説明

ポリエステルモノフィラメントおよび織物

【課題】抄紙産業における利用価値の高い、優れた耐加水分解性と優れた防汚性を兼備するとともに、工業用織物として必要な引張強度を有するポリエステルモノフィラメントおよびそれを利用した織物を提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)モノカルボジイミド0.01〜1.5重量%、(B)ポリカルボジイミド化合物0.05〜5.0重量%、(C)シンジオタクチック構造のポリスチレン0.5〜10重量%および(D)RSiO1.5(Rは有機基)で示される構造単位を少なくともモル比で90%以上含有し、重量平均分子量が500以上100000以下であるシリコーン系化合物0.5〜10重量%を含有するポリエステルモノフィラメントであって、カルボキシル末端基濃度が8当量/ポリエステルモノフィラメント10g以下であるポリエステルモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐加水分解性と防汚性とを兼備すると共に、必要十分な引張強度を有し、抄紙ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントに代表される繊維は、優れた力学特性、耐熱性などを有していることから、従来より各種工業用部品、衣料用および工業用繊維材料、各種織物などに使用されてきた。
【0003】
しかしながら、ポリエステルモノフィラメントを高温・多湿など加水分解されやすい条件下で使用される用途、例えば抄紙ドライヤーカンバスの構成素材やタイヤコードとして適用した場合には、使用中にポリエステルモノフィラメントが加水分解劣化による強度低下を起こすという欠点を有していた。
【0004】
また、今日では抄紙速度の高速化によってドライヤーカンバス工程においても高速化が進み、抄紙ドライヤーカンバスの交換作業に伴う生産工程の一時停機は、作業効率の悪化に多大な影響を及ぼしていた。そのため、抄紙ドライヤーカンバスの長期間の使用が可能な、すなわち耐加水分解性がより一層優れたポリエステルモノフィラメントの開発が求められていた。
【0005】
更に、ポリエステルモノフィラメント製の抄紙ドライヤーカンバスの場合には、長期間湿紙を乾燥している間に紙料に混入した回収段ボール古紙由来のガムピッチなどの粘着性の汚れがドライヤーカンバス表面や内部に付着蓄積し、乾燥効率低下および製品紙の品位低下などを引き起こすという欠点も有していた。したがって、これらの欠点のために、抄紙ドライヤーカンバスの使用期間が著しく制限されるという重要な問題を有していた。
【0006】
このような欠点を解決するため従来から様々の提案が行われてきた。
【0007】
すなわち、ポリエステルモノフィラメントの欠点である耐加水分解性を向上するため技術としては、 例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリブテン,ポリ−4−メチルペンテン1,ポリスチレンなどのポリオレフィンを特定量添加したポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献1参照)が知られているが、この技術で得られるモノフィラメント、例えばポリエチレンを添加したポリエチレンテレフタレート製モノフィラメントは、耐加水分解性向上効果が小さく、また防汚性は何ら改善されていないため実用的といえるものではなかった。
【0008】
また、カルボジイミド化合物を添加することによりポリエステルの耐加水分解性を向上せしめる方法が知られており、例えば、カルボキシル末端基がカルボジイミドとの反応でキャップされ、遊離のモノ及び/又はビスカルボジイミド化合物30〜200ppmと遊離のポリカルボジイミド又はなお反応性を有するポリカルボジイミド基を含む反応生成物を少なくとも0.02重量%含有するポリエステル繊維(例えば、特許文献2参照)、およびシンジオタクチック構造などのポリスチレンと未反応の状態のモノカルボジイミド化合物とポリカルボジイミド化合物とをそれぞれ特定量含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献3参照)が提案されているが、これらの提案では、防汚性については何ら改善されるものではなく、また、耐加水分解性についてはある程度は改善されるものの、近年要求されている必要かつ十分な耐加水分解性が得られるものではなかった。
【0009】
また、ポリエステルモノフィラメントの防汚性を改善するための手段としては、例えば、少なくとも糸の表層部に、溶融混練された通常のポリシロキサンを含有するポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献4参照)が知られているが、このポリエステルモノフィラメントは、防汚性は改善されるものの耐加水分解性は何ら改善されたものではなかった。
【0010】
さらに、ポリエステルモノフィラメントの耐加水分解性と防汚性とを同時に改善するための手段としては、例えば、ポリエステル以外の成分として、ジメチルポリシロキサンおよびフッ素樹脂を含有し、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)に基づく分析によりモノフィラメント表面からケイ素およびフッ素が検出され、同時に検出される炭素の原子数を1としたときに、炭素に対するケイ素の原子数比が0.01以上、炭素に対するフッ素の原子数比が0.003以上であるポリエステルモノフィラメント(例えば、特許文献5参照)が提案されているが、このポリエステルモノフィラメントは、非粘着性の汚れに対する防汚性は改善されるものの、近年要求されている必要かつ十分な耐加水分解性が得られるものではなく、シリコーンオイルとフッ素を併用することで工業用織物として必要な引張強度が低下するばかりか、紡糸中に糸切れ等が多発し、操業性が不安定であるという問題を包含していた。
【特許文献1】特開昭51−136923号公報
【特許文献2】特開平4−289221号公報
【特許文献3】特開平10−168661号公報
【特許文献4】特開昭60−81313号公報
【特許文献5】特開2004−308091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討された結果達成されたものである。
【0012】
したがって、本発明の目的は、優れた耐加水分解性と防汚性とを兼備すると共に、必要十分な引張強度を有し、抄紙ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリエステルに対し、公知の添加剤であるモノカルボジイミド、ポリカルボジイミド化合物およびシンジオタクチック構造のポリスチレンと共に、さらに特定のシリコーン系化合物を添加することにより、耐加水分解性と防汚性とが相乗的に向上すると共に、さらには必要十分な引張強度の確保が図れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明はポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)モノカルボジイミド0.01〜1.5重量%、(B)ポリカルボジイミド化合物0.05〜5.0重量%、(C)シンジオタクチック構造のポリスチレン0.5〜10重量%および(D)RSiO1.5(Rは有機基)で示される構造単位を少なくともモル比で90%以上含有し、重量平均分子量が500以上100000以下であるシリコーン系化合物0.5〜10重量%を含有するポリエステルモノフィラメントであって、カルボキシル末端基濃度が8当量/ポリエステルモノフィラメント10g以下であることを特徴とするポリエステルモノフィラメントを提供するものである。
【0015】
〔ただし、(B)ポリカルボジイミド化合物は、このポリカルボジイミド化合物中の未反応のカルボジイミド基(B1)と、ポリエステルのカルボキシル末端基および/またはヒドロキシル末端基と一部反応しているカルボジイミド基(B2)との合計((B1)+(B2))で1分子中に5〜100個のカルボジイミド基を含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物である。〕
【0016】
なお、本発明のポリエステルモノフィラメントにおいては、
前記シリコーン系化合物に含まれる有機基がフェニル基であり、且つこのフェニル基の含有量がモル比で85%以上であること、および
前記シリコーン系化合物のシラノール基量が重量比で2%以上10%以下であること、および
前記ポリエステル系樹脂がポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートのいずれかからなること
が、好ましい条件として挙げられ、この条件を満足することにより一層優れた耐加水分解性および防汚性を取得することができる。
【0017】
また、本発明の織物は、上記のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とし、工業用織物、特に抄紙用織物において、抜群の耐加水分解性(耐蒸熱性)および防汚性を発揮する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来のものより優れた耐加水分解性と防汚性とを兼備すると共に、必要十分な引張強度を有し、抄紙ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適なポリエステルモノフィラメントおよびこれを用いた工業用織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0020】
本発明におけるポリエステルモノフィラメントを構成するポリエステル系樹脂とは、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートなどのジカルボン酸またはエステル形成誘導体およびジオールまたはエステル形成誘導体から合成されるポリエステル系化合物のことである。
【0021】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、上記ポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)モノカルボジイミド、(B)ポリカルボジイミド化合物、(C)シンジオタクチック構造のポリスチレンおよび(D)RSiO1.5(Rは有機基)で示される構造単位を少なくともモル比で90%以上含有し、重量平均分子量が500以上100000以下であるシリコーン系化合物の4成分を必須成分とするものである。
【0022】
すなわち、本発明のポリエステルモノフィラメントは、(A)モノカルボジイミド化合物0.01〜1.5重量%を含有し、かつCOOH末端基濃度が8当量(以下、eqという)/ポリエステルモノフィラメント10g以下であることが、モノフィラメントが耐加水分解性に優れたものとなることから好適である。
【0023】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有する(A)モノカルボジイミド化合物(以下、MCD化合物と略称する)は、分子中に1個のカルボジイミド基(−N=C=N−)を含有する活性な化合物であり、言い換えればポリエステルモノフィラメント中に添加されたMCD化合物の内、ポリエステルモノフィラメント中に未反応の状態で残存するMCD化合物である。
【0024】
このMCD化合物としてはいずれでもよいが、例えば、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミド、N,N´−ジフェニルカルボジイミド、N,N´−ジオクチルデシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N−トリイル−N´−フェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ニトロフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−アミノフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−シクロヘキシルカルボジイミド、N,N´−ジ−p−トリイルカルボジイミドなどが挙げられる。これらのMCD化合物の中から1種または2種以上の化合物を任意に選択してポリエステルモノフィラメントに含有させればよいが、ポリエステルに添加後の安定性から、芳香族骨格を有する化合物が有利な傾向にあり、中でもN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジ−tert. −ブチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−2,6−ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N´−ジ−o−トリイルカルボジイミドなどが、特にN,N´−ジ−2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド(以下、TICという)が好適である。TICは、市販品である Rhein−Chemie社製の“STABAXOL”(登録商標)Iまたは Raschig AG社製の“Stabilizer”(登録商標)7000などを購入して使用することができる。
【0025】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有するMCD化合物は、ポリエステルの加水分解を促進する触媒作用を有するポリエステル自身のCOOH末端基を反応封鎖して不活性化する作用を有する。
【0026】
ポリエステルのCOOH末端基は、原料由来、重縮合起因、溶融成型時の熱や加水分解、および湿熱雰囲気中で使用中に加水分解等によって発生する。
【0027】
ポリエステルの加水分解を抑制するためには、溶融成形前のポリエステルにMCD化合物を添加して溶融中にMCD化合物とCOOH末端基と反応させてCOOH末端基不活性化すると共に、成形品中にもMCD化合物を含有させて湿熱雰囲気中で使用中に加水分解によって発生するCOOH末端基を不活性化する必要がある。したがって、ポリエステルモノフィラメントの耐用期間を延長する上では、モノフィラメント中にいかに多量のMCD化合物を残存・含有させるかが重要になる。
【0028】
ここで、本発明でいうポリエステルモノフィラメント中のMCD化合物の含有量は次の方法で測定したものである。
(1)100mlメスフラスコに試料約200mgを秤取する。
(2)ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム(容量比1/1)2m lを加えて試料を溶解させる。
(3)試料が溶解したら、クロロホルム8mlを加える。
(4)アセトニトリル/クロロホルム(容量比9/1)を徐々に加えポリマーを 析出させながら100mlとする。
(5)試料溶液を目開き0.45μmのディスクフィルターで濾過し、HPL Cで定量分析する。HPLC分析条件は次の通り。
カラム:Inertsil ODS−2 4.6mm×250mm
移動相:アセトニトリル/水(容量比94/6)
流 量:1.5ml/min.
試料量:20μl
検出器:UV(280nm)
【0029】
本発明のポリエステルモノフィラメント中のMCD化合物の含有量が0.01重量%未満であると、耐加水分解性改善効果が不足し、1.5重量%より多いと、モノフィラメントの製造が困難になり、また得られるモノフィラメントの強度が不足したものとなる傾向が招かれる。MCD化合物の含有量が0.03重量%〜1.0重量%であるとより好ましく、0.06〜0.8重量%の範囲であると更に好ましい。
【0030】
本発明のポリエステルモノフィラメントにMCD化合物を0.01〜1.5重量%含有させるには、原料のポリエステルが保有していたCOOH末端基および溶融紡糸時の加熱による加水分解や熱分解で発生したCOOH末端基とを合計した総COOH末端基と、ポリエステル中の水酸末端基を封鎖・不活性化反応し、更に製品ポリエステルモノフィラメント中に0.01〜1.5重量%のMCD化合物が残存含有する量のMCD化合物を、ポリエステルに添加し溶融混練した後、溶融紡糸する方法が有利である。また、MCD化合物と共に、ポリエステルのCOOH末端基および水酸末端基と反応する公知のエポキシド化合物およびオキサゾリン化合物などを併用することもできる。
【0031】
MCD化合物を0.01〜1.5重量%含有する本発明のポリエステルモノフィラメントは、COOH末端基が8eq/モノフィラメント10g以下であり、更に好ましくは5eq/モノフィラメント10g以下である。
【0032】
ここで、モノフィラメントのCOOH末端基濃度の測定は次のように行ったものである。
【0033】
<モノフィラメントのCOOH末端基濃度の測定方法>
(1)10ml試験管に0.5±0.002gのポリエステルモノフィラメントサンプルを秤取する。
(2)o−クレゾール10mlを前記試験管に注入し、100℃で30分間加熱 攪拌しサンプル溶解させる。
(3)試験管の内容液を30mlビーカーに移す(試験管内の残液を3mlのジクロルメタンで洗浄してビーカーに追加する。
(4)ビーカー内の液温が25℃になるまで放冷する。
(5)0.02NのNaOHメタノール溶液で滴定する。
(6)サンプル無しで前記(1)〜(5)と同様に行い、サンプル滴定に要した0.02NのNaOHメタノール溶液滴定量からモノフィラメント10gあたりのCOOH末端基当量を求める。
【0034】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、更に(B)ポリカルボジイミド化合物を0.05〜3.0重量部含有することが重要であり、これにより耐加水分解性が更にすぐれたものとなる。
【0035】
〔ただし、ポリカルボジイミド化合物は、このポリカルボジイミド化合物中の未反応のカルボジイミド基(D1)と、ポリエステルのCOOH末端基および/またはヒドロキシル末端基と一部反応しているカルボジイミド基(D2)との合計((D1)+(D2))で1分子中に5〜100個のカルボジイミド基を含有するポリカルボジイミド化合物である。〕
【0036】
本発明のポリエステルモノフィラメントが含有する(B)ポリカルボジイミド化合物(以下、PCD化合物と略記する)としては、例えば、カルボジイミド基に結合するベンゼン環の2,6−位および/または2,4,6−位にイソプロピル基が置換した構造を繰り返し単位とする芳香族PCD化合物、1,3,5−トリス(1−メチルエチル)−2,4−ジイソシアナトベンゼンから合成される芳香族PCD化合物、1,3,5−トリス(1−メチルエチル)−2,4−ジイソシアナトベンゼンと2,6−ジイソプロピルベンゼンジイソシアネートとの混合体から合成される芳香族PCD化合物、1,3,5−トリス(1−メチルエチル)−2,4−ジイソシアナトベンゼンと1,3,5−トリス(イソプロピル)−2,4−ジイソシアナトベンゼンとの混合体から合成される芳香族PCD化合物、およびポリ[1,1’−ジシクロヘキシルメタン(4,4’−ジイソシアネート)]から合成される脂環式PCD化合物を好ましく挙げることができる。ただし、これに何ら制限されるものではない。
【0037】
これらのPCD化合物の中では、カルボジイミド基に結合するベンゼン環の2,6−位および/または2,4,6−位にイソプロピル基が置換した構造を繰り返し単位とする芳香族PCD化合物が特に好ましい。
【0038】
前記カルボジイミド基に結合するベンゼン環の2,6−位および/または2,4,6−位にイソプロピル基が置換した構造を繰り返し単位とする芳香族PCD化合物は、市販品として、例えば平均分子量約3,000の“STABAXOL”(登録商標)P(Rhein Chemie社製品)、平均分子量約10,000の“STABAXOL”(登録商標)P100(Rhein Chemie社製品)および平均分子量約20,000の“Stabilizer”(登録商標)9000(Raschig AG社製品)を購入して使用することができる。また、前記ポリ[1,1’−ジシクロヘキシルメタン(4,4’−ジイソシアネート)]から合成される脂環式PCD化合物は、市販品として、例えば“CARBODILITE”(登録商標)HMV−8CA(日清紡績株式会社製品)を購入して使用することができる。これらのPCD化合物は予めポリエステルに練り込んだマスターバッチとしても市販されており、例えば前記した平均分子量約10,000の“STABAXOL”(登録商標)P100を15重量%含有するPETマスターバッチである“STABAXOL”(登録商標)KE−7646(Rhein Chemie社製品)および前記した平均分子量約20,000の“Stabilizer”(登録商標)9000を15重量%含有するPETマスターバッチである“Stabilizer”9500(登録商標)(Raschig AG社製品)などが知られている。またPCD化合物とMCD化合物とはお互いに溶解混合して使用することができる。
【0039】
PCD化合物の含有量は0.05〜5.0重量%の範囲である。PCD化合物の含有量が0.05重量%より少ないと、耐加水分解性向上効果が不十分であり、PCD化合物の含有量が5.0重量%を越えると、ポリエステルの溶融粘度が上昇し過ぎたり、吐出や成形が困難になったりする傾向が招かれる。PCD化合物の含有量が0.1〜1.5重量%であると更に好ましい。
【0040】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、(C)シンジオタクチック構造のポリスチレンを0.5〜10重量%を含有することが重要であり、これにより耐加水分解性が更に優れたものとなる。
【0041】
この理由は、MCD化合物の溶解度が、ポリエステルよりもシンジオタクチック構造のポリスチレンの方が圧倒的に高いために、シンジオタクチック構造のポリスチレンを0.5〜10重量%を含有することにより、ポリエステルに添加されたMCD化合物が溶融混練時にシンジオタクチック構造のポリスチレン中により多く溶解し、ポリエステルの水酸末端基とMCD化合物との副反応が抑制され保護されるため、製品ポリエステルモノフィラメント中のMCD化合物の含有量が増加することに起因するものと考えられる。また、(C)シンジオタクチック構造のポリスチレンは、結晶性であり融点が約270℃と高く耐熱性に優れるものであり、モノフィラメントの耐熱性を損なうことがないことから好適である。
【0042】
(C)シンジオタクチック構造のポリスチレンの含有量が0.5重量%未満であると、耐加水分解性向上効果が不十分であり、10重量%より多いと、モノフィラメントの製造が困難になったり得られるモノフィラメントの引張強度が不足したりする傾向が招かれる。
【0043】
また、シンジオタクチック構造のポリスチレンに加えて、アイソタクチック構造、アタクチック構造の各種スチレン系ポリマー類(p−メチルスチレン共重合体を含む)、例えば、ポリエチレン類、ポリプロピレン類、ポリメチルペンテン類、エチレンとアクリレート類との共重合体類などのポリオレフィンを含有させることもできる。
【0044】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、上記(A)モノカルボジイミド、(B)ポリカルボジイミド化合物および(C)シンジオタクチック構造のポリスチレンに加えて、さらに(D)RSiO1.5(Rは有機基)で示される構造単位を少なくともモル比で90%以上含有し、重量平均分子量が500以上100000以下であるシリコーン系化合物を含有することが重要であり、これにより耐加水分解性および防汚性が相乗的に向上して更に優れたものとなるばかりか、必要十分な引張強度が確保できることとなる。
【0045】
本発明における(D)シリコーン系化合物とは、RSiO1.5(T単位)を少なくともモル比で90%以上含有するものであり、このRSiO1.5(T単位)単独で構成されていても良く、T単位を少なくとも含有していれば、さらにRSiO0.5(M単位)、RSiO1.0(D単位)、SiO2.0(Q単位)などの複数の構造単位からなっていても良い。
【0046】
シリコーン系化合物の耐熱性の観点から、好ましくはRSiO1.5の構造単位をシリコーン系化合物に対してモル比で90%以上含有することが好ましく、更に好ましくは95%以上含有することが好ましい。シリコーン系化合物にT単位を含むことでシリコーン系化合物の耐熱性がより向上し、かつポリエステルモノフィラメント表面にシリコーン化合物がブリードアウトすることで表面が撥水性となり、加水分解が抑制され、耐加水分解性を向上することができる。
【0047】
また、本発明のシリコーン系化合物はシラノール基を含有していることが好ましい。このシラノール基とはSiOH基のことであり、このシラノール基を含有することで、ポリエステルモノフィラメント表面にシラノール基が存在し、表面活性が大きく、また会合し網目構造を形成することによって見掛けの分子量が大きくなり、表面活性が大きいことと見掛けのファンデルワールス力が大きくなることが相乗して、ポリエステルモノフィラメント表面に対する定着性が大きくなり、ポリエステルモノフィラメント表面には長期間良好な超親水性、つまり防汚性が維持されることになる。
【0048】
シラノール基の含有量は防汚性の効果と耐加水分解性の観点から、シリコーン系化合物に対して重量比で2%以上10%以下の範囲が好ましく、更に好ましくは3%以上7%以下である。
【0049】
このシラノール基量の測定には29Si−NMRにおいてシラノール基を含有しない構造由来のSiO2.0、RSiO1.5、RSiO1.0、RSiO0.5のピークの面積(積分値)とシラノール基を含有する構造由来のSi(OH)、SiO0.5(OH)、SiO1.0(OH)、SiO1.5(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSiO1.0(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSi(OH)のピークの面積(積分値)の比からシラノール基量を算出することが可能である。
【0050】
例えば、RSiO1.5とRSiO1.0(OH)の積分値の比が1.5(RSiO1.5):1.0(RSiO1.0(OH))であれば下記式の通り求めることができる。
シラノール基量(wt%)={(17×RSiO1.0(OH)の積分値の比)/
(RSiO1.0(OH)の分子量×RSiO1.0(OH)の積分値の比+RSiO1.5の分子量×RSiO1.5の積分値の比)}×100=17×1.0/(138×1.0+129×1.5)×100=5.13
【0051】
また、シリコーン系化合物はQ単位の構造単位のみからなる場合を除いて、Si元素と結合する有機基を含有しており、本発明のシリコーン系化合物の有機基としては水素基、水酸基、炭化水素基、芳香族炭化水素基などが挙げられる。
【0052】
炭化水素基の具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ビニル基、アリル基、メタクリル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0053】
芳香族炭化水素基としてはフェニル基、ナフチル基などが挙げられる。
【0054】
シリコーン系化合物の汎用性や耐熱性の観点から有機基は水酸基、メチル基、フェニル基が好ましく、更に好ましくはフェニル基をシリコーン系化合物中に含まれる全有機基に対してモル比で85%以上含むことが好ましい。
【0055】
また、本発明のシリコーン系化合物はGPCで測定されポリスチレン換算で求められる重量平均分子量がポリエステル系樹脂への分散性の観点から500以上100000以下の範囲が好ましく、更に好ましくは1000以上10000以下の範囲である。 重量平均分子量が該範囲を上回ると溶融紡糸の際にシリコーン系化合物の粘度が高く、シリコーン系化合物の分散性が悪化する場合があり、本発明の範囲を下回ってもシリコーン系化合物の分散性が悪化する場合があり、これにより製糸性の低下を招く場合がある。
【0056】
また、本発明のシリコーン系化合物の含有量は耐加水分解性、防汚性の効果の観点からポリエステルに対して重量比で0.5%以上10%以下である必要があり、更に好ましくは1%以上7%以下であることが好ましい。含有量が0.5%未満では耐加水分解性および防汚性の相乗的な向上効果が発現せず、10%を越えるとモノフィラメントの引張強度の低下が著しくなるため好ましくない。
【0057】
次に本発明のポリエステルモノフィラメントの製造方法に関して詳細に説明する。
【0058】
本発明でいう(D)シリコーン系化合物の製造方法としては、一般的な重縮合によって製造することができる。例えばRSiOCl(トリオルガノクロロシラン)、RSiOCl(ジオルガノジクロロシラン)、RSiOCl(モノオルガノトリクロロシラン)、SiOCl(テトラクロロシラン)をモノマーとして用い、目的とするM、D、T、Q単位のいずれかから構成されるシリコーン系化合物をRSiOCl(M単位に相当)、RSiOCl(D単位に相当)、RSiOCl(T単位に相当)、SiOCl(Q単位に相当)から所望のモル比で酸もしくはアルカリの触媒下で縮合せしめ、シリコーン系化合物を合成する方法で製造することができる。
【0059】
また、(D)シリコーン系化合物に含有される各有機基の含有量は前記したモノマーのRを所望の有機基で置換することで、所望の量の有機基を含有したシリコーン系化合物を製造することができる。
【0060】
また、(D)シリコーン系化合物に含有されるシラノール基の含有量は反応時間によって制御可能であるが、シラノール基を制御するために封鎖剤としてRSiOClやRSiOHをシラノール基と反応させることでシラノール基の含有量を制御することも可能である。このシラノール基の含有量の測定は29Si−NMRなどにより測定可能である。
【0061】
また、(D)シリコーン系化合物の重量平均分子量は製造時の反応時間によって制御可能であり、分子量の測定はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定し、ポリスチレン換算で算出することができる。
【0062】
また、本発明のポリエステルモノフィラメントの必要強度は用途により異なるが、概ね3.0cN/dtex以上であることが好ましい。強度が3.0cN/dtex以下では工業用織物の必要最低限の強力を維持できない可能性が高く、工業用織物への展開が難しくなることがある。
【0063】
本発明のポリエステルモノフィラメントの耐加水分解性は、121℃飽和水蒸気中で20日間処理した後の強力保持率が40%以上であると、近年要求されている必要かつ十分な耐加水分解性が得られるため、好ましい。40%以下であると抄紙ドライヤーカンバスの交換作業頻度が増加し、作業効率の悪化に多大な影響を及ぼしてしまう。
【0064】
なおモノフィラメントの耐加水分解性評価方法としてはモノフィラメントを100リットルのオートクレーブに入れ、121℃飽和水蒸気中で20日間処理した後、処理後のモノフィラメントの強力を下記のモノフィラメントの引張試験により求め、処理前のモノフィラメントの強力と比較した強力保持率を耐加水分解性の尺度とした(以下、蒸熱処理後の強力保持率という)。蒸熱処理後の強力保持率が高いほど耐加水分解性が優れることを表す。
【0065】
本発明のポリエステルモノフィラメントの製造は、例えば、所定量のポリエステル、MCD化合物、PCD化合物、シンジオタクチック構造のポリスチレンおよびシリコーン系化合物を溶融混練した後、溶融紡糸することで行うことができる。
【0066】
本発明のポリエステルモノフィラメントの好ましい製造例としては、1軸もしくは2軸エクストルダーのホッパーに、必要量の乾燥したポリエステルペレット、所定量のポリエステル、MCD化合物、PCD化合物、シンジオタクチック構造のポリスチレンおよびシリコーン系化合物、あるいはこれらの添加剤を高濃度に含有したポリエステルマスターバッチペレットを計量供給し、ポリエステル樹脂の融点以上の温度で溶融混練した後、エクストルダー先端に設けた計量ギアポンプを介して紡糸口金より押し出し、冷却・延伸・熱セットを行うなどの方法を挙げることができる。
【0067】
MCD化合物を含有させる場合は、例えば、そのものの固体または高濃度マスターバッチとして計量供給しても良いが、融点以上に加熱して溶融させた液体としてエクストルダーの入口、またはエクストルダーのバレルの途中から計量供給する方法が好ましい。PCD化合物を含有させる場合は、例えば、単独またはMCD化合物と共に融点以上に加熱して溶融させた液体として添加することもできるが、高濃度でポリエステルに含有させたマスターバッチペレットとして計量供給する方法が好ましい。
【0068】
かくして得られる本発明のポリエステルモノフィラメントは、より優れた耐加水分解性および防汚性と共に、必要十分な引張強度を保持したものであることから、各種工業用織物の構成素材として有用なものである。
【0069】
したがって、本発明のポリエステルモノフィラメントを構成素材とする各種工業用織物は、高湿・高温雰囲気下における加水分解劣化が従来のものより抑制され、且つガムピッチなどの粘着性汚れに対する防汚性が従来のものより優れることから、従来よりも長期間の使用が可能となり産業用の利用価値の高いものである。
【0070】
本発明における工業用織物とは、本発明のポリエステルモノフィラメントを織物の緯糸および/または経糸の少なくとも一部に使用した各種工業用途に使用される織物のことであり、例えば、抄紙ワイヤー(パルプ漉き揚げ用の織物)、抄紙ドライヤーカンバスなどの抄紙機に装着される織物類、サーマルボンド法不織布熱接着工程用ネットコンベア織物、熱処理炉内搬送用ベルト織物もしくは各種フィルター織物のことである。
【0071】
ここで、抄紙ワイヤーとは、平織、二重織および三重織など様々な織物として、紙の漉き上げ工程で使用される織物のことで、長網あるいは丸網などとして用いられるものである。また、抄紙ドライヤーカンンバスとは、平織り、二重織および三重織など様々な織物(相前後する緯糸と緯糸とがスパイラル状の経糸用モノフィラメントによって織継がれたスパイラル状織物を含む)として、抄紙機のドライヤー内で紙を乾燥させるために使用される織物のことである。さらに、不織布の熱接着工程用ベルト織物とは、不織布を構成する低融点のポリエチレンのような熱接着性繊維を融着させるために不織布を炉中に通過させるための織物であり、平織り、二重織、などの織物である。また、熱処理炉内搬送用ベルト織物とは、各種半製品の乾燥、熱硬化、殺菌、加熱調理などのために高温ゾーン内において半製品を搬送する織物のことである。さらにまた、各種フィルターとは、高温の液体、気体、粉体などをろ過する織物のことである。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を基に本発明のポリエステルモノフィラメントをさらに詳細に説明する。
【0073】
まず、実施例及び比較例における(D)シリコーン系化合物の調製を下記の通り行い、表1に示すシリコーン系化合物D1〜D4を得た。
【0074】
<M、D、T、Q単位の割合の調製>
SiOCl(M単位に相当)、RSiOCl(D単位に相当)、RSiOCl(T単位に相当)、SiOCl(Q単位に相当)を所望のモル比にて混合したのち水にて加水分解し、発生する塩酸はメタノールによって取り除いた。次いで、水酸化カリウムを触媒として縮合し、M、D、T、Q単位の割合が異なるシリコーン系化合物を製造した。
【0075】
<フェニル基、メチル基の割合の調整>
前記したR部分をそれぞれフェニル基、メチル基で置換し、モル比でフェニル基、メチル基の割合の異なるシリコーン系化合物を調製した。
【0076】
<シラノール基の含有量の調整>
シリコーン系化合物を縮合する際の反応時間を各々調整し、得られたシリコーン系化合物を29Si−NMRにより溶媒としてCDCl、標準物質としてTMS(テトラメチルシラン)用いて、積算回数256回で測定し、シラノール基を含有しない構造由来のSiO2.0、RSiO1.5、RSiO1.0、RSiO0.5のピークの面積(積分値)とシラノール基を含有する構造由来のSi(OH)、SiO0.5(OH)、SiO1.0(OH)、SiO1.5(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSiO1.0(OH)、RSi(OH)、RSiO0.5(OH)、RSi(OH)のピークの面積(積分値)の比からRSiO1.0(OH)とRSiO1.5の各々の積分値の比からシラノール基量(wt%)を算出した。
【0077】
<重量平均分子量の測定>
シリコーン系化合物を縮合する際の反応時間を各々調整し、得られたシリコーン系化合物をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレン換算の重量平均分子量を測定した。
【0078】
【表1】

【0079】
なお、以下の実施例における特性値は各実施例の中で特に記さない限り、次に示す方法によって測定したものである。
【0080】
<モノフィラメントの耐加水分解性評価>
モノフィラメントを100リットルのオートクレーブに入れ、121℃飽和 水蒸気中で20日間処理した後、処理後のモノフィラメントの強力を下記のモノフィラメントの引張試験により求め、処理前のモノフィラメントの強力と比較した強力保持率を耐加水分解性の尺度とした(以下、蒸熱処理後の強力保持率という)。蒸熱処理後の強力保持率が高いほど耐加水分解性が優れることを表す。
【0081】
<モノフィラメントの引張試験方法>
引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)を使用して測定した。
【0082】
<ポリエステルモノフィラメントの防汚性評価のための布ガムテープ剥離試験方法(以下、布ガムテープ剥離試験という)>
(1)厚さ150〜250μm、横巾30mm、縦長さ120mmのポリエチレンテレフタレート製2軸延伸フィルムを2枚用意し、各々のフィルムの30mm巾の一端同士を重ならないように合わせて、この合わせ面に、片面に粘着剤の塗布された25mm×25mmサイズの布粘着テープを、前記2枚のフィルムの両端に渡るように貼付することにより、接合部で縦方向に繋ぎ合わされた見かけの縦長さ約240mm、横巾30mmのフィルムを作成する。
(2)前記の2枚が繋ぎ合わされたフィルムの前記布粘着テープの貼付されていない面のどちらか半分(一枚のフィルム)に、横巾10mm、縦長さ120mmの両面粘着テープ(日東電工(株)製品、No.523または同等品)を、前記フィルムと前記両面粘着テープの横巾方向のセンターを合わせて長手方向に揃えて貼付する。
(3)長さ約200mmに切断したポリエステルモノフィラメント試料を、前記両面粘着テープを貼付したフィルムの粘着テープ上に、前記フィルムの長手方向と平行に隙間無く貼付し、前記両面粘着テープの長手方向の両端からはみ出している前記ポリエステルモノフィラメントの余端を鋏で切除し、ポリエステルモノフィラメント試料貼付フィルムを得る。
(4)平坦な硝子板(厚さ約8mm、縦約250mm、横約80mm)の上に前記ポリエステルモノフィラメント試料貼付フィルムを乗せ、ポリエステルモノフィラメント貼付面を上向き、かつポリエステルモノフィラメント面が左側になるようにしてから、横巾10mm、縦長さ150mmに切断した片面に粘着剤が塗布された布粘着テープ(ニチバン(株)製、段ボール包装用強粘着テープ<LS>No.101Nまたは同等品)を、該布粘着テープの長手方向左端を前記ポリエステルモノフィラメント試料貼付フィルムのポリエステルモノフィラメント面左端と合わせて、前記ポリエステルモノフィラメント上に前記布粘着テープを仮貼付する。次いで、前記ポリエステルモノフィラメント面右端に約30mm残っている前記布粘着テープを、前記フィルム面にしっかりと貼付する。
(5)前記ポリエステルモノフィラメント貼付フィルムを裏返して、前記(1)で2枚のフィルムを繋ぎ合わせるために貼付した前記布粘着テープを取り除く。
(6)前記ポリエステルモノフィラメント貼付フィルムのポリエステルモノフィラメント貼付面を上向きにし、ポリエステルモノフィラメント貼付部分が硝子板上に完全に乗るようにセットして、前記ポリエステルモノフィラメントの表面に仮貼付されている前記布粘着テープ上に、重量1.43Kg、巾50mm、直径86mmのゴムローラーを、前記布粘着テープを重ねたフィルムの右長手方向から片道走行させ、前記布粘着テープを前記ポリエステルモノフィラメント試料に貼付して剥離応力測定用試料を作成する。
(7)前記剥離応力測定用試料の2枚のフィルムの接合部を支点にして、前記布粘着テープの貼付面が内側になるように山折りし、次いで山折りの支点部からポリエステルモノフィラメント上に貼付されている前記布粘着テープを長さ約10mm剥がし、露出したポリエステルモノフィラメント貼付フィルム端部を、引張試験器((株)オリエンテック製テンシロン/UTM−III−100)の上チャックの中央部にセットし、一方のポリエステルモノフィラメントの貼付されていない前記フィルムの下端(山折りの裾部)を、前記引張試験器の下チャックの中央部にセットして、引張速度100mm/分、チャートスピード100mm/分の条件で剥離応力を測定し、剥離応力の高い山と剥離応力の低い谷とが交互に連なった剥離応力チャートを得る。
(8)得られた剥離応力チャートの最初の剥離応力の高い山から約20mm後の剥離応力の高い山を始点として、一個一個の交互の山と谷各40点の剥離応力を読み取り、その平均値をもって剥離応力とし、この測定をn10で行い、その平均値を布粘着テープ剥離応力とする。
【0083】
布粘着テープ剥離応力が低いほど対ガムピッチ防汚性、すなわち防汚性が優れることを表す。
【0084】
なお、上記した布ガムテープ剥離試験を採用することによって、製織することなく本発明のポリエステルモノフィラメントを構成素材とする織物の防汚性を定量的に相対評価することが可能である。
【0085】
〔実施例1〕
ポリエステル系ポリマーとして固有粘度(IV)が1.01のポリエチレンテレフタレートを用い、前記した製法によって得られる表1のシリコーン系化合物を用い、ポリエチレンテレフタレート:シリコーン系化合物=60重量%:40重量%の配合比で、混練温度:275℃、L/D:30、スクリュー回転数:300rpmの条件で2軸押し出し機を用いて混練を行い、ポリエチレンテレフタレート中にシリコーン系化合物を混合した樹脂組成物を得た。
【0086】
PETペレット、上記樹脂組成物、MCD、PCDおよびシンジオタクチック構造のポリスチレンの組成比が、PETペレット:シリコーン系化合物:MCD:PCD:シンジオタクチック構造のポリスチレン=85:5:1:4:5となるようにエクストルダー型の紡糸機を用いて、紡糸温度280℃で溶融混練し、紡糸口金(口金孔径:1.5mm−15H(ホール))から溶融ポリマーを押し出した後、直ちに70℃の温水浴中で冷却固化させた未延伸糸を得た。
【0087】
引き続き未延伸糸を常法にしたがい合計5.5倍に延伸および熱セットを行ない、直径0.50mmの断面形状が円形のポリエステルモノフィラメントを得た。得られたポリエステルモノフィラメントの引張強度を測定し、COOH末端基濃度、蒸熱処理後の強力保持率の評価結果および布ガムテープ剥離試験結果を表3に示す。
【0088】
〔実施例2、3〕
使用したシリコーン系化合物の種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.50mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0089】
〔実施例4、5〕
シリコーン系化合物の含有量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.50mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0090】
〔実施例6、7〕
シンジオタクチック構造のポリスチレンの含有量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.50mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0091】
〔比較例1〜9〕
使用したシリコーン系化合物の種類および含有量、MCD、PCDおよびシンジオタクチック構造のポリスチレンの含有量を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で直径0.50mmのポリエステルモノフィラメントを得た。
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
表2および表3から明らかなとおり、本発明におけるポリエステルモノフィラメント、ポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)モノカルボジイミド、(B)ポリカルボジイミド化合物、(C)シンジオタクチック構造のポリスチレンおよび(D)RSiO1.5(Rは有機基)で示される構造単位を少なくともモル比で90%以上含有し、重量平均分子量が500以上100000以下であるシリコーン系化合物の4成分を必須成分として構成されたポリエステルモノフィラメント(実施例1〜7)は、優れた耐加水分解性および防汚性とを有すると共に、工業用織物の構成素材として必要十分な引張強度を保持していることがわかる。
【0095】
これに対して、本発明外であるポリエステルモノフィラメント、つまりポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)モノカルボジイミド、(B)ポリカルボジイミド化合物、(C)シンジオタクチック構造のポリスチレンおよび(D)RSiO1.5(Rは有機基)で示される構造単位を少なくともモル比で90%以上含有し、重量平均分子量が500以上100000以下であるシリコーン系化合物の4成分の内、1成分でも欠いたポリエステルモノフィラメント(比較例1〜9)などは、近年要求されている必要十分な耐加水分解性、防汚性、または工業用織物として求められる引張強度を満足していないことがわかる。
【0096】
本発明のポリエステルモノフィラメントは、従来のものより優れた耐加水分解性および防汚性とを兼備すると共に、必要十分な引張強度を有し、抄紙ドライヤーカンバスなどの工業用織物の構成素材として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂以外の成分として、(A)モノカルボジイミド0.01〜1.5重量%、(B)ポリカルボジイミド化合物0.05〜5.0重量%、(C)シンジオタクチック構造のポリスチレン0.5〜10重量%および(D)RSiO1.5(Rは有機基)で示される構造単位を少なくともモル比で90%以上含有し、重量平均分子量が500以上100000以下であるシリコーン系化合物0.5〜10重量%を含有するポリエステルモノフィラメントであって、カルボキシル末端基濃度が8当量/ポリエステルモノフィラメント10g以下であることを特徴とするポリエステルモノフィラメント。
〔ただし、(B)ポリカルボジイミド化合物は、このポリカルボジイミド化合物中の未反応のカルボジイミド基(B1)と、ポリエステルのカルボキシル末端基および/またはヒドロキシル末端基と一部反応しているカルボジイミド基(B2)との合計((B1)+(B2))で1分子中に5〜100個のカルボジイミド基を含有するアルキル置換芳香族ポリカルボジイミド化合物である。〕
【請求項2】
前記シリコーン系化合物に含まれる有機基がフェニル基であり、且つこのフェニル基の含有量がモル比で85%以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項3】
前記シリコーン系化合物のシラノール基量が重量比で2%以上10%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂が、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレートから選ばれたいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメント。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリエステルモノフィラメントを経糸および/または緯糸の少なくとも一部に使用したことを特徴とする織物。
【請求項6】
工業用織物であることを特徴とする請求項5に記載の織物。
【請求項7】
抄紙用織物であることを特徴とする請求項6に記載の織物。
【請求項8】
抄紙ドライヤーカンバス用織物であることを特徴とする請求項7に記載の織物。

【公開番号】特開2009−30206(P2009−30206A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−197066(P2007−197066)
【出願日】平成19年7月30日(2007.7.30)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】