説明

ポリエチレンテレフタレートの製造方法

【課題】低分子量のPETプレポリマー粒子を熱処理して、粒子の融着を生ずることなく、大きな重縮合反応速度で固相重縮合し、高分子量のPETを効率良く製造する。
【解決方法】PETプレポリマーを、固体状態で熱処理するPETの製造方法。該固体状態での熱処理が、結晶化工程及び第1段固相重縮合工程をこの順で含み、かつ、各工程が下記1)及び2)を満足する。
1)結晶化工程の処理温度Txが110℃以上210℃以下、該処理の時間θxが3分以上30分以下。
2)第1段固相重縮合工程は、結晶化工程での処理温度Tx以下の温度から昇温を開始して第1段固相重縮合工程の反応温度T1まで昇温する過程を含み、温度Tx(℃)から温度T1(℃)までを30分以内で昇温し、かつ温度T1での反応時間θ1が、Tx+20≦T1,180℃≦T1≦230℃,θx<θ1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低分子量のポリエチレンテレフタレートを固体状態で熱処理することにより高分子量のポリエチレンテレフタレートを製造する方法に関する。詳しくは、低分子量のポリエチレンテレフタレートプレポリマーを特定条件で段階的に熱処理して固相重縮合反応を行う際に、加熱処理時におけるペレットの融着を抑制して、高分子量のポリエチレンテレフタレートを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略すことがある)は、機械的強度、化学的安定性等その優れた特性により数多くの材料及び製品、例えば繊維、生地、成形用樹脂及び飲料用ボトルなどで幅広く用いられている。そして、PETは、その用途に応じて必要とされる分子量(固有粘度)が異なり、例えば、ボトル用では通常0.70〜0.95dL/gであり、タイヤコード用では通常0.95〜1.20dL/gであるとされている。
【0003】
そのため上記用途に必要な成形加工性、機械的特性を引き出すためには、分子量(固有粘度)を所定のレベルにまで上げる必要があり、その方法としてポリエチレンテレフタレートの原料を溶融重縮合して得られるPETプレポリマーを引き続き固相重縮合し、高分子化する方法が工業的に広く用いられている。固相重縮合は、通常溶融重縮合によって得られたPETプレポリマーを不活性ガス雰囲気下又は減圧下で熱処理することにより行われるが、所望の分子量に達するのに比較的長時間を要するために、より生産性に優れた製造方法が望まれている。かかる方法として、溶融重縮合で比較的低重合度のPETプレポリマーを得、このプレポリマーを高温で固相重縮合する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、高温の固相重縮合時にはPETプレポリマーペレット同士の融着という問題が発生しやすい。
しかるに、従来においては、この融着に関する検討は十分になされていないのが現状である。
【0005】
例えば、特許文献1には、固相重縮合工程において連続した2段以上の移動床を用いる熱処理工程が開示されている。この特許文献1で開示された技術は、固有粘度が概ね0.5〜0.65dL/gである中程度の分子量のPETプレポリマー粒子を固相重縮合するにあたり、粒子同士が融着しないように段階的に昇温するものであるが、重縮合反応速度は必ずしも改良されるものではない。また、この中程度の分子量のプレポリマーを得るための溶融重縮合設備は、低分子量のプレポリマーを得る設備より高価になるので、総合的な観点から必ずしも満足できる方法ではなかった。
【特許文献1】米国特許5408035号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記技術背景に鑑み、比較的低分子量のポリエチレンテレフタレートプレポリマー粒子を熱処理して、粒子の融着を生ずることなく、大きな重縮合反応速度で固相重縮合し、より高分子量のポリエチレンテレフタレートを効率良く製造しうる工業的に有用な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題に鑑み、固体状態で熱処理する条件を詳細に検討し、「結晶化工程」、「第1段固相重縮合工程」をこの順で含み、結晶化工程と第1段固相重縮合工程の温度条件、時間条件を特定の範囲にすることにより、第1段固相重縮合工程以降の耐融着性が向上し、常法よりも安定的に高分子量のポリエチレンテレフタレートを製造できることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0008】
ポリエチレンテレフタレートプレポリマーを、固体状態で熱処理するポリエチレンテレフタレートの製造方法であって、
該固体状態での熱処理が、結晶化工程及び第1段固相重縮合工程をこの順で含み、かつ、各工程が下記1)及び2)を満足することを特徴とするポリエチレンテレフタレートの製造方法。
1)結晶化工程でポリエチレンテレフタレートプレポリマーを処理するに際し、該処理の温度Txが110℃以上210℃以下、該処理の時間θxが3分以上30分以下である。
2)第1段固相重縮合工程が、結晶化工程を経たポリエチレンテレフタレートプレポリマーを不活性ガス雰囲気下又は減圧下で、結晶化工程での処理の温度Tx以下の温度から昇温を開始して第1段固相重縮合工程の反応温度T1まで昇温する過程を含み、温度Tx(℃)から温度T1(℃)までを30分以内で昇温し、かつ温度T1での反応時間θ1が下記(式1)〜(式3)を満たす工程である。
Tx+20≦T1 (式1)
180℃≦T1≦230℃ (式2)
θx < θ1 (式3)
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶融重縮合によって得られた低分子量のPETプレポリマー粒子を融着させることなく、大きな重縮合反応速度で固相重縮合を行って高分子量のPETを効率的に製造することができる。
即ち、本発明のPETの製造方法は、溶融重縮合によって得られたPETプレポリマー粒子を固体状態で熱処理することにより、各種の用途に適した所望の高分子量のPETを効率よく製造する方法であり、その際、所定条件下で結晶化及び固相重縮合を行うことを要件とするものである。この所定条件に制御された結晶化及び固相重縮合を行うことにより、従来法におけるような条件、即ち、結晶化を30分以上で行う場合よりも、高分子量領域において高い耐融着性が得られるため、重縮合反応速度を維持した上で固相重縮合時の融着トラブル回避等の生産性向上や省エネルギー化が可能となる。
【0010】
本発明の方法により得られるPETは、分子量が高く、飲料用ボトルや工業用繊維など幅広い用途に用いることができる。また、低分子量のPETプレポリマーを固相重縮合の原料として利用できるので、この低分子量PETプレポリマーを製造するための溶融重縮合工程における設備負荷も低減することができ、経済的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に本発明のPETの製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0012】
本発明における熱処理は、主として結晶化工程と第1段固相重縮合工程とよりなるが、結晶化工程に先立つ表面処理工程を有していても良く、また、乾燥工程等の、通常、常温を超える温度条件下で固体状のPETプレポリマーを処理する工程などが含まれていてもよい。
なお、本発明では、PETの分子量の指標として固有粘度を用いる。
【0013】
<PETプレポリマー>
本発明に用いるPETプレポリマーを得る方法は特に限定されず、例えばPETの慣用の製造方法により製造することができる。具体的には、通常、テレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするジカルボン酸成分とエチレングリコールを主成分とするジオール成分とを、要すればエステル化又はエステル交換触媒の存在下エステル化反応及び/又はエステル交換反応を行い、次いで重縮合触媒を使用して溶融重縮合させることにより製造される。詳しくは、例えば、原料のジカルボン酸成分とジオール成分とを、スラリー調製槽に投入して攪拌・混合して原料スラリーとし、エステル化反応槽で常圧〜加圧下、加熱下で、反応によって生ずる水などを留去しつつエステル化反応させた後、得られたエステル化反応物としてのPET低分子量体(オリゴマー)を重縮合槽に移送し、減圧下、加熱下で、重縮合触媒を使用して溶融重縮合させてPETプレポリマーを得る方法が挙げられる。
【0014】
本発明においてテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体を主成分とするとは、PETを製造するのに使用する全ジカルボン酸成分に対して90モル%以上、好ましくは95モル%以上がテレフタル酸及び/又はそのエステル形成性誘導体であることをいい、またエチレングリコールを主成分とするとはPETを製造するのに使用する全ジオール成分に対してエチレングリコールが90モル%以上、好ましくは95モル%以上であることをいう。
【0015】
ここで、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分の例としては、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸等とこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0016】
また、エチレングリコール以外のジオール成分の例としてはジエチレングリコールの他、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等の脂肪族ジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジメチロール、2,5−ノルボルナンジメチ
ロール等の脂環式ジオール、及びキシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸等の芳香族ジオール、並びに、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキサイド付加物又はプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0017】
本発明において使用することができるエステル化又はエステル交換触媒、及び重縮合反応触媒としては特に制限されず、例えば公知の触媒から適宜選択して添加使用することができる。触媒の例としては、二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド等のゲルマニウム化合物、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、メトキシアンチモン等のアンチモン化合物、テトラ−n−プロピルチタネート、テトラ−i−プロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、蓚酸チタン、蓚酸チタンカリウム等のチタン化合物等が挙げられ、これらは単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。なかでもチタン化合物は重縮合反応活性が高いため好ましく用いられる。
触媒の使用量は、得られるPETプレポリマーに対して用いる触媒の金属原子換算で通常1〜400質量ppmである。なお、チタン化合物はエステル化及び/又はエステル交換触媒としても作用するので、これらの反応に使用する場合はその使用量を考慮してこの範囲となるように用いるのが好ましい。
【0018】
また上記反応の際、正リン酸、正リン酸アルキルエステル、エチルアシッドホスフェート、トリエチレングリコールアシッドホスフェート、亜リン酸、亜リン酸アルキルエステル等のリン化合物を安定剤として用いることができる。その使用量は、得られるPETプレポリマーに対してリン原子換算で1〜1000質量ppmとなる量とするのが好ましく、2〜200質量ppmとなる量とするのが特に好ましい。
【0019】
更に、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキシド、炭酸マグネシウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属の化合物を前記触媒と共に使用することもできる。
【0020】
本発明に用いるPETプレポリマーのより具体的な製造方法の代表例としては、以下の方法が挙げられる。
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸及び/又はそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールを主成分とするジオールとを、通常、ジカルボン酸成分:グリコール成分を1:1〜1:2(モル比)で用い、エステル化反応槽で要すればエステル化触媒の存在下、通常240〜280℃程度の温度、通常常圧乃至大気圧に対する相対圧力で0.4MPa程度の加圧下で、1〜10時間程度エステル化反応させるか、或いはエステル交換触媒の存在下エステル交換反応を行い、得られた生成物(PET低分子量体)を、重縮合反応槽に移送し、次いで溶融重縮合する。溶融重縮合は、重縮合触媒を使用して通常、250〜290℃程度の温度、常圧から漸次減圧として最終的に通常絶対圧力で10〜0.1kPa程度の減圧下で、撹拌下、固有粘度が後述の如く、0.18dL/g〜0.40dL/gとなるまで溶融重縮合させる。
【0021】
なお、ジカルボン酸成分がジカルボン酸のエステル形成性誘導体、例えばテレフタル酸ジメチルなど適度な融点のものである場合、ジオールとのスラリーとせずに溶融してからジオールとのエステル交換反応に供することもできる。また、上記の反応は連続式、回分式、半回分式の何れか1以上の方法で行うことができ、また、エステル化反応槽(又はエステル交換反応槽)、溶融重縮合反応槽は、それぞれ一段としても多段としてもよい。
【0022】
溶融重縮合反応で得られたPETプレポリマーは、溶融重縮合反応槽に配管及び/又はギヤポンプ及び/又はフィルターを介して接続されたダイヘッドに供給され、ダイの先端に設けられた複数のダイホールから、ストランド状又は滴状に吐出される。ストランド状に吐出されたPETプレポリマーは、例えばストランドカッターなどで切断されペレット状に粒子化される。
【0023】
本発明に用いる溶融重縮合反応で得られたPETプレポリマー粒子は、好ましくは、平均質量が0.1mg/粒以上30mg/粒以下であり、下限値は0.5mg/粒が更に好ましく、特に好ましくは0.8mg/粒であり、一方、上限値は10mg/粒が更に好ましく、より好ましくは5mg/粒、特に好ましくは3mg/粒である。本発明に用いるPETプレポリマー粒子の平均質量が上記下限値以上である場合、その後の工程や気力輸送の際に付着や閉塞等のトラブルが起こりにくく、また、上記上限値以下である場合、所望の分子量に達するのに必要な固相重縮合反応時間を短くできるので、それぞれ一層好ましい。なお、本明細書でいうPETプレポリマーの平均質量とは、精密天秤を用いて、PETプレポリマー粒子30粒の合計質量を0.1mgの桁まで測定し、測定値を30で除することによって算出される値のことをいう。
【0024】
本発明に用いられるPETプレポリマーの固有粘度は、好ましくは0.18dL/g以上0.40dL/g以下である。固有粘度の下限値は更に好ましくは0.20dL/gであり、上限値は更に好ましくは0.38dL/g、特に好ましくは0.35dL/gである。該プレポリマーの固有粘度が上記下限値未満の場合、粒子化する時に微粉が発生しやすく、また、所望の高分子量に到達するのに必要な固相重縮合反応時間が長くなる傾向がある。他方、上記上限値を超えると、本発明の特徴である、高分子量のPETを得るのに必要な反応時間を短縮する効果が得にくく、加えて溶融重縮合工程において高粘度液体を撹拌する設備や、高真空反応を行う設備等の高価な設備が必要となる場合があり、製造プロセス全体としては本発明の効果が低減される傾向にある。
【0025】
本発明に用いるPETプレポリマーの末端カルボキシル基濃度は100当量/トン以下であることが好ましい。末端カルボキシル基濃度は、より好ましくは70当量/トン以下、更に好ましくは40当量/トン以下、特に好ましくは30当量/トン以下である。PETプレポリマーの末端カルボキシル基濃度が100当量/トンを超えると、その後工程である固相重縮合工程において重縮合反応速度が小さくなる傾向がある。
【0026】
<熱処理>
上記のようにして得られたPETプレポリマーの粒子は、本発明の方法により、固体状態で熱処理され所定の固有粘度まで固相重縮合される。本発明の熱処理は、主として結晶化工程及び第1段固相重縮合工程を包含する。これらの工程は回分法でも行うことができるが連続法で行うことが生産効率の点で好ましい。
本発明の方法で得られるPETの固有粘度は通常0.70dL/g以上である。0.70dL/g未満のPETを製造する場合には、従来法の溶融重縮合法のみで目標とする固有粘度のPETを得ることができ、本発明を適用する必要性がない。
【0027】
本発明の熱処理は、下記の少なくとも結晶化工程と第1段固相重縮合工程をこの順に含む。
1)結晶化工程でポリエチレンテレフタレートプレポリマーを処理するに際し、該処理の温度Txが110℃以上210℃以下、該処理の時間θxが3分以上30分以下である。
2)第1段固相重縮合工程が、結晶化工程を経たポリエチレンテレフタレートプレポリマーを不活性ガス雰囲気下又は減圧下で、結晶化工程での処理の温度Tx以下の温度から昇温を開始して第1段固相重縮合工程の反応温度T1まで昇温する過程を含み、温度Tx(℃)から温度T1(℃)までを30分以内で昇温し、かつ温度T1での反応時間θ1が下記(式1)〜(式3)を満たす工程である。
Tx+20≦T1 (式1)
180℃≦T1≦230℃ (式2)
θx < θ1 (式3)
【0028】
結晶化工程は気体雰囲気下又は減圧下で、好ましくは、不活性ガス雰囲気下又は減圧下で行われるが、ここで「不活性ガス」とは、酸素濃度が0.1体積%以下、好ましくは0.05体積%以下であり、かつ、実質的にポリエチレンテレフタレート(PET)と反応しない気体のことである。実質的にポリエチレンテレフタレートと反応しない気体として、具体的には、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、二酸化炭素等が例示でき、主に経済性の点から窒素が好ましく用いられる。また、「減圧下」とは、絶対圧力2kPa以下の圧力の状態にあることをいう。
【0029】
第1段固相重縮合工程は不活性ガス雰囲気下又は減圧下で行われるが、ここで「不活性ガス」とは、酸素濃度が0.1体積%以下、好ましくは0.05体積%以下であり、かつ、実質的にポリエチレンテレフタレート(PET)と反応しない気体のことである。実質的にポリエチレンテレフタレートと反応しない気体として、具体的には、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン、二酸化炭素等が例示でき、主に経済性の点から窒素が好ましく用いられる。また、「減圧下」とは、絶対圧力2kPa以下の圧力の状態にあることをいう。
【0030】
結晶化工程の温度Txは110℃以上210℃以下であり、下限値は好ましくは120℃、更に好ましくは125℃である。Txの上限値は好ましくは205℃である。Txが120℃未満であると、続く第1段固相重縮合工程での耐融着性が低下し、好ましくない。Txが210℃超過であると結晶化工程でPET粒子同士の融着が起き易いなど不都合である。
【0031】
結晶化工程の時間θxは3分以上30分以下であり、下限値は好ましくは4分である。θxの上限値は好ましくは25分である。θxが3分未満であると、第1段固相重縮合工程での耐融着性が低下し、好ましくない。θxが30分超過であると、第1段固相重縮合工程以降の耐融着性が低下するなど不都合である。
【0032】
また、本発明の結晶化工程後の第1段固相重縮合工程での反応温度は結晶化工程の温度Txに対して、Tx+20℃≦T1(式1)を満たすことが必要であり、第1段固相重縮合工程の昇温過程では、TxからT1へ少なくとも20℃の温度を30分以内に昇温する必要がある。
上述の如く、結晶化工程の温度Txは110℃以上210℃以下であるが、通常、第1段固相重縮合工程の反応温度T1が180℃以上を満たさなければ満足な固相重縮合反応速度が得られないため、結果としてT1は下記(式2)を満足することとなる。
180℃≦T1≦230℃ (式2)
こうすることにより昇温過程後の耐融着性が向上するという本発明の効果が得られる。
【0033】
このような熱処理工程により、本発明の効果が得られる理由は明らかではないが、以下のように推定される。
即ち、結晶化工程において、低温度で熱処理した場合と高温度で熱処理した場合では結晶構造に何らかの違いがあり、高温で熱処理して得られる結晶構造は耐熱性に優れると推定される。低温度で長時間熱処理を行った場合や昇温幅が20℃未満の場合、昇温に要する時間が30分超過の場合は、低温で形成された耐熱性に劣る結晶構造の影響が後工程に影響し、耐融着性が低下する場合がある。これに対して、本発明によれば、結晶化工程において、比較的短時間で熱処理し、その後、20℃以上の昇温幅を30分以内に昇温することにより、結晶化工程で形成された結晶よりも耐熱性に優れる結晶構造が、より高い温度の第1段固相重縮合工程において形成されるので、耐融着性が向上すると推定される。
【0034】
なお、第1段固相重縮合工程において、反応温度T1での反応時間θ1は結晶化工程の処理時間θxより長いものとするので、結果として下記(式3)を満足することとなる。
θx<θ1 (式3)
この反応時間θ1がθxより短いと温度T1で耐熱性に優れる結晶構造が十分に形成されず、耐融着性が向上しないため好ましくない。
【0035】
結晶化工程の処理時間θx、反応温度T1での反応時間θ1は共に下記(式7)で求められる平均滞留時間を示している。
H/L (式7)
(L:各工程での処理量(kg/hr)、H:各工程でのホールド量(kg))
ここでH:各工程でのホールド量とは、それぞれの装置の特性に応じて、PETプレポリマーの流量(処理量)や装置の内容積から求められる値である。
結晶化工程には流動床が使用されることが好ましいが、特に、その流動床でのθxが、下記(式8)を満たす流動床がより好ましい。
D/θx≦0.2 (式8)
(D:滞留時間分布の最頻値に対して頻度が半分になる点における滞留時間分布の幅)
第1段固相重縮合工程には移動床が使用されることが好ましいが、特に、その移動床でのθ1が下記(式9)を満たす移動床がより好ましい。
D/θ1≦0.1 (式9)
(D:滞留時間分布の最頻値に対して頻度が半分になる点における滞留時間分布の幅)
この反応時間θ1は、その反応温度T1にもよるが、通常12分以上360分以下であり、下限値は好ましくは18分である。上限値は好ましくは300分、更に好ましくは240分である。第1段固相重縮合工程の反応時間θ1が12分以上であると、第1段固相重縮合工程で耐融着性が向上し、第1段固相重縮合工程後の昇温工程や第2段固相重縮合工程での融着が軽減される。また、第1段固相重縮合工程の反応時間θ1が240分以下であると第2段固相重縮合工程における後半の固相重縮合反応速度の低下が軽微であり、それぞれ効率的であり、一層好ましい。
【0036】
本発明の上記結晶化工程及び第1段固相重縮合工程は、連続法が好ましく、生産効率や反応制御、操作性等の点から連続式流動床、移動床が特に好ましく用いられるが、特に結晶化工程は通常、非晶状態のPETプレポリマーを使用するので、装置内において融着しやすいことから流動床で行うことが好ましい。
【0037】
本発明においては、熱処理の結晶化工程に先立って、実質的に非晶状態のPETプレポリマーを表面処理する工程を設けることが好ましい。PETプレポリマーが表面処理されることでその後の結晶化工程でPETプレポリマー粒子同士が融着するのを軽減することができる。
【0038】
表面処理の方法としては、機械的衝撃をPETプレポリマー粒子の表面に与えたり剪断処理を行うことにより、その表面に凹凸を作る、又は配向履歴を残す方法;常温もしくは熱した液体、例えば、水や芳香族炭化水素系、エステル系、ケトン系、アルコール系等の液体、具体的には、ベンゼン、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等或いはこれらの混合液、に浸漬する方法;又はこれらの蒸気をPETプレポリマー粒子に接触させ熱処理する方法等、公知の方法も含めた種々の方法を例示することができる。
【0039】
本発明に使用する表面処理方法としては、生産効率や安全面等からPETプレポリマー粒子を熱した水に浸漬する方法(熱水処理)がより好ましい。
この熱水処理工程はPETプレポリマーを該PETプレポリマーのガラス転移温度以上100℃未満の温度の熱水に、以下の(式4)を満たす条件で接触させる工程であることが好ましい。
40≦(T−Tg)t≦6000 (式4)
(式中、tは熱水処理時間(秒)、Tは熱水温度(℃)、TgはPETプレポリマーのガラス転移温度(℃)を示す。)
【0040】
即ち、熱水処理に用いる熱水の温度T(℃)は、好ましくは100℃未満であり、より好ましくは95℃以下である。熱水処理温度T(℃)の下限は、PETプレポリマーペレットのガラス転移温度Tg(℃)よりも高く、中でもTgより1℃以上、特に5℃以上高いことが好ましいが、熱水の温度の下限は60℃、中でも65℃であることが好ましい。熱水の温度がこの範囲である場合、比較的短時間の処理で本発明の効果が得られると共に、固相重縮合速度が低下する問題が起こらないため、より一層好ましい。
【0041】
また、本発明において、熱処理の第1段固相重縮合工程の後に、結晶化工程及び第1段固相重縮合工程を経たPETプレポリマーを不活性ガス雰囲気下又は減圧下で、第1段固相重縮合工程の反応温度T1以下の温度から昇温を開始して最高到達温度T2まで昇温する昇温工程を有し、この昇温工程が、温度T1(℃)から(T1+15)(℃)までを30分以内で昇温し、かつ温度T1(℃)及び温度T2(℃)が下記(式5)及び(式6)を満足する工程であることが好ましい。
T1+15≦T2 (式5)
205℃≦T2≦240℃ (式6)
【0042】
このような昇温工程により、低分子量で結晶化させた場合、結晶構造が形成されることでポリエステル分子鎖の運動性が低下し、一部の末端基が不活性化するが、特に低分子量で結晶化させた場合、不活性化する末端基数の絶対値が大きくなるため、固相重縮合後半に重縮合反応速度が小さくなる。これに対し、途中で温度差15℃以上という加熱処理を短時間で与えることにより、固体状態は保つものの、結晶の溶融と再結晶化が起こり、再度、多数の末端基が存在する非晶領域が形成されるため、不活性化していた末端基の一部が活性を取り戻し、重縮合反応速度が増大すると推定される。昇温幅が15℃未満の場合や、昇温に要する時間が30分超過の場合は、本発明の固相重縮合反応速度の向上効果、特に第2段固相重縮合工程での効果が得られない場合がある。
この昇温工程は流動床で行うことが生産効率や反応制御、操作性等の面で好ましい。
【0043】
更に、また、上記の第1段固相重縮合工程後の昇温工程の後に第2段固相重縮合工程を有しており、この第2段固相重縮合工程が、結晶化工程、第1段固相重縮合工程及び昇温工程を経たポリエチレンプレポリマーを不活性ガス雰囲気下又は減圧下で、好ましくは反応時間θ2を120分以上3000分以下で反応させる工程であり、かつ、その反応の温度T3が190℃以上240℃以下であることが好ましい。
【0044】
第2段固相重縮合工程の温度T3は、190℃以上240℃以下であり、T3の下限値は好ましくは210℃、更に好ましくは220℃である。T3の上限値は好ましくは237℃、更に好ましくは235℃である。T3が190℃未満であると、目標の重合度に到達するまでに長時間を要することとなる。また、T3が240℃を超えるとPET粒子同士の融着が起き易いなど不都合である。なお、T3が昇温工程の温度T2より低い場合であっても、本発明の固相重縮合速度が大きいという効果は発揮される。
本発明では、更に同様にして、昇温と固相重縮合とを、3回以上交互に繰り返してもよい。
【0045】
このように、比較的高温まで短時間で昇温する昇温工程と、比較的低温の固相重縮合工程とを交互に繰り返す方法は、特に、共重合量が多いため融着しやすいPETプレポリマーを固相重縮合する際に、固相重縮合工程を移動床で実施する場合の融着を抑制できる傾向にあり、また、長時間固相重縮合を実施することに伴い発生する一部の末端基の不活性化を抑制できる傾向にあるため、全体の熱処理時間を短縮できる傾向にあることから、一層好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例における物性の測定は、以下の方法により行った。
【0047】
<固有粘度(IV)>
試料約0.25gを、フェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(質量比 1/1)の混合溶媒約25mLに、濃度が1.00×10−2kg/Lとなるように、非晶状態のPETは110℃、30分で、固相重縮合後のPETは140℃、30分でそれぞれ溶解させた後、30℃まで冷却し、全自動溶液粘度計(センテック社製「2CH型DJ504」)にて、濃度が1.00×10−2kg/Lの試料溶液及び溶媒のみの落下秒数を測定し、下式により算出した。
IV=[(1+4KH・ηsp0.5−1]/(200KH・C)
ここで、 ηsp=η/η0−1 であり、ηは試料溶液の落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cはポリマー溶液濃度(kg/L)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。
【0048】
<PETプレポリマー粒子の平均質量>
精密天秤を用いて、PETプレポリマー粒子30粒の合計質量を0.1mgの桁まで測定し、測定値を30で除することにより、粒子1粒当たりの平均質量を算出した。
【0049】
<末端カルボキシル基濃度 (AV)>
試料を粉砕した後、熱風乾燥機にて140℃で15分間乾燥させ、デシケーター内で室温まで冷却した試料から、0.1gを精秤して試験管に採取し、ベンジルアルコール3mLを加えて、乾燥窒素ガスを吹き込みながら195℃、3分間で溶解させ、次いで、クロロホルム5mLを徐々に加えて室温まで冷却した。この溶液にフェノールレッド指示薬を1〜2滴加え、乾燥窒素ガスを吹き込みながら攪拌下に、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で滴定し、黄色から赤色に変じた時点で終了とした。また、ブランクとして、ポリエステル樹脂試料を使用せずに同様の操作を実施し、これらの結果を用いて以下の式により末端カルボキシル基濃度を算出した。
AV(当量/トン)=(A−B)×0.1×f/W
〔ここで、Aは、試料を用いた場合の滴定に要した0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、Bは、ブランクでの滴定に要した0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の量(μL)、Wは、ポリエステル樹脂試料の量(g)、fは、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価である。〕
なお、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の力価(f)は、試験管にメタノール5mLを採取し、フェノールレッドのエタノール溶液を指示薬として1〜2滴加え、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液0.4mLで変色点まで滴定し、次いで、力価既知の0.1規定の塩酸を標準液として0.2mL採取して加え、再度、0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液で変色点まで滴定し(以上の操作は、乾燥窒素ガスを吹き込みながら行った。)、以下の式により算出した。
力価(f)=0.1規定の塩酸の力価×0.1規定の塩酸の採取量(μL)
/0.1規定の水酸化ナトリウムのベンジルアルコール溶液の滴定量(μL)
【0050】
<結晶化度(X)>
結晶化度(X)の測定は、完全非晶の密度d=1335kg/m、完全結晶の密度d=1455kg/mとして、試料の密度d(kg/m)から、下式により算出した。
=(d−d)d/(d−d)d ×100(質量%)
また、試料の密度dは、測定セルに試料6〜8gを精秤し、測定温度23℃にて乾式自動密度測定装置(島津製作所製Accupyc1330)を用いて測定した。
【0051】
<ジエチレングリコール(DEG)共重合モル%>
試料となるPETプレポリマー粒子5.00gに、4規定−水酸化カリウム/メタノール溶液50mLを加えて還流冷却器をセットし、マグネチックスターラ付きホットプレート(表面温度200℃)上で攪拌しながら、2時間加熱還流し加水分解する。放冷後、高純度テレフタル酸約20gを加えて、十分振とうして中和し、pHを9以下としたスラリーを、グラスフィルター(11G−4)を用いて濾過した後、メタノール2mLで2回洗浄して濾液と洗液を合わせ、ガスクロマトグラフィーへの供試液とする。供試液1μlをマイクロシリンジにて、島津製作所社製ガスクロマトグラフィー(形式GC−14APF)に注入し、エチレングリコール(EG)及びジエチレングリコール成分のピークの面積から、全グリコール成分に対するジエチレングリコール成分のモル%を、下式に従い計算した。
DEGの共重合モル%=(ADEG×CfDEG)/(Σ(A×C))×100
DEG : ジエチレングリコール成分の面積(μV・秒)
fDEG : そのグリコール成分の補正係数
A : 各グリコール成分の面積(μV・秒)
: 各グリコール成分の補正係数
【0052】
<イソフタル酸共重合モル%>
核磁気共鳴装置(日本電子社「JNM−EX270型」)を用いて、試料となるPETプレポリマー粒子をトリフルオロ酢酸に溶解させた溶液のH−NMRを測定して各ピークを帰属し、ピークの積分値から、全カルボン酸成分に対するイソフタル酸成分のモル%を共重合量とした。
【0053】
(実施例1)
<チタン−マグネシウム−リン系重縮合触媒の調製>
300mL摺り栓付きの三角フラスコ中に、エタノール(特級、純度99.6%以上)を50g入れ、次に酢酸マグネシウム・4水和物8.58gを添加し、スターラーで20分間攪拌して、ほぼ均一に溶解させた。次に、ジブチルホスフェート(商品名:DBP、城北化学工業社製)を15分掛けて8.41g入れ、更に、テトラ−n−ブトキシチタネート13.64gを5分掛けて添加し、10分間攪拌することで均一溶液を得た。次に、エバポレーターを用いて、オイルバスを60℃に設定して、内容物が55.61gとなるまでエタノールを留去した。次に、エチレングリコール31.56gを添加した。このエチレングリコール溶液中の低沸物を圧力1.3kPa(Aは絶対圧力であることを示す)にて40分掛けて留去し、48.62gの流動性あるチタン−マグネシウム−リン系重縮合触媒を得た。この重縮合触媒液中のチタン濃度は、チタン原子として3.8重量%であった。
【0054】
<PETプレポリマー粒子(A)の製造>
撹拌機、エチレングリコール仕込み配管及びテレフタル酸仕込み配管を具備するスラリー調製槽;スラリーやエステル化反応物を各エステル化反応槽へ移送する各配管;撹拌機、分離塔、原料受入れ口、触媒仕込み配管、反応物移送配管を具備する完全混合型第一及び第二エステル化反応槽;エステル化反応物(オリゴマー)を溶融重縮合反応槽へ移送する配管;撹拌機、分離塔、オリゴマー受入れ口、触媒仕込み配管を具備する完全混合型第一溶融重縮合反応槽;撹拌機、分離塔、ポリマー受入れ口、ポリマー抜き出し口を具備するプラグフロー型第二及び第三溶融重縮合反応槽;プレポリマーを抜き出し口よりギヤポンプを介してダイプレートからストランド状に取り出し水冷下ストランドカットする粒子化装置(ストランドカッターはリーター・オートマチック社製ペレタイザー(P−USG100))を備えたPETプレポリマー連続製造装置を用いた。
前記のPETプレポリマー連続製造装置を用いて、ジカルボン酸とジオールとをエステル化反応し、更に溶融重縮合反応することにより得られた溶融状態のPETプレポリマーをダイプレートからストランド状に取り出し切断することで、PETプレポリマー粒子を製造した。具体的には以下の通りである。
【0055】
スラリー調製槽にて、得られるPETに対してチタン原子として4質量ppmとなる量のテトラ−n−ブチルチタネートを含有するテレフタル酸/イソフタル酸/エチレングリコール(モル比0.985:0.015:1.5)スラリーを調製した。また、ビス−(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート400質量部をエステル化第一槽に仕込み窒素雰囲気下で溶融し、温度262℃、圧力96kPaG(Gは大気圧に対する相対圧力であることを示す)に保たれた中へ、前記のスラリー調製槽で調製されたスラリーを135質量部/時間で、ポリエステルとしての平均滞留時間が4.5時間になるように連続的に仕込み、分離塔から生成する水を留去しながらエステル化反応を行いつつ、反応液を連続的にエステル化第二反応槽へ移送した。
【0056】
第二エステル化反応槽では、温度260℃、圧力5kPaG下、滞留時間1.5時間でエステル化反応を行い、移送配管を通じ完全混合型第一溶融重縮合反応槽へ連続的に移送すると同時に、この移送配管に、上記にて調製したチタン−マグネシウム−リン系重縮合触媒のエチレングリコール希釈液(濃度:チタン原子として0.02質量%))を、得られるポリエステルプレポリマーに対して、チタン、マグネシウム、リンとしてそれぞれ4質量ppm、2質量ppm、2.6質量ppmとなる量を連続的に添加した。
【0057】
第一溶融重縮合反応槽では、温度270℃、圧力4.4kPaA(Aは絶対圧力であることを示す)下、滞留時間1.0時間にて反応を行い、移送配管を通じ第二溶融重縮合反応槽へ連続的に移送した。第二溶融重縮合反応槽では温度270℃、圧力4.4kPaA下、滞留時間1.0時間にて溶融重縮合反応を行い、移送配管を通じ第三溶融重縮合反応槽へ移送した。第三溶融重縮合反応槽では温度270℃、圧力4.4kPaA下、滞留時間0.8時間にて溶融重縮合反応を行った。
【0058】
このようにして得られた溶融PETプレポリマーをそのまま、ギヤポンプ及び抜き出し配管を通じてダイヘッドへ導き、ダイホールからストランド状に取り出し、水冷後、リーター・オートマチック社製ペレタイザー(P−USG100)により造粒した。造粒方法はストランドカット法であり、具体的には、ストランド状PETプレポリマーを水と接触させて冷却させながら、水と共にカッター方向に搬送し、カッター前に設置された一対の引取ロールにて挟むことで引き取り、カッターに供給し、固定歯と回転歯とを有するカッターにて切断することにより、PETプレポリマー粒子を得た。
ここで、溶融PETプレポリマーの吐出量は100kg/時、温度は270℃とし、3mmφの円形ダイホールが6穴あるダイプレートから、水平方向から下向きに45°の角度を吐出方向として、ストランド状に吐出させた。
【0059】
このストランド状PETプレポリマーを、100mm以上の空冷距離を経てストランドカッターの水冷却ゾーンに着水させ、50℃の水で水冷しながら搬送し、引取ロールにて引き取り、カッターに供給した。ストランドの引取速度は3.2m/秒であり、カッターは、引取ロールと回転歯の回転数の比を調整し、粒子の引取方向の長さが1.25mmとなるようにして粒子化した。
その結果、長さ1.25mm、幅1.2mm、厚さ0.9mmのほぼ直方体の両端に半円柱を付けた形状に近い楕円柱状のPETプレポリマー粒子を得た。この粒子の固有粘度は0.287dL/g、末端カルボキシル基濃度は26当量/トン、イソフタル酸の共重合量は1.5モル%、ジエチレングリコールの共重合量は2.0モル%、平均質量は1.8mg/粒であった。以降、このPETプレポリマー粒子を、「プレポリマー粒子(A)」と称する。
【0060】
〈熱処理〉
〈熱水処理工程〉
上記のプレポリマー粒子(A)(ガラス転移温度=72℃)をウォーターバスにより90℃に加温した熱水中に投入し、60秒間攪拌しながら保持した後、直ちにざるに取り出して、氷水で急冷した。十分冷却を行った後、水分を切ることにより熱水処理を行った。
【0061】
〈熱処理装置〉
プレポリマー粒子(A)を熱水処理した試料を図1に示すガラス製熱処理装置を用いて熱処理を行った。
以下、該熱処理装置について説明する。
図1に示す熱処理装置において、試料は、試料充填部の内径が45mmのガラス製熱処理管(1)に充填されている。熱処理管(1)には、ガス流量計(2)、窒素導入管(3)、窒素予熱管(4)を経由して、オイルバス(5)に充填されたオイルにより加熱された窒素が導入される。導入された窒素は、熱処理管(1)下部にある分散板(6)により分散され、熱処理管(1)内部で略均一な線速度を有する上昇流となって、試料層(7)を通過する。試料層(7)を通過した窒素は、熱処理管(1)上部にあるフィルター(8)を経由して、ガスパージ口(9)から熱処理管(1)の外部に排出される。熱処理管(1)は枝管(10)を有しており、その上部にある開口部(通常はガラス栓にて閉止してある)から試料の投入や試料の採取が可能である。また、熱処理管(1)内部の試料の温度は、熱電対(11)を備えた温度計(12)で測定できる。本実施例の範囲の温度においては、熱処理管(1)の内部温度は、空塔線速度が2.00m/秒の場合、オイルバス中のオイル温度よりも7℃低い温度となるため、目標とする固相重縮合温度に対して、オイルの温度は7℃高い温度に調節した。空塔線速度が1.0m/秒及び0.3m/秒の場合、オイルバス中のオイル温度よりも2℃低い温度となるため、目標とする固相重縮合温度に対して、オイルの温度は2℃高い温度に調節した。
【0062】
〈結晶化工程〉
熱処理管(1)に枝管(10)の開口部より、上記熱水処理後のプレポリマー粒子(A)30gを仕込み、窒素を流通して内部を窒素置換した。その後熱処理管(1)内の窒素の空塔線速度(ここで「空塔線速度」とは、試料層の空塔線速度を意味する(以下同様))が180℃で2.00m/秒となるように窒素の流量をガス流量計(2)で設定し、オイルの温度が187℃に調節された第一のオイルバス(5)に熱処理装置を浸漬した。この時点を結晶化工程(Tx=180℃)の開始とする。5分後に枝管(10)の開口部より、固有粘度測定用試料約0.3gを採取した。
【0063】
〈第1段固相重縮合工程〉
試料採取後、窒素の空塔線速度が210℃で0.3m/秒となるように窒素の流量を変更し、オイルの温度が212℃に調節された第二のオイルバス(5)に熱処理装置を移した。この時点を第1段固相重縮合工程(T1=212℃)の開始とする。試料の温度が210℃に到達するまでに、10分を要したので、Txから(Tx+20℃)までの昇温は10分以内であった。第1段固相重縮合工程の開始から2時間後に枝管(10)の開口部より、固有粘度測定用試料を採取した。
【0064】
〈昇温工程〉
試料採取後、窒素の空塔線速度が235℃で1.00m/秒となるように窒素の流量を変更し、オイルの温度が237℃に調節された第三のオイルバス(5)に熱処理装置を移した。この時点を昇温工程(T2=235℃)の開始とした。昇温工程開始点から10分後に固有粘度測定用、融着試験用試料を採取した。
【0065】
〈融着試験〉
熱処理時のPET粒子の融着性を調べるため、実施例1の昇温工程まで実施したPET粒子(以下、「昇温工程後粒子(A)」と称する)を用いて、図2に示す融着試験装置で荷重負荷をかけた状態での融着試験を行った。
以下、該融着試験装置について説明する。
図2に示す融着試験装置において、試料は、試料充填部の内径が14mmのガラス製熱処理管(21)に充填されている。熱処理管(21)には、ガス流量計(22)、窒素導入管(23)、窒素予熱管(24)を経由して、オイルバス(25)に充填されたオイルにより加熱された窒素が導入される。導入された窒素は、熱処理管(21)下部にある分散板(26)により分散され、熱処理管(21)内部で略均一な線速度を有する上昇流となって、試料層(27)を通過する。試料層(27)を通過した窒素は、熱処理管(21)上部にあるフィルター(28)を経由して、ガスパージ口(29)から熱処理管(21)の外部に排出される。ここで、熱処理管(21)内部の試料の温度は、予め、別の試料を充填して熱電対を備えた温度計で測定することで、オイルバス中のオイル温度と等しい温度になることを確認した。また、試料層(27)の上部には、ステンレス製金網(30)を介してステンレス製中空支柱(31)を載せることができる。また、支柱(31)には、ピン(32)を用いて錘を載せるための台座(33)を固定することができる(支柱(31)の質量は80g、ピン(32)及び台座(33)の合計質量は42gである)。
【0066】
熱処理管(21)に、試料として8gの昇温工程後粒子(A)を仕込み、その上に金網(30)と支柱(31)を載せた後、窒素を流通して内部を窒素置換した。その後熱処理管(21)内の窒素の空塔線速度(ここで「空塔線速度」とは、試料層部分の空塔線速度を意味する(以下同様))が220℃で0.40m/秒となるように窒素の流量をガス流量計(22)で設定し、222℃に調節されたオイルバス(25)に融着試験装置を浸漬した。この時点を220℃での融着試験の開始とする。そのまま10分間保持することで、試料層の温度を220℃とした。開始から10分間目までは、荷重なしとした。その後、台座(33)の上に錘を載せ、荷重を1039g重とした。40分間目に、融着試験装置をオイルバスから引き上げ、窒素の流通を停止し、錘(支柱、ピン、台座を含む)を取り除いた。試料は、目開き2.0mmの篩の上に抜き出し、静かに分級することで、融着程度と融着比率(篩上の試料の質量比)を測定した。
【0067】
融着程度は0、融着比率は1.0質量%であり、220℃、荷重下における耐融着性に優れることを示す結果となった。
融着程度の評価基準は以下の通りである。
0:融着なし
1:緩い (抜き出した段階でほぼ崩れる)
2:やや緩い(スパチュラで転がすと崩れる)
3:やや固い(スパチュラで突くと崩れる)
4:固い (スパチュラで突いても崩れない)
【0068】
(実施例2)
実施例1において、〈結晶化工程〉における滞留時間を20分に変更した以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例3)
実施例1において、〈熱水処理工程〉を実施しなかったこと以外は実施例1と同様に行った。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例4)
実施例2において、〈熱水処理工程〉を実施しなかったこと以外は実施例2と同様に行った。結果を表1に示す。
【0071】
(比較例1)
実施例3において、〈結晶化工程〉を実施しなかったこと以外は実施例3と同様に第1段重縮合工程までの操作を行った。実施例3と同様にして枝管(10)の開口部より固有粘度測定用試料の採取を試みたが、試料が融着しており、採取することができなかった。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
実施例3において、〈結晶化工程〉における滞留時間を2分に変更したこと以外は実施例3と同様に第1段重縮合工程までの操作を行った。実施例3と同様にして枝管(10)の開口部より固有粘度測定用試料の採取を試みたが、試料が融着しており、採取することができなかった。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例3)
実施例4において、〈結晶化工程〉における滞留時間を60分に変更したこと以外は実施例4と同様に行った。結果を表1に示す。
【0074】
(比較例4)
実施例3の〈第1段固相重合工程〉において、オイル温度を182℃に調節しておき、熱処理装置を移した後、空塔線速は0.3m/秒に調節し、直ちに、60分掛けて212℃まで昇温し、212℃到達後はその温度で60分間保持に変更したこと以外は実施例3と同様に行った。結果を表1に示す。
【0075】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例及び比較例で用いた熱処理装置を示す模式図である。
【図2】実施例及び比較例で用いた融着試験装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0077】
1:熱処理管
2:ガス流量計
3:窒素導入管
4:窒素予熱管
5:オイルバス
6:分散板
7:試料層
8:フィルター
9:ガスパージ口
10:枝管
11:熱電対
12:温度計
21:熱処理管
22:ガス流量計
23:窒素導入管
24:窒素予熱管
25:オイルバス
26:分散板
27:試料層
28:フィルター
29:ガスパージ口
30:金網
31:支柱
32:ピン
33:台座

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレートプレポリマーを、固体状態で熱処理するポリエチレンテレフタレートの製造方法であって、
該固体状態での熱処理が、結晶化工程及び第1段固相重縮合工程をこの順で含み、かつ、各工程が下記1)及び2)を満足することを特徴とするポリエチレンテレフタレートの製造方法。
1)結晶化工程でポリエチレンテレフタレートプレポリマーを処理するに際し、該処理の温度Txが110℃以上210℃以下、該処理の時間θxが3分以上30分以下である。
2)第1段固相重縮合工程が、結晶化工程を経たポリエチレンテレフタレートプレポリマーを不活性ガス雰囲気下又は減圧下で、結晶化工程での処理の温度Tx以下の温度から昇温を開始して第1段固相重縮合工程の反応温度T1まで昇温する過程を含み、温度Tx(℃)から温度T1(℃)までを30分以内で昇温し、かつ温度T1での反応時間θ1が下記(式1)〜(式3)を満たす工程である。
Tx+20≦T1 (式1)
180℃≦T1≦230℃ (式2)
θx < θ1 (式3)
【請求項2】
前記固体状態での熱処理が、前記結晶化工程に先立つ表面処理工程を有する請求項1に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項3】
前記表面処理工程が熱水処理工程であり、該熱水処理工程がポリエチレンテレフタレートプレポリマーを該ポリエチレンテレフタレートプレポリマーのガラス転移温度以上100℃未満の温度の熱水に、以下の(式4)を満たす条件で接触させる工程である請求項2に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
40≦(T−Tg)t≦6000 (式4)
(式中、tは熱水処理時間(秒)、Tは熱水温度(℃)、Tgはポリエチレンテレフタレートプレポリマーのガラス転移温度(℃)を示す。)
【請求項4】
前記固体状態での熱処理が、前記第1段固相重縮合工程の後に昇温工程を有しており、該昇温工程が、前記結晶化工程及び第1段固相重縮合工程を経たポリエチレンテレフタレートプレポリマーを不活性ガス雰囲気下又は減圧下で、第1段固相重縮合工程の反応温度T1以下の温度から昇温を開始して最高到達温度T2まで昇温する工程であり、温度T1(℃)から(T1+15)(℃)までを30分以内で昇温し、かつ温度T1(℃)及び温度T2(℃)が下記(式5)及び(式6)を満足する工程である請求項1乃至3のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
T1+15≦T2 (式5)
205℃≦T2≦240℃ (式6)
【請求項5】
前記固体状態での熱処理が、第1段固相重縮合工程の後の昇温工程の後に第2段固相重縮合工程を有しており、該第2段固相重縮合工程が、結晶化工程、第1段固相重縮合工程及び昇温工程を経たポリエチレンプレポリマーを不活性ガス雰囲気下又は減圧下で反応させる工程であり、かつ、その反応の温度T3が190℃以上240℃以下である請求項4に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項6】
前記結晶化工程が流動床で実施される請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項7】
前記第1段固相重縮合工程の後の昇温工程が流動床で実施される請求項4乃至6のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項8】
前記固体状態での熱処理に供されるポリエチレンテレフタレートプレポリマーの固有粘度が0.18dL/g以上0.40dL/g以下で、該ポリエチレンテレフタレートプレポリマーを固体状態で熱処理して得られるポリエチレンテレフタレートの固有粘度が0.70dL/g以上である請求項1乃至7のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項9】
前記固体状態での熱処理に供されるポリエチレンテレフタレートプレポリマーが粒子であり、その平均質量が0.1mg/粒以上30mg/粒以下である請求項1乃至8のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項10】
前記固体状態での熱処理に供されるポリエチレンテレフタレートプレポリマーの末端カルボキシル基濃度が100当量/トン以下である請求項1乃至9のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。
【請求項11】
得られるポリエチレンテレフタレートがチタン化合物を含有する請求項1乃至11のいずれか1項に記載のポリエチレンテレフタレートの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−208208(P2008−208208A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−45772(P2007−45772)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】