説明

ポリエステル樹脂

【課題】従来のフィルムと同等の色調を有し、さらに剥離性にも優れたフィルムとすることができるポリエステル樹脂を提供する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル100質量部と、シリカ0.5〜10質量部と、下記式(1)〜(4)を同時に満たす量のアンチモン化合物、リン化合物、およびマグネシウム化合物とを含有するポリエステル樹脂であり、ポリエステル樹脂中のシリカの平均粒子径が3〜10μmであるフィルム用ポリエステル樹脂。
(1)0.5×10−4≦[Sb]≦10×10−4
(2)0.5×10−4≦[P]≦25×10−4
(3)[P]/[Sb]≧0.5
(4)1×10−4≦[Mg]≦50×10−4
ここで、[Sb]、[P]、[Mg]は、それぞれ、ポリエステルを構成する酸成分1モルあたりのアンチモン原子、リン原子、マグネシウム原子のモル数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムの製造に適したポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、成形工程中の製品の表面保護を目的とした、いわゆる、「工程紙」として、広く用いられている。工程紙として用いるためには、工程終了後の剥離が容易であり、色調が良好であることが要求される。
【0003】
例えば、特許文献1には、マグネシウム塩、アルカリ金属塩、リン化合物、シリカを含有させたポリエステルフィルムが記載されている。しかしながら、特許文献1のポリエステルフィルムの色調は良好であるものの、工程紙として用いた場合、成形工程終了時に製品から剥離しにくいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭60−11529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる従来技術を鑑み、本発明は、良好な色調とともに剥離性にも優れたフィルムの製造に適したポリエステル樹脂を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討をおこなった結果、特定の平均粒子径のシリカと特定の金属化合物を特定量使用することで、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル100質量部と、シリカ0.5〜10質量部と、下記式(1)〜(4)を同時に満たす量のアンチモン化合物、リン化合物、およびマグネシウム化合物とを含有するポリエステル樹脂であり、ポリエステル樹脂中のシリカの平均粒子径が3〜10μmであるフィルム用ポリエステル樹脂。
(1)0.5×10−4≦[Sb]≦10×10−4
(2)0.5×10−4≦[P]≦25×10−4
(3)[P]/[Sb]≧0.5
(4)1×10−4≦[Mg]≦50×10−4
ここで、[Sb]、[P]、[Mg]は、それぞれ、ポリエステルを構成する酸成分1モルあたりのアンチモン原子、リン原子、マグネシウム原子のモル数を示す。
(2)(1)記載のポリエステル樹脂からなるフィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステルを用いて、色調と剥離性に優れたフィルムを提供することができる。また、本発明のポリエステル樹脂は、工業生産規模での連続製膜が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂は、ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルに対して、シリカ、アンチモン化合物、リン化合物およびマグネシウム化合物を含有させたものである。
【0010】
本発明において用いられるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートを主体とするものであり、他のモノマーが共重合されたものであってもよいし、他のポリエステルをブレンドしたものであってもよい。
【0011】
共重合する場合、酸成分100モル%に対して10モル%を超えない範囲で、他のジカルボン酸を共重合されていてもよく、アルコール成分100モル%に対して10モル%を超えない範囲で、他のグリコールが共重合されていてもよい。
【0012】
他のジカルボン酸としては、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、5−ナトリウムイソフタル酸等が挙げられる。これらは、そのエステル化物であってもよいし、その無水物であってもよい。
【0013】
他のグリコールとしては、炭素数2〜10のアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス(β−オキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加体、ポリアルキレングリコール等が挙げられる。
【0014】
ポリエチレンテレフタレートには、少量であれば、モノカルボン酸、モノアルコール、3官能以上のカルボン酸、3官能以上のアルコールが共重合されていてもよい。
【0015】
モノカルボン酸としては、フェニル酢酸、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。
モノアルコールとしては、オクチルアルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等が挙げられる。
3官能以上のカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等が挙げられる。
3官能以上のアルコールとしては、グリセロール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0016】
シリカは、特に限定されないが、ゲルタイプシリカが好ましい。ゲルタイプシリカは、粒度分布がシャープであり、フィルムの剥離性を効率よく向上させることができる。
【0017】
ポリエステル樹脂中において、シリカの平均粒子径は、3〜10μmとすることが必要であり、3〜8μmとすることが好ましく、4〜6μmとすることがより好ましい。シリカの平均粒子径が3μm未満であると、フィルム表面の凹凸が小さくなり、剥離性が低下するので好ましくない。一方、シリカの平均粒子径が10μmを超えると、製膜時に溶融押出機のフィルターが目詰まりして、濾過圧力が上昇し、連続して製膜することができないので好ましくない。
【0018】
原料のシリカの平均粒子径は、3〜10μmとすることが好ましい。原料のシリカの平均粒子径をこの範囲とすることで、フィルムの表面粗さを一定の範囲に制御することができる。
【0019】
シリカの含有量は、ポリエステル100質量部に対して、0.5〜10質量部とすることが必要であり、1〜8質量部とすることが好ましく、2〜5質量部とすることがさらに好ましい。シリカの含有量が0.5質量部未満であると、製膜した際に表面の凹凸が小さく、剥離性が低下するので好ましくない。一方、シリカの含有量が10質量部を超えると、シリカの二次凝集によって粗大粒子が生じるので好ましくない。
【0020】
シリカの市販品としては、東ソー・シリカ株式会社製のBY−601、CX−200、CX−400や、富士シリシア化学株式会社製のSY−530、SY−550、SY−730等が挙げられる。
【0021】
アンチモン化合物は触媒として用いる。アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、塩化アンチモン、酢酸アンチモン等が挙げられる。
【0022】
アンチモン原子の含有量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して0.5×10−4〜10×10−4モルとすることが必要で、2.0×10−4〜5.0×10−4モルとすることが好ましい。アンチモン原子の含有量が1.0×10−4モル未満であると、触媒活性が不十分となり、重縮合反応が進行しないので好ましくない。一方、アンチモン原子の含有量が10×10−4モルを超えると、触媒活性により樹脂が劣化し黄変する場合があるので好ましくない。また、溶融押出し時に金属アンチモンが析出してスジが発生する場合がある。
【0023】
リン化合物は、熱安定剤、色調改良剤として用いる。リン化合物としては、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸−トリス−2−ヒドロキシエチル等が挙げられる。
【0024】
リン原子の含有量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して0.5×10−4〜25×10−4モルとすることが必要で、5.0×10−4〜15×10−4モルとすることが好ましい。リン原子の含有量が0.5×10−4モル未満であると、熱安定性、色調改良性が不十分となる。一方、リン原子の含有量が25×10−4モルを超えると、ゲルが生じるため、製膜が困難となる場合があるため好ましくない。
【0025】
アンチモン原子の含有量に対するリン原子の含有量のモル比率は、0.5以上とすることが必要で、1.0以上とすることが好ましく、2.0以上とすることがより好ましい。モル比率が0.5未満であると、アンチモン化合物によってポリエステルの色調が不良になるので好ましくない。
【0026】
マグネシウム化合物は、静電印加剤として用いる。ポリエステルに静電印加剤を添加することで、静電印加した際、押出したフィルムがキャストロールに密着し、安定して溶融押出しをおこなうことができる。マグネシウム化合物としては、酢酸マグネシウム、シュウ酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0027】
マグネシウム原子の含有量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対して1.0×10−4〜50×10−4モルとすることが必要で、5.0×10−4〜30×10−4モルとすることが好ましい。マグネシウム原子の含有量が1.0×10−4モル未満であると、静電印加キャスト性が不良となる。一方、マグネシウム原子の含有量が50×10−4モルを超えると、マグネシウム化合物の活性により樹脂が劣化し黄変するので好ましくない。
【0028】
本発明のポリエステル樹脂は、リン化合物、アンチモン化合物、マグネシウム化合物、シリカのエチレングリコール分散溶液を添加してから重縮合をおこない製造する。
【0029】
シリカは、予めエチレングリコールに分散しておくことが必要である。シリカをエチレングリコールに分散せずにオリゴマーに直接添加した場合、二次凝集して粗大粒子が生成され、シリカがポリエステルに十分に分散されないので好ましくない。シリカを分散する方法は、特に限定されないが、例えば、あらかじめエチレングリコールを攪拌槽に満たしておき、エチレングリコールを攪拌しながら、粉体状態のシリカを所定濃度となるよう添加し、十分な時間攪拌させ、その後、超音波処理や高圧衝突(剪断型)処理等の分散処理をおこなう方法が挙げられる。
【0030】
シリカのエチレングリコール分散溶液のシリカの濃度は、エチレングリコール溶液に対して、1〜30質量%とすることが好ましく、2〜20質量%とすることがさらに好ましい。シリカの濃度を1〜30質量%の範囲とすることで、添加時のシリカの二次凝集を抑制しながら、留出させるエチレングリコールの量を適当な量に抑制することができる。
【0031】
オリゴマーは、テレフタル酸とエチレングリコールを用いて、不活性雰囲気下、240〜270℃で、常圧下でエステル化をおこない作製する。この際、必要に応じて、テレフタル酸とエチレングリコールの他のモノマーを混合してもよい。テレフタル酸とエチレングリコールのモル比は、テレフタル酸:エチレングリコール=1:1.4〜1.8とすることが好ましい。
【0032】
本発明の製造方法において、リン化合物は、オリゴマーの末端カルボキシル基濃度が高い状態で添加した方が、リン化合物がポリエステルと反応し系外に飛散しにくくなるため好ましい。より具体的には、オリゴマーの数平均分子量が2000以下で添加することが好ましい。
【0033】
また、アンチモン化合物は、リン化合物よりも後に添加することが好ましく、リン化合物の添加後、30〜60分間エステル化反応をおこなってから添加することがより好ましい。このようにすることで、リン化合物とポリエステルとの反応を促進することができる。
【0034】
マグネシウム化合物はいずれの工程で添加してもよいが、重縮合をおこなう直前に添加することが好ましい。重縮合をおこなう直前に添加することで、マグネシウム化合物の活性による樹脂の劣化を抑制することができる。
【0035】
また、シリカのエチレングリコール分散溶液も、いずれの工程で添加してもよいが、重縮合をおこなう直前に添加することが好ましい。重縮合をおこなう直前に添加することで、分散溶液に用いるエチレングリコールを反応させることなく系外に留出することができ、重縮合時間を短縮することができる。
【0036】
重縮合の反応温度は、270〜290℃とすることが好ましく、重縮合反応時の減圧度は、0.2〜1.3hPaとすることが好ましい。大気圧から1.3hPaに達するまで、60〜180分かけて徐々に減圧することが好ましい。
【0037】
本発明の製造方法では、シリカは、特定の範囲の平均粒子径のものをエチレングリコールに分散してから添加しているため、二次凝集が抑制される。そのため、製膜する際の濾過圧力の上昇を抑制することができ、連続生産時間を長くすることができる。
【0038】
ポリエステル樹脂の極限粘度は、0.5〜1.5とすることが好ましい。極限粘度をこの範囲とすることで、溶融押出しを容易におこなうことができる。ポリエステル樹脂の極限粘度をこの範囲とするためには、重縮合反応において反応温度や反応時間を所定の極限粘度となるよう調整すればよい。
【0039】
本発明の製造方法においては、アンチモン化合物、リン化合物、マグネシウム化合物の添加量を規定しているため、熱分解が抑制され、色調が良好なポリエステル樹脂を得ることができる。具体的な指標として、ポリエステル樹脂のb値を10以下とすることができる。
【0040】
本発明のポリエステル樹脂には、必要に応じて、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料、顔料のような色調改良剤、可塑剤、難燃剤等を添加することができる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明のポリエステル樹脂を用いて、公知の製膜方法でフィルムを製造することができる。例えば、乾燥したポリエステル樹脂を押出機に投入し、溶融樹脂をTダイから押し出し、捲き取る方法等が挙げられる。ポリマー溶融温度は、(融点+100℃)以下の温度範囲で適宜選択できる。
【0042】
フィルムは、延伸されていることが好ましい。延伸温度は(ガラス転移温度−10℃)〜(ガラス転移温度+70℃)が好ましく、延伸倍率は縦方向、横方向にそれぞれ1.1〜5.0倍が好ましい。延伸方法は、縦方向と横方向を同時に延伸する同時延伸をしてもよいし、縦方向と横方向を別々に延伸する逐次延伸してもよい。さらに、延伸に引き続き、延伸したフィルムを、融点を超えない温度で1〜60秒間、熱固定してもよい。
【0043】
フィルムの表面粗さは、0.2〜1.0μmが好ましい。表面粗さをこの範囲とすることで、シリカの二次凝集物を発生させることなく、フィルムの剥離性を向上することができる。表面粗さをこの範囲とするためには、用いるシリカの平均粒子径を本発明の範囲で適宜選択すればよい。
【0044】
本発明のポリエステル樹脂を製膜したフィルムは、各種工程紙として用いることができ、例えば、セラミックコンデンサ製造時に用いられる離型フィルムや保護シートとして用いることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、ポリエステル樹脂の物性測定は以下の方法によりおこなった。
【0046】
(1)シリカの平均粒子径、最大粒子径
シリカの回折/散乱光強度が40〜60%の範囲内となるように溶媒で希釈し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(島津製作所社製「SALD−2200」)を用いて測定した。なお、原料のシリカを測定する場合、溶媒はエチレングリコールを用い、ポリエステル中のシリカを測定する場合、溶媒はフェノールとテトラクロロエタンとの等質量混合物を用い、ポリエステル成分が溶解した状態で測定した。
【0047】
(2)シリカの吸油量
JIS K5101法にしたがって測定した。
【0048】
(3)オリゴマーの数平均分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件でポリスチレン換算の数平均分子量を測定した。
送液装置:ウォーターズ社製Isocratic HPLC Pump 1515
検出器:ウォーターズ社製Refractive Index Detector 2414
カラム:Mixed−D
溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム=5/95(質量比)
流速:1mL/分
測定温度:40℃
【0049】
(4)ポリエステル樹脂の極限粘度
ポリエステル樹脂を、フェノールとテトラクロロエタンの等質量混合物に、ポリエスエル成分の濃度が0.5g/dLになるように溶解した後、フィルターで濾過してシリカを除去した。続いて、ウベローデ型粘度計を用い、20℃の温度にて試料溶液および溶媒の落下時間を測定し、以下の式を用いて極限粘度を求めた。
極限粘度=ln[試料溶液の落下時間/溶媒のみの落下時間]/樹脂濃度(g/dL)]
【0050】
(5)ポリエステル樹脂の色調
日本電色色差工業社製の色差計ND−Σ80型を用いて、ハンターLab系にてb値を測定した。b値は、+の値が大きいほど黄味が強いことを示し、−の値が大きいほど青味が強いことを示す。
【0051】
(6)フィルムの表面粗さ(SRa)
得られたフィルムを、小坂研究所製表面粗さ測定器SE−3AK型を用いて、JIS B−0601法にしたがって測定した。なお、触針径2μmR、触針圧10mg、高さ倍率50000倍とした。
【0052】
(7)濾過圧力上昇
フィルムを48時間連続して製造した際の、単位時間あたりに上昇した圧力を求めた。
【0053】
(8)静電印加キャスト性
フィルムを製造した際の、フィルムとキャストロールの密着度を目視で観察し、フィルムの幅方向について、以下の基準で判断した。
○:密着していた。
×:一部密着していない部分があった。
【0054】
(9)フィルムのスジ品位
フィルムを48時間以上連続して製造した際の、1μm以上のスジの発生状況を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:48時間以上たっても、スジは発生しなかった。
△:24時間以上48時間未満の間に、スジが発生した。
×:24時間未満の間に、スジが発生した。
【0055】
(10)フィルムの連続生産性
フィルムを48時間連続して生産した際の、切断の状況を以下の基準で判断した。
○:切断しなかった。
△:1〜2回切断した。
×:3回以上切断した。
【0056】
(11)フィルムの剥離性
フィルムを重ね、常温で、圧力100kPaの条件下で圧着し、積層体を作製した。得られた積層体を50mm幅に切断し、引張強度試験機を用いて、常温において、180度剥離試験をおこない剥離強度を測定し、以下の基準で判断した。
○:0.01N/50mm未満
×:0.01N/50mm以上
【0057】
以下において、三酸化アンチモン、リン酸トリエチル、酢酸マグネシウムの添加量は、ポリエステルを構成する酸成分1モルに対してのモル量とする。
【0058】
実施例1
[シリカのエチレングリコール分散溶液の調製]
平均粒子径が4.0μm、吸油量が120ml/100gであるシリカを固形分量が15質量%となるようにエチレングリコールに添加し、特殊化工業製ホモジェッターを用いて攪拌分散処理をおこない、粗分散液を作製した。さらに、その粗分散溶液をSONIC.CORP製ソノレータを用いて分散処理をおこない、シリカのエチレングリコール分散溶液を作製した。
【0059】
[オリゴマーの作製]
オリゴマーが存在する反応容器に、テレフタル酸とエチレングリコールのスラリー(モル比1/1.6)を連続的に供給し、温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、数平均分子量が1400のオリゴマーを連続的に生産した。
【0060】
[ポリエステルの重合]
オリゴマーを270℃に加熱した別の反応容器に送液し、その反応容器を窒素で置換した後、リン酸トリメチル10×10−4モル(リン原子として20×10−4モル)をオリゴマーに添加し、30分間エステル化反応をおこなった。その後、シリカのエチレングリコール分散溶液を、生成するポリエステルのシリカの含有量が3質量%となるように添加し、続いて、重縮合触媒として三酸化アンチモンを1.5×10−4モル(アンチモン原子として3.0×10−4モル)、静電印加剤として酢酸マグネシウムを20×10−4モル(マグネシウム原子として20×10−4モル)添加した。
その後、系の圧力を徐々に減じて1時間後に1.2hPaとし、重縮合反応をおこなった。3時間重縮合をおこなった後、ポリエステルを窒素圧で押し出し、ストランドカッターを用いてペレット化した。
【0061】
[ポリエステルフィルムの製造]
得られたポリエステル90質量部に、無機微粒子を含有しない極限粘度0.59のポリエチレンテレフタレートを10質量部混合し、均目開き20μm、濾過面積10cmの金網製フィルターを装着した溶融押出機に供給した。その後、キャストロールの上部に設置した電極とキャストロールの間に6kVの電圧を印加し、300℃に加熱溶融した樹脂を、Tダイからキャストロール(回転速度:20m/分、表面温度:25℃)にフィルム状に押し出した。フィルムは、捲き取ることなく、90℃の温度でフラット式同時二軸延伸機のグリップに把持させ、縦方向に3.0倍、横方向に3.3倍に延伸した。続いて、220℃の温度で20秒間熱固定した後、冷却し、厚さ25μmの延伸フィルムを捲き取った。
【0062】
実施例2〜9、比較例1〜9
シリカ、金属添加物の種類や量を表1のように変更した以外は、実施例1と同様におこなった。
【0063】
実施例1〜9、比較例1〜9の製造条件、ポリエステル樹脂の特性値、ポリエステル樹脂フィルムの特性値を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
実施例1〜9のポリエステル樹脂は、b値が10以下を示す色調が良好な樹脂であった。このポリエステル樹脂を用いて製膜したフィルムは、表面粗さが0.2〜1.0μmとなり剥離性が高かった。また、濾過圧力上昇が小さく、静電印加キャスト性が高かったため、静電印加法で長時間連続してフィルムを製造することができた。
【0066】
比較例1は、シリカの平均粒径が小さかったため、フィルムの表面粗さが小さく、剥離性が低かった。
比較例2は、シリカの平均粒径が大きかったため、濾過圧力の上昇が大きく、24〜48時間製膜している間にフィルムが切断した。
比較例3は、シリカの添加量が少なかったため、フィルムの表面粗さが小さく、剥離性が低かった。
比較例4は、シリカの添加量が多かったため、シリカの凝集によって粗大粒子が生じた。また、濾過圧力の上昇が大きく、24〜48時間製膜している間にフィルムが切断した。
比較例5は、アンチモン化合物の添加量が少なかったため、重縮合反応が進行せず、ポリエステルを得ることができなかった。
比較例6は、アンチモン化合物の添加量が多かったため、ポリエステル樹脂のb値が高く、色調が不良であった。また、フィルムにスジがみられ、品質が悪かった。
比較例7は、リン化合物の添加量に対するアンチモン化合物の添加量のモル比率が小さかったため、ポリエステル樹脂のb値が高く、色調が不良であった。
比較例8は、マグネシウム化合物の添加量が少なかったため、静電印加キャスト性が低く、静電印加法を用いることができず、切断が多発した。
比較例9は、マグネシウム化合物の添加量が多かったため、ポリエステル樹脂のb値が高く、色調が不良であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステル100質量部と、シリカ0.5〜10質量部と、下記式(1)〜(4)を同時に満たす量のアンチモン化合物、リン化合物、およびマグネシウム化合物とを含有するポリエステル樹脂であり、ポリエステル樹脂中のシリカの平均粒子径が3〜10μmであるフィルム用ポリエステル樹脂。
(1)0.5×10−4≦[Sb]≦10×10−4
(2)0.5×10−4≦[P]≦25×10−4
(3)[P]/[Sb]≧0.5
(4)1×10−4≦[Mg]≦50×10−4
ここで、[Sb]、[P]、[Mg]は、それぞれ、ポリエステルを構成する酸成分1モルあたりのアンチモン原子、リン原子、マグネシウム原子のモル数を示す。
【請求項2】
請求項1記載のポリエステル樹脂からなるフィルム。

【公開番号】特開2012−167205(P2012−167205A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29757(P2011−29757)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】