで、高温でのポリイミドフィルムの製造が効率よく実施でき、かつ得られたポリイミドフィルムがその表面に鉄、クロム、ニッケル、モリブデンおよびまたはタングステンの元素が極めて少ない付着量であり、絶縁性に優れたクリーンなフィルムであり、半導体や実装回路基板用途などに安心して幅広く使用することができ、品質上、生産効率上工業的に極めて有意義である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳述する。
本発明のポリイミドフィルムは、芳香族テトラカルボン酸類(無水物、酸、およびアミド結合性誘導体を総称して類という、以下同)と芳香族ジアミン類(アミン、およびアミド結合性誘導体を総称して類という、以下同)とを反応させて得られるポリアミド酸溶液を流延、乾燥、熱処理(イミド化)してフィルムとなす方法で得られるポリイミドフィルムである。これらの溶液に用いられる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
本発明におけるポリイミドフィルムは、特に限定されるものではないが、下記の芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸(無水物)類との組み合わせが好ましい例として挙げられる。
A.ピロメリット酸残基を有する芳香族テトラカルボン酸類、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類との組み合わせ。
B.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
C.ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸残基を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
中でも特にA.のベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン残基を有するポリイミドフィルムを製造するための組み合わせが好ましい。
本発明におけるジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)、3,3′−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4′−ジアミノジフェニルエーテルおよびそれらの誘導体が挙げられ、本発明におけるフェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミンおよびそれらの誘導体が挙げられ、本発明におけるベンザオキサゾ−ル骨格を有するジアミンとしては、下記具体例で示すジアミンが挙げられるが、これらのジアミンは全ジアミンの70モル%以上より好ましくは80モル%以上使用することが好ましい。
ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の分子構造は特に限定されるものではなく、具体的には以下のものが挙げられる。
【0010】
【化1】

【0011】
【化2】

【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
【化7】

【0017】
【化8】

【0018】
【化9】

【0019】
【化10】

【0020】
【化11】

【0021】
【化12】

【0022】
【化13】

【0023】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましく、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールがより好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明においては、全ジアミンの30モル%以下であれば下記に例示されるジアミン類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0025】
<芳香族テトラカルボン酸無水物類>
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0026】
【化14】

【0027】
【化15】

【0028】
【化16】

【0029】
【化17】

【0030】
【化18】

【0031】
【化19】

【0032】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0033】
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以下であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0034】
芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応(重合)させてポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの重量が、通常5〜40重量%、好ましくは10〜30重量%となるような量が挙げられる。
【0035】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
【0036】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
重合反応により得られるポリアミド酸溶液から、ポリイミドフィルムを形成するためには、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥することによりグリーンフィルム(自己支持性の前駆体フィルムを得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0037】
支持体上に塗布したポリアミド酸を乾燥してグリーンシートを得る条件は特に限定はなく、温度としては70〜150℃が例示され、乾燥時間としては、5〜180分間が例示される。そのような条件を達する乾燥装置も従来公知のものを適用でき、熱風、熱窒素、遠赤外線、高周波誘導加熱などを挙げることができる。次いで、得られたグリーンシートから目的のポリイミドフィルムを得るために、イミド化反応を行わせる。その具体的な方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、必要により延伸処理を施した後に、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)が挙げられる。この場合の加熱温度は100〜500℃が例示され、フィルム物性の点から、より好ましくは、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
【0038】
別のイミド化反応の例として、ポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることもできる。この方法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100〜200℃による3〜20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200〜400℃による3〜20分間の熱処理である。本発明におけるポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、25μm以下が好ましく、12μm以下がより好ましく、7μm以下がもっとも好ましく、電子部品の軽少短薄に大きく貢献できる。
従来7.0μm以下、特に5.0μm以下のポリイミドフィルムの長尺フィルムを工業的に安定的に製造することが困難であり、また得られたこれらの極薄ポリイミドフィルムはその厚さ斑が極端に大きく、例えば市販の7.5μmのポリイミドフィルムの厚さ斑は25%程度のものであり、寸法精度の要求される電子部品などにおいては品質上問題があった、本発明はこれらの課題を解決せんとするものである。
このポリイミドフィルムの厚さはポリアミド酸溶液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。
【0039】
本発明において、これらの厚さ斑が20%以下である7μm以下の厚さであるポリイミドフィルムを得る方法は、特に限定されるものではないが、好ましい方法として、(1)芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリアミド酸を流延・乾燥し前駆体フィルム(ポリアミド酸フィルム)を得て、該前駆体フィルムを、フィルムの幅方向の両側端部におけるフィルム端部把持が、多数のクリップで挟み込むことやピンシートに設けられた多数のピンで突き刺すことによってなされ、幅方向およびまたは搬送方向に張設した状態でフィルムを搬送するテンター方式でイミド化させる厚さが7μm以下のポリイミドフィルムを得るポリイミドフィルムの製造方法で、前駆体フィルムの幅方向の両側端部におけるフィルム把持が、イミド化される前駆体(ポリアミド酸)フィルムと細幅のポリイミドフィルムに接着剤層を設けた易接着性ポリイミドフィルムとを重ねて把持およびまたは突き刺すことで固定するポリイミドフィルムの製造方法、(2)前記の細幅のポリイミドフィルムが、芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリアミド酸を流延・乾燥して得られる前駆体フィルムのスリットした所謂前駆体フィルム(グリーンフィルム)である前記(1)の方法が挙げられる。
【0040】
本発明において含有量が限定される金属元素の、鉄、クロム、ニッケルについてはフィルム製造装置の部材として用いられるステンレス鋼に由来することは容易に類推されるであろう。特に駆動部分を有する機械装置において摺動部分に摩耗が生じることは周知である。通常は摩耗を避け、駆動を容易とするために潤滑オイルが使用されるわけであるが、本発明のような高温処理に用いられる装置では、潤滑オイルが熱劣化、酸化劣化してしまうため用いることができない。結果、従来は摩耗によって生じたステンレス鋼の微粉末が導電性の不純物として、フィルムに付着ないしフィルムに半ば内包されたような形で取り込まれてしまうのである。かかる金属不純物類はフィルム表面近傍に位置することが多く、フィルムを回路基板に用いる場合には導電性の異物として回路間のショートの原因となる場合がある。また回路の主構成材料である銅との間には電極電位差を生じるため、電解腐食やイオンマイグレーションの引き金となる場合がある。さらに回路が無電解めっき処理を行われる場合に、触媒作用を示し、めっきの異常析出などを引き起こす場合がある。またこれの金属元素自体は強磁性体に属するため、微視的な磁気効果による雑音発生を引き起こし、素子の動作に支障を来す場合がある。
本発明における、鉄、クロム、ニッケルの3種類の元素含有量は、合計で0.5ng/cm2以下が必須であり、さらに0.3ng/cm2以下が好ましく、またさらにに0.15ng/cm2以下が好ましく、なおさらに0.08ng/cm2以下が好ましい。含有量の下限は特に限定されないが、0.001ng/cm2、好ましくは0.005ng/cm2である。かかる金属成分は、ポリイミドフィルム原料の合成、重合に用いられる装置の主な材質でもあるステンレス鋼の主成分でもあり、厳密な意味において極々微量の混入を免れることは難しい。しかしながら本発明で主題とするフィルム製膜機台の駆動部分において生じる金属摩耗分などに起因する汚染量とは数桁の隔たりがあるものと理解せねばならない。
【0041】
本発明において使用されるタングステン元素を含有する固体潤滑剤は、そのもの自信が摩耗により微細層状に剥離し、摺動部に薄い皮膜を作ることにより潤滑生を発現する。その原理から明らかなように固体潤滑剤はそのもの自体が微細層状粒子となってフィルムの不純物として混入する可能性を有している。したがって、固体潤滑剤は、徒にたくさん使えば良いという物ではなく、節度ある適度な量の使用が求められるものである。タングステン元素は、先の鉄、ニッケル、クロムなどと同様、フィルム表面近傍に位置することが多い。これらは異物として微細線回路の線間の短絡や、配線の断裂の原因となりうることはもちろんである。さらに昨今のフリップチップ実装においては、半導体素子の機能面が配線回路に接することになるため、配線回路表面のイオン性不純物やドナーないしアクセプターとなりうる3価ないし5価元素については特に注意を払う必要がある。フリップチップ実装において半導体素子側のパッドと基板側の電極との接合は金属/金属間の圧接拡散による場合が多く、なおさらに回路の高温駆動などが続くと素子使用中にも電極接合部で固体拡散が進行することが知られている。かかる箇所にタングステン元素が混在した場合には、半導体素子への直接の影響も危惧される。本発明のポリイミドフィルムの製造に適した製造装置のイミド化工程における摺動部に使用する固体潤滑作用を有するものとしては、非金属又は金属の硫化物であり、金属硫化物としては、二硫化タングステンが挙げられる。
本発明におけるモリブデンおよびまたはタングステン元素の含有量は合計で0.0001〜0.3ng/cm2であることが必須である。モリブデンおよびまたはタングステン元素含有量の合計の好ましい範囲は0.002〜0.1ng/cm2であり、さらに好ましくは0.003〜0.03ng/cm2である。かかるモリブデンおよびまたはタングステン元素は、ポリイミドフィルム原料の合成、重合に用いられる装置の主構成成分であるステンレス鋼の副成分として用いられる場合があり、これらから可能性を否定することは出来ないが、本発明の主題とするフィルム製膜機台に用いられる固体潤滑剤成分をその因とする場合に比べれば数桁の差があるものと理解すべきである。
これらの固体潤滑作用を有する耐熱性化合物を摺動部に作用させる方法としては、特に限定されないが、例えば、チェーンブロックを乗せるコロに、コロの下部より固体潤滑剤スティックを押し当てる機構を付加し、あらかじめコロ回転体部分と、コロに接するチェーンブロックに固体潤滑剤成分を転写させる方法がある。
固体潤滑剤スティックとしては先に例示した固定潤滑剤を比較的柔らかい金属、例えば、Ni、Fe、Co、Cu、Sn、Ag、Pb、Mn、Cr、Mo、W、Nb、Ta、Al、Zn、Tiなどと粉末冶金的に焼結させたものを用いることも出来る。
これらの固体潤滑作用を有する耐熱性化合物の作用で、本発明の製造装置は、300℃以上の高温熱処理を長時間稼動させても、摺動部の磨耗を抑制できるため、主に摺動部の磨耗によって発生すると考えられるフィルム搬送時に生ずる摩擦音を基本周波数が3kHz以下とすることができ、作業環境の改善ができるとともに、製造されたフィルム表面の金属などのダスト量を大幅に減少させることができる。
【実施例】
【0042】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
【0043】
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドン(又は、N,N−ジメチルアセトアミド)に溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。(ポリアミド酸溶液の調製に使用した溶媒がN,N−ジメチルアセトアミドの場合は、N,N−ジメチルアセトアミドを使用してポリマーを溶解し、測定した。)
2.ポリイミドフィルムの厚さ
マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
3.ポリイミドフィルムの引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸度
測定対象のポリイミドフィルムを、流れ方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ100mm×10mmの短冊状に切り出したものを試験片とした。引張試験機(島津製作所製、オートグラフ(R) 機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmの条件で、MD方向、TD方向それぞれについて、引張弾性率、引張破断強度及び引張破断伸度を測定した。
【0044】
4.表面付着異物量の定量
得られたフィルムから無作為に一辺が50mmとなる正方形を25枚切り出し、それらを10%塩酸水溶液500mlに、各々のフィルムの表裏が十分に塩酸水溶液に接するように室温にて24時間浸積した後に、フィルムを取りだし、塩酸水溶液中に含まれる金属成分などを原子吸光分析にて定量した。
表面付着異物成分としては、ピンテンター摺動部に使用されていると推定されるステンレス鋼の主成分である、鉄、ニッケル、クロム、モリブデンおよびまたはタングステンであり、これらを検出測定した。これらの個々の量をフィルム面積にて除し、表面付着異物量とした。
個々の表面付着異物量[ng/cm]=個々の表面付着異物量[ng]/フィルム面積[cm
【0045】
〔参考例1〕
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P10(日本触媒株式会社製)を1.22質量部、N−メチル−2−ピロリドン420質量部を、容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。予備分散液中の平均粒子径は0.11μmであった。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、223質量部の5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールを入れた。次いで、4000質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を420質量部と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて24時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Aが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.8であった。
【0046】
〔参考例2〕
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後,5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール223質量部、N,N−ジメチルアセトアミド4416質量部を加えて完全に溶解させた後,コロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックスDMAC−ST30(日産化学工業株式会社製)40.5質量部(シリカを8.1質量部含む)、ピロメリット酸二無水物217質量部を加え,25℃の反応温度で24時間攪拌すると,褐色で粘調なポリアミド酸溶液Bが得られた。このもののηsp/Cは4.0であった。
【0047】
〔参考例3〕
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P10(日本触媒株式会社製)を7.6質量部、N−メチル−2−ピロリドン390質量部を容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテルを入れた。次いで、3800質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を390質量部と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Cが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.7であった。
【0048】
〔参考例4〕
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P10(日本触媒株式会社製)を3.7質量部、N−メチル−2−ピロリドン420質量部を容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、108質量部のフェニレンジアミンを入れた。次いで、3600質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を420質量部と292.5質量部のビフェニルテトラカルボン酸二無水物を加えて、25℃にて12時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Dが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.5であった。
【0049】
〔比較例1〜4〕
参考例1〜4で得たポリアミド酸溶液を、ダイコーターを用いて鏡面仕上げしたステンレススチール製の無端連続ベルト上に塗布し(塗工幅1240mm)、90〜115℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離して両端をカットし、それぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたこれらのグリーンフィルムを、ピンシートが並んだ際にピン間隔が一定となるようにピンを配置したピンシートを有するピンテンターに通し、フィルム端部をピンにさしこむ事により把持し、フィルムが破断しないように、かつ不必要なタルミ生じないようにピンシート間隔を調整し、最終ピンシート間隔が1140mm、となるように搬送し、第1段が170℃で2分間、第2段として230℃で2分間、第3段485で6分間の条件で加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、褐色を呈する比較例1〜4のそれぞれのポリイミドフィルムを得た。ここに、ピンシートはチェーン状に連結されたステンレススチール製のブロックに固定されており、連結体としてステンレススチール製のコロ上を搬送される形式となっている。3段目が高温であるため潤滑油などは用いていない。ここにピンシートの長さは65.0mm、ピン間隔は7.0mmである。得られたポリイミドフィルムの特性、ノイズのピーク周波数などの測定結果を表1に記載する。なお、テンター運転中はいずれのポリアミド酸フィルムを用いた場合であっても機械音、特に金属間の摺動音である甲高い音が断続的に生じ、騒音レベルは高く、ピンテンター近くでは会話に支障を来した。
【0050】
〔実施例1〜4〕
参考例1〜4のポリアミド酸溶液を、実施例と同様に鏡面仕上げしたステンレススチール製の無端連続ベルト上に塗布乾燥し、乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離して、厚さ21μmのそれぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたこれらのグリーンフィルムを、比較例とほぼ同様のピンテンターにて同条件で熱処理を行った。ただし、実施例においては、チェーンブロックを乗せるコロに、コロの下部より固体潤滑剤スティックを押し当てる機構を付加し、あらかじめコロ回転体部分と、コロに接するチェーンブロックに固体潤滑剤成分(二硫化タングステン)を十分に転写させてから熱処理を行った。
他は比較例と同様の条件にて熱処理し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、褐色を呈する実施例1〜4のそれぞれのポリイミドフィルムを得た。得られたポリイミドフィルムの特性、ノイズのピーク周波数など結果を表1に示す。なお、テンター運転中の機械駆動音はモーターとチェーンの駆動音を中心とした中低音域のノイズであり、比較例に較べて十分に低い騒音レベルであり特に会話等に支障は無かった。
なお、ここに用いた固体潤滑剤成分は、固体潤滑剤として平均粒径2μmの二硫化タングステン65質量%、平均粒径5μmのFe−Ni−B合金(35質量%)を混合し、さらに金属成分として平均粒径2〜4μmの銀(20質量%)、スズ(10質量%)銅(35質量%)とを混合しボールミルにて混合粉砕した後。約5トン/平方cmの圧力でペレット状にプレスし、これを1.0×10-2Paレベルの低真空下、1150℃×30分間の条件で焼結させたものである。
【0051】
〔比較例5〜8〕
参考例1〜4で得たポリアミド酸溶液を、ダイコーターを用いて鏡面仕上げしたステンレススチール製の無端連続ベルト上に塗布し(塗工幅1240mm)、90〜115℃にて10分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離して両端をカットし、それぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたこれらのグリーンフィルムを、幅35mmの細幅長尺スリットフィルム(易接着性細幅長尺スリットフィルム)を両側端部に重ね合わせながら、クリップを備えたクリップテンターに通し、フィルム端をクリップにて把持し、適宜クリップ幅をフィルムが破断しないよう、かつフィルム余分なタルミを生じないように調整し、最終クリップ間隔を1140mmとなるように搬送し、第1段が170℃で2分間、第2段として230℃で2分間、第3段485で6分間の条件で加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、2分間で室温にまで冷却し、フィルムの両端部の平面性が悪い部分をスリッターにて切り落とし、ロール状に巻き上げ、褐色を呈する比較例5〜8のそれぞれのポリイミドフィルムを得た。ここに、クリップはチェーン状に連結されたステンレススチール製のブロックに固定されており、チェーン状連結体としてステンレススチール製のコロによりレール上を搬送される形式となっている。3段目が高温であるため潤滑油などは用いていない。得られたポリイミドフィルムの特性、ノイズのピーク周波数などの測定結果を表1に示す。なお、テンター運転中はいずれのポリアミド酸フィルムを用いた場合であっても機械音、特に金属間の摺動音である甲高い音が断続的に生じ、騒音レベルは高く、ピンテンター近くでは会話に支障を来した。
これら上記の実施例、比較例で得られた各フィルムの物性などを表1〜表3に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
表1〜表3に示すとおり、比較例においてはフィルム表面の付着異物量が多いが、実施例においては騒音レベル、騒音の中心周波数ともに下がり、付着異物量特に鉄、クロム、ニッケルの合計元素量が大幅に減じられ、かつモリブデンおよびまたはタングステン元素量が一定値以下であることがわかる。
以上述べてきたように、本発明の特定固体潤滑剤を用いた方法などによって得られるフィルムの表面付着異物、鉄、クロム、ニッケル、およびモリブデンおよびまたはタングステンの量を大幅に低減することができ、ポリイミドフィルムの流延製膜方法として産業上有意義なものであり、得られたポリイミドフィルムは、本来の高耐熱性と併せて、絶縁性に優れたクリーンなフィルムであり、半導体や実装回路基板用途などに安心して幅広く使用することができ工業的に極めて有意義である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、ポリイミドフィルムの処理に高温を要するピンテンター、クリップテンターなどのフィルム製造において、特定の固体潤滑剤を使用するなどして、ポリイミドフィルムの表面付着異物量を大幅に低減することが可能であり、得られたポリイミドフィルムは高耐熱性、高絶縁性を有しており、半導体や実装回路基板用途などに安心して幅広く使用することができ工業的に極めて有意義である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応させて得られるポリイミドを主瀬尾分とし、フィルム表面の付着異物として、鉄、クロム、ニッケルの3種類の元素含有量が合計で0.5ng/cm以下のポリイミドフィルムの製造方法で、テンターにより460℃以上の高温域で熱処理をする工程を有し、かつ該熱処理工程においてテンター摺動部にタングステン元素を含有する固体潤滑剤を用いることを特徴とする、ポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記固体潤滑剤において、タングステンが硫化物として含有されている請求項1記載のポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2012−211335(P2012−211335A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152220(P2012−152220)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2008−33170(P2008−33170)の分割
【原出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】