説明

ポリエステル系合撚糸およびこれを用いた織編物

【課題】 本発明は、フクラミ、ソフト感および艶感に加え、反発感、イージーケア性および表面品質に優れた特殊構造のポリエステル系合撚糸を提供する。
【解決手段】 本発明は、2種類以上のポリエステル系マルチフィラメントで構成された合撚糸であって、前記合撚糸を構成する一方の糸条Aが下式(1)に示す撚係数(KA)8000以上25000以下の撚糸で芯部を形成し、前記合撚糸を構成する他方の糸条Bは無撚で鞘部に給糸されており、前記糸条Aと前記糸条Bとが、前記糸条Aの撚方向と同一の方向に合撚されていることを特徴とするポリエステル系合撚糸である。
KA=TA×√(DA) ・・・ 式(1)
ただし、KA:糸条Aの撚係数
TA:糸条Aの撚数(回/M)
DA:糸条Aの繊度(dtex)×0.9

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フクラミ、ソフト感およびイージーケア性に加え、艶感、反発感、特徴のある表面感と品質に優れた特殊構造を有するポリエステル系の合撚糸およびその製造方法、さらにはかかる合撚糸を用いた織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は、機械的強度、耐薬品性および耐熱性などの物理的、化学的特性に優れ、衣料用途で広く用いられている。近年では、これらのポリエステル繊維を複数混繊した加工糸とすることで、高発色性やフクラミ感などの特徴のある織編物が多く提案されている。しかしながら、ポリエステル繊維のもつ表面感として似通ったものが多く、市場から飽きられる傾向がある。
【0003】
従来、単繊維繊度と沸騰水収縮率を制御し、さらに所定の大きさの微粒子を繊維表面に含有することにより、一定の高発色性、フクラミ感およびソフト感等を有する混繊糸が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、市場においては、アセテート、レーヨン、羊毛、および絹等の天然繊維と比較しても劣らない優れた発色性や、さらに繊維表面のなめらかさにより特有の鏡面光沢があり、天然繊維のような色の深みを有する繊維糸条が求められている。特にブラックフォーマル分野等では、色のバリエーションがないため、黒色の発色性とともに、新しい表面感が強く望まれている。
【0004】
ここで、発色性が高く加えて独特の艶感があり、衣料用途、特にブラックフォーマル用途では高級ゾーンにある商品である、セルロース系織物等からなる高級セルロース製品が提案されている(特許文献2参照。)。しかも、このセルロース製品は、セルロースの本来のもつ制電性のためにホコリ付着などの衣料において優位となる優れた特性を兼ね備えている。しかしながら、ポリエステル繊維製品と比較すると、洗濯などのイージーケア性、形態安定性および強度の弱さに由来する品質の悪さなどの課題が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−185416号公報
【特許文献2】特開2009−138307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明の目的は、上記の従来技術の問題点を解決し、従来のポリエステル製品にはなかった特徴のある製品を提案することであり、具体的に高発色性、フクラミ感、ソフト感および艶感などの審美性と、耐摩擦特性、制電性および、イージーケア性などの品質を両立させることができる特殊構造のポリエステル系合撚糸および織編物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成せんとするものであり、本発明のポリエステル系合撚糸は、2種類以上のポリエステル系マルチフィラメントで構成された合撚糸であって、前記合撚糸を構成する一方の糸条Aが、下式(1)に示す撚係数(KA)8000以上25000以下の撚糸で芯部を形成し、前記合撚糸を構成する他方の糸条Bは無撚で鞘部に給糸されており、前記糸条Aと前記糸条Bとが、前記糸条Aの撚方向と同一の方向に合撚されていることを特徴とするポリエステル系合撚糸である。
KA=TA×√(DA) ・・・ 式(1)
ただし、KA:糸条Aの撚係数
TA:糸条Aの撚数(回/M)
DA:糸条Aの繊度(dtex)×0.9
本発明のポリエステル系合撚糸の好ましい態様によれば、本発明のポリエステル繊維合撚糸は、下式(2)に示す撚係数(K)は1000以上15000以下である。
K=T×√D ・・・ 式(2)
ただし、K:合撚糸の撚係数
T:合撚糸の撚数(回/M)
D:合撚糸の繊度(dtex)×0.9
本発明のポリエステル系合撚糸の好ましい態様によれば、前記の糸条Aと前記の条Bの糸長差が下式(3)を満たすことである。
{(Lb−La)/(Lb)}×100≧3 ・・・ 式(3)
La:糸条Aの長さ
Lb:糸条Bの長さ
本発明のポリエステル系合撚糸の好ましい態様によれば、前記の糸条Bが、その表面に微細な凹凸孔を有することである。
【0008】
本発明のポリエステル系合撚糸の好ましい態様によれば、前記の糸条Aが繊維軸方向に微細間隔の筋を有することである。
【0009】
本発明の織編物は、前記のポリエステル系合撚糸を少なくとも一部に用いた織編物である。
【0010】
本発明の織編物の好ましい態様によれば、前記の糸条Aが制電性を有するポリマーを有する複合フィラメントで構成されており、洗濯5回後の摩擦耐電圧が3.0KV以下であることである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来なかった表面感を持つポリエステル繊維製品であり、高発色性、フクラミ感、ソフト感および艶感などの審美性と、耐摩擦特性、制電性およびイージーケア性などの機能性を両立させることができる特殊構造のポリエステル系合撚糸および織編物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、以下に示す測定方法により艶感を数値化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るポリエステル系合撚糸は、少なくとも2種類のポリエステルマルチフィラメントが合撚された合撚糸であり、少なくともポリエステルマルチフィラメント糸条A(以下、糸条Aということがある。)およびポリエステルマルチフィラメント糸条B(以下、糸条Bということがある。)で構成されている。本発明では、糸条Aが芯部を構成し、糸条Bが鞘部を構成する。そして、芯部を構成する糸条Aは、合撚前に撚係数(KA)8000以上25000以下の範囲で撚糸が施され、一方、鞘部を構成する糸条Bは合撚前が無撚であり、これらの糸条を給糸、合撚した構成を採るものである。
【0014】
本発明においては、芯部に給糸される糸条Aに、撚係数(KA)8000以上25000以下の範囲で撚糸が施されていることにより、ストレッチや反発感のある風合いが得られる。撚係数が8000未満になると、上記ストレッチや反発感のある風合いに不足が生じ、また、撚係数が25000を超えると、撚糸工程においてビリの発生や糸切れなど工程通過性を損なうために好ましくない。ここで、糸条Aの撚係数(KA)は次式(1)で求めることができる。
KA=TA×√(DA) ・・・ 式(1)
ただし、KA:糸条Aの撚係数
TA:糸条Aの撚数(回/M)
DA:糸条Aの繊度(dtex)×0.9
整経や製織条件によっても異なるが、高次工程通過性や製品においてさらに良好な反発感を得られるという観点から、撚係数(KA)のより好ましい範囲は15000以上20000以下である。
【0015】
鞘部に給糸される糸条Bは、艶感、ソフト感およびフクラミのある風合いが得られるために、合撚前には無撚であることが重要である。合撚糸において、鞘部に無撚の糸条が合撚され芯糸に巻き付いていることにより、適度な光の反射が起こり、製品において上質や艶を表現することが可能となる。
【0016】
ここで、糸条Bに係る無撚とは、実質的に撚糸工程を通過させていないことを示すものであり、糸条を解舒するときに発生する100回/M以下の撚は無撚の範囲に含まれるものである。鞘部が高い撚数で撚糸されていれば、鞘糸からの反射光が分散され、艶感が弱く、風合いも硬いものとなってしまう。仮撚などの捲縮がかかっていないフラットヤーンが、より好ましく使用される。
【0017】
また、合撚糸として2種類以上のポリエステル系マルチフィラメントを使用する場合、その目的に合わせて糸条Aや糸条Bが引揃糸(糸条Aの場合は前工程の撚糸により合撚糸)や混繊糸を用いても構わない。
【0018】
合撚については、糸条Bが芯部を構成する糸条Aの撚方向と同一方向に巻き付き合撚されていることが重要である。糸条Bが芯部の糸条Aと反対方向に合撚すると、糸条Aの下撚が解撚される方向になり、芯部の糸条Aに締まりがなくなり、フカツキが生じ、合撚糸の形態が崩れ、通常の複合糸に似た表面感や風合いとなる。芯部の糸条Aの強撚形態と反発感を保持しつつ、鞘糸の無撚に似た艶感とソフト感を表現し、さらに、芯糸の周りに鞘糸が配置される特殊な糸形態を形成するには、芯部の糸条Aと同一方向に合撚する必要がある。
【0019】
また、合撚糸において、この特殊糸形態は発色性にも大きく影響する。この特殊糸形態は芯部と鞘部を有する構造により、外からの余分な光を拡散させ、反射光を糸構造の内部に取り込むことにより発色性が向上する。また、芯部の強撚による凹凸も光の乱反射効果を与え、発色性を向上させる一因となる。また、一方では、鞘糸部分に照射した光が適度に弱められ反射することにより生地に高級な艶感を付与することになる。
【0020】
合撚の撚係数(K)については、1000以上15000以下であることが好ましい。合撚の撚係数が1000未満であると、鞘糸が芯糸の周りを覆う合撚糸形状を取らず、高次工程での通過性悪化や製品においては表面感が粗悪なものとなる傾向を示す。また、合撚の撚係数が15000を超えると鞘糸も強く撚糸され、合撚糸形状も締まったものとなり、風合いにおいても、ソフト感や艶感が得られにくい。上記合撚の範囲においては、その艶感と風合いなどからユーザーの好みに合わせて適宜選択することが可能である。強い艶感でフクラミの大きい素材を得る場合には低い合撚数で合撚を行い、弱い艶感で締まった風合いの素材を得る場合には高い合撚数での合撚を行うことが好ましい。ここで、合撚糸の撚係数(K)は、次式(2)で求めることができる。
K=T×√D・・・ 式(2)
ただし、K :合撚糸の撚係数
T:合撚糸の撚数(回/M)
D:合撚糸の繊度(dtex)×0.9
艶感やソフト・反発などの風合いの観点から、撚係数(K)のより好ましい範囲は、3000以上10000以下である。
【0021】
ここで、艶感については、次に示す光沢度計での測定方法によって数値化し、目視での評価も同時に行った。次の光沢度計での測定方法において、入射角60゜に対し、通常織編物は受光角度が正反射角度領域の60゜〜80゜において高い値を示す。他の角度領域に比べてこの正反射領域での光の反射量が大きい素材が艶感の高い素材と認識される傾向がある。
【0022】
艶感があり好ましい範囲は、1.0以上7.0以下であり、1.0未満であれば艶感を感じにくい素材であり、7.0より大きいと強い光沢として認識され高級な素材にはなりにくい。ブラックフォーマル用途では、控えめな艶感という観点から5.0以下であることが好ましい。
【0023】
また、本発明の特殊構造のポリエステル系合撚糸を用いた織編物においては、通常のポリエステル系製品と比較しても、防シワ性やシワの回復性が良好である。これは、上記の合撚数の範囲においては、特殊構造の合撚糸形態において、鞘糸と芯糸の間に空間が存在し、芯糸に対して鞘糸の動き自由度が比較的大きく、織編物を曲げたときに、この鞘糸のフレキシブルな動きが作用しているものと考えられる。また、強撚糸の方がシワの回復が早いため、芯糸と鞘糸が完全に分離しているこの特殊構造では、鞘糸が芯糸の回復を阻害することなく芯糸に追従して元の状態に戻ることも、製品のシワの回復が早い要因の一つとして考察される。
【0024】
芯部と鞘部を形成する糸条Aと糸条Bにおいて、その糸長差が下式(3)を満たすことが好ましい。糸長差は、後述の実施例に記載の方法にて測定される。
{(Lb−La)/(Lb)}×100≧3 ・・・式(3)
La:糸条Aの長さ
Lb:糸条Bの長さ
芯部と鞘部の糸長差を3%以上とすることにより、鞘部が芯部をより多く被覆し、芯糸と鞘糸間に空隙が生じることになり、フクラミや発色性、艶感が向上する。しかしながら、この糸長差を大きくしすぎることにより、フカツキや芯部の糸条Aの特徴が小さくなる傾向があるため、この糸長差は3%以上15%以下の範囲であることが好ましい。糸長差は、さらに好ましくは、5%以上12%以下の範囲である。
【0025】
ここで、糸長差とは、合撚時に糸条Aと糸条Bの送り量の差によって形成される合撚による糸長差と、該糸条Aと該糸条Bの熱収縮差によって形成される熱収縮による糸長差との和になる。ここで、熱収縮率差については、鞘部を形成する糸条Bの熱収縮率を3%以下にするように通常用いられる繊維の弛緩熱処理などの低収縮化処理を施すことが好ましい。
【0026】
鞘部を形成する糸条Bにおいて、その表面に微細な凹凸孔を有することが好ましい。この繊維表面にある微細な凹凸孔のために、繊維に照射される光を乱反射し、発色性を向上させる。また、本発明の特殊構造合撚糸において、鞘部の撚数が少ないために鞘部に照射された光が多く反射される。仮にこの鞘部を形成する糸条Bの表面に凹凸孔がなく、扁平糸のような反射の強い素材であれば、ポリエステル繊維の独特のギラツキをもたらし、発色性も悪くなる。糸条Bにおける微細な凹凸孔に起因する乱反射効果によって弱められた反射光が、製品に高級な艶感として表れることになりうる。
【0027】
糸条Bの微細凹凸孔は、製糸の段階において糸条Bに微粒子を含有させ、製織した後のアルカリ減量工程で繊維表面付近の微粒子を脱落させることで発生させるものである。凹凸孔の大きさは微粒子の大きさに依存し、微粒子の平均粒子径とほぼ同程度となる。平均粒子径のより好ましい範囲は、0.02〜0.07μmの範囲である。糸条Bの断面形状は、円形であっても非円形であってもよい。繊維の表面に微細凹凸がある場合に、例えば断面が円形形状であれば、艶感が抑えられた発色の高い素材となり、扁平や三角形状であれば、艶感の高い素材となる。
【0028】
糸条Aの素材については、制電性やストレッチ、反発感やフクラミなどの風合い、および発色性など目的の特性に合わせて、従来ある素材を適宜選択することができる。
【0029】
ここで制電性を有する製品を作成する際には、制電性を有するポリエステルマルチフィラメントが糸条Aとして用いられる。制電性を有することにより、ホコリの付着の問題が抑制され、特にブラックフォーマル用途においてその効果を発揮することができる。
【0030】
制電性を有するポリマーとしては、ポリオキシアルキレン鎖成分を含んだ共重合ポリマー、ポリアミン、ポリアクリル酸エーテル、ジグリシジルエーテル、テレフタル酸や他の酸成分を含んだポリエーテルエステル、およびブロックポリエーテルアミド組成物などが挙げられ、これらをそれぞれ単独でも良いし、他のポリマーと混合して糸条Aとしてもよい。また、糸条Aにおいて、制電性を有するポリマーはブレンドされていても同心円芯鞘状または偏心芯鞘状に複合されていてもよく、その形状が円形でも非円形であってもよい。
【0031】
本発明に係る糸条Aにおいて、上記にある制電性を有するフィラメントを用いる場合には、繊維表面の軸方向に微細間隔の筋状溝を形成することが好ましい。表面に上記筋状溝を形成することにより、芯部を構成する糸条Aにも光の乱反射効果が生まれ、発色性を高くすることができる。筋状溝を形成する方法については、溶剤に対する溶解性の異なる2種類以上のポリマーを混合し、それに制電性を有するポリマーをブレンドもくしは複合し、溶剤によって易溶出ポリマーを除去することによって製造することができる。しかしながら、特殊な溶剤を用いることによって環境汚染の問題が発生することもありえるので、好ましくはポリエステル繊維の減量加工で一般的に用いられる熱アルカリ水溶液を用いて筋状溝を形成することが好ましい。熱アルカリ水溶液を用いて筋状溝を形成させるための、制電性を有するポリマー以外に用いる2種類以上のポリマーの組み合わせとしては、互いに相溶性を有し、熱アルカリ水溶液に対する溶解速度の比が5以上である2種類以上のポリエステルを混合して溶融紡糸する方法が好ましい。
【0032】
本発明の特殊構造のポリエステル系合撚糸を用いた織編物は、一般的に使用される織編物の織編組織や密度等の規格に制約されることはない。また、本発明の効果を妨げない範囲で、レーヨンやウールなどの天然繊維との混紡、交撚、交織および交編などを施したものも含まれるが、これらに限られるものではない。
【0033】
ここで、ストレッチ織物を作成する際には、本発明の特殊構造のポリエステル系合撚糸を表側に配し、捲縮発現機能を有するコンジュゲートマルチフィラメントを裏側に配した二重織物とすることが好ましい。
【0034】
また、特徴のある表面感や艶感を生かした織物を作成する際には、アムンゼン組織が好適に用いられる。例えば、バックサテンアムンゼン組織として、表側に本発明の特殊構造合撚糸を配することにより、高発色性、フクラミ感およびソフト感のある織物とすることができ、裏側に配した制電性繊維により、織物にさらに優れた制電性を付与することができる。バックサテンアムンゼン組織としては、表側がアムンゼン組織で裏側がサテン織となっている。
【0035】
アムンゼン組織の表面の凹凸は不規則性を有するため、本発明の特殊構造のポリエステル系合撚糸における艶感による光の反射が分散し、布帛において自然な艶感を強調させる。この自然な艶感は、アムンゼン組織のパターン全てを含み、また、アムンゼン組織以外の自然な表面感を構成する織組織でも発現させることは可能である。
【0036】
さらに、本発明の特殊構造のポリエステル繊維合撚糸を用いた織編物を染色仕上げ加工する場合、加工方法あるいは加工装置などになんら制約されることはないが、十分にストレッチやフクラミ感を出すために、液流リラックス加工を実施することが好ましい。また、中間セット時には融着やセット性の観点から、セット温度を180℃以上230℃以下にすることが好ましい。また、アルカリ減量率は5〜35%であることが好ましい。アルカリ減量率が35%を超えると、強度低下の問題がある。一方、5%未満では織編物にフクラミやソフトな風合いを付与しにくくなる。
【0037】
本発明により得られた特殊構造のポリエステル系合撚糸は、ブラウス、スーツ、ワンピース、コート、ブラックフォーマルなどの婦人衣料、およびスキーウェアなどのスポーツ衣料用途に好適に用いられる。特に、ブラックフォーマル素材としては、その発色性や高級な艶感などから本発明のポリエステル系合撚糸の特徴と合致するため好ましく使用される。
【0038】
また、繊度範囲としては、糸条Aでは22dtex以上330dtex以下が好ましく、糸条Bでは33dtex以上440dtex以下が好ましく使用される範囲である。糸条Aにおいては、22dtex未満の繊維においても製造可能であるが、撚数を高く必要とするため、撚糸工程において生産性が落ちることから22dtexを下限値の目安としている。また、上限値については、合撚糸とした場合の繊度において、衣料用の布帛表面感が粗くなることから上限値を設定しているが、和装用の帯材や飾り糸などに用いる場合にはさらに大きい繊度も可能である。また、発色性や艶感の観点から糸条Bの繊度が糸条Aの繊度よりも大きい方が好ましく用いられる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明のポリエステル系合撚糸について、実施例により更に詳細に説明する。本発明の中の各評価は、次の方法で評価した。
【0040】
[摩擦耐電圧]
京大化研式ロータリースタティテスターにより、摩擦対象布として精錬、漂白した綿の平織カキナン3号(目付100g/M)を用い、ローター回転数400rpm、校正印加電圧100V、温度20℃、相対湿度40%の環境条件中で測定した値である。ここで洗濯後とは,2009年度版JIS L1094規定の洗濯法に準じ、20回繰り返した後のものを指す。
【0041】
[アッシュテスト]
環境条件が、温度:20±2℃、湿度:30±2% RHの試験室に試験布と上記綿摩擦布(カナキン3号)およびタバコの灰を24時間以上放置後、試験室内で直径20cmの木製の円形ホルダーに試験布をしっかり取り付け、30cm×30cmの綿摩擦布4つ折り16枚重ねにし、試験布面を約500g前後の押圧で円を描くように均一に15回摩擦する。摩擦後ただちに摩擦した試験布面を約10cm×10cmの面積に約1.5gの灰を均一に分散させた容器の底から1cmの距離まで近づけ5秒間静止させる。灰の付着状況を観察し、次の4段階判定を行い、◎と○を合格範囲とした。
全く付かない:◎
わずかに付く:○
やや目立つ:△
著しく付く:×
で表示した。
【0042】
ここで、洗濯後とは,2009年度版JIS L1094規定の洗濯法に準じ、20回繰り返したものである。
【0043】
[黒発色性]
SMカラーコンピューター(スガ試験機(株)製)を用いて、L値を測定した。数値の低いものほど、発色性に優れていることを示す。
【0044】
[艶感の光沢度計での数値化]
艶感の数値化については、製品の黒発色性も大きく数値に反映されるため、色によるバラツキを無くすため、染色直前の白生地を採取し、測定サンプルとしている。
【0045】
光沢度計(村上色彩技術研究所製GP200)を用い、入射角60゜に対し、反射受光角を0゜〜90゜で評価する。標準白色板にはセラミック(STD4010A)を使用し、最も高い反射強度を100として調整している。
【0046】
上記の得られた結果(図1)において、受光角度0゜と30゜の反射強度を繋いだ線と、反射強度の最大値の差を算出し、艶量Fとした。この艶量Fを、サンプル経糸方向と緯糸方向をそれぞれ3回測定し、その平均で算出した。
【0047】
[艶感の目視確認]
艶感については、人間の感じ方によって高級感の発現が上記光沢度計では表せないこともあり、生地の艶感の目視評価でも、熟練者10名にて以下の5段階の判定方法で評価した。2以上4以下の範囲を合格範囲とする。
5: 光沢が強すぎる
4:やや強めの艶感を有する
3:上質な艶感を有する
2:やや弱めの艶感を有する
1:艶感がほとんどなし。
【0048】
[風合い]
フクラミ感、ソフト感およびハリコシ感のそれぞれの評価について、熟練者10名にて4段階判定法で評価した。
◎:優
○:良
△:可
×:不可
で表示した。
【0049】
[糸長差]
複合加工糸を0.11cN/dtexの荷重下で長さ10cmの間隔に印を付け、その中から無作為に5本の複合加工糸を取り出し、これらの複合加工糸を分解して糸条Aと糸条Bの単糸長さを測定し、それぞれの平均長さLaとLbを出し、次式(3)により求める。
{(La−Lb)/(Lb)}×100・・・ 式(3)。
【0050】
[洗濯]
1回の洗濯を2槽式洗濯機で、液温度40℃、洗濯時間5分、スズキ30℃×2分×2回、脱水30秒のサイクルで5回繰り返す。洗剤は、花王の“アタック”(登録商標)を1g/L使用した。
【0051】
[防シワ性・シワ回復性評価]
防シワ性は、2009年度版JIS L 1059−2(リンクル法)に準じ、加重時間を20分、温度120分とし、3人の評価者が各々3個のサンプルについて除重24時間後に観察し、1級〜5級で評価し、平均を算出した。試験室の環境条件としては、温度:20±2℃、湿度:30±2% RHである。
【0052】
[ウォッシュアンドウェア(W&W)性]
2010年度版JIS−L1096 A法(タンブル乾燥)3人の評価者が各々3個のサンプルについて観察し、1級〜5級で評価し、平均を算出した。
【0053】
(実施例1)
芯部を構成する糸条Aとして、先ずドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの制電剤を6重量%含有したポリエーテルエステルアミド系制電剤を調整し、次にこの制電剤が糸条A全体の2重量%になるよう固有粘度0.65ポリエステルに分散させたポリマーを36ホール、速度4000M/分で紡糸し、伸度48%の84dtex、36フィラメント(断面円形)の制電性延伸糸を得た。ついで、得られた延伸糸を村田機械(株)製のダブルツイスター撚糸機を用いて、1800回/Mの撚数でS方向に撚糸した糸と、Z方向に撚糸した糸をそれぞれ作成した。その後、80℃×30分のスチーム撚止めセットを実施し、糸条Aとした。
【0054】
鞘部を構成するフィラメント糸条Bとして、平均一次粒子径が0.05μmであるコロイダルシリカを1.0重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなるポリマーを紡速3000(M/min)で紡糸して、総繊度110dtex、48フィラメント(断面円形)、伸度150%の微細凹凸を形成する高配向未延伸フィラメントを得た。この高配向未延伸フィラメントに200℃の非接触ヒーター内で15%フィード率にて弛緩熱処理加工を施し、122dtexの糸条Bとした。
【0055】
次に、糸条Aと糸条Bを引き揃え、上記ダブルツイスター撚糸機を用いて、糸条Aの撚方向と同方向に400回/Mの追撚を施し、その後、80℃×20分のスチーム撚止めセットを実施し、特殊構造合撚糸を得た。
【0056】
また、特殊構造合撚糸と交織するポリエステルマルチフィラメント糸条C(以下、糸条Cとする。)として、極限粘度が0.47のポリエチレンテレフタレート100%からなる低粘度成分と、極限粘度が0.75のポリエチレンテレフタレート100%からなる高粘度成分を重量比50:50でサイドバイサイド型に貼り合わせたポリマーを紡速1450(M/min)で紡糸して、110dtex、12フィラメント、伸度300%のコンジュゲート未延伸マルチフィラメントを得た。これを延伸倍率1.9倍で延伸し、56dtex、12フィラメントの高反発性延伸糸を得た。この糸条CをS方向にそれぞれ400回/Mで撚糸し、80℃×30分のスチーム撚止めセットを実施し、糸条Cとした。
【0057】
得られた特殊構造のポリエステル系合撚糸を、経糸および緯糸に各々S方向の特殊構造のポリエステル系合撚糸とZ方向の特殊構造合撚糸を2本交互に配列して、裏側に糸条Cが配置するよう、平二重組織の織物を製織した。生機は減量率を15%とし、通常のブラックフォーマル用の染色加工工程を施し、更に黒発色性を良くするための深色加工も施し仕上げた。得られた製品の評価を表1に示す。発色性、風合いおよび制電性とともに優れていた。特に、反発感の高い素材であった。
【0058】
(実施例2)
実施例1で用いた特殊構造合撚糸を用い、交織する糸条Cとして、実施例1の糸条Aと同一の制電性延伸糸を用い、実施例1の糸条CのS方向に撚糸、撚止めセットを実施した。製織において、経糸の配列には、特殊構造合撚糸S方向と同合撚糸Z方向と撚糸された糸条Cとを1:1:1で交互に配置し、緯糸の配列には、同合撚糸S方向とZ方向とを2:2で交互に配置した。組織は、表面がアムンゼン組織(1リピートが120本×120本)、裏面がサテン面(5枚サテン)のバックサテンアムンゼン組織にて織物を作成した。
【0059】
ついで、実施例1と同一の方法にて染色加工を行った。得られた製品の評価を表1に示す。発色性と艶感があり、高級な表面感を持ち、制電性が優れた素材であった。
【0060】
(実施例3)
実施例1の糸条Bで用いた微細凹凸を形成する高配向未延伸フィラメントを1.3倍延伸し、84dtex、48フィラメントの延伸糸を1800回/Mで撚糸し、80℃×30分のスチーム撚止めセットを実施し、糸条Aとした。糸条Bについては、実施例1の糸条Bと同一のものを使用し、実施例1の合撚方法で特殊構造のポリエステル繊維合撚糸を得た。糸条Cとして、実施例2で用いた制電性延伸糸を用いている。
【0061】
製織・染色加工方法については、実施例2の方法によってバックサテンアムンゼン組織の製品を作成した。得られた製品の評価を表1に示す。発色性が高く艶感もあり高級感のある素材であった。
【0062】
(実施例4)
実施例1の合撚数を800回/Mにしたこと以外は、同一の方法にて平二重織の製品を作成した。得られた製品の評価を表1に示す。艶感やフクラミがやや抑えられ、締まった表面感と風合いを持つ素材として、実施例1の素材とは違った特徴を持つ素材であった。
【0063】
【表1】

【0064】
(比較例1)
実施例1の糸条Aとして用いた制電性延伸糸を芯側に、実施例1の糸条Bとして用いた弛緩熱処理糸を鞘側に配置するように、インターレース加工、フィード率(%)3:6で加工し、212dtexの混繊糸を得た。得られた混繊糸をダブルツイスター撚糸機にて1800回/Mで追撚し、80℃×30分のスチーム撚止めセットを実施し、この追撚した混繊糸を実施例1の特殊構造合撚糸の代わりに用いた。糸条Cとして、実施例2で用いた制電性延伸糸を用いている。糸条Cと製織、染色加工方法については実施例1と同様に行い、平二重織の製品を作成した。得られた製品の評価を表2に示す。艶感がなく、防シワ性も劣っていた。
【0065】
(比較例2)
実施例1の糸条Aおよび、実施例1の糸条Bと同じ弛緩熱処理糸に糸条Aと同一方向に1000回/Mの撚糸、同様の撚止めを実施したものを糸条Bとして用いた。次に、糸条Aと糸条Bを引き揃え、村田製のダブルツイスター撚糸機を用いて、糸条Aの撚方向と同方向に800回/Mの追撚を施し、その後、80℃×40分のスチーム撚止めセットを実施し、合撚糸を得た。糸条Cには実施例1にて用いた糸条Cを用い、製織、染色加工方法については実施例1と同様に行い、平二重織の製品を作成した。得られた製品の評価を表2に示す。艶感も低く、表面感に高級感がなく、風合いも粗悪なものであった。
【0066】
(実施例5)
実施例1の糸条Cで用いた高反発性ポリエステルマルチフィラメントを1800回/Mの撚糸を施し、その後、80℃×30分のスチーム撚止めセットを実施し、糸条Aとした。その他の工程については、実施例3と同様の方法で行い、バックサテンアムンゼン組織の製品を作成した。得られた製品の評価を表2に示す。反発やフクラミの風合いに優れたものであった。
【0067】
(比較例3)
ビスコースレーヨンフィラメント70dtex、24フィラメントを1600回/Mの撚糸を施し、その後、75℃×20分のスチーム撚止めセットを2回実施し糸条Aとした。セルローストリアセテートフィラメント120dtex、26フィラメントを糸条Bとした。これらを実施例2と同様の方法で合撚、撚止めセットを行い、非ポリエステルの特殊構造のポリエステル系合撚糸とした。糸条Cとして、セルローストリアセテートフィラメント84dtex、20フィラメントを実施例2と同様の方法にて撚糸、撚止めセット、製織、染色加工を実施し、バックサテンアムンゼン組織の製品を作成した。得られた製品の評価を表2に示す。発色性と艶感には優れていたが、シワが付きやすく、洗濯による変化が大きいものであった。
【0068】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のポリエステル系マルチフィラメントで構成された合撚糸であって、前記合撚糸を構成する一方の糸条Aが、下式(1)に示す撚係数(KA)8000以上25000以下の撚糸で芯部を形成し、前記合撚糸を構成する他方の糸条Bは無撚で鞘部に給糸されており、前記糸条Aと前記糸条Bとが、前記糸条Aの撚方向と同一の方向に合撚されていることを特徴とするポリエステル系合撚糸。
KA=TA×√(DA) ・・・ 式(1)
ただし、KA:糸条Aの撚係数
TA:糸条Aの撚数(回/M)
DA:糸条Aの繊度(dtex)×0.9
【請求項2】
下式(2)に示す撚係数(K)が1000以上15000以下であることを特徴とする請求項1記載のポリエステル系合撚糸。
K=T×√D ・・・ 式(2)
ただし、K:合撚糸の撚係数
T:合撚糸の撚数(回/M)
D:合撚糸の繊度(dtex)×0.9
【請求項3】
糸条Aと糸条Bとの糸長差が下式(3)を満たすことを特徴とする請求項1または2記載のポリエステル系合撚糸。
{(Lb−La)/(Lb)}×100≧3 ・・・ 式(3)
La:糸条Aの長さ
Lb:糸条Bの長さ
【請求項4】
糸条Bが、その表面に微細な凹凸孔を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル系合撚糸。
【請求項5】
糸条Aが繊維軸方向に微細間隔の筋を有する請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル系合撚糸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル系合撚糸を少なくとも一部に用いてなる織編物。
【請求項7】
糸条Aが制電性を有するポリマーを有する複合フィラメントで構成されており、洗濯5回後の摩擦耐電圧が3.0KV以下であることを特徴とする請求項6記載の織編物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−122180(P2012−122180A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241921(P2011−241921)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】