説明

ポリエステル組成物およびポリエステルフイルム

【課題】 表面性、機械特性、走行性および耐熱性に優れたポリエステル組成物およびポリエステルフイルムを提供すること。
【解決手段】 平均短径(ASP)が100nm以下であり、平均長径(ALP)との粒径比(ALP/ASP)が20〜1,000である粒子を含有しているポリエステル組成物とする。該粒子はアルミニウム元素を含む酸化物粒子が好ましい。また、ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンー2、6−ナフタレンジカルボキシレートが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル組成物及びそれからなるポリエステルフイルムに関する。さらに詳しくは、表面性、機械特性、走行性および耐熱性に優れたフイルムを得るのに適したポリエステル組成物及びそれからなるポリエステルフイルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に熱可塑性ポリエステル、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)は優れた力学特性、化学特性を有しており、フイルム、繊維などの成形品として広く用いられている。
【0003】
しかしながら、近年、成形品、例えば磁気テープ用フイルムに用いる場合、機械強度の要求が厳しくなり、PETそのものをそのまま用いることが難しくなってきている。機械的強度、弾性率や寸法安定性の改善としては従来から様々な対策が行われてきた。PETにガラス繊維を加え、さらに非繊維状無機物を加える技術(特許文献1)、PETにガラス繊維とマイカを組み合わせる技術(特許文献2)などガラス繊維と他の無機充填剤を組み合わせる方法が挙げられる。しかしながら、これらの添加量を増やすと磁気テープの表面性および走行性が悪くなり、磁気記録の抜け(ドロップアウト)などを引き起こす。また、特許文献3に記載されているようにポリエーテル化合物で処理された非常に微細な層状化合物の併用は確かにガラス繊維の使用量を減少させることを可能にし、樹脂の機械強度を上昇させることに寄与するが、層状化合物が剥がれやすく、耐摩耗性が悪くなる。耐摩耗性が低い場合、例えば磁気テープの製造工程中においてフイルムの磨耗粉が発生しやすくなり、磁性層を塗布する工程で塗布抜けが生じ、その結果、ドロップアウトなどを引き起こす。
【特許文献1】特開昭54−74852号公報
【特許文献2】特開昭62−59661号公報
【特許文献3】特開2003−41097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前記課題を解決するものであり、表面性、機械特性、走行性および耐熱性に優れたポリエステル組成物およびポリエステルフイルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明は、平均短径(ASP)が100nm以下であり、平均長径(ALP)との粒径比(ALP/ASP)が20〜1,000である粒子を含有しているポリエステル組成物を特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリエステル組成物は、成形品、特にフイルムとした場合に、機械特性、走行性及び耐摩耗性に優れており、該フイルムは、特に磁気記録媒体用途などに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明に係るポリエステル組成物に含まれるポリエステルは、フイルムを成形しうるものであれば使用可能である。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレートなどを好ましく用いることができるが、中でもポリエチレンテレフタレートあるいはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが特に好ましい。
【0008】
また、特に機械的強度などが必要な用途の場合は、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートが好適である。
【0009】
これらのポリエステルには、共重合成分としてアジピン酸、イソフタル酸、セバシン酸、フタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸などのジカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオキシ化合物、p−(β−オキシエトキシ)安息香酸などのオキシカルボン酸およびそのエステル形成性誘導体などを共重合することができる。
【0010】
その共重合量は、全ポリエステル繰り返し単位に対して好ましくは20mol%以下、より好ましくは10mol%以下であることが、ポリエステルの熱安定性、寸法安定性等の点から望ましい。
【0011】
本発明のポリエステル組成物中に含まれる粒子は、その平均短径(ASP)が100nm以下であることが好ましい。より好ましくは50nm以下である。平均短径(ASP)が100nm以下であることにより樹脂の透明性が良好となり、さらに成形時に粗大異物となりにくい。ASPの値は、より好ましくは20nm以下であり、さらに好ましくは10nm以下である。かかる範囲まで平均短径(ASP)が小さくなることにより樹脂の透明性がより良くなり、粗大異物になりにくいだけでなく、樹脂との界面(接触面積)が格段に増大するために機械強度が一段と向上する。
【0012】
なお、平均短径(ASP)が1nm未満では粒子が製造しにくくなり、コスト高になる傾向がある。また、平均短径(ASP)が100nmを超えてしまうと、成形時に粗大異物になり、表面が重要となるフイルムなどの用途では使用しにくい。このような観点からは、平均短径(ASP)は、1〜100nmであることが好ましく、より好ましくは1〜50nm、さらに好ましくは1〜20nm、より好ましくは1〜10nmである。かかる範囲ではポリエステル組成物の透明性も良好であり、さらに成形時に粗大異物にもなりにくい。
【0013】
また、ポリエステル組成物中に含まれる粒子について、平均長径(ALP)との粒径比(ALP/ASP)は20〜1,000であることが好ましい。この粒径比が20未満の場合は、機械強度向上効果が得られにくく、また、1,000を超えると粒子の製造が困難となり、コスト高になってしまう傾向がある。粒径比の値は、好ましくは30〜500、より好ましくは50〜100である。かかる範囲ではポリエステル組成物やポリエステルフイルムの機械強度を上昇させ、経済的であり、さらに異物やフィルターの詰まりなど工程上の問題も少なくなり、好ましい。
【0014】
上記の粒子は針状または繊維状であることが好ましい。粒子形状が針状または繊維状であることによりそれらが絡み合い、また樹脂との表面積が増大することによりポリエステル組成物の強度が向上する。層状の形態であっても、本発明において規定する粒子のASP、ALP、ALP/ASPが所定の範囲内であれば効果を発揮するが、針状や繊維状であることがより有利である。なお、ASP、ALP、ALP/ASPの測定方法については後述する。
【0015】
上記の粒子はまた、アルミニウム元素を含有し、その粒子中の含有量が25〜45重量%であることが好ましい。かかる範囲であることにより粒子自体の強度が向上するとともにポリエステル組成物との親和性が増大し、ポリエステル組成物の強度が向上する。この含有量のより好ましい範囲は28〜42重量%であり、さらには30〜40重量%であることが好ましい。
【0016】
また、上記の粒子は酸素元素を含有し、その粒子中の含有量が50〜70重量%であることが好ましい。かかる範囲であることにより粒子自体の強度が向上し、ポリエステル組成物との親和性が向上する。望ましくは55〜70重量%、さらに望ましくは55〜65重量%とすることが好ましい。この酸素元素を含み、かつアルミニウム元素の含有量を上記の範囲とすることによりポリエステル組成物との親和性が大きく向上し、ポリエステル組成物の機械強度を大きく向上せしめることが可能となる。
【0017】
上記粒子のポリエステル組成物中の含有量は0.01〜5.0重量%であることが好ましい。0.01重量%未満ではポリエステル組成物の機械強度が得られにくく、5重量%を超えてしまうと粒子同士が凝集してしまい、粗大異物になる傾向がある。また、強度向上効果も落ちてしまう。含有量の好ましい範囲は0.05〜4重量%であり、さらに好ましくは0.1〜3重量%である。かかる範囲では機械強度の向上効果が大きく、さらに異物発生の可能性も少ない。
【0018】
また粒子は酸化物粒子であることが好ましい。これはポリエステル組成物との溶解度パラメーターの差が小さくなるためポリエステル組成物と粒子の親和性が良くなるためと推定されるが、フイルムの機械強度が向上するとともに、粒子の分散性が向上し、粗大異物などが少なくなる傾向がある。
【0019】
本発明のポリエステル組成物においては、アルカリ金属元素の含有量をMa(モル/ton)、アルカリ土類金属元素の含有量をMd(モル/ton)、リン元素の含有量をMp(モル/ton)としたとき、Ma、MdおよびMpが次式を満足していると、ポリエステルフイルムの製膜性が良好になり機械強度がさらに向上する。
【0020】
10 ≧ Ma+2×Md−3×Mp ≧ 0
さらに好ましくは
9 ≧ Ma+2×Md−3×Mp ≧ 1
であり、特に好ましくは
8 ≧ Ma+2×Md−3×Mp ≧ 1
である。
【0021】
これは、アルカリ金属、アルカリ土類金属に対するリンの存在量が関係していると考えられるが明確な原因は不明である。
【0022】
ポリエステル組成物に含有されるポリエステルは、前述のようにどのようなものでも構わないが、特にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2、6−ナフタレンジカルボキシレートが粒子との親和性、機械強度向上の観点から好ましい。
【0023】
本発明に用いられる粒子は種々の方法で生成することが可能であるが、具体的には、例えば、少なくともいずれか一方にアルミニウムイオンを含むアルカリ性水溶液と酸性水溶液とを中和反応させることにより製造することができる。好ましくは、両方ともアルミニウムイオンを含むアルカリ性水溶液と酸性水溶液、例えばアルミン酸アルカリ水溶液とアルミニウム塩水溶液(酸性アルミニウム)との中和反応により製造することができる。アルミン酸アルカリとしては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等の任意のアルミン酸アルカリを用いることができる。アルミニウム塩は、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等の種々の任意のアルミニウム塩を用いることができる。中和反応は、アルミニウム塩溶液及びアルミン酸アルカリ溶液の両者を同時に添加する方法が望ましく、また、中和による沈殿形成時には例えばpH7〜12の範囲の値で常に一定とし、反応槽内の中和溶液の温度は常温〜300℃、また、沈澱形成後に中和溶液を熱成して結晶性を向上させると好ましい。生成した粒子をそのまま用いても良いし、ろ過により液体と分離し、洗浄した後、スラリー状にして用いてもよい。さらに乾燥させてから用いても良い。
【0024】
なお、粒子の形状を制御するためには、上記の工程中に各種の塩を添加することにより行うことができる。例えば、針状粒子を製造するためには、上記の中和工程においてマグネシウム、ニッケル、マンガン、コバルトなどの酢酸塩、蟻酸塩、プロピオン酸塩、硫酸塩、硝酸塩などを添加するとよい。また、板状や層状の粒子を製造する場合には、上記の中和工程においてナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ランタノイド、イットリウムなどの塩を添加するとよい。
【0025】
上記した粒子のポリエステルへの配合にあたっては、重合反応系に直接添加する方法以外にも、例えば粒子を溶融状態のポリエステルへ練り込む方法などでも可能である。前者の重合反応系に添加する際の添加時期は任意であるが、エステル交換反応前あるいはエステル化反応後から重縮合反応の減圧開始前までの間が好ましい。後者の練り込みの場合は、粒子を乾燥してポリエステルに練り込む方法でもスラリー状態で減圧しながら直接練り込む方法でも構わない。
【0026】
このようにして得られたポリエステルと粒子との混合物はそのままポリエステル組成物として用いても良いが、目的に応じて、希釈用ポリエステルなどの他のポリエステル組成物とブレンドして用いても構わない。
【0027】
本発明のポリエステル組成物は、例えば次のような方法によってフイルムに成形することができる。
【0028】
ポリエステル組成物のペレットを十分乾燥した後、ただちに押出機に供給する。このペレットを260〜350℃で溶融し、ダイよりシート状に押し出し、キャスティングロール上で冷却、固化させて未延伸フイルムを得る。次に、この未延伸フイルムを二軸延伸するのが好ましい。延伸方法としては、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、あるいはこのように二軸に延伸したフイルムを再度延伸する方法などを用いてもよい。ポリエステルの組成にもよるが、例えば、磁気記録媒体用フイルムとして十分な弾性率を得るには、最終的な延伸面積倍率(縦倍率×横倍率)を6以上とすることが好ましい。
【0029】
また、フイルムの熱収縮率を小さく保つため150〜260℃の温度範囲で0.1〜60秒程度の熱処理を行うことが好ましい。
【0030】
本発明におけるポリエステル組成物は、一般成形品、繊維等、特に用途は限定されないが、特に磁気テープ用ベースフイルムに好適である。
【0031】
本発明のポリエステル組成物から得られるポリエステルフイルムの形態としては、ただ一つの層を有する単層構成(単層フィルム)としてもよいが、複数層を有する積層構成(積層フィルム)としてもよい。積層構成を有する場合の、積層フイルムの少なくとも一層を構成するフイルムが本発明のポリエステル組成物を含有していること(複数層のうちの少なくとも一層が上記の単層フイルムで構成されていること)が、フイルムの機械強度が良好となるので好ましい。
【0032】
さらには、積層フイルムの層構成を少なくとも3層とし、最外層を除く中心層に上記した本発明のポリエステル組成物を含有していると、機械強度向上の観点から好ましく、さらに、中心層の少なくとも一部にフイルム製造工程で発生する回収ポリマーを用いるとコストダウンの点で好ましい。なお、上記の層構成は3層であることが好ましい。
【実施例】
【0033】
[測定方法]
(1)固有粘度(IV)
オルトクロロフェノール中、25℃で測定した溶液粘度から、下式で計算した値を用いた。
【0034】
ηsp/C=[η]+K[η]2・C
ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)−1であり、Cは、溶媒100mlあたりの溶解ポリマー重量(g/100ml、通常1.2)、Kはハギンス定数(0.343とする)である。
【0035】
また、溶液粘度、溶媒粘度はオストワルド粘度計を用いて測定した。単位は[dl/g]で示す。
【0036】
(2)アルミニウム元素、アルカリ土類金属元素、リン元素などの金属の含有量
金属含有量蛍光X線により、アルミニウム元素、アルカリ土類金属元素、リン元素量の強度を標準物質から得られた検量線と比較して定量した。
【0037】
(3)フイルムのヤング率
ASTM−D882に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて測定した。測定は下記の条件とした。
【0038】
測定装置:オリエンテック(株)製フイルム強伸度自動測定装置“テンシロン”AMF/RTA−100
試料サイズ:幅10mm×試長間100mm
引張り速度:200mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH
(4)粒子特性
[平均短径、平均長径の測定]
粒子をポリエステルに配合し、0.2μm厚みの超薄切片にカッティング後、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社 JEM−2100F)を用いて一枚の試料を−60°〜+60°(2.5°刻み、計49枚)、10〜50万倍で撮影して、取得した試料の透過像データに基づいて信号処理によりCT法を実行して3次元再構成を行う。前記信号処理は、試料を一定の角度ごとに傾斜させて得られる一連の透過像から、リファレンス画像との二次元相関処理によって、同一視野を選択して切り出すことにより、試料の位置ずれを補正することにより行った。3次元形状として把握される粒子に対して直方体を外接させたとき、その直方体の最大の一辺の長さを長径(LP)、最小の一辺の長さを短径(SP)とする。この長径と短径について少なくとも100個の粒子について観察し、下記式により平均短径(ASP)、平均長径(ALP)、粒径比(APR)を算出した。
【0039】
【数1】

【0040】
【数2】

【0041】
APR=ALP/ASP
(5)アルカリ金属元素の金属含有量
日立製作所製偏光ゼーマン原子吸光光度計型番180−80(フレーム:アセチレン−空気)を用いて原子吸光法により測定した。ポリマー8gを光源として中空陰極ランプを用いて、フレーム方式で原子化し、測光部により検出して予め作成した検量線を用いて金属含有量を換算した。
【0042】
(6)結晶構造の解析
X線回折法で測定した。
【0043】
(7)ポリマー及びフイルム特性 耐熱性指標(ΔIV)
試料(ポリエステル組成物またはフィルム)を150℃で24時間減圧乾燥する。このポリマーを窒素雰囲気下300℃で10分間保持し、保持前後の固有粘度の差をΔIVとした。尚、固有粘度は溶媒をオルトクロロフェノールとし25℃で測定した。
【0044】
(8)表面粗さRa(μm)
JIS−B−0601に準じ表面粗さ計((株)東京精密社製 サーフコム3000A)を用い、針径2μm、荷重70mg、測定基準長0.25mm、カットオフ0.08mmの条件下で測定した中心線平均粗さを採用した。
【0045】
(9)積層フイルムの積層厚み
[積層厚みが3μm以下かつ積層フイルムが粒子を含有している場合]
2次イオン質量分析装置(SIMS)を用いて、表層から深さ3,000nmの範囲のフイルム中の粒子のうち最も高濃度の粒子に起因する元素とポリエステルの炭素元素の濃度比(M+/C-)を粒子濃度とし、表面から深さ3,000nmまでの厚さ方向の分析を行なう。表層では表面という界面のために粒子濃度は低く表面から遠ざかるにつれて粒子濃度は高くなる。本発明のフイルムの場合は、一旦極大値となった粒子濃度がまた減少し始める。この濃度分布曲線をもとに表層粒子濃度が極大値の1/2となる深さ(この深さは極大値となる深さよりも深い)を求め、これを積層厚みとした。条件は次の通りである。
【0046】
測定装置:
2次イオン質分析装置(SIMS)、ATOMIKA社製 A−DIDA3000
測定条件:
1次イオン種:O2+
1次イオン加速電圧:12kV
1次イオン電流:200nA
ラスター領域:400μm
分析領域:ゲート30%
測定真空度:6.0×10-9Torr
E−GUN:0.5kV−3.0A
なお、表層から深さ3,000nmの範囲に最も多く含有する粒子が有機高分子粒子の場合は、SIMSでは測定が難しいので、表層からエッチングしながらXPS(X線光電子分光法)、IR(赤外分光法)などで上記同様のデプスプロファイルを測定し積層厚みを求めてもよい。
【0047】
[積層厚みが3μm以上または粒子を含有していない場合]
フイルム試料の厚み方向の断面が観察できるように、0.2μm厚みの超薄切片にカッティング後、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 JEM−2100F)を用いて断面観察を行い、ポリマーの違いに起因するコントラストの差から界面を判定し積層厚みを求めた。
【0048】
(10)耐摩耗性
フイルムを細幅(2.54cm)にスリットしたテープ状ロールを、テープ走行試験機TBT−300((株)横浜システム研究所製)を使用し、ステンレス鋼SUS−304製ガイドロールに一定張力で、高速(3.3cm/秒)、長時間(走行長さ10cm、50回繰り返し、巻きつけ角90度、張力90g)擦りつけ、ガイドロール表面に発生した白粉量によって次のようにランク付けした。
【0049】
A級・・・白粉発生まったくなし。
【0050】
B級・・・白粉発生少量あり。
【0051】
C級・・・白粉発生やや多量あり。
【0052】
D級・・・白粉発生多量あり。
【0053】
以下に本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1
硫酸アルミニウムと水酸化アルミニウム、酢酸マグネシウムの混合割合がモル比で硫酸アルミニウム1に対し水酸化アルミニウムが4、酢酸マグネシウムが0.2となるように、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酢酸マグネシウムおよび水をオートクレーブ内に充填して中和し、水熱合成した。水熱合成は、静置下で、昇温速度80℃/時間で205℃まで加熱し、その温度及び圧力を10時間保持することにより行った。反応終了後、反応液を自然冷却し、濾過することにより反応生成物を得た。この反応生成物を水洗し、105℃の温度で乾燥させることにより粒子を得た。
【0055】
上記で得られた平均短径(ASP)10nm、平均長径(ALP)500nm、アルミニウム重量が35%である繊維状酸化物粒子を10重量部、エチレングリコール90重量部を混合して常温下で2時間ディゾルバーで攪拌処理し、酸化物粒子のエチレングリコールスラリー(X)を得た。
【0056】
他方、ジメチルテレフタレート、エチレングリコールに、触媒として酢酸マグネシウムを加えてエステル交換反応を行った後、反応生成物に先に調製したスラリー(X)を酸化物粒子重量で生成ポリマーに対して0.5重量%となるように加え、以下同様に触媒の二酸化ゲルマニウムを二酸化ゲルマニウム原子重量で80ppmとなるように加え、酢酸マグネシウム溶液をマグネシウム原子重量で65ppmとなるように加えてエステル交換反応を行った。その後、リン酸をリン原子量で30ppmとなるように加えて重縮合反応を行い、ポリエチレンテレフタレート組成物(P)を得た。
【0057】
このポリエチレンテレフタレート組成物を290℃で溶融、押し出しし、その後、90℃で縦横それぞれ3倍延伸し、さらにその後、220℃で15秒間熱処理し、厚さ15μmのポリエチレンテレフタレート二軸延伸フイルムを得た。製膜は破れ等の発生もなく良好であった。
【0058】
このフイルムを評価したところ、表面粗さRa=0.021μm、走行性が非常に優れたフイルムであった。また、酸化物粒子の平均短径(ASP)は10nm、粒径比(APR)は50であった。
【0059】
実施例2〜5
ポリエチレンテレフタレート組成物中の粒子の平均短径(ASP)、平均長径(ALP)、形状などを変更し、実施例1と同様の方法で二軸延伸ポリエステルフイルムを得た。得られたフイルムの評価結果を表1に示した。これらのフイルムは良好な機械特性を有していた。
【0060】
なお、実施例2、3、5において用いた粒子は、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび酢酸マグネシウムの使用割合(モル比)をそれぞれ以下の如く調整した他は、実施例1と同様にして得たものである。
【0061】
実施例2 1:4:0.4
実施例3 1:4:0.8
実施例5 1:4:2
また、実施例4で用いた粒子は、酢酸マグネシウムの代わりに酢酸ナトリウムを同モル用いた他は実施例1と同様にして得たものである。
【0062】
実施例6
繊維状酸化物粒子の代わりとして、体積平均粒子径0.05μmの球状シリカ粒子を添加する以外は、全く実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート組成物(Q)を得た。
【0063】
この組成物(Q)を組成物(P)の上に溶融共押出して積層未延伸フイルムを得た。この時の押出温度は290℃とした。その後、90℃で縦横にそれぞれ3倍延伸し、さらにその後、220℃で20秒間熱処理し、積層二軸延伸フイルムを得た。(P)、(Q)各層の厚みは、それぞれ8μm、0.5μmであった。
【0064】
このフイルムを評価したところ、表1に示すように表面粗さRa=0.021μm、耐摩耗性評価A級、耐摩耗性および走行性、機械強度に非常に優れたフイルムであった。
【0065】
実施例7
実施例1で得られた組成物(P)を中心層とし両側に組成物(Q)の層を溶融共押出して3層の積層未延伸フイルムを得た。この時の押出温度は290℃とした。その後、90℃で縦横にそれぞれ3.8倍延伸し、さらにその後、220℃で20秒間熱処理し、積層二軸延伸フイルムを得た。(P)、(Q)各層の厚みは、それぞれ8μm、1.5μmであった。
【0066】
このフイルムを評価したところ、表1に示すように走行性、耐摩耗性および耐熱性に優れたフイルムであった。
【0067】
実施例8
実施例1における粒子の水熱合成において205℃における反応時間を3時間に変更したところ、平均短径(ASP)5nm、平均長径(ALP)100nm、アルミニウム重量が32%である繊維状酸化物粒子を得た。これを実施例1と同様の方法でエチレングリコールスラリー化し、酸化物粒子重量で生成ポリマーに対して5.0重量%となるように加え、実施例1と同様の方法で重合、製膜を行い二軸延伸ポリエステルフイルムを得た。得られたフイルムの評価結果を表1に示した。これらのフイルムは良好な機械特性を有していた。
【0068】
実施例9
実施例1における粒子の水熱合成において205℃における反応時間を30時間に変更したところ、平均短径(ASP)25nm、平均長径(ALP)12500nm、アルミニウム重量が38%である繊維状酸化物粒子を得た。これを実施例1と同様の方法でエチレングリコールスラリー化し、酸化物粒子重量で生成ポリマーに対して0.1重量%となるように加え、実施例1と同様の方法で重合、製膜を行い二軸延伸ポリエステルフイルムを得た。得られたフイルムの評価結果を表1に示した。これらのフイルムは良好な機械特性を有していた。
【0069】
実施例10
ジメチル−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、エチレングリコールに、触媒として酢酸マグネシウムを加えてエステル交換反応を行った後、反応生成物に実施例1同様に調製したスラリー(X)を酸化物粒子重量で生成ポリマーに対して0.5重量%となるように加え、以下同様に触媒の二酸化ゲルマニウムを二酸化ゲルマニウム原子重量で80ppmとなるように加え、酢酸マグネシウム溶液をマグネシウム原子重量で65ppmとなるように加えてエステル交換反応を行った。その後、リン酸をリン原子量で30ppmとなるように加えて重縮合反応を行い、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート組成物を得た。
【0070】
このポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート組成物を310℃で溶融、押し出しし、その後、135℃で縦横それぞれ3倍延伸し、さらにその後、220℃で15秒間熱処理し、厚さ15μmのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート二軸延伸フイルムを得た。製膜は破れ等の発生もなく良好であった。得られたフイルムの評価結果を表1に示した。これらのフイルムは良好な機械特性を有していた。
【0071】
比較例1〜3
粒子を添加しないことや粒子形状を変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で二軸延伸ポリエステルフイルムを得た。これらのフイルムの評価結果を表1に示した。これらのフイルムは、機械特性、耐摩耗性などに劣っていた。
【0072】
比較例4
実施例1において酸化物粒子添加量を重量比で生成ポリマーに対して7.0重量%となるように加えた以外は、実施例1と同様の方法で重合、製膜を行い二軸延伸ポリエステルフイルムを得た。得られたフイルムの評価結果を表1に示した。これらのフイルムは耐摩耗性に劣っていた。
【0073】
比較例5
酸化物微粒子を添加しなかったこと以外は実施例10と同様の方法で二軸延伸ポリエステルフイルムを得た。これらのフイルムの評価結果を表1に示した。これらのフイルムは、機械特性に劣っていた。
【0074】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均短径(ASP)が100nm以下であり、平均長径(ALP)との粒径比(ALP/ASP)が20〜1,000である粒子を含有しているポリエステル組成物。
【請求項2】
粒子が針状または繊維状である、請求項1記載のポリエステル組成物。
【請求項3】
粒子がアルミニウム元素を含み、粒子中のアルミニウム元素の含有量が25〜45重量%である、請求項1または2に記載のポリエステル組成物。
【請求項4】
ポリエステル組成物中の粒子の含有量が0.01〜5重量%である、請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項5】
粒子が酸化物粒子である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項6】
ポリエステル組成物中の、アルカリ金属元素の含有量をMa(モル/ton)、アルカリ土類金属元素の含有量をMd(モル/ton)、リン元素の含有量をMp(モル/ton)としたとき、Ma、MdおよびMpが次式を満足している、請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル組成物。
10 ≧ Ma+2×Md−3×Mp ≧ 0
【請求項7】
ポリエステル組成物中に含まれるポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである、請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステル組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル組成物を含むポリエステルフイルム。
【請求項9】
請求項8に記載のポリエステルフイルムを少なくとも一層含む積層ポリエステルフイルム。
【請求項10】
少なくとも3層を有する積層ポリエステルフイルムであって、最外層を除く層(中心層)に請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステル組成物を含んでいる、請求項9に記載の積層ポリエステルフイルム。

【公開番号】特開2006−312723(P2006−312723A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97102(P2006−97102)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテクノロジープログラム(ナノマテリアル・プロセス技術)ナノ粒子の合成と機能化技術プロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】