説明

ポリエステル樹脂組成物

【課題】難燃性、衝撃性、インキ密着性、離型性に優れる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)ポリシロキサン、(C)脂肪酸エステル、(D)臭素化エポキシ化合物、(E)アンチモン化合物、(F)ガラス繊維の合計を100重量%として、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂30〜50重量%、(B)特定のポリシロキサン0.01〜1重量%、(C)脂肪酸エステル0.01〜1重量%、(D)臭素化エポキシ化合物5〜20重量%、(E)アンチモン化合物1〜10重量%、(F)ガラス繊維10〜40重量%を配合してなる熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物に関し、さらに詳しくは、難燃性、成形時の離型性、インキの密着性に優れた樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリエステル樹脂は、優れた耐熱性、成形性、耐薬品性及び電気絶縁性などエンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、射出成形用を中心として各種自動車部品、電気部品、機械部品及び建設部品などの用途に使用されている。
しかしながら、ポリエステル樹脂単体では射出成形時の離型性が悪いことから、その欠点を回避するべく、通常、離型剤を添加している。しかし、成形品にインキで文字、図等をつける際、離型剤の添加量が多すぎたり、離型剤の種類により、インキの密着性が十分発現しないことがあった。
【0003】
ポリエステル樹脂に離型剤を添加してなる樹脂組成物は、例えば、特許文献1に記載されているようにポリエステルにエポキシ官能基を有するオルガノシロキサンを添加してなるポリエステル系樹脂組成物、特許文献2に記載されているように熱可塑性樹脂にポリオルガノ水素シロキサンを添加してなる樹脂組成物、また、特許文献3に記載されているようにポリブチレンテレフタレートにモンタン酸部分ケン化エステルを添加してなる樹脂成形体が提案されている。
【特許文献1】特開平6−128468号公報
【特許文献2】特開平7−258554号公報
【特許文献3】特開平6−128464号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載された樹脂組成物はインキ密着性の効果はある程度発現するが、離型剤の効果が十分発現せず、成形時の離型不良を招く問題点を有している。また、特許文献3に記載された樹脂成形体はモンタン酸エステルの効果により、成形時の離型抵抗は十分下げることができるが、インキ密着性が十分に発現しないという問題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等はかかる従来技術の有する問題点を解決すべく鋭意研究した結果、本発明を完成したものである。その目的とするところ、難燃性、成形時の離型性、インキの密着性に優れた樹脂組成物を得ることである。
【0006】
すなわち、本発明は、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)下記式(1)で表されるポリシロキサン、(C)脂肪酸エステル、(D)臭素化エポキシ化合物、(E)アンチモン化合物および(F)ガラス繊維を配合してなり、前記(A)〜(F)の合計を100重量%として、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂30〜60重量%、(B)ポリシロキサン0.01〜1重量%、(C)脂肪酸エステル0.01〜1重量%、(D)臭素化エポキシ化合物5〜20重量%、(E)アンチモン化合物1〜10重量%および(F)ガラス繊維10〜40重量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。である。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rはアルキル基を示し、xおよびyは1〜1000の整数を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、難燃性、高衝撃性、インキ密着性、離型性に優れた樹脂組成物であり、かかる特性を活かして、電気、電子部品としてケース類、カバー類、定着機部品、電装部品などに使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明で用いる熱可塑性ポリエステル樹脂(A)としては、ジカルボン酸(あるいは、そのエステル形成誘導体)とジオール(あるいは、そのエステル形成誘導体)とを主成分とする重縮合反応によって得られる重合体ないしは共重合体などが使用できる。
【0012】
上記ジカルボン酸としてテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,2′−ビフェニルジカルボン酸、3,3′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ビフェニルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4′−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4′−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4′−ジカルボン酸、2,5−アントラセンジカルボン酸、2,6−アントラセンジカルボン酸、4,4′−p−ターフェニレンジカルボン酸、2,5−ピリジンジカルボン酸などが挙げられ、テレフタル酸が好ましく使用できる。
【0013】
これらのジカルボン酸は2種以上を混合して使用してもよい。なお、少量であればこれらのジカルボン酸とともにアジピン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸を一種以上混合して使用することができる。
【0014】
また、ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族ジオールなど、およびそれらの混合物などが挙げられる。なお少量であれば、分子量400〜6,000の長鎖ジオール、すなわち、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを1種以上共重合せしめてもよい。
【0015】
これらの重合体ないし共重合体の好ましい例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4′−ジカルボキシレートなどのほか、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレートなどの共重合ポリエステルが挙げられる。これらのうちポリブチレンテレフタレートが好ましく使用できる。またこれら熱可塑性ポリエステル樹脂は、0.5%o−クロロフェノール溶液で25℃で測定したときの相対粘度が、0.5〜2.0の範囲にあるものが好ましい。上記範囲であると機械的特性にすぐれ、かつ成形性にすぐれた組成物が得られる。
【0016】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)とは、テレフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、イソフタル酸などから選ばれた少なくとも1種の酸成分と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコールあるいはポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコールなどから選ばれた少なくとも1種のジオール成分との重縮合によって得られるものであり、具体的にはポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリヘキシレンテレフタレート(PHT)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキサン―1,4―ジメチロールテレフタレートなどのほか、ポリエチレンテレフタレート・イソフタレート(PET/I)、ポリブチレンテレフタレート・イソフタレート(PET/I)などのような共重合ポリエステルなどを挙げることができる。
【0017】
熱可塑性ポリエステル樹脂(A)の配合量は(A)〜(F)の合計を100重量%として、30〜60重量%であり、好ましくは35〜55重量%、より好ましくは40〜53重量%である。配合量が30重量%未満であると樹脂成分が少なく、材料が脆くなり、また、60重量%を越えると難燃性が十分に発現しない。
【0018】
本発明で使用するポリシロキサン(B)とは下記の式(1)に示される構造のものである。
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、Rはアルキル基を示し、xおよびyは1〜1000の整数を表す。)
【0021】
具体的には、Rは炭素数1〜10の低級アルキルが好ましく、xおよびyは各1〜100が好ましい。本発明で使用する好ましいポリシロキサン(B)の具体例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサンとポリメチルエチルシロキサンのブロック共重合体、ポリジメチルシロキサンとポリメチルプロピルシロキサンのブロック共重合体などが挙げられる。
【0022】
このポリシロキサン(B)を使用とインキ密着性が低下し、成形品の表面状態が悪化し、機械特性が低下する。することにより、成形品離型時の滑り性とインキ密着性という相互に相反する特性を同時に十分に発現することができる。また、ポリシロキサン(B)のASTM D445オストワルド粘度計で測定された粘度は500〜2000mm/s、好ましくは1000〜1500mm/s、さらに好ましくは、1200〜1400mm/sである。粘度が500mm/sより小さいとポリシロキサンが成形品表面に過剰に浮き出る現象がおき、インキ密着性が悪化する場合がある。粘度が2000mm/sであると、樹脂中にポリシロキサンが十分分散せずに、離型時の滑り性が低下する場合がある。ポリシロキサン(B)の配合量は(A)〜(F)の合計を100重量%として、0.01〜1重量%であり、好ましくは0.1〜0.8重量%、より好ましくは0.2〜0.5重量%である。配合量が0.01重量%未満であると十分な離型性が発現しない。また、1重量%を越える。
【0023】
本発明に用いる脂肪酸エステル(C)を形成する脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、ラクセル酸などを挙げることができる。脂肪酸残基の炭素数が12未満であると、揮発しやすくなり、金型汚れの原因となるおそれがある。脂肪酸残基の炭素数が36を超えると、離型性を向上する効果が十分に発現しないおそれがある。本発明に用いる脂肪酸エステルを形成するアルコールとしては、一価アルコール、二価アルコール及び三価以上の多価アルコールを使用することができる。このようなアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコールなどの一価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールプロパンなどの三価アルコール、ペンタエリスリトール、エリスリトールなどの四価アルコールなどを挙げることができる。アルコール残基の炭素数が36を超えると、離型性を向上する効果が十分に発現しないおそれがある。
【0024】
本発明に用いる脂肪酸エステルの製造方法に特に制限はなく、例えば、脂肪酸とアルコールとを原料として、硫酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸などの酸触媒を用いてエステル化をすることができ、脂肪酸塩化物とアルコールの反応により得ることができ、あるいは、脂肪酸エステルを形成するアルコールが高沸点のアルコールである場合は、脂肪酸の低級アルキルエステルと高沸点のアルコールの間でエステル交換反応を行うことによっても製造することができる。
【0025】
本発明に用いる脂肪酸エステルとしては、例えば、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、ベヘン酸メチル、モンタン酸メチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、ベヘン酸エチル、モンタン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、パルミチン酸オクチル、ステアリン酸オクチル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジモンタネート、プロピレングリコールモノラウレート、プロピレングリコールモノステアレート、1,3−プロパンジオールジラウレート、1,3−プロパンジオールジステアレート、1,3−プロパンジオールジモンタネート、1,4−ブタンジオールジラウレート、1,4−ブタンジオールジステアレート、1,4−ブタンジオールジモンタネート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノモンタネート、グリセリンジパルミテート、グリセリンジステアレート、グリセリンジオレエート、グリセリントリステアレート、グリセリントリオレエート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジパルミテート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリパルミテート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレートなどを挙げることができる。これらのうちで、モンタン酸エステルが好ましく用いられ、モンタン酸エチルがさらに好ましく用いられる。
【0026】
また、これら脂肪酸エステルにモンタン酸金属塩を部分ケン化したものでも有効である。その金属塩はモンタン酸ナトリウム、モンタン酸カルシウム、モンタン酸リチウムなどが挙げられる。
【0027】
脂肪酸エステル(C)の配合量は(A)〜(F)の合計を100重量%として、0.01〜1重量%であり、好ましくは0.1〜0.8重量%、より好ましくは0.2〜0.5重量%である。配合量が0.01重量%未満であると十分な離型性が発現しない。また、1重量%を越えるとインキ密着性が低下し、成形品の表面状態が悪化し、機械特性が低下する。
【0028】
本発明では臭素化エポキシ化合物(D)としては、テトラブロモビスフェノールAを出発原料としたものが好ましく用いられる。分子量としては2000〜7000のである臭素化エポキシを使用することが好ましい。2000未満であると機械特性が著しく低下する。また、7000を超えると樹脂の流動性を低下させてしまう。臭素系エポキシ化合物にトリブロモフェノールで末端封鎖したものを使用することも可能である。臭素化エポキシ化合物(D)の配合量は(A)〜(F)の合計を100重量%として、5〜20重量%であり、好ましくは7〜18重量%、より好ましくは10〜15である。熱可塑性ポリエステル樹脂量により難燃性を発現するために必要な量は変化するが、5重量%未満では十分な燃焼性を発現できない。また、配合量が20重量%を超えると衝撃性が著しく低下する。
【0029】
アンチモン化合物(E)とは、臭素化エポキシ化合物と併用することによって、相乗的に難燃性を向上させることができるもので、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ソーダおよびリン酸アンチモン、アンチモン酸金属塩などのアンチモン化合物が例示され、表面処理などが施されているアンチモン化合物も使用できる。中でも三酸化アンチモンが適している。
【0030】
アンチモン化合物(E)の配合量は(A)〜(F)の合計を100重量%として、1〜10重量%であり、好ましくは2〜9重量%、より好ましくは3〜8重量%である。1重量%未満では十分な燃焼性を発現できない。また、配合量が10重量%を超えると衝撃性が著しく低下する。
【0031】
ガラス繊維(F)としては公知のガラス繊維を使用することが可能である。繊維径としては特に限定されないが9〜15μmが好ましい。好ましい具体例としては日本電気硝子(株)社製T−120,T−187,T−187Hなどが挙げられる。(C)ガラス繊維の配合量は(A)〜(F)の合計を100重量%として、10〜40重量%であり、好ましくは20〜35重量%、より好ましくは25〜30重量%である。ガラス繊維を入れることにより、十分な剛性を発現できる。また、配合量が40重量%を越えると比重が高くなり、好ましくない。
【0032】
本発明のポリエステル系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、強化材、充填剤、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、離型剤、難燃剤などの通常の添加剤および少量の他種ポリマーを添加することができる。
【0033】
本発明ではガラス繊維の他にも本発明の目的を阻害しない限りにおいて強化材、充填材を付与することができる。例としては炭素繊維、アスベスト繊維、岩綿、炭酸カルシウム、ケイ砂、ベントナイト、カオリン、クレー、ワラステナイト、硫酸バリウム、ガラスビーズ、マイカ等が挙げられる。
【0034】
酸化防止剤の例としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート等のフェノール系化合物、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、ジミリスチル−3,3’−チオジプロピオネート等のイオウ系化合物、トリスノニルフェニルホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系化合物等が挙げられる。
【0035】
安定剤としては、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを含むベンゾトリアゾール系化合物、ならびに2,4−ジヒドロキシベンゾフェノンのようなベンゾフェノン系化合物、モノまたはジステアリルホスフェート、トリメチルホスフェートなどのリン酸エステルなどを挙げることができる。
【0036】
これらの各種添加剤は、2種以上を組み合わせることによって相乗的な効果が得られることがあるので、併用して使用してもよい。
【0037】
なお、例えば酸化防止剤として例示した添加剤は、安定剤や紫外線吸収剤として作用することもある。また、安定剤として例示したものについても酸化防止作用や紫外線吸収作用のあるものがある。すなわち前記分類は便宜的なものであり、作用を限定したものではない。
【0038】
他種ポリマとしては、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、PPS樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどを添加することができる。
【0039】
本発明のポリエステル系樹脂組成物の製造方法については通常知られている方法で実施すればよく、特に限定する必要はない。代表例として、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなど、公知の溶融混合機を用いて、200〜350℃の温度で溶融混練する方法を挙げることができる。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。あるいは(A)〜(F)の合計量100重量部に対し、例えば1重量部以下であるような少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加することもできる。なお、各成分に付着している水分は少ない方がよく、予め事前乾燥しておくことが望ましいが、必ずしも全ての成分を乾燥させる必要がある訳ではない。
【0040】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形、真空成形など一般に熱可塑性樹脂の公知の成形方法により成形されるが、なかでも射出成形が好ましい。
【0041】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、難燃性、衝撃性、離型性、インキ密着性に優れた樹脂組成物であり、かかる特性を活かして、電気、電子部品としてケース類(例えばコンデンサケース、冷却ファンのケース)、カバー類、定着機部品、電装部品などに使用することができる。
【実施例】
【0042】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。実施例及び比較例の評価は以下の方法により行った。
【0043】
(i)難燃性は棒状の試験片(125.0×13.0×0.72mm厚)を使用した。成形後、23℃、50%RH環境下で24h放置後、UL94に従って測定した。試験は10本を行い、UL94に従って判定を行った。V0を合格、それ以外を不合格とした。
【0044】
(ii)衝撃強度はノッチ付きアイゾット衝撃強さを測定した。予め作成したASTM D256に従って試験片(63.5mm×12.7mm×3.2mm)を用い、10mm残るようにノッチを入れた後、成形後、23℃、50%RH環境下で24時間放置後、測定する。試験機は上島製作所製“U−Fインパクトテスター”を用いた。試験は10回実施し、個々の値を平均することによりノッチ付きアイゾット衝撃強さが求められる。50J/m以上を合格、50J/m未満を不合格とした。
【0045】
(iii)インキ密着性は80mm×80mm厚み3mmの角板作成し、その角板を100℃で100時間処理後、ボンマーク社製“ボン400”UVインキを10mm×10mm=100mmの四角のゴム印で捺印し、120℃水銀ランプ400Wで処理した後、セロハンテープによる剥離テストを実施して、捺印面積の何割が剥がれるかを調査した。20%未満を合格、20%以上を不合格とした。
【0046】
(iv)離型力は図1に記載した形状の金型1を使用し、射出成形機(日精60E9ASE)を使用して、シリンダー温度270℃、金型温度80℃でその離型力を測定し、比較した。離型力測定には、テクノプラス社製“ロードセル1C−1B”4を金型内に挿入し、歪み増幅器には、東洋ボールドウィン社製“MD−1031”、記録装置には、日置電機製“メモリーハイコーダ8840”を用いて、製品3をエジェクタピン2で突き出す際の離 型力を測定した。射出時間10秒、冷却時間10秒とした。220kgf以下を合格、220kgfを越すものを不合格とした。
【0047】
実施例1〜4
以下の(A)から(F)の配合材料を表1に示す組合せおよび配合量で樹脂組成物を製造した。
(A−a)ポリブチレンテレフタレート樹脂 固有粘度0.85 東レ(株)社製PBT樹脂“トレコン”1100S
(B−a)ポリシロキサン 末端アルキル基封鎖ジメチルポリシロキサン 東レ・ダウコーニング株式会社製 “SH230” 粘度 1400mm/s。
(B−b) エポキシ基含有ポリシロキサン 東芝シリコーン社製 “TSF4731” エポキシ当量190。
(B−c)ポリオルガノ水素シロキサン
東レ・ダウコーニング株式会社製 “SH1107” 粘度 20mm/s。
(C−a)クラリアントジャパン株式会社製 リコワックスOP
(D―a)臭素系難燃剤 臭素化エポキシ化合物 大日本インキ株式会社製“ECX30”
(E−a)アンチモン化合物 三酸化アンチモン 鈴裕化学株式会社製 “ファイヤーカットAT−3”
(F―a)繊維径13μm 繊維長さ3mmのガラス繊維(日本電気硝子社製T−187)。
【0048】
シリンダ温度250℃に設定したスクリュー径57mmφの2軸押出機を用いて、ガラス繊維(F−a)以外の原料を元込め部から、また、ガラス繊維(F−a)はサイドフィーダーから供給して溶融混練を行い、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化して各樹脂組成物を得た。得られた各樹脂組成物材料は、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、前記評価方法記載の方法を用いて成形し、評価を行なった。その結果を表1に併記した。得られた樹脂組成物は何れも、衝撃特性、難燃性、インキ密着性、離型力に優れた特性を有していた。
【0049】
比較例1
ポリシロキサン(B−a)をポリシロキサン(B−b)(エポキシ基含有ポリシロキサン)に変更する以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。その結果、離型力が大きくなり、離型性が悪化した。
【0050】
比較例2
ポリシロキサン(B−a)をポリシロキサン(B−c)(ポリオルガノ水素シロキサン)に変更する以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。その結果、離型力が大きくなり、離型性が悪化した。
【0051】
比較例3
脂肪酸エステル(C)を添加しない以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。その結果、離型力が大きくなり、離型性が悪化した。
【0052】
比較例4
ポリシロキサン(B)を添加しない以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。その結果、インキ密着性が悪化した。
【0053】
比較例5
ポリシロキサン(B)および脂肪酸エステル(C)の量を表1記載のように減らして変更する以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。その結果、インキ密着性は良好であったが、離型力が悪化した。
【0054】
比較例6
ポリシロキサン(B)および脂肪酸エステル(C)の量を表1記載の要に増やして変更する以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。その結果、離型性は向上したが、インキ密着性と衝撃強さが著しく低下した。
【0055】
比較例7
アンチモン化合物(E)を添加しない以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。その結果、難燃性が低下し、V2となった。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のポリエステル系樹脂組成物は、難燃性、高衝撃性、インキ密着性、離型性に優れるという特性を活かして、電気、電子部品としてケース類、カバー類、定着機部品、電装部品などに使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】離型性力を測定するための金型の(a)平面図および(b)側面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステル樹脂、(B)下記式(1)で表されるポリシロキサン、(C)脂肪酸エステル(D)、臭素化エポキシ化合物、(E)アンチモン化合物および(F)ガラス繊維を配合してなり、前記(A)〜(F)の合計を100重量%として、(A)熱可塑性ポリエステル樹脂30〜60重量%、(B)ポリシロキサン0.01〜1重量%、(C)脂肪酸エステル0.01〜1重量%、(D)臭素化エポキシ化合物5〜20重量%、(E)アンチモン化合物1〜10重量%および(F)ガラス繊維10〜40重量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

(式中、Rはアルキル基を示し、xおよびyは1〜1000の整数を表す。)

【図1】
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【公開番号】特開2008−138055(P2008−138055A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−324977(P2006−324977)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】