説明

ポリインジゴの製造方法

【課題】本発明は、高強度といった優れた特性を有するポリインジゴを効率的に製造することができ、工業的な大量生産にも適用し得る方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係るポリインジゴの製造方法は、酸性溶媒中で下記化合物(1)を重合させて下記ポリインジゴ(2)を製造することを特徴とする。


[式中、Arはアリール基を示し;XはC=O等を示し;Aは炭素−炭素一重結合等を示し;Y1はXと同義を示し且つZ1はN−R1を示すか、またはY1はN−R1を示し且つZ1はXと同義を示し;R1はC1−C6アルキル基等を示し;Y2はC=Oを示し且つZ2はN−R3を示すか、またはY2はN−R3を示し且つZ1はC=Oを示し;R3は水素原子等を示す]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリインジゴを製造するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
極めて優れた耐熱性や耐溶剤性などを有する樹脂として、ポリインジゴが知られている。かかるポリインジゴは、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、ポリインジゴの合成経路の1つとして下記が記載されており、その実施例もある。
【0004】
【化1】

【0005】
しかし、本発明者らが上記合成経路を追試しようとしたところ、フェニレンジアミンに酢酸基を導入する最初の工程で、目的化合物を単離さえすることができなかった。実際、特許文献1には、当該反応の例が実施例8として記載されているものの、目的化合物が含まれている濾液を減圧濃縮しているのみで精製は行われておらず、当該未精製物がそのまま次工程の実施例12で用いられている。よって、特許文献1の実施例で得られたポリインジゴには、多量の不純物が含まれていると考えられる。
【0006】
その原因を明らかにすべく、上記最初の工程の反応終了後における反応液をNMRにより分析したところ、一方のアミノ基に2つの酢酸基が結合した化合物や、3つ或いは4つの酢酸基が結合した化合物が副生しており、目的化合物の生成率はせいぜい30%程度であった。この様に、当該工程の目的化合物はその生成率が低い上に、副生成物と構造が近いことから、単離が困難であると考えられる。
【0007】
また、特許文献1には、2,5−ジクロロテレフタル酸を出発原料とし、これをグリシル化した後に閉環するポリインジゴの製法も開示されている。
【0008】
【化2】

【0009】
しかし本願発明者らが再現実験し、得られたポリインジゴをNMRで分析したところ、保護基であるアセチル基が除去されていない部分や、ベンゼン環と縮合しているピロリジン−3−オン構造が開環している部分が存在していた。
【特許文献1】米国特許第3,414,545号明細書(第3カラムのルートA、第4カラムのルートB、実施例8)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した様に、従来、ポリインジゴを製造する方法は知られていた。しかし、いずれの方法も収率が極めて悪かったり、或いは得られるポリインジゴの品質が低いといった問題を有しており、ポリインジゴを工業的に生産する方法としては不適であった。
【0011】
そこで、本発明が解決すべき課題は、高強度など優れた特性を有するポリインジゴを効率的に製造することができ、工業的な大量生産にも適用し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、ポリインジゴの製造条件につき鋭意研究を重ねた。その結果、酸性溶媒中で重合反応を行えば、除去すべき保護基の脱離が良好に進行し、且つモノマーの分解を抑制しつつ重合反応を良好に行えることを見出して本発明を完成した。
【0013】
本発明に係るポリインジゴの製造方法は、酸性溶媒中で下記化合物(1)を重合させて下記ポリインジゴ(2)を製造することを特徴とする。
【0014】
【化3】

【0015】
[式中、
ArはC6−C12アリール基を示し;
XはC=OまたはC−OR2を示し、ここでR2はC2−C7アルカノイル基またはC7−C13アリールカルボニル基を示し;
Aは、XがC=Oである場合には炭素−炭素一重結合を示し、XがC−OR2である場合には炭素−炭素二重結合を示し;
1はXと同義を示し且つZ1はN−R1を示すか、またはY1はN−R1を示し且つZ1はXと同義を示し;
1はC1−C6アルキル基、C6−C12アリール基、C7−C13アリールアルキル基、C2−C7アルカノイル基、またはC7−C13アリールカルボニル基を示し;
2はC=Oを示し且つZ2はN−R3を示すか、またはY2はN−R3を示し且つZ1はC=Oを示し;
3は水素原子、C1−C6アルキル基、C6−C12アリール基、C7−C13アリールアルキル基を示す]
【0016】
上記方法においては、化合物(1)としてR1およびR2がC2−C7アルカノイル基またはC7−C13アリールカルボニル基である化合物を用い、R3が水素原子であるポリインジゴ(2)を製造することが好ましい。
【0017】
また、上記方法における酸性溶媒としては、85質量%以上95質量%以下の濃硫酸が好適である。85質量%以上であれば、より確実にモノマーの分解を抑制でき、重合反応をより良好に進行せしめ得る。一方、95質量%を超えると、アリール基のスルホン酸化など好ましくない副反応が想定され得るからである。
【発明の効果】
【0018】
本発明方法によれば、高い耐熱性や耐溶剤性といった優れた特性を有するポリインジゴを、極めて効率的に製造することができる。従って本発明は、ポリインジゴの工業的な大量生産を可能にするものとして、産業上極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明において、「C6−C12アリール基」とは、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基をいい、例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル、インデニルを挙げることができる。
【0020】
アリール基は、可能であれば一般的な置換基を有していてもよい。置換基としては、C1−C6アルキル、ハロゲン原子、およびベンジルからなる群より選択される1または2以上を挙げることができる。上記置換基のうち、フェニルおよびベンジルは、さらに、C1−C6アルキルおよびハロゲン原子からなる群より選択される1または2以上で置換されていてもよい。なお、置換基の数は、置換可能であれば特に制限されないが、好適には1〜4個であり、さらに1または2個が好ましく、さらに2個が好ましい。また、置換基が複数存在する場合、それらは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0021】
本発明において「C1−C6アルキル基」は、炭素数が1〜6の直鎖状または分枝鎖状の脂肪族炭化水素を意味する。例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル等である。好ましくは(C1−C4)アルキルであり、より好ましくはメチル、エチル、またはt−ブチルであり、さらに好ましくはメチルである。
【0022】
「ハロゲン」にはフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子が含まれ、好ましくはフッ素原子、塩素原子、または臭素原子である。
【0023】
本発明において、「C2−C7アルカノイル基」とは、炭素数2〜7の低級アルキルカルボニル基を意味する。例えば、アセチル、エチルカルボニル、プロピルカルボニル、イソプロピルカルボニル、ブチルカルボニル、イソブチルカルボニル、t−ブチルカルボニル、ペンチルカルボニル、ヘキシルカルボニル等である。好ましくはC2−C4アルカノイルであり、より好ましくはアセチルである。
【0024】
「C7−C13アリールアルキル基」とは、1個のC6−C12アリールで置換されたアルキルであって、炭素数7〜13のものをいう。例えば、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、ナフチルメチル、ナフチルエチル、ビフェニリルメチルを挙げることができ、ベンジルが好ましい。また、当該基はアリール上に置換基を有していてもよい。アリール上に置換基を有するアリールアルキル基としては、4−メチルベンジル、4−エチルベンジル、2,4,5−トリメチルベンジル、4−フルオロベンジル、4−クロロベンジル、4−ブロモベンジル、2,5−ジクロロベンジル、2,5−ジブロモベンジル、4−ジフェニリルメチルを挙げることができる。
【0025】
7−C13アリールカルボニル基は、C6−C12アリールカルボニルを意味する。当該基としては、フェニルカルボニル、ナフチルカルボニル、ビフェニルカルボニル、インデニルカルボニルを挙げることができる。また、当該基はアリール上に置換基を有していてもよい。アリール上に置換基を有するアリールカルボニル基としては、4−トルエンカルボニル、4−エチルフェニルカルボニル、2,4,5−トリメチルフェニルカルボニル、4−フルオロフェニルカルボニル、4−クロロフェニルカルボニル、4−ブロモフェニルカルボニル、2,5−フェニルカルボニル、2,5−フェニルカルボニル、4−ジフェニリルカルボニルを挙げることができる。
【0026】
なお、nは正の整数を示し、具体的な数値は特に特定されないが、本願発明によれば、分子量が3000以上の高分子量のポリインジゴを良好に製造できると考えられる。
【0027】
本発明方法の製造目的化合物であるポリインジゴ(2)は、下記の通りである。
【0028】
【化4】

【0029】
[式中、ArはC6−C12アリール基を示し;Y2はC=Oを示し且つZ2はN−R3を示すか、またはY2はN−R3を示し且つZ1はC=Oを示し;R3は水素原子、C1−C6アルキル基、C6−C12アリール基、C7−C13アリールアルキル基を示す]
【0030】
上記式中のアリール基は、上記定義の通りである。従って、ポリインジゴ(2)としては、以下のものを例示できる。
【0031】
【化5】

【0032】
上記例において、Phはフェニル基を示し、Tolは4−メチルフェニル基を示し、Bnはベンジル基を示す。
【0033】
上記全ての例においては、2つのピロリジン−3−オン構造が点対称の関係にあるが、原料化合物を選択することによって、当該構造が線対称の関係にあるポリインジゴも合成可能である。また、点対称のモノマーと線対称のモノマーを混合して重合させることによって、それらのランダム共重合体を製造することも可能である。
【0034】
各モノマー単位間は炭素−炭素二重結合により結合されており自由回転が阻害されている。よって、ポリインジゴ内には上下が逆のまま重合しているモノマーが存在し、実際には、各モノマーの上下はランダムに重合されていると考えられる。
【0035】
本発明方法は、酸性溶媒中で下記化合物(1)を重合させて下記ポリインジゴ(2)を製造することを特徴とする。
【0036】
【化6】

【0037】
[式中、
ArはC6−C12アリール基を示し;
XはC=OまたはC−OR2を示し、ここでR2はC2−C7アルカノイル基またはC7−C13アリールカルボニル基を示し;
Aは、XがC=Oである場合には炭素−炭素一重結合を示し、XがC−OR2である場合には炭素−炭素二重結合を示し;
1はXと同義を示し且つZ1はN−R1を示すか、またはY1はN−R1を示し且つZ1はXと同義を示し;
1はC1−C6アルキル基、C6−C12アリール基、C7−C13アリールアルキル基、C2−C7アルカノイル基、またはC7−C13アリールカルボニル基を示し;
2はC=Oを示し且つZ2はN−R3を示すか、またはY2はN−R3を示し且つZ1はC=Oを示し;
3は水素原子、C1−C6アルキル基、C6−C12アリール基、C7−C13アリールアルキル基を示す]
【0038】
本発明方法では、酸性溶媒中で重合反応を行うことによって、カルボニル基およびアミノ基を保護していたアルカノイル基またはアリールカルボニル基は除去されつつ、重合反応は良好に進行する。また、ピロリジン−3−オン構造の開環反応など、塩基性溶媒中の重合反応で起こりがちであった好ましくない副反応も起こり難い。なお、ピロリジノン環の窒素原子に結合している保護基以外のアルキル基、アリール基、およびアリールアルキル基は、酸性条件下でも脱離し難く、目的化合物であるポリインジゴにも結合したままである。
【0039】
原料化合物であるビスピロリジノン化合物(1)は、後述する方法により合成することができる。
【0040】
本発明で用いる酸性溶媒は、保護基であるアルカノイル基またはアリールカルボニル基を脱離でき、且つ重合反応を良好に進行できるものであれば特に制限されない。かかる酸性溶媒としては、濃硫酸、リン酸、濃塩酸、濃硝酸、メタンスルホン酸などを挙げることができる。モノマーの分解をより確実に抑制し、重合反応をより一層良好に進行せしめるには、高濃度の酸を用いることが好ましい。その一方で、酸の濃度が過剰に高いと、好ましくない副反応が生じることも考えられる。よって具体的には、85質量%以上95質量%以下の濃硫酸、80質量%以上90質量%以下のリン酸を好適なものとして例示することができる。
【0041】
上記反応では、酸性溶媒へビスピロリジノン化合物(1)を加える。化合物(1)は室温で加えてもよいし、反応容器を水冷または氷冷しつつ加えてもよい。反応混合液におけるビスピロリジノン化合物(1)は特に制限されないが、1〜20質量%程度とすればよい。かかる濃度範囲であれば、保護基の脱離反応と重合反応を良好に進行でき、且つ比較的容易に精製することができる。さらに、反応溶媒としてリン酸を用いる場合には、重合反応を促進するために五酸化二リンを適量添加してもよい。
【0042】
添加後は、反応混合液を室温で5〜40時間程度攪拌すればよい。反応を促進するために、反応混合液を30〜100℃程度に加温してもよい。
【0043】
反応終了後は、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基化合物または塩基性溶媒を加えることにより反応混合液を中和する。中和した反応混合液は、氷冷してもよい。かかる中和反応により生じた析出物を濾過等により分離し、水;メタノールやエタノール等のアルコール;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド;これらの混合溶媒などの極性溶媒により洗浄する。
【0044】
このようにして製造されたポリインジゴは、様々な成形体に加工され得る。例えば、以下の方法により繊維に加工することができる。
【0045】
先ず、ポリインジゴの溶液を調整する。ポリインジゴは汎用溶媒にはほとんど不溶であるが、塩基性条件下でハイドロサルファイトを用いて還元することによって、その水溶液を得ることができる。また、メタノールやエタノール等のアルコール中で水素化ホウ素ナトリウムや水素化ホウ素カリウムを用いて還元することにより、溶液を得ることができる。これら水溶液を濾過して不溶物を濾別した後、溶液を濃縮して曳糸性のある溶液とする。
【0046】
上記で得られたポリインジゴ溶液を紡糸口金から押し出す。紡糸口金を出たドープは、紡糸口金と洗浄バス間の空間で引き伸ばされてフィラメントとなる。この空間は一般にエアギャップと呼ばれており、空気または酸素で満たされていることが必要である。このエアギャップを通過する際に、溶液中のポリインジゴは酸化され、ロイコ体からケトン体に変化し、溶媒に対する溶解度が減じて系から析出して繊維状に成形される。成形されたフィラメントは、水やアルコール等の溶剤により洗浄され還元剤や酸化剤等が除去される。その後、フィラメントに対して、乾燥や加熱などの処理を必要に応じて行なってもよい。
【0047】
その他、上記ポリインジゴ溶液をダイから押し出してキャスト製膜したり、スピンコートすることによりシートやフィルムに加工することもできる。より具体的には、基板上に塗布した溶液に空気を接触させて酸化を行うと同時に、溶媒を蒸発させる。基板上からポリインジゴフィルムを剥がし、水洗して還元剤を除去した後収縮しないように、フィルムを枠に固定して乾燥する。乾燥は、風乾または50〜300℃の加熱乾燥、または減圧下100℃以下で行うことができる。その後、ポリインジゴフィルムに対して、必要に応じて加熱処理を行ってもよい。
【0048】
こうして得られたポリインジゴ成形体は、優れた耐熱性や強度、弾性率、耐溶剤性といったポリインジゴ本来の特性をそのまま享有するため、極めて有用である。
【0049】
ビスピロリジノン化合物(1)は、テトラカルボン酸化合物の脱炭酸縮合反応により合成することができる。以下では、Arがフェニルであり、各置換基が点対称の関係にある化合物を代表例として説明するが、当業者であれば、フェニルをアリールに一般化し、且つ各説明を各置換基が線対称の化合物に適用するのは容易である。
【0050】
【化7】

[式中、X、A、R1およびR2は上記と同義を示す]
【0051】
上記反応では、テトラカルボン酸化合物(3)または(4)を、酸無水物:(R22Oと弱塩基:R2ONaの存在下で閉環する。ビスピロリジノン化合物(1’)でXがC=OとなるかC−OR2となるかは、酸無水物の量や反応温度等などの反応条件による。なお、XがC=Oとなる場合、Aは炭素−炭素一重結合になり、XがC−OR2となる場合、Aは炭素−炭素二重結合になる。テトラカルボン酸化合物(3)および(4)は、後述する方法により合成することができる。
【0052】
上記反応では、テトラカルボン酸化合物(3)または(4)、酸無水物、および弱塩基を混合する。この際、酸無水物を溶媒として用いればよく、酸無水物に対して、テトラカルボン酸化合物(3)または(4)および弱塩基は10〜30質量%程度添加すればよい。
【0053】
当該反応混合物を、100〜200℃程度で30分間〜6時間程度反応させる。反応温度は、酸無水物の沸点以上にして反応混合物を加熱還流してもよい。
【0054】
反応終了後、反応混合液を減圧濃縮し、水等から再結晶するなどによって、精製する。
【0055】
テトラカルボン酸化合物(3)または(4)は、以下のスキームにより合成することができる。
【0056】
【化8】

[式中、R1は上記と同義を示す]
【0057】
上記スキームでは、化合物(5)にグリシンまたはN−グリシン誘導体を反応させ、テトラカルボン酸化合物(3)または(4)を得る。
【0058】
原料化合物である化合物(5)は、比較的シンプルな構造を有することから、市販のものを購入して用いることができ、或いは有機化学分野の当業者に周知の方法で市販化合物から合成してもよい。例えば、グリシンのアミノ基がR1により保護されたN−グリシン誘導体は、後述する化合物(3)から(4)を得る反応と同様の条件を用いて合成することができる。
【0059】
上記スキームのうち、上の反応を用いるか下の反応を用いるかは、主にR1の種類により決定すればよい。例えば、N−グリシン誘導体が容易に入手または合成できる場合は下の反応を用いればよいし、入手または合成し難い場合は上の反応を用いればよい。
【0060】
化合物(5)とグリシンまたはN−グリシン誘導体の反応は、銅触媒と塩基化合物の存在下、溶媒中で行う。
【0061】
塩基化合物としては、トリエチルアミン等の有機アミン;水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウムや炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属の炭酸塩;炭酸水素ナトリウムや炭酸水素カリウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩;これら2以上の混合物が含まれる。
【0062】
溶媒は、基質化合物に対して適度な溶解能を有し、反応に悪影響を与えないものであるならば特に制限なく使用することができる。例えば、水;メタノールやエタノール等のアルコール;ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド;これらの混合溶媒を用い得る。これらのうち、水が好適である。
【0063】
当該反応は、通常、反応混合液全体に対して1〜10質量%程度の化合物(5)とグリシンまたはN−グリシン誘導体、5〜15質量%程度の塩基化合物、0.1〜0.5質量%の銅粉末を加え、1〜10時間程度加熱還流する。反応終了後、不溶成分を濾別し、濾液を濃塩酸等で酸性化することによって、析出した目的化合物を濾別すればよい。濾液は、析出を促すために氷冷してもよい。
【0064】
テトラカルボン酸化合物(3)から化合物(4)を合成する場合は、R1の種類に応じた反応を適用すればよい。例えば、R1がアルカノイルまたはアリールカルボニルである場合には、塩基の存在下、溶媒中で対応する酸無水物を反応させればよい。例えば、水酸化ナトリウム水溶液にテトラカルボン酸化合物(3)を溶解し、酸無水物を室温で加えればよい。
【0065】
また、R1がアルキル基、アリール基、またはアリールアルキル基である場合には、溶媒中、酢酸銅(II)とトリエチルアミンなどの塩基の存在下、アリールホウ酸などのホウ酸誘導体をテトラカルボン酸化合物(3)に反応させればよい。
【0066】
反応終了後は反応混合液を濃塩酸等で酸性化し、さらに反応混合液を冷却する等して、析出したテトラカルボン酸化合物(4)を濾別すればよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0068】
なお、以下で製造したポリインジゴの評価方法は、以下の通りである。
【0069】
1.13C−NMR
得られたポリインジゴを専用の容器に詰め、BRUKER製のAVANCE300を用いて13C−NMRスペクトルを得た。測定条件は、以下の通りである。温度:室温、待ち時間:20秒間、contact time:2500μs、試料回転数:6.7kHz、積算回数:1000回。
【0070】
2.元素分析
炭素、水素、窒素の分析には住化分析センター製のCHNアナライザーNCH−21を用い、酸素、硫黄の分析には堀場製作所製の酸素/硫黄/炭素分析装置EMGA−2800を用いた。
【0071】
実施例1
500mLの3口フラスコに90%濃硫酸(200mL)を入れた。窒素雰囲気下、濃硫酸を攪拌しつつ、2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール(10g)を室温で加えた。添加後、大気中、当該反応混合物を室温で24時間攪拌した。次いで、当該反応混合物を水酸化ナトリウム水溶液で中和した。生じた析出物を、大量の水、ジメチルアセトアミド、およびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥することによって、黒色のポリインジゴ(5.0g)を得た。得られたポリインジゴの元素分析の結果、C=63%、H=4.2%、N=15%、O=21%であった。また、得られたポリインジゴの13C−NMRスペクトルを図1に示す。
【0072】
実施例2
室温で1Lの3口フラスコに85%リン酸(200mL)を入れた。窒素雰囲気下、リン酸を攪拌しつつ、2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール(10g)を室温で加えた。添加後、大気中、当該反応混合物を室温で12時間攪拌した。さらに、五酸化二リン(300g)を加え、室温で12時間攪拌した。次いで、当該反応混合物を水酸化ナトリウム水溶液で中和した。生じた析出物を、大量の水、ジメチルアセトアミド、およびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥することによって、黒色のポリインジゴ(5.0g)を得た。得られたポリインジゴの13C−NMRスペクトルを図2に示す。
【0073】
比較例1
500mlの3口フラスコに1N水酸化ナトリウム水溶液(200mL)を入れた。窒素雰囲気下、水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しつつ、2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール(7.1g)を室温で加えた。添加後、大気中、当該反応混合物を室温で24時間攪拌した。次いで、当該反応混合物を塩酸で中和した。生じた析出物を、大量の水、ジメチルアセトアミド、およびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥することによって、黒色のポリインジゴ(4.2g)を得た。得られたポリインジゴの13C−NMRスペクトルを図3に示す。
【0074】
比較例2
500mlの3口フラスコに4N水酸化ナトリウム水溶液(200mL)を入れた。窒素雰囲気下、水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しつつ、2,6−ジヒドロ−1,5−ジアセト−3,7−ジアセトキシベンゾ[1,2−b,5,4−b’]ジピロール(7.1g)を室温で加えた。添加後、窒素雰囲気下、当該反応混合物を80℃で2時間、さらに室温で24時間攪拌した。次いで、当該反応混合物を塩酸で中和した。生じた析出物を、大量の水、ジメチルアセトアミド、およびメタノールで洗浄した後、減圧乾燥することによって、黒色のポリインジゴ(3.6g)を得た。得られたポリインジゴの元素分析の結果、C=63%、H=4.4%、N=15%、O=21%であった。また、得られたポリインジゴの13C−NMRスペクトルを図4に示す。
【0075】
図3の通り、塩基性溶媒中でモノマー化合物の保護基を除去しつつ重合させると、保護基が完全に除去できない。そこで、反応温度をいったん80℃まで上げたところ、図4の通り、保護基は完全に除去できたが、一部の炭素ピークの強度が極端に低くなり、各ピークがブロードになっている。これは、モノマー化合物またはポリインジゴの一部が分解したことが原因であると考えられる。
【0076】
一方、酸性溶媒中でモノマー化合物の保護基を除去しつつ重合させた場合には、保護基も除去できており、且つ各ピークもシャープである。これらの結果により、本発明方法によれば、高品質なポリインジゴを効率良く製造できることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】実施例1で製造したポリインジゴの13C−NMRスペクトルである。
【図2】実施例2で製造したポリインジゴの13C−NMRスペクトルである。
【図3】比較例1で製造したポリインジゴの13C−NMRスペクトルである。
【図4】比較例2で製造したポリインジゴの13C−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性溶媒中で下記化合物(1)を重合させて下記ポリインジゴ(2)を製造することを特徴とするポリインジゴの製造方法。
【化1】

[式中、
ArはC6−C12アリール基を示し;
XはC=OまたはC−OR2を示し、ここでR2はC2−C7アルカノイル基またはC7−C13アリールカルボニル基を示し;
Aは、XがC=Oである場合には炭素−炭素一重結合を示し、XがC−OR2である場合には炭素−炭素二重結合を示し;
1はXと同義を示し且つZ1はN−R1を示すか、またはY1はN−R1を示し且つZ1はXと同義を示し;
1はC1−C6アルキル基、C6−C12アリール基、C7−C13アリールアルキル基、C2−C7アルカノイル基、またはC7−C13アリールカルボニル基を示し;
2はC=Oを示し且つZ2はN−R3を示すか、またはY2はN−R3を示し且つZ1はC=Oを示し;
3は水素原子、C1−C6アルキル基、C6−C12アリール基、C7−C13アリールアルキル基を示す]
【請求項2】
化合物(1)としてR1およびR2がC2−C7アルカノイル基またはC7−C13アリールカルボニル基である化合物を用い、R3が水素原子であるポリインジゴ(2)を製造する請求項1に記載のポリインジゴの製造方法。
【請求項3】
酸性溶媒として85質量%以上95質量%以下の濃硫酸を用いる請求項1または2に記載のポリインジゴの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−56818(P2008−56818A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−236333(P2006−236333)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】