説明

ポリオレフィン系樹脂発泡シート

【課題】フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の合紙などとして用いるのに適したポリオレフィン系樹脂発泡シートを提供すること。
【解決手段】ポリオレフィン系樹脂、高分子型帯電防止剤、及び、界面活性剤を含有するポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、前記界面活性剤としてデイビス法によるHLB値が20以上のアニオン系界面活性剤が含有されており、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する前記高分子型帯電防止剤の含有量が3〜20質量部であり、前記アニオン系界面活性剤の含有量が0.1〜5質量部であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン系樹脂発泡シートに関し、より詳しくは、高分子型帯電防止剤と界面活性剤とを含有するポリオレフィン系樹脂発泡シートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂発泡シートは、柔軟で緩衝性に優れるため、電子部品や家電製品の梱包材やガラスの合紙などに使用されている。
例えば、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイといったフラットパネルディスプレイ用のガラス基板は、間にポリオレフィン系樹脂発泡シートを介装させた状態で積層されてガラスメーカーからディスプレイメーカーに供給されている。
この種のガラス基板は、異物を表面に付着させているとフラットパネルディスプレイに故障等の不具合を生じさせるおそれを有することから、一旦、水で洗浄する工程が行われた後に使用されている。
【0003】
このようなことから、合紙として用いられるポリオレフィン系樹脂発泡シートには、ガラス基板の表面に異物を付着させるおそれが低く、且つ、仮に異物を付着させたとしても水洗による除去が容易であることが求められている。
【0004】
このような要望に対し、例えば、ポリオレフィン系樹脂発泡シートを合紙としてガラス基板と積層すると、当該積層体からポリオレフィン系樹脂発泡シートを剥離する際に剥離帯電により静電気を生じる。この静電気による塵埃等のガラス基板表面への付着を防止するために帯電防止剤をポリオレフィン系樹脂発泡シートに含有させることが行われている。
この種の帯電防止剤としては、界面活性剤として利用されている低分子型のものと、イオン伝導性ポリマーなどの高分子型のものとが知られており、界面活性剤は、比較的帯電防止効果が高くポリオレフィン系樹脂発泡シートの製造後、早期に帯電防止効果を発現させる効果を有する一方でポリオレフィン系樹脂発泡シート表面にブリードアウトしてガラス基板に付着するおそれを有する。
【0005】
このようなことから、例えば、下記特許文献1には、ガラス基板に付着しても水洗除去が容易なポリアルキレンオキサイド系の界面活性剤をポリオレフィン系樹脂発泡シートに含有させることが記載されている。
また、下記特許文献1においては、前記界面活性剤とポリオレフィン系樹脂との相溶化剤としての機能が期待できる高分子型帯電防止剤をポリオレフィン系樹脂発泡シートに含有させることで前記界面活性剤のブリードアウトの抑制が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−42556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のようにフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の使用時におけるトラブルを回避するための従来の対策としては、ポリオレフィン系樹脂発泡シートからの付着物を極力抑制させるとともに付着物が生じても容易に水洗除去させるようにすることが主として講じられている。
【0008】
しかし、ポリオレフィン系樹脂発泡シートから移行する成分は、必ずしも界面活性剤のような親水性のものばかりでなく、ポリオレフィン系樹脂に元々含有されていた低分子量成分などの疎水性のものである場合もある。
ところで、界面活性剤は、接触する相手材に移行しやすい一方で、その移行後にはポリオレフィン系樹脂発泡シートに含まれるその他の成分が相手材に付着することを抑制させる作用を発揮する。
従って、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板のように付着物の低減が要望され、水で洗浄されることが予定されているような部材に当接させて用いられる場合であれば、洗浄除去が困難な疎水性の付着物を防止させるために、むしろ移行性が高い界面活性剤をポリオレフィン系樹脂発泡シートに含有させることが好ましい場合がある。
【0009】
しかし、これまではそのような着想に至っていないため、ガラス基板等に付着しても洗浄除去が容易な界面活性剤をブリードアウトし易い状態でポリオレフィン系樹脂発泡シートに含有させることはなされていない。
従って、従来のポリオレフィン系樹脂発泡シートは、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の合紙などとして用いるのに適したものとはなっていないという問題を有する。
【0010】
本発明は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の合紙などとして用いるのに適したポリオレフィン系樹脂発泡シートを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような課題を解決するためのポリオレフィン系樹脂発泡シートに係る本発明は、ポリオレフィン系樹脂、高分子型帯電防止剤、及び、界面活性剤を含有するポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、前記界面活性剤としてデイビス法によるHLB値が20以上のアニオン系界面活性剤が含有されており、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する前記高分子型帯電防止剤の含有量が3〜20質量部であり、前記アニオン系界面活性剤の含有量が0.1〜5質量部であることを特徴としている。
【0012】
なお、本発明においては、前記アニオン系界面活性剤が、スルホン酸塩系界面活性剤であることが好ましく、該スルホン酸塩系界面活性剤としては、ジアルキルスルホコハク酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、及び、アルキルスルホン酸塩の内の1種以上を採用することが好ましい。
【0013】
また、本発明においては、前記スルホン酸塩系界面活性剤として、軟化点が90℃以下のスルホン酸塩系界面活性剤と、軟化点が110℃以上のスルホン酸塩系界面活性剤とを含む2種類以上のスルホン酸塩系界面活性剤をポリオレフィン系樹脂発泡シートに含有させることが好ましく、この軟化点が90℃以下の前記スルホン酸塩系界面活性剤がアルキルスルホン酸塩であり、且つ軟化点が110℃以上の前記スルホン酸塩系界面活性剤が直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩であることが好ましい。
【0014】
このようなポリオレフィン系樹脂発泡シートは、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の合紙として好適に用いられ得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡シートは、デイビス法によるHLB値が20以上のアニオン系界面活性剤が含有されているため該アニオン系界面活性剤をブリードアウトさせ易く、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の合紙などとして用いられた際に、接触する相手材の表面に前記アニオン系界面活性剤をすばやく移行させて水での洗浄によって除去することが困難な物質が付着することを抑制させ得る。
しかも、前記アニオン系界面活性剤は、水で洗浄除去することが容易であるため本発明のポリオレフィン系樹脂発泡シートは、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の合紙などとして好適に用いられ得る。
【0016】
なお、前記アニオン系界面活性剤としてスルホン酸塩系界面活性剤を採用し、中でも、このスルホン酸塩系界面活性剤として、ジアルキルスルホコハク酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、及び、アルキルスルホン酸塩の内の1種以上を採用した場合には、特に水洗除去における効果をより顕著なものとし得る。
【0017】
また、前記スルホン酸塩系界面活性剤として、軟化点が90℃以下のスルホン酸塩系界面活性剤と、軟化点が110℃以上のスルホン酸塩系界面活性剤とを含む2種類以上のスルホン酸塩系界面活性剤をポリオレフィン系樹脂発泡シートに含有させ、中でも、軟化点が90℃以下の前記スルホン酸塩系界面活性剤をアルキルスルホン酸塩とし、且つ、軟化点が110℃以上の前記スルホン酸塩系界面活性剤を直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩とした場合には、水洗除去が容易な高い軟化点を有するスルホン酸塩系界面活性剤のブリードアウトを軟化点の低いスルホン酸塩系界面活性剤によって促進させることができ、本発明の効果をより顕著に発揮させ得る。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のポリオレフィン系樹脂発泡シートについて、高分子型帯電防止剤と界面活性剤とがポリオレフィン系樹脂とともに含有されたポリオレフィン系樹脂組成物を押出発泡させてシート状に形成されたポリオレフィン系樹脂発泡シート(以下、単に「発泡シート」ともいう)をフラットパネルディスプレイ用ガラス基板の合紙に利用する場合を例示しつつその実施形態を説明する。
【0019】
本実施形態の発泡シートを構成する前記ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂を用いることができ、中でも、メルトマスフローレイト(以下「MFR」ともいう)が2〜6g/10min、かつ、樹脂密度が925kg/m3以上、935kg/m3以下の低密度ポリエチレン樹脂を用いることが好ましい。
上記のようなMFRの低密度ポリエチレン樹脂が好ましいのは、MFRが2g/10min未満では、押出機中で高分子型帯電防止剤との混練性に問題を生じて帯電防止性能が低下したり、押出発泡時に破泡などを生じて良好な発泡シートを得ることが難しくなるおそれを有するためである。
また、MFRが6g/10minを超えると溶融張力が低くなりすぎて低密度の発泡シートが得られにくくなり、ダイス先端にメヤニ状の堆積物が発生しやすくなるためである。
【0020】
なお、このメルトマスフローレイトは、本明細書中においては、特段の断りがない限りにおいて、後述する高分子型帯電防止剤のMFRについても、JIS K 7210:1999「プラスチック−熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)」及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」B法記載の方法(但し、試験温度190℃、荷重21.18N)により測定される値を意図している。
【0021】
本実施形態の発泡シートを構成する前記ポリオレフィン系樹脂として、上記のような密度を有していることが好ましいのは、樹脂密度が925kg/m3未満では、押出後の発泡シートからの発泡剤の逸散が速く、樹脂自体の剛性が小さく、収縮を抑制できなくなるおそれがある一方で樹脂密度を935kg/m3を超えた値とすると樹脂自体の剛性が大きすぎて、発泡シートが包装材としてのクッション性を失うおそれを有するためである。
【0022】
前記ポリオレフィン系樹脂とともに発泡シートを構成する前記高分子型帯電防止剤としては、結晶化温度が90℃未満でかつMFRが10〜40g/10minの高分子型帯電防止剤が好ましい。
高分子型帯電防止剤の結晶化温度が90℃未満であることが好ましいのは、結晶化温度が90℃以上であると、押出機中で結晶化が進んで分散が悪くなったり、また、押出発泡時に気泡膜が延伸される際に高分子型帯電防止剤が変形せず、塊となって帯電防止剤の分散粒子間距離が広くなって添加量に見合う帯電防止機能を発現させ難くなったりするためである。
【0023】
また、高分子型帯電防止剤のMFRが前記のような範囲内であることが好ましいのは、高分子型帯電防止剤のMFRが10g/10min未満では、押出機中やダイス内でのポリエチレン樹脂への分散が不均一となって表面固有抵抗値は優れるものの静電気減衰率が悪くなる傾向を示すためである。
また、MFRが前記のような範囲内であることが好ましいのは、MFRが40g/10minを超えるとポリオレフィン系樹脂との分散性が低下するとともにポリオレフィン系樹脂組成物の溶融張力を低下させてしまうために低密度の発泡シートが得られなかったり、連通化したような粗大気泡を発生させるおそれを有する。
【0024】
なお、前記結晶化温度は、本明細書中においては、特段の断りがない限りにおいて、JIS K7122「プラスチックの転移温度測定方法」記載の方法に従って測定した値を意図している。
具体的には、示差走査熱量計(例えば、エス・アイ・アイナノテクノロジー社製「DSC6220」)を用い、測定容器に試料を約6.5mg充てんして、窒素ガス流量30ml/minのもと10℃/minの昇温冷却速度で30℃〜200℃の間で昇温冷却し、冷却時の発熱ピーク温度を結晶化温度として測定することができる。
なお、発熱ピークが2つ以上現れる場合、全ピーク面積の5%以上を有する面積ピークの内、最も高温側のピークの頂点の温度を結晶化温度とする。
【0025】
前記高分子型帯電防止剤としては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレングリコール、ポリエステルアミド、ポリエーテルエステルアミド、エチレン−メタクリル酸共重合体などのアイオノマー、ポリエチレングリコールメタクリレート系共重合体等の第四級アンモニウム塩、特開2001−278985号公報に記載のオレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体等が挙げられる。
【0026】
これらの中では、オレフィン系ブロックと親水性ブロックとの共重合体が好ましく、ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体(ポリエーテル系ブロックとポリオレフィン系ブロックのブロック共重含体)を前記高分子型帯電防止剤としてポリオレフィン系樹脂組成物に含有させることが好ましい。
なお、高分子型帯電防止剤としては、2以上の物質の混合品であっても良く、帯電防止性能の更なる向上を目的とし、前記ブロック共重合体にポリアミドを混合したもの、またはポリアミド系ブロックをさらに共重合させたものであってもよい。
【0027】
前記高分子型帯電防止剤としては、プロピレンを70モル%以上含むオレフィン系ブロックとポリエーテル系ブロックとの共重合体を主成分とするものがより好ましい。
ここで「主成分」とは、含有する全ての高分子型帯電防止剤中に占めるポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体の割合が、50質量%以上であることをいう。
なお、前記ポリエーテル−ポリオレフィンブロック共重合体が高分子型帯電防止剤に占める割合を70質量%以上とすることが好ましく、80質量%以上とすることがさらに好ましい。
【0028】
本実施形態のポリオレフィン系樹脂発泡シートを構成するポリオレフィン系樹脂組成物における、前記ポリオレフィン系樹脂と前記高分子型帯電防止剤との配合割合としては、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、前記高分子型帯電防止剤が3〜20質量部となる割合とされることが重要である。
ポリオレフィン系樹脂組成物における高分子型帯電防止剤の配合割合が前記範囲内であることが重要なのは、前記範囲の下限値未満では、発泡シートの帯電防止性能が不足するおそれがあり、静電気によって発泡シートに塵埃を付着させるおそれを有するためであり、前記範囲の上限値を超えて含有させると、それ以上の帯電防止性能の向上を期待することが難しくなり、単にコストアップになるばかりでなくポリオレフィン系樹脂組成物の発泡性を低下させて低密度の発泡シートが得られなくなるおそれを有するためである。
【0029】
この高分子型帯電防止剤とともにポリオレフィン系樹脂発泡シートに含有させる前記界面活性剤は、所謂低分子型帯電防止剤として帯電防止に機能するものであり、本実施形態においては、前記界面活性剤としてデイビス法によるHLB値が20以上(上限値は、通常、50)のアニオン系界面活性剤を採用することが重要である。
なお、デイビス法とは、界面活性剤分子を原子団(あるいは官能基)に分割し、それぞれの原子団に特有の基数を与えて計算によりHLB値を求めるもので、例えば、三洋化成工業株式会社より発行されている書籍名「界面活性剤入門」に具体的に記載されている方法に基づいて算出することができる。
なお、以後においては特段の断りがない限りにおいて「HLB値」とは、「デイビス法によるHLB値」を表す。
【0030】
前記アニオン系界面活性剤としては、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩−ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N−メチル−N−アシルタウリン塩等のスルホン酸塩系界面活性剤;脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N−アシルサルコシン酸塩、N−アシルグルタミン酸塩等のカルボン酸塩系界面活性剤;アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩等の硫酸エステル塩系界面活性剤;アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩等のリン酸エステル塩系界面活性剤などを採用することができる。
【0031】
なお、発泡シートにおける前記アニオン系界面活性剤の含有量が過少な場合には、当該アニオン系界面活性剤以外の物質がガラス基板の表面に付着することを防ぐ効果を期待することが困難になるとともに発泡シートに十分な帯電防止効果を付与することが難しくなる。
一方で、帯電防止効果やアニオン系界面活性剤以外の付着物の抑制効果の向上には限度があるため、必要以上に前記アニオン系界面活性剤を発泡シートに含有させても、単に発泡シートを製造し難いものにさせてしまうばかりとなる。
このようなことから、前記アニオン系界面活性剤は、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する割合が0.1〜5質量部となるように発泡シートに含有させることが重要である。
【0032】
前記に例示したものの中でも、本実施形態における発泡シートに含有させる前記アニオン系界面活性剤としては、ガラス基板表面からの水洗除去が容易である点においてスルホン酸塩系界面活性剤が好ましく、該スルホン酸塩系界面活性剤のなかでも、ジアルキルスルホコハク酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、及び、アルキルスルホン酸塩の内のいずれかを用いることが好ましい。
【0033】
なお、上記のアニオン系界面活性剤は、一種単独で用いる必要はなく、2種以上を混合して用いてもよい。
本実施形態においては、前記スルホン酸塩系界面活性剤として、軟化点が90℃以下のスルホン酸塩系界面活性剤と、軟化点が110℃以上のスルホン酸塩系界面活性剤とを含む2種類以上のスルホン酸塩系界面活性剤を混合して発泡シートに含有させることが好ましく、軟化点が90℃以下の前記スルホン酸塩系界面活性剤(以下「第1スルホン酸塩系界面活性剤」ともいう)がアルキルスルホン酸塩であり、軟化点が110℃以上の前記スルホン酸塩系界面活性剤(以下「第2スルホン酸塩系界面活性剤」ともいう)が直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩であることが特に好ましい。
なお、前記第1スルホン酸塩系界面活性剤の軟化点の下限値は、通常、0℃であり、前記第2スルホン酸塩系界面活性剤の軟化点の上限値は、通常、400℃である。
【0034】
これらのスルホン酸塩系界面活性剤の軟化点は、例えば、JIS K5601−2−2に基づく測定により求めることができる。
本実施形態において低い軟化点を有する第1スルホン酸塩系界面活性剤と高い軟化点を有する第2スルホン酸塩系界面活性剤とを併用することが好ましいのは、水洗除去が容易な高い軟化点を有する第2スルホン酸塩系界面活性剤のブリードアウトを軟化点の低い第1スルホン酸塩系界面活性剤によって促進させることができるためであり、このような効果をより顕著に発揮させるためには、前記第1スルホン酸塩系界面活性剤としてアルキルスルホン酸塩を採用することが好ましく、前記第2スルホン酸塩系界面活性剤として直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を採用することが好ましい。
また、通常、第2スルホン酸塩系界面活性剤量が第1スルホン酸塩系界面活性剤よりも添加量が多くなると、押出機のメッシュを目詰まりさせる等の問題が発生してしまうおそれがあり、生産性に悪影響を及ぼすおそれがあるため、前記第1スルホン酸塩系界面活性剤と前記第2スルホン酸塩系界面活性剤とは1:1〜4:1(第1スルホン酸塩系界面活性剤:第2スルホン酸塩系界面活性剤)の質量比率で発泡シートに含有させることが好ましい。
【0035】
なお、本実施形態の発泡シートは、押出発泡によって製造されるため、前記のような成分に加えて発泡に必要な成分をさらに含有している。
この発泡のための成分としては、発泡剤や気泡調整剤を挙げることができ、これら以外にも、必要に応じて、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤等の添加剤を発泡シートに含有させることもできる。
【0036】
前記発泡剤としては、イソブタン、ノルマルブタン、プロパン、ペンタン、ヘキサン、シクロブタン、シクロペンタンなどの炭化水素、二酸化炭素、窒素などの無機ガスを挙げることができる。
なかでも、前記発泡剤としては、イソブタンとノルマルブタンとの混合ブタンが好ましい。
【0037】
このようにしてイソブタン/ノルマルブタンの混合ブタンを用いると、イソブタンによって、押出発泡工程における発泡剤の急激な逸散が抑制される一方、ポリオレフィン系樹脂との相溶性が優れるノルマルブタンが、連続気泡率の増大を抑制するので、収縮が少なく、かつ連続気泡率の少ないクッション性に優れた発泡シートを得ることができる。
【0038】
なお、押出発泡に際して用いる発泡剤の量は、求める発泡度合いにもよるが、ポリオレフィン系樹脂と高分子型帯電防止剤との合計100質量部に対して、通常、5質量部以上、25質量部以下とされる。
通常、発泡剤の添加割合がこのような範囲とされるのは、発泡剤が5質量部未満であると十分な発泡を得にくく、25質量部を超えると気泡膜が破れて良好な発泡シートが得られなくなるおそれを有するためである。
【0039】
また、発泡剤によって形成される気泡を調整するための前記気泡調整剤としては、タルク、シリカなどの無機粉末や分解型発泡剤としても用いられる多価カルボン酸と炭酸ナトリウムあるいは重曹(重炭酸ナトリウム)との混合物、アゾジカルボン酸アミドなどが挙げられる。
これらは単独で用いても、複数のものを併用してもよい。添加量は、ポリオレフィン系樹脂100質量部あたり0.5質量部以下が好ましい。
【0040】
この発泡シートの密度(見掛け密度)については、特に限定されるものではなく、ガラス基板の合紙として一般に求められているクッション性を発揮させる程度の密度とすれば良く、通常、70kg/m3未満であり、好ましくは10kg/m3以上、60kg/m3以下とされる。
このような密度が、選択されているのは、密度が70kg/m3以上では、発泡シートの柔軟性が不足して緩衝性が低いものとなるおそれを有するためであり、密度が小さすぎると発泡シートの強度が十分なものにならない結果、緩衝性が低いものとなるおそれを有するためである。
さらに、気泡膜の厚みが薄くなりすぎると、収縮が大きくなる結果、長尺な発泡シートを作製した際に、これを一つのロールとして巻き取ることが困難になる。
したがって、密度を10kg/m3以上とすることが好ましく、15kg/m3以上とすることが好ましいものである。
【0041】
本実施形態に係る発泡シートは、一般的な押出発泡シートと同様にして製造することができ、一例を挙げると、前記ポリオレフィン系樹脂組成物を押出発泡して押出発泡シートを作製する押出発泡工程、押出されたシートを巻取り機により巻き取って原反ロールを作製する巻き取り工程、巻き取った原反ロールを一定期間熟成させる熟成工程、巻き直し機などで原反ロールを製品ロール用に巻きなおす化粧巻き工程を行って製造することができる。
【0042】
このように本実施形態においては押出発泡によって製造した発泡シートをガラス基板の合紙として用いる場合を例示しているが、本発明の発泡シートは、その用途をガラス基板の合紙に限定するものではなく、ガラス基板以外の部材でも水洗が予定されているものであれば、その包装等に利用することでガラス基板の合紙として用いる場合と同様の効果を期待することができる。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
日本ポリエチレン株式会社製の低密度ポリエチレン樹脂(商品名:「LF580」、密度:929kg/m3、MFR=4.0g/10min)100質量部に対して、三洋化成株式会社製の高分子型帯電防止剤(ポリエーテル−ポリプロピレンブロック共重合体、商品名:「ペレスタット300」、結晶化温度:85.4℃、MFR=30g/10min)を7質量部、三洋化成株式会社製のアニオン系界面活性剤(炭素数12〜16のアルキルスルホン酸塩90質量%以上含有、商品名「ケミスタット3033」、軟化点70℃、HLB値40)を1質量部、及び、三協化成社製の気泡調整剤マスターバッチ(アゾジカルボンアミド含有マスターバッチ:商品名「セルマイクMB1023」)を0.05質量部の比率で配合された配合物をタンデム押出機の第一押出機(シリンダー径:φ90mm)に供給し、該押出機内での最高到達温度が210℃となるように溶融混練した。
また、該第一押出機の途中から発泡剤として混合ブタン(イソブタン/ノルマルブタン=50/50(モル比))を前記低密度ポリエチレン樹脂100質量部に対する割合が13質量部となるように圧入して前記溶融混練を実施した。
この第一押出機での溶融混練後は、該第一押出機に連結された第二押出機(シリンダー径:φ150mm)で発泡に適する温度域(111℃)まで冷却し、出口直径が222mm(スリット0.31mm)のサーキュラーダイより大気中に押出発泡した。
押出発泡された筒状発泡体は、エアーを吹き付けて冷却した後、直径が770mm、長さ650mmの冷却マンドレル上を沿わせて冷却し、該冷却マンドレルの後ろ側に設けたカッターで押出し方向に沿って筒状発泡体を切断して長尺帯状の発泡シートを得た。
【0045】
得られた発泡シートの厚みを定圧厚み測定機(Teclock社製、型式PG−(特)S−37387(「SCM−627」))を用いて測定したところ0.51mmで、密度(見掛け密度)をJIS K 7222:2005「発泡プラスチック及びゴム−見掛け密度の求め方」に基づいて測定したところ52kg/m3であった。
【0046】
また、ガラス基板の合紙としての適性を以下のように接触角で判定した。
まず、発泡シートを5cm×10cmの大きさに切り、これを洗浄・乾燥したガラス板(日本電気硝子株式会社製 無アルカリガラス OA−10G)の上に乗せ、前記発泡シートの全体に荷重が加わるように1kgの重りを乗せて、温度60℃、相対湿度80%の恒温恒湿槽(ISUZU製作所製、商品名「HPAV−120−40」)内に24時間放置した後、温度30℃、相対湿度0%にて24時間乾燥した。
発泡シートと接していたガラス板表面における精製水の接触角を協和界面化学株式会社製、固液界面解析装置(商品名「DROP MASTER300」)によって測定し、洗浄前の接触角とした。
同様に荷重を掛けて発泡シートを接触させ、60℃、80%RH×24時間−30℃0%RH×24時間の処理を行ったガラス板を、家庭用アルカリ洗剤(花王株式会社製、商品名「アタック」)を0.4%含有する洗浄水で洗浄し、蒸留水にてすすぎ洗いを実施した後、温度30℃、相対湿度0%にて24時間乾燥した。
この水洗後のガラス板の接触角を測定し洗浄後の接触角とした。
なお、洗浄前の接触角、洗浄後の接触角は、それぞれ20点の測定を行い、その平均値によって算出した。
結果、洗浄前の接触角が24度、洗浄後の接触角が7.8度で、優れた洗浄性が確認できた。
【0047】
(実施例2〜5)
発泡シートに含有させるアニオン系界面活性剤の種類と量とを変更したこと以外は実施例1と同様に発泡シートを作製し、実施例1と同様に評価を行った。
なお、実施例2では、花王株式会社製のドデシルベンゼンスルホン酸塩等の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(軟化点270℃、HLB値36.2)を主成分(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩約60質量%含有、残部:硫酸ナトリウム)とする商品名「ネオペレックスNo.6」を用い、実施例3、4、5では、この「ネオペレックスNo.6」と実施例1で用いた「ケミスタット3033」とを併用した。
【0048】
(実施例6)
高分子型帯電防止剤を三井デュポンポリケミカル株式会社製のカリウムアイオノマー(商品名「ENTIRA AS SD100」)に変更したこと、アニオン系界面活性剤の種類と量とを変更したこと以外は実施例1と同様に発泡シートを作製し、実施例1と同様に評価を行った。
なお、実施例6では、第一工業製薬株式会社製のジオクチルコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩(軟化点160℃、HLB値41.9)を主成分(有効成分約70質量%)とする商品名「ネオコールYSK」を用いた。
【0049】
(実施例7)
含有させるアニオン系界面活性剤をミヨシ油脂社製の直鎖ドデシルベンゼンスルホン酸塩(軟化点275℃、HLB値36.2)を主成分とする商品名「粉末オロミン」及び実施例1で用いた「ケミスタット3033」とを併用したこと以外は実施例1と同様にして発泡シートを得た。
【0050】
(比較例1)
アニオン系界面活性剤を含有させなかったこと以外は実施例1と同様に発泡シートを作製し、実施例1と同様に評価を行った。
【0051】
(比較例2、3)
アニオン系界面活性剤に代えてノニオン系界面活性剤を含有させたこと以外は実施例1と同様に発泡シートを作製し、実施例1と同様に評価を行った。
なお、比較例2では、ノニオン系界面活性剤として、理研ビタミン社製のジグリセリンモノオレエート(商品名「ESR720−2」、軟化点40℃、HLB値9.0)を用い、比較例3では、ノニオン系界面活性剤として、三洋化成社製のポリエチレングリコール(商品名「PEG600」、軟化点20℃、HLB値7.4)を用いた。 これら実施例、比較例の評価結果を、下記表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
上記の表に示した結果からも、本発明の発泡シートが、ガラス基板の合紙などに有用なものであることがわかる。
また、軟化点が90℃以下のスルホン酸塩系界面活性剤と、軟化点が110℃以上のスルホン酸塩系界面活性剤とを併用した実施例3、4において特に優れた結果が得られることも上記の表からわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂、高分子型帯電防止剤、及び、界面活性剤を含有するポリオレフィン系樹脂発泡シートであって、
前記界面活性剤としてデイビス法によるHLB値が20以上のアニオン系界面活性剤が含有されており、前記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対する前記高分子型帯電防止剤の含有量が3〜20質量部であり、前記アニオン系界面活性剤の含有量が0.1〜5質量部であることを特徴とするポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項2】
前記アニオン系界面活性剤がスルホン酸塩系界面活性剤である請求項1記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項3】
前記スルホン酸塩系界面活性剤として、ジアルキルスルホコハク酸塩、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、及び、アルキルスルホン酸塩の内の1種以上が含有されている請求項2記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項4】
前記スルホン酸塩系界面活性剤として、軟化点が90℃以下のスルホン酸塩系界面活性剤と、軟化点が110℃以上のスルホン酸塩系界面活性剤とを含む2種類以上のスルホン酸塩系界面活性剤が含有されている請求項2又は3記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項5】
軟化点が90℃以下の前記スルホン酸塩系界面活性剤がアルキルスルホン酸塩であり、軟化点が110℃以上の前記スルホン酸塩系界面活性剤が直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩である請求項4記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。
【請求項6】
フラットパネルディスプレイ用ガラス基板の合紙として用いられる請求項1乃至5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系樹脂発泡シート。

【公開番号】特開2013−10907(P2013−10907A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145841(P2011−145841)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】