説明

ポリウレタンフォームおよびその製造方法

【課題】RIM成形法を採用することにより、その厚みが10mm以下に設定され、更にその密度を600〜900kg/m程度となる高密度としたポリウレタンフォームを、高い量産性をもって容易に製造することを目的とする。
【解決手段】ポリオールおよびイソシアネートからなる主原料と各種副原料とから得られる板状のポリウレタンフォームにおいて、前記主原料と各種副原料とを混合し、これに造泡用気体を圧力下に溶存させてなるガス溶存原料Mを、所要の調圧下に成形型30に注入し、注入完了直後に常圧に戻すことで製造され、その厚みが10mm以下にするようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はポリウレタンフォームおよびその製造方法に関し、更に詳細には、反応射出成形(以下、RIM成形と云う)を採用することで、薄い板形状や、更には複雑形状に対応可能であり、かつ高密度において良好な成形性を維持し得るポリウレタンフォームと、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐候性や加工性等が高いポリウレタンフォームは、その構造に由来する弾性故に使用用途が多枝に亘り、例えば制振材、シール材、クッション材、断熱材、研磨パッドまたはクッションパッド等といった製品素材としても、好適に採用されている。そして前述した製品用途においては、その密度が高く、高荷重負荷に耐え得ると共に、所要の形状に、殊に薄い板形状等に容易に製造し得る成形性が求められている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、一般的な発泡体の製造方法であるスラブ発泡法は、発泡原料を常温大気圧下で自然発泡させて硬化させる方法であり、量産性に優れかつその管理が簡便であるため多用されている一方、量産性のある製品密度は200kg/m程度と上限が低く、また薄い板形状の発泡体を製造しようとする場合、自然発泡させて得られるブロック状の大きな発泡体(以下、原反と云う)を所要厚みに切断する、所謂スキ加工において低密度による弾性が原因となって寸法精度が悪化するため、10mm以下、殊に6mm以下のシート状の発泡体は製造が困難であった。この他の方法として、発泡剤を添加することなく、高粘度の発泡原料を攪拌することでエアを巻き込み、該エアが原料内で合一、脱泡する以前に加熱硬化させて発泡成形体とするメカニカルフロス発泡法が挙げられ、この方法においては、前述の10mm以下となる薄い板形状の発泡体の成形も可能である。しかしメカニカルフロス発泡法においては、成形性、殊にキュア性の問題がら500kg/mの以上となる高密度の発泡体の製造が困難となる問題が指摘される。なお高密度時の成形性またはキュア性の悪化による製造コストの増大を許容した場合、所望の発泡体製造は可能となるが、その一方で高密度故の高い硬度によりスキ加工は困難化し、例えばギロチンカッター等での一次切断と、サンディング等の厚み調整等の後加工が必須となり、更なる製造コストの上乗せが必要となり現実的ではない。
【0004】
一方、成形型を用いて中実未発泡の、所謂ソリッド体の成形品を提供する成形方法として、RIM成形法が知られている。この成形方法は、薄い板形状や、複雑形状にも応用可能であり、このため従来、自動車用バンパー、フェンダーおよびマッドガード等に好適に応用されているが、基本的にソリッド体の成形方法であり、発泡体の製造には利用されていなかった。殊に前述した用途については完成成形品に対する外観要求が厳しく、RIM成形原料中に気体が残留することで成形体表面に発生するピンホールまたはボイド等の気泡は、直接的な外観不良、更には後工程で実施される塗装等におけるワキ、オレンジピールまたはプリスターといった外観不良の原因であるため、RIM成形原料に気泡を混入させることは通常考えられず、これらを極力排除することが求められていた。なお、例外的にRIM成形原料の流動性を高め、成形型への注入効率を上げることを目的として、該RIM成形原料に乾燥空気等のエアを攪拌混入させた、所謂エア(ガス)ローディングを行なう手法は知られていた。しかしこの場合であっても、RIM成形原料を成形型に注入した後は、混入されたエアが発泡しないように、該エアを成形型外に追い出しつつ成形がなされるように制御されているため発泡体は製造できない。
【0005】
また下記の[特許文献1]に記載される如く、インテグラルスキン(ポリウレタン)フォーム(表層のみソリッド状態であり、内部だけが発泡状態となっているフォーム)を製造するためにRIM成形法が採用される場合がある。しかしこの方法においては、成形品の裏表を構成する2つの中実層が、発泡層の両側に存在する3層構造となった、発泡状態が偏った発泡体の製造しかできず、またこれら3層が積層的となっている構造故に6mm以下の薄い板形状とすることは困難であった。更にフロン、代替フロンまたは水等の化学的発泡に係る発泡剤を使用するため、そのガス発生に係る制御が困難であり、密度、セル径および該セル径の分布の制御が困難であり、商品性の高い発泡体の製造には向かなかった。
【特許文献1】特開平3−065342号公報
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係るポリウレタンフォームは、ポリオールおよびイソシアネートからなる主原料と各種副原料とから得られる板状のポリウレタンフォームにおいて、
前記主原料と各種副原料とを混合し、これに造泡用気体を圧力下に溶存させてなるガス溶存原料を、所要の調圧下に成形型に注入し、注入完了直後に常圧に戻すことで製造され、その厚みが10mm以下に設定されていること特徴とする。
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の別の発明に係るポリウレタンフォームの製造方法は、ポリオールおよびイソシアネートからなる主原料と各種副原料とから得られる板状のポリウレタンフォームの製造方法において、
前記主原料と各種副原料とを混合し、これに造泡用気体を圧力下に溶存させてなるガス溶存原料を、所要の調圧下に成形型に注入させ、
所要量の前記ガス溶存原料が成形型内に注入完了直後に常圧に戻すことで、
その厚みが10mm以下に設定されたポリウレタンフォームを製造すること特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るポリウレタンフォームおよびその製造方法によれば、RIM成形法を採用することにより、その厚みが10mm以下に設定される板状のポリウレタンフォームを容易に製造し得る。またその密度として、600〜900kg/m程度となる高密度のポリウレタンフォームを、高い量産性をもって製造し得る。更にそのセル径を任意に制御すると共に、その径を均質化し得る効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明の好適な実施例に係るポリウレタンフォームおよびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて、以下説明する。本願発明者は、ポリウレタン系原料に不活性ガス等の造泡用気体を溶存させたガス溶存原料を、所定の調圧等の圧力制御下に反応射出成形法(以下、RIM成形法と云う)により成形することで、その厚みが10mm以下、好適には6mm以下となる板状のポリウレタンフォームを容易にかつ高い量産性をもって製造し得ることを知見した物である。また造泡用気体の溶存量と、ポリウレタンフォームの原料であるポリオール等の選択とをなすことで、セル径が20〜100μmといった微細なセルを多数かつ均質に備えるポリウレタンフォームを製造し得ることも合わせて知見した。
【0010】
まず本発明の説明に先立ち、その理解に資するため、本発明で好適に使用される反応射出成形装置(以下、単に製造装置と云う)について説明する。製造装置としては、公知の反応射出成形装置を基本として、この装置におけるタンク等のポリオール貯留手段に対して、所定の圧力を掛けつつ造泡用気体を供給する造泡用気体供給手段が付加された形態となっている。またタンク内にポリオールを貯留し、そこに造泡用気体を溶解させる場合、ポリオールの攪拌手段があることが好ましい。この他、ポリオールに対して造泡用気体を充分に溶解させ得るのであれば、その供給位置は何れの位置であっても問題はない。
【0011】
また製造装置でポリオール、造泡用気体およびイソシアネート等がミキシングヘッド内で衝突混合されて得られる反応混合液であるガス溶存原料は、直ぐに所要(得るべきポリウレタンフォーム)の外部輪郭形状のキャビティを有し、所定の型内圧とされている反応射出成形型(以下、単に成形型と云う)内へ、例えば150kg/cmといった高圧で射出される。この成形型には、公知の成形型と同様に反応混合液の速やかな注入を阻害する内部空気を排出するベントが備えられているが、本発明においては、このベントのよる成形型の内部空気の排出等は、制御下(後述[0020])に実施されるように構成されている。
【0012】
本実施例に係るポリウレタンフォームの製造方法は、図1に示す如く、原料準備段階S1、混合・射出工程S2、成形工程S3および最終工程S4とからなる。ここで混合・射出工程S2はポリオールおよびイソシアネート等を圧力下で衝突混合させてガス溶存原料として、成形型内への射出が行なわれる工程であり、最終工程S4は成形型内で成形された製品の脱型、検査等が実施される工程であり、従来の反応射出成形法と同様であるため詳細については省略する。なお混合・射出工程S2で成形型内に注入されるガス溶存原料は、常圧下において造泡用気体が減圧によって気化した状態のガス溶存原料の体積と、成形型の内容積とが略同一となるように設定され、計量された後に注入されているが、この他、成形型内への確実な注入をなし得るべく、ポリオール、イソシアネートまたは各種副原料の種類等によって決定される成形型内注入後の発泡・硬化速度や液流れ性、更には経路および成形型内に存在するエアーの巻き込み等に由来するボイド等の発生を考慮して過剰量(オーバーパック)となるガス溶存原料を使用してもよい。
【0013】
原料準備段階S1では、ポリオールおよびイソシアネート等(以下、液状原料と云う)の調整が実施されるが、本発明においては、タンク等に貯留されているポリオール100体積部に対して、10〜2,000体積部、好適には70〜500体積部の範囲となる造泡用気体が混合され、溶解された状態とされる。より多量の造泡用気体を溶存させるためには、公知の造泡用気体をタンク内に充填・加圧させて溶存させると共に、超臨界または亜臨界状態の液体ガスを加圧状態で原料に混合させることが好ましい。造泡用気体の値が10体積部未満では、造泡用気体の溶解量が少なく後述([0021])の常圧化段階S32で、所望の発泡倍率まで発泡しなかったり、均質なセル20の形成が困難となったり、発泡体の性質発現が困難な高密度体となってしまう。一方2,000体積部を超えると、造泡用気体を液状原料に溶存させることは困難であり、また過剰の造泡用気体が成形型内に充満することでセルの合一を招来し、良好な発泡成形体の製造ができない。この造泡用気体の溶解量は、得られるポリウレタンフォームの密度を決定するものであり、例えば各原料の平均密度が約1,000kg/mであり、造泡用気体の溶解量が25体積部であれば、ポリウレタンフォームの密度は800kg/mとなる。そして一般的なソリッドのポリウレタン成形体の密度が1,000〜1,200kg/mであるため、造泡用気体のの溶存(ガスローディング)量を適宜調整するだけで、本発明に係るポリウレタンフォームは、その密度を900kg/mの範囲に設定することが容易に可能となっている。また造泡用気体の溶存量を、70体積部以上に設定することで、その密度が600〜700kg/mと比較的低密度とすることも可能となっている。
【0014】
ここで使用される造泡用気体としては、拡散係数の大きいCOや、乾燥空気(ドライヤー)または窒素等の、ポリオールやイソシアネートとの反応に影響を及ぼさない公知の物が採用可能である。またポリオールに対する溶解量は、造泡用気体の種類と、タンク内圧力とによって決定されている。なおこの関係については予めこれらの検量線等を取得することで確認される。ここでは造泡用気体は、化学的に安定性の高いポリオールに混合されるが、イソシアネートに混合してもよい。
【0015】
ポリウレタンフォームの主原料であるポリオールおよびイソシアネートとしては、公知の化合物が使用される。ポリオールとは、活性水素含有化合物であって、少なくとも2個の活性水素を有する化合物であり、活性水素含有化合物としては、例えば分子量が通常400〜20,000、好ましくは800〜15,000のポリエーテルポリオール、ポリマーポリオール、ポリエステルポリオールまたはポリエーテルポリアミン等が挙げられる。またイソシアネートとは、少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物であり、イソシアネート化合物としては、例えばポリイソシアネートまたはポリイソシアネートの変性体が挙げられる。ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートまたはポリメチレンポリフェニルイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート或いはヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。ポリイソシアネートの変性体としては、例えばウレタン変性ポリイソシアネート、カルボジイミド変性ポリイソシアネート、アロハネート変性ポリイソシアネート、ウレア変性ポリイソシアネート、ビュレット変性ポリイソシアネート、ウレトンイミン変性ポリイソシアネートまたはイソシアネートプレポリマー等が挙げられる。
【0016】
更に前述の主原料の他に、副原料として架橋剤が添加されている。架橋剤とは、ポリオール、イソシアネート等に添加剤として配合される鎖延長剤であり、アミン末端または水酸基末端の何れでも使用される。本発明においては、超臨界状態(臨界温度31.3℃、臨界圧力7.38MPa(72.9気圧))のCOを使用した際のガス溶存による良好な気泡形成や、伸び特性のある成形品を得る場合には、ジエチレングリコールが好ましい。具体的には、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールまたは1,5−ペンタンジオール等のポリアルキレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールまたはトリエチレングリコール等のポリオキシアルキレングリニコール、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミン等のアルカノールアミン、トリメチロールプロパンまたはグリセリン等の多価アルコール或いはエチレンジアミン、アニリン、グリセリン、2,4−/2,6−トリレンジアミン異性体混合物等にアルキレンオキサイドを活性水素基当たり1〜2モル付加した低分子ポリオール等が挙げられる。
【0017】
また触媒としては、トリエチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラメチルヘキサン−1,6−ジアミン、N,N,N',N",N"−ペンタメチやルジエチレントリアミン、N,N'−ビス(N",N"−ジメチル−3−アミノプロピル)N,N−ジメチルエチレンジアミン、N−メチル−N"−(2−ジメチルアミノ)エチルピペラジン、N−エチルモルフォリン、1−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、3−(ジメチルアミノ)プロピルイミダゾールまたはジメチルアミノエタノール等の第3級アミン触媒、ジブチル錫ジラウレート或いはジメチル錫ジラウレート等の有機金属触媒が用いられる。これらは単独でも2種以上混合しても使用することができる。さらに、反応射出成形においては、必要に応じて、内部離型剤、発泡助剤、難燃剤、酸化防止剤などの助剤を副原料として使用してもよい。内部離型剤としては、例えば脂肪酸金属塩のアミン溶液が挙げられる。
【0018】
ここまでで説明したポリウレタンフォームの主原料であるポリオールおよびイソシアネートと、副原料中における架橋剤および触媒については、製造されるポリウレタンフォームのセル径に対して大きな影響を与えている。これら各原料として、反応性の高い原料を採用することで、成形型内に注入されたガス溶存原料の発泡・硬化時間を制御し、ガス溶存原料から発生する気泡の大きさ、すなわちセル径を任意の大きさとするようにしている。この方法により、20〜100μmといった、これまでその製造が困難であった微小なセルを有するポリウレタンフォームを容易に得ることが可能となっている。
【0019】
成形工程S3は、計量された所要量のガス溶存原料を成形型内に注入すると共に、成形型のキャビティ形状に従ったポリウレタンフォームを成形する工程であり、調圧下注入段階S31、常圧化段階S32および樹脂化段階S33からなる。調圧下注入段階S31は、図2に示す如く、成形型30のキャビティ30a内に計量された所要量のガス溶存原料Mを注入し(図2(a)参照)、キャビティ30a内に注入完了させる(図2(b)、図2(c)参照)段階であり、1秒程度の短時間で完了する。本調圧下注入段階S31においては、セルの元となる造泡用気体がガス溶存原料Mから気化して離脱しないよう、キャビティ30a内の圧力は調圧、具体的にはポリオールの貯留手段内(ガス溶存原料Mの成形型までの経路)と略同一に保持される。すなわちキャビティ30a内は、予め所定の圧力に調圧されており、ここにガス溶存原料Mが注入され始めると、その注入量に応じた体積の(成形型の)内部空気が連続的に排出される。このようにすることで、ガス溶存原料Mのキャビティ30a内における速やかな注入完了と、その中に溶解している造泡用気体の気化による成形型外への逃げおよびセルの発生を防止とを両立している。なおこの段階におけるガス溶存原料Mは、造泡用気体が溶解した状態であるため、その粘度は低く、キャビティ30a内への注入も効率的になされる。
【0020】
このような連続的な制御をなし得るベント32には、一定の圧力以上になった場合に、開口する構造となっている調圧バルブや、ガス溶存原料Mに掛けられている圧力、成形型30に対する注入速度および成形型30の内容積から算出される口径を備え、それらの数値よりガス溶存原料Mの注入の瞬間から、完全な注入完了に至るまで開閉を制御下になし得る制御バルブ等が採用される。またベント32の数についても、単一ではなく数カ所に設けるようにして、キャビティ30a内における部分的な圧力の変動を抑制し得るような構成としてもよい。これら複数箇所に設けられるベント32は、ガス溶存原料Mが漏れ出さないように、その注入の度合いに応じて順次閉塞されるように制御される。基本的にベント32は、成形型30内にガス溶存原料Mが注入されている間は、成形型30内の内部空気を注入されているガス溶存原料Mと同体積分だけ排出して、ガス溶存原料Mから造泡用気体が逃げることを防止し、これによりセルの元となる予め計算された量の造泡用気体を含有したガス溶存原料Mを成形型30内に注入するようにしている。更に好ましくは、ガス溶存原料Mの注入中にベント32から成形型30内に対して所定圧力の(カウンタ)エアー等を供給し、カウンター的な働きをさせることで、カウンタ圧力を掛けて前述の造泡用気体のガス溶存原料Mからの逃げを防止するようにしてもよい。この場合、成形型内を所定圧力に保ち、ガス溶存原料が成形型内に完全に注入完了される前に、ガス溶存原料から造泡用気体が抜けて、ポリウレタンフォームの密度が高くなることを防止している。またベント32に対して緻密な制御は必要ではなくなり、この製造工程における煩雑さを少ないものとし得る利点がある。
【0021】
そして計量された所要量のガス溶存原料Mの全量のキャビティ30a内への注入が完了した時点から、常圧化段階S32が開始される。すなわち調圧下注入段階S31においては、注入されるガス溶存原料Mの量に略合致した成形型30の内部空気を連動的に排出させることで、キャビティ30a内に注入されるガス溶存原料Mの圧力を保持して、溶解している造泡用気体の気化を抑制していたが、本常圧化段階S32においては、ベント32を全開放する等して、ガス溶存原料Mに掛かっている圧力を瞬時に解除するものである。この圧力の瞬時の解除によって、図3に示す如く、キャビティ30a内に注入されたガス溶存原料Mが瞬時に発泡して体積を増加させつつ、計量された通り、キャビティ30a内を略完全に充填することになり、時間的には調圧下注入段階S31の完了後直ぐに完了する。
【0022】
すなわちこの瞬間において、ガス溶存原料M内に溶解している造泡用気体が全て気化してセル20を形成することになる。これはセル20の基となる、所謂核が略同時に多数発生する(図3(a)参照)ことを意味し、これにより発生するセル20の大きさ、セル径は全体的に揃ったもの、すなわちセル径が単分散したものとなる(図3(b)参照)。これは不活性気体が溶存しているガス溶存原料Mが本実施例の如く同一平衡系である場合、不活性気体はその部位を問わず同一の確率で気化がなされ、また気化ガスの膨張速度も略同一であるので、部位による不均一が発現せず、均一かつランダムに気化するためである。このようにして本発明に係るポリウレタンフォームのセル20は、その平均径における多分散度が、0.95〜1.05と高い単分散性を発現している。また同一平衡系においては、略真球形状となり、発泡体の押圧力が均一になるといった効果も期待される。
【0023】
そして前述の調圧下注入段階S31および常圧化段階S32が完了することで、ガス溶存原料Mはキャビティ30a内を微細かつ均質なセル20を備えた状態で略完全に注入される。そして樹脂化段階S33は、注入されたガス溶存原料M内のセル20が時間の経過による合一等によって大きくなったり、変形したりする以前、すなわち調圧下注入段階S31および常圧化段階S32が完了すると略同時に、液状原料を完全に反応・硬化させて樹脂化させる段階である。本発明においては、通常の反応性を発現するポリオール、イソシアネートおよび架橋剤等の使用により、反応射出から15秒後には完全に樹脂化反応が完了し、成形型30からの脱型も可能となる。また衝突混合後から速やかに樹脂化反応による粘度の上昇も開始されており、実際には調圧下注入段階S31から樹脂化は開始されている。なおポリウレタンフォームの主原料であるポリオールおよびイソシアネートとして、反応性の高い物質を選択的に使用する場合、両原料を衝突混合してガス溶存原料Mとしてから約5秒後には完全に樹脂化反応が完了する。
【0024】
また常圧化段階S32においては、ガス溶存原料Mの樹脂化反応が進行するだけでなく、セル20のセル径の拡大に伴って、造泡用気体のガス溶存原料M内からの気化によって造泡用気体の溶解による粘度の低下もなくなるため、セル径が大きくなる程、樹脂化反応の進行が加速度的に高まる。すなわち、ポリオールおよびイソシアネート等からなる液状原料の反応性を制御することでセル径は制御可能である。通常の反応射出成形法に使用される液状原料の反応に必要とされる時間は30秒程度であり、この場合セル径は100μmを超えることが経験的に知られているが、本発明においては、この反応をより早く完了することで、20〜100μmとなるセル径を備えたセルが均質に分散したポリウレタンフォームの製造が可能となっている。一方、調圧下注入段階S31においては、造泡用気体がガス溶存原料Mに溶解して粘度が低下しているため、衝突混合後から開始される樹脂化進行による粘度の上昇は相殺されて悪影響が出ることはない。
【0025】
このような工程を経て、キャビティ30aを外部輪郭形状としたポリウレタンフォームが成形される。また通常、反応射出成形により得られるポリウレタンフォームの表面には、スキン層と呼ばれる数μm程度の高密度層が形成されるが、このスキン層は非常に薄い、所謂膜状のもので除去容易であるため、表面に開口したセル20を備えるポリウレタンフォームの製造も容易である。また本発明は反応射出成形法が発現する特徴も備えているため、例えば複雑形状の発泡成形品を一度に製造し得ることも容易である。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係るポリウレタンフォームは、その厚みや、高密度故の硬度または耐高荷重負荷等の特徴を生かせる、例えば制振材、シール材、クッション材、断熱材、研磨パッドまたはクッションパッド等の用途に好適に採用し得る。
【0027】
(実験例)
次に、本発明に係るポリウレタンフォームおよび製造方法についての実験例を示す。下記する各原料および機器を使用し、表1(造泡用気体種類、溶存量およびタンク内圧力(MPa))に従って造泡用気体を溶存させてガス溶存原料を準備し、これを同じく表1記載の条件(オーバーパック率およびカウンタ圧力)に従って幅1,000mm×奥行1,500mm×厚み2〜6mmとなる成形型内に注入して実施例1〜9並びに比較例1および2に係るポリウレタンフォームを製造した。そして各実施例および比較例に係るポリウレタンフォームについて、ライズタイム(秒)、密度(kg/m)、平均セル径(μm)およびセル径のばらつき(最大値と最小値との差(多分散度))について測定した。
【0028】
(使用原料)
・ポリオールA:ポリエーテルポリオール(商品名 SC−229;三洋化成製)
・ポリオールB:ポリエーテルポリオール(商品名 M390;住化バイエルウレタン製)
・イソシアネートA:MDI変性ポリイソシアネート(商品名 コロネート1057;日本ポリウレタン製)
・イソシアネートB:MDI変性ポリイソシアネート(商品名 M393;住化バイエルウレタン製)
・触媒:ジブチネチンジラウレート、トリエチルアミン
・架橋剤A:グリコール(商品名 エチレングリコール;日曹油化製)
・架橋剤B:ウレア(商品名 ジエチルトルエンジアミン;住化バイエルウレタン製)
(使用機器)
・反応射出(RIM)成形機:商品名 MC−240;ポリウレタンエンジニアリング社製
【0029】
(測定等に係る条件等)
・造泡用気体の溶存量(ガスロ一ディング量(体積部)):流量計(商品名 ME−200;ポリウレタンエンジニアリング社製)
をRIM成形機におけるガス溶存原料流路に取り付けて計測している。なおこの数値は、ポリオール100体積部に対するものであって、全液状原料に対するものではない。
・オーバーパック率:成形型の容積を1とした際の、充填されるガス溶存原料の体積を比で現している。
・カウンタ圧力(MPa):ガス溶存原料が注入される成形型内に供給されるカウンタエアの吐出圧である。
・ライズタイム(秒):RIM成形機の吐出ノズルからガス溶存原料を少量吐出させ、常温大気圧下におけるポリウレタンフォームの発泡・硬化過程を目視観察して得ている(吐出後、発泡反応が完了し、硬化反応により一定の強度が発現され、形状変化が停止するまでの時間)。
・密度(kg/m)および平均セル径(μm):JIS K 6400に準拠して測定する。
・セル径のばらつき:N=30として、その最大値と最小値とから算出した。
【表1】

【0030】
(実験の結果)
実験の結果を上記の表1に併記する。この表1から本発明の製造方法に従うことで、その厚みが2mmと非常に薄く、かつ高い密度を達成したポリウレタンフォームが短時間に製造されることが確認された。また従来技術に係る比較例1および2に対して、何れも平均セル径が小さく、かつそのばらつきが小さい(より均質である)ことも確認された。なお実施例1および2では、成形型内にカウンター圧力を加えなかったため、よりソリッドに近い高い密度が達成された。実施例3においては、造泡用気体として炭酸ガスを使用してガス溶存量を高めているため、より低い密度となったポリウレタンフォームが得られている。実施例4および5においては、炭酸ガスを超臨界状態で液状原料内に溶存させ、また原料系をより反応性の高いものとすると共に、その成形型内への注入を容易化しつつ、ガス溶存原料内に溶存している造泡用気体の抜けを効率的に防止するべくカウンタエアーを圧力下に供給することで、低めの密度と小さな平均セル径を達成している。実施例6〜9については、実施例1と同様の条件下において、成形型内の厚みに相当するキャビテイ高さを3〜6mmに変化させたものであり、何れも厚み2mmの実施例1と同様のポリウレタンフォームが製造可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の好適な実施例に係るポリウレタンフォームの製造工程を示す工程図である。
【図2】調圧下注入段階S31における様子を示す状態図である。
【図3】常圧化段階S32における様子を示す状態図である。
【符号の説明】
【0032】
30 成形型
M ガス溶存原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールおよびイソシアネートからなる主原料と各種副原料とから得られる板状のポリウレタンフォームにおいて、
前記主原料と各種副原料とを混合し、これに造泡用気体を圧力下に溶存させてなるガス溶存原料(M)を、所要の調圧下に成形型(30)に注入し、注入完了直後に常圧に戻すことで製造され、その厚みが10mm以下に設定されている
こと特徴とするポリウレタンフォーム。
【請求項2】
前記造泡用気体の溶存量を調整することで、その密度が900kg/m以下になっている請求項1記載のポリウレタンフォーム。
【請求項3】
前記造泡用気体の溶存量を、ポリオール100体積部に対して70体積部以上に設定することで、その密度が600〜700kg/mの範囲にされている請求項1または2記載のポリウレタンフォーム。
【請求項4】
ポリオールおよびイソシアネートからなる主原料と各種副原料とから得られる板状のポリウレタンフォームの製造方法において、
前記主原料と各種副原料とを混合し、これに造泡用気体を圧力下に溶存させてなるガス溶存原料(M)を、所要の調圧下に成形型(30)に注入させ、
所要量の前記ガス溶存原料(M)が成形型(30)内に注入完了直後に常圧に戻すことで、
その厚みが10mm以下に設定されたポリウレタンフォームを製造する
こと特徴とするポリウレタンフォームの製造方法。
【請求項5】
前記ガス溶存原料(M)への調圧および常圧への回復は、該ガス溶存原料(M)の成形型(30)に注入に合わせて実施される該成形型(30)内へのエアーの供給によってなされる請求項4記載のポリウレタンフォームの製造方法。
【請求項6】
前記成形型(30)内に注入されるガス溶存原料(M)の量は、該成形型(30)の内容積と、常圧化におけるガス溶存原料(M)の体積とが略同一となるようにされる請求項4または5記載のポリウレタンフォームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−124579(P2006−124579A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−317007(P2004−317007)
【出願日】平成16年10月29日(2004.10.29)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】