説明

ポリウレタンフォームおよびその製造方法

【課題】メカニカルフロス法で得られるポリウレタンフォームと、化学的発泡法で得られるポリウレタンフォームとの双方の中間的な物性を備え、細かい径のセルが高い均質性をもって形成されると共に、密度が小さなポリウレタンフォームおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】メカニカルフロス法により、主原料であるポリオールおよびイソシアネートと、触媒等の副原料と、造泡用気体とを混合して得たポリウレタンフォームにおいて、
その密度が0.075〜0.200g/cmの範囲に、かつセル径が180〜500μmの範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリウレタンフォームおよびその製造方法に関し、更に詳細には、メカニカルフロス法で得られるポリウレタンフォームと、化学的発泡法で得られるポリウレタンフォームとの双方の中間的な物性を備え、細かい径のセルが高い均質性をもって形成されると共に、密度が小さなポリウレタンフォームおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性のポリウレタン樹脂原料を発泡体としたポリウレタンフォームの製造方法として、一般的に(1)メカニカルフロス法と、(2)化学的発泡法との2種類が知られている。(1)メカニカルフロス法で製造したポリウレタンフォームは、ポリウレタンフォームをなす各種原料に特定の発泡剤を加えず、該各種原料を攪拌して充分に混合する際に、例えば不活性ガス等の造泡用気体を混入することで気泡を形成し、そのままの状態で加熱・硬化させることによりポリウレタンフォームを成形する方法である。一方、(2)化学的発泡法は、ポリウレタンフォームをなす各種原料に、イソシアネートと反応してガスを発生させる、例えば水の如き化学的発泡剤および/またはフォーム成形時の反応熱で気化する低沸点物質の如き物理的発泡剤を添加し、これらにより気泡を形成しつつ、樹脂の硬化反応とのバランスを取りながらフォームを成形する方法である。
【0003】
そして前述の(1)メカニカルフロス法および(2)化学的発泡法の各製造方法においては、夫々の発泡機構に由来する特徴を備えている。具体的には、(1)メカニカルフロス法では、各種原料に不活性ガスを機械的に強制混入することで気泡を形成するため、150μmといった微細なセル径を均質に備えるフォームを得ることは可能である一方、該不活性ガスの混入量には限界があり、密度の低いフォームや、セル径の大きなフォームを得ることは困難であった。また(2)化学的発泡法では、その原料中に気泡の基となる各種発泡剤を混合することで気泡を発生させるため、その混合量の調整によって容易に低密度のフォームや、セル径の大きなフォームを得ることはできる一方、該発泡剤によるガス発生の時間的制御は基本的に不可能であるため、セル径の制御や微細化が困難であった。
【0004】
このような2つの製造方法から得られるポリウレタンフォームの長所を併有させるべく、(2)化学的発泡法によるポリウレタンフォームの製造方法をベースとして、(A)製造初期におけるポリウレタンフォーム原料の粘度を高く保ったり、または(B)重合反応を制御する触媒の使用量・種類等を調整して原料の反応速度を速くすることで、(1)メカニカルフロス法における長所、すなわちセル径の微細化を達成する方法が知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、(A)の場合、各種原料の混合等が充分行なえず得られるポリウレタンフォームの物性制御が困難となったり、原料自体のハンドリング性が悪化して製造が煩雑になる問題が指摘され、また(B)の場合、ポリウレタンフォーム原料の樹脂化が速くなるために、所謂ガス抜け性が悪化して、得られるポリウレタンフォームの反発性が悪化したり、シュリンク等が発生してポリウレタンフォーム自体が得られなくなる問題が発生する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係るポリウレタンフォームは、メカニカルフロス法により、主原料であるポリオールおよびイソシアネートと、触媒等の副原料と、造泡用気体とを混合して得たポリウレタンフォームにおいて、
その密度が0.075〜0.200g/cmの範囲にあり、セル径が180〜500μmの範囲にあることを特徴する。
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の別の発明に係るポリウレタンフォームの製造方法は、メカニカルフロス法により、主原料であるポリオールおよびイソシアネートと、触媒等の副原料と、造泡用気体とを混合するようにしたポリウレタンフォームの製造方法において、
前記ポリオールに対して発泡剤としての水を混合させた後に、イソシアネートと混合・反応させると共に、前記触媒として有機酸塩系触媒とアミン系触媒とを併用することで、
その密度を0.075〜0.200g/cmの範囲とし、セル径を180〜500μmの範囲とするようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るポリウレタンフォームおよびその製造方法によれば、メカニカルフロス法でポリウレタンフォームを製造する原料組成に対して、化学的発泡をなし得る発泡剤としての水を所定量混合すると共に、触媒としてアミン系触媒と有機酸塩系触媒とを併用して、所定量使用することで、メカニカルフロス法によって製造されるポリウレタンフォームの特徴的物性と、化学的発泡法によって製造されるポリウレタンフォームの特徴的物性とを併有するポリウレタンフォームを製造し得る。またメカニカルフロス法により達成される、例えば各種ロール等に使用し得る高い硬度と、化学的発泡法により達成される高い通気性との発現により、例えば導電性物質を含有する溶液に該ロールを含浸させる等して、使用用途に応じた各種機能を容易に付与し得る効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明に係るポリウレタンフォームおよびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて、製造方法と共に添付図面を参照しながら以下説明する。本願の発明者は、メカニカルフロス法をベースとして、主原料であるポリオールおよびイソシアネートと、触媒等の副原料と、セルとなる気泡の基となる窒素の如き造泡用気体とを混合してポリウレタンフォーム原料を調整するに際して、ポリオールに対して発泡剤としての水を所定量混合し、かつ触媒として有機酸塩系触媒およびアミン系触媒を併用することで、メカニカルフロス法によって製造されるポリウレタンフォームの特徴と、化学的発泡法によって製造されるポリウレタンフォームの特徴との双方を備えたポリウレタンフォームが得られることを知見した。
【0010】
実施例に係るポリウレタンフォームは、主原料の一つであるポリオールに対して、発泡剤としての水を混合し、更に触媒として有機酸塩系触媒およびアミン系触媒を併用することで、その密度が0.075〜0.200g/cmの範囲とされ、セル径が180〜500μmの範囲とされている。この密度およびセル径の数値は、公知のメカニカルフロス法(一般的な物性−密度:0.25g/cm程度、セル径:150μm程度)と化学的発泡法(一般的な物性−密度:0.05g/cm程度、セル径:700μm程度)との中間に位置するものであり、メカニカルフロス法で得られるポリウレタンフォームに比較して低密度であり、かつ化学的発泡法で得られるポリウレタンフォームに比較してセル径が微細なものとなっている。またメカニカルフロス法によって生起される均質かつ微細な気泡がセルの基となり、そこに化学的発泡によって発生するガスが入り込んで気泡が大きくなるため、そのセル構造は均質な状態となっている。また化学的発泡法により達成される高い通気性も発現する。
【0011】
このポリウレタンフォームの製造方法は、図1に示す如く、このポリウレタンフォームの原料である混合原料Mを調整する原料調整・混合工程S1と、得られた混合原料Mを発泡させる化学的発泡工程S2と、加熱工程S3とから基本的に構成される。そして原料調整・混合工程S1および加熱工程S3は、基本的にメカニカルフロス法と略同等であり、例えば特公昭53−8735号公報にその内容が記載されているので詳細は割愛するが、基本的には主原料であるポリオールおよびイソシアネート成分からなる2液性の原料に対して、触媒または整泡剤等の副原料を必要に応じて添加し、窒素等の造泡用気体を混合し、更にオークスミキサ等により混合攪拌することで混合原料Mを得るものである。
【0012】
原料調整・混合工程S1においては、ポリオールに所定量の発泡剤としての水を混合すると共に、イソシアネート、触媒等の副原料および造泡用気体を得るべきポリウレタンフォームに合わせて調整する各原料調整段階S11と、水が混合されたポリオールと、イソシアネートと、触媒等の副原料と、造泡用気体とを混合する混合段階S12とからなる。
【0013】
そして各原料調整段階S11における水の混合は、イソシアネートとの反応を考えて、予めポリオールに対して混合することで実施される。またイソシアネートおよび副原料が、ポリオールを基準として意図した化学量論的な量となるように調整される。イソシアネートについては、基本的にポリウレタンフォームが製造可能となるように公知のイソシアネートインデックス範囲に設定され、副原料についても公知の物質・配合組成とされる。
【0014】
この各原料調整段階S11で使用される主原料の一つであるポリオールとしては、活性水素基を有する、例えばポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオールまたはポリジエン系ポリオール等の公知のポリオールが単独でまたは2種類以上を併用した形で使用される。またイソシアネートとしては、例えばトルエンジフェニルジイソシアネート(TDI)、TDIプレポリマー、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)、クルードMDI、ポリメリックMDI、ウレトジオン変性MDIまたはカルボジイミド変性MDI等の公知の芳香族系、脂肪族系または脂環族系等の各種ポリイソシアネートを用いることができる。
【0015】
前述した低い密度と、ポリオールの種類およびイソシアネートインデックスの調整とによって、得られるポリウレタンフォームの硬度を、100〜400g/mmの範囲と、非常に柔軟な状態とすることも可能である。この硬度は、密度によって基本的に決定され、本発明に係るポリウレタンフォームはその密度が低いため、硬度もこれに伴って小さいものとなっている。そしてこの硬度を決定する他の要因として、前述したポリオールの種類と、イソシアネートインデックスとが挙げられる。ポリオールについては、例えば分子量1000〜6000, 官能基数2〜5のポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールといった物質が好適に使用され、イソシアネートインデックスについては90〜110の範囲に設定される。
【0016】
副原料のうち、化学的発泡法での役割と同様に発泡剤としての作用を果たす水としては、例えばイオン交換水、水道水または蒸留水等の通常の水が用いられる。水の混合量は、ポリオールを100質量部に対して、0.3〜1.5質量部に設定される。基本的にメカニカルフロス法における混合原料Mにおいて水(水分)が存在すると、その主原料の1つであるイソシアネートと反応して予期しない気泡が形成されてしまう。このような気泡の存在は、得られるポリウレタンフォームを、所謂セル荒れ状態としてしまうため、水の存在は可能な限り排除する必要がある。そのため理想的には、完全に乾燥されている系における発泡が望ましく、また水が存在する場合でも、その量をできる限り少なくするようにされている。これと同様に水の混合量が0.3質量部未満の場合、予め混合原料M中に存在するメカニカルフロス法による気泡と、水によって発生する気泡とが別々にセルを形成してしまうことになり、密度は低下するものの均質なセル構造とはならず、前述したセル荒れの状態となってしまう。
【0017】
一方、水の混合量が1.5質量部を越える場合、水によって発生するガス量が多くなり過ぎ、水に由来するガスがメカニカルフロス法によって混入されている気泡に入り込むことができなくなり、やはりメカニカルフロス法による気泡と、水によって発生する気泡とが別々のセルを形成して均質なセル構造とはならない。また水から発生するガスを混合原料M内に気泡として保持するための樹脂化反応が充分になされなくなるため、ガスが混合原料M内から外部へ放出されてしまい、その結果、密度の低下が阻害される。更に水の過剰な存在によって、ガスの発生だけでなくイソシアネートが反応してウレアを生成するため、硬度が高くなってしまい前述([0015])した低い硬度が達成できなくなってしまう。
【0018】
この他、この水の存在によりメカニカルフロス法により調整される混合原料Mは、その粘度が低下して流動性が高くなるため、例えば所要の内部輪郭形状を備える成形型等に原料Mを注入して反応・硬化させる、所謂モールド成形によるポリウレタンフォームの製造が容易に実施可能となっている。そして混合原料Mは、その低い流動性故に成形型内の隅々に充分行き渡るため、成形型を用いた複雑形状のポリウレタンフォームの製造も可能となっている。ここではその低い流動性を利用したモールド成形について言及しているが、その初期粘度は、後述の触媒の種類および使用量等によって適宜変更可能であるので、例えば流動しない程度の粘度としてこれをロールコーターの如き各種コーターによって厚さ調整するような連続的なシート状成形のような各種方法にも対応し得る。
【0019】
またメカニカルフロス法により調整される混合原料Mに対して、化学的発泡法を実施することで、低い密度および硬度の達成だけでなく、メカニカルフロス法によるポリウレタンフォームに較べて大きなっているセル径に由来して高い通気性も確保している。そしてこの高い通気性により、通常のメカニカルフロス法によって製造されたポリウレタンフォームに較べて、各種溶液の如き流体の含浸性が飛躍的に高まっている。そしてこの特性を利用することで、例えばカーボン水等の導電性物質といった第3成分を含有させた溶液を含浸させ、これにより本発明に係るポリウレタンフォームに対して導電性等の機能性を容易に付与することが可能となっている。このような物性、すなわちメカニカルフロス法に由来する一定以上の硬度と、化学的発泡法に由来する高い通気性による導電性物質の容易な付与性とを利用し、例えば各種潜像印刷機器のトナー供給ローラの如き製品を容易に製造し得る。
【0020】
副原料の1つである触媒については、一般的な軟質ウレタンフォームの製造に用いられるアミン系触媒と有機酸塩系触媒とが併用される。この2種類の触媒の併用は、ポリオールとイソシアネートとの反応において、発泡または成形作業に必要とされるクリームタイム(泡立ちが始まるまでの時間)を確保しつつ、かつ迅速な発泡化と、硬化とを両立させることを目的としてなされている。そして本発明においてアミン系触媒は、水の混合によってなされる化学的発泡に係るガスによって気泡を形成する泡化反応(迅速な発泡化)を主に担っており、有機酸塩系触媒は、得られるポリウレタンフォームの骨格を強固なものとする樹脂化反応(硬化)を主に担っている。
【0021】
ここでアミン系触媒としては、例えばN,N,N',N'',N''−ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、N,N−ジメチルアミノエトキシエトキシエタノール、N,N−ジメチルアミノエトキシエタノール、特殊3級アミン混合物、N,N,N',N'−テトラメチルヘキサンジアミンまたはN,N,N',N'−テトラメチルプロパンジアミン等の公知の物質が適宜選択されて採用されるが、前述したように、殊に泡化反応への寄与率が樹脂化反応の寄与率より高い物質の採用が望ましい。そして有機酸塩系触媒としては、例えば1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(DBU)や、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5(DBN)の有機酸塩からなる触媒や、この有機酸塩と金属とを結合させた有機金属系触媒等の樹脂化活性の高い触媒が好適に採用される。
【0022】
また有機酸塩系触媒においては、アミン系触媒が担う泡化反応を阻害せず、かつ確実な樹脂化を達成させるため、具体的には泡化反応の途中、すなわち気泡を形成するガスが充分に発生していない時点や、各原料を撹拌混合して得た混合原料Mが成形型内に吐出されるまでの時間内において、樹脂化に伴う粘度上昇等を起こさないように、遅延性の触媒を用いるのが望ましい。本発明においては、ポリウレタンフォームを得るために所要の加熱が必要とされるため、遅延性の触媒としては、この熱によって触媒効果を発現する、所謂感熱性触媒の利用が好ましい。
【0023】
そしてアミン系触媒の使用量は、100重量部のポリオールに対して0.1〜0.5重量部に設定される。この量が0.1重量部未満の場合、水によって発生するガスを気泡とすることが困難になり、該ガスが系外に排出されてしまい、その結果、本発明が目的とする密度およびセル径を達成しなくなってしまう。一方0.5重量部を越えると、混合原料Mの初期粘度上昇が速く起こるため流動性が悪くなる。このためモールド成形の場合、注入が困難になり、更に形成される気泡(セル)が流動時にストレスを受けるため、セルの引きずりによる変形や、ピンホールの発生が問題となる。また有機酸塩系触媒の使用量は、100重量部のポリオールに対して1.0〜10.0重量部に設定される。この量が1.0重量部未満の場合、樹脂化が阻害、すなわちポリウレタンフォームの骨格が充分に形成されなかったり、アミン系触媒の泡化作用によって気泡とされるガスをポリウレタンフォーム内に保持できなくなり、ポリウレタンフォームの骨格構造が好適に形成されなくなる。一方10.0重量部を越えると、樹脂化が急激に起こったり、早い段階から樹脂化が発現してセルがその形状を保持できなくなり、ポリウレタンフォームの骨格構造が好適に形成されなくなる。なお、アミン系触媒と有機酸塩系触媒との比率も重要な指標であり、例えばアミン触媒が少なく、かつ有機酸塩系触媒が多い場合、初期の粘度上昇が遅く、流動性は良い一方で、泡化のタイミングが悪くセル荒れが発生し易い等の問題が生じる。
【0024】
混合段階S12は、水が混合されたポリオールと、イソシアネートと、触媒等の副原料と、造泡用気体とを混合する段階である。この段階は、基本的に後述する化学的発泡工程S2と工程的に分離不可能な段階であるが、メカニカルフロス法による発泡と、化学的発泡法による発泡とを区別するため分離して扱っている。
【0025】
化学的発泡工程S2は、混合段階S12でイソシアネートと、水が混合されたポリオールとを混合することで、イソシアネートおよび水の反応によって発生する炭酸ガスを混合原料M内に気泡として保持させてセルとし、本発明に係るポリウレタンフォームとしての構造を形成させる工程である。これは触媒として、泡化反応を主になすアミン系触媒と、樹脂化反応を主になす有機酸塩系触媒とを併用することで達成される。基本的に本発明に係るポリウレタンフォームの発泡は、前述の原料調整・混合工程S1における混合段階S12で各種原料中にセルの基となる気泡を混入させることで達成されている。しかしこの状態では、メカニカルフロス法による発泡でしかないため、背景技術で説明したメカニカルフロス法で得られるポリウレタンフォームの問題を回避し得ない。そこでこのメカニカルフロス法によって混入されたガスによって形成される均質かつ微細なセルを核とし、ここに化学的発泡により発生したガスを合一することで、その径がメカニカルフロス法で得られるポリウレタンフォームのセル径よりも大きく、かつ均質、すなわちセル径の揃ったポリウレタンフォームを得るものである。なお前述のモールド成形方法を採用する場合、その注入は本化学的発泡工程S2の実施前、すなわち混合段階S12の実施後に直ぐに実施される。
【0026】
加熱工程S3は、化学的発泡工程S2を経てメカニカルフロス法で得られる均質なセル構造と、そのセルに化学的発泡法によって発生するガスが合一することで大きくなったセル径を備えるポリウレタンフォームの基となる混合原料Mに所要の加熱を行なうことで、主として樹脂化反応をなす有機酸塩系触媒の効果を発現させて混合原料Mを反応・硬化させ、前述のセル構造を有するポリウレタンフォームとする工程である。このときの加熱温度および加熱時間は、公知のメカニカルフロス法に準じ、そのポリウレタンフォームの原料に応じて適宜決定される。なお前述のモールド成形方法を採用する場合、化学的発泡の作用によりその体積が大きくなった混合原料Mは、該成形型内部輪郭形状に合致した形で加熱を施されて反応・硬化され、冷却後の該成形型からの脱型によってポリウレタンフォームが得られる。
【0027】
(実験例)
以下に、本発明に係るポリウレタンフォームを製造する際の、水および触媒についての使用量等を変化させたときに得られるポリウレタンフォームの各種物性について比較した実験例を示す。なお成形方法として、モールド成形(矩形の成形箱:寸法縦28mm×横198mm×高さ262mm)を用いた。また本発明は、この実験例に限定されるものではない。
【0028】
(実験1) 水の混合量
下記する各原料を以下に記載する表1に従って、先ずイソシアネート以外の攪拌・混合した後、イソシアネートを混合し、この混合物223gを成形箱に投入して発泡、硬化させてポリウレタンフォームを得る。そして得られたポリウレタンフォームを所要形状に加工し、実施例1−1〜1−5並びに比較例1−1および1−2の各組成に係る試験片を製造した。そして夫々の試験片について、各種物性値、すなわち密度(g/cm)、硬さ(g/mm)、セル径(μm)およぴ通気性(kPa/0.3l)を測定した。なお各物性値の測定方法等については、以下に説明する。
【0029】
(使用原料)
・ポリオール:ポリエーテルポリオール(商品名 アクトコールED−37B(数平均分子量3000);三井武田化学製)
・イソシアネート:MDI(商品名 ミリオネート MTL−S;日本ポリウレタン製)
・アミン系触媒:商品名 カオライザー No.23NP;花王製
・有機酸塩系触媒:商品名 EP73660A;PANTECHNOLOGY製
・整泡剤:直鎖ジメチルポリシロキサン(商品名 Niaxsilicone L5614;GESilicones製)
【0030】
(各物性値の測定方法)
・密度:JIS K 6400に準拠して測定した。
・硬さ:各実施例等に係るポリウレタンフォームをφ15のローラ形状に加工し、このローラの表面をφ50mmのアルミ製円板に対して押し付けることで1mm撓ませ、この際の反発力を測定し、これを硬さとした。
・セル径:加工したローラ表面を光学顕微鏡(倍率×100)で観察し、スケールによって求めた。
・通気性:φ15ローラ表面にφ5通気口を密着させ(ローラの曲率に合わせた固定冶具にセットされた)ポンプで、毎分0.3Lの空気を吸引通過させた時にかかる圧力を測定した。
【表1】

【0031】
(実験1の結果)
実験1から得られる結果を上記の表1に併記する。この表1に記載の結果から、発泡剤としての水の混合量は、ポリオール100質量部に対して、0.3〜1.5重量部であることが確認された。
【0032】
(実験2) 各触媒の使用量
実験1と同様の原料および製造方法により、下に記載する表2(表2(a)〜(i))の配合に従ってポリウレタンフォームを得る。そして得られたポリウレタンフォームを所要形状に加工し、各実験例(実験例2−a系〜2−i系:計35例)にの各組成に係る試験片を製造した。そして夫々の試験片について、成形型に混合原料Mの注入が不可能となる限界粘度に至るまでの混合原料Mの流動性と、成形されたポリウレタンフォームのセル状態、具体的には、セル径の均質性、ピンホールおよびセル荒れ等とを目視により確認し、○:良好、△:商品性に問題なし、×:問題ありで評価した。更にこれら各指標を総合的に判断して、ポリウレタンフォームとしての商品性を○:良好、△:商品性に問題なし、×:問題ありで評価した。
【表2(a)】

【表2(b)】

【表2(c)】

【表2(d)】

【表2(e)】

【表2(f)】

【表2(g)】

【表2(h)】

【表2(i)】

【表3】

【0033】
(実験2の結果)
実験2から得られる結果を上記の表2(表2(a)〜(i))に併記すると共に、表2(表2(a)〜(i))に係る結果をアミン系触媒の使用量を横軸に、有機酸塩系触媒の使用量を縦軸として、その各使用量と、前述の流動性、セル径の均質性および総合評価とを上記表3に纏め、更に一部の組成につき、成形型に混合原料Mの注入が不可能となる限界粘度に至るまでの、各原料混合後に掛かる時間(sec;以下、単に限界粘度到達時間と云う)を併記した。なお、表3において総合評価が○または△の部分については、一見して分かるように線によって囲むようにした。これら表2および表3に記載の結果から、アミン系触媒の使用量は100重量部のポリオールに対して0.1〜0.5重量部に、有機酸塩系触媒の使用量は100重量部のポリオールに対して1.0〜10.0重量部に夫々設定することで好適なポリウレタンフォームが製造可能であることが確認された。またアミン系触媒の使用量が0.3重量部と多い場合には、良好な結果が得られる領域が有機酸塩系触媒の使用量が1.0〜4.0重量部のより少ない領域にシフトし、反対に0.2重量部以下の場合には、良好な結果が得られる領域が有機酸塩系触媒の使用量が2.0〜10.0重量部のより多い領域にシフトする傾向が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0034】
これまでメカニカルフロス法や化学的発泡法で製造されるポリウレタンフォームでは達成が困難であった物性値、具体的には細かい径のセルが高い均質性をもって形成されると共に、密度が小さなポリウレタンフォームが製造可能となるため、高い柔軟性と、細かなセル径とが要求される、例えばトナー供給ローラ等の素材を好適に提供し得る。また本発明に係るポリウレタンフォームはその通気性が、メカニカルフロス法によって製造されるポリウレタンフォームに較べて通気性が高いため、これを利用して、例えば導電性物質を含有させた溶液を含浸等させることで、トナー供給ローラに対して導電性等の機能性を付与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の好適な実施例に係るポリウレタンフォームの製造方法を示す工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカニカルフロス法により、主原料であるポリオールおよびイソシアネートと、触媒等の副原料と、造泡用気体とを混合して得たポリウレタンフォームにおいて、
その密度が0.075〜0.200g/cmの範囲にあり、セル径が180〜500μmの範囲にある
ことを特徴するポリウレタンフォーム。
【請求項2】
前記ポリオール100重量部に対して、発泡剤としての水が0.3〜1.5重量部混合されている請求項1記載のポリウレタンフォーム。
【請求項3】
前記触媒として、アミン系触媒と有機酸塩系触媒とが併用される請求項1または2記載のポリウレタンフォーム。
【請求項4】
前記アミン系触媒の使用量は、100重量部のポリオールに対して0.1〜0.5重量部に設定される請求項3記載のポリウレタンフォーム。
【請求項5】
前記有機酸塩系触媒の使用量は、100重量部のポリオールに対して1.0〜10.0重量部に設定される請求項3記載のポリウレタンフォーム。
【請求項6】
前記有機酸塩系触媒として、遅延性を発現する感熱性触媒が使用される請求項3〜5の何れかに記載のポリウレタンフォーム。
【請求項7】
前記ポリオールとして、分子量500〜6000、官能基数2〜5のポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールを使用し、かつイソシアネートインデックスを90〜110の範囲に設定することで、その硬度が100〜400g/mmの範囲とされている請求項1記載のポリウレタンフォーム。
【請求項8】
製造されたポリウレタンフォームを所要の形状に加工することで、各種潜像印刷機器のトナー供給ローラとして使用される請求項1〜7の何れかに記載のポリウレタンフォーム。
【請求項9】
メカニカルフロス法により、主原料であるポリオールおよびイソシアネートと、触媒等の副原料と、造泡用気体とを混合するようにしたポリウレタンフォームの製造方法において、
前記ポリオールに対して発泡剤としての水を混合させた後に、イソシアネートと混合・反応させると共に、前記触媒として有機酸塩系触媒とアミン系触媒とを併用することで、
その密度を0.075〜0.200g/cmの範囲とし、セル径を180〜500μmの範囲とするようにした
ことを特徴とするポリウレタンフォームの製造方法。
【請求項10】
前記水は、100重量部のポリオールに対して0.3〜1.5重量部混合される請求項9記載のポリウレタンフォームの製造方法。
【請求項11】
前記アミン系触媒は、100重量部のポリオールに対して0.1〜0.5重量部使用される請求項9または10記載のポリウレタンフォームの製造方法。
【請求項12】
前記有機酸塩系触媒は、100重量部のポリオールに対して1.0〜10.0重量部使用される請求項9または10記載のポリウレタンフォームの製造方法。
【請求項13】
前記主原料、副原料および造泡用気体からなる混合原料(M)は、所要形状の成形型中に注入されることで成形される請求項9〜12の何れかに記載のポリウレタンフォームの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−8779(P2006−8779A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−185577(P2004−185577)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】