説明

ポリエステルフィルム

【課題】 良好な表面性及び弾性率をもつポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 ポリエステルと有機ホスホニウムイオンで60〜100%イオン交換された層状珪酸塩とからなるポリエステル組成物より構成されるフィルムであって、ポリエステル組成物における層状珪酸塩の含有量が無機灰分として0.01〜20重量%、石英の含有量が0.009重量%以下であり、該層状珪酸塩がフィルム面方向に対し配向したポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルと有機ホスホニウムイオンによりイオン交換された層状珪酸塩とからなるポリエステル組成物より構成されるフィルムであって、層状珪酸塩がフィルムの面方向に対して配向しており、かつ表面性に優れたポリエステルフィルムに関する。さらに詳しくは、石英の含有量が特定量以下であり、耐熱性の高いイオン交換された層状珪酸塩を用い、フィルム内で分散・配向させることでで得られる、良好な表面性及び弾性率をもつポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、ポリエステルの優れた耐熱性、機械特性、電気特性、耐薬品性、光学特性、耐環境特性等を利用して、磁気記録媒体、電子実装基板、コンデンサをはじめとする電気電子材料用、包装用、医療用、各種工業材料用等、様々な用途に幅広く用いられている。しかしながら、近年の技術の進展に伴い、使用される用途に応じてより高度な特性が要求されるようになってきた。例えば、磁気記録媒体用途においては、弾性率をはじめとする機械特性、寸法安定性の向上が望まれており同時に高い表面性を有することが求められる。
【0003】
そこでこれらの特性を向上させる方策としては、ポリエステルが本来有する特性を最大限に引き出すことを目的として、延伸配向をはじめとするフィルム加工技術が用いられてきた(例えば特許文献1参照)。しかしながら、従来の方法では、ポリエステルのもつ特性以上のものを実現することは困難である。
【0004】
そこでさらなる特性向上を目指す技術の一つとして、熱可塑性樹脂に層状化合物をナノスケールで分散させた組成物、所謂ナノコンポジットが最近注目されている。ナノコンポジットを形成することにより、高耐熱化、高弾性化、難燃化、ガスバリア性能の向上等、様々な特性の向上が実現している(例えば、非特許文献1参照。)。ナノコンポジットを形成するためには、層状化合物をナノスケールで分散させる必要があり、様々な方法が試みられている。広く知られているポリアミドの例とはことなり、特にポリエステルを使用したナノコンポジットではポリアミドと同程度に分散させることが困難であり,例えば高い表面性を要求される分野での応用は非常に困難である。そこでナノ分散を実現させるための各種提案がなされている。例えば、層状化合物が単層レベルで分散したポリエステルの複合材料を製造する際に、ポリエステルのモノマーとの反応性のある官能基を有する有機陽イオンを層状化合物の有機変性体に使用することが開示されている(特許文献2参照)。このように一般に、ポリエステル系のように層状珪酸塩が分散しにくい系で良好な分散性を実現させ、高いナノ分散効果を得るためには混合される樹脂への相溶性を向上させる有機修飾基が工夫された層状珪酸塩や層間の開いた層状珪酸塩が使用される。さらに一般的な成型条件である溶融成形に耐えうる高い耐熱性が要求される。
【0005】
また、目的とするナノ効果を発現させるためには純度の高い層状化合物を使用することが求められる。不純物は前述のような有機修飾基とは反応せず、結果充分に分散せず欠陥や表面粗さといった不良の原因となりうるからである。例えば天然由来の層状化合物を用いた場合に見受けられる石英を排除することにより、良好な透明性をもつポリエステルの例が開示されている(特許文献3)。また印刷用塗料に層状化合物を用いる場合には、混入する不純物である石英を除くことで印刷性向上の例が開示されている(特許文献4)。このように添加する層状珪酸塩の純度を向上させた上で、充分にポリマー中に分散させることが目的物性を発揮させるためには必要である。
【0006】
【特許文献1】特開2002−370276号公報 2頁
【特許文献2】特開2000−53847号公報 2頁
【特許文献3】特表2003−535203号公報 2頁
【特許文献4】特開2002−128956号公報 2頁
【非特許文献1】中条 澄 著 「ナノコンポジットの世界」、工業調査会、2000年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ポリエステルと有機ホスホニウムイオンによりイオン交換された層状珪酸塩とからなるポリエステル組成物より構成されるフィルムであって、層状珪酸塩がフィルムの面方向に対して配向しており、かつ表面性に優れたフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明はポリエステルと有機ホスホニウムイオンで60〜100%イオン交換された層状珪酸塩とからなるポリエステル組成物より構成されるフィルムであって、ポリエステル組成物における層状珪酸塩の含有量が無機灰分として0.01〜20重量%、および石英の含有量が0.009重量%以下であり、該層状珪酸塩がフィルム面方向に対し配向したポリエステルフィルムである。
【0009】
さらに層状珪酸塩由来の散乱のうち、強度が最大の散乱ピークに関する配向因子fが、下記式(1)
【数1】

(式(1)中、φはフィルム面と平行にX線を入射して測定した際のX線回折の方位角であり,フィルム法線方向をφ=0°としたものである。また、I(φ)は該方位角φに対する層状珪酸塩の層間の散乱強度である。)
を満たすことが好ましい。
【0010】
また該有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩が下記式(2)
0≦σ(∠AB DE)≦15・・・(2)
(式(2)中、A、Bは個々の層状珪酸塩の長手方向の末端点、ABは点AとBを結ぶ直線、DEはフィルムの断面に作成した基準直線、∠AB DEはABとDEのなす鋭角の角度(°)であり、σ(∠AB DE)は任意の断面積10μmに含まれ、長さ50nm以上を有する全ての層状珪酸塩について求められる∠AB DEの標準偏差である)
を満たすことが好ましい。
【0011】
また上記のポリエステルフィルムにおいて、有機ホスホニウムイオンが、下記式(3)
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基である。)
で示される有機ホスホニウムイオンであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、表面が平滑であり、かつ弾性などの機械的特性に優れるフィルムを得ることができる。また耐熱性が高いイオン交換された層状珪酸塩を用いることで修飾剤が分解することを抑制し、及び充分に修飾することで副反応の抑制が可能である。これらにより本発明のフィルムは磁気用途、包装用フィルムなど幅広い使用用途が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の好ましい態様について詳述する。
本発明で使用する層状珪酸塩は、Al,Mg,Li等を含む八面体シート構造を2枚のSiO四面体シート構造が挟んだ形の層状珪酸塩であり、具体的には、サポナイト,ヘクトライト、フッ素ヘクトライト、モンモリロナイト,バイデライト、スチブンサイト等のスメクタイト系粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性合成雲母、バーミキュライト、フッ素バーミキュライト、ハロサイト、膨潤性マイカ等を挙げることができる。またこれらは、天然のものでも、合成のものでも構わない。これらのうち、陽イオン交換容量などの点から、モンモリロナイト,ヘクトライト等のスメクタイト系粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母等の層状珪酸塩が好ましい。
【0014】
このうち特に天然モンモリロナイトには酸化ケイ素化合物すなわち石英が含まれている。こういった場合石英は通常の層状珪酸塩の修飾方法である有機イオンによるイオン交換といった方法では修飾されず、結果充分にマトリックス中に分散させることができず、成形性・表面性の低下また欠陥となり機械物性の低下を引き起こす。すなわち目的とする物性を発揮させるためには、これら不純物を極力除き精製して使用する必要がある。特に石英はその密度が層状珪酸塩に近いため、その除去が困難であり最終的な製品においても観察される。本発明におけるポリエステルフィルム中の石英の含有量は0.009重量%以下である。含有する石英はX線散乱の回折ピーク強度を層状珪酸塩のピーク強度と比較することにより定量化されうる。解析ピークの強度は石英分に対し比例関係を有する。用いられる検量ピークは例えば含有量既知の石英分のピーク(3.35Å)と含有量既知の層状珪酸塩の解析ピーク(例えばモンモリロナイトの場合4.48Å)から作成されうる。ポリエステルフィルム中の層状ケイ酸の含有量及びX線散乱における石英のピーク強度及び層状珪酸塩のピーク強度から算出される。石英含有量が0.009重量%より大であると、表面性の低下や欠陥要因となり好ましくない。より好ましくは0.008重量%以下である。
【0015】
石英の除去方法としては石英混在層状珪酸塩を溶媒中に分散させ、より密度の高い石英を沈降させ、その上澄みを回収することにより達成させられる。必要であれば該上澄みを濃縮し再び水中に分散させ上記の手法をくりかえすことにより、より低濃度の石英含率とすることが可能である。この際の溶媒としては、特に限定するものではないが良好に層状珪酸を分散させることができる溶媒でよければよく、例えばメタノール・エタノール・エチレングリコール・N-メチルピロリドン・ホルムアミド・N-メチルホルムアミド・N,N-ジメチルホルムアミド・水等が上げられる。この際の溶媒中での層状珪酸塩の濃度としては溶液の粘度が上がりすぎず選択的に石英のみを沈降させる濃度であれば良い。具体的には10重量%以下、より好ましくは8重量%以下である。また分散の際には過熱等により、層状珪酸塩を良好に分散させることができる。石英の沈降及び分離は通常の遠心分離装置やデカンターなどを用いることで可能である。
【0016】
本発明の層状珪酸塩はこうした層状珪酸塩を有機ホスホニウムイオンによりイオン交換能対比60〜100%イオン交換されたものである。
【0017】
有機ホスホニウムイオンとは具体的には、下記式(3)で示されるものを好ましく挙げることができる。
【化2】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基、また任意のR、R、R及びRは環を形成していても良い。)
【0018】
炭素数1〜30の炭化水素基としては、アルキル基、芳香族基を挙げることができる。アルキル基としては、炭素数1〜18のアルキル基が好ましく、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−ヘキサデシル、n−ヘプタデシル、およびn−オクタデシルを例示することができる。また、芳香族基としては、フェニル基、ビフェニル基、ベンジル基、トシル基などを例示することができる。R〜Rは、それらの熱安定性に影響を及ぼさないメチル、エチル、弗素、塩素などのような置換基を有してもよい。
【0019】
このような有機ホスホニウムイオンの具体例としてはテトラエチルホスホニウム、トリエチルベンジルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラオクチルホスホニウム、トリメチルデシルホスホニウム、トリメチルドデシルホスホニウム、トリメチルヘキサデシルホスホニウム、トリメチルオクタデシルホスホニウム、トリブチルメチルホスホニウム、トリブチルドデシルホスホニウム、トリブチルオクタデシルホスホニウム、トリオクチルエチルホスフォニウム、トリブチルヘキサデシルホスフォニウム、メチルトリフェニルホスホニウム、エチルトリフェニルホスホニウム、ジフェニルジオクチルホスホニウム、トリフェニルオクタデシルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、トリブチルアリルホスフォニウムなどが挙げられる。
【0020】
さらに、上記式(1)がヘテロ原子を含む炭化水素基の場合、上述の炭素数1〜30の炭化水素基R、R、R及びRの少なくとも一部が、炭素数1〜30のヒドロキシ置換炭化水素基、アルコキシ置換炭化水素基、フェノキシ置換炭化水素基、イミド置換炭化水素基、からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。好適には、下記置換基およびその異性体を例示することができる。
【0021】
以下にヘテロ原子を含む置換基を有する炭化水素基の例を列挙する。(ここで下記式中、aおよびbは1以上29以下の整数であり、置換基中での炭素数が30以下になる整数である。)
【0022】
ヒドロキシ置換炭化水素基:
【化3】

【0023】
アルコキシ置換炭化水素基:
【化4】

【0024】
フェノキシ置換炭化水素基:
【化5】

【0025】
イミド置換炭化水素基:
【化6】

【0026】
上述した有機ホスホニウムイオンは、単独でも組み合わせても用いることができる。
本発明の層状珪酸塩は、こうした有機ホスホニウムイオンにより、層状珪酸塩の陽イオン交換能に対して60〜100%イオン交換されている。層状珪酸塩の陽イオン交換能は、従来公知の方法で測定可能であるが、本発明で使用される層状珪酸塩のイオン交換能としては、先述の層状珪酸塩の内、0.2〜3ミリ当量/g程度のものが好適に使用可能である。陽イオン交換能が、0.2ミリ当量/gミリ当量以上であるほうが、有機ホスホニウムイオンの導入率が高くなるために分散性の点で有利である。逆に3ミリ当量/g以下のものの方が、有機ホスホニウムイオンの導入が容易となるために本発明の層状珪酸塩を製造する上で好ましい。陽イオン交換能としては、0.8〜1.5ミリ当量/gであることがさらに好ましい。本発明の層状珪酸塩は、こうした陽イオン交換能のうち、60〜100%が上述の有機ホスホニウムイオンによりイオン交換されているものである。こうした陽イオンの交換率は、下記式(4)によって算出することができる。
陽イオン交換率(%)={Wf/(1−Wf)}/(Morg/Msi)×100(4)
(Wfは20℃/minの昇温速度で120℃から800℃まで測定した層状珪酸塩の示差熱天秤による重量減少率、Morgは該ホスホニウムイオンの分子量、Msiは層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量を表す。層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量は、層状珪酸塩の陽イオン交換容量(単位:eq/g)の逆数で算出される値である。)
【0027】
有機ホスホニウムイオンで層状珪酸塩の陽イオンを交換することにより、層間に有機ホスホニウムが入り込み、層間が広がる。この層間距離はX線回折によるピーク位置から求めることができる。好ましい層間距離は1.5nm以上である。1.5nm以下であるとこの後のポリエステル樹脂中への分散が困難となり好ましくない。
【0028】
有機ホスホニウムイオンで層状珪酸塩の陽イオンを交換する方法としては、従来公知の方法が可能である。具体的には水、エタノール、メタノールなどの極性溶媒に原料となる層状珪酸塩を分散させておき、そこへ、有機ホスホニウムイオンを添加する、あるいは、有機ホスホニウムを含む溶液を添加する方法である。修飾反応に好ましい濃度としては、層状珪酸塩の濃度として、0.1〜5重量%で、溶解した有機ホスホニウムと反応させることが好ましい。0.1重量%よりも濃度が低い場合には、溶液全体の量が多くなり過ぎ取り扱う上で好ましくない。5重量%を超える場合には、層状珪酸塩の分散液の粘度が高くなりすぎ、陽イオン交換率が低下するため、好ましくない。層状珪酸塩の濃度としては、0.5〜4.5重量%がさらに好ましく、1〜4重量%がより好ましい。反応時の温度としては、層状珪酸塩の分散液が攪拌するのに充分低い粘度を有すればよく、例えば、水の場合には、概略20〜100℃程度で陽イオン交換反応を行うことが好ましい。
【0029】
こうして得られた修飾後の層状珪酸塩は反応終了後、未反応の有機ホスホニウムイオンを取り除くため十分に洗浄することが好ましい。ポリエステル中に分散させる際には250℃以上の高温となるため、この温度で揮発もしくは分解する成分があった場合、その後のポリエステル樹脂組成物の物性に悪影響を及ぼすからである。洗浄方法としては特に限定するものではないが、例えば有機溶媒等の有機ホスホニウムの良溶媒洗浄することが挙げられる。
【0030】
さらに、本発明の層状珪酸塩に対して陽イオン交換に関与しなかったホスホニウムイオンの有無は、蛍光X線や、原子吸光分析などの従来公知の方法で、原料に使用した有機ホスホニウムの対イオンの有無を測定することなどから確認することが可能である。
【0031】
本発明においては、陽イオン交換率は60〜100%である。陽イオン交換率が60%以上であることが、層状珪酸塩に対する有機ホスホニウムイオンの導入率が高くなるために分散性の点で有利である。陽イオン交換率は100%以下であることが、原料に使用した有機ホスホニウムイオン化合物の対イオンが存在しないために熱安定性の点で有利である。陽イオン交換率としては、65〜100%であることがさらに好ましく、70〜100%であることがより好ましい。
【0032】
本発明の層状珪酸塩は、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で示差熱天秤によって測定した5重量%重量減少時の温度が、310℃以上であることが好ましい。5重量%重量減少時の温度が310℃より低いと、ポリエステル樹脂と溶融混合する際の分解が大きく層状珪酸塩の再凝集が起こったり,分解ガスが発生するなど樹脂特性を低下させるため好ましくない。こうした点から5重量%重量減少時の温度は、高いほど好ましいが,本発明の層状珪酸塩では、良好な分散性を与えるホスホニウムの構造を勘案すると、好ましくは330℃以上、より好ましくは340℃以上、さらに好ましくは350℃以上である。
【0033】
本発明で使用するポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸及び/またはその誘導体とジオールを重縮合したもの、あるいは、ヒドロキシカルボン酸からなるもの、あるいは、さらにこれらの共重合体を指す。ポリエステルを構成するジカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、マレイン酸及びフマル酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの環状脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。ジオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどの脂肪族ジオールや、ヒドロキノン、レゾルシノール、ビスフェノールA及び2,2−ビス(2’−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等のジフェノール類が挙げられる。ヒドロキシカルボン酸としては、p−ヒドロキシ安息香酸、p−(ヒドロキシエトキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、7−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシ−ビフェニル−4−カルボン酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸などが挙げられる。
【0034】
ポリエステルとしてより好ましくは芳香族ポリエステルである。芳香族ポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレート−テレフタレート共重合体、p−ヒドロキシ安息香酸−6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸共重合体などが挙げられる。
【0035】
本発明においては、ポリエステルと有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩からなる樹脂組成物において、該層状珪酸塩を無機灰分として、0.01〜20重量%含有する。無機灰分とは、空気中で1000℃までの燃焼した際の残渣から算出される値である。無機灰分としての含有量が0.01重量部以上を占める方が層状珪酸塩の添加効果を発現する上で好ましい。また、20重量部以下であることが、得られたポリエステル樹脂組成物の溶融成形を行う上で好ましい。無機灰分としての含有量はこうした点から、ポリエステル樹脂100重量部に対して、無機灰分として0.1〜12重量部であることがさらに好ましく、0.4〜8重量部であることがより好ましい。
【0036】
本発明の樹脂組成物は、1)本発明の有機ホスホニウムイオンによりイオン交換された層状珪酸塩の存在下でのポリエステル重合、2)溶融混練機による混練もしくはこの組み合わせにより得ることができる。これらを順次説明する。
【0037】
1)層状珪酸塩存在下でポリエステル重合
ポリエステルの製造方法は、通常、芳香族ジカルボン酸を主とするジカルボン酸またはそのエステル形成誘導体と脂肪族グリコールを反応させる。これは当業者に公知の反応であり、通常、ジカルボン酸とグリコールとを常圧または加圧下で加熱反応させるエステル化反応、あるいはジカルボン酸のエステル形成誘導体とグリコールを常圧または加圧下で加熱反応させてエステル交換反応を行う過程と、反応生成物を減圧下でグリコール成分を除去しつつ重縮合反応を行う過程からなっている。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、こうしたポリエステルの重縮合過程の任意の段階で、有機修飾された層状珪酸塩を添加することにより得ることが可能である。このましくはエステル交換反応後の、重縮合反応開始時に添加することが層状珪酸塩を均一にポリマー中に分散し、層状珪酸塩と水酸基の適度の相互作用を生じさせる上で好ましい。有機修飾した層状珪酸塩を添加する場合、添加するにあたって、粉体およびスラリー状で添加する。粉体で添加する場合、溶媒を除去する工程を除くことができるため有効であるが、反面添加方法によっては有機修飾した層状珪酸塩が再凝集し、分散性が悪化する原因となる。スラリー状で添加する場合、粉体に含まれる空気をあらかじめ除くことが可能となり、エステル交換後の反応物との混合が容易になり、好ましい。スラリー状で添加する際の溶媒としては、特に製造しようとするポリエステルを構成するジオールを用いることが好ましい。他の溶媒を使用する場合には、グリコール成分との分離やポリエステルの構造の一部に取り込まれる恐れがある。スラリーを製造する方法は特に限定するものではないが、例えばボールミル、媒体攪拌型ミル、ホモジナイザー超音波処理、などを利用した物理的分散を挙げることができる。スラリー中の層状珪酸塩の濃度としては、0.05〜90重量%であることが好ましい。0.05以下の場合には、グリコールの量が多くなりすぎ、その後の除去が煩雑であるため好ましくない。90重量部以上の場合、添加に適したスラリーを作成することが困難である。スラリー中の層状珪酸塩の濃度は、より好ましくは0.1〜70重量%さらに好ましくは1〜50重量%である。製造に使用する有機修飾した層状珪酸塩は比表面積の大きいものを使用することが好ましいため、添加前に十分に脱泡することでその後の減圧および昇温が速やかに行うことができるため好ましい。以後の反応は通常のポリエステルの重合反応と同様に実施することが可能である。
【0039】
2)溶融混練
有機修飾した層状珪酸塩をポリエステル溶融時に添加することが可能である。この場合でも、粉体での添加、水、芳香族炭化水素系溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶剤等の溶媒に分散したスラリーでの添加が可能である。芳香族炭化水素系溶剤を使用する場合には、テトラリン、トルエン、クロロベンゼン等が好ましい。層状珪酸塩をポリエステルに混合する方法としては、1軸あるいは2軸押し出し機やラボプラストミルを使用して、層状珪酸塩をポリエステルと共に溶融混合することができる。
【0040】
また1)の方法で得られたポリエステル樹脂組成物を層状珪酸塩を含有しないポリエステルと溶融混合することも可能である。こうした混合は従来公知の方法が利用可能で、例えば1軸押し出し機、2軸押し出し機等の押し出し機等を利用することができる。
【0041】
さらに本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂中において層状珪酸塩が層間距離が2.5nm以上であることが好ましい。層状珪酸塩の層間距離は、X線散乱により、層状珪酸塩の層間の散乱に起因する散乱ピークの散乱角を使用して、求めることができる。層状珪酸塩が単層にまで剥離している場合、X線散乱においてはピークが検出されないことになる。この場合、層間距離は無限大となっていることを意味する。層間距離は広い方が層状珪酸塩の剥離が起こりやすく、分散の点で好ましい。より好ましい層間距離は2.7nm以上である。
【0042】
さらに本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂中において層状珪酸塩の平均層数が、2〜10であることが好ましい。このような平均層数は、X線回折を用いて回折ピークを測定し、下記式(5)から結晶子の大きさを算出し、層間距離で割ることで算出することが可能である。
D=K・λ/βcosθ (5)
D:結晶子の大きさ
λ :測定X線波長
β :半価幅
θ :回折線のブラッグ角
K :Scherrer定数
【0043】
平均層数は少ないほど層状珪酸塩が分散しており、得られた成形体の弾性率などの物理特性を向上させる上で好ましいが、ポリエステル中での完全な層剥離は困難である。実用的には2さらには3程度以上の平均層数で十分に弾性率などの物理特性の向上を実現することができる。他方、平均層数は10以下であることが、弾性率などの物理特性を向上する上で好ましい。平均層数はより好ましくは8層以下、さらに好ましくは7層以下、さらに好ましくは6層以下である。
【0044】
このポリエステル組成物は、溶融製膜によるフィルムあるいはシートの製造に使用することができる。溶融成形温度としては、ポリエステル樹脂の流動開始温度(非晶性樹脂ではガラス転移温度、結晶性樹脂では融点)以上350℃以下が好ましく、(流動開始温度+5)℃以上330℃以下がより好ましく、(流動開始温度+10)℃以上320℃以下がさらに好ましい。温度が流動開始温度より低すぎると溶融成形が困難になるため好ましくなく、また、温度が350℃より高すぎるとイオン交換された層状珪酸塩の分解が激しくなり好ましくない。
【0045】
高弾性のフィルムを製造する場合には、さらに延伸を行うことが好ましい。延伸方法としては、従来公知の方法、例えば、一軸または二軸方向に逐次または同時に延伸する方法を挙げることができる。延伸温度は好ましくは樹脂組成物のガラス転移点以上ガラス転移点+90℃以下、より好ましくは樹脂組成物のガラス転移点以上ガラス転移点+70℃以下、さらに好ましくはガラス転移点以上ガラス転移点+60℃以下である。延伸温度が低すぎても高すぎても均一なフィルムを製造することが困難であり好ましくない。また、延伸倍率は、面倍率として、好ましくは2倍以上100倍以下である。本発明における延伸倍率は(延伸後のフィルムの面積)/(延伸前のフィルムの面積)であらわされるものである。延伸倍率が低すぎるとポリエステルまたは層状珪酸塩をフィルム内で配向させることが困難となるため好ましくない。また延伸倍率が高すぎた場合フィルムの破断が起こりやすくなるため好ましくない。より好ましくは4倍以上70倍以下、さらに好ましくは6倍以上50倍以下である。
【0046】
延伸速度は製膜方方向及びこれに直交する方向において、それぞれ1.1〜10000/minである。本発明における延伸速度は(延伸後のフィルムの面積)/(延伸前のフィルムの面積)/分である。1.1/min以下であると生産性が低下し好ましくない。また10000/min以上であると延伸時に破断等が発生しやすくなり工程が不安定となるため好ましくない。より好ましくは50〜5000/minさらに好ましくは100〜3000/minである。
【0047】
また、ポリエステル樹脂が結晶性の場合にはフィルムの延伸配向後、熱処理することが好ましい。熱処理の温度としてはポリエステルのガラス転移点以上、融点以下が好ましい。さらに好適な温度は得られたフィルムの結晶化温度と得られたフィルムの物性などを勘案して決定される。
【0048】
本発明のポリエステル樹脂を使用した場合、上述のようなフィルムの製造により、平均層数の少ない、層状珪酸塩の分散性の良好なフィルムを得ることができる。そのため、こうして得られたフィルム内において有機ホスホニウムで修飾された層状珪酸塩がフィルム面方向に対し配向し、層状珪酸塩由来の散乱のうち、強度が最大の散乱ピークに関する配向因子fが、下記式(1)
【数2】

(φはフィルム面と平行にX線を入射して測定した際のX線回折の方位角であり,フィルム法線方向をφ=0°としたものである。また、I(φ)は該方位角φに対する層状珪酸塩の(001)面の散乱強度である。)
を満たすものである。
【0049】
式(1)は層状珪酸塩が、面内のいずれかの方向で、面内に強く配向していることを示している。層状珪酸塩が面内に強く配向することにより、フィルム方向に強い補強効果を示し、なおかつ表面荒れの原因とならない。このようなfの値は最大で1となる。fの値としては1に近いほど補強効果の増大及び表面性が向上するために1に近いほど好ましい。
【0050】
またフィルムの法線を含む断面から観察される層状珪酸塩の形状が下記式(2)
0≦σ(∠AB DE)≦15・・・(2)
(A、Bは個々の層状珪酸塩の長手方向の末端点、ABは点AとBを結ぶ直線、DEはフィルムの断面に作成した基準直線、∠AB DEはABとDEのなす鋭角の角度(°)であり、σ(∠AB DE)は任意の断面積10μmに含まれる全ての層状珪酸塩について求められる∠AB DEの標準偏差である)
を満たす。σ(∠AB DE)が0の場合層状珪酸塩が、面内のいずれかの方向で、面内に強く配向していることを示している。層状珪酸塩が面内に強く配向することにより、フィルム方向に強い補強効果を示し、なおかつ表面荒れの原因とならない。より好ましくは10以下、さらにこのましくは8以下である。
【0051】
こうして得られたフィルム内の層状珪酸塩の平均層数は少ないほど層状珪酸塩が分散しており、得られた成形体の弾性率などの物理特性を向上させる上で好ましいが、ポリエステル中での完全な層剥離は困難である。実用的には2さらには3程度以上の平均層数で十分に弾性率などの物理特性の向上を実現することができる。他方、平均層数は8以下であることが、弾性率などの物理特性を向上する上で好ましい。平均層数はより好ましくは6層以下、さらに好ましくは5層以下である。
【0052】
こうして得られた有機修飾した層状珪酸塩を含むフィルムにおいて、表面が平滑であるものを得ることが可能である。表面粗さの範囲としては平均線粗さRaが30nm以下のものを得ることが可能であり,磁気テープ、包装用フィルムなど各種の用途へ使用可能である。
【実施例】
【0053】
以下に実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。
(1)層状珪酸塩:モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製 クニピア(ナトリウム交換容量109ミリ当量/100g)を使用した。
【0054】
(2)陽イオン交換率:(株)リガク製示差熱天秤TG8120を用いて空気雰囲気下20℃/minで800℃まで加熱した際の重量減少率から次式を用いて求めた。
陽イオン交換率(%)={Wf/(1−Wf)}/(Morg/Msi)×100(4)
(Wfは20℃/minの昇温速度で120℃から800℃まで測定した層状珪酸塩の示差熱天秤による重量減少率、Morgは該ホスホニウムイオンの分子量、Msiは層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量を表す。層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量は、層状珪酸塩の陽イオン交換容量(単位:eq/g)の逆数で算出される値である。)
【0055】
(3)樹脂組成物中のポリエステル樹脂と層状珪酸塩の無機灰分との重量比:坩堝に樹脂を20g以上添加し180℃で5時間乾燥した後、乾燥後の重量を測定した。その後350℃まで10℃/min昇温しその後620℃まで0.1℃/minで昇温した。さらに1000℃まで5℃/minで昇温した後5時間保持し有機成分を燃焼させた。こうして残った成分の重量を用いて以下の式から算出した。
無機灰分重量% =B/A×100 (6)
ここでA:乾燥後のポリエステル樹脂組成物の重量g、B:燃焼後の重量g、
【0056】
(4)熱分解温度:(株)リガク製示差熱天秤TG8120を用いて窒素中で20℃/minで測定した際の5重量%重量減少した温度を求めた。
【0057】
(5)層状珪酸塩の層間距離および平均層数:(株)リガク製粉末X線回折装置RAD−Bを用いて回折ピーク位置から算出した。平均層数は下記式(5)から結晶子の大きさを算出し、層間距離で割ることで算出した。また、Scherrer定数は、0.9として計算した。
D=K・λ/βcosθ (5)
D:結晶子の大きさ
λ :測定X線波長
β :半価幅
θ :回折線のブラッグ角
K :Scherrer定数
【0058】
(6)還元粘度(ηsp/C):還元粘度はフェノール/テトラクロロエタン(重量比4:6)の溶液を使用し、濃度 1.2g/dL 温度35℃で測定した。
【0059】
(7)平均線粗さ:Veeco社製WYKO NT−2000を使用し、250μm四方での範囲で測定した。
【0060】
(8)層状珪酸塩の配向係数:配向係数fは(株)リガク製粉末X線回折装置RAD−Bを用い、フィルムの断面方向と垂直な方向からX線(Cu−kα線)を照射し、層状珪酸塩の層間での散乱ピークについてfを求めた。
【0061】
(9)層状珪酸塩とフィルムの平均角
電子顕微鏡で撮影された有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩を含むポリエステル樹脂から作成されたフィルムの断面写真から計算した。
【0062】
(10)石英の含有量:(株)リガク製粉末X線回折装置RAD−Bを用いて、有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩について測定をし、石英のピーク及び層状珪酸塩のピーク強度比から算出した。
【0063】
(11)還元粘度(ηsp/C):還元粘度はフェノール/テトラクロロエタン(重量比4:6)の溶液を使用し、濃度 1.2g/dL 温度35℃で測定した。
【0064】
(12)弾性率測定:引っ張り試験を、サンプルを5mmx50mmに切り出し、5mm/minの延伸速度で、株式会社エー・アンド・ディ製UCP−100の引っ張り試験機を用いて実施した。
【0065】
[参考例1]
クニピアF(層間距離 1.26nm、H(QUARTZ)/H(CLAY)=0.081)1.5kgをイオン交換水中40Lに添加したのち80℃で分散させることで分散液を得た。これを遠心分離機により沈殿物を除去したのち上澄みを回収した。一部サンプリングし乾燥したところ、分散液中の層状珪酸塩の濃度は2.5重量%であった。
【0066】
得られた分散液を80℃で加熱攪拌しながら、分散液に含まれるイオン交換容量の1.5倍モル当量 n-Hexadecyltri-n-butylphosphoniumbromideと該有機ホスホニウム塩の3重量倍のイオン交換水からなる溶液を加え、さらに80℃で3時間攪拌した。混合物から固体を濾別し、メタノールで3回、水で3回洗浄したのち、凍結乾燥することにより陽イオン交換された層状珪酸塩を得た。各有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩の物性を表1に示す。好適に有機ホスホニウムイオンが修飾され、石英が除かれた有機修飾層状珪酸塩が得られた。
【0067】
[参考例2]
参考例1と同様の方法を用いて作成された分散液を23℃で一週間静置したのち上澄みを回収した。一部サンプリングし乾燥したところ分散液中の層状珪酸塩の濃度は2.8重量%であった。参考例1と同様に陽イオン交換された層状珪酸塩を得た。各有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩の物性を表1に示す。
【0068】
[参考例3]
参考例1と同様の方法を用いて作成された分散液をビーズミルで分散した。デカンテーションで沈殿物を除いた後5μmのフィルターをかけることにより粗大粒子を除くことで、水分散液を得た。濃度は3.2重量%であった。参考例1と同様に陽イオン交換された層状珪酸塩を得た。各有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩の物性を表1に示す。
【0069】
[比較参考例1]
クニピアF(層間距離 1.26nm)1.5kgをイオン交換水中40Lに添加したのち80℃で分散させることで分散液を得た。これに分散液に含まれるイオン交換容量の1.5倍モル当量 n-Hexadecyltri-n-butylphosphoniumbromideと該有機ホスホニウム塩の3重量倍のイオン交換水からなる溶液を加え、さらに80℃で3時間攪拌した。混合物から固体を濾別し、メタノールで3回、水で3回洗浄したのち、凍結乾燥することにより陽イオン交換された層状珪酸塩を得た。有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩の物性を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
[参考例4〜6]
ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)(還元粘度0.78g/dL)を180℃で6時間乾燥させた後これを押出機に供給し280℃で溶融し、参考例1〜3にて得られた有機ホスホニウムにより修飾された層状珪酸塩をそれぞれフィーダーから供給し溶融混練することで無機灰分として2重量%含むポリエステル樹脂組成物を得た。こうして得られた樹脂の還元粘度は参考例1のものが0.60、参考例2のものが0.67、参考例3のものが0.65であった。
【0072】
[比較参考例2]
比較参考例1記載の有機ホスホニウムで修飾された層状珪酸塩を用いた他は、参考例4〜6と同様の手法を用い、ポリエステル樹脂組成物を得た。得られた樹脂の還元粘度は0.64であった。
【0073】
[実施例1〜3]
参考例4〜6で得られたポリエステル樹脂を180℃で5時間乾燥後、300℃で溶融し、1.3mmのスリット状ダイを通して表面温度80℃の回転冷却ドラム上に押出し、未延伸フィルムを得た。このようにして得られた未延伸フィルムを温度150℃で製膜方向及びこれに直交する方向に対しそれぞれ4倍に延伸し、厚み15μmのニ軸延伸フィルムを得た。さらに得られたニ軸延伸フィルムを205℃で1分間定長で熱固定し、ポリエチレンナフタレート/層状珪酸塩コンポジットフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0074】
[比較例1]
ポリエステル樹脂組成物として比較参考例2の樹脂を用いるほかは実施例1〜3と同様の手法でポリエチレンナフタレート/層状珪酸塩コンポジットフィルムを得た。得られたフィルムの物性を表2に示す。
【0075】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1のフィルムの電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例3のフィルムの電子顕微鏡写真である。
【図3】比較例1のフィルムの電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルと有機ホスホニウムイオンで60〜100%イオン交換された層状珪酸塩とからなるポリエステル組成物より構成されるフィルムであって、ポリエステル組成物における層状珪酸塩の含有量が無機灰分として0.01〜20重量%、および石英の含有量が0.009重量%以下であり、該層状珪酸塩がフィルム面方向に対し配向したポリエステルフィルム。
【請求項2】
層状珪酸塩由来の散乱のうち、強度が最大の散乱ピークに関する配向因子fが、下記式(1)
【数1】

(式(1)中、φはフィルム面と平行にX線を入射して測定した際のX線回折の方位角であり,フィルム法線方向をφ=0°としたものである。また、I(φ)は該方位角φに対する層状珪酸塩の層間の散乱強度である。)
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項3】
該有機ホスホニウムイオンで修飾された層状珪酸塩が下記式(2)
0≦σ(∠AB DE)≦15・・・(2)
(式(2)中、A、Bは個々の層状珪酸塩の長手方向の末端点、ABは点AとBを結ぶ直線、DEはフィルムの断面に作成した基準直線、∠AB DEはABとDEのなす鋭角の角度(°)であり、σ(∠AB DE)は任意の断面積10μmに含まれ、長さ50nm以上を有する全ての層状珪酸塩について求められる∠AB DEの標準偏差である)
を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリエステルフィルム。
【請求項4】
有機ホスホニウムイオンが、下記式(3)
【化1】

(式中、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜30の炭化水素基またはヘテロ原子を含む炭化水素基である。)
で示される有機ホスホニウムイオンである請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−28241(P2006−28241A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−205680(P2004−205680)
【出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】