説明

ポリエステル系繊維用難燃加工剤、それを用いた難燃性ポリエステル系繊維、及びその製造方法

【課題】ポリエステル系繊維に対して耐久性に優れた十分な難燃性を付与することができ、且つ、ポリエステル系繊維における経時的色相の変化やフォギングの発生を十分に抑制することができるポリエステル系繊維用難燃加工剤を提供する。
【解決手段】トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、特定の芳香族リン酸エステル(b1)、及び下記一般式(2):


[式(2)中、R及びRはそれぞれ炭素数1〜8のアルキル基、Arはアリール基又はアラルキル基を示す。]で表される芳香族リン酸エステル(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族リン酸エステル(B)と、を含有することを特徴とするポリエステル系繊維用難燃加工剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル系繊維用難燃加工剤、それを用いた難燃性ポリエステル系繊維、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル系繊維の難燃加工方法としては、代表的なハロゲン系難燃化化合物であるヘキサブロモシクロドデカン(以下、HBCDと略す)の水分散物を繊維に付着させ、高温吸尽法やサーモゾル法等によって前記HBCDをポリエステル系繊維に浸透・定着(吸尽)させる加工方法が主流であった。しかしながら、前記HBCDは難分解性且つ高蓄積性の物質であることが判明したことから第一種監視化学物質に指定され、これを受けて自動車業界や繊維業界では前記HBCDの使用を全廃する方針を打ち出している。
【0003】
そこで、近年では、前記HBCDに代わる難燃化化合物として、種々のリン化合物についての検討がなされている。例えば、特開2000−328445号公報(特許文献1)においては、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)を界面活性剤の存在下に水中に乳化分散させて乳化組成物を調製し、これを染浴に添加してポリエステル系繊維にレゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)を吸着させるポリエステル系繊維の難燃加工方法が開示されている。また、特開2006−299486号公報(特許文献2)においては、リン化合物と特定のポリエステル樹脂とを含むポリエステル系繊維用難燃加工剤により、耐久性に優れた難燃性をポリエステル系繊維に付与できることが開示されている。しかしながら、リン酸エステル等のリン化合物はポリエステル系繊維への吸尽率が低いため、特許文献1〜2に開示されているようなリン化合物のみを難燃化成分として用いた難燃加工方法では、前記HBCDを用いた場合と比較すると、ポリエステル系繊維に対する難燃性付与効果が不十分となる傾向にあった。
【0004】
また、このような難燃性付与効果の不足を、リン化合物と臭素系の難燃化化合物とを併用することにより改善する試みもなされている。例えば、特開2011−032588号公報(特許文献3)においては、ポリエステル系繊維に十分な難燃性を付与することを目的として、特定の芳香族リン酸エステルと、臭素系の難燃化化合物であるトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートとを一定の混合比率で難燃加工剤において併用することが開示されている。しかしながら、特許文献3に開示されている難燃加工剤を用いて得られた難燃性ポリエステル系繊維においては、難燃性や難燃性の耐久性が未だ不十分であるという問題や、耐光性に劣るためにポリエステル系繊維の色相が経時的に変化するといった問題を有していた。さらに、特許文献3に開示されているような低分子量のリン化合物を用いて得られた難燃性ポリエステル系繊維においては、前記リン化合物が高温において昇華しやすいため、昇華したリン化合物が低温において凝縮し、窓ガラス等を白く曇らせるフォギングが生じるという問題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−328445号公報
【特許文献2】特開2006−299486号公報
【特許文献3】特開2011−032588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ポリエステル系繊維に対して耐久性に優れた十分な難燃性を付与することができ、且つ、ポリエステル系繊維における経時的色相の変化やフォギングの発生を十分に抑制することができるポリエステル系繊維用難燃加工剤、それを用いた難燃性ポリエステル系繊維、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、難燃加工剤における難燃化成分としてトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートと特定の芳香族リン酸エステルとを組み合わせて用い、これらをいずれもポリエステル系繊維に吸尽させることにより、耐久性に優れた十分な難燃性を有するポリエステル系繊維を得ることができることを見出した。さらに、このように前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートと前記特定の芳香族リン酸エステルとを併用して得られた難燃性ポリエステル系繊維の難燃性及び難燃性の耐久性は、これらの難燃化成分をそれぞれ単独で用いた場合に比較して優れたものとなり、難燃化成分として前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレートと前記特定の芳香族リン酸エステルとを併用することにより、難燃加工剤の難燃性付与効果が相乗的に向上することを本発明者らは見出した。
【0008】
また、本発明者らは、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート及び前記特定の芳香族リン酸エステルをポリエステル系繊維に吸尽させることにより得られた難燃性ポリエステル系繊維においては、驚くべきことに、前記特定の芳香族リン酸エステルが低分子量であるにもかかわらず、経時的色相の変化やフォギングの発生が十分に抑制されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤は、
トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、
下記一般式(1):
【0010】
【化1】

【0011】
[式(1)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群から選択されるいずれか1つを示し、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜5の整数を示し、nは0又は1を示し、nが1の場合にはRとRとが相互に結合して、リン原子及びそれに結合している酸素原子とともに環を形成していてもよい。]
で表わされる芳香族リン酸エステル(b1)、及び下記一般式(2):
【0012】
【化2】

【0013】
[式(2)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基を示し、Arは置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群から選択されるいずれか1つを示す。]
で表される芳香族リン酸エステル(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族リン酸エステル(B)と、
を含有することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤としては、アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤(C)をさらに含有することが好ましい。
【0015】
さらに、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、前記芳香族リン酸エステル(B)との質量比((A)の質量:(B)の質量)が、90:10〜10:90であることが好ましい。また、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、前記芳香族リン酸エステル(B)との合計の含有量が、前記ポリエステル系繊維用難燃加工剤の全質量に対して10〜70質量%であることが好ましい。
【0016】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法は、前記本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤をポリエステル系繊維に付着させる工程と、前記ポリエステル系繊維に前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)を吸尽させる工程とを備えることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維は、ポリエステル系繊維と、前記ポリエステル系繊維に吸尽されている、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、前記ポリエステル系繊維に吸尽されている、前記一般式(1)で表わされる芳香族リン酸エステル(b1)及び前記一般式(2)で表される芳香族リン酸エステル(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族リン酸エステル(B)と、を備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ポリエステル系繊維に対して耐久性に優れた十分な難燃性を付与することができ、且つ、ポリエステル系繊維における経時的色相の変化やフォギングの発生を十分に抑制することができるポリエステル系繊維用難燃加工剤、それを用いた難燃性ポリエステル系繊維、及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0020】
本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤は、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と芳香族リン酸エステル(B)とを含有することを特徴とするものであり、前記芳香族リン酸エステル(B)は、芳香族リン酸エステル(b1)及び芳香族リン酸エステル(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族リン酸エステルである。
【0021】
本発明に係る芳香族リン酸エステル(b1)は、下記一般式(1):
【0022】
【化3】

【0023】
で表わされる化合物である。前記式(1)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群から選択されるいずれか1つを示す。
【0024】
前記炭素数1〜8のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、化合物中のリン含有率が増加し、難燃加工剤の難燃性付与効果がより向上する傾向にあるという観点から、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。
【0025】
また、前記置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基、ナフチル基が挙げられ、かかるアリール基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基、フェニル基が挙げられる。また、前記置換基を有していてもよいアラルキル基としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、t−ブチルベンジル基、フェネチル基が挙げられ、かかるアラルキル基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基、フェニル基が挙げられる。
【0026】
さらに、前記式(1)中、nは0又は1を示し、nが1の場合にはRとRとが相互に結合して、リン原子及びそれに結合している酸素原子とともに環を形成していてもよい。前記環としては、例えば、ジオキサホスホリナン、ジオキサホスホランが挙げられる。
【0027】
本発明に係る芳香族リン酸エステル(b1)としては、難燃加工剤のポリエステル系繊維への吸尽量がより増加する傾向にあるという観点から、nが1であることが好ましく、R及びRが、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいアラルキル基であることが好ましく、置換基を有していてもよいアリール基であることがより好ましく、難燃加工剤のポリエステル系繊維への吸尽量がより増加する傾向にあるという観点から、置換基を有さないアリール基であることがさらに好ましく、いずれもフェニル基又はビフェニル基であることが特に好ましい。
【0028】
前記式(1)中、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示す。前記炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。また、前記式(1)中、mは置換基であるRの数であり、0〜5の整数を示す。本発明に係る芳香族リン酸エステル(b1)としては、化合物中のリン含有率をさらに増加させ、難燃加工剤の難燃性付与効果をより向上させる傾向にあるという観点から、mが0又は1であることが好ましい。
【0029】
このような芳香族リン酸エステル(b1)としては、例えば、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)メチル、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)ヘキシル、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)フェニル、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)トリル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)キシリル(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−を含む)、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)ビフェニル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)ナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)ベンジル、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)フェネチル、リン酸(2−フェノキシエチル)ジメチル、リン酸(2−フェノキシエチル)ジヘキシル、リン酸(2−フェノキシエチル)ジフェニル、リン酸(2−フェノキシエチル)ジトリル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ジキシリル(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ジビフェニル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ジナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ジベンジル、リン酸(2−フェノキシエチル)ジ(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ジフェネチル、リン酸(2−フェノキシエチル)メチルヘキシル、リン酸(2−フェノキシエチル)メチルフェニル、リン酸(2−フェノキシエチル)メチルトリル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)メチルキシリル(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)メチルビフェニル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)メチルナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)メチルベンジル、リン酸(2−フェノキシエチル)メチル(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)メチルフェネチル、リン酸(2−フェノキシエチル)ヘキシルフェニル、リン酸(2−フェノキシエチル)ヘキシルトリル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ヘキシルキシリル(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ヘキシルビフェニル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ヘキシルナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ヘキシルベンジル、リン酸(2−フェノキシエチル)ヘキシル(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ヘキシルフェネチル、リン酸(2−フェノキシエチル)フェニルトリル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)フェニルキシリル(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)フェニルビフェニル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)フェニルナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸(2−フ
ェノキシエチル)フェニルベンジル、リン酸(2−フェノキシエチル)フェニル(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)フェニルフェネチル、リン酸(2−フェノキシエチル)トリル(2−、3−又は4−を含む)キシリル(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)トリル(2−、3−又は4−を含む)ビフェニル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)トリル(2−、3−又は4−を含む)ナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)トリル(2−、3−又は4−を含む)ベンジル、リン酸(2−フェノキシエチル)トリル(2−、3−又は4−を含む)(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)トリル(2−、3−又は4−を含む)フェネチル、リン酸(2−フェノキシエチル)ビフェニル(2−、3−又は4−を含む)ナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ビフェニル(2−、3−又は4−を含む)ベンジル、リン酸(2−フェノキシエチル)ビフェニル(2−、3−又は4−を含む)(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ビフェニル(2−、3−又は4−を含む)フェネチル、リン酸(2−フェノキシエチル)ベンジル(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸(2−フェノキシエチル)ベンジルフェネチル、リン酸(2−フェノキシエチル)(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)フェネチル、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジメチル、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジヘキシル、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジフェニル、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジトリル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジキシリル(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−を含む)、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジビフェニル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジベンジル、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジ(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸[2−(メチルフェノキシ)(2’−、3’−又は4’−を含む)エチル]ジフェネチル、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)エチル]ジメチル、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジヘキシル、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジフェニル、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジトリル(2−,3−又は4−を含む)、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジキシリル(2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−又は3,5−を含む)、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジビフェニル(2−、3−又は4−を含む)、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジナフチル(1−又は2−を含む)、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジベンジル、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジ(メチルベンジル)(2−、3−又は4−を含む)、リン酸[2−(ジメチルフェノキシ)(2’,3’−、2’,4’−、2’,5’−、2’,6’−、3’,4’−又は3’,5’−を含む)ジフェネチル、2−オキソ−2−フェノキシエチルオキシ−1,3,2−ジオキサホスホリナン、2−オキソ−2−フェノキシエチルオキシ−5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン、2−オキソ−2−フェノキシエチルオキシ−1,3,2−ジオキサホスホランが挙げられる。これらの中でも、本発明に係る芳香族リン酸エステル(b1)としては、化合物中のリン含有率が高く、且つ、難燃加工剤のポリエステル系繊維に対する親和性がより向上する傾向にあるという観点から、リン酸(2−フェノキシエチル)ジフェニル、リン酸ジ(2−フェノキシエチル)フェニルであることが好ましい。
【0030】
本発明に係る芳香族リン酸エステル(b2)は、下記一般式(2):
【0031】
【化4】

【0032】
で表わされる化合物である。前記式(2)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基を示す。前記炭素数1〜8のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基が挙げられる。このようなアルキル基としては、化合物中のリン含有率が増加し、難燃加工剤の難燃性付与効果がより向上する傾向にあるという観点から、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましい。また、本発明に係る芳香族リン酸エステル(b2)としては、化合物中のリン含有率が高いほど優れた難燃性付与効果が奏される傾向にあるという観点から、R及びRがメチル基、エチル基のうちのいずれかであることがさらに好ましい。
【0033】
前記式(2)中、Arは、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群から選択されるいずれか1つを示す。前記置換基を有していてもよいアリール基としては、例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ビフェニル基、ナフチル基が挙げられ、かかるアリール基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基、フェニル基が挙げられる。また、前記置換基を有していてもよいアラルキル基としては、ベンジル基、メチルベンジル基、t−ブチルベンジル基、フェネチル基が挙げられ、かかるアラルキル基の置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、t−ブチル基、フェニル基が挙げられる。
【0034】
本発明に係る芳香族リン酸エステル(b2)としては、難燃加工剤のポリエステル系繊維への吸尽量がより増加する傾向にあるという観点から、前記Arが、置換基を有していてもよいアリール基であることが好ましく、化合物中のリン含有率が増加し、且つ、難燃加工剤のポリエステル系繊維への吸尽量がより増加するため、難燃加工剤の難燃性付与効果がより向上する傾向にあるという観点から、置換基を有さないアリール基であることがさらに好ましく、フェニル基、ビフェニル基であることが特に好ましい。
【0035】
このような芳香族リン酸エステル(b2)としては、例えば、2−([1,1’−ビフェニル]−2−イルオキシ)−5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド、2−([1,1’−ビフェニル]−2−イルオキシ)−5,5−ジエチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド、2−([1,1’−ビフェニル]−2−イルオキシ)−5,5−ジブチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド、2−([1,1’−ビフェニル]−2−イルオキシ)−5,5−メチルエチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド、2−([1,1’−ビフェニル]−2−イルオキシ)−5,5−ジエチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド、2−(フェノキシ)−5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド、2−(フェノキシ)−5,5−ジエチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド、2−(フェノキシ)−5,5−ジブチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド等が挙げられる。これらの中でも、本発明に係る芳香族リン酸エステル(b2)としては、化合物中のリン含有率が高く、且つ、難燃加工剤のポリエステル系繊維に対する親和性がより向上する傾向にあるという観点から、2−([1,1’−ビフェニル]−2−イルオキシ)−5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド、2−([1,1’−ビフェニル]−2−イルオキシ)−5,5−ジエチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシドであることが好ましい。
【0036】
本発明に係る芳香族リン酸エステル(B)としては、前記芳香族リン酸エステル(b1)及び前記芳香族リン酸エステル(b2)からなる群から選択される芳香族リン酸エステルのうち、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明に係る芳香族リン酸エステル(B)としては、難燃加工剤のポリエステル系繊維への吸尽量がより増加する傾向にあるという観点から、分子量が250〜500であることが好ましい。本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤においては、このように低分子量の芳香族リン酸エステル(B)を含有しているにもかかわらず、難燃性ポリエステル系繊維におけるフォギングの発生を十分に抑制することができる。
【0037】
本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、前記芳香族リン酸エステル(B)との質量比((A)の質量:(B)の質量)が、90:10〜10:90であることが好ましく、80:20〜20:80であることがより好ましい。前記質量比が前記範囲内にあることにより、特に耐久性に優れた難燃性をポリエステル系繊維に付与することができる傾向にある。
【0038】
また、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と前記芳香族リン酸エステル(B)との合計の含有量が、前記ポリエステル系繊維用難燃加工剤の全質量に対して10〜70質量%であることが好ましく、20〜50質量%であることがより好ましい。前記含有量が前記下限未満である場合には、ポリエステル系繊維に十分な難燃性を付与するために難燃加工剤を多く使用する必要が生じて不経済となったり、加工が困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)を溶剤に分散させる際に安定な分散状態を得ることが困難となり、ポリエステル系繊維に対して均一に難燃性を付与することが困難となる傾向にある。
【0039】
本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)を含有していればよく、用いる溶剤は特に制限されないが、環境への配慮等の観点から水を用いることが好ましい。また、その場合、難燃加工剤のポリエステル系繊維への吸尽量がより増加する傾向にあるという観点から、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)(以下、場合により難燃化成分と総称する)が水に乳化又は分散されていることが好ましい。
【0040】
前記分散の状態としては、安定な製品状態を得るという観点から、前記難燃化成分の粒径が、積算体積粒度分布における積算体積が小粒径側から50%となるメジアン径(d50)で1.0μm以下となる粒径であることが好ましく、0.5μm以下となる粒径であることがより好ましい。前記メジアン径(d50)が前記上限を超える場合には、分散安定性が低下する傾向にある。さらに、前記難燃化成分の粒径としては、積算体積粒度分布における積算体積が小粒径側から90%となる90%粒径(d90)で1.0μm以下となる粒径であることがさらに好ましく、0.6μm以下となる粒径であることが特に好ましい。前記90%粒径(d90)が前記上限以下であると、さらに安定な分散状態にある難燃加工剤を得ることができる。なお、前記難燃化成分の粒子の積算体積粒度分布は、例えば、動的光散乱法により測定することができる。
【0041】
このように前記難燃化成分を乳化又は分散させる方法としては、特に制限されず、例えば、ビーズミル、ホモジナイザー等を用いて湿式分散させる方法が挙げられる。
【0042】
また、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤としては、前記難燃化成分を前記水に乳化又は分散させるために界面活性剤をさらに含有していることが好ましい。かかる界面活性剤としては、微細粒子の分散に従来から用いられている界面活性剤を適宜用いることができるが、難燃加工剤の分散安定性がより向上し、難燃加工剤とポリエステル系繊維用染色浴との相溶性がより優れる傾向にあるという観点から、アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤(C)であることがより好ましい。
【0043】
前記アニオン系界面活性剤としては、脂肪酸セッケン等のカルボン酸塩のアニオン界面活性剤;高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルポリアルキレングリコールエーテル硫酸エステル塩、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物硫酸エステル塩、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物硫酸エステル塩、トリスチレン化アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物硫酸エステル塩、ベンジル化フェノールアルキレンオキシド付加物硫酸エステル塩、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化脂肪酸、硫酸化オレフィン等の硫酸エステル塩のアニオン界面活性剤;スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物スルホン酸塩、スチレン化フェノールアルキレンオキシド付加物スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、クレゾールスルホン酸塩やナフタレンスルホン酸塩等のホルマリン縮合物、α−オレフィンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジエステル塩等のスルホン酸塩等のアニオン界面活性剤;高級アルコールリン酸エステル塩、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物リン酸エステル塩、スチレン化フェノールアルキレンオキシド付加物リン酸エステル塩、ベンジル化フェノールアルキレンオキシド付加物のリン酸エステル塩等のリン酸エステル塩のアニオン界面活性剤;N−メチルタウリンオレイン酸塩、N−メチルタウリンステアリン酸塩等のアニオン界面活性剤が挙げられる。
【0044】
前記非イオン系界面活性剤としては、高級アルコールアルキレンオキシド付加物、アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキシド付加物、スチレン化フェノールアルキレンオキシド付加物、ベンジルフェノールアルキレンオキシド付加物、高級アルキルアミンアルキレンオキシド付加物等のエーテル型の非イオン界面活性剤;脂肪酸アルキレンオキシド付加物、多価アルコール脂肪酸エステルアルキレンオキシド付加物、脂肪酸アミドアルキレンオキシド付加物、油脂のアルキレンオキシド付加物等のエーテルエステル型の非イオン界面活性剤;ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物等のポリアルキレングリコール型界面活性剤;グリセロールの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル、ソルビトールの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、ショ糖の脂肪酸エステル等のエステル型の非イオン界面活性剤;多価アルコールのアルキルエーテル、アルカノールアミン類の脂肪酸アミド等の非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0045】
また、前記界面活性剤(C)が塩である場合、その塩としては、アルカリ金属塩又はアミン塩等が挙げられ、前記アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、前記アミンとしては、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、アリルアミン等の1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジアリルアミン等の2級アミン;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の3級アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。これらの中でも、難燃化を阻害する作用が弱い傾向にあるという観点から、前記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニア塩であることがより好ましい。
【0046】
これらの界面活性剤(C)としては、1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、前記界面活性剤(C)としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)をより安定して乳化分散せしめることが可能になるという観点から、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物硫酸エステル塩、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物硫酸エステル塩、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物スルホン酸塩、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物スルホン酸塩、高級アルコールリン酸エステル塩、スチレン化アルキルフェノールアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル塩、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物リン酸エステル塩であることがより好ましく、スチレン化フェノールアルキレンオキシド付加物の硫酸エステル塩であることがさらに好ましく、トリスチレン化フェノールエチレンオキシド付加物の硫酸エステル化物であることが特に好ましい。さらに、前記トリスチレン化フェノールのエチレンオキシド付加物の硫酸エステル化物においては、エチレンオキシドの付加モル数が2〜50であることが好ましく、5〜30であることがより好ましい。
【0047】
前記界面活性剤(C)を本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤に含有させる場合、その含有量としては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と前記芳香族リン酸エステル(B)との合計の含有量(難燃化成分の含有量)に対して、0.5〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがより好ましい。前記界面活性剤(C)の含有量が前記下限未満である場合には、前記難燃化成分の分散状態が不安定となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、前記難燃化成分のポリエステル系繊維への吸尽量が減少し、ポリエステル系繊維の難燃性が低下する傾向にある。
【0048】
また、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤としては、本発明の効果を阻害しない範囲で保護コロイド剤、有機溶剤等の添加物をさらに含有していてもよい。これらの添加物により、難燃加工剤中の各成分の分離、沈降をさらに抑制することができ、難燃加工剤の分散状態の経時的な変化を抑制することが可能となる傾向にある。前記保護コロイド剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、デンプン、自己乳化分散性ポリエステル樹脂、水溶性ポリエステル樹脂等の水溶性高分子化合物が挙げられ、前記有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等の水溶性有機溶剤が挙げられる。
【0049】
なお、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤は、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と前記芳香族リン酸エステル(B)とが混合された1剤型のポリエステル系繊維用難燃加工剤であってもよいが、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)を含有する第1剤と、前記芳香族リン酸エステル(B)を含有する第2剤とからなる2剤型のポリエステル系繊維用難燃加工剤であってもよい。
【0050】
本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤が前記2剤型である場合には、前記第1剤及び/又は前記第2剤が水に乳化又は分散されていることが好ましく、その方法及び用いることが好ましい界面活性剤としては、前述のとおりである。また、前記2剤型のポリエステル系繊維用難燃加工剤においては、特に耐久性に優れた難燃性をポリエステル系繊維に付与することができる傾向にあるという観点から、前記第1剤及び前記第2剤が、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と前記芳香族リン酸エステル(B)との質量比((A)の質量:(B)の質量)が90:10〜10:90となるように組み合わされていることが好ましく、80:20〜20:80となるように組み合わされていることがより好ましい。
【0051】
次いで、本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法について説明する。本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法は、前記本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤をポリエステル系繊維に付着させる工程と、前記ポリエステル系繊維に前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)(難燃化成分)を吸尽させる工程とを備えることを特徴とするものである。
【0052】
本発明の製造方法で用いられるポリエステル系繊維としては、特に制限されず、例えば、レギュラーポリエステル繊維、カチオン可染ポリエステル繊維、再生ポリエステル繊維、又はこれらの2種以上からなるポリエステル系繊維が挙げられる。また、このようなポリエステル系繊維と綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維;レーヨン、アセテート等の半合成繊維;ナイロン、アクリル、ポリアミド等の合成繊維;炭素、ガラス、セラミックス、金属等の無機繊維;又はこれらの2種以上からなる繊維との混紡により得られる複合繊維を前記ポリエステル系繊維として用いてもよい。さらに、前記ポリエステル系繊維の形態としても特に制限されず、例えば、糸、トウ、トップ、カセ、織物、編み物、不織布、ロープ等の形態が挙げられる。
【0053】
前記本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤をポリエステル系繊維に付着させる工程(以下、場合により付着工程という)は、被加工材である前記ポリエステル系繊維に前記難燃加工剤を含有する処理液を接触させて付着させる工程である。このような接触・付着方法としては、例えば、浸漬法、パディング法、スプレー法、塗布法(コーティング法、プリント法)等の方法が挙げられる。
【0054】
なお、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤として前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と前記芳香族リン酸エステル(B)とが混合された1剤型のポリエステル系繊維用難燃加工剤を用いる場合には、これをそのまま又は適宜希釈して処理液として用いることができる。また、本発明のポリエステル系繊維用難燃加工剤として前記2剤型のポリエステル系繊維用難燃加工剤を用いる場合には、事前に第1剤及び第2剤を混合して処理液として用いることが好ましいが、前記第1剤及び前記第2剤をそれぞれそのまま又は適宜希釈して処理液として用い、順次(順番は第1剤の次に第2剤であっても、第2剤の次に第1剤であってもよい)又は同時に前記ポリエステル系繊維に接触させることができる。
【0055】
前記処理液においては、前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と前記芳香族リン酸エステル(B)との合計の質量(難燃化成分の質量)が、前記ポリエステル系繊維の全質量に対して0.1〜30%o.w.f.(前記難燃化成分の質量が繊維の全質量に対して0.1〜30質量%であることを示す)となる質量であることが好ましい。前記難燃化成分の質量が前記下限未満である場合には、ポリエステル系繊維に対して十分な難燃性を付与することが困難となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、ポリエステル系繊維の風合いを硬化させる傾向にある。また、前記処理液としては、前記難燃加工剤の他に、カチオン型分散染料等の分散染料、蛍光染料及び均染剤等をさらに含有していてもよく、前記付着工程としては、ポリエステル系繊維に染色を施す工程(染色工程)と同時に行うこともできる。
【0056】
前記スプレー法を用いる場合には、例えば、圧搾空気によるスプレー法や、液圧霧化方式のスプレー法を用いることができ、圧搾空気と液圧霧化の双方の方式によるスプレー法も使用することができる。
【0057】
また、前記塗布法を用いる場合には、前記処理液に粘度調整剤を添加して処理に適した粘度に調整したものを処理液として用いてもよく、前記処理液に発泡剤を添加して泡状にしたものをポリエステル系繊維に付着させる泡加工コーティング法を用いてもよい。このような泡加工コーティング法によれば、起泡した処理液を必要量ポリエステル系繊維に付着させることができ、従って乾燥に要するエネルギー及び時間を大幅に短縮することができ、且つ、難燃加工剤を無駄なく使用することができる。前記粘度調整剤としては、特に制限されず、例えば、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、プロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ザンタンガム、デンプン糊が挙げられる。また、前記塗布法を用いる場合には、例えば、エアードクターコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、ナイフコーター、スクイズコーター、リバースコーター、トランスファーコーター、グラビアコーター、キスロールコーター、キャストコーター、カーテンコーター、カレンダーコーター等を使用することができる。さらに、前記塗布法のうち、プリント法を用いる場合には、例えば、ローラー捺染機、フラットスクリーン捺染機、ロータリースクリーン捺染機を使用することができる。
【0058】
前記ポリエステル系繊維に前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)を吸尽させる工程(以下、場合により吸尽工程という)は、前記難燃加工剤を付着させたポリエステル系繊維を熱処理することにより、前記ポリエステル系繊維の内部に前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)を吸尽(固着)させる工程であり、前記付着工程と同時に実施しても、前記付着工程の後に実施してもよい。
【0059】
前記付着工程と前記吸尽工程とを同時に実施する方法としては、高温吸尽法が挙げられる。前記高温吸尽法としては、前記浸漬法により前記処理液中に前記ポリエステル系繊維を浸漬して前記難燃化成分を前記ポリエステル系繊維に付着させ、同処理液の浴中において、90〜135℃の温度範囲で熱処理することが好ましく、110〜130℃の温度範囲で熱処理することがより好ましい。前記熱処理温度が前記下限未満である場合には、ポリエステル系繊維に対して前記難燃化成分が十分に吸尽されず、難燃性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、前記芳香族リン酸エステル(B)が加水分解され、ポリエステル系繊維に対して十分な難燃性を付与することが困難となったり、ポリエステル系繊維の脆化や変色をひきおこしたりする傾向にある。また、前記熱処理の時間としては、前記難燃化成分をポリエステル系繊維製品に対してより吸尽させることができる傾向にあるという観点から、10〜90分間であることが好ましく、20〜90分間であることがより好ましい。また、このような高温吸尽法において、前記付着工程と染色工程とを同時に行う場合には、例えば、液流染色機、気流染色機、ビーム染色機、チーズ染色機を使用することができる。
【0060】
前記付着工程の後に前記吸尽工程を実施する方法としては、前記付着工程により前記難燃加工剤を前記ポリエステル系繊維に付着させた後、ドライヤー等の乾熱処理や飽和常圧スチーム処理、加熱スチーム処理、高圧スチーム処理等の蒸熱処理等の熱処理により、前記難燃化成分をポリエステル系繊維に吸尽させる方法が挙げられる。前記乾熱処理及び前記蒸熱処理のいずれにおいても、110〜210℃の温度範囲で熱処理することが好ましく、160〜210℃の温度範囲で熱処理することがより好ましい。前記熱処理温度が前記下限未満である場合には、ポリエステル系繊維に対して前記難燃化成分が十分に吸尽されず、難燃性が不十分となる傾向にあり、他方、前記上限を超える場合には、ポリエステル系繊維の脆化や変色をひきおこす傾向にある。また、前記熱処理の時間としては、前記難燃化成分をポリエステル系繊維製品に対してより吸尽させることができる傾向にあるという観点から、1〜10分間であることが好ましい。
【0061】
さらに、本発明の製造方法においては、前記吸尽工程の後に、通常の公知の方法によってポリエステル系繊維のソーピング処理を行い、ポリエステル系繊維に吸尽されず表面に付着しているにすぎない余剰の難燃化成分や染料を除去することが好ましい。前記余剰の難燃化成分や染料は、ポリエステル系繊維の難燃性を阻害するおそれがある。このようなソーピング処理に用いられるソーピング剤としては、ポリエステル系繊維染色物の還元洗浄時に通常用いられるソーピング剤を用いることができ、例えば、アニオン系、非イオン系、両性系界面活性剤;及びこれらが配合されたソーピング剤を用いることができ、また、エスクードFRN(日華化学(株)製)、エスクードFZ(日華化学(株)製)等の市販のソーピング剤を用いることができる。
【0062】
また、本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法においては、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前記難燃加工剤の他に、従来から用いられている他の繊維用加工剤を併用することもできる。このような繊維用加工剤としては、例えば、浴中柔軟剤、帯電防止剤、撥水撥油剤、防汚剤、硬仕上げ剤、風合い調整剤、柔軟剤、抗菌剤、吸水剤、スリップ防止剤、耐光堅牢度向上剤、キャリヤー剤、オリゴマー分散剤等が挙げられる。
【0063】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維は、前述したポリエステル系繊維と、前記ポリエステル系繊維に吸尽されている前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、前記ポリエステル系繊維に吸尽されている前記芳香族リン酸エステル(B)と、を備えるものである。このような本発明の難燃性ポリエステル系繊維は、耐久性に優れた十分な難燃性を有しており、且つ、経時的色相の変化やフォギングの発生が十分に抑制される。本発明の難燃性ポリエステル系繊維は、例えば、前記本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法により得ることができる。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
(1)難燃加工剤の調製及び難燃性ポリエステル系繊維の製造
(実施例1)
<難燃加工剤の調製>
混合容器に、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(以下、TBCという)を32質量部、2−([1,1’−ビフェニル]−2−イルオキシ)−5,5−ジメチル−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−オキシド(分子量:370、以下、化合物1という)を8質量部(難燃化成分の合計:40質量部)、トリスチレン化フェノールのエチレンオキシド20モル付加物の硫酸エステルアンモニウム塩の水溶液(不揮発分:50質量%、以下、界面活性剤1という)を4質量部、水を56質量部仕込み、マイルダーで予備分散せしめた後、直径0.5mmのガラスビーズを充填したビーズミルを用いてメジアン径(d50)が0.5μm以下、90%粒径(d90)が0.6μm以下となるまで粉砕処理を施して、TBC及び化合物1が水中に分散された難燃加工剤を得た。なお、メジアン径(d50)及び90%粒径(d90)は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−920、HORIBA社製)を用いて難燃加工剤の積算体積粒度分布を測定し、積算体積が小粒径側から50%となる粒径をメジアン径(d50)、90%となる粒径を90%粒径(d90)とした。
【0066】
<難燃性ポリエステル系繊維の製造>
(i)高温吸尽法による製造
被加工材となるポリエステル系繊維としては、レギュラーポリエステル布(ポリエステル100%、目付け220g/m、未染色)を用いた。先ず、前記難燃加工剤を難燃化成分が被加工材に対して10%o.w.f.となる割合で、分散染料(Kayalon Polyester Black ECX300、日本化薬(株)製)を被加工材に対して3%o.w.f.となる割合で、分散均染剤(ニッカサンソルトRM−3406、日華化学(株)製)を0.5g/Lで、80質量%酢酸を0.3cc/Lで含有する難燃加工・染色用処理液を調製した。
【0067】
この処理液に前記レギュラーポリエステル布を浸漬し、ミニカラー染色機(テキサム技研製)を使用して、前記処理液の浴中において、浴比(ポリエステル布:処理液)1:15、温度130℃、時間30分間の条件で熱処理し、ポリエステル布に難燃加工・染色処理を施した。
【0068】
次いで、難燃加工・染色処理を施したポリエステル布に対して、ソーピング剤(エスクードFRN、日華化学(株)製)を2g/L、水酸化ナトリウムを2g/L、ハイドロサルファイトを2g/L含有する水溶液を用いて温度80℃、時間20分間の条件でソーピング処理を施した。このソーピング処理後のポリエステル布を水洗し、温度170℃、時間1分間の条件で乾燥して難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0069】
(ii)パディング法による製造
被加工材となるポリエステル系繊維としては、前記高温吸尽法に用いたレギュラーポリエステル布と同様のものを用いた。先ず、前記難燃加工剤を100g/L、分散染料(Kayalon Polyester Black ECX300、日本化薬(株)製)を20g/L、アルギン酸ソーダを1g/L含有する難燃加工・染色用処理液を調製した。
【0070】
この処理液に前記レギュラーポリエステル布を常温(25℃)において5秒間漬け込み、ピックアップ率が70%となるようにマングルを用いて絞った後(難燃化成分:被加工材に対して7%o.w.f.)、温度120℃、時間3分間の条件で中間乾燥を行った。次いで、乾燥機を使用して、温度190℃、時間2分間の条件で熱処理し、ポリエステル布に難燃加工・染色処理を施した。
【0071】
次いで、難燃加工・染色処理を施したポリエステル布に対して、ソーピング剤(エスクードFRN、日華化学(株)製)を2g/L、水酸化ナトリウムを2g/L、ハイドロサルファイトを2g/L含有する水溶液を用いて温度80℃、時間20分間の条件でソーピング処理を施した。このソーピング処理後のポリエステル布を水洗し、温度170℃、時間1分間の条件で乾燥して難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0072】
(実施例2〜3)
TBC及び化合物1の仕込み量を表1に記載の質量部としたこと以外は実施例1と同様にしてTBC及び化合物1が水中に分散された難燃加工剤をそれぞれ得た。また、これらの難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法によりそれぞれの難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0073】
(実施例4〜6)
化合物1に代えてリン酸(2−フェノキシエチル)ジフェニル(分子量:348、以下、化合物2という)を用い、各仕込み量を表1に記載の質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、TBC及び化合物2が水中に分散された難燃加工剤をそれぞれ得た。また、これらの難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法によりそれぞれの難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0074】
(実施例7)
界面活性剤1に代えてクレゾールスルホン酸ナトリウム塩のホルマリン縮合物の水溶液(不揮発分:40質量%、以下、界面活性剤2という)を用い、各仕込み量を表1に記載の質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、TBC及び化合物1が水中に分散された難燃加工剤を得た。また、この難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法により難燃性ポリエステル系繊維を得た。なお、前記界面活性剤2としては、反応容器に、クレゾール86g(0.8モル)、ヒドロキシトリルメタンスルホン酸ナトリウム269g(1.2モル)、37質量%ホルマリン溶液130g(ホルムアルデヒド1.6モル)、水酸化ナトリウム8g、水507gを仕込み、100℃において5時間反応させて得られた縮合物を用いた。
【0075】
(実施例8)
界面活性剤1に代えて界面活性剤2を用い、各仕込み量を表1に記載の質量部としたこと以外は実施例4と同様にして、TBC及び化合物2が水中に分散された難燃加工剤を得た。また、この難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法により難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0076】
(比較例1)
化合物1を用いず、TBCの仕込み量を40質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、TBCが水中に分散された難燃加工剤を得た。また、この難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法により難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0077】
(比較例2)
TBCに代えて化合物1を用いたこと以外は比較例1と同様にして、化合物1が水中に分散された難燃加工剤を得た。また、この難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法により難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0078】
(比較例3)
TBCに代えて化合物2を用いたこと以外は比較例1と同様にして、化合物2が水中に分散された難燃加工剤を得た。また、この難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法により難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0079】
(比較例4)
化合物1に代えてナフチルジフェニルホスフェート(分子量:376、以下、化合物3という)を用い、各仕込み量を表2に記載の質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、TBC及び化合物3が水中に分散された難燃加工剤を得た。また、この難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法により難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0080】
(比較例5)
化合物1に代えて2−ビフェニルジフェニルホスフェート(分子量:402、以下、化合物4という)を用い、各仕込み量を表2に記載の質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、TBC及び化合物4が水中に分散された難燃加工剤を得た。また、この難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法により難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0081】
(比較例6)
TBCに代えてヘキサブロモシクロドデカン(以下、HBCDという)を用いたこと以外は比較例1と同様にして、HBCDが水中に分散された難燃加工剤を得た。また、この難燃加工剤を用いたこと以外は実施例1と同様にして、高温吸尽法及びパディング法により難燃性ポリエステル系繊維を得た。
【0082】
(2)難燃性ポリエステル系繊維の評価
各実施例及び比較例において得られた難燃性ポリエステル系繊維について、難燃化成分の吸尽量、難燃性及び難燃性の耐久性、フォギング性、並びに耐光堅牢度を以下の方法により評価した。得られた結果を各実施例及び比較例における難燃加工剤の組成とともに表1〜2に示す。
【0083】
<吸尽量>
先ず、難燃加工剤を用いなかったこと以外は前記高温吸尽法と同様にしてポリエステル系繊維に染色を施し、ポリエステル染色布を作製した。次いで、このポリエステル染色布の質量(W)及び各実施例及び比較例において高温吸尽法により得られた難燃性ポリエステル系繊維の質量(W)を測定し、次式:
ΔW(%o.w.f.)=((W−W)/W)×100
により、各ポリエステル系繊維(被加工材)に吸尽された難燃化成分の質量の、ポリエステル系繊維の質量に対する割合(ΔW)を求め、これを吸尽量(単位:%o.w.f.)とした。
【0084】
<難燃性>
水洗い洗濯前の試料(L−0)としては、高温吸尽法により得られた難燃性ポリエステル系繊維及びパディング法により得られた難燃性ポリエステル系繊維をそれぞれそのまま用いた。水洗い洗濯5回後の試料(L−5)としては、各難燃性ポリエステル系繊維に対してJIS L 1091(1999)の方法により水洗い洗濯を5回行ったものを用いた。ドライクリーニング5回後の試料(D−5)としては、各難燃性ポリエステル系繊維に対してJIS L 1018(1999)の方法によりドライクリーニングを5回行ったものを用いた。これらの試料について以下の方法により難燃性を評価した。
・コイル法(接炎試験)
JIS L 1091(1999)のD法に従い、接炎回数を測定した。
・ミクロバーナー法(45°ミクロバーナー法)
JIS L 1091(1999)のA−1法に従い、残炎時間と燃焼面積を測定した。残炎時間が3秒以内且つ燃焼面積が30cm以下の場合を「A」、それ以外の場合を「B」と判定した。
【0085】
<フォギング性>
高温吸尽法により得られた難燃性ポリエステル系繊維及びパディング法により得られた難燃性ポリエステル系繊維(水洗い洗濯・ドライクリーニング無し)を、槽温度70℃の条件で、Wind Screen Fogging Tester(スガ試験機(株)製)に設置し、10時間後のガラスの濁り具合(曇価)をヘーズコンピュータ(スガ試験機(株)製)で読み取った。なお、曇価の数値が大きいほど、ガラスの曇りが強いことを示す。
【0086】
<耐光堅牢度>
高温吸尽法により得られた難燃性ポリエステル系繊維及びパディング法により得られた難燃性ポリエステル系繊維(水洗い洗濯・ドライクリーニング無し)に対して、キセノンアークウエザ・オ・メータ(アトラス(株)製)を用い、照射強度100W/m(300〜400nm)、ブラックパネル温度89℃、相対湿度50%RHの条件下において、積算照射強度が20MJ/mとなるように光を照射した。各難燃性ポリエステル系繊維の色相の変化を光照射前と光照射後とで比較し、JIS L0804(2004)「変退色用グレースケール」に記載の方法に従って評価した。なお、耐光堅牢度評価の数値が5に近いほど、難燃性ポリエステル系繊維の経時的な色相の変化が少なく、耐光性があるものと認められる。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【0089】
表1〜2に示した結果から明らかなように、本発明の難燃加工剤を用いて得られた本発明の難燃性ポリエステル系繊維は、難燃化成分としてHBCDを用いて得られた難燃性ポリエステル系繊維(比較例6)に匹敵する難燃性、並びに、洗濯及びドライクリーニングに対する難燃性の耐久性を有することが確認された。また、本発明の難燃性ポリエステル系繊維は、フォギングや経時的色相の変化の程度もHBCDを用いた場合と比較して同等であり、フォギングの発生や経時的色相の変化が十分に抑制されていることが確認された。
【0090】
さらに、本発明の難燃加工剤を用いて得られた難燃性ポリエステル系繊維における難燃性は、難燃化成分としてTBC、化合物1及び化合物2をそれぞれ単独で用いて得られた難燃性ポリエステル系繊維(比較例1〜3)の難燃性を上回るものであり、本発明の難燃加工剤が奏する難燃性付与効果は、TBCと化合物1又は化合物2とを併用したことによる相乗効果であることが確認された。
【0091】
他方、TBCと化合物3とを併用して得られた難燃性ポリエステル系繊維(比較例4)の難燃性は、TBCを単独で用いた場合(比較例1)と比較しても劣るものであった。さらに、比較例4において得られた難燃性ポリエステル系繊維においては、曇価が高く、耐光堅牢度の評価も低いことが確認された。また、TBCと化合物4とを併用して得られた難燃性ポリエステル系繊維(比較例5)の難燃性も、TBCを単独で用いた場合(比較例1)と比較して劣るものであり、曇価も著しく高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0092】
以上説明したように、本発明によれば、ポリエステル系繊維に対して耐久性に優れた十分な難燃性を付与することができ、且つ、ポリエステル系繊維における経時的色相の変化やフォギングの発生を十分に抑制することができるポリエステル系繊維用難燃加工剤、それを用いた難燃性ポリエステル系繊維、及びその製造方法を提供することが可能となる。
【0093】
また、本発明によれば、従来難燃性化合物として用いられていたHBCDを用いて得られた難燃性ポリエステル系繊維に匹敵する難燃性、難燃耐久性、耐光性及びフォギング性を有する難燃性ポリエステル系繊維を提供することが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、
下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群から選択されるいずれか1つを示し、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜5の整数を示し、nは0又は1を示し、nが1の場合にはRとRとが相互に結合して、リン原子及びそれに結合している酸素原子とともに環を形成していてもよい。]
で表わされる芳香族リン酸エステル(b1)、及び下記一般式(2):
【化2】

[式(2)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基を示し、Arは置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群から選択されるいずれか1つを示す。]
で表される芳香族リン酸エステル(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族リン酸エステル(B)と、
を含有することを特徴とするポリエステル系繊維用難燃加工剤。
【請求項2】
アニオン系界面活性剤及び非イオン系界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤(C)をさらに含有することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系繊維用難燃加工剤。
【請求項3】
前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、前記芳香族リン酸エステル(B)との質量比((A)の質量:(B)の質量)が、90:10〜10:90であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系繊維用難燃加工剤。
【請求項4】
前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、前記芳香族リン酸エステル(B)との合計の含有量が、前記ポリエステル系繊維用難燃加工剤の全質量に対して10〜70質量%であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のポリエステル系繊維用難燃加工剤。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載のポリエステル系繊維用難燃加工剤をポリエステル系繊維に付着させる工程と、前記ポリエステル系繊維に前記トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)及び前記芳香族リン酸エステル(B)を吸尽させる工程とを備えることを特徴とする難燃性ポリエステル系繊維の製造方法。
【請求項6】
ポリエステル系繊維と、
前記ポリエステル系繊維に吸尽されている、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(A)と、
前記ポリエステル系繊維に吸尽されている、下記一般式(1):
【化3】

[式(1)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群から選択されるいずれか1つを示し、Rは、炭素数1〜4のアルキル基を示し、mは0〜5の整数を示し、nは0又は1を示し、nが1の場合にはRとRとが相互に結合して、リン原子及びそれに結合している酸素原子とともに環を形成していてもよい。]
で表わされる芳香族リン酸エステル(b1)、及び下記一般式(2):
【化4】

[式(2)中、R及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜8のアルキル基を示し、Arは置換基を有していてもよいアリール基及び置換基を有していてもよいアラルキル基からなる群から選択されるいずれか1つを示す。]
で表される芳香族リン酸エステル(b2)からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族リン酸エステル(B)と、
を備えることを特徴とする難燃性ポリエステル系繊維。

【公開番号】特開2013−14853(P2013−14853A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147400(P2011−147400)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】