説明

ポリエステルフィルムおよびそれを用いたデータストレージ

【課題】記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いても優れた電磁変換特性を発現できるポリエステルフィルムの提供。
【解決手段】記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージに用いるベースフィルムであって、磁性層を形成する側の表面は、波長260nmの光の干渉によって測定される粗大突起の数が、800個/100cm以下であるポリエステルフィルムおよびそれをベースフィルムに用いたデータストレージ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いるポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1〜5には、粗大突起を低減するために触媒種を特定のものにしたり、フィルム中に含有させる粒子として粗大粒子の少ないものを用いること、およびそのような処理を行った粗大突起の少ないフィルムが提案されている。
しかしながら、近年の高密度記録の要求はすさまじく、特に記録容量が1巻あたり0.8TBを超えるようなデータストレージでは、前述の特許文献1〜5で粗大突起がないとされたフィルムでも十分に応えられなくなってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−114492号公報
【特許文献2】特開2003−291288号公報
【特許文献3】特開2002−363311号公報
【特許文献4】特開2002−363310号公報
【特許文献5】特開2002−059520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いても優れた電磁変換特性を発現できるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決しようと鋭意研究するにあたって、前述の特許文献1〜4では長径が15μm以上の粗大突起しか見ておらず、他方前述の特許文献5では測定波長が580nmであるため高さが290nm以上の粗大突起しか見ておらず、それらで確認することができていない微小な粗大突起が影響しているのではないかと考えた。そこで、どのような粗大突起が影響するのか検討したところ、粗大突起については長径よりも高さが影響し、高さ130nmの粗大突起を800個/100cm以下にしたとき、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いても優れた電磁変換特性を発現できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
かくして本発明によれば、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージに用いるベースフィルムであって、磁性層を形成する側の表面は、波長260nmの光の干渉によって測定される粗大突起の数が、800個/100cm以下であるポリエステルフィルムが提供される。
【0007】
また、本発明の好ましい態様として、さらにポリエステルがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであること、ポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面が、表面粗さ(RaA)1〜7nmの範囲であること、磁性層を形成しない側の表面が、表面粗さ(RaB)3〜10nmの範囲にあること、ポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面が、平均粒径0.05μm以上の不活性粒子の含有量が0.3重量%未満であること、ポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面が、平均粒径0.05〜0.15μmの不活性粒子を、0.005〜0.4重量%の範囲で含有することの少なくともいずれかを具備するポリエステルフィルムも提供される。
【0008】
さらにまた、上述の本発明のポリエステルフィルムを用いた磁気記録媒体として、上述の本発明のポリエステルフィルムと、その一方の表面に形成された磁性層とからなる記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージ、特に磁性層が塗布によって形成され、記録方式がリニア記録方式であるデータストレージも提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステルフィルムを用いれば、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに用いたときにエラーとなる微小な粗大突起までも低減されていることから、電磁変換特性に優れたデータストレージを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、詳述する。
本発明のポリエステルフィルムは、波長260nmの光の干渉によって測定される粗大突起の数が、800個/100cm以下である。好ましい粗大突起数は750個/100cm以下、さらに600個/100cm以下、特に500個/100cmである。下限は少ないほど好ましいことから制限されないが、通常100個/100cm程度である。このような小さな突起はこれまで問題とならなかったが、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージに用いると、このような小さな突起も問題となり、その問題を解消したのが本発明である。そのため、粗大突起数が上限を超えると、データストレージとしたときにエラーが多発してしまう。
【0011】
ところで、このような粗大突起は、特許文献5に記載された粗大突起の測定と基本的な測定原理は同じで、特徴は波長260nmという非常に波長の短い光を用いたことにある。具体的には、フィルムを平坦な面に重ね合わせると、フィルムの表面に突起があることから両者の間に空間ができる。そして、その空間を光が通過すると、光の波長(λ:nm)に対して、λ/2になる間隔の部分は反射光が打ち消しあい、その結果、突起を中心に黒い点もしくは黒いリング状の模様が発現する。そのような観点から、理論的には、本発明における粗大突起は高さが130nm以上の高さを有する突起を意味する。なお、特許文献5では、測定するフィルム同士を重ね合わせて測定するが、波長260nmではポリエステル自体が光を吸収することから、平坦なガラスプレートなどに貼り付けて、ガラスプレート側から光を照射し、ガラスプレートと空間の境界と空間とフィルム表面の境界とで反射される反射光(ポリエステルフィルムを通過しない光)による干渉の縞を観察すればよい。
【0012】
また、本発明の好ましい対応として、ポリエステルフィルムは、突起を中心に黒い点と黒いリング状の模様の両方もしくは突起を中心に複数の黒いリング状の模様が観察される極大突起数が100個/100cm以下、さらに80個/100cm以下であることが好ましい。なお、理論的には、本発明における極大突起は高さが260nm以上の高さを有する突起を意味する。
【0013】
本発明におけるポリエステルは、フィルムへの製膜が可能なものであれば、それ自体公知のものを採用できる。例えば、ジオール成分と芳香族ジカルボン酸成分との重縮合によって得られる芳香族ポリエステルが好ましく、かかる芳香族ジカルボン酸成分として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸などの6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が挙げられ、またジオール成分として、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。
【0014】
これらの中でも、高温での加工時の寸法安定性の点からは、エチレンテレフタレートまたはエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましく、特にエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートを主たる繰り返し単位とするものが好ましい。
【0015】
また、より環境変化に対する寸法安定性を向上させる観点から、国際公開2008/096612号パンフレットに記載された6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分および6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分などを共重合したものも挙げられる。
【0016】
ところで、本発明におけるポリエステルは、テトラエチレングリコールによって分解・溶解し、孔径8μmの直孔性フィルターによってろ過したときに直孔性フィルター上に通過できずに残る不溶性粗大異物量が、ポリエステルの重量を基準として、100個/mg以下であることが好ましい。不溶性粗大異物量が上限を越えると、後述のろ過処理などを行っても、粗大突起を低減することが難しくなる。なお、不溶性粗大異物量は少ないほど好ましく、下限は0個/mgである。このような不溶性粗大異物量を少なくするには、ポリエステルの製造に用いる芳香族ジカルボン酸成分やジオール成分を蒸留などの精製工程を繰り返して不純物を減らし、後述の重合工程で用いる触媒や安定剤として析出しにくい物を選択することなどが挙げられる。
【0017】
本発明におけるポリエステルは、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含有しない場合はο−クロロフェノール中、35℃において、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を含有する場合はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒中、35℃において、測定したときの固有粘度が0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜1.0dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が0.4dl/g未満ではフィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方固有粘度が1.0dl/gを超える場合は重合時の生産性が低下する。
【0018】
本発明におけるポリエステルの融点は、200〜300℃であることが好ましく、更に好ましくは210〜290℃、特に好ましくは220〜280℃である。融点が下限に満たないと二軸配向フィルムの耐熱性が不十分な場合があり、融点が上限を超える場合は後述は溶融混練する際の温度が非常に高温になり、熱劣化などを引き起こしやすくなる。
【0019】
なお、本発明におけるポリエステルは、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の他の共重合成分をさらに共重合、例えば繰り返し単位のモル数に対して10モル%以下、さらに5モル%以下の範囲で共重合していてもよいし、他の熱可塑性樹脂などを、例えば20重量%以下、さらに10重量%以下の範囲でブレンドしても良い。
【0020】
ところで、本発明のポリエステルフィルムは、上述のポリエステルから製造できるが、搬送や巻取りなどの特性を実用上問題ない範囲で維持しつつ、データストレージにしたときの電磁変換特性を高度に維持させる観点から、磁性層を形成する側の表面は、表面粗さ(RaA)が1〜7nmの範囲にあることが好ましい。好ましいRaAは、1〜5nm、さらに2〜4nmの範囲である。
【0021】
また、本発明のポリエステルフィルムは、上述の表面粗さ(RaA)を具備させる観点から、磁性層を形成する側の表面を形成するポリエステルは、不活性粒子を含有しないか、含有するとしても、平均粒径0.05〜0.15μm、さらに0.07〜0.14μmの不活性粒子を、該表面を形成するポリエステルの重量を基準として、0.005〜0.4重量%、さらに0.007〜0.3重量%、特にさらに0.01〜0.2重量%の範囲で含有することが好ましい。なお、ここでいう不活性粒子を含有しないとは、平均粒径0.05μm以上の不活性粒子の含有量が0.005重量%未満であることを意味する。
【0022】
不活性粒子を含有させる場合については、含有させる不活性粒子はもともと粗大粒子を含まないか含有するとしても極めて少ない不活性粒子が好ましい。
このような粒度分布がシャープなものにしやすく、一次粒子の状態で存在しやすい不活性粒子としては、シリコーン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリスチレンなどの有機高分子粒子および球状シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましく、特にシリコーン樹脂、架橋ポリスチレンおよび球状シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種の粒子であることが好ましい。もちろん、これらの不活性粒子を含有させる場合は、さらに粗大粒子をなくすため、フィルターでのろ過を行ったり、分散剤で不活性粒子の表面を処理したり、押出機での混練を強化することが好ましい。
【0023】
本発明のポリエステルフィルムは、前述の表面粗さを有するものであれば特に制限されず、単層フィルムでも2層以上のポリエステル層からなる積層フィルムであっても良い。ただ、磁性層側が同じ表面粗さなら、より搬送性や巻取り性を向上させやすく、同じ搬送性や巻取り性なら、より磁性層側の表面粗さを平坦にすることができることから、2層以上のポリエステル層からなり、非磁性層側の表面粗さが磁性層側の表面粗さよりも1nm以上大きい積層フィルムが好ましい。
【0024】
そのような観点から、磁性層を形成しない側の表面は、表面粗さ(RaB)が磁性層側の表面粗さ(RaA)よりも1nm以上大きく、3〜10nmの範囲にあることが好ましい。好ましいRaBは、4〜9nm、さらに5〜9nmの範囲である。RaBが下限未満もしくはRaAよりも小さいと、搬送性や巻取り性の向上効果が発現されがたく、他方上限を超えると、磁性層側の表面を突き上げや転写によって粗くしてしまうことがあある。
【0025】
磁性層を形成しない側の表面に上述のような表面粗さを具備させるには、平均粒径が0.2〜0.5μm、さらに0.2〜0.4μmの不活性粒子を、該表面を形成するポリエステルの重量を基準として、0.01〜0.5重量%、さらに0.02〜0.4重量%の範囲で含有させることが好ましい。さらに、磁性層を形成しない側の表面は、平均粒径が0.05〜0.15μm、さらに0.06〜0.14μmの不活性粒子を、0.05〜0.5重量%、さらに0.06〜0.4重量%の範囲で含有することが好ましい。このような2種類以上の不活性粒子を併用することで、より搬送性と巻取り性を高めつつ、磁性層側の表面を平坦に維持しやすい。
【0026】
上述の磁性層を形成しない側の表面に含有させる不活性粒子としては、ポリマー中で安定的に存在できるものであれば特に制限されず、それ自体公知のものを採用でき、好ましくは前述の磁性層を形成する側の表面で説明したのと同様な不活性粒子である。
【0027】
つぎに、ポリエステルフィルムの製造方法について説明する。まず、本発明におけるポリエステルの製造方法は、例えば芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させてポリエステルの前駆体を合成する第一反応と、該前駆体を重縮合反応させる第二反応とからなり、それ自体公知の方法を採用できる。前述のとおり、原料由来の異物を低減するために、芳香族ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体とアルキレングリコールなどの原料は、精製を繰り返して、異物を低減しておくのが好ましい。ここでの異物が多いと、後述のろ過によっても異物が取りきれず、粗大突起が増えてしまうことがある。
【0028】
このように精製された原料は、前述の第一反応によってポリエステル前駆体となる。ここで重要なことは、このポリエステル前駆体を、第二反応を開始する前に、95%濾過精度が10μm以下の第1フィルターでろ過を行ない、得られるポリエステルをテトラエチレングリコールによって溶解したときに、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を減らすことにある。好ましくは、得られるポリエステルの重量を基準として、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を200個/mg以下、さらに150個/mg以下、特に磁性層を形成する側の表面に用いるポリエステルは、50個/mg以下、最も好ましくは40個/mg以下となるように第1フィルターで濾過するのが好ましい。このようにして不溶性粗大異物量を減らすことで、後述の第二反応後の濾過で、さらに不溶性粗大異物量を減らしやすくなる。なお、第1フィルターでの濾過は一度に限定されず、必要であればさらに濾過を繰り返したり、フィルターを多重に使用しても良い。したがって、第一反応と第二反応の間で行なう第1フィルターの濾過精度は、フライスペック低減の観点からは小さいほど好ましく、95%濾過精度がさらに8μm以下、さらに5μm以下であることが好ましい。一方、第1フィルターの95%濾過精度の下限は特に制限されないが、小さくしていくとそれだけ詰まりやすく交換周期が短くなるので、生産性などの観点から3μm以上、さらに4μm以上であることが好ましい。また、第1フィルターは、金属繊維の不織布を積層した構造のもので、積層された金属不織布の空隙率は通常40〜80%の範囲にあることが、濾過速度を維持しつつ、濾過圧力に耐えられるので好ましい。なお、このような不溶性粗大異物量は、原料段階から極力減らすことが好ましいが、前述のとおり難しく、第一反応後のフィルター濾過によって取り除くことが、簡便で且つ極めて有効である。
【0029】
さらに好ましい第一反応の条件について説明する。第一反応は、常圧下で行ってもよいが、0.05MPa〜0.5MPaの加圧下で行うことが反応速度をより速めやすいことから好ましい。また、第一反応の温度は、210℃〜270℃の範囲で行なうことが好ましい。反応圧力を上記範囲内とすることで反応の進行を進みやすくしつつ、ジアルキレングリコールに代表される副生物の発生を抑制できる。このとき、アルキレングリコール成分は、第一反応を行う反応系に存在する酸成分に対し1.1〜6モル倍用いることが、反応速度及び樹脂の物性維持の点から好ましい。より好ましくは2〜5モル倍、さらに好ましくは3〜5モル倍である。
【0030】
また、第一反応の反応速度をより早くするには、それ自体公知の触媒を用いることが好ましく、たとえばLi,Na,K,Mg,Ca,Mn、Co、Tiなどの金属成分を有する金属化合物が好ましく挙げられ、これらの中でも加圧下で行う場合は、反応の進みやすさの点からMnやTi化合物が好ましい。特にTi化合物は、さらに重縮合反応触媒としても使用でき、かつ触媒残渣の析出も少ないことから好ましい。本発明で用いるチタン化合物としては、触媒残渣の析出による不溶性粗大異物の発生を抑制する観点からポリエステル中に可溶な有機チタン化合物が好ましい。特に好ましいチタン化合物としては、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラフェノキシド、トリメリット酸チタンなどを好ましく例示できる。
【0031】
添加する触媒量は、第一反応中に存在する全酸成分のモル数を基準として、金属元素換算で、10〜150ミリモル%の範囲にあることが好ましく、さらに20〜100ミリモル%、特に30〜70ミリモル%の範囲にあることが反応速度を促進しつつ、触媒起因の粗大不溶性異物の生成を抑制でき、さらに得られる共重合芳香族ポリエステルの耐熱性を高度に維持できることから好ましい。なお、チタン化合物を添加する場合の添加時期は、第一反応のエステル化反応開始時から存在するように添加し、前述のとおり、引き続き重縮合反応触媒として使用することが好ましい。もちろん、重縮合反応速度をコントロールする目的で2回以上に分けて添加してもよい。
【0032】
つぎに、第一反応で得られた前駆体を重縮合反応させる第二反応について説明する。
本発明では、得られるポリエステルに、高度の熱安定性を付与させる目的で、第二反応における重縮合反応の開始以前に、反応系にリン化合物からなる熱安定剤を添加することが好ましい。具体的なリン化合物としては、化合物中にリン元素を有するものであれば特に限定されず、例えば、リン酸、亜リン酸、リン酸トリメチルエステル、リン酸トリブチルエステル、リン酸トリフェニルエステル、リン酸モノメチルエステル、リン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、リン酸アンモニウム、トリエチルホスホノアセテート、メチルジエチルホスホノアセテートなどを挙げることができ、これらのリン化合物は二種以上を併用してもよい。なお、リン化合物の添加時期は、第一反応が実質的に終了してから第二反応である重縮合反応初期の間に行なうことが好ましく、添加は一度に行ってもよいし、2回以上に分割して行ってもよい。
【0033】
ところで、重縮合反応の温度は270℃〜300℃の範囲で行い、重縮合反応中の圧力は50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。重縮合反応中の圧力が上限より高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合芳香族ポリエステルを得ることが困難になる。重縮合触媒としては、それ自体公知のTi,Al,Sb,Geなどの金属化合物を好適に使用でき、それらの中でもエステル化反応時に添加されたチタン化合物を引き続き使用することが触媒残渣による不溶性粗大異物の発生を抑制できることから好ましい。
【0034】
ところで、前述のとおり、さらに粗大突起を低減する観点から、重縮合反応によって得られる所望の分子量を有するポリエステルを、溶融状態で95%濾過精度がさらに1.5μm以下の第2フィルターで濾過することがこのましい。このような濾過により、前述の第一反応と第二反応の間で行なう濾過では取りきれなかった、またはその後に生成された不溶性粗大異物を取り除くことが出来る。好ましい第2フィルターの95%濾過精度は、1μm以下であり、小さければ小さいほどフライスペックの点では好ましいが、生産性などの点から0.2μm以上、さらに0.3μm以上であることが好ましい。このようにろ過されたポリエステルは、テトラエチレングリコールによって溶解したときに、孔径8μmの直孔性フィルターを通過できない不溶性粗大異物量を40個/mg以下、さらに30個/mg以下、特に磁性層を形成する側の表面は25個/mg以下、さらに20個/mg以下となるように第2フィルターで濾過するのが好ましい。
【0035】
また、第2フィルターは、金属不織布メディアを積層した構造のもので、積層された金属不織布の空隙率は通常40〜80%の範囲にあることが、濾過速度を維持しつつ、濾過圧力に耐えられるので好ましい。
【0036】
また、不活性粒子を含有させる方法については、前述のような粗大粒子の低減を行ったものを選択し、それをアルキレングリコールのスラリー状態として、さらにフィルターなどによって粗大粒子を低減し、それを重合工程で添加して粒子含有量が0.02〜1.0重量%の粒子含有マスターポリエステルを作成し、該マスターポリエステルを、粒子を含有しないポリエステルで希釈するのが、不活性粒子の凝集による粗大突起を低減する上で好ましい。
【0037】
このようにして得られるポリエステルは、本発明の効果を阻害しない範囲で、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、核剤、を必要に応じて配合しても良いが、少なくとも磁性層を形成する側の表面に用いるポリエステルは、粗大突起を形成しやすい他の熱可塑性ポリマー、顔料、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などは含有させないことが好ましい。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムは、データストレージのベースフィルムに用いることから、二軸配向フィルムであることが好ましい。二軸配向フィルムは、上述のポリエステルを溶融状態で押出し、二軸方向に延伸することで製造でき、製膜方法などはそれ自体公知のものを採用することができる。なお、前述の第2フィルターの濾過は、製膜直前であるほど、再凝集などによって後から生成される不溶性粗大異物の影響を低減できることから、製膜する際の溶融押出工程で用いるのが好ましい。
【0039】
例えば、二軸配向積層ポリエステルフィルムで説明すると、押出し口金内または口金以前(一般に、前者はマルチマニホールド方式、後者はフィードブロック方式と呼ぶ)で、不活性粒子を含有させたポリエステルBと、必要に応じて不活性粒子を含有させたポリエステルAとを、それぞれさらに前述のような高精度のフィルターでろ過したのち、溶融状態にて積層複合し、上記好適な厚み比の積層構造となし、次いで口金よりポリエステルの融点(Tm)〜(Tm+70)℃の温度でフィルム状に共押出ししたのち、30〜70℃の冷却ロールで急冷固化し、未延伸積層フィルムを得る。その後、上記未延伸積層フィルムを常法に従い、一軸方向(縦方向または横方向)に(ポリエステルのガラス転移温度(Tg)−10)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸し、次いで上記延伸方向とは直角方向(一段目延伸が縦方向の場合には、二段目延伸は横方向となる)に(Tg)〜(Tg+70)℃の温度で2.5〜8.0倍の倍率で、好ましくは3.0〜7.5倍の倍率で延伸する。さらに、必要に応じて、縦方向および/または横方向に再度延伸してもよい。すなわち、2段、3段、4段あるいは多段の延伸を行うとよい。全延伸倍率としては、通常9倍以上、好ましくは10〜35倍、さらに好ましくは12〜30倍である。
【0040】
さらに、前記二軸配向フィルムは(Tg+70)〜(Tm−10)℃の温度、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルムの場合、180〜250℃で熱固定結晶化することによって、優れた寸法安定性が付与される。その際、熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
【0041】
このようにして得られたポリエステルフィルムは、前述のとおり、波長260nmの光の干渉によって測定される粗大突起の数を測定し、上限以下になるように各段階でのフィルターによるろ過を強化することで、製造することができる。
【0042】
そして、波長260nmの光の干渉によって測定される粗大突起の数が前述の上限以下の表面に磁性層を形成することで、記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージとすることができ、そのときのエラーが非常に低減されたものとなる。なお、磁性層については、波長260nmの光の干渉によって測定される粗大突起による影響を緩和しやすいことから、強磁性金属を含有する塗剤を塗布して形成する塗布型磁性層が好ましく、塗布型磁性層による走行性を利用できる観点から、記録方式がリニア記録方式であるデータストレージが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明におけるポリエステル、ポリエステルフィルムおよびデータストレージの特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0044】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度は、前述のとおり、o−クロロフェノール、35℃で測定し、o−クロロフェノールでは均一に溶解するのが困難な場合は、p−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いて35℃で測定して求めた。
【0045】
(2)不溶性粗大異物の含有量
(2−1)粗大異物量1
表1及び表2中の粗大異物量1は、ポリエステルの重合工程における前述の第1反応が終了後、第2反応に移行する間に、フィルター(第1フィルター)でポリエステル前駆体をろ過し、そのろ過したものをテトラエチレングリコールによって200℃に加熱して分解・溶解し、溶解液とした。そして、その溶解液を、孔径8μmの直孔性メンブレンフィルターによってろ過し、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントし、溶解させたポリエステル前駆体から得られるポリエステルの重量を基準として、含有量を個/mgとして算出した。
なお、この値は、後述の参考例1〜10で作成した樹脂1〜10の値として算出されるので、それぞれ各実施例および比較例の値は、これら樹脂1〜10のそれぞれの結果を元に、用いたそれぞれの樹脂の割合に基づいて、算出した。具体的には、実施例XのA層が樹脂YとZを2:1で用いたものである場合、粗大異物量1は樹脂Yの(粗大異物量1×2/3)と樹脂Zの(粗大異物量1×1/3)との和である。
【0046】
(2−2)粗大異物量2
表1および表2中の粗大異物量2は、後述の参考例1〜10で得られた樹脂1〜10を、それぞれ所望の割合で用い、乾燥させた後、溶融状態でダイから押し出すが、その溶融押出工程で後述の実施例・比較例の説明にあるように、フィルター(第2フィルター)でろ過を行う。この第2フィルター通過後のポリエステルを、テトラエチレングリコールによって200℃に加熱して分解・溶解し、溶解液とした。そして、その溶解液を、孔径8μmの直孔性メンブレンフィルターによってろ過し、フィルター上に残った不溶性粗大異物の数をカウントし、溶解させたポリエステルの重量を基準として、各ポリエステル層の含有量を個/mgとして算出した。
【0047】
(3)第1および第2フィルターの濾過精度
試験粉体のガラスビーズ(JIS−Z8901:2006記載)を蒸留水中に分散させ、フィルター濾過前後の粒度分布の変化を測定し、95%カット値を持って濾過精度とする。
【0048】
(4)粗大突起の数
フィルムサンプルをゴミなどが入らないように注意しつつ石英オプティカルフラットに重ね、オプティカルフラット側から260nm付近に最短波長ピークを有する水銀ランプを中心波長260nmのバンドパスフィルターを通して照射した。そして、UV−CDDカメラで干渉縞から観測される粗大突起の数を確認した。測定は、面積25cmについて行い、100cm当りの個数に換算した。
【0049】
(5)中心面平均粗さ(Ra)
非接触式三次元表面粗さ計(ZYGO社製:New View5022)を用いて測定倍率25倍、測定面積283μm×213μm(=0.0603mm)の条件にて測定し、該粗さ計に内蔵された表面解析ソフトMetro Proにより中心面平均粗さ(Ra)を求めた。
【0050】
(6)不活性粒子の平均粒径
添加する不活性粒子の平均粒径および相対標準偏差は、JIS Z8823−1に準拠する遠心沈降法で得られる粒度分布から得られる数平均値を平均粒径とした。
【0051】
(7)ガラス転移点および融点
ガラス転移点、融点はDSC(TAインスツルメンツ株式会社製、商品名:Thermal lyst2920)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0052】
(8)ヤング率
得られたフィルムを試料巾10mm、長さ15cmで切り取り、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分の条件で万能引張試験装置(東洋ボールドウィン製、商品名:テンシロン)にて引っ張る。得られた荷重―伸び曲線の立ち上がり部の接線よりヤング率を計算する。
【0053】
(9)データストレージ(磁気テープ)の作成
1m幅にスリットしたポリエステルフィルムを、張力20kg/mで搬送させ、フィルムの平坦な側の表面に下記組成の磁性塗料および非磁性塗料をエクストルージョンコーターにより重層塗布(上層は磁性塗料で、塗布厚0.1μm、非磁性下層の厚みは1.0μmとした。)し、磁気配向させ、乾燥温度100℃で乾燥させる。次いで反対面に下記組成のバックコートを固形分の厚みが0.5μmとなるように塗布した後、小型テストカレンダー装置(スチール/ナイロンロール、5段)で、温度85℃、線圧200kg/cmでカレンダー処理し、巻き取る。上記テープ原反を1/2インチ幅にスリットし、それをLTO用のケースに組み込み、長さが850mで磁気記録容量が0.8TBのデータストレージカートリッジを作成した。
【0054】
(磁性塗料の組成)
・強磁性金属粉末 : 100重量部
・変成塩化ビニル共重合体 : 10重量部
・変成ポリウレタン : 10重量部
・ポリイソシアネート : 5重量部
・ステアリン酸 : 1.5重量部
・オレイン酸 : 1重量部
・カーボンブラック : 1重量部
・アルミナ : 10重量部
・メチルエチルケトン : 75重量部
・シクロヘキサノン : 75重量部
・ トルエン : 75重量部
【0055】
非磁性塗料の組成
・二酸化チタン微粒子 :100重量部
・エスレックA(積水化学製塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体 :10重量部
・ニッポラン2304(日本ポリウレタン製ポリウレタンエラストマ):10重量部
・コロネートL(日本ポリウレタン製ポリイソシアネート) : 5重量部
・レシチン : 1重量部
・メチルエチルケトン :75重量部
・メチルイソブチルケトン :75重量部
・トルエン :75重量部
・カーボンブラック : 2重量部
・ラウリン酸 :1.5重量部
【0056】
(バックコートの組成)
・カーボンブラック(平均粒径20nm) : 95重量部
・カーボンブラック(平均粒径280nm): 10重量部
・αアルミナ : 0.1重量部
・変成ポリウレタン : 20重量部
・変成塩化ビニル共重合体 : 30重量部
・シクロヘキサノン : 200重量部
・メチルエチルケトン : 300重量部
・トルエン : 100重量部
【0057】
(10)ドロップアウト(DO)
上記(9)で作成されたデータストレージカートリッジを、IBM社製LTO4ドライブ(記録ヘッドはインダクティブヘッド、再生ヘッドはMRヘッドを搭載)に装填してデータ信号を14GB記録し、それを再生した。平均信号振幅に対して50%以下の振幅(P−P値)の信号をミッシングパルスとし、4個以上連続したミッシングパルスをドロップアウトとして検出した。なお、ドロップアウトは850m長1巻を評価し、1m当たりの個数に換算して、下記の基準で判定する。
◎:ドロップアウト 3個/m未満
○:ドロップアウト 3個/m以上、9個/m未満
×:ドロップアウト 9個/m以上
【0058】
[参考例1]樹脂1の作成
蒸留による精製を繰り返した2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチルエステルとエチレングリコールとをそれぞれ100部と70部用意し、それらを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、トリメリット酸チタンをTi元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して7mmol%となるように添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、反応槽内部温度を240℃に昇温した。反応の進行に従い、圧力一定のまま内温を250℃まで上げた。その後、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリメチルホスフェートをリン元素量で、全ジカルボン酸成分のモル数に対して12mmol%となるように添加し、余剰のエチレングリコールを追い出して、エステル交換反応を終了させた。
【0059】
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、30Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、実質的に不活性粒子を含有しない、固有粘度0.6dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレートを得た。
【0060】
[参考例2]樹脂2の作成
蒸留による精製を繰り返したテレフタル酸ジメチルエステルとエチレングリコールとをそれぞれ100部と70部用意し、それらを攪拌機、精留塔、冷却器を供えた反応槽に仕込み、150℃まで昇温した。その後、トリメリット酸チタンをTi元素量として、全ジカルボン酸成分のモル数に対して3mmol%となるように添加し、反応槽全体を窒素により0.25MPaの圧力下で加熱して、反応槽内部温度を240℃に昇温した。反応の進行に従い、圧力一定のまま内温を250℃まで上げた。その後、反応槽内の圧力を常圧にゆっくりと戻し、トリメチルホスフェートをリン元素量で、全ジカルボン酸成分のモル数に対して7mmol%となるように添加し、余剰のエチレングリコールを追い出して、エステル交換反応を終了させた。
【0061】
得られた反応生成物を重合反応槽へと移送した。このとき、移送途中で95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通して濾過した。重合反応槽では250℃からゆっくりと昇温しながら、また減圧させながら重縮合反応を行い、最終的に290℃、30Paで所定の重合度になるまで重縮合を行い、実質的に不活性粒子を含有しない、固有粘度0.6dl/gのポリエチレンテレフタレートを得た。
【0062】
[参考例3]樹脂3の作成
平均粒径が0.1μmで相対標準偏差が0.13のアルコキシド法で作成した真球状シリカ粒子を、エチレングリコールに10重量%となるように添加して、100℃で20分間過熱したのち、95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通過するように循環させて、真球状シリカ粒子の含有量が10重量%のエチレングリコールスラリーを作成した。そして、このエチレングリコールスラリーを、エステル交換反応の段階で、真球状シリカ粒子の含有量が、得られるポリエステルの重量に対して、0.5重量%となるように添加したほかは、参考例1と同様な操作を繰り返して、樹脂3を作成した。
【0063】
[参考例4]樹脂4の作成
平均粒径が0.1μmで相対標準偏差が0.13のアルコキシド法で作成した真球状シリカ粒子を、エチレングリコールに10重量%となるように添加して、100℃で20分間過熱したのち、95%濾過精度5μmの金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を通過するように循環させて、真球状シリカ粒子の含有量が10重量%のエチレングリコールスラリーを作成した。そして、このエチレングリコールスラリーを、エステル交換反応の段階で、真球状シリカ粒子の含有量が、得られるポリエステルの重量に対して、0.5重量%となるように添加したほかは、参考例2と同様な操作を繰り返して、樹脂4を作成した。
【0064】
[参考例5]樹脂5の作成
真球状シリカ粒子を、平均粒径が0.3μmで相対標準偏差が0.12の真球状シリカ粒子に変更したほかは、参考例3と同様な操作を繰り返して、樹脂5を作成した。
【0065】
[参考例6]樹脂6の作成
真球状シリカ粒子を、平均粒径が0.3μmで相対標準偏差が0.12の真球状シリカ粒子に変更したほかは、参考例4と同様な操作を繰り返して、樹脂6を作成した。
【0066】
[参考例7]樹脂7の作成
真球状シリカ粒子の変わりに、平均粒径が0.1μmで相対標準偏差が0.19のシリコーン粒子を用いたほかは、参考例3と同様な操作を繰り返して、樹脂7を作成した。
【0067】
[参考例8]樹脂8の作成
真球状シリカ粒子の変わりに、平均粒径が0.08μmで相対標準偏差が0.18の架橋ポリスチレン粒子を用いたほかは、参考例4と同様な操作を繰り返して、樹脂8を作成した。
【0068】
[参考例9]樹脂9の作成
参考例1において、金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を95%濾過精度10μmのものに変更したほかは、同様な操作を繰り返して、樹脂9を作成した。
【0069】
[参考例10]
参考例2において、金属繊維製のフィルター(第1フィルター)を95%濾過精度10μmのものに変更したほかは、同様な操作を繰り返して、樹脂10を作成した。
【0070】
[実施例1]
A層用ポリマーとして樹脂1と3とを表1の不活性粒子の割合になるように用意し、また、B層用のポリマーとして樹脂1と3と5とを表1の不活性粒子の割合になるように用意し、それぞれ、170℃で6時間乾燥させた。こうして、乾燥チップを表1に示した層厚み構成になるような比率にて、2台の押出機ホッパーに供給し、溶融温度310℃で溶融し、マルチマニホールド型共押出ダイを用いてA層の片側にB層を積層させて積層未延伸フィルムを得た。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)でろ過した。
【0071】
このようにして得られた積層未延伸フィルムを120℃に予熱し、さらに低速、高速のロール間でフィルムを130℃に加熱して4.8倍に延伸し後、急冷し、縦延伸フィルムを得た。
続いてステンターに供給し、150℃にて横方向に5.1倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを200℃の熱風で3秒間熱固定しつつ横方向に10%延伸を行い、厚み4.7μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。このフィルムのヤング率は縦方向5.8GPa、横方向8.8GPaであった。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0072】
[実施例2および3]
表1の不活性粒子の量となるように、それぞれ上記参考例で作成した樹脂の割合を変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0073】
[実施例4]
樹脂3の代わりに、表1に示す不活性粒子の割合となるように樹脂7を用いたほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0074】
[実施例5]
実施例1において、A層用のポリマーとB層用のポリマーとをダイの手前でろ過するフィルターを、それぞれ95%ろ過精度が0.7μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0075】
[実施例6]
実施例1において、A層用のポリマーとB層用のポリマーとをダイの手前でろ過するフィルターを、それぞれ95%ろ過精度が1.2μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0076】
[実施例7]
実施例1において、A層用のポリマーを樹脂1のみに変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0077】
[比較例1]
実施例1において、A層用のポリマーとB層用のポリマーとをダイの手前でろ過するフィルターを、それぞれ95%ろ過精度が1.5μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0078】
[比較例2]
実施例1において、A層およびB層用のポリマーとして用いた樹脂1の代わりに、樹脂9を用い、またA層用のポリマーとB層用のポリマーとをダイの手前でろ過するフィルターを、それぞれ95%ろ過精度が1.5μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)に変更したほかは、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
[実施例8]
A層用ポリマーとして樹脂2と4を表2の不活性粒子の割合になるように用意し、また、B層用のポリマーとして樹脂2と4と6とを表2の不活性粒子の割合になるように用意し、それぞれ、150℃で3時間乾燥させた。こうして、乾燥チップを表1に示した層厚み構成になるような比率にて、2台の押出機ホッパーに供給し、溶融温度250℃で溶融し、マルチマニホールド型共押出ダイを用いてA層の片側にB層を積層させて積層未延伸フィルムを得た。なお、A層用のポリマーとB層用のポリマーは、溶融状態にした後、ダイに供給する前に、それぞれ95%ろ過精度が1μmのフィルター金属繊維製の(第2フィルター)でろ過した。
【0081】
このようにして得られた積層未延伸フィルムを100℃に予熱し、さらに低速、高速のロール間でフィルムを110℃に加熱して3.5倍に延伸し後、急冷し、縦延伸フィルムを得た。
続いてステンターに供給し、105℃にて横方向に4.6倍に延伸した。得られた二軸延伸フィルムを210℃の熱風で3秒間熱固定しつつ横方向に5%延伸を行い、厚み4.7μmの積層二軸配向ポリエステルフィルムを得た。このフィルムのヤング率は縦方向4.4GPa、横方向6.1GPaであった。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0082】
[実施例9および10]
表2の不活性粒子の量となるように、それぞれ上記参考例で作成した樹脂の割合を変更したほかは、実施例8と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0083】
[実施例11]
樹脂4の代わりに、表1に示す不活性粒子の割合となるように樹脂8を用いたほかは、実施例8と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0084】
[実施例12]
実施例8において、A層用のポリマーとB層用のポリマーとをダイの手前でろ過するフィルターを、それぞれ95%ろ過精度が0.7μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)に変更したほかは、実施例8と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0085】
[実施例13]
実施例8において、A層用のポリマーとB層用のポリマーとをダイの手前でろ過するフィルターを、それぞれ95%ろ過精度が1.2μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)に変更したほかは、実施例8と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0086】
[実施例14]
実施例8において、A層用のポリマーを樹脂2のみに変更したほかは、実施例8と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0087】
[比較例3]
実施例8において、A層用のポリマーとB層用のポリマーとをダイの手前でろ過するフィルターを、それぞれ95%ろ過精度が1.5μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)に変更したほかは、実施例8と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0088】
[比較例4]
実施例8において、A層およびB層用のポリマーとして用いた樹脂1の代わりに、樹脂10を用い、またA層用のポリマーとB層用のポリマーとをダイの手前でろ過するフィルターを、それぞれ95%ろ過精度が1.5μmの金属繊維製のフィルター(第2フィルター)に変更したほかは、実施例8と同様な操作を繰り返した。得られた積層二軸配向ポリエステルフィルムおよびそれを磁気記録テープとしたときの特性を表2に示す。
【0089】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のポリエステルフィルムは、微小な粗大突起までも低減されていることから、特に記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージのベースフィルムに好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージに用いるベースフィルムであって、磁性層を形成する側の表面は、波長260nmの光の干渉によって測定される粗大突起の数が、800個/100cm以下であることを特徴とするポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステルがポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである請求項1記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
ポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面が、表面粗さ(RaA)1〜7nmの範囲である請求項1記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
磁性層を形成しない側の表面が、表面粗さ(RaB)3〜10nmの範囲にある請求項3記載のポリエステルフィルム。
【請求項5】
ポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面が、平均粒径0.05μm以上の不活性粒子の含有量が0.5重量%未満である請求項1記載のポリエステルフィルム。
【請求項6】
ポリエステルフィルムの磁性層を形成する側の表面が、平均粒径0.05〜0.15μmの不活性粒子を、0.005〜0.4重量%の範囲で含有する請求項1記載のポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルフィルムと、その一方の表面に形成された磁性層とからなる記憶容量が0.8TB以上であるデータストレージ。
【請求項8】
磁性層が塗布によって形成され、記録方式がリニア記録方式である請求項7記載のデータストレージ。

【公開番号】特開2010−205321(P2010−205321A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47793(P2009−47793)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】