説明

ポリウレタン系セメント組成物

【課題】硬化条件によらず、低光沢となるポリウレタン系セメント組成物の提供である。
【解決手段】水硬性セメント、水、ポリオール、イソシアネート化合物を必須とし、前記イソシアネート化合物中に2,4’−ジフェニルメチレンジイソシアネート含有率が5%以上あり、23℃での硬化後及び5℃での硬化後いずれの硬化物の60度鏡面光沢度が5.0未満となるポリウレタン系セメント組成物を用いることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物が低光沢となるポリウレタン系セメント組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、厨房室、試験室、薬品・化学工場、電子回路の工場などの床には防水性、耐熱性、耐薬品性、耐熱水性並びに耐衝撃強度などの機能を付加させるため、打設したコンクリート表面に強化樹脂を施工した複合床や、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂とセメントとを配合した樹脂モルタル系の床が施工されている。特に、水硬性セメント、水、ポリオールおよびイソシアネート化合物からなるポリウレタン系セメント塗り床材は、熱や機械的な衝撃強度に優れるため、大きな負荷のかかる部位の床に施工される。
【0003】
水硬性セメント、水、セメント減水剤、及び、硬化して樹脂となり得る成分からなるセメント組成物は施工現場での混合にて均一に分散されやすく、作業性・性能・仕上がり外観にムラが生じにくいことが開示されている。(特許文献1)
【0004】
(a)水硬性セメント、(b)骨材、(c)イソシアネート基を含む化合物、(d)水、(e)3級アミン化合物触媒、および、(f)活性水素含有化合物(ただし水および3級アミン化合物触媒を除く)、を必須成分とするポリウレタン系セメント組成物が良好な仕上がり外観となることが開示されている。(特許文献2)
【0005】
水硬性セメント、水、骨材、ひまし油系ポリオール等の疎水性のポリオール、及び、ひまし油系ポリオール等の疎水性ポリオールとジイソシアネート化合物の反応で得られるイソシアネート基末端プレポリマーを含有するイソシアネート成分からなるポリマーセメント組成物が高耐久性塗り床材となることを開示している。(特許文献3)
【0006】
ポリエステルポリオール、イソシアネート化合物並びに水硬性セメントを含む骨材を配合してなる樹脂セメント組成物により、塗膜厚みが5mm以下においても、表面の樹脂成分だけからなる層と骨材を含む中心部の層の収縮率が異ならず、反り上がり現象や表層の亀裂誘発ななくなることが開示されている。(特許文献4)

【特許文献1】特開平8−169744号公報
【特許文献2】特開平11−79820号公報
【特許文献3】特開2000−72507号公報
【特許文献4】特開2005−47719号公報
【0007】
ポリウレタン系セメント組成物は水やセメントを含まない樹脂組成物に比べ光沢が低く、物性以外にも、この特徴で、仕上がりに光沢を嫌う場合によく用いられる。
しかし、硬化条件、温度により光沢が出ることがあり、安定して低光沢となる組成物が望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
解決しようとする課題は、硬化条件によらず、低光沢となるポリウレタン系セメント組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、水硬性セメント、水、ポリオール、イソシアネート化合物を含むポリウレタン系セメント組成物であって、イソシアネート化合物中の2,4’−ジフェニルメチレンジイソシアネート含有率が5%以上であることを特徴とするポリウレタン系セメント組成物で、硬化条件によらず低光沢な硬化物表面が得られる。
請求項2の発明は、23℃での硬化後及び5℃での硬化後いずれの硬化物の60度鏡面光沢度が5.0未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン系セメント組成物で、常温、低温によらず、60度鏡面光沢度が5.0未満となる硬化物表面となる。
請求項3の発明は、上記の組成物の使途が塗床材であることを特徴とする請求項1乃至2いずれか記載のポリウレタン系セメント組成物で、温度制御ができない建築現場でも安定した低光沢塗床材となる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリウレタン系セメント組成物は、硬化時の温度条件に拠らず一様に安定した低い光沢の硬化物表面を得ることができ、保温ができない建築現場で施工時の気温に影響なく低光沢な塗床材が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
従来のポリウレタン系セメント塗り床材は、通常3〜10mmの厚みで塗り広げることにより、塗布してから硬化する間に樹脂成分が僅かに表面に浮き上がり、樹脂皮膜を形成するが、この樹脂皮膜は、常温以上の温度において形成された場合、光沢の低い被膜であることが多いが、低温で形成されると光沢が上がる傾向となる。樹脂被膜が常温以上の温度のとき低光沢になりやすいのは、浮き上がった樹脂分の中にセメント等の水硬性成分が微量に分散しているためと考えられる。逆に低温のとき高光沢になりやすいのは樹脂分の分子の凝集力が増し、水硬性成分が樹脂皮膜中に取り込まれにくくなるためと考えられる。樹脂皮膜中に水硬性成分を安定的に分散する方法として、界面活性剤があるが、これは水とイソシアネートとの反応を促進し、可使時間の短縮や炭酸ガスによる塗膜のフクレ等の不具合を誘発する。
2,4’−MDIを5%以上含むイソシアネートを用いることで、界面活性剤に拠らず5℃硬化時に60度鏡面光沢度が5.0未満となる硬化物が得られることを鋭意研究の結果見出し、本発明に至った。この作用は温度低下による未硬化樹脂皮膜の凝集力を抑制しているためと考えられる。
【0012】
本発明の組成物はポリオール樹脂、イソシアネート化合物、水硬性セメント、水を必須とし、必要に応じて、希釈剤、骨材等が配合される。
【0013】
上記必須成分中、ポリオール樹脂は8〜23重量%が好ましく、この範囲で物性が得られ易く発泡の恐れが少ない。イソシアネート化合物は25〜50重量%が好ましく、この範囲で塗膜強度が得られ、硬化が遅すぎることがない。水硬性セメントは25〜50重量%が好ましく、この範囲で物性が得られ易く発泡の恐れが少ない。水は3〜21重量%が好ましく、この範囲で水硬性セメントとの水和反応を満たし、流動性を確保でき、硬化収縮によるクラックの恐れが低い。任意成分である希釈剤はポリオール樹脂と2倍重量を上限として配合することができ、作業性・流動性を改善できる。この範囲で物性低下やクラックの恐れが低い。また骨材は硅砂等が多く使用されるが、前記希釈剤、粒度等に影響は受けるものの、必須成分総重量部の4〜7倍配合することができる。
【0014】
ポリオール樹脂
発明に係わるポリオールとしては、、分子量が500〜3000で水酸基を2以上持ち、主鎖が疎水基からなるポリエステルポリオールもしくはポリアルキレンポリオール、ひまし油変性ポリオールや二塩基酸とアルコールの重縮合系ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、エポキシ変性ポリオール等があげられる。ポリオールは疎水性であることが最も好ましく、疎水性の基準としてはポリオールと水との混合比1:1で、界面活性剤等の助けなく、単独では分散しないか、或いは例え大きなエネルギー(超音波)で分散させても、ガラス製100mlメスシリンダーに入れ、密閉して35℃24時間後には連続油相が目視で確認できるものとする。これらはポリオール100部に対し水30〜50部、ポリオキシアルキレン型乳化剤やアルキルスルホン酸塩もしくはアルキルカルボン酸塩を乳化剤として1.5部以下の範囲で乳化するが、乳化剤の役目は他の添加剤で行っても良い。また可塑剤や添加剤も施工作業性、最終物性のため、添加しても良い。好ましい例として、ひまし油変性ポリオールとポリオキシアルキレン型乳化剤を用いた水分散性ポリオールが挙げられる。
具体的な製品として、ディスモフェン1145、ディスモフェン1150、ディスモリットVPLS2248(以上 住友バイエルウレタン(株)、商品名)などがある。
【0015】
イソシアネート化合物
イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメチレンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添化ジフェニルメタンジイソシアネート、水添化トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が使用できるが、好ましい例としては化1の一般式で表される多核ポリフェニレンポリメチルポリイソシアネート、(以下ポリメリックMDIと略す)を含有するものと、化3の一般式で表される2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下2,4’−MDIと略す)を含むMDIの混合物があげられ、イソシアネート化合物分子量中に占めるNCO基の分子量比率(NCO%)が30%以上であるものは、強度に優れ光沢度も安定した物が得られ好ましい。
具体的な製品として、ポリメリックMDIを含有するものとして、スミジュール44V10、スミジュール44V20(以上 住友バイエルウレタン(株)、商品名)やコロネート3520、ジフェニルメチレンジイソシアネートMR−100(以上 日本ポリウレタン(株)、商品名)などがあり、2,4’−MDIを含有するものとしては、ルプラネートMI(BASFINOAC(株)、商品名)があげられる。
MDIは化2に示す4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下4,4’−MDIと略す)と化3に示す2,4’−MDIの構造異性体が存在する。
本発明においてイソシアネート組成物中に2,4’−MDI成分を5%以上含有させることにより、安定して低光沢な仕上が得られる。
【化1】

【化2】

【化3】

【0016】
水硬性セメント
水硬性セメントはポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメントなどが単体若しくは混合して使用される。
なお、施工床の色調を特定色に設定したい場合には白色ポルトランドセメントが使用されれば、淡色の床に仕上ることが可能になり、又各種の顔料を添加することによって各種の着色床に仕上ることが容易に実施できる。
【0017】

水はエマルジョンとしてポリオール組成物もしくはイソシアネート組成物中に含まれるが、各組成物を混合し塗材を調整するときに後から加えることもできる。
【0018】
添加剤その他
各組成物中には、希釈剤や消泡剤、流動化剤、界面活性剤等の添加剤や、着色剤さらに硅砂、消石灰、ガイシ粉末などの骨材を必要に応じて含むことができる。
【0019】
上記配合の組成物を混合して得られる樹脂セメント塗り床材では、硬化剤のイソシアネート中の2,4’−MDI含有量を調整することにより、形成される樹脂皮膜は光沢が低い皮膜となる。
【0020】
以下、本発明について実施例、比較例により詳細に説明する。
また、本発明は当然これに限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
ディスモフェン1150(住友バイエルウレタン(株)、商品名、ひまし油変性ポリオール、水酸基価:165mgKOH/g)を35部、希釈剤としてサンソサイザーDINA(新日本理化(株)、商品名、ジイソノニルアジペート)34重量部を配合し、これにBYK−057(ビックケミー(株)、商品名、ポリマー型消泡剤)を1重量部を加え、ディスパー型撹拌機で撹拌しながら水道水を30重量部加え2分間撹拌してエマルジョンを得る(この配合物をポリオール配合物とする。)。これにMR−100(ポリメリックMDI、NCO含有率31%,2,4’−MDI含有率1%以下)を90重量部とルプラネートMI(BASFINOAC(株)、MDI、NCO%含有率31%、2,4’−MDI含有率50%)10重量部を加え(イソシアネート配合物とする。)、ディスパー型撹拌機で撹拌しながら、あらかじめ白ポルトランドセメント100重量部と5号硅砂150重量部と6号硅砂150重量部を混合したプレミックス粉体を加え、2分間撹拌して実施例1のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例2】
【0022】
実施例1のMR−100を85重量部に、ルプラネートMIを15重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、実施例2のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例3】
【0023】
実施例1のMR−100を80重量部に、ルプラネートMIを20重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、実施例3のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例4】
【0024】
実施例1のサンソサイザーDINAを、ハイゾールSAS296(新日本石油(株)、商品名、高沸点芳香族系炭化水素化合物)に換えた以外実施例1と同じに行い、実施例4のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例5】
【0025】
実施例4のMR−100を85重量部に、ルプラネートMIを15重量部に変えた以外実施例4と同じに行い、実施例5のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例6】
【0026】
実施例4のMR−100を80重量部に、ルプラネートMIを20重量部に変えた以外実施例4と同じに行い、実施例6のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例7】
【0027】
実施例1のディスモフェン1150を30重量部、サンソサイザーDINAを29重量部、水道水40重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、実施例7のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例8】
【0028】
実施例7のサンソサイザーDINAをハイゾールSAS296に換えた以外実施例7と同じに行い、実施例8のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例9】
【0029】
実施例1のディスモフェン1150を40重量部、サンソサイザーDINAを29重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、実施例9のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例10】
【0030】
実施例9のサンソサイザーDINAをハイゾールSAS296に換えた以外実施例9と同じに行い、実施例10のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例11】
【0031】
実施例1の白ポルトランドセメント200重量部と5号硅砂100重量部と6号硅砂100重量部と変えた以外実施例1と同じに行い、実施例11のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例12】
【0032】
実施例11のサンソサイザーDINAをハイゾールSAS296に換えた以外実施例11と同じに行い、実施例12のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例13】
【0033】
実施例1のディスモフェン1150を30重量部、サンソサイザーDINA、BYK−057を無配合とし、水道水を40重量部に変えた以外実施例1と同じく行い、実施例13のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例14】
【0034】
実施例1のサンソサイザーDINA、BYK−057を無配合とし、水道水を35重量部に変えた以外実施例1と同じく行い、実施例14のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例15】
【0035】
実施例1のディスモフェン1150を40重量部、サンソサイザーDINA、BYK−057を無配合に変えた以外実施例1と同じく行い、実施例15のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例16】
【0036】
実施例1のディスモフェン1150を30重量部、サンソサイザーDINA、BYK−057を無配合とし水道水を40重量部に、MR−100を80重量部に、ルプラネートMIを20重量部に変えた以外実施例1と同じく行い、実施例16のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例17】
【0037】
実施例16のディスモフェン1150を35重量部、水道水を35重量部に変えた以外実施例16と同じに行い、実施例17のポリウレタン系セメント組成物とした。
【実施例18】
【0038】
実施例16のディスモフェン1150を40重量部、水道水を30重量部に変えた以外実施例16と同じに行い、実施例18のポリウレタン系セメント組成物とした。
【0039】
比較例1
実施例1のMR−100を100重量部に、ルプラネートMIを無配合とした以外実施例1と同じに行い、比較例1のポリウレタン系セメント組成物とした。
【0040】
比較例2
実施例1のBYK−057を加える前にエマルゲン1118S−70(花王(株)、商品名、ノニオン系界面活性剤,ポリオキシエチレンアルキルエーテル、HLB:16.4)を1部加え、MR−100を100重量部に、ルプラネートMIを無添加とし、水道水29重量部に変えた以外実施例1と同じに行い、比較例2のポリウレタン系セメント組成物とした。
【0041】
比較例3
比較例1のサンソサイザーDINAをハイゾールSAS296に換えた以外比較例1と同じに行い比較例3のポリウレタン系セメント組成物とした。
【0042】
比較例4
比較例2のサンソサイザーDINAをハイゾールSAS296に換えた以外比較例2と同じに行い比較例4のポリウレタン系セメント組成物とした。
【表1】

【0043】
実施例・比較例のポリオール配合物、イソシアネート配合物、プレミックス粉体のそれぞれ硬化させる温度で24時間以上静置したものを使用し、23℃及び5℃の雰囲気下でそれぞれ実施例・比較例の処方配合でポリウレタン系セメント組成物を調製し、これを市販の300×300mmスレート平板に、を厚さ4.0mmになるように金コテにて塗布した。
【0044】
60度鏡面光沢度測定方法
上記の試験体をそれぞれ同条件下7日間静置した後、JIS K5600−4−7の試験法に則り、光沢度計(日本電色工業(株)製:PG−1)を用いて60度鏡面光沢度を測定した。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、従来温度依存性が高いか作業時間が短い環境でのみ硬化物表面の低光沢が得られていない組成物が、低温、或いは乳化剤が無くても実現でき、塗材組成物として有用で、特に床は、斜光による塗布不具合が目立ちやすく、下地調整も容易に施工でき、幅広い用途がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水硬性セメント、水、ポリオール、イソシアネート化合物を含むポリウレタン系セメント組成物であって、イソシアネート化合物中の2,4’−ジフェニルメチレンジイソシアネート含有率が5%以上であることを特徴とするポリウレタン系セメント組成物。
【請求項2】
23℃での硬化後及び5℃での硬化後いずれの硬化物の60度鏡面光沢度が5.0未満であることを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン系セメント組成物。
【請求項3】
上記の組成物の使途が塗床材であることを特徴とする請求項1乃至2いずれか記載のポリウレタン系セメント組成物。

【公開番号】特開2009−203124(P2009−203124A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−47888(P2008−47888)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】