説明

ポリカーボネート樹脂およびそれよりなる透明フィルム

【課題】光学特性、色相、熱安定性および機械物性に優れたポリカーボネート樹脂およびそれよりなる透明フィルムの提供。
【解決手段】ガラス転移温度が110℃以上150℃以下、濃度0.6g/dLの塩化メチレン溶液の20℃における還元粘度が0.30以上0.46以下のポリカーボネート樹脂であって、当該樹脂を成形してなるフィルムの波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)との比が0.50以上0.93以下である、ポリカーボネート樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学特性、色相および熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂およびそれよりなる透明フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、一般的にビスフェノール類等をモノマー成分とし、透明性、耐熱性、機械的強度等の優位性を生かし、電気・電子部品、自動車用部品、医療用部品、建材、フィルム、シート、ボトル、光学記録媒体、レンズ等の分野でいわゆるエンジニアリングプラスチックスとして広く利用されている。
【0003】
近年、フルオレン環を側鎖に有するジヒドロキシ化合物から誘導されたポリカーボネート樹脂が報告されている。
【0004】
特許文献1には、フルオレン環を側鎖に有するビスフェノール化合物と2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを用いた光学特性に優れたポリカーボネート樹脂が記載されている。特許文献2には、フルオレン環を側鎖に有するビスフェノール化合物とペンタシクロデカンジメタノールやイソソルビドを用いた光弾性係数が小さいポリカーボネート樹脂が記載されている。特許文献3にはフルオレン環を側鎖に有するジヒドロキシ化合物とトリシクロデカンジメタノールとイソソルビドを用いたポリカーボネート樹脂が記載されている。また、特許文献4には、このフルオレン環を含有するポリカーボネート樹脂からなる位相差フィルムは、光弾性係数が低い上、位相差が短波長になるほど小さくなる逆波長分散性を示すことから、位相差フィルムなどの光学用途に有用なポリカーボネートが得られることが開示されている。
【0005】
上記のフルオレン環を側鎖に有するジヒドロキシ化合物やイソソルビドのように、アルコール性のヒドロキシ基を有するジヒドロキシ化合物等を原料としてポリカーボネート樹脂を製造する場合は、通常、エステル交換法または溶融法と呼ばれる方法で製造される。この方法では、上記ジヒドロキシ化合物とジフェニルカーボネート等の炭酸ジエステルを塩基性触媒の存在下、高温でエステル交換させ、副生するフェノールを系外に取り除くことにより重合を進行させ、ポリカーボネート樹脂を得ていた。
【0006】
さらに近年では、フィルムなどの薄く面積が大きい成形品をより効率的に製造するために、溶媒を用いずに成形する溶融押出製膜の方法が用いられるようになっている。そのためには樹脂の溶融加工性が要求されており、その観点から様々な共重合組成が提案されている(例えば、特許文献5から特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−101786号公報
【特許文献2】特開2004−67990号公報
【特許文献3】国際公開第2006/041190号パンフレット
【特許文献4】特開2008−111047号公報
【特許文献5】国際公開第2010/064721号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2010/071079号パンフレット
【特許文献7】特開2010−134232号公報
【特許文献8】特開2010−230832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、前記従来のポリカーボネート樹脂は、前記特許文献等においては優れた光学特性を有しているものの、樹脂の分子量が非常に高いために、樹脂の流動性を確保しようとして加工温度を高くすると、フィルムの着色や、ヤケやシルバーなどの発生による外観不良を招いてしまい、一方、加工温度を低下させると、溶融粘度が高すぎて、フィルムの厚み制御が困難となる問題が生じることがあった。
【0009】
また、イソソルビドのように分子内にエーテル結合を有するジヒドロキシ化合物を用いて得られたポリカーボネート樹脂は、ビスフェノールA等のフェノール性水酸基を有するモノマーを用いて得られたポリカーボネート樹脂に比べ熱安定性に劣っているために、高温にさらされる重合中や成形中に着色が起こる場合があった。更に、フルオレン環を有するジヒドロキシ化合物を原料にしたポリカーボネート樹脂は一般的に溶融粘度が高いため、重合温度を下げたり、加工温度を下げたりすることなどがしづらく、着色を抑制することも困難であった。
【0010】
更に、近年の液晶用ディスプレイ機器やモバイル機器等に用いられる位相差フィルム等の光学フィルムを含む透明フィルムの分野では、機器の薄型化に伴い、より配向性の高い材料、すなわち、フィルム厚みが薄くても大きな位相差が得られるような材料が求められている。樹脂の分子量を低下させると、十分な靭性が得られず、フィルムの延伸操作によって高い配向性を得るのが難しくなる。十分な配向性が得られない場合、所定の位相差を発現させるためにはフィルムの厚みを厚くすることになり、薄型の機器には用いることができなくなる場合があった。
【0011】
本発明の目的は、上記従来の問題点を解消し、光学特性、機会物性、色相および熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂、およびそれからなる透明フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するべく、鋭意検討を重ねた結果、ガラス転移温度、還元粘度、および特定の波長における位相差の比が、特定の値であるポリカーボネート樹脂が、優れた光学特性、機械物性、色相および熱安定性を有することを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明の要旨は下記[1]〜[22]に存する。
[1]ガラス転移温度が110℃以上150℃以下、濃度0.6g/dLの塩化メチレン溶液の20℃における還元粘度が0.30以上0.46以下のポリカーボネート樹脂であって、当該樹脂を成形してなるフィルムの波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)との比(Re450/Re550)が、0.50以上0.93以下である、ポリカーボネート樹脂。
[2]
前記ポリカーボネート樹脂を成形してなるフィルムの波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)との比(Re450/Re550)が、0.50以上0.90以下である、[1]に記載のポリカーボネート樹脂。
[3]測定温度240℃、剪断速度91.2sec−1における溶融粘度が、1500Pa・s以上3500Pa・s以下である、[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂。
[4]光弾性係数が、40×10−12Pa−1以下である、[1]から[3]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[5]前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度より15℃高い温度条件下で、固定端2.0倍延伸したときの複屈折が、0.001以上である、[1]から[4]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[6]前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む[1]から[5]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
【0014】
【化1】

【0015】
式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、それぞれのベンゼン環に4つある置換基のそれぞれとして、同一の又は異なる基が配されている。Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。
[7]前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂であって、該ジヒドロキシ化合物に対する、下記式(2)で表される化合物群の合計含有量が400ppm以下である、[6]に記載のポリカーボネート樹脂。
【0016】
【化2】

【0017】
式(2)において、R〜R、X、m、およびnは、式(1)におけるものと同様の群を表し、Aは、炭素数1〜炭素数18の置換基を有していてもよい脂肪族基、または炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基を表す。
[8]前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外に、構造の一部に下記式(4)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、[1]から[7]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
【0018】
【化3】

式(3)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。
[9]前記式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、環状構造を有し、かつエーテル構造を有する化合物である[8]に記載のポリカーボネート樹脂。
[10]構造の一部に前記式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物である、[8]または[9]に記載のポリカーボネート樹脂。
【0019】
【化4】

【0020】
[11]前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(5)で表される炭酸ジエステルを80重量ppm以下含有する、[1]から[10]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
【0021】
【化5】

【0022】
式(5)において、AおよびAは、それぞれ独立に、炭素数1以上炭素数18以下の置換基を有していてもよい脂肪族基、または炭素数6以上炭素数18以下の置換基を有していてもよい芳香族基であり、AとAは同一であっても異なっていてもよい。
[12]前記ポリカーボネート樹脂が、芳香族モノヒドロキシ化合物を700重量ppm以下含有する、[1]から[11]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[13]前記ポリカーボネート樹脂中の、ナトリウム、カリウムおよびセシウムの合計含有量が、前記ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1mol当たり、1μmol以下である、[1]から[12]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[14]前記ポリカーボネート樹脂中の、前記ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1mol当たりの全硫黄元素含有量をA[μmol]、長周期型周期表における第1族金属元素および第2族金属元素の合計含有量をB[μmol]とした場合に、Aに対するBの比率(B/A)が2以下である、[1]から[13]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[15]前記ポリカーボネート樹脂中の、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量をa[ppm]、前記ポリカーボネート中の、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1molに対するポリカーボネート中に含まれる長周期型周期表第1族金属および第2族金属の合計量をb[μmol]とした場合に、bに対するaの比率(a/b)が20以下である、[1]から[14]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[16]前記ポリカーボネート樹脂中の前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1molに対して、長周期型周期表第2族金属およびリチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を0.5μmol以上50μmol以下含有する、[1]から[15]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[17]前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコールおよび環状アセタール構造を有するジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を、さらに含むことを特徴とする[1]から[16]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[18]前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、前記式(6)で表される炭酸ジエステルとを、溶融重縮合してなる[1]から[17]に記載のポリカーボネート樹脂。
[19]前記ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の、由来となるすべてのジヒドロキシ化合物が、5kPaにおける沸点が200℃以上のジヒドロキシ化合物である、[1]から[18]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂。
[20]下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、構造の一部に下記式(4)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物とを含むジヒドロキシ化合物混合体と、下記式(6)で表される炭酸ジエステルとを、触媒の存在下、重縮合することにより得られるポリカーボネート樹脂であって、該触媒が長周期型周期表における2族金属およびリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物であり、該ポリカーボネート樹脂中の長周期型周期表における第1族金属元素および第2族金属元素の合計含有量が、該ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1mol当たり、20μmol以下である、ことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【0023】
【化6】

【0024】
式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、それぞれのベンゼン環に4つある置換基のそれぞれとして、同一の又は異なる基が配されている。Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。
【0025】
【化7】

【0026】
式(3)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。
【0027】
【化8】

【0028】
式(5)において、AおよびAは、それぞれ独立に、炭素数1〜炭素数18の置換基を有していてもよい脂肪族基、または炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基であり、AとAは同一であっても異なっていてもよい。
[21][1]から[20]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂を製膜してなる、フィルム。
[22]前記透明フィルムが、少なくとも一方向に延伸されてなるものである、[21]に記載のフィルム。
[23]波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)の比(Re450/Re550)が、0.5以上0.93以下である、[21]または[22]に記載のフィルム。
[24]波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)の比(Re450/Re550)が、0.5以上0.90以下である、[21]または[22]に記載のフィルム。
[25]光弾性係数が40×10−12Pa−1以下である、[21]から[24]のいずれか1つに記載のフィルム。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、優れた光学特性を有するだけでなく、優れた色相、熱安定性を有し、電気・電子部品、自動車用部品等の射出成形分野、フィルム、シート分野、ボトル、容器分野、さらには、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDやCMOS用レンズなどのレンズ用途、液晶やプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、偏光フィルムなどのフィルム、シート、光ディスク、光学材料、光学部品、色素および電荷移動剤等を固定化するバインダー用途といった幅広い分野へ適用可能なポリカーボネート樹脂を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明のポリカーボネート樹脂中の式(2)で表される化合物群の合計量をLC分析した際のLCチャートを示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の内容に限定されない。本発明において、「重量」は「質量」と同義である。また、本発明のポリカーボネート樹脂には、カーボネート構造を有する重合体のみならず、当該重合体の製造時に生成する各種化合物を含有するものや、当該重合体に各種添加剤などを配合したものも含まれる。
【0032】
本発明のポリカーボネート樹脂は、ガラス転移温度が110℃以上150℃以下、濃度0.6g/dLの塩化メチレン溶液の20℃における還元粘度が0.30以上0.46以下のポリカーボネート樹脂であって、当該樹脂を成形してなるフィルムの波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)との比が0.50以上0.93以下であるものである。
【0033】
<ポリカーボネート樹脂の性質>
(ガラス転移温度)
本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、110℃以上150℃以下である。ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が低すぎると、使用環境下において必要な耐熱性が不足し、成形後に透明性が低下したり寸法変化を起こしたりする可能性がある。また、光学フィルムとして使用した際には、分子鎖の緩和が生じるなどして、光学特性を保てなくなるおそれがあるため、より好ましくは115℃以上であり、更に好ましくは120℃以上である。
【0034】
また、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度が高すぎると、十分な機械物性が得られなくなる。更に、機械物性を高めるために分子量を高めると、通常溶融粘度も高くなるため、ポリカーボネート樹脂を製造する際の温度や、成形加工の際の温度を高くする必要があり、ポリカーボネート樹脂の着色や熱分解を招く場合がある。そのため、より好ましくは148℃以下、更に好ましくは146℃以下である。
【0035】
ガラス転移温度を調整するには、ポリカーボネート樹脂を構成する繰返し構造単位の種類を調整することや、ポリカーボネート樹脂を共重合体とすることや、共重合体の場合に繰返し構造単位の共重合比率を調整すること等により、可能となる。ガラス転移温度は、実施例で後述する方法により測定する。
【0036】
(還元粘度)
本発明のポリカーボネート樹脂は、濃度0.6g/dLの塩化メチレン溶液の20℃における還元粘度が0.30以上0.46以下であるが、還元粘度が低すぎると、機械物性が低下し、例えば靭性などが低下するとフィルムのような厚さの薄いものの成形や、それを延伸加工することが困難となるため、より好ましくは0.33以上、更に好ましくは0.35以上である。
【0037】
一方、還元粘度が高すぎると成形する際の流動性が低下し、生産性や成形性を低下させる傾向があるうえ、溶融加工の際に成形品にシルバーやヤケ異物等が発生し、外観不良を生じるおそれがある。また、押出機を使用して溶融加工を行う時には、押出樹のバレル温度を低く保っても剪断発熱による樹脂温度の上昇を抑制することが困難となり、シルバーやヤケ異物等が発生したり、ポリカーボネート樹脂の分子量の低下を招いたりすることがあるので、0.43以下が好ましく、更に好ましくは0.41以下である。
【0038】
また、溶融成形後の成形体の還元粘度と、成形前のポリカーボネート樹脂の還元粘度との比が、0.95以上であることが好ましい。還元粘度は、溶媒として塩化メチレンを用い、ポリカーボネート濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度計を用いて測定する。
【0039】
ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、ポリカーボネート樹脂の分子量を高めたり、ポリカーボネート樹脂中に分岐構造導入したりすることにより、調整することが可能である。
【0040】
(位相差)
本発明のポリカーボネート樹脂は特に各種ディスプレイ(液晶表示装置、有機EL表示装置、プラズマ表示装置、FED電界放出表示装置、SED表面電界表示装置)の視野角補償用、外光の反射防止用、色補償用、直線偏光の円偏光への変換用などに用いられる光学補償フィルムとして有用である。この用途には、該ポリカーボネート樹脂を成形してなるフィルムの波長450nmで測定した位相差(Re450)の波長550nmで測定した位相差(Re550)に対する比率(Re450/Re550)が0.50以上、0.93以下となることが好ましく、さらには0.70以上、0.91以下であることが好ましく、特には0.85以上、0.90以下であることが好ましい。
【0041】
前記比率がこの範囲であれば、可視領域の各波長において理想的な位相差特性を得ることができる。例えば1/4波長板としてこのような波長依存性を有する位相差フィルムを作製し、偏光板と貼り合わせることにより、円偏光板等を作製することができ、色相の波長依存性が少ない偏光板および表示装置の実現が可能である。一方、前記比率がこの範囲外の場合には、色相の波長依存性が大きくなり、可視領域のすべての波長において光学補償がなされなくなり、偏光板や表示装置に光が通り抜けることによる着色やコントラストの低下などの問題が生じる。
【0042】
ポリカーボネート樹脂の位相差を調整するには、ポリカーボネート樹脂を構成する繰返し構造単位の種類を調整することや、ポリカーボネート樹脂を共重合体とすることや、共重合体の場合に繰返し構造単位の共重合比率を調整すること等により、可能となる。
【0043】
(複屈折)
上記の位相差フィルムは、更に適切な範囲の位相差を有していることが好ましい。位相差はフィルムの複屈折と厚みの積によって決まるため、所定の位相差を持ちながらフィルムを薄型とするには、フィルムの複屈折が高いことが好ましい。本発明のポリカーボネート樹脂において、ガラス転移温度+15℃の条件下で固定端2.0倍延伸したときの複屈折は、0.001以上であることが好ましく、さらには0.0015以上、特には0.0020以上が好ましい。
【0044】
複屈折が0.001未満の場合には、フィルムの厚みを過度に大きくする必要があるため、材料の使用量が増え、厚み・透明性・位相差の点から均質性の制御が困難となる。そのため、複屈折が0.001未満の場合には、前記ポリカーボネート樹脂を用いて作製した透明フィルムを、精密性・薄型・均質性を求められる機器に適合できない可能性がある。一方、フィルムの厚みが薄すぎるとハンドリング上の問題が生じるため、複屈折は0.010以下が好ましく、さらには0.008以下が好ましい。
【0045】
複屈折は、ポリカーボネート樹脂の分子構造に依存する固有複屈折と、延伸倍率や延伸温度といった加工条件によって決まる。ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物は主鎖方向の分極が強い構造を用いるのが好ましく、また、延伸性を向上するためには、ポリカーボネート樹脂に柔軟な構造を取り入れ、上述したガラス転移温度や溶融粘度を適切な範囲にすることも重要である。
【0046】
(光弾性係数)
本発明のポリカーボネート樹脂は、光弾性係数が40×10−12Pa−1以下であることが好ましい。さらには35×10−12Pa−1以下であることが好ましく、30×10−12Pa−1以下であることが特に好ましい。光弾性係数が40×10−12Pa−1より大きいと、前記透明フィルムを位相差フィルムとして偏光板に貼り合わせ、さらにこの偏光板を表示装置に搭載させたときに、貼り合わせ時の応力により、視認環境やバックライトの熱で位相差フィルムに部分的応力がかかり、不均一な位相差変化が生じ、画面の周囲が白くぼやけるような画像品質の低下が起きる可能性がある。特に大型の表示装置に用いられる場合にはこの問題が顕著に現れる。
【0047】
(溶融粘度)
ポリカーボネート樹脂の機械物性や色調、あるいは溶融重合時や成形加工時の流動性などの面から、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は適切な範囲に収める必要がある。溶融粘度が高すぎると、機械物性は向上するものの、高い加工温度が必要となるために、樹脂の着色や熱分解を抑制することが難しくなる。
【0048】
本発明のポリカーボネート樹脂の溶融粘度はキャピログラフを用いて測定され、測定温度240℃、剪断速度91.2sec−1において、1500Pa・s以上、3500Pa・s以下となることが好ましい。さらには2000Pa・s以上、3000Pa・s以下となることが好ましい。
【0049】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことが好ましい。
【0050】
【化9】

【0051】
式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、それぞれのベンゼン環に4つある置換基のそれぞれとして、同一の又は異なる基が配されている。Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。
【0052】
式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことで、適度な位相差、位相差比、複屈折や低光弾性係数などの光学特性と、耐熱性や機械強度といった物性をより好ましいものとすることが容易になる。
【0053】
本発明のポリカーボネート樹脂は、如何なる方法で製造されても構わないが、アルコール性のヒドロキシ基を有するジヒドロキシ化合物を原料として製造する場合には、当該ジヒドロキシ化合物を原料としてエステル交換反応により溶融重縮合することが好ましい。そこで、本発明のポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させることが好ましい。
【0054】
(ジヒドロキシ化合物)
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物(以下「フルオレン系ジヒドロキシ化合物」と称する場合がある。)において、m、nがともに1のものが優れた機械物性と耐熱性を発現するため、好適に用いられる。
【0055】
m=1及びn=1の例としては、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレンなどが挙げられる。
【0056】
フルオレン系ジヒドロキシ化合物としては、入手及び製造のしやすさの面から9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレンがもっとも好ましい。これらは得られるポリカーボネート樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0057】
前記式(1)で表される化合物には、当該化合物の製造時の際に硫黄化合物を含有する可能性があり、ポリカーボネートの重合工程に悪影響を及ぼす場合があるため、硫黄元素量が20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下がより好ましく、5ppm以下がさらに好ましい。フルオレン系ジヒドロキシ化合物は沸点が非常に高いため、蒸留による精製は困難であり、一般的には水による洗浄や、再結晶、イオン交換樹脂や活性炭などを使用して精製を行う。含有する全硫黄量はイオンクロマトグラフィーで測定することができる。
【0058】
本発明のポリカーボネートは、所望の光学物性に調節するために、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいることが好ましい。この場合、全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対して、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の比率が25モル%以上80モル%以下であることが好ましく、より好ましくは30モル%以上70モル%以下であり、35モル%以上60モル%以下であることが特に好ましい。
【0059】
適度な複屈折や低光弾性係数などの光学特性と、耐熱性や機械強度といった物性を両立させるために、構造の一部に下記式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物(特定ジヒドロキシ化合物)が好適に用いられる。具体的には、オキシアルキレングリコール類や、芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0060】
【化10】

【0061】
但し、上記式(3)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。
【0062】
前記のオキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。
【0063】
前記の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等が挙げられる。
【0064】
前記の環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物としては、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物や、下記式(6)や下記式(7)で表されるスピログリコール等が挙げられる。なお、上記の「環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物」の「環状エーテル構造」とは、環状構造中にエーテル基を有し、環状鎖を構成する炭素が脂肪族炭素である構造からなるものを意味する。
【0065】
【化11】

【0066】
【化12】

【0067】
【化13】

【0068】
上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物としては、例えば、立体異性体の関係にあるイソソルビド(ISB)、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
これらのジヒドロキシ化合物の中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性、得られるポリカーボネートの色相の観点から、前記式(4)、(6)および(7)で表されるヒドロキシ化合物に代表される、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物や上記式(7)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物がさらに好ましく、上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物等の糖由来の環状エーテル構造を2つ有するジヒドロキシ化合物である無水糖アルコールが特に好ましい。
【0070】
これらの特定ジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネートの光学特性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られる上記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物等の無水糖アルコールが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0071】
これらの特定ジヒドロキシ化合物は、得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
上記式(3)の結合構造を有するジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいてもよい。特に酸性下で本発明の特定ジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。
【0073】
塩基性安定剤としては、例えば、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における第1族または第2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物、ジ−(tert−ブチル)アミン、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物が挙げられる。安定剤の中でも安定化の効果からはテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、イミダゾール、ヒンダードアミン系安定剤が好ましい。
【0074】
これら塩基性安定剤のジヒドロキシ化合物中の含有量に特に制限はないが、本発明で用いる前記式(4)で表される構造を有するジヒドロキシ化合物は酸性状態では不安定であるので、上記の安定剤を含むジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7以上となるように安定剤を添加することが好ましい。少なすぎると上記特定ジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎても重合反応中にフルオレン系ジヒドロキシ化合物や上記特定ジヒドロキシ化合物の変性を招く場合があるので、通常、本発明で用いるそれぞれのジヒドロキシ化合物に対して、0.0001重量%〜1重量%、好ましくは0.001重量%〜0.1重量%である。
【0075】
また、前記式(4)で表される構造を有する特定ジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが肝要である。イソソルビドが酸化されると、蟻酸をはじめとする分解物が発生する。例えば、これら分解物を含むイソソルビドを用いてポリカーボネートを製造すると、得られるポリカーボネートの着色を招いたり、物性を著しく劣化させたりするだけでなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られないこともあり、好ましくない。
【0076】
本発明のポリカーボネートは、上記のフルオレン系ジヒドロキシ化合物及び特定ジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよく、前記その他のジヒドロキシ化合物としては、直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、芳香族ビスフェノール類等が挙げられる。
【0077】
前記の直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が挙げられる。
【0078】
前記の直鎖分岐脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等が挙げられる。
【0079】
前記の脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、リモネンなどのテルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0080】
前記の芳香族ビスフェノール類としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−5−ニトロフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル等が挙げられる。
【0081】
これらの前記その他のジヒドロキシ化合物も、得られるポリカーボネートの要求性能に応じて、単独で前記特定ジヒドロキシ化合物と併用してもよく、2種以上を組み合わせた上で前記フルオレン系ジヒドロキシ化合物や前記特定ジヒドロキシ化合物と併用してもよい。中でも、ポリカーボネートの光学特性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物や、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましく、これらを併用してもよい。
【0082】
前記したうち、本発明のポリカーボネートに適した脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の炭素数3〜6で両末端にヒドロキシ基を有する直鎖脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物が好ましい。
【0083】
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、特に1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましく、より好ましいのは、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのシクロヘキサン構造を有するジヒドロキシ化合物である。
【0084】
本発明のポリカーボネート樹脂を溶融重合法する際には、後述するように、高温、高真空下での反応となるため、沸点の低いジヒドロキシ化合物を反応に用いると、未反応のまま反応系外に留出してしまい、得られるポリカーボネート樹脂の共重合組成の制御が難しくなる。
【0085】
本発明のポリカーボネート樹脂は、複数種のジヒドロキシ化合物の共重合組成を制御することで、光学特性や機械特性などの物性を高いものとすることができるため、反応に用いるジヒドロキシ化合物の沸点が高く、留出しにくいものほど共重合組成を制御しやすくなる。本発明のポリカーボネート樹脂においては、ポリカーボネート樹脂を構成するすべてのジヒドロキシ化合物の5kPaにおける沸点が200℃以上であることが好ましい。
【0086】
(炭酸ジエステル)
本発明のポリカーボネートは、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることが好ましい。
【0087】
用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記式(5)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0088】
【化14】

【0089】
およびAは、それぞれ独立に、炭素数1〜炭素数18の置換基を有していてもよい脂肪族基、または炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基であり、AとAは同一であっても異なっていてもよい。
【0090】
前記式(5)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(DPC)、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ−t−ブチルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネートの色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0091】
(重合触媒)
本発明のポリカーボネートは、上述のようにフルオレン系ジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と前記式(5)で表される炭酸ジエステルをエステル交換反応させて製造する。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。このエステル交換反応の際には、エステル交換反応触媒存在下で重縮合を行うが、本発明のポリカーボネートの製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に触媒、重合触媒と言うことがある)は、反応速度や重縮合して得られるポリカーボネートの色調に非常に大きな影響を与え得る。
【0092】
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネートの透明性、色相、耐熱性、熱安定性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されないが、長周期型周期表における第1族または第2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
【0093】
前記の1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられ、中でも重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、リチウム化合物が好ましい。
【0094】
前記の2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネートの色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましい。
【0095】
なお、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0096】
前記の塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0097】
前記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0098】
前記のアミン系化合物としては、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン、グアニジン等が挙げられる。
【0099】
上記重合触媒の使用量は、通常、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol〜300μmol、好ましくは0.5μmol〜100μmolである。中でも長周期型周期表における2族からなる群及びリチウムより選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/またはカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常、0.1μmol以上、好ましくは0.3μmol以上、特に好ましくは0.5μmol以上とする。また上限としては、通常40μmol、好ましくは30μmol、さらに好ましくは20μmolが好適である。
【0100】
ただし、本発明の前記式(1)で表される特定のジヒドロキシ化合物は、製造する際に用いられる触媒に由来するものなどにより硫黄を含有している場合があり、上記重合触媒を失活させる場合があるため、実際に使用する重合触媒は、前記の範囲よりも余分に使用する必要がある場合がある。
【0101】
反応に用いる全ジヒドロキシ化合物1mol当たりの全硫黄元素含有量をP[μmol]、重合触媒の金属元素量をQ[μmol]とした時に、Pに対するQの比率(Q/P)が0.1以上2以下であることが好ましい。また、同様に本発明のポリカーボネート樹脂において、全ジヒドロキシ化合物1mol当たりの全硫黄元素含有量をA[μmol]、長周期型周期表における1族金属元素および2族金属元素の合計含有量をB[μmol]とした時に、Aに対するBの比率(B/A)は、0.1以上2以下であることが好ましい。
【0102】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため、所望の分子量のポリカーボネートを得ようとするにはその分だけ重合温度を高くせざるを得なくなる。そのために、得られるポリカーボネートの色相が悪化する可能性が高くなり、また、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、好ましくない副反応を併発し、得られるポリカーボネートの色相の悪化や成形加工時の樹脂の着色を招く可能性がある。
【0103】
ポリカーボネート樹脂に含有される金属成分は、重合反応時や成形加工時における樹脂の着色原因となりうる。金属成分は前述の重合触媒に由来されるものだけでなく、原料や反応装置、環境からの混入もありうるため、本発明のポリカーボネート樹脂に用いられるジヒドロキシ化合物や炭酸ジエステルは十分に精製されたものを用い、ポリカーボネートの製造工程においても、金属成分の混入を避けることが必要である。
【0104】
本発明のポリカーボネート樹脂中の第2族金属およびリチウムの含有量は、フルオレン系ジヒドロキシ化合物1molに対して、50μmol以下であることが好ましく、30μ以下がさらに好ましく、特に20μmol以下となるのが好ましい。重合を進行させるために、最低限の重合触媒を添加するため、下限は0.1μmol、さらに好ましくは0.5μmolである。
【0105】
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、セシウムは、ポリカーボネート中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある。そして、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート中のこれらの金属の化合物の合計量は、金属量として、フルオレン系ジヒドロキシ化合物1molに対して、1μmol以下がよく、好ましくは0.5μmol以下である。
【0106】
(特定構造の化合物)
本発明のポリカーボネート樹脂は、下記式(2)で表される化合物群を合計量で400ppm以下含有するものであることが好ましい。
【0107】
【化15】

【0108】
前記式(2)において、R〜R、X、m、およびnは、式(1)におけるものと同様の群を表し、Aは、炭素数1〜炭素数18の置換基を有していてもよい脂肪族基、または炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基を表す。
【0109】
は、通常前記式(5)で表される炭酸ジエステルにおけるAと同様の構造となることが多く、例えばAとAが異なる炭酸ジエステルを使用した場合などは、前記式(2)は複数種の化合物群により構成されることになる。この場合、それら化合物群の合計量が、本発明のポリカーボネート樹脂中の、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造に対して、400ppm含有するものであることが好ましい。
【0110】
また、ポリカーボネート樹脂中の前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造に対する、前記式(2)で表される化合物群の合計量をa[ppm]、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造1molに対するポリカーボネート樹脂中の第1族金属および第2族金属の含有量の合計をb[μmol]とすると、bに対するaの比率(a/b)が20以下となるのが好ましい。さらには15以下、特には12以下となるのが好ましい。a/bを20以下とすることにより、色調および熱安定性のより優れたポリカーボネート樹脂を得ることができるためである。
【0111】
ポリカーボネート樹脂中に含有される金属量はICP−MSにより測定される。液体クロマトグラフィーにより測定されたポリカーボネート樹脂中のジヒドロキシ化合物の含有量や、前記式(2)で表される化合物群の合計量とから、上記のポリカーボネート樹脂中の前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造に対する金属量などを計算することができる。
【0112】
<製造方法>
本発明のポリカーボネート樹脂は通常、ジヒドロキシ化合物と前記式(5)で表される炭酸ジエステルとを触媒の存在下、エステル交換反応により重縮合させることによって得ることができる。
【0113】
更に、本発明のポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、構造の一部に前記式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物とを含むジヒドロキシ化合物と、前記式(5)で表される炭酸ジエステルとを、長周期型周期表における2族金属およびリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物である触媒の存在下、重縮合により得られるポリカーボネート樹脂であって、該ポリカーボネート樹脂中の長周期型周期表における第1族金属元素および第2族金属元素の合計含有量が、該ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物1mol当たり、20μmol以下であるポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0114】
この場合、原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。
【0115】
前記均一に混合する温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上であり、その上限は通常250℃、好ましくは200℃、更に好ましくは150℃である。中でも100℃以上120℃以下が好適である。混合の温度が低すぎると溶解速度が遅かったり、溶解度が不足したりする可能性があり、しばしば固化等の不具合を招く。混合の温度が高すぎるとジヒドロキシ化合物の熱劣化を招く場合があり、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色相が悪化する可能性がある。
【0116】
ジヒドロキシ化合物と前記式(5)で表される炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度10体積%以下、更には0.0001体積%〜10体積%、中でも0.0001体積%〜5体積%、特には0.0001体積%〜1体積%の雰囲気下で行うことが、色相悪化防止の観点から好ましい。
【0117】
本発明の樹脂を得るためには、前記式(5)で表される炭酸ジエステルは、反応に用いるジヒドロキシ化合物に対して、0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましく、さらに好ましくは、0.95〜1.10のモル比率である。
【0118】
前記モル比率が小さくなると、製造されたポリカーボネート樹脂の末端水酸基が増加して、ポリマーの熱安定性が悪化し、成型時に着色を招いたり、エステル交換反応の速度が低下したり、所望する高分子量体が得られない可能性がある。
【0119】
また、前記モル比率が大きくなると、エステル交換反応の速度が低下したり、所望とする分子量のポリカーボネートの製造が困難となる場合がある。エステル交換反応速度の低下は、重合反応時の熱履歴を増大させ、結果的に得られたポリカーボネート樹脂の色相を悪化させる可能性がある。
【0120】
更には、ジヒドロキシ化合物に対して、前記式(5)で表される炭酸ジエステルのモル比率が増大すると、得られるポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量が増加し、成形加工時の臭気の原因となったり、金型の付着物が多くなったりする場合があり、好ましくない。
【0121】
本発明のポリカーボネート樹脂に残存する炭酸ジエステルの濃度は、好ましくは80重量ppm以下、更に好ましくは70重量ppm以下、特に好ましくは60重量ppm以下が好適である。現実的にポリカーボネート樹脂は未反応の炭酸ジエステルを含むことがあり、濃度の下限値は通常1重量ppmである。
【0122】
本発明において、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、通常、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせのいずれの方法でもよい。
【0123】
重合初期においては、相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、重合後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましいが、各分子量段階でのジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが安定的に反応を行う上で、また色相の観点からも重要である。例えば、重合反応が所定の値に到達する前に温度、圧力のどちらか一方でも早く変化させすぎると、未反応のモノマーが留出し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比を狂わせ、重合速度の低下を招いたり、所定の分子量や末端基を持つポリマーが得られない場合がある。
【0124】
更には、留出するモノマーの量を抑制するために、重合反応器に還流冷却器を用いることは有効であり、特に未反応モノマー成分が多い重合初期の反応器でその効果は大きい。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができる。通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45℃〜180℃であることが好ましく、より好ましくは、80℃〜150℃、特に好ましくは100℃〜130℃である。
【0125】
還流冷却器に導入される冷媒の温度が高すぎると還流量が減り、その効果が低下し、低すぎると、本来留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率が低下する傾向にある。冷媒としては、例えば、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0126】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、最終的なポリカーボネート樹脂の色相や熱安定性等を損なわないようにするためには、前述の触媒の種類と量の選定が重要である。
【0127】
本発明のポリカーボネート樹脂は、触媒を用いて、複数の反応器により多段階で重合させて製造することが好ましいが、重合を複数の反応器で実施する理由は、重合反応初期においては、反応液中に含まれるモノマーが多いために、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制してやることが重要である。また、重合反応後期においては、平衡を重合側にシフトさせるために、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることが重要になるためである。このように、異なった重合反応条件を設定するには、直列に配置された複数の重合反応器を用いることが、生産効率の観点から好ましい。
【0128】
本発明の方法で使用される反応器は、上述の通り、少なくとも2つ以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上が好ましく、より好ましくは3〜5つ、特に好ましくは、4つである。
【0129】
本発明において、反応器が2つ以上であれば、その反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数持たせる、連続的に温度・圧力を変えていくなどしてもよい。
【0130】
本発明において、重合触媒は原料調製槽、原料貯槽に添加することもできるし、重合槽に直接添加することもできるが、供給の安定性、重合の制御の観点からは、重合槽に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、好ましくは水溶液で供給する。重合反応の温度は、低すぎると生産性の低下や製品への熱履歴の増大を招き、高すぎるとモノマーの揮散を招くだけでなく、ポリカーボネート樹脂の分解や着色を助長する可能性がある。
【0131】
具体的には、第1段目の反応は、重合反応器の内温の最高温度として、好ましくは130℃〜270℃、より好ましくは150℃〜240℃、更に好ましくは180℃〜230℃で、好ましくは110kPa〜1kPa、より好ましくは70kPa〜5kPa、更に好ましくは30kPa〜10kPa(絶対圧力)の圧力下、好ましくは0.1時間〜10時間、より好ましくは0.5時間〜3時間、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施される。
【0132】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を好ましくは200Pa以下にして、内温の最高温度を好ましくは200℃〜270℃、より好ましくは220℃〜260℃にして、通常0.1時間〜10時間、好ましくは、1時間〜6時間、特に好ましくは0.5時間〜3時間行う。
【0133】
特にポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化を抑制し、色相の良好なポリカーボネート樹脂を得るには、全反応段階における内温の最高温度が260℃未満、特に220℃〜240℃であることが好ましい。また、重合反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重合の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0134】
所定の分子量のポリカーボネート樹脂を得るために、重合温度を高く、重合時間を長くし過ぎると、得られるポリカーボネートの色相や熱安定性は悪化する傾向にある。
【0135】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じ精製を行った後、炭酸ジフェニルやビスフェノールA等の原料として再利用することが好ましい。
【0136】
本発明のポリカーボネート樹脂は、上述の通り重縮合後、通常、冷却固化させ、回転式カッター等でペレット化される。
【0137】
ペレット化の方法は限定されるものではないが、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させてペレット化させる方法、最終重合反応器から溶融状態で一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法、又は、最終重合反応器から溶融状態で抜き出し、ストランドの形態で冷却固化させて一旦ペレット化させた後に、再度一軸または二軸の押出機に樹脂を供給し、溶融押出しした後、冷却固化させてペレット化させる方法等が挙げられる。
【0138】
その際、押出機中で、残存モノマーの減圧脱揮や、通常知られている、熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色剤、帯電防止剤、滑剤、潤滑剤、可塑剤、相溶化剤、難燃剤等を添加、混練することも出来る。
【0139】
押出機中の溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃〜300℃であることが好ましく、より好ましくは200℃〜270℃、更に好ましくは230℃〜260℃である。溶融混練温度を150℃以上とすることにより、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度を抑え、押出機への負荷が小さくなり、生産性が向上する。300℃以下とすることにより、ポリカーボネートの熱劣化を抑え、分子量の低下による機械的強度の低下や着色、ガスの発生を防ぐ。
【0140】
一般式(5)で表される炭酸ジエステルとして、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用い、本発明のポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生し、ポリカーボネート樹脂中に残存することは避けられないが、フェノール、置換フェノールは成型時の臭気や高温暴露時の着色の原因となる場合がある。
【0141】
ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する、芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、好ましくは700重量ppm以下、更に好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下にすることが好ましい。ただし、工業的に完全に除去することは困難であり、芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1重量ppmである。
【0142】
尚、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
【0143】
本発明のポリカーボネート樹脂を製造する際には、異物の混入を防止するため、フィルターを設置することが望ましい。フィルターの設置位置は押出機の下流側が好ましく、フィルターの異物除去の大きさ(目開き)は、99%除去の濾過精度として100μm以下が好ましい。特に、フィルム用途等で微少な異物の混入を嫌う場合は、40μm以下、さらには20μm以下が好ましい。
【0144】
本発明のポリカーボネート樹脂の押出は、押出後の異物混入を防止するために、好ましくはJIS B9920(2002年)に定義されるクラス7、更に好ましくはクラス6より清浄度の高いクリーンルーム中で実施することが好ましい。
【0145】
また、押出されたポリカーボネート樹脂を冷却し、チップ化する際は、空冷、水冷等の冷却方法を使用するのが好ましい。空冷の際に使用する空気は、ヘパフィルター等で空気中の異物を事前に取り除いた空気を使用し、空気中の異物の再付着を防ぐのが好ましい。
【0146】
水冷を使用する際は、イオン交換樹脂等で水中の金属分を取り除き、さらにフィルターにて、水中の異物を取り除いた水を使用することが好ましい。用いるフィルターの目開きは、99%除去の濾過精度として10μm〜0.45μmであることが好ましい。
【0147】
このようにして製造された本発明のポリカーボネート樹脂には、成形時等における分子量の低下や色相の悪化を防止するために熱安定剤を配合することができる。
【0148】
前記熱安定剤としては、例えば、亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸およびこれらのエステル等が挙げられ、具体的には、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ジオクチルモノフェニルホスファイト、ジイソプロピルモノフェニルホスファイト、モノブチルジフェニルホスファイト、モノデシルジフェニルホスファイト、モノオクチルジフェニルホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリブチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、ジフェニルモノオルソキセニルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、ベンゼンホスホン酸ジメチル、ベンゼンホスホン酸ジエチル、ベンゼンホスホン酸ジプロピル等が挙げられる。なかでも、トリスノニルフェニルホスファイト、トリメチルホスフェート、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、およびベンゼンホスホン酸ジメチルが好ましく使用される。
【0149】
これらの熱安定剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用してもよい。
【0150】
これらの熱安定剤の配合量は、ポリカーボネート樹脂を100重量部とした場合、0.0001重量部〜1重量部が好ましく、0.0005重量部〜0.5重量部がより好ましく、0.001重量部〜0.2重量部が更に好ましい。
【0151】
また、本発明のポリカーボネート樹脂には、酸化防止の目的で通常知られた酸化防止剤を配合することもできる。
【0152】
かかる酸化防止剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−ラウリルチオプロピオネート)、グリセロール−3−ステアリルチオプロピオネート、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマイド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスホネート−ジエチルエステル、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)、3,9−ビス{1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0153】
これら酸化防止剤の配合量は、ポリカーボネートを100重量部とした場合、0.0001重量部〜0.5重量部が好ましい。
【0154】
ポリカーボネート樹脂と上記添加剤は、タンブラー、スーパーミキサー、フローターなどで混合して、同時に、または任意の順序で、単軸・特殊単軸・二軸などの押出機、V型ブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、混練ロール等などで溶融混練して製造することができる。
【0155】
押出機の溶融混練温度は、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度や分子量に依存するが、通常150℃〜300℃、好ましくは200℃〜270℃である。溶融混練温度が150℃より低いと、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高く、押出機への負荷が大きくなり、生産性が低下する。300℃より高いと、ポリカーボネートの熱劣化が激しくなり、分子量の低下による機械的強度の低下や着色、ガスの発生を招く。
【0156】
また、上記の熱安定剤や酸化防止剤は本発明のポリカーボネート樹脂を溶融重合法で製造する際に、モノマーの保存安定性を向上させるために、モノマーに添加したり、重合時の着色を防止する目的で、重合時に添加したりすることができる。
【0157】
(フィルム製造方法:溶融押出法)
本発明に係るフィルムの製造法としては溶融押出法が生産性の点から好ましい。溶融押出法においては、Tダイを用いて樹脂を押し出し、冷却ロールに送る方法が好ましく用いられる。この時の溶融温度はポリカーボネートの分子量、Tg、溶融流動特性などから決められるが、180℃〜320℃の範囲であることが好ましく、200℃〜300℃の範囲がより好ましい。該温度が高すぎると熱劣化による着色や異物やシルバーの発生による外観不良、Tダイからのダイラインなどの問題が起きやすくなる。該温度が低すぎると粘度が高くなり、ポリマーの配向、応力歪みが残りやすい。
【0158】
製膜されたフィルムの位相差値は、20nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以下である。フィルムの位相差値がこれ以上大きいと、延伸して位相差フィルムとした際に位相差値のフィルム面内のばらつきが大きくなるので好ましくない。
【0159】
(フィルム製膜方法:溶液キャスト法)
フィルムの製造法としては溶液キャスト法を用いることもできる。溶媒としては、例えば、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ジオキソラン、ジオキサンなどが好適に用いられる。溶液キャスト法で得られるフィルム中の残留溶媒量は2重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以下である。2重量%以上と残留溶媒量が多いとフィルムのガラス転移温度の低下が著しくなり耐熱性の点で好ましくない。
【0160】
(フィルム厚み)
本発明のフィルムの厚みとしては、30μm〜400μmの範囲が好ましく、より好ましくは40μm〜300μmの範囲である。かかるフィルムをさらに延伸して位相差フィルムとする場合には、該位相差フィルムの所望の位相差値、厚みを勘案して上記範囲内で適宜決めればよい。
【0161】
(延伸方法)
かくして得られたフィルムは延伸配向されることにより、位相差フィルムとすることができる。延伸方法としては縦一軸延伸、テンター等を用いる横一軸延伸、あるいはそれらを組み合わせた同時二軸延伸、逐次二軸延伸など公知の方法を用いることができる。バッチ式で行ってもよいが、連続で行うことが生産性において好ましい。さらにバッチ式に比べて、連続の方がフィルム面内の位相差のばらつきの少ない位相差フィルムが得られる。
【0162】
延伸温度はポリカーボネートのガラス転移温度に対して、(Tg−20℃)〜(Tg+30℃)の範囲であり、好ましくは(Tg−10℃)〜(Tg+20℃)の範囲内である。延伸倍率は目的とする位相差値により決められるが、縦、横それぞれ、1.05倍〜4倍、より好ましくは1.1倍〜3倍である。
【0163】
本発明におけるポリカーボネート樹脂を成形してなるフィルムは複屈折が0.001以上であることが好ましく、更には0.0014以上であることが好ましい。複屈折が過度に小さいと位相差フィルムとした場合、同じ位相差を発現させるためには、フィルム厚みを厚くしなければならず、薄型の機器には適合できない可能性がある。
【0164】
尚、上記複屈折は本発明のポリカーボネート樹脂のガラス転移温度+15℃の延伸温度で固定一軸延伸したフィルムを測定した値である。
【0165】
本発明におけるフィルムは、波長450nmで測定した位相差(Re450)の波長550nmで測定した位相差(Re550)に対する比率(Re450/Re550)が、0.50以上、0.93以下であることがより好ましく、0.70以上、0.90以下であることがより好ましく、0.85以上、0.90以下であることが更に好ましい。前記比が過度に小さいと位相差フィルムとした場合、偏光板と張り合わせると、画像品質の低下が生じる場合がある。
【0166】
本発明における透明フィルムは、光弾性係数が40×10−12Pa−1以下であることが好ましく、35×10−12Pa−1以下であることが更に好ましく、特には30×10−12Pa−1以下であることが好ましい。光弾性係数が過度に大きいと、位相差フィルムとした場合、偏光板と張り合わせると、画面の周囲が白くぼやけるような画像品質の低下が起きる可能性がある。
【0167】
本発明のフィルムは、各種液晶表示装置用の位相差板として用いることができる。
【0168】
本発明のフィルムをSTN液晶表示装置の色補償用に用いる場合には、その位相差値は、一般的には、400nmから2000nmまでの範囲で選択される。また、本発明の位相差フィルムを1/2波長板として用いる場合は、その位相差値は、200nmから400nmの範囲で選択される。本発明のフィルムを1/4波長板として用いる場合は、その位相差値は、90nmから200nmまでの範囲で選択される。1/4波長板としてのより好ましい位相差値は、100nmから180nmまでである。
【0169】
前記位相差板として用いる場合は、本発明のフィルムを単独で用いることもできるし、2枚以上を組み合わせて用いることもでき、他のフィルム等と組み合わせて用いることもできる。
【0170】
本発明のフィルムは、公知のヨウ素系あるいは染料系の偏光板と粘着剤を介して積層貼合することができる。積層する際、用途によって偏光板の偏光軸とフィルムの遅相軸とを、特定の角度に保って積層することが必要である。
【0171】
本発明のフィルムを1/4波長板とし、これを偏光板と積層貼合して円偏光板として用いることができる。その場合、一般には、偏光板の偏光軸とフィルムの遅相軸は実質的に45°の相対角度を保ち積層される。
【0172】
また、本発明のフィルムを、偏光板を構成する偏光保護フィルムとして用いて積層してもかまわない。さらに、本発明の位相差フィルムをSTN液晶表示装置の色補償板とし、これを偏光板と積層貼合することにより楕円偏光板として用いることもできる。
【0173】
本発明のポリカーボネート樹脂は複屈折が小さく、耐熱性および成形性にも優れ、さらに色相や透明性を兼ね備えているため、その他の光学フィルムや光ディスク、光学プリズム、ピックアップレンズ等に用いることもできる。
【実施例】
【0174】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0175】
以下の実施例の記載の中で用いた化合物の略号は次の通りである。
BHEPF:9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル)フルオレン (大阪ガスケミカル株式会社製)
ISB:イソソルビド (ロケットフルーレ社製、商品名:POLYSORB PS)
CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール (新日本理化株式会社製)
TCDDM:トリシクロデカンジメタノール(オクセア製)
DEG:ジエチレングリコール (三菱化学株式会社製)
PEG#1000:ポリエチレングリコール数平均分子量1000 (三洋化成株式会社製)
DPC:ジフェニルカーボネート (三菱化学株式会社製)
【0176】
以下において、ポリカーボネート樹脂の物性の測定方法、ポリカーボネート樹脂の特性の評価、およびポリカーボネート樹脂の製造条件の確認方法は、以下の方法により行った。
1)ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて測定した。ポリカーボネート樹脂サンプル約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、50mL/分の窒素気流下、昇温速度20℃/分で室温から250℃まで昇温した。3分間温度を保持した後、30℃まで20℃/分の速度で冷却した。30℃で3分保持し、再び200℃まで20℃/分の速度で昇温した。2回目の昇温で得られたDSCデータより、補外ガラス転移開始温度を採用した。
【0177】
2)還元粘度
ポリカーボネート樹脂を溶媒として塩化メチレンを用い溶解し、0.6g/dLの濃度のポリカーボネート溶液を調製した。ウベローデ型粘度管(森友理化工業社製)を用いて、温度20.0℃±0.1℃で測定を行い、溶媒の通過時間tと溶液の通過時間tから次式より相対粘度ηrelを求め、
ηrel=t/t
相対粘度から次式より比粘度ηspを求めた。
ηsp=(η−η)/η=ηrel−1
比粘度を濃度c(g/dL)で割って、還元粘度ηsp/cを求めた。
【0178】
3)式(2)で表される成分の含有量
ポリカーボネート樹脂試料約0.5gを精秤して三角フラスコに入れ、塩化メチレン5mLを加え、攪拌して溶解した後、メタノール45mLと25%水酸化ナトリウム5mLを加えた。溶液を80℃に加熱して、還流下、30分間反応させた。反応後、6N塩酸7mLとTHF10mLを加えて、100mLメスフラスコに溶液を全量移し、純水でメスアップした。調製した溶液を0.2μmディスクフィルターで濾過して、液体クロマトグラフィーの測定を行った。式(1)で表されるジヒドロキシ化合物、および式(2)で表される成分を定量し、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に対する式(2)で表される成分の含有量を計算した。本実施例ではBHEPFを用いて検量線を作成し、絶対検量線法によって定量した。なお、式(2)で表される成分もBHEPFを用いた検量線によって定量したため、該成分の含有量は式(2)で表される化合物群の含有量の絶対値ではなく、BHEPFに換算した数値である。LCチャートを図1に示す。
【0179】
用いた装置や条件は、次のとおりである。
・装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:Cadenza CD−18 Φ4.6mm×250mm
オーブン温度:60℃
・検出波長:300nm
・溶離液:A液:0.1%リン酸水溶液、B液:アセトニトリル、A/B=40/60(vol%)からA/B=0/100(vol%)まで10分間でグラジエント
・流量:1mL/min
・試料注入量:1μL(式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の定量の場合)
10μL(式(2)で表される成分の定量の場合)
【0180】
4)ポリカーボネート樹脂中の各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比の測定
ポリカーボネート樹脂中の各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比は、ポリカーボネート樹脂30mgを秤取し、重クロロホルム約0.7mLに溶解し、溶液とし、これを内径5mmのNMR用チューブに入れ、日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)を用いて常温でH NMRスペクトルを測定した。各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に基づくシグナル強度比より各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比を求めた。
【0181】
用いた装置や条件は、次のとおりである。
・装置:日本電子社製JNM−AL400(共鳴周波数400MHz)
・測定温度:常温
・緩和時間:6秒
・積算回数:128回
【0182】
5)ポリカーボネート樹脂中の金属含有量の測定
パーキンエルマー社製マイクロウェーブ分解容器にポリカーボネート樹脂ペレット約0.5gを精秤し、97%硫酸2mLを加え、密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱した。室温まで冷却後、68%硝酸1.5mLを加えて、密閉状態にして150℃で10分間マイクロウェーブ加熱した後、再度室温まで冷却を行い、68%硝酸2.5mLを加え、再び密閉状態にして230℃で10分間マイクロウェーブ加熱し、内容物を完全に分解させた。室温まで冷却後、上記で得られた液を純水で希釈し、サーモクエスト社製ICP−MSで定量した。
【0183】
6)ポリカーボネート樹脂中のフェノール含有量、DPC含有量の測定
試料約0.5gを精秤し、塩化メチレン5mLに溶解した後、総量が25mLになるようにアセトンを添加した。溶液を0.2μmディスクフィルターでろ過して、液体クロマトグラフィーにてフェノールとDPCの定量を行った後、含有量を算出した。
【0184】
用いた装置や条件は、次のとおりである。
・装置:(株)島津製作所製
システムコントローラ:CBM−20A
ポンプ:LC−10AD
カラムオーブン:CTO−10ASvp
検出器:SPD−M20A
分析カラム:Cadenza CD−18 Φ4.6mm×250mm
オーブン温度:40℃
・検出波長:260nm
・溶離液:A液:0.1%リン酸水溶液、B液:アセトニトリル
A/B=40/60(vol%)からA/B=0/100(vol%)まで10分間でグラジエント
・流量:1mL/min
・試料注入量:10μL
・定量法:絶対検量線法
【0185】
7)ポリカーボネート樹脂の初期色相の評価方法
ポリカーボネート樹脂の色相は、ASTM D1925に準拠して、ペレットの反射光におけるイエローインデックス(YI)値を測定して評価した。装置はコニカミノルタ社製分光測色計CM−5を用い、測定条件は測定径30mm、SCEを選択した。シャーレ測定用校正ガラスCM−A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM−A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。
【0186】
白色校正板CM−A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が−0.43±0.01、YIが−0.58±0.01となることを確認した。
【0187】
ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを30mm以上の深さまで入れて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。YI値が小さい程、黄色味がなく品質が優れることを示す。
【0188】
8)熱老化試験による色相の評価方法
内部を空気雰囲気とした120℃のオーブンに樹脂ペレットを入れ、200時間後に取り出し、前記(7)と同じ方法でYI値を測定した。熱老化試験後のYI値と前記(7)のYI値との差をΔYI値として表す。ΔYI値が小さいほど熱安定性が優れることを示す。
【0189】
9)ポリカーボネート樹脂中の硫黄元素量の測定
ポリカーボネート樹脂試料を白金製ボートに採取し、石英管管状炉(三菱化学株式会社社製AQF−100型)で加熱し、燃焼ガス中の硫黄分を0.03%の過酸化水素水溶液で吸収した。吸収液中のSO2−をイオンクロマトグラフ(Dionex社製ICS−1000型)で測定した。
【0190】
10)ポリカーボネート樹脂の溶融粘度の測定
80℃で5時間、真空乾燥をしたポリカーボネート樹脂試料を用いて、キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製)で測定を行った。反応温度と同じ温度に加熱して、剪断速度9.12〜1824sec−1間で溶融粘度を測定し、91.2sec−1における溶融粘度の値を用いた。ダイス径φ1mm×10mmLのオリフィスを使用した。
【0191】
11)重合反応装置内の酸素濃度の測定
酸素計(AMI社製:1000RS)を使用し、測定した。
【0192】
12)重合反応時のジヒドロキシ留出率の測定
重合反応の留出液3mLを精秤し、アセトニトリルを加えて10mLとした。ガスクロマトグラフィーの測定を行い、留出液中に含有されているジヒドロキシ化合物の含有率を求めた。留出液全量の重量からジヒドロキシ化合物の留出量を計算し、重合反応に用いたジヒドロキシ化合物の仕込み量との比から留出率を求めた。
【0193】
用いた装置と測定条件は、次のとおりである。
・装置:アジレント・テクノロジー社製 6850
・カラム:アジレント・テクノロジー社製 DB−1(内径250μm、長さ30m、膜圧0.25μm)
・オーブン温度:50℃ 3分保持 → 昇温10℃/min → 250℃
→ 昇温50℃/min → 300℃ 6分保持
・検出器:水素炎イオン化検出器
・注入口温度:250℃
・検出器温度:320℃
・キャリアガス:ヘリウム
・試料注入量:1μL
・定量法:絶対検量線法
【0194】
11)ポリカーボネート樹脂の光弾性係数の測定
He−Neレーザー、偏光子、補償板、検光子、光検出器からなる複屈折測定装置と振動型粘弾性測定装置(レオロジー社製DVE−3)を組み合わせた装置を用いて光弾性係数を測定した。(詳細は、日本レオロジー学会誌Vol.19,p.93〜97(1991)を参照。)
【0195】
80℃で5時間真空乾燥したポリカーボネート樹脂サンプル4gを、幅8cm、長さ8cm、厚さ0.5mmのスペーサーを用いて、熱プレスにて熱プレス温度250℃で、予熱1分、圧力20MPaの条件で1分間加圧後、スペーサーごと取り出し、水管冷却式プレスで、圧力20MPaで3分間加圧冷却しフィルムを作製した。フィルムから幅5mm、長さ20mmの試料を切り出し、上記振動型粘弾性測定装置に固定し、25℃の室温で貯蔵弾性率E’を周波数96Hzにて測定した。
【0196】
同時に、出射されたレーザー光を偏光子、試料、補償板、検光子の順に通し、光検出器(フォトダイオード)で拾い、ロックインアンプを通して角周波数ω又は2ωの波形について、その振幅とひずみに対する位相差を求め、ひずみ光学係数O’を求めた。このとき、偏光子と検光子の方向は直交し、またそれぞれ、試料の伸長方向に対してπ/4の角度をなすように調整した。光弾性係数(C)は、貯蔵弾性率E’とひずみ光学係数O’を用いて次式より求めた。
C=O’/E’
【0197】
12)熱プレスフィルムの位相差および位相差の波長分散性
前述の熱プレスで得られたフィルムからから幅6cm、長さ6cmの試料を切り出した。この試料を、バッチ式二軸延伸装置(東洋精機社製)で、延伸温度をポリカーボネート樹脂のガラス転移温度+15℃、延伸速度を720mm/分(ひずみ速度1200%/min)で、延伸倍率2.0倍の一軸延伸を行った。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
【0198】
延伸された試料より幅4cm、長さ4cmに切り出し、位相差測定装置(王子計測機器社製KOBRA−WPR)を用いて測定波長450、500、550、590、630nmで位相差を測定し、波長分散性を測定した。波長分散性は、450nmと550nmで測定した位相差Re450とRe550の比(Re450/Re550)を計算した。位相差比が1より大きいと波長分散は正であり、1未満では負となる。それぞれの位相差の比が、1未満で小さい程、負の波長分散性が強いことを示している。
【0199】
13)溶融押出フィルムの製膜
80℃で5時間、真空乾燥をしたポリカーボネート樹脂を、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)及び巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み100μmのフィルムを作製した。
【0200】
14)溶融押出フィルムの位相差及び位相差の波長分散性の測定
前述した方法で製膜した溶融押出フィルムから幅6cm、長さ6cmの試料を切り出した。この試料をバッチ式二軸延伸装置(東洋精機社製)で、延伸温度をポリカーボネート樹脂のガラス転移温度+15℃に設定し、延伸速度720mm/分(ひずみ速度1200%/分)、2.0倍の一軸延伸を行い、透明フィルムを得た。このとき延伸方向に対して垂直方向は、保持した状態(延伸倍率1.0)で延伸を行った。
【0201】
延伸された試料より幅4cm、長さ4cmに切り出し、位相差測定装置(王子計測機器社製KOBRA−WPR)を用いて測定波長450、500、550、590、630nmで位相差を測定し、波長分散性を測定した。波長分散性は450nmと550nmで測定した位相差Re450とRe550の比(Re450/Re550)を計算した。位相差比が1より大きいと波長分散は正であり、1未満では負となる。それぞれの位相差の比が1未満で小さい程、負の波長分散性が強いことを示している。
【0202】
15)溶融押出フィルムの複屈折(Δn)の測定
上記のフィルムを切り出したサンプルを前記位相差測定装置により波長590nmの位相差(Re590)を測定した。前記位相差を前記フィルムの厚み(t)で除し、下記式に従い、複屈折を求めた。
複屈折(Δn)=Re590/t
【0203】
[実施例1−1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置(1)に、BHEPFとISB、PEG#1000、DPC、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/PEG#1000/DPC/酢酸マグネシウム4水和物=0.445/0.552/0.003/1.015/1.20×10−5となるように仕込んだ。BHEPFは全硫黄元素量として4.1ppm含有するものを使用した。DPCは蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたものを使用した。
【0204】
重合反応装置(1)内を十分に窒素置換した後(酸素濃度0.0005〜0.001vol%)、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに30分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応装置(1)に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0205】
重合反応装置(1)を一旦大気圧にまで復圧させた後、重合反応装置(1)内のオリゴマー化された内容物を撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置(2)に移した。次いで、重合反応装置(2)内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて圧力200Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにした。得られたポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.352dL/g、ガラス転移温度は145℃、YIは26であり、色調の良好な樹脂が得られた。また、ポリカーボネート樹脂の共重合組成もほぼ仕込みどおりの組成であった。
【0206】
次に前述の方法にしたがってフィルム製膜を行ったところ、外観不良の少ないフィルムが得られた。製膜後のポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.345であり、顕著な分子量低下は起こっていなかった。また、Re450/Re550は0.878、Δnは0.0021、光弾性係数は28であり、すべての光学物性について目的の値が得られた。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表1に示す。
【0207】
[実施例1−2]
BHEPFとISB、PEG#1000、DPC、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/PEG#1000/DPC/酢酸マグネシウム4水和物=0.432/0.556/0.012/1.005/1.20×10−5となるように仕込んだ以外は実施例1−1と同様に行った。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表1に示す。
【0208】
還元粘度は0.389dL/g、ガラス転移温度は131℃であり、色調の良好な樹脂が得られた。実施例1よりもポリカーボネート樹脂の柔軟性が高くなっており、溶融加工性が優れていた。このようにポリエチレングリコールのようなポリジオールを少量用いることで、光学特性への影響がない範囲でガラス転移温度や溶融粘度を調整することが可能である。
【0209】
[実施例1−3]
BHEPFとISB、TCDDM、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/TCDDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.300/0.400/0.300/1.005/6.00×10−6となるように仕込んだ以外は実施例1−1と同様に行った。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表1に示す。
【0210】
色調の良好なポリカーボネート樹脂が得られ、溶融加工性も優れていたが、複屈折が若干小さい値となった。
【0211】
[実施例1−4]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.380/0.435/0.185/1.015/6.00×10−6となるように仕込んだ以外は実施例1−1と同様に行った。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表1に示す。色調や溶融加工性、および光学特性とも優れたポリカーボネート樹脂が得られた。
【0212】
[実施例1−5]
重合触媒として炭酸セシウムを用いた。BHEPFとISB、PEG#1000、DPC、および炭酸セシウムを、モル比率でBHEPF/ISB/PEG#1000/DPC/酢酸マグネシウム4水和物=0.445/0.552/0.003/1.005/1.20×10−5となるように仕込んだ以外は実施例1−1と同様に行った。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表1に示す。得られたポリカーボネート樹脂のYIが37であり、実施例1よりも色調は劣っていた。
【0213】
[比較例1−1]
BHEPFとISB、DPC、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DPC/酢酸マグネシウム4水和物=0.400/0.600/1.015/1.20×10−5となるように仕込んだ以外は実施例1−1と同様に行った。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表1に示す。還元粘度は0.358dL/g、ガラス転移温度は151℃であった。フィルム製膜を行ったところ、フィルムにシルバーが発生し、外観の良好なフィルムが得られなかった。
【0214】
[比較例1−2]
BHEPFとISB、CHDM、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.330/0.335/0.335/1.005/6.00×10−6となるように仕込んだ以外は実施例1−1と同様に行った。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表1に示す。Re450/Re550が0.953であり、波長分散性が不足していた。また、光弾性係数も30×10−12Pa−1であり、若干高い値となった。
【0215】
重合反応時の留出液中のジヒドロキシ化合物の留出量を測定すると、3.5wt%であり、実施例1−1よりもジヒドロキシ化合物の留出量が増加していた。ポリカーボネート樹脂の共重合組成の分析値も原料投入量とずれており、ポリカーボネート樹脂の組成を制御することは難しかった。
【0216】
[まとめ]
表1に示した結果から、適切なジヒドロキシ化合物の組み合わせにより、色調、溶融加工性、および光学特性のバランスに優れたポリカーボネート樹脂が得られることがわかる。
【0217】
【表1】

【0218】
[実施例2−1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置(1)に、BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸リチウムを、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸リチウム=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6となるように仕込んだ。BHEPFは全硫黄元素量として4.1ppm含有するものを使用した。
【0219】
DPCは蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたものを使用した。重合反応装置(1)内を十分に窒素置換した後(酸素濃度0.0005〜0.001vol%)、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに30分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応装置(1)に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0220】
重合反応装置(1)を一旦大気圧にまで復圧させた後、重合反応装置(1)内のオリゴマー化された内容物を撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置(2)に移した。次いで、重合反応装置(2)内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて圧力200Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにした。還元粘度は0.368dL/g、ガラス転移温度は148℃の樹脂が得られた。
【0221】
前述の方法にしたがって得られたポリカーボネート樹脂の分析を行ったところ、フルオレン系化合物に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量は162ppm、a/bは9.9であった。初期のYIは25.8、熱老化試験後のΔYIは4.5であり、優れた色調と耐熱性を有していた。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表2に示す。
【0222】
[実施例2−2]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸マグネシウム4水和物=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6となるように仕込んだ。他は実施例2−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表2に示す。フルオレン系化合物に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量は155ppm、a/bは9.6であり、実施例2−1と同様に優れた品質のポリカーボネート樹脂が得られた。
【0223】
[実施例2−3]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6となるように仕込んだ。他は実施例2−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表2に示す。フルオレン系化合物に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量は146ppm、a/bは9.0であり、実施例2−1と同様に優れた品質のポリカーボネート樹脂が得られた。
【0224】
[実施例2−4]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸バリウムを、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸バリウム=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6となるように仕込んだ。他は実施例2−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表2に示す。フルオレン系化合物に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量は172ppm、a/bは10.7であり、実施例2−1と同様に優れた品質のポリカーボネート樹脂が得られた。
【0225】
[実施例2−5]
BHEPFとISB、PEG#1000、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/PEG#1000/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.445/0.552/0.003/1.00/1.20×10−5になるように仕込んだ。他は実施例2−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表2に示す。フルオレン系化合物に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量は322ppm、a/bは11.7であり、優れた品質のポリカーボネート樹脂であった。
【0226】
[比較例2−1]
BHEPFとISB、DPC、および炭酸水素ナトリウムを、モル比率でBHEPF/ISB/DPC/炭酸水素ナトリウム=0.400/0.600/1.00/8.00×10−6となるように仕込んだ。他は実施例2−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表2に示す。フルオレン系化合物に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量は612ppm、a/bは24.1であり、樹脂の色調と耐熱性が劣っていた。
【0227】
[比較例2−2]
BHEPFとISB、CHDM、DPC、および炭酸水素ナトリウムを、モル比率でBHEPF/ISB/CHDM/DPC/炭酸水素ナトリウム=0.330/0.335/0.335/1.00/6.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例2−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性と評価結果を表2に示す。フルオレン系化合物に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量は490ppm、a/bは26.5であり、樹脂の色調と耐熱性が劣っていた。
【0228】
表2の結果から、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物からなるポリカーボネート樹脂では、反応条件、使用触媒、金属含有量などを制御することで、前記式(2)で表される化合物群の合計含有量が減少し、色調および耐熱性の良好なポリカーボネート樹脂が得られることが分かる。
【0229】
また、本発明のポリカーボネート樹脂から得られるフィルムは良好な波長分散性、および光弾性係数を有しており、1/4波長板として好適に用いることが可能である。
【0230】
本発明のポリカーボネート共重合体は、色相と透明性が良好で、光学歪みが小さいことから、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDやCMOS用レンズなどのレンズ用途、拡散シート、偏光フィルムなどの光学用途への使用に適している。さらには位相差が逆波長分散性を示すことから、特に液晶やプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルムの用途に好適に用いることができる。
【0231】
【表2】

【0232】
[実施例3−1]
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した重合反応装置(1)に、BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸リチウムを、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸リチウム=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6になるように仕込んだ。BHEPFは全硫黄元素量として4.1ppm含有するものを使用した。DPCは蒸留精製して塩化物イオン濃度を10ppb以下にしたものを使用した。
【0233】
重合反応装置(1)内を十分に窒素置換した後(酸素濃度0.0005〜0.001vol%)、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPa(絶対圧力、以下同様)にして、この圧力を保持するようにしながら、さらに30分間保持した。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を重合反応装置(1)に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0234】
重合反応装置(1)を一旦大気圧にまで復圧させた後、重合反応装置(1)内のオリゴマー化された内容物を撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した別の重合反応装置(2)に移した。次いで、重合反応装置(2)内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力200Paにした。その後、20分かけて圧力133Pa以下にして、所定撹拌動力になった時点で復圧し、内容物をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレットにした。
【0235】
得られたポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.368dL/g、ガラス転移温度は148℃であった。また、各ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位比を測定したところ、ほぼ仕込みどおりの組成の樹脂が得られていることがわかった。
【0236】
得られたポリカーボネート樹脂を前記の方法にしたがって、金属含有量、フェノール含有量、DPC含有量、ペレットのYI値を測定した。更に、熱老化試験後のYI値の測定からΔYI値を計算した。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表3に示す。
【0237】
[実施例3−2]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸マグネシウム4水和物=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表3に示す。
【0238】
[実施例3−3]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表3に示す。得られたポリカーボネート樹脂は更に前記11)に記載の熱プレス法で熱プレスフィルムとし、各種光学特性を測定した。結果を表5に示す。
【0239】
[実施例3−4]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸バリウムを、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸バリウム=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表3に示す。
【0240】
[実施例3−5]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.380/0.435/0.185/1.00/8.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。重合速度が非常に速かったため、重合反応装置(2)の反応では圧力が133Pa以下に到達する前に所定の攪拌動力に到達してしまった。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表3に示す。
【0241】
[実施例3−6]
BHEPFとISB、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.400/0.600/1.00/8.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表4に示す。得られたポリカーボネート樹脂は、更に前記11)に記載の熱プレス法で熱プレスフィルムとし、各種光学特性を測定した。結果を表5に示す。
【0242】
[実施例3−7]
BHEPFとISB、CHDM、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/CHDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.330/0.335/0.335/1.00/6.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表4に示す。得られたポリカーボネート樹脂は、前記11)に記載の熱プレス法で熱プレスフィルムとし、各種光学特性を測定した。結果を表5に示す。
【0243】
[実施例3−8]
BHEPFとISB、PEG#1000、DPC、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/CHDM/DPC/酢酸マグネシウム4水和物=0.445/0.552/0.003/1.015/1.20×10−5になるように仕込んだ。他は実施例3−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表4に示す。得られたポリカーボネート樹脂は、前記11)に記載の熱プレス法で熱プレスフィルムとし、各種光学特性を測定した。結果を表5に示す。
【0244】
[実施例3−9]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および炭酸水素ナトリウムを、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/炭酸水素ナトリウム=0.380/0.435/0.185/1.00/6.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例3−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表3に示す。
【0245】
[実施例3−10]
BHEPFとISB、DEG、DPC、および炭酸セシウムを、モル比率でBHEPF
/ISB/DEG/DPC/炭酸セシウム=0.380/0.435/0.185/1.00/3.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例3−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表3に示す。
【0246】
[実施例3−11]
BHEPFとISB、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DPC/炭酸水素ナトリウム=0.400/0.600/1.00/8.00×10−6になるように仕込んだ。他は実施例3−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表4に示す。
【0247】
[実施例3−12]
BHEPFは全硫黄元素量として10.1ppmのものを使用した。触媒量が実施例6と同量では十分に反応が進行しなかったため、BHEPFとISB、DPC、および酢酸カルシウム1水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.400/0.600/1.00/2.00×10−5になるように仕込んだ。他は実施例3−6と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表4に示す。
【0248】
[比較例3−5]
BHEPFとDPC、および炭酸水素ナトリウムを、モル比率でBHEPF/DPC/炭酸水素ナトリウム=1.00/1.00/3.00×10−5になるように仕込んだ。最終重合温度を260℃にした他は実施例3−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。得られたポリカーボネート樹脂の物性および評価の結果を表4に示す。得られたポリカーボネート樹脂は、前記11)に記載の熱プレス法で熱プレスフィルムとし、各種光学特性を測定した。結果を表5に示す。
【0249】
[比較例3−6]
ISBとDPC、および炭酸水素ナトリウムを、モル比率でISB/DPC/炭酸水素ナトリウム=1.00/1.00/1.50×10−6になるように仕込んだ。他は実施例3−1と同様に実施し、ポリカーボネート樹脂を得た。結果を表4に示す。得られたポリカーボネート樹脂は、前記11)に記載の熱プレス法で熱プレスフィルムとし、各種光学特性を測定した。結果を表5に示す。
【0250】
表3〜表5の結果から、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物からなる共重合ポリカーボネート樹脂では、使用する触媒の種類および量を調整し、かつ特定金属含有量が特定量以下とすることにより、Re450/Re550が過剰に大きくなることが無く、光学フィルムに好適に使用可能で、且つ色調および耐熱性の良好なポリカーボネート樹脂が得られることが分かる。また、表5の結果より、本発明のポリカーボネート樹脂は良好な逆波長分散性等を示しており、1/4波長板として用いることが可能である。
【0251】
本発明のポリカーボネート共重合体は、色相と透明性が良好で、光学歪みが小さいことから、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDやCMOS用レンズなどのレンズ用途、拡散シート、偏光フィルムなどの光学用途への使用に適している。さらには位相差が逆波長分散性を示すことから、特に液晶やプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルムの用途に好適に用いられる。
【0252】
【表3】

【0253】
【表4】

【0254】
【表5】

【0255】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更および変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0256】
本発明のポリカーボネート樹脂は、光学特性、色相、熱安定性に優れ、電気・電子部品、自動車用部品等の射出成形分野、フィルム、シート分野、ボトル、容器分野、さらには、カメラレンズ、ファインダーレンズ、CCDやCMOS用レンズなどのレンズ用途、液晶やプラズマディスプレイなどに利用される位相差フィルム、拡散シート、偏光フィルムなどのフィルム、シート、光ディスク、光学材料、光学部品、色素および電荷移動剤等を固定化するバインダー用途といった幅広い分野へ適用可能なポリカーボネート樹脂を提供することが可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が110℃以上150℃以下、濃度0.6g/dLの塩化メチレン溶液の20℃における還元粘度が0.30以上0.46以下のポリカーボネート樹脂であって、当該樹脂を成形してなるフィルムの波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)との比(Re450/Re550)が、0.50以上0.93以下である、ポリカーボネート樹脂。
【請求項2】
前記ポリカーボネート樹脂を成形してなるフィルムの波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)との比(Re450/Re550)が、0.50以上0.90以下である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項3】
測定温度240℃、剪断速度91.2sec−1における溶融粘度が、1500Pa・s以上3500Pa・s以下である、請求項1または請求項2に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項4】
光弾性係数が、40×10−12Pa−1以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項5】
前記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度より15℃高い温度条件下で、固定端2.0倍延伸したときの複屈折が、0.001以上である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【化1】

[式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、それぞれのベンゼン環に4つある置換基のそれぞれとして、同一の又は異なる基が配されている。Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。]
【請求項7】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂であって、該ジヒドロキシ化合物に対する、下記式(2)で表される化合物群の合計含有量が400ppm以下である、請求項6に記載のポリカーボネート樹脂。
【化2】

[式(2)において、R〜R、X、m、およびnは、式(1)におけるものと同様の群を表し、Aは、炭素数1〜炭素数18の置換基を有していてもよい脂肪族基、または炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基を表す。]
【請求項8】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外に、構造の一部に下記式(4)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【化3】

[式(3)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。]
【請求項9】
前記式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、環状構造を有し、かつエーテル構造を有する化合物である請求項8に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項10】
構造の一部に前記式(3)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物が、下記式(4)で表されるジヒドロキシ化合物である、請求項8または請求項9に記載のポリカーボネート樹脂。
【化4】

【請求項11】
前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(5)で表される炭酸ジエステルを80重量ppm以下含有する、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【化5】

[式(5)において、AおよびAは、それぞれ独立に、炭素数1以上炭素数18以下の置換基を有していてもよい脂肪族基、または炭素数6以上炭素数18以下の置換基を有していてもよい芳香族基であり、AとAは同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項12】
前記ポリカーボネート樹脂が、芳香族モノヒドロキシ化合物を700重量ppm以下含有する、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項13】
前記ポリカーボネート樹脂中の、ナトリウム、カリウムおよびセシウムの合計含有量が、前記ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1mol当たり、1μmol以下である、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項14】
前記ポリカーボネート樹脂中の、前記ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1mol当たりの全硫黄元素含有量をA[μmol]、長周期型周期表における第1族金属元素および第2族金属元素の合計含有量をB[μmol]とした場合に、Aに対するBの比率(B/A)が2以下である、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項15】
前記ポリカーボネート樹脂中の、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する前記式(2)で表される化合物群の合計含有量をa[ppm]、前記ポリカーボネート中の、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1molに対するポリカーボネート中に含まれる長周期型周期表第1族金属および第2族金属の合計量をb[μmol]とした場合に、bに対するaの比率(a/b)が20以下である、請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項16】
前記ポリカーボネート樹脂中の前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1molに対して、長周期型周期表第2族金属およびリチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属化合物を0.5μmol以上50μmol以下含有する、請求項1から請求項15のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項17】
前記ポリカーボネート樹脂が、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物、オキシアルキレングリコールおよび環状アセタール構造を有するジオールからなる群より選ばれた少なくとも1種の化合物に由来する構成単位を、さらに含むことを特徴とする請求項1から請求項16のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項18】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物を含むジヒドロキシ化合物と、前記式(6)で表される炭酸ジエステルとを、溶融重縮合してなる請求項1から請求項17に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項19】
前記ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の、由来となるすべてのジヒドロキシ化合物が、5kPaにおける沸点が200℃以上のジヒドロキシ化合物である、請求項1から請求項18のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂。
【請求項20】
下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と、構造の一部に下記式(4)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物とを含むジヒドロキシ化合物混合体と、下記式(6)で表される炭酸ジエステルとを、触媒の存在下、重縮合することにより得られるポリカーボネート樹脂であって、該触媒が長周期型周期表における2族金属およびリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物であり、該ポリカーボネート樹脂中の長周期型周期表における第1族金属元素および第2族金属元素の合計含有量が、該ポリカーボネート樹脂を構成するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位1mol当たり、20μmol以下である、ことを特徴とするポリカーボネート樹脂。
【化6】

[式(1)において、R〜Rはそれぞれ独立に、水素原子、置換若しくは無置換の炭素数1〜炭素数20のアルキル基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキル基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリール基を表し、それぞれのベンゼン環に4つある置換基のそれぞれとして、同一の又は異なる基が配されている。Xは置換若しくは無置換の炭素数2〜炭素数10のアルキレン基、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のシクロアルキレン基、または、置換若しくは無置換の炭素数6〜炭素数20のアリーレン基を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0〜5の整数である。]
【化7】

[式(3)で表される部位が−CH−OHの一部を構成する部位である場合を除く。]
【化8】

[式(5)において、AおよびAは、それぞれ独立に、炭素数1〜炭素数18の置換基を有していてもよい脂肪族基、または炭素数6〜炭素数18の置換基を有していてもよい芳香族基であり、AとAは同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項21】
請求項1から請求項20のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂を製膜してなる、フィルム。
【請求項22】
前記フィルムが、少なくとも一方向に延伸されてなるものである、請求項21に記載のフィルム。
【請求項23】
波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)の比(Re450/Re550)が、0.5以上0.93以下である、請求項21または請求項22に記載のフィルム。
【請求項24】
波長450nmで測定した位相差(Re450)と波長550nmで測定した位相差(Re550)の比(Re450/Re550)が、0.5以上0.90以下である、請求項21または請求項22に記載のフィルム。
【請求項25】
光弾性係数が40×10−12Pa−1以下である、請求項21から請求項24のいずれか1項に記載のフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2012−7160(P2012−7160A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118991(P2011−118991)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】