説明

ポリエステル複合繊維

【課題】ポリ乳酸成分を構成成分としながらも、生産性、品質の面で安定的に供給可能で、強度に優れており、衣料、産業資材用途等に幅広く用いることが可能となるポリエステル複合繊維を提供する。
【解決手段】共重合ポリエステルとポリ乳酸よりなる複合繊維であって、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面(横断面)形状が芯鞘形状を呈しており、鞘成分がポリ乳酸であり、芯成分がガラス転移点20〜80℃、結晶化開始温度80〜140℃、融点130〜230℃である共重合ポリエステルであるポリエステル複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物由来のポリ乳酸を一成分とする複合繊維であって、生産性、品質の面で安定的に供給可能で、十分な強度を有しており、不織布用途をはじめ、様々な用途に使用することができるポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維の中でも特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野、用途において広く使用されている。
【0003】
従来の合成繊維は、その大部分が石油などの限りある貴重な化石資源を原料としている。またこれらは自然環境下ではほとんど分解されず、廃棄処理が問題となっている。これに対し、ポリ乳酸はトウモロコシなどの植物資源を原料としており、ポリ乳酸を繊維化したポリ乳酸系繊維は、種々の製品に加工された後、コンポストまたは土壌中などの自然環境下では最終的に炭酸ガスと水に分解される完全生分解性を持つ。また、環境に対する意識の高まりから、燃焼時に排ガスの少ない植物由来原料として、ポリ乳酸繊維は普及しつつある。
【0004】
しかしながら、ポリ乳酸繊維は、強度、耐摩耗性が従来の合成繊維よりも劣っている。また、染色等の湿熱処理による重合度の低下が大きく、これによっても強度の低下が生じるという問題点があった。このため、従来のポリ乳酸繊維は、ディスポーザブルの日用資材、農林園芸資材等の用途が主流であり、衣料用、土木建築用、水産資材用、自動車資材用等の強度が要求される分野での使用は限定されているのが現状である。
【0005】
このようなポリ乳酸繊維の問題点を解決する手段の一つとしては、強度が要求される用途に使用する場合、質量や厚みを増大させて強度や耐摩耗性をカバーしている。
【0006】
また、特許文献1では、ポリ乳酸の耐久性を上げるために、カルボジイミドなどの末端封鎖剤により、ポリマーの末端を封鎖し、耐加水分解性を向上させることが提案されている。しかしながら、この繊維では、加水分解を促進する末端基の数を減らすことはできたが、ポリ乳酸のみを使用する繊維であるため、耐湿熱分解性の向上効果は不十分であった。
【0007】
特許文献2には、ポリ乳酸と他の成分とからなる複合繊維として、ポリ乳酸が単繊維の表面の全部または一部を形成し、他の成分としてポリエチレンテレフタレート等のポリエステルを芯部に用いた複合繊維が提案されている。しかしながら、この繊維はポリ乳酸成分が繊維の外周部を占め、ポリ乳酸成分を接着成分とするバインダー繊維であり、上記したような衣料用、土木建築用、水産資材用、自動車資材用等の強度が要求される分野で使用するものではなかった。
【0008】
また、ポリ乳酸は耐熱性がポリエステルに対して劣るため、ポリエステルと同程度の条件で溶融紡糸を行うと、ポリマーの劣化が激しく、強度低下を引き起こすとともに、操業性も悪化するという問題があった。
【特許文献1】特開2001-261797号公報
【特許文献2】特開平11-279841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題点を解決し、ポリ乳酸を構成成分としながらも、生産性、品質の面で安定的に製造することが可能で、強度に優れ、様々な用途に使用することが可能なポリエステル複合繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明は、共重合ポリエステルとポリ乳酸よりなる複合繊維であって、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面(横断面)形状が芯鞘形状を呈しており、鞘成分がポリ乳酸であり、芯成分がガラス転移点20〜80℃、結晶化開始温度80〜140℃、融点130〜230℃である共重合ポリエステルであることを特徴とするポリエステル複合繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリエステル複合繊維は、ポリ乳酸成分を構成成分としながらも、芯成分として特定の共重合ポリエステルを用いることで、操業性よく製造することが可能となり、十分な強度を有するものとなるため、特に不織布用途に適しており、十分な性能を有する不織布を得ることができる。このため、衣料、産業資材用途等に幅広く用いることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明のポリエステル複合繊維は、横断面形状が芯鞘形状を呈する芯鞘型複合繊維であって、芯成分が共重合ポリエステル、鞘成分がポリ乳酸である。本発明のポリエステル複合繊維は単繊維形状を示すものであるので、本発明のポリエステル複合繊維(単繊維)を複数本集合させたマルチフィラメントとして用いても、複数本集合させることなくモノフィラメントとして用いてもよい。また、長繊維として用いても、繊維をカットして短繊維として用いてもよい。
【0015】
本発明のポリエステル複合繊維の鞘成分となるポリ乳酸としては、ポリD−乳酸、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との共重合体であるポリDL−乳酸、ポリD−乳酸とポリL−乳酸との混合物(ステレオコンプレックス)、ポリD−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリL−乳酸とヒドロキシカルボン酸との共重合体、ポリD−乳酸又はポリL−乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体、あるいはこれらのブレンド体を挙げることができる。
【0016】
そして、上記のようなポリ乳酸の中でも融点が120℃以上、融解熱が10J/g以上であることが好ましい。
【0017】
ポリ乳酸のホモポリマーであるL−乳酸やD−乳酸の融点は約180℃であるが、D−乳酸とL−乳酸との共重合体の場合、いずれかの成分の割合を10モル%程度とすると、融点はおよそ130℃程度となる。さらに、いずれかの成分の割合を18モル%以上とすると、融点は120℃未満、融解熱は10J/g未満となって、ほぼ完全に非晶性の性質となる。
【0018】
このような非晶性のポリマーとなると、製造工程において特に熱延伸し難くなり、高強度の繊維が得られ難くいという問題が生じたり、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣ったものとなるため好ましくない。このため、本発明においては、中でも融点120〜170℃、融解熱が10〜40J/gのポリ乳酸を用いることが好ましい。
【0019】
そこで、ポリ乳酸としては、ラクチドを原料として重合する時のL−乳酸やD−乳酸の含有割合で示されるL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)であるL/D又はD/Lが、82/18以上のものが好ましく、中でも90/10以上、さらには95/5以上とすることが好ましい。
【0020】
ポリ乳酸とヒドロキシカルボン酸の共重合体である場合は、ヒドロキシカルボン酸の具体例としてはグリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。中でもヒドロキシカプロン酸またはグリコール酸を用いることがコスト面からも好ましい。
【0021】
ポリ乳酸と脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとの共重合体の場合は、脂肪族ジカルボン酸及び脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0022】
このようにポリ乳酸に他の成分を共重合させる場合は、ポリ乳酸を80モル%以上とすることが好ましい。80モル%未満であると、共重合ポリ乳酸の結晶性が低くなり、融点120℃未満、融解熱10J/g未満となりやすい。
【0023】
また、ポリ乳酸の分子量としては、分子量の指標として用いられるASTM D−1238法に準じ、温度210℃、荷重2160gで測定したメルトフローレートが、1〜100(g/10分)であることが好ましく、より好ましくは5〜50(g/10分)である。メルトフローレートをこの範囲とすることにより、強度が向上する。
【0024】
ポリ乳酸の耐久性を高める目的で、ポリ乳酸に脂肪族アルコール、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。
【0025】
さらに、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じて、ポリ乳酸中に熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0026】
次に、本発明のポリエステル複合繊維の芯成分となる共重合ポリエステルは、ガラス転移点(以下、Tgと略記する。)20〜80℃、結晶化開始温度80〜140℃、融点130〜230℃である。
【0027】
共重合ポリエステルのTgが20℃未満では、溶融紡糸時に単糸同士が密着しやすくなり、製糸性が悪化する。一方、80℃を超えると、延伸温度を上げなければならず、高温延伸により芯部と鞘部との間で結晶化に差異が生じるため、糸構造にムラが生じ、したがって糸切れが発生する等延伸性が低下する。
【0028】
そして、共重合ポリエステルの結晶化開始温度(以下、Tcと略記する。)は、80〜140℃とする必要がある。Tcが80℃未満では、熱延伸工程で結晶化が進行してしまうため、次の耐熱化熱処理工程において安定な結晶構造を再構築することが困難となる。また、140℃を超えると融点が230℃を超えることになり、高温での溶融紡糸が必要となり、ポリ乳酸への熱劣化が激しくなり好ましくない。
【0029】
さらには、共重合ポリエステルの融点(以下、Tmと略記する。)は、130〜230℃とする必要がある。Tmが130℃未満では、たとえ繊維化した場合でも、高温雰囲気下で使用した場合、融解し、耐熱性が得られないことから高温雰囲気下で使用できないものとなる。一方、230℃を超えると、高温での溶融紡糸が必要となり、ポリ乳酸の熱劣化が激しくなり好ましくない。
【0030】
上記のようなTg、Tc、Tmを有する本発明のポリエステル複合繊維の芯成分となる共重合ポリエステルとしては、中でもテレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、かつ、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルであることが好ましい。
【0031】
まず、脂肪族ラクトン成分を含有する場合、その共重合量は全酸成分に対して20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。脂肪族ラクトン成分の割合が少ないと結晶性はよくなるが、Tmが高くなり、230℃以下とすることが困難になることがある。一方、20モル%より多いと結晶性が低下し、Tgが低くなりやすく、紡糸時に単糸密着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
【0032】
脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトン(ε−CL)が挙げられる。
【0033】
1,4−ブタンジオール成分を共重合する場合、全グリコール成分に対して40〜60モル%となるようにすることが好ましい。共重合量が40モル%未満であったり、60モル%を超えると、Tm、Tcが上がる傾向となり、本発明で規定する範囲外のものとなりやすい。
【0034】
アジピン酸成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して、20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。アジピン酸成分の共重合量が10モル%未満であると、結晶性はよくなるが、Tmが高くなり、230℃以下とすることが困難になることがある。一方、20モル%より多いと結晶性が低下し、Tgが低くなりやすく、紡糸時に単糸密着が発生して製糸性が悪くなり、好ましくない。
【0035】
芯成分の共重合ポリエステル中にも、本発明の目的を損なわない範囲であれば、必要に応じて、熱安定剤、結晶核剤、艶消剤、耐光剤、耐候剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機及び有機電解質、その他類似の添加剤を添加することができる。
【0036】
また、本発明の複合繊維の鞘成分には着色剤を含有させてもよい。着色剤は芯成分を構成するポリマーにおいても、Tgが低下したり、コストアップとならない程度の少量であれば添加してもよい。
【0037】
着色剤としては、カーボンブラック、弁柄、群青等の無機系顔料、シアニン系、ポリアゾ系、アンスラキノン系等の有機系顔料、染料等が挙げられ、目的とする発色を得るためには、これらの着色剤を適宜選定し、単独またはブレンドして使用すればよい。直接肌に触れる用途に使用する場合は、皮膚への刺激が少ない無機系顔料を使用するのが好ましい。
【0038】
次に、本発明のポリエステル複合繊維の形状について説明する。本発明のポリエステル複合繊維は、横断面形状が芯鞘形状を呈する芯鞘型複合繊維であって、上記のような共重合ポリエステルが芯部に配され、ポリ乳酸が鞘部に配されている。ポリ乳酸が鞘部に配されるということは、繊維の表面全体をポリ乳酸が覆うように配置されていることであるが、このとき、芯部は1つであっても複数であってもよい。つまり、芯鞘形状としては、芯部が1つであり、芯部と鞘部がほぼ同心円上に配置された同心芯鞘型や偏心芯鞘型、芯部が複数個である海島型等の複合形態のものが挙げられる。中でも、同心芯鞘型の複合繊維であることが好ましい。
【0039】
このような芯鞘型の複合形状とすることにより、共重合ポリエステルがポリ乳酸の劣る性能である強度等をカバーできるので、本発明のポリエステル複合繊維は、ポリ乳酸を使用していながら機械的特性に優れたものとなる。
【0040】
本発明のポリエステル複合繊維の芯鞘複合比は、鞘部が繊維表面全体を覆うために、質量比(芯/鞘)で20/80〜80/20とすることが好ましい。
【0041】
鞘成分の複合比(質量比)が20未満であると、溶融紡糸時の両成分の使用比が異なるため、極端に芯部の溶融押し出し機内やポリマー配管内での滞留時間が長くなるため、熱劣化が生じ、操業性を悪化させるため、好ましくない。また、排ガスの少ない植物由来原料としてのポリ乳酸の使用比率が低くなり、環境への影響が大きくなり好ましくない。一方、鞘成分の複合比(質量比)が80を超えると、単糸の強度が不十分となり好ましくない。
【0042】
本発明のポリエステル複合繊維は、上記のような芯鞘型の複合形状を呈していれば、丸断面のものに限定されるものではなく、扁平断面、多角形、多葉形、ひょうたん形、アルファベット形(T型、Y型等)、井型等の各種の異形のものであってもよい。また、これらの形状において中空部を有するものでもよい。
【0043】
前記したように、本発明のポリエステル複合繊維は、長繊維であっても短繊維であってもよいが、繊維長5〜150mm程度の短繊維として用いることが好ましい。
【0044】
中でも、本発明のポリエステル複合繊維を数千〜数百万本を集合させた繊維束とし、機械捲縮を付与した後、カットして短繊維とすることが好ましい。
【0045】
機械捲縮とは、押し込み式クリンパーやスタフィングボックス等の捲縮付与装置により捲縮を付与したものをいい、通常、これらの捲縮付与装置によると山部と谷部が連続して存在するジグザグ状の捲縮が付与される。このような形状を有するポリエステル複合繊維は紡績糸や不織布用途に適している。このような用途に適するものとするには、本発明のポリエステル複合繊維の繊度(単繊維繊度)は1〜100dtexとすることが好ましい。
【0046】
本発明のポリエステル複合繊維は単独で用いてもよいが、他の繊維と混用する用途にも適しており、混紡、交撚、精紡交撚を行ったり、交織、交編して用いてもよい。混用する他の繊維としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル、アラミド等の合成繊維、ビスコース、キュプラ、ポリノジック等のレーヨン系繊維、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維、絹、綿、麻、羊毛その他の獣毛繊維が挙げられる。
【0047】
また、本発明のポリエステル複合繊維を短繊維とする場合、伸度を60%以上とすることが好ましい。伸度が60%未満であると、延伸時に延伸ローラに単糸が巻き付き、切断する頻度が高くなって生産性が低下するなどのコストアップ要因となるので好ましくない。また、土木建築用、自動車資材用等の分野では、短繊維を不織布化した後、用途に応じて成型加工が施されるが、その成型時に繊維自体の伸びしろがないために不織布が裂けたり破れたりするため、好ましくない。
【0048】
次に、本発明のポリエステル複合繊維の製造方法について一例を用いて説明する。上記したような数千〜数百万本を集合させた繊維束とし、短繊維とする場合の製造例を用いて説明する。
【0049】
ポリ乳酸と共重合ポリエステルを通常の複合紡糸装置(同心芯鞘型の複合紡糸装置)を用いて溶融紡糸し、冷却、油剤を付与した後、延伸することなく一旦巻取る。この未延伸糸を数十万〜二百万dtexのトウに集束して、延伸倍率2〜5倍、延伸温度40〜80℃で延伸を行う。続いて、押し込み式クリンパーにより機械捲縮を施した後、ECカッター等のカッターで目的とする長さに切断して短繊維とする。
【0050】
なお、長繊維とする際には、未延伸糸(マルチフィラメント状)を巻き取った後、トウとして集束することなく延伸を施すか、もしくは未延伸糸のまま、撚糸や仮撚加工等を行って加工糸を得る方法がある。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例中の各物性値の測定法及び評価法は次のとおりである。
(1)ポリ乳酸のメルトフローレート値(g/10分)
前記の方法で測定した。
(2)共重合ポリエステルの相対粘度(ηR)
フェノールと四塩化エタンの等質量混合物を溶媒とし、ウベローデ粘度計を使用して、試料濃度0.5g/100cc、温度20℃の条件で測定した。
(3)共重合ポリエステルのガラス転移点(Tg)、結晶化開始温度(Tc)、融点(Tm)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−7型を使用し、昇温速度20℃/分で測定した。
(4)ポリ乳酸の融点(℃)、融解熱(J/g)
パーキンエルマー社製の示差走査熱量計DSC−2型を使用し、昇温速度20℃/分の条件で測定した。
(5)ポリ乳酸のL−乳酸とD−乳酸の含有比(モル比)
超純水と1Nの水酸化ナトリウムのメタノール溶液の等質量混合溶液を溶媒とし、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法により測定した。カラムにはsumichiral OA6100を使用し、UV吸収測定装置により検出した。
(6)操業性
紡糸時では未延伸糸条束の質量1トン採取当たりの切れ糸回数で評価した。また、延伸時では未延伸糸条束の質量1トン当たりの機台の停台回数で評価した。評価基準は以下の2段階評価とした。
(紡糸時)
○:1.5回/トン未満 ×:1.5回/トン以上、
(延伸時)
○:1.0回/トン未満 ×:1.0回/トン以上
(7)強伸度(cN/dtex)
JIS L−1015 引張強さ及び伸び率の標準時試験に準じて測定した。
(8)不織布強力
得られたポリエステル複合繊維(短繊維)のみを用い、カード機にかけウェブとした後、連続熱処理機にて、140℃、1分間の熱処理を行い、目付け100g/mの不織布を得た。得られた不織布から幅2.5cm、長さ15cmの測定用サンプルを作成し、オリエンテック社製UTM−4型のテンシロンを用い、引張速度10cm/分、つかみ間隔10cmの条件で伸長切断し、最大強力を読みとった。
【0052】
実施例1
鞘成分のポリ乳酸として、融点170℃、融解熱38J/g、L−乳酸とD−乳酸の含有比であるL/Dが98.5/1.5、メルトフローレート値(以下、MFRと略記する。)が23g/10分、相対粘度1.85のものを用いた。芯成分の共重合ポリエステルとして、テレフタル酸(TPA)/エチレングリコール(EG)/1,4ブタンジオール(1,4−BD)=100/50/60(モル比)の割合で共重合させたものに、ε─カプロラクトン(ε−CL)を15モル%共重合して得た共重合ポリエステルを用いた。得られた共重合ポリエステルのTg、Tc、TmおよびηRを表1に示す。
両成分のチップを減圧乾燥した後、同心芯鞘型複合溶融紡糸装置に供給して溶融紡糸を行った。このとき、芯成分と鞘成分の複合比(質量比:芯成分/鞘成分)を50/50とし、紡糸温度220℃で溶融紡糸を行った。孔数639の紡糸口金を用い、紡出糸条を冷却した後、引取速度800m/分で引き取って未延伸糸条を得た。得られた糸条を集束して33万dtexのトウにし、延伸倍率3.2倍、温度60℃で延伸し、温度140℃のヒートドラムで熱処理してから、押し込み式クリンパーを使用して機械捲縮を付与した後、繊維長64mmに切断し、繊度(単繊維繊度)が6.6dtexのポリエステル複合繊維を得た。
【0053】
実施例2〜7、比較例1〜2
芯成分の共重合ポリエステルの成分を表1に記載のように種々変更した以外は、実施例1と同様にして行った。
【0054】
実施例1〜7、比較例1〜2で得られたポリエステル複合繊維の物性値及び評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、実施例1〜7のポリエステル複合繊維は、強度が高く、不織布強力も高く、操業性よく得ることができた。
【0057】
一方、比較例1のポリエステル複合繊維は、芯成分の共重合ポリエステルのTg、Tmが低いために、十分に繊維が冷却されず、紡糸時に密着が発生し、操業性が悪く、繊維を得ることができなかった。比較例2のポリエステル複合繊維は、芯成分の共重合ポリエステルのTc、Tmが高いために溶融温度を上げる必要があり、ポリ乳酸の熱劣化が激しくなり、操業性が悪く、繊維を得ることができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共重合ポリエステルとポリ乳酸よりなる複合繊維であって、繊維の長手方向に対して垂直に切断した断面(横断面)形状が芯鞘形状を呈しており、鞘成分がポリ乳酸であり、芯成分がガラス転移点20〜80℃、結晶化開始温度80〜140℃、融点130〜230℃である共重合ポリエステルであることを特徴とするポリエステル複合繊維。
【請求項2】
芯成分の共重合ポリエステルが、テレフタル酸成分、エチレングリコール成分を含有し、かつ、1,4−ブタンジオール成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルである請求項1記載のポリエステル複合繊維。
【請求項3】
鞘成分のポリ乳酸は、L−乳酸および/またはD−乳酸からなり、融点120℃以上、融解熱10J/g以上である請求項1又は2記載のポリエステル複合繊維。


【公開番号】特開2008−19524(P2008−19524A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191621(P2006−191621)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】