説明

ポリエステル重縮合用触媒、その製造法、およびその重縮合用触媒を用いたポリエステル樹脂の製造方法

【課題】 チタン化合物、アルカリ土類金属化合物及びリン化合物を用いたポリエステルの製造時における分割添加の問題がなく、長期保存性に優れると共に反応性に優れ、しかも得られるポリエステルの色調が良好となる液状ポリエステル重縮合用触媒、その製造方法、及び、該触媒を用いたポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【解決手段】 アルコール、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物をあらかじめ混合して得られた混合液に、更にチタン化合物を混合することにより得られる液状ポリエステル重縮合用触媒、その製造方法及び該液状ポリエステル重縮合用触媒を用いたポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル重縮合用触媒、詳しくは保存安定性が良好な、チタン元素、マグネシウム元素、リン元素を含むポリエステル重縮合用触媒、その製造法及び該重縮合用触媒を用いたポリエステル樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリエステルは、化学的、物理的性質に優れていることから、ボトル等の容器、フィルム、シート、繊維等の各種用途に広範囲に使用されている。そのポリエステルは、一般に、エステル化反応若しくはエステル交換反応、及び溶融重縮合反応を経て、更に必要に応じて、特に容器用においては固相重縮合反応させることにより製造され、その重縮合反応にはアンチモン、ゲルマニウム、チタン等の化合物が重縮合用触媒として使用されている。
【0003】
ところが、アンチモン化合物を重縮合用触媒としたポリエステルにおいては、特有のくすみを有することや、アンチモン化合物において懸念されている安全衛生性、環境への配慮等の点から、アンチモン化合物の使用量を低減化する方法、或いはそれらに代わる重縮合用触媒の出現が強く望まれていた。また、ゲルマニウム化合物を重縮合用触媒としたポリエステルにおいては、透明性や安全衛生性等の面では好適であるものの、ゲルマニウム化合物自体が極めて高価であり経済的不利が避けられない等の点から、ゲルマニウム化合物についても、使用量を低減化する方法、或いはそれらに代わる重縮合用触媒の出現が強く望まれていた。それに対して、チタン化合物が、安価で、安全衛生性等の懸念もないことから注目され、アンチモン化合物やゲルマニウム化合物の代わりに使用されるに至っている。
【0004】
たとえば、特定のチタン化合物及び水分濃度のエチレングリコール溶液と、特定リン濃度のエチレングリコール溶液を反応系に添加することにより、ボトルとした時の口栓部の寸法精度が優れたポリエステル樹脂を製造する方法が知られている(特許文献1)。該文献に記載の製造方法では、具体的には、チタン、マグネシウム、リン化合物のそれぞれを、エチレングリコール溶液として、分割して反応系に添加している。
【0005】
又、色調、透明性等に優れたポリエステルを高い反応速度で製造できる液状触媒として、チタン元素等の周期律表第4A族の金属元素、及びマグネシウム元素等の周期律表第4A族の金属元素等を特定量含有し、特定の濁度を有する液状触媒が知られている(特許文献2)。該文献に記載のポリエステルの製造方法では、具体的には、チタン元素及びマグネシウム元素を含む液状触媒を反応系に添加後、リン化合物溶液を反応系に添加している。
特許文献1及び2の方法はチタン元素、マグネシウム元素及びリン元素を含む溶液を2段または3段で分割添加しているが、工業生産で分割添加を採用する場合には、生産性、或いは得られるポリエステルの性能及び製品品質の安定性等の点から、反応系内で重縮合用触媒成分を所定の濃度とするために添加方法等を厳密にコントロールする必要がある。
【0006】
一方、高い触媒活性で優れた品質のポリエステルを製造することができる重縮合用触媒として、特定のチタン化合物成分と、特定のリン化合物成分と特定のアルカリ土類金属化合物成分との反応生成物からなるポリエステル製造用触媒が提案されており、具体的には、酢酸マグネシウムのエチレングリコール溶液に、チタン化合物のエチレングリコール溶液を添加して得られた混合溶液に、トリメチルホスフェートのエチレングリコール溶液を
添加して触媒溶液を調製した例が記載されている(特許文献3)。該触媒溶液は、チタン元素、リン元素及びマグネシウム元素を含む触媒溶液であるため、反応系への触媒成分の分割添加の必要がなく、工業的に有利な方法と考えられる。しかしながら、本発明者による検討では、該触媒溶液は長期安定性に欠け、数日の保存で白濁し、金属成分の析出が見られスラリー状となる。この結果、該触媒溶液をポリエステルの重縮合反応に精度よく添加するのが困難となり、また、スラリー状の触媒が触媒貯槽や触媒添加ライン中で沈降し、スケーリングしてしまうなど、取り扱い性に劣るという問題があることが判明した。
【0007】
【特許文献1】特開2004−124068号公報
【特許文献2】特開2004―292803号公報
【特許文献3】特開2004−224858号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物及びリン化合物を用いたポリエステルの製造時における分割添加の問題がなく、長期保存性に優れると共に反応性に優れ、しかも得られるポリエステルの色調が良好となる液状ポリエステル重縮合用触媒及びその製造方法を提供するものである。更に、該重縮合用触媒を用いたポリエステル樹脂の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討の結果、アルコール、アルカリ土類金属化合物、酸性リン酸エステル化合物及びチタン化合物を特定の順序で混合することにより得られた液状混合物が上記課題を解決することを見出した。
即ち、本発明の要旨は、アルコール、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物をあらかじめ混合して得られた混合液に、更にチタン化合物を混合することにより得られる液状ポリエステル重縮合用触媒、に存する。
他の要旨は、(i)アルコール、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物をあらかじめ混合する工程、及び、(ii)工程(i)で得られた混合液にさらにチタン化
合物を混合する工程、を有することを特徴とする、チタン、アルカリ土類金属、およびリンを含有する液状ポリエステル重縮合用触媒の製造方法、に存する。
更に、別の要旨は、上記のポリエステル重縮合用触媒を用いる、ポリエステル樹脂の製造方法、に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、チタン化合物、アルカリ土類金属化合物及びリン化合物を用いたポリエステルの製造時における分割添加の問題がなく、本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒は長期保存による触媒成分の析出等の問題がなく長期保存安定性に優れると共に反応性に優れ、また色調などの品質の優れたポリエステル樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に限定されるものではない。
【0012】
<液状ポリエステル重縮合用触媒及びその製造>
本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒は、アルコール、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物をあらかじめ混合させて得られた混合液に、更にチタン化合物を混合させることにより得られるものである。
【0013】
(アルコール)
本発明において用いられるアルコールとしては、アルカリ土類金属化合物、酸性リン酸エステル化合物およびチタン化合物をそれぞれ常温で混合して均一・透明になるものであればよく、中でも1価のアルコール及び/又はジオールが好ましく用いられる。1価のアルコールとしては、例えば炭素数が1〜5程度のアルコールが好ましく、中でも炭素数が1〜3のアルコールが更に好ましく、特にエタノールが好ましい。また、ポリエステルはジカルボン酸とジオールを原料として製造されることから、ジオール、特にアルキレングリコールが好ましい。アルキレングリコールとしては例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等が挙げられる。アルキレングリコールとしては、ポリエステルの原料であるアルキレングリコールが好ましく、炭素数2〜4のアルキレングリコールは、ポリエステルの原料として使用されることが多いため特に好ましい。
【0014】
尚、後述のポリエステルの製造の際には、製造するポリエステルの原料となるアルキレングリコールを本発明の重縮合用触媒の製造に使用するのが好ましい。具体的には例えば、製造するポリエステルがポリエチレンテレフタレート類の場合はエチレングリコールが好ましく用いられる。
(アルカリ土類金属化合物)
アルカリ土類金属化合物としては、マグネシウム、カルシウム等の酸化物、水酸化物、炭酸塩などの無機化合物及び有機酸塩等が挙げられるが、マグネシウム化合物が触媒活性の点で好ましい。
【0015】
マグネシウム化合物としては、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウムなどの無機化合物、酢酸マグネシウム、ラク酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等の有機酸のマグネシウム塩、マグネシウムアルコキシドなどがある。なかでも、酢酸マグネシウムまたはその水和物が、溶解度が高く、液状触媒を調製しやすい点で好ましい。
【0016】
(酸性リン酸エステル化合物)
酸性リン酸エステル化合物としては、下記構造式を有するものが好ましい。
【0017】
【化1】

(上記式中、R、R'、R"は炭素数1以上6以下のアルキル基、シクロヘキシル基、またはアリール基を示す)
【0018】
これらの具体例としては、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェートなどが挙げられ、なかでもエチルアシッドホスフェート及び/またはブチルアシッドホスフェートが好ましい。又、酸性リン酸エステル化合物には、モノエステル体とジエステル体があるが、その混合物が特に好ましい。又、モノエステル体とジエステル体のR、R'及びR"は同一であるのが好ましい。モノエステル体とジエステル体の混合重量比は、80:20〜20:80の範囲が好ましく、更に好ましくは、30:70〜70:30、特に好ましくは、40:60〜60:40の範囲である。
【0019】
(チタン化合物)
チタン化合物としては、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネートテトラマー、テトラ−t−ブチルチタネート、アセチル−トリ−i−プロピルチタネートなどのテトラアルキルチタネート、酢酸チタン、蓚酸チタン、塩化チタン等が挙げられ、中でも、テト
ラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート等のテトラアルキルチタネート及び蓚酸チタンが触媒活性の点から好ましく、特にテトラアルキルチタネートが好ましい。テトラアルキルチタネートの中では、テトラ−n−ブチルチタネートが特に好ましい。
【0020】
(配合割合)
本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒は、チタン、アルカリ土類金属、及びリンを含むが、液状触媒中のチタンの含有量は、チタン原子として下限は通常0.01重量%であり、好ましくは0.02重量%である。上限は通常2.0重量%であり、1.5重量%が好ましい。下限未満であると触媒液中の活性成分が少なく大量の触媒液が必要となる。一方、上限濃度を越えるときは均一溶液を得にくい傾向となる。
また、本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒中の、チタンとアルカリ土類金属(M)とリンのモル比は下記式(1)、(2)の範囲であることが好ましい。
【0021】
0.1≦M/P≦3 (1)
0.1≦Ti/P≦5 (2)
Mg/P(モル比)の好ましい下限は0.2、特に好ましくは0.5であり、好ましい上限は2、特に好ましくは1.5である。又、Ti/P(モル比)の好ましい下限は0.2、特に好ましくは0.3であり、好ましい上限は3、特に好ましくは1.5である。
M/P(モル比)が3を超えると、後述の工程(ii)において混合されるチタン化合物とアルカリ土類金属化合物が反応して不溶性の化合物を生成し易い傾向となる。また、M/Pが0.1未満であると重縮合活性が低下する傾向となる。
Ti/P(モル比)が5を超えると、液状触媒中にチタンおよびリンから成る不溶性のゲル組成物が生成し易い。Ti/Pが0.1未満であると、触媒活性が低下する傾向となる。
M/P(モル比)及びTi/P(モル比)が上記範囲を満たすことにより、長期保存安定性及び反応性に優れた液状ポリエステル触媒を、より確実に得ることができる。
【0022】
(製造)
本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒は、(i)アルコール、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物をあらかじめ混合する工程、及び、(ii)工程(i)で得
られた混合液にさらにチタン化合物を混合する工程、により製造することができる。
【0023】
工程(i)では、具体的には、例えば、原料投入口、撹拌機などを付設した調製槽に、
アルキレングリコール等のアルコール、アルカリ土類金属化合物および酸性リン酸エステル化合物を、アルカリ土類金属およびリンのモル比が前記式(1)の範囲となる割合で投入し、撹拌混合する方法が挙げられる。又、アルコールの使用割合は、通常、前述の通り、本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒におけるチタンとリンのモル比が前記式(2)の範囲となる割合で、かつチタンの含有量がチタン原子として0.01重量%以上2重量%以下となる濃度となる割合を選択する。但し、アルコールを所定量以上使用し、後述の通り、液状触媒調製後これを蒸留することで、成分濃度をコントロールしてもよい。
上記原料の混合は穏和な条件で行われ、例えば常圧下10〜80℃、好ましくは20〜50℃で、5〜60分混合することにより、通常、均一透明な混合液になる。工程(ii)は、通常、工程(i)の混合液が透明になったのを目視で確認後、チタン化合物を投入し撹
拌する。工程(ii)は、工程(i)と同様な条件(温度、圧力、時間)を採用することができ、これにより均一透明な液状ポリエステル重縮合用触媒を得ることができる。
また、例えば工程(i)及び(ii)において1価のアルコールを用いて重縮合用触媒を調製した後、一度1価のアルコールを留去し、再度アルキレングリコールを加えて液状ポリエステル重縮合用触媒を得ることもできる。
【0024】
本発明の触媒の製造および重縮合用触媒の保管は大気雰囲気下、又は窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気下で行うことができる。尚、2、3ヶ月以上の長期保存の場合不活性ガス雰囲気下が好ましい。
又、後述の通り、本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒は、後述の量の水を含有するのが好ましいが、使用する原料に由来して必然的に水が混入する場合の他、原料に水を混合しても、各工程の混合液に水を混合してもよい。
【0025】
上記方法により、通常高温に加熱することなく、短時間で、チタン、アルカリ土類金属、リンを含む液状ポリエステル重縮合用触媒を製造することができるが、更に、必要に応じて液状ポリエステル触媒を減圧下で蒸留処理し不要な成分を除去しても良い。例えば過剰な水の除去や液状触媒中の各金属元素の濃度調整、酢酸マグネシウムを用いた時に副生する酢酸、テトラ−n−ブチルチタネートを用いた場合のn−ブタノールの除去等を
行うことができる。
【0026】
(液状ポリエステル重縮合用触媒)
かくして得られる本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒のpHは、通常3以上7以下、好ましくは4以上6.5以下、更に好ましくは5.5以上6以下である。pHが7を越えると金属が析出し易い傾向となり、pH3未満では、経時的に重縮合用触媒がゲル状態に変質する場合があり、また装置の腐食を招く場合がある。
又、発明の液状ポリエステル重縮合用触媒は、常温で均一透明溶液であるのが好ましい。本発明で透明とは目視で透明であると認識できる程度の透明性を有することをいい、光路長10mmでの濁度が5%以下であるのが好ましい。
【0027】
本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒は、少量の水を含んでいることが好ましい。液状ポリエステル重縮合用触媒全体に対する水分含量(重量濃度)は、10%以下が好ましく、更に好ましくは5%以下、特には1.5%以下が好ましい。また、0.01%以上が好ましく、更に好ましくは0.1%以上が、特には0.5%以上が好ましい。水分含量が上記上限を超えると、チタン化合物が水と反応することでゲル化して均一溶液が得にくい傾向となる。また0.01%未満であると、得られる液状ポリエステル重縮合用触媒を長期保存すると析出が起き白濁しやすい傾向となる。
水は、触媒原料に由来して含まれてもよく(例えば、アルカリ土類金属化合物として、水和物を使用)、触媒製造時に使用するアルキレングリコール中に適量添加してもよいし、触媒製造中、調製後に添加してもよい。従って、マグネシウム化合物の水和物を使用する場合等、触媒原料に由来して液状触媒中に水を含むこととなる場合には、水和物からの水分を考慮して、上記範囲に水濃度を調節するのが好ましい。
【0028】
本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒が長期間安定な均一触媒液となる理由については明確ではないが、酸性リン酸エステル化合物とアルカリ土類金属化合物をあらかじめ混合することによって両化合物が反応し、比較的安定な塩が生成し、次にチタン化合物を混合させることで、直接チタンとマグネシウムが反応することなく、かつチタン化合物とリン化合物が適度な相互作用を維持することで、チタン/アルカリ土類金属/リンの3元系複合錯体を形成し、これがアルコール溶媒中で安定となるためと推察される。
【0029】
<ポリエステル樹脂の製造方法>
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、上記の本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒を用いる以外は、基本的には、ポリエステル樹脂の慣用の製造方法を用いることが出来る。ポリエステル樹脂の慣用の製造方法の一例として、ポリエステル樹脂がポリエチレンテレフタレートである場合を例に述べる。
【0030】
テレフタル酸若しくはそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、エステル化反応槽で、エステル化反応させ、若しくは、エステル交換触媒の存在下にエステル交換反応させた後、得られたエステル化反応生成物若しくはエステル交換反応生成物であるポリエステル低分子量体を重縮合槽に移送し、重縮合用触媒の存在下に、溶融重縮合させ必要に応じて固相重縮合する方法が挙げられる。また、この製造方法は連続式でも、回分式でもよく、特に制限はされない。
【0031】
用いられる原料は、ジカルボン酸成分に占めるテレフタル酸若しくはそのエステル形成性誘導体の割合を、90モル%以上、さらには95モル%以上、特には99モル%以上とするのが好ましく、また、ジオール成分に占めるエチレングリコールの割合を、90モル%以上、さらには95モル%以上、特には97モル%以上とするのが好ましい。テレフタル酸若しくはそのエステル形成性誘導体のジカルボン酸成分に占める割合、及びエチレングリコールのジオール成分に占める割合が前記範囲未満では、得られるポリエステルの成形体としての機械的強度、ガスバリア性、及び耐熱性が低下する傾向がある。
【0032】
なお、テレフタル酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、炭素数1〜4程度のアルキル基を有するエステル、及びハロゲン化物等が挙げられる。また、テレフタル酸若しくはそのエステル形成性誘導体以外のジカルボン酸成分として、例えば、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、並びにこれらの炭素数1〜4程度のアルキル基を有するエステル、及びハロゲン化物、等の一種又は二種以上が共重合成分として用いられてもよい。
【0033】
また、エチレングリコール以外のジオール成分としては、例えばジエチレングリコールが挙げられ、そのジエチレングリコールのジオール成分に占める割合は、反応系内で副生する分も含め3モル%以下であるのが好ましく、1.5モル%以上、2.5モル%以下であるのが更に好ましい。また、その他のジオール成分として、例えば、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチロール等の脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物、等の一種又は二種以上が共重合成分として用いられてもよい。
【0034】
更に、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸、及び、ステアリルアルコール、ヘネイコサノール、オクタコサノール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t−ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、等の三官能以上の多官能成分、等の一種又は二種以上が共重合成分として用いられてもよい。
【0035】
本発明において、テレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体を主成分とする前記ジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とする前記ジオール成分、及び必要に応じて用いられる前記共重合成分とを、エステル化反応若しくはエステル交換反応させるにあたり、ジカルボン酸成分に対するジオール成分のモル比を、下限は通常1.02、好ましくは1.03、上限は通常2.0、好ましくは1.7の範囲で混合、調製するのが一般的である。
【0036】
なお、エステル交換反応の場合は、一般にエステル交換触媒を用いる必要があり、かつ、該触媒を多量に用いる必要があることから、本発明におけるポリエステルの製造方法としては、原料としてジカルボン酸を使用し、エステル化反応を経て製造する方法が好ましい。
【0037】
エステル化反応は、例えば、単一のエステル化反応槽、又は、複数のエステル化反応槽を直列に接続した多段反応装置を用いて、エチレングリコールの還流下、反応で生成する水と余剰のエチレングリコールを系外に除去しながら、エステル化率(原料ジカルボン酸成分の全カルボキシル基のうちジオール成分と反応してエステル化したものの割合)が、通常90%以上、好ましくは93%以上に達するまで行われる。また、得られるエステル化反応生成物としてのポリエステル低分子量体の数平均分子量は500〜5,000であるのが好ましい。
【0038】
エステル化反応における反応条件としては、単一のエステル化反応槽を用いる場合、通常200〜280℃程度の温度、大気圧に対する相対圧力を、通常0〜400kPa(0〜4kg/cm2 G)程度とし、攪拌下に1〜10時間程度の反応時間とする方法が一般的である。また、複数のエステル化反応槽を用いる場合は、第1段目のエステル化反応槽における反応温度の下限は通常240℃、好ましくは245℃、上限は通常270℃、好ましくは265℃、反応圧力は大気圧に対する相対圧力で下限が通常5kPa(0.05kg/cm2 G)、好ましくは10kPa(0.1kg/cm2 G)、上限は通常300kPa(3kg/cm2 G)、好ましくは200kPa(2kg/cm2 G)とし、最終段における反応温度を、下限を通常250℃、好ましくは255℃、上限を通常280℃、好ましくは275℃、反応圧力を大気圧に対する相対圧力で通常0〜150kPa(0〜1.5kg/cm2 G)、好ましくは0〜130kPa(0〜1.3kg/cm2 G)とする方法が通常用いられる。
【0039】
なお、エステル化反応において、例えば、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ベンジルジメチルアミン等の第三級アミン、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラ−n−ブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム等の水酸化第四級アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、酢酸ナトリウム等の塩基性化合物等を少量添加しておくことにより、エチレングリコールからのジエチレングリコールの副生を抑制することができる。
【0040】
溶融重縮合の例としては、単一の溶融重縮合槽、又は、複数の溶融重縮合槽を直列に接続し、例えば、第1段目が攪拌翼を備えた完全混合型の反応器、第2段及び第3段目が攪拌翼を備えた横型プラグフロー型の反応器からなる多段反応装置を用いて、減圧下に、生成するエチレングリコールを系外に留出させながら行う方法が挙げられる。
【0041】
溶融重縮合における反応条件の例としては、単一の重縮合槽を用いる場合、通常250〜290℃程度の温度、常圧から漸次減圧として、最終的に、絶対圧力を、通常1.3〜0.013kPa(10〜0.1Torr)程度とし、攪拌下に1〜20時間程度の反応時間とする方法が一般的である。また、複数の重縮合槽を用いる場合の例としては、第1段目の重縮合槽における反応温度を、下限は通常250℃、好ましくは260℃、上限は通常290℃、好ましくは280℃、反応圧力を絶対圧力で、上限を通常65kPa(
500Torr)、好ましくは26kPa(200Torr)、下限を通常1.3kPa(10Torr)、好ましくは2kPa(15Torr)とし、最終段における反応温度を、下限は通常265℃、好ましくは270℃、上限は通常300℃、好ましくは295℃、反応圧力を絶対圧力で、上限を通常1.3kPa(10Torr)、好ましくは0.65kPa(5Torr)、下限を通常0.013kPa(0.1Torr)、好ましくは0.065kPa(0.5Torr)とする方法が挙げられる。更に、中間段を用いる場合の反応条件としては、上記条件の中間の条件が選択され、例えば、3段反応装置における第2段の反応条件の一例として、反応温度を、下限は通常265℃、好ましくは270℃、上限は通常295℃、好ましくは285℃、反応圧力は絶対圧力で、上限は通常6.5kPa(50Torr)、好ましくは4kPa(30Torr)、下限は通常0.13kPa(1Torr)、好ましくは0.26kPa(2Torr)とする方法が挙げられる。
【0042】
なお、通常重縮合反応開始以前の段階でリン化合物を添加することが多いが、リン化合物をあらかじめ含んでいる本発明の触媒を使用する時には、特にリン化合物を添加しなくてもよい。
【0043】
本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒の反応系への添加は、前記ジカルボン酸成分とジオール成分の混合・調製段階、前記エステル化反応の任意の段階、又は、溶融重縮合の初期の段階のいずれであってもよい。しかし、色調、透明性に優れたポリエステルを高反応速度で製造するという本発明の効果を有効に発現するためには、本発明の液状ポリエステル重縮合用触媒の反応系への添加を、エステル化率が90%以上となった段階以降に行うのが好ましく、具体的工程の例としては、多段反応装置における最終段のエステル化反応槽、又は、エステル化槽から溶融重縮合工程への移送段階のエステル化反応生成物に添加するのが好ましく、中でも、エステル化槽から溶融重縮合工程への移送段階のエステル化反応生成物に添加するのがより好ましい。
【0044】
前記溶融重縮合により得られるポリエステルの固有粘度(〔η1 〕)は、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として30℃で測定した値として、下限は通常0.35dL/g、好ましくは0.50dL/g、上限は通常0.75dL/g、好ましくは0.65dL/gとなる。固有粘度(〔η1 〕)が前記範囲未満では、後述する重縮合槽からの抜き出し時に、操作性が悪化する場合があり、一方、前記範囲超過では、得られるポリエステル中のアセトアルデヒド含有量の低減が困難な場合がある。
【0045】
前記溶融重縮合により得られたポリエステルは、通常、重縮合槽の底部に設けられた抜き出し口からストランド状に抜き出して、水冷しながら若しくは水冷後、カッターで切断してペレット状、チップ状等の粒状体とするが、更に、必要に応じてこの溶融重縮合後の粒状体を、固相重縮合させることができる。固相重縮合の方法は従来公知の方法、例えば、特開平2004-292803号公報の段落[0057]から[0065]に記載され
ている方法等で行うことができる。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
尚、以下の実施例において、液状ポリエステル重縮合用触媒のpH及び水分量は、下記に従って測定した。
又、得られたポリエステルの固有粘度[η]、色調、末端カルボキシル基量、ジエチレングリコール単位の含有量、環状三量体(CT)含量、重縮合反応速度は、下記に従って測定した。
<pH測定>
東亜DKK社製自動滴定装置(AUT−501型)を用い、大気下で、pH電極を液状触媒に浸して測定した。
<水分量測定>
三菱化学(株)製水分測定装置CV−06を用いて、カール・フィッシャー反応の原理に基づいて測定を行なった。
【0047】
<固有粘度[η]>
ペレット状樹脂の場合は、ペレットを凍結粉砕した樹脂試料0.25gを、又、成形体の場合は、ペレットと同程度の大きさに切り出した後、凍結粉砕した樹脂試料0.25gを、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として、濃度(c)を1.0g/dLとして、溶融重縮合樹脂、及び成形体の場合は110℃で30分間、固相重縮合樹脂の場合は120℃で30分間保持することにより溶解させた後、ウベローデ型毛細粘度管を用いて、30℃で、原液との相対粘度(ηrel )を測定し、この相対粘度(ηrel )−1から求めた比粘度(ηsp)と濃度(c)との比(ηsp/c)を求め、同じく濃度(c)を0.5g/dL、0.2g/dL、0.1g/dLとしたときについてもそれぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度[η](dL/g)として求めた。
【0048】
<色調>
重縮合反応で得られたポリエステルチップを内径30mm、深さ12mmの円柱状の粉体測定用セルに充填し、測色色差計ZE−2000(日本電色工業(株))を使用して、JIS Z8730の参考例1に記載されるLab表示系におけるハンターの色差式の色差式の色座標によるカラーb値を、反射法により測定セルを90度ずつ回転させて4箇所測定した値の単純平均値として求めた。
【0049】
<末端カルボキシル基量>
ポリエステルチップを粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mLを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mLを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら攪拌下に、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。又、ブランクとして、ポリエステル樹脂試料抜きで同様の操作を実施し、以下の式(3)によって酸価を算出した。
【0050】
酸価=(モル/トン)=(A−B)× 0.1 × f/W (3)
[ここで、Aは、滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の
量(μL)、Bは、ブランクでの滴定に要した0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、Wは、ポリエステル樹脂の試料の量(g)、fは、0.1N
の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。]
なお、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は、試験管にメタノール5mLを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液を指示薬として1〜2滴加え、0.lNの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4mLで変色点まで滴定し、次いで力価既知の0.1Nの塩酸水溶液を標準液として0.2mL採取して加え、再度、0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定した。(以上の操作は、乾燥窒素ガス吹き込み下で行った。)以下の式(4)によって力価(f)を算出した。
【0051】
力価(f)=0.1Nの塩酸水溶液の力価×0.1Nの塩酸水溶液の採取量(μL)
/0.1Nの水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μL)
(4)
<ジエチレングリコール単位の含有量>
ポリエステルチップを重水素化トリフルオロ酢酸に常温で溶解して3重量%溶液とした。日本電子株式会社製JNM−EX270型核磁気共鳴装置を使用して、トリメチルシリルクロライド(TMS)を標準物質として1H−NMRを測定して各ピークの帰属を行な
った。帰属を行ったピークからジオール成分由来のピークを抽出し、その積分比からジオール成分中のジエチレングリコール量(モル%)を算出した。
【0052】
<環状三量体(CT)含量>
固相重縮合後のポリエステルチップを凍結粉砕した後、その樹脂試料200mgを精秤し、
クロロホルム/ヘキサフルオロイソプロパノール(容量比3/2)の混合溶液2mLに溶解させ、さらにクロロホルム20mLを加えて希釈した。これにメタノール10mLを加えて試料を析出させ、次いで濾過して濾液を得た。この濾液を蒸発乾固させた後、残渣をジメチルホルムアミド25mLに溶解した。この溶液中の環状三量体量(シクロトリエンテレフタレート)量を、島津製作所製LC−10A型液体クロマトグラフィーで定量し樹脂あたりの重量ppmで表した。
【0053】
環状三量体含量が多いと、この樹脂を成形するとき成形金型への環状三量体の付着により金型が汚れ、良好な成形品が得にくくなる。
【0054】
<重縮合反応速度>
溶融重縮合速度Kmは下記式(5)によって求められる。
【0055】
Km=ln(Mn‘/Mn)/時間(分)×102 ・・・・(5)
式(5)中、Mn'は溶融重縮合反応後のポリエステルの固有粘度[η](dL/g)より算
出されるポリエステルの数平均分子量であり、Mnは重縮合反応前のオリゴマーの固有粘度より算出されるオリゴマーの数平均分子量である。時間(分)は減圧開始後の重縮合反応時間である。
【0056】
同様に、固相重縮合速度Ksは下記式(6)によって求められる。
【0057】
Ks= ln(Mn''/Mn')/時間(分)×104 ・・・(6)
式(6)中、Mn''は固相重縮合反応後のポリエステルの固有粘度[η](dL/g)により算出されるポリエステルの数平均分子量である。
【0058】
なお、分子量Mn及びMn'は下記式(7)によって求める。
【0059】
分子量(MnまたはMn')=(固有粘度[η]/0.00021)(1/0.82)・・(7)
【0060】
(実施例1/液状ポリエステル重縮合用触媒の製造)
攪拌装置付き1Lガラス製ナス型フラスコ中にエチレングリコール500g、酢酸マグネシウム・4水和物 23.3g、エチルアシッドホスフェート 11.9g(商品名:JP−502、城北化学社製、モノエステル体とジエステル体の重量比0.82:1)を仕込み(M/P(モル比)=1.3)、常圧、室温(23℃)で混合・攪拌して、10分後に均一透明溶液を得た。次にテトラ−n−ブチルチタネート 12.5gを2分かけて添加し(Ti/P(モル比)=0.43、チタン含有量0.3重量%)、更に攪拌を行った。テトラ−n−ブチルチタネートを添加した直後は一旦白濁するが、5分後、均一透明なポリエステル重縮合用触媒溶液が得られた。得られた触媒溶液をサンプル瓶に移し、密栓した状態で冷蔵庫(5℃)、室温(23〜25℃)、保温庫(50〜60℃)で保存し、状態を観察した。3ヶ月に亘って、いずれの条件においても均一透明性が保持されていた。
尚、上記で得られた液状ポリエステル重縮合用触媒のpHは5.5、水分含有量は1.4重量%であった。
【0061】
(実施例2/液状ポリエステル重縮合触媒の製造)
エチルアシッドホスフェートの代わりにジブチルアシッドホスフェート(東京化成(株)社製)17.9gを使用した以外は、実施例1と同様な操作で触媒溶液を得た(M/P(モル比)=1.3、Ti/P(モル比)=0.43、チタン含有量0.3重量%)。
【0062】
得られた触媒溶液をサンプル瓶に移し、冷蔵庫(5℃)、室温(23〜25℃)、保温庫(50〜60℃)で保存し、状態を観察した。3ヶ月に亘って、いずれの条件においても均一透明性が保持されていた。
尚、上記で得られた液状ポリエステル重縮合用触媒のpHは5.5、水分含有量は1.4重量%であった。
【0063】
(実施例3/液状ポリエステル重縮合触媒の製造)
エチルアシッドホスフェートの使用量を4.8g(Mg/P(モル比)=3.2)とし
た以外は、実施例1と同様な方法で触媒溶液を得た(Ti/P(モル比)=1.1、チタン含有量0.3重量%)。得られた触媒溶液をサンプル瓶に移し、室温(23〜25℃)で一ヶ月放置したところ、若干の析出物が生成した。
尚、上記で得られた液状ポリエステル重縮合用触媒のpHは5.9、水分含有量は1.4重量%であった。
【0064】
(比較例1/触媒の製造)
チタン化合物、マグネシウム化合物及び酸性リン酸エステル化合物の混合順序を、特許文献3に記載の順序と同様にして触媒を製造した。
即ち、攪拌装置付き1Lガラス製ナス型フラスコ中にエチレングリコール500gを仕込み、その中で酢酸マグネシウム・4水和物 23.3gを懸濁させ、次にテトラ−n−ブチルチタネート 12.5gを添加し、室温(23℃)で混合・攪拌を行った。60分後、大量の白色スラリーが懸濁している状況が観察された。引き続き、エチルアシッドホスフェートを11.9g添加し(M/P(モル比)=1.3、Ti/P(モル比)=0.43、チタン含有量0.3重量%)、更に一昼夜攪拌を継続したが、スラリーが溶解することは無かった。数日後、スラリーは白色析出物と透明な溶媒とに完全に分離していた。析出物を濾別、減圧乾燥して、硫酸及び過酸化水素で湿式分解を行った後にICP−AES装置(JOBIN YVON社製 JY−138U型)でICP金属分析を行ったところ、主としてチタン、マグネシウムを含むものであった。
【0065】
(比較例2/触媒の製造)
攪拌装置付き1Lガラス製ナス型フラスコ中にエチレングリコール500gを仕込み、
その中で酢酸マグネシウム・4水和物 23.3g、上記エチルアシッドホスフェート 11.9g、テトラ−n−ブチルチタネート 12.5gをほぼ同時に添加した後(M/P(モル比)=1.3、Ti/P(モル比)=0.43、チタン含有量0.3重量%)、室温(23℃)で混合・攪拌を行った。60分後、白濁し、数日後には析出物が多量に観察された。比較例1と同様に、析出物のICP金属分析を行った結果、主としてチタン、マグネシウムを含むものであった。
【0066】
(比較例3/触媒の製造)
攪拌装置付き1Lガラス製ナス型フラスコ中にエチレングリコール500gを仕込み、上記エチルアシッドホスフェート 11.9gを添加し、その均一溶液にテトラ−n−ブチルチタネート 12.5gを添加した後、更に室温(23℃)で混合・攪拌を行った。60分後、大量に白色析出物が観察された。次に酢酸マグネシウム・4水和物 23.3gを添加しても均一溶液は得られなかった(M/P(モル比)=1.3、Ti/P(モル比)=0.43、チタン含有量0.3重量%)。比較例1と同様に、析出物のICP金属分析を行った結果、主としてチタン、リンを含むものであった。また、生成した析出物は30日後には黄変していた。
【0067】
(比較例4/触媒の製造)
攪拌装置付き1Lガラス製ナス型フラスコ中にエチレングリコール500g、酢酸マグネシウム・4水和物 23.3gを仕込み混合撹拌し30分後均一透明液を得た。次いでその中に、上記エチルアシッドホスフェート 11.9g、およびテトラ−n−ブチルチタネート 12.5gを同時に添加した後(M/P(モル比)=1.3、Ti/P(モル比)=0.43、チタン含有量0.3重量%)。更に室温(23℃)で混合・攪拌を行った。60分後、白濁が観察された。次にこの触媒液をオイルバス温度100℃で5時間加熱・還流を行ったが白濁が消失する様子はまったく見られなかった。1日放置後、白色沈殿が確認され、この沈殿物を比較例1と同様にICP金属分析の結果、チタン、マグネシウム、リンを含むものであった。
【0068】
(比較例5/触媒の製造)
攪拌装置付き2L容量の三つ口フラスコにエチレングリコール919gと無水トリメリ
ット酸80gを入れて混合攪拌した中に、テトラ-n-ブチルチタネート71gを5分間か
けて添加し、透明なチタン化合物を含むエチレングリコール溶液を得た(これを溶液Aとする)。
【0069】
別の攪拌装置付き2L容量の三つ口フラスコに、エチレングリコール400gと酢酸マグネシウム・4水和物28.3gを添加し、撹拌しつつオイルバス中で100℃まで加熱し均一溶液とした(これを溶液Bとする)。
【0070】
又別の攪拌装置付き2L容量の三つ口フラスコにエチレングリコール272gを入れて、攪拌しながら160℃まで加熱した。160℃に達した時点で、トリメチルホスフェートを18.2g添加し、加熱混合攪拌して溶解し、透明な溶液を得た(これを溶液Cとする)。
【0071】
攪拌下で100℃に加熱コントロールした上記の溶液B中に、先に準備した溶液Aのうち310gを5分かけて添加し、100℃の温度で1時間攪拌保持し、チタン化合物とマグネシウム化合物との混合溶液を作成した。更にこの中に上記の溶液C全量を添加した後、100℃の温度で1時間攪拌保持した。
【0072】
このように調製した触媒溶液(M/P(モル比)=1.0、Ti/P(モル比)=0.5、チタン含有量0.3重量%)を室温まで冷却し、保存性について評価したところ、冷却
後数時間は透明であったものが、一日後には明らかに白濁が見られ、1週間後には析出物が多量に観察された。
実施例1〜3、比較例1〜5の触媒製造方法の概要と、得られた触媒の結果を表1に纏めた。
【0073】
【表1】

【0074】
(実施例4/ポリエステルの製造)
実施例1で得られたチタン、マグネシウム、リンを含む均一な液状ポリエステル重縮
合用触媒を用いて重縮合反応を行った。
【0075】
(原料オリゴマーの製造)
テレフタル酸ジメチル2012kg(10.4×103モル)とエチレングリコール1
286kg(20.7×103)とをエステル化反応槽に供給して溶解後、エチレングリ
コールに溶解させた酢酸カルシウムを、カルシウム原子として0.20kg(エステル交換反応により得られる生成物に対して100ppm)となるように添加し、220℃に保持しつつ、生成するメタノールを留出させながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応が終了した後、このエステル化反応槽に、テレフタル酸1721kg(10.4×103)とエチレングリコール772kg(12.4×103モル)とをスラリー調製槽で攪拌・混合して得られたスラリーを3時間かけて連続的に供給し、常圧下、約250℃でエステル化反応を行い、移送開始から約4時間後に、反応液の約50%を重縮合反応槽に抜き出した。
【0076】
このエステル化反応槽に、前記と同様にして得られたテレフタル酸とエチレングリコールからなるスラリーを供給してエステル化反応を行い、反応液の約50%を重縮合反応槽に抜き出す工程を、計10回繰り返し、エステル化反応液中の酢酸カルシウムの濃度を0.5ppm以下とした。
【0077】
このようにして、実質的にエステル交換反応触媒成分を含有しないテレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化生成物(オリゴマー)を製造した。このエステル化生成物を、エステル化反応槽から重縮合反応槽に移送する途中で抜き出し、大気下で冷却・固化させることで、以下の実施例で使用する原料オリゴマーを得た。この原料オリゴマーのエステル化反応率は96%であった。
【0078】
この原料オリゴマーの製造に用いられたエチレングリコールのテレフタル酸に対するモル比は、最終的に1.2となり、得られた原料オリゴマーの数平均分子量(Mn)は2280であった。
【0079】
(重縮合反応)
前記原料オリゴマー104gをトルクメータ付属攪拌装置付き重縮合反応器に移して、系内を窒素で置換した後、オイルバス(260℃一定)中でオリゴマーの溶解を行った。以下、オリゴマー溶解開始時間を0時間として時間を表記する。
【0080】
60分後にオリゴマーが完全に溶解していることを確認後、50rpmで攪拌を開始、上
記実施例1にて調製した液状ポリエステル重縮合反応用触媒をエチレングリコールにて26倍に希釈したものを、70分後に3mL添加した。得られるポリエステル樹脂に対するチタン、マグネシウム、リンの含有量は、それぞれ4、6、6重量ppmとなる。80分後
に減圧を開始し、140分後に2.7×10-4MPaまで減圧した。減圧操作は圧力の対数値が時間に逆比例するように行った。重縮合温度は、80分から160分の間に260℃から280℃まで一定速度で昇温し、到達固有粘度が0.50〜0.60(dL/g)の範囲に入るように、溶融重縮合反応を行った。なお、重縮合開始時間は減圧開始時間とした。
【0081】
溶融重縮合終了後(溶融重縮合時間163分)、攪拌を停止し、窒素にて常圧に戻し、重縮合反応器をオイルバスから取り出した。重縮合反応器をオイルバスから取り出した後、速やかに該反応器の抜き出し口を空け、窒素で系内を微加圧にすることでポリエステルを抜き出し、水冷・固化させてストランド状のポリエステルを得た。得られたポリエステルは約0.02(g/粒)のチップ状に裁断した。得られたポリエステル樹脂の
固有粘度は0.520dL/gであり、カラーb値は7.0であった。
【0082】
得られたチップ状ポリエステル樹脂2gをアルミ箔製カップ(底部直径4.5cm、上部直径:7.0cm、深さ:5.0cm)にチップ同士が重ならないように並べ、内温60℃に設定されたイナートオーブン(ヤマト科学社製、I/O DN4101)中の中央部に設置した。30L/hの窒素流通下で、60℃から160℃まで30分で昇温させ、160℃で2時間乾燥、結晶化を行った。その後、30分かけて210℃まで昇温し、210℃で10時間固相重縮合を行った。固相重縮合終了後、30分かけて60℃まで降温した後、チップを回収した。
【0083】
(比較例6/ポリエステルの製造)
実施例4において、液状重縮合用触媒の代わりに、比較例1で得られた主としてチタン、マグネシウムを含む白色析出物とエチルアシッドホスフェートを含むエチレングリコールスラリーを使用した以外は実施例4と同様に重縮合反応を行った。溶融重縮合時間340分で固有粘度0.558dL/g、カラーb値は8.6のポリエステル樹脂を得た。
【0084】
実施例4と同様な操作で固相重縮合を10時間実施した。
表2に実施例4及び比較例6の重合結果をまとめた。
【0085】
【表2】

【0086】
表2の結果より明らかなように、本発明の方法で得られたチタン、マグネシウム、リンを含む均一な液状ポリエステル重縮合用触媒は優れた重縮合活性を有し、これを用いて溶融重縮合により得られたポリエステルは、特に、色調が良好で、又、固相重縮合により得られたポリエステルは環状三量体の割合が少ない等、品質に優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物をあらかじめ混合して得られた混合液に、更にチタン化合物を混合することにより得られる液状ポリエステル重縮合用触媒。
【請求項2】
アルコールがアルキレングリコールである請求項1に記載のポリエステル重縮合用触媒。
【請求項3】
チタン含有量がチタン原子として0.01〜2重量%の範囲であり、かつアルカリ土類金属(M)とリンのモル比及びチタンとリンのモル比が、各々下記式(1)及び(2)を満足する請求項1または2に記載のポリエステル重縮合用触媒。
0.1≦M/P≦3 (1)
0.1≦Ti/P≦5 (2)
(ただし、Ti、Mg、及びPは、各々チタン、アルカリ土類金属、及びリンのポリエステル重縮合用触媒中での含有量(モル基準)を示す)
【請求項4】
水を0.01〜10重量%含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリエステル重縮合用触媒。
【請求項5】
アルカリ土類金属化合物が、マグネシウム化合物である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のポリエステル重縮合用触媒。
【請求項6】
マグネシウム化合物が有機酸のマグネシウム塩またはその水和物である請求項5に記載のポリエステル重縮合用触媒。
【請求項7】
チタン化合物がテトラアルキルチタネートである請求項1乃至6のいずれか1項に記載のポリエステル重縮合用触媒。
【請求項8】
(i)アルコール、アルカリ土類金属化合物、及び酸性リン酸エステル化合物をあらかじめ混合する工程、及び
(ii)工程(i)で得られた混合溶液にさらにチタン化合物を混合する工程、
を有することを特徴とする、チタン、アルカリ土類金属、およびリンを含有する液状ポリエステル重縮合用触媒の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリエステル重縮合用触媒を用いる、ポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2006−199870(P2006−199870A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14379(P2005−14379)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】