説明

ポリエステル樹脂及びそれを含むトナー

本発明は、芳香族二塩基酸のアルキルエステル又は芳香族二塩基酸のアルキルエステルと脂肪族二塩基酸のアルキルエステルの混合物から選ばれる酸成分(A)、芳香族ジオール(B1)、及び脂肪族ジオール(B2)を含む反応物に耐加水分解剤(C)を添加して製造されるポリエステル樹脂、およびそのようなポリエステル樹脂をバインダーとして使って製造されるトナーに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐加水分解性に優れるポリエステル樹脂及び、それを含むトナーに関するものである。より詳しく言えば、本発明は芳香族二塩基酸のアルキルエステル、又は芳香族二塩基酸のアルキルエステルと脂肪族二塩基酸のアルキルエステルの混合物から選ばれる酸成分、芳香族ジオール、及び脂肪族ジオールを含む反応物に耐加水分解剤を添加して製造されるポリエステル樹脂であり、酸価が0.1ないし2.0 mgKOH/g、水酸基価が200ないし600 mgKOH/g範囲であるポリエステル樹脂及び、それをバインダーとして使って製造されるトナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存の画像形成法としては静電記録法、磁気記録法、トナージェット法等、様々な方法が使われてきた。トナー画像を紙のようなシートに定着する工程については様々な方法と装置が開発されているが、現在使われる最も一般的な方法は加熱圧着方式である。加熱圧着方式は加熱ローラーがトナー像を直接加圧して接触するので迅速・正確に定着することができる。このような高速画像を形成するため、軟化点の低いポリエステル樹脂をバインダー樹脂として使い、トナーの低温定着特性を向上させる方法が提示されている。しかし、軟化点の低いポリエステル樹脂を製造するためには分子量を低くしなければならないために重合度が低くなり、重合度の低いポリエステル樹脂は酸価が高くて帯電性と耐湿性が悪く、ガラス転移点が低くて耐ブロッキング性が落ちるという問題がある。
【0003】
バインダー樹脂として最も重要な性能はトナーを保存するときの耐ブロッキング性と画像の形成に影響を与える帯電特性である。耐ブロッキング性については、トナーを保存するとき、温度が高いときもトナーがブロッキングを起こさず、トナー用のバインダー樹脂として比較的高いガラス転移温度を有することが重要である。しかし、ガラス転移温度が高すぎると低温定着性と粉砕性において不利になる。画像の形成に最も大きな影響を与える帯電特性は、帯電量と耐湿性に代表される。帯電量はコピー機か、プリンターのような感光体などによってトナー及びトナー用バインダー樹脂の帯電量を決定しなければならず、トナー用バインダー樹脂としては使用したモノマー及び分子構造によって、その帯電量を制御することができる。また、帯電安定性に関わり、プリントするとき帯電量に変化がなく、湿度が高い場合もトナーの帯電量が低下しないようにする優れた耐湿性が必要である。
【0004】
このようなバインダー樹脂として要求される性能を具現するため、単式官能イソシアネート(特開2000-275902号)を利用し、耐ブロッキング性と酸価を制御したり、単式官能アミン(特開平11-92553号)を利用して耐湿性と耐ブロッキング性を向上させたり、反応時の水酸基と酸基の当量比、モノカルボン酸(特開2007-004149)を利用して酸価を調節したりする方法が提示されている。
【0005】
しかし、上記の先行技術文献によって製造されるポリエステル樹脂は酸成分として、末端がカルボン酸になっているものを利用するため、ポリエステル樹脂の酸価は高く、水酸基価は低くて水分の含有率が高くなるという問題がある。従って、このような樹脂でトナーを製造する場合、加水分解が頻繁に起こり、耐久性が落ち、画像の品質が悪化し、長期的な保存が難しい。
【0006】
本発明者は、ポリエステル樹脂が常温に放置される場合、ポリエステル樹脂の鎖の中のエステル結合、及び樹脂のカルボキシル末端と水分の水素結合による加水分解で軟化温度が低くなることを確認した。従って本発明は、樹脂の酸価と水酸基価を制御することによってポリエステル樹脂の水分含有率を低め、耐加水分解剤を添加して樹脂の加水分解を防止することで耐加水分解性、耐フィルミング性、耐湿性、電気的な特性、及び画像安定性に優れるポリエステル樹脂の開発を目指した。
【0007】
一般的に、ポリエステル樹脂の酸価と水酸基価は、ポリエステル樹脂の水分含有率に影響を与え、トナーを製造するとき水分による加水分解を起こし、トナーの画像形成と長期保存する場合の保存安定性に大きな影響を与える。ポリエステル樹脂の耐加水分解性を向上させるためには、優先的に酸価と水酸基価を低めて水分含有率を減少させる方法がある。酸価と水酸基を制御する方法としては次のような方法:1)酸成分とアルコール成分の造成比を変更する方法;2)エステル化反応及び重縮合反応のときの反応率を変更する方法;及び3)酸成分、アルコール成分以外の単量体を利用する方法などが使われる。
【0008】
上記の方法1)は1つの成分を過量に使って酸価を調節するので、商業的に利用する場合、単量体を過量使わねばならないことから生産費用が増加する問題があり、上記の方法2)は反応率の変更によって生成される樹脂の物性に悪い影響を与え易く、上記の方法3)は、追加的に新しい単量体を投入しなければならないことから生産費用が増加する問題があり、樹脂の物性に悪い影響を与える危険性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明者はポリエステル樹脂に悪い影響を与えずに吸湿率を低めるため、芳香族二塩基酸のアルキルエステル、又は脂肪族二塩基酸のアルキルエステルを使い、同時に重合温度、触媒量、重合時の減圧を制御することによってポリエステル樹脂の酸価を制御した。
【0010】
また、ポリエステル樹脂の鎖にあるエステル結合との水素結合による水分の吸湿を防止して水分による加水分解を防止し、酸価を調節するため、耐加水分解剤を利用した。
【0011】
本発明の目的は耐加水分解性に優れたポリエステル樹脂を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は特定な酸価と水酸基価の範囲を持つポリエステル樹脂の製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は上記ポリエステル樹脂をバインダー樹脂とし利用して製造した耐加水分解性、耐フィルミング性、耐湿性、電気的な特性、及び画像安定性に優れたトナーを提供することにある。
【0014】
本発明は芳香族二塩基酸のアルキルエステル、又は芳香族二塩基酸のアルキルエステルと脂肪族二塩基酸のアルキルエステルの混合物から選ばれる酸成分(A)、芳香族ジオール(B1)、及び脂肪族ジオール(B2)を含む反応物に耐加水分解剤(C)を添加して製造されるポリエステル樹脂で、酸価が0.1ないし2.0 mgKOH/g、水酸基価が200ないし600 mgKOH/gであるポリエステル樹脂を提供する。
【0015】
本発明の1つの具体的な例では芳香族二塩基酸のアルキルエステル、又は芳香族二塩基酸のアルキルエステルと脂肪族二塩基酸のアルキルエステルの混合物から選ばれる酸成分(A)100モル重量部、芳香族ジオール(B1)30ないし80モル重量部、及び脂肪族ジオール(B2)10ないし50モル重量部を含む反応物及び上記反応物の重量を基準に、0.5ないし3重量%の耐加水分解剤(C)を添加して製造されるポリエステル樹脂を提供する。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂を製造するため、反応物に3価以上の多価アルコール(B3)1.0ないし20モル重量部、又は脂環族ジオール(B4)10ないし30モル重量部から選ばれる1種以上のものをさらに含むことができる。
【0017】
本発明のまた違う一面は、ポリエステル樹脂の製造方法を提供することで、上記の方法は芳香族二塩基酸のアルキルエステル、又は芳香族二塩基酸のアルキルエステルと脂肪族二塩基酸のアルキルエステルの混合物から選ばれる酸成分100モル重量部、芳香族ジオール30ないし80モル重量部、脂肪族ジオール10ないし50モル重量部、任意成分である3価以上の多価アルコール1.0ないし20モル重量部及び/又は脂環族ジオール10ないし30モル重量部を含む反応物を200〜210℃で2時間、210〜230℃で1時間反応させながら生成するアルコールを除去し、1段階の反応生成物を得る段階、1段階の反応生成物を230〜240℃の温度で、760 mmHgから50 mmHgまで1ないし3時間にかけて徐々に減圧した後、反応物の粘度が希望する粘度に到達するまで維持しながら、生成されるジオール成分を除去する段階、及び常圧下で耐加水分解剤を添加する段階を含む。
【0018】
本発明のポリエステル樹脂は、特にトナー用バインダーとして相応しい。従って、本発明のまた違う一面は、本発明によるポリエステル樹脂をバインダーとして利用して製造する、耐加水分解性、耐ブロッキング性、耐湿性、定着性、及び画像安定性に優れたトナーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以下では、本発明による樹脂の構成成分、及び製造方法について、より具体的に説明する。
【0020】
(A)酸成分
酸成分として芳香族二塩基酸のアルキルエステルを単独で使うか、脂肪族二塩基酸のアルキルエステルを混合して使用することができる。
【0021】
(A1)芳香族二塩基酸のアルキルエステル
【0022】
本発明による芳香族二塩基酸のアルキルエステルは、芳香族二塩基酸であるテレフタル酸、イソフタル酸の低級アルキルエステルから選ばれる。芳香族二塩基酸の低級アルキルエステルの例としては、テレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル、テレフタル酸ジブチル、イソフタル酸ジブチル等がある。
【0023】
芳香族二塩基酸アルキルエステルは、ガラス転移温度を高め、耐ブロッキング性の向上に寄与し、疎水性であるため耐湿性の向上にも効果がある。また、芳香族二塩基酸は末端がカルボン酸になっているので酸価を高める傾向があり、帯電性が悪い。従って、本発明では末端がエステルの形に置換されている芳香族二塩基酸の低級アルキルエステルを使用することで樹脂の酸価を低くし、優れた帯電性及び耐湿性を得ることができる。
【0024】
(A2)脂肪族二塩基酸のアルキルエステル
本発明による脂肪族二塩基酸のアルキルエステルは脂肪族二塩基酸であるフマル酸、アジピン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、又はシトラコン酸等のアルキルエステルから選ばれる。
【0025】
上記の脂肪族二塩基酸のアルキルエステルは、粉砕性の向上に寄与し、反応性を向上させて酸価を低くし、耐湿性を向上する効果がある。
【0026】
脂肪族二塩基酸のアルキルエステル(A2)は芳香族二塩基酸のアルキルエステル(A1)と混用して使うことができ、適切な含量は全体酸成分(A) 100モル重量部の中で1〜30モル重量部である。
【0027】
(B)アルコール成分
(B1)芳香族ジオール
本発明による芳香族ジオールは樹脂のガラス転移温度を高め、対ブロッキング性を向上させる。
【0028】
本発明による芳香族ジオールは、総ての酸成分(A)100モル重量部を基準に、30〜80モル重量部使うことができる。芳香族ジオールの含量が30重量部未満である場合、反応速度は増加するが、熱安定性、保存安定性が不足し、80重量部を超過する場合、熱安定性と保存安定性は増加するが反応速度が遅くなる。
【0029】
上記の芳香族ジオールはビスフェノールA誘導体を含むもので、その例としては、ポリオキシエチレン−(2,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2,2)−ポリオキシエチレン−(2,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシエチレン−(2,3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシプロピレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2,3)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシプロピレン−(2,4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシプロピレン−(3,3)−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシエチレン−(3,0)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン、ポリオキシエチレン−(6)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニール)プロパン等があり、これを単独、あるいは2種以上配合して使うことができる。
【0030】
(B2)脂肪族ジオール
本発明の脂肪族ジオールは反応性を高めることで酸価を低め、粉砕性をよくするという特性を持つ。本発明により脂肪族ジオールはエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,4−ブテンジオール、ネオペンチングリコール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,3−ペンタンジオール、1,6−へキサンジオール、2,3−ヘキサンジオール、3,4−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、ドデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等を使うことができ、全体酸成分(A)100モル重量部に対して10〜50モル重量部を使うことができる。脂肪族ジオールを10モル重量部未満使う場合、反応速度が激しく低下し、50モル重量部を超過して使う場合、生成物のガラス転移点(Tg)が低下して熱安定性、保存安定性、対ブロッキング性が低下するおそれがある。
【0031】
(B3)3価以上の多価アルコール
本発明では、生成される樹脂の熱安定性を向上させるため、必要によって3価以上の多価アルコール成分を追加して樹脂を製造することができる。3価以上の多価アルコールには樹脂のガラス転移温度を高め、樹脂に凝集性を与え、耐オフセット性を高めるという効果がある。
【0032】
3価以上の多価アルコールとしてはトリメチルエタン、トリメチロールプロパン、2−メチルプロパントリオール、グリセロール、1,2,5−ペンタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビートル、2−ヒドロキシメチルプロパン、1,3−ジオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、1,3,4−トリヒドロキシメチルベンゼン、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、又はこれらの混合物を使うことができ、全体酸成分(A)100モル重量部に対して1.0〜20モル重量部を使うことができる。3価以上の多価アルコールの含量が1.0モル重量部未満である場合、製造した樹脂の熱安定性が不足し、分子量分布が狭くて低温定着性が悪くなり、20モル重量部を超過する場合、樹脂のゲル化によって重合物を得ることが難しく、樹脂の酸価が高くなって耐湿性と帯電性に悪い影響を与えるおそれがある。
【0033】
(B4)脂環族ジオール
本発明ではポリエステル樹脂が広い定着領域を有するようにし、耐湿性を向上させてトナーの画像濃度を良好に維持するため、必要によって脂環族ジオールを追加し、樹脂を製造することができる。
【0034】
脂環族ジオールとしては1,4−シクロへキサンジメタノール、1,2−シクロへキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、シス−1,4−シクロへキサンジメタノール、シス−1,2−シクロへキサンジメタノール、シス−1,3−シクロへキサンジメタノール、又はこの混合物を使うことができ、全体の酸成分(A)100モル重量部に対して10〜30モル重量部を使うことができる。
【0035】
上記の酸成分(A)及びアルコール成分(B)はポリエステル樹脂を製造するための反応物であり、上記の反応物は当該分野で通常的に使う添加剤をさらに含めることができ、適切な添加剤の種類及び含量は、当業者が容易に定めることができる。
【0036】
(C)耐加水分解剤
耐加水分解剤はポリエステル樹脂の鎖の末端にあるカルボキシル酸基と結合し、酸価を低くし、鎖を延長して樹脂の耐熱性を向上させる。また、水分による樹脂の加水分解を防止する効果があり、加水分解によって増加する酸価を低くする。
【0037】
本発明における耐加水分解剤としてはフェノール系、オキサゾリン系、又はカルボジイミド系耐加水分解剤を使うことができ、オキサゾリン系、又はカルボジイミド系の耐加水分解剤が望ましい。その中でもオキサゾリン系の耐加水分解剤はさらに望ましい。
【0038】
フェノール系耐加水分解剤の例としては立体障害フェノール、チオビスフェノール、アルキリデン・ビスフェノール、アルキルフェノール、ヒドロキシベンゾイル化合物、 アシルアミノフェノール、及びヒドロキシフェニールプロピオン酸等がある。フェノール系耐加水分解剤は、エステル結合による加水分解を抑制するか、遅らせる効果がある。
【0039】
オキサゾリン系、又はカルボジイミド系 耐加水分解剤は、加水分解によって破断された結合を復元する効果がある。このような機能を持つ化合物としてはモノ、又はポリカルボジイミド及び1,3−フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)等がある。
【0040】
本発明の耐加水分解剤(C)の含量は上記の酸成分(A)及びアルコール成分(B)を含む反応物の全体重量を基準にして0.5〜3.0重量%である。耐加水分解剤の含量が0.5%未満である場合、耐加水分解の効果がなく、酸価を低める効果も微々たるものであり、樹脂の酸価が高くて耐湿性と耐加水分解性が悪くなる。一方、耐加水分解剤の含量が3.0重量%を超過する場合、ポリエステル樹脂の表面に耐加水分解剤が漏れ、画像を形成するとき、画像の安定性、光沢、画像の品質に悪い影響を与えるおそれがあり、樹脂の鎖を過度に延長して樹脂の軟化温度が高くなり、画像の安定性に悪い影響を与えるおそれがある。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂は、一般的なポリエステル樹脂のようにエステル化反応及び重縮合反応の2段階反応によって製造される。
【0042】
エステル化反応は酸成分(A)及びアルコール成分(B)を200〜210℃で2〜3時間、210〜230℃で1〜2時間維持しながら反応させて行われ、反応中に生成するアルコールは除去する。上記の反応温度範囲を超えると転換率が低くなり、反応時間が足りない場合、未反応酸成分が昇華して蒸留塔をふさぐという問題が発生するおそれがあり、未反応単量体による重縮合のとき、酸価が高くなるおそれがある。
【0043】
エステル化反応の後は230〜240℃の反応温度を維持しながら重縮合反応を行う。反応温度が230℃未満を維持すれば反応時間が長引き、重合度が低くなって酸価が高くなり、温度が240℃を超えれば反応が急激に行われて制御が難しく、急激なゲル化によって酸価が高くなるという問題がある。
【0044】
重縮合反応のとき、圧力は常圧(760 mmHg)から100 mmHgないし10 mmHgまで、1ないし3時間にかけて徐々に減圧し、70ないし30 mmHg、望ましくは50ないし40 mmHgの区間で、反応物が希望する粘度に到達するまで維持しながら生成されるジオール成分を除去する。減圧到達時間が1時間未満の場合、低分子量の反応物が反応できずに除去され、真空管をふさぐという問題がある。減圧到達時間が3時間以上になる場合、反応時間が長くなって非経済的だという問題がある。最終的な圧力を30 mmHg以下で維持すれば反応が急激に行われて制御が難しく、急激なゲル化によって酸価が高くなり、最終的な圧力を70 mmHg以上で維持すれば反応時間が長くなるという問題がある。
【0045】
重縮合反応が完了した後、常圧で耐加水分解剤を添加し、ポリエステル樹脂を得る。
【0046】
本発明のエステル化反応と重縮合反応のときに使われる触媒はチタニウム系触媒、亜鉛アセテート系触媒、又はこの混合物から選ぶことができる。
【0047】
触媒の適切な含量は、全体酸成分(A)の含量を基準にして500〜1100 ppmである。触媒の濃度が酸成分含量の500 ppm未満であれば、ポリエステル樹脂が希望する重縮度まで重縮されない場合があり、酸価が高くなるおそれがある。1100 ppmを超過すると触媒が沈殿物として析出されて重合反応速度が遅くなり、ポリエステル樹脂の透明性が低下し、急激な反応によって反応の制御が難しく、激しいゲル化によって酸価が高くなり、ガラス転移温度が低くなるという問題がある。
【0048】
本発明によるポリエステル樹脂の酸価は0.1〜2.0 mgKOH/gが望ましい。ポリエステル樹脂の酸価が0.1 mgKOH/g未満であれば帯電性が悪くなって画像の形成に悪い影響を与えるおそれがあり、2.0 mmKOH/gを超過すると耐湿性が悪くなって長期的な保存安定性に悪い影響を与えるおそれがある。
【0049】
本発明によるポリエステル樹脂の水酸基価は200〜600 mgKOH/gが望ましく、さらに望ましいのは300〜500 mmKOH/gである。ポリエステル樹脂の水酸基価が200 mgKOH/g未満であれば画像の定着性に悪い影響を与えるおそれがあり、600 mmKOH/gを超過すると耐フィルミング性に悪い影響を与えるおそれがある。
【0050】
また、本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度は55〜80℃が望ましい。もし、ポリエステル樹脂のガラス転移温度が55℃未満であればトナーの保存安定性が低くなり、80℃を超過すると低温定着性と粉砕性に悪い影響を与えるおそれがある。また、ポリエステル樹脂の軟化温度は100℃ないし170℃が望ましい。もし、軟化温度が100℃未満であればガラスの転移温度が低くなり、耐ブロッキング性及びオフセット性が悪化するおそれがある。軟化温度が170℃を超過すると低温定着性が悪くなるおそれがある。
【0051】
本発明はまた、本発明のポリエステル樹脂を含むトナーを提供する。本発明のトナーは着色剤、耐電制御剤、ワックス等の通常的なトナー用添加剤をさらに含むことができる。ポリエステル樹脂及び通常的な添加剤の含量は当業者に容易に定めることができ、トナーは当該分野で公知の製造方法によって製造することができる。
【発明の効果】
【0052】
記述したように、本発明のポリエステル樹脂は耐加水分解性と低温定着性、耐湿性、電気的な特性に優れ、バインダーとして有用に使うことができ、ときに上記の樹脂をトナー用バインダーとして使う場合、耐加水分解性、低温定着性、耐フィルミング性、耐湿性、電気的な特性、画像安定性、長期的な保存安定性に優れたトナーを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明を次の実施例によって詳細に説明する。しかし、本発明は次の実施例に限られるわけではない。
【実施例】
【0054】
実施例1ないし6及び比較例1ないし6
15Lの溶融縮合反応器の内で、下記の表1に示されたような含量及び造成成分を持つ反応物に、全体酸成分(A、又はA')含量を基準にチタニウム系触媒700 ppmを添加し、エステル化反応の反応温度を200〜210℃で2時間、210〜230℃で1時間維持しながら生成するアルコールを除去し、重縮合触媒を添加して重縮合反応を開始した。重縮合反応のとき、反応温度は230〜240℃を維持し、重縮合反応時の圧力は常圧(760 mmHg)から40 mmHgまで、3時間にかけて徐々に減圧した。重縮合反応が終了した後、耐加水分解剤(C)を常圧で添加し、20分間攪拌してポリエステル樹脂を製造した。
【0055】
【表1】

【0056】
物性の測定
実施例1ないし6及び比較例1ないし6によって製造したポリエステル樹脂の軟化温度(T1/2)、ガラス転移温度(Tg)、酸価(mgKOH/g)、水酸基価(mgKOH/g)、及びゲルの含有量(%)を表2に示した。
【0057】
軟化温度は流動実験機(CFT-500D)でサンプル1.5 gを直径1 mm、高さ1 mmのノズルで20 kgfの荷重で1分当たり6℃の温度上昇速度で測定した。
【0058】
ガラス転移温度(Tg)は示差走査熱量計(DSC)で1分当たり10℃の速度で温度を上昇させた後冷却し、再び温度を上昇させて測定した。
【0059】
酸価(mgKOH/g)はサンプル0.15 gとベンジルアルコール5 mlを試験管に入れて融解した後、上記の混合物をクロロホルム10 mlが入っているビーカーに入れ、フェノールレッド指示薬を加えた後、苛性カリウムベンジルのアルコール溶液を利用してポリマーの中のカルボキシル基を中和滴定する方法で求めた。
【0060】
水酸基価(mgKOH/g)はJIS K0070(1992年版)の規定によって測定した。
【0061】
ゲルの含有量(%)は試料0.5 gを50 mlのテトラヒドロフラン(THF)溶液に分散させた後、3時間加熱・還流して3G3マイクログラスフィルターで分離・乾燥して残存する含量で求めた。
【0062】
トナーの耐ブロッキング性、耐湿性、耐フィルミング性、定着性、及び画像安定性を測定するため、上記の実施例1ないし6及び比較例1ないし6で製造されたポリエステル樹脂92重量%、カーボンブラック4重量%、耐電制御剤1重量%、及びカーナウバワックス3重量%をヘンケルミキサーで5分間混合した後、二軸圧出機で溶融混錬し、トナー造成物を得た。このトナー造成物をジェットミル方式の100AFG(細川アルピネ社)粉砕機(PULVERIZER)を利用して平均繊度9.0 μmに粉砕した後、トナーを製造し、各物性を測定して表2に示した。
【0063】
対ブロッキング性は、粉砕されたトナー粒子10 gを20 mlバイアルに入れた後、60℃のオーブンに48時間放置した後、凝集程度とワックスのブルーミング程度で測定した。
【0064】
耐湿性はトナーの粒子10 gを20 mlのバイアルに入れた後、60℃のオーブンで15時間乾燥させた後、25℃、湿度68%の条件で7日間放置した後、含有した水分の量を測定し評価した。
【0065】
耐フィルミング性はレーザープリンターを利用して5,000枚のプリントテストを行った後、得られたプリント画像及び感光体の汚れで観察・評価した。
【0066】
定着性はプリントした紙に3Mテープを貼り、500 gの錘で10回こすった後、テープを除去したときのトナーの残存量で評価した。
【0067】
画像の安定性はレーザープリンターを利用して5,000枚のプリントテストを行ったとき、プリント画像の濃度変化を基準に評価した。
【0068】
【表2】

【0069】
*評価基準
1)耐ブロッキング性
5-凝集が発生しない;4-微細な表面凝集、1〜2回の振動で分散;3-微細な凝集、3〜4回の振動で分散;2-部分凝集、振動しても分散しない;1-完全凝集体の形成
【0070】
2)耐湿性
5-水分の含有量0〜1400ppm、4-1400〜1500ppm、3-1500〜1600ppm、2-1600〜1700ppm、1-1700ppmを超過
【0071】
3)耐フィルミング性
◎:汚れがない、△:少しだけ汚れがある、X:汚れがいっぱいある
【0072】
4)定着性
5-残存量が90%を超過;4-残像量が80〜90%;3-残像量が70〜80%;2-残像量が60〜70%;1-残像量が60%未満
【0073】
5)画像の安定性
◎:濃度変化なし、△:若干の濃度変化、X:激しい濃度変化
【0074】
上記の表2に示されたように、実施例によって製造されたトナーは耐ブロッキング性、耐湿性、耐フィルミング性、定着性、及び画像安定性が総て優秀だった。しかし、比較例1は実施例1とは違い、酸成分(A)として芳香族二塩基酸のアルキルエステルと脂肪族二塩基酸の混合物を使うことによって酸価が高くなり、水酸基価は低くなり、耐湿性と耐フィルミング性が悪くなった。比較例2もまた、酸成分(A)として芳香族二塩基酸と3価以上のジカルボン酸を使うことによって酸価が高くなり、水酸基価は低くなって耐湿性と耐フィルミング性が悪くなった。比較例3は実施例6と同じく、芳香族ジオール(B1)と脂肪族ジオール(B2)を使ったが、脂肪族ジオールの含量が本発明の範囲を超え、酸成分(A)としての芳香族二塩基酸と脂肪族二塩基酸、他の3価以上のジカルボン酸を使うことによって、酸価が高く、水酸基価は低くて耐湿性、耐フィルミング性、定着性、及び画像の安定性が総て悪くなった。比較例4では実施例3のような3価以上の多価アルコール(B3)を使ったが、酸成分(A)として芳香族二塩基酸を使うことによって、酸価が高く、水酸基価は低くて、やはり耐湿性と耐フィルミング性が悪くなった。比較例5及び6は酸成分(A)として芳香族二塩基酸を使うことによって酸価が高く、水酸基価は低くなり、耐湿性、耐フィルミング性、定着性、及び画像の安定性が総て悪くなった。
【0075】
一方、比較例2のように耐加水分解剤を全体の0.5重量%未満使って圧出する場合、水分による加水分解によって軟化温度が相当低くなった。比較例3,4及び6のように耐加水分解剤を3.0重量%以上使う場合、水分による加水分解を防止する効果はあったが、含量が多くて軟化温度が高くなった。
【0076】
実施例7ないし9及び比較例7ないし9
耐加水分解剤の効果について調べるため、耐加水分解剤の含量を変えて配合したものを除けば、実施例1と同じ造成、含量、及び反応条件の下でポリエステル樹脂を製造し、これを使って実施例1と同じ方法でトナーを製造した。製造した樹脂とトナーの物性は実施例1と同じ方法で測定し、その結果を下記の表3に示した。
【0077】
【表3】

【0078】
1)ないし5)の判断基準は上記の表2の下段に示されたものと同じである。
【0079】
上記の表3に示されたように、ポリエステル樹脂の造成が同じでも耐加水分解剤の含量が違う場合、得られる樹脂の酸価と水酸基価には差があり、耐加水分解性も違ってくるのが分かった。比較例7のように、余る成分全体の重量を基準にして0.5重量%以下の耐加水分解剤を添加し、圧出する場合、加水分解が起こって軟化温度が低くなることが分かった。反面、比較例8,9のように耐加水分解剤の含量を多くして圧出する場合、軟化温度が高くなって画像の安定性が悪くなることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族二塩基酸のアルキルエステル又は芳香族二塩基酸のアルキルエステルと脂肪族二塩基酸のアルキルエステルの混合物から選ばれる酸成分(A)、芳香族ジオール(B1)、及び脂肪族ジオール(B2)を含む反応物に耐加水分解剤(C)を添加して製造されるポリエステル樹脂。
【請求項2】
酸成分(A)100モル重量部、芳香族ジオール(B1)30ないし80モル重量部及び脂肪族ジオール(B2)10ないし50モル重量部を含む反応物に、上記の反応物の重量を基準にして0.5ないし3重量%の耐加水分解剤(C)を添加して製造される、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記反応物は、3価以上の多価アルコール(B3)1.0ないし20モル重量部、又は脂環族ジオール(B4)10ないし30モル重量部から選ばれる1種以上のアルコール成分をさらに含む、請求項2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂は、酸価が0.1ないし2.0 mmKOH/g、水酸基価が200ないし600 mgKOH/gである、請求項1〜3いずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記芳香族二塩基酸のアルキルエステルは、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジエチルイソフタレート、ジブチルテレフタレート、及びジブチルイソフタレートよりなる群から選ばれる1種あるいは2種以上の混合物である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
前記脂肪族二塩基酸のアルキルエステルは、脂肪族二塩基酸であるフマル酸、マレイン酸、アジピン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、及びシトラコン酸のアルキルエステルよりなる群から選ばれる1種あるいは2種以上の混合物である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
前記耐加水分解剤(C)は、1,3-フェニレン−ビス−(2−オキサゾリン)、モノ−またはポリ−カルボジイミド、立体障害フェノール、チオビスフェノール、アルキリデンビスフェノール、アルキルフェノール、ヒドロキシベンゾイル化合物、アシルアミノフェノール、及びヒドロキシフェニールプロピオン酸よりなる群から選ばれる1種あるいは2種以上の混合物である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂をバインダー樹脂として使って製造されるトナー。

【公表番号】特表2013−508500(P2013−508500A)
【公表日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−535136(P2012−535136)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【国際出願番号】PCT/KR2010/007283
【国際公開番号】WO2011/049404
【国際公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(500578515)サムヤン コーポレイション (20)
【Fターム(参考)】