説明

ポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法

【課題】水を含む溶媒を用いて重合する際に、特に、ポリオキシアルキレン基の鎖長の短い重合体を製造する際に、重合中にゲルが生成することを抑制しつつ、保持性がよく、安定した品質のポリカルボン酸系コンクリート混和剤を製造する方法を提供する。
【解決手段】単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記重合工程は、親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法に関する。より詳しくは、セメント組成物等に対して流動性を高めるための減水剤等として適用することができるポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート混和剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に対して減水剤等として広く用いられており、セメント組成物から土木・建築構造物等を構築するために欠かすことのできないものとなっている。このようなコンクリート混和剤は、セメント組成物の流動性を高めてセメント組成物を減水させることにより、硬化物の強度や耐久性等を向上させる作用を有することになる。このような減水剤の中でもポリカルボン酸系重合体を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤は、従来のナフタレン系等の減水剤に比べて高い減水性能を発揮するため、高性能AE減水剤として多くの実績がある。
【0003】
このようなポリカルボン酸系コンクリート混和剤を製造する方法としては、水を溶媒とし、モノマーを滴下して重合する方法が製造上好ましく、また、製品形態においても水を溶媒とすることから好ましい。しかしながら、滴下するモノマーの水溶性又は製造しようとするポリマーの水溶性が低いとき、溶媒に水のみを用いた場合には重合中に多量のゲルが生成し重合が困難となる、また、製品品質を向上するためには重合後にゲルを除去する必要がある等の問題がある。
【0004】
従来のポリカルボン酸系重合体の製造方法としては、水溶性重合体と水とを含む混合物を溶媒として重合してなるポリカルボン酸系コンクリート混和剤が開示されている。(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この製造方法においては、(ポリ)オキシアルキレン基の鎖長の短い重合体のみからなるポリカルボン酸系コンクリート混和剤を製造することが困難となるおそれがあり、ゲル化を充分に抑制しながら(ポリ)オキシアルキレン基の鎖長の短い重合体を製造するための工夫の余地があった。
【特許文献1】特開2004−331472号公報(第1〜3頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、水を含む溶媒を用いて重合する際に、特に、(ポリ)オキシアルキレン基の鎖長の短い重合体を製造する際に、重合中にゲルが生成することを抑制しつつ、保持性がよく、安定した品質のポリカルボン酸系コンクリート混和剤を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、ポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法について種々検討したところ、水を溶媒として用いて単量体成分を重合することにより、コンクリート混和剤として好適なポリカルボン酸系重合体を製造することができることに着目し、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記重合工程が、親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するものとすると、重合中にゲルが生成することが充分に抑制し、重合が困難となることや重合後にゲルを除去する必要があることを解消しつつ、保持性がよく、安定した品質のポリカルボン酸系コンクリート混和剤、特に親水親油バランスの平均値が19未満である単量体成分を重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体を好適に製造することが可能となることを見いだした。また、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法において、上記重合工程を、オキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを含む混合物を反応開始時の溶媒として重合することによっても、重合中にゲルが生成することが充分に抑制しつつ、保持性がよく、安定した品質となり、ポリカルボン酸系コンクリート混和剤、特に(ポリ)オキシアルキレン基の鎖長の短い重合体のみを含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤を好適に製造することができるという本発明の効果を発揮できることを見いだした。更に、上記予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体を、ポリカルボン酸系重合体とすると、更に(ポリ)オキシアルキレン基の鎖長の短い重合体を好適に製造することができることを見出した。そして、上記ポリカルボン酸系重合体としては、特定の(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)と、不飽和カルボン酸系単量体(B)とを含有する単量体成分を重合工程によって得られるものとすると、特に好適であることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到した。また、上記重合工程を、予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体における平均付加モル数mと、重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mとが同一となるようにして重合を行うと、(ポリ)オキシアルキレン基の鎖長の短い重合体のみを含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤を製造する際に更に有利になることを見出した。更に、ポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法を、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記重合工程は、溶媒中に重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を予め存在させて重合することによっても、ゲル化を充分に抑制して、ポリカルボン酸系コンクリート混和剤、特に(ポリ)オキシアルキレン基の鎖長の短い重合体を好適に製造することができるという本発明の効果を発揮できることを見いだし、本発明に到達したものである。
【0007】
すなわち本発明は、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記重合工程は、親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法である。
本発明はまた、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記重合工程は、オキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法でもある。
本発明は更に、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記重合工程は、溶媒中に重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を予め存在させて重合するポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法でもある。
本発明はそして、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記製造方法は、反応容器に単量体を導入する前に反応容器に予め親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体及び/又はオキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを導入して溶媒としての水溶性重合体と水とを含む混合物を調製する工程と、上記工程で得られた水溶性重合体と水とを含む混合物に(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)を添加する工程と、上記工程で得られた水溶性重合体と水とを含む混合物に不飽和カルボン酸系単量体(B)を添加する工程とを有するポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法でもある。
以下に、本発明を詳述する。
【0008】
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法では、水を含む溶媒を用いて単量体成分を重合する工程においてポリカルボン酸系重合体を製造することにより、該ポリカルボン酸系重合体を含有するポリカルボン酸系コンクリート混和剤を製造することになる。
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法は、(1)該重合工程は、親水親油バランス(HLB:Hydrophile−Lipophile Balance)の平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体と水とを含む混合物、若しくは、(2)オキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するか、又は、(3)溶媒中に重合開始剤及び/又は連鎖移動剤のいずれかを溶媒中に予め存在させて重合することにより、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むものである。
本発明の製造方法における好ましい形態としては、例えば、上記(1)と(2)の形態の組み合わせが挙げられる。
【0009】
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法の一つは、親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するものである。
上記親水親油バランスの平均値は、18.5未満であることが更に好ましい。
【0010】
本発明の製造方法は、重合に用いるモノマーの水溶性又は製造しようとするポリマーの水溶性が低い場合に好適に適用することができ、効果的に重合中のゲルの生成を抑制することが可能となる。このような場合、予め溶媒として用いられる混合物に含まれる重合体が保持性を高める効果を充分に発揮することになる。この場合においても、水溶性、疎水性の程度は、親水親油バランスを用いて特定することが好適であり、製造されるポリカルボン酸系重合体の親水親油バランスが19.5未満であることが好ましい。
なお、本明細書中、「重合に用いる単量体成分」又は「重合に用いるモノマー」とは、本発明の製造方法における重合工程において重合される単量体成分をいう。
【0011】
上記重合に用いる単量体成分の親水親油バランスの平均値が19.5未満であると、従来の製造方法においては、ゲルが生成する可能性が高く、このような重合系において本発明の製造方法は、上記混合物を予め溶媒として用いて重合することにより、効果的にゲルの生成を抑制することができる。より好ましい形態としては、上記重合に用いる単量体成分の(ポリ)オキシアルキレン基の親水親油バランスの平均値が19以下であり、更に好ましくは、18.5以下である。従来の製造方法においては、単量体成分や製造される重合体の(ポリ)オキシアルキレン基の親水親油バランスが18.5〜19であると、ゲルが多量となり、18.5以下であると、重合が困難となる可能性が高くなる。例えば、単量体成分が重合系中で集まって均一に重合できなくなり、生成する重合体の分子量が高くなり過ぎて水溶性でなくなり、また、親水性の高い単量体成分だけが水中で重合して共重合が充分に進行しないこととなる。
【0012】
本発明の製造方法は、親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合することにより、ゲル化を充分に抑制することができるうえに、得られるポリカルボン酸系重合体に、上記親水親油バランスの平均値が高い水溶性重合体(すなわち、親水親油バランスの平均値が高い(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体)が混合しておらず、上記親水親油バランスが低い(例えば、親水親油バランスが19未満である)ポリカルボン酸系重合体を得ることが可能になる。また、得られるポリカルボン酸系重合体に、長鎖のポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸系重合体が混合していない、短鎖の(ポリ)オキシアルキレン基を有するポリカルボン酸系重合体のみを得ることが可能になる。このようなポリカルボン酸系コンクリート混和剤を製造する方法は、新規であり、本発明の製造方法の好ましい形態の一つである。
【0013】
本発明の製造方法はまた、重合系内のpH、すなわち重合溶液のpHが1.5以上、9以下の場合に好適に適用することができる。より好ましくは、8以下である。pHがこのような範囲を超えると、製造される重合体の水溶性が高くなることから、上記pHが高い場合、上記単量体成分や製造される重合体の親水親油バランスが低いときにおいても、ゲルが生成しにくくなる可能性があり、本発明の製造方法が充分に作用効果を発揮できないおそれがある。しかし、上記pHが高い場合には、単量体成分における酸系単量体の重合率が低下するおそれがある。
したがって、本発明の製造方法が充分に作用効果を発揮することができるようにするには、上記pHの範囲である重合系において本発明を適用することが好ましい。
【0014】
本発明における親水親油バランスの求め方としては、グリフィンの親水親油バランスの求め方を用いることが好ましい。この場合には、下記式により求めることができる。
親水親油バランス=(親水基の分子量)/(全体の分子量)×100/5=(親水基の質量%)/5
上記グリフィンの親水親油バランスにおいて、例えば、アルキル基は、疎水基であり、また、CHCHOは、親水基であり、分子量を44として計算することとなる。なお、本発明においては、プロピレンオキシド鎖(CH(CH)CHO)の場合は、メチル基を疎水基、残りを親水基とする(グリフィンの親水親油バランスには決められていない)。
【0015】
本発明の製造方法に用いる水溶性重合体においては、水溶性重合体が得られる際に重合した単量体成分の側鎖(カルボン酸及びカルボン酸塩は除く)について親水親油バランスを適用する。ただしエステル部(COO)やエーテル部(CO)は入れない。
すなわち、上記親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体とは、水溶性重合体の側鎖の親水親油バランスの平均値が19未満であることを意味する。本願発明においては、(ポリ)オキシアルキレン基によって形成される側鎖を必須とすることになるが、実質的にすべての側鎖が(ポリ)オキシアルキレン基によって形成されることが好ましい。
例えば、下記のように計算されることになる。
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数10)の場合、側鎖はメトキシポリエチレングリコール(メトキシPEG)の部分であり、親水親油バランスは次のようになる。
親水親油バランス=(44×10)/(15+44×10)×100/5=19.3
単量体成分の組成の割合がメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数2)/メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数8)(80/20モル比)の場合、親水親油バランスは次のようになる。
親水親油バランス=(44×8×20+44×2×80)/{(15+44×8)×20+(15+44×2)×80}×100/5=18.1(平均鎖長3.2)
なお、側鎖とは、単量体をX−(側鎖)で表し、例えば、Xが
C=C−COO、C=C−O、C=C−C−C、C=C−C
等により表される場合の側鎖部分である。
【0016】
上記水溶性重合体(予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体)としては、重合性不飽和二重結合を有しないで重合体中に取り込まれないものが好ましい。例えば、いわゆるマクロモノマー等ではない水溶性重合体を用いることが好ましい。
なお、ポリカルボン酸系重合体は、ポリカルボン酸系混和剤の形態として用いてもよい。
親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体は、親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体を含む単量体成分を共重合して製造することができるが、これに限定されない。
【0017】
本発明の製造方法において、上記水溶性重合体の重量平均分子量としては、5000〜100000が好ましく、6000〜40000がより好ましく、更に好ましくは7000〜30000である。
また製造されるポリカルボン酸系コンクリート混和剤を形成するポリカルボン酸系重合体の重量平均分子量としては、50000以下が好ましく、6000〜40000がより好ましく、更に好ましくは7000〜30000である。
なお、重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(以下「GPC」という)によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量であり、下記GPC測定条件により測定することが好ましい。
【0018】
GPC分子量測定条件
使用カラム:東ソー社製TSKguardColumn SWXL+TSKge1 G4000SWXL+G3000SWXL+G2000SWXL
溶離液:水10999g、アセトニトリル6001gの混合溶媒に酢酸ナトリウム三水和物115.6gを溶かし、更に酢酸でpH6.0に調整した溶離液溶液を用いる。
打込み量:0.5%溶離液溶液100μL
溶離液流速:0.8mL/min
カラム温度:40℃
標準物質:ポリエチレングリコール、ピークトップ分子量(Mp)272500、219300、85000、46000、24000、12600、4250、7100、1470
検量線次数:三次式
検出器:日本Waters社製 410 示差屈折検出器
解析ソフト:日本Waters社製 MILLENNIUM Ver.3.21
【0019】
上記重合工程において得られるポリカルボン酸系重合体としては、後述する不飽和カルボン酸系単量体(B)を必須とする単量体成分を重合してなる重合体が好適である。より好ましくは、不飽和カルボン酸系単量体(B)と後述する(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)とを必須とし、必要によりその他の不飽和単量体を含む単量体成分を重合してなる重合体である。この場合、ポリカルボン酸系重合体を形成する単量体成分の組成としては、不飽和カルボン酸系単量体(B)については、20〜70モル%または10〜50質量%が好ましく、30〜60モル%または10〜30質量%がより好ましい。また、(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)については、5〜70モル%または50〜95質量%が好ましく、10〜60モル%または60〜90質量%がより好ましい。
【0020】
上記重合工程において予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体の重合系中の濃度としては、水溶性重合体が相溶化剤としての作用効果を充分に発揮するためには、水溶性重合体と水との合計を100質量%とすると、水溶性重合体が1質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、3質量%以上、60質量%以下であり、更に好ましくは、5質量%以上、50質量%以下である。
また上記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体に対する上記水溶性重合体の使用量としては、重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体を100質量%とすると、上記水溶性重合体の使用量が1〜500質量%であることが好ましい。より好ましくは、1〜300質量%であり、更に好ましくは、1〜100質量%であり、更に好ましくは、1〜80質量%であり、特に好ましくは、1〜60質量%であり、最も好ましくは、1〜40質量%である。
更に重合工程における単量体成分に対する上記水溶性重合体の使用量としては、重合工程で用いられるすべての単量体成分の量を100質量%とすると、水溶性重合体は、0.1質量%以上であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましい。1質量%以上であることがより好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
また、本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法は、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記重合工程は、オキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するものでもある。
【0022】
本発明の製造方法は、重合に用いるモノマーの水溶性又は製造しようとするポリマーの水溶性が低い場合に好適に適用することができ、効果的に重合中のゲルの生成を抑制することが可能となる。このような場合、予め溶媒として用いられる混合物に含まれる重合体が保持性を高める効果を充分に発揮することになる。この場合において、水溶性、疎水性の程度は、オキシアルキレン基の平均付加モル数を用いて特定することが好適であり、製造されるポリカルボン酸系重合体がオキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有することが好ましい。
【0023】
上記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体が、オキシアルキレン基の平均付加モル数が15未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する重合体であると、従来の製造方法においては、ゲルが生成する可能性が高く、このような重合系において本発明の製造方法は、上記混合物を予め溶媒として用いて重合することにより、効果的にゲルの生成を抑制することができる。より好ましい形態としては、上記重合に用いる単量体成分の親水親油バランスの平均値が10未満であり、更に好ましくは、8以下である。従来の製造方法においては、単量体成分や製造される重合体が有する(ポリ)オキシアルキレン基におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数が15未満であると、ゲルが多量となり、7未満であると、重合が困難となる可能性が高くなる。例えば、単量体成分が重合系中で集まって均一に重合できなくなり、生成する重合体の分子量が高くなり過ぎて水溶性でなくなり、また、親水性の高い単量体成分だけが水中で重合して共重合が充分に進行しないこととなる。
【0024】
本発明の製造方法は、オキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合することにより、ゲル化を充分に抑制することができるうえに、得られるポリカルボン酸系重合体に、長鎖のポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸系重合体が混合しておらず、オキシアルキレン基の平均付加モル数が小さな(例えば、オキシアルキレン基の平均付加モル数が15未満である)(ポリ)オキシアルキレン基を有するポリカルボン酸系重合体を得ることが可能になる。また、得られるポリカルボン酸系重合体が、親水親油バランスが高い(ポリ)オキシアルキレン基を有するものとならず、例えば、上記親水親油バランスが低い(例えば、親水親油バランスが19.5未満である)(ポリ)オキシアルキレン基を有するポリカルボン酸系重合体を得ることが可能になる。
上記オキシアルキレン基の平均付加モル数は、より好ましくは、7未満であり、更により好ましくは、6未満であり、特に好ましくは、5未満である。また上記オキシアルキレン基の平均付加モル数は、1より多いことが好ましい。
なお、上記オキシアルキレン基の平均付加モル数とは、アルキレンオキシド付加物が有するオキシアルキレン基により形成される基1モル中において付加している当該オキシアルキレン基のモル数の平均値を意味する。
本発明の製造方法における配合比等の好ましい形態については、上述したものと同様である。
【0025】
上記親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体、又は、上記オキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体を、予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体ともいう。
上記予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体は、例えば、ポリカルボン酸系重合体の1種又は2種以上が挙げられる。
【0026】
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法において、上記予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体は、ポリカルボン酸系重合体であることが好ましい。
このような重合工程において予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体を、本明細書中、予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体という。
本明細書中、溶媒とは、水溶性重合体と水とを含む混合物によって構成されるものであり、通常用いられる有機溶媒やその他の原料等を含んでいてもよい。なお、単量体成分、重合開始剤、促進剤、連鎖移動剤、中和に用いる中和剤(アルカリ性物質)等は、溶媒にはあたらないものとする。なお、重合中に生成するポリカルボン酸系重合体は、該重合中においては溶媒にあたらないものとする。水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するところに本発明の一つの特徴がある。すなわち、水溶性重合体と水とを含む混合物を重合を行うための溶媒として用いるものである。
【0027】
上記重合工程において、「水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合する」ための水溶性重合体の存在のさせ方及び重合方法としては、予め溶媒として用いられる混合物に含まれる重合体や単量体成分を反応容器(反応釜)に張って重合してもよく、反応容器に滴下して重合してもよく、例えば、(1)水と水溶性重合体とを反応容器に張り、そこに単量体成分を滴下して重合させる、(2)反応容器に水を張り、そこに単量体成分と水溶性重合体とを滴下して重合させる、又は、(3)反応容器に水と水溶性重合体と単量体成分とを張り重合させる方法が好適である。
【0028】
なお、水溶性重合体を重合して得た反応容器において、新たに単量体成分を加えることにより、好ましくは新たに単量体成分を滴下していくことにより重合させてもよい。また、得られたポリカルボン酸系重合体を次工程において予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体として作用させてゲルの生成が充分に抑制されることになるように重合してもよい。得られたポリカルボン酸系重合体を次工程で予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体として用いることを繰り返すことにより、連続してポリカルボン酸系重合体を製造してもよい。
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法における上記重合工程は、上記溶媒に単量体成分を滴下することが好ましい。
【0029】
連続してポリカルボン酸系重合体を製造する場合に、前の工程で得られたポリカルボン酸系重合体の一部を後の工程の上記水溶性重合体(予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体)として用いて、例えば原料の配合を調整して重合工程を繰り返すことにより、予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mと、重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mとが同一となるようにして重合を行うことが可能となり、また、例えば原料の配合を同一のものとして重合工程を繰り返すことにより、予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体と重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体とを同一組成のものになるように重合を行うことが可能となる。本発明においてポリカルボン酸系重合体を上記水溶性重合体として用いる効果が発揮されると共に、平均付加モル数mが低く調整された(ポリ)オキシアルキレン基を有するポリカルボン酸系重合体又は単一組成のポリカルボン酸系重合体を調製することができ、ポリカルボン酸系重合体の品質や性能において有利である。
【0030】
本発明の製造方法においては、上述したように、重合工程において生成するゲルの生成が抑えられることになるが、ゲルの量としては、重合工程で得られるポリマーの全量を100質量%とすると、好ましい範囲は0.3質量%以下であり、より好ましくは0.25質量%以下である。
これにより、本発明により製造されるポリカルボン酸系コンクリート混和剤の品質がより向上することとなる。ゲルの質量は、重合後に、重合反応液をJIS Z8801標準ふるい(目の開きが1mm)で濾過したときふるい上に残ったゲルと、反応容器・撹拌翼・温度計等に付着したゲルとの含水状態での合計質量を測定することにより求めることができる。
【0031】
本発明における予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体としては、ポリカルボン酸系重合体が好ましい。
上記予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体と上記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体とは、同一又は異なって、(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)、不飽和カルボン酸系単量体(B)、及び、必要に応じてその他の不飽和単量体を含む単量体成分を用いることが好適である。
上記予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体の場合には、単量体成分のモル比としては、(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)/不飽和カルボン酸系単量体(B)/その他の不飽和単量体のモル比が、10〜90/10〜90/0〜50であることが好ましい。より好ましくは、20〜80/20〜80/0〜30である。
また本発明により製造されるポリカルボン酸系重合体としては、上記モル比が10〜90/10〜90/0〜50であることが好ましい。より好ましくは、20〜80/20〜80/0〜30である。
【0032】
上記(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)としては、重合性不飽和基とポリアルキレングリコール鎖とを有するものであればよい。
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法において、上記予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体と上記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体とは、同一又は異なって、下記一般式(1)で表される(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)と、不飽和カルボン酸系単量体(B)とを含有する単量体成分を重合して得られるものであることが好ましい。
【0033】
【化1】

【0034】
一般式(1)中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子、メチル基又は−X−O(RO)−R基を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。Rは、同一又は異なって、炭素数2〜18のアルキレン基を表す。mは、同一又は異なって、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。Xは、同一又は異なって、炭素数1〜5の2価のアルキレン基を表すか、又は、RC=CR−で表される基がビニル基の場合、Xに結合している炭素原子、酸素原子同士が直接結合していることを表す。また、Xは、−CO−結合であってもよい。
なお、異なる場合は、R、R、R、R、R、m、X等の何れかが異なることになる。
【0035】
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法における上記重合工程は、予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mと、重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mとが同一となるようにして重合を行うことが好ましい。
ポリカルボン酸系重合体の性質や品質としては、mを調整することが一つの重要な要因となる。
予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mと、重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mとが同一とは、ポリカルボン酸系重合体においてmに関する性能や品質が同一であると評価できることを意味するものであり、完全に同一であることが最も好ましいが、完全に同一でなくても良い。予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mと、重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mとの差は、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましく、3以下であることが更に好ましく、2以下であることが更により好ましく、1以下であることが特に好ましい。
【0036】
上記予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体と上記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体とは、単一組成のポリカルボン酸系重合体であることが特に好ましい。単一組成のポリカルボン酸系重合体が調製されることにより、分子量などの他の特性も同一となり、ポリカルボン酸系重合体の品質や性能において有利となる。
すなわち、単一組成のポリカルボン酸系重合体を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤を製造する方法は、本発明の好ましい形態である。
また、本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法において、予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体を重合して得るための仕込み単量体組成と上記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体を重合して得るための仕込み単量体組成とは、同一であることが好ましい。
予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体を重合して得るための仕込み単量体組成と上記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体を重合して得るための仕込み単量体組成とを同一とすることにより、ポリマー混合物組成が変化することなく、連続で安定した品質のものを提供することができる。
【0037】
上記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物、ポリアルキレングリコールエステル系単量体が挙げられる。
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、不飽和基を有するアルコールにポリアルキレングリコール鎖が付加した構造を有する化合物であればよく、また、上記ポリアルキレングリコールエステル系単量体としては、不飽和基とポリアルキレングリコール鎖とがエステル結合を介して結合された構造を有する単量体であればよく、不飽和カルボン酸ポリアルキレングリコールエステル系化合物が好適であり、中でも、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好適である。
【0038】
上記一般式(1)における−(RO)−で表されるオキシアルキレン基が同一の(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)に2種以上存在する場合には、−(RO)−で表されるオキシアルキレン基がランダム付加、ブロック付加、交互付加等のいずれの付加形態であってもよい。
【0039】
上記−(RO)−で表されるオキシアルキレン基は、炭素数2〜18のアルキレンオキシド付加物であるが、このようなアルキレンオキシド付加物の構造は、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド等のアルキレンオキシドの1種又は2種以上により形成される構造である。このようなアルキレンオキシド付加物の中でも、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド付加物であることが好ましい。更にエチレンオキシドが主体であるものが更に好ましい。
【0040】
上記ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数であるmは、製造されるポリカルボン酸系重合体においては、1〜300の数であることが好ましい。mが300を超えると、単量体の重合性が低下することになる。mの好ましい範囲としては、2以上であり、また、−(RO)−の中で、オキシエチレン基の平均付加モル数としては、2以上であることが好ましい。mが2未満であったり、オキシエチレン基の平均付加モル数が2未満であったりすると、セメント粒子等を分散させるために充分な親水性、立体障害が得られないおそれがあるため、優れた流動性を得ることができないおそれがある。優れた流動性を得るには、mの範囲としては、3以上が好ましく、また、280以下が好ましい。より好ましくは、250以下、特に好ましくは、150以下である。また、オキシエチレン基の平均付加モル数としては、好ましくは、2以上が好ましく、また、100以下が好ましい。より好ましくは、50以下であり、更に好ましくは、20以下であり、特に好ましくは10以下である。なお、平均付加モル数とは、単量体1モル中において付加している当該有機基のモル数の平均値を意味する。粘性の低いコンクリートを得るためには、mの範囲としては1以上が好ましく、また、100以下が好ましい。より好ましくは2以上であり,また、50以下である。より好ましくは3以上であり、また、30以下である。特に好ましくは25以下である。
上記オキシエチレン基の平均付加モル数とは、アルキレンオキシド付加物が有するオキシアルキレン基により形成される基1モル中において付加しているオキシエチレン基のモル数の平均値を意味する。オキシエチレン基以外のオキシアルキレン基が付加された形態であっても良いが、オキシエチレン基のみが付加した形態のものが好ましい。
【0041】
上記(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)としては、オキシアルキレン基の平均付加モル数mの異なる2種類以上の単量体を組み合わせて用いることができる。好適な組み合わせとして、例えば、mの差が10以下(好ましくはmの差が5以下)の2種類の(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)の組み合わせ、又は、各々の平均付加モル数mの差が10以下(好ましくはmの差が5以下)の3種類以上の(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)の組み合わせ等が挙げられる。
【0042】
また上記一般式(1)で表される化合物がポリアルキレングリコールエステル系単量体であることが好ましく、この場合には、−(RO)−で表されるオキシアルキレン基としては、(メタ)アクリル酸系単量体(RC=CR−COOH)とのエステル結合部分にエチレンオキシド部分が付加していることが(メタ)アクリル酸系単量体とのエステル化の生産性の向上の点から好ましい。
【0043】
上記Rは、炭素数が20を超えると、セメント組成物が良好な分散性を得ることができなくなるおそれがある。Rの好ましい形態としては、分散性の点から、炭素数1〜20の炭化水素基又は水素である。より好ましくは、炭素数10以下、更に好ましくは、炭素数3以下、特に好ましくは、炭素数2以下の炭化水素基である。炭化水素基の中でも、飽和アルキル基、不飽和アルキル基が好ましい。これらのアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。また、優れた材料分離防止性能の発現や、セメント組成物中に連行される空気量を適度なものとするためには、炭素数5以上の炭化水素基とすることが好ましく、また、炭素数20以下の炭化水素基とすることが好ましい。より好ましくは、炭素数5〜10の炭化水素基である。炭化水素基の中でも、飽和アルキル基、不飽和アルキル基が好ましい。これらのアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。
【0044】
上記不飽和アルコールポリアルキレングリコール付加物としては、例えば、ビニルアルコールアルキレンオキシド付加物、(メタ)アリルアルコールアルキレンオキシド付加物、3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、イソプレンアルコール(3−メチル−3−ブテン−1−オール)アルキレンオキシド付加物、3−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−2−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−2−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物、2−メチル−3−ブテン−1−オールアルキレンオキシド付加物が好適である。
【0045】
上記(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、1−ヘキサノール、2−ヘキサノール、3−ヘキサノール、オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、ノニルアルコール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の炭素数1〜30の脂肪族アルコール類、シクロヘキサノール等の炭素数3〜30の脂環族アルコール類、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等の炭素数3〜30の不飽和アルコール類のいずれかに、炭素数2〜18のアルキレンオキシド基を1〜300モル付加したアルコキシポリアルキレングリコール類、特にエチレンオキシドが主体であるアルコキシポリアルキレングリコール類と、(メタ)アクリル酸とのエステル化物が好適である。
【0046】
上記エステル化物としては、以下に示す(アルコキシ)ポリエチレングリコール(ポリ)(炭素数2〜4のアルキレングリコール)(メタ)アクリル酸エステル類等が好適である。
メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート。
【0047】
ブトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ブトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート。
【0048】
ヘプトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ヘプトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヘプトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ヘプトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、オクトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、オクトキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ノナノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノナノキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ノナノキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレート、ノナノキシ{ポリエチレングリコール(ポリ)プロピレングリコール(ポリ)ブチレングリコール}モノ(メタ)アクリレートが好適である。
【0049】
上記(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)としては、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの他にも、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノマレイン酸エステル、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールジマレイン酸エステルが好適である。
【0050】
上記不飽和カルボン酸系単量体(B)としては、重合性不飽和基とカルボアニオンを形成しうる基とを有する単量体であればよいが、不飽和モノカルボン酸系単量体や不飽和ジカルボン酸系単量体等が好適である。
上記不飽和モノカルボン酸系単量体としては、分子内に不飽和基とカルボアニオンを形成しうる基とを1つずつ有する単量体であればよく、好ましい形態としては、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0051】
【化2】

【0052】
上記一般式(2)中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。R、Rは水素原子、メチル基、または−COOMを表す。Mは、水素原子、金属原子、アンモニウム基又は有機アミン基(プロトン化された有機アミン)を表す。
上記一般式(2)のMにおける金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属原子等の1価の金属原子;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属原子等の2価の金属原子;アルミニウム、鉄等の3価の金属原子が好適である。また、有機アミン基としては、エタノールアミン基、ジエタノールアミン基、トリエタノールアミン基等のアルカノールアミン基や、トリエチルアミン基が好適である。更に、アンモニウム基であってもよい。このような不飽和モノカルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等;これらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩(有機アンモニウム塩)が好適である。これらの中でも、セメント分散性能の向上の面から、メタクリル酸;その1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩、有機アミン塩を用いることが好ましく、不飽和カルボン酸系単量体(B)として好適である。
【0053】
上記不飽和ジカルボン酸系単量体としては、分子内に不飽和基を1つとカルボアニオンを形成しうる基を2つとを有する単量体であればよいが、マレイン酸、シトラコン酸、フマル酸等や、それらの1価金属塩、2価金属塩、アンモニウム塩及び有機アミン塩等、又は、それらの無水物が好適である。
上記不飽和ジカルボン酸系単量体としては、これらの他にも、不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数1〜22個のアルコールとのハーフエステル、不飽和ジカルボン酸類と炭素数1〜22のアミンとのハーフアミド、不飽和ジカルボン酸系単量体と炭素数2〜4のグリコールとのハーフエステル、マレアミン酸と炭素数2〜4のグリコールとのハーフアミドが好適である。
【0054】
上記その他の不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル系単量体や多分岐(ポリ)オキシアルキレン基を有するエチレン系単量体が好適である。上記(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えば、炭素数1〜10のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好適である。これらの中でも、炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸プロピル等が挙げられる。更に好ましくは、(メタ)アクリル酸メチルである。
【0055】
上記アルキレンオキシド付加物では、オキシアルキレン基の平均付加モル数としては、1以上、300以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.5以上であり、更に好ましくは、1以上、特に好ましくは、2以上、最も好ましくは、3以上である。また、より好ましくは、200以下であり、更に好ましくは、150以下、特に好ましくは、100以下、最も好ましくは、50以下である。上記アルキレンオキシド付加物におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数がこのような範囲を外れると、製造しようとする重合体の疎水性を充分なものとすることができないおそれがある。
【0056】
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法はまた、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記製造方法は、i)反応容器(反応釜)に単量体を導入する前に反応容器に予め親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体及び/又はオキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを導入して溶媒としての水溶性重合体と水とを含む混合物を調製する工程と、ii)i)工程で得られた水溶性重合体と水とを含む混合物に(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)を添加する工程と、iii)i)工程で得られた水溶性重合体と水とを含む混合物に不飽和カルボン酸系単量体(B)を添加する工程とを有するポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法でもある。
このような製造方法とすることにより、水を含む溶媒を用いて重合する際に、特に、単量体成分や重合体の水溶性が低いときに、重合中にゲルが生成することを抑制して、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に対する減水剤等として好適なポリカルボン酸系コンクリート混和剤を簡便に製造することができることとなる。
上記ポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法と、上述した好ましい形態とを適宜組み合わせて用いることができる。
上記ii)工程とiii)工程は、同時に行ってもよく、別個に行ってもよい。別個に行う場合は、ii)工程の後にiii)工程を行ってもよく、iii)工程の後にii)工程を行ってもよい。中でも、ii)工程とiii)工程とを同時に行うことが好ましく、例えば、(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体と不飽和カルボン酸系単量体とを含む混合溶液を滴下する形態が特に好ましい。
【0057】
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法はまた、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、上記重合工程は、溶媒中に重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を予め存在させて重合するポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法でもある。
【0058】
本発明の製造方法は、重合に用いるモノマーの水溶性又は製造しようとするポリマーの水溶性が低い場合に好適に適用することができ、効果的に重合中のゲルの生成を抑制することが可能となる。このような場合、溶媒中に存在する重合開始剤及び/又は連鎖移動剤が保持性を高める効果を充分に発揮することになる。
【0059】
従来の製造方法においては、ゲルが生成する可能性が高く、このような重合系において本発明の製造方法は、溶媒中に上記重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を予め存在させて重合することにより、効果的にゲルの生成を抑制することができる。従来の製造方法においては、単量体成分や製造される重合体が有する(ポリ)オキシアルキレン基におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数が15未満であると、ゲルが多量となり、10未満であると、重合が困難となる可能性が高くなる。例えば、単量体成分が重合系中で集まって均一に重合できなくなり、生成する重合体の分子量が高くなり過ぎて水溶性でなくなり、また、親水性の高い単量体成分だけが水中で重合して共重合が充分に進行しないこととなる。
【0060】
本発明の製造方法は、溶媒中に上記重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を予め存在させて重合することにより、ゲル化を充分に抑制することができるうえに、得られるポリカルボン酸系重合体が、親水親油バランスの平均値が高いものとならず、例えば、親水親油バランスの平均値が15未満の(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とするポリカルボン酸系重合体のみを得ることが可能になる。また、例えば、得られるポリカルボン酸系重合体に、長鎖のポリオキシアルキレン基を有するポリカルボン酸系重合体が混合していない、短鎖の(ポリ)オキシアルキレン基を有するポリカルボン酸系重合体のみを得ることが可能になる。
上記ポリカルボン酸系重合体が(ポリ)オキシアルキレン基を有する場合は、該(ポリ)オキシアルキレン基におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数は、より好ましくは、8以下であり、更に好ましくは、5以下である。
本発明の製造方法における上記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体、単量体成分の配合比等の好ましい形態については、上述した好ましい形態と同様である。
【0061】
上記重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2メチルプロピオンアミジン塩酸塩、アゾイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド等のパーオキシドが好適である。また、促進剤として、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート、アスコルビン酸等の還元剤;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、グリシン等のアミン化合物を併用することもできる。これらの重合開始剤や促進剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記重合開始剤を溶媒中に予め存在させる量は、単量体成分100質量%に対して、例えば0.001質量%以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。0.01質量%以上であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
上記重合開始剤の総使用量(溶媒中に予め存在させる重合開始剤及び単量体成分の反応開始後に添加する重合開始剤の全量)は、単量体成分100質量%に対して、例えば0.05質量%以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
上記促進剤を溶媒中に予め存在させる量は、単量体成分100質量%に対して、例えば0.001質量%以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。0.01質量%以上であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
上記促進剤の総使用量(溶媒中に予め存在させる促進剤及び単量体成分の反応開始後に添加する促進剤の全量)は、単量体成分100質量%に対して、例えば0.05質量%以上であることが好ましく、5質量%以下であることが好ましい。0.1質量%以上であることがより好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
上記促進剤は、溶媒中に予め存在させてもよく、単量体成分の反応後に添加する(例えば、単量体成分と同時に滴下する)ものであってもよい。
【0062】
重合に際し、安定した分子量の制御には連鎖移動剤の使用が好ましく、モノマーとの相溶性、溶媒への溶解性から、必要に応じて1種又は2種以上の連鎖移動剤を使用することが出来る。このような連鎖移動剤としては、炭素数3以上の炭化水素基をもつチオール化合物又は25℃の水に対する溶解度が10%以下の化合物が好適であり、上述した連鎖移動剤や、ブタンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、チオフェノール、チオグリコール酸オクチル、2−メルカプトプロピオン酸オクチル、3−メルカプトプロピオン酸オクチル、ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、チオグリセロール、チオグリコール酸、メルカプトプロピオン酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオリンゴ酸、2−メルカプトエタンスルホン酸等のチオール系連鎖移動剤;イソプロパノール等の2級アルコール;亜リン酸、次亜リン酸及びその塩(次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウムなど)や亜硫酸が好適である。
上記連鎖移動剤を溶媒中に予め存在させる量は、単量体成分の反応開始後に添加する連鎖移動剤量(例えば、単量体と同時に滴下する連鎖移動剤の量)100質量%に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、40質量%以下であることが好ましい。1質量%以上であることがより好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。
また上記連鎖移動剤の総使用量(溶媒中に予め存在させる連鎖移動剤及び単量体成分の反応開始後に添加する連鎖移動剤の全量)は、単量体成分100質量%に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、10質量%以下であることが好ましい。0.5質量%以上であることがより好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0063】
上記重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の反応容器への添加方法としては、滴下、分割投入等の連続投入方法を適用することができる。また、重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を単独で反応容器へ導入してもよく、単量体成分を構成するオキシアルキレン基を有する不飽和単量体や、溶媒等とあらかじめ混同しておいてもよい。
中でも、上記溶媒に重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を滴下することが好ましく、例えば上記重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を先行して滴下し、その後、単量体成分と共に上記重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を滴下する方法は、好適な態様である。例えば、10分〜45分先行して上記重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の滴下を開始することが好ましい。
このとき、先行して滴下した重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の量が、溶媒中に予め存在させた重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の量となり、単量体成分と共に滴下した重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の量が、単量体成分の反応開始後に添加した重合開始剤及び/又は連鎖移動剤の量となる。
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法における上記重合工程において、上述した重合開始剤、促進剤、連鎖移動剤を適宜用いることができる。
【0064】
以下では、重合方法、セメント添加剤等について更に説明する。
上記重合方法は、回分式でも連続式でも行うことができる。
上記重合方法において、重合温度等の重合条件としては、用いられる重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤により適宜定められるが、重合温度としては、通常0℃以上であることが好ましく、また、150℃以下であることが好ましい。より好ましくは、40℃以上であり、更に好ましくは、50℃以上であり、特に好ましくは、60℃以上である。また、より好ましくは、120℃以下であり、更に好ましくは、100℃以下であり、特に好ましくは、85℃以下である。
【0065】
上記重合方法により製造されるポリカルボン酸系重合体は、そのままでもポリカルボン酸系コンクリート混和剤の主成分として用いられるが、必要に応じて、更に、アルカリ性物質で中和して用いてもよい。アルカリ性物質としては、一価金属及び二価金属の水酸化物、塩化物及び炭酸塩等の無機塩;アンモニア;有機アミンを用いることが好ましい。
【0066】
本発明の製造方法により製造されるポリカルボン酸系コンクリート混和剤は、セメント組成物等に混和することができる剤、すなわちセメント添加剤等を含んでなる剤を意味する。本発明の重合工程により得られるポリカルボン酸系重合体は、セメント添加剤の主成分として好適なものであり、それにより上記ポリカルボン酸系コンクリート混和剤を構成することもできる。このようなセメント添加剤について以下に説明する。
【0067】
上記セメント添加剤は、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物に加えて用いることができる。また、超高強度コンクリートにも用いることができる。上記セメント組成物としては、セメント、水、細骨材、粗骨材等を含む通常用いられるものが好適である。また、フライアッシュ、高炉スラグ、シリカヒューム、石灰石等の微粉体を添加したものであってもよい。なお、超高強度コンクリートとは、セメント組成物の分野で一般的にそのように称されているもの、すなわち従来のコンクリートに比べて水/セメント比を小さくしてもその硬化物が従来と同等又はより高い強度となるようなコンクリートを意味し、例えば、水/セメント比が25質量%以下、更に20質量%以下、特に18質量%以下、特に14質量%以下、特に12質量%程度であっても通常の使用に支障をきたすことのない作業性を有するコンクリートとなり、その硬化物が60N/mm以上、更に80N/mm以上、より更に100N/mm以上、特に120N/mm以上、特に160N/mm以上、特に200N/mm以上の圧縮強度を示すことになるものである。
【0068】
上記セメントとしては、普通、早強、超早強、中庸熱、白色等のポルトランドセメント;アルミナセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント等の混合ポルトランドセメントが好適である。上記セメントのコンクリート1m当たりの配合量及び単位水量としては、例えば、高耐久性・高強度のコンクリートを製造するためには、単位水量100〜185kg/m、水/セメント比=10〜70%とすることが好ましい。より好ましくは、単位水量120〜175kg/m、水/セメント比=20〜65%である。
【0069】
上記セメント添加剤のセメント組成物への添加量としては、本発明の重合工程により製造されるポリカルボン酸系重合体が、セメント質量の全量100質量%に対して、0.01質量%以上となるようにすることが好ましく、また、10質量%以下となるようにすることが好ましい。0.01質量%未満であると、セメント組成物が性能的に充分とはならないおそれがあり、10質量%を超えると、経済性が劣るおそれがある。より好ましくは、0.05質量%以上であり、また、8質量%以下であり、更に好ましくは、0.1質量%以上であり、また、5質量%以下である。なお、上記質量%は、固形分換算の値である。
【0070】
上記セメント添加剤は、通常用いられるセメント分散剤と併用することができる。上記セメント分散剤としては、以下のものが好適である。
リグニンスルホン酸塩;ポリオール誘導体;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;メラミンスルホン酸ホルマリン縮合物。
【0071】
上記セメント分散剤を併用する場合には、使用するセメント分散剤の種類、配合及び試験条件等の違いにより一義的に決められないが、上記セメント添加剤と上記セメント分散剤との配合質量の割合は、5〜95:95〜5であることが好ましい。より好ましくは、10〜90:90〜10である。
【0072】
また上記セメント添加剤は、他のセメント添加剤と組み合わせて用いることもできる。上記他のセメント添加剤としては、例えば、以下に示すようなセメント添加剤(材)等が挙げられる。
(1)水溶性高分子物質:ポリアクリル酸(ナトリウム)、ポリメタクリル酸(ナトリウム)、ポリマレイン酸(ナトリウム)等の不飽和カルボン酸重合物;メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等の非イオン性セルロースエーテル類;多糖類;ポリビニルアルコール;デンプン等。
【0073】
(2)高分子エマルジョン:(メタ)アクリル酸アルキル等の各種ビニル単量体の共重合物等。
(3)遅延剤:グルコン酸、グルコヘプトン酸、リンゴ酸又はクエン酸、及び、これらのナトリウム、カリウム、カルシウム等の無機塩又は有機塩などのオキシカルボン酸並びにその塩;グルコース、フルクトース、ガラクトース、サッカロース等の単糖類や、二糖、三糖等のオリゴ糖、又はデキストリン等のオリゴ糖、又は、デキストラン等の多糖類、これらを含む糖蜜類等の糖類等。
【0074】
(4)早強剤・促進剤:塩化カルシウム、亜硝酸カルシウム、硝酸カルシウム等のカルシウム塩。
(5)鉱油系消泡剤:燈油、流動パラフィン等。
(6)油脂系消泡剤:動植物油、ごま油、ひまし油、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(7)脂肪酸系消泡剤:オレイン酸、ステアリン酸、これらのアルキレンオキシド付加物等。
(8)脂肪酸エステル系消泡剤:グリセリンモノリシノレート、アルケニルコハク酸誘導体、ソルビトールモノラウレート、ソルビトールトリオレエート、天然ワックス等。
【0075】
(9)オキシアルキレン系消泡剤:(ポリ)オキシエチレン(ポリ)オキシプロピレン付加物等のポリオキシアルキレン類;ジエチレングリコールヘプチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシプロピレンブチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン−2−エチルヘキシルエーテル、炭素数12〜14の高級アルコールへのオキシエチレンオキシプロピレン付加物等の(ポリ)オキシアルキルエーテル類;ポリオキシプロピレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の(ポリ)オキシアルキレン(アルキル)アリールエーテル類;2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3−メチル−1−ブチン−3−オール等のアセチレンアルコールにアルキレンオキシドを付加重合させたアセチレンエーテル類;ジエチレングリコールオレイン酸エステル、ジエチレングリコールラウリル酸エステル、エチレングリコールジステアリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレン脂肪酸エステル類;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウリン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタントリオレイン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンソルビタン脂肪酸エステル類;ポリオキシプロピレンメチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンドデシルフェノールエーテル硫酸ナトリウム等の(ポリ)オキシアルキレンアルキル(アリール)エーテル硫酸エステル塩類;(ポリ)オキシエチレンステアリルリン酸エステル等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルリン酸エステル類;ポリオキシエチレンラウリルアミン等の(ポリ)オキシアルキレンアルキルアミン類;ポリオキシアルキレンアミド等。
【0076】
(10)その他、アルコール系消泡剤;アミド系消泡剤;リン酸エステル系消泡剤;シリコーン系消泡剤等。
【発明の効果】
【0077】
本発明のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法は、上述の構成よりなるので、これにより、水を含む溶媒を用いて重合する際に、特に、単量体成分や重合体の水溶性が低いときに、重合中にゲルが生成することを抑制して、セメントペースト、モルタル、コンクリート等のセメント組成物等に対する減水剤等として好適なポリカルボン酸系コンクリート混和剤を簡便に製造することができることとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0078】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0079】
比較例1
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1026.3gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で、70℃まで昇温した。次に上記反応器にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下すると同時に、30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量23600の本発明におけるポリカルボン酸(1)(単量体成分の親水親油バランスの平均値18.4)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、3.2g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は49.4%であった。
【0080】
実施例1
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1025.6g及び比較例1で重合して得られる48%ポリマー水溶液143.9gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で70℃まで昇温した。次に、上記反応器にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下すると同時に、30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量24000の本発明におけるポリカルボン酸(2)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、0.4g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は49.4%であった。
【0081】
実施例2
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1025.6g及び比較例1で重合して得られる48%ポリマー水溶液57gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で70℃まで昇温した。次に上記反応器にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下すると同時に、30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量21900の本発明におけるポリカルボン酸(3)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、1.0g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は49.4%であった。
【0082】
実施例3
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1026.3gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で、70℃まで昇温した。次に上記反応器に30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間15分かけて滴下した。過酸化水素水溶液及びL−アスコルビン酸水溶液の滴下開始後15分でメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量22400の本発明におけるポリカルボン酸(4)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、1.6g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は49.4%であった。
【0083】
実施例4
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1026.3gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で、70℃まで昇温した。次に上記反応器に30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間30分かけて滴下した。過酸化水素水溶液及びL−アスコルビン酸水溶液の滴下開始後30分でメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量22400の本発明におけるポリカルボン酸(5)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、1.6g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は49.4%であった。
【0084】
実施例5
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1025.6g及び3−メルカプトプロピオン酸0.309gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で70℃まで昇温した。次に、上記反応器にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下すると同時に、30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量21000の本発明におけるポリカルボン酸(6)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、1.5g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は49.4%であった。
【0085】
実施例6
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1025.6g及び3−メルカプトプロピオン酸0.773gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で、70℃まで昇温した。次に、上記反応器にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下すると同時に、30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量22300の本発明におけるポリカルボン酸(7)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、1.8g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は49.4%であった。
【0086】
【表1】

【0087】
表1中、モノマー中のMPAとは、単量体成分と共に添加した3−メルカプトプロピオン酸を表す。
製造例1
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水460.0gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで昇温した。次に、上記反応器にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数10)533.4g、メタクリル酸120.6g、メタクリル酸ナトリウム27.0g、3−メルカプトプロピオン酸8.5g及びイオン交換水201.3gの混合溶液を4時間かけて滴下すると同時に、過硫酸アンモニウム6.44gを水110.1gに溶解させた水溶液を5時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を80℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量17000の側鎖長10molのポリカルボン酸(8)(単量体成分の親水親油バランスの平均値19.3)が得られた。
得られたポリマー水溶液の固形分は46.1%であった。
【0088】
製造例2
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水525.7gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で80℃まで昇温した。次に、上記反応器にメトキシポリアルキレングリコールモノメタクリレート(メトキシ基側より、平均付加モル数でエチレンオキシド10mol、プロピレンオキシド2mol、エチレンオキシド13mol付加したもの)535.7g、メタクリル酸118.8g、メタクリル酸ナトリウム25.9g、3−メルカプトプロピオン酸13.51g及びイオン交換水81.2gの混合溶液を4時間かけて滴下すると同時に、過硫酸アンモニウム7.76gを水72.2gに溶解させた水溶液を5時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を80℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量15000のポリカルボン酸(9)(単量体成分の親水親油バランスの平均値19.2)が得られた。
得られたポリマー水溶液の固形分は46.1%であった。
【0089】
比較例2
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1025.6g及び製造例1で重合して得られる46.1%ポリマー水溶液201.5gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で、70℃まで昇温した。次に上記反応器にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下すると同時に、30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量23400の本発明におけるポリカルボン酸(10)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、0.2g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は48.3%であった。
【0090】
比較例3
温度計、攪拌機、滴下ロート、窒素導入管、及び、還流冷却管(コンデンサ)を備えたガラス製反応槽(内容積:3リットル)に水1025.6g及び製造例1で重合して得られる46.1%ポリマー水溶液431.7gを仕込み、攪拌下で上記反応器を窒素置換し、窒素雰囲気下で70℃まで昇温した。次に、上記反応器にメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレンオキシドの平均付加モル数4)1100.8g、メタクリル酸200.7g、メタクリル酸ナトリウム67.7g、3−メルカプトプロピオン酸15.4g及びイオン交換水233.4gの混合溶液を6時間かけて滴下すると同時に、30%過酸化水素18.9gを水71.6gに溶解させた水溶液、及び、L−アスコルビン酸7.3gを水74.2gに溶解させた水溶液を7時間かけて滴下した。
滴下終了後、反応混合液を70℃で1時間維持した。さらにこの反応混合液のpHを水酸化ナトリウムで7になるように調整することにより、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィーによるポリエチレングリコール換算で重量平均分子量23000の本発明におけるポリカルボン酸(11)を得た。
重合反応液中、及び、重合後の反応溶液・攪拌翼・温度計などに付着したゲルの質量を確認したところ、0.2g/1000gポリマー水溶液のゲルが認められた。
ゲルの質量は、重合後に重合反応液を100メッシュの金属フィルターで濾過したときにフィルター上に残ったものと、反応容器、攪拌翼、温度計などに付着したゲルの含水状態でのゲル濃度である。
得られたポリマー水溶液の固形分は48.9%であった。
【0091】
コンクリート試験条件
実施例1、製造例1、2及び比較例2、3で示したポリカルボン酸(2)、(8)、(9)、(10)、(11)を用いて、下記に示す配合でコンクリートを調合、混練し、セメント組成物(1)、(比較4)、(比較5)を用いてコンクリート試験を行った。
【0092】
コンクリート試験方法
実施例1、製造例1、2及び比較例2、3で示したポリカルボン酸(2)、(8)、(9)、(10)、(11)を用いて、下記のように配合されるセメント混和剤を作製し、下記に示す配合でコンクリートを配合・混練し、混練直後及び経時のスランプフロー値を評価した。
【0093】
コンクリート配合
配合単位水量は、水172kg/m、セメント(太平洋セメント社製普通ポルトランドセメント):573.3kg/m、粗骨材(青梅産破石):861.5kg/m、細骨材(大井川系川砂と千葉君津産砂の混合物、混合比は重量比で大井川:君津=80:20):739.4kg/mとした。
消泡剤であるマイクロエアMA404(ポゾリス物産社製)をセメント質量に対して0.02%、及び、AE剤であるマイクロエアMA202(ポゾリス物産社製)をセメント質量に対して0.003%を配合した。セメント質量に対するセメント混和剤の配合量は、混和剤の固形分量で計算し、%(質量%)表示で示した。
【0094】
コンクリート製造条件
上記配合で、50L二軸強制練りミキサーにセメント及び細骨材を投入して10秒空練りを行い、次いで、セメント混和剤を配合した水を加えて90秒間混練を行った後、粗骨材を投入して更に90秒間混練し、コンクリートを製造した。
【0095】
評価方法
得られたコンクリートのスランプフロー値、空気量の測定は、日本工業規格(JIS A1101、1128、6204)に準拠して行った。
【0096】
【表2】

【0097】
最も好ましい形態としては、表2中の混和剤1と比較4、5のスランプの変化量で見ることとなる。
表中ポリカルボン酸(10)と(11)はそれぞれ、鎖長10のポリマーを釜に仕込んで重合して得たポリマー(釜張りポリマーのポリオキシアルキレングリコールモノマーの親水親油バランスの平均値19.3、側鎖長10)である。
これに対し、ポリカルボン酸(2)は鎖長4のポリマーを釜に仕込んで重合して得たポリマー(釜張りポリマーのポリオキシアルキレングリコールモルマーの親水親油バランスの平均値18.4、側鎖長10)である。
表中のスランプ値を見ると、0分と30分の数字の減り幅(スランプロス)は;
混和剤1:22.5−22.0=0.5
比較4:22.5−20.5=2.0
比較5:22.5−21.0=1.5
と混和剤1の減り幅が最も低いものとなっている。
すなわち、鎖長が短いポリマーを張り込んだものの方がスランプロスが少なく、保持性が良いということとなる。
これが、鎖長が短いポリマーを仕込んだ場合のメリットになる。すなわち、本発明の製造方法において、(ポリ)オキシアルキレン基の鎖長が短い重合体のみを含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤を得ることができ、このようなポリカルボン酸系コンクリート混和剤は、上述したような効果を示すことになる。
【0098】
一方で、単一組成で重合を行うことのメリットについて説明すると、例えば、連続して重合を行う場合、鎖長6のポリマーを20質量%仕込んで鎖長4のポリマーを作ると、1回目において鎖長6/鎖長4=20/80のものが得られる。
これを2回目の釜張りに使用すると、どうしても鎖長6のポリマーの組成が落ちる。例えば、1回目のポリマーを20質量%最初に仕込むと、釜張り 1回目のポリマー(内容 鎖長6/鎖長4=20/80)/鎖長4のポリマー=20/80で実質2回目にできるポリマーは、鎖長6/鎖長4=4(=20/100×20質量%)/96(=80質量%+20/100×80質量%)と1回目とは異なるポリマーになる。
単一組成で重合を行っていけば、上記のような、ポリマー混合物組成の変化なく、連続で安定した品質のものを提供することができる。
【0099】
上述した実施例及び比較例から、本発明の数値範囲の臨界的意義については、次のようにいえることがわかった。すなわち、単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、
該重合工程は、水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合するものであり、該水溶性重合体は、親水親油バランスの平均値が19未満である単量体成分を重合して得られるものとすることにより、重合中のゲル生成の抑制しつつ、保持性、品質の安定化において有利な効果を発揮し、それが顕著であることがわかった。
【0100】
数値範囲の上限の技術的意義については、実施例1において上記親水親油バランスの平均値が18.4であり、その値を上回る比較例2及び比較例3(親水親油バランスの平均値が19.3)と比較すると明らかである。ゲル量の生成は比較例2、3と実施例1とは同等のレベルであり、比較例2及び比較例3で得られたポリカルボン酸(10)、(11)を配合したセメント混和剤は、上述したようにスランプロスが大きいが、それに対して、実施例1で得られたポリカルボン酸(2)は、スランプロスが小さくなる。このような効果、つまりポリカルボン酸系重合体を工業的に生産してポリカルボン酸系コンクリート混和剤等の用途において使用することができるという効果は、際立ったものであるということはいうまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、
該重合工程は、親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合する
ことを特徴とするポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。
【請求項2】
単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、
該重合工程は、オキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを含む混合物を予め溶媒として用いて重合する
ことを特徴とするポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。
【請求項3】
前記重合工程は、前記溶媒に単量体成分を滴下する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。
【請求項4】
前記予め溶媒として用いられる混合物に含まれる水溶性重合体は、ポリカルボン酸系重合体である
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。
【請求項5】
前記予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体と前記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体とは、同一又は異なって、下記一般式(1)で表される(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)と、不飽和カルボン酸系単量体(B)とを含有する単量体成分を重合して得られるものである
ことを特徴とする請求項4に記載のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。
【化1】

一般式(1)中、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子又はメチル基を表す。Rは、水素原子、メチル基又は−X−O(RO)−R基を表す。Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。Rは、同一又は異なって、炭素数2〜18のアルキレン基を表す。mは、同一又は異なって、ROで表されるオキシアルキレン基の平均付加モル数を表し、1〜300の数である。Xは、同一又は異なって、炭素数1〜5の2価のアルキレン基を表すか、又は、RC=CR−で表される基がビニル基の場合、Xに結合している炭素原子、酸素原子同士が直接結合していることを表す。また、Xは、−CO−結合であってもよい。
【請求項6】
前記重合工程は、予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mと、重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体におけるオキシアルキレン基の平均付加モル数mとが同一となるようにして重合を行う
ことを特徴とする請求項5に記載のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。
【請求項7】
前記予め溶媒として用いられる混合物に含まれるポリカルボン酸系重合体を重合して得るための仕込み単量体組成と前記重合工程によって得られるポリカルボン酸系重合体を重合して得るための仕込み単量体組成とは、同一である
ことを特徴とする請求項6に記載のポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。
【請求項8】
単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、
該重合工程は、溶媒中に重合開始剤及び/又は連鎖移動剤を予め存在させて重合する
ことを特徴とするポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。
【請求項9】
単量体成分を溶媒の存在下で重合してポリカルボン酸系重合体を得る重合工程を含むポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法であって、
該製造方法は、反応容器に単量体を導入する前に反応容器に予め親水親油バランスの平均値が19未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する単量体単位を必須とする水溶性重合体及び/又はオキシアルキレン基の平均付加モル数が7未満である(ポリ)オキシアルキレン基を有する水溶性重合体と水とを導入して溶媒としての水溶性重合体と水とを含む混合物を調製する工程と、
前記工程で得られた水溶性重合体と水とを含む混合物に(ポリ)オキシアルキレン基を有する不飽和単量体(A)を添加する工程と、
前記工程で得られた水溶性重合体と水とを含む混合物に不飽和カルボン酸系単量体(B)を添加する工程とを有する
ことを特徴とするポリカルボン酸系コンクリート混和剤の製造方法。

【公開番号】特開2008−127430(P2008−127430A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311800(P2006−311800)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】