説明

ポリエステル複合長繊維

【課題】低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルを用いることで、通常の製造装置で溶融紡糸、延伸し、操業性よく生産することができるポリエステル長繊維であって、特にバインダー繊維として用いると、熱接着させる際には低い温度で加工することができ、寸法安定性に優れた布帛や繊維構造等の製品を得ることができるポリエステル複合長繊維を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が特定式を満足するポリエステルAと、融点又は流動開始温度が130℃以上、かつポリエステルAの融点より高いポリエステルBとで構成されたポリエステル複合長繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配された複合繊維からなる長繊維であり、操業性よく得ることができ、特にバインダー繊維として用いることが好適なポリエステル複合長繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
合成繊維、特にポリエステル繊維は、その優れた寸法安定性、耐候性、機械的特性、耐久性、さらにはリサイクル性等から、衣料、産業資材として不可欠のものとなっており、様々な分野において、ポリエステル繊維が多く使用されている。
【0003】
近年では、環境配慮の観点から、ウレタン系やアクリル系の熱接着性樹脂の代替として、熱接着性を有するポリエステル繊維が見直されつつあり、長繊維形状であるため布帛に織り込んで使用できることなどの取り扱い易さの面からも、各種衣料用途、椅子張りやパーテーション等のインテリア用途、フィルター等の資材用途での需要が大きい。
【0004】
熱接着性の繊維(バインダー繊維)としては、ポリエチレンテレフタレートを芯部とし、イソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体を鞘部とした芯鞘型複合繊維が提案されている。この繊維は、高融点の芯部と低融点の鞘部とからなるため、熱処理の際に、芯部を溶融させず繊維形態を保持させ、鞘部のみを溶融させることにより、強度に優れた製品を得ることができる。
【0005】
しかしながら、鞘部のイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合体は、非晶性であり明確な結晶融点を示さないため、ガラス転移点以上の温度で軟化が始まる。このため、溶融紡糸して得られる長繊維は、染色や熱接着処理の際の熱収縮が大きく、この長繊維を少なくとも一部に用いた布帛や繊維構造物は寸法安定性が悪いものであった。また高温雰囲気下で使用した際の耐熱性にも劣るものであった。
【0006】
特許文献1には熱接着性のポリエステル長繊維が提案されている。この繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレートを配し、鞘部にテレフタル酸成分、脂肪族ラクトン成分、エチレングリコール成分及び1,4−ブタンジオール成分を共重合したポリエステル系共重合体を配した芯鞘型複合繊維である。
【0007】
この鞘部のポリエステル系共重合体は、結晶性であり明確な融点を示すため、溶融紡糸して得られる熱接着性長繊維は、強度が高く、熱収縮率も低いものであった。
【0008】
このため、この熱接着性のポリエステル長繊維は染色や熱接着処理の際の収縮が小さく、寸法安定性に優れ、高温雰囲気下で使用した際の耐熱性にも優れる布帛や繊維構造物等の製品を得ることができる。
【0009】
しかしながら、この鞘部のポリエステル系共重合体は融点が150〜200℃の範囲のものであり、まだ低融点領域であるとはいえず、熱接着させる際には加工温度を高くする必要があり、コスト的にも不利であった。
【0010】
さらに、繊維を製造する際の溶融紡糸工程において、鞘部のポリエステル系共重合体が冷え難いため、紡糸、冷却条件によっては、糸条間の溶着や捲取パッケージの膠着が発生しやすい。この問題を解決するためには、紡糸温度を低くすることが考えられるが、この方法では、溶融斑が生じ、製糸性が劣り、操業性も低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2006−118066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の問題点を解決するものであって、低融点でありながら結晶性に優れたポリエステルを用い、繊維表面の少なくとも一部を占めるように配することで、通常の製造装置で溶融紡糸、延伸し、操業性よく生産することができるポリエステル長繊維であって、特にバインダー繊維として用いると、熱接着させる際には低い温度で加工することができ、寸法安定性に優れた布帛や繊維構造物等の製品を得ることができるポリエステル複合長繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAと、融点又は流動開始温度が130℃以上であり、かつポリエステルAの融点より高いポリエステルBとで構成された複合繊維であって、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されていることを特徴とするポリエステル複合長繊維を要旨とするものである。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリエステル複合長繊維は、低融点でありながら結晶性に優れ、特に降温時の結晶化速度が速いポリエステルAを繊維表面に用いているため、繊維を製造する際の溶融紡糸工程において糸条間の溶着やそれに伴う紡糸糸切れ、さらには捲取パッケージの膠着の発生がなく、生産性よく得ることができる。そして、延伸、熱処理工程も操業性よく行うことができ、十分な強度を有し、熱水収縮率の低いものとすることができる。
【0014】
特に本発明のポリエステル複合長繊維をバインダー繊維として用いると、熱接着させる際には低い温度で加工することができ、コスト的にも有利である。さらに、撚糸加工や製織、製編等に耐えうる強度を有しており、各種の加工糸や布帛、繊維構造物等に使用することができる。
【0015】
また、熱水収縮率も低いものであるため、本発明のポリエステル複合長繊維を少なくとも一部に用いた加工糸や布帛、繊維構造物等の製品は、熱接着処理後も寸法安定性、形態保持性に優れ、接着後の染色処理、熱水処理の際にも接着部位が剥離することなく、また高温雰囲気下での使用においてもその接着性を維持することができ、耐熱性(耐久性)の高いものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル複合長繊維は、ポリエステルAとポリエステルBとで構成されるものであり、ポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めている複合繊維である。つまり、本発明の複合長繊維は、マルチフィラメントでもモノフィラメントでもよいが、単糸の横断面形状(繊維軸方向に沿って垂直に切断した断面の形状)においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めているものである。
【0017】
このような形状としては、サイドバイサイド型や偏心芯鞘型、多層型のもの等が挙げられるが、中でも単糸の横断面形状においてポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部に配された芯鞘形状であることが好ましい。
【0018】
まず、ポリエステルAについて説明する。ポリエステルAは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、融点が100〜150℃の共重合ポリエステルである。
【0019】
ポリエステルAの融点(Tm)は、100〜150℃であり、中でも105〜140℃であることが好ましく、さらには110〜130℃であることが好ましい。Tmが100℃未満であると、本発明の長繊維より得られた製品は、高温雰囲気下で使用した場合の熱安定性(耐熱性)に劣るものとなる。一方、150℃を超えると、製品を得る際の熱接着加工温度を高くする必要があり、加工性、経済性に劣る。また、熱処理により得られる製品の品質や風合い等を損ねるため好ましくない。
【0020】
ポリエステルAは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を主成分とするものであり、テレフタル酸(以下、TPAとする)は60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなったり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0021】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0022】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が50モル%以上であり、他の成分としてはエチレングリコール(以下、EGとする)や1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)を用いることが好ましい。ジオール成分において、HDは50モル%以上であり、中でも60〜95モル%であることが好ましい。HDが50モル%未満の場合、融点が150℃を超えるものとなる。
【0023】
ジオール成分として、HDとともにEGやBDを用いる際には、EGやBDをジオール成分において、5〜50モル%とすることが好ましく、中でも5〜40モル%とすることが好ましい。
【0024】
さらに、ジオール成分にはHD、EGやBD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0025】
そして、ポリエステルAは、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有するものであり、中でも0.5〜3.0質量%含有することが好ましい。
【0026】
ポリエステルAは、上記のような共重合組成であることにより、結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度を向上させることができ、後述する(1)式を満足することができるものとなる。これにより、溶融紡糸工程における単糸間の溶着や捲取パッケージの膠着を生じないものとすることができ、延伸、熱処理工程も操業性よく行うことができ、十分な強度を有し、熱水収縮率の低いものとすることができる。
【0027】
結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することができない。一方、5.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、紡糸、延伸時の操業性を悪化させることとなり、強度や品位の低い繊維となる。
【0028】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィン、硫酸塩等を使用することが好ましい。
【0029】
無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。上記平均粒径もしくは比表面積を満足していない場合、結晶核としての機能に乏しく、ポリエステルAは後述する(1)式を満足することが困難となりやすい。
【0030】
また、結晶核剤として含有させるポリオレフィンは、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものであってもよい。
【0031】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。
【0032】
結晶核剤として含有させる硫酸塩は、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0033】
これらの結晶核剤を添加する方法としては、粉体のまま、あるいはジオールスラリーの形態でポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。中でも、結晶核剤としての効果を良好なものとするには、エチレングリコール等のグリコールにスラリー状態あるいは溶解させた状態で添加することが好ましい。
【0034】
ポリエステルA中には、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0035】
そして、ポリエステルAは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するものであり、中でもb/a≧0.06であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) (1)
【0036】
本発明におけるポリエステルAの融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mg(長繊維の質量)で測定する。
【0037】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。このとき、長繊維を形成するポリエステルAとポリエステルBのピークが2つ現れる場合があるが、低温側に現れるピークのDSC曲線がポリエステルAのものである。
【0038】
そして、図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0039】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aが0.05(mW/mg・℃)未満の場合、降温時の結晶化速度が遅くなり、溶融紡糸時に単糸間の溶着や巻取りパッケージの膠着が発生し、安定した生産が困難となる。
【0040】
上記したように、b/aは、ポリエステルAの共重合組成を特定のものとし、結晶核剤の含有量を上記範囲の量とすることにより、本発明で規定する範囲のものにすることができる。
【0041】
次にポリエステルBについて説明する。ポリエステルBは、融点又は流動開始温度が130℃以上であり、かつポリエステルAの融点より高いものである。ポリエステルBはポリエステルAと同様に結晶性のものであってもよいし、また、非晶性のものであってもよい。結晶性のものの場合は融点を、非晶性のものの場合は流動開始温度を130℃以上とする。
【0042】
本発明のポリエステル複合長繊維は、ポリエステルAを低融点のポリエステル、ポリエステルBをポリエステルAより高融点のポリエステルとすることで、熱接着処理によりポリエステルAのみを溶融させて接着成分とするバインダー繊維として用いることが好適なものである。
【0043】
本発明のポリエステル複合長繊維を用いて加工糸や布帛、繊維構造物等の製品を得る際には、本発明のポリエステル複合長繊維のみを用いても、他の繊維(主体繊維)と併用してもよい。
【0044】
まず、他の繊維と併用する場合は、ポリエステルAの融点より高い融点を持つ他の繊維を主体繊維とすることが好ましい。そして、ポリエステルBの融点より低い温度で熱接着処理を行うことにより、ポリエステルAを接着成分、ポリエステルBは溶融させずに他の繊維とともに主体繊維として用いることができる。
【0045】
なお、本発明のポリエステル複合長繊維と他の繊維とを併用する場合において、ポリエステルBの融点より20℃以上高い融点を持つ繊維を他の繊維として用い、ポリエステルBの融点より高い温度(ポリエステルBの融点又は流動開始温度+10℃程度)で熱接着処理を行うことにより、ポリエステルAとポリエステルBともに溶融させて接着成分とし、他の繊維のみを主体繊維とする製品を得ることもできる。
【0046】
次に、本発明のポリエステル複合長繊維のみを用いる場合は、ポリエステルBの融点より低い温度で熱接着処理を行うことによりポリエステルAのみを溶融させて接着成分とし、ポリエステルBが主体繊維となる加工糸や布帛、繊維構造物等の製品を得ることができる。
【0047】
また、このようにして得られたポリエステルBが主体繊維となる布帛や不織布においては、ポリエステルBが比較的低い融点や流動開始温度のものの場合、得られた布帛や不織布に、さらにポリエステルBの融点より高い温度で熱処理を施すことにより、ポリエステルBも溶融するため、ホットメルトシートのような用途に用いることもできる。
【0048】
ポリエステルBの融点又は流動開始温度が130℃未満であると、延伸、熱処理工程において十分な熱処理を施すことができず、繊維の収縮率を低くすることが困難となる。一方、融点又は流動開始温度の上限は特に限定するものではないが、溶融紡糸時のポリエステルAの熱分解を避ける目的から290℃以下とすることが好ましい。
【0049】
また、ポリエステルBの融点又は流動開始温度がポリエステルAの融点より低いと、延伸、熱処理工程において十分な熱処理を施すことができず、繊維の熱水収縮率を低くすることが困難となる。このため、ポリエステルBの融点又は流動開始温度は、ポリエステルAの融点より20℃以上高いことが好ましく、さらには、30℃以上高いことが好ましい。
【0050】
ただし、ポリエステルAは低融点のものであるため、ポリエステルBも比較的低い融点又は流動開始温度のものとすることで、溶融紡糸時に単糸間の溶着や糸切れが生じることなく、操業性よく溶融紡糸することが可能となる。したがって、ポリエステルBの融点又は流動開始温度は、中でも135〜220℃であることが好ましく、さらには、140〜200℃であることが好ましい。そして、ポリエステルAの融点より20〜90℃高いことが好ましく、中でも30〜80℃高いことが好ましい。
【0051】
ポリエステルBは、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどのポリアルキレンテレフタレートを主体とするものが好ましい。そして、上記のような融点又は流動開始温度のものとするため、次に示すような成分を共重合させたものとすることが好ましい。
【0052】
共重合成分としては、イソフタル酸、5−スルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、コハク酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸などの脂肪族ジカルボン酸、およびエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂肪族ジオールや、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸などのヒドロキシカルボン酸、ε−カプロラクトンなどの脂肪族ラクトン等が挙げられる。
【0053】
中でもポリエステルBとしては、融点や結晶性の面から、TPA成分、EG成分を含有し、BD成分、脂肪族ラクトン成分及びアジピン酸成分の少なくとも一成分を含有する共重合ポリエステルであることが好ましい。これらのポリエステルは結晶性に優れるため、結晶性の高いポリエステルAとともに用いることで紡糸操業性がより良好になるとともに、延伸、熱処理時に高温での処理が可能となり、熱水収縮率の低い繊維が得られやすくなる。
【0054】
まず、脂肪族ラクトン成分を共重合する場合、その共重合量は全酸成分に対して20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。脂肪族ラクトン成分の割合が少ないと結晶性はよくなるが、融点が高くなり、200℃以下とすることが困難になることがある。一方、20モル%より多いと結晶性が低下し、ガラス転移温度が低くなりやすく、紡糸時に単糸間の溶着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
【0055】
脂肪族ラクトン成分としては、炭素数4〜11のラクトンが好ましく、特に好ましいラクトンとしては、ε−カプロラクトンが挙げられる。
【0056】
次に、BD成分を共重合する場合、共重合量は全グリコール成分に対して40〜80モル%とすることが好ましい。共重合量が40モル%未満であったり、80モル%を超えると、融点が高くなり、200℃を超えるものとなりやすい。
【0057】
アジピン酸成分を共重合する場合、共重合量は全酸成分に対して、20モル%以下とすることが好ましく、10〜20モル%とするのがより好ましい。アジピン酸成分の共重合量が10モル%未満であると、結晶性はよくなるが、融点が高くなり、200℃を超えるものとなりやすい。一方、20モル%を超えると、結晶性が低下し、ガラス転移温度が低くなりやすく、紡糸時に単糸間の溶着が発生して製糸性が悪くなりやすい。
【0058】
また、ポリエステルBとして、イソフタル酸を共重合したPETを用いることも好ましく、中でもイソフタル酸を5〜30モル%共重合したものが好ましい。イソフタル酸の共重合量が5モル%未満であると流動開始温度が高くなりやすい。一方、30モル%を超えると、流動開始温度が低くなり130℃未満のものとなりやすい。
【0059】
ポリエステルB中にも、本発明の効果を損なわない範囲で、リン酸エステル化合物やヒンダードフェノール化合物のような安定剤、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0060】
本発明のポリエステル複合長繊維のポリエステルAとポリエステルBの複合比率(質量比)は、20/80〜80/20とすることが好ましく、中でも30/70〜70/30とすることが好ましい。
【0061】
さらに、本発明のポリエステル複合長繊維は、100℃での熱水収縮率が17%以下であることが好ましく、中でも12%以下、さらには10%以下であることが好ましい。
【0062】
100℃での熱水収縮率が17%を超えると、加工糸、布帛や成形体等にし、熱接着処理すると、得られるこれらの製品の風合いが硬化したり、寸法安定性が悪くなりやすい。そして、繊維が熱接着処理により溶融した際にできるポリマー塊が点在し、非接着体側の繊維の交点に万遍なく行きわたらないことから、接着性も低下する傾向がある。さらに、接着後の染色処理、熱水処理の際には接着部位の剥離が生じやすいものとなる。
【0063】
本発明における熱水収縮率とは、JIS L−1013の熱水収縮率のかせ収縮率(A法)に従って測定するものである。
【0064】
さらに、本発明のポリエステル複合長繊維は、強度が1.0cN/dtex以上のものであることが好ましく、中でも2.0cN/dtex以上であることが好ましく、さらには、2.5cN/dtex以上であることが好ましい。強度が1.0cN/dtex未満であると、加工糸とする際の仮撚り加工工程やエアーやインターレース等での混繊加工工程、製編織工程における張力や擦過抵抗によって糸切れが発生し、工程通過性が悪くなり、得られる製品の品位も悪化しやすくなる。
【0065】
また、本発明における強度とは、JIS L−1013の引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、ORIENTEC社製引っ張り試験機RTC−1210型を用い、つかみ間隔50cm、引張速度50cm/分で測定するものである。
【0066】
本発明のポリエステル複合長繊維は、低融点でありながら結晶性が高く、降温結晶化速度の速いポリエステルAを繊維表面に用いたものであるため、溶融紡糸して得られた未延伸糸を一旦巻き取った後に延伸する二工程法、未延伸糸を一旦巻き取ることなく連続して延伸する一工程法のいずれにおいても、紡糸工程における糸条間の溶着やそれに伴う紡糸糸切れ、さらには捲取パッケージの膠着の発生がなく、生産性よく品質良く得ることができるものである。そして、延伸、熱処理時においても糸条間の溶着や糸切れが生じることなく、操業性よく行うことができ、延伸倍率、熱処理温度を調整することにより、強度1.0cN/dtex以上、100℃での熱水収縮率が17%以下の特性を有する長繊維を容易に得ることができる。
【0067】
本発明のポリエステル複合長繊維が好適に用いられる例としては、以下のようなものが挙げられる。複数の繊維の一部に混繊させた混繊糸とし、熱処理(熱接着処理)により複合長繊維のポリエステルAを溶融させて接着成分とし、任意の形態を形成することができるので、モップ等に用いられるブラシ毛部分やカーペット用のパイル糸として用いることが好適である。また、織編物を構成する繊維の一部に使用して織編物とし、熱接着処理によりポリエステルAを溶融させて接着成分とすることで、布帛同士を接着させる芯材として用いることができる。同様に織物を構成する繊維の一部に使用して織物とし、熱接着処理によりポリエステルAを溶融させて接着成分とすることで、繊維同士を接着した織物とすることができ、このような織物はフィルター用途として好適なものである。
【0068】
また、本発明のポリエステル複合長繊維の単糸繊度は特に限定するものではないが、上記のような用途に用いる際には、1〜50dtex、中でも3〜30dtexとすることが好ましい。
【0069】
そして、断面形状は特に規定するものではなく、丸型のみならず扁平型、トリローバル型、ヘキサローバル型、W型、H型等の異形断面や、四角形や三角形等の多角形状、中空形状のものでもよい。
【0070】
次に、本発明のポリエステル複合長繊維の製造方法について一例を用いて説明する。
まず、ジカルボン酸成分とジオール成分とをエステル化反応またはエステル交換反応させ、結晶核剤を添加して重縮合反応を行う。重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化して、ポリエステルAを得る。ポリエステルBもチップ化して、両ポリエステルを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにして溶融紡糸を行う。溶融紡糸後、冷却固化し、油剤を付与した未延伸糸を、一旦巻取った後に、又は巻き取ることなく連続して延伸を施す。未延伸糸を延伸する際には、複数のローラ間で延伸倍率1.3〜4.0倍で延伸し、必要に応じて熱処理を施すことにより本発明のポリエステル複合長繊維が得られる。
【0071】
なお、未延伸糸を一旦巻き取る際には、紡糸速度を2500〜4000m/分として高配向未延伸糸としてパッケージに巻き取り、延伸時の延伸倍率を低く抑えることが好ましい。高配向未延伸糸を用いて仮撚加工を施したり、エアーやインターレースなどで混繊するといった複合加工を行うことにより、本発明のポリエステル複合長繊維を用いた加工糸を得ることができる。
【実施例】
【0072】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値の測定、評価は次の通りに行った。
(a) 無機系微粒子(タルク)の平均粒径
島津社製粒度分布測定装置(SALD-2000)を用いて、エチレングリコール中の試料の平均粒径の値を測定した。
(b) 無機系微粒子(タルク)の比表面積
BET法により測定した。
(c)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(d)ポリエステルAの融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(e)ポリエステルBの融点
示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製Diamond DSC)を用い、昇温速度20℃/分で測定した融解吸収曲線の極値を与える温度を融点とした。
(f)ポリエステルBの流動開始温度
フロテスター(島津製作所CFT−500型)を用い、荷重9.8MPa、ノズル径0.5mmの条件で、初期温度50℃より10℃/分の割合で昇温していき、ポリマーがダイから流出し始める温度として求めた。
(g)ポリエステルA、ポリエステルBのポリマー組成
得られたポリエステル複合長繊維を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて 1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(h)紡糸操業性
16錘で24時間の操業を行い、紡糸の状況により下記の3段階で評価した。
○ : 紡糸時の糸切れ回数が3回以下
△ : 紡糸時の糸切れ回数が4回〜9回
× : 紡糸時の糸切れ回数が10回以上
(i)強度、伸度、
JIS L−1013の引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、ORIENTEC社製引っ張り試験機RTC−1210型を用い、つかみ間隔50cm、引張速度50cm/分で測定した。
(j)熱水収縮率
前記の方法により測定した。
(k)接着性
得られたポリエステル複合長繊維1本と、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル長繊維(84dtex/36fil、強度4.3cN/dtex、伸度35%)2本を合わせて混繊し、混繊工程の途中でスピンドル回転によって撚りを施し、15ヶ/mの撚数の撚糸を得る。この撚糸を10cmに切断して伸ばした状態で両端を固定し、ローラ温度140℃(熱接着処理温度)、ローラスピード0.5m/分、プレス圧力0.7kg/cmの条件で繊維軸方向に加熱圧着し、その後に両端をカットして長さ5cmのサンプルを得た。
このサンプルをガラス製の300mlビーカーに入れ、95℃に加温した熱水中で、巾4cmのラグビーボール型マグネチック攪拌子により200rpmの回転数で30分間攪拌処理した。サンプル10個について、攪拌処理を行い、処理後サンプルを自然乾燥させ、乾燥後の繊維の剥離状態を目視により観察し、下記の3段階で評価した。
○ : 全てのサンプルで剥離なし
△ : 部分的に剥離を起こしているサンプルがある
× : 剥離を起こし、撚糸の形態を維持していないサンプルが5個以上ある
(l)織物品位
得られたポリエステル複合長繊維と、ポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル長繊維(84dtex/36fil、強度4.3cN/dtex、伸度35%)とを50/50として経糸、緯糸に用い、ウォータージェットルームの織機を用いて97本/2.54cmの平織物とした。その後、この平織物に公知の方法で精練、プレセット、染色を行った後、140℃(熱接着処理温度)で仕上げセットを行った。得られた平織物についての品位を目視により観察し、以下の2段階で評価した。
○:融着斑や厚みのバラツキがない
×:部分的に又は全体的に融着斑や厚みのバラツキがある
【0073】
実施例1
エステル化反応缶に、TPAとEGのスラリーを連続的に供給し、温度250℃、圧力0.2MPaの条件で反応させ、滞留時間を8時間として、エステル化反応率95%の反応物を得た。この反応物を重縮合反応缶に移送し、HDを重縮合反応缶に投入し、温度240℃、常圧下で1時間攪拌した。次に、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m/gのタルクを含有するEGスラリーを重縮合反応缶に投入した後、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化してポリエステルAを得た。ポリエステルAは、酸性分としてTPA100mol%、グリコール成分としてEG15mol%、HD85mol%からなり、結晶核剤として1.0質量%のタルクを含有し、b/aが0.07、極限粘度0.95、融点128℃のものであった。
ポリエステルBとして、酸性分としてTPA85mol%、ε−カプロラクトン15mol%、グリコール成分としてEG45mol%、BD55mol%からなり、融点160℃、極限粘度0.72の共重合ポリエステルを用いた(B−1とする)。
ポリエステルAとポリエステルBを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにし、両成分の複合比率(質量比)を50/50として溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度220℃、吐出量32.7g/分とし、紡糸孔数48の紡糸口金を用い、紡糸速度3000m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を冷却した後、油剤を付与し、109dtex/48本の高配向未延伸糸を得た。
次に、この高配向未延伸糸を表面温度50℃の第一ローラで引取り、第二ローラとの間に115℃に加熱したヒートプレートを設置して(予備加熱温度50℃、熱セット温度115℃として)、延伸倍率1.3倍で熱延伸を行い、84dtex/48本のポリエステル複合長繊維を得た。
【0074】
実施例2〜3、比較例1〜2
ポリエステルA中の結晶核剤(タルク)の添加量を変更し、表1に示すポリエステルA中の含有量とした以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0075】
実施例4
エステル化反応缶に、TPA、HD、BDを供給し、結晶核剤として平均粒径1.0μm、比表面積35m/gのタルクを添加し、温度230℃、圧力0.2MPaの条件で3時間撹拌し、エステル化反応を行った後、重縮合反応缶に移送した。そして、反応器内の圧力を徐々に減じ、撹拌しながら重縮合反応を約3時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化してポリエステルAを得た。ポリエステルAは、酸性分としてTPA100mol%、グリコール成分として1,4−ブタンジオール(BD)20mol%、HD80mol%からなり、結晶核剤として1.0質量%のタルクを含有し、b/aが0.13、極限粘度0.98、融点130℃のものであった。
ポリエステルBとして、実施例1と同様の共重合ポリエステル(B−1)を用い、実施例1と同様にして溶融紡糸、延伸を行って、ポリエステル複合長繊維を得た。
【0076】
実施例5〜6、比較例3〜4
ポリエステルA中の結晶核剤のタルクの添加量を変更し、表1に示すポリエステルA中の含有量とした以外は、実施例4と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0077】
実施例7
ポリエステルBとして、酸性分としてTPA100mol%、グリコール成分としてEG50mol%、BD50mol%からなり、融点180℃、極限粘度0.78の共重合ポリエステルを用い(B−2とする)、紡糸温度を240℃としたこと以外は実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0078】
実施例8
ポリエステルBとして、酸性分としてTPA100mol%、グリコール成分としてEG25mol%、BD75mol%からなり、極限粘度0.62、融点195℃の共重合PETを用い(B−3とする)、紡糸温度を255℃としたこと以外は実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0079】
実施例9
ポリエステルBとして、酸性分としてTPA100mol%、グリコール成分としてEG100mol%からなり、極限粘度0.66、融点256℃のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた(B−4とする)。
ポリエステルAとして実施例1と同様のものを用い、このポリエステルAとポリエステルBを複合紡糸装置に供給し、ポリエステルAが鞘部、ポリエステルBが芯部となるようにし、両成分の複合比率(質量比)を50/50として溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度275℃、吐出量36.6g/分とし、紡糸孔数48の紡糸口金を用い、紡糸速度3000m/分の条件で紡糸した。次いで、紡出糸条を冷却した後、油剤を付与し、122dtex/48filの高配向未延伸糸を得た。
次に、この高配向未延伸糸を表面温度70℃の第一ローラで引取り、第二ローラとの間に115℃に加熱したヒートプレートを設置して(予備加熱温度70℃、熱セット温度115℃として)、延伸倍率1.5倍で熱延伸を行い、84dtex/48filのポリエステル複合長繊維を得た。
【0080】
実施例10
ポリエステルBとして、酸性分としてTPA100mol%、グリコール成分としてBD100mol%からなり、極限粘度0.85、融点225℃のポリブチレンテレフタレート(PBT)を用い(B−5とする)、紡糸温度を250℃としたこと以外は実施例9と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0081】
実施例11
ポリエステルBとして、酸性分としてTPA92mol%、イソフタル酸(IPA)8mol%、グリコール成分としてEG100mol%からなり、極限粘度0.65、融点230℃の共重合PETを用い(B−6とする)、紡糸温度を260℃としたこと以外は実施例9と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0082】
比較例5
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA100mol%、グリコール成分としてEG60mol%、HD40mol%からなり、結晶核剤として1.0質量%のタルクを含有し、b/aが0.07、極限粘度0.95、融点158℃のものを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0083】
比較例6
ポリエステルAとして、酸性分としてTPA100mol%、グリコール成分としてBD60mol%、HD40mol%からなり、結晶核剤として1.0質量%のタルクを含有し、b/aが0.12、極限粘度0.98、融点158℃のものを用いた以外は、実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0084】
比較例7
ポリエステルBとして、酸性分としてTPA60mol%、イソフタル酸40mol%、グリコール成分としてEG100mol%からなる流動開始温度110℃、極限粘度0.73のポリエステル(B−7とする)を使用し、紡糸温度を220℃としたこと以外は実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0085】
比較例8
高配向未延伸糸を延伸する際に、第一ローラとヒートプレートの温度を室温とした(延伸時に熱セットを行わなかった)以外は、実施例2と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0086】
比較例9
実施例1で用いたポリエステルB(B−1)を鞘部を形成するポリマーとし、芯部を形成するポリマーとして、酸成分としてTPA92mol%、イソフタル酸8mol%、グリコール成分として、EG35mol%、1,4−ブタンジオール65mol%からなる極限粘度0.63、融点155℃、結晶核剤として1.0質量%のタルクを含有したポリエステル(B−8)を用いた。
両ポリマーを複合紡糸装置に供給し、紡糸温度を240℃としたこと以外は実施例1と同様にしてポリエステル複合長繊維を得た。
【0087】
実施例1〜11、比較例1〜9で得られたポリエステル複合長繊維の特性値と評価結果を表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
表1から明らかなように、実施例1〜11のポリエステル複合長繊維は、鞘部のポリエステルAが(1)式を満足するものであり、結晶性が高く、紡糸操業性よく得ることができた。また延伸、熱処理を良好に行うことができ、強度が高く、熱水収縮率の低いものであり、接着性、織物品位の評価も良好であった。
一方、比較例1、3のポリエステル複合長繊維は、ポリエステルA中の結晶核剤の含有量が少なく、ポリエステルAが(1)式を満足せず、降温時の結晶化速度が遅いものであったため、紡糸時に糸条同士の溶着が生じ、紡糸操業性が悪かった。比較例2、4のポリエステル複合長繊維は、ポリエステルA中の結晶核剤の含有量が多かったため、紡糸時に切れ糸が発生し、操業性が悪かった。さらに、強度も低く、接着性、織物品位にも劣るものであった。比較例5、6のポリエステル複合長繊維は、ポリエステルAがHDの含有量が50モル%未満であり、融点が150℃を超えるものであったため、接着性の評価を行う際に撚糸にローラ温度140℃で熱処理を行っても十分に熱接着せず、全てのサンプルにおいて剥離を起こし、撚糸の形態を維持していなかった。このため、接着性、織物品位ともに劣るものであった。比較例7のポリエステル複合長繊維は、ポリエステルBの融点が低かったため、延伸時の熱セット温度を95℃としたため、熱水収縮率の高いものとなり、紡糸操業性にも劣るものであった。また織物品位にも劣るものであった。比較例8のポリエステル複合長繊維は、熱延伸を十分に行わず、熱水収縮率の高い繊維であったため、ポリエステルAが溶融した接着成分が点在し、接着性及び織物品位に劣るものとなった。比較例9のポリエステル複合長繊維は、鞘部に結晶性が良好なポリエステルを用いたものであるため熱水収縮率が低いものであったが、鞘部のポリエステルの融点が高いものであったため、接着性の評価を行う際に撚糸にローラ温度140℃で熱処理を行っても十分に熱接着せず、全てのサンプルにおいて剥離を起こし、撚糸の形態を維持していなかった。このため、接着性、織物品位ともに劣るものであった。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明におけるポリエステルAのDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオール50モル%以上のジオール成分とからなり、結晶核剤を0.01〜5.0質量%含有し、融点が100〜150℃、かつDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足するポリエステルAと、融点又は流動開始温度が130℃以上であり、かつポリエステルAの融点より高いポリエステルBとで構成された複合繊維であって、単糸の横断面形状においてポリエステルAが繊維表面の少なくとも一部を占めるように配されていることを特徴とするポリエステル複合長繊維。
b/a≧0.05 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【請求項2】
強度が1.0cN/dtex以上、100℃での熱水収縮率が17%以下である請求項1記載のポリエステル複合長繊維。


【図1】
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【公開番号】特開2009−243028(P2009−243028A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−298076(P2008−298076)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】