説明

ポリウレタン複合体およびその製造方法。

【課題】 安価な原料を用いるにもかかわらずポリウレタン中に微細なシリカを高含量で複合化したポリウレタン複合体を提供する。
【解決手段】 ポリウレタンと、酸性基を含有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカ、および、該酸性基以外の酸成分とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカを含有するポリウレタン複合体、並びにその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン複合体およびその製造方法に関するものであり、より詳しくはポリウレタンとシリカとのポリウレタン複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンは強靭性と柔軟性を併せもつ有用な高分子であり、フォームとしてはクッションや断熱材などに、また樹脂としては塗料、接着剤、インキ、シーリング材、エラストマーなど多種の分野、用途に利用されている。
【0003】
ポリウレタン樹脂の物性を更に向上させるため、無機化合物を樹脂中に分散させる試みは、従来より数多く行われており、樹脂の機械強度や耐熱性の向上に効果があることが認められている。無機物質の複合化方法としては、無機粉末をロール混練する方法が知られるが、ポリマー鎖の切断などベースとなる樹脂の物性が変化を生じたり、無機粒子の凝集などにより外観上の均一性が損なわれることが多い。このため、樹脂中に無機物質を微粒子として安定に分散、複合化させることが求められていた。この課題を解決するため、例えば、ポリウレタンの有機溶液中でアルコキシシランを加水分解、縮重合させて生成させた微粒子のシリカをポリウレタン中に分散させる方法が知られている(特許文献1)。また、水分散させたポリウレタンにケイ酸塩を添加し、引き続き酸を加えることにより、ポリケイ酸をポリウレタン中に複合化させる方法も知られている(特許文献2)。
【0004】
一方、水分散させた微粒子シリカを、水分散させたポリウレタン粒子と混合させて接着剤やコーティング材として用いる方法が知られている(特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特許第3613086号公報
【特許文献2】特開2006−183021号公報
【特許文献3】特開2007−75777号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、工業用原料として高価なアルコキシシランを用いており、製品の価格上昇が避けられない。また特許文献3もシリカ原料としては高価なコロイダルシリカを用いることになり、同様の問題を抱えている。一方、特許文献2では、安価なケイ酸塩を用いているものの、水分散ポリウレタンを一度得た後に複合化を実施しているため、操作が煩雑になる上、得られた複合体は、シリカ成分ではなくポリケイ酸のコンポジットであるとされている。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その課題は、安価な原料を用いるにもかかわらずポリウレタン中に微細なシリカを高含量で複合化したポリウレタン複合体およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らが鋭意検討した結果、親水基として特定量の酸性基を含有するポリウレタンプレポリマーに、ケイ酸塩の水性溶液を混合させた後、非中和のケイ酸塩を酸性基以外の酸成分によってシリカに転化することで、シリカ成分を含有するポリウレタン複合体が容易に得られることを見出し、さらにポリウレタンとシリカとの新規な固体複合体を熱成形して得たフィルムは、引張強度を大幅に向上させることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は、ポリウレタンと、酸性基を有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカ、および、該酸性基以外の酸成分とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカを含有することを特徴とするポリウレタン複合体およびその製造方法である。
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明のポリウレタン複合体は、ポリウレタンと、酸性基を有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカ、および、該酸性基以外の酸成分とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカを含有するものである。
【0011】
本発明のポリウレタン複合体が含有するポリウレタンは、分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートとポリオール化合物及びカルボン酸やスルホン酸などの酸性基を有するポリオール化合物によって構成されるものであり、ポリウレタンプレポリマーを鎖延長することにより得られるものである。
【0012】
本発明のポリウレタン複合体が含有するシリカは、酸性基を有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるものと、該酸性基以外の酸成分とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカがある。ポリウレタンプレポリマーが有する酸性基の量は特に限定するものではないが、シリカの分散性を確保するため、0.02〜1.0mmol/gが好ましい。
【0013】
本発明のポリウレタン複合体が含有するシリカの平均粒子径は特に限定するものではないが、得られる複合体の均質性を維持するため、30〜500nmであることが好ましい。
【0014】
本発明のポリウレタン複合体は、酸性基を有するポリウレタンプレポリマーと、酸性基で中和可能なアルカリ金属イオン量の1.2倍を超えるアルカリ金属イオンを含むケイ酸塩の水性溶液を混合し、さらに酸成分を添加することにより製造することができる。
【0015】
ポリウレタンプレポリマーは、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物を反応させることにより合成することができる。
【0016】
ポリイソシアネート化合物は特に限定するものではないが、炭化水素骨格中の炭素原子に直接イソシアネート基が2〜4個結合した化合物であり、例えば、芳香族ポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート等があげられる。芳香族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,4−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、粗製MDI、4,4’−ジイソシアナートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナートビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジイソシアナートジフェニルメタン、1,5−ナフチレンジイソシアネート、これらのビュレット化合物やイソシアヌレート化合物等が挙げられる。これらの化合物の中で、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましい。また上記の化合物を2種類以上混合して使用することもできる。また、脂肪族ポリイソシアネートとしては、例えば、線状の脂肪族ポリイソシアネートとして、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられ、脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、3−イソシアナトメチル−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、ビス−(4−イソシアナトシクロヘキシル)メタン(水添MDI)、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられ、芳香脂肪族ポリイソシアネートとして、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等が挙げられ、これらのビュレット化合物やイソシアヌレート化合物も含まれる。
【0017】
ポリオール化合物は特に限定するものではないが、炭化水素系骨格中の炭素原子に直接ヒドロキシル基が2〜4個結合した化合物である。ポリオール化合物(長鎖ポリオール)としては、例えば、ポリエステルポリオール(a)、ポリエーテルポリオール(b)、ポリカーボネートポリオール(c)、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0018】
ポリエステルポリオール(a)としては、例えば、縮合ポリエステルポリオール(a1)、ポリラクトンポリオール(a2)等が挙げられる。
【0019】
縮合ポリエステルポリオール(a1)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のジオール類とコハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸との反応物が挙げられ、具体的には、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレンアジペートジオール、ポリエチレンプロピレンアジペートジオール、ポリエチレンブチレンアジペートジオール、ポリブチレンヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(ポリテトラメチレンエーテル)アジペートジオール等のアジペート系縮合ポリエステルジオール、ポリエチレンアゼレートジオール、ポリブチレンアゼレートジオール等のアゼレート系縮合ポリエステルジオールを例示できる。
【0020】
ポリラクトンポリオール(a2)としては、例えば、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、これらの2種以上の混合物の開環重合物等が挙げられ、具体的にはポリカプロラクトンジオールを例示できる。
【0021】
ポリエーテルポリオール(b)としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、カテコール、ヒドロキノン、ビスフェノールA等の活性水素原子を少なくとも2個有する化合物の1種又は2種以上を開始剤として、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマーの1種又は2種以上を付加重合させた反応物が挙げられ、ブロック付加、ランダム付加又は両者の混合系の重合反応物でも良い。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールを例示できる。
【0022】
ポリカーボネートポリオール(c)としては、例えば、上記ジオール類とジメチルカーボネート等によって代表されるようなジアルキルカーボネートとの反応物が挙げられ、具体的には、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ3−メチルペンタメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等を例示できる。
【0023】
また上記の長鎖ポリオールに加えて、短鎖のポリオールを用いても良い。短鎖ポリオールとして特に限定するものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等の脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環族ジオール、ビスフェノールA、ハイドロキノン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン及びそれらのアルキレンオキシド付加体のポリオール、また多官能成分としてグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール等が挙げられる。
【0024】
さらに上記の長鎖ポリオールおよび短鎖ポリオールに加えて、ポリウレタン中に酸性基を導入するために、例えばカルボキシル基を有するジオールを用いることができる。具体的な化合物は、特に限定するものではないが、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等が挙げられる。これらを原料の一部として製造したカルボキシル基含有ポリエステルポリオールも好適に用いることができる。また、5−スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4−スルホフタル酸等によってスルホネート基が導入されたポリエステルポリオールを使用しても良い。
【0025】
これらの酸性基を導入可能なポリオール化合物を用いたポリウレタンプレポリマーへの酸性基の導入量は、通常、ポリウレタンプレポリマー1gあたり0.02〜1.0mmolが好ましく、0.05〜0.7mmolの範囲であることがさらに好ましい。
【0026】
本発明において、ポリウレタンプレポリマー調製におけるポリイソシアネート化合物とポリオール化合物の仕込み比については、特に限定されるものではないが、プレポリマーの高粘度化を防止し、かつ、鎖延長させる際にゲル化を防止するため、イソシアネート基と水酸基がモル比において、イソシアネート基/水酸基=1.03〜1.6であることが好ましい。
【0027】
ポリウレタンプレポリマーの調製条件については、プレポリマーの合成を行う際に反応を均一に進行させるため、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のイソシアネート基に不活性な有機溶剤を添加してもよい。
【0028】
ポリウレタンプレポリマーの合成の温度範囲は特に限定するものではないが、ウレタン化を十分に進行させ、かつ、ポリウレタンプレポリマー溶液の高粘度を防止するため、好ましくは30〜120℃、さらに好ましくは40〜90℃、特に好ましくは45〜80℃である。
【0029】
適性な反応時間は、反応温度等の条件に依存するが、通常0.1〜10時間反応させることでポリウレタンプレポリマーを得ることができる。
【0030】
本発明においては、酸性基を分子内に含むポリウレタンプレポリマーと、酸性基で中和可能なアルカリ金属イオン量の1.2倍を超えるアルカリ金属イオンを含むケイ酸塩の水性溶液を混合することにより、生成するシリカとポリウレタンとを複合化させる。
【0031】
使用されるケイ酸塩の水性溶液の種類は、JIS K 1408に記載された水ガラス1号、2号、3号などのAO・nSiOの組成式(式中、Aはアルカリ金属、nの平均値は1.8〜4を示す。)で表されるもの等を挙げることができる。また、nの平均値が0.8〜1.1である、メタ珪酸アルカリ(例えば、メタ珪酸ナトリウム1種、2種)も用いることができる。また、これらを希釈した水溶液を用いることもできる。
【0032】
本発明において、複合化の際に用いるケイ酸塩の水性溶液の濃度は特に限定するものではないが、均一微細にシリカを生成させ、かつ、中和される前に系が親水化されて水分散粒子が粗粒化するのを防止するため、ポリウレタンプレポリマー溶液の溶剤の量にもよるが、シリカ分の濃度として、0.1〜20重量%が好ましい。
【0033】
本発明において、複合化の際に用いるケイ酸塩水性溶液のアルカリ金属イオンと、ポリウレタンプレポリマー中の酸性基の当量比(アルカリ金属イオン/酸性基当量比)は、1.2を超えるものである。この場合、アルカリ金属イオンの量が酸性基の量に対して大幅に過剰であるが、複合化の前または後に酸を追加することで中和して酸と塩基のバランスを調整することにより、生成した複合体が高アルカリ性側に偏ることを防ぎ、好ましいフィルム物性を得ることができる。本発明において、当量比が1.2以下の場合は、形成されるシリカの量が不十分であるため、得られる複合体の物性向上が期待できない。
【0034】
本発明において、ポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を用いて複合化させる際、場合によっては強固なゲル状物が生成することがある。その場合には、ゲルを破砕し反応を進行させるために高いせん断力を持つミキサーを用いることが好ましい。
【0035】
本発明において、ポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を用いて複合化させる際、どちらを添加する形態にしても良い。即ち、ポリウレタンプレポリマーにケイ酸塩の水性溶液を添加しても、またその逆に攪拌中のケイ酸塩の水性溶液にポリウレタンプレポリマーを添加しても、ともにポリウレタン複合体を得ることができる。
【0036】
本発明においては、ポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を混合した後、酸成分を添加する。酸成分を添加することにより、酸成分とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカをポリウレタンと複合化する。酸成分としては特に限定するものではないが、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。添加量としては、ポリウレタンプレポリマーの酸性基より過剰に加えられたケイ酸塩の量に相当する量である。
【0037】
本発明において、ポリウレタンプレポリマーとケイ酸塩の水性溶液を反応複合化させた後、ポリウレタンプレポリマー中の末端イソシアネート基を用いて鎖延長すなわち高分子量化させることができる。鎖延長は、1級または2級のアミノ基を分子内に2つ以上有するポリアミン化合物を用いてウレア結合を形成させても良いし、水分子によりイソシアネート基を加水分解させた後、脱炭酸によるアミノ基生成を経由してウレア結合を形成させても良い。
【0038】
本発明において、鎖延長に用いられるポリアミン化合物は特に限定されるものではないが、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、ヒドラジン、炭酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどが挙げられる。
【0039】
本発明のポリウレタン複合体は、上記した製造により得られた凝集塊を水相と分離した後、乾燥することにより得ることができる。乾燥の条件としては特に限定するものではないが、ポリウレタンの劣化を避けるため100℃以下での乾燥が好ましい。
【0040】
本発明のポリウレタン複合体には、樹脂の耐久性を向上させる目的で、架橋剤を配合することができる。架橋剤としては、例えば、エポキシ化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等を挙げることができる。
【0041】
さらに、本発明の水性ポリウレタン複合体には、凝集性を阻害しない範囲で通常に使用される添加剤、例えば、可塑剤、粘着付与剤(ロジン樹脂、ロジンエステル樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂等)、充填剤、顔料、増粘剤、消泡剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、防腐剤等を配合することも可能である。
【0042】
本発明のポリウレタン複合体は、必要に応じて水洗などの脱塩操作および乾燥工程を加えた後、熱プレスなどの方法によりフィルムなど任意の形状に成形することが可能である。
【0043】
本発明のポリウレタン複合体を乾燥してフィルムに成形することにより、平均粒子径が30〜500nmのシリカを含有するフィルムとなる。
【発明の効果】
【0044】
本発明により、安価なケイ素原料を用いた簡易プロセスにより、ポリウレタンとシリカとの新規なポリウレタン複合体が製造可能であり、このポリウレタン複合体を用いることにより、強靭なフィルムを提供できる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を、実施例を用いて詳細に説明するが、それらの内容は本発明の範囲を特に制限するものではない。
【0046】
実施例および比較例において、機械物性は、厚さ0.8mmのフィルムについて、ダンベル状3号試験片を引張り速度毎分100mm、温度23度、相対湿度65%の雰囲気下で測定した。
【0047】
合成例(ウレタンプレポリマーの調製)
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(アルドリッチ社製)47.2g、ポリプロピレングリコール2000(キシダ化学社製)127.2g、ポリプロピレングリコール400(キシダ化学社製)16.4g、ジメチロールプロピオン酸(東京化成社製)6.6gのメチルエチルケトン(85g)溶液を、80℃で3時間撹拌してプレポリマー溶液を得た。
【0048】
実施例1(ポリウレタンとシリカのポリウレタン複合体)
合成例で得られたプレポリマー溶液(86g)にアセトン(34g)を加え、トリエチルアミン(1.6g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で3号水ガラス(10.9g)の水(70g)希釈溶液を加えた。更に水75gの追加に続き、ピペラジン(848mg)の水(14g)溶液を加えた後、酢酸(1.0g)の水(10g)溶液を加えた。析出した複合体を50gの水で2回洗浄後、70℃で一晩乾燥してポリウレタンとシリカとのポリウレタン複合体が得られた。
【0049】
得られたポリウレタンとシリカとのポリウレタン複合体を80℃の熱プレスにより熱成形してフィルムを得た。TEM写真の図上解析(n=50)からシリカの平均粒子径は76nmであった。
【0050】
得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に示す。ポリウレタンとシリカの複合化により、ポリウレタン単独よりも高い破断時応力を得ることができた。
【0051】
【表1】

成形したフィルムのTEM観察写真(TEMの装置名:日本電子製透過型電子顕微鏡JFM−2000FX、倍率:100000倍)を図1に示す。この写真から、本発明ではシリカ粒子がポリウレタン中に分散する様子が明瞭に画像に捉えられているので、シリカが複合化されていることが判断可能である。
【0052】
実施例2(ポリウレタンとシリカとのポリウレタン複合体)
合成例で得られたプレポリマー溶液(86g)に酢酸(2.0g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で3号水ガラス(10.9g)の水(70g)希釈溶液を加えた。更に水75gの追加に続き、ピペラジン(848mg)の水(14g)溶液を加えた。析出した複合体を50gの水で2回洗浄後、70℃で一晩乾燥して、ポリウレタンとシリカとのポリウレタン複合体が得られた。
【0053】
得られたポリウレタンとシリカとのポリウレタン複合体を80℃の熱プレスにより熱成形してフィルムを得た。TEM写真の図上解析(n=50)からシリカの平均粒子径は106nmであった。
【0054】
得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。ポリウレタンとシリカの複合化により、ポリウレタン単独よりも高い破断時応力を得ることができた。
【0055】
比較例1(対照フィルム(非複合化品))
合成例で得られたプレポリマー溶液(86g)にアセトン(34g)を加え、トリエチルアミン(1.6g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で水(180g)、ピペラジン(848mg)の水(10g)溶液を順次添加し、溶剤を減圧濃縮して水分散液(固形分濃度=20重量%)を得た。
【0056】
この水分散液を直径15cmのガラス製の容器中で室温下4日間乾燥させ、得られた固形物を80℃の熱プレスにより熱成形しフィルムを得た。
【0057】
得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。ポリウレタンとシリカの複合体に比べると、破断時応力は劣っていた。
【0058】
比較例2(対照フィルム(複合化品))
比較例1の方法で得られた乾燥フィルム(合計重量47.5g)に対し、シリカ粉末(VN−3、東ソー・シリカ製、平均粒子径>9μm)2.5gをロールで5分間混練した。得られたシリカ複合体を80℃の熱プレスにより熱成形しフィルムを得た。
【0059】
得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。ポリウレタンに対して同量のシリカ量でありながら、混練によるシリカ複合では破断時応力の向上は認められなかった。
【0060】
比較例3(対照フィルム(複合化品))
合成例で得られたプレポリマー溶液(86g)にアセトン(34g)を加え、トリエチルアミン(1.6g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で水(180g)、ピペラジン(848mg)の水(10g)溶液を順次添加し、溶剤を減圧濃縮して水分散液(固形分濃度=30重量%)を得た。
【0061】
この水分散液(31g)に、コロイダルシリカ(スノーテックスN、日産化学製、20重量%、平均粒子径10〜20nm)2.5gを加えて5分間攪拌混合した後、直径15cmのガラス製の容器中で室温下4日間乾燥させ、得られた固形物を80℃の熱プレスにより熱成形しフィルムを得た。
【0062】
得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。ポリウレタンに対して同量のシリカ量でありながら、コロイダルシリカとの混合では破断時応力の向上は認められなかった。
【0063】
比較例4(対照フィルム(複合化品))
合成例で得られたプレポリマー溶液(86g)にアセトン(34g)を加え、トリエチルアミン(1.6g)を加えた後、ホモミキサー攪拌下で水(180g)、ピペラジン(848mg)の水(10g)溶液を順次添加し、溶剤を減圧濃縮して水分散液(固形分濃度=20重量%)を得た。
【0064】
この水分散液(69g)に、3号水ガラス(2.5g)の2倍希釈溶液を加えた後、攪拌下、酢酸(690mg)を添加した。析出した複合体を50gの水で2回洗浄後、70℃で一晩乾燥し、得られたポリケイ酸化合物複合体を80℃の熱プレスにより熱成形しフィルムを得た。
【0065】
得られたフィルムについて、機械物性を測定した。その結果を表1に合わせて示す。ポリウレタンが水分散液を形成した後の段階でのケイ酸塩との混合は、一定の破断時応力の向上を示すものの、本発明による複合化方法に比べると効果が劣る。
【0066】
成形したフィルムのTEM観察写真(TEMの装置名:日本電子製透過型電子顕微鏡JFM−2000FX、倍率:100000倍)を図2に示す。この写真から、比較例4による複合化方法では、特許文献記載の通り粒子像が見難くポリケイ酸となっていることが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】実施例1で得られたフィルムのTEM観察写真を示す図である。
【図2】比較例4で得られたフィルムのTEM観察写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンと、酸性基を有するポリウレタンプレポリマーの酸性基とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカ、および、該酸性基以外の酸成分とケイ酸塩の中和によって形成されるシリカを含有することを特徴とするポリウレタン複合体。
【請求項2】
酸性基を有するポリウレタンプレポリマーと、酸性基で中和可能なアルカリ金属イオン量の1.2倍を超えるアルカリ金属イオンを含むケイ酸塩の水性溶液を混合し、さらに酸成分を添加することを特徴とする請求項1に記載のポリウレタン複合体の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のポリウレタン複合体より得られることを特徴とする、平均粒子径が30〜500nmのシリカを含有するフィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−84052(P2010−84052A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256068(P2008−256068)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】