説明

ポリエステル系樹脂の製造方法、及びその製造方法により得られたポリエステル系樹脂、並びに該樹脂を用いたトナー用樹脂

【課題】 有機チタン化合物を触媒として製造されたポリエステル系樹脂の着色を抑制し、また一度着色した樹脂や、反応中における着色の著しいロジン類等原材料を使用する場合においても、物性を劣化させることなくその着色の改善を図ることができるポリエステル系樹脂の製造方法、及び該製造方法により得られたポリエステル系樹脂の提供。
【解決手段】 有機チタン化合物(a)を触媒とするポリエステル系樹脂の製造方法において、ポリエステル系樹脂が、ポリエステル樹脂(A1)またはポリエステル樹脂とビニル系樹脂との複合樹脂(A2)であり、該樹脂の重合後に、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)を該樹脂に対し50〜5000ppm添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機チタン化合物を触媒として製造されたポリエステル系樹脂の製造方法、及びその製造方法により得られるポリエステル系樹脂、並びに該樹脂を用いたトナー用樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル樹脂を製造する際の重縮合触媒としては、ジブチル錫オキサイドなどの錫系触媒、および三酸化アンチモンなどのアンチモン触媒などが一般的に使用されているが、近年では、安全性の問題から上記化合物以外のポリエステル化触媒として、有機チタン化合物やアルミニウム化合物が用いられるようになってきた。
【0003】
しかしながら、有機チタン化合物を触媒として製造されたポリエステル樹脂は黄色〜褐色を呈するため、透明性を要求されるフィルムやペットボトルなどの用途や、色再現域の広さを要求されるカラートナー用樹脂としては使用し難いものであった。
【0004】
この着色を抑制する方法としては、ポリエステル樹脂を製造する際にリン化合物を添加するポリエステル樹脂の製造方法(特許文献1など)や、ポリエステル樹脂の多価アルコール成分に3価以上のアルコールを全アルコール成分のうち0.5モル%以上50モル%以下用いるトナー用ポリエステル樹脂の製造方法(特許文献2)、さらには、触媒であるチタン酸エステルを予めポリエステルに使用するジオール成分でエステル交換したものを用いて重合したトナーバインダー(特許文献3)がある。
【0005】
しかしながら、上記した方法によれば、その着色抑制効果は認められるものの、既に着色した樹脂の着色改善については効果が認められない。また、3価以上のアルコールをポリエステル成分として使用する場合、架橋構造を有するためフィルムなどの柔軟性、加工性を要求される素材にはあまり適さない。また架橋により軟化点が高くなるため、トナー用樹脂として使用する場合には耐オフセット性には良いものの、定着性の面では好ましくなく、その使用量も制限されたものになるため、あまり着色抑制効果を期待できない。
【特許文献1】特開昭55−78018号公報
【特許文献2】特公平8−20765号公報
【特許文献3】特開2002−148867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、有機チタン化合物を触媒として製造されたポリエステル系樹脂の着色を抑制し、また一度着色した樹脂や、反応における着色の著しいロジン類等原材料を使用する場合においても、物性を劣化させることなくその着色の改善を図ることができるポリエステル系樹脂の製造方法、及び該製造方法により得られたポリエステル系樹脂を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、偶然にも、有機チタン化合物を触媒としたポリエステル樹脂を検討している際に、ソルビトールなどの3価以上の脂肪族多価アルコールを重合後少量添加すると、ポリエステル樹脂の物性を劣化させることなく、着色した樹脂の色調が著しく改善される上、取出後もその色調を維持することを見出し、更に鋭意検討した結果、本発明に至った。
【0008】
本発明は、有機チタン化合物(a)を触媒とするポリエステル系樹脂の製造方法であって、ポリエステル樹脂(A1)の重合後に、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)を該樹脂に対し50〜5000ppm添加することを特徴とする、ポリエステル系樹脂の製造方法である(第1の発明)。
【0009】
また本発明は、有機チタン化合物(a)を触媒とするポリエステル系樹脂の製造方法であって、ポリエステル樹脂とビニル系樹脂との複合樹脂(A2)の重合後に、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)を該樹脂に対し50〜5000ppm添加することを特徴とする、ポリエステル系樹脂の製造方法である(第2の発明)。
【0010】
また本発明は、第1または第2の発明で用いられる3価以上の脂肪族多価アルコール(b)が、糖アルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンからなる群より選択される少なくとも1種である(第3の発明)。
【0011】
また本発明は、第1乃至第3の発明で用いられる3価以上の脂肪族多価アルコール(b)が、糖アルコールのうちソルビトール、キシリトール、マンニトール、ガラクチトール、エリトリトール、グリセリンからなる群より選択される少なくとも1種である(第4の発明)。
【0012】
また本発明は、第1乃至4の発明において、ポリエステル系樹脂の重合成分に、ロジン類由来の骨格を有する化合物(c)を用いる(第5の発明)。
【0013】
また本発明は、第1乃至5の発明により得られる、ポリエステル系樹脂である(第6の発明)。
【0014】
第6の発明におけるポリエステル系樹脂は、トナー用樹脂成分として用いることができる(第7の発明)。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一度着色した樹脂にあっても、簡便な方法でその着色を著しく改善することができる。また、架橋により樹脂の柔軟性を損なったり軟化点が高くなったりしないことから、加工性や柔軟性、伸長性に優れたポリエステル系素材を得ることができる。さらに、ロジン類を樹脂骨格に導入した場合にも、着色の抑えられた軟化点の低い樹脂を得ることができる。そして、トナー用樹脂に用いる場合には、定着性を維持したまま着色を改善でき、特に低温定着性を要求されるトナー用ポリエステル樹脂においては、定着性を向上させる目的でロジン類をポリエステル樹脂の重合成分として導入しても、その色調を改善することができるため、カラートナー用樹脂成分としても好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明におけるポリエステル系樹脂のひとつであるポリエステル樹脂(A1)は、有機チタン化合物(a)を触媒として、カルボン酸成分とアルコール成分とを反応して得られる。
【0017】
有機チタン化合物(a)は、エステル交換触媒やエステル化触媒、あるいは重縮合触媒と称される触媒作用を有する公知の有機チタン化合物であればいずれも使用できる。具体例としては、テトラメチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラ(2‐エチルヘキシル)チタネート、テトラオクチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのテトラアルキルチタネート及びこれらの誘導体(多量体、加水分解物、エステル交換物を含む)が挙げられ、これらのうち少なくとも1種を選択して用いることができ、その使用量は、反応系に供されるカルボン酸成分及びアルコール成分の総量に対し、0.01重量%〜1.0重量%であることが好ましい。
【0018】
カルボン酸成分としては、公知のポリエステル原材料である2価以上のカルボン酸が主として使用される。2価のカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、o‐フタル酸などの芳香族ジカルボン酸又はこれらの無水物或いは低級アルキルエステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、メサコン酸、シトラコン酸などのα、β‐不飽和ジカルボン酸又はこれらの無水物;マロン酸、琥珀酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸などの脂肪族ジカルボン酸又はこれらの無水物;炭素数6〜18のアルキル基又はアルケニル基で置換された琥珀酸或いはその無水物などが挙げられる。また、3価以上のカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸又はこれらの無水物などが挙げられる。
【0019】
また、所望により樹脂の分子量や軟化点を調整する目的で、1価のカルボン酸を使用することが出来る。1価のカルボン酸としては、後述するロジン類などの天然樹脂酸或いはその変性物;オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸などの脂肪族モノカルボン酸;安息香酸、ナフタレンカルボン酸などの芳香族モノカルボン酸或いはその誘導体が挙げられる。
【0020】
アルコール成分としては、カルボン酸成分同様に公知のポリエステル原材料である2価以上のアルコールが主として使用される。2価のアルコールとしては、エチレングリコール、1,2‐プロピレングリコール、1,3‐プロピレングリコール、1,4‐ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、3‐メチル‐1,5‐ペンタンジオール、1,6‐ヘキサンジオール、1,8‐オクタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族または脂環族ジアルコール;ポリオキシプロピレン(2.2)‐2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)−2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)−2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)−ポリオキシエチレン(2.0)−2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)‐2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。また、3価以上のアルコール成分としては、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,3,6‐ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンなどが挙げられる。
【0021】
その他、必要に応じてヒドロキシカルボン酸類も用いることができる。具体例としては、p−ヒドロキシ安息香酸、クエン酸、没食子酸などが挙げられる。
【0022】
ポリエステル樹脂(A1)の重合は、これら上述したカルボン酸成分とアルコール成分とからなるモノマー成分を各々必要な物性に応じて適宜1種またはそれ以上選択し、常法により、通常OH過剰率0〜20モル%の範囲で、不活性ガス気流中、無溶剤又は溶剤の存在下、有機チタン化合物(a)を触媒として反応温度180〜280℃で1〜20時間行い、その後必要によっては減圧下で更に0.1〜10時間反応する。本発明ではこの重合後に、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)を添加し、均一になるまで混合する。
【0023】
また本発明におけるもうひとつのポリエステル系樹脂であるポリエステル樹脂とビニル系樹脂との複合樹脂(A2)は、有機チタン化合物(a)を触媒として、カルボン酸成分とアルコール成分とを反応しポリエステル樹脂とした後、その存在下、更にビニル系モノマーを重合して得られる。
【0024】
ビニル系モノマーの重合は、塊状重合、溶液重合、懸濁重合などの常法がいずれも適用でき、それぞれの重合方法に適した80〜200℃の温度条件で行う。この場合に用いられるビニル系モノマーとしては、スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレンなどの芳香族系モノマー;アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステル;(無水)マレイン酸またはそのモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボン酸基を有するビニル系モノマーが挙げられる。また重合開始剤としては、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物や、2,2´−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤が挙げられる。本発明ではこの重合後に、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)を添加し、均一になるまで混合する。
【0025】
3価以上の脂肪族多価アルコール(b)の添加する際の温度は100〜200℃が好ましく、更に好ましくは120〜180℃である。200℃を超えると、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)による架橋が進行するので好ましくない。
【0026】
3価以上の脂肪族多価アルコール(b)の添加効果は、その添加のタイミングが重合直後であっても、取出し後に再度溶融させた時点であっても同等の効果を有する。その添加量は、ポリエステル樹脂(A1)またはポリエステル樹脂とビニル系樹脂との複合樹脂(A2)に対し50〜5000ppmの範囲にあるときに着色改善効果が認められるが、5000ppmを超える量を添加してもそれ以上の効果が期待できないうえ、使用するアルコールによっては樹脂にくすみを生じるので好ましくない。より効果的な添加量としては、100ppm〜2000ppmの範囲にあることが好ましい。
【0027】
重合後に添加する3価以上の脂肪族多価アルコール(b)としては、具体的には、ソルビトール、キシリトール、マンニトール、イディトール、ガラクチトール、アラビトール、リビトール、エリトリトール、グリセリンなどの糖アルコール類;トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの中でも、好ましくはソルビトール、キシリトール、マンニトール、ガラクチトール、エリトリトール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンが特に着色の改善効果に優れ、より好ましくはソルビトールである。
【0028】
ポリエステル系樹脂の重合成分として、ロジン類由来の骨格を有する化合物(c)を用いるとポリエステルの低軟化点化を図ることができる。ロジン類をポリエステル樹脂等の成分として使用した場合には着色が懸念されるが、本発明においてはその着色を改善することができる。
【0029】
ロジン類由来の骨格を有する化合物(c)としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジンなどの天然ロジンを精製したもの、また、それらを変性した水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジンなどのロジン類;前記ロジン酸を多価アルコールでエステル化せしめたロジンエステル;強化ロジンなどが挙げられる。ロジン類由来の骨格を有する化合物(c)の使用量は特に制限されないが、全カルボン酸成分の1モル%〜50モル%が好ましい。
【0030】
本発明に従う反応系に、必要に応じて、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドなどのテトラアルキルアンモニウムヒドロキシド;トリエチルアミンなどの有機アミン等に代表されるジエチレングリコール副生抑制剤や、有機リン化合物などの酸化防止剤をはじめとする任意の添加剤を配合することができる。また、有機チタン化合物と併用して、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛などのエステル交換触媒を使用しても構わない。
【0031】
こうして得られるポリエステル系樹脂は、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)の添加前後での重量平均分子量(Mw)の変化が少なく、無色または淡色であり、フィルムやペットボトルなどの各種ポリエステル樹脂系加工物の原材料として使用することが可能である。また、ロジン類由来の骨格を有する化合物(c)を使用したものはその着色を改善しつつ低軟化点化を図ることが可能であるため、より低温で使用できるホットメルト接着剤用の樹脂としての利用などが期待できる。
【0032】
とりわけ、本発明のポリエステル系樹脂は、トナー用樹脂として好適に使用することができ、特に低温定着性と透明性とを要求されるカラートナー用樹脂として好適に使用することができる。
【0033】
トナー用樹脂に本発明のポリエステル系樹脂が用いられる場合、ポリエステル樹脂を構成するカルボン酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、o−フタル酸、マレイン酸、フマル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、及び炭素数6〜18のアルキル基又はアルケニル基で置換された琥珀酸、或いはこれらの無水物、及びガムロジン、水添ロジンが好ましく、アルコール成分としては、エチレングリコール、1,2‐プロピレングリコール、1,3‐プロピレングリコール、1,4‐ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ペンタエリスリトール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの脂肪族または脂環族ジアルコール;ポリオキシプロピレン(2.2)‐2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(3.3)−2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)−2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(2.0)−ポリオキシエチレン(2.0)−2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン(6)‐2,2‐ビス(4‐ヒドロキシフェニル)プロパンなどのビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物;及びガムロジンをグリセリンやペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールでエステル化せしめたロジンエステルなどが好ましい。
【0034】
また、ポリエステル樹脂とビニル系樹脂との複合樹脂とする場合には、好ましいビニル系モノマーとして、スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、(無水)マレイン酸またはそのモノアルキルエステル、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。本発明のポリエステル系樹脂におけるポリエステル樹脂成分とビニル系樹脂成分の割合に特に制限はないが、トナー用樹脂成分として用いる場合には、好ましくはポリエステル樹脂成分/ビニル系樹脂成分=50/50〜90/10である。ポリエステル樹脂成分の割合が50%未満となると、ポリエステル樹脂の特徴が現れにくくなり、トナーにしたときの低温定着性と耐ブロッキング性の両立が困難になる。ビニル系樹脂の特徴はワックス分散性、帯電性の向上であるが、10%未満ではその複合化による効果が期待できない。
【0035】
トナー用樹脂に用いる場合、軟化点(Tm)は90〜170℃、ガラス転移温度(Tg)は40〜70℃、酸価0.5〜50mgKOH/gの範囲にそれぞれあることが好ましい。軟化点が90℃未満であると低温定着性は良好となるが、耐ブロッキング性が悪くなり、一方170℃を超えると低温定着性が不良となる。また、ガラス転移温度が40℃未満であると低温定着性は良好となるが、耐ブロッキング性が極めて悪くなり、シリカ等の無機粉末を加えても使用できるレベルに至らない。一方70℃を超えると低温定着性が不良となる。そして、酸価が0.5mgKOH/g未満であると顔料等の着色剤の分散性が低下し、一方50mgKOH/gを超えるとマイナス帯電が大きくなる上、帯電の温度依存性が高まるため、画質の環境安定性が不良となる。
【0036】
本発明で得られるポリエステル系樹脂は、トナー用樹脂をはじめとする各用途において、必要に応じて、本発明の性能を損なわない範囲で他のポリエステル樹脂、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、スチレンマレイン酸系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、石油樹脂、オレフィン系樹脂、あるいはこれらの複合樹脂などを混合して使用することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を提示して本発明をさらに具体的に説明するが、これら実施例は本発明を限定するものではない。なお、実施例及び比較例で示す「部」及び「%」は、重量部及び重量%を意味する。
(ポリエステル系樹脂の基本物性評価及び性能試験)
分子量
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定。GPCによる分子量測定条件は以下の通りである。
装置:東ソー株式会社製 HLC−8220
カラム:TSKgel GMHxl + GMHxl−l
測定温度:40℃
試料溶液:0.1重量%のテトラヒドロフラン溶液
溶液注入量:100μl
検出装置:屈折率検出器
なお、分子量校正曲線は、標準ポリスチレンを用いて作成した。
【0038】
2.ガラス転移温度(Tg)
示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製:DSC-22)を用いて150℃まで昇温し、その温度で10分間放置した後、降温速度10℃/minで10℃まで冷却し、その温度で10分間放置した後、昇温速度10℃/minで測定した際に、ガラス転移温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピーク頂点までの間での最大傾斜を示す接線との交点の温度を、ガラス転移温度(Tg)とした。
【0039】
3.軟化点(Tm)
高化式フローテスター(株式会社島津製作所製:CFT−500D)を用い、1gの試料を昇温速度4℃/分で加熱しながら、プランジャーにより0.98MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルを押し出すようにし、これによりフローテスターのプランジャー降下量(流れ値)−温度曲線を描き、そのS字曲線の高さをhとするときh/2に対応する温度(樹脂の半分が流出した温度)を軟化点とする。
【0040】
4.酸価(AV)
試料2gをテトラヒドロフラン(THF)50mlに溶解させ、指示薬としてフェノールフタレイン/エタノール溶液を数滴加えた後、1/10N規定KOH水溶液で滴定を行った。試料溶液の色が紫色を呈した時点を終点とし、この滴定量と試料質量から酸価(KOHmg/g)を算出した。
【0041】
5.色調
試料樹脂の50%トルエン溶液をガードナー比色計で測定した。実用上の面から、5以下であることが好ましい。
【0042】
ポリエステル樹脂(A1)の合成
<実施例1>
温度計、リービッヒ冷却管、攪拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、テレフタル酸155部、イソフタル酸155部、ビスフェノールAプロピレンオキサイド2.2モル付加物688部、及びテトライソプロピルチタネート2部を仕込み、窒素雰囲気中、常圧下、生成する水を反応系外に留去しながら、240℃で8時間反応し、さらに10hPaの減圧下で8時間反応した。反応終了後、常圧まで復圧し、内温が145℃になった時点でソルビトール0.1部を添加した。均一に分散したのを確認した後、反応槽から取出し、ポリエステル系樹脂(Pes-A)938部を得た。重量平均分子量(Mw)は9500、Tgは60℃、Tmは107℃、AVは4KOHmg/gであった。
【0043】
<実施例2>
実施例1で使用したソルビトールの添加量を1.5部としたほかは、実施例1と同様の反応槽、組成、及び操作でポリエステル系樹脂(Pes‐B)940部を得た。重量平均分子量(Mw)は9500、Tgは60℃、Tmは107℃、AVは4KOHmg/gであった。
【0044】
<実施例3>
温度計、分離器、リービッヒ冷却管、攪拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、テレフタル酸262部、イソフタル酸262部、ガムロジン215部、エチレングリコール39部、1,2‐プロピレングリコール156部、ネオペンチルグリコール66部及びテトラブチルチタネート0.8部を仕込み、常圧下190℃〜240℃で徐々に昇温しながら10時間反応し、その際生成する水を反応系外に留去した。さらに10hPaの減圧下、230℃で5時間反応した。反応終了後、常圧まで復圧し、内温が145℃になった時点でソルビトール0.4部を添加した。均一に分散したのを確認した後、反応槽から取出し、ポリエステル系樹脂(Pes-C)850部を得た。重量平均分子量(Mw)は3700、Tgは57℃、Tmは102℃、AVは35KOHmg/gであった。
【0045】
<実施例4〜10>
実施例3で使用したソルビトールをそれぞれキシリトール、エリトリトール、ガラクチトール、マンニトール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、グリセリンに代えたほかは、実施例3と同様の反応槽に、実施例3と同様の組成、及び操作でポリエステル系樹脂(Pes‐D〜Pes-J)850部を得た。どのポリエステル系樹脂も、重量平均分子量は3700、Tgは57℃、Tmは102℃、AVは35KOHmg/gであった。
【0046】
<実施例11>
実施例3において、ソルビトールを添加せずに一旦取出し、ペレット化したものを850部再度180℃で溶融させて、完全に溶融した時点でソルビトール0.4部を添加した。均一に分散したのを確認した後、反応槽から取出し、ポリエステル系樹脂(Pes-K)850部を得た。重量平均分子量(Mw)は3700、Tgは57℃、Tmは102℃、AVは35KOHmg/gであった。
【0047】
ポリエステル樹脂とビニル系樹脂との複合樹脂(A2)の合成
<実施例12>
温度計、分離器、リービッヒ冷却管、攪拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、テレフタル酸262部、イソフタル酸262部、フマル酸7.5部、ガムロジン219部、エチレングリコール40部、1,2‐プロピレングリコール159部、ネオペンチルグリコール67部及びテトラブチルチタネート0.8部を仕込み、常圧下190℃〜240℃で徐々に昇温しながら10時間反応し、その際生成する水を反応系外に留去した。さらに10hPaの減圧下、230℃で5時間反応した。反応終了後、常圧まで復圧して反応槽から取出し、ポリエステル樹脂860部を得た。
次に、ポリエステル樹脂の反応に使用した反応槽とは別に用意した、ジムロート冷却管、攪拌機及び窒素導入管の付いた反応槽中に、上記ポリエステル樹脂750部を仕込み、加熱溶融後内温140℃に調整した。その後、スチレン200部、アクリル酸ブチル50部、およびラジカル重合開始剤としてジ−t−ブチルパーオキサイド(日本油脂製:商品名パーブチルD)0.8部の混合物を30分かけて滴下し、滴下終了後から8時間保温し、さらに内温180℃で3時間減圧して揮発分を留去させた。反応終了後、常圧まで復圧した時点でソルビトール0.4部を添加した。均一に分散したのを確認した後、反応槽から取出し、ポリエステル系樹脂(Pes-L)995部を得た。重量平均分子量(Mw)は14000、Tgは59℃、Tmは110℃、AVは26KOHmg/gであった。
【0048】
<比較例1>
実施例1において、ソルビトールを添加せずにそのまま反応槽から取出し、ポリエステル系樹脂(Pes‐M)938部を得た。重量平均分子量(Mw)は9500、Tgは60℃、Tmは107℃、AVは4KOHmg/gであった。
【0049】
<比較例2>
実施例3において、ソルビトールを添加せずにそのまま反応槽から取出し、ポリエステル系樹脂(Pes‐N)850部を得た。重量平均分子量(Mw)は3700、Tgは57℃、Tmは102℃、AVは35KOHmg/gであった。
【0050】
<比較例3>
実施例3において、ソルビトールの添加量を0.03部としたほかは、実施例3と同様の操作でポリエステル系樹脂(Pes‐O)850部を得た。重量平均分子量(Mw)は3700、Tgは57℃、Tmは102℃、AVは35KOHmg/gであった。
【0051】
<比較例4>
実施例3において、ソルビトールの添加量を8部としたほかは、実施例3と同様の操作でポリエステル系樹脂(Pes‐P)858部を得た。重量平均分子量(Mw)は3700、Tgは57℃、Tmは102℃、AVは35KOHmg/gであった。得られた樹脂はくすみが認められた。
【0052】
<比較例5>
実施例3において、ソルビトールに代えて、エチレングリコール0.4部を添加したほかは、実施例3と同様の操作でポリエステル系樹脂(Pes‐Q)850部を得た。重量平均分子量(Mw)は3700、Tgは57℃、Tmは102℃、AVは35KOHmg/gであった。
【0053】
<比較例6>
実施例12において、ソルビトールを添加せずにそのまま反応槽から取出し、ポリエステル系樹脂(Pes‐R)995部を得た。重量平均分子量(Mw)は14000、Tgは59℃、Tmは110℃、AVは26KOHmg/gであった。
【0054】
実施例1〜12、及び比較例1〜6で得られた各ポリエステル系樹脂Pes-A〜Pes‐Rの色調を、表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
(トナー評価)
トナー用樹脂としての評価は、上記実施例1、3、11、12及び比較例1〜6で得られたポリエステル系樹脂Pes‐A、C、K、L及びPes‐M〜Rを用いて評価用トナーを作成し、その色調評価を行った。
【0057】
<評価用トナーの調整>
本発明のトナー用ポリエステル系樹脂(Pes‐A、C、K、L)又は比較トナー用ポリエステル系樹脂(Pes‐M〜R)100部、カルバナワックス5部及びイエロー顔料(クラリアント株式会社製:toner yellow HG VP2155)4部をブレンダーにて混合し、130度に加熱した二軸エクストルーダーで溶融混練した。冷却した混練物をスピードミルで粗粉砕後、ジェットミルで微粉砕し、得られた微粉砕物をコアアンダー効果を用いた多分割分級機にて厳密に分級して重量平均粒子径8μmのトナー粒子を得た。次いで、得られたトナー粒子100部に対し、コロイダルシリカ(日本アエロジル株式会社製:アエロジルR972)0.5部を混合機にて混合し、トナー(T-1〜4)、及び比較トナー(T-5〜10)を得た。得られたトナー及び比較トナーの色調評価は以下の方法に従った。評価結果を表2に示す。
【0058】
<評価方法>
1.色調
市販カラー複写機(キヤノン製:CLC‐500)の定着装置を用いて、OHPフィルム上に現像定着し、オーバーヘッドプロジェクターにて定着画像を透写し、その色調を目視判定した。
判定基準
○:鮮やかな発色
△:僅かにくすんだ黄色
×:くすんでいる
【0059】
【表2】

【0060】
表1に示す結果から明らかなように、実施例1〜12で得られたポリエステル系樹脂は、いずれも色調が良好で、対応する比較例と比べても、重量平均分子量やその他の物性に変化は見られず、色調のみが改善されていることがわかる。また、本発明のポリエステル系樹脂を用いて調整されたトナーは、表2に示す通りカラートナーとしての色調に優れる(評価例1〜4)。
【0061】
しかしながら、3価以上の脂肪族多価アルコールを無添加、あるいは必要量添加しなかった、あるいは本発明で規定される3価以上の脂肪族多価アルコール以外のアルコールを添加したポリエステル系樹脂は、着色を満足するレベルに改善することができず(比較例1〜3、5、6)、必要以上にソルビトールを添加したものは樹脂にくすみが認められた(比較例4)。それらを用いてトナーとした場合にも、カラートナーとしての色調を満足できない(比較評価例1〜6)。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のポリエステル系樹脂は、有機チタン化合物を触媒として重合しても色調に優れるため、フィルムやペットボトルなどの各種ポリエステル加工基材、プラスチック成形加工材料や塗料、重合トナーなどの顔料マスターバッチ用樹脂、あるいはホットメルト接着剤やインキ、トナーのバインダーとして、その利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機チタン化合物(a)を触媒とするポリエステル系樹脂の製造方法であって、ポリエステル樹脂(A1)の重合後に、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)を該樹脂に対し50〜5000ppm添加することを特徴とする、ポリエステル系樹脂の製造方法。
【請求項2】
有機チタン化合物(a)を触媒とするポリエステル系樹脂の製造方法であって、ポリエステル樹脂とビニル系樹脂との複合樹脂(A2)の重合後に、3価以上の脂肪族多価アルコール(b)を該樹脂に対し50〜5000ppm添加することを特徴とする、ポリエステル系樹脂の製造方法。
【請求項3】
3価以上の脂肪族多価アルコール(b)が、糖アルコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載のポリエステル系樹脂の製造方法。
【請求項4】
3価以上の脂肪族多価アルコール(b)が、糖アルコールのうちソルビトール、キシリトール、マンニトール、ガラクチトール、エリトリトール、グリセリンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1乃至3に記載のポリエステル系樹脂の製造方法。
【請求項5】
ポリエステル系樹脂の重合成分に、ロジン類由来の骨格を有する化合物(c)を用いる、請求項1乃至4に記載のポリエステル系樹脂の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5に記載の製造方法により得られるポリエステル系樹脂。
【請求項7】
請求項6に記載のポリエステル系樹脂を含有してなるトナー用樹脂。

【公開番号】特開2007−314743(P2007−314743A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191043(P2006−191043)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000109635)星光PMC株式会社 (102)
【Fターム(参考)】