説明

ポリエステル樹脂及び光学レンズ

【課題】成形性及び耐熱性に優れ、アッベ数が低くかつ高屈折率であるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】エチレングリコール及び下記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する単位を50モル%以上含むジカルボン酸単位とを含むポリエステル樹脂であって、全ジオール単位中の40〜99モル%がエチレングリコールに由来する単位であり、全ジオール単位中の1〜60モル%が下記一般式(I)で表されるジオールに由来する単位である、ポリエステル樹脂。


(式中、Aは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びピレンからなる群から選ばれる芳香環からなる2価の連結基を表す。R1は、炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、又はハロゲン原子を表し、nは0〜4の整数を表す。R1が複数存在する場合、複数のR1は、互いに同一でも異なっていてもよい。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂及び光学レンズに関し、特に光学レンズ用材料として好適に用いることができるポリエステル樹脂及び当該樹脂を成形して得られる光学レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)は、各種成形材料として有用な熱可塑性樹脂であり、また、ポリエチレンナフタレート(PEN)は、PETに比べ耐熱性、ガスバリヤー性、耐薬品性等の基本物性が優れている。これら熱可塑性ポリエステル樹脂は、ボトル、シート、フィルム等の各種用途に広く使用されている。
しかし、PETやPENは、結晶性が高く、成形時等の溶融時に白化やギラツキの原因となる球晶が発生するという問題がある。透明性の優れたPETやPENを形成するには、球晶の発生を伴わない延伸中の結晶化によって、速やかに結晶化を完了させる成形方法が有効である。このため、PETやPENの用途の多くはボトル、フィルム、シートといった形成時の延伸を伴う薄形の形態に限定されており、厚みのある成形材料へ広く適用することはできていなかった。
【0003】
一方、樹脂の結晶性を低下させるためには第三成分との共重合やブレンドが有効であることが広く知られている。非晶性の高分子材料は、結晶化による白化やギラツキを発生させることがなく、厚みのある成形材料に適用することができる。したがって、熱可塑性ポリエステル樹脂の製造時に非晶性の高分子材料を構成するモノマーを共重合させることや、熱可塑性ポリエステル樹脂と非晶性の高分子材料とをブレンドすることで、熱可塑性ポリエステル樹脂の結晶性を低下させることができる。
しかし、これらの方法では、非晶性の高分子材料又はそのモノマーの導入によりガラス転移温度が低下するため、耐熱性が低下してしまうという問題点があった。
【0004】
ところで、カメラ、フィルム一体型カメラ、ビデオカメラ等の各種カメラの光学系では、複数枚の凹レンズと凸レンズを組み合わせることで収差補正をしている。すなわち、凸レンズでできた色収差に対し、凹レンズにより凸レンズと符号が反対の色収差を出して合成的に色収差を打ち消している。このとき、収差補正用の凹レンズには高分散(低アッベ数)であることが要求される。カメラの光学系に使用される光学素子の材料としては、光学ガラス又は光学用透明樹脂が使用されている。
【0005】
光学ガラスは、耐熱性や透明性、寸法安定性、耐薬品性等に優れ、様々な屈折率やアッベ数を有する多種類の材料が存在する。しかし、材料コストが高い上、成形加工性に劣り、また生産性が低いという問題点を有している。とりわけ、収差補正に使用される非球面レンズに加工するためには、極めて高度な技術及び高いコストがかかるため実用上大きな障害となっている。
上記の光学ガラスに対し、光学用透明樹脂、中でも熱可塑性透明樹脂からなる光学レンズは、射出成形により大量生産が可能で、しかも非球面レンズの製造も容易であるという利点を有しており、カメラ用レンズ用途として使用されている。このような熱可塑性透明樹脂としては、ビスフェノールAからなるポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、非晶性ポリオレフィン等が例示される。
【0006】
高分散(低アッベ数)の観点から上記した光学用熱可塑性樹脂を見てみると、ビスフェノールAからなるポリカーボネートは、屈折率が1.59程度、アッベ数が32程度であり、ポリメチルメタクリレートは屈折率が1.49程度、アッベ数が58程度であり、非晶性ポリオレフィンは屈折率が1.54程度、アッベ数が56程度である。これらの中で収差補正用レンズとして使用し得るのはポリカーボネートのみである。しかし、アッベ数が32であることは十分に高分散であるとは言い難く、収差補正用レンズとして使用し得る新規材料が求められている。
【0007】
特許文献1には、収差補正用レンズに使用できる樹脂として、屈折率が1.66程度、アッベ数が20程度のフルオレン系ジヒドロキシ化合物を共重合したポリエステル樹脂が開示されている。特許文献1に開示された樹脂は、低アッベ数であり、十分に高分散である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−335974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された樹脂は、以下の点で光学レンズ用樹脂として重大な欠点を有する。この樹脂は、嵩高く剛直なフルオレン系ジヒドロキシ化合物を多量に共重合しているため、溶融粘度が非常に高く、成形性に劣る。成形性を向上させる手段としては、成形温度を上げたり、重合度を下げたりすることで成形時の溶融粘度を下げることが考えられる。しかし、成形温度を上げると、成形時の着色が増加したり、熱分解物の生成により金型が汚れたりするという不都合が発生する。また、重合度を下げると、樹脂中の低分子量成分が相対的に増えるため、低分子量物又は低分子量物の分解物により金型が汚れるという不都合が発生し易いという問題がある。
したがって、収差補正用レンズとして優れた光学的性質(高屈折率、低アッベ数)と、実用上十分な成形性とを兼ね備えた熱可塑性樹脂からなる光学レンズは未だ開示されていない。
また、成形材料として十分な低結晶性及び成形性を保持しつつ、かつ単独のPETやPENと同等程度のガラス転移温度、すなわち単独のPETやPENと同等程度の耐熱性を有するポリエステル系材料は未だ開示されていない。
【0010】
本発明の課題は、成形性及び耐熱性に優れ、アッベ数が低くかつ高屈折率であるポリエステル樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下のポリアミド樹脂及び光学レンズを提供する。
[1]エチレングリコール及び下記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する単位を50モル%以上含むジカルボン酸単位とを含むポリエステル樹脂であって、全ジオール単位中の40〜99モル%がエチレングリコールに由来する単位であり、全ジオール単位中の1〜60モル%が下記一般式(I)で表されるジオールに由来する単位である、ポリエステル樹脂。
【化1】

(式中、Aは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びピレンからなる群から選ばれる芳香環からなる2価の連結基を表す。R1は、炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、又はハロゲン原子を表し、nは0〜4の整数を表す。R1が複数存在する場合、複数のR1は、互いに同一でも異なっていてもよい。)
[2]前記[1]に記載のポリエステル樹脂を成形して得られる光学レンズ。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル樹脂は、結晶性が低く成形時に白化せず透明な成形体を得ることができ、しかも単独のPETやPENと同等程度のガラス転移温度、すなわち単独のPETやPENと同等程度の耐熱性を有する。また、成形性に優れ、射出成形可能であり生産性が高く安価である。また、本発明のポリエステル樹脂は、アッベ数が低くかつ高屈折率であり、収差補正用レンズの材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[ポリエステル樹脂]
本発明のポリエステル樹脂は、エチレングリコール及び下記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する単位を50モル%以上含むジカルボン酸単位とを含む。
【化2】

(式中、Aは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びピレンからなる群から選ばれる芳香環からなる2価の連結基を表す。R1は、炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、又はハロゲン原子を表し、nは0〜4の整数を表す。R1が複数存在する場合、複数のR1は、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0014】
(ジオール単位)
本発明のポリエステル樹脂におけるジオール単位は、エチレングリコールに由来するジオール単位と前記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位とを含み、全ジオール単位中の40〜99モル%がエチレングリコールに由来する単位であり、全ジオール単位中の1〜60モル%が前記一般式(I)で表されるジオールに由来する単位である。エチレングリコールに由来する単位を上記範囲内で有することで、本発明のポリエステル樹脂の耐熱性及び光学的性能は良好なものとなる。また、前記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位を上記範囲内で有することで、本発明のポリエステル樹脂は低結晶性となり、光学レンズとして好適に使用することができる。
ポリエステル樹脂の耐熱性、光学的性能、低結晶性の観点から、全ジオール単位中のエチレングリコールに由来する単位の割合は、好ましくは70〜99モル%、より好ましくは80〜90モル%、更に好ましくは85〜90モル%であり、同時に前記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位の割合は、好ましくは1〜30モル%、より好ましくは10〜20モル%、更に好ましくは10〜15モル%である。
【0015】
前記一般式(I)で表されるジオールについて説明する。
前記一般式(I)中、Aは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びピレンからなる群から選ばれる芳香環からなる2価の連結基を表す。Aは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン又はピレンから2個の水素原子を取り除いた2価の連結基が好ましい。
前記一般式(I)中、R1は、炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜10のアリール基、又はハロゲン原子を表す。
本発明におけるアルキル基は、炭素数1〜12、好ましくは炭素数1〜9、より好ましくは炭素数1〜4の直鎖、分岐又は環状アルキル基であり、具体例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基、プロピルシクロヘキシル基等が挙げられる。本発明におけるアリール基は、置換もしくは無置換の炭素数6〜10、好ましくは6〜8のアリール基であり、具体例としてはフェニル基、ヨードフェニル基、ジヒドロキシフェニル基、メトキシヒドロキシフェニル基、エトキシヒドロキシフェニル基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。R1としては、原料の入手性の観点から、メチル基、イソプロピル基、シクロヘキシル基、フェニル基、フッ素原子が好ましく、フェニル基が特に好ましい。
前記一般式(I)中、nは0〜4の整数を表す。R1が複数存在する場合、複数のR1は、互いに同一でも異なっていてもよい。nは、原料の入手性の観点から、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0016】
前記一般式(I)で表されるジオールは、下記一般式(Ia)〜(Ic)のいずれかで表されるジオールが好ましい。下記一般式(Ia)〜(Ic)中、R1及びnは、前記一般式(I)におけるR1及びnと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【化3】

【0017】
前記一般式(I)で表されるジオールの好ましい具体例としては、5,5−ジメチロール−2−フェニル−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(2,4,6−トリメチルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(3,4−ジメチルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−シクロヘキシルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−イソプロピルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−フルオロフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−ビフェニリル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(1−ナフチル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(2−ナフチル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(9−アントラセニル)−1,3−ジオキサン等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。
これらの中でも、光学的性能、耐熱性及び経済性の観点から、5,5−ジメチロール−2−フェニル−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(2,4,6−トリメチルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−ビフェニリル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(1−ナフチル)−1,3−ジオキサンが好ましく、5,5−ジメチロール−2−(4−ビフェニリル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(1−ナフチル)−1,3−ジオキサンがより好ましい。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
前記一般式(I)で表されるジオールの製造方法は特に限定されず、例えば、下記一般式(A)で表される芳香族アルデヒドとペンタエリスリトールとを反応させることで製造することができる。
【0019】
【化4】

(式中、A、R1及びnは、前記一般式(I)におけるA、R1及びnと同義である。)
【0020】
本発明のポリエステル樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、エチレングリコール及び前記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位以外のジオール単位を含んでもよい。そのようなジオール単位を構成しうる化合物の具体例としては、トリメチレングリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族ジオール類;2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,2−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,3−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,4−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,5−デカヒドロナフタレンジメタノール、1,6−デカヒドロナフタレンジメタノール、2,7−デカヒドロナフタレンジメタノール、テトラリンジメタノール、ノルボルナンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロドデカンジメタノール等の脂環式ジオール類;3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−メチロール−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−ヒドロキシエチル)−1,3−ジオキサン等の環状アセタール骨格を有するジオール類;4,4’−イソプロピリデンジフェノール(ビスフェノールA)、メチレンジフェノール(ビスフェノールF)等のビスフェノール類等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0021】
(ジカルボン酸単位)
本発明のポリエステル樹脂におけるジカルボン酸単位は、芳香族ジカルボン酸に由来する単位を50モル%以上含む。芳香族ジカルボン酸に由来する単位を上記範囲内で有することで、本発明のポリエステル樹脂の耐熱性及び光学的性能は良好なものとなる。
ポリエステル樹脂の耐熱性、高屈折率及び低アッベ数の観点から、全ジカルボン酸単位中の芳香族ジカルボン酸に由来する単位の割合は、好ましくは70〜100モル%、より好ましくは85〜100モル%、更に好ましくは95〜100%、特に好ましくは100モル%である。
【0022】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2−メチルテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されない。これらの中でも、屈折率、アッベ数、耐熱性及び経済性の観点から、ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ナフタレンジカルボン酸の具体例としては、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等が挙げられ、これらの中でも2,6−ナフタレンジカルボン酸が特に好ましい。これらの芳香族ジカルボン酸は単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
芳香族ジカルボン酸に由来する単位以外のジカルボン酸単位を構成しうる化合物の具体例としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ノルボルナンジカルボン酸、トリシクロデカンジカルボン酸、ペンタシクロドデカンジカルボン酸、3,9−ビス(1,1−ジメチル−2−カルボキシエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5.5〕ウンデカン、5−カルボキシ−5−エチル−2−(1,1−ジメチル−2−カルボキシエチル)−1,3−ジオキサン、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
(その他の構成単位)
本発明のポリエステル樹脂は、溶融粘弾性や分子量等を調整する観点から、本発明の効果を損なわない範囲で、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、オクチルアルコール等のモノアルコール単位;トリメチロールプロパン、グリセリン、1,3,5−ペンタントリオール、ペンタエリスリトール等の3価以上の多価アルコール単位;安息香酸、プロピオン酸、酪酸等のモノカルボン酸単位;トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸単位;グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、2−ヒドロキシイソ酪酸、ヒドロキシ安息香酸等のオキシ酸単位を含んでもよい。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂は、光学レンズ、特に収差補正用の凹レンズとして使用する観点からは、全ジオール単位の85〜90モル%がエチレングリコールに由来する単位であり、全ジオール単位の10〜15モル%が前記一般式(I)で表されるジオールに由来する単位であり、ジカルボン酸構成単位のすべてが2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する単位であることが好ましい。このような構成の本発明のポリエステル樹脂は、成形性、低結晶性、高耐熱性、高屈折率及び低アッベ数のバランスに優れる。
【0026】
(ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明のポリエステル樹脂を製造する方法は特に制限されず、任意の方法で製造することができる。ポリエステル樹脂の製造方法の具体例として、例えばエステル交換法、直接エステル化法等の溶融重合法、又は溶液重合法等を挙げることができるが、エステル交換法が特に好ましい。
ポリエステル樹脂の製造には、任意のエステル交換触媒、エステル化触媒、重縮合触媒等の各種触媒、エーテル化防止剤、熱安定剤、光安定剤等の各種安定剤、重合調整剤等を用いることができ、これらは反応速度や、ポリエステル樹脂の色調、安全性、熱安定性、耐候性、自身の溶出性等に応じて適宜選択される。
【0027】
各種触媒の具体例としては、亜鉛、鉛、セリウム、カドミウム、マンガン、コバルト、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、ニッケル、マグネシウム、バナジウム、アルミニウム、チタン、アンチモン、スズ等の金属の化合物(例えば、脂肪酸塩、炭酸塩、リン酸塩、水酸化物、塩化物、酸化物、アルコキシド)や金属マグネシウム等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。エステル交換法におけるエステル交換触媒としてはマンガン化合物が好ましく、具体例としては酢酸マンガン四水和物等が挙げられる。重縮合触媒としてはアンチモン化合物が好ましく、具体例としては酸価アンチモン(III)等が挙げられる。
エステル交換法におけるエステル交換触媒の使用量は、ジカルボン酸単位に対して好ましくは0.001〜1モル%、より好ましくは0.005〜0.5モル%であり、重縮合触媒の使用量は、ジカルボン酸単位に対して好ましくは0.001〜1モル%、より好ましくは0.005〜0.5モル%である。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂は、製品の品質の観点から異物含有量が極力少ないことが望まれる。そのため、本発明のポリエステル樹脂の製造時には、溶融原料の濾過、触媒液の濾過、溶融オリゴマーの濾過を行うことが好ましい。溶融原料、触媒液又は溶融オリゴマーの濾過に用いられるフィルターのメッシュは、好ましく5μm以下、より好ましくは1μm以下である。さらに、重合により得られるポリエステル樹脂についてもポリマーフィルターによる濾過を行うことが好ましい。ポリマーフィルターのメッシュは、好ましくは100μm以下、より好ましくは30μm以下である。また、樹脂ペレットを製造する工程は低ダスト環境であることが望ましく、好ましくはクラス1000以下、より好ましくはクラス100以下である。
【0029】
(ポリエステル樹脂組成物)
本発明のポリエステル樹脂に、必要に応じて各種の添加剤や成形助剤を添加することで、ポリエステル樹脂組成物を形成してもよい。添加剤及び成形助剤としては、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、増量剤、艶消し剤、乾燥調節剤、帯電防止剤、沈降防止剤、界面活性剤、流れ改良剤、乾燥油、ワックス類、フィラー、着色剤、補強剤、表面平滑剤、レベリング剤、硬化反応促進剤、増粘剤等が挙げられる。また、用途に応じて様々な物性を付与するために、本発明のポリエステル樹脂と他の樹脂とをブレンドしてポリエステル樹脂組成物を形成してもよい。他の樹脂としては、本発明のポリエステル樹脂以外のポリエステル樹脂等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。
【0030】
成形性の観点からは、流れ改良剤を本発明のポリエステル樹脂に添加することが好ましい。流れ改良剤の具体例としては、多官能アルコールと脂肪酸とのエステルが挙げられ、好ましくはグリセリンのステアリン酸エステルである。ポリエステル樹脂組成物における流れ改良剤の含有量は、離型不良によるトラブルを低減する観点から、好ましくは5000ppm以下、より好ましくは3000ppm以下、更に好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下である。
【0031】
(ポリエステル樹脂の物性)
本発明のポリエステル樹脂は、以下の(1)〜(3)の物性を有することが好ましい。
(1)JIS規格K7121によるプラスチックの転移温度測定方法において、中間点ガラス転移温度の測定値が110℃以上であること。
(2)フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での極限粘度(IV)の測定値が0.2〜1.0dl/gであること。
(3)JIS規格K7210によるメルトマスフローレートの試験方法において、試験温度260℃、荷重2.16kgfの条件下での測定値が10〜200g/10分であること。
【0032】
<物性(1):ガラス転移温度(Tg)>
本明細書では、JIS規格K7121に規定されたプラスチックの転移温度測定方法に従って示差走査熱量計で測定される中間点ガラス転移温度(Tmg)をガラス転移温度(Tg)という。
本発明のポリエステル樹脂のガラス転移温度は、好ましくは110℃以上、より好ましくは115℃以上、更に好ましくは120℃以上である。ガラス転移温度が上記範囲にある場合、本発明のポリエステル樹脂を成形して得られる光学レンズにハードコート等の表面加工が可能となり好ましい。
【0033】
<物性(2):極限粘度(IV)>
本発明のポリエステル樹脂の極限粘度(Intrinsic Viscosity;IV)は、フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での極限粘度の測定値をいう。極限粘度の測定には、例えば毛細管粘度計自動測定装置((株)柴山科学器械製作所製、商品名:SS−300−L1)を用いることができる。
本発明のポリエステル樹脂の極限粘度は特に限定されないが、成形性及び光学的性能の観点からは、好ましくは0.3〜1.2dl/g、より好ましくは0.4〜1.0dl/g、更に好ましくは0.5〜0.8dl/gである。
また、本発明のポリエステル樹脂の極限粘度は、光学レンズへの適用の観点からは、好ましくは0.2〜1.0dl/g、より好ましくは0.25〜0.5dl/g、更に好ましくは0.3〜0.4dl/gである。極限粘度がこの範囲にある場合、成形時の複屈折の発現を抑制することができ、成形性及び低複屈折性のバランスに優れる。
【0034】
<物性(3):メルトマスフローレート(MFR)>
本発明のポリエステル樹脂のメルトマスフローレート(MFR)は、JIS規格K7210に規定されたメルトマスフローレートの試験方法に従って、試験温度260℃、荷重2.16kgfの条件下での測定値をいう。メルトマスフローレートの測定には、例えばメルトインデクサー((株)東洋精機製作所製、商品名:C−5059D)を用いることができる。
本発明のポリエステル樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、光学レンズへの適用の観点からは、好ましくは10〜200g/10分、より好ましくは20〜150g/10分、更に好ましくは30〜120g/10分、特に好ましくは50〜110g/10分である。メルトマスフローレートがこの範囲にある場合、成形時の複屈折の発現を抑制することができるとともに、成形時の熱による結晶化の進行を抑制することができ、成形性、低結晶性及び低複屈折性のバランスに優れる。
【0035】
<屈折率及びアッベ数>
本発明のポリエステル樹脂の屈折率は、光学レンズ、特に収差補正用の凹レンズとして使用する観点から、好ましくは1.59以上、より好ましくは1.61以上、更に好ましくは1.63以上である。屈折率の上限は特に制限されないが、他の物性とのバランスを鑑みると好ましくは1.66以下である。
また、本発明のポリエステル樹脂のアッベ数は、光学レンズ、特に収差補正用の凹レンズとして使用する観点から、好ましくは20以下、より好ましくは19以下である。アッベ数の下限は特に制限されないが、他の物性とのバランスを鑑みると好ましくは17以上である。
本発明のポリエステル樹脂の屈折率及びアッベ数は以下の方法により測定される。ポリエステル樹脂を射出成形して得られる、直角を挟む二辺の長さがそれぞれ20mmの直角二等辺三角形(3mm厚)である射出成形片を、前記樹脂のガラス転移温度よりも約20℃低い温度でオーブンにより10時間アニール処理したものを測定用試料とし、この測定用試料を測定温度25℃の条件下で測定する。屈折率は589nm(d線)で測定した値であり、アッベ数は656nm(C線)、486nm(F線)、及びd線で測定した屈折率から算出した値である。測定には、例えばアッベ屈折計((株)アタゴ製、商品名:NAR−4T)を用いることができる。
【0036】
(ポリエステル樹脂の用途)
本発明のポリエステル樹脂は、種々の用途に用いることができる。例えば、射出成形体や押出成形体等に用いることができ、シート、フィルム、パイプ、ボトル、発泡体、粘着材、接着剤、塗料等に用いることができる。シート及びフィルムは、単層でも多層でもよく、未延伸のものでも、一方向又は二方向に延伸されたものでもよく、鋼板等に積層してもよい。ボトルは、ダイレクトブローボトルでもインジェクションブローボトルでもよく、射出成形されたものでもよい。発泡体は、ビーズ発泡体でも押出発泡体でもよい。
本発明のポリエステル樹脂は、特に、自動車内で使用する製品、輸出入用の包装材、太陽電池のバックシート等の電子材料、レトルト処理や電子レンジ加熱が行われる食品包装材等の高い耐熱性や水蒸気バリヤ性が要求される用途に好適に用いることができる。
【0037】
[光学レンズ]
本発明のポリエステル樹脂は、特に光学レンズとして好適に用いることができる。本発明の光学レンズは、本発明のポリエステル樹脂を射出成形機又は射出圧縮成形機によってレンズ形状に射出成形することで得ることができる。光学レンズを得る際には異物の混入を極力避けるため、成形環境が低ダスト環境であることが望ましく、好ましくはクラス1000以下、より好ましくはクラス100以下である。
【0038】
本発明の光学レンズは、球面レンズ又は非球面レンズのいずれであってもよいが、非球面レンズであることが好ましい。非球面レンズは、1枚のレンズで球面収差を実質的にゼロとすることが可能であるため、複数の球面レンズの組み合わせで球面収差を取り除く必要がなく、軽量化および生産コストの低減化が可能になる。非球面レンズは、光学レンズの中でも特にカメラ用レンズとして有用である。非球面レンズの非点収差は、好ましくは0〜15mλ、より好ましくは0〜10mλである。
【0039】
本発明の光学レンズの表面には、必要に応じて、反射防止層やハードコート層等が設けられていてもよい。反射防止層は単層でも多層でもよい。反射防止層の材料としては、有機物及び無機物のいずれも用いることができるが、無機物が好ましい。具体的には、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化セリウム、酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム等の酸化物あるいはフッ化物等が例示できる。
【0040】
本発明の光学レンズは、ピックアップレンズ、f−θレンズ、メガネレンズ等の各種レンズに使用することができる。本発明の光学レンズは、高屈折率及び低アッベ数であることから、色収差補正用レンズとして特に好適に使用できる。具体的には、一眼レフカメラ、デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、カメラ付携帯電話、レンズ付フィルム、望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡、プロジェクター等のレンズとして好適に使用できる。
【0041】
また、本発明の光学レンズは、凸レンズ又は凹レンズのいずれであってもよい。例えば、本発明の光学レンズが凹レンズである場合には、他の高アッベ数の凸レンズと組み合わせて色収差の少ない光学レンズ系として使用できる。組み合わせる凸レンズのアッベ数は、好ましくは40〜60、より好ましくは50〜60である。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0043】
製造例1及び2
(5,5−ジメチロール−2−(1−ナフチル)−1,3−ジオキサン及び5,5−ジメチロール−2−(4−ビフェニリル)−1,3−ジオキサンの製造)
ガラス製フラスコ内に、表1に記載した量のN,N−ジメチルアセトアミド、トルエン、ペンタエリスリトール及びパラトルエンスルホン酸二水和物を投入し、100℃で撹拌した。その後、表1に記載した量の1−ナフトアルデヒドのトルエン溶液又はビフェニルアルデヒドのトルエン溶液を滴下し、145℃まで昇温した。水を含有する留出液を分離し、反応時間3〜5時間で反応を終了した。反応液に水を投入して白色結晶を析出させ、濾過水洗後、濃縮することにより、5,5−ジメチロール−2−(1−ナフチル)−1,3−ジオキサン及び5,5−ジメチロール−2−(4−ビフェニリル)−1,3−ジオキサンの白色結晶を得た。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例1及び2
(ポリエステル樹脂の製造)
加熱装置、撹拌翼、分縮器、トラップ、温度計及び窒素ガス導入管を備えたガラス製フラスコに、表2に記載された種類及び量の原料モノマーを仕込み、ジカルボン酸成分に対し酢酸マンガン四水和物0.03モル%の存在下、窒素雰囲気下で215℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を90%以上とした後、ジカルボン酸成分100モル%に対して、酸化アンチモン(III)0.02モル%及びリン酸トリエチル0.06モル%を加え、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に250〜270℃、0.1kPa以下で重縮合を行った。適度な溶融粘度となった時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂を回収した。
【0046】
比較例1及び2
(ポリエステル樹脂の製造)
充填塔式精留塔、分縮器、全縮器、コールドトラップ、撹拌機、加熱装置及び窒素導入管を備えたポリエステル製造装置に、表2に記載された種類及び量の原料モノマーを仕込み、ジカルボン酸成分に対し酢酸マンガン四水和物0.03モル%の存在下、窒素雰囲気下で215℃まで昇温してエステル交換反応を行った。ジカルボン酸成分の反応転化率を90%以上とした後、ジカルボン酸成分100モル%に対して、酸化アンチモン(III)0.02モル%及びリン酸トリエチル0.06モル%を加え、昇温と減圧を徐々に行い、最終的に250〜270℃、0.1kPa以下で重縮合を行った。適度な溶融粘度となった時点で反応を終了し、ポリエステル樹脂を回収した。
【0047】
【表2】

【0048】
(光学レンズの作製)
得られたポリエステル樹脂を、樹脂のガラス転移温度より20℃低い温度で10時間真空乾燥した後、射出成型機(住友重機械工業(株)製、商品名:SH50)にて、シリンダー温度260℃、金型温度を樹脂のガラス転移温度より35℃低い温度に設定して射出成形することで、直径が28mm、両凸面の曲率半径が20mmの両凸レンズを得た。
【0049】
実施例及び比較例で得られたポリエステル樹脂の組成及び物性について以下の方法で測定した。また、実施例及び比較例で得られたレンズについて以下の方法で評価した。結果を表3に示す。
【0050】
<ポリエステル樹脂の組成及び物性の測定方法>
(1)樹脂組成
ポリエステル樹脂中のジオール単位及びジカルボン酸単位の割合は、1H−NMR測定にて算出した。測定は、NMR装置(日本電子(株)製、商品名:JNM−AL400)を用い、400MHzで行った。溶媒には重クロロホルムを用いた。
【0051】
(2)ガラス転移温度(Tg)
ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計((株)島津製作所製、商品名:DSC/TA−60WS)を使用して測定した。ポリエステル樹脂約10mgをアルミニウム製非密封容器に入れ、窒素ガス(30ml/min)気流中、昇温速度20℃/minで280℃まで加熱、溶融したものを急冷して測定用試料とした。該試料を同条件で測定し、JIS規格K7121に基づき中間点ガラス転移温度を算出した。
【0052】
(3)極限粘度(IV)
ポリエステル樹脂の極限粘度は、毛細管粘度計自動測定装置((株)柴山科学器械製作所製、商品名:SS−300−L1)を使用して25℃で測定した。ポリエステル樹脂0.5gをフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタンの混合溶媒(質量比=6:4)120gに加熱溶解し、濾過後、25℃まで冷却して測定用試料を調製した。
【0053】
(4)屈折率及びアッベ数
ポリエステル樹脂の屈折率及びアッベ数は、アッベ屈折計((株)アタゴ製、商品名:NAR−4T)を用いて25℃で測定した。ポリエステル樹脂を、樹脂のガラス転移温度より約20℃低い温度で10時間真空乾燥した後、射出成型機(住友重機械工業(株)製、商品名:SH50)にて、シリンダー温度280℃、金型温度を樹脂のガラス転移温度より20〜50℃低い温度として射出成形し、直角を挟む二辺の長さがそれぞれ20mmの直角二等辺三角形(3mm厚)に成形した。この成形片を樹脂のガラス転移温度より約20℃低い温度のオーブンで10時間アニール処理したものを測定用試料とした。屈折率は、589nm(d線)で測定した。アッベ数は、656nm(C線)、486nm(F線)、及びd線で測定した屈折率から算出した。
【0054】
(5)メルトマスフローレート(MFR)
ポリエステル樹脂のメルトマスフローレートは、メルトインデクサー((株)東洋精機製作所製、商品名:C−5059D)を使用して測定した。測定温度260℃、荷重2.16kgfの条件下でJIS規格K7210に基づき測定を行った。
【0055】
<光学レンズの評価方法>
(6)外観評価
光学レンズの外観を目視観察し、透明性及びヒケ・ソリ等の歪みの有無について評価した。
【0056】
【表3】

【0057】
前記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位を含まない比較例1及び2のポリエステル樹脂(PEN及びPET)は、極限粘度が高くかつメルトマスフローレートが低く射出成形性に劣り、アッベ数が高いものであった。この比較例1及び2のポリエステル樹脂を射出成形して得た光学レンズは、結晶性が高く白化して透明性に劣るものであり、ヒケやソリにより歪みが生じていた。
これに対し、前記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位を含む実施例1及び2のポリエステル樹脂は、極限粘度が低くかつメルトマスフローレートが高く射出成形性に優れ、アッベ数が低くかつ高屈折率であった。また、ガラス転移温度についてみると、実施例1のポリエステル樹脂は単独のPEN(比較例1)と同等であり、実施例2のポリエステル樹脂は単独のPEN(比較例1)より若干低下しているものの単独のPET(比較例2)よりは十分に高く、実施例1及び2のポリエステル樹脂は耐熱性に優れるものであった。従来、PETやPENの結晶性を改善しようとすると、ガラス転移温度が低下するため、耐熱性が低下してしまうという問題点があったが、本発明のポリエステル樹脂は、成形材料として十分な低結晶性及び成形性を保持しつつ、かつ単独のPETやPENと同等程度のガラス転移温度、すなわち単独のPETやPENと同等程度の耐熱性を有する。
この実施例1及び2のポリエステル樹脂を射出成形して得た光学レンズは透明性に優れ、成形性に優れ歪みがなく、しかもアッベ数が低くかつ高屈折率であるため収差補正用レンズとして優れるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリエステル樹脂は、カメラ、望遠鏡、双眼鏡、テレビプロジェクター等の光学レンズ用材料として好適に用いることができ、ガラスレンズでは技術的に加工の困難な高屈折率低複屈折非球面レンズを射出成形により効率的に低コストで製造することができ、極めて有用である。特に、本発明のポリエステル樹脂は、色収差補正用レンズとして好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレングリコール及び下記一般式(I)で表されるジオールに由来するジオール単位と、芳香族ジカルボン酸に由来する単位を50モル%以上含むジカルボン酸単位とを含むポリエステル樹脂であって、全ジオール単位中の40〜99モル%がエチレングリコールに由来する単位であり、全ジオール単位中の1〜60モル%が下記一般式(I)で表されるジオールに由来する単位である、ポリエステル樹脂。
【化1】

(式中、Aは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン及びピレンからなる群から選ばれる芳香環からなる2価の連結基を表す。R1は、炭素数1〜12のアルキル基、置換もしくは無置換の炭素数6〜12のアリール基、又はハロゲン原子を表し、nは0〜4の整数を表す。R1が複数存在する場合、複数のR1は、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記芳香族ジカルボン酸がナフタレンジカルボン酸である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記ナフタレンジカルボン酸が2,6−ナフタレンジカルボン酸である、請求項2に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
前記一般式(I)で表されるジオールが、5,5−ジメチロール−2−フェニル−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(2,4,6−トリメチルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(3,4−ジメチルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−シクロヘキシルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−イソプロピルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−フルオロフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−ビフェニリル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(1−ナフチル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(2−ナフチル)−1,3−ジオキサン及び5,5−ジメチロール−2−(9−アントラセニル)−1,3−ジオキサンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
前記一般式(I)で表されるジオールが、5,5−ジメチロール−2−フェニル−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(2,4,6−トリメチルフェニル)−1,3−ジオキサン、5,5−ジメチロール−2−(4−ビフェニリル)−1,3−ジオキサン及び5,5−ジメチロール−2−(1−ナフチル)−1,3−ジオキサンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項4に記載のポリエステル樹脂。
【請求項6】
前記一般式(I)で表されるジオールが、5,5−ジメチロール−2−(4−ビフェニリル)−1,3−ジオキサン及び/又は5,5−ジメチロール−2−(1−ナフチル)−1,3−ジオキサンである、請求項5に記載のポリエステル樹脂。
【請求項7】
前記一般式(I)で表されるジオールに由来する単位を、全ジオール単位中の1〜30モル%含む、請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
【請求項8】
以下の(1)〜(3)の物性を有する、請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル樹脂。
(1)JIS規格K7121によるプラスチックの転移温度測定方法において、中間点ガラス転移温度の測定値が110℃以上であること。
(2)フェノールと1,1,2,2−テトラクロロエタンとの質量比6:4の混合溶媒を用いた25℃での極限粘度(IV)の測定値が0.2〜1.0dl/gであること。
(3)JIS規格K7210によるメルトマスフローレートの試験方法において、試験温度260℃、荷重2.16kgfの条件下での測定値が10〜200g/10分であること。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル樹脂を成形して得られる光学レンズ。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれかに記載のポリエステル樹脂を射出成形して得られる、直角を挟む二辺の長さがそれぞれ20mmの直角二等辺三角形(3mm厚)である試験片を、前記樹脂のガラス転移温度よりも20℃低い温度で10時間アニール処理したときのアッベ数が20以下である、請求項9に記載の光学レンズ。
【請求項11】
カメラ用レンズである、請求項9又は10に記載の光学レンズ。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれかに記載の光学レンズを備える光学レンズ系。

【公開番号】特開2011−140565(P2011−140565A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2071(P2010−2071)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】