説明

ポリエステルの製造方法、固相重縮合法および高強力ポリエステル繊維

【課題】極めて単純で精度および信頼性の高い方法でエステル化反応を制御することで、高品質のポリエステルおよび高強力ポリエステル繊維を安定的に製造する方法を提供すること。
【解決手段】芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー調製槽にて混合しスラリーとなし、該スラリーのスラリー流量を設定値±3%以内に制御して定量供給してエステル化反応を行い、得られたポリエステル低重合体を続いて重縮合反応槽に供給して重縮合することによりポリエステルを連続製造する方法であって、該ポリエステル製造工程より留出するグリコールを該ポリエステルの製造工程内設けた蒸留塔で、水を主成分とした低沸点留分を分留除去し、蒸留塔底部より取り出される残留分を回収グリコールとして循環再使用するポリエステルの製造方法において、蒸留塔の塔頂圧力を10〜300kPaの範囲に設定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエステル化反応を制御することにより、工程安定性を向上させ、安定したポリエステルを生産することができるポリエステルの製造方法、該ポリエステルを用いてなる固相重縮合法および該固相重縮合法で得られたポリエステルを用いてなる高強力ポリエステル繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、その優れた特性からフィルム、繊維、ボトルをはじめ様々な用途に用いられている。なかでもポリエチレンテレフタレートは機械的強度、耐薬品性、寸法安定性に優れることから、一般的に使用されている。
【0003】
一般に直接エステル化法によるポリエステルの製造は、エステル化反応と重縮合反応の2段階で行われる。ポリエチレンテレフタレートの製造において、製造工程を安定化させるためには、エステル化反応によって得られる中間体である低重合体のカルボキシル末端基とヒドロキシル末端基の比率(以下「末端基比」と記載)を調整することが重要とされている。
【0004】
例えば、末端基比が大きく変動すると重縮合工程において重縮合反応の進行速度が変動するために、エチレングリコール除去の負荷変動を生じたり、ポリマーが所定の重合度に到達しない等の問題が発生する。品質においてはポリマーの色相が変化するような現象が生じる。
【0005】
一般にポリエステル製造方法においては、得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度が高くなるとポリエステルの加水分解性等の安定性が悪化することや該ポリエステルのカルボキシル末端基濃度は、ポリエステルの製造において重縮合反応工程へ供給される最終エステル化反応生成物であるオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の影響を大きく受けることより、該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度を低くした状態で重縮合工程に供給することにより製造されている。例えば、エステル化反応率が90〜98%になるように、エステル化反応時の温度、圧力、滞留時間およびエチレングリコール供給量からなる群より選ばれるすくなくとも1種の反応条件を調節し、重縮合反応後のポリエステルのカルボキシル末端基濃度を20〜50eq/tonの範囲内の一定量となるように制御する方法(特許文献1参照)、エステル化反応率が92〜98%の範囲であり、かつ全末端基中のカルボキシル末端基の割合が35%以下のオリゴマーとし、これを減圧下に重縮合反応させてポリエステル中のカルボキシル末端基濃度を35eq/ton以下にする方法(特許文献2参照)、第1段重縮合反応時の温度、滞留時間およびエチレングリコール供給量からなる群より選ばれる少なくとも1種の反応条件を調節するか、もしくはエステル化反応物のエステル化反応率と共に第1段重縮合反応条件を調節し、重縮合反応後のポリエステルのカルボキシル末端基量を15〜50eq/tonの範囲内の一定値となるように制御する方法(特許文献3参照)、最終反応容器へ供給されるポリエステル低重合体のカルボキシル末端基濃度を9〜30eq/tonとする方法(特許文献4)が開示されている。
【0006】
しかしながら、ポリエステル製造に用いられる重縮合触媒系の種類やポリエステルを限定された用途に用いる場合に、前記した方法が必ずしも最適でなく、重縮合反応工程に供給される最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を高くした方法が、重縮合活性が高かったり、あるいは高品質のポリエステルが得られるということがある。これらの場合においては、前記方法に比べてオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が後続の重縮合反応の反応進行やポリエステル品質に対して極めて大きく影響するために、該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動を抑制する必要がある。
【0007】
一方、製品ポリマーの色調を測定し、その測定値の目標値に対する偏差に応じてエステル化工程でのエステル化率を調節する方法、製品ポリマーの色調を測定し、その測定値の目標値に対する偏差に応じて第1重縮合反応時の滞留時間を調節する方法および製品ポリマーの色調および極限粘度を測定してその測定値の目標値に対する偏差に応じて第1段重縮合反応缶へのエチレングリコールの供給量を調節することにより、製造されるポリエステルの色調(b値)の標準偏差が平均値の0.05倍以内に保ち、かつ極限粘度の標準偏差が平均値の0.005倍以内に保つ方法が開示されている(特許文献5〜7参照)。
【0008】
しかし、前記の方法では、製品ポリマーの色調を測定した時点では、すでに重縮合反応が進行しているので、エステル化率の調節が遅れるために、前記問題が解消されているとはいえない。
【0009】
前記課題を解決する方法として、エステル化反応生成物の電気伝導度をオンライン測定してその結果によりエステル化反応を制御する方法が開示されている(例えば、特許文献8〜11等参照)。該方法は、エステル化反応生成物の電気伝導度とエステル化反応度が比例することを利用してエステル化反応を制御する方法であり、エステル化反応度を直接測定している点で、前記した方法よりは一歩前進した制御方式である。しかしながら、該方法は、エステル化反応により生ずる水や未反応のエチレングリコールの影響でエステル化反応生成物の電気伝導度に変動を与える等の外乱の影響が大きいという課題を有している。
【0010】
前記課題を解決する方法として、ポリエステルの製造工程中の原料、反応中間生成物または最終生成物のうち1種以上についての近赤外線特性を連続的に測定し、得られた分光スペクトルから測定物中の物性を解析し、解析データに基づいて製造工程中の反応条件を制御する方法が開示されている(特許文献12参照)該特許文献において、ポリエステル連続製造工程の重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口に近赤外線吸収スペクトルの検出端子を設置して、常時抜き出し口を通過するポリエステルのカルボキシル末端基濃度を連続的に測定すると供に、第2エステル化反応槽の出口にも近赤外線吸収スペクトルの検出端子を設置して、該検出端子部を通過するポリエステルオリゴマーのエステル化率を連続測定し、目標エステル化率になるように第2エステル化反応槽温度調節器へフィードバックし、生成ポリエステルのカルボキシル末端基濃度変化を抑制する方法や、赤外線分光吸収を連続測定し反応を制御する方法(特許文献13参照)が開示されている。これらの方法は、ポリエステルのカルボキシル末端基濃度を安定化する制御方法としては有効な方法であるが、長期にわたり連続生産をした場合は、検出器の汚染や検出部の温度や圧力等の環境変化等により測定の変動が発生する等の課題があり長期連続運転における信頼性が劣ることがあるという課題を有する。そのために、より単純化された制御方法で精度よく、かつ長期運転した時の信頼性の高い方法の構築が嘱望されている。
【0011】
該単純化された制御方法として、ポリエステルの製造工程へ供給するテレフタル酸とエチレングリコールとからなるスラリーの密度や濃度を連続測定して、該測定値より求められるスラリー中のテレフタル酸に対するエチレングリコールのモル比に基づいてエステル化反応を制御する方法やスラリー濃度の変化に応じてスラリー中のテレフタル酸とエチレングリコールとの比率の変動を制御する方法が開示されている(特許文献14および15参照)。例えば、特許文献14において、5日運転した時の、供給スラリーのエチレングリコール/テレフタル酸のモル比の変動が1.51±0.66%に制御され、結果として第1段エステル化後のエステル化反応率が85.0±1.0%に、第2段エステル化後のエステル化反応率が95.0±0.5%になることが開示されている。
【0012】
これらの方法はエステル化反応の変動を抑制する方法として有効な方法であり、エステル化反応率に関しては高い精度で制御が可能であるが、エステル化反応率はポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度とヒドロキシル末端基濃度の両方より求められ、エステル化反応においては、一般には、該カルボキシル末端基濃度とヒドロキシル末端基濃度の変化は連動しており、エステル化反応率の変動率はカルボキシル末端基濃度単独の変動率よりも小さくなる。従って、ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の安定化の要求に関しては、該スラリー密度制御のみでは不十分な場合がある。また、該方法は、長時間の連続運転を行う場合には、スラリー濃度検出器部がスラリー中の固形分であるジカルボン酸により閉塞する事態の生ずる場合があり、前記方法の課題が完全に解決するに至っていない。例えば、特許文献14において、スラリー濃度計を並列に2式備え、それらのいずれかを使用するように切り替え可能として、一定時間毎に交互に使用する方法が開示されているが、満足できるものではない。
【特許文献1】特開平10−176043号公報
【特許文献2】特開平10−251391号公報
【特許文献3】特開平11−106498号公報
【特許文献4】特開2001−329058号公報
【特許文献5】特許3375403号公報
【特許文献6】特開2004−75955号公報
【特許文献7】特開2004−75957号公報
【特許文献8】特公昭51−41679号公報
【特許文献9】特開昭48−103537号公報
【特許文献10】特開昭52−19634号公報
【特許文献11】特公平5−32385号公報
【特許文献12】特開平11−315137号公報
【特許文献13】特開平5−222178号公報
【特許文献14】特開平6−247899号公報
【特許文献15】特開2004−75956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、前記従来の方法の有する問題点に鑑み、極めて単純で精度および信頼性の高い方法でエステル化反応を制御することで、高品質のポリエステルおよび高強力ポリエステル繊維を安定的に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために鋭意検討し、最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度変動を抑制するには、第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動を抑制することが重要であり、該特性の変動を抑制すれば、最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度変動が極めて小さくできることを見出した。また、該第1エステル化反応槽出口のカルボキシル末端基濃度の変動は、第1エステル化反応槽へ供給するポリエステル原料スラリーの定量性、エステル化反応槽の圧力変動および回収グリコール中の水分量等が大きく影響していることを見出して本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明のポリエステルの製造方法は、芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー調製槽にて混合しスラリーとなし、該スラリーのスラリー流量を設定値±3%以内に制御して定量供給してエステル化反応を行い、得られたポリエステル低重合体を続いて重縮合反応槽に供給して重縮合することによりポリエステルを連続製造する方法であって、該ポリエステル製造工程より留出するグリコールを該ポリエステルの製造工程内設けた蒸留塔で、水を主成分とした低沸点留分を分留除去し、蒸留塔底部より取り出される残留分を回収グリコールとして循環再使用するポリエステルの製造方法において、蒸留塔の塔頂圧力を10〜300kPaの範囲に設定することを特徴とする。
【0016】
この場合において、前記蒸留塔を少なくとも2基設けて、第1エステル化反応槽から留出するグリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとを区分して、水を主成分とした低沸点留分を分留除去することが好ましい。
【0017】
また、この場合において、エステル化反応槽圧力を前記蒸留塔の塔頂圧力で制御することが好ましい。
【0018】
また、この場合において、前記蒸留塔の塔頂圧力の変動幅を設定値±4%以内に制御することが好ましい。
【0019】
また、この場合において、前記グリコールがエチレングリコールであることが好ましい。
【0020】
また、前記グリコールがエチレングリコールである場合において、前記分留において、残留分を回収グリコールとしてスラリー調製槽の戻すラインを有する蒸留塔の中段温度を106±3℃に制御することが好ましい。
【0021】
また、この場合において、エステル化反応槽に供給するスラリーのジカルボン酸/グリコールのモル比を設定値±0.3%以内に制御することが好ましい。
また、この場合において、エステル化反応槽に供給するスラリー温度を設定値±4℃以内に制御することが好ましい。
【0022】
また、この場合において、第1エステル化反応槽温度を設定値±3%以内に制御することが好ましい。
【0023】
また、この場合において、第1エステル化反応槽の液面レベルを設定値±2%以内に制御することが好ましい。
【0024】
また、この場合において、第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を設定値の±10%以内に制御することが好ましい。
【0025】
また、この場合において、最終エステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が設定値±6%以内であることが好ましい。
【0026】
また、本発明のポリエステルの固相重縮合法は、前記のポリエステル製造方法により得られたポリエステルを固相重縮合することを特徴とする。
【0027】
さらにまた、本発明の高強力ポリエステル繊維は、前記の固相重縮合法で得られたポリエステルを紡糸して得たものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明のポリエステル製造方法によれば、エステル化反応工程に供給する原料スラリーの流量変動を特定範囲に制御する等の極めて単純な方法により第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を特定範囲に制御することができ、その結果、重縮合反応槽に供給するポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が抑制されるので次行程の重縮合反応の変動が抑制される。そのために得られるポリエステルの品質変動が抑制され極めて均質なポリエステルが安定して生産することができる。本発明のポリエステルの製造方法は、エステル化反応が、計測精度が高く、かつ長期運転をしても計測値の信頼性が安定しているスラリー流量で制御されるので長期連続運転しても制御系の信頼性が安定しているという特徴を有する。また、本発明のポリエステル製造方法は、ポリエステルの製造工程で発生するグリコールが再使用されるのでポリエステル製造コストが低減できるという利点を有する。その上に、回収グリコールの送液ラインの詰まり防止のための改善がなされており、長期にわたり安定して生産を続けることができるという特徴を有する。さらに、該グリコールを回収する蒸留塔の設備費や該蒸留におけるランニングコストが低減できるので、ポリエステルの製造コストの大幅な低減に繋げることができる。その上に、回収グリコール中の水分量が特定範囲に制御されるので、前記エステル化反応の安定化が維持できるという利点を有する。従って、品質と経済性のバランス、すなわちコストパフォーマンスが極めて高いポリエステルの製造方法であるといえる。
【0029】
また、該ポリエステルをプレポリマーとして用いることにより、固相重縮合反応の安定化ができ、該固相重縮合ポリエステルを用いることにより、高強力繊維の紡糸操業性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明のポリエステルの製造方法の実施形態を説明する。
【0031】
本発明にいうポリエステルは、主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレートであるポリエステルであって、好ましくはエチレンテレフタレート単位を70モル%以上含む線状ポリエステルであり、さらに好ましくは80モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含む線状ポリエステルである。
【0032】
前記ポリエステルが共重合体である場合に使用される共重合成分としてのジカルボン酸としては、オルソフタル酸、イソフタル酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル―4,4―ジカルボン酸、4,4'−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン―p,p'―ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸およびその機能的誘導体、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(2−ヒドロキシエトキシ)安息香酸、4−ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはその機能的誘導体、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スペリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、テトラデカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸およびその機能的誘導体、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸およびその機能的誘導体などがあげられる。
【0033】
前記ポリエステルが共重合体である場合に使用される共重合成分としてのグリコールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,2−ブチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,10−デカメチレングリコール、1,12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの脂肪族グリコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノールなどの脂環族グリコール、ヒドロキノン、4,4'−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などの芳香族グリコールなどが挙げられる。
【0034】
前記ポリエステルの共重合に使用される環状エステルとしては、ε−カプロラクトン、β−プロピオンラクトン、β−メチル−β−プロピオンラクトン、γ−バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0035】
さらに、前記ポリエステルが共重合体である場合に使用される共重合成分としての多官能化合物としては、酸成分として、トリメリット酸、ピロメリット酸などを挙げることができ、グリコール成分としてグリセリン、ペンタエリスリトールを挙げることができる。
【0036】
以上の共重合成分の使用量は、ポリエステルが実質的に線状を維持する程度でなければならない。また、単官能化合物、例えば安息香酸、ナフトエ酸などを共重合させてもよい。
【0037】
また、本発明のポリエステルには公知のリン化合物を共重合成分として含むことができる。リン系化合物としては二官能性リン系化合物が好ましく、例えば2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、9,10−ジヒドロ−10−オキサ−(2,3−カルボキシプロピル)−10−ホスファフェナンスレン―10―オキサイドなどが挙げられる。これらのリン系化合物を共重合成分として含むことで、得られるポリエステルの難燃性などを向上させることが可能である。
【0038】
また、本発明のポリエステルには公知のリン化合物を共重合成分として含むことができる。リン系化合物としては二官能性リン系化合物が好ましく、例えば2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、9,10−ジヒドロ−10−オキサ−(2,3−カルボキシプロピル)−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイドなどが挙げられる。これらのリン系化合物を共重合成分として含むことで、得られるポリエステルの難燃性などを向上させることが可能である。
【0039】
本発明においては、前記ポリエステルを直接エステル化法で、かつ連続法で実施するのが好ましい。
【0040】
直接エステル化法はエステル交換法に比べ経済性の点で有利である。また、連続式重縮合法は回分式重縮合法に比して品質の均一性や経済性において有利である。
【0041】
本発明においては、エステル化および重縮合工程の反応器の個数やサイズおよび各工程の製造条件等は限定なく適宜選択できる。
【0042】
例えば、テレフタル酸1モルに対して1.02〜2.0モル、好ましくは1.03〜1.95モルのエチレングリコ−ルが含まれたスラリ−を調製し、これをエステル化反応工程に連続的に供給する。エステル化反応は、2個以上のエステル化反応槽を直列に連結した多段式装置を用い反応によって生成した水を精留塔で系外に除去しながら実施する。第1段目のエステル化反応の温度は240〜270℃、好ましくは245〜265℃、圧力は常圧〜0.29MPa、好ましくは0.005〜0.19MPaである。最終段目のエステル化反応の温度は通常250〜290℃好ましくは255〜275℃であり、圧力は通常0〜0.15MPa、好ましくは0〜0.13MPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階のエステル化反応の反応条件は、前記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらのエステル化反応の反応率の上昇は、それぞれの段階で滑らかに分配されることが好ましい。最終的にはエステル化反応率は90%以上、好ましくは93%以上に達することが望ましい。これらのエステル化反応により分子量500〜2000程度の低次縮合物が得られる。
【0043】
引き続き重縮合反応槽に移送し重縮合を行う。該重縮合工程の反応槽数も限定されない。一般には初期重縮合、中期重縮合および後期重縮合の3段階方式が取られている。重縮合反応条件は、第1段階目の重縮合の反応温度は250〜290℃、好ましくは260〜280℃であり、圧力は0.065〜0.0026MPa、好ましくは200〜20Torrで、最終段階の重縮合反応の温度は265〜300℃、好ましくは275〜295℃であり、圧力は0.0013〜0.000013MPa、好ましくは0.00065〜0.000065MPaである。3段階以上で実施する場合には、中間段階の重縮合反応の反応条件は、前記第1段目の反応条件と最終段目の反応条件の間の条件である。これらの重縮合反応工程の各々において到達される極限粘度の上昇の度合は滑らかに分配されることが好ましい。
【0044】
本発明においては、前記のポリエステル製造工程より留出するグリコールを該ポリエステルの製造工程内設けた蒸留塔で、水を主成分とした低沸点留分を分留除去し、蒸留塔底部より取り出される残留分(以下、回収グリコールと称することもある)を循環再使用することが重要である。該対応によりポリエステルの製造コストの低減を図ることができる。
【0045】
本発明においては、前記蒸留塔の塔頂圧力を10〜300kPaにすることが好ましい。また、本発明においては、エステル化反応槽圧力を前記蒸留塔の塔頂圧力で制御するのが好ましい。該圧力は20〜250kPaが好ましく、50〜200kPaがより好ましい。また、該圧力は前記範囲において、その変動幅を±4%以内に制御することが好ましい。該変動幅は、±3%以内がより好ましく、±2.5%以内がさらに好ましい。一方、該変動幅の下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。
【0046】
以下、該圧力調整に関しては、特にことわらない限りにおいては、エステル化反応槽圧力を前記蒸留塔の塔頂圧力で制御する方法について述べる。
【0047】
10kPa(ゲージ圧)未満では、大気圧変動による圧力変動の影響を受け、蒸留塔の温度管理精度の低下に繋がる。また、該塔頂圧力でエステル化反応槽の圧力調整をする方法においては、大気圧の変動によりエステル化反応槽の圧力が変化しエステル化反応の変動増大に繋がるので好ましくない。一方、300kPa(ゲージ圧)を超えた場合は、分留精度の低下に繋がる。また、該塔頂圧力でエステル化反応槽の圧力調整をする方法においては、エステル化反応工程におけるジエチレングリコール(DEG)の副生が増大に繋がるので好ましくない。さらに、エステル化反応槽の圧力の増大により、圧力変動によるエステル化反応に対する影響度が大きくなるためにエステル化反応の変動が増大するので好ましくない。また、該圧力の変動幅が前記範囲を超えた場合は、エステル化反応の変動が増大して、得られるポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動に繋がり、その結果としてポリエステルの品質変動の増大に繋がるので好ましくない。
【0048】
前記の蒸留塔の塔頂圧力の制御方法は限定されない。例えば、蒸留塔のベント配管に調圧弁を設置し、該調圧弁で調整する方法や該ベント配管を水封し、該水封の液面あるいは水封部分の配管の位置変更で調整する方法などが挙げられる。
【0049】
本発明おいては、前記グリコールの回収方法は、蒸留塔を少なくとも2基設けて、第1エステル化反応槽から留出するグリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとを区分して分留することが好ましい。
【0050】
一般に、ポリエステル製造方法におけるエステル化反応は2個以上の反応槽で行う多段反応方式で実施されることが多い。該方法においては、エステル化反応槽から留出するグリコールおよび該グリコールに含まれる水分量は後段になるに従い少なくなる。また、重縮合工程で発生するグリコールは水分含有量がさらに少なくなる。特に、第1エステル化反応槽からグリコールはポリエステルの製造工程で発生するグリコールの約70%以上を占めることが多く、かつ水分量も圧倒的に多い。従って、第1エステル化反応槽よりから留出グリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとは区分してそれぞれ別個の蒸留塔で分留した方が留出液の全量を1基の蒸留塔で分留する前記特許文献11や12で開示されている方法よりもコストパフォーマンスを高めることができる。すなわち、蒸留塔を分割することにより、それぞれの反応槽で発生するグリコール量および水分量に見合った性能とサイズが設定できるのでトータルの蒸留塔の設備投資や、分留のランニングコストの低減に繋げられるので経済的に有利である。また、回収グリコールの品質安定化の点でも有利である。該蒸留塔の塔数は限定されないが2基が好ましい。3基以上でも構わない。
【0051】
本発明において2基以上の蒸留塔で分割分留する場合は、第1エステル化反応槽よりの留出グリコールは水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分をスラリー調製槽に戻して再使用するのが好ましい(以下、スラリー調製槽に戻して再使用するグリコールを回収グリコールと称する)。一方、第2エステル化反応槽以降の反応槽より留出するグリコールは水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分をスラリー調製槽に戻して再使用してもよいし、第1エステル化反応槽の留出グリコールを分留する蒸留塔に供給して第1エステル化反応槽からの留出グリコールの残留分と合わせて再分留をしてスラリー調製槽の戻してもよい。また、両者を併用してもよい。特に、第2エステル化反応槽以降の反応槽より留出するグリコールは水を主体とした低沸点留分を分留除去した残留分の全量を第1エステル化反応槽の留出グリコールを分留する蒸留塔に供給して第1エステル化反応槽からの留出グリコールの残留分と合わせて再分留してスラリー調製槽に戻す方法は、分留の精度が向上することができる。さらに、後述する回収グリコール中の水分量の制御が一箇所になり、制御が簡略化されるという2重の効奏が発揮される。
【0052】
前記方法に用いられる蒸留塔の性能は限定されないが、8〜18段が好ましい。9〜15段がより好ましい。泡鐘カラムおよび充填カラムのどちらでもよい。蒸留塔を複数設けて実施する場合は、全蒸留塔を同じ性能のものを用いてもよいし、それぞれの性能を変えてもよい。第2エステル化反応槽以降の留出分の分留物を第1エステル化反応槽の留出分の分留用蒸留塔に供給し再分留する場合は第1エステル化反応槽に設置する蒸留塔より第2エステル化反応槽に設置する蒸留塔は段数を低くしてもよい。
【0053】
前記方法により回収される回収グリコール中にはエステル化工程で発生する水が含まれる。該水分量はポリエステルの製造において、例えばエステル化反応の進行に影響し、結果としてポリエステルの品質や生産性に影響が及ぶ。従って、該水分量を制御しないと高品質のポリエステルを安定して生産することができない。該課題を回避する方法としては、前記の蒸留塔の性能を高めて実質的に水分が含まれないグリコールを得る方法がある。該方法は、ポリエステルの反応や品質を安定化させる点では有効であるが、高性能の蒸留塔が必要となり経済性の点で不利となる。一方、水分量が高くなるとグリコールの回収の経済性は向上するが、ポリエステルの品質の安定化に関しては不利になる。本発明者等は、該回収グリコールの最適な水分量について鋭意検討して、該回収グリコール中の水分量はX±2.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内に制御することが好ましいことを見出した。X±1.5質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内がより好ましく、X±1.0質量%(但しXは2以上3以下の数を表す)以内がさらに好ましい。一方、変動範囲の下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.1質量%がより好ましく、±0.3質量%が好ましい範囲である。
【0054】
かかる方法で実施することにより、前記した水分量によるエステル化反応への影響の安定化と回収コストのバランスが取ることができる。さらに、その上に、該回収グリコール中の水分によりカルボン酸とグリコールよりなるスラリーの流動性が向上し、エステル化反応の安定化に繋がり、結果としてポリエステルの品質の安定化に繋がるという効果が発現される。すなわち、ポリエステルの製造を新規グリコールのみで製造あるいは、回収グリコールの水分量を実質的に無水状態にして回収して製造する場合に比べて、回収グリコール中の水分によりスラリーの流動性が向上し、該スラリーのエステル化反応槽への供給精度が向上し工程や品質の安定化に繋げることができる。
【0055】
また、スラリー調製時のグリコール使用量を低くしてもスラリーの供給安定性が確保できるのでスラリー中のグリコール量比を下げてとも安定生産が可能となり経済的に有利となる。すなわち、設定値が3質量%を超えた場合は、スラリーの流動性の向上効果が飽和する上に、エステル化反応が不安定になりポリエステルオリゴマーの特性変動が大きくなり、結果として最終ポリエステルのカルボキシル末端基濃度や色調等の品質変動が大きくなるので好ましくない。逆に、設定値が2質量%未満では、回収コストが上がり、かつスラリーの流動性が悪化するので好ましくない。また、変動範囲が±2質量%を超えた場合は、エステル化反応が不安定になりポリエステルオリゴマーの特性変動が大きくなり、結果として最終ポリエステルのカルボキシル末端基濃度や色調等の品質変動が大きくなるので好ましくない。
【0056】
前記の回収グリコール中の水分量を前記範囲にする方法は限定されないが、蒸留塔の塔頂圧力を前記範囲で制御した上で蒸留塔の温度の制御を行い、蒸留塔底部より取り出される分留の残留分中の水分量を制御するのが好ましい。
【0057】
本発明は、グリコールとしてエチレングリコールを用いたポリエステルの製造方法に適用するのが好ましい。該グリコールとしてエチレングリコールを用いる場合は、前記分留において、残留分を回収グリコールとしてスラリー調製槽の戻すラインを有する蒸留塔の中段温度を106±3℃に制御することが好ましい。該制御は前記した圧力制御と連動して実施することが好ましい。
【0058】
一般に蒸留塔の制御は蒸留塔の塔頂温度で管理されるが、本発明の分留においては、該塔頂温度で管理して、蒸留塔の底部より取り出される残留分中の水分量に制御するには、極めて範囲の狭い温度制御をする必要がある。一方、例えば、特許文献10で開示されている塔底部の温度で管理した場合は、塔頂温度が成り行き任せとなり、塔頂より取り出される水を主体とした低沸点留分中のエチレングリコール量の変動が大きくなる。一般に、該低沸点留分は廃棄処分されるので該低沸点留分中のエチレングリコール量の変動が大きくなると廃液の処理負荷の変動に繋がり、環境負荷が増大するので好ましくない。蒸留塔中段の温度管理をすることにより、前記課題のバランスが取れる。なお、中段温度とは、蒸留塔の棚段のほぼ中央部を意味している。すなわち、棚段数が奇数段の場合は中央の棚段部に、偶数の場合は、2分割した各分割部の中央側の棚段のいずれかの部分の温度を指す。該温度範囲は106±2℃がより好ましい。該温度が103℃未満では、残留分中の水分量が前記範囲より多くなるので好ましくない。一方、109℃を超えた場合は、残留分中の水分量が前記範囲より少なくなり、かつ低沸点留分中のエチレングリコール量が増大し、該低沸点留分を廃液処理する場合の負荷が増大するので好ましくない。
【0059】
本発明においては、前記蒸留塔の性能を高めて回収エチレングリコール中の水分量を1質量%以下として、該回収エチレングリコールに水を添加して前記水分量範囲に調整しても構わない。また、蒸留塔底部より取り出される残留分中の水分量を、例えば、近赤外分光光度計を用いてオンラインで計測して回収エチレングリコール中の水分量の制御精度を向上させる方法を採用してもよい。
【0060】
残留分を回収グリコールとしてスラリー調製槽の戻すラインを有しない蒸留塔の場合、例えば、蒸留塔を2基として、第2エステル化反応槽以降の留出分を処理する蒸留塔の残留分を第1エステル化反応槽の留出分を処理する蒸留塔に供給し、第1エステル化反応槽より留出するグリコールと併せて再分留して回収グリコールとする場合は、第2エステル化反応槽以降の留出分を処理する蒸留塔については、前記温度管理の適用は任意であり、回収の収率や消費エネルギーがベストになる条件を考慮して設定するのが好ましい。該方法で実施する場合は、第2エステル化反応槽以降の留出分の残留物を第1エステル化反応槽の留出分を処理する蒸留塔の中段部分に供給するのが好ましい。該方法により効率的な再分留が可能となる。一方、該2基の蒸留塔を用いて分留する方法において、両方の蒸留塔の残留分を回収グリコールとして戻して再使用する方法においては、両方の蒸留塔を前記温度範囲で管理することが好ましい。
【0061】
前記のグリコール回収方法においては、エステル化反応槽からの留出物の低沸点留分の分留除去は、留出物自体が有する熱により連続的に行うことが好適である。このことにより、運転経費の節減と設備の簡略化をより高めることができる。必要に応じて、配管の加熱や熱交換により補助加熱してもよい。一方、重縮合反応槽からの留出物は、湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収されるので、加熱して蒸留塔に供給することが必要となる。
【0062】
また、エステル化反応槽より留出するグリコールの場合は、該グリコールに含まれる固形分は融点が低く、エステル化反応工程で反応系に溶解、反応してポリエステルに取り込まれるので除去する必要はない。ただし、蒸留塔の底部より取り出される残留分の温度が低くなると該固形分が固化し、該残留分の送液ライン詰まりが起こるので、該残留分の温度は160℃以上に保つのが好ましい。また、該残留分の一部を蒸留塔の中段部に循環させることが好ましい。循環に用いるポンプはリバース形とノンリバース形のどちらでもよいが、リバース形が好ましい。該循環量は残留分の30〜75質量%が好ましい。35〜70質量%がより好ましい。循環液の蒸留塔への供給位置は限定させない。該循環により前記の残留分の送液ライン詰まり発生が抑制でき、長期にわたる安定生産が可能になる。
【0063】
一方、重縮合反応槽より留出する留分に含有される固形分は融点が高く、回収グリコールに含有されてポリエステル製造工程に循環されるとポリエステル製造工程でポリエステルに反応せずに異物の発生に繋がる場合があるので好ましくない。従って、該固形分を回収グリコールに混入させない方策を取り入れるのが好ましい。該方策は限定されないが湿式コンデンサーで冷却凝縮して回収された凝縮液中の固形分を除去し蒸留塔に供給するのが好ましい。該固形分の除去方法も限定されない。例えば、濾過、遠心分離あるいは自然沈降等およびこれらを組み合わせた方法で実施するのが好ましい。
【0064】
前記方法で回収された回収グリコールの再使用方法は限定されない。回収グリコール貯槽に蓄え、再使用するのが好ましい。この場合、蒸留塔下部の体積を大きくしてこの部分に貯留を回収グリコール貯槽への供給量を調整してもよい。また、回収グリコール貯留することなく直接スラリー調製槽に供給してもよい。
【0065】
本発明においては、スラリー調製に用いられる回収グリコールの使用割合は限定されないが、ポリエステル製造工程で発生するグリコールの全量を使用し、不足分を新規のグリコールで供給する自己バランス方式で実施するのが好ましい。
【0066】
本発明においては、前記方法で回収された回収グリコールおよび/または蒸留塔底部より取り出される残留分を第2エステル化以降の反応槽に供給するグリコールとして使用してもよい。
【0067】
本発明においては、ジカルボン酸とグリコールとからなるスラリーをスラリー調製槽で調製して該スラリーをエステル化反応槽に連続的に定量供給し、複数のエステル化反応槽を用いてエステル化反応を行い引き続き重縮合を行いポリエステルを連続的に製造する方法において、エステル化反応槽への供給する該スラリーのスラリー流量を設定値±3%以内に制御することが重要である。
【0068】
前記した特許文献等で開示されている技術においては、ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基は重縮合工程に供給されるポリエステルオリゴマーの値に注目されその制御がなされている。該重縮合工程に供給されるポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度により、後続の重縮合反応の進行やポリエステル品質に対して大きな影響を及ぼすことより当然の帰結である。
【0069】
本発明者等は、最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動を抑制する方法について鋭意検討し、該最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動は、第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度によりほぼ支配されることおよび該第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度は、前記したエステル化反応系に供給するスラリーの影響を大きく受け、該スラリー流量を制御することにより、第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が抑制でき、結果として後続の重縮合反応やポリエステル品質に対して大きな影響を及ぼす最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度変動が抑制されることを見出した。当然のことであるが、第1エステル化反応槽以降のエステル化反応条件により最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が変化するので、該反応条件は一定範囲に制御する必要があるが、該制御は従来公知の方法を適用し制御するレベルで、本発明方法で得られる高度なカルボキシル末端基濃度の制御が可能となる。
【0070】
前記の第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動を抑制するには、原料スラリーの第1エステル化反応槽への供給量を設定値±3%以内に制御することが重要である。±2.5%以内がより好ましく、±2.0%以内がさらに好ましい。下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点から±0.3%以内であるのがより好ましく、±0.5%以内であるのが好ましい。該スラリーの供給量の制御方法は限定されない。例えば、流量計を用いて設定流量になるように送液ポンプ回転数を変更する方法、送液ラインの送液ポンプの後に、スラリー調合槽に戻るバイパスラインを設け、送液ポンプの回転数を一定回転とし、送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるようにバイパスラインに設けたコントロール弁の開度を調整する方法、スラリー調製槽と第1エステル化反応槽の位置に高低差を設けて、ヘッド圧でスラリーの送液を行い、該送液ラインに設けた流量計の流量が一定になるように送液ラインに設けたコントロール弁の開度調整により行う等が挙げられる。流量計の種類は限定されない。例えば、ローター流量計、ローターピストン流量計、オーバル流量計およびマイクロモーション流量計等が挙げられる。また、第1エステル化反応槽の液面レベルが一定になるように調整してもよい。
【0071】
前記スラリー流量変動抑制により、第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度変動が抑制されるのは、該流量変動により引き起こされる第1エステル化反応槽に持ち込まれる熱量の変動による、第1エステル化反応槽の温度制御の過応答が抑制されるために引き起こされているものと推察される。
【0072】
また、該スラリーの中のジカルボン酸とグリコールとのモル比もエステル化反応に影響するので一定範囲に制御することが好ましい。該変動範囲は、前記した公知技術の範囲で十分である。設定値±0.3%以内が好ましい。設定値±0.25%以内がより好ましく、設定値±0.2%以内がさらに好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.01%以内であるのがより好ましく、±0.02%以内であるのが好ましい。
【0073】
前記モル比の調整方法は限定されないが、オンラインで連続計測してスラリー調製槽へのジカルボン酸および/またはグリコール供給量を調整する方法が好ましい。計測方法も限定されない。密度計や近赤外線分光光度計で計測する方法が挙げられる。
【0074】
また、該スラリーの温度も第1エステル化反応槽に持ち込まれる熱量に影響をおよぼすために、エステル化反応に影響するので一定範囲に制御することが好ましい。該スラリー温度は、設定値の±4℃以内に制御してエステル化反応槽に供給することが好ましい。該スラリー温度は設定値の±3℃以内に制御するのがより好ましく、±2℃以内に制御するのがさらに好ましい。±1℃以内に制御するのが特に好ましい。±4℃を超えた場合は、前記のスラリーの供給量を本発明の範囲にしても、エステル化反応の進行の変動が大きくなりポリエステルオリゴマー(以下単にオリゴマーと称することがある)のカルボキシル末端基濃度の変動が大きくなり前記範囲を確保することが困難な場合あり、後続の重縮合反応の進行や最終製品であるポリエステルの色調や透明性等の品質変動に繋がるので好ましくない。一方、下限は無変動である±0℃が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.1℃以内であるのがより好ましく、±0.3℃以内であるのが好ましい。
【0075】
前記スラリー温度の制御方法は限定されないが、前記スラリー調製槽の温度又はテレフタル酸温度を検出し、該調製槽に供給されるグリコール温度にフィードバックし制御するのが好ましい。また、スラリー温度制御はスラリー調製槽やスラリーの移送ラインに熱交換器を設置して制御してもよい。また、スラリー調製槽に循環ラインを設けてスラリー調製槽中のスラリーを循環させて温度制御の精度向上を図ってもよい。該方法の場合は、循環ラインにも温度制御機能を付加するのが好ましい。以上の方法を単独でおこなってもよいし、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。また、スラリー調製槽出口からエステル化反応槽供給するまでの間にスラリー貯留槽を設けてスラリー温度制御の精度を高めてもよい。該方法の場合に、スラリー貯留槽に温度制御機構を付加してもよい。該スラリー貯留槽を設ける方法はスラリー調製槽におけるスラリー調整はバッチ式で実施してもよい。バッチ式スラリー調製法は、スラリー調製における重要工程管理項目であるスラリーのジカルボン酸とグリコールとの組成比の管理が容易となるので該管理の制御系を簡略化することができるという利点にも繋がる。また、該方法の場合は、スラリー貯留槽において、前記のジカルボン酸とグリコールとの組成比の調整が実施できるので、該組成比の変動抑制に繋げることもできるという利点を有する。該方法においては、スラリー調製を連続法やセミバッチ法で実施してもよい。また、該方法と前者の方法を組み合わせて実施してもよい。
【0076】
前記のスラリー温度の設定値は限定されないが室温から180℃が好ましい。一般に、ポリエステルの製造工程においては、該製造工程で発生する回収グリコールがスラリー調製のグリコールの一部と使用されることが多い。該回収グリコールはインプラントで回収されることがある。該方法においては、回収グリコールは加温状態にある。従って、該設定温度は加温状態が好ましく、70〜150℃がより好ましい。
【0077】
また、第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動は第1エステル化槽の温度、圧力および滞留時間(限定されたポリエステル製造ラインにおいては、反応槽の液面レベル)の影響を受けるので、該要因は設定条件範囲に制御するのが好ましい。例えば、温度は設定値±3%以内が好ましく、±2%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%以内であるのがより好ましく、±0.5%以内であるのが好ましい。また、圧力は設定値±4%以内が好ましく、±3%以内がより好ましい。±2.5%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%以内であるのがより好ましく、±0.5%以内であるのが好ましい。また、液面レベルは設定値±2%以内が好ましく、±1%以内がより好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%以内であるのがより好ましく、±0.5%以内であるのが好ましい。該液面レベルの制御は前記のスラリー流量制御を前記範囲にすることにより制御が可能である。
【0078】
本発明においては、第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を設定値±10%以内に抑制するのが重要である。±9%以内が好ましく、±8%以内がより好ましく、±6%以内がさらに好ましい。該範囲にすることにより最終エステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動を好ましい範囲に抑制することが可能となり、後続の重縮合反応や得られるポリエステルの品質の安定化に繋げることができるので好ましい。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.5%以内であるのがより好ましく、±1.0%以内であるのが好ましい。
【0079】
前記第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の設定値は限定されないが、前記した最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度や第2エステル化反応槽以降のエステル化反応槽の反応条件により適宜設定すればよい。後述のごとく、一般に最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度は設定値で190〜900eq/tonの範囲が好ましい。該範囲にするには、第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の設定値は800〜3700eq/tonの範囲にするのが好ましい。1000〜3400eq/tonがより好ましく、1200〜3000eq/tonがさらに好ましい。第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の設定値が3700eq/tonを超えた場合は、該オリゴマーによる移送ライン等の配管詰りが発生することがある。
【0080】
該第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーカルボキシル末端基濃度を前記範囲に設定する方法が限定されない。例えば、エステル化反応装置の構造等の製造装置要因や、エステル化反応槽に供給するスラリーのジカルボン酸とグリコールの組成比、エステル化反応温度、エステル化反応圧、エステル化反応時間等のエステル化反応条件等を適宜設定することにより行えばよい。また、エステル化反応工程に水を添加して調整してもよい。
【0081】
また、該第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーカルボキシル末端基濃度の変動は、前記した方法の実施により達成することが可能となる。
【0082】
また、本発明においては、最終エステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を設定値±6%以内にするのが好ましい。±5%以内がより好ましく、±4%以内がさらに好ましく、±3%以内が特に好ましい。該カルボキシル末端基濃度変動が±5%を超えた場合は前記した課題の変動が増大して得られるポリエステルの品質の均一性が低下するので好ましくない。一方、下限は無変動である±0%が最も好ましいが、コストパフォーマンスの点より、±0.2%が好ましく、±0.5%がより好ましい。
【0083】
カルボキシル末端基濃度の設定値は限定されないが150〜900eq/tonの範囲が好ましい。170〜800eq/tonの範囲がより好ましく、190〜700eq/tonの範囲がさらに好ましい。カルボキシル末端基濃度の設定値が150eq/ton未満になると、重縮合活性の低下や重縮合工程でのジエチレングリコールの生成の増大が起こるので好ましくない。特に、重縮合反応活性に対してポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の影響の大きい重縮合触媒系を用いた場合に重縮合触媒活性が著しく低下するので好ましくない。逆に、カルボキシル末端基濃度の設定値が900eq/tonを超えた場合は、後続の重縮合反応の進行が不安定になり得られるポリエステルの重合度の変動が大きくなるので好ましくない。また、得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度が高くなり、ポリエステルの加水分解安定性等の安定性低下に繋がるので好ましくない。
【0084】
本発明においては、最終エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を前記範囲に制御する方法は限定されないが、前記した第1エステル化反応槽出口のカルボキシル末端基濃度を前記した範囲に制御し、かつ第2エステル化反応槽以降の工程を安定化し、通常のポリエステルの生産で実施されているレベルで制御するのが好ましい実施態様である。
【0085】
以上、本発明においては、前記方法によりポリエステルオリゴマーの特性変動を目的とした範囲に抑制することができるが、さらに、前記エステル化反応工程において、ポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度やヒドロキシル末端基濃度をオンラインで計測して、前記したスラリー温度制御系にフィードバックすることにより該制御精度や安定性を向上してもよい。
【0086】
該オリゴマー特性の計測方法は限定されないが、近赤外線分光光度計を用いて計測するのが好ましい。オリゴマーが流動している部分、例えば反応缶、配管などにおいて、近赤外分光光度計を用いながら連続的に行うのが好ましい。オンラインで連続的に測定可能な近赤外分光光度計であれば、特に限定されない。例えば、NIRSシステムズ社(ニレコ社)、BRAN LUEBBEおよび横河電機社製の近赤外オンライン分析計等の市販品を使用してもよいし、本目的のためにシステム化した装置を製作して対応してもよい。
【0087】
本発明方法においては、近赤外分光光度計の検出セルは高温域に設置する必要があり、該対応のための設計が必要である。また、エステル化反応缶間に設置する場合は加圧状態に、エステル化反応缶から初期重縮合缶への移送ラインに設置する場合は、加圧と減圧の両方に耐えるような構造にする必要がある。該対応は設置場所等により適宜実施するのが好ましい。
【0088】
本発明においては、前記近赤外分光光度計の測定セルの設置場所はエステル化反応開始より重縮合反応開始直前までの任意の場所に設定すればよい。エステル化反応缶に設定してもよいし、各反応缶の移送ラインに設置してもよい。それぞれの反応缶や移送ラインに直接設置してもよいし、バイパスラインを設けて該バイパスラインに設置してもよい。該バイパスラインに設置する場合の反応缶の内部を検出する場合は、対象とする反応缶に反応内容物が循環する循環ラインを設けて、該循環ラインに設置するのが好ましい。該設置された測定セルはメンテナンスが必要な場合があるので、バイパスラインに設置するのが好ましい。本発明においては、前述のごとく第1エステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度が重要でるので、例えば、第1エステル化反応槽より第2エステル化反応槽への移送ラインにバイパスラインを設置し、該バイパスラインに検出器を設置して計測するのが好ましい。また、最終エステル化反応槽から第1重縮合反応槽への移送ラインにももう一基の検出器を設置して両方のオリゴマーの特性値を計測して制御精度を高めてもよい。該、複数個の検出器を用いてエステル化反応を制御する方法においては、第1エステル化反応槽出口の移送ラインに設置した検出器で計測され計測値による制御は第1エステル化反応槽へ供給するスラリー温度にフィードバックして行うのが好ましい。他の検出場所で検出される計測値による制御は他のエステル化反応を変化させる制御系、例えば、第2エステル化反応槽へ供給されるエステル化反応調整用グリコールの供給量にフィードバックしてもよい。最も精度が向上できる制御系を適宜選択して実施すればよい。
【0089】
前記オリゴマー特性はカルボキシル末端基濃度のみを計測を行ってもよいしカルボキシル末端基濃度とヒドロキシル末端基濃度の両方を同時に計測してもよいし、複数箇所で計測する場合はそれぞれの場所で計測する内容を変えておこなってもよい。例えば、第1エステル化反応槽出口の移送ラインに設置した検出器による制御系はカルボキシル末端基濃度で制御し、最終エステル化反応槽出口の移送ラインに設置した検出器による制御系はカルボキシル末端基濃度とヒドロキシル末端基濃度の両方を同時に測定して両方の末端基濃度が所定範囲になるように制御するのが好ましい。近赤外線の測定波長は限定されない。測定個所に対応したモデルオリゴマーを用いて、感度が高く、かつ外乱の少ない波長を調査して適宜設定するのが好ましい。例えば、カルボキシル末端基濃度の場合は、1444nm、ヒドロキシル末端基濃度の場合は2030nmの波長を用いるのが好ましい。また、複数の波長を組み合わせた検量線より算出してもよい。
【0090】
前記方法で定量される両末端基濃度の検量線は、前記のモデルオリゴマーを用いて作成するのが好ましい。この場合のモデルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度およびヒドロキシル末端基濃度はNMR法により測定した値を用いるのが好ましい。
【0091】
前記方法で実施する場合は、オリゴマー特性からあらかじめコンピュータに組み込んだプログラムより演算し、スラリー温度やエステル化反応条件に反映して制御するのが好ましい。
【0092】
本発明において、ポリエステル製造に用いられる重縮合触媒は限定されない。例えば、リチウム、ナトリウム、カルシウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、亜鉛、アルミニウム、チタン、コバルト、ゲルマニウム、錫、鉛、アンチモン、砒素、セリウム、ホウ素、カドミウム、マンガン等の金属及びこれら金属を含む金属化合物が挙げられる。なかでも、アンチモン、ゲルマニウム、チタン、錫およびアルミニウム系の重縮合触媒の使用が好ましい。
【0093】
本発明においては、得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度の標準偏差(s)が1.2以下であることが好ましい。1.1以下がより好ましく、0.9以下がさらに好ましく、0.7以下がよりさらに好ましい。一方、下限は無変動である0が最も好ましいが、コストパフォーマンスや測定精度の点より、0.05が好ましく、0.1がより好ましい。
【0094】
本発明においては前記方法により得られたポリエステルを用いて固相重縮合することが好ましい。さらに、該固相重縮合により得られた高重合度ポリエステルを用いて紡糸する事により、例えば、タイヤコード用原糸、魚網用、フィルター用不織布、安全ベルト等に用いられる高強力繊維を得るのが好ましい。
【0095】
前記の得られるポリエステルのカルボキシル末端基濃度の標準偏差(s)を前記範囲にすることで、該固相重縮合反応の安定化に繋がりに得られる固相重縮合されたポリエステルの品質が均一化される。
【0096】
本発明方法により得られたポリエステルは、前述のごとくカルボキシル末端基量の変動が抑制されているので、固相重縮合反応速度が安定化し、得られるポリエステルの品質、特に、極限粘度が安定される。例えば、一定条件で固相重縮合を実施した時のポリエステルの極限粘度の標準偏差(s)が0.008以下であることが好ましい。0.007以下がより好ましく、0.005以下がさらに好ましく、0.003以下がよりさらに好ましい。該極限粘度の標準偏差(s)が0.008を超えた場合は、紡糸時の糸切れ回数が増大するので好ましくない。一方、下限は無変動である0が最も好ましいが、測定精度やコストパフォーマンスの点より、0.0005が好ましく、0.001がより好ましい。
【実施例】
【0097】
本発明を、以下の実施例を用いて具体的に説明する。なお、これらの実施例は本発明を例示するものであり、限定されるものではない。また、下記の実施例中の極限粘度、オリゴマーカルボキシル末端基濃度及びポリマーカルボキシル末端基濃度は下記の方法により測定した。
【0098】
(1)極限粘度
フェノール/テトラクロロエタン(60:40、重量比)混合溶媒を用いて、30℃で測定した。該測定は3回行いその平均値を用いた。
【0099】
(2)オリゴマーカルボキシル末端基濃度
オリゴマーを乾燥に呈すことなくハンディーミル(粉砕器)にて粉砕した。試料1.00gを精秤し、ピリジン20mlを加えた。沸石を数粒加え、15分間煮沸還流し溶解させた。煮沸還流後直ちに、10mlの純水を添加し、室温まで放冷した。フェノールフタレインを指示薬としてN/10−NaOHで滴定した。試料を入れずにブランクも同じ作業を行う。なお、オリゴマーがピリジンに溶解しない場合は、ベンジルアルコール中で行った。下記式に従って、AVo(eq/ton)を算出する。
【0100】
AVo=(A−B)×0.1×f×1000/W
(A=滴定数(ml),B=ブランクの滴定数(ml),f=N/10−NaOHのファクター,W=試料の重さ(g))
該測定は3回行いその平均値を用いた。
【0101】
(3)ポリマー酸価
試料15mgをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)/CDCl3=1/1混合溶媒0.13mlに溶解し、CDCl3 0.52mlで希釈し、さらに0.2Mトリエチルアミン溶液(HFIP/CDCl3 1/9)を22μl添加した溶液を用いて、500MHzのH−NMR測定をして定量した。
該測定は3回行いその平均値を用いた。
【0102】
(実施例1)
エチレングリコール及びテレフタル酸をモル比が1.7となるようにスラリー調製槽に連続的に供給した。該スラリーはスラリー調整槽内スラリー温度が90±3℃になるようにグリコール温度を制御した。スラリー調製槽の温度制御は連続的にスラリー調製槽温度と該調製槽に供給するグリコール温度を監視しながら、フィードバック回路により連続的にグリコール添加温度を熱交換器を用いて変更することで制御をした。
【0103】
そのスラリーと三酸化アンチモンをエステル反応槽へ連続的に供給し、255℃で連続的に第1エステル化反応を行った。続いて第2エステル化反応槽にて第2エステル化反応を260℃で行い、さらに、第3エステル化反応槽にて第3エステル化反応を260℃で行いオリゴマーを得た。スラリー流量の変動率は設定値の±1.5%以内に制御した。該スラリー流量はロータリーピストン流量計を用いて送液ポンプの回転数を変えて調整した。
【0104】
また、エチレングリコール及びテレフタル酸をモル比は、±0.25%以内に制御した。該モル比の調整は、近赤外線分光光度計を用いてスラリーのテレフタル酸量を計測して、スラリー調製槽に供給するエチレングリコール量を調整することにより行った。また、第1エステル化反応槽の温度は±1.3%以内に制御した。また、第1エステル化反応槽の液面レベルの変動は±1%以内であった。
【0105】
第3エステル化反応槽出口のオリゴマーを2時間毎にサンプリングをして該オリゴマーのカルボキシル末端基濃度を測定し、その測定値に基づき重縮合反応工程に供給するオリゴマーのカルボキシル末端基濃度量が一定となるようにフィードバック回路により自動的に計算された量のエチレングリコールを第2エステル化反応槽に添加することでエステル化反応制御を行った。該エチレングリコールは新規品を用いて175±2℃に調整し供給した。
【0106】
前記ポリエステル製造工程におけるエチレングリコールの流れを図1に示す。
スラリー調合槽2へ供給される新規エチレングリコールと回収エチレングリコールは質量比で0.4:0.6である。
【0107】
第1エステル化反応槽3より留出する留出分は段数が15段の泡鐘タイプの蒸留塔9に、第2エステル化反応槽4、第3エステル化反応槽5および重縮合反応槽6〜8より留出する留分は段数が9段の泡鐘タイプの蒸留塔10に供給され水を主体として低沸点留分を除去する。3基の重縮合反応槽6〜8よりから留出する留出分は減圧系で発生するため各反応槽に設置された湿式コンデンサーで凝縮させてエチレングリコール凝縮液貯槽16〜18に供給された後に蒸留塔10に供給される。該供給液は熱交換器22で蒸留のための熱量が供給される。この時、湿式コンデンサーに噴霧されるエチレングリコール液の温度の上昇を抑えるために冷却器19〜21で冷却し湿式コンデンサーに供給される。この凝縮液は各湿式コンデンサーで凝縮された凝縮液自体の自己循環で実施されるが、必要に応じて新規エチレングリコールを供給してもよい。また、前記凝縮液はエチレングリコール凝縮液貯槽16〜18に設置した金網で固形分を分離して蒸留塔10に供給した。
【0108】
両蒸留塔ともに、底部より排出される残留分の一部をそれぞれの蒸留塔の中間部に循環させた。該循環液の温度は168℃近辺で安定していた。該循環により蒸留塔底部より排出される残留液(本実施例の場合は回収エチレングリコール)の送液ラインの詰まりは発生しなかった。該循環を取り止めると回収エチレングリコール中に含まれる固形分の析出が起こり、該送液ラインの詰まりが発生することがあった。蒸留塔9は7段目に設置した温度検出器で検出した温度が106±2℃になるよう制御した。得られた残留分はエチレングリコール貯層15に供給される。得られた回収エチレングリコール中の水分量は3±0.5質量%に制御されていた。また、蒸留塔10の塔底部より排出される残留分は蒸留塔9の中央部に供給した。なお、エステル化反応槽3〜5からの留出分に関しては、蒸留に必要な熱は留出分自体が有する熱量で足りるので加熱の必要はない。なお、蒸留塔9および10共に蒸留塔の塔頂圧力を100kPa±2%以内に制御した。該圧力は蒸留塔ベント配管に設置した調圧弁で制御した。
【0109】
次いで、重縮合反応槽において減圧下で連続的に重縮合反応を行った。生成したポリマーはストランド状にして抜き出し、水冷後にペレット状態にカットした。以上の方法により連続的にペレットを生産し、時間の異なる代表サンプルを採取した。そのサンプルの極限粘度、オリゴマー酸価、ポリマー酸価を測定した。そのサンプル間の平均値および標準偏差(s)を表1に示す。いずれの測定値も良好で安定に推移し、品質変動の小さいポリエステルが得られた。また、ポリエステル中のDEG含有量は平均値で1.25モル%であった。なお、表1に示した値は、12時間毎にサンプリングした50個のサンプル(25日分)の評価結果である。また、標準偏差(s)は下記式で求めた。
標準偏差(s)={(測定値―平均値)2の和/サンプル数(50)}1/2
【0110】
【表1】

【0111】
(比較例1)
実施例1において、第1エステル化反応槽に供給するスラリー流量の変動幅を設定値±5%とする以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。第1エステル化反応槽の液面レベルの変動は±3%となった。結果を表1に示す。ポリエステル品質変動が増大した。
【0112】
(比較例2)
実施例1において、蒸留塔9および10の塔頂のベント配管を大気開放として、蒸留塔の塔頂圧力を大気圧とする以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。大気圧変動によりエステル化反応槽の圧力変動が起こりエステル化反応の変動が増大し、その結果、ポリエステルの品質変動が増大した。
【0113】
(比較例3)
実施例1において、蒸留塔9および10の塔頂圧力の設定値を350kPaに変更する以外は、実施例1と同様の方法でポリエステルを得た。エステル化反応槽の圧力の増大により、実施例1同じ変動範囲で圧力を制御しても圧力変動のエステル化反応の変動に対する寄与度合いが大きくなるためにエステル化反応の変動が増大した。その結果、ポリエステルの品質変動が増大した。また、エステル化反応槽圧力の増大によりエステル化反応工程でのDEG生成量が増大し、ポリエステル中のDEG含有量が平均値で、1.62モル%となった。
【0114】
(比較例4)
比較例1において、蒸留塔9の棚段数を7段として、温度検出器の位置を4段目の空間に変更し、該温度を106±5℃で管理するよう変更する以外は、比較例1と同様の方法でポリエステルを得た。回収エチレングリコール中の水分量は3±2.2質量%であった。結果を表1に示す。比較例1よりさらにポリエステルの品質変動が増大した。
【0115】
(実施例2および3)
実施例1において、第1エステル化反応槽に供給するスラリー流量の変動幅をそれぞれ設定値±1.0%および0.5%に変更する以外は、実施例1同様の方法でポリエステルを得た。
本実施例におけるポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動は実施例1の方法よりもさらに抑制されており、得られるポリエステルの品質はさらに安定した。
【0116】
(実施例4)
実施例1において、スラリー調製槽に温度調整機能を付加してスラリー温度調整の精度を上げるようにし、さらにスラリー調製槽からエステル化反応槽への移送ラインの途中に攪拌機および温度調整機能を有したスラリー貯留槽を設けて、該スラリー貯留槽においてもスラリーの温度制御を行いスラリー温度の調整精度を上げるように変更する以外は、実施例1同様の方法でポリエステルを得た。スラリー温度は90±0.5℃であった。結果を表1に示す。本実施例におけるポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動は実施例1の方法よりもさらに抑制されており、得られるポリエステルの品質はさらに安定した。
【0117】
(実施例5〜8)
実施例1〜4で得られたポリエステル樹脂を固相重合反応槽へ供給し、減圧下67Pa、槽内温度を240℃コントロールした状態で6時間、固相重合反応を実施した。同様の方法で5バッチ反応をおこない、反応終了後に各バッチのレジンをサンプリングして極限粘度測定を実施した。また、得られた固相重縮合ポリエステルを用いてタイヤコード用原糸の紡糸を行った。結果を表2に示す。いずれの実施例もポリエステルの品質変動が抑制されており、紡糸時の糸切れ回数が少なく紡糸操業性に優れていた。
【0118】
【表2】

【0119】
(比較例5〜8)
それぞれ比較例1〜4で得られたポリエステル樹脂を使用した以外は、実施例2に準じて固相重合を5バッチ行い、レジンをサンプリングした。また、得られた固相重縮合ポリエステルを用いてタイヤコード用原糸の紡糸を行った。結果を表2に示す。いずれの比較例も実施例に比べてポリエステルの品質変動が大きく、紡糸時の糸切れ回数が多く紡糸操業性が劣っていた。
【0120】
以上、本発明のポリエステルの製造方法について、複数の実施例に基づいて説明したが、本発明は前記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、各実施例に記載した構成を適宜組み合わせる等、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のポリエステル製造方法は、エステル化反応工程に供給する原料スラリーの流量変動を特定範囲に制御する等の極めて単純な方法により第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を特定範囲に制御することができ、その結果、重縮合反応槽に供給するポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が抑制されるので次行程の重縮合反応の変動が抑制される。そのために得られるポリエステルの品質変動が抑制され極めて均質なポリエステルが安定して生産することができる。
【0122】
本発明のポリエステルの製造方法は、エステル化反応が、計測精度が高く、かつ長期運転をしても計測値の信頼性が安定しているスラリー流量で制御されるので長期連続運転しても制御系の信頼性が安定しているという特徴を有する。
【0123】
また、本発明のポリエステル製造方法は、ポリエステルの製造工程で発生するグリコールが再使用されるのでポリエステル製造コストが低減できるという利点を有する。その上に、回収グリコールの送液ラインの詰まり防止のための改善がなされており、長期にわたり安定して生産を続けることができるという特徴を有する。さらに、該グリコールを回収する蒸留塔の設備費や該蒸留におけるランニングコストが低減できるので、ポリエステルの製造コストの大幅な低減に繋げることができる。その上に、回収グリコール中の水分量が特定範囲に制御されるので、前記エステル化反応の安定化が維持できるという利点を有する。従って、品質と経済性のバランス、すなわちコストパフォーマンスが極めて高いポリエステルの製造方法であるといえる。
【0124】
また、該ポリエステルをプレポリマーをして用いることにより、固相重縮合反応の安定化ができ、該固相重縮合ポリエステルを用いることにより、高強力繊維の紡糸操業性を向上することができる。従って、産業界に寄与することが大である。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】実施例1におけるポリエステル製造工程のエチレングリコールの流れ図である。
【符号の説明】
【0126】
1:計量タンク
2:スラリー調合槽
3:第1エステル化反応槽
4:第2エステル化反応槽
5:第3エステル化反応槽
6:第1重縮合反応槽
7:第2重縮合反応槽
8:第3重縮合反応槽
9、10:蒸留塔
11〜13:湿式コンデンサー
14:エチレングリコール貯槽
15〜17:エチレングリコール凝縮液貯槽
18〜20:冷却器
21:熱交換器
22〜38:ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ジカルボン酸とグリコールをスラリー調製槽にて混合しスラリーとなし、該スラリーのスラリー流量を設定値±3%以内に制御して定量供給してエステル化反応を行い、得られたポリエステル低重合体を続いて重縮合反応槽に供給して重縮合することによりポリエステルを連続製造する方法であって、該ポリエステル製造工程より留出するグリコールを該ポリエステルの製造工程内に設けた蒸留塔で、水を主成分とした低沸点留分を分留除去し、蒸留塔底部より取り出される残留分を回収グリコールとして循環再使用するポリエステルの製造方法において、蒸留塔の塔頂圧力を10〜300kPaの範囲に設定することを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項2】
前記蒸留塔を少なくとも2基設けて、第1エステル化反応槽から留出するグリコールと第2エステル化反応槽以降で留出するグリコールとを区分して、水を主成分とした低沸点留分を分留除去することを特徴とする請求項1記載のポリエステルの製造方法。
【請求項3】
エステル化反応槽圧力を前記蒸留塔の塔頂圧力で制御することを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項4】
前記蒸留塔の塔頂圧力の変動幅を設定値±4%以内に制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項5】
前記グリコールがエチレングリコールであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項6】
前記分留において、残留分を回収グリコールとしてスラリー調製槽に戻すラインを有する蒸留塔の中段温度を106±3℃に制御することを特徴とする請求項5に記載のポリエステルの製造方法。
【請求項7】
エステル化反応槽に供給するスラリーのジカルボン酸/グリコールのモル比を設定値±0.3%以内に制御することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項8】
エステル化反応槽に供給するスラリー温度を設定値±4℃以内に制御することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項9】
第1エステル化反応槽温度を設定値±3%以内に制御することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項10】
第1エステル化反応槽の液面レベルを設定値±2%以内に制御することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項11】
第1エステル化反応槽出口のポリエステルオリゴマーのカルボキシル末端基濃度を設定値の±10%以内に制御することを特徴とする請求項1〜10のいずれかにポリエステルの製造方法。
【請求項12】
最終エステル化反応槽出口のオリゴマーのカルボキシル末端基濃度の変動が設定値±6%以内であることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のポリエステルの製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12に記載のポリエステル製造方法により得られたポリエステルを固相重縮合することを特徴とするポリエステルの固相重縮合法。
【請求項14】
請求項13に記載の固相重縮合法で得られたポリエステルを紡糸してなることを特徴とする高強力ポリエステル繊維。

【図1】
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【公開番号】特開2007−84708(P2007−84708A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275836(P2005−275836)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】