説明

ポリエステル樹脂組成物、ポリエステル繊維およびそれを用いた繊維製品

【課題】
高い導電性および湿度が変化する際の導電安定性を具備し、かつ柔軟性に優れたポリエステル繊維と、そのポリエステル繊維を用いてなる繊維ブラシなどの優れた性能の繊維製品を提供する。
【解決手段】
主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物を構成成分として含む繊維であって、平均抵抗率Pが1.0×1012[Ω/cm]以下であるポリエステル繊維、およびそのポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性に優れたポリエステル樹脂組成物、導電性に優れたポリエステル繊維およびそれを用いた繊維製品に関するものである。より詳しくは、本発明は、導電性に優れた素材を形成するのに適したポリエステル樹脂組成物、安定した導電性を発現する柔軟性に優れたポリエステル繊維と、そのポリエステル繊維を用いてなる織物や編物、およびそのポリエステル繊維を用いたブラシなどのポリエステル繊維製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維の高機能化においては様々な機能性付与が検討され、導電性もその1つとして重要視されている。この導電性を有する繊維(以下、導電性繊維ということがある。)は、例えば、クリーンルーム用の衣料用繊維やカーペットへの混繊用繊維として用いられている他、近年では、各種装置内に組み込まれる部品用に使用される繊維として静電気を除去する目的や装置内で電荷を付与する目的等で使用されている。特にIT分野においては、電子情報機器、特に携帯電話などの無線端末の普及により、日常的な環境においても電磁波の暴露量が増加し、健康への影響が懸念されていることから、導電性繊維は電磁波遮蔽素材としても利用されている。このような導電性繊維は、衣料用途だけでなく各種産業用などの幅広い分野において重要な繊維素材として用途が広がり、また需要が高まるとともに、更なる技術革新が進められている。
【0003】
この導電性繊維の技術開発については、多くの繊維形成材料での検討が行われている。例えば、ポリオレフィンやポリアミドあるいはポリエステルなどの繊維形成材料について数多くの検討がなされており、中でも特に耐熱性に優れるポリエステルについて精力的に検討がなされている。
【0004】
しかしながら、比較的容易に入手可能な導電剤であるカーボンブラック(以下、CBと略記することがある。)や白色金属酸化物粒子をポリエステルに適用した導電性繊維については、これら導電剤の多量添加時に、微分散困難性(いわゆる凝集)によるポリエステルの大幅な粘度上昇や生成凝集物による製糸性不良が起こり易い。そのため、減粘剤の適用(特許文献1参照。)や導電剤の修飾(例えば特許文献2参照。)によってこれらの課題を解決する試みが多数なされているが、根本的な解消には至らなかった。
【0005】
そこで本発明者らは、導電剤を多量に含有しても製糸性が良好で、導電性に優れた技術を提案している(特許文献3参照。)。この提案においては、トリメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以下、3GT系ポリマーと略記することがある。)を導電剤を含有するベースポリマーとしたものであり、従来汎用的に用いられてきたエチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以下、PET系ポリマーと略記することがある。)やブチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステル(以下、PBT系ポリマーと略記することがある。)と比較して、導電剤を多量に含有させた際の製糸性が格段に優れ、得られた繊維の導電性(導電性が高いことあるいは繊維長手方向の導電性斑が小さいことなど。)が優れている。しかしながら、この提案によっても、導電性繊維の更なる高度化・高付加価値化という観点では、例えばより柔軟性を付与するべく高度な繊維化技術の適用、すなわち導電剤を含有したポリマーの大変形を伴う繊維製法において細繊度の繊維を得るような場合には、製糸性不良が起こることがあるため、導電性繊維を形成するためにさらに優れたポリマー設計が望まれていた。
【0006】
一方で、ポリエステルについて、特にメチレン部分の長いジオール成分(以下、長鎖ジオールと略記することがある。)を適用したポリエステルとしては、例えば、1,6−ヘキサンジオールをジオール成分としたポリヘキサメチレンテレフタレートなどが知られている。このような長鎖ジオールを適用したポリエステルは、汎用的に用いられてきたポリエチレンテレフタレート(PET)系ポリマーやPBT系ポリマーよりもポリマーの軟化点温度が低いことから、特に複合繊維の繊維表層に配置され、接着成分として用いられることが提案されている(特許文献4参照。)。しかしながら、この提案においては、長鎖ジオールを適用したポリエステルの低い軟化点に着目し、加工温度の制御によって確かに熱接着性繊維として優れた機能を発現し得るものの、機能性粒子を添加した場合の製糸技術や繊維特性、特に高濃度で粒子を添加した際の高度な機能発現あるいはもたらされる効能については、何ら記載や予測も示唆を与えていない。
【特許文献1】特開2006−316373号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2003−138115号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2007−191843号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特表2003−506592号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、上記従来技術においては高度な製糸性および高付加価値な導電性繊維を得ることを考慮していなかったことに着目し、導電性を有する様々な素材を提供し得るポリエステル樹脂組成物と、高い導電性はもとより高付加価値を有するポリエステル繊維と、そのポリエステル繊維を用いてなる織物や編物あるいはそのポリエステル繊維を用いてなるブラシなどの繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため、以下の構成を採用するものである。
【0009】
(1)主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物を構成成分として含む繊維であって、その平均抵抗率Pが1.0×1012[Ω/cm]以下であることを特徴とするポリエステル繊維。
【0010】
(2)前記のポリエステル樹脂組成物中の導電剤の体積平均粒径Dvが1.50μm以下である前記(1)に記載のポリエステル繊維。
【0011】
(3)前記のポリエステル樹脂組成物が繊維表面の少なくとも一部を形成している前記(1)または(2)に記載のポリエステル繊維。
【0012】
(4)前記のポリエステル樹脂組成物で繊維表面が全てを覆われてなる前記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【0013】
(5)単繊維繊度が4.5dtex以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【0014】
(6)初期引張弾性率が10〜40cN/dtexである前記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【0015】
(7)前記(1)〜(6)のいずれか1項記載のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維製品。
【0016】
(8)主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有する樹脂組成物であって、その比抵抗が1.0×1010[Ω・cm]以下であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【0017】
(9)前記の導電剤を1重量%以上60重量%以下含有する前記(8)記載のポリエステル樹脂組成物。
【0018】
(10)前記の導電剤が、導電性ファーネスブラックおよび/または導電性アセチレンブラックである前記(8)または(9)記載のポリエステル樹脂組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリエステル繊維は、繊維の形成に用いられるポリエステル樹脂組成物を、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステル(6GT系ポリマーということがある。)に導電剤を含有させた樹脂組成物としたので、PET系ポリマーやPBT系ポリマーはもとより、3GT系ポリマーなど従来のポリエステル樹脂と比較して大きく異なり、高濃度で導電性カーボンブラックなどの導電剤を含有した樹脂組成物であっても導電剤との親和性に優れることから、導電剤の均一な微分散化が可能であり、容易に繊維の形成に用いることが可能である。その結果、従来困難であった高い導電性を有するポリエステル繊維を得ることが可能になる。加えて、樹脂がポリエステルであることから、吸水性あるいは吸湿性がほとんどなく、結果として導電性の湿度依存性が小さいため、導電性が非常に安定する。
【0020】
これらのことから、本発明のポリエステル繊維は、防塵衣などの衣料用途や、建造物の壁材および屋内外のカーペットや車両内装材等の非衣料用途分野で、静電気を逃がす必要のある素材として好適に用いられる。また、高い導電性および環境変化に対する導電性の安定性が必要とされる用途、例えば、常時あるいは頻繁に電圧を印加して用いられる配線物に好適に採用できる他、特に電子写真装置等に用いられる各種繊維ブラシなどに好適に用いられる。
【0021】
また、本発明のポリエステル繊維は、特に好ましいとされる繊維形態の一つとして、導電剤を含有した6GT系ポリマーが、繊維表面の少なくとも一部に露出する構成とすることによって、そして最も好ましいとされる繊維形態の一つとして導電剤を含有した6GT系ポリマーが繊維表面の全てを覆ってなる構成とすることによって、繊維長手方向の導電性の斑を非常に小さくすることが可能であり、均一に導電特性を示すことができるようになる。また、温度23℃で湿度55%の中温中湿度と、温度10℃で湿度15%の低温低湿度のそれぞれの温湿度条件における平均抵抗率の比を非常に小さくすることが可能であり、これにより環境変化に対する導電性の安定性を更に高めることが可能になる。
【0022】
さらに、本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、導電性を有するポリエステル繊維の導電を担う層として形成することにより導電性に優れたポリエステル繊維が得られるが、このポリエステル樹脂組成物は、繊維形態以外の形態にも展開可能である。例えば、フィルムやシート、あるいは射出成形品などの各種成形物の材料として採用することが可能である。その場合においても、従来の導電剤を含有したPET系ポリマーやPBT系ポリマーなどのポリエステル樹脂組成物に比べて、高い導電性や導電性の安定性を維持しつつ、導電剤を高濃度で含有させることによる樹脂組成物自体のもろさや変形追従性が大幅に改善され、割れや削れのような欠点の発生率が非常に小さくなると共に、成形品の優れた力学物性を得ることが可能になる。したがって、本発明におけるポリエステル樹脂組成物も、導電性あるいは帯電防止を必要とする用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0024】
本発明のポリエステル繊維における繊維とは、細く長い形状のものを指し、その長さは一般的に言われる長繊維(フィラメント)であっても短繊維(ステープル)であってもよい。短繊維の場合は用途に応じて所望の長さにすればよく、紡績工程あるいは後述するような電気植毛加工などに用いられることを考慮すると、長さは0.05〜150mmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜120mmである。また、特に電気植毛加工に用いる場合、長さは0.1〜10mmであることがより好ましく、特に好ましくは0.2〜5mmである。
【0025】
また、本発明において、繊維の太さ、すなわち単繊維繊度に関しては、本発明で導電性を担うポリエステル樹脂組成物を構成する主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートを用いることにより、優れた導電性を担いつつも細い繊維が得られ、かつ様々な用途に採用が可能であることから、単繊維繊度は4.5dtex以下であることが好ましい。特に後述するような繊維ブラシ用に用いられる場合で電子写真装置に組み込まれて用いられる場合には、トナー除去性能やトナー担持性能あるいは帯電性能や除電性能などが優れるという点で、単繊維繊度は0.1〜4.0dtexであることが好ましい。ここで単繊維繊度は、後述の実施例におけるA.項の方法で求めることができる。
【0026】
また、繊維の断面形状については、用途に応じて所望の形状とすることが可能である。繊維の断面形状が丸形の場合には、均一な繊維物性および繊維断面内における等方的な導電性を有するため、後述する繊維ブラシ用に繊維が用いられる。その繊維ブラシが、電子写真装置に組み込まれる場合にトナー除去性能やトナー担持性能あるいは帯電性能や除電性能などのような好ましい特性を発揮し得る。また、断面形状は偏平形、多角形、多葉形、中空形状および不定形などの異形断面とすることも可能である。ブラシに用いる場合には、繊維の曲がる方向に異方性を持たせて剛性を高めることができる。また、電子写真装置においてはトナーとの良好な接触性を得てより優れた清掃性能を発現させることが可能となる。そのため、繊維の断面形状は、偏平形、多角形および多葉形が好ましく、特に、扁平型、3角断面、4角断面、3葉断面、4葉断面、6葉断面および8葉断面がより好ましい態様である。
【0027】
本発明のポリエステル繊維は、繊維中に、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレート(以下、6GT系ポリマーと略記することがある。)からなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物を含んでなるものである。そのポリエステル樹脂組成物が、本発明のポリエステル繊維において主たる導電性を担うものである。ポリエステル繊維中の少なくとも1部分にそのポリエステル樹脂組成物を含有することから、繊維自体の導電性はそのポリエステル樹脂組成物の性状によって制御し得るため、所望の導電性能を付与することができ、優れた導電性を有する繊維となる。
【0028】
ポリエステル樹脂組成物に含有される導電剤は、多種多様のものを採用することができ、導電性のカーボンブラック(以下、CBと略記することがある。)や金属酸化物など、必要とする用途に応じて適宜採用して用いることができる。具体的には、好ましい導電剤として、導電性のカーボンブラックが挙げられる。このようなカーボンブラックとしては、例えば、ファーネス法により得られる導電性ファーネスブラック、ケッチェン法により得られる導電性ケッチェンブラック、アセチレンガスを原料とする導電性アセチレンブラック、カーボンナノチューブ(以下、CNTと略記することがある。)、および気相成長炭素繊維(以下、VGCFと略記することがある。)などが好適に用いられる。
【0029】
本発明者らは、これらの導電性のカーボンブラックのうち、導電性ファーネスブラック(以下、導電性FBと略記することがある。)と導電性アセチレンブラック(以下、導電性ABと略記することがある。)が、従来汎用的に用いられていたPET系ポリマーやPBT系ポリマーあるいは3GT系ポリマーよりも、本発明で採用する6GT系ポリマーに対し、混和性の観点で優れた親和性を有していることを見出した。すなわちこの優れた親和性から、6GTポリマー中に導電性FBや導電性ABを高濃度で含有せしめながらも優れた紡糸性を保持することが可能な点で、これらの導電性FBと導電性ABはより好ましい導電剤として用いられる。
【0030】
また一方で、CNTは、その直径が50nm以下では導電性も高く、少量添加でポリエステル樹脂組成物が高い導電性を有することから、好適な導電剤として用いられる。これらの導電性のカーボンブラックの導電性は、比抵抗値として5000[Ω・cm]以下であることが好ましく、特に好ましい比抵抗値は、1.0×10−6[Ω・cm]〜500[Ω・cm]である。ここで比抵抗値は、下記の実施例のE.項(比抵抗の測定方法)にて測定して求める。
【0031】
また、本発明で用いられる導電剤として、導電性のカーボンブラックを用いた場合、得られる繊維が黒色になることがあって、用途によっては繊維が適用できないことがある。その場合には、黒色以外の導電剤を用いればよい。そのような導電剤としては、金属、金属酸化物や金属化合物および金属や金属酸化物をコーティングした粒子などが挙げられる。金属としては、例えば、金、銀、銅、ニッケル、鉄、アルミニウムおよびこれら金属からを少なくとも1種選ばれて含有する合金が挙げられる。特に鉄は、純度が高い粒径の小さい純鉄粒子が容易に入手可能で、しかも比抵抗値が10−5[Ω・cm]以下と非常に小さく、好適に用いることができる。
【0032】
また、金属化合物としては、硫化銅、ヨウ化銅、硫化亜鉛および硫化カドミウムなどが挙げられる。また、金属酸化物としては、錫酸化物、亜鉛酸化物、インジウム酸化物、ジルコニウム酸化物、タングステン酸化物、アンチモン酸化物およびアルミニウム酸化物などが好適なものとして挙げられる。
【0033】
より好ましい導電剤として、金属酸化物をコーティングしてなる粒子が用いられる。粒子としては、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化ケイ素および酸化アルミニウムなどが挙げられる。また、コーティングされる金属酸化物としては、錫酸化物、アルミニウム酸化物、アンチモン酸化物、亜鉛酸化物およびインジウム酸化物などが挙げられる。これらの金属酸化物は1種単独で用いても良くあるいは元素の異なる複数種を混合して用いてもよい。
【0034】
これら金属酸化物をコーティングしてなる粒子の中でより好ましいものとしては、アンチモン酸化物を含有(ドープ)した錫酸化物をコーティングしてなる酸化チタン粒子、アンチモン酸化物を含有(ドープ)したインジウム酸化物をコーティングしてなる酸化アルミニウム粒子、およびアンチモン酸化物を含有(ドープ)した錫酸化物をコーティングしてなる酸化ケイ素粒子などが挙げられる。粒子としての平均粒径が小さく繊維に添加しても強度や伸度などの物理物性への悪影響が小さく、また粒子自体の比抵抗値が高く、黒くない(明度L*が高い)という点で、錫酸化物、亜鉛酸化物、インジウム酸化物、アンチモン酸化物およびアルミニウム酸化物の中から、異なる元素由来の少なくとも2種選ばれてなる金属酸化物をコーティングしてなる粒子が好ましく用いられる。中でも、アンチモン酸化物を含有(ドープ)した錫酸化物をコーティングしてなる酸化チタン粒子が特に好ましく用いられる。
【0035】
これらの導電剤は、単一の導電剤を一種選択して用いてもよいし、必要に応じて本発明の目的を損ねない範囲において、複数種を併用して用いてもよいが、上記の導電剤の中でも、特にカーボンブラックが好ましく用いられる。
【0036】
本発明で用いられる導電剤は、6GT系ポリマーに含有せしめた場合に繊維物性を損ねないことが好ましく、また凝集しにくいことが好ましいことから、導電剤のポリエステル組成物中の分散径(体積平均粒径)Dvは、1.50μm以下であることが好ましい。体積平均粒径Dvは1.00μm以下であることがより好ましく、特に好ましくは0.80μm以下である。体積平均粒径Dvの下限については、導電剤が全てバラバラに分かれて分散する大きさ(カーボンブラック粒子そのものの大きさ)で、適用するカーボンブラックの種類にも依存するが、好適には0.05μmが下限値である。体積平均粒径Dvは、その値が小さい値ほどポリエステル樹脂組成物中での分散径が微細で、導電剤を高濃度添加可能となり、繊維として高い導電性を発現し得る。
【0037】
また、導電剤のポリエステル樹脂組成物中の分散分布(多分散指数)Dv/Dnは2.0以下であることが好ましく、より好ましくは1.5以下であり、さらに好ましくは1.3以下である。多分散指数Dv/Dnの下限値は理論的に1.0である。多分散指数Dv/Dnは、その値が小さい値ほどポリエステル樹脂組成物中での導電剤が均一に分散しており、得られる糸の強度も高く、高次工程における工程通過時の糸切れも大幅に抑制される。ここで、上記の導電剤の体積平均粒径Dvおよび多分散指数Dv/Dnは、下記の実施例P.の方法にて測定される。
【0038】
また、前述のカーボンナノチューブ(CNT)については、その直径は平均で0.1〜100nmの範囲のことが好ましく、より好ましくは0.5〜50nmの範囲である。
【0039】
また、CNTの直径Dと長さLの比(アスペクト比)L/Dについては、適度な大きさをもつことにより、ポリエステル中でCNT同士が凝集しにくく、あるいは繊維を形成させた場合には繊維の長手方向に略配向して繊維長手方向の導電性が均質になる好ましい特性を有する。そのため、アスペクト比L/Dは、10〜10000であることが好ましく、より好ましくは15〜5000であり、さらに好ましくは20〜3000である。ここで、上記のCNTのL/Dは、下記の実施例J.の方法にて測定される。
【0040】
本発明のポリエステル繊維に含まれるポリエステル樹脂組成物中の導電剤の含有量は、繊維が高い導電性を有することおよび繊維の強度や伸度などの物性が安定していることなどから、導電性ファーネスブラック、導電性ケッチェンブラックおよび導電性アセチレンブラックの場合には、10重量%以上40重量%以下であることが好ましく、より好ましくは15重量%以上35重量%以下であり、さらに好ましくは20重量%以上35重量%以下である。また、導電剤がCNTまたはVGCFの場合には、含有量は0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.5重量%以上15重量%以下であり、さらに好ましくは1.0重量%以上10重量%以下である。
【0041】
また、導電剤が金属、金属酸化物や金属化合物および金属や金属酸化物をコーティングした粒子などの場合には、含有量は10重量%以上90重量%以下であることが好ましく、より好ましくは20重量%以上85重量%以下であり、さらに好ましくは40重量%以上80重量%以下である。ポリエステル樹脂組成物中の導電剤の含有量は、後述のL.項の方法にて測定される。
【0042】
本発明において、6GT系ポリマーに導電剤を含有せしめ、ポリエステル樹脂組成物を製造する方法としては、任意の方法を採用することができる。具体的には、(A)不活性気体の雰囲気下に6GT系ポリマーを溶融した後、導電剤を添加し、エクストルーダや静置混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法、(B)通常の6GT系ポリマーの重合反応において、重合反応が停止する以前の任意の段階で導電剤を含有せしめて混練する方法、および(C)6GT系ポリマーを溶融する以前の任意の段階で粉体あるいは粒体とした6GT系ポリマーと、粉体あるいは粒体の導電剤とをあらかじめ所定の分量で混合、攪拌したものを溶融せしめて、エクストルーダや静置混練子のような混練機により常圧もしくは減圧下で混練する方法などが挙げられる。簡便に混練が達成できかつ導電剤とポリエステル成分とがより微細に混練されることから、上記の(A)または(C)の方法が好ましく、特に(C)の方法が好ましく用いられる。
【0043】
特に、エクストルーダに関しては1軸あるいは2軸以上の多軸エクストルーダが好適に用いられる。ポリエステル成分と導電剤とを混練した際に導電剤が微細混練するという点で、2軸以上の多軸エクストルーダを用いることが好ましい。
【0044】
エクストルーダの軸の長さ(l)および軸の太さ(w)の比l/wは、混練性向上の点でl/wは10以上であることが好ましく、より好ましくは20以上であり、さらに好ましくは30以上である。ポリマーの装置中の滞留時間を鑑み、比l/wは200以下であることが好ましい。
【0045】
このとき導電剤の添加は、エクストルーダに供給する以前の段階で乾式ブレンドしておいてもよく、あるいはエクストルーダに配設したサイドフィーダーを用いて溶融した6GT系ポリマーとエクストルーダ中にて混合してもよい。
【0046】
また、特に静置混練子に関しては、例えば、溶融した6GT系ポリマーの流路を2つあるいはそれ以上の複数に分割して再度合一するという作業(この分割から合一までの作業1回を1段とする)がなされる静置型の混練素子であればよく、より混練性が優れるという点で、静置混練子の段数は5段以上であることが好ましく、10段以上であることが更に好ましい態様である。また、流路の必要長さにも依るものの、静置混練子の段数は50段以下であることが好ましい。
【0047】
本発明のポリエステル繊維は、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルと制電剤を含有する樹脂組成物をその構成成分として含んでなるものである。
【0048】
従来、汎用的に用いられてきた、例えばPET系ポリマーやPBT系ポリマーなどのポリエステルの場合は、通常、にカーボンブラックなどの導電剤を10重量%以上の高濃度で含有させた場合には、溶融紡糸中の糸切れが多発して全く引き取りができないことから、これ迄、減粘剤添加やカーボン修飾による製糸性の向上など多くの検討がなされてきたが、大きく改善されるものではなかった。また、本発明者らがこれ迄提案した3GT系ポリマーの適用においては、導電剤を20重量%以上のように多量に含有させた場合でも溶融粘度が過度に大きく変化せず、得られる繊維の高導電性と溶融紡糸における製糸性や高次加工における工程通過性の大幅な改善を見出していた。しかしながら、それでも更に25重量%以上の高濃度になると、繊維中の導電剤凝集に由来すると推測される繊維物性の低下や、より細い繊維が得られにくいこと、あるいは工程通過性の悪化などが頻度として高くなり易いことなどの現象が見受けられた。
【0049】
しかしながら、本発明のポリエステル繊維に適用される、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物は、そのポリエステル樹脂組成物中における導電剤の凝集が大幅に抑制されて導電剤が均一に微分散し、導電剤を含有しない通常の溶融紡糸と何ら変わりなく同じように溶融紡糸できる。これにより、従来ポリアミド系ポリマーのみ達成可能であった高い導電性と優れた繊維物性との両立が、ポリエステル系ポリマーであっても同じように高濃度の導電剤を含有させても、高い導電性と優れた繊維物性とを両立させ、更に、細くとも優れた工程通過性を具備する導電性繊維を形成することが可能となったのである。
【0050】
主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルは、カルボン酸であるテレフタル酸とアルコールであるヘキサメチレングリコールのエステル化反応により形成される、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリマである。主たる繰り返し構造単位とは、ヘキサメチレンテレフタレート単位が50モル%以上であることを意味する。ヘキサメチレンテレフタレートから構成される成分は80モル%以上であることが好ましく、より好ましくは90モル%以上である。
【0051】
主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルには、高濃度で導電剤を含有した場合の高い溶融紡糸性能と導電性能を損ねない範囲で他の成分が共重合されていてもく、例えば、ジカルボン酸化合物を共重合させることができる。ジカルボン酸化合物としては、例えば、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、といった芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、および構造異性体および光学異性体などを挙げることができる。これらジカルボン酸化合物は1種を単独で用いてもよいし、発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
また、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルには、ジオール化合物を共重合させることができる。ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビスフェノールSのような芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノおよびハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体などを挙げることができる。これらジオール化合物についても、1種を単独で用いてもよいし、本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
また、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルの共重合成分としては、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわち、ヒドロキシカルボン酸を挙げることができる。ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸、ヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸といった芳香族、脂肪族、脂環族ヒドロキシカルボン酸化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノおよびハロゲン化物などの誘導体、付加体および構造異性体および光学異性体などを挙げることができる。これらヒドロキシカルボン酸についても、1種を単独で用いてもよいし、本発明の目的を損ねない範囲で2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
本発明のポリエステル繊維においては、ポリエステル繊維が主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物のみからなる場合を除いて、ポリエステル樹脂組成物以外の層が配置されてなる複合繊維である場合、そのポリエステル樹脂組成物以外の層は、主たる成分として繊維形成能を有するポリマーで構成される。繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニル基の付加重合により合成される、例えば、ポリアクリロニトリル系ポリマなどのビニル系ポリマー、その他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。より具体的には、例えば、ビニル基を有したモノマーが、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーや、その他のビニル系ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、およびポリアクリロニトリルなどが挙げられる。
【0055】
これらの繊維形成能を有するポリマーは、例えば、ポリエチレンのみあるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであってもよいし、複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであってもよい。例えば、スチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うと、ポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、本発明の目的を損ねない範囲において、このような共重合体であるポリマーであってもよい。
【0056】
また、上記の繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマーを挙げることができる。具体的には、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7およびナイロン5,6などが挙げられる。その他、本発明の目的を損ねない範囲で、他の芳香族、脂肪族および脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族および脂環族ジアミン成分からなるポリアミド系ポリマーであってもよい。また、芳香族、脂肪族および脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基の両方を有するアミノカルボン酸化合物が単独で用いられていてもよく、あるいは第3、第4の共重合成分が共重合されているポリアミド系ポリマーであってもよい。
【0057】
また、上記の繊維形成能を有するポリマーとしては、例えば、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステル系ポリマーを挙げることができる。具体的には、本発明で用いられるポリエステル系ポリマーとしては、例えば、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができる。かかるポリマーとしては、その主たる繰り返し構造単位がエチレンテレフタレート、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレート、エチレンナフタレート、プロピレンナフタレート、テトラメチレンナフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレートおよびシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどのポリエステル系ポリマーや、芳香族ヒドロキシカルボン酸を主成分とする溶融液晶性を有する液晶ポリエステルなどが挙げられる。ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーには、前述のようなジカルボン酸化合物やジオール化合物あるいはヒドロキシカルボン酸のような他の成分が共重合されていてもよい。
【0058】
また、ポリエステル系ポリマーとしては、芳香族、脂肪族および脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基の両方を有するヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体であってもよい。ヒドロキシカルボン酸からなる重合体としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレートおよび3−ヒドロキシブチレートバリレートのようなヒドロキシカルボン酸を主たる繰り返し構造単位とするポリエステルを挙げることができる。その他にも、これらヒドロキシカルボン酸としては、本発明の目的を損ねない範囲で芳香族、脂肪族および脂環族のジカルボン酸成分、芳香族、脂肪族および脂環族のジオール成分が用いられていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されていてもよい。
【0059】
これらの繊維形成能を有するポリマーとして、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物との界面接着性が良好で剥離が生じ難いという点で、ポリエステル系ポリマーが好ましく用いられる。、そのようなポリマーの好ましい主たる繰り返し構造単位としては、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレート、ペンタメチレンテレフタレート、ヘキサメチレンテレフタレート、トリメチレンナフタレート、テトラメチレンナフタレート、ペンタメチレンナフタレート、ヘキサメチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートおよび乳酸などが挙げられる。主たる繰り返し構造単位が、ポリエステル樹脂組成物と同じヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリヘキサメチレンテレフタレートまたはその共重合体(6GT系ポリマー)は、ポリエステル樹脂組成物との界面接着性が良好である。また、得られた繊維の弾性率を低くし柔軟な繊維が得られ、かつ適正な加工温度が近く、様々な用途で用いられ得るという点では、6GT系ポリマーが好ましいのはもとより、6GT系ポリマー以外で、トリメチレンテレフタレート、テトラメチレンテレフタレートおよびヘキサメチレンテレフタレートを主たる繰り返し構造単位とするポリエステルが好ましく用いられる。
【0060】
本発明のポリエステル繊維においては、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物以外に繊維に含まれる成分として、上記の中から選ばれる繊維形成能を有するポリマーを1種類単独で用いてもよく、本発明の目的を損ねない範囲において複数種併用してもよい。
【0061】
本発明のポリエステル繊維において、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル(6GT系ポリマー)、あるいは前述した繊維形成能を有するポリマーとして、通常、合成繊維に供する粘度のポリマーを使用することができる。ポリエステル系ポリマーについては、6GT系ポリマーであれば、固有粘度(IV)は0.4〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.7〜1.2である。PET系ポリマーであれば、固有粘度(IV)は0.4〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.5〜1.3である。また、3GT系ポリマーであれば、固有粘度(IV)は0.7〜2.0であることが好ましく、より好ましくは0.8〜1.8である。PBT系ポリマーであれば、固有粘度(IV)は0.6〜1.5であることが好ましく、より好ましくは0.7〜1.4である。また、ポリアミド系ポリマーについては、ナイロン6であれば、極限粘度[η]は1.9〜3.0であることが好ましく、より好ましくは2.1〜2.8である。これらの固有粘度(IV)と極限粘度[η]は、後述の実施例におけるK.項の方法により求められる。
【0062】
また、本発明において、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルの溶融粘度は、添加する導電剤の添加量や繊維の構成により適宜設定すればよいが、導電剤を含有した状態でのポリエステルの溶融粘度については、溶融紡糸温度にて、剪断速度が12.16[1/秒]の剪断粘度が10〜10,000[Pa・秒]の範囲のポリマーが通常用いられ、好ましくは50〜5,000[Pa・秒]の剪断粘度のポリマーが用いられる。ここで、溶融粘度は、後述の実施例におけるF項の方法にて測定したものを採用する。
【0063】
本発明のポリエステル繊維は、ポリエステル繊維中に、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物を含むために、ポリエステル樹脂組成物が繊維中の少なくとも一部に配列された複合繊維とすることができる。繊維の長手方向に導電性斑の小さい安定した導電性を発現し得るという点では、ブレンド紡糸してなる繊維も優れているが、ポリエステル樹脂組成物と前述の繊維形成能を有するポリマーとを接合してなる複合繊維となす方がより優れている。
【0064】
複合繊維の構成については、ポリエステル樹脂組成物が繊維表面の少なくとも一部を形成している状態、すなわち繊維表面の一部に露出していてもよく、あるいはポリエステル樹脂組成物は繊維表面に露出していなくともよい。ポリエステル樹脂組成物が繊維表面の少なくとも一部を形成している場合には、繊維表面において直接に高い導電性を発現することができる。更に、繊維表面においてポリエステル樹脂組成物の露出箇所および/または露出面積は多いほど高い導電性を示すことから、ポリエステル樹脂組成物は、繊維軸方向に垂直な繊維横断面において1箇所のみならず2箇所以上の複数箇所で繊維表面を形成(露出)することが好ましい。さらに、繊維表面の半分以上の面積においてポリエステル樹脂組成物が露出していることが好ましく、特に、ポリエステル樹脂組成物で繊維表面が全て覆われてなる繊維であることが最も好ましい態様である。
【0065】
このように、繊維表面が、本発明のポリエステル樹脂組成物で全て覆われている場合、繊維表層全体での導電性の均一性が高く優れている。ここで、繊維軸方向に垂直な繊維横断面におけるポリエステル樹脂組成物の割合は、目的とする導電性に応じて適宜設定することができる。本発明で得られるポリエステル繊維が、特に優れた導電性能を保ちつつ、例えば、強度、残留伸度および初期引張弾性率等の狙いの繊維物性を達成し得るという点で、繊維中のポリエステル樹脂組成物の割合は7体積%以上であることが好ましい。さらに安定して生産可能であることを考慮すると、ポリエステル樹脂組成物の割合は10体積%以上であることが好ましく、より好ましくは20体積%以上であり、特に好ましくは30体積%以上である。
【0066】
また、このポリエステル樹脂組成物の割合は、多ければ多いほど導電性能が優れているが、高温耐熱性を具備し得るという点で、ポリエステル樹脂組成物の割合の上限は、95体積%であることが好ましく、より好ましくは90体積%である。さらに安定して生産可能であることを考慮すると、ポリエステル樹脂組成物の割合は80体積%以下であることが特に好ましい。
【0067】
繊維中のポリエステル樹脂組成物の割合は、単繊維の繊維横断面におけるポリエステル樹脂組成物部分の単繊維断面積に対する面積比率から求めることができる。具体的に、後述の実施例におけるN項の方法にて測定したものを採用することができる。
【0068】
本発明のポリエステル繊維の繊維表層が全て、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物で覆われている場合、繊維の構成形態は次の(1)と(2)ようである。
(1)ポリエステル繊維の内層部も繊維表層と同じ成分である場合、すなわち繊維がポリエステル樹脂組成物のみからなる場合。
(2)ポリエステル繊維の内層部が繊維形成能を有するポリマーからなる場合、すなわちポリエステル樹脂組成物を芯とし繊維形成能を有するポリマーを鞘とする複合繊維である場合。
【0069】
上記(1)の場合には、繊維自身の繊維断面における導電性の斑がなく、均質な導電性能を有する。また、上記(2)の場合は、例えば、ポリエステル樹脂組成物以外の成分は、本発明のポリエステル繊維の物性、例えば、強度や伸度を担う成分として配置してもよく、あるいは本発明の目的を損ねない範囲においてポリエステル樹脂組成物より少量の導電剤等を含有した別の機能を担う層であってもよく、あるいは別の機能性成分を含有したものであってもよい。
【0070】
また、上記(2)の複合繊維において、ポリエステル樹脂組成物以外の成分の、繊維軸方向に垂直な繊維横断面における芯あるいは島としての形状は、円あるいは楕円であってもよく、三角形、四角形またはそれ以上の多角形などの多種多様な形状であってもよい。三角形以上の多角形においては、通常、ポリマー自身の溶融時の挙動で角が丸みを帯びた形状となることがしばしばある。芯あるいは島が円であれば、繊維横断面において、曲げに対して等方的な強度(剛性)を有するが、例えば、楕円や三角形などの円以外の形状においては、曲げの剛性が曲げる方向において異なるという挙動を示すことがある。例えば、後述する繊維ブラシなどに用いる場合には、芯あるいは島を円以外の三角形、四角形またはそれ以上の多角形の形状とすることにより、繊維自身の剛性を高く制御できるため、特に清掃ブラシとして非常に高性能なものとなり得る。
【0071】
一方、本発明のポリエステル繊維においては、繊維中において主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物が、繊維表面に露出していない構成を採用することもできる。
【0072】
例えば、ポリエステル樹脂組成物の層が繊維表面に露出されていると、用いられる用途によっては過度の擦過にさらされる場合があり、削れなどが生じることもあり得るが、ポリエステル樹脂組成物が繊維表面に露出していない構成を採用することにより、そのような擦過による削れが起こることがなくなる。また、ポリエステル樹脂組成物を繊維表面から一定の厚みを置いて繊維中に配置することにより、安定した導電性能を発現させることが可能である。ポリエステル樹脂組成物が繊維表面に露出しない場合には、繊維中のポリエステル樹脂組成物は繊維形成能を有するポリマと複合繊維を形成している。このポリエステル樹脂組成物は、繊維表面以外で複合繊維断面中に、1箇所配置されていてもよく2箇所以上の複数箇所に配置されていてもよい。2箇所以上の複数箇所に配置される場合には、高々100箇所配置されることが好ましい。また、2箇所以上の複数箇所に配置される場合には、導電性の斑が小さくなるという点で、ポリエステル樹脂組成物はそれぞれ繊維表面からの距離が等しくなるように配置されることが好ましい。
【0073】
本発明のポリエステル繊維中に、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物を含める方法の一つとしては、ポリエステル樹脂組成物と、(1)ポリエステル樹脂組成物以外の繊維形成能を有するポリマー成分、または(2)導電剤の濃度および/または主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルの組成が異なったポリエステル樹脂組成物、の中から選ばれる少なくとも一種をブレンド紡糸して、繊維を形成することによっても達成することができる。
【0074】
ここでブレンド紡糸するには、ポリエステル樹脂組成物と、上記の(1)および/または(2)の少なくとも1種とをそれぞれ別々に溶融した後、吐出する以前の任意の段階で、配管中を通過するズリ変形で、好ましくは静止混練子を用いてブレンドしてもよい。あるいは、溶融する以前の任意の段階でポリエステル樹脂組成物と、前記の(1)および/または(2)の少なくとも1種とをあらかじめブレンドした後に、一緒に溶融させてもよい。溶融した後は、配管中を通過するズリ変形で、好ましくは静止混練子を用いてブレンドすることができる。
【0075】
本発明のポリエステル繊維の平均抵抗率Pは、1.0×1012[Ω/cm]以下である。平均抵抗率Pについては、後述するような多様な繊維製品、例えば、衣料、アクチュエーターや発熱体などの配線物、繊維ブラシ、それからなる繊維ブラシローラー、およびこれらを組み込んでなる様々な製品などにおいて、所望の導電性が付与される。平均抵抗率Pは、小さければ小さいほど導電性が高い、すなわち電気を流し易いため、用途によっては低い平均抵抗率を持つ必要があるものもあるが、ポリエステル樹脂組成物に最大限含有せしめることが可能な導電剤の量から鑑みると、平均抵抗率Pの下限値は好適には1.0×10[Ω/cm]である。特に、電子写真装置に組み込むブラシローラーに、本発明のポリエステル繊維を用いる際には、1.0×10〜1.0×1012[Ω/cm]の範囲の平均抵抗率であることが好ましく、ブラシローラーの用いられる部材や装置の特性に応じて、後述するような範囲の平均抵抗率のポリエステル繊維が採用される。
【0076】
また、発熱体などの配線物においても、織物や編物となした後に所望の形状とする。その場合、平均抵抗率Pは目的とする流す電圧あるいは電流値に応じて適宜設定すればよく、1.0×10〜1.0×10[Ω/cm]の範囲であることが好ましい。ここで、平均抵抗率Pは、後述の実施例におけるC項の方法にて測定したものを採用する。
【0077】
また、本発明のポリエステル繊維は、後述するような様々な用途で安定した導電性が確保されることが好ましい。そのため、平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)は、0.3以下であることが好ましく、より好ましくは0.2以下であり、さらに好ましくは0.1以下である。比Rはその値が小さい値をとるほど、繊維長手方向の導電性の斑が小さいということになり、これは安定かつ優れた導電性を有することを意味する。本発明のポリエステル繊維の平均抵抗率が前記のように1.0×10[Ω/cm]以下である場合には、比Rは0.1以下であることが好ましい。また、比Rは前述の通り小さい値をとるほど好ましく、0.001までの値を通常とりうるし、全く繊維長手方向の導電性の斑が無い場合は、0.001以下の値もとり得る。ここで比Rは、後述の実施例におけるC項の方法にて測定したものを採用する。
【0078】
さらに本発明のポリエステル繊維は、温湿度変化のある場合、具体的には例えば梅雨の時期のように湿った気候の場合であっても冬季のように低温で乾燥した気候であっても、導電性繊維の性能は何ら変わらないことが好ましい。そこで、中温中湿度(温度23℃、湿度55%)における導電性繊維の平均抵抗率X[Ω/cm]と、低温低湿度(温度10℃、湿度15%)における導電性繊維の平均抵抗率Y[Ω/cm]との比Z(Z=Y/X)は、1〜5の範囲にあることが好ましい。その比Z(Z=Y/X)は、より好ましくは1〜4の範囲にあり、特に好ましくは1〜2の範囲にある。比Z(Z=Y/X)は、1に近い値をとるほど中温中湿度と低温低湿度との差が小さい、すなわち温度湿度依存性が小さく優れた繊維であるということになる。ここで、平均抵抗率の比は、後述の実施例におけるD項の方法にて測定したものを採用する。
【0079】
本発明のポリエステル繊維は、使用時の環境によっては高温に曝される場合もあることから、耐熱性に優れるという点で、98℃の熱水中で15分間保持した際の収縮率(熱水収縮率)が20%以下であることが好ましい。この収縮率は、より好ましくは15%以下であり、特に好ましくは10%以下である。この収縮率は低いほど好ましく、0%までのものが好適に用いられる。ここで、収縮率は、後述の実施例におけるG項の方法にて測定したものを採用する。
【0080】
本発明のポリエステル繊維は、衣料用途や後述するブラシローラー用など様々な用途での使用時の変形が小さいという点で、残留伸度が5〜100%であることが好ましく、10〜50%であることが特に好ましい。ここで残留伸度は、後述の実施例におけるB項の方法にて測定したものを採用する。
【0081】
本発明のポリエステル繊維は、様々な用途に応じて適宜繊維としての物性を制御することができる。特に、本発明のポリエステル樹脂組成物を構成する6GT系ポリマーの特性から柔軟な繊維とすることが可能であり、かつ特性を様々な用途に広く適用できる点で、10〜40cN/dtexの初期引張弾性率を持つことが好ましい。また、初期引張弾性率をこの範囲にすることにより安定して繊維を製造することができる。特定の用途によっては、更に好ましいとされる初期引張弾性率がある。例えば、電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材としてトナーなどの着色剤を除去するために用いられるような場合や、帯電装置の部材で感光体に電荷を付与する部材として用いられる場合、あるいは現像装置の部材においてトナーなどの着色剤を担持する部材として用いられるような場合には、概して剛性(初期引張弾性率と高い相関がある)の低い繊維が好まれる。その場合の初期引張弾性率は10〜35cN/dtexであることが好ましく、より好ましくは10〜30cN/dtexである。この場合、初期引張弾性率は低いほど好ましい。
【0082】
初期引張弾性率を好ましいとする40cN/dtex以下とするには、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物自体の初期引張弾性率が低いため、ポリエステル樹脂組成物をそのまま用いても設計が可能である。また、より低い初期引張弾性率を達成しつつ、優れた繊維物性や工程通過性を具備し得るという点からは、3GT系ポリマーやPBT系ポリマーあるいはPBTとポリエーテルのブロック共重合体からなるPBT系共重合ポリマーなどを用いて繊維となすことが好ましい。ここで、初期引張弾性率は、後述の実施例におけるB項の方法にて測定したものを採用する。
【0083】
本発明のポリエステル繊維は、衣料用途やブラシローラー用など様々な用途で形状あるいは特性を安定して満足するために、破断強度が1.0cN/dtex以上であることが好ましい。破断強度は、より好ましくは1.3cN/dtex以上であり、さらに好ましくは1.5cN/dtex以上である。導電剤を高濃度で含有せしめたポリエステルのみからなる繊維の作成において、ポリエステルに従来のPET系ポリマーやPBT系ポリマーを適用した場合には、本質的に安定して繊維を得ることは困難であったし、仮に繊維を形成し得たとしても破断強度が1.0cN/dtex未満と非常に低く、どのような手段を採っても破断強度を高めることは困難であった。
【0084】
しかしながら、本発明において、主たる繰り返し単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルを用いた場合には、導電剤が高濃度で含有されていたとしても、導電剤が均一に微分散されることから特異的に破断強度の高い繊維が得られるのである。その破断強度は、高いほど工程通過性に優れているが、生産性を考慮すると10.0cN/dtex以下であることが好ましい。ここで、破断強度は、後述の実施例におけるB項の方法にて測定したものを採用する。
【0085】
本発明のポリエステル繊維は、短繊維となして電気植毛加工を行う際に、より効率的に加工することができるという点で、比抵抗値が10〜10[Ω・cm]であることが好ましく、比抵抗値はより好ましくは10〜10[Ω・cm]である。これら好ましいとされる比抵抗値の値を有する短繊維とするために、本発明のポリエステル繊維を導電調製剤等で処理することが好ましい。導電調製剤としては、例えば、シリカ系粒子が混合された水系溶剤あるいは有機系溶剤を挙げることができる。その際、シリカ系粒子としては、通常1nm〜200μmの大きさの粒子のものが用いられ、より好ましくは3nm〜100μmの大きさの粒径のものが用いられる。ここで比抵抗値は、後述の実施例におけるE項の方法で測定したものを採用する。
【0086】
本発明のポリエステル繊維は、本発明の目的を損ねない範囲で、艶消剤、難燃剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤および末端基封止剤等の添加剤を少量保持してもよい。また、これら添加剤は、本発明のポリエステル繊維が複合繊維である場合には、ポリエステル樹脂組成物および/またはポリエステル樹脂組成物以外の成分のいずれかに保持されていてもよい。
【0087】
以下、本発明のポリエステル繊維の好ましい製造方法について例示説明する。
【0088】
本発明のポリエステル繊維は、溶融紡糸法の他、乾式紡糸法、湿式紡糸法および乾湿式紡糸法など、種々の合成繊維の紡糸方法を採用して製造することができる。本発明のポリエステル繊維は、繊維中に、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤含有するポリエステル樹脂組成物を含むことが容易かつ可能であり、また繊維形状を精密に制御可能であることから、溶融紡糸法により製造することが好ましい。本発明のポリエステル樹脂組成物を、繊維形成能を有するポリマーとブレンドして溶融紡糸するか、もしくは本発明のポリエステル樹脂組成物と繊維形成能を有するポリマーとを複合紡糸するか、あるいは本発明のポリエステル樹脂組成物を単独で溶融紡糸することにより、目的とするポリエステル繊維を得ることができる。
【0089】
溶融吐出された繊維は、繊維を形成するポリマー成分(ポリエステル樹脂組成物と繊維形成能を有するポリマー)のうち、低い方のガラス転移温度(Tg)以下の温度に冷却され、処理剤を付着しなくてもよいいが、好ましくは処理剤を付着せしめた後、100〜10000m/分の引取速度で引き取られる。引取速度は、好ましくは4000m/分以下であり、より好ましくは3000m/分以下であり、さらに好ましくは2500m/分以下である。また、生産性を考慮すると、引取速度は、好ましくは500m/分以上であり、より好ましくは700m/分以上である。本発明で用いられる主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリエステルは、過度に高い引取速度で引き取った場合に、工程安定性に劣る場合もあることから、最も好ましい引取速度は700〜2500m/分の範囲である。
【0090】
ここで、口金孔から吐出される繊維一束の本数(糸条の繊維本数)は、目的とする使用方法あるいは用途に応じて適宜選択することができる。糸条の繊維本数は、1本のモノフィラメントの状態であっても、3000本以下の複数糸条からなるマルチフィラメントでもよい。しかしながら、諸物性の安定した繊維が得られ、各種用途に好適に採用されるという点で、繊維本数は2〜500本が好ましく、より好ましくは3〜400本である。また、付着せしめる処理剤は、繊維の用途に応じて適宜用いることができ、含水系の処理剤あるいは非含水系の処理剤を採用することができる。本発明のポリエステル繊維を用いてなるブラシが、電子写真装置の感光体に接触して用いられる場合には、感光体が処理剤によって劣化することを防止するために、感光体を劣化させるような化合物が含有されていないことが好ましい。
【0091】
繊維を引き取った後巻き取ることなくもしくは一旦巻き取った後、繊維を構成するポリマー成分(ポリエステル樹脂組成物と繊維形成能を有するポリマー)のうち、高い方のガラス転移温度(Tg)+100℃以下の温度に加熱して、1段目の延伸を施す。好ましくはガラス転移温度が高い方のガラス転移温度Tg−20℃〜ガラス転移温度が高い方のTg+80℃の温度範囲に加熱して、延伸糸の残留伸度が5〜100%となる倍率で、好ましくは延伸糸の残留伸度が10〜50%となる倍率で、すなわち1.1〜3.0倍の範囲の延伸倍率で、1段目の延伸を施す。ここで一旦延伸した後、すなわち1段目の延伸を終えた後、さらに1倍以上2倍以下の倍率で、2段目の延伸を施してもよい。
【0092】
延伸した後、繊維は最終延伸温度以上、ポリエステル樹脂組成物もしくは繊維形成能を有するポリマーのどちらか低い方の融点(Tm)以下の温度で、熱処理することが好ましい。延伸後に高温で熱処理を施すことにより、より耐熱性が高く、かつ、平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が低く繊維の長手方向の導電性の斑が小さい優れた繊維となすことができる。ここで、TgとTmは、後述の実施例におけるH項の方法にて測定したものを採用する。
【0093】
さらに、上記の熱処理の前または熱処理の後で、0.9倍以上1.0倍未満の倍率で繊維をごくわずかに収縮させてリラックス処理を施すことが好ましい。この処理によっても、平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)が低く、繊維の長手方向の導電性の斑が小さい優れた繊維となすことができる。
【0094】
上記の延伸方法あるいは延伸後の熱処理方法としては、加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バス、あるいは加熱気体、加熱蒸気、および電磁波などを用いた非接触式加熱媒体などを採用することが可能である。これらのうちでも、装置が簡便で加熱効率が高いことから、加熱されたピン状物、ローラー状物およびプレート状物などの接触式ヒーターや加熱した液体を用いた接触式バスなどが好ましく、特に加熱されたローラー状物が好ましく用いられる。
【0095】
本発明のポリエステル繊維は、織物あるいは編物として使用でき、さらには様々な衣料用途に用いる場合には仮撚り加工を施してもよい。仮撚り加工において繊維は、延伸糸あるいは未延伸糸を加熱することなく、もしくは加熱されたピン状物、ローラー状物、プレート状物、あるいは非接触型のヒーターなどにより加熱した後、ディスク状物あるいはベルト状物によって仮撚り加工される。延伸仮撚り加工された繊維は、そのままもしくは熱セットされた後に、巻き取られる。また、本発明のポリエステル繊維には、上記の仮撚り加工の代わりに撚糸加工を施してもよい。
【0096】
本発明のポリエステル繊維は、例えば、織物、編み物および不織布のような通常の繊維製品とする他、それらを用いた繊維ブラシ、衣料および敷物や、短繊維を用いた植毛体、あるいは電気を流すことが可能な配線物などにおいて、それを少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維製品とすることができる。具体的には、以下に詳述する。
【0097】
本発明のポリエステル繊維は、用いられ得る用途や形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた織物となすことができる。例えば、1重織物としては、ブロード、ボイル、ローン、ギンガム、トロピカル、タフタ、シャンタンおよびデシンなどの平織、デニム、サージおよびギャバジンなどの綾織、サテンやドスキンなどの朱子織、バスケット、パナマ、マット、ホップサックおよびオックスフォードなどのななこ織、グログラン、オットマンおよびヘアコードなどの畝織、フランス綾、ヘリンボーンおよびブロークンツイルなどの急斜文、緩斜文、山形斜文、破れ斜文、飛び斜文、曲り斜文および飾斜文や、不規則朱子、重ね朱子、拡げ朱子および昼夜朱子や、蜂巣織、ハック織、梨地織、およびナイアガラなどの組織の織物が挙げられる。
【0098】
また、2枚の織物を合わせて1枚の織物となした2重織物としては、ピケやフクレ織などの経2重織、ベッドフォードコードなどの緯2重織、風通織や袋織などの経緯2重織などが挙げられる。また、繊維が起毛したパイル織物としては、別珍やコールテンなどの緯パイル織や、タオル、ビロードおよびベルベットなどの経パイル織などが挙げられる。その他に、紗織や絽織などのからみ織物、ドビー織やジャガード織などの紋織物などを挙げることができる。特に、繊維ブラシ用織物に用いられるものとしては、繊維が起毛したパイル織物が好ましく用いられる。
【0099】
織物を作製するために用いられる本発明のポリエステル繊維の形態は、生糸、撚糸および仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)あるいは短繊維(ステープル)など、いずれの形態も使用可能である。
【0100】
また、本発明のポリエステル繊維は、用いられうる用途や形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた編物となすことができる。編物としては、天竺やシングルなどの平編、ゴム編やフライスなどのリブ編、リンクスなどのパール編の他、鹿の子、梨地、アコーディオン編、スモールパターン、レース編、裏毛編、片畦編、両畦編、リップル、ミラノリブおよびダブルピケ等の緯編や、トリコット、ラッセルおよびミラニーズなどの経編などを挙げることができる。特に、繊維ブラシ用編物に用いられるものとしては、裏毛編やあるいはパイル状繊維を編物表面に突出させるための起毛処理を施した編物が好ましく用いられる。
【0101】
編物を作製するために用いられる本発明のポリエステル繊維の形態は、生糸、撚糸および仮撚り加工糸など、また長繊維(フィラメント)あるいは短繊維(ステープル)など、いずれの形態も使用可能である。
【0102】
また、本発明のポリエステル繊維は、用いられうる用途や形状に即して、少なくとも一部にあるいは全部に用いられた不織布となすことができる。
【0103】
本発明のポリエステル繊維が少なくとも一部に用いられてなる織物あるいは編物は、常法による精練、染色および熱セット等の加工を受けてもよい。また、不織布であれば、精練、染色および熱セット等の他、艶付けプレス、エンボスプレス、コンパクト加工、柔軟加工およびヒートセッティングなどの物理的処理加工や、ボンディング加工、ラミネート加工、コーティング加工、防汚加工、撥水加工、帯電防止加工、防炎加工、防虫加工、衛生加工および泡樹脂加工などの化学的処理加工や、その他にマイクロ波応用や、超音波応用、遠赤外線応用、紫外線応用および低温プラズマ応用などの応用処理が施されてもよい。
【0104】
また、本発明のポリエステル繊維が少なくとも一部に用いられてなる織物、編物、および不織布は、本発明のポリエステル繊維と、本発明とは異なる合成繊維、半合成繊維および天然繊維など、例えば、セルロース繊維、ウール、絹、ストレッチ繊維およびアセテート繊維から選ばれた少なくとも1種類の繊維とを用いた(混用した)ものであってもよい。また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部にあるいは全部に用いた織物、編物および不織布は、前述の混用したものも含め染色されていてもよい。
【0105】
本発明のポリエステル繊維は、導電性に優れていることから、繊維そのものとしても非常に有用であり、繊維の一形態としては0.05〜150mmの長さの短繊維として好適に用いられる。短繊維は、フィラメントを1つの糸条単独であるいは複数の糸条を束ねたトウになして切断されてなるものである。特に、0.1〜10mmの長さの短繊維は、例えば、電気植毛加工や吹きつけ加工などの多種多様な方法によって、基盤に植設されてなる植毛体とすることができる。電気植毛体において、植毛加工により植設された繊維は、その50%以上が基盤に対し10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に植設される。ここで、本発明の目的を損ねない範囲で、植毛体となす場合に用いられる短繊維には、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維以外に、本発明のポリエステル繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。
【0106】
また植毛体は、基盤に短繊維を接着して植設してもよい。接着する場合には、接着剤として、例えばアクリル系、ウレタン系およびエステル系の接着剤が好適に用いられる。接着剤の層の厚さは1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。また、植設される基盤は、植毛体を組み込む装置や用いられる接着剤に応じて適宜採用することができる。基盤として、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物および金属からなるフィルム、シート、紙、板および布帛などが好適に用いられる。また、各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に、短繊維を直接植毛してもよい。
【0107】
基盤としては、接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成樹脂もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートが好ましく用いられる。基盤がフィルム、シート、紙、板および布帛など表裏を形成している素材であれば、用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に、短繊維を植設することができる。植毛体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いてもよく、あるいは次に示す導電性を有するため導電性の繊維ブラシローラーとして用いることができる。
【0108】
具体的には、本発明のポリエステル繊維からなる前記短繊維を少なくとも一部に用いてなる植毛体を、少なくとも一部に用いてなる繊維ブラシとして形成し用いることができる。特に、棒状物体に直接植設された繊維ブラシローラーであることが好ましい。ここで用いられる短繊維は、棒状物体に植設される際に、気体により吹き付けてもよく、電気植毛加工を行ってもよい。棒状物体の表面に概ね直立したものが効率よく得られることから、電気植毛加工により得られるものであることが好ましい。このときの短繊維は、その植毛される短繊維総本数のうち50%以上が棒状物体の表面において10度から垂直(すなわち90度)の概ね直立状態に接着される。本発明の目的を損ねない範囲で、用いられる短繊維には、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維以外に、本発明のポリエステル繊維ではない他の繊維からなる短繊維を混用して植設してもよい。また、接着して植設する際の接着剤としては、例えばアクリル系、ウレタン系およびエステル系の接着剤が用途あるいは目的に応じて種々選択されて用いられる。接着剤の層の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。
【0109】
棒状物体の芯となる主たる材質は、用いられる用途あるいは目的に応じて適切なものを採用すればよく、金属、合成樹脂、天然樹脂、木材および鉱物などから単独でもしくは複数種を組み合わせて選ばれる。電子写真装置に組み込む部材として用いる場合には、主として金属からなることが好ましい。さらに、棒状物体が金属である場合には、金属の少なくとも一部もしくは必要とする部分の全面を中間層が覆い、その上に織物および/または編物および/または不織布が接着されるか、あるいは短繊維が接着して植設されることが好ましい。
【0110】
この中間層として用いられる素材は、主としてクッション性を棒状物体に付与するあるいはブラシ状の繊維の弾性・剛性のみでは達成し得ない場合に補助的に弾性・剛性を担うものであり、例えば清掃装置におけるトナー除去性能あるいは現像装置におけるトナー付与性能を格段に向上せしめる。そして中間層には、例えば、ウレタン系素材、エラストマー素材、ゴム素材およびエチレン−ビニルアルコール系素材などが好適に用いられる。中間層の厚みは0.05〜10mmであることが好ましく、さらに必要に応じて導電性制御剤あるいは磁性制御剤が添加されていてもよい。
【0111】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物、編物および不織布は、基盤と接合して布帛複合体とすることができる。この場合、織物であればパイル織りあるいは処理により織物表面に起毛や糸端があるもの、また編物であればパイル状の繊維起毛があるものもしくは起毛処理してパイルあるいは糸端が編物表面にあるものが、ポリエステル繊維ブラシローラーにおいてより機能が高められる場合があり好ましく用いられる。接合する際に接着して形成させる場合には、接着剤として、例えばアクリル系、ウレタン系およびエステル系の接着剤を用いることができる。接着剤の層の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。
【0112】
また、接着される基盤は、布帛複合体を組み込む装置や用いられる接着剤に応じて適宜採用すればよく、合成樹脂、天然樹脂、合成繊維、天然繊維、木材、鉱物および金属などからなるフィルム、シート、紙、板および他の布帛などが好適に用いられる。また、各種用途の部材そのものである金属加工体、合成もしくは天然樹脂加工体もしくは成形体の基盤に直接接着してもよい。ここで基盤としては、特に接着剤との親和性を高めるために、親水化処理してなる合成もしくは天然樹脂あるいは金属からなるシートが好ましく用いられる。基盤が、フィルム、シート、紙、板および布帛など表裏を形成している素材であれば、用途あるいは目的に応じてその表面および裏面の両面に、織物、編物および不織布を接着して、布帛複合体となすことができる。布帛複合体は、その使用方法あるいは用途として、別の基盤に貼り付けて用いてもよいし、あるいは例えば次に示す導電性を有するため導電性のポリエステル繊維ブラシとして用いることもできる。
【0113】
本発明のポリエステル繊維からなる織物および/または編物および/または不織布は、少なくとも一部に用いられるかあるいは全部に用いて、ポリエステル繊維ブラシを形成することができる。特に形態が安定している点では、織物を用いることが好ましい。ここで用いられる織物および/または編物および/または不織布は、それらを棒状物体に接合してポリエステル繊維ブラシローラーを形成する際に、棒状物体の機能的に必要とされる長さ(すなわち巻き幅)分だけカットしたものを一周で巻き付け接合してもよく、あるいは棒状物体の長さの数分の一〜数十分の一の長さの幅にスリット状にカットしたものを棒状物体にスパイラル状に巻き付けて接合してもよい。織物および/または編物および/または不織布を棒状物体に接合する際には、あらかじめ棒状物質に凹凸を付けるなどして嵌合してもよいが、確実に接合するという点では接着剤を用いて接着することが好適である。
【0114】
ここで用いられる接着剤は、用途あるいは目的に応じて適宜採用すれば良く、アクリル系、エステル系およびウレタン系の接着剤など種々のものを採用できる。また、接着剤には、必要に応じてカーボンブラックや金属などの導電性制御剤あるいは鉄、ニッケル、コバルト、モリブデンなどの金属、これら金属の酸化物、およびこれらの混合物などの磁性制御剤などが添加されていてもよい。ここで接着剤の層の厚さは、1〜500μmであることが好ましく、単層あるいは必要に応じて、複数種の接着剤を混合してもしくは複数層に分けて用いてもよい。さらに、織物および/または編物および/または不織布には、接着される以前の段階で接着面に10〜1010Ω・cmの比抵抗を有する導電処理剤もしくは導電性シートあるいは導電性膜などの素材を貼り合わせてもよい。
【0115】
本発明のポリエステル繊維は、安定した導電性を有しかつ所望の抵抗率に制御することが可能であることから、一定の電圧を印加した際に微弱な電流を流すことが可能であり、様々な配線物を形成させることができる。これを利用して、その一例として、微弱な電流で信号を送られて制御・駆動されるアクチュエーターを形成することができる。このときに繊維は、長繊維(フィラメント)であっても短繊維であってもよい。アクチュエーターは具体的に、人間の筋肉と同じで微弱な電流を信号として伝達し、駆動することができるため、本発明のポリエステル繊維はこのアクチュエーターの電気信号回路に用いることができる。
【0116】
また、配線物の一例として、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部あるいは全部に用いてなる発熱体として用いることもできる。このときに繊維は、長繊維(フィラメント)であっても短繊維であってもよい。発熱体となした場合に、本発明のポリエステル繊維は導電性に優れ、しかも必要とする平均抵抗率[Ω/cm]に設計することが可能であるため、印加電圧やターゲットとする温度などに応じた発熱体となし得る。一定の電圧をかけることにより、本発明のポリエステル繊維は、抵抗体として機能し発熱する。発熱体を設計する際には、例えば、ごく少量の温度上昇でよい場合には、本発明のポリエステル繊維を数本ごとに経糸および/または緯糸として用いることが好ましい。または、暖めるべき場所が面状である必要が生じるときには、本発明のポリエステル繊維を経糸あるいは緯糸に用いるときに、本数を増やすことにより面状で温度が上がり易くなり、極限的には、経糸および緯糸の全てに本発明のポリエステル繊維を用いて織物を形成すればよい。発熱体は、織物ではなく編物であってもよい。
【0117】
本発明のポリエステル繊維は、少なくとも一部あるいは全部に用いてなる衣料となすことができる。このときにポリエステル繊維は、長繊維(フィラメント)であっても短繊維であってもよい。衣料とした場合に、例えば、導電性に優れていることから、冬季あるいは乾燥時の静電気発生を抑制することができるなど、より快適な着心地となるし、あるいは埃を寄せ付けにくいことから手術衣や半導体製造時の作業衣など防塵衣料を形成し得る。その際には、本発明のポリエステル繊維を数本ごとに経糸および/または緯糸として用いることができる。また副次的な効果として、本発明のポリエステル繊維には導電剤が多量に含有されていることにより熱伝導性が優れているため、着衣時に瞬時に熱を奪う接触冷感素材や冬季に寒い外部から暖かい室内に入ったとき、直ぐに体が温まる温感素材などとして利用することができる。
【0118】
本発明のポリエステル繊維は、少なくとも一部あるいは全部に用いてなる敷物となすことができる。敷物としては、例えば、屋内外や車両内に敷くカーペットやマット、および床材などを挙げることができる。このときに繊維は、長繊維(フィラメント)であっても短繊維であってもよい。敷物となした場合に、例えば、導電性に優れていることから、歩行時の静電気発生を抑制することができるなど、より快適なものとなるし、あるいは埃を寄せ付けにくいことから防塵性も優れており汚れにくい。敷物を形成する際には、本発明のポリエステル繊維を数本ごとに経糸および/または緯糸として用いることが好ましい。また、副次的な効果として本発明のポリエステル繊維は導電性に優れていることから、発熱体としての態様も組み合わせて、冬季あるいは寒冷地での暖房素材として利用することができる。
【0119】
本発明のポリエステル繊維を、少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、例えば、電子写真装置の中に組み込まれている清掃装置の部材として好適に用いられる。
【0120】
清掃装置の中でブラシローラーは回転しながら、必要であれば電気を印加されながら、電子写真装置の中であれば転写されなかった残存着色剤(トナー)などの不要物を捕捉して除去する。本発明のポリエステル繊維を用いた場合には、温度および湿度変化がある場合にも安定した導電性能を有する繊維であることから、この除去性能が格段に優れている。また、ポリエステル繊維ブラシローラーの清掃装置内では、感光体にポリエステル繊維ブラシローラーが直接接触して清掃すること以外に、感光体を清掃する部材(ポリエステル繊維ブラシローラーの場合もあれば、あるいは従来技術であればブレード状の部材)を清掃するためのブラシローラーとして、すなわち清掃装置自体を清掃するものもしくは回収した不要着色剤(トナー)を別の場所に移送するためのポリエステル繊維ブラシローラーとしても用いられる。
【0121】
また、清掃装置には、本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを、目的、効果および清掃の機構に応じて、1本用いても2本以上複数本用いてもよい。
【0122】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、電子写真装置に用いられうる帯電装置に好適に組み込まれて用いられる。ブラシローラーを用いてなる帯電装置の性能は、ブラシローラーの導電性能、すなわち導電性繊維の性能に依存するが、本来の目的である感光体を均一に帯電できることはもとより電子写真装置内の環境変化、すなわち電子写真装置が稼働中徐々に変化する温度や湿度の変化、あるいは季節による温度や湿度変化に対してブラシローラーの導電性は全く変化しないことが求められる。それに対して、本発明のポリエステル繊維は、環境変化に対して導電性は全く変化することがないため、感光体の帯電斑が起こりにくく、非常に優れた帯電装置となる。
【0123】
加えて、電子写真装置の感光体表面に、清掃が不十分なために残存したトナーがあった場合にも、ブラシローラーはブラシ状であって清掃ローラーを兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がないかもしくは殆どない。さらには、電子写真装置を小型化する場合には、清掃装置および帯電装置を個別に設置することなく、清掃装置兼帯電装置として省スペース化を図ることも可能である。また、帯電装置中には、目的や機構に応じてブラシローラーを1本あるいは2本以上複数本用いてもよい。
【0124】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、現像装置に好適に組み込まれて用いられる。現像装置は、電子写真装置においては、帯電装置により一様に帯電された感光体表面にレーザーによって描かれた潜像を顕像化するものである。現像装置は、電子写真装置内の環境変化に対してもブラシローラーの抵抗率変化がないことから、顕像化するためのトナーが均一に感光体に供給され顕像化し、得られた現像物と印刷物は汚染あるいは印刷斑がないか、もしくは殆どない非常に美しいものとなる。
【0125】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラー、あるいは短繊維を少なくとも一部に用いた植毛体を少なくとも一部に用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、本発明のポリエステル繊維の導電性に由来して、電子写真装置に用いられ得る除電装置に好適に組み込まれて用いられる。特に、電子写真装置に用いる際には、ブラシローラーの導電性繊維が安定かつ斑のない除電効果を発現し、通常、除電装置のあとに配設される清掃装置での清掃効果をより高めることが可能である。また、電子写真装置を小型化する場合には、そのブラシローラーを用いることにより除電装置兼清掃装置として組み込むことができる。
【0126】
本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維製品を組み込んだ、清掃装置および/または帯電装置および/または現像装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置として、具体的には、レーザービームモノクロプリンター、レーザービームカラープリンター、発光ダイオードを用いたモノクロプリンターやカラープリンター、カラー複写機、モノクロファクシミリやカラーファクシミリ、多機能型複合機、およびワードプロセッサーなどを挙げることができる。
【0127】
帯電した感光体にレーザーおよび/または発光ダイオードで潜像を描き、トナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置は、本発明のポリエステル繊維を用いることにより、電子写真装置内の環境変化、特に温度や湿度変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有し、得られた印刷あるいは現像物はモノクロの場合はもとより、複数種のトナーをかつ多量に用いるカラーの場合は特に非常に美しいものとなる。さらには、電子写真装置の駆動速度をより高めること、すなわち、単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となる。また、本発明のポリエステル繊維を用いてなる電子写真装置は、さらなる小型化、省スペース化および省電力化を図ることができる。
【0128】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有する、比抵抗が1.0×1010[Ω・cm]以下のポリエステル樹脂組成物である。主たる繰り返し単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル成分であることにより、高濃度で導電剤を含有していても、繊維を形成することはもとより、ポリエステル樹脂組成物からなるフィルムやシートおよび射出成形物などの各種成形物となした場合にも、従来のPET系ポリマーやPBT系ポリマーなどのポリエステルとは異なり、幅広い剪断速度においても流動特性は安定して優れることから、加工安定性に非常に優れている。
【0129】
したがって、得られたポリエステル繊維やフィルムおよびその他成形品は、高い導電性および導電性の安定性が維持されつつも樹脂自体のもろさも大きく改善され、割れや削れのような欠点の発生率が非常に小さく、成形品としての力学物性に優れており、導電性あるいは帯電防止を必要とする用途に好適に用いられる。
【0130】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物の比抵抗は、上記のとおり1.0×1010[Ω・cm]以下であるが、その抵抗値は低い比抵抗であることが好ましい。ポリエステル樹脂組成物の比抵抗は、好ましくは1.0×10[Ω・cm]以下であり、より好ましくは1.0×10[Ω・cm]以下である。また、比抵抗値は、低い値ほど導電性に優れるが、導電剤を含有したポリエステル樹脂組成物として1.0×10−4[Ω・cm]以上の値をとることが好ましい。
【0131】
ポリエステル樹脂組成物における導電剤の含有量は、優れた導電性を有する各種成型品に供することが可能である点から、5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。また、導電剤の含有量は、導電性と流動特性がより優れることから10重量%以上50重量%以下であることが好ましく、さらに非常に導電性に優れかつ各種成形品が好適に作り得ることから10重量%以上45重量%以下であることが好ましい。特に、繊維用途においては、10重量%以上40重量%以下であることが好ましい。ここで、導電剤の含有量は、後述の実施例におけるL項の方法にて測定したものを採用する。
【0132】
本発明の主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなりポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物は、流動特性に非常に優れている。その流動特性を評価するには、後述の実施例におけるF項の測定方法にて高剪断速度1216[1/秒]で溶融粘度を測定すればよい。具体的に、測定温度で1216[1/秒]で測定した場合に、全く導電剤が含有されていないポリマー(6GT系ポリマー)の溶融粘度(η0%1k[Pa・秒])と、導電剤が含有されている6GT系ポリマー(ポリエステル樹脂組成物;例えばX重量%の導電性カーボンブラックの添加量であれば(ηX%1k[Pa・秒])とのそれぞれの溶融粘度の比(ηX%1k/η0%1k)を算出する。本発明では、その溶融粘度の比が1≦ηX%1k/η0%1k≦1.5であるポリエステル樹脂組成物が好ましく、溶融粘度の比はより好ましくは1≦ηX%1k/η0%1k≦1.3であり、さらに好ましくは1≦ηX%1k/η0%1k≦1.2である。
【0133】
本発明のポリエステル樹脂組成物に含有される導電剤としては、前述のような多種多様の導電剤を採用することができる。好ましい導電剤として、導電性ファーネスブラック、導電性ケッチェンブラック、導電性アセチレンブラック、カーボンナノチューブおよび気相成長炭素繊維などが好適に用いられる。導電剤としてその他にも、金属、金属酸化物などの金属化合物、金属や金属酸化物をコーティングした粒子などが好適に用いられる。これらの導電剤のうち、導電性ファーネスブラックと導電性アセチレンブラックは、本発明で用いられる6GT系ポリマーに対し混和性の観点で優れた親和性を有していることから、特に好ましい導電剤として用いられる。
【実施例】
【0134】
以下、実施例により本発明を具体的かつより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに制限されるものではない。実施例中の物性値は、下記の方法によって測定した。
【0135】
A.繊度[dtex]および単繊維繊度[dtex]の測定
繊維(マルチフィラメント)を長さ100m分カセ取りし、そのカセ取りした繊維の重量(g)を測定して得た値に100を掛ける。同様に測定して得た3回の平均値をその繊維の繊度とした。単繊維繊度については、上記の繊度をフィラメントを構成する単繊維の本数で割った値を単繊維繊度[dtex]とした。
【0136】
B.繊維の初期引張弾性率、残留伸度および破断強度の測定
オリエンテック社製テンシロン引張試験機(TENSIRON UCT−100)を用い、未延伸糸であれば初期試料長50mm、引張速度400mm/分で、また延伸糸であれば初期試料長200mm、引張速度200mm/分で初期引張弾性率(延伸糸のみ)、強度および残留伸度をそれぞれ測定し、5回測定した平均値をそれぞれの測定値とした。初期引張弾性率は、チャート紙にチャート速度100cm/分、応力フルレンジ500gとして記録して、引張初期の曲線の傾きから求めた。
【0137】
C.平均抵抗率P[Ω/cm]および平均抵抗率Pと抵抗率の標準偏差Qとの比R(R=Q/P)の測定
中温中湿度(温度23℃、湿度55%)で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。送糸ローラーと巻取ローラーからなる1対の鏡面ローラーで糸を走行させる際に、ローラー間に、東亜DKK製絶縁抵抗計SM−8220に接続された2本の棒端子からなるプローブに走行糸が接するように設置した装置で、棒の太さφ2mm、棒端子間で接する糸の距離2.0cm、印加電圧100V、送糸速度60cm/分、ローラー間の糸張力が0.05〜0.1cN/dtexの範囲となるようにして(この範囲であれば測定値に差はない)、絶縁抵抗計でのサンプリングレート0.2秒で120cmの長さ分、抵抗値を測定して、得られた値の平均[Ω]を棒端子間で接する糸の距離(2.0cm)で割った値を平均抵抗率P[Ω/cm]とした。また同時に得られた全ての抵抗値の標準偏差Qを算出したのち、上記のPとQとの比R(R=Q/P)を算出した。
【0138】
D.中温中湿度(温度23℃、湿度55%)での平均抵抗率Xと低温低湿度(温度10℃、湿度15%)での平均抵抗率Yとの平均抵抗率の比Z(Z=Y/X)(温湿度変化Z)
中温中湿度については、上記のC.項の測定方法を採用し、また低温低湿度においても上記のC.項と同様に測定して平均抵抗率を求め、それぞれ得た平均抵抗率XとYの比Z(Z=Y/X)を求めた。
【0139】
E.比抵抗値の測定方法
測定は、前記Dの中温中湿度で測定すべき試料を少なくとも該雰囲気中に1時間保持した後、測定した。測定物が長さ100mm以上の繊維状のものである場合には、繊維束を1000dtexの束にして50mmの長さに切断し(このとき、繊維端面は斜めにカットする)、端面に導電性ペーストを塗布してから電極を取り付けて500Vで測定した。また測定物が長さ100mm未満の繊維状物あるいは粉体状のものである場合は、長さ10cm、幅2cm、深さ1cmの、両端面に電極を有する絶縁体の箱形容器に、10MPaの圧力で充填して密封したのち測定して、単位体積当たりの比抵抗値[Ω・cm]に換算して求めた。ガット状のものについては、1回の測定において、直径D(0.2〜0.3cmの範囲の直径のもの)で長さ12cmのガットについて、テスターを用いてテスターの2本の端子を任意の10cmの間隔でガットに押しつけ、その抵抗値R[Ω]を測定し、次式からガットの比抵抗値を求めた。
・(比抵抗値)=R×(D/2)×π/10
そして5本の異なるガットについて各々1回ずつ比抵抗値を測定し、5回の平均値をそのガットの比抵抗値とした。
【0140】
F.溶融粘度の測定
(株)東洋精機社製キャピログラフ1Bを用い、窒素雰囲気下、バレル径9.55mm、ノズル長10mm,ノズル内径1mmで、ポリマー押出ピストン速度1mm/分(剪断速度12.16[1/秒])で、サンプル充填直後から10分経過した後、測定した。5回測定した値の平均値を各剪断速度での溶融粘度とした。
【0141】
G.98℃熱水中で15分間の収縮率(熱水収縮率)の算出
延伸糸1mの輪を5本枷取りした束にクリップを1つ留め、束の長さL1を測る(このとき、約500mmの長さである。)。次に、この束を98℃の温度の熱水中にゆっくりと下ろして15分間静置し、15分後に取り出して1時間以上風乾する。風乾したのち再度束の長さL2を測定する。収縮率(%)を下式で算出する。
・熱水収縮率(%)={(L1−L2)÷L1}×100。
【0142】
H.ガラス転移点(Tg)および融点(Tm)の測定
パーキンエルマー社製示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用い、試料10mgで、昇温速度16℃/分にて測定した。Tm、Tgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、約(Tm1+20)℃の温度で5分間保持した後、25℃の温度まで急冷し、(急冷時間および25℃の温度保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をTgとし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度をTmとした。
【0143】
I.短繊維の繊維長の測定
長さ20mm以上の短繊維は、0.1g/dtexの荷重をかけてノギスを用いて、また20mm未満の短繊維はNIPPON KOGAKU K.K製SHADOW GRAPH Model6を用いて20倍で、短繊維50本の長さを測定し、その平均値を繊維長とした。
【0144】
J.カーボンナノチューブ(CNT)の直径Dと長さLの比(アスペクト比)L/Dの確認
CNTを含有した繊維または樹脂を、エポキシ樹脂中に包埋したブロックに酸化ルテニウム溶液を用いて染色を施し、ウルトラミクロトームにて切削して60〜100nmの厚さの超薄切片を作製し、透過型電子顕微鏡(TEM)観察装置(日立製作所社製、H−7100FA型)にて、加速電圧75kVで、倍率2万〜10万倍の任意の倍率で観察を行い、得られた写真を白黒にデジタル化した。得られた写真をコンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOF(バージョン2.3)において黒で見えるCNTを画像解析することによって平均粒径について確認した。平均粒径については写真上に存在する全てのCNTの面積をそれぞれ計算し、該面積値から略円形と判断して計算したCNTの直径の平均値によって算出した。
【0145】
K.固有粘度(IV)および極限粘度[η]の測定
ポリエステル系ポリマの場合は、試料をオルソクロロフェノール溶液に溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃の温度で測定した。また、ポリアミド系ポリマの場合は、試料を蟻酸に溶解し、ポリエステル系ポリマと同様の方法で測定した。
【0146】
L.導電剤のポリエステル中における含有量
導電剤を含有する樹脂組成物のみからなる繊維で導電剤の含有量を求める場合は、(株)日立ハイテクノロジーズ社の分光光度計U−3010を用いて、あらかじめ導電剤の濃度が判っている、異なる濃度の溶液(ポリエステルを溶解する溶媒;PET系ポリマー、3GT系ポリマー、PBT系ポリマー、6GT系ポリマーであれば、ヘキサフルオロイソプロパノール)5種類を用いて検量線を作成した後、導電剤を含有した樹脂組成物中での導電剤の含有量を求めた。複合繊維である場合は、後述のN.項で求めた導電剤を含有する樹脂組成物の割合から、導電剤の含有量を算出した。
【0147】
M.単繊維直径の測定
FEI Company社製 走査型電子顕微鏡(SEM) STRATA DB235を用いて、加速電圧2kVで、白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、繊維外径が全て視野に入る倍率(単繊維直径が25〜50μmであれば5千倍、15〜25μmであれば1万倍、5〜15μmであれば2万倍)で確認した。この際、単繊維直径は少なくとも該測定を同一繊維において3cm以上の間隔をおいた任意の5点について観察、測定して得られた平均値を単繊維直径とする。
【0148】
N.繊維中での、導電剤を含有する主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートから構成されるポリエステル樹脂組成物(ポリエステル樹脂組成物)の割合の算出
割合を算出する繊維のフィラメントをエポキシ樹脂中に包埋したブロックを、ミクロトームにて繊維軸方向に垂直な繊維横断面方向に切削して薄切片をつくり、光学顕微鏡200倍で透過光で観察・撮影したのち、得られた繊維横断面写真について、前記の三谷商事株式会社製WinROOFにおいてポリエステル樹脂組成物部分と、他の成分との面積を画像解析することによってそれぞれ求めて割合を算出した。
【0149】
P.導電剤の体積平均粒径Dvおよび多分散指数Dv/Dnの算出
導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物(0.02〜0.06mg)をガラス容器に入れた後、ヘキサフルオロイソプロパノール20mLを静かに注ぎ入れ、静置下で72時間(3日間)以上保持して測定液を調製した。その後、株式会社島津製作所製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2000J(光源:半導体レーザー(波長680nm)、回分セル、センサー:76素子回折/散乱光センサー、粒子の複素屈折率2.00−0.10i(カーボンに関するマニュアル記載値)、粒子径計測範囲:0.03〜700μm)を用いて、あらかじめセル内に分散媒を加え、攪拌棒でゆっくりと攪拌しながら、その中に適切な光回折強度または吸光度になるまで前記測定液を投入し、適切な光回折強度になったところで測定を行った。
【0150】
測定によって得られた結果(粒子径(μm)と差分値(%))から、次の数式(1)、(2)および(3)に従って、体積平均粒径Dv(μm)、数平均粒径Dn(μm)および多分散指数Dv/Dnを求めた。
【0151】
【数1】

【0152】
【数2】

【0153】
・多分散指数=Dv/Dn(体積平均粒径/数平均粒径)・・・(3)
(ただし式中、d:i番目の粒子径(μm)、n:i番目の粒径の粒子数)。
【0154】
[比較例1](ポリエチレンテレフタレートの製法、導電剤を添加したポリエチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
テレフタル酸166重量部とエチレングリコール75重量部を用い通常のエステル化反応によって得られた低重合体に、着色防止剤としてリン酸85%水溶液を0.03重量部、重縮合触媒として三酸化アンチモンを0.06重量部、調色剤として酢酸コバルト4水塩を0.06重量部添加して重縮合反応を行い、通常用いられるIV0.67、溶融粘度181[Pa・秒](測定温度290℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)256℃のポリエチレンテレフタレート(以下、PETとする。)のペレットを得た。
【0155】
このPETペレットを150℃の温度で10時間真空乾燥した後、窒素雰囲気下で粉粒体とした後、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=45)を用いて溶融混練する前に、窒素雰囲気下で導電剤としてデグサ社製ファーネスブラック(“Printex”(登録商標)、タイプLSQ、比抵抗0.06[Ω・cm]、以下FBとする。)を粉体同士で混ぜ合わせた後、溶融して上記の2軸エクストルーダで混練した。ここでFBは混練終了後に得られるPETとFBとの樹脂組成物においてFBが16重量%となるように調製し、また280℃での温度混練した。混練した後、吐出されたガット状の樹脂組成物を15℃の温度の水道水で冷却した後カッターで切断し、溶融粘度1253[Pa・秒](測定温度290℃、12.16[1/秒])のPETとFBとの樹脂組成物(以下、PET−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかった樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ102.38[Ω・cm]であった。
【0156】
このPET−FBを用いて2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を備えたエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度290℃で孔径が0.3mm、孔数が24個の丸形の孔形状の口金および濾層の目の細かさが20μのフィルタを設置して溶融紡糸を行い、実効成分として糸に対して1重量%の付着量となるように水系処理剤(実効成分20重量%濃度)を付着せしめた後、1000m/分の引取速度で引き取る溶融紡糸を試みた。しかしながら、1000m/分の引取速度では断糸が激しく全く引き取りができなかったため200m/分の引取速度としたが、それでも断糸が激しく、結果として紡糸性は非常に悪いもので巻き取り糸は得られなかった。
【0157】
[比較例2](ポリトリメチレンテレフタレートの製法、導電剤を添加したポリトリメチレンテレフタレート樹脂組成物の調製および繊維の製造)
テレフタル酸ジメチル130部(6.7モル部)、1,3−プロパンジオール114部(15モル部)、酢酸カルシウム1水和塩0.24部(0.014モル部)および酢酸リチウム2水和塩0.1部(0.01モル部)を仕込んでメタノールを留去しながらエステル交換反応を行うことにより得られた低重合体に、トリメチルホスフェート0.065部とチタンテトラブトキシド0.134部を添加して、1,3−プロパンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のプレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、さらに220℃の温度で、窒素気流下で固相重合を行い、IV1.15、溶融粘度493[Pa・秒](測定温度260℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)229℃のポリトリメチレンテレフタレート(以下、3GTとする。)ペレットを得た。
【0158】
この3GTペレットを150℃の温度で10時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、250℃の温度で混練したこと以外は、同じ装置で同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度1437[Pa・秒](測定温度260℃、12.16[1/秒])の3GTとFBとの樹脂組成物(以下3GT−FB)のペレットを得た。ペレットにしなかった樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ101.65[Ω・cm]であった。
【0159】
この3GT−FBを用いて、比較例1で用いた同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度260℃としたこと以外は、同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で全く問題なく総繊度362dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取ることができた。紡糸性に全く問題はなく24時間の連続紡糸においても全く断糸は見られなかった。しかしながら、これより単繊維繊度の細い繊維は糸切れが頻発して得ることができなかった。
【0160】
得られた362dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは80℃で送糸速度320m/分、第2ローラーは140℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは25℃の温度で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下の温度(25℃)に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生せず延伸性は優れていた。糸物性を、表1に示す。
【0161】
[実施例1](ポリヘキサメチレンテレフタレートの製法、導電剤を添加したポリヘキサメチレンテレフタレート樹脂組成物の調製およびポリエステル繊維の製造)
テレフタル酸ジメチル194部(10モル部)、1,6−ヘキサンジオール212部(18モル部)およびチタンテトラブトキシド0.013部を仕込んで、メタノールを留去しながらエステル交換反応を行った。得られた低重合体を1,6−ヘキサンジオールを留去しながら、重縮合反応を行い、チップ状のIV1.03、溶融粘度373[Pa・秒](測定温度170℃、12.16[1/秒])、融点(Tm)148℃のポリヘキサメチレンテレフタレート(以下、6GTとする。)ペレットを得た。
【0162】
この6GTペレットを、120℃の温度で10時間真空乾燥した後、比較例1と同様の混練において、200℃の温度で混練したこと以外は、比較例1と同じ装置で、同じFB種、FB添加量(25重量%)など同様のものを採用して、溶融粘度2010[Pa・秒](測定温度260℃、12.16[1/秒])の6GTとFBとの樹脂組成物(以下、6GT−FBとする。)のペレットを得た。ペレットにしなかったポリエステル樹脂組成物のガットについて(平均)比抵抗値を測定したところ、101.72[Ω・cm]であった。
【0163】
この6GT−FBを用いて、比較例1で用いたものと同じエクストルーダ型溶融紡糸機で、紡糸温度200℃としたこと以外は、比較例1と同様の条件で紡糸実験を行ったところ、1000m/分の引取速度で全く問題なく、総繊度360dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取ることができた。この紡糸性に全く問題はなく、12時間の連続紡糸においても全く断糸は見られなかったため、更に単繊維繊度の小さい(細い)繊維について紡糸を行ったところ、全く問題なく、総繊度241dtex、フィラメント数24本の未延伸糸を巻き取ることができた。
【0164】
得られた、単繊維繊度の小さい241dtex−24フィラメントのマルチフィラメントについて延伸を行うに際し、送糸ローラーの送糸速度320m/分、第1ローラーは70℃の温度で送糸速度320m/分、第2ローラーは120℃の温度で送糸速度800m/分、第3ローラーは25℃の温度で送糸速度792m/分(1%リラックス)として繊維に延伸、リラックスおよび熱処理を施した後、冷ローラーで糸をポリエステルのTg以下の温度(25℃)に冷却した後に巻き取った。延伸中にローラーへの単糸巻き付き等の問題は全く発生せず<延伸性は優れていた。糸物性を、表1に示す。
【0165】
【表1】

【0166】
[実施例2〜11]
実施例1において、表1のとおりに、FBの量(実施例2〜8)、導電剤の種類(実施例9、電気化学工業社製アセチレンブラック;“デンカブラック”(登録商標)、タイプHS−100、比抵抗値0.22[Ω・cm];以後ABとする。実施例10:カーボンナノチューブ;以後CNTとする。実施例11:アンチモン酸化物を含有(ドープ)した錫酸化物をコーティングしてなる酸化チタン粒子;以後白色粒子とする。)、単繊維繊度(実施例11)、を変更したこと以外は、実施例1と同様の製糸条件にて、紡糸工程においては同一単繊維繊度(実施例11以外)となるようにして、また延伸条件に関しては、実施例1と同様にしてポリエステル繊維を得た。導電剤の種類や単繊維繊度が変わっても、製糸性は問題なかった(実施例9〜11)。また、導電剤の含有量が増大するにつれ、ポリエステル樹脂組成物は安定して得られるものの、得られるポリエステル繊維の物性は、導電性は向上するものの、その他の物性は低下する傾向にある。また、導電剤が非常に高濃度(50重量%;実施例7)では得られた繊維自体は高い導電性能を有していたものの、溶融紡糸において、やや糸切れか起こり易い傾向が見られた。糸物性を、表1および表2に示す。
【0167】
【表2】

【0168】
[実施例12〜14]
2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で、鞘成分が実施例1で用いたFBを25重量%含有する6GT(以下、6GT−FB)を用いて(実施例12と13)、または実施例9で用いたABを25重量%含有する6GT(以下、6GT−AB)を用いて(実施例14)、また芯成分が表3に示す各種繊維形成能を有するポリマー(実施例12:東レ株式会社製ポリテトラメチレンテレフタレート(タイプ1100SS、融点(Tm)225℃、以後PBTと称する。実施例13:東レ・デュポン社製ポリエーテル共重合ポリブチレンテレフタレート;“ハイトレル”(登録商標)タイプ4057;以後ハイトレルと称する。実施例14:6GT)からなる図1に示す芯鞘型の複合繊維(ポリエステル樹脂組成物を鞘に配置)を得る複合紡糸を、紡糸温度を実施例12は240℃、実施例13と14は200℃として、それぞれ溶融紡糸を行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行い、得られた繊維を巻き取った。得られたポリエステル繊維を更に延伸するに際し、実施例12については第1ローラーを80℃の温度とし、第2ローラーを130℃の温度とし、実施例13と14については、実施例1と同様のローラー温度設定としたこと以外は、全て実施例1と同様の延伸条件で、表3に示すポリエステル繊維を得た。実施例1〜6と同様に、導電性および糸物性の優れた繊維が得られた。
【0169】
[実施例15〜17]
実施例12〜14と同様に、2軸エクストルーダ(軸長L/軸径D=35)を2台備えたエクストルーダ型複合溶融紡糸機で、図2に示す芯鞘型複合繊維(ポリエステル樹脂組成物を芯に配置)の溶融紡糸を行うに際し、芯成分として、実施例9で用いた6GT−ABを用いて(実施例15と16)、または実施例5で用いたFBを35重量%含有する6GT(以下6GT−FB2)を用いて(実施例17)、また鞘成分が表3に示す各種繊維形成能を有するポリマー(実施例15:PBT,実施例16:ハイトレル、実施例17:6GT)からなる複合繊維を得る複合紡糸を、紡糸温度を実施例15は240℃、実施例16と17は200℃として、それぞれ溶融紡糸を行った以外は、実施例1と同様の方法で溶融紡糸を行いポリエステル繊維を巻き取った。得られたポリエステル繊維を更に延伸するに際し、実施例15は実施例12と同じ条件で延伸を行って、また実施例16と17については実施例1と同様の延伸条件で、表3に示すポリエステル繊維を得た。繊維表層にポリエステル樹脂組成物が配置されていない(導電性を担う層が繊維表面に露出していない)ことから、導電性は実施例1〜6に比べてやや低いものの、良好な導電性繊維が得られた。
【0170】
[実施例18]
実施例12〜17と同様の複合紡糸を行う際に、図3に示すような、6GT−FB2を繊維表層に3箇所持つように配設し、繊維形成能を有するポリマーとして“ハイトレル”(登録商標)を用いて、紡糸温度200℃で複合紡糸を行ったこと以外は、実施例16と同様の溶融紡糸および同様の延伸条件で延伸を行い、表3に記載の物性を有するポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維の導電性斑(比R)は、実施例12〜17と比較して若干大きくなるものの良好な導電性を有する繊維が得られた。
【0171】
[実施例19]
実施例1と同様の溶融紡糸を行う際に、6GT−FB:“ハイトレル”(登録商標)=40:60の体積割合となるように、あらかじめペレットの状態でドライブレンドしたものを用いて、エクストルーダ型溶融紡糸機で200℃の温度の溶融紡糸条件としたこと以外は、実施例13と同様の条件で溶融紡糸を行って未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を、実施例13と同様の延伸条件で延伸し、表3に記載の物性を有するポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維は、良好な導電性を有していた。
【0172】
【表3】

【0173】
[実施例20]
実施例1〜6、実施例8〜14、16、18および19において得られたポリエステル繊維を用いて、各ポリエステル繊維をそれぞれ平均繊維長が0.5、1.0および2.0mmの長さの短繊維に切断した後、日産化学工業株式会社製コロイダルシリカ“スノーテックスOS”(登録商標)で処理した後、東レ株式会社製ポリエステルフィルム“ルミラー”(登録商標)QT33(厚さ100μm)の片面に、大日本インキ化学工業株式会社製アクリル酸エステル系接着剤DICNAL K−1500(K−1500の100重量%に対し、増粘剤としてDICNAL VS−20を2重量%使用;以下、接着剤Aと称することがある。)を約100μmの厚さで塗布し、接着剤Aを塗布したフィルムの片面に電気植毛加工を施し、植毛体を作製した。植毛性(植毛の成功の度合い)については、ほぼ直立している(2重丸◎)、寝ている繊維が少し見られる(○)、半数程度繊維が寝ている(△)、直立しているものが少ない(×)と視覚的に判断して評価したところ、全てにおいて2重丸◎と優れていた。
【0174】
また、実施例1〜6および実施例8〜19において得られたポリエステル繊維それぞれを用いて撚糸加工を施した後、パイル織物とシングルトリコット編物を各々作成し、起毛処理したものをそれぞれ作成し、前記と同様に、接着剤Aを用いて前記のポリエステルフィルムに接着して、それぞれ布帛複合体を作製した。前記と同様に、起毛性は全て優れていた。
【0175】
[実施例21]
実施例1、5、6、9および12で作製したポリエステル繊維を、経糸および緯糸に用いて、織り密度150本/インチで平織の織物を作製し、長さ20cm、幅5cmとなるように両端に電極を設けた長さ20cmの布帛物体を配線物と見なし、その両電極に100Vの電圧をかけたところ、それぞれ1.8℃/分、3.6℃/分、5.1℃/分、2.7℃/分および1.4℃/分の昇温速度で温度が上昇する発熱体が得られた。
【0176】
[実施例22]
実施例1、5、6、9、10、11、12、17、18および19において得られたポリエステル繊維を用いて、平均繊維長が2mmの短繊維を作製した。実施例16の接着剤Aを用いて、SUS304からなる導電性カーボンブラックを5%添加したウレタン製中間層(厚さ1.5mmで金属棒端部2cmを残して覆った物)を設けた金属棒状物体Aに、上記の短繊維を前記中間層部分のみに電気植毛加工を施して、未接着短繊維を各々棒状物体から掃きとった後、ブラシローラーを得た(A1、A5、A6、A9、A10、A11、A12、A17、A18およびA19)。また、実施例1〜6および8〜19を用いて、実施例20と同様に撚糸加工したものを用いてパイル織物を作製して、パイルを起毛させて、更にその起毛したパイル織物を1cm幅のスリット状にしたものを、前記の金属棒状物体Aに巻き付けて、ブラシローラー(Br1〜Br6およびBr8〜Br19)を得た。
【0177】
[実施例23]
実施例22において得られたブラシローラーのうち、Br1、Br3、Br4、Br5、Br6、Br9、Br12、Br13およびBr14のブラシローラーを、清掃装置にそれぞれ組み込んで配設したモノクロレーザープリンターを用いて、1分間あたり10枚印刷・排出の長時間連続印刷を行い、プリンター中の湿度変化と共に印刷性を確認した。印刷開始1000枚程度で、プリンター中の湿度は初期の65%から43%まで低下し、さらに10000枚程度印刷した時点では35%まで低下した。しかしなから、印刷枚数が20000枚を超えた時点であっても印刷の鮮明性およびトナー除去性などは優れていた。また、ブラシローラーのうち、Br1、Br5、Br6、Br12、Br13およびBr14のブラシローラーについて、帯電装置にそれぞれ組み込んで同様に検討したところ、やはり印刷枚数が30000枚を超えた時点であっても印刷の鮮明性は優れていた。
【0178】
「実施例24」
実施例1〜6および8〜19において得られたそれぞれのポリエステル繊維を用いて、1つはこれらの繊維を緯糸のみに用い、経糸には、ポリエチレンテレフタレートからなる総繊度75dtexで36本の単繊維横断面が丸形状のマルチフィラメント延伸糸を用いた平織物からYシャツを作製した(衣料X1〜衣料X6および衣料X8〜衣料X19)。他の1つは経糸および緯糸全てに実施例1〜6および8〜19において得られたポリエステル繊維を用いて平織したものからYシャツを作製した(衣料Y1〜衣料Y6および衣料Y8〜衣料Y19)。無作為に選んだ男性10名のモニター着衣テストを行ったところ、衣料X1〜衣料X6、衣料X8〜衣料X19、衣料Y1〜衣料Y6および衣料Y8〜衣料Y19の全てにおいて、全員が、着衣すると冷たく感じる(接触冷感がある)と回答し、衣料X1、衣料X5、衣料X6、衣料Y1、衣料Y5および衣料Y6の6つについては、全員が、着衣すると非常に冷たく感じる(接触冷感を強く感じる)と回答した。
【0179】
[実施例25]
実施例1、5、6、9、10、11、12、17、18および19で得られたポリエステル繊維を用いて、これら繊維が10重量%含まれるナイロン6から主として形成される大きさ1m×1mのカーペットを作製した。そのカーペット上で、導電加工等を施していない合成皮革からなる革靴を履いて、温度23℃、湿度55%の雰囲気下で足踏みを100回行った後、カーペットの上に乗ったまま金属製のドアノブに触れる実験を行ったところ、全てにおいて、静電気の放電は起こらなかった。
【0180】
上記のことから、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物は、非常に優れた導電性を有するポリエステル繊維を用いることから、織物全体にポリエステル繊維を用いる場合はもとより、織物の一部にポリエステル繊維を用いた場合であっても、優れた導電性能あるいは電気を逃がすことのできる静電性能を有する織物となる。そのため、各種資材用途、例えば幕やカーテン、人体の静電気が発生しやすい自動車、鉄道、航空機など乗り物のシート、壁材や敷物、布団、毛布、敷布などの寝具などに用いることができる。
【0181】
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる編物は、前述の織物と同様に導電性能あるいは静電性能を有する編物となるため、各種資材用途、例えば建物の壁材や絨毯などの敷物、自動車、鉄道航空機などの乗り物のシート、壁材、敷物乗り物用シートあるいはその敷物、布団、毛布、敷布などの寝具などに用いることができる。
【0182】
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる不織布は、前述の織物や編物と同様に導電性あるいは静電性能を有する不織布となるため、織物や編物の用途と同様の資材として用いることができる他に、厚みが必要な、例えば隔壁材や梱包物、クッションなど静電気の発生を嫌う装置、部屋の周辺部材用資材として広く用いることができる。
【0183】
また、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維や、織物、特にパイル織物や編物あるいは不織布の更に別の用途としては、これらを用い、基盤に植設することにより植毛体あるいは布帛複合体となすことができる。これらの植毛体や布帛複合体は、導電性あるいは制電性に優れることから、手触りの優れるものとして様々な内装材となり得る。
【0184】
また、本発明のポリエステル繊維は、導電性に優れることから配線物を形成することができる。例えば、各種動作をする、例えば微弱な電気で反応し得る人工筋肉のようなアクチュエーターの回路の一部として用いることができる。あるいは配線物から発熱体を形成することができ、これは、導電性に優れかつ導電性斑の小さな本発明のポリエステル繊維を用いていることから、所望の導電性能に制御したものを用いるだけで、発熱効率の良い発熱体が得られる。また、発熱体を使用するであろう主に冬季においては低温低湿度であるが、本発明のポリエステル繊維は、温湿度依存性がないもしくは非常に小さいことから、冬季においても安定した導電性能を発揮し、非常に優れた発熱体となる。
【0185】
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる衣料は、導電性に優れたポリエステル繊維を用いることから、着衣時の静電気発生を抑制し、体外に逃がすことができる。したがって、特に静電気の発生を嫌う半導体産業の作業着や静電気が発生し難いことから埃を寄せ付けないため防塵衣として用いた場合に有用である。また、導電剤が熱伝導性に優れているため、体外に熱を放散することができる接触冷感衣類や、逆に冷えた身体に直ぐに体外からの熱を取り込みうる接触温感衣類などとしても有用である。例えば、これらの機能が必要とされるゴルフウェア、ゲートボール、野球、テニス、サッカー卓球、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、ホッケー、陸上競技、トライアスロン、スピードスケートおよびアイスホッケーなどのユニフォームなどのスポーツ衣料や、幼児、婦人、年輩者の衣料、その他にも靴、カバン、サポーター、靴下、登山着などのアウトドア衣料などに好適に用いられる。
【0186】
また、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる織物および/または編物および/または不織布を少なくとも一部に用いて接着してなるポリエステル繊維ブラシローラーは、導電性を有する繊維を少なくとも一部に用いることから、電気的作用を利用することにより効率的に不要物を除去あるいは必要とされる物質を付与する機能を有する。
【0187】
また、本発明のポリエステル繊維からなる短繊維を用いてなるポリエステル繊維ブラシローラーは、導電性を有する繊維を少なくとも一部に用いることから、電気的作用を利用することにより効率的に不要物を除去あるいは必要とされる物質を付与する機能を有する点で優れている。また、短繊維の繊維長を制御することにより、ブラシローラーの繊維植設密度あるいは繊維ブラシローラーの除去性能あるいは付与性能を、目的に応じて容易に制御できる点でも優れている。特に、植設される棒状物体が主として金属からなる場合は、本発明のポリエステル繊維の導電性を制御することによって、繊維ブラシローラー自体の導電性(比抵抗値)を制御することが可能であり、さらに棒状物体が金属および金属の少なくとも一部を覆う中間層とからなる場合には、中間層の材質や厚さなどを制御することによりクッション性を付与し得る。したがって、繊維ブラシローラー自体の除去性能あるいは付与性能を格段に向上せしめることができる。
【0188】
また、本発明の前記ポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる清掃装置は、ブラシローラー自体が回転することにより、不要物を除去し清掃する場合には非常に除去性能に優れている。例えば、電子写真装置などでは、トナーなどを電気的に除去し得る際に電子写真装置内の環境変化、特に湿度変化などがあった場合にも、ブラシローラーの導電性能が変動することがないため、常に安定した除去性能を有している。また、本発明のブラシローラーは、清掃装置において、対象となる物質、例えば電子写真装置においては感光体に直接接触して清掃を行う他にも、清掃活動を行う部材自身から不要物を除去して清掃装置自体を清掃するための部材としても有用であり、結果的に高性能な清掃装置となる。
【0189】
また、本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる帯電装置は、ブラシローラー自体の導電性(比抵抗値)を制御することにより用いられる。例えば、電子写真装置などで感光体を一様に帯電させるブラシローラーとして用いられる際に、感光体を均一に帯電させることができる。また、電子写真装置内の環境変化、例えば電子写真装置の稼働中あるいは季節変化による湿度変化に対しても、ブラシローラー自体の比抵抗値は変化しないもしくは非常に変化が小さいため、感光体の帯電斑が発現しにくい。また、電子写真装置の感光体に清掃が不十分なために残存した着色剤(トナー)があった場合に、ブラシローラーは清掃ローラーとしての機能を兼ねることができるため、現像あるいは印刷時の汚染がないかもしくは殆どない。加えて、電子写真装置を小型化する場合には、清掃装置および帯電装置を個別に設置せずに、清掃装置兼帯電装置としてブラシローラーのみで適用し得る。
【0190】
また、本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる現像装置は、帯電装置での効果と同様にブラシローラー自体の導電性を駆使して用いられるものである。例えば、電子写真装置等で感光体に描かれた静電潜像にトナーを付着させる際に、湿度変化などの環境変化の際のブラシローラー自体の比抵抗値斑は全くないかもしくは殆どない。したがって、トナーが均一に感光体に供給されて顕像化し、得られた現像物あるいは印刷物は、汚染のないもしくは汚染が殆どない非常に美しいものとなる。
【0191】
また、本発明のポリエステル繊維ブラシローラーを用いてなる除電装置は、繊維中に含有される導電性カーボンブラックの含有量を制御してブラシローラーの導電性(比抵抗値)を小さくすることにより、非常に優れた除電性能を有するブラシローラーとなる。特に、電子写真装置に用いる際には、無数の毛(繊維)からなるブラシローラーが安定かつ均一な除電効果を有していることから、除電装置のあとに配設される清掃装置での清掃効果をより高めることが可能である。また、電子写真装置を小型化する場合には、ブラシローラーを用いることにより除電装置兼清掃装置として組み込むことができ、非常に優れている。
【0192】
さらに、本発明のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる清掃装置および/または帯電装置および/または現像装置および/または除電装置を用いてなる電子写真装置は、電子写真装置内の環境変化によらず安定した清掃・帯電・現像・除電性能を有していることから、得られた印刷あるいは現像物は非常に美しいものとなる。このような装置としては、レーザービームプリンター、複写機、ファクシミリ、多機能型複合機、ワードプロセッサーなどの帯電した感光体にレーザーで潜像を描きトナーを用いて顕像化するメカニズムにより現像あるいは印刷を行う装置等が挙げられる。
【0193】
また、繊維ブラシローラーに用いられる繊維長や、含有する導電性カーボンブラックの含有量などを最適化することにより、より安定した清掃・耐電・現像・除電性能を有することができる。そのため、電子写真装置の駆動速度をより高めること、すなわち単位時間あたりの印刷あるいは現像速度(枚数)を高めることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0194】
本発明のポリエステル繊維およびそれを用いた繊維製品は、優れた導電性が要求される種々の用途、湿度変化等に対して安定した導電性が要求される種々の用途、さらには他の性能、例えば、除電性能や帯電性能が要求される種々の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0195】
【図1】図1は、実施例12〜14で得られたポリエステル繊維の概略構成を示す断面図である。
【図2】図2は、実施例15〜17で得られたポリエステル繊維の概略構成を示す断面図である。
【図3】図3は、実施例18で得られたポリエステル繊維の概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0196】
1:ポリエステル樹脂組成物
2:繊維形成能を有するポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有するポリエステル樹脂組成物を構成成分として含む繊維であって、その平均抵抗率Pが1.0×1012[Ω/cm]以下であることを特徴とするポリエステル繊維。
【請求項2】
ポリエステル樹脂組成物中の導電剤の体積平均粒径Dvが1.50μm以下である請求項1記載のポリエステル繊維。
【請求項3】
ポリエステル樹脂組成物が繊維表面の少なくとも一部を形成している請求項1または2記載のポリエステル繊維。
【請求項4】
繊維表面が全て、ポリエステル樹脂組成物で覆われてなる請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項5】
単繊維繊度が4.5dtex以下である請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項6】
初期引張弾性率が10〜40cN/dtexである請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル繊維。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載のポリエステル繊維を少なくとも一部に用いてなる繊維製品。
【請求項8】
主たる繰り返し構造単位がヘキサメチレンテレフタレートからなるポリエステルと導電剤を含有する樹脂組成物であって、その比抵抗が1.0×1010[Ω・cm]以下であることを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
【請求項9】
導電剤を1重量%以上60重量%以下含有する請求項8記載ポリエステル樹脂組成物。
【請求項10】
導電剤が導電性ファーネスブラックおよび/または導電性アセチレンブラックである請求項8または9記載のポリエステル樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−120990(P2009−120990A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−296273(P2007−296273)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】