説明

ポリオレフィン系グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物およびそれらの製造方法

【課題】 マクロモノマーのラテックス中で後周期遷移金属系の配位重合触媒によりオレフィン系モノマーを重合させて製造されるポリオレフィン系グラフト共重合体において、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂に配合した際に耐衝撃性に優れた組成物を与えるポリオレフィン系グラフト共重合体およびその製造方法を提供する。さらには、該共重合体を含む組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 マクロモノマーのラテックス中で後周期遷移金属系の配位重合触媒によりオレフィン系モノマーを重合させて製造されるポリオレフィン系グラフト共重合体において、マクロモノマーの粒子径を特定の範囲にすることで組成物の耐衝撃性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロモノマーのラテックス中で配位重合触媒によりオレフィン系モノマーを重合させて製造されるポリオレフィン系グラフト共重合体、熱可塑性樹脂組成物およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は工業的には配位重合により製造されている。オレフィンの配位重合触媒としては、チーグラーナッタ触媒、メタロセン触媒が有名である。が、このような前周期遷移金属系の配位重合触媒を用いる場合、極性化合物が錯体や触媒活性種と反応あるいは配位して、その活性を失わせたり分解したりする問題があった。そのため、ポリオレフィンに極性官能基を持つモノマーを共重合して機能性を付与することや、乳化重合系でオレフィン重合を行うことは困難であった。
【0003】
極性化合物に対する耐性が高い配位重合触媒としては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が知られている。各種総説中(例えば非特許文献1、2、3参照)に例示されるように、極性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、エーテル、アセトン、酢酸エチル、水の存在下でも活性を失わずにポリオレフィンを重合でき、極性モノマー、例えばアクリル酸アルキル等の極性ビニル系モノマーとの共重合体を得ることもできる。しかし、これらの触媒を用いてもポリオレフィンと共重合できる極性モノマーの量には限界があった。極性モノマーの含量の多いポリオレフィン共重合体を得る技術が待望されていた。
【0004】
これらの問題を解決するべく、例えば、前周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、アクリル酸エステル重合体にオレフィンを重合反応させてグラフト共重合体を製造する技術等がある(例えば特許文献1参照)。このポリオレフィン系グラフト共重合体はポリオレフィンへの極性付与剤として機能しうるが、耐衝撃性については必ずしも十分ではなかった。
【特許文献1】特開2003−335828
【非特許文献1】ケミカル・レビュー(Chemical Revew),2000年,100巻,1169頁
【非特許文献2】有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁
【非特許文献3】アンゲバンテ・ケミー国際版(Angewandte Chemie International Edition),2002年,41巻,544頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、マクロモノマーのラテックス中で後周期遷移金属系の配位重合触媒によりオレフィン系モノマーを重合させて製造されるポリオレフィン系グラフト共重合体において、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂に配合した際に耐衝撃性に優れた組成物を与えるポリオレフィン系グラフト共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、特定の粒子径を有するビニル系マクロモノマーを原料に用いることで組成物の耐衝撃性が向上することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、マクロモノマーのラテックス中で後周期遷移金属系の配位重合触媒によりオレフィン系モノマーを重合させて製造されるポリオレフィン系グラフト共重合体において、マクロモノマーの粒子径が1〜5μmであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体(請求項1)。
【0008】
マクロモノマーが(メタ)アクリル系マクロモノマーであることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体(請求項2)。
【0009】
マクロモノマーがアクリル酸ブチル系マクロモノマーであることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体(請求項3)。
【0010】
後周期遷移金属系の配位重合触媒が2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる後周期遷移金属とからなる錯体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体(請求項4)。
【0011】
オレフィン系モノマーが炭素数2〜20のα―オレフィンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体(請求項5)。
【0012】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体の製造方法(請求項6)。
【0013】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体と他の熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物(請求項7)。
【0014】
請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法(請求項8)。に関する。
【発明の効果】
【0015】
特定粒子径のマクロモノマーラテックスにオレフィンモノマーを重合させて得られるポリオレフィン系グラフト共重合体であり、熱可塑性樹脂に配合することにより得られる成型体の耐衝撃強度が良好な組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明は、マクロモノマーのラテックス中で配位重合触媒によりオレフィン系モノマーをマクロモノマーと共重合させて得られるポリオレフィン系グラフト共重合体とその製造方法に関するものである。さらには、ポリオレフィン系グラフト共重合体を含有する熱可塑製樹脂組成物とその製造方法に関するものである。なお、本発明で言うポリオレフィン系グラフト共重合体とは、オレフィンとマクロモノマーとをグラフト共重合させて得られる共重合体のことである。本発明で言うマクロモノマーとは、オリゴマーまたはポリマーであって、他のモノマーと共重合しうる官能基を有するものをいう。
【0018】
一般的なマクロモノマーの主鎖構造、層構造、官能基の導入位置には様々な種類のものが知られている。主鎖構造は直鎖状、環状、分岐状、架橋粒子、非架橋粒子、単層構造粒子、多層構造粒子、多相構造粒子など様々な構造のものが知られている。官能基の導入位置は主鎖中、側鎖中、直鎖状分子の片末端または両末端、単層構造または多層構造粒子の内部または粒子表面など様々な種類のものが知られている。
【0019】
本発明で用いられるマクロモノマーは、架橋剤(1分子あたり2個以上の炭素−炭素二重結合を有する多官能性モノマー)の使用量が特定の範囲であることを特徴とする架橋粒子である。本発明で用いられるマクロモノマーは、単一の層だけをもつ均一な粒子であっても良く、複数の層からなる多層構造粒子であっても良い。ゴム状重合体のコア層の周囲に硬質重合体のシェル層を持つコアシェル2層構造であってもよく、マトリクス樹脂相の中に他の樹脂相が分散したサラミ状の多相構造であっても良い。
【0020】
一般的なマクロモノマーの製造方法はアニオン重合、カチオン重合、ラジカル重合、配位重合、重縮合、開環重合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など様々な方法が知られている。本発明に用いられるマクロモノマーの製造方法としてはいずれの重合方法でも良いが、本発明においてはマクロモノマーをラテックスの状態でオレフィンと共重合させるため、ミクロ懸濁重合または乳化重合が特に好ましい。
【0021】
本発明で用いられるマクロモノマーは、ビニル系マクロモノマーである。物性のバランスの面から、ビニル系マクロモノマーの中でも(メタ)アクリル系マクロモノマーが特に好ましい。なお、本発明で言うビニル系マクロモノマーとは、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、ジエン化合物、シアン化ビニル化合物、ビニルエステルなどに代表されるビニル系モノマーの重合体を主成分とするマクロモノマーのことである。本発明で言う(メタ)アクリル系マクロモノマーとは、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするマクロモノマーのことである。(メタ)アクリルとは、メタクリルおよびアクリルの両方を意味する。
【0022】
本発明で用いられるビニル系マクロモノマーは、(A)ビニル系モノマー(以下化合物(A)という)と(B)1分子あたり2個以上の炭素−炭素二重結合を有する多官能性モノマー(以下化合物(B)という)とを公知の方法で共重合させて製造することができる。各成分の好ましい使用量は、化合物(A)は好ましくは99〜99.99重量%、さらに好ましくは99.5〜99.9重量%である。化合物(B)は、好ましくは0.01〜1重量%、さらに好ましくは0.1〜0.5重量%である。
【0023】
ただし、化合物(A)と化合物(B)の合計は100重量%である。化合物(B)の使用量が多すぎると、これをオレフィン系モノマーと共重合させて得られるポリオレフィン系グラフト共重合体をポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂に配合した組成物の耐衝撃性が低くなることがあるため、好ましくない。化合物(B)の使用量が少なすぎると、オレフィン系モノマーとのグラフト効率が低くなることがある。
【0024】
化合物(A)はビニル系マクロモノマーの主骨格を形成するための成分である。化合物(A)の具体例としては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メトキシトリプロピレングリコールなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸およびその酸無水物およびその金属塩;スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレンなどの芳香族ビニル化合物;1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン化合物;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル系化合物;酢酸ビニル、ビニルエチルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
これらの中で、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸グリシジル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ステアリルなどの炭素数2〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらに好ましくはアクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸2−メトキシエチルが特に好ましい。
また、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを50重量%以上用いた(メタ)アクリル系マクロモノマー、更にはアクリル酸ブチルエステルを50重量%以上用いたアクリル酸ブチル系マクロモノマーが特に好ましい。
【0026】
化合物(B)はマクロモノマーの分子中に架橋点を作るための成分であり、また、マクロモノマー中にオレフィン系モノマーと共重合しうる炭素−炭素二重結合を導入するための成分である。化合物(B)が持つ炭素−炭素二重結合は、全て同じ基であっても良く、異なる基であっても良い。好ましくは、分子内に少なくとも1つのラジカル重合性炭素−炭素二重結合および少なくとも1つの配位重合性炭素−炭素二重結合を併せ持つか、分子内に少なくとも2つのラジカル重合性と配位重合性を併せ持つ炭素−炭素二重結合を持つことが好ましい。
【0027】
ラジカル重合性を持つ炭素−炭素二重結合を含む官能基の具体例としては、ビニル基、ビニリデン基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリル基など、様々なものが知られている。反応性が高いという点および配位重合触媒を失活させにくいという点から、特に(メタ)アクリル基およびアリル基が好ましい。配位重合性を持つ炭素−炭素二重結合を含む官能基の具体例としては、たとえばアリル基、環状オレフィン、スチリル基、(メタ)アクリル基などがあげられる。反応性が高いという点から、アリル基またはジシクロペンテニル基に含まれる炭素−炭素二重結合が特に好ましい。
【0028】
化合物(B)の具体例としては、たとえばメタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、フタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、エチレングリコールジアクリレート、メタクリル酸エチレングリコールジシクロペンテニルエーテル、などがあげられるが、これらに限定されるものではない。これらの中で、メタクリル酸アリルおよびメタクリル酸エチレングリコールジシクロペンテニルエーテルが特に好ましい。これら化合物(B)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明に用いられるビニル系マクロモノマーは、通常の乳化重合法またはミクロ懸濁重合法によりラジカル(共)重合させて製造し、ラテックスとして得ることができる。
【0030】
重合に際し、原料の全量を一度に仕込んでもよく、また一部を仕込んだ後に残りを連続的または間欠的に追加してもよい。例えば化合物(A)を反応させた後に化合物(B)を加えて反応させることにより、配位重合性炭素−炭素二重結合がビニル系マクロモノマー粒子の表層部に偏在した構造を設計することができる。また、あらかじめ化合物(A)および/または化合物(B)を乳化剤と水で乳化してから追加する方法や、化合物(A)および/または化合物(B)とは別に乳化剤または乳化剤の水溶液などを連続または分割して追加する方法等が採用できる。
【0031】
ミクロ懸濁重合または乳化重合に用いる水の量についてはとくに制限は無く、化合物(A)および化合物(B)を乳化させるために必要な量であれば良く、通常化合物(A)および化合物(B)の合計量に対して1〜20倍の重量を用いれば良い。使用する水の量が少なすぎると、疎水性成分の割合が多すぎてエマルジョンが油中水型から水中油型へ転相せず、水が連続層となりにくい。使用する水の量が多すぎると安定性に乏しくなる上、生産における効率が低くなる。
【0032】
ミクロ懸濁重合または乳化重合に用いる乳化剤は公知のものを使うことができ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれの乳化剤も特に限定なく使うことができる。乳化能が良好であるという点から、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルキル硫酸のアルカリ金属塩、アルキルスルホコハク酸のアルカリ金属塩などのアニオン性乳化剤が好ましい。該乳化剤の使用量には特に限定がなく、目的とするビニル系マクロモノマーの平均粒子径などに応じて適宜調整すればよいが、好ましくは化合物(A)および化合物(B)の合計100重量部に対し10重量部以下である。多すぎると、得られるポリオレフィン系グラフト共重合体を熱可塑性樹脂と配合した組成物に着色が生じることがある。
【0033】
ビニル系マクロモノマーの平均粒子径は、乳化剤の使用量の増減などの公知の技術を用いて制御することが可能である。共重合後に得られるポリオレフィン系グラフト共重合体をポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂と配合した時に良好な分散性や得られた組成物の耐衝撃性を示すという点から、ビニル系マクロモノマーの平均粒子径(体積平均粒子径)は好ましくは1〜5μm、さらに好ましくは1.25〜3μmの範囲内であることが望ましい。
【0034】
ミクロ懸濁重合に用いる分散剤は、公知のものを使うことができる。具体例としてはリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、澱粉末シリカ等の水難溶性無機化合物;ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のノニオン系高分子化合物;ポリアクリル酸およびその塩、ポリメタクリル酸およびその塩、メタクリル酸エステルとメタクリル酸およびその塩との共重合体等のアニオン系高分子化合物などがあげられる。
【0035】
ミクロ懸濁重合に用いる重合開始剤は特に限定なく公知のものを使うことができる。例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリルなどのアゾ化合物および、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物があげられる。
【0036】
乳化重合に用いる重合開始剤は特に限定なく公知のものを使うことができる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのアルキルハイドロパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化ジアシル;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイトなどの過酸化ジアルキル;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、などが挙げられる。これらのうち、過硫酸塩およびアルキルハイドロパーオキサイドが好ましい。
【0037】
また、これら開始剤は、熱分解的な方法の他に、重合開始剤並びに賦活剤(金属塩または金属錯体)、キレート剤、還元剤とからなるレドックス触媒として用いることもできる。重合開始剤は熱分解的な方法でもレドックス系触媒を用いる方法でも良い。熱分解的な方法は、還元剤や賦活剤などの添加物を加える必要がないので、金属イオン含量の少ない重合体を得るのに適している。レドックス系触媒を用いる方法は、低い反応温度でも高い反応率が得られ反応の制御が容易となる利点がある。
【0038】
レドックス触媒を構成する還元剤としては例えばグルコース、デキストロース、スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸などが好ましく使用できる。安価で活性が高いという点から、このうちスルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒドが特に好ましい。
【0039】
レドックス触媒を構成するキレート剤としてはエチレンジアミン四酢酸塩などのポリアミノカルボン酸塩、クエン酸などのオキシカルボン酸類、縮合リン酸塩など水溶性キレート化合物を形成するもの、およびジメチルグリオキシム、オキシン、ジチゾンなど油溶性キレート化合物を形成するものが挙げられる。これらの中でエチレンジアミン四酢酸塩などのポリアミノカルボン酸塩およびクエン酸などのオキシカルボン酸類が好ましい。
【0040】
レドックス触媒を構成する賦活剤としては例えば鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウム、コバルトなどの金属塩または金属キレートを挙げる事ができ、好ましい例としては例えば硫酸第一鉄、硫酸銅、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムなどが挙げられる。賦活剤とキレート剤は、別々の成分として用いても良く、予め反応させて金属錯体として用いても良い。
【0041】
開始剤、賦活剤、キレート剤、還元剤の組み合わせに特に限定は無く、それぞれ任意に選べば良い。賦活剤/還元剤/キレート剤の組み合わせの好ましい例としては例えば硫酸第一鉄/グルコース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸、硫酸銅/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸などの組み合わせがあり、とくに好ましい組み合わせとしては硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0042】
開始剤の好ましい使用量は化合物(A)および化合物(B)の合計100重量部に対して0.005〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部である。キレート剤の好ましい使用量は化合物(A)および化合物(B)の合計100重量部に対して0.005〜5重量部、さらに好ましくは0.01〜3重量部である。賦活剤の好ましい使用量は化合物(A)および化合物(B)の合計100重量部に対して0.005〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部である。使用量がこの範囲である時、重合速度が充分速く、かつ生成物の着色や析出が少なく抑えられるため好ましい。
【0043】
ミクロ懸濁重合または乳化重合には必要に応じて連鎖移動剤を用いても良い。該連鎖移動剤は特に限定なく公知のものを使うことができる。具体例としてはt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンなどが挙げられる。
【0044】
ミクロ懸濁重合または乳化重合時の反応温度に特に制限はないが、0〜100℃、好ましくは30〜95℃であるのが好ましい。反応時間についても特に制限はないが、通常、10分〜24時間、好ましくは30分〜12時間、さらに好ましくは1時間〜6時間である。
【0045】
次に、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を製造するための触媒について説明する。
【0046】
本発明においては、ポリオレフィン系グラフト共重合体を製造するための触媒として配位重合触媒を用いる。配位重合触媒とは、配位重合を促進する触媒である。本発明に用いる配位重合触媒は、水および極性化合物の共存下でオレフィン重合活性を有する配位重合触媒であれば特に制限は無く用いることができる。
【0047】
好ましい例としては、ケミカル・レビュー(Chemical Review),2000年,100巻,1169−1203頁、ケミカル・レビュー(Chemical Review),2003年,103巻,283−315頁、有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁、アンゲバンテ・ケミー国際版(Angewandte Chemie International Edition),2002年,41巻,544−561頁、アンゲバンテ・ケミー国際版(Angewandte Chemie International Edition),2005年,44巻,429−432頁、ケミカルコミュニケーション(Chem.Commun.),2000年,301頁、Macromol.Symp.2000年,150巻,53頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules),2003年,36巻,6711−6715頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules),2001年,34巻,1165−1171頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules),2001年,34巻,2022−2026頁に記載されているものや、WO97/17380、WO97/48740に記載されているものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
その中でも合成が簡便という点で、2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる後周期遷移金属とからなる錯体であることが好ましく、さらに好ましくはα−ジイミン型の配位子と周期表10族から選ばれる後周期遷移金属とからなる錯体であることがさらに好ましく、さらに特に好ましくは助触媒と反応後、下記一般式(1)、または一般式(2)で示される構造の種(活性種)が好適に使用される。
【0049】
【化1】

【0050】
(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R,Rは各々独立して水素原子、またはメチル基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)
【0051】
【化2】

【0052】
(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)
,Rで表される炭素数1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−ブチル基などが好ましく、さらに好ましくはメチル基、イソプロピル基が好ましい。
【0053】
Xで表されるMに配位可能な分子としては、ジエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、水、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどの極性化合物を例示することができるが、なくてもよい。またRがヘテロ原子、特にエステル結合等のカルボニル酸素を有する場合には、このカルボニル酸素がXとして配位してもよい。また、オレフィンとの重合時には、該オレフィンが配位する形になることが知られている。
【0054】
また、Lで表される対アニオンは、α−ジイミン型の配位子と遷移金属とからなる触媒と助触媒の反応により、カチオン(M)と共に生成するが、溶媒中で非配位性のイオンペアを形成できるものならばいずれでもよい。
【0055】
両方のイミン窒素に芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子、具体的には、ArN=C(R)−C(R)=NArで表される化合物は、合成が簡便で、活性が高いことから好ましい。R、Rは炭化水素基であることが好ましく、特に、水素原子、メチル基、および一般式(2)で示されるアセナフテン骨格としたものが合成が簡便で活性が高いことから好ましい。さらに、両方のイミン窒素に置換芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子を用いることが、立体因子的に有効で、ポリマーの分子量が高くなる傾向にあることから好ましい。従って、Arは置換基を持つ芳香族基であることが好ましく、例えば、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニルなどが挙げられる。
【0056】
本発明の後周期遷移金属錯体から得られる活性種中の補助配位子(R)としては、炭化水素基あるいはハロゲン基あるいは水素基が好ましい。後述する助触媒のカチオン(Q)が、触媒の金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合あるいは水素−炭素結合から、ハロゲン等を引き抜き、塩が生成する一方、触媒からは、活性種である、金属−炭素結合あるいは金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合を保有するカチオン(M)が発生し、助触媒のアニオン(L)と非配位性のイオンペアを形成する必要があるためである。
【0057】
を具体的に例示すると、メチル基、クロロ基、ブロモ基あるいは水素基が挙げられ、特に、メチル基あるいはクロロ基が、合成が簡便であることから好ましい。なお、M−ハロゲン結合へのオレフィンの挿入よりM−炭素結合(あるいは水素結合)へのオレフィンの挿入の方がおこりやすいため、触媒の補助配位子として特に好ましいRはメチル基である。
【0058】
さらに、RとしてはMに配位可能なカルボニル酸素を持つエステル結合を有する有機基であってもよく、例えば、酪酸メチルから得られる基が挙げられる。
【0059】
助触媒としては、Qで表現できる。Qとしては、Ag、Li、Na、K、Hが挙げられ、Agがハロゲンの引き抜き反応が完結しやすいことから好ましく、Na、Kが安価であることから好ましい。Lとしては、BF4、B(C4、B(C(CF4、PF6、AsF6、SbF6、(RfSOCH、(RfSOC、(RfSON、RfSOが挙げられる。特に、PF6、AsF6、SbF6、(RfSOCH、(RfSOC、(RfSON、RfSOが、極性化合物に安定な傾向を示すという点から好ましく、さらに、PF6、AsF6、SbFが、合成が簡便で工業的に入手容易であるという点から特に好ましい。
【0060】
活性の高さからは、BF4、B(C4、B(C(CFが、特にB(C4、B(C(CFが好ましい。Rfは複数のフッ素基を含有する炭化水素基である。これらフッ素は、アニオンを非配位的にするために必要で、その数は多いほど好ましい。Rfの例示としては、CF、C、C、C17、Cがあるが、これらに限定されない。またいくつかを組み合わせてもよい。
【0061】
上述の活性化の理由から、後周期遷移金属錯体系触媒/助触媒のモル比は、1/0.1〜1/10、好ましくは1/0.5〜1/2、特に好ましくは1/0.75〜1/1.25である。
【0062】
本発明に用いられる、オレフィン系モノマーは、配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物である。
【0063】
オレフィン系モノマーの好ましい例としては炭素数2〜20のオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン等が挙げられる。
【0064】
この中でもα−オレフィン(末端に炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物)、特に炭素数10以下のα−オレフィンが重合活性の高さから特に好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。これらのオレフィン系モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上使用してもよい。
【0065】
また、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ヘキサジエン、3,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、1,13−テトラデカジエン、1,5−シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、ジメタノオクタヒドロナフタリン、ジシクロペンタジエン等のジエン系モノマーを少量併用してもよい。ジエン系モノマーの使用量はオレフィン系モノマー100重量部に対して好ましくは0〜20重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部である。 オレフィン系モノマーの使用量としては、制限は無いが、分子量の大きい重合体を収率良く得られるという点から、オレフィン系モノマー/活性種がモル比で10〜10、さらには100〜10、とくには1000〜10とするのが好ましい。
【0066】
次に、本発明のグラフト共重合体の製造方法について説明する。
【0067】
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、特定のマクロモノマーのラテックス中に配位重合触媒を分散させ乳化重合的な条件下で製造される。必要に応じて乳化剤や有機溶媒などの添加物を加えても良い。各原料の仕込み順序と方法には特に制限はないが、反応制御の容易さの点から、マクロモノマーのラテックスに配位重合触媒、溶媒、乳化剤などを加えて分散させた後にオレフィン系モノマーを加えるのが好ましい。
【0068】
マクロモノマーのラテックス、オレフィン系モノマーおよび配位重合触媒は、反応容器内に一括して全量を仕込んでも一部を仕込んだ後に残りを連続的にまたは間欠的に追加してもよい。また、そのままの状態または水および乳化剤と混合して乳化液とした状態のいずれで仕込んでもよい。用いるオレフィン系モノマーが液体である場合は、スケールの発生を抑制しうるという点から、モノマーを乳化させてから仕込むことが好ましい。用いるオレフィン系モノマーが反応温度において気体である場合は、気体のまま仕込んでもよいし、または低温で該オレフィン系モノマーを凝集させた液体もしくは凝固させた固体として仕込んだ後に系を反応温度まで加熱してもよい。
【0069】
マクロモノマーとオレフィン系モノマーの使用割合は任意に設定しうるが、用いるマクロモノマー100重量部に対してオレフィン系モノマーを好ましくは0.5〜100重量部、さらに好ましくは1〜33重量部用いることが好ましい。オレフィン系モノマーが沸点100℃以下の揮発性液体もしくは気体である場合は、オレフィン系モノマーを大過剰に用い、上記の好ましい量が重合した時点で反応を停止して、加熱あるいは減圧により未反応モノマーを除去することも可能である。
【0070】
重合の際、オレフィン系モノマーおよび配位重合触媒の溶解度を高め反応を促進するために有機溶媒を少量添加してもよい。その溶媒としては、特に制限は無いが、脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。
【0071】
例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ブチルクロリド、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。また、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、エタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等の極性溶媒であってもよい。水溶性が低く、かつ使用するマクロモノマーに比較的含浸しやすく、かつ触媒が溶解しやすい溶媒であることが特に好ましく、このような特に好ましい例としては塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンおよびブチルクロリドが挙げられる。
【0072】
これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。溶媒の合計使用量は、反応液全体の体積に対して好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは10容量%以下である。あるいは、使用するマクロモノマー100重量部に対して好ましくは150重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下である。反応速度がより向上するという点からは溶媒の使用量が多い方が好ましく、反応系を均一に保ちやすいという点からは溶媒の使用量は少ない方が好ましい。
【0073】
本発明のグラフト共重合体を製造する反応温度、圧力、時間は、用いる原料の沸点や反応速度に応じて任意に選べばよく、特に制限は無いが、反応の制御が容易であり生産コストを抑えるという観点から、一般的なミクロ懸濁重合・乳化重合が行われる通常の条件が好ましい。
【0074】
反応温度は好ましくは0〜100℃、さらに好ましくは10〜95℃、さらに特に好ましくは20〜80℃である。反応圧力は好ましくは0.05〜10MPa、さらに好ましくは0.1〜4MPaであり、反応時間は好ましくは10分〜100時間、さらに好ましくは0.5〜50時間である。温度および圧力は、反応開始から終了まで常時一定に保ってもよいし、反応途中で連続的もしくは段階的に変化させてもよい。用いるオレフィン系モノマーが気体である場合は、重合反応によりオレフィン系モノマーが消費されるに従って徐々に圧力が低下しうるが、そのまま圧力を変化させて反応を行ってもよく、または消費量に応じてオレフィン系モノマーを供給したり加熱するなどにより常時一定の圧力を保って反応を行ってもよい。
【0075】
本発明により得られるポリオレフィン系グラフト共重合体は、通常ラテックスとして得られる。ラテックスの粒径は使用した原料マクロモノマーの粒径および反応させたオレフィン系モノマーの量に応じた物が得られる。ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂への分散性や得られた組成物の耐衝撃性が特に優れるという点から、好ましくは20nm〜20000nm、さらに好ましくは1〜10μmのものが得られる条件を選ぶのが好ましく、さらに好ましくは、1.5〜3μmである。反応条件によってはラテックス粒子の一部が凝集して析出したりフリーのポリオレフィンが副生成して析出する場合があるが、このような析出物の無い条件で反応を行うことが好ましい。
【0076】
かくして得られた本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を含むラテックスは、そのままの状態で用いてもよいし、または添加剤を加えたり、他のラテックスとブレンドしたり、希釈・濃縮・熱処理・脱気処理などの処理を加えてから用いてもよい。プラスチック、金属、木材、ガラスなどの基材の上に塗布してコーティング剤、塗料、表面処理剤などに用いてもよいし、繊維、紙、布、カーボンファイバー、グラスウールなどに含浸させて改質剤、硬化剤などに用いてもよい。繊維強化プラスチックや、キャストフィルムの原料として用いてもよい。
【0077】
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、これを含むラテックスを脱水して固形成分を回収し各種用途に供することもできる。ラテックスから固形成分を回収する方法としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、ギ酸カルシウムなどの電解質を加えて凝集させる方法(塩析)、メタノールなどの親水性の有機溶媒と混合して凝集させる方法、または超音波処理、高速撹拌、遠心分離などの機械的操作により固形分を凝集させる方法、または噴霧乾燥、熱乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥などの乾燥操作により水分を除去する方法などが挙げられるが、これに限定されない。ラテックス中から本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を回収する一連の工程中のいずれかの段階で水および/または有機溶媒による洗浄操作を行ってもよい。
【0078】
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、ラテックスの固形成分を凝集させたり乾燥させ水分を除去することによって、粉末状または塊状として回収することができる。乾燥物を押出機またはバンバリーミキサーなどを用いてペレット状に加工したり、凝集物から脱水(脱溶媒)を経て得られた含水(含溶媒)状態の樹脂を圧搾脱水機を経由させることによりペレット状に加工し回収することもできる。ハンドリング性が良いという点から、好ましくは粉末状として回収することが好ましい。
【0079】
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体とは異なる各種の他の熱可塑性樹脂に配合することにより本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
【0080】
他の熱可塑性樹脂としては、一般に用いられている樹脂、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンオクテンゴム、ポリメチルペンテン、エチレン環状オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体などのポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体などのビニルポリマー;ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル−ポリスチレン複合体、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォンなどのエンジニアリングプラスチックが好ましく例示される。
【0081】
これら他の熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体の分散性が良好であるという点で好ましい。本発明の共重合体は特にポリプロピレン樹脂に配合した場合に耐衝撃性を向上させる効果に優れている。
【0082】
他の熱可塑性樹脂とグラフト共重合体との配合割合は、成形品の物性がバランスよく得られるように適宜決定すればよいが、充分な物性を得るためにはグラフト共重合体の量が他の熱可塑性樹脂100部に対して0.1部以上、好ましくは5部以上であり、また他の熱可塑性樹脂の特性を維持するためには、グラフト共重合体の量が他の熱可塑性樹脂100部に対して500部以下、好ましくは100部以下が好ましい。
【0083】
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、ポリオレフィン成分を含むためポリエチレン、ポリプロピレンなど低極性の樹脂に対しても良好な分散性を示し、かつマクロモノマーの中に含まれる官能基に由来した様々な機能を付与することができる。
【0084】
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、ビニル系マクロモノマーに由来する様々な特性を熱可塑性樹脂に付与する改質剤として用いることができる。例えば、(メタ)アクリル系マクロモノマーを用いた場合は、耐油性、低接触角、高表面張力、表面ぬれ性、接着性、塗装性、染色性、高誘電率、高周波シール性等、極性をあらわす物性あるいは極性の結果としてあらわれる物性を示す。熱可塑性樹脂用、特にポリオレフィン用の極性付与剤(耐油性、接着性、塗装性、染色性、高周波シール性等)、相溶化剤、プライマー、コーティング剤、接着剤、塗料、ポリオレフィン/フィラー系複合材料やポリオレフィン系ナノコンポジットの界面活性化剤などに用いられ、また、ポリオレフィンを樹脂成分に、(メタ)アクリル系ゴムをゴム成分に有する熱可塑性エラストマー、耐衝撃性プラスチックなどに用いることができる。
【0085】
本発明のグラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、プラスチック、ゴム工業において知られている通常の添加剤、例えば可塑剤、安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、ガラス繊維、充填剤、高分子加工助剤、艶消し剤などの配合剤を含有することができる。
【0086】
本発明のグラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物を得る方法としては、通常の熱可塑性樹脂の配合に用いられる方法を用いることができ、例えば、熱可塑性樹脂と本発明のグラフト共重合体および所望により添加剤成分とを、加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、プラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練することで製造することができる。また各成分の混練順序は特に限定されず、使用する装置、作業性あるいは得られる熱可塑性樹脂組成物の物性に応じて決定することができる。
【0087】
また、その熱可塑性樹脂がミクロ懸濁重合または乳化重合法で製造されるばあいには、該熱可塑性樹脂とグラフト共重合体とを、いずれもラテックスの状態でブレンドしたのち、共析出(共凝集)することで得ることも可能である。
かくして得られるグラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物の成形法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる、例えば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法などの成形法が挙げられる。
【実施例】
【0088】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。なお、以下の合成例、実施例および比較例において、固形分含量は軟膏缶にラテックス約1mL入れて110℃のオーブンで1〜2時間加熱乾燥し残存する固形分の量から算出した。粒径(体積平均粒子径)は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装製)により測定した。
【0089】
(合成例1)マクロモノマーラテックスの合成
撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した8Lガラス製セパラブルフラスコに純水1.4Lと亜硝酸ナトリウム(和光純薬社製)226gを仕込み、亜硝酸ナトリウムを溶解させた。次に、別の10Lステンレス製容器に純水1.7L、アクリル酸ブチル(日本触媒社製)1.96kg、メタクリル酸アリル(三菱レイヨン社製)3.92g、メタクリル酸ステアリル(和光純薬社製)19.6g、ラウロイルパーオキサイド(日本油脂社製、パーロイルL)10g、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(花王社製、ネオペレックスG15、15質量%)39.2gを入れて、ホモジナイザー(特殊機化工業社製)で14000rpmの下、50分撹拌して均一な乳化液を得た。
【0090】
ここで、乳化したモノマー溶液は、先ほどの8Lガラス製セパラブルフラスコに加えた。なお、ステンレス容器の壁に付着した乳化液は、200mLの純水で洗い出して、同じ8Lセパラブルフラスコに注ぎ込んだ。この反応液を水浴で60℃に加熱し、反応を開始させたところ、およそ5時間で反応が完了し、固形分量の35%、粒子径1.67μmのポリアクリル酸ブチルのマクロモノマーラテックス溶液を得た。
【0091】
(実施例1)マクロモノマーラテックスとエチレンの共重合
下記化学式(3)
【0092】
【化3】

【0093】
の構造を持つパラジウム錯体(以下[N^N]PdMeClともいう)をJ.Am.Chem.Soc.1995,117,6414等の文献に記載されている公知の方法によって合成した。[N^N]PdMeClの80mmol/Lジエチルエーテル溶液8mLとLiB(C)4の80mmol/Lジエチルエーテル溶液8mLを混合し、LiClを沈殿させて[N^N]PdMe・B(C)4錯体の40mmol/Lジエチルエーテル溶液16mLを調製した(以下このパラジウム錯体溶液をBrookhart触媒という。)。
【0094】
次に、このBrookhart触媒のジエチルエーテル溶液を濃縮、乾燥した後、塩化メチレン(和光純薬社製)16mLを加え40mmol/Lのストック溶液とした。なお、これらの触媒調製は、アルゴン雰囲気下、通常のシュレンク操作で行った。
【0095】
合成例1のマクロモノマーラテックス750mLを脱気した後、アルゴン置換した1Lオートクレーブ(TAIATSU TECHNO社製、TAS−1型オートクレーブ、材質SUS 316、最高使用圧力4MPa、最高使用温度100℃)に仕込んだ。Brookhart触媒の塩化メチレン溶液(4mmol/L)15mLをドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬社製)150mg、純水15mLとともに超音波ホモジナイザー(SMT company社製、超音波分散機 UH‐600)によって乳化した。なお、乳化の際の超音波の作用時間は10秒間程度である。乳化したBrookhart触媒溶液は、先にラテックス溶液を仕込んでおいた1Lオートクレーブ内にシリンジで導入した。
【0096】
その後、エチレンガス(住友精化(株)社製)を導入し、オートクレーブ内を3MPaとし、室温で5時間反応させた。ここで使用したエチレンガスは、脱水カラム(日化精工社製、ドライカラム HDF 300−A3)と脱酸素カラム(日化精工社製、GASCLEAN GC−HDF 300−M)を通して精製を行った。反応後、未反応のエチレンガスを除去し、共重合ラテックスを得た。反応後、未反応のエチレンガスを除去し、共重合ラテックスを得た。なお、得られた共重合体のラテックスの粒子径は、1.7μmであった。また、この反応での単位触媒あたりのエチレンモノマー取り込み数を示すTurn Over Number (以下、TONと略す)は、TON=5600[mol Ethylene/mol cat.]であった。
【0097】
生成物のラテックスに10%塩化カルシウム水溶液約100mLを加えて塩析し、濾過、水洗、乾燥の後処理を行ってポリオレフィン系グラフト共重合体(実施例1の共重合体)を得た。
【0098】
(実施例2)マクロモノマーラテックスとエチレンの共重合体を添加したポリプロピレン系樹脂組成物の耐衝撃性
ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製、ランダムポリプロピレン、F232DC)100重量部に(実施例1)のポリオレフィン系グラフト共重合体20重量部を配合し、Φ8”×L20”型ミキシングロール機(日本ロール製造社製)を用い回転数17&14で170℃5分間混練した。粉砕機VC−210(朋来鉄工所社製)で粉砕し、80t成形機(東芝社製)を用いてシリンダー温度190℃でASTM1号ダンベルを射出成形した。
【0099】
ダンベルから厚み3mm幅12mm長さ60mmの試験片を切り出し、ノッチを入れてASTM D−256に準じて23℃50%RH、試験速度5mm/minで耐衝撃性試験を行った。その結果、(実施例1)のポリオレフィン系グラフト共重合体を添加したポリプロピレン系樹脂組成物は、Izodの値が250J/mと、ポリプロピレン樹脂のみの耐衝撃性(Izod=192J/m)よりも大きな値となった。
【0100】
(比較合成例1)マクロモノマーラテックスの合成
撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した8Lガラス製セパラブルフラスコに純水1.4Lと亜硝酸ナトリウム(和光純薬社製)226gを仕込み、亜硝酸ナトリウムを溶解させた。次に、別の10Lステンレス製容器に純水1.7L、アクリル酸ブチル(日本触媒社製)1.96kg、メタクリル酸アリル(三菱レイヨン社製)9.8g、メタクリル酸ステアリル(和光純薬社製)19.6g、ラウロイルパーオキサイド(日本油脂社製、パーロイルL)10g、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(花王社製、ネオペレックスG15、15質量%)39.2gを入れて、ホモジナイザー(特殊機化工業社製)で14000rpmの下、40分撹拌して均一な乳化液を得た。
【0101】
ここで、乳化したモノマー溶液は、先ほどの8Lガラス製セパラブルフラスコに加えた。なお、ステンレス容器の壁に付着した乳化液は、200mLの純水で洗い出して、同じ8Lセパラブルフラスコに注ぎ込んだ。この反応液を水浴で60℃に加熱し、反応を開始させたところ、およそ6時間で反応が完了し、固形分量の35%、粒子径0.715μmのポリアクリル酸ブチルのマクロモノマーラテックス溶液を得た。
【0102】
(比較例1)マクロモノマーラテックスとエチレンの共重合
合成例1のマクロモノマーラテックスにかえて、比較合成例1のマクロモノマーラテックスを用いた他は実施例1に準じて操作を行い、共重合ラテックスを得た。なお、この反応では、TON=1600[mol Ethylene/mol cat.]であった。
生成物のラテックスに10%塩化カルシウム水溶液約100mLを加えて塩析し、濾過、水洗、乾燥の後処理を行ってポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。
【0103】
(比較例2)マクロモノマーラテックスとエチレンの共重合体を添加したポリプロピレン系樹脂組成物の耐衝撃性
比較合成例1で得られた共重合体を用いた他は実施例2に準じた操作を行い得られた成型体のIzodの値が193J/mであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロモノマーのラテックス中で後周期遷移金属系の配位重合触媒によりオレフィン系モノマーを重合させて製造されるポリオレフィン系グラフト共重合体において、マクロモノマーの粒子径が1〜5μmであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項2】
マクロモノマーが(メタ)アクリル系マクロモノマーであることを特徴とする請求項1に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項3】
マクロモノマーがアクリル酸ブチル系マクロモノマーであることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項4】
後周期遷移金属系の配位重合触媒が2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる後周期遷移金属とからなる錯体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項5】
オレフィン系モノマーが炭素数2〜20のα―オレフィンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体と他の熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−131717(P2007−131717A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−325505(P2005−325505)
【出願日】平成17年11月10日(2005.11.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】