説明

ポリウレタン発泡体組成物およびこれを用いて製造したポリウレタン発泡体

【課題】ポリオール;ポリイソシアネート;触媒;整泡剤;発泡剤;およびフッ素化カーボネートを含むポリウレタン発泡体組成物を開示し、環境に親和的でありながらも断熱性に優れたポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】ポリオールと、ポリイソシアネートと、触媒と、整泡剤と、発泡剤と、特定のフッ素化カーボネートとを含む、ポリウレタン発泡体組成物であって、前記フッ素化カーボネートが、下記化学式(1)で表される化合物、又は化学式[R−OCOO−R]で表される化合物、あるいは、これらの混合物である、ポリウレタン発泡体組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境に親和的なポリウレタン断熱材を製造できるポリウレタン発泡体組成物およびこれを用いて製造したポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン発泡体は、それ自体の有する断熱性、軽量性、緩衝性などの性質を活用し、単独またはその他の材料と複合化して、断熱材、軽量構造材、緩衝材などとして広範に使用されている。特に、硬質ポリウレタン発泡体は、実用的な断熱材のうち最も低い熱伝導率、すなわち優れた断熱性を有することにより、冷蔵庫用断熱材、建築用断熱材や、高い断熱度が求められる電子製品などに広く使用されている。
【0003】
最近、このようなポリウレタン発泡体の熱伝導度(k−factor)をより小さくするため、様々な努力が試みられている。例えば、ポリウレタン発泡体を構成する各セルの大きさを小さくして熱伝導度を小さくする試みが行われている。この試みは、輻射による熱伝導が抑制されて熱伝導度が低くなり、これによって断熱性が向上することに起因するものである。
【0004】
また、最近では、環境に親和的なポリウレタン発泡体に対する開発が求められている。従来のポリウレタン発泡体は、クロロフルオロカーボン(CFC)系物質を用いて製造されていたが、前記クロロフルオロカーボン系物質は、大気中のオゾン層を破壊して温室効果をもたらす環境破壊物質として規定され、その使用が全面規制されている。
【0005】
したがって、環境に優しいながらも断熱性に優れたポリウレタン発泡体に対する開発が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国特許出願公開第2004−87601号明細書
【特許文献2】韓国特許出願公開第2001−32761号明細書
【特許文献3】韓国特許出願公開第1997−7007194号明細書
【特許文献4】韓国特許出願公開第1995−7003013号明細書
【特許文献5】韓国特許出願公開第2004−12556号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明はこのような問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、環境に親和的であり、断熱性に優れたポリウレタン発泡体組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、前記ポリウレタン発泡体組成物を用いて製造した断熱性に優れたポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の第1は、ポリオールと、ポリイソシアネートと、触媒と、整泡剤と、発泡剤と、フッ素化カーボネートと、を含む、ポリウレタン発泡体組成物であって、前記フッ素化カーボネートが、下記化学式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
上記化学式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のC〜C30の環状アルキル基、または、置換もしくは非置換のC〜C30の芳香族基であり、この際、R〜Rの少なくとも1つは、フッ素原子または置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基であり、前記R〜Rの置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基である、で表される化合物、または、下記化学式(2):
【0012】
【化2】

【0013】
上記化学式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のC〜C30の環状アルキル基、または、置換もしくは非置換のC〜C30の芳香族基であり、この際、RおよびRの少なくとも1つは、フッ素原子または置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基であり、前記RおよびRの置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基である、で表される化合物、あるいは、これらの混合物である、ポリウレタン発泡体組成物である。
【0014】
また、本発明の第2は、かかるポリウレタン発泡体組成物を用いて製造されてなるポリウレタン発泡体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明による発泡体は、環境に優しいながらも断熱性に優れ、多様な用途の断熱材として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の一実施形態により製造したポリウレタン発泡体内の熱伝導を説明するための概念図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1において製造したポリウレタン発泡体のH NMRチャートである。
【図3】図3は、本発明の実施例1および比較例5において製造したポリウレタン発泡体のTGA分析結果である。
【図4】図4は、本発明の実施例1において製造したポリウレタン発泡体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】図5は、本発明の比較例5により製造したポリウレタン発泡体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】図6は、本発明の実験例4による示差走査型熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)分析結果を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明の実施例および比較例において製造されたポリウレタン発泡体の熱伝導度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0018】
本発明の第1は、ポリオールと、ポリイソシアネートと、触媒と、整泡剤と、発泡剤と、フッ素化カーボネートと、を含む、ポリウレタン発泡体組成物であって、前記フッ素化カーボネートが、下記化学式(1):
【0019】
【化3】

【0020】
上記化学式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のC〜C30の環状アルキル基、または、置換もしくは非置換のC〜C30の芳香族基であり、この際、R〜Rの少なくとも1つは、フッ素原子または置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基であり、前記R〜Rの置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基である、で表される化合物、または、下記化学式(2):
【0021】
【化4】

【0022】
上記化学式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のC〜C30の環状アルキル基、または、置換もしくは非置換のC〜C30の芳香族基であり、この際、RおよびRの少なくとも1つは、フッ素原子または置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基であり、前記RおよびRの置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基である、で表される化合物、あるいは、これらの混合物である、ポリウレタン発泡体組成物である。
【0023】
本明細書中、「置換もしくは非置換の」との用語があるが、この用語は、「置換されていても、置換されていなくてもよい」と同義である。置換されてもよい場合の置換基としては、特に断りのない限り、水素原子が、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基で置換されたことを意味する。
【0024】
上記C〜C30の芳香族基は、複素環を含んでもよく、その場合には、F、N、O、PおよびSの少なくとも一種を含む複素環であり得る。
【0025】
本発明によるポリウレタン発泡体組成物は、ポリオール;ポリイソシアネート;触媒;整泡剤;発泡剤;およびフッ素化カーボネートを含む。
【0026】
一般に、ポリウレタン発泡体内の熱伝導は、下記式(1)で表される。
【0027】
【数1】

【0028】
λ:独立気泡内部の空気対流またはその他の気体による熱伝導(gasconductivity)を示す気相の熱伝導度
λ:ポリウレタン高分子の固相部分による直接的な熱伝導(solidconductivity)を示すマトリックスの熱伝導度
λ:発泡体内部(cell wall、cell window)を通した輻射による熱伝導(radiation conductivity)を示す輻射の熱伝導度
本発明においては、上記の熱伝導因子を調節してポリウレタン発泡体の断熱性を向上することができる。具体的には、ポリオールは極性を示し、その反面、フッ素化カーボネートはフッ素の置換によって非極性の傾向を示す。このようなフッ素化カーボネートとポリオールとの混和性の差により、すなわち、フッ素化カーボネートとポリオールとが極性が違うために互いに混じりにくいことにより、初期反応の際に多くの微細気泡の核が形成される。微細気泡の核が形成されるのは、表面張力の低いフッ素化カーボネートが外部からの強い機械的な力によりポリオールと混合されることにより、周囲の空気が混合物の内部に閉じ込められて微細気泡の形態で存在するようになるためである。ポリオールの粘度は非常に高いため、気泡は混合物の内部に閉じ込められるようになり、ポリオール/フッ素化カーボネート/気泡の3相が存在するようになる。これにより、独立気泡の表面張力が減少して独立気泡(closed cell)の成長および熟成(ripening)が抑制される。従って、より小さく均一な独立気泡が形成されるため、ポリウレタン発泡体内の熱伝導度、特に輻射の熱伝導度(λ)を小さくすることができる。
【0029】
通常のポリウレタン発泡体は、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、整泡剤、発泡剤などを混合し、これらの反応熱により発泡剤が気化して発泡体を形成する方法で製造される。このとき、発泡体形成の際の反応は通常40〜60℃で行われ、反応熱が生じるために反応温度は約120℃になると推定される。これに反して、フッ素化カーボネートは、沸点が150℃以上(例えば、200〜240℃)で非常に高い。従って、通常的な方法でポリウレタン発泡体を製造する際に、フッ素化カーボネートは気化せずに発泡体内部に固相または液相で存在することになる。そのためフッ素化カーボネートは蒸散することなく、ポリウレタン発泡体の製造工程においても環境汚染問題をもたらさない。
【0030】
前記フッ素化カーボネートは、100℃未満、好ましくは−10℃〜40℃の氷点(凝固点)を有する。すなわち、前記フッ素化カーボネートは、常温付近で相転移する。従って、常温付近で温度変化が起こる際に、固相から液相に相転移しながら熱伝導を抑制することができる。すなわち、外部から伝わった熱を吸収してフッ素化カーボネートの相転移が起きるため、吸収された分は熱がさらに伝わることがない。また、フッ素化カーボネートは、ポリオールとの混和性の差により、互いに混じりにくいため、組成物内でポリオールに溶解されず、独立した相で存在する。その際、発泡体の製造反応において泡の外側に押し出され、気泡壁(cell wall)に位置するようになる。従って、外部から熱が流入する際には、セル内部の気体を通して熱が伝わるよりも、気泡壁が熱を伝えやすいため、気泡壁に局在するフッ素化カーボネートが相転移を通して効率的に熱を吸収しやすい。例えば、本発明の一実施例により製造されたポリウレタン発泡体を低温断熱材(冷蔵庫断熱材)として使用する場合、外部から流入する熱がフッ素化カーボネートの相転移に使用されて、内部へ熱が伝達されにくくなるため、優れた断熱性を示す。
【0031】
図1に、本発明の一実施形態によるポリウレタン断熱材内の熱伝導を説明するための概念図を示した。図1を参照すると、外部から熱が流入すれば、添加剤であるフッ素化カーボネートの部分的な相転移が生じ、外部からの熱が伝達されず吸収されることにより、熱伝導度が小さくなることが分かる。図1の左側の図はポリウレタン断熱材内部の断面に外部からの熱が流入した直後を示し、図中実線の矢印は気泡壁に沿って熱が伝わる経路を示し、右側の図は相変化が生じた後の同じ断面を示す。格子模様の変化は相変化が起きたことを示し、これにより熱伝導度が低まることを矢印の厚さで示した。
【0032】
前記フッ素化カーボネートは、下記化学式(1)または(2)で表される化合物およびこれらの混合物からなる群より選択することができる。
【0033】
【化5】

【0034】
前記化学式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子;フッ素原子;置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基;置換もしくは非置換のC〜C30の環状アルキル基;または置換もしくは非置換のC〜C30の芳香族基であり、この際、R〜Rの少なくとも1つはフッ素原子またはフルオロアルキル基であり、
前記R〜Rの置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基である。
【0035】
【化6】

【0036】
前記化学式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子;フッ素原子;置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基;置換もしくは非置換のC〜C30の環状アルキル基;または置換もしくは非置換のC〜C30の芳香族基であり、この際、RおよびRの少なくとも1つはフッ素原子または置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基であり、
前記RおよびRの置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基である。
【0037】
前記フルオロアルキル基は、C〜C16の線状または分枝状フルオロアルキル基が好ましいが、これに限定はされない。フルオロアルキル基のフッ素原子数は、C2n+1の2n+1個の水素原子のうち、3〜2n+1個がフッ素原子で置換されていることが好ましく、より好ましくは2n−4〜2n+1個である。前記環状アルキル基は、C〜C30の環状アルキル基が好ましく、前記芳香族基は、C〜C30の芳香族基が好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0038】
前記フッ素化カーボネートの例としては、下記化学式(3)〜(5)で表される化合物またはこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
【化9】

【0042】
前記フッ素化カーボネートは、製造されたポリウレタン発泡体が使用される温度範囲に吸熱ピークを有することが好ましい。例えば、18〜30℃に吸熱ピークを有することが好ましいが、これに制限されることはない。フッ素化カーボネートは、フッ素化していないカーボネートに比べて低い温度に吸熱ピークを示すため、低温領域で低い熱伝導度を有するポリウレタン発泡体の製造に有利である。
【0043】
前記吸熱ピークの半値幅(Full Width at Half maximum、FWHM)は、大きいほど好ましく、例えば、4.5〜5.5℃が好ましく、より好ましくは4.5〜6.5℃であるが、これに制限されることはない。フッ素化カーボネートの吸熱ピークの半値幅が大きいほど、溶融温度領域が広いことを意味する。従って、フッ素化カーボネートがより広い温度範囲で相変化を通して熱を吸収し、熱伝導を阻害することで、ポリウレタン発泡体は広い温度範囲で優れた断熱性を示すことができる。
【0044】
また、フッ素化カーボネートの吸熱ピークの積分面積は、大きいほど好ましく、例えば、16〜30が好ましいが、これに制限されることはない。前記吸熱ピークの積分面積が大きいほど、相転移の際に多くの熱が必要であることを意味する。従って、フッ素化カーボネートが相転移の際に外部からの流入熱をより多く吸収することで、ポリウレタン発泡体は優れた断熱性を示すことができる。
【0045】
一般に、前記吸熱ピークの温度範囲、半値幅およびピークの積分面積は、示差走査型熱量測定(differential scanning calorimetry、DSC)装置を用いて測定する。一例として、TA Instrument DSC 2010を用いて、N雰囲気で5℃/分の走査速度で数回測定した平均値を使用することができる。
【0046】
本発明の一実施形態によるポリウレタン発泡体組成物において、前記フッ素化カーボネートの含量は、ポリオール100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは2〜4質量部、最も好ましくは3〜3.5質量部であるが、これに制限されることはない。フッ素化カーボネートの含量が上記の範囲内である場合、発泡反応の最終段階でのポリウレタン発泡体の密度変化が急激でないため、ポリウレタン発泡体が所望の密度値になるように容易に制御することができる。このことは、密度が増加するほど機械的強度も増加する一方で、熱伝導度も増加するため、両方を共に満足する最適な密度を選択するために有効である。
【0047】
本発明において、ポリオールとしては、分子中に水酸基(ヒドロキシ基、−OH)を2つ以上有する脂肪族化合物を使用することができる。その具体的な例としては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどのポリアルキレングリコール;アミン末端ポリエーテルポリオールまたはポリエステルポリオールなどが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、無水フタル酸、テレフタル酸などと、炭素数2〜6を含むジグリコールなどのオリゴエーテルジオール、または、グリセロール、トリメチロールプロパンなどのトリオールとを反応させて得られたものを使用することができる。また、前記ポリオールの重量平均分子量は、400〜1500であることが好ましいが、これに制限されることはない。
【0048】
本発明において、ポリイソシアネートとしては、通常使用されるものを用いることができる。例えば、ポリマー性ジフェニルメタンジイソシアネート(polymeric diphenylmethane diisocyanate)またはトルエンジイソシアネートを用いることができる。また、前記ポリイソシアネートの含量は、前記ポリオール100質量部に対して100〜150質量部であることが好ましいが、これに制限されることはない。ただし、前記ポリイソシアネートの含量が上記の範囲内である場合、ポリオールと適切に反応して最適なポリウレタン発泡体を製造することができる。
【0049】
本発明において、触媒としては、ポリオールとポリイソシアネートとの反応が活発に起こるように助ける物質であれば、特に制限なく使用することができ、例えば、アミン系触媒、第3級アミン系触媒などを用いることができる。前記アミン系触媒の具体的な例としては、ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチルジアミンなどが挙げられる。また、前記触媒の含量は、前記ポリオール100質量部に対して1〜5質量部であることが好ましいが、これに制限されることはない。ただし、前記触媒の含量が上記の範囲内である場合、発泡反応時間を容易に制御することができる。
【0050】
本発明において、発泡剤としては、物理的発泡剤を使用することができる。前記物理的発泡剤は、フッ素化カーボネートの沸点より低くなければならず、その差が40〜60℃であることが好ましく、40〜80℃がより好ましく、フッ素化カーボネートの沸点より80〜120℃低いことがさらに好ましい。発泡剤がフッ素化カーボネートよりも低い沸点を有することにより、発泡体を製造する際には、前記物理的発泡剤が気化して発泡体を形成しながら、発泡体内に液相または固相のフッ素化カーボネートを含ませる働きをする。
【0051】
前記物理的発泡剤としては、炭化水素、特にC〜Cの炭化水素が好ましく、例えばイソブタン、イソペンタン、C〜Cのシクロアルカンを使用することができる。このうちシクロペンタンは特に好ましく、発泡反応に優れて気孔率の優れた発泡体を形成することができ、炭化水素のうち気相の熱伝導度が最も小さく、オゾン層破壊および地球温暖化にほとんど影響を与えない。
【0052】
また、前記物理的発泡剤の含量は、前記ポリオール100質量部に対して10〜20質量部であることが好ましいが、これに制限されることはない。前記物理的発泡剤の含量が上記の範囲内である場合、最終的なポリウレタン発泡体の熱伝導度を低く制御することができ、最適な密度で十分な強度を有する発泡体を製造することができる。
【0053】
本発明の他の実施形態では、前記物理的発泡剤とともに化学的発泡剤を使用することもできる。化学的発泡剤としては、水を使用することができる。また、化学的発泡剤の含量は、前記ポリオール100質量部に対して0.5〜5質量部であることが好ましいが、これに制限されることはない。化学的発泡剤の含量が上記の範囲内である場合、発泡反応速度を適切に制御でき、独立気泡の大きさを小さくすることができる。
【0054】
整泡剤は、原料物質の均質性を維持し、気泡安定剤として、気泡が急激に膨張しても破壊することなく安定に形成できるように気泡の構造を調節するための物質である。本発明において、整泡剤としては、シリコーン樹脂を使用することができる。例えば、ポリジメチルシロキサン系シリコーン樹脂、ポリシロキサン系エーテル系シリコーン樹脂またはこれらの混合物を使用することができる。整泡剤の含量は、前記ポリオール100質量部に対して1〜5質量部であることが好ましいが、これに制限されることはない。整泡剤の含量が上記の範囲内である場合、複数の気泡を容易に生成することができ、気泡の安定化およびセルの破壊防止に優れた効果を示す。
【0055】
本発明の他の実施形態は、さらに核剤を選択的に含んでもよい。フッ素化カーボネートは、気泡核を生成し、独立気泡の成長を抑制して核剤のような役割を果たすことができるため、核剤を使用する場合には、通常より少ない量を使用すればよい。
【0056】
前記核剤としては、ペルフルオロアルカン系化合物を使用することができる。その例としては、ペルフルオロプロパン、ペルフルオロブタン、ペルフルオロイソブタン、ペルフルオロペンタン、ペルフルオロイソペンタン、ペルフルオロネオペンタン、ペルフルオロシクロプロパン、ペルフルオロシクロブタン、ペルフルオロシクロペンタン、ペルフルオロシクロヘキサン、ペルフルオロシクロオクタン、ペルフルオロヘキサン、ペルフルオロ−2−メチルペンタン、ペルフルオロヘプタン、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロ−2−エチルヘキサンなどが挙げられる。核剤の含量は、前記ポリオール100質量部に対して0.1〜10質量部を使用することができるが、これに制限されることはない。
【0057】
本発明の第2は、前記ポリウレタン発泡体組成物を用いて製造された発泡体である。発泡体の製造方法は、特に制限されないが、例えば以下の方法で製造できる。ポリオール、触媒、整泡剤および水を一般的なホモミキサー(stirrer)を用いて、温度20〜25℃、時間10分以内混合する。この混合物に、フッ素化カーボネート、核剤、発泡剤などを添加しながら、温度20〜25℃、時間5〜30秒間、撹拌速度を400rpmから5000rpmまで順次増加させながら攪拌する。その後、ここにポリイソシアネートを追加して発泡成形することで、製造することができる。発泡反応は、ポリイソシアネートを添加してから温度20〜25℃、3〜5秒間、攪拌速度4000〜6000で攪拌し、この組成物を金型に流し込み、温度40〜60℃、好ましくは40℃で5〜10分維持して完成させることができる。また、発泡成形過程でウレタン固相が生成して閉鎖型独立気泡を有する発泡体が製造されることができる。また、上記以外にも、従来公知のポリウレタンの製造方法を適宜参照して製造することができる。
【0058】
前記発泡体は、発泡成形した後にもフッ素化カーボネートを液相または固相の状態で含む。その理由は、発泡成形の反応温度よりフッ素化カーボネートの沸点が高いために、反応が終わった後にもフッ素化カーボネートは気化せずに存在するためである。従って、製造した発泡体は、優れた断熱材として使用することができる。前記発泡体は、液相または固相のフッ素化カーボネートを含むため、常温範囲(100℃以下)で断熱性に優れる。従って、冷蔵庫用断熱材、低温断熱材などとして使用され得る。
【0059】
以下、実施例および比較例によってより詳しく本発明を説明するが、実施例は説明を目的としたものに過ぎず、本発明の保護範囲を制限するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0060】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0061】
[実施例1]
ポリプロピレングリコール、トリエチルアミン(ダウコーニング社製PC−8)、有機金属系触媒、シリコーン界面活性剤および水を下記の量で、一般的なホモミキサーを用い、温度20〜25℃で、10分間混合した。ここに下記化学式(3)で表されるフルオロエチレンカーボネート(FEC)およびシクロペンタンを下記の量で添加して、撹拌速度を400rpmから5000rpmまで段階的に増加させながら約20秒間撹拌した。こうして得られた混合物に、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートを添加して5000rpmの撹拌速度で約3秒間撹拌した。このとき、ポリプロピレングリコール100質量部を基準として、第3級アミンは2.3質量部、シリコーン樹脂は2.5質量部、水は1.75質量部、シクロペンタンは16.5質量部、ポリイソシアネートは112質量部、フルオロエチレンカーボネートは4質量部を使用した。また、フルオロエチレンカーボネートの氷点は19〜20℃、沸点は200〜225℃、吸熱ピークは23.61℃、吸熱ピークの半値幅は5.595、積分面積は16.3989であった。また、シクロペンタンの氷点は−94℃、沸点は49℃である。
【0062】
前記混合物を200×200×30cmの大きさの金型に注ぎ込んで発泡成形を実施して約8分間硬化させた後、脱型した。このとき、金型の温度は40℃に均一に維持し、ポリウレタン発泡体を製造した。
【0063】
【化10】

【0064】
[実施例2]
化学式(3)で表されるフルオロエチレンカーボネート(FEC)の代わりに下記化学式(4)で表されるフルオロジエチルカーボネート(FDEC)を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法でポリウレタン発泡体を製造した。
【0065】
【化11】

【0066】
[実施例3]
化学式(3)で表されるフルオロエチレンカーボネート(FEC)の代わりに下記化学式(5)で表されるフルオロジメチルカーボネート(FDMC)を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法でポリウレタン発泡体を製造した。
【0067】
【化12】

【0068】
[実施例4]〜[実施例11]
実施例4〜11では、フルオロエチレンカーボネート(FEC)の使用量をポリプロピレングリコール100質量部に対してそれぞれ1、1.5、2、3、3.1、5、10および23質量部に変更したことを除いて、前記実施例1と同様の方法でポリウレタン発泡体を製造した。
【0069】
[比較例1]
化学式(3)で表されるフルオロエチレンカーボネート(FEC)の代わりに下記化学式(6)で表されるエチレンカーボネートEC)を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法でポリウレタン発泡体を製造した。
【0070】
【化13】

【0071】
[比較例2]
化学式(3)で表されるフルオロエチレンカーボネート(FEC)の代わりに下記化学式(7)で表されるジエチルカーボネート(DEC)3質量部を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法でポリウレタン発泡体を製造した。
【0072】
【化14】

【0073】
[比較例3]
化学式(3)で表されるフルオロエチレンカーボネート(FEC)の代わりに下記化学式(8)で表されるジメチルカーボネート(DMC)3質量部を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法でポリウレタン発泡体を製造した。
【0074】
【化15】

【0075】
[比較例4]
化学式(3)で表されるフルオロエチレンカーボネート(FEC)の代わりに下記化学式(9)で表されるプロピレンカーボネート(PC)3質量部を使用したことを除いて、前記実施例1と同様の方法でポリウレタン発泡体を製造した。
【0076】
【化16】

【0077】
[比較例5]
化学式(3)で表されるフルオロエチレンカーボネート(FEC)を使用しないことを除いて、前記実施例1と同様の方法でポリウレタン発泡体を製造した。
【0078】
[実験例1]
実施例1で製造した発泡体について、ジメチルスルホキシドを溶媒として使用し、H NMR分光法により分析し、その結果を図2に示した。また、純粋なフルオロエチレンカーボネートに対しても、H NMR分光法による測定を行い、その結果を図2に示した。図2を参照すると、発泡体を成形した後にも、フルオロエチレンカーボネート(FEC)が発泡体内に残存していることを確認することができる。
【0079】
図2のチャートによれば、下段のポリウレタン発泡体の測定結果のチャートに、上段の純粋なフルオロエチレンカーボネートのピークと同じ位置にピークが観察される。このことは、ポリウレタン発泡体中にそのままフルオロエチレンカーボネートが含まれ存在していることを示している。
【0080】
[実験例2]
実施例1および比較例5で製造した発泡体について、熱分析装置Q5000IR(TA Instruments社製)を用いて、空気中、5℃/分の速度で500℃まで昇温させながら熱重量分析(Thermogravimetric analysis:TGA)を行い、その結果を図3に示した。図3を参照すると、製造した発泡体内にフルオロエチレンカーボネート(FEC)が残存していることが確認できる。
【0081】
発泡反応は発熱反応であり、ポリウレタン発泡体形成時は局部的に180℃前後の温度になる。図3のグラフを参照すると、発泡体の重量が大きく減少し始めるのは、発泡体温度が225℃以上になってからである。それまでの温度ではほとんど重量変化がないことから、ポリウレタン発泡体中から何らかの成分が気化することはなく、フルオロエチレンカーボネートも発泡体中に存在していることが分かる。
【0082】
[実験例3]
実施例1および比較例5で製造したポリウレタン発泡体について、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いてそれぞれの発泡体の微細構造を観察し、その結果を図4および図5に示した。図4および図5を参照すると、実施例1で製造したポリウレタン発泡体には、比較例5で製造した発泡体に比べて小さい(〜200μm以下)独立気泡が均一に形成されていることが確認できる。
【0083】
[実験例4]
実施例1および比較例1で使用したカーボネートについて、示差走査型熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)を窒素雰囲気で5℃/分の昇温速度で行い、その吸熱量および吸熱ピークを図6に示した。上述したとおり実施例1の吸熱ピークは23.61℃であり、その半値幅は5.595であり、積分面積は16.3989であった。一方、比較例1の吸熱ピークは38.84℃であり、吸熱ピークの半値幅は0.7646であり、積分面積は15.8924であった。図6を参照すると、フッ素化エチレンカーボネート(FEC)は、エチレンカーボネート(EC)に比べて低い氷点を有するだけでなく、溶融温度範囲がずっと広く(吸熱ピークの半値幅が大きく)溶融の際により多くの熱エネルギーを吸収することが確認できる。従って、フッ素化カーボネートは、常温範囲で相転移を通して効率的に熱を吸収し、熱伝導を抑制できることが確認できる。
【0084】
[実験例5]
熱伝導度測定器(HFM 436/3/1 Lambda モデル、NETZSCH社製)を用いて、ISO 8310、ASTM C518試験法に従って、実施例1〜11および比較例1〜5で製造した発泡体の熱伝導度を測定し、その結果を下記表1に示した。また、FECの添加量効果を図7のグラフに示した。
【0085】
また、実施例1〜3および比較例1〜5で製造したポリウレタン発泡体のバルク密度は、幾何学的形態で精密加工された発泡体の重さを測定し、体積を計算して求め、下記表1に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
表1および図7を参照すると、フッ素化カーボネートを添加して製造した発泡体(実施例1〜3)は、フッ素化していないカーボネートを用いて製造した発泡体(比較例1〜4)およびカーボネートを使用していない発泡体(比較例5)より、顕著に低い熱伝導度を示すことが確認できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオールと、
ポリイソシアネートと、
触媒と、
整泡剤と、
発泡剤と、
フッ素化カーボネートと、
を含む、ポリウレタン発泡体組成物であって、
前記フッ素化カーボネートが、
下記化学式(1):
【化1】

上記化学式(1)中、
〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のC〜C30の環状アルキル基、または、置換もしくは非置換のC〜C30の芳香族基であり、この際、R〜Rの少なくとも1つは、フッ素原子または置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基であり、前記R〜Rの置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基である、で表される化合物、または、
下記化学式(2):
【化2】

上記化学式(2)中、
およびRは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基、置換もしくは非置換のC〜C30の環状アルキル基、または、置換もしくは非置換のC〜C30の芳香族基であり、この際、RおよびRの少なくとも1つは、フッ素原子または置換もしくは非置換のC〜C16のフルオロアルキル基であり、
前記RおよびRの置換基は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、C〜C30のアルキル基、C〜C30のハロアルキル基、C〜C30のアリール基、C〜C20のアルコキシ基およびこれらの組み合わせからなる群より選択される置換基である、で表される化合物、あるいは、これらの混合物である、ポリウレタン発泡体組成物。
【請求項2】
前記フッ素化カーボネートが、下記化学式(3):
【化3】

、下記化学式(4):
【化4】

および下記化学式(5):
【化5】

で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のポリウレタン発泡体組成物。
【請求項3】
前記フッ素化カーボネートが、18〜30℃に吸熱ピークを有する、請求項1または2に記載のポリウレタン発泡体組成物。
【請求項4】
前記フッ素化カーボネートが、4.5〜6.5℃の吸熱ピークの半値幅を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体組成物。
【請求項5】
前記フッ素化カーボネートが、16〜30の吸熱ピークの積分面積を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体組成物。
【請求項6】
前記フッ素化カーボネートが、−10〜40℃の氷点を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体組成物。
【請求項7】
前記フッ素化カーボネートが、前記発泡剤より高い沸点を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体組成物。
【請求項8】
前記発泡剤が、炭化水素を有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡剤組成物。
【請求項9】
前記フッ素化カーボネートの含量が、前記ポリオール100質量部に対して0.1〜10質量部である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のポリウレタン発泡体組成物を用いて製造されてなる、ポリウレタン発泡体。
【請求項11】
前記ポリウレタン発泡体が、フッ素化カーボネートを含む、請求項10に記載のポリウレタン発泡体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−111868(P2010−111868A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240408(P2009−240408)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【Fターム(参考)】