説明

ポリエーテル、ポリウレタン、イソシアネート基末端プレポリマーおよびポリウレタンフォームの製造方法

【課題】触媒成分が充分に除去されたポリエーテルを生産性よく、低コストで、かつ簡便な方法で得ることができ、発生する廃棄物が少ないポリエーテルの製造方法;ポリウレタン、イソシアネート基末端プレポリマーおよびポリウレタンフォームを安定して製造できる製造方法を提供する。
【解決手段】触媒成分を含む粗製ポリエーテルを、プラスのゼータ電位を生じるフィルターに通過させるポリエーテルの製造方法;該製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させる、ポリウレタン、イソシアネート基末端プレポリマーおよびポリウレタンフォームの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテル、ポリウレタン、イソシアネート基末端プレポリマーおよびポリウレタンフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエーテルポリオール等のポリエーテルは、ポリウレタンの原料や作動油等の油剤原料として用いられており、工業的に重要な化合物である。ポリエーテルは、通常、重合触媒および開始剤の存在下、アルキレンオキシド等のヘテロ環状化合物を開環重合させて得られる。ポリエーテルには、重合触媒およびその分解物(以下、触媒成分と記す。)が残存している。該触媒成分は、ポリウレタン等の製造に影響を及ぼすため、通常は除去される。
【0003】
触媒成分の除去方法としては、たとえば、以下の方法が挙げられる。
(1)触媒成分を、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、マグネシアシリケート、アルミノシリケート等の固体吸着剤に吸着させて除去する方法(特許文献1)。
(2)細孔径のメンブランフィルターを用いて触媒成分を除去する方法(特許文献2)。
(3)ポリエーテルを有機溶剤に溶解した溶液に水を加えて、水相に触媒成分を抽出し、水相とポリエーテル相とを分離した後、ポリエーテル相をフィルターでろ過する方法(特許文献3)。
【0004】
(1)の方法では、多量の触媒成分を含むポリエーテルを処理した場合、触媒成分を充分に除去できない、吸着剤の残渣が多量に排出され、廃棄物の処理が必要である等の問題がある。
(2)の方法では、高分子量のポリエーテルを処理した場合、ポリエーテルの粘度が高いため、細孔径のメンブランフィルターではろ過に時間がかかり、生産性に問題がある。
(3)の方法では、触媒成分の除去率はよいものの、抽出とろ過という2段階の工程を経るため、コストがかかり、また作業が煩雑である。
よって、粘度の高い粗製ポリエーテルから触媒成分を高い除去率で、生産性よく、低コストで、かつ簡便に除去する方法が求められている。
【特許文献1】特開平2−289617号公報
【特許文献2】米国特許出願公開2004/0073069号明細書
【特許文献3】特開2003−105079号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、触媒成分が充分に除去されたポリエーテルを生産性よく、低コストで、かつ簡便な方法で得ることができ、しかも発生する廃棄物が少ないポリエーテルの製造方法;ポリウレタン、イソシアネート基末端プレポリマーおよびポリウレタンフォームを安定して製造できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のポリエーテルの製造方法は、触媒成分を含む粗製ポリエーテルを、プラスのゼータ電位を生じるフィルターに通過させることを特徴とする。
【0007】
フィルターは、0mVを超えて+30mV以下のゼータ電位を生じるフィルターであることが好ましい。
フィルターの絶対ろ過精度は、0.1〜5μmであることが好ましい。
フィルターは、グラスファイバー、コットン、ポリプロピレンおよびセルロースからなる群から選ばれる1種以上のろ材に樹脂バインダーをコーティングしたものであることが好ましい。
【0008】
粗製ポリエーテルをフィルターに通過させる際の差圧は、0〜0.55MPaであり、通過速度が、3〜50kg/(m2 ・分)であることが好ましい。
粗製ポリエーテルの温度は、60〜135℃であることが好ましい。
粗製ポリエーテルのpHは、3〜14であることが好ましい。
【0009】
粗製ポリエーテルは、重合触媒および開始剤の存在下、ヘテロ環状化合物を開環重合させて得られたものであることが好ましい。
重合触媒は、複合金属シアン化物錯体触媒、ルイス酸触媒、P=N結合を有する化合物触媒、アルカリ金属触媒およびアルカリ土類金属触媒からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0010】
本発明のポリウレタンの製造方法は、本発明のポリエーテルの製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させることを特徴とする。
本発明のイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法は、本発明のポリエーテルの製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエーテルの製造方法によれば、触媒成分が充分に除去されたポリエーテルを生産性よく、低コストで、かつ簡便な方法で得ることができ、しかも発生する廃棄物が少ない。
本発明のポリウレタンの製造方法によれば、ポリウレタンを安定して製造できる。
本発明のイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法によれば、イソシアネート基末端プレポリマーの貯蔵安定性に優れるという特徴を付与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
<ポリエーテルの製造方法>
ポリエーテルは、(a)粗製ポリエーテルを製造し、(b)該粗製ポリエーテルを精製することによって製造される。
【0013】
(a)粗製ポリエーテルの製造:
粗製ポリエーテルとは、触媒成分を含む未精製のポリエーテルを意味する。
ポリエーテルとは、主鎖に複数のエーテル結合を有し、かつ1分子あたり1個以上の水酸基を有する化合物、すなわち、ポリエーテルモノオールおよびポリエーテルポリオール、ならびに、その誘導体をいう。誘導体とは、ポリエーテルモノオールおよびポリエーテルポリオールの末端水酸基をアルキルオキシ基、アルケニルオキシ基、アルキルカルボニル基などに変換したものをいう。
触媒成分とは、粗製ポリエーテルの製造後に粗製ポリエーテルに残存する、触媒構造が保たれた重合触媒の残渣、および触媒構造が壊れた重合触媒の分解物を意味する。
【0014】
粗製ポリエーテルは、公知の方法で製造できる。粗製ポリエーテルの製造方法としては、たとえば、重合触媒および開始剤の存在下、ヘテロ環状化合物を開環重合させる方法が挙げられる。
【0015】
(開始剤)
開始剤としては、1分子あたり1個以上の活性水素原子を有する化合物が挙げられる。
目的とするポリエーテルが、ポリエーテルモノオールの場合、開始剤としては、メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサノール等の1価のアルコール;フェノール、アルキル置換フェノール等の1価のフェノール類;ジアルキルアミン等の2級アミン;これらにヘテロ環状化合物を開環重合させて得られる、目的とするポリエーテルモノオールよりも低分子量のポリエーテルモノオール等が挙げられる。
【0016】
目的とするポリエーテルが、ポリエーテルポリオールの場合、開始剤としては、水;プロピレングリコール、エチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等の2価のアルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオール等の3価のアルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン、デキストール、ソルビトール、シュークロース等の4価以上のアルコール;ビスフェノールA、レゾール、ノボラック等の、複数のフェノール性水酸基またはメチロール基を有する化合物;エタノールアミン、ジエタノールアミン等の、水酸基およびアミノ基を有する化合物;これらにヘテロ環状化合物を開環重合させて得られる、目的とするポリエーテルポリオールよりも低分子量のポリエーテルポリオール;リン酸、その誘導体;他のポリヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0017】
開始剤として用いる低分子量のポリエーテルの水酸基価は、目的とするポリエーテルの水酸基価の2倍以上が好ましく、3倍以上が特に好ましい。
開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
開始剤は、それ単独で、または、ヘテロ環状化合物とともに、開環重合の途中で反応系に追加供給してもよい。
【0018】
(ヘテロ環状化合物)
ヘテロ環状化合物としては、炭素数2以上のヘテロ環状化合物が好ましい。ヘテロ環状化合物としては、たとえば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、スチレンオキシド、オキセタン、テトラヒドロフラン、エピクロロヒドリン、グリシジルエーテル、グリシジルエステル等の環状エーテル;エチレンサルファイド等の環状チオエーテル類;エチレンイミン等のイミン類;エチレンカーボネート等の環状カーボネート類;エチレンチオカーボネート等の環状チオカーボネート類;エチレンジチオカーボネート等の環状ジチオカーボネート類;ε−カプロラクトン等の環状ラクトン類;ε−カプロラクタム等の環状ラクタム類等が挙げられる。ヘテロ環状化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
(触媒)
重合触媒としては、たとえば、複合金属シアン化物錯体;水酸化カリウム、水酸化セシウム、セシウムメトキシド等の、アルカリ金属化合物触媒またはアルカリ土類金属化合物触媒;ホスファゼニウムカチオンの水酸化物塩等の、P=N結合を有する化合物触媒;金属ポルフィリン錯体触媒;トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム等のルイス酸触媒等が挙げられる。
【0020】
重合触媒としては、プラスのゼータ電位を生ずるフィルターにて除去しやすい点で、複合金属シアン化物錯体触媒、ルイス酸触媒、P=N結合を有する化合物触媒、アルカリ金属化合物触媒およびアルカリ土類金属化合物触媒からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、開環重合時に用いる量が少なく、長期間にわたりプラスのゼータ電位を生ずるフィルターを用いることができる点で、複合金属シアン化物錯体触媒が特に好ましい。
【0021】
(複合金属シアン化物錯体触媒)
複合金属シアン化物錯体触媒は、公知の方法で製造できる。製造方法としては、たとえば、水溶液中でハロゲン化金属塩とアルカリ金属シアノメタレートとを反応させて得られる反応生成物に、有機配位子を配位させ、ついで、固体成分を分離し、該固体成分を有機配位子水溶液で洗浄する方法;有機配位子水溶液中でハロゲン化金属塩とアルカリ金属シアノメタレートとを反応させ、得られる反応生成物(固体成分)を分離し、該固体成分を有機配位子水溶液で洗浄する方法等が挙げられる。
【0022】
ハロゲン化金属塩の金属としては、Zn(II)、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Ni(II)、Mo(IV)、Mo(VI)、Al(III)、V(V)、Sr(II)、W(IV)、W(VI)、Mn(II)、Cr(III)、Cu(II)、Sn(II)、およびPb(II)からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、Zn(II)またはFe(II)がより好ましい。ハロゲン化金属塩としては、ZnCl2 が特に好ましい。
【0023】
シアノメタレートの金属としては、Fe(II)、Fe(III)、Co(II)、Co(III)、Cr(II)、Cr(III)、Mn(II)、Mn(III)、Ni(II)、V(IV)、およびV(V)からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、Co(III)またはFe(III)がより好ましい。アルカリ金属シアノメタレートとしては、Na3 [Co(CN)6 ]、K3 [Co(CN)6 ]が好ましい。アルカリ金属シアノメタレートには、H3 [Co(CN)6 ]も含まれる。
【0024】
ハロゲン化金属塩とアルカリ金属シアノメタレートとの反応生成物としては、たとえば、Zn3 [Fe(CN)62 、Zn3 [Co(CN)62 、Fe[Fe(CN)6 ]、Fe[Co(CN)6 ]が挙げられ、Zn3 [Co(CN)62 、すなわち亜鉛ヘキサシアノコバルテートが特に好ましい。
【0025】
有機配位子としては、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、アミン、アミド等が挙げられ、水溶性の有機配位子が好ましい。
有機配位子としては、たとえば、tert−ブタノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、tert−ペンチルアルコール、iso−ペンチルアルコール、N,N−ジメチルアセトアミド、グライム(エチレングリコールジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル)、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、iso−プロピルアルコール、ジオキサン等が挙げられる。ジオキサンとしては、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキサンが挙げられ、1,4−ジオキサンが好ましい。
【0026】
有機配位子としては、tert−ブタノール、tert−ペンチルアルコール、エチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテル、tert−ブタノールとエチレングリコールモノ−tert−ブチルエーテルとの組み合わせが好ましく、これら有機配位子を用いた場合、高活性の複合金属シアン化物錯体触媒が得られる。
有機配位子は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
複合金属シアン化物錯体触媒としては、亜鉛ヘキサシアノコバルテートに有機配位子が配位した複合金属シアン化物錯体触媒が好ましい。
【0027】
複合金属シアン化物錯体触媒の使用量は、得られるポリエーテル100質量部に対して0.0001〜0.1質量部が好ましく、経済性に優れかつ製品の貯蔵安定性が良好である点から、0.0005〜0.03質量部がより好ましい。
【0028】
(ルイス酸触媒)
ルイス酸触媒としては、特開2000−344881号公報、特開2000−344891号公報に記載された化合物が挙げられる。
ルイス酸触媒としては、たとえば、トリフェニルボラン、ジフェニル−tert−ブチルボラン、トリ(tert−ブチル)ボラン、トリフェニルアルミニウム、ジフェニル−tert−ブチルアルミニウム、トリ(tert−ブチル)アルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)−tert−ブチルボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウム、ビス(ペンタフルオロフェニル)−tert−ブチルアルミニウム、ビス(ペンタフルオロフェニル)フッ化ボラン、ジ(tert−ブチル)フッ化ボラン、(ペンタフルオロフェニル)2フッ化ボラン、(tert−ブチル)2フッ化ボラン、ビス(ペンタフルオロフェニル)フッ化アルミニウム、ジ(tert−ブチル)フッ化アルミニウム、(ペンタフルオロフェニル)2フッ化アルミニウム、(tert−ブチル)2フッ化アルミニウム等が挙げられ、トリフェニルボラン、トリフェニルアルミニウム、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウムが好ましく、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリス(ペンタフルオロフェニル)アルミニウムがより好ましい。
ルイス酸触媒の使用量は、得られるポリエーテル100質量部に対して0.0001〜10質量部が好ましく、0.001〜1質量部がより好ましい。
【0029】
(P=N結合を有する化合物触媒)
P=N結合を有する化合物触媒としては、ホスファゼニウム化合物触媒、ホスファゼン化合物触媒、ホスフィンオキシド化合物触媒等が挙げられる。
ホスファゼニウム化合物触媒としては、特開平11−106500号公報に記載された化合物が挙げられ、たとえば、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムヒドロキシド、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムメトキシド、テトラキス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウムエトキシド、テトラキス[トリ(ピロリジン−1−イル)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフォニウム−tert−ブトキシド等が挙げられる。
【0030】
ホスファゼン化合物触媒としては、特開平10−36499号公報に記載された化合物が挙げられ、たとえば、1−tert−ブチル−2,2,2−トリス(ジメチルアミノ)ホスファゼン、1−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−2,2,2−トリス(ジメチルアミノ)ホスファゼン、1−エチル−2,2,4,4,4−ペンタキス(ジメチルアミノ)−2λ5 ,4λ5 −カテナジ(ホスファゼン)、1−tert−ブチル−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]−2λ5 ,4λ5 −カテナジ(ホスファゼン)、1−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−4,4,4−トリス(ジメチルアミノ)−2,2−ビス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]−2λ5 ,4λ5 −カテナジ(ホスファゼン)、1−tert−ブチル−2,2,2−トリ(1−ピロリジニル)ホスファゼン、7−エチル−5,11−ジメチル−1,5,7,11−テトラアザ−6λ5 −ホスファスピロ[5,5]ウンデカ−1(6)−エン等が挙げられる。
【0031】
ホスフィンオキシド化合物触媒としては、特開平11−302371号公報に記載された化合物が挙げられ、たとえば、トリス[トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシド、トリス[トリス(ジエチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ]ホスフィンオキシド等が挙げられる。
P=N結合を有する化合物触媒としては、入手の容易さ等から、ホスファゼニウム化合物触媒またはホスフィンオキシド化合物触媒が好ましい。
【0032】
P=N結合を有する化合物触媒の使用量は、開始剤中の活性水素原子1モル当量に対し、1×10-4〜5×10-1モル当量が好ましい。P=N結合を有する化合物触媒を、開始剤中の活性水素原子1モル当量に対し、1×10-4モル当量以上とすることにより、充分に速い開環重合速度を得ることができ、5×10-1モル当量以下とすることにより、ポリエーテルの製造コストを抑制できる。
【0033】
(アルカリ金属化合物触媒およびアルカリ土類金属化合物触媒)
アルカリ金属化合物触媒およびアルカリ土類金属化合物触媒としては、たとえば、水酸化カリウム、水酸化セシウム、炭酸セシウム、セシウムメトキシド等が挙げられ、入手の容易性等から、水酸化カリウムおよび/または水酸化セシウムが好ましい。
アルカリ金属化合物触媒およびアルカリ土類金属化合物触媒の使用量は、得られるポリエーテルアルコール100質量部に対して0.05〜1.5質量部が好ましく、0.1〜1.0質量部がより好ましい。
【0034】
(b)粗製ポリエーテルの精製:
複合金属シアン化物錯体触媒を用いて製造された粗製ポリエーテルは、複合金属シアン化物錯体触媒に由来する触媒成分を含む。該触媒成分を含む粗製ポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させた場合、アロファネート結合が多くなり、好ましくない結果となることが知られている(たとえば、米国特許第4355188号明細書、特公昭59−15336号公報)。
【0035】
ルイス酸触媒を用いて製造された粗製ポリエーテルは、ルイス酸触媒に由来する触媒成分を含む。該触媒成分を含む粗製ポリエーテルは、触媒成分から発生する臭気を持つ。また、粗製ポリエーテルを貯蔵する際に、フッ化水素等の触媒分解物が、貯蔵タンク等を腐食するおそれがある。
【0036】
P=N結合を有する化合物触媒を用いて製造された粗製ポリエーテルは、P=N結合を有する化合物触媒に由来する触媒成分を含む。該触媒成分を含む粗製ポリエーテルは、着色していることが多い。また、該触媒成分を含む粗製ポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させた場合、アロファネート結合が多くなり、好ましくない結果となる。
【0037】
アルカリ金属化合物触媒またはアルカリ金属土類化合物触媒を用いて製造された粗製ポリエーテルは、該触媒に由来する触媒成分を含む。該触媒成分を含む粗製ポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させた場合、アロファネート結合が多くなり、好ましくない結果となる。また、該触媒成分を含む粗製ポリエーテルに安定剤を加えると、製品の色度が悪くなる。
【0038】
したがって、用途に応じて粗製ポリエーテルに含まれる触媒成分を除去する必要がある。
そして、本発明のポリエーテルの製造方法は、触媒成分を含む粗製ポリエーテルを、プラスのゼータ電位を生じるフィルターに通過させることによって、触媒成分が充分に除去されたポリエーテルを得ることを特徴とする方法である。
【0039】
プラスのゼータ電位を生じるフィルターとは、水中に浸漬した際に水素イオン(H+ )を吸着し、プラスに荷電されるフィルターである。
フィルターとして、0mVを超えて+30mV以下のゼータ電位を生じるフィルターが好ましく、0mVを超えて+15mV以下のゼータ電位を生じるフィルターがより好ましい。
【0040】
フィルターのゼータ電位は、以下の方法により測定する。
フィルターから1×5cmのサンプルを切り取り、該サンプルをさらにハサミで細かく切断した後、得られた破片を0.01Mの塩化カリウム溶液に一晩浸漬する。破片を塩化カリウム溶液に浸漬した状態で、30分間真空引きし、破片に含まれる空気を除去する。破片を浸漬した溶液について、CAD社製の流動電位方式ゼータ電位測定装置(Zeta CAD)を用いてゼータ電位を測定する。測定用セルとしては、内径15×5cmのガラス製円筒セルにろ紙を詰めたものを用いる。ゼータ電位の測定は2回行い、2回の平均値を求める。
【0041】
フィルターの絶対ろ過精度は、0.1〜5μmが好ましく、0.5〜3μmがより好ましい。フィルターの絶対ろ過精度を0.5μm以上とすることにより、ろ過に要する時間が短くなり、生産性が向上する。フィルターの絶対ろ過精度を5μm以下とすることにより、触媒成分を充分に除去できる。
フィルターの絶対ろ過精度は、ろ過精度が99.9%以上となる粒子径であり、0.5〜40μmのシリカ系コンタミナント等を用い、シングルパスF−2試験法等により測定する。
【0042】
フィルターのメディア構造としては、サーフェイスタイプおよびデプスタイプが挙げられる。
サーフェイスタイプのフィルターは、被ろ過物が通過する際のメディアの厚さ方向の距離が短いフィルターであり、フィルター表面の目開きで除去できる粒子の大きさが決まるフィルターである。
デプスタイプは、深層ろ過タイプまたは体積ろ過タイプとも呼ばれ、デプスタイプのフィルターは、フィルターのメディアに厚さをある程度持たせたフィルターである。デプスタイプのフィルターは、サーフェイスタイプのフィルターに比べて、フィルター部分において凝集物同士が接触する可能性が低く、触媒成分を効率よく除去することができる。
フィルターとしては、凝集物同士の接触が少ないデプスタイプのフィルターが好ましい。
【0043】
フィルターのろ材構造としては、メンブランタイプ、プリーツタイプ、糸巻きタイプが挙げられる。
メンブランタイプのフィルターは、ろ材にある一定の大きさおよび分布の孔があいているフィルターである。同じ大きさおよび分布の孔があいている複数枚のろ材を重ねると、サーフェイスタイプのフィルターとなり、孔があいた複数枚のろ材を、フィルターの外側から内側に向かってろ材の孔の大きさが徐々に小さくなるように、かつある程度の厚みになるように重ねると、デプスタイプのフィルターとなる。
【0044】
プリーツタイプのフィルターは、プリーツ加工を施したフィルターであり、プリーツ加工を施す前のフィルターに比べ、高いろ過面積を有するフィルターである。
糸巻きタイプのフィルターは、ろ材に一定の空隙を持った長繊維を撚糸せずに用い、コアに一定の密度で巻きつけたフィルターである。コアから密度勾配を持たせずに巻きつけると、サーフェイスタイプのフィルターとなり、ろ材の空隙を変化させたり、密度勾配を持たせたりして、コア方向に向かって徐々にろ過精度を細かくすると、デプスタイプのフィルターとなる。
フィルターとしては、ろ過面積が広く、ポリエーテルの生産性が高いプリーツタイプのフィルターが好ましい。
【0045】
フィルターとしては、ろ材に樹脂バインダーをコーティングしたものが好ましい。ろ材としては、たとえば、グラスファイバー、コットン、ポリプロピレン、セルロース、ポリエステル、レーヨン等が挙げられ、耐薬品性に優れる点で、グラスファイバー、コットン、ポリプロピレン、セルロースが好ましい。樹脂バインダーとしては、プラスのゼータ電位を生じる樹脂バインダーが好ましい。
フィルターのコアの材質としては、ポリプロピレン、ステンレススチール等が挙げられ、高温でのろ過に耐えられる点で、ステンレススチールが好ましい。
【0046】
フィルターとしては、交換が容易である点で、カートリッジタイプのフィルターが好ましい。
プラスのゼータ電位を生ずる、カートリッジタイプのフィルターとしては、日本ポール社製のウルチポアGFプラスシリーズ、ロキテクノ社製のゼータワインドシリーズ、ゼータワインドIIシリーズ、キュノ社製のゼータプラスシリーズ等が挙げられる。
【0047】
粗製ポリエーテルを、プラスのゼータ電位を生ずるカートリッジフィルターを装着したフィルターハウジングに送液し、ゼータ電位を生ずるフィルターに通過させることにより、触媒成分が充分に除去された精製ポリエーテルが得られる。
【0048】
粗製ポリエーテルの送液方法としては、(i)ポンプを用いて送液する方法、(ii)窒素等の不活性ガスで反応槽を加圧して送液する方法等が挙げられる。1つのフィルターハウジングを用い、フィルターに1回のみ通過させる場合、(i)、(ii)のいずれの方法であってもよい。複数のフィルターハウジングを用いる、または循環ろ過を行う場合、(i)の方法が好ましい。
ポンプとしては、ギヤポンプ、スクリューポンプ、カムポンプ等の回転ポンプ;プランジャーポンプ、ダイヤフラムポンプ等の往復動ポンプ等が挙げられる。
【0049】
粗製ポリエーテルをフィルターに通過させる際の差圧は、0〜0.55MPaが好ましく、0.01〜0.45MPaがより好ましい。差圧を0.55MPa以下とすることにより、安定的に触媒成分を除去できる。差圧が0.55MPaを超えると、フィルターに捕捉された触媒成分がフィルターから一部抜けて液中に混入するおそれがある。差圧とは、フィルターの入り側の圧力(A)とフィルター出口側の圧力(B)との差(A−B)である。
粗製ポリエーテルをフィルターに通過させる際の通過速度は、差圧0〜0.55MPaにおいて、3〜50kg/(m2 ・分)が好ましく、5〜30kg/(m2 ・分)がより好ましい。
【0050】
粗製ポリエーテルをフィルターに通過させる際の粗製ポリエーテルの温度は、生産性の点から、60〜135℃が好ましく、70〜130℃がより好ましく、80〜120℃が特に好ましい。粗製ポリエーテルの温度が高いほど、粗製ポリエーテルの粘度が低下し、差圧の上昇を抑制できる。
【0051】
粗製ポリエーテルをフィルターに通過させる際の粗製ポリエーテルのpHは、フィルター上に発生するゼータ電位が充分に強くなる点で、3〜14が好ましく、5〜13がより好ましい。pHは、JIS K 1557で規定された方法に従い測定する。
粗製ポリエーテルの粘度は、100〜85000mPa・s/25℃が好ましく、200〜70000mPa・s/25℃がより好ましい。粘度は、JIS K 1557で規定された方法に従い測定される。
【0052】
1つのフィルターハウジングには、フィルターハウジングの形状に応じ、フィルターを複数設けてもよい。また、複数のフィルターハウジングを直列または並列に設置し、各フィルターハウジングにフィルターを1本以上設けてもよい。
フィルターの数は、粗製ポリエーテルに含まれる触媒成分の量および性状に応じて適宜設定すればよい。複数のフィルターを設ける場合、生ずるプラスのゼータ電位が異なるフィルターを組み合わせてもよく、プラスのゼータ電位を生じるフィルターと、プラスのゼータ電位を生じないフィルターとを組み合わせてもよい。
【0053】
粗製ポリエーテルをフィルターに通過させる際の形態は、粗製ポリエーテルを1回だけフィルターに通過させるワンパスろ過、または、フィルターを通過したポリエーテルを循環ラインにより貯留槽等に戻し、フィルターに複数回通過させる循環ろ過のどちらでもよい。プラスのゼータ電位を生ずるフィルターを用いることで、ワンパスろ過であっても触媒成分を充分に除去できる。さらに触媒成分を除去する必要がある場合には、循環ろ過を行う。
粗製ポリエーテルをフィルターに通過させる回数は、生産性および除去率の点で、1〜5回が好ましい。
【0054】
本発明の製造方法による触媒成分の除去率は、80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。触媒成分の除去率は、以下のように求める。
複合金属シアン化物錯体触媒、ルイス酸触媒、アルカリ金属化合物触媒およびアルカリ土類金属化合物触媒等、金属を含む重合触媒を用いた場合、フィルター通過前後のポリエーテル中に含まれる金属量をJIS K 0121に示された原子吸光分析に準拠して測定し、触媒成分の除去率を算出する。
P=N結合を有する化合物触媒等、金属を含まない重合触媒を用いた場合、JIS K 1557に示されたポリエーテルポリオールのCPR分析法に準拠して、フィルター通過前後のCPR値を測定し、触媒成分の除去率を算出する。
【0055】
本発明の製造方法で得られたポリエーテルは、触媒成分が少なく、ポリウレタンの原料、界面活性剤、その原料、作動油等のオイル、その原料等として用いることができる。
ポリエーテルの分子量は、フィルターに通過させる条件で液体となるような分子量が好ましく、500〜100000がより好ましい。
ポリエーテルの官能基数は、1〜8が好ましく、1〜6がより好ましい。官能基数が8を超えると、該ポリエーテルを用いたポリウレタン、作動油等の物性が悪化するおそれがある。
【0056】
ポリエーテルの水酸基価は、400mgKOH/g以下が好ましく、100mgKOH/g以下がより好ましい。ポリウレタン、作動油等の原料として用いる場合、ポリエーテルの水酸基価は、4〜400mgKOH/gが好ましく、4〜100mgKOH/gが好ましい。水酸基価は、JIS K 1557で規定された下記式で表される値である。
水酸基価=56100×官能基数/ポリエーテルの分子量。
【0057】
ポリエーテルには、酸化防止剤等の安定剤を添加してもよい。安定剤は、粗製ポリエーテルに添加してもよく、精製したポリエーテルに添加してもよい。添加方法は、一括で全量を添加する方法であってもよく、二回以上に分けて添加する方法であってもよい。安定剤の添加量は、ポリエーテル100質量部に対し0.01〜10質量部が好ましい。
【0058】
酸化防止剤としては、たとえば、ブチルヒドロキシアニソール、tert−ブチルヒドロキシトルエン、1,3,5−トリメチルー2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス〔2−〔3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニロキシ〕−1,1−ジメチルエチル〕−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、ジステアリルチオジプロピオネート等が挙げられる。
【0059】
以上説明した本発明のポリエーテルの製造方法にあっては、触媒成分を含む粗製ポリエーテルを、プラスのゼータ電位を生じるフィルターに通過させるため、プラスのゼータ電位を生じない、同程度の触媒成分の除去率を持つフィルターに比べて、フィルター孔径を大きくしても触媒成分を充分に除去できる。よって、短時間で触媒成分を除去でき、生産性がよい。また、触媒成分の除去が一工程で済むため、低コストであり、かつ簡便である。さらに、吸着剤を用いないため、発生する廃棄物が少ない。
【0060】
プラスのゼータ電位を生じるフィルターを用いることによって、フィルター孔径を大きくしても触媒成分を充分に除去できる理由としては、以下のことが考えられる。
プラスのゼータ電位を生じるフィルターとは、上述したように、水中に浸漬した際に水素イオン(H+ )を吸着し、プラスに荷電されるフィルターである。該フィルターを、水中に浸漬させることなく、粗製ポリエーテルに浸漬させた場合、水素イオン(H+ )の代わりに、粗製ポリエーテルに含まれるプラスに荷電された成分を吸着する。たとえば、複合金属シアン化物錯体触媒、ルイス酸触媒、アルカリ金属化合物触媒およびアルカリ土類金属化合物触媒等、金属を含む重合触媒を用いた場合、触媒成分中の金属成分を吸着する。このように、プラスのゼータ電位を生ずるフィルターを用いることにより、静電的な吸着効果を用いた触媒成分の捕捉ができ、フィルター孔径を大きくしても、フィルター孔径よりも小さな触媒成分まで除去できる。一方、プラスのゼータ電位を生じないフィルターは、孔径サイズによって物理的に触媒成分を除去するため、細かい触媒成分を捕捉しようとした場合、差圧が高くなり、生産性が低下する。
【0061】
<ポリウレタンの製造方法>
本発明のポリウレタンの製造方法は、本発明のポリエーテルの製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させることを特徴とする。
ポリエーテルとしては、ポリエーテルポリオールが用いられる。
【0062】
ポリイソシアネートとしては、イソシアネート基を2以上有する芳香族系、脂環族系、脂肪族系等のポリイソシアネート;該ポリイソシアネートの2種類以上の混合物;これらを変性して得られる変性ポリイソシアネート等が挙げられる。ポリイソシアネートとしては、たとえば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(通称:クルードMDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)等が挙げられる。変性ポリイソシアネートとしては、ポリイソシアネートのプレポリマー型変性体、イソシアヌレート型変性体、ウレア型変性体、カルボジイミド型変性体等が挙げられる。
【0063】
必要に応じてウレタン化触媒を用いてもよい。ウレタン化触媒としては、従来公知の触媒が挙げられ、たとえば、トリエチレンジアミン、ビス−((2−ジメチルアミノ)エチル)エーテルのジプロピレングリコール溶液、モルホリン類等の脂肪族アミン類;オクタン酸錫、ジブチル錫ジラウレート等の有機錫化合物等が挙げられる。
【0064】
<イソシアネート基末端プレポリマーの製造方法>
本発明のイソシアネート基末端プレポリマーの製造方法は、本発明のポリエーテルの製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させることを特徴とする。
イソシアネート基末端プレポリマーは、ポリエーテルに対し、化学量論的過剰量のポリイソシアネートを反応させることにより製造できる。ポリエーテルとポリイソシアネートを、乾燥窒素気流下、溶媒の存在下または非存在下で、任意にウレタン化触媒の存在下に、60〜100℃で1〜30時間加熱反応することによって製造できる。
【0065】
ポリエーテルとしては、ポリエーテルポリオールが用いられる。
ポリイソシアネートとしては、上述のポリイソシアネートが挙げられる。
必要に応じてウレタン化触媒を用いてもよい。ウレタン化触媒としては、上述のウレタン化触媒が挙げられる。
【0066】
<ポリウレタンフォームの製造方法>
本発明のポリウレタンフォームの製造方法は、本発明のポリエーテルの製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを、発泡剤、ウレタン化触媒、整泡剤の存在下に反応させることを特徴とする。
【0067】
ポリエーテルとしては、ポリエーテルポリオールが用いられる。
ポリイソシアネートとしては、上述のポリイソシアネートが挙げられる。
ウレタン化触媒としては、上述のウレタン化触媒が挙げられる。
発泡剤としては、水、不活性ガス等が挙げられる。
整泡剤としては、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤等が挙げられる。
【0068】
以上説明したポリウレタン、イソシアネート基末端プレポリマーおよびポリウレタンフォームの製造方法にあっては、様々な悪影響を及ぼす触媒成分が充分に除去されたポリエーテルを用いているため、ポリウレタン、イソシアネート基末端プレポリマーおよびポリウレタンフォームを安定して製造できる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(pH)
ポリエーテルポリオールのpHは、JIS K 1557に従い測定した。
(粘度)
ポリエーテルポリオールの粘度は、JIS K 1557に従い測定した。
(水酸基価)
ポリエーテルポリオールの水酸基価は、JIS K 1557に従い測定した。
(分子量)
ポリエーテルポリオールの水酸基価と分子量には下記関係式が成立する。
ポリエーテルポリオールの分子量=56100×官能基数/水酸基価。
上記関係式から分子量を算出できる。
【0070】
(金属量)
ポリエーテルポリオールに含まれる金属量は、以下のようにして測定した。
ポリエーテルポリオール20gを白金皿に秤量し、ガスバーナーを用いて燃焼、灰化された後、さらに600℃の電気炉にて完全に灰化させ、灰化残渣を6N塩酸2mlに溶解させ、蒸留水にて100mlに定容した。灰化残渣の金属量は、原子吸光光度計(島津製作所社製、AA−6200)を用いて測定した。金属量の定量は、金属標準液で作成した検量線から求めた。
【0071】
(CPR値)
ポリエーテルポリオールのCPR値は、JIS K 1557に準拠して測定した。
【0072】
(触媒成分の除去率)
複合金属シアン化物錯体触媒、ルイス酸触媒、アルカリ金属化合物触媒およびアルカリ土類金属化合物触媒等、金属を含む重合触媒を用いた場合、フィルター通過前後のポリエーテル中に含まれる金属量をJIS K 0121に示された原子吸光分析に準拠して測定し、下式にて触媒成分の除去率を算出した。
触媒成分の除去率=((C−D)/C)×100。
ただし、Cは粗製ポリエーテルポリオール中の金属量であり、Dは精製ポリエーテルポリオール中の金属量である。
【0073】
P=N結合を有する化合物触媒等、金属を含まない重合触媒を用いた場合、JIS K 1557に示されたポリエーテルポリオールのCPR分析法に準拠して、フィルター通過前後のCPR値を測定し、下式にて触媒成分の除去率を算出した。
触媒成分の除去率=((E−F)/E)×100。
ただし、Eは粗製ポリエーテルポリオール中のCPR値であり、Fは精製ポリエーテルポリオール中のCPR値である。
【0074】
(透過速度)
透過速度は、下式から求めた。
透過速度[kg/(m2 ・分)]=(フィルターを透過した精製ポリエーテルポリオール量[g]×60)/(フィルターのろ過面積[m2 ]×透過に要した時間[秒]×1000)。
【0075】
(ゼータ電位)
フィルターから1×5cmのサンプルを切り取り、該サンプルをさらにハサミで細かく切断した後、得られた破片を0.01Mの塩化カリウム溶液に一晩浸漬した。破片を塩化カリウム溶液に浸漬した状態で、30分間真空引きし、破片に含まれる空気を除去した。破片を浸漬した溶液のpHを測定した。破片を浸漬した溶液について、CAD社製の流動電位方式ゼータ電位測定装置(Zeta CAD)を用いてゼータ電位を測定した。測定用セルとしては、内径15×5cmのガラス製円筒セルにろ紙を詰めたものを用いた。ゼータ電位の測定は2回行い、2回の平均値を求めた。
【0076】
(製造例1)
複合金属シアン化物錯体触媒として、tert−ブタノールを配位子として含む亜鉛ヘキサシアノコバルテートを用い、開始剤として2官能のポリエーテルポリオール(分子量700)を用いて、プロピレンオキシドを開環重合することによって、分子量2000(水酸基価として56.1mgKOH/g)の粗製ポリエーテルポリオール(p1)を得た。該粗製ポリエーテルポリオール(p1)には、亜鉛(Zn)8.8ppm、コバルト(Co)2.6ppm、ZnとCoの合計11.4ppmが含まれていた。該粗製ポリエーテルポリオール(p1)のpHは7.3であり、粘度は330mPa・s/25℃であった。
【0077】
(製造例2)
複合金属シアン化物錯体触媒として、tert−ブタノールを配位子として含む亜鉛ヘキサシアノコバルテートを用い、開始剤として3官能のポリエーテルポリオール(分子量1000)を用いて、プロピレンオキシドを開環重合することによって、分子量10000(水酸基価として16.8mgKOH/g)の粗製ポリエーテルポリオール(p2)を得た。該粗製ポリエーテルポリオール(p2)には、亜鉛(Zn)9.2ppm、コバルト(Co)2.2ppm、ZnとCoの合計11.4ppmが含まれていた。該粗製ポリエーテルポリオール(p2)のpHは7.2であり、粘度は4500mPa・s/25℃であった。
【0078】
(製造例3)
アルカリ金属触媒として水酸化セシウム(キャボット社製、50%水溶液品)を用い、開始剤として2官能のポリエーテルポリオール(分子量700)を用いて、プロピレンオキシドを開環重合することによって、分子量2000(水酸基価として56.1mgKOH/g)の粗製ポリエーテルポリオール(p3)を得た。該粗製ポリエーテルポリオール(p3)には、セシウム(Cs)7100ppmが含まれていた。該粗製ポリエーテルポリオール(p3)のpHは13.8であり、粘度は330mPa・s/25℃であった。
【0079】
(製造例4)
ルイス酸触媒に由来する触媒成分を含む粗製ポリエーテルポリオールは、特開2000−344881号公報に記載された方法に従って製造した。
ルイス酸触媒としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボランを用い、開始剤として3官能のポリエーテルポリオール(分子量1000)を用いて、プロピレンオキシドを開環重合することによって、分子量3000(水酸基価として56.1mgKOH/g)の粗製ポリエーテルポリオール(p4)を得た。該粗製ポリエーテルポリオール(p4)には、ホウ素(B)120ppmが含まれていた。該粗製ポリエーテルポリオール(p4)のpHは3.5であり、粘度は490mPa・s/25℃であった。
【0080】
(製造例5)
P=N結合を有する化合物触媒に由来する触媒成分を含むポリエーテルポリオールは、特開平11−106500号公報に記載された方法に従って製造した。
P=N結合を有する化合物触媒として、Fluka社製のテトラキス(トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ)ホスホニウムクロライドをイオン交換樹脂により、テトラキス(トリス(ジメチルアミノ)ホスフォラニリデンアミノ)ホスホニウムヒドロキシドにイオン交換したものを用いた。開始剤としてグリセリンを用い、プロピレンオキシドおよびエチレンオキシドをランダムに開環重合することにより、オキシエチレン基含有量13.6質量%、分子量7000(水酸基価として24.0mgKOH/g)の粗製ポリエーテルポリオール(p5)を得た。該粗製ポリエーテルポリオール(p5)のCPR値は、51.3であった。該粗製ポリエーテルポリオール(p5)のpHは13.2であり、粘度は1400mPa・s/25℃であった。
【0081】
(実施例1)
粗製ポリエーテルポリオール(p1)の5500gを反応槽に仕込み、反応槽内を窒素にて置換した。粗製ポリエーテルポリオール(p1)を80℃に加温した後、反応槽を0.3MPaに加圧した。バルブ構造を有する、反応槽の製品抜き出し口とフィルターハウジング(Advantec社製、1本用ステンレスハウジング、1TSタイプ)の入り口とをフレキシブルホースを用いて接続した。フィルターハウジング出口にもフレキシブルホースを接続し、このフレキシブルホースから精製ポリエーテルポリオールを石油缶へ抜き出せるようにした。粗製ポリエーテルポリオール(p1)のフィルター通過時には、石油缶へ不活性ガスを吹き込み、水分の上昇を避けるようにした。
【0082】
フィルターハウジングに、プラスのゼータ電位を生ずるカートリッジフィルター(1)(日本ポール社製、ウルチポアGFプラスU010Z、フィルターサイズ:長さ249mm×外径70mm、ろ過面積0.5m2 )を1本装着した後、反応槽の製品抜き出し口のバルブを開き、反応槽内の粗製ポリエーテルポリオール(p1)をフィルターハウジングへ送液し、0.3MPaの差圧でワンパスろ過することにより精製ポリエーテルポリオール4710gを得た。透過に要した時間は65秒であった。
【0083】
(実施例2)
フィルターハウジングに、プラスのゼータ電位を生ずるカートリッジフィルター(2)(日本ポール社製、ウルチポアGFプラスU2−20Z、フィルターサイズ:長さ249mm×外径70mm、ろ過面積0.65m2 )を1本装着した後、実施例1と同様にして、粗製ポリエーテルポリオール(p1)をワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4640gを得た。透過に要した時間は60秒であった。
【0084】
(実施例3)
粗製ポリエーテルポリオール(p2)を用い、実施例1と同様にして、ワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4510gを得た。透過に要した時間は70秒であった。
【0085】
(実施例4)
粗製ポリエーテルポリオール(p3)を用い、実施例1と同様にして、ワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4600gを得た。透過に要した時間は89秒であった。
【0086】
(実施例5)
粗製ポリエーテルポリオール(p4)を用い、実施例1と同様にして、ワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4700gを得た。透過に要した時間は71秒であった。
【0087】
(実施例6)
粗製ポリエーテルポリオール(p5)を用い、実施例1と同様にして、ワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4680gを得た。透過に要した時間は73秒であった。
【0088】
(比較例1)
フィルターハウジングに、プラスのゼータ電位を生じないカートリッジフィルター(3)(ロキテクノ社製、スロープピュアフィルターカートリッジSLPタイプ250−SLP−005、フィルターサイズ:長さ250mm×外径70mm、ろ過面積0.24m2 )を1本装着した後、実施例1と同様にして、粗製ポリエーテルポリオール(p1)をワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4530gを得た。透過に要した時間は168秒であった。
【0089】
(比較例2)
フィルターハウジングに、プラスのゼータ電位を生じないカートリッジフィルター(4)(ロキテクノ社製 スロープピュアフィルターカートリッジSLPタイプ250−SLP−010、フィルターサイズ:長さ250mm×外径70mm、ろ過面積0.24m2 )を1本装着した後、比較例1と同様にして、粗製ポリエーテルポリオール(p1)をワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4490gを得た。透過に要した時間は134秒であった。
【0090】
(比較例3)
粗製ポリエーテルポリオール(p2)を用い、比較例1と同様にして、ワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4570gを得た。透過に要した時間は446秒であった。
【0091】
(比較例4)
粗製ポリエーテルポリオール(p3)を用い、比較例1と同様にして、ワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4480gを得た。透過に要した時間は225秒であった。
【0092】
(比較例5)
粗製ポリエーテルポリオール(p4)を用い、比較例1と同様にして、ワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4570gを得た。透過に要した時間は217秒であった。
【0093】
(比較例6)
粗製ポリエーテルポリオール(p5)を用い、比較例1と同様にして、ワンパスろ過し、精製ポリエーテルポリオール4510gを得た。透過に要した時間は279秒であった。
【0094】
実施例1〜6および比較例1〜6で用いたフィルターの特性を表1に示す。
実施例1〜6および比較例1〜6の結果を表2および表3に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
【表2】

【0097】
【表3】

【0098】
表2および表3に示すように、比較例1〜6に比べて、実施例1〜6は、透過速度が高く、また触媒成分の除去率も高かった。該効果は、粗製ポリエーテルポリオールの分子量が大きくなるほど顕著に現れた。このように、プラスのゼータ電位を生ずるフィルターを粗製ポリエーテルポリオールの精製に用いることによって、他のフィルターに比べて、生産性よく、かつ高い触媒成分の除去率にてポリエーテルポリオールを製造できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明のポリエーテルの製造方法によれば、触媒成分が充分に除去されたポリエーテルを生産性よく、低コストで、かつ簡便な方法で得ることができ、しかも発生する廃棄物が少ない。また、本発明の製造方法によって得られたポリエーテルは、ポリウレタン原料に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒成分を含む粗製ポリエーテルを、プラスのゼータ電位を生じるフィルターに通過させる、ポリエーテルの製造方法。
【請求項2】
フィルターが、0mVを超えて+30mV以下のゼータ電位を生じるフィルターである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
フィルターの絶対ろ過精度が、0.1〜5μmである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
フィルターが、グラスファイバー、コットン、ポリプロピレンおよびセルロースからなる群から選ばれる1種以上のろ材に樹脂バインダーをコーティングしたものである、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
粗製ポリエーテルをフィルターに通過させる際の差圧が、0〜0.55MPaであり、通過速度が、3〜50kg/(m2 ・分)である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
粗製ポリエーテルの温度が、60〜135℃である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
粗製ポリエーテルのpHが、3〜14である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
粗製ポリエーテルが、重合触媒および開始剤の存在下、ヘテロ環状化合物を開環重合させて得られたものである、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
重合触媒が、複合金属シアン化物錯体触媒、ルイス酸触媒、P=N結合を有する化合物触媒、アルカリ金属化合物触媒およびアルカリ土類金属化合物触媒からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させる、ポリウレタンの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを反応させる、イソシアネート基末端プレポリマーの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法により得られたポリエーテルとポリイソシアネートとを、発泡剤、ウレタン化触媒、整泡剤の存在下に反応させる、ポリウレタンフォームの製造方法。

【公開番号】特開2007−297475(P2007−297475A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125428(P2006−125428)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】