説明

ポリカーボネートジオール化合物の製造方法

【課題】温和な反応条件下において、工程数の少ない簡便な方法で、工業的に好適なポリカーボネートジオール化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、触媒の存在下、一般式(1)


(式中、Rは、炭素原子数が1〜22個のアルキレン基、炭素原子数が6〜22個のアリーレン基、又は、炭素原子数が7〜22個のアルキレン及びアリーレンからなる基である。)で示される亜硝酸ジエステル化合物を、一酸化炭素と反応させた後、さらに末端基(ニトロソオキシ基)をヒドロキシ基に変換させることを特徴とする、一般式(2)


(式中、Rは、前記と同義であり、nは1以上の正数である。)で示されるポリカーボネートジオール化合物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネートジオール化合物の新規な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートジオール化合物、特に脂肪族ポリカーボネートジオール化合物は、例えばウレタン樹脂等の原料として有用である(例えば特許文献1参照)。
【0003】
従来、脂肪族ポリカーボネートジオール化合物を製造する方法としては、脂肪族ジヒドロキシ化合物(例えば1,6−ヘキサンジオール)と炭酸ジメチルとのエステル交換反応により実施する方法が知られている(例えば特許文献2参照)。しかしこの方法では、炭酸ジメチルを別途調製して加える必要があるため、工程が複雑となり、工業的な製造方法としては、不利な点を有している。
【0004】
また、パラジウム錯体と、レドックス触媒能を有する化合物(例えば酢酸コバルト及びベンゾキノン)と、オニウム塩(例えばテトラブチルアンモニウムブロミド)と、脱水剤(例えば合成ゼオライト)とを含むポリカーボネート製造用触媒を用いて、ビスフェノールAを、一酸化炭素(6.0MPa)と酸素(0.3MPa)の存在下、100℃で反応させて、ビスフェノールAの酸化カルボニル化によりポリカーボネートジオール化合物を製造する方法が開示されている(特許文献3参照)。この製造方法では、ポリカーボネート製造用触媒として、多量の添加物が必要であるという問題がある。
【0005】
以上のように従来の方法は、様々な問題を有しており、ポリカーボネートジオール化合物の工業的な製造方法としては、最適なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−121029号公報
【特許文献2】特開2005−350518号公報
【特許文献3】特開2004−224884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、温和な反応条件下において、工程数の少ない簡便な方法でポリカーボネートジオール化合物を製造することができる、工業的に好適なポリカーボネートジオール化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、触媒の存在下、
一般式(1)
【0009】
【化1】


(式中、Rは、置換基及び不飽和結合を有していても良い、炭素原子数が1〜22個のアルキレン基、置換基を有していても良い、炭素原子数が6〜22個のアリーレン基、又は、置換基を有していても良い、炭素原子数が7〜22個のアルキレン及びアリーレンからなる基である。)
で示される亜硝酸ジエステル化合物を、一酸化炭素と反応させた後、さらに末端基(ニトロソオキシ基)をヒドロキシ基に変換させることを特徴とする、
【0010】
一般式(2)
【0011】
【化2】


(式中、Rは、前記と同義であり、nは1以上の正数である。)
で示されるポリカーボネートジオール化合物を製造する方法である。
【0012】
また、本発明は、一般式(3)
【0013】
【化3】


(式中、Rは、前記と同義である。)
で示されるジオール化合物から得られる一般式(1)
【0014】
【化4】


(式中、Rは、前記と同義である。)
で示される亜硝酸ジエステル化合物を、一酸化炭素と反応させた後、さらに末端基(ニトロソオキシ基)をヒドロキシ基に変換させて、一般式(3)
【0015】
【化5】


(式中、R及びnは、前記と同義である)
で示されるポリカーボネートジオール化合物を製造する方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、温和な反応条件下において、工程数の少ない簡便な方法で、工業的に好適なポリカーボネートジオール化合物、好ましく脂肪族ポリカーボネートジオール化合物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、触媒の存在下、一般式(1)で示される亜硝酸ジエステル化合物を、一酸化炭素と反応させた後、さらに末端基(ニトロソオキシ基)をヒドロキシ基に変換させて、一般式(2)で示されるポリカーボネートジオール化合物を製造する方法である。
【0018】
一般式(1)及び(2)において、Rは、1〜22個の炭素原子を有するアルキレン基、6〜22個の炭素原子を有するアリーレン基、又は、7〜22個の炭素原子を有するアルキレン及びアリーレンからなる基であり、アルキレン又はアリーレンは置換基を有していても良い。また、アルキレンは不飽和結合を有していても良い。1〜22個の炭素原子を有するアルキレン基は、直鎖、分岐鎖、環式基のいずれであってもよい。好ましくは1〜10個の炭素原子を有するアルキレン基である。
【0019】
1〜22個の炭素原子を有するアルキレン基としては、直鎖或いは分岐鎖の脂肪族アルキレン基、脂環を有する環状アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等が挙げられる。
アルキレン基としては、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、2-メチルプロピレン、2−メチルブチレン等が挙げられる。具体的には、プロピレン、ブチレン、ペンチレン、ヘキシレンが好ましい。
アルケニレン基としては、C2〜C20アルケニレンが好ましく、より好ましくは、C2〜C10アルケニレンであり、例えばビニレン、プロペニレン等が挙げられる。
アルキニレン基としては、C2〜C20のアルキニレンが好ましく、より好ましくは、C2〜C10アルキニレンであり、例えばエチニレン等が挙げられる。
【0020】
脂環を有する環状アルキレン基としては、シクロアルキレン、シクロアルケニレン、シクロアルキニレンが挙げられる。
シクロアルキレンとしては、C3〜C20シクロアルキレンが好ましく、より好ましくは、C3〜C10シクロアルキレンであり、例えば1,1−シクロプロピレン、1,2−シクロプロピレン、1,1−シクロペンチレン、1,2−シクロペンチレン、1,3−シクロペンチレン、1,1−シクロヘキシレン、1,2−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキシレン等が挙げられる。
シクロアルケニレンとしては、C3〜C20のシクロアルケニレンが好ましく、より好ましくは、C3〜C10シクロアルケニレンであり、例えばシクロプロペニレン、シクロペンテニレン等が挙げられる。
シクロアルキニレンとしては、C3〜C20のシクロアルキニレンが好ましく、より好ましくはC3〜C10のシクロアルキニレンであり、シクロプロピニレン、シクロペンチニレン等が挙げられる。
【0021】
6〜22個の炭素原子を有するアリーレン基としては、C6〜C20アリーレンが好ましく、より好ましくは、C6〜C10アリーレンであり、例えばフェニレン、ナフタレン等が挙げられる。
【0022】
また、アルキレン−シクロアルキレン、アルキレン−アリーレン、アルキレン−シクロアルキレン−アルキレン、アルキレン−アリーレン−アルキレンであってもよく、好ましくはC1〜C6アルキレン−C3〜C10シクロアルキレン、C1〜C6アルキレン−C6〜C10アリーレン、C1〜C6アルキレン−C3〜C10シクロアルキレン−C1〜C6アルキレン、C1〜C6アルキレン−C6〜C10アリーレン−C1〜C6アルキレンである。例えばメチルフェニルエチル等が挙げられる。
【0023】
置換基としては、特に制限されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル、n−ブチル、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等の炭素数1〜6のアルケニル基;ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェニル基、キシリル基等の炭素数6〜10のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等の炭素数6〜10のアラルキル基;フェノキシ基等の炭素数6〜10のアリールオキシ基;ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基等の複素環基;アミノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0024】
一般式(1)で示される具体的な亜硝酸ジエステル化合物としては、1,3−プロパン亜硝酸ジエステル、1,4−ブタン亜硝酸ジエステル、1,5−ペンタン亜硝酸ジエステル、1,6−ヘキサン亜硝酸ジエステル、1,7−ヘプタン亜硝酸ジエステル等が好ましく、1,3−プロパン亜硝酸ジエステル、1,4−ブタン亜硝酸ジエステル、1,5−ペンタン亜硝酸ジエステル、1,6−ヘキサン亜硝酸ジエステルが特に好ましい。
一般式(1)で示される亜硝酸ジエステル化合物は、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0025】
亜硝酸ジエステル化合物を得る方法としては、特に制限されず、亜硝酸塩と鉱酸とから亜硝酸を発生させてジオール化合物をエステル化する方法や、亜硝酸エステルとジオール化合物とをエステル交換する方法や、ジオール化合物と一酸化窒素と酸素とを反応させて得る方法等が挙げられる。
ジオール化合物と一酸化窒素と酸素とを反応させて亜硝酸ジエステル化合物を得る方法としては、ジオール化合物に一酸化窒素と酸素とをガスとして供給する方法が簡便で好ましい。この方法において、一酸化窒素ガスと酸素ガスとは別々に供給してもよいし、一酸化窒素ガスと酸素ガスとを混合した混合ガスを供給してもよい。また、一酸化窒素ガス、酸素ガス及び混合ガスは、必要に応じて、窒素ガス等の不活性ガスで希釈されていてもよい。
一酸化窒素ガスと酸素ガスとの混合ガスとしては、一酸化窒素ガス1モルに対して、酸素ガスを0.01〜2.0モル混合したガスが好ましく、より好ましくは酸素ガスを0.1〜0.5モル混合したガスであり、特に好ましくは酸素ガスを0.1〜0.3モル混合したガスである。
一酸化窒素ガス及び混合ガスとしては、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素等の一酸化窒素以外の窒素酸化物を含有していてもよい。
また、ジオール化合物から亜硝酸ジエステルを得る際には、上述した亜硝酸ジエステルの原料に一酸化炭素ガスを同伴させることもできる。
【0026】
本発明において使用する触媒としては、特に制限されないが、例えば、貴金属元素を含有する触媒が使用できる。貴金属元素としては、特に制限されないが、周期表第10族から選択される1種以上の金属元素であることが好ましい。周期表第10族に属する金属元素としては、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)が挙げられ、中でも触媒活性が高いという観点からパラジウム(Pd)が好ましい。
前記周期表は、1989年に国際純正応用化学連合会(IUPAC)により改訂された周期表を指す。
パラジウムを含有する触媒としては、パラジウム金属又はその化合物が挙げられ、その化合物としては、パラジウムのハロゲン化物(塩化物、臭化物等)、有機酸塩(酢酸塩、シュウ酸塩、安息香酸塩等)、無機酸塩(硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩等)、錯体などが使用される。具体的には、塩化パラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム、酢酸パラジウム、硫酸パラジウム、テトラキス(アセトニトリル)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸塩)、テトラキス(アセトニトリル)パラジウムビス(テトラフルオロホウ酸塩)が挙げられる。中でも触媒活性が高いという観点から、2価のパラジウム金属の化合物(Pd(II))が好ましい。
触媒は、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0027】
本発明において使用する触媒は、触媒のみを単独で用いてもよいし、触媒を担体に固定した固体触媒として用いてもよい。
担体としては、特に制限されないが、例えば、活性炭、アルミナ(例えば、α−アルミナ等)、シリカ、珪藻土、軽石、ゼオライト、モレキュラーシーブ、スピネル(例えば、リチウムアルミネートスピネル等)などが挙げられる。
触媒を担体に固定する方法としては、含浸法や蒸発乾固法などの公知の方法を用いることができる。
また、例えば、周期表第10族から選択される1種以上の金属元素を担体に担持させた固体触媒を使用する場合には、周期表第10族に属する金属元素を含有する化合物を、予め水素や一酸化炭素等の還元性化合物で周期表第10族に属する金属元素に還元して使用してもよい。
【0028】
本発明において使用する触媒は、金属換算で、亜硝酸ジエステル化合物1モルに対して、好ましくは0.001〜1.0モル、より好ましくは0.01〜0.2モル、更に好ましくは0.01〜0.1モルである。
【0029】
本発明において、触媒の存在下、亜硝酸ジエステル化合物と一酸化炭素との反応(第1の反応)は、溶媒の存在下又は非存在下において行われる。
使用する溶媒としては、反応を阻害しないものであれば、特に限定されず、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類が上げられるが、好ましくは、エーテル類、ニトリル類、アミド類が挙げられる。特に好ましくは、パラジウムに配位し易いアミド類である。なお、これらの溶媒は、単独又は二種以上を混合して使用しても良い。
【0030】
溶媒の使用量は、反応液の攪拌性や均一性により適宜調節するが、亜硝酸ジエステル化合物1gに対して、好ましくは溶媒が0〜30mlであり、より好ましくは溶媒が1〜15mlである。
【0031】
本発明で使用する一酸化炭素は、純粋なものであっても、必要に応じて窒素等の不活性ガスで希釈されていてもよい。反応に使用される一酸化炭素の量は、亜硝酸ジエステル化合物1gに対して、純粋な一酸化炭素(100vol%)の気体を速度1〜100ml/分で10〜360分間供給することが好ましい。即ち、反応時に供給する一酸化炭素の全体量としては、亜硝酸ジエステル化合物1gに対して、純粋な一酸化炭素(一酸化炭素の含有量100vol%)を好ましくは50〜5000ml、より好ましくは200〜5000mlである(25℃、0.1MPa)。
【0032】
触媒存在下において、亜硝酸ジエステル化合物を、一酸化炭素と反応させる方法としては、流通反応またはバッチ反応など特に限定されないが、例えば反応器に必要に応じて溶媒を入れ、亜硝酸ジエステル化合物を供給した後、触媒を添加して攪拌し、さらに純粋又は不活性ガスで希釈された一酸化炭素を所定の流量で通気することによって、亜硝酸ジエステル化合物と一酸化炭素を反応させることが挙げられる。
【0033】
触媒の存在下、亜硝酸ジエステル化合物を、一酸化炭素と反応させる際の温度は、生成された亜硝酸ジエステル化合物が安定であり、カーボネート反応が進行しやすい温度であることが好ましい。反応温度としては、好ましくは0〜100℃、より好ましくは25〜120℃、さらに好ましくは50〜90℃である。また、反応は、0.08〜3.0MPaの圧力下で行われることが好ましく、より好ましくは0.08〜1.0MPa、特に好ましくは0.08〜0.5MPaである。
【0034】
本発明の製造方法においては、亜硝酸ジエステル化合物を、一酸化炭素と反応(第1の反応)させた後、反応生成物を単離する必要なく、さらに末端基(ニトロソオキシ基)をヒドロキシ基に変換させることによって、一般式(2)で示されるポリカーボネートジオール化合物を製造することができる。
【0035】
一般式(2)において、Rは、前記と同義であり、nは1以上の正数であり、重量平均分子量を満足する数値であり、特に限定されることなく、ウレタン樹脂等の使用に適する好ましい数値に設定することが可能であるが、好ましくはnが1〜100であり、より好ましくはnが1〜50であり、特に好ましくはnが1〜15である。一般式(2)で示されるポリカーボネートジオール化合物の重量平均分子量は、好ましくは100〜20000であり、より好ましくは100〜10000であり、特に好ましくは100〜3000である。
【0036】
亜硝酸ジエステル化合物の末端基(ニトロソオキシ基)をヒドロキシ基に変換させる方法としては、亜硝酸ジエステル化合物をアルコールと反応させる方法が挙げられる。
この反応で使用するアルコールとしては、好ましくはメタノール、エタノール等の炭素原子数1〜3の低級アルコール(特にメタノール)が挙げられる。
アルコールの使用量は、反応に用いた亜硝酸ジエステルのニトロソオキシ基に対して、1当量以上であることが好ましい。
【0037】
アルコールと反応させる際の反応温度は、好ましくは0〜200℃、より好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは10〜120℃の範囲である。また、反応は、常圧(0.1MPa)〜0.5MPaの圧力下で行われることが好ましい。
【0038】
なお、最終生成物であるポリカーボネートジオール化合物は、例えば反応終了後、中和、抽出、濾過、濃縮、蒸留、再結晶、カラムクロマトグラフィー等の一般的な方法によって単離・精製されるが、再結晶させることが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法において、一般式(1)で示される亜硝酸ジエステル化合物が、一般式(3)
【0040】
【化6】


(式中、Rは、前記と同義である)
で示されるジオール化合物を、一酸化窒素及び酸素と反応させて得られたものであってもよい。
【0041】
一般式(3)で示されるジオール化合物としては、具体的には、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ベンゼンジメタノール、4,8−ビス(ヒドロキシメチル)トリシクロ[5,2,1,0]デカン等が挙げられる。特に、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
ジオール化合物は、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0042】
一般式(3)で示されるジオール化合物を、一酸化窒素及び酸素と反応させる方法においては、一酸化窒素と酸素を別々に供給してもよく、一酸化窒素及び酸素を混合した混合ガスを供給してもよい。また、一酸化窒素、酸素又はそれらの混合ガスは、純粋なものであっても、必要に応じて窒素等の不活性ガスで希釈されていてもよい。
一酸化窒素及び酸素の混合ガスは、一酸化窒素1モルに対して、好ましくは酸素が0.01〜2.0モル、より好ましくは0.1〜0.5モルの割合で用いることが好ましく、0.1〜0.3モルが特に好ましい。混合ガスは、一酸化窒素及び酸素の混合により、一酸化窒素及び酸素以外に、二酸化窒素、三酸化二窒素、四酸化二窒素等を含んでいてもよい。
【0043】
一酸化窒素は、ジオール化合物1gに対して、純粋な一酸化窒素(100vol%)の気体を速度1〜50ml/分で10〜360分間供給することが好ましい。即ち、反応時に供給する一酸化窒素の全体量としては、ジオール化合物1gに対して、純粋な一酸化窒素(一酸化窒素の含有量100vol%)を、50〜5000ml供給することが好ましく、20〜5000ml供給することがより好ましい(25℃、0.1MPa)。
【0044】
酸素は、ジオール化合物1gに対して、純粋な酸素(100vol%)の気体を速度0.1〜25ml/分で10〜360分間供給することが好ましい。即ち、反応時に供給する酸素の全体量としては、ジオール化合物1gに対して、純粋な酸素(酸素の含有量100vol%)を、50〜5000ml供給することが好ましく、1〜3000ml供給することがより好ましい(25℃、0.1MPa)。
【0045】
一般式(3)で示されるジオール化合物を、一酸化窒素及び酸素と反応させて、一般式(1)で示される亜硝酸ジエステル化合物を得る場合には、一般式(3)で示されるジオール化合物を、一酸化窒素及び酸素と反応させて、亜硝酸ジエステル化合物を得た後、この亜硝酸ジエステル化合物を、さらに一酸化炭素と反応させてもよく、一般式(3)で示されるジオール化合物を、一酸化窒素、酸素及び一酸化酸素と反応させて、亜硝酸ジエステル化合物を製造しつつ、この亜硝酸ジエステル化合物を一酸化炭素と反応させてもよい。その後、アルコールと反応させることによって、一般式(2)で示されるポリカーボネートジオール化合物を得ることができる。
【0046】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらに限定されない。
【実施例1】
【0047】
冷却管を備えた25mL三口フラスコに塩化パラジウム0.06g(0.34mmol)、純度79.5重量%の1,4−ブタン亜硝酸ジエステル1.0g(5.37mmol)、アセトニトリル10mlを入れて、60℃まで昇温させながら、一酸化炭素21vol%含有する窒素を317ml/分の速度で360分間通気し、常圧で反応させた。反応終了後、減圧濃縮して、メタノール20ml、溶媒としてクロロホルム20mlを添加して12時間反応させた。その後、沈殿物を濾過して、得られた溶液を減圧濃縮し、薄茶色の固体0.6gを得た(NMR定量による1,4−ブタン亜硝酸ジエステル基準のポリカーボネートジオール中の1,4−ブタンジオール残基の収率16%)。取得した薄茶色の固体をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、重量平均分子量(ポリスチレン換算)は678(n=5.1)であった。
【実施例2】
【0048】
実施例1において、一酸化炭素21vol%含有する窒素を317ml/分の速度で通気する代わりに、バルーンに溜めた純粋な一酸化炭素1000mlを反応系に供給した以外は、実施例1と同様にして、薄茶色の固体0.41gを得た。取得した薄茶色の固体をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、重量平均分子量(ポリスチレン換算)は427(n=2.9)であった。
【実施例3】
【0049】
冷却管を備えた25mL三口フラスコにビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム0.09g(0.34mmol)、純度79.5重量%の1,4−ブタン亜硝酸ジエステル1.0g(5.37mmol)、ジメトキシエタン10mlを入れて、70℃まで昇温させながら、一酸化炭素15vol%含有する窒素を66ml/分の速度で360分間通気し、常圧で反応させた。反応終了後、減圧濃縮して、メタノール20ml、溶媒としてクロロホルム20mlを添加して12時間反応させた。その後、沈殿物を濾過して、得られた溶液を減圧濃縮し、薄茶色の固体0.88gを得た(NMR定量による1,4−ブタン亜硝酸ジエステル基準のポリカーボネートジオール中の1,4−ブタンジオール残基の収率73%)。取得した薄茶色の固体をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、重量平均分子量(ポリスチレン換算)は963(n=7.5)であった。
【実施例4】
【0050】
冷却管を備えた25mL三口フラスコにビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム0.09g(0.34mmol)、純度99.0重量%の1,4−ブタン亜硝酸ジエステル1.0g(6.68mmol)、ジメチルアセトアミド10mlを入れて、70℃まで昇温させながら、一酸化炭素15vol%含有する窒素を66ml/分の速度で360分間通気し、常圧で反応させた。反応終了後、減圧濃縮して、メタノール20ml、溶媒としてクロロホルム20mlを添加して12時間反応させた。その後、沈殿物を濾過して、得られた溶液を減圧濃縮し、薄茶色の固体0.90gを得た(NMR定量による1,4−ブタン亜硝酸ジエステル基準のポリカーボネートジオール中の1,4−ブタンジオール残基の収率80%)。取得した薄茶色の固体をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、重量平均分子量(ポリスチレン換算)は1100(n=8.7)であった。
【実施例5】
【0051】
冷却管を備えた25mL三口フラスコにビス(アセトニトリル)パラジウムビス(トリフルオロメタンスルホン酸塩)0.19g(0.34mmol)、純度99.0重量%の1,4−ブタン亜硝酸ジエステル1.0g(6.68mmol)、ジメチルアセトアミド10mlを入れて、70℃まで昇温させながら、一酸化炭素15vol%含有する窒素を66ml/分の速度で360分間通気し、常圧で反応させた。反応終了後、減圧濃縮して、メタノール20ml、溶媒としてクロロホルム20mlを添加して12時間反応させた。その後、沈殿物を濾過して、得られた溶液を減圧濃縮し、薄茶色の固体1.04gを得た(NMR定量による1,4−ブタン亜硝酸ジエステル基準のポリカーボネートジオール中の1,4−ブタンジオール残基の収率80%)。取得した薄茶色の固体をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、重量平均分子量(ポリスチレン換算)は962(n=7.5)であった。
【実施例6】
【0052】
冷却管を備えた25mL三口フラスコにビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム0.07g(0.28mmol)、純度99.0重量%の1,6−ヘキサン亜硝酸ジエステル1.0g(5.62mmol)、ジメチルアセトアミド10mlを入れて、70℃まで昇温させながら、一酸化炭素15vol%含有する窒素を66ml/分の速度で360分間通気し、常圧で反応させた。反応終了後、減圧濃縮して、メタノール20ml、溶媒としてクロロホルム20mlを添加して12時間反応させた。その後、沈殿物を濾過して、得られた溶液を減圧濃縮し、薄茶色の固体1.00gを得た(NMR定量による1,6−ヘキサン亜硝酸ジエステル基準のポリカーボネートジオール中の1,6−ヘキサンジオール残基の収率70%)。取得した薄茶色の固体をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、重量平均分子量(ポリスチレン換算)は837(n=5.0)であった。
【実施例7】
【0053】
冷却管を備えた25mL三口フラスコにビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム0.13g(0.49mmol)、純度99.0重量%の1,4−シクロヘキサンジメタノールから得ることができる亜硝酸ジエステル1.0g(4.95mmol)、ジメトキシエタン15mlを入れて、70℃まで昇温させながら、一酸化炭素15vol%含有する窒素を66ml/分の速度で360分間通気し、常圧で反応させた。反応終了後、減圧濃縮して、メタノール20ml、溶媒としてクロロホルム20mlを添加して12時間反応させた。その後、沈殿物を濾過して、得られた溶液を減圧濃縮し、薄茶色の固体0.87gを得た(NMR定量による1,4−シクロヘキサンジメタノール基準のポリカーボネートジオール中の1,4−シクロヘキサンジメタノール残基の収率38%)。取得した薄茶色の固体をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、重量平均分子量(ポリスチレン換算)は745(n=3.5)であった。
【実施例8】
【0054】
冷却管を備えた25mL三口フラスコにビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム0.09g(0.34mmol)、純度99.0重量%の1,4−ブタンジオール1.0g(11.0mmol)、ジメトキシエタン10mlを入れて、70℃まで昇温させながら、一酸化窒素20vol%、酸素5vol%、一酸化炭素25vol%含有する窒素を40ml/分の速度で360分間通気し、常圧で反応させた。反応終了後、減圧濃縮して、メタノール20ml、溶媒としてクロロホルム20mlを添加して12時間反応させた。その後、沈殿物を濾過して、得られた溶液を減圧濃縮し、薄茶色の固体1.20gを得た(NMR定量による1,4−ブタンジオール基準のポリカーボネートジオール中の1,4−ブタンジオール残基の収率85%、GC分析による1,4−ブタンジオールの回収率8%)。取得した薄茶色の固体をゲル浸透クロマトグラフィーで分析したところ、重量平均分子量(ポリスチレン換算)は801(n=6.1)であった。
【0055】
以下に、比較例1として、脂肪族ジオール化合物である1,4−ブタンジオールを用いて、以下に示す特許文献3に記載の方法と同様にしてポリカーボネートジオール化合物を製造した。
【0056】
[比較例1]
ステンレス製100mlのオートクレーブに(2,2’−ジチオフェン)ジクロロパラジウム0.009g(0.026mmol)、純度99.0重量%の1,4−ブタンジオール0.38g(4.12mmol)、テトラブチルアンモニウムブロミド0.2g(0.63mmol)、ベンゾキノン0.068g(0.63mmol)、酢酸コバルト四水和物0.31g(0.13mmol)、合成ゼオライト(A−3)1g、塩化メチレン10mlを入れた。その後、一酸化炭素4.0MPa、酸素0.3MPaを20℃で充填し、100℃で3時間反応させた。反応終了後、合成ゼオライトを除き、減圧濃縮し、黒色の油状物0.61gを得た(NMR定量による1,4−ブタンジオール基準のポリカーボネートジオール中の1,4−ブタンジオール残基の収率はトレース量であった。GC分析による1,4−ブタンジオールの回収率31%)。
【0057】
なお、比較例1で用いた(2,2’−ジチオフェン)ジクロロパラジウムは、特許文献3に記載の触媒合成法を参考にして、合成した。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、例えば反応温度が100℃以下、反応圧力範囲が常圧〜0.5MPaの温和な条件下で、工程数の少ない簡便な方法で、ウレタン樹脂等の原料として有用なポリカーボネートジオール化合物、好ましくは脂肪族ポリカーボネートジオール化合物を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、
一般式(1)
【化7】


(式中、Rは、置換基及び不飽和結合を有していても良い、炭素原子数が1〜22個のアルキレン基、置換基を有していても良い、炭素原子数が6〜22個のアリーレン基、又は、置換基を有していても良い、炭素原子数が7〜22個のアルキレン及びアリーレンからなる基である。)
で示される亜硝酸ジエステル化合物を、一酸化炭素と反応させた後、さらに末端基(ニトロソオキシ基)をヒドロキシ基に変換させることを特徴とする、
一般式(2)
【化8】


(式中、Rは、前記と同義であり、nは1以上の正数である。)
で示されるポリカーボネートジオール化合物の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)の式中、Rが、炭素原子数が1〜10個のアルキレン基又は炭素原子数が3〜22個の脂環を有する環状アルキレン基である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
一般式(2)の式中、nが1〜15である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
触媒が、周期表第10族から選択される1種以上の金属元素を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
一般式(1)で示される亜硝酸ジエステル化合物が、一般式(3)
【化9】


(式中、Rは、前記と同義である。)
で示されるジオール化合物を、一酸化窒素及び酸素と反応させて得られるものである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(1)で示される亜硝酸ジエステル化合物と、一酸化炭素との反応を、0.08〜3.0MPaの圧力範囲で実施する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−235461(P2010−235461A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82654(P2009−82654)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】