説明

ポリオレフィン系樹脂積層体から表面樹脂層を剥離する方法

【目的】 缶ビール、缶コーヒ、缶ジュース等を梱包するために一度使用されているポリオレフィン系樹脂積層体を廃棄することなく、樹脂積層体の基材樹脂層から表面樹脂層を剥離することにより基材樹脂層を再利用する方法を提供する。
【構成】 発泡体等からなる基材樹脂層に表面樹脂層が溶着によって被覆されているポリオレフィン系樹脂積層体の表面から水分含有率が100〜40%で温度が160℃ないし180℃の過熱蒸気を1.5分〜5.0分程度照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、ポリオレフィン系樹脂シートが積層された樹脂積層体から表面樹脂層を剥離する方法に関する。さらに詳しくは、この出願の発明は缶ビール、缶コーヒ、缶ジュース等を梱包するために使用されているポリオレフィン系樹脂が多層に溶着された樹脂積層段ボールの基材樹脂層を再利用するために基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在ではビールを始めとしてコーヒや清涼飲料の多くは缶入り状態で販売されている。この缶入りのビール、ジュースまたはコーヒ等を搬送するための梱包用材料は、従来は主に紙段ボールが使用されてきたが、この紙ダンボールは耐水性があまり良くないために紙ダンボールの表面に樹脂の薄膜等をコーティングする等の耐水性を改善するための表面加工が施されていた。しかしながら、最近では紙段ボールの表面加工に替えて段ボール全体をポリオレフィン系樹脂で製造した「プラ段」と呼ばれる樹脂積層段ボールが使用されるようになってきた。そして、発泡体は特に軽量で断熱性や緩衝性に優れているためポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂で成形した樹脂発泡体を基材樹脂層にしてその表面に非発泡体の樹脂層が溶着された樹脂積層段ボールが缶ビール、缶コーヒ、缶ジュース等の梱包用材料として使用されるようになってきている。
【0003】
この発泡体層を含む樹脂積層段ボールは耐水性が良好で強度的にも再使用が可能であるが搬送時や荷積みの際に商号や模様が印刷された表面樹脂層が汚染したり破損したりすることがあるため梱包用材として一度使用したものを再使用することは難しく、現在では樹脂積層段ボールは再使用することなく梱包・搬送ごとに新しいものが使用されている。
【0004】
そのため一度梱包用材として使用された樹脂積層段ボールは、細かく裁断して地中に埋めたり焼却したりするなどの廃棄処分が行われているが、近年では資源保護や地球環境保護への意識が高まり、焼却するにしても、土中に埋めるにしても有害物の処理は大きな社会問題となってきており使用した材料を再利用するための種々の技術が検討されている(特許文献1〜3)。
【特許文献1】: 特開平06−220245号公報
【特許文献2】: 特開平07−102102号公報
【特許文献3】: 特開2002−316087号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から樹脂積層体から樹脂を剥離する方法としては、樹脂積層体の表面を加熱した回転ローラや回転ブラシで強引に剥ぎ取る機械的な方法や高温および高圧下で樹脂積層体の境界面に溶剤を含侵して境界面の接合力を低下する方法が行われている。
しかしながら、回転ローラや回転ブラシを使用する方法は再利用する基材樹脂層を傷つけるし、また溶剤を使用する方法は剥離のために長時間を要するという等の欠点を有している。特に、発泡体を含む樹脂積層体から発泡体と表面の非発泡体層を剥離するに際しては、基材樹脂層である発泡体の気泡を破壊せずに表面樹脂層を剥離することが必要なため、加圧ローラや回転ブラシを使用する剥離方法は好ましいものではなく、従来から主として溶媒を用いる方法が採用されている。しかしながら、溶媒として水や水とアルコールの混合物を用いる方法では剥離するためには高温で長時間保持することが必要なため連続的な操作を行うことができず、時間的にもコスト的にも大きな負担を必要としていた。
【0006】
本発明はこれらの事情に鑑みてなされたもので、樹脂積層体、特に発泡体を含む樹脂積層体を特殊な溶剤を使用することなく、簡便・迅速に、しかも連続的に樹脂積層体から樹脂を剥離する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、ポリオレフィン系樹脂積層体の表面に過熱蒸気を噴霧することにより基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法を提供する。
第2には、発泡体層を含むポリオレフィン系樹脂積層体の表面に過熱蒸気を噴霧することにより基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法を提供する。
第3には、樹脂積層段ボールとして使用されているポリオレフィン系樹脂積層体の表面に過熱蒸気を噴霧することにより基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法を提供する。
第4には、ポリオレフィン系樹脂積層体の表面に過熱蒸気を噴霧することにより基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法において、効率的な過熱蒸気中の水分比を提供する。
第5には、ポリオレフィン系樹脂積層体の表面に過熱蒸気を噴霧することにより基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法において、効率的な温度条件を提供する。
第6には、ポリオレフィン系樹脂積層体の表面に過熱蒸気を噴霧することにより基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法において、効率的な噴霧時間を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記第1〜第3の樹脂積層体における基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法の発明によれば、ポリオレフィン系樹脂積層体、特に樹脂積層段ボールとして好適な発泡体層を含むポリオレフィン系樹脂積層体の表面に過熱蒸気を噴霧することにより、再利用する発泡体等の基材樹脂層を損傷することがなく基材樹脂層から表面樹脂層を簡便・迅速に、しかも連続的に剥離することができる。
上記第4〜6の樹脂積層体における基材樹脂層から表面樹脂層を剥離する方法の発明によれば、上記の効果に加え、ポリオレフィン系樹脂積層体の表面に噴霧する過熱蒸気の水分比、温度および時間を特定の範囲に設けることにより、再利用する発泡体層等の基材樹脂層に変色や損傷を与えることなく効率的に基材樹脂層から表面樹脂層を剥離することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この出願のポリオレフィン系樹脂積層体から表面樹脂層と基材樹脂層を剥離する方法の発明は、ポリオレフィン系樹脂積層体の表面に過熱蒸気を照射することによりポリオレフィン系樹脂積層体から表面樹脂層を剥離することを特徴とするものである。過熱蒸気とは乾燥蒸気の1種であり飽和蒸気圧曲線以下の高温低圧領域の蒸気であり高エンタルピー、低密度、低誘電率の反応場である。この過熱蒸気は水の構造と分子間相互作用から考察すると、温度の上昇によって水素結合が弱くなり、1分子当たりの平均水素結合数が減少して、水分子のプロトン供与と受容の作用が活発化され、反応温度と圧力の調整によって、水の分子としての激しい作用があるとされている。
【0010】
本願発明はポリオレフィン系樹脂積層体の剥離のためにこの過熱蒸気を使用するものであるが、具体的には大気圧のもとで飽和蒸気(100℃)をさらに加熱した蒸気でありこの飽和蒸気は単位体積あたりの熱量が、高温空気と比較して3〜5倍大きく短時間で加熱が可能になるだけでなく過熱蒸気を用いる加熱は加熱対象物を無酸素状態で加熱することができるため加熱対象物の酸化が抑制されるという特徴を有している。
また、この過熱蒸気による加熱は爆発・火災の心配がないだけでなく飽和蒸気の場合は僅かな温度の低下でも対象物の表面に凝縮した水滴が付着するが、加熱蒸気は温度が低下しても対象物の表面に凝縮した水滴が付着せず乾燥を保持することが可能となる。なお、この出願の剥離の発明で用いる過熱蒸気として、加熱対象物の酸化を抑制するとともに温度が低下した際に凝縮した水滴が表面に付着しない好適な過熱蒸気としては、110℃以上で水分含有率としては100%〜40%程度、好ましくは80%〜40%程度のものが実用的であるとの実験結果が得られている。
【0011】
この出願の発明において、過熱蒸気を短時間噴霧により基材樹脂層から表面樹脂層が剥離する理由の詳細は不明であるが過熱蒸気の噴霧による熱ストレスや熱収縮により基材樹脂層と表面樹脂層の界面で剥離するものと考えられる。
この出願の発明におけるポリオレフィン系樹脂積層体とは、図1に模式的に示されているように発泡体層等からなる基材樹脂層(1)と基材樹脂層(1)の表面に商号や模様(5)が印刷された樹脂層(2)とこの樹脂層(2)の表面にさらに印刷された商号や模様を保護するための表皮樹脂層(3)が被覆された構造からなっている。この出願の発明において、基材樹脂層(1)から剥離する表面樹脂層とは樹脂層(2)および表皮樹脂層(3)を意味している。なお、図1では、この出願の発明を簡単に説明するために表面樹脂層として二層構造のものを示しているが、各種の用途に応じて三層構造のものや四層構造のものがあってよい。何れにせよ、この出願の発明は発泡体層等からなる基材樹脂層(1)から過熱蒸気を用いて表面樹脂層(2)(3)を剥離することを要旨とするものである。
【0012】
樹脂積層段ボール等に使用する樹脂積層体は殆どがポリオレフィン系樹脂を積層したものが使用されているが、樹脂積層体を構成する各ポリオレフィン系樹脂の接合方法は、接着剤で接着されたものはなく、発泡体等の基材樹脂層(1)をT字金型で押出して成形する際に表面樹脂層(2)(3)を供給することにより同時に溶着されたものである。
なお、この出願の発明において、基材樹脂層(1)から表面樹脂層(2)(3)を剥離するとは、表面樹脂層(2)(3)が基材樹脂層(1)からシート状に分離するのではなく、図2に示されているように、表面樹脂層(2)(3)は基材樹脂層(1)の表面で収縮して塊状となって除去されることを意味している。
【0013】
なお、缶ビール、缶ジュースまたは缶コーヒ等を搬送するための梱包用材料としては発泡体を基材樹脂層とする樹脂積層段ボールが多いため、この出願の発明における樹脂積層体はポリオレフィン系樹脂積層体を主として説明するが、純粋のポリオレフィン系樹脂積層体だけに限定されるわけではなく、プロピレン単独重合体、プロピレンとエチレンとの共重合体、エチレン単独重合体等のオレフィン系重合体を主体とする樹脂の積層体を意味している。また、この出願の発明では発泡体層を基材樹脂層とする樹脂積層段ボールについて説明するが、もちろんこの出願の発明の主旨からして、発泡体層を含む樹脂積層体に限定されるものではなく、非発泡のオレフィン系重合体同士からなる樹脂積層体にも適用し得るものであることは云うまでもない。
この出願の発明を実施例1〜5を用いてさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0014】
基材樹脂から表面樹脂層を剥離するための好適な条件を特定するために代表的なポリオレフィン系樹脂であるポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂からなる樹脂積層体を用いて積層樹脂の種類と過熱蒸気による加熱時間を変化させて剥離状態を測定した。
具体的な樹脂の組み合わせとしては、(A)ポリエチレン系樹脂/ポリエチレン系樹脂発泡体、(B)ポリエチレン系樹脂/ポリプロピレン系樹脂、(C)ポリエチレン系樹脂/ポリプロピレン系樹脂発泡体、(D)ポリプロピレン系樹脂/ポリエチレン系樹脂発泡体からなる樹脂積層体を約270mm×400mmの大きさに切断して試験試料とした。
〔実施例1〕
上記試料を用いて、表面に水分含有率が50%の150℃過熱蒸気を10分間噴霧した後の試料(A)〜(E)の表面の大部分は剥離せず表面樹脂層は波打ちが形成されていた。
〔実施例2〕
上記試料を用いて、表面に水分含有率が50%の160℃過熱蒸気を噴霧したところ、試料(A)〜(E)の表面は4.0分〜5.0分間で表面層は収縮して丸い塊となりコテを用いて基材樹脂層から簡単に剥離することができた。
〔実施例3〕
上記試料を用いて、表面に水分含有率が50%の170℃過熱蒸気を噴霧したところ、試料(A)〜(E)の表面は2.0分〜3.0分の間で表面層は収縮して丸い塊となりコテを用いて基材樹脂層から簡単に剥離することができた。
〔実施例4〕
上記試料を用いて、表面に水分含有率が50%の180℃過熱蒸気を噴霧したところ、試料(A)〜(E)の表面は1.5分〜2.0分の間で表面層は収縮して丸い塊となりコテを用いて基材樹脂層から簡単に剥離することができた。
〔実施例5〕
上記試料を用いて、表面に水分含有率が50%の190℃過熱蒸気を噴霧したところ、試料(A)〜(E)の表面は1.0分程度で表面層は収縮して丸い塊となりコテを用いて簡単に剥離することができたが、樹脂基材層がところどころ薄褐色に変色した。
【0015】
以上の実験結果をまとめたものが下記の表1である。

表1からも明らかなようにポリオレフィン系樹脂積層体を過熱蒸気で剥離するためには、過熱蒸気の温度を160℃〜180℃にして、加熱時間を1.5分〜5.0分の範囲にすることが好ましいことが知得できた。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この出願の発明は、今後使用量が益々増大すると考えられる樹脂積層段ボール等に好適な樹脂積層体を再利用するために基材樹脂層から表面樹脂層を簡便な操作で連続的に剥離することができる方法を提供するものであり、資源保護や地球環境保護の観点からも大きな需要が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】樹脂積層段ボールの断面図である。
【図2】表面樹脂層が剥離した状態を示したものである。
【符号の説明】
【0018】
1 基材樹脂層
2 樹脂層
3 表皮樹脂層
4 溶着面
5 印刷面









【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂積層体に過熱蒸気を噴霧することを特徴とする樹脂積層体から表面樹脂層を剥離する方法。
【請求項2】
ポリオレフィン系積層体における基材樹脂層が発泡体であることを特徴とする請求項1に記載された表面樹脂層の剥離方法。
【請求項3】
ポリオレフィン系樹脂積層体が樹脂積層段ボール用部材であることを特徴とする請求項1ないし3に記載の表面樹脂層の剥離方法。
【請求項4】
水分含有率が100%ないし40%の過熱蒸気を噴霧することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載された表面樹脂層の剥離方法。
【請求項5】
噴霧する過熱蒸気の温度が160℃ないし180℃であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載された表面樹脂層の剥離方法。
【請求項6】
過熱蒸気の噴霧時間が1.5分から5.0分の範囲であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載された表面樹脂層の剥離方法。

















【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−44981(P2007−44981A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−231434(P2005−231434)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(500486542)
【Fターム(参考)】