説明

ポリエステルフィルムの下地処理方法及びそれを用いて製造したポリエステルフィルム製品

【課題】ポリエステルフィルムの表面を荒らさなくても、塗布層との高い密着性を得ることのできるポリエステルフィルムの下地処理方法及びそれを用いて製造したポリエステルフィルム製品を提供する。
【解決手段】本発明は、表面粗さRaが0.5nm以上1.0nm以下のポリエステルフィルムの表面にリモートプラズマ処理を施して官能基を導入する。O又はCOプラズマの場合は、官能基が、0.45<O/C<0.55、の範囲を満たすように設定し、N又はNHプラズマの場合は、官能基が、0.05N<N/C<0.3、の範囲を満たすように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステルフィルムの下地処理方法及びそれを用いて製造したポリエステルフィルム製品に係り、特に医療診断用、工業写真用、印刷用、COM用としてのハロゲン化銀感光材料においてポリエステルフィルムの支持体に下塗層を塗布するための下地処理方法、及びそれを用いて製造したポリエステルフィルム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀感光材料は、ポリエステルフィルム(支持体)と親水性コロイド感光層との間に、両者を接着させるための下塗層を塗布している(特許文献1参照)。また、下塗層の塗布においては、ポリエステルフィルムと下塗層との密着性を向上させるために、ポリエステルフィルムの表面を粗面化することが一般的に行われている。たとえば、ポリエステルフィルムにコロナ放電処理を施すことによって、ポリエステルフィルムの表面を粗面化し、その表面に下塗層を塗布することが行われている(たとえば特許文献2参照)。
【0003】
ところで、近年では、表面粗さの小さいポリエステルフィルムが求められている。特に下塗層や感光層を薄塗りする場合には、ポリエステルフィルムの表面粗さを小さくする必要がある。
【特許文献1】特開平6−27589号公報
【特許文献2】特開2000−80183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ポリエステルフィルムの表面粗さが小さくなると、ポリエステルフィルムと下塗層との密着性が低下し、下塗層がポリエステルフィルムから剥がれるおそれがあった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたもので、ポリエステルフィルムの表面を荒らさなくても、塗布層(たとえば下塗層)との高い密着性を得ることのできるポリエステルフィルムの下地処理方法、及びそれを用いて製造したポリエステルフィルム製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、表面粗さRaが0.5nm以上1.0nm以下のポリエステルフィルムの表面にリモートプラズマ処理を施して官能基を導入したことを特徴とするポリエステルフィルムの下地処理方法を提供する。
【0007】
本発明の発明者は、ポリエステルフィルムの表面にリモートプラズマ処理を施して表面を改質すると、ポリエステルフィルムの表面を荒らさなくても塗布層との密着性を向上できるという知見を得た。
【0008】
本発明はこのような知見に基づいて成されたもので、表面粗さRaが05nm以上1.0nm以下であるポリエステルフィルムの表面にリモートプラズマ処理を施して官能基を導入するようにしたので、表面粗さRaが非常に小さいポリエステルフィルムにおいて塗布層との密着性を向上させることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は請求項1の発明において、前記ポリエステルフィルムはポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする。本発明は、特にポリエチレンテレフタレートフィルムの下地処理に適している。
【0010】
請求項3に記載の発明は請求項1又は2の発明において、前記リモートプラズマ処理は、O又はCOプラズマであり、且つ、前記官能基が、0.45<O/C<0.55、の範囲を満たすことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は請求項1又は2の発明において、前記リモートプラズマ処理は、N又はNHプラズマであり、且つ、前記官能基が、0.05N<N/C<0.3、であることを特徴とする。
【0012】
本発明の発明者は、リモートプラズマ処理を施した場合であっても、その処理条件によっては、処理時に破壊されたフィルム材(ポリエステル)の微粒子がフィルム表面に付着して脆弱層(以下、WBL:Weak bound layer)が生じ、塗布層との密着性がさほど向上しないが、WBL層を作らない処理条件に設定すれば、アンカー効果によって塗布層との密着性が向上するという知見を得た。請求項3、4の発明によれば、リモートプラズマ処理の処理条件を上記の如く設定したので、フィルム表面と塗布層との密着性をさらに向上させることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明は請求項1〜4のいずれか1の発明において、前記リモートプラズマ処理を施したポリエステルフィルムの表面に水系の下塗層を塗布することを特徴とする。請求項5に記載の発明によれば、水系の下塗層とポリエステルフィルムとを高い密着度で密着させることができる。
【0014】
請求項6に記載の発明は、表面粗さRaが0.5nm以上1.0nm以下であるポリエステルフィルムの表面にリモートプラズマ処理を施して官能基を導入することによって製造したポリエステルフィルム製品であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ポリエステルフィルムの表面にリモートプラズマ処理を施して官能基を導入するようにしたので、ポリエステルフィルムの表面を荒らさなくても塗布層との密着性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下添付図面に従って本発明に係るポリエステルフィルムの下地処理方法及びそれを用いて製造したポリエステルフィルム製品の好ましい実施形態について、一例としてハロゲン化銀感光材料に適用した例で説明する。
【0017】
まず、本発明が適用されるハロゲン化銀感光材料の製造工程について説明する。図1は、ハロゲン化銀感光材料の製造工程の一例を模式的に示すブロック図であり、図2はその製造工程によって製造したポリエステルフィルム製品を示す断面図である。
【0018】
図1に示すように、ハロゲン化銀感光材料の製造工程では、まず、支持体(ポリエステルフィルム)の表面側にラテックス系下塗液を塗布し(ステップS1)、これを乾燥させることにより(ステップS2)、ラテックス系下塗層を形成する。次に、ラテックス系塗布層の表面にゼラチン系下塗液を塗布した後(ステップS3)、支持体の裏面側に帯電防止剤層塗布液を塗布し(ステップS4)、さらにこれを乾燥させることにより(ステップS5)、ゼラチン系下塗層と帯電防止剤層を形成する。次いで、ゼラチン系下塗層の裏面側にプロテクト層塗布液を塗布し(ステップS6)、これを乾燥させることによって(ステップS7)、プロテクト層を形成する。そして、ゼラチン系下塗層の表面側に感材塗布液を塗布し(ステップS8)、乾燥させることによって(ステップS9)、感材塗布層を単層又は多層で形成する。これにより、図2の感光材料が形成される。
【0019】
本発明に係る下地処理方法は、たとえば上記のステップS1、2で下塗層を形成する際に適用することができる。本発明を適用することによって、支持体の表面粗さRaを大きくすることなく、ラテックス系下塗層と支持体との密着性を向上させることができる。
【0020】
以下に、下塗層の塗布装置の実施形態について図3、図4に基づいて説明する。図3は本発明が適用された下塗層の塗布装置であり、図4はリモートプラズマ処理装置の構成図である。
【0021】
図3に示すように、ポリエステルフィルム12は送出ローラ14にロール状に巻回されており、この送出ローラ14からポリエステルフィルム12が送り出される。送り出されたポリエステルフィルム12は、ガイドローラ13、13にガイドされて走行し、リモートプラズマ処理装置10のプラズマ発生部16によってリモートプラズマ処理される。
【0022】
図4に示すようにリモートプラズマ処理装置10は、プラズマを発生させるプラズマ発生部16と、二種類のガスが圧縮されて貯蔵されたタンク18、18とを備える。タンク18、18はプラズマ発生部16のミキシング部20に接続されており、このミキシング部20に二種類のガスが供給されて混合される。ガスの種類としては、O、CO、N、NH等が用いられ、ガスの種類に応じて官能基量が設定される。たとえば、O又はCOの場合には、0.45<O/C<0.55を満たす範囲に設定され、N又はNHプラズマの場合は、0.05<N/C<0.3を満たす範囲に設定される。
【0023】
プラズマ発生部16のミキシング部20でミキシングされたガスは、電極22、22間に下向きに噴き出される。したがって、電極22、22に電圧をかけることによって、プラズマを発生させることができる。
【0024】
プラズマ発生部16は、ポリエステルフィルム12に対して離れた位置に配置される。ポリエステルフィルム12に対するプラズマ発生部16の距離Hは、たとえば60〜100cm、特に80cm程度が好ましい。このようにポリエステルフィルム12から離れた位置でプラズマ処理を行うことによって、ポリエステルフィルム12の表面を荒らすことなく、後述の下塗層との密着力を向上させることができる。
【0025】
なお、プラズマ発生部16におけるプラズマ生成手段は、特に限定するものではなく、たとえば、高周波励起方式や、直流方式による放電プラズマ生成手段、真空減圧系のプラズマ生成手段、大気圧でのプラズマ生成手段を用いることができる。
【0026】
リモートプラズマ処理されたポリエステルフィルム12は、図3の下塗液の塗布装置24によって下塗液が塗布された後、乾燥装置26によって下塗液が乾燥されて下塗層が形成される。その際、ポリエステルフィルム12の表面にはリモートプラズマ処理が施されているので、下塗層とポリエステルフィルム12との密着性を高めることができる。なお、下塗層が形成されたポリエステルフィルム12は、巻取ローラ28によって巻き取られる。
【0027】
次に、本発明が成された根拠となる試験結果について説明する。
【0028】
まず、リモートプラズマ処理の表面改質効果を調べた試験結果について説明する。この試験では、ポリエステルフィルム(たとえば、ポリエチレンテレフタレートフィルム:以下、たんにフィルムという)にコロナ処理、ダイレクトプラズマ処理、リモートプラズマ処理を施し、塗布液を塗布した際の表面粗さRaと、官能基量O/Cを調べた。なお、フィルムは、厚みが175μm、表面粗さRaが0.72のものを用いた。また、リモートプラズマの処理条件は、プラズマ処理機(静岡大(工)稲垣研所有)、電源出力(100W、13.56MHz)、雰囲気ガス(O2、CO2、N2、NH3(10cc/min)、処理時間(5、30、120(sec)、内圧0.1Torr、とした。また、塗布液は、PVA系模擬液(PVAと界面活性剤の濃度をそれぞれ5%にした水系液)と、ゼラチン系模擬液(ゼラチンを含む固形分量が2%の水系液)を用いた。以上の試験の結果を図5に表として示し、図6に表面粗さと官能基量との関係で示す。
【0029】
これらの図から分かるように、コロナ処理は、フィルムの表面粗さRaが1nm以下にならない。これは、コロナ処理だと、低出力でも表面がエッヂングしやすいためである。また、コロナ処理は、表面にドープされる官能基量が小さい。したがって、コロナ処理は、フィルムの表面粗さを低くし、且つ、塗布層との密着性を向上させることができないという問題がある。
【0030】
ダイレクトプラズマ処理は、プラズマ領域においてフィルム表面処理を行う方法であり、図5、図6から分かるように、官能基量が増えるとともに表面粗さRaが大きくなってしまい、表面粗さRaが1nm以下において官能基量を増やして塗布層との密着性を向上させることが難しい。また、ダイレクトプラズマ処理は、荷電種の衝撃や作用等によって副反応が生じ、表面処理を阻害しやすいという問題がある。
【0031】
これに対して、リモートプラズマ処理は、図5、図6に示すように、表面粗さRaを1nm以下に抑えつつ、官能基量を増やすことができる。これは、リモートプラズマ処理が、プラズマ領域から離れた位置にフィルムをおいて処理しており、フィルムがプラズマに直接曝されることないので、プラズマ領域の影響、すなわち、プラズマ領域のイオン種や電子という荷電性種直接的影響を受けることがないためである。したがって、リモートプラズマ処理は、プラズマ領域で発生したラジカル種の積極的、もしくは選択的な作用を可能としており、副反応を最小限に抑えつつ、目的とする反応を優先させて、官能基量を増やすことができる。
【0032】
このように、リモートプラズマ処理は、コロナ処理やダイレクトプラズマ処理と異なり、フィルムの表面粗さRaを1nm以下に抑えつつ、官能基量を増やすことができる。本発明は、このリモートプラズマ処理を利用したもので、下塗層を塗布する前のPETフィルムの表面にリモートプラズマ処理を施すようにしたので、フィルムの表面粗さRaを1nm以下に抑えつつ、下塗層との密着性を向上させることができる。
【0033】
次にリモートプラズマ処理の好ましい処理条件を求めた試験結果について説明する。この試験は、リモートプラズマ処理の処理条件と、下塗層に対する密着性との関係について求めたものであり、ポリエステルフィルムにO又はCOのリモートプラズマ処理を施し、二種類の塗布液を塗布し、官能基量O/Cと下塗層の密着性を測定した。ポリエステルフィルム、リモートプラズマ処理、塗布液の条件は上記の試験と同じに設定した。なお、塗布層に対する密着性の評価方法については後述する。また、表面粗さの影響を除外するため、Raは1以内になるように条件(処理時間、距離)を調製した。以上の試験の結果を図7に表として示し、図8に官能基量と密着力との関係で示す。
【0034】
これらの図に示すように、下塗層がPVAの場合には、O/C>0.45において、下塗層との密着性が向上している。また、下塗層がゼラチンの場合は、O/Cが0.55未満ではO/Cの増加とともに密着性が増加し、O/Cが0.55以上になると密着性がかえって低下するという結果になった。したがって、0.45<O/C<0.55を満たす範囲では、下塗層の種類に依らず、確実に下塗層との密着性が向上するという結果が得られた。
【0035】
次に、ポリエステルフィルムにN又はNHのリモートプラズマ処理を施し、二種類の塗布液を塗布し、官能基量N/Cと下塗層の密着性を測定した。ポリエステルフィルム、リモートプラズマ処理、塗布液の条件は上記の試験と同じに設定した。なお、表面粗さの影響を除外するため、Raが1以内になるように条件(処理時間、距離)を調製した。以上の試験の結果を図9に表として示し、図10に官能基量と密着力との関係で示す。
【0036】
これらの図に示すように、下塗層がPVAの場合には、N/C>0.05において、下塗層との密着性が向上するという結果が得られた。また、下塗層がゼラチンの場合は、N/Cが0.3未満ではN/Cの増加とともに密着性が増加し、N/Cが0.3以上になると密着性がかえって低下するという結果になった。したがって、0.05<N/C<0.3を満たす範囲では、下塗層の種類に依らず、確実に下塗層との密着性が向上するという結果が得られた。
【0037】
以上の試験結果から、フィルムの表面にリモートプラズマ処理を施す際、O又はCOプラズマの場合は、0.45<O/C<0.55を満たす範囲に設定することが好ましく、N又はNHプラズマの場合は、0.05<N/C<0.3を満たす範囲に設定することが好ましい。
【0038】
次にリモートプラズマ処理した際の表面粗さRaと密着性との関係を求めた試験結果について説明する。この試験では、表面粗さの異なるポリエステルフィルムに、処理条件を変えてリモートプラズマ処理を施して、ゼラチン系、PVA系の2種類の下塗り液を塗布し、密着性を測定した。その結果を図11に示す。
【0039】
同図から分かるように、フィルムの表面粗さRaが1.0nm以上の場合には、表面粗さRaが大きくなるに従って、密着力が低下する傾向が見られた。これは、表面が荒らされることによるアンカー効果によって密着力が生じているためである。したがって、逆に表面粗さRaが小さくなるほど、密着力は低下するが、表面粗さRaが0.5〜1.0nmでは密着力が著しく向上している。これは、表面粗さが0.5〜1.0nmになるようにリモートプラズマ処理を行なった表面には、官能基の導入による密着性向上効果が顕著に表れることを示している。以上のことから、本発明では、表面粗さRaが0.5〜1.0nmのポリエステルフィルムに対して、下地処理することが好ましい。
【0040】
以下は、上述した試験における密着性の評価方法の説明である。
【0041】
(1)PVAのDRY密着性評価の試験方法
リモートプラズマ処理を施したPETフィルムの表面にPVAの下塗層を手塗り塗布(バーコーター)で形成し、恒温槽で乾燥した後、下記のDRY密着性評価を行った。
【0042】
下塗層の塗布では、PVA約1.5%液を、ウエット塗布量7.1cc/m、ウエット膜厚7.1μm、乾膜0.01μmで行った。
【0043】
DRY密着性評価では、塗布面にカッターで格子状の切れ込みを入れ、テープを貼り、剥がした時の塗布膜の剥がれ部の面積を黙視で視認し、10段階で評価した。密着性の評価は、数字が大きいほど下塗層との密着性が大きく、0が完全剥離であり、10が剥離無しである。
【0044】
(2)ゼラチンWET密着性評価の試験方法
リモートプラズマ処理を施したPETフィルムの表面にゼラチンの下塗層を手塗り塗布(バーコーター)で形成し、恒温槽で乾燥した後、下記のWET密着性評価を行った。
【0045】
下塗層の塗布では、ゼラチン系液、固形分濃度約1.6%液を、WET塗布量9.8cc/m、WET膜厚9.8μm、乾膜0.16μmで行った。
【0046】
WET密着性評価では、サンプルを水に浸し、密着試験機でこすり、乾燥後に10段階で評価を行った。密着性の評価は、数字が大きいほど下塗層との密着性が大きく、0が完全剥離であり、10が剥離無しである。
【0047】
なお、上述した試験において、表面粗さ測定は、島津製SPA400を用いた。また、表面元素分析、官能基分析は、ESCA島津製Axis−Hisを用いた。
【0048】
以下、本発明でのハロゲン化銀感光材料の具体的な実施形態について説明する。
【0049】
まず、下塗層について説明する。下塗層用塗布液は、親水性コロイドを含むが、親水性コロイドとしては、ゼラチン、フタル化ゼラチン、マレイン化ゼラチンなどのアシル化ゼラチン:カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体:アクリル酸、メタクリル酸もしくはアミド(アクリルアミド等)などをゼラチンにグラフトさせたグラフト化ゼラチン:ポリビニルアルコール:ポリヒドロキシアルキルアクリレート:ポリビニルピロリドン:ビニルピロリドン・酢酸ビニル共重合体:ガゼイン:アガロース:アルブミン:アルギン酸ソーダ:ポリサッカライド:寒天:でんぷん:グラフトでんぷん:ポリアクリルアミド:ポリエチレンイミンアシル化物:これらの部分加水分解物などの合成もしくは天然の親水性高分子化合物:等が挙げられる。これらの材料は、単独もしくは混合して使用できる。これらの中でもゼラチンが好ましい。また、親水性コロイドの他に、バインダーとして、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、SBR、PVDC樹脂等も併用することができる。
【0050】
下塗層用塗布液は、下塗層形成前に、温度50〜80℃で10分〜5時間保持することが好ましいが、より好ましくは、温度60〜70℃で30分〜3時間、さらに好ましくは温度60〜70℃で1〜2時間である。
【0051】
下塗層用塗布液は、そのpHが4〜8であることが塗布液の安定性の観点から好ましく、より好ましくはpHが5〜8であり、さらに好ましくはpHが6〜7である。
【0052】
下塗層用塗布液は、炭素数3以下の一価の飽和アルコールを含むことが、塗布時のハジキ故障を抑制する観点から好ましい。この一価の飽和アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等が好適に挙げられる。これら一価の飽和アルコールは一種単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。また、これら一価の飽和アルコールは、上記目的のために意図的に添加されるが、例えば、後述するような溶媒を兼ねて添加される場合もあり、また、塗布液中に含まれる素材の溶媒、素材の合成、精製過程等で使用する溶媒等として、あるいは薬品貯蔵タンク・配管等の洗浄溶剤として使用される場合に、塗布液に混ざってしまうことがある。ただし、塗布液中のアルコール含有量は、20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1〜10重量%である。
【0053】
下塗層塗布液には、架橋剤、マット剤、染料、フィラー、界面活性剤などを含んでもよい。架橋剤としては、エポキシ、イソシアネート、メラミンなどの公知の化合物が用いられる。また、特開昭51−114120号公報などに記載されている活性ハロゲン架橋剤も好ましい。マット剤は、製造における高速搬送性を良くする目的で好適に用いられる。マット剤としては、平均粒径が0.1〜8μm、好ましくは0.2〜5μm程度のスチレン、ポリメチルメタクリレート、シリカなどの微粒子が用いられている。マット剤の使用量は、熱現像感光材料1m2当たり1〜200mgが好ましく、2〜100mgがより好ましい。フィラーとしては、コロイダルシリカ等を用いることができる。界面活性剤としては、アニオン、ノニオン、カチオン界面活性剤を用いることができる。染料としては、アンチハレーション、色調調整用染料などを用いることができる。
【0054】
下塗層塗布液は、水系、有機溶媒系いずれでもよいが、コストや環境の点からは水系塗布液であることが好ましい。ここで「水系塗布液」とは、塗布液の溶媒(分散媒)の30質量%以上、より好ましくは50質量%以上が水である塗布液をいう。具体的な溶媒組成としては、例えば、水以外に以下の混合溶液が挙げられる。水/メタノール=85/15、水/メタノール=70/30、水/メタノール/ジメチルホルムアミド(DMF)=80/15/5、水/イソプロピルアルコール=60/40等(ただしここで数字は質量比を表す)。
【0055】
下塗層は、上記の下塗層用塗布液を用いて、塗布・乾燥し、形成されたものである。本発明では、塗布方法としてバーコーターが用いられる。その際の条件として、Wet塗布量が7.0ml/m2以上30ml/m2以下、好ましくは8.0ml/m2以上10ml/m2以下に設定される。Wet塗布量を7.0ml/m2未満だと、塗布液に凝集が発生した際にすぐに面状故障が発生するが、7.0ml/m2以上とすることによって、凝集が発生しても面状故障の発生を防止できる。また、Wet塗布量が30ml/m2を超えると、塗布ムラ等の面状故障が発生するが、Wet塗布量を30ml/m2以下とすることによってこれを防止できる。
【0056】
下塗層は1層のみ設けても、2層以上設けてもよい。ただし、複数の下塗層を設ける場合には、各下塗層をバーコーターによって逐次塗布するとともに、その各塗布時においてWet塗布量を7.0ml/m2以上30ml/m2以下、好ましくは8.0ml/m2以上10ml/m2以下に設定する。これにより、各下塗層において面状故障の発生を防止できる。なお、各下塗層の厚さは、1層あたり0.05〜5μm、より好ましくは0.1〜3μm程度が好ましい。
【0057】
塗布後の乾燥方法は特に限定されるものではないが、例えば25〜200℃程度の温度で0.5〜20分間程度とすればよく、この条件で乾燥させることができる。
【0058】
次に、支持体について説明する。支持体を構成するフィルム基材としては、ポリエステルが好適に挙げられ、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、及びその共重合体又は混合物等が用いられる。支持体は、透明であることが好ましい。また、支持体の厚さは、厚さが100〜300μmであることが好適である。
【0059】
支持体としては、特に二軸延伸時にフィルム中に残存する内部歪みを緩和させ、熱現像処理中に発生する熱収縮歪みをなくすために、130〜185℃の温度範囲で熱処理を施したポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(PET)、又はポリエチレンナフタレート(PEN)が好ましく用いられる。医療用の熱現像記録材料の場合、透明支持体は青色染料(例えば、特開平8−240877号実施例記載の染料−1)で着色されていてもよいし、無着色でもよい。
【0060】
次に、本発明の適用例における感光性層(以下、「画像形成層」と称する場合がある)について説明する。感光性層は、感光性ハロゲン化銀を含有することが好ましい。このハロゲン化銀のハロゲン組成として特に制限はなく、塩化銀、塩臭化銀、臭化銀、ヨウ臭化銀、ヨウ塩臭化銀を用いることができる。その中でも臭化銀及びヨウ臭化銀が好ましい。粒子内におけるハロゲン組成の分布は均一であってもよく、ハロゲン組成がステップ状に変化したものでもよく、或いは連続的に変化したものでもよい。また、コア/シェル構造を有するハロゲン化銀粒子を好ましく用いることができる。構造として好ましいものは2〜5重構造であり、より好ましくは2〜4重構造のコア/シェル粒子を用いることである。また、塩化銀又は塩臭化銀粒子の表面に臭化銀を局在させる技術も好ましく用いることができる。
【0061】
感光性ハロゲン化銀の形成方法は当業界ではよく知られており、例えば、リサーチディスクロージャー1978年6月の第17029号、及び米国特許第3,700,458号明細書に記載されている方法を用いることができるが、具体的にはゼラチンあるいは他のポリマー溶液中に銀供給化合物及びハロゲン供給化合物を添加することにより感光性ハロゲン化銀を調製し、その後で有機銀塩と混合する方法を用いる。また、特開平11−119374号公報の段落番号0217〜0224に記載されている方法、特願平11−98708号公報、特願2000−42336号明細書に記載の方法も好ましい。
【0062】
感光性ハロゲン化銀の粒子サイズは、画像形成後の白濁を低く抑える目的のために小さいことが好ましく、具体的には0.20μm以下、より好ましくは0.01μm以上0.15μm以下、更に好ましくは0.02μm以上0.12μm以下がよい。ここでいう粒子サイズとは、ハロゲン化銀粒子の投影面積(平板粒子の場合は主平面の投影面積)と同面積の円像に換算したときの直径をいう。
【0063】
ハロゲン化銀粒子の形状としては立方体、八面体、平板状粒子、球状粒子、棒状粒子、ジャガイモ状粒子等を挙げることができるが、本発明の適用例においては特に立方体状粒子が好ましい。ハロゲン化銀粒子のコーナーが丸まった粒子も好ましく用いることができる。感光性ハロゲン化銀粒子の外表面の面指数(ミラー指数)については特に制限はないが、分光増感色素が吸着した場合の分光増感効率が高い{100}面の占める割合が高いことが好ましい。その割合としては50%以上が好ましく、65%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましい。ミラー指数{100}面の比率は、増感色素の吸着における{111}面と{100}面との吸着依存性を利用したT.Tani;J.Imaging Sci.,29、165(1985年)に記載の方法により求めることができる。
【0064】
本発明の適用例においては、六シアノ金属錯体を粒子最表面に存在させたハロゲン化銀粒子が好ましい。六シアノ金属錯体としては、[Fe(CN)6]4-、[Fe(CN)6]3-、[Ru(CN)6]4-、[Os(CN)6]4-、[Co(CN)6]3-、[Rh(CN)6]3-、[Ir(CN)6]3-、[Cr(CN)6]3-、[Re(CN)6]3-などが挙げられる。本発明の適用例においては六シアノFe錯体が好ましい。
【0065】
六シアノ金属錯体は、水溶液中でイオンの形で存在するので対陽イオンは重要ではないが、水と混和しやすく、ハロゲン化銀乳剤の沈澱操作に適合しているナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン及びリチウムイオン等のアルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオン(例えばテトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラ(n−ブチル)アンモニウムイオン)を用いることが好ましい。
【0066】
六シアノ金属錯体は、水の他に水と混和しうる適当な有機溶媒(例えば、アルコール類、エーテル類、グリコール類、ケトン類、エステル類、アミド類等)との混合溶媒やゼラチンと混和して添加することができる。
【0067】
六シアノ金属錯体の添加量は、銀1モル当たり1×10-5モル以上1×10-2モル以下が好ましく、より好ましくは1×10-4モル以上1×10-3モル以下である。
【0068】
六シアノ金属錯体をハロゲン化銀粒子最表面に存在させるには、六シアノ金属錯体を、粒子形成に使用する硝酸銀水溶液を添加終了した後、硫黄増感、セレン増感及びテルル増感のカルコゲン増感や金増感等の貴金属増感を行う化学増感工程の前までの仕込工程終了前、水洗工程中、分散工程中、又は化学増感工程前に直接添加する。ハロゲン化銀微粒子を成長させないためには、粒子形成後速やかに六シアノ金属錯体を添加することが好ましく、仕込工程終了前に添加することが好ましい。
【0069】
尚、六シアノ金属錯体の添加は、粒子形成をするために添加する硝酸銀の総量の96質量%を添加した後から開始してもよく、98質量%添加した後から開始するのがより好ましく、99質量%添加した後が特に好ましい。
【0070】
これら六シアノ金属錯体を粒子形成の完了する直前の硝酸銀水溶液を添加した後に添加すると、ハロゲン化銀粒子最表面に吸着することができ、そのほとんどが粒子表面の銀イオンと難溶性の塩を形成する。この六シアノ鉄(II)の銀塩は、AgIよりも難溶性の塩であるため、微粒子による再溶解を防ぐことができ、粒子サイズが小さいハロゲン化銀微粒子を製造することが可能となった。
【0071】
本発明の適用例における感光性ハロゲン化銀粒子は、周期律表(第1〜18族までを示す)の第8族〜第10族の金属又は金属錯体を含有することができる。周期律表の第8族〜第10族の金属又は金属錯体の中心金属として好ましくは、ロジウム、ルテニウム、イリジウムである。これら金属錯体は1種類でもよいし、同種金属及び異種金属の錯体を2種以上併用してもよい。好ましい含有率は銀1モルに対し1×10-9モルから1×10-3モルの範囲が好ましい。これらの重金属や金属錯体及びそれらの添加法については特開平7−225449号公報、特開平11−65021号公報の段落番号0018〜0024、特開平11−119374号公報の段落番号0227〜0240に記載されている。
【0072】
更に本発明の適用例に用いられるハロゲン化銀粒子に含有させることのできる金属原子(例えば[Fe(CN)64-)、ハロゲン化銀乳剤の脱塩法や化学増感法については特開平11−84574号公報の段落番号0046〜0050、特開平11−65021号公報の段落番号0025〜0031、特開平11−119374号公報の段落番号0242〜0250に記載されている。
【0073】
本発明の適用例に用いる感光性ハロゲン化銀乳剤に含有されるゼラチンとしては、種々のゼラチンを使用することができる。感光性ハロゲン化銀乳剤の有機銀塩含有塗布液中での分散状態を良好に維持するために、分子量は、500〜60,000の低分子量ゼラチンを使用することが好ましい。これらの低分子量ゼラチンは粒子形成時あるいは脱塩処理後の分散時に使用してもよいが、脱塩処理後の分散時に使用することが好ましい。
【0074】
本発明の適用例に適用できる増感色素としては、ハロゲン化銀粒子に吸着した際、所望の波長領域でハロゲン化銀粒子を分光増感できるもので、露光光源の分光特性に適した分光感度を有する増感色素を有利に選択することができる。増感色素及び添加法については、特開平11−65021号公報の段落番号0103〜0109、特開平10−186572号公報の一般式(II)で表される化合物、特開平11−119374号公報の一般式(I)で表される色素及び段落番号0106、米国特許第5,510,236号明細書、同第3,871,887号明細書の実施例5に記載の色素、特開平2−96131号公報、特開昭59−48753号公報に開示されている色素、欧州特許公開第0803764A1号公報の第19ページ第38行〜第20ページ第35行、特願2000−86865号明細書、特願2000−102560号明細書、特願2000−205399号明細書等に記載されている。これらの増感色素は単独で用いてもよく、2種以上組合せて用いてもよい。本発明の適用例において増感色素をハロゲン化銀乳剤中に添加する時期は、脱塩工程後、塗布までの時期が好ましく、より好ましくは脱塩後から化学熟成の開始前までの時期である。本発明の適用例における増感色素の添加量は、感度やカブリの性能に合わせて所望の量にすることができるが、感光性層のハロゲン化銀1モル当たり10-6〜1モルが好ましく、更に好ましくは10-4〜10-1モルである。
【0075】
本発明の適用例は分光増感効率を向上させるため、強色増感剤を用いることができる。本発明の適用例に用いる強色増感剤としては、欧州特許公開第587,338号公報、米国特許第3,877,943号明細書、同第4,873,184号明細書、特開平5−341432号公報、同11−109547号公報、同10−111543号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0076】
本発明の適用例における感光性ハロゲン化銀粒子は、硫黄増感法、セレン増感法もしくはテルル増感法にて化学増感されていることが好ましい。硫黄増感法、セレン増感法、テルル増感法に好ましく用いられる化合物としては、公知の化合物、例えば、特開平7−128768号公報等に記載の化合物等を使用することができる。特に本発明の適用例においてはテルル増感が好ましく、特開平11−65021号公報の段落番号0030に記載の文献に記載の化合物、特開平5−313284号公報中の一般式(II),(III),(IV)で示される化合物がより好ましい。
【0077】
本発明の適用例においては、化学増感は粒子形成後で塗布前であればいかなる時期でも可能であり、脱塩後、(1)分光増感前、(2)分光増感と同時、(3)分光増感後、(4)塗布直前等があり得る。特に分光増感後に行われることが好ましい。本発明の適用例で用いられる硫黄、セレン及びテルル増感剤の使用量は、使用するハロゲン化銀粒子、化学熟成条件等によって変わるが、ハロゲン化銀1モル当たり10-8〜10-2モル、好ましくは10-7〜10-3モル程度を用いる。本発明の適用例における化学増感の条件としては特に制限はないが、pHとしては5〜8、pAgとしては6〜11、温度としては40〜95℃程度である。本発明の適用例で用いるハロゲン化銀乳剤には、欧州特許公開第293,917号公報に示される方法により、チオスルフォン酸化合物を添加してもよい。
【0078】
本発明の適用例に用いられる記録材料中の感光性ハロゲン化銀乳剤は、一種だけでもよいし、二種以上(例えば、平均粒子サイズの異なるもの、ハロゲン組成の異なるもの、晶癖の異なるもの、化学増感の条件の異なるもの)を併用してもよい。感度の異なる感光性ハロゲン化銀を複数種用いることで階調を調節することができる。これらに関する技術としては特開昭57−119341号公報、同53−106125号公報、同47−3929号公報、同48−55730号公報、同46−5187号公報、同50−73627号公報、同57−150841号公報などが挙げられる。感度差としてはそれぞれの乳剤で0.2logE以上の差を持たせることが好ましい。
【0079】
感光性ハロゲン化銀の添加量は、記録材料1m2当たりの塗布銀量で示して、0.03〜0.6g/m2であることが好ましく、0.04〜0.4g/m2であることが更に好ましく、0.05〜0.3g/m2であることが最も好ましく、有機銀塩1モルに対しては、感光性ハロゲン化銀は0.01モル以上0.5モル以下が好ましく、0.02モル以上0.3モル以下がより好ましい。
【0080】
別々に調製した感光性ハロゲン化銀と有機銀塩の混合方法及び混合条件については、それぞれ調製終了したハロゲン化銀粒子と有機銀塩を高速撹拌機やボールミル、サンドミル、コロイドミル、振動ミル、ホモジナイザー等で混合する方法や、あるいは有機銀塩の調製中のいずれかのタイミングで調製終了した感光性ハロゲン化銀を混合して有機銀塩を調製する方法等があるが、本発明の適用例の効果が十分に現れる限りにおいては特に制限はない。また、混合する際に2種以上の有機銀塩水分散液と2種以上の感光性銀塩水分散液を混合することは、写真特性の調節のために好ましい方法である。
【0081】
本発明の適用例におけるハロゲン化銀の画像形成層塗布液中への好ましい添加時期は、塗布する180分前から直前、好ましくは60分前から10秒前であるが、混合方法及び混合条件については本発明の適用例の効果が十分に現れる限りにおいては特に制限はない。具体的な混合方法としては添加流量とコーターへの送液量から計算した平均滞留時間を所望の時間となるようにしたタンクでの混合する方法やN.Harnby、M.F.Edwards、A.W.Nienow著、高橋幸司訳“液体混合技術”(日刊工業新聞社刊、1989年)の第8章等に記載されているスタチックミキサーなどを使用する方法がある。
【0082】
感光性層は、非感光性有機銀塩としてベヘン酸銀やベヘン酸銀以外の有機銀塩を含有してもよい。該有機銀塩としては有機酸の銀塩、特に(炭素数が10〜30、好ましくは15〜28の)長鎖脂肪族カルボン酸の銀塩が好ましい。有機銀塩の好ましい例としては、アラキジン酸銀、ステアリン酸銀、オレイン酸銀、ラウリン酸銀、カプロン酸銀、ミリスチン酸銀、パルミチン酸銀、これらの混合物などが挙げられる。ベヘン酸銀及びベヘン酸銀以外の有機銀塩の形状としては特に制限はなく、針状、棒状、平板状、りん片状でもよい。
【0083】
本発明の適用例においては、りん片状の有機銀塩が好ましい。本明細書において、りん片状の有機銀塩とは、次のようにして定義する。有機銀塩を電子顕微鏡で観察し、有機銀塩粒子の形状を直方体と近似し、この直方体の辺を一番短かい方からa、b、cとした(cはbと同じであってもよい。)とき、短い方の数値a、bで計算し、次のようにしてxを求める。x=b/a。このようにして200個程度の粒子についてxを求め、その平均値x(平均)としたとき、x(平均)≧1.5の関係を満たすものをりん片状とする。好ましくは30≧x(平均)≧1.5、より好ましくは20≧x(平均)≧2.0である。因みに針状とは1≦x(平均)<1.5である。
【0084】
りん片状粒子において、aはbとcを辺とする面を主平面とした平板状粒子の厚さとみることができる。aの平均は0.01μm以上0.23μm以下が好ましく0.1μm以上0.20μm以下がより好ましい。c/bの平均は、好ましくは1以上6以下、より好ましくは1.05以上4以下、さらに好ましくは1.1以上3以下、特に好ましくは1.1以上2以下である。
【0085】
有機銀塩の粒子サイズ分布は単分散であることが好ましい。単分散とは短軸、長軸それぞれの長さの標準偏差を短軸、長軸それぞれで割った値の100分率が好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは50%以下である。有機銀塩の形状の測定方法としては、有機銀塩分散物の透過型電子顕微鏡像より求めることができる。単分散性を測定する別の方法として、有機銀塩の体積加重平均直径の標準偏差を求める方法があり、体積加重平均直径で割った値の百分率(変動係数)が好ましくは100%以下、より好ましくは80%以下、更に好ましくは50%以下である。測定方法としては、例えば液中に分散した有機銀塩にレーザー光を照射し、その散乱光のゆらぎの時間変化に対する自己相関関数を求めることにより得られた粒子サイズ(体積加重平均直径)から求めることができる。
【0086】
本発明の適用例に用いられる有機銀塩の製造及びその分散法は、公知の方法等を適用することができる。例えば上記の特開平08−234358号、特開平10−62899号、欧州特許公開第0803763A1、欧州特許公開第0962812A1号、特開平11−349591号、特開2000−7683号、同2000−72711号、同2000−53682号、同2000−75437号、同2000−86669号、同2000−143578号、同2000−178278号、同2000−256254号の各公報、特願平11−348228〜30号、同11−203413号、同11−115457号、同11−180369号、同11−297964号、同11−157838号、同11−202081号、特願2000−90093号、同2000−195621号、同2000−191226号、同2000−213813号、同2000−214155号、同2000−191226号の各明細書等を参考にすることができる。
【0087】
なお、有機銀塩の分散時に、感光性銀塩を共存させると、カブリが上昇し、感度が著しく低下するため、分散時には感光性銀塩を実質的に含まないことがより好ましい。本発明の適用例は、分散される水分散液中での感光性銀塩量は、その液中の有機銀塩1molに対し0.1mol%以下であり、積極的な感光性銀塩の添加は行わないものである。
【0088】
本発明の適用例において、有機銀塩水分散液と感光性銀塩水分散液を混合して記録材料を製造することが可能であるが、有機銀塩と感光性銀塩の混合比率は目的に応じて選択することができ、有機銀塩に対する感光性銀塩の割合は1〜30モル%の範囲が好ましく、更に3〜20モル%、特に5〜15モル%の範囲が好ましい。混合する際に2種以上の有機銀塩水分散液と2種以上の感光性銀塩水分散液を混合することは、写真特性の調節のために好ましく用いられる方法である。
【0089】
本発明の適用例における有機銀塩は、所望の量で使用できるが、銀量として0.1〜5g/m2が好ましく、さらに好ましくは1〜3g/mである。
【0090】
本発明の適用例において、得られる熱現像記録材料には有機銀塩のための還元剤を含むことが好ましい。有機銀塩のための還元剤は、銀イオンを金属銀に還元する任意の物質(好ましくは有機物質)であってよい。このような還元剤は、特開平11−65021号公報の段落番号0043〜0045や、欧州特許公開第0803764A1号公報の第7ページ第34行〜第18ページ第12行に記載されている。本発明の適用例において、還元剤としてはヒンダードフェノール類還元剤、ビスフェノール類還元剤が好ましく、特願2000−358846号明細書に記載の一般式(I)で表される化合物がより好ましい。
【0091】
また、本発明の適用例において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、例えば特願2000−358846号明細書に記載のものが挙げられる。
【0092】
本発明の適用例において還元剤の添加量は0.01〜5.0g/m2であることが好ましく、0.1〜3.0g/m2であることがより好ましく、感光性層(以下、「画像形成層」と呼ぶ場合がある)を有する面の銀1モルに対しては5〜50モル%含まれることが好ましく、10〜40モル%含まれることが更に好ましい。還元剤は画像形成層に含有させることが好ましい。
【0093】
還元剤は溶液形態、乳化分散形態、固体微粒子分散物形態など、いかなる方法で塗布液に含有せしめ、記録材料に含有させてもよい。よく知られている乳化分散法としては、ジブチルフタレート、トリクレジルフォスフェート、グリセリルトリアセテートあるいはジエチルフタレートなどのオイル、酢酸エチルやシクロヘキサノンなどの補助溶媒を用いて溶解し、機械的に乳化分散物を作製する方法が挙げられる。
【0094】
また、固体微粒子分散法としては、還元剤の粉末を水等の適当な溶媒中にボールミル、コロイドミル、振動ボールミル、サンドミル、ジェットミル、ローラーミルあるいは超音波によって分散し、固体分散物を作製する方法が挙げられる。尚、その際に保護コロイド(例えば、ポリビニルアルコール)、界面活性剤(例えばトリイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム(3つのイソプロピル基の置換位置が異なるものの混合物)などのアニオン性界面活性剤)を用いてもよい。水分散物には防腐剤(例えばベンゾイソチアゾリノンナトリウム塩)を含有させることができる。
【0095】
本発明の適用例において、得られる熱現像記録材料には、現像促進剤として特願平11−73951号明細書に記載の式(A)で表されるフェノール誘導体が好ましく用いられる。
【0096】
本発明の適用例における還元剤が芳香族性の水酸基(−OH)を有する場合、特に前述のビスフェノール類の場合には、これらの基と水素結合を形成することが可能な基を有する非還元性の化合物を併用することが好ましい。水酸基又はアミノ基と水素結合を形成する基としては、ホスホリル基、スルホキシド基、スルホニル基、カルボニル基、アミド基、エステル基、ウレタン基、ウレイド基、3級アミノ基、含窒素芳香族基などが挙げられる。その中でも好ましいのはホスホリル基、スルホキシド基、アミド基(但し、>N−H基を持たず、>N−Ra(RaはH以外の置換基)のようにブロックされている。)、ウレタン基(但し、>N−H基を持たず、>N−Ra(RaはH以外の置換基)のようにブロックされている。)、ウレイド基(但し、>N−H基を持たず、>N−Ra(RaはH以外の置換基)のようにブロックされている。)を有する化合物である。本発明の適用例で、特に好ましい水素結合性の化合物は、特願2000−358846号明細書に記載の一般式(II)で表される化合物である。
【0097】
また、本発明の適用例に好ましく用いられる水素結合性化合物の具体例は、例えば特願2000−358846号明細書に記載のものが挙げられる。
【0098】
水素結合性化合物の具体例は、上述の他に特願2000−192191号、同2000−194811号の各明細書に記載のものが挙げられる。本発明の適用例に用いられる特願2000−358846号明細書に記載の一般式(II)の化合物は、還元剤と同様に溶液形態、乳化分散形態、固体分散微粒子分散物形態で塗布液に含有せしめ、記録材料中で使用することができる。前記化合物は、溶液状態でフェノール性水酸基、アミノ基を有する化合物と水素結合性の錯体を形成しており、還元剤と前記一般式(II)の化合物との組み合わせによっては、錯体として結晶状態で単離することができる。このようにして単離した結晶粉体を固体分散微粒子分散物として使用することは安定した性能を得る上で特に好ましい。また、還元剤と前記一般式(II)の化合物を粉体で混合し、適当な分散剤を使って、サンドグラインダーミル等で分散時に錯形成させる方法も好ましく用いることができる。前記一般式(II)の化合物は還元剤に対して、1〜200モル%の範囲で使用することが好ましく、より好ましくは10〜150モル%の範囲で、更に好ましくは30〜100モル%の範囲である。
【0099】
本発明の適用例における有機銀塩含有層のバインダーは、いかなるポリマーであってもよく、好適なバインダーは透明又は半透明で、一般に無色であり、天然樹脂やポリマー及びコポリマー、合成樹脂やポリマー及びコポリマー、その他フィルムを形成する媒体、例えば、ゼラチン類、ゴム類、ポリ(ビニルアルコール)類、ヒドロキシエチルセルロース類、セルロースアセテート類、セルロースアセテートブチレート類、ポリ(ビニルピロリドン)類、カゼイン、デンプン、ポリ(アクリル酸)類、ポリ(メチルメタクリル酸)類、ポリ(塩化ビニル)類、ポリ(メタクリル酸)類、スチレン−無水マレイン酸共重合体類、スチレン−アクリロニトリル共重合体類、スチレン−ブタジエン共重合体類、ポリ(ビニルアセタール)類(例えば、ポリ(ビニルホルマール)及びポリ(ビニルブチラール))、ポリ(エステル)類、ポリ(ウレタン)類、フェノキシ樹脂、ポリ(塩化ビニリデン)類、ポリ(エポキシド)類、ポリ(カーボネート)類、ポリ(酢酸ビニル)類、ポリ(オレフィン)類、セルロースエステル類、ポリ(アミド)類がある。バインダーは、水もしくは有機溶媒又はエマルションから被覆形成してもよい。
【0100】
有機銀塩を含有する層のバインダーのガラス転移温度は10℃以上80℃以下である(以下、高Tgバインダーということがある)ことが好ましく、20℃以上70℃以下であることがより好ましく、23℃以上65℃以下であることが更に好ましい。
【0101】
Tgは次記の式で計算した。1/Tg=Σ(Xi/Tgi)。ここでは、ポリマーはi=1からnまでのn個のモノマー成分が共重合しているとする。Xiはi番目のモノマーの重量分率(ΣXi=1)、Tgiはi番目のモノマーの単独重合体のガラス転移温度(絶対温度)である。ただしΣはi=1からnまでの和をとる。尚、各モノマーの単独重合体ガラス転移温度の値(Tgi)はPolymer Handbook(3rd Edition)(J.Brandrup, E.H.Immergut著(Wiley-Interscience、1989))の値を採用した。
【0102】
バインダーとなるポリマーは単独種で用いてもよいし、必要に応じて2種以上を併用してもよい。また、ガラス転移温度が20℃以上のものとガラス転移温度が20℃未満のものを組み合わせて用いてもよい。Tgの異なるポリマーを2種以上ブレンドして使用する場合には、その重量平均Tgが上記の範囲に入ることが好ましい。
【0103】
例えば有機銀塩含有層が溶媒の30質量%以上が水である塗布液を用いて塗布し、乾燥して形成される場合に、更に有機銀塩含有層のバインダーが水系溶媒(水溶媒)に可溶又は分散可能である場合に、特に25℃60%RHでの平衡含水率が2質量%以下のポリマーのラテックスからなる場合に性能が向上する。最も好ましい形態は、イオン伝導度が2.5mS/cm以下になるように調製されたものであり、このような調製法としてポリマー合成後分離機能膜を用いて精製処理する方法が挙げられる。
【0104】
ここでいう前記ポリマーが可溶又は分散可能である水系溶媒とは、水又は水に70質量%以下の水混和性の有機溶媒を混合したものである。水混和性の有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール系、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系、酢酸エチル、ジメチルホルミアミドなどを挙げることができる。
【0105】
なお、ポリマーが熱力学的に溶解しておらず、いわゆる分散状態で存在している系の場合にも、ここでは水系溶媒という言葉を使用する。
【0106】
また「25℃60%RHにおける平衡含水率」とは、25℃60%RHの雰囲気下で調湿平衡にあるポリマーの重量W1と25℃で絶乾状態にあるポリマーの重量W0を用いて次式のように表すことができる。25℃60%RHにおける平衡含水率={(W1−W0)/W0}×100(質量%)。含水率の定義と測定法については、例えば高分子工学講座14、高分子材料試験法(高分子学会編、地人書館)を参考にすることができる。
【0107】
本発明の適用例においてはバインダーポリマーの25℃60%RHにおける平衡含水率は2質量%以下であることが好ましいが、より好ましくは0.01質量%以上1.5質量%以下、更に好ましくは0.02質量%以上1質量%以下である。
【0108】
本発明の適用例においては水系溶媒に分散可能なポリマーが特に好ましい。分散状態の例としては、水不溶な疎水性ポリマーの微粒子が分散しているラテックスやポリマー分子が分子状態又はミセルを形成して分散しているものなどがあるが、いずれも好ましい。分散粒子の平均粒径は1〜50000nm、より好ましくは5〜1000nm程度の範囲である。分散粒子の粒径分布に関しては特に制限は無く、広い粒径分布を持つものでも単分散の粒径分布を持つものでもよい。
【0109】
本発明の適用例において水系溶媒に分散可能なポリマーの好ましい態様としては、アクリル系ポリマー、ポリ(エステル)類、ゴム類(例えばSBR樹脂)、ポリ(ウレタン)類、ポリ(塩化ビニル)類、ポリ(酢酸ビニル)類、ポリ(塩化ビニリデン)類、ポリ(オレフィン)類等の疎水性ポリマーを好ましく用いることができる。これらポリマーとしては直鎖のポリマーでも枝分かれしたポリマーでもまた架橋されたポリマーでもよいし、単一のモノマーが重合したいわゆるホモポリマーでもよいし、2種類以上のモノマーが重合したコポリマーでもよい。コポリマーの場合はランダムコポリマーでも、ブロックコポリマーでもよい。これらポリマーの分子量は数平均分子量で5000〜1000000、好ましくは10000〜200000である。分子量が小さすぎるものは乳剤層の力学強度が不十分であり、大きすぎるものは成膜性が悪く好ましくない。
【0110】
好ましいポリマーラテックスの具体例としては以下のものを挙げることができる。以下では原料モノマーを用いて表し、括弧内の数値は質量%、分子量は数平均分子量である。多官能モノマーを使用した場合は架橋構造を作るため分子量の概念が適用できないので架橋性と記載し、分子量の記載を省略した。Tgはガラス転移温度を表す。
P-1;-MMA(70)-EA(27)-MAA(3)-のラテックス(分子量37000)P-2;-MMA(70)-2EHA(20)-St(5)-AA(5)-のラテックス(分子量40000)P-3;-St(50)-Bu(47)-MAA(3)-のラテックス(架橋性
)P-4;-St(68)-Bu(29)-AA(3)-のラテックス(架橋性)P-5;-St(71)-Bu(26)-AA(3)-のラテックス(架橋性,Tg24℃)P-6;-St(70)-Bu(27)-IA(3)-のラテックス(架橋性)P-7;-St(75)-Bu(24)-AA(1)-のラテックス(架橋性)P-8;-St(60)-Bu(35)-DVB(3)-MAA(2)-のラテックス(架橋性)P-9;-St(70)-Bu(25)-DVB(2)-AA(3)-のラテックス(架橋性)P-10;-VC(50)-MMA(20)-EA(20)-AN(5)-AA(5)-のラテックス(分子量80000)P-11;-VDC(85)-MMA(5)-EA(5)-MAA(5)-のラテックス(分子量67000)P-12;-Et(90)-MAA(10)-のラテックス(分子量12000)P-13;-St(70)-2EHA(27)-AA(3)のラテックス(分子量130000)P-14;-MMA(63)-EA(35)- AA(2)のラテックス(分子量33000)P-15;-St(70.5)-Bu(26.5)-AA(3)-のラテックス(架橋性,Tg23℃)P-16;-St(69.5)-Bu(27.5)-AA(3)-のラテックス(架橋性,Tg20.5℃)
上記構造の略号は以下のモノマーを表す。MMA;メチルメタクリレート、EA;エチルアクリレート、MAA;メタクリル酸、2EHA;2−エチルヘキシルアクリレート、St;スチレン、Bu;ブタジエン、AA;アクリル酸、DVB;ジビニルベンゼン、VC;塩化ビニル、AN;アクリロニトリル、VDC;塩化ビニリデン、Et;エチレン、IA;イタコン酸。
【0111】
以上に記載したポリマーラテックスは市販もされていて、以下のようなポリマーが利用できる。アクリル系ポリマーの例としては、セビアンA−4635、4718、4601(以上ダイセル化学工業(株)製)、Nipol Lx811、814、821、820、857(以上日本ゼオン(株)製)など、ポリ(エステル)類の例としては、FINETEX ES650、611、675、850(以上大日本インキ化学(株)製)、WD−size、WMS(以上イーストマンケミカル製)など、ポリ(ウレタン)類の例としては、HYDRAN AP10、20、30、40(以上大日本インキ化学(株)製)など、ゴム類の例としては、LACSTAR 7310K、3307B、4700H、7132C(以上大日本インキ化学(株)製)、Nipol Lx416、410、438C、2507(以上日本ゼオン(株)製)など、ポリ(塩化ビニル)類の例としては、G351、G576(以上日本ゼオン(株)製)など、ポリ(塩化ビニリデン)類の例としては、L502、L513(以上旭化成工業(株)製)など、ポリ(オレフィン)類の例としては、ケミパールS120、SA100(以上三井石油化学(株)製)などを挙げることができる。
【0112】
これらのポリマーラテックスは単独で用いてもよいし、必要に応じて2種以上ブレンドしてもよい。
【0113】
本発明の適用例に用いられるポリマーラテックスとしては、特に、スチレン−ブタジエン共重合体のラテックスが好ましい。スチレン−ブタジエン共重合体におけるスチレンのモノマー単位とブタジエンのモノマー単位との重量比は40:60〜95:5であることが好ましい。また、スチレンのモノマー単位とブタジエンのモノマー単位との共重合体に占める割合は60〜99質量%であることが好ましい。好ましい分子量の範囲は前記と同様である。
【0114】
本発明の適用例に用いることが好ましいスチレン−ブタジエン共重合体のラテックスとしては、前記のP−3〜P−8,14,15、市販品であるLACSTAR−3307B、7132C、Nipol Lx416等が挙げられる。
【0115】
本発明の適用例において、有機銀塩含有層には必要に応じてゼラチン、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどの親水性ポリマーを添加してもよい。これらの親水性ポリマーの添加量は、有機銀塩含有層の全バインダーの30質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。
【0116】
本発明の適用例における有機銀塩含有層(即ち、画像形成層)は、ポリマーラテックスを用いて形成されたものが好ましい。有機銀塩含有層のバインダーの量は、全バインダー/有機銀塩の重量比が1/10〜10/1、更には1/5〜4/1の範囲が好ましい。
【0117】
また、このような有機銀塩含有層は、通常、感光性銀塩である感光性ハロゲン化銀が含有された感光性層(乳剤層)でもあり、このような場合の、全バインダー/感光性ハロゲン化銀の重量比は400〜5、より好ましくは200〜10の範囲が好ましい。
【0118】
本発明の適用例における画像形成層の全バインダー量は0.2〜30g/m2、より好ましくは1〜15g/m2の範囲が好ましい。本発明の適用例における画像形成層には架橋のための架橋剤、塗布性改良のための界面活性剤などを添加してもよい。
【0119】
本発明の適用例において記録材料の有機銀塩含有層塗布液の溶媒(ここでは簡単のため、溶媒と分散媒をあわせて溶媒と表す)は、水を30質量%以上含む水系溶媒が好ましい。水以外の成分としてはメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジメチルホルムアミド、酢酸エチルなど任意の水混和性有機溶媒を用いてよい。塗布液の溶媒の水含有率は50質量%以上、より好ましくは70質量%以上が好ましい。好ましい溶媒組成の例を挙げると、水の他、水/メチルアルコール=90/10、水/メチルアルコール=70/30、水/メチルアルコール/ジメチルホルムアミド=80/15/5、水/メチルアルコール/エチルセロソルブ=85/10/5、水/メチルアルコール/イソプロピルアルコール=85/10/5などがある(数値は質量%)。
【0120】
本発明の適用例に用いることのできるカブリ防止剤、安定剤及び安定剤前駆体は、特開平10−62899号公報の段落番号0070、欧州特許公開第0803764A1号公報の第20頁第57行〜第21頁第7行に記載の特許のもの、特開平9−281637号、同9−329864号の各公報に記載の化合物が挙げられる。また、本発明の適用例に好ましく用いられるカブリ防止剤は有機ハロゲン化物であり、これらについては、特開平11−65021号公報の段落番号0111〜0112に記載の特許に開示されているものが挙げられる。特に特願平11−87297号公報の式(P)で表される有機ハロゲン化合物、特開平10−339934号公報の一般式(II)で表される有機ポリハロゲン化合物、特願平11−205330号公報に記載の有機ポリハロゲン化合物が好ましい。更に、本発明の適用例において好ましく用いられる有機ポリハロゲン化合物は、特願2000−358846号明細書に記載の一般式(III)で表される化合物であり、その具体例としては該明細書に記載のものが挙げられる。
【0121】
本発明の適用例において、特願2000−358846号明細書に記載の一般式(III)で表される化合物は画像形成層の非感光性有機銀塩1モルあたり、10-4〜1モルの範囲で使用することが好ましく、10-3〜0.8モルの範囲で使用することがより好ましく、5×10-3〜0.5モルの範囲で使用することが特に好ましい。本発明の適用例において、カブリ防止剤を記録材料に含有せしめる方法としては、前記還元剤の含有方法に記載の方法が挙げられ、有機ポリハロゲン化合物についても固体微粒子分散物で添加することが好ましい。
【0122】
その他のカブリ防止剤としては、特開平11−65021号公報の段落番号0113の水銀(II)塩、同号公報の段落番号0114の安息香酸類、特開2000−206642号公報のサリチル酸誘導体、特開2000−221634号公報の式(S)で表されるホルマリンスカベンジャー化合物、特開平11−352624号公報の請求項9に係るトリアジン化合物、特開平6−11791号公報の一般式(III)で表される化合物、4−ヒドロキシ−6−メチル−1,3,3a,7−テトラザインデン等が挙げられる。
【0123】
本発明の適用例においては、カブリ防止を目的としてアゾリウム塩を含有してもよい。アゾリウム塩としては、特開昭59−193447号公報に記載の一般式(XI)で表される化合物、特公昭55−12581号公報に記載の化合物、特開昭60−153039号公報に記載の一般式(II)で表される化合物が挙げられる。アゾリウム塩は記録材料のいかなる部位に添加してもよいが、添加層としては感光性層を有する面の層に添加することが好ましく、有機銀塩含有層に添加することが更に好ましい。アゾリウム塩の添加時期としては塗布液調製のいかなる工程で行ってもよく、有機銀塩含有層に添加する場合は、有機銀塩調製時から塗布液調製時のいかなる工程でもよいが、有機銀塩調製後から塗布直前が好ましい。アゾリウム塩の添加法としては、粉末、溶液、微粒子分散物などいかなる方法で行ってもよい。また、増感色素、還元剤、色調剤など他の添加物と混合した溶液として添加してもよい。本発明の適用例においてアゾリウム塩の添加量としてはいかなる量でもよいが、銀1モル当たり1×10-6モル以上2モル以下が好ましく、1×10-3モル以上0.5モル以下が更に好ましい。
【0124】
本発明の適用例には現像を抑制あるいは促進させ現像を制御するため、分光増感効率を向上させるため、現像前後の保存性を向上させるためなどに、メルカプト化合物、ジスルフィド化合物、チオン化合物を含有させることができ、特開平10−62899号公報の段落番号0067〜0069、特開平10−186572号公報の一般式(I)で表される化合物及びその具体例として段落番号0033〜0052、欧州特許公開第0803764A1号公報の第20ページ第36〜56行、特願平11−273670号公報等に記載されている。中でもメルカプト置換複素芳香族化合物が好ましい。
【0125】
本発明の適用例においては、色調剤の添加が好ましく、色調剤については、特開平10−62899号公報の段落番号0054〜0055、欧州特許公開第0803764A1号公報の第21ページ第23〜48行、特開2000−356317号公報や特願2000−187298号明細書に記載されており、特に、フタラジノン類(フタラジノン、フタラジノン誘導体もしくは金属塩;例えば4−(1−ナフチル)フタラジノン、6−クロロフタラジノン、5,7−ジメトキシフタラジノン及び2,3−ジヒドロ−1,4−フタラジンジオン);フタラジノン類とフタル酸類(例えば、フタル酸、4−メチルフタル酸、4−ニトロフタル酸、フタル酸二アンモニウム、フタル酸ナトリウム、フタル酸カリウム及びテトラクロロ無水フタル酸)との組合せ;フタラジン類(フタラジン、フタラジン誘導体もしくは金属塩;例えば4−(1−ナフチル)フタラジン、6−イソプロピルフタラジン、6−t−ブチルフラタジン、6−クロロフタラジン、5,7−ジメトキシフタラジン及び2,3−ジヒドロフタラジン);フタラジン類とフタル酸類との組合せが好ましく、特にフタラジン類とフタル酸類の組合せが好ましい。
【0126】
本発明の適用例における感光性層に用いることのできる可塑剤及び潤滑剤については、特開平11−65021号公報の段落番号0117、超硬調画像形成のための超硬調化剤やその添加方法や量については、同号段落番号0118、特開平11−223898号公報の段落番号0136〜0193、特願平11−87297号明細書の式(H)、式(1)〜(3)、式(A)、(B)の化合物、特願平11−91652号明細書に記載の一般式(III)〜(V)の化合物(具体的化合物:化21〜化24)、硬調化促進剤については特開平11−65021号公報の段落番号0102、特開平11−223898号公報の段落番号0194〜0195に記載されている。
【0127】
蟻酸や蟻酸塩を強いかぶらせ物質として用いるには、感光性ハロゲン化銀を含有する画像形成層を有する側に銀1モル当たり5ミリモル以下、更には1ミリモル以下で含有することが好ましい。
【0128】
本発明の適用例において、超硬調化剤を用いる場合には、五酸化二リンが水和してできる酸又はその塩を併用して用いることが好ましい。五酸化二リンが水和してできる酸又はその塩としては、メタリン酸(塩)、ピロリン酸(塩)、オルトリン酸(塩)、三リン酸(塩)、四リン酸(塩)、ヘキサメタリン酸(塩)などを挙げることができる。特に好ましく用いられる五酸化二リンが水和してできる酸又はその塩としては、オルトリン酸(塩)、ヘキサメタリン酸(塩)を挙げることができる。具体的な塩としてはオルトリン酸ナトリウム、オルトリン酸二水素ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸アンモニウムなどがある。五酸化二リンが水和してできる酸又はその塩の使用量(記録材料1m2あたりの塗布量)は、感度やカブリなどの性能に合わせて所望の量でよいが、0.1〜500mg/m2が好ましく、0.5〜100mg/m2がより好ましい。
【0129】
本発明の適用例においては、画像形成層の付着防止などの目的で表面保護層を設けることができる。表面保護層は単層でもよいし、複数層であってもよい。表面保護層については、特開平11−65021号公報の段落番号0119〜0120、特願2000−171936号明細書に記載されている。本発明の適用例における表面保護層のバインダーとしては、ゼラチンが好ましいがポリビニルアルコール(PVA)を用いる若しくは併用することも好ましい。ゼラチンとしてはイナートゼラチン(例えば新田ゼラチン750)、フタル化ゼラチン(例えば新田ゼラチン801)などを使用することができる。PVAとしては、特開2000−171936号公報の段落番号0009〜0020に記載のものが挙げられ、完全けん化物のPVA−105、部分けん化物のPVA−205,PVA−335、変性ポリビニルアルコールのMP−203(以上、クラレ(株)製の商品名)などが好ましく挙げられる。保護層(1層当たり)のポリビニルアルコール塗布量(支持体1m2当たり)としては0.3〜4.0g/m2が好ましく、0.3〜2.0g/m2がより好ましい。
【0130】
本発明の適用例において、特に寸法変化が問題となる印刷用途に熱現像記録材料を用いる場合には、表面保護層やバック層にポリマーラテックスを用いることが好ましい。このようなポリマーラテックスについては、「合成樹脂エマルジョン(奥田平、稲垣寛編集、高分子刊行会発行(1978))」、「合成ラテックスの応用(杉村孝明、片岡靖男、鈴木聡一、笠原啓司編集、高分子刊行会発行(1993))」、「合成ラテックスの化学(室井宗一著、高分子刊行会発行(1970))」などにも記載され、具体的にはメチルメタクリレート(33.5質量%)/エチルアクリレート(50質量%)/メタクリル酸(16.5質量%)コポリマーのラテックス、メチルメタクリレート(47.5質量%)/ブタジエン(47.5質量%)/イタコン酸(5質量%)コポリマーのラテックス、エチルアクリレート/メタクリル酸のコポリマーのラテックス、メチルメタクリレート(58.9質量%)/2−エチルヘキシルアクリレート(25.4質量%)/スチレン(8.6質量%)/2−ヒドロキシエチルメタクリレート(5.1質量%)/アクリル酸(2.0質量%)コポリマーのラテックス、メチルメタクリレート(64.0質量%)/スチレン(9.0質量%)/ブチルアクリレート(20.0質量%)/2−ヒドロキシエチルメタクリレート(5.0質量%)/アクリル酸(2.0質量%)コポリマーのラテックスなどが挙げられる。更に、表面保護層用のバインダーとして、特願平11−6872号明細書のポリマーラテックスの組み合わせ、特願平11−143058号明細書の段落番号0021〜0025に記載の技術、特願平11−6872号明細書の段落番号0027〜0028に記載の技術、特願平10−199626号明細書の段落番号0023〜0041に記載の技術を適用してもよい。表面保護層のポリマーラテックスの比率は全バインダーの10質量%以上90質量%以下が好ましく、特に20質量%以上80質量%以下が好ましい。表面保護層(1層当たり)の全バインダー(水溶性ポリマー及びラテックスポリマーを含む)塗布量(支持体1m2当たり)としては0.3〜5.0g/m2が好ましく、0.3〜2.0g/m2がより好ましい。
【0131】
本発明の適用例における画像形成層塗布液の調製温度は30℃以上65℃以下が好ましく、更に好ましい温度は35℃以上60℃未満、特に好ましい温度は35℃以上55℃以下である。また、ポリマーラテックス添加直後の画像形成層塗布液の温度が30℃以上65℃以下で維持されることが好ましい。
【0132】
本発明の適用例における画像形成層は、支持体上に一又はそれ以上の層で構成される。一層で構成する場合は、有機銀塩、感光性ハロゲン化銀、還元剤及びバインダーよりなり、必要により色調剤、被覆助剤及び他の補助剤などの所望による追加の材料を含む。二層以上で構成する場合は、第1画像形成層(通常は支持体に隣接した層)中に有機銀塩及び感光性ハロゲン化銀を含み、第2画像形成層又は両層中にいくつかの他の成分を含まなければならない。多色感光性熱現像写真材料の構成は、各色についてこれらの二層の組合せを含んでよく、また、米国特許第4,708,928号明細書に記載されているように単一層内に全ての成分を含んでいてもよい。多染料多色感光性熱現像写真材料の場合、各乳剤層は、一般に、米国特許第4,460,681号明細書に記載されているように、各感光性層の間に官能性もしくは非官能性のバリアー層を使用することにより、互いに区別されて保持される。
【0133】
本発明の適用例における感光性層には、色調改良、レーザー露光時の干渉縞発生防止、イラジエーション防止の観点から各種染料や顔料(例えばC.I.Pigment Blue 60、C.I.Pigment Blue 64、C.I.Pigment Blue 15:6)を用いることができる。これらについてはWO98/36322号、特開平10−268465号、同11−338098号の各公報等に詳細に記載されている。
【0134】
本発明の適用例においては、アンチハレーション層を感光性層に対して光源から遠い側に設けることができる。
【0135】
本発明の適用例においては、一般に、感光性層に加えて非感光性層を有する。非感光性層は、その配置から(1)感光性層の上(支持体よりも遠い側)に設けられる保護層、(2)複数の感光性層の間や感光性層と保護層との間に設けられる中間層、(3)感光性層と支持体との間に設けられる下塗層、(4)感光性層の反対側に設けられるバック層に分類できる。フィルター層は、(1)又は(2)の層として記録材料に設けられる。アンチハレーション層は、(3)又は(4)の層として記録材料に設けられる。
【0136】
アンチハレーション層については特開平11−65021号公報の段落番号0123〜0124、特開平11−223898号公報、同9−230531号公報、同10−36695号公報、同10−104779号公報、同11−231457号公報、同11−352625号公報、同11−352626号公報等に記載されている。アンチハレーション層には、露光波長に吸収を有するアンチハレーション染料を含有する。露光波長が赤外域にある場合には赤外線吸収染料を用いればよく、その場合には可視域に吸収を有しない染料が好ましい。可視域に吸収を有する染料を用いてハレーション防止を行う場合には、画像形成後には染料の色が実質的に残らないようにすることが好ましく、熱現像の熱により消色する手段を用いることが好ましく、特に非感光性層に熱消色染料と塩基プレカーサーとを添加してアンチハレーション層として機能させることが好ましい。これらの技術については特開平11−231457号公報等に記載されている。
【0137】
消色染料の添加量は、染料の用途により決定する。一般には、目的とする波長で測定したときの光学濃度(吸光度)が0.1を超える量で使用する。光学濃度は、0.2〜2であることが好ましい。このような光学濃度を得るための染料の使用量は、一般に0.001〜1g/m2程度である。
【0138】
なお、このように染料を消色すると、熱現像後の光学濃度を0.1以下に低下させることができる。二種類以上の消色染料を、熱消色型記録材料や熱現像記録材料において併用してもよい。同様に、二種類以上の塩基プレカーサーを併用してもよい。このような消色染料と塩基プレカーサーを用いる熱消色においては、特開平11−352626号に記載のような塩基プレカーサーと混合すると融点を3℃(deg)以上降下させる物質(例えば、ジフェニルスルフォン、4−クロロフェニル(フェニル)スルフォン)を併用することが熱消色性等の点で好ましい。
【0139】
本発明の適用例においては、銀色調、画像の経時変化を改良する目的で300〜450nmに吸収極大を有する着色剤を添加することができる。このような着色剤は、特開昭62−210458号、同63−104046号、同63−103235号、同63−208846号、同63−306436号、同63−314535号、特開平01−61745号の各公報、特願平11−276751号明細書などに記載されている。このような着色剤は、通常、0.1mg/m2〜1g/m2の範囲で添加され、添加する層としては感光性層の反対側に設けられるバック層が好ましい。
【0140】
本発明の適用例において、得られる熱現像記録材料は、支持体の一方の側に少なくとも1層のハロゲン化銀乳剤を含む感光性層を有し、他方の側にバック層を有する、いわゆる片面記録材料であることが好ましい。
【0141】
本発明の適用例において、搬送性改良のためにマット剤を添加することが好ましく、マット剤については、特開平11−65021号公報の段落番号0126〜0127に記載されている。マット剤は記録材料1m2当たりの塗布量で示した場合、好ましくは1〜400mg/m2、より好ましくは5〜300mg/m2である。また、乳剤面のマット度は星屑故障が生じなければいかようでもよいが、ベック平滑度が30秒以上2000秒以下が好ましく、特に40秒以上1500秒以下が好ましい。ベック平滑度は、日本工業規格(JIS)P8119「紙および板紙のベック試験器による平滑度試験方法」及びTAPPI標準法T479により容易に求めることができる。
【0142】
本発明の適用例においてバック層のマット度としては、ベック平滑度が1200秒以下10秒以上が好ましく、800秒以下20秒以上がより好ましく、500秒以下40秒以上が特に好ましい。
【0143】
本発明の適用例において、マット剤は記録材料の最外表面層もしくは最外表面層として機能する層、あるいは外表面に近い層に含有されるのが好ましく、またいわゆる保護層として作用する層に含有されることが好ましい。
【0144】
本発明に適用することのできるバック層については、特開平11−65021号公報の段落番号0128〜0130に記載されている。
【0145】
本発明の適用例において、得られる感熱記録材料は、熱現像処理前の膜面pHが7.0以下であることが好ましく、更に好ましくは6.6以下である。その下限には特に制限はないが、3程度である。最も好ましいpH範囲は4〜6.2の範囲である。膜面pHの調節は、フタル酸誘導体などの有機酸や硫酸などの不揮発性の酸、アンモニアなどの揮発性の塩基を用いることが、膜面pHを低減させるという観点から好ましい。特にアンモニアは揮発しやすく、塗布する工程や熱現像される前に除去できることから低膜面pHを達成する上で好ましい。また、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化リチウム等の不揮発性の塩基とアンモニアを併用することも好ましく用いられる。なお、膜面pHの測定方法は、特願平11−87297号明細書の段落番号0123に記載されている。
【0146】
本発明の適用例における感光性層、保護層、バック層など各層には硬膜剤を用いてもよい。硬膜剤の例としてはT.H.James著“THE THEORY OF THE PHOTOGRAPHIC PROCESS FOURTH EDITION”(Macmillan Publishing Co., Inc.刊、1977年刊)77頁から87頁に記載のものがあり、クロムみょうばん、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジンナトリウム塩、N,N−エチレンビス(ビニルスルフォンアセトアミド)、N,N−プロピレンビス(ビニルスルフォンアセトアミド)の他、同書78頁などに記載の多価金属イオン、米国特許4,281,060号明細書、特開平6−208193号公報などのポリイソシアネート類、米国特許4,791,042号明細書などのエポキシ化合物類、特開昭62−89048号公報などのビニルスルホン系化合物類が好ましく用いられる。
【0147】
硬膜剤は溶液として添加され、この溶液の保護層塗布液中への添加時期は、塗布する180分前から直前、好ましくは60分前から10秒前であるが、混合方法及び混合条件については、本発明の効果が十分に現れる限りにおいては特に制限はない。具体的な混合方法としては、添加流量とコーターへの送液量から計算した平均滞留時間を所望の時間となるようにしたタンクでの混合する方法やN.Harnby、M.F.Edwards、A.W.Nienow著、高橋幸司訳“液体混合技術”(日刊工業新聞社刊、1989年)の第8章等に記載されているスタチックミキサーなどを使用する方法がある。
【0148】
本発明に適用できる界面活性剤については、特開平11−65021号公報の段落番号0132、溶剤については同号公報の段落番号0133、支持体については同号公報の段落番号0134、帯電防止又は導電層については同号公報の段落番号0135、カラー画像を得る方法については同号公報の段落番号0136に、滑り剤については特開平11−84573号公報の段落番号0061〜0064や特願平11−106881号明細書の段落番号0049〜0062に記載されている。
【0149】
本発明の適用例において、得られる熱現像記録材料は、モノシート型(受像材料のような他のシートを使用せずに、熱現像記録材料上に画像を形成できる型)であることが好ましい。
【0150】
本発明の適用例においては、感光性層あるいは非感光性層のいずれかに、更に、酸化防止剤、安定化剤、可塑剤、紫外線吸収剤あるいは被覆助剤を添加してもよい。それらについてWO98/36322号、EP803764A1号、特開平10−186567号、同10−18568号の各公報等を参考にすることができる。
【0151】
本発明の適用例においては、上記各層は、いかなる方法で塗布されてもよい。具体的には、エクストルージョンコーティング、スライドコーティング、カーテンコーティング、浸漬コーティング、ナイフコーティング、フローコーティング、又は米国特許第2,681,294号に記載の種類のホッパーを用いる押出コーティングを含む種々のコーティング操作が用いられ、Stephen F. Kistler、Petert M. Schweizer著“LIQUID FILM COATING”(CHAPMAN & HALL社刊、1997年)399頁から536頁記載のエクストルージョンコーティング、又はスライドコーティングが好ましく用いられ、特に好ましくはスライドコーティングが用いられる。スライドコーティングに使用されるスライドコーターの形状の例は同書427頁のFigure 11b.1にある。また、所望により同書399頁から536頁記載の方法、米国特許第2,761,791号明細書及び英国特許第837,095号明細書に記載の方法により2層又はそれ以上の層を同時に被覆することができる。
【0152】
本発明の適用例における有機銀塩含有層塗布液は、いわゆるチキソトロピー流体であることが好ましい。この技術については特開平11−52509号公報を参考にすることができる。本発明の適用例における有機銀塩含有層塗布液は、剪断速度0.1S-1における粘度は400mPa・s以上100,000mPa・s以下が好ましく、更に好ましくは500mPa・s以上20,000mPa・s以下である。また、剪断速度1000S-1においては1mPa・s以上200mPa・s以下が好ましく、更に好ましくは5mPa・s以上80mPa・s以下である。
【0153】
本発明の適用例において、用いることのできる技術としては、EP803764A1号、EP883022A1号、WO98/36322号、特開昭56−62648号、同58−62644号、特開平9−43766、同9−281637、同9−297367号、同9−304869号、同9−311405号、同9−329865号、同10−10669号、同10−62899号、同10−69023号、同10−186568号、同10−90823号、同10−171063号、同10−186565号、同10−186567号、同10−186569号〜同10−186572号、同10−197974号、同10−197982号、同10−197983号、同10−197985号〜同10−197987号、同10−207001号、同10−207004号、同10−221807号、同10−282601号、同10−288823号、同10−288824号、同10−307365号、同10−312038号、同10−339934号、同11−7100号、同11−15105号、同11−24200号、同11−24201号、同11−30832号、同11−84574号、同11−65021号、同11−109547号、同11−125880号、同11−129629号、同11−133536号〜同11−133539号、同11−133542号、同11−133543号、同11−223898号、同11−352627号、同11−305377号、同11−305378号、同11−305384号、同11−305380号、同11−316435号、同11−327076号、同11−338096号、同11−338098号、同11−338099号、同11−343420号、特願2000−187298号、同2000−10229号、同2000−47345号、同2000−206642号、同2000−98530号、同2000−98531号、同2000−112059号、同2000−112060号、同2000−112104号、同2000−112064号、同2000−171936号の各公報も挙げられる。
【0154】
本発明の適用例において、得られる熱現像記録材料は、いかなる方法で現像されてもよいが、通常イメージワイズに露光した熱現像記録材料を昇温して現像される。好ましい現像温度としては80〜250℃であり、更に好ましくは100〜140℃である。現像時間としては1〜60秒が好ましく、5〜30秒が更に好ましく、10〜20秒が特に好ましい。
【0155】
熱現像の方式としてはプレートヒーター方式が好ましい。プレートヒーター方式による熱現像方式とは特開平11−133572号公報に記載の方法が好ましく、潜像を形成した熱現像記録材料を熱現像部にて加熱手段に接触させることにより可視像を得る熱現像装置であって、前記加熱手段がプレートヒータからなり、かつ前記プレートヒーターの一方の面に沿って複数個の押えローラが対向配設され、前記押えローラと前記プレートヒーターとの間に前記熱現像記録材料を通過させて熱現像を行うことを特徴とする熱現像装置である。プレートヒーターを2〜6段に分けて先端部については1〜10℃程度温度を下げることが好ましい。このような方法は特開昭54−30032号公報にも記載されており、熱現像記録材料に含有している水分や有機溶媒を系外に除外させることができ、また、急激に熱現像記録材料が加熱されることでの熱現像記録材料の支持体形状の変化を押さえることもできる。
【0156】
本発明の適用例において、得られる熱現像記録材料は、いかなる方法で露光されてもよいが、露光光源としてレーザー光が好ましい。本発明によるレーザー光としては、ガスレーザー(Ar+、He−Ne)、YAGレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなどが好ましい。また、半導体レーザーと第2高調波発生素子などを用いることもできる。好ましくは赤〜赤外発光のガス若しくは半導体レーザーである。
【0157】
露光部及び熱現像部を備えた医療用のレーザーイメージャーとしては、富士メディカルドライレーザーイメージャーFM−DP Lを挙げることができる。FM−DP Lに関しては、Fuji Medical Review No.8,page39〜55に記載されており、それらの技術は熱現像記録材料のレーザーイメージャーとして適用することは言うまでもない。また、DICOM規格に適応したネットワークシステムとして、富士メディカルシステムが提案した「AD network」の中でのレーザーイメージャー用の熱現像記録材料としても適用することができる。
【0158】
本発明の適用例において、得られる熱現像記録材料は、銀画像による黒白画像を形成し、医療診断用の熱現像記録材料、工業写真用熱現像記録材料、印刷用熱現像記録材料、COM用の熱現像記録材料として使用されることが好ましい。
【0159】
以上はハロゲン化銀感光材料の下塗りに適用した例であるが、その他の感光材料、光学フィルム材料の下塗りに対しても好適に用いることができる。また、下塗り素材としても、水分散系ラテックス、ゼラチン、PVA等、ポリエステル樹脂バインダー、ポリウレタン樹脂バインダー、UV効果樹脂、グラフト重合用素材等を用いた場合においても同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0160】
【図1】本発明が適用されたハロゲン化銀感光材料の製造工程を示すブロック図
【図2】図1の製造工程で製造したポリエステルフィルム製品の断面図
【図3】本発明が適用された下塗層の塗布装置を示す構成図
【図4】リモートプラズマ処理装置の構成図
【図5】リモートプラズマ処理の効果を求めた試験結果を示す表図
【図6】図5に基づく表面粗さと官能基量の関係図
【図7】O/Cの適切な処理条件を求めた試験結果を示す表図
【図8】図7に基づく官能基量と密着力との関係図
【図9】N/Cの適切な処理条件を求めた試験結果を示す表図
【図10】図9に基づく官能基量と密着力との関係図
【図11】表面張力と密着力との関係図
【符号の説明】
【0161】
10…下地処理装置、12…ポリエステルフィルム、16…プラズマ発生部、22…電極、24…下塗層の塗布装置、26…乾燥装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面粗さRaが0.5nm以上1.0nm以下のポリエステルフィルムの表面にリモートプラズマ処理を施して官能基を導入したことを特徴とするポリエステルフィルムの下地処理方法。
【請求項2】
前記ポリエステルフィルムはポリエチレンテレフタレートフィルムであることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルフィルムの下地処理方法。
【請求項3】
前記リモートプラズマ処理は、O又はCOプラズマであり、且つ、前記官能基が、0.45<O/C<0.55、の範囲を満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルフィルムの下地処理方法。
【請求項4】
前記リモートプラズマ処理は、N又はNHプラズマであり、且つ、前記官能基が、0.05N<N/C<0.3、であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステルフィルムの下地処理方法。
【請求項5】
前記リモートプラズマ処理を施したポリエステルフィルムの表面に水系の下塗層を塗布することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載のポリエステルフィルムの下地処理方法。
【請求項6】
表面粗さRaが0.5nm以上1.0nm以下であるポリエステルフィルム表面にリモートプラズマ処理を施して官能基を導入することによって製造したことを特徴とするポリエステルフィルム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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