説明

ポリウレタンモノフィラメント

【課題】生地同士の良好な熱接着性を発現し、かつ熱接着加工後の強度特性が良好なポリウレタンモノフィラメントの提供。
【解決手段】フローテスターで測定したときの溶出開始温度として定義される融点が100℃以上、160℃未満であることを特徴とするポリウレタンモノフィラメントを提供する。該ポリウレタンモノフィラメントは、有機ポリイソシアネート化合物と特定構造単位からなるポリアルキレンエーテルジオール化合物とを反応させて得た構造を含有する熱可塑性ポリウレタンからなることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレッチ生地の曲線状部分等の熱接着性に優れ、かつ熱接着加工後に良好な強度特性を付与できる熱接着用のポリウレタンモノフィラメントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生地の端部処理や生地同士の接合において縫製を行わず熱接着フィルムで接合する無縫製衣料が開発されている(特許文献1,2)。このような衣料では、接合面がフラットになることにより、衣服に柔軟性が付与され肌当たりがよくなるなどの効果が得られる。
【0003】
上記の熱接着フィルムの例としては、ポリウレタン系、ポリアミド系、ポリエステル系、ポリエチレン系、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル共重合体、エチレン−アタクチックポリプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル系、ポリ酢酸ビニル系およびアクリル系等が挙げられるが、伸縮性、耐寒性、耐水性や縫い目付近のソフト感を保つためにはポリウレタン系のフィルムが優れている。
【0004】
通常、熱接着フィルムはテープ状にスリット加工され、生地の熱接着に使用されるが、肩口や襟ぐりなどの曲線部分で、テープ形状では曲線状に折り曲げるのが難しく、生地の熱接着加工での作業性に問題があった。
【0005】
また、熱接着フィルムは、力学特性において一層の改良が望まれている。例えば、下着、肌着、水着およびレオタード等のスポーツウエアなどのストレッチ性のある生地どうしの接合においては、衣服着用時の生地の伸び縮みに対して、熱接着フィルムも一緒に伸び縮みする必要がある。また、伸びに対して十分な強度が必要である。
【0006】
ストレッチ性を有し、かつ熱接着性を発現するためには、低融点ポリウレタンが好適である。低融点のポリウレタンについては公知である(特許文献3)が、このような低融点ポリウレタンを用いた場合でも低温接着性、強度が十分ではないという問題がある。
【0007】
一方、ポリウレタンモノフィラメントは公知である。100デニール以上の高繊度のモノフィラメントの弾性特性を向上させるため、熱可塑性ポリウレタンに架橋剤を混合し溶融紡糸する製造方法(特許文献4)や、同じく粘着性を低減し弾性特性を向上させるために架橋剤を混合する方法(特許文献5)や、融点が165〜200℃で熱融着力を有するポリウレタン弾性繊維に関する技術(特許文献6)などが開示されている。
【0008】
しかし、熱接着性と熱接着加工後の強度特性とに優れ、無縫製衣料用として好適なポリウレタンモノフィラメントに関する技術は提案されていない。
【0009】
【特許文献1】特開2006−2326号公報
【特許文献2】実用新案登録第3131864号公報
【特許文献3】特公昭63−15292号公報
【特許文献4】特表2007−521415号公報
【特許文献5】特開平6−294012号公報
【特許文献6】特開2006−307409号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、生地同士の良好な熱接着性を発現し、かつ熱接着加工後の強度特性が良好なポリウレタンモノフィラメントを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は下記の通りである。
【0012】
[1] フローテスターで測定したときの溶出開始温度として定義される融点が100℃以上、160℃未満であることを特徴とするポリウレタンモノフィラメント。
【0013】
[2] TMAで測定したときの軟化温度が70℃以上、110℃未満である、上記[1]に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【0014】
[3] 下記の化合物:
(i)有機ポリイソシアネート化合物と;
(ii)下記の構造単位(A)
【化1】

および、下記の構造単位(B)
【化2】

からなり、かつ下記式(1)、
0.08≦M/(M+M)≦0.85 (1)
(但し、MおよびMは、それぞれポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)および構造単位(B)のモル数である)を満足する、分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物と;
を反応させて得られた構造を含有する熱可塑性ポリウレタンからなる、上記[1]または[2]に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【0015】
[4] 前記熱可塑性ポリウレタンが、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物からなる鎖延長剤に由来する構造をさらに含有する、上記[3]に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【0016】
[5] 前記イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物がジオール類である、上記[4]に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【0017】
[6] 化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物の、化合物(i)の有機ポリイソシアネート化合物に対する当量比が、(ii):(i)=1:1.3〜1:2.5である、上記[5]に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【0018】
[7] 破断強度が0.2cN/dt以上である、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のポリウレタンモノフィラメント。
【0019】
[8] 繊度が500dt以上、20,000dt未満である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載のポリウレタンモノフィラメント。
【0020】
[9] 楕円率が70%以上である、上記[1]〜[8]のいずれかに記載のポリウレタンモノフィラメント。
【0021】
[10] 溶融紡糸法により製造されてなる、上記[1]〜[9]のいずれかに記載のポリウレタンモノフィラメント。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ストレッチ生地等の熱接着において特に曲線部分の熱接着加工が容易で、かつ生地の伸縮に追従し強度特性も十分な熱接着用のポリウレタンモノフィラメントが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明のポリウレタンモノフィラメントは、フローテスターで測定したときの溶出開始温度として定義される融点が100℃以上、160℃未満であることを特徴とする。本発明のポリウレタンモノフィラメントは、低融点であることにより生地の風合い悪化および劣化を回避しつつ良好な熱接着性を発現でき、またモノフィラメント形状であることにより熱接着加工後の熱接着部分に良好な強度特性を付与する。上記融点は、105℃以上、150℃未満であることが好ましく、110℃以上、140℃未満であることがさらに好ましい。融点が100℃未満であると耐熱性が実用上低すぎるなどの問題があり、融点が160℃以上であると、熱接着加工を160℃以上の高温で行うことが必要で、共用する繊維の風合いを硬くしたり劣化を引き起こす。また、アイロンもしくは熱接着プレスの温度を高く維持する必要があり工業上経済的ではない。本発明のポリウレタンモノフィラメントの融点以上の熱接着加工温度で生地を接着することで、実用に十分な熱接着剥離応力が得られる。
【0024】
本発明のポリウレタンモノフィラメントの融点(溶出開始温度)はフロー温度法により測定する。具体的には、フローテスター(例えば、島津フローテスターCFT−500D形((株)島津製作所製))を使用し、サンプル量1.5g、ダイ(ノズル)の直径0.5mm、厚み1.0mmとして30kgfの押出荷重を加え、初期設定温度100℃で予熱時間240秒の後、3℃/分の速度で等速昇温したときに描かれるプランジャーストローク−温度曲線を求める。等速昇温されるにしたがい、サンプルは徐々に加熱され、ポリマーが流出し始める。この流出し始める温度を融点(溶出開始温度)と定義する。具体的には、図1に示すように、プランジャーストローク−温度曲線の融点直前で傾きが最小となる点における接線と立ち上がり部の接線との交点から求められる温度を溶出開始温度とする。
【0025】
本発明のポリウレタンモノフィラメントは、TMA(熱機械分析)で測定した軟化温度が70℃以上、110℃未満であることが好ましい。上記軟化温度は、72℃以上、105℃未満であることがより好ましく、75℃以上、100℃未満であることがさらに好ましい。軟化温度が70℃未満であると一般的な温水洗濯で熱接着力が低下しやすく生地の接合が外れやすい傾向がある。軟化温度が110℃以上であると熱接着加工における予熱が必要となるなど加工性が低下する傾向がある。
【0026】
TMA(熱機械分析)による軟化温度の測定は、具体的には、TMA装置(例えば、セイコーインスツルメント社製TMA(SS120型))を使用し、測定モードは、引張り測定L制御モード、サンプル初期長を20mmとし0.5%伸長し測定することで行う。昇温速度は、20℃/分とし、熱応力−温度曲線から軟化温度を求める。具体的には、図2に示すように熱応力−温度曲線のピーク温度を軟化温度とする。
【0027】
本発明のポリウレタンモノフィラメントは、より典型的には、下記の化合物(i)と(ii)とを反応させて得られた構造を含有する熱可塑性ポリウレタンからなることができる。
(i)有機ポリイソシアネート化合物、
(ii)下記の構造単位(A)
【化3】

および、下記の構造単位(B)
【化4】

からなり、かつ下記式(1)を満足する、分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物。
0.08≦M/(M+M)≦0.85 (1)
(但し、MおよびMは、それぞれ、上記ポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)および(B)のモル数である)
【0028】
上記化合物(i)の有機ポリイソシアネート化合物としては、分子内に少なくとも2個以上のイソシアネート基を有する化合物、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−フェニルイソシアネート)、メチレン−ビス(3−メチル−4−フェニルイソシアネート)、2,4−トリレンジイソシアネート、2、6−トリレンジイソシアネート、m−またはp−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチル−キシリレンジイソシアネート、m−またはp−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジメチル−1,3−キシリレンジイソシアネート、1−アルキルフェニレン−2,4または2,6−ジイソシアネート、3−(α−イソシアネートエチル)フェニルイソシアネート、2,6−ジエチルフェニレン−1,4−ジイソシアネート、ジフェニル−ジメチルメタン−4,4−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレン−ビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、1,3−または1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートおよびイソフォロンジイソシアネート等が挙げられる。これらは単独または2種以上の組合せで使用できる。
【0029】
上記化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物は、上記の構造単位(A)と構造単位(B)とからなり、かつ上記の式(1)式で規定するように、構造単位(B)からなるセグメント、すなわち側鎖にメチル基を持つセグメントを、構造単位(A)と構造単位(B)とのモル数の合計の8モル%以上かつ85モル%以下で含む。側鎖にメチル基を持つセグメントが8モル%以上85モル%以下である場合種々の弾性機能、例えば破断強度に特に優れた熱接着用のポリウレタンフィルムが好適に得られる。より好ましくは、下記式(2)で示す範囲である。
0.09≦M/(M+M)≦0.45 (2)
(式(2)中、MおよびMは前述の式(1)において説明したのと同じ意味である)
【0030】
化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物は、例えば、THF(テトラヒドロフラン)とネオペンチルグリコールまたはそれらの脱水環状低分子化合物、例えば、3,3−ジメチルオキセタンとを、特開昭61−123628号公報に記載の方法に従って、水和数を制御したヘテロポリ酸を触媒として反応させることにより製造できる。得られる共重合ジオールは、所定の分子量、共重合成分構成および共重合比となるように、反応の方法および条件を種々変えることによって容易に製造できる。
【0031】
該ポリアルキレンエーテルジオール化合物を構成するネオペンチル単位は、テトラメチレン単位に対してランダム状またはブロック状のいずれで分布していてもよく、ヘテロポリ酸触媒を用いた反応ではブロック状またはランダム状いずれにも分布させることができ、得られるアルキレンエーテルジオール化合物の結晶性を種々効果的に変えることが可能であり、本発明のポリウレタンモノフィラメントの所望の特性に合わせて種々の結晶性を持つジオールを製造することができる。
【0032】
化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物の数平均分子量は300〜30,000であることが好ましく、より好ましくは500〜5,000で、さらに好ましくは900〜2,000である。数平均分子量が300より小さいと軟化温度が高くなる傾向がある。また、数平均分子量が30,000より大きいとモノフィラメントの破断強度が低くなる傾向がある。
【0033】
なお本明細書で言及する数平均分子量の値は、JIS K1557−1:2007より求めた水酸基価から算出された値である。
【0034】
本発明においては、上記化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物の他のジオールとして、例えば数平均分子量250〜20,000程度のジオール、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールおよびポリオキシペンタメチレングリコール等のホモポリエーテルジオール、炭素原子数2から6の2種以上のオキシアルキレンから構成される共重合ポリエーテルジオール、アジピン酸、セバチン酸、マレイン酸、イタコン酸、アゼライン酸およびマロン酸等の二塩基酸の1種または2種以上とエチレングリコール、1,2ープロピレングリコール,1,3ープロピレングリコール,2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール,1,4ーブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサンおよび1,4−ジメチロールシクロヘキサン等のグリコールの1種または2種以上とから得られたポリエステルジオール、ポリエステルアミドジオール、ポリエステルエーテルジオール、ポリ−ε−カプロラクトンジオールおよびポリバレロラクトンジオール等のポリラクトンジオール、ポリカーボネートジオール、ポリアクリルジオール、ポリチオエーテルジオールもしくはポリチオエステルジオール、またはこれらジオールの共重合物等の1種または2種以上を任意の割合で混合すること等により併用できる。
【0035】
化合物(i)と(ii)とを反応させて得られた構造を含有する前述の熱可塑性ポリウレタンは、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物(以下、化合物(iii)ともいう)からなる鎖延長剤を更に用いて合成してもよい。この場合、熱可塑性ポリウレタンは上記鎖延長剤に由来する構造をさらに含有する。
【0036】
化合物(iii)の、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物としては、例えば、(イ)低分子量のジオール類、例えばエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、1,10−デカンジオール、1,3−ジメチロールシクロヘキサンまたは1,4−ジメチロールシクロヘキサンヒドラジン、(ロ)炭素原子数2〜10の直鎖または分岐した脂肪族、脂環族または芳香族の活性水素を有するアミノ基を持つ化合物で例えばエチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、カルボジヒドラジド、アジペン酸ジヒドラジドまたはセバシン酸ジヒドラジド、(ハ)1官能性アミノ化合物、例えば第2級アミン、すなわちジメチルアミン、メチルエチルアミン、ジエチルアミン、メチル−n−プロピルアミン、メチル−イソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、メチル−n−ブチルアミン、メチル−イソブチルアミンまたはメチルイソアミルアミン、(ニ)水、(ホ)上記化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物のうち化合物(i)と反応していないもの、(ヘ)公知の数平均分子量250〜5,000程度のジオール類および(ト)一価のアルコール類等を、単独または2種以上の組合せで使用できる。好ましくはジオール類であり、特に1,4−ブタンジオールおよび/または炭素原子数が4〜8のジアルキレングリコールがさらに好ましい。
【0037】
上記化合物(i)と化合物(ii)とのポリウレタン化反応の操作に関しては、公知のポリウレタン化反応の技術を採用できる。例えば、化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物と化合物(i)の有機ポリイソシアネート化合物との当量比が、1:1.1〜1:3.0である、化合物(i)の有機ポリイソシアネート化合物過剰の条件下での反応により、ウレタンプレポリマーを合成した後、該プレポリマー中のイソシアネート基に対して、化合物(iii)の、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物を添加し、反応させることができる。または、化合物(i)の有機ポリイソシアネート化合物、化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物および化合物(iii)のイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物を同時に1段で反応させるワンショット重合法でも反応させることができる。
【0038】
化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物の、化合物(i)の有機ポリイソシアネート化合物に対する当量比は、小さい方が融点が低くなるため1:1.3〜1:2.5が好ましく、より好ましくは1:1.5〜1:2.3、さらに好ましくは、1:1.75〜1:2.1である。
【0039】
また、化合物(i)の有機ポリイソシアネート化合物が有するイソシアネート基は、化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物が有する水酸基と、化合物(iii)のイソシアネート基と反応する活性水素含有化合物が有する活性水素との合計と概ね当量になるようにすることが好ましい。なお本発明においては、イソシアネート化合物や多官能性ジオール等の添加による後架橋は、得られるポリウレタンの融点が高くなるため行わない方がより好ましい。
【0040】
上記のポリウレタン化反応においては、必要に応じ、触媒および安定剤等を添加することができる。触媒としては例えば、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジブチル錫ジラウレートおよびオクチル酸第一錫等が挙げられ、安定剤としては、ポリウレタン樹脂に通常用いられる他の化合物、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、耐ガス安定剤、帯電防止剤、着色剤、艶消し剤、膠着防止剤および充填剤等がある。
【0041】
上記のようにして得られた熱可塑性ポリウレタンは、例えば公知の溶融紡糸法によりモノフィラメントにすることが可能である。熱可塑性ポリウレタンを押出機により溶融し、ギアポンプで定量的にノズルより押出す。ノズルから押出しされた溶融ポリウレタンを凝固させるために、空気または水で冷却する。デニール数の大きいモノフィラメントを製造する場合では、水で冷却する方法が一般的である。凝固したモノフィラメントは、ドラフトを受けながら巻き取られるが、その過程で融点以下の温度で延伸することにより破断強度を向上させることができる。また、延伸を受けたモノフィラメントには、分子の配向による分子間のひずみを取り除いて安定化させるために融点以下の適切な温度で熱処理を行うことができる。
【0042】
本発明のポリウレタンモノフィラメントは、破断強度が0.2cN/dt以上であることが好ましく、0.25cN/dt以上であることがより好ましく、0.3cN/dt以上であることがさらに好ましい。破断強度が0.2cN/dtより低いと、生地の接着に十分な熱接着剥離強度を得るのが難しい傾向がある。破断強度は、具体的には、引張試験機(例えば、オリエンテック(株)製商品名UTM−III 100型)を使用し、20℃の条件下で、長さ5cmの試験片を50cm/分の速度で破断するまで測定する。
【0043】
本発明のポリウレタンモノフィラメントは、繊度が500dt以上、20,000dt未満であることが好ましく、600dt以上、10,000dt未満であることがより好ましく、1,000dt以上、8,000dt未満であることがさらに好ましい。繊度が500dtより低いと生地の接着に十分な熱接着剥離強度を得るのが難しい傾向がある。繊度が20,000dt以上では、肩口や襟ぐりなどの曲線部分で、曲線状に折り曲げるのが難しい傾向があり、また、でこぼこのないように押しつぶすためにより大きな圧力を必要とする傾向がある。
【0044】
本発明のポリウレタンモノフィラメントは、楕円率が70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。曲線部分の熱接着加工を行う時、楕円率が小さいモノフィラメントでは、途中でねじれが発生し接着生地にでこぼこができやすい傾向がある。なおここでいう楕円率とは、モノフィラメントの断面の長径(A)と短径(B)との比、B/A×100(%)である。
【実施例】
【0045】
本発明を以下の実施例で更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。実施例および比較例における測定値は、下記の測定法により求めたものである。
【0046】
[融点(溶出開始温度)]
島津フローテスターCFT−500D形((株)島津製作所製)を使用し、サンプル量1.5g、ダイ(ノズル)の直径0.5mm、厚み1.0mmとして30kgfの押出荷重を加え、初期設定温度100℃で予熱時間240秒の後、3℃/分の速度で等速昇温して測定した。
【0047】
[軟化温度]
セイコーインスツルメント社製TMA(SS120型)を使用し、測定モードは、引張り測定L制御モード、サンプル初期長を20mmとし0.5%伸長して測定した。
【0048】
[熱接着剥離応力]
モノフィラメントを、長さ15cmの試験片とした。この試験片を2枚のナイロン2Way生地に挟み、大阪アサヒ(株)アサヒ試験用プレス機 No.OA350型で、130℃の温度および2kgf/cmの圧力で10秒間熱プレスした後、試験片とナイロン2Way生地とを引き剥がす際の最大応力を測定した。最大応力は、引張試験機(オリエンテック(株)製商品名UTM−III 100型)を使用し、20℃65%RHの条件下で試験片を100mm/分の速度で引張ることにより測定した。
【0049】
[破断強度]
引張試験機(オリエンテック(株)製商品名UTM−III 100型)を使用し、20℃の条件下で、長さ5cmの試験片を50cm/分の速度で破断するまで測定した。
【0050】
[MFR(メルトフローレート)(JIS K 7210(1995)に準拠)の測定]
東洋精機製作所社製メルトインデクサーS−101型で、190℃、荷重2.16kgで実施した。
【0051】
[実施例1]
化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物として旭化成せんい株式会社製PTXGを使用した。PTXGの分子量は1800であり、前述の式(1)における共重合組成M/(M+M)は0.1であった。PTXG140kgと、化合物(i)としての4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート38.94kgを、窒素ガス気流下80℃において180分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを急速に30℃まで冷却した。このポリウレタンプレポリマーに、酸化防止剤としてアデカ製AO−60を0.9kg、黄変防止剤としてアデカ製LA−36を0.9kg撹拌混合した。
【0052】
化合物(iii)として1,4−ブタンジオール3.5kgを前記ポリウレタンプレポリマーに添加して15分間攪拌した後、テフロン(登録商標)トレイに払い出し、テフロン(登録商標)トレイごと、130℃の熱風オーブン中で3時間、80℃で2時間アニーリングしてポリウレタン樹脂を得た。このポリウレタン樹脂は、MFRが12であり熱可塑性の特性を有していた。
【0053】
このポリウレタン樹脂を、ホーライ社製粉砕機UG−280型にて、3mm程度の粉末に粉砕した。得られた粉末ポリウレタン樹脂を、日本製鋼所製50mmφ押出機にて230g/分で溶融押出し、孔径2.4mmφ、10ホールのノズルから紡糸した。ノズル直下30cmに配置した、15℃に冷却した水浴によりモノフィラメントを連続的に冷却し、ゴデットロールにより3倍のドラフトをかけた。さらに80℃のホットロールでオンライン熱処理し、速度60m/分で巻取ってポリウレタンモノフィラメントを得た。
【0054】
このポリウレタンモノフィラメントのリラックス後の繊度は4180dtであった。20℃における破断強度は1738cNであった。また、顕微鏡観察により求めた断面の楕円率は90%で良好であった。また、このモノフィラメントの軟化温度を、TMA(熱機械分析)装置で測定したところ、82.4℃であり実用上問題ないものであった。
【0055】
このポリウレタンモノフィラメントを、上記粉砕機を用いて粒径3mm程度の粉末に粉砕した。フローテスターにて測定した該粉末の融点(溶出開始温度)は、130℃であり、熱接着用途に適した物性を示した。
【0056】
[実施例2]
実施例1で得たポリウレタンモノフィラメントの熱接着剥離応力を前述の方法で測定したところ、438gfで実用上問題ない強さであった。このポリウレタンモノフィラメントを、綿丸編シャツの肩口部分に、生地に挟み込むように130℃で熱接着した。曲線部分に合わせた熱接着加工が可能で、生地の収縮やでこぼこも起こらなかった。このシャツを一週間毎日着用し洗濯を繰り返したが、生地の剥がれは発生せず熱接着性は良好であった。
【0057】
[比較例1]
ポリアルキレンエーテルジオールとして旭化成せんい株式会社製のポリテトラメチレンエーテルグリコール PTMG1,000を使用した。当該PTMG140kgおよび4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート49.06kgを、窒素ガス気流下80℃において180分間攪拌しつつ反応させて、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタンプレポリマーを得た。ついで、これを30℃まで冷却した。このプレポリマーに酸化防止剤としてアデカ製AO−60を0.9kg、黄変防止剤としてアデカ製LA−36を0.9kg撹拌混合した。
【0058】
1,4−ブタンジオール、5.04kgを前記ポリウレタンプレポリマーに添加して15分間攪拌した後、テフロン(登録商標)トレイに払い出し、テフロン(登録商標)トレイごと、130℃の熱風オーブン中で3時間、80℃で2時間アニーリングしてポリウレタン樹脂を得た。このポリウレタン樹脂は、MFRが9.0であり熱可塑性の特性を有していた。
【0059】
このポリウレタン樹脂を、ホーライ社製粉砕機UG−280型にて、3mm程度の粉末に粉砕した。得られた粉末ポリウレタン樹脂を、日本製鋼所製50mmφ押出機にて230g/分で溶融押出し、孔径2.4mmφ、10ホールのノズルから紡糸した。ノズル直下30cmに配置した、15℃に冷却した水浴によりモノフィラメントを連続的に冷却し、ゴデットロールにより3倍のドラフトをかけた。さらに80℃のホットロールでオンライン熱処理し、速度60m/分で巻取ってポリウレタンモノフィラメントを得た。
【0060】
このポリウレタンモノフィラメントのリラックス後の繊度は4200dtであった。20℃における破断強度は2500cNで良好であったが、破断伸度が150%しかなく堅いものであった。また、顕微鏡観察により求めた断面の楕円率は92%で良好であった。また、このポリウレタンモノフィラメントの軟化温度をTMAで測定したところ、115℃であり熱接着加工において堅いものであった。
【0061】
このポリウレタンモノフィラメントを、上記粉砕機を用いて粒径3mm程度の粉末に粉砕した。フローテスターにて測定した該粉末の融点(溶出開始温度)は、170℃であり、熱接着用途に適した物性ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のポリウレタンモノフィラメントは、熱接着性を有し、且つ、弾性機能が良好であるため、このモノフィラメントを肩口などの曲線を持つ生地の熱接着用途として使用すると、低温での熱接着加工が可能で、曲線に沿ったフラットな接合面が得られるため審美的に美しい無縫製衣料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明における溶出開始温度について説明する図である。
【図2】本発明における軟化温度について説明する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローテスターで測定したときの溶出開始温度として定義される融点が100℃以上、160℃未満であることを特徴とするポリウレタンモノフィラメント。
【請求項2】
TMAで測定したときの軟化温度が70℃以上、110℃未満である、請求項1に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【請求項3】
下記の化合物:
(i)有機ポリイソシアネート化合物と;
(ii)下記の構造単位(A)
【化1】

および、下記の構造単位(B)
【化2】

からなり、かつ下記式(1)、
0.08≦M/(M+M)≦0.85 (1)
(但し、MおよびMは、それぞれポリアルキレンエーテルジオール化合物中に存在する構造単位(A)および構造単位(B)のモル数である)を満足する、分子量が300〜30,000のポリアルキレンエーテルジオール化合物と;
を反応させて得られた構造を含有する熱可塑性ポリウレタンからなる、請求項1または2に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【請求項4】
前記熱可塑性ポリウレタンが、イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物からなる鎖延長剤に由来する構造をさらに含有する、請求項3に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【請求項5】
前記イソシアネート基と反応する活性水素含有化合物がジオール類である、請求項4に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【請求項6】
化合物(ii)のポリアルキレンエーテルジオール化合物の、化合物(i)の有機ポリイソシアネート化合物に対する当量比が、(ii):(i)=1:1.3〜1:2.5である、請求項5に記載のポリウレタンモノフィラメント。
【請求項7】
破断強度が0.2cN/dt以上である、請求項1〜6のいずれかに記載のポリウレタンモノフィラメント。
【請求項8】
繊度が500dt以上、20,000dt未満である、請求項1〜7のいずれかに記載のポリウレタンモノフィラメント。
【請求項9】
楕円率が70%以上である、請求項1〜8のいずれかに記載のポリウレタンモノフィラメント。
【請求項10】
溶融紡糸法により製造されてなる、請求項1〜9のいずれかに記載のポリウレタンモノフィラメント。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−47884(P2010−47884A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215579(P2008−215579)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】