説明

ポリカーボネート樹脂積層体、表示体用保護板およびタッチパネルの下部電極用の支持基板

【課題】 本発明の目的とするところは、優れた表面硬度と耐衝撃性を有するポリカーボネート樹脂積層体を提供することである。
【解決手段】 ポリカーボネート樹脂層の一方および/または両方の面に、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を積層したポリカーボネート樹脂積層体であって、前記ポリカーボネート樹脂層が、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂層(A)と式(1)の構造を含むポリカーボネート樹脂層(B)から構成されており、前記ポリカーボネート樹脂層(B)の厚みが110μm以上500μm以下、かつ前記ポリカーボネート樹脂積層体全体の厚みの40%以下で、前記ポリカーボネート樹脂積層体のマルテンス硬度が200MPa以上320MPa以下であることを特徴とするポリカーボネート樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂積層体、表示体用保護板およびタッチパネルの下部電極用の支持基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性に優れ、耐熱性、耐衝撃性が高いことから、ガラスの代用として、自動車や建材の窓部やディスプレイ部などに利用されている。しかし、ポリカーボネート樹脂は硬度が低く、傷付きやすいという欠点があり、その用途は制限されている。
この欠点を改良するために、紫外線硬化樹脂などで表面をコーティングする方法や特定の構造をもつポリカーボネートを表層に形成する方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。また、アクリル樹脂とポリカーボネート樹脂を共押出した基材にハードコートを施す方法(例えば、特許文献2参照。)、
しかし、紫外線硬化樹脂でのハードコーティングでは、ポリカーボネート樹脂由来の柔軟性から、ディスプレイ用途などで要求される硬度の要求を満たすことができず、硬度の要求される用途には使用できなかった。また、特許文献1に記載の方法においても、硬度が十分とは言えず、硬度の要求される用途には使用できなかった。
特許文献2に記載の方法では、異なる材料の2層構成となり吸湿時に反りが発生するため、環境変化の起こる用途では不具合が発生し、使用できなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−188719号公報
【特許文献2】特開2006−103169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的とするところは、硬度と耐衝撃性を有するポリカーボネート樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような目的は、下記の[1]〜[8]に記載の本発明により達成される。
[1] ポリカーボネート樹脂層の一方および/または両方の面に、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を積層したポリカーボネート樹脂積層体であって、
前記ポリカーボネート樹脂層が、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂層(A)と下記式(1)の構造を含むポリカーボネート樹脂層(B)から構成されており、前記ポリカーボネート樹脂層(B)の厚みが110μm以上500μm以下、かつ前記ポリカーボネート樹脂積層体全体の厚みの40%以下で、前記ポリカーボネート樹脂積層体のマルテンス硬度が200MPa以上320MPa以下であるポリカーボネート樹脂積層体。
【0006】
【化1】


(式中、Xは、炭素数1〜18のアルキル基、芳香族基、および環状脂肪族基から選ばれるものであり、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基であり、m、nはそれぞれ0〜4である。)
【0007】
[2] 前記紫外線硬化樹脂からなるハードコート層が、6官能以上のアクリレートモノマーおよびアクリレートオリゴマーを少なくとも1種以上含み、紫外線硬化樹脂100重量部に対して、その含有量が50重量部以上70重量部以下である[1]に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
[3] 前記紫外線硬化樹脂からなるハードコート層が、単官能アクリレートおよび二官能アクリレートを少なくとも1種以上含み、紫外線硬化樹脂100重量部に対して、その含有量が30重量部以下である[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
[4] 前記ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂層(A)とポリカーボネート樹脂層(B)の厚みが、0.4mm以上2mm以下である[1]〜[3]のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
[5] 前記紫外線硬化樹脂からなるハードコート層の厚さが、3μm以上10μm以下である[1]〜[4]のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
[6] 前記ポリカーボネート樹脂積層体の(A)層の(B)層が積層されていない面にさらに(B)層を設けた、[1]〜[5]のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
[7] [1]〜[6]のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体を用いて作製した表示体用保護板。
[8] [1]〜[6]のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体を用いて作製したタッチパネルの下部電極用の支持基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硬度の異なるポリカーボネート樹脂積層体に紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を積層することで、十分な硬度と耐衝撃性を有するポリカーボネート樹脂積層体を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ポリカーボネート樹脂層の一方および/または両方の面に、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を積層したポリカーボネート樹脂積層体であって、前記ポリカーボネート樹脂層が、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂層(A)と下記式(1)の構造を含むポリカーボネート樹脂層(B)から構成されており、前記ポリカーボネート樹脂層(B)の厚みが110μm以上500μm以下、かつ前記ポリカーボネート樹脂積層体全体の厚みの40%以下で、前記ポリカーボネート樹脂積層体のマルテンス硬度を200MPa以上320MPa以下とすることで、携帯用表示体に最適な硬度と耐衝撃性を有するポリカーボネート樹脂積層体を作製することができる。
【0010】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂層(A)は、ポリカーボネート樹脂(A)を溶融、固化させた樹脂層である。
ポリカーボネート樹脂(A)は、ビスフェノールAと、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートとがカーボネート結合されている芳香族系ポリカーボネート樹脂であり、一般に、界面重縮合や、エステル交換反応などで合成される。その作製法は特には限定されないが、ポリカーボネート樹脂(A)としては、例えば三菱エンジニアリングプラスチック株式会社からユーピロンなどとして市販されている。
【0011】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂層(B)は、ポリカーボネート樹脂(B)を溶融固化させた樹脂層である。
ポリカーボネート樹脂(B)は、以下に示すビスフェノールを原料に、ホスゲンやジフェニルカーボネートと界面重縮合やエステル交換反応などで合成されたポリカーボネートのホモポリマーまたはビスフェノールA型ポリカーボネートとの共重合体、およびそれらの混合物であり、その作製法は特には限定されない。
ビスフェノールとしては、例えば4,4’−(ペンタン−2,2−ジイル)ジフェノール、4,4’−(ペンタン−3,3−ジイル)ジフェノール、4,4’−(ブタン−2,2−ジイル)ジフェノール、1,1’−(シクロヘキサンジイル)ジフェノール、2−シクロヘキシル−1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、2,3−ビスシクロ
ヘキシル−1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキサン、2,2’−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンなど下記式(2)に示すビスフェノールを指し、変性されたビスフェノールであり、特に上記に限定されない。
【0012】
【化2】


(式中、Xは、炭素数1〜18のアルキル基、芳香族基、および環状脂肪族基から選ばれるものであり、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基であり、m、nはそれぞれ0〜4である。)
ポリカーボネート樹脂(B)としては、例えば、SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社からレキサンDMXなどとして市販されている。
【0013】
ポリカーボネート樹脂層(A)とポリカーボネート樹脂層(B)とを積層する方法としては、それぞれを単独で押出し、プレスしてもよく、また、マルチマニホールド法フィードブロック法などの公知の共押出法を用いてもよい。前記ポリカーボネート樹脂層(B)の厚さが、110μm以上500μm以下であることが好ましい。110μm未満では硬度が十分とは言えず、500μmを超えると耐衝撃性が低下する。
また、ポリカーボネート樹脂層(A)とポリカーボネート樹脂層(B)は、硬度の異なるポリカーボネート樹脂層である。
【0014】
上記の方法により作製されたポリカーボネート樹脂基板に、さらに積層される紫外線硬化樹脂からなるハードコート層は、6官能以上のアクリレートモノマーおよびまたはオリゴマーと単官能アクリレートおよびまたは二官能アクリレートを含む化合物に硬化触媒として光重合開始剤が加えられた樹脂組成物を硬化させたものである。上記化合物は、単独または複数用いてもよい。
前記ポリカーボネート樹脂積層体のマルテンス硬度は、200MPa以上320MPa以下が望ましい。200MPa未満では十分な硬度を得ることができず、320MPaを
超えるとハードコート層の硬度が高く、耐衝撃性の低下が起こる。
このようなハードコート層に用いる樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂積層体のマルテンス硬度が、200MPa以上320MPa以下であれば、紫外線硬化型ハードコート剤として市販されているものを使用してもよく、またこれらのハードコート層に用いる樹脂組成物に、必要に応じて、有機溶剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの各種安定剤や表面調整剤、増粘剤、帯電防止剤などを適宜添加してもよい。
ここで、マルテンス硬度とは、エリオニクス製超微小硬度計ENT−1100にて測定した値であり、ポリカーボネート樹脂積層体のハードコート層にビッカース圧子を押し当てた時の値である。
【0015】
上記、6官能以上のアクリレートモノマーおよびアクリレートオリゴマーとしては、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートや下記式(3)に示す化合物、例えばトリペンタエリスリトールオクタアクリレート、トリペンタエリスリトールデシルアクリレート、トリペンタエリスリトールドデシルアクリレートなどを含む化合物を用いることができる。

CCH(OCHCRCHOCOCH=CH (3)

(式中、nは2〜4の整数を示す。R:−CHOCOCH=CH
前記ハードコート層は、6官能以上のアクリレートモノマーおよびアクリレートオリゴマーを少なくとも1種以上含み、紫外線硬化樹脂100重量部に対して、その含有量が50重量部以上70重量部以下であることが好ましい。このような範囲とすることで、硬度と耐衝撃性に優れるものとなる。
【0016】
上記、単官能アクリレートおよび二官能アクリレートとしては、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、3−ヒドロキシブチルアクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、イソボロニルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化水添ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ化シクロヘサンジメタノールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレートなどが挙げられる。
前記紫外線硬化樹脂からなるハードコート層が、単官能アクリレートおよび二官能アクリレートを少なくとも1種以上含み、紫外線硬化樹脂100重量部に対して、その含有量が、40重量以下が好ましく、さらに好ましくは30重量部以下である。このような範囲とすることで、紫外線硬化樹脂組成物の塗布性と基材への密着性の優れるものとなる。
【0017】
上記光重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始させるために樹脂組成物に添加されるものである。
例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインまたはベンゾインアルキルエーテル類、ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸などの芳香族ケトン類、ベンジルなどのアルファージカルボニル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、アセトフェノン、1−(4−ドデシルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチル-プロパン−1−オン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ
プロパノン−1などのアセトフェノン類、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−t−ブチルアントラキノンなどのアントラキノン類、2,4−ジメチルチ
オキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジイソプロピルチオキサント
ンなどのチオキサントン類、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどのフォスフィンオキサイド類、1−フェニル−1,2−プロパンジオ
ン−2−[o−エトキシカルボニル]オキシムなどのアルファーアシルオキシム類、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルなどのアミン類などを使用することができる。
光重合開始剤は、表面硬化性に優れるものと内部硬化性に優れるもの、2種以上を併用することが好ましい。
【0018】
上記希釈溶剤は、樹脂組成物を透明樹脂基板に塗工しやすくするために必要に応じて樹脂組成物に添加されるものである。
このような希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシプロピルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤、メトキシプロパノール、エトキシプロパノール、メトキシブタノールなどのグリコール系溶剤を単独または混合して使用できる。
【0019】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系やヒドロキシフェニルトリアジン系の化合物などが挙げられる。その含有量は、樹脂組成物100重量部に対して10重量部以下、好ましくは2重量部以上、4重量部以下である。
【0020】
上記光安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物などが挙げられる。その含有量は、樹脂組成物100重量部に対して2重量部以下、好ましくは1重量部以下である。
【0021】
上記表面調整剤は、塗膜の基材に対する濡れ性や均一性、塗膜表面の平滑性や滑り性などを付与するものであり、シリコーン系やアクリル共重合物系のものが代表的であるが、特にシリコーン系のものが好ましい。このシリコーン系表面調整剤としては、ポリジメチルシロキサンや、ポリジメチルシロキサンを変性した変性シリコーンなどが挙げられる。
上記変性シリコーンとしては、例えば、ポリエーテル変性体、アルキル変性体、ポリエステル変性体などが挙げられ、これらの中でもポリエーテル変性体が最も好適である。
【0022】
上記増粘剤としては、塗料を塗工に最適な粘度に調整するために、加えられるものであり、セルロース系や合成クレイ系、などが代表的である。増粘効果から、セルロール系が好ましく、セルロースアセテートやニトロセルロースなどが挙げられる。これらの中でもセルロースアセテートが最も好適である。
【0023】
上記帯電防止剤としては、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層に適度な導電性を与え、例えば埃の付着防止などの効果を得るために加えられるもので、界面活性剤、金属酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。
帯電防止効果から、金属酸化物、導電性ポリマーが好ましい。金属酸化物としては、酸化亜鉛や酸化スズ、導電性ポリマーとしてポリエチレンジオキシチオフェンやポリアニリンなどが挙げられる。
【0024】
紫外線硬化樹脂からなるハードコート層をポリカーボネート樹脂基板に積層する方法は、ロールコート、フローコート、バーコートなどの公知の方法を用いることができる。ポリカーボネート樹脂積層体の厚みや、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層の厚みなどに応じて適当なものを選択すればよい。
【0025】
以上のようにして得られたポリカーボネート樹脂積層体は、ポリカーボネート樹脂由来の耐熱性と耐衝撃性を損なうことなく、従来の欠点であった傷付き易さが改善されている
ため、携帯電話、PDA(パーソナルデジタルアシスタント)、携帯型ゲーム機、携帯型DVD(デジタルビデオディスク)プレイヤーなどの表示体用保護板として、また、タッチパネルの下部電極用の支持基板として最適な材料である。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
[実施例1]
マルチマニホールドダイに、押出機(A)と、押出機(B)を接続し、押出機(A)より、ポリカーボネート樹脂(A)(三菱エンジニアリングプラスチック製、ユーピロンE−2000)を押出、押出機(B)より、ポリカーボネート樹脂(B)(SABICイノベーティブプラスチックスジャパン合同会社製、レキサンDMX2415)を押出することで、ポリカーボネート樹脂基板を得た。ポリカーボネート樹脂(A)層の厚みは、340μm、ポリカーボネート樹脂(B)層の厚みは、160μmであった。
【0027】
上記により得られたポリカーボネート樹脂基板に積層する紫外線硬化樹脂からなるハードコート層として、アクリル樹脂として、前記式(3)で示される化合物を70重量部、2官能ウレタンアクリレート(商品名:EB8402、ダイセルサイテック社製)20重量部、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート10重量部を配合し、この紫外線硬化樹脂層の濃度が30重量%となるようプロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈した。
ここへ、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを5重量部、表面調整剤(商品名:グラノール450、共栄社化学社製)を紫外線硬化樹脂に対して重量比で0.05重量部添加し、ハードコート層に用いる樹脂組成物を作製した。作製した樹脂組成物は充分に撹拌した後、密閉容器に保存した。
【0028】
上記ポリカーボネート樹脂基板上に、金属製のバーコーターを用いて、ウェット膜厚が20μmになるように上記樹脂組成物を両面に塗布した。
塗布した樹脂組成物を60℃の熱風循環型オーブンに入れ、10分間乾燥した後、FUSIONシステムズ製無電極UVランプ(Hバルブ)を用い、照射距離50mm、コンベア搬送速度3m/minの条件で紫外線を照射して塗膜を硬化させ、ドライ膜厚6μmのハードコート層を有するポリカーボネート樹脂積層体を得た。
【0029】
上記作製したポリカーボネート樹脂積層体を、以下の方法により評価した。
[層厚測定]
上記作製したポリカーボネート樹脂基板のポリカーボネート樹脂層(B)面を上面に平置きし、剃刀で裁断した。裁断した面をキーエンス製レーザー顕微鏡VK−9700にて観察し、ポリカーボネート樹脂層の層厚を測定した。
[マルテンス硬度測定]
上記作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて、エリオニクス製超微小硬度計ENT−1100にて下記条件で測定した。
圧子:ビッカース圧子
荷重:1mN
荷重時間:10秒
保持時間:10秒
[鉛筆硬度測定]
上記作製したポリカーボネート樹脂基板、およびポリカーボネート樹脂積層体を用いて、JIS−K5400に記載の鉛筆法による引っかき硬度を測定した。ポリカーボネート樹脂積層体の評価はポリカーボネート樹脂層(B)側を評価し、以下の基準により判定した。
○:表面硬度が優れている(鉛筆硬度3H以上)
×:表面硬度が不十分(鉛筆硬度3H未満)
【0030】
[耐環境性]
上記作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて、40℃95%の恒温恒湿槽で24時間処理した前後の反り変化量を測定した。
試験片として200mm×200mmのサイズに切断し、下に凸になるよう、平板上に試験片を置き、平板からの浮き分を各角の4点を鋼尺によって測定し、処理前に対する処理後の変化量として表し、各試験片の4点の最大値をそのサンプルの反り変化量とした。評価は以下の基準により判定した。
○:耐環境性が非常に優れている(湿熱処理後の反り変化量が0.5mm未満)
×:耐環境性が実用上不十分(湿熱処理後の反り変化量が0.5mm以上)
[耐衝撃性]
上記作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて、落球衝撃試験により耐衝撃性を測定した。
試験片として50mm×80mmのサイズに切断し、試験片の4辺に幅5mmに裁断した両面テープを貼りつけ、40mm×70mmのサイズに穴開け加工された鉄板の穴部に試験片を貼り付けた。所定の高さより、重さ60gの鉄球を試験片の中央に落下させ、目視にて、割れが発生を観察した。評価は以下の基準により判定した。
○:耐衝撃性が非常に優れている(割れが発生しない)。
×:耐衝撃性が実用上不十分(割れが発生する)。
【0031】
[実施例2]
実施例1と同様の方法で、押出機(A)、押出機(B)のスクリュー回転数を変更することで、ポリカーボネート樹脂(A)層の厚みを680μm、ポリカーボネート樹脂(B)層の厚みを320μmにしたポリカーボネート樹脂基板を得た。
得られたポリカーボネート樹脂基板に実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を両面に積層しポリカーボネート樹脂積層体を作製した。作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて実施例1と同様に評価した。
[実施例3]
実施例1と同様の方法で、押出機(A)、押出機(B)のスクリュー回転数を変更することで、ポリカーボネート樹脂(A)層の厚みを720μm、ポリカーボネート樹脂(B)層の厚みを480μmにしたポリカーボネート樹脂基板を得た。
得られたポリカーボネート樹脂基板に実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を両面に積層しポリカーボネート樹脂積層体を作製した。作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて実施例1と同様に評価した。
【0032】
[実施例4]
実施例1と同様の方法で、押出機(A)、押出機(B)のスクリュー回転数を変更することで、ポリカーボネート樹脂(A)層の厚みを1440μm、ポリカーボネート樹脂(B)層の厚みを160μmにしたポリカーボネート樹脂基板を得た。
得られたポリカーボネート樹脂基板に実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を両面に積層しポリカーボネート樹脂積層体を作製した。作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて実施例1と同様に評価した。
[実施例5]
実施例1と同様の方法で、押出機(A)、押出機(B)のスクリュー回転数を変更することで、ポリカーボネート樹脂(A)層の厚みを1800μm、ポリカーボネート樹脂(B)層の厚みを200μmにしたポリカーボネート樹脂基板を得た。
得られたポリカーボネート樹脂基板に実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を両面に積層しポリカーボネート樹脂積層体を作製した。作製したポリカ
ーボネート樹脂積層体を用いて実施例1と同様に評価した。
【0033】
[比較例1]
Tダイに、押出機(A)を接続し、押出機(A)より、ポリカーボネート樹脂(A)(三菱エンジニアリングプラスチック製、ユーピロンE−2000)を押出し、ポリカーボネート樹脂基板を得た。(A)層をポリカーボネート樹脂(A)とし、単一層であるため(B)層は、なしとした。
得られたポリカーボネート樹脂基板を用いて実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を両面に積層しポリカーボネート樹脂積層体を作製した。作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて実施例1と同様に評価した。
[比較例2]
実施例1と同様の方法で、押出機(A)、押出機(B)のスクリュー回転数を変更することで、ポリカーボネート樹脂(A)層の厚みを720μm、ポリカーボネート樹脂(B)層の厚みを80μmにしたポリカーボネート樹脂基板を得た。
得られたポリカーボネート樹脂基板に実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を両面に積層しポリカーボネート樹脂積層体を作製した。作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて実施例1と同様に評価した。
[比較例3]
実施例1と同様の方法で、押出機(A)、押出機(B)のスクリュー回転数を変更することで、ポリカーボネート樹脂(A)層の厚みを720μm、ポリカーボネート樹脂(B)層の厚みを80μmにしたポリカーボネート樹脂基板を得た。
得られたポリカーボネート樹脂基板に実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を両面に積層しポリカーボネート樹脂積層体を作製した。作製したポリカーボネート樹脂積層体を用いて実施例1と同様に評価した。
【0034】
[比較例4]
マルチマニホールドダイに、押出機(A)と、押出機(B)を接続し、押出機(A)より、ポリカーボネート樹脂(A)(三菱エンジニアリングプラスチック製、ユーピロンE−2000)を押出、押出機(B)より、アクリル樹脂(クラレ(株)製、商品名:パラペットHR−1000L)を押出することで、アクリル樹脂/ポリカーボネート樹脂基板を得た。(A)層をポリカーボネート樹脂(A)、(B)層をアクリル樹脂とした。
得られたアクリル樹脂/ポリカーボネート樹脂基板を用いて実施例1と同様の方法で、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を両面に積層しアクリル樹脂/ポリカーボネート樹脂積層体を作製した。作製したアクリル樹脂/ポリカーボネート樹脂積層体を用いて、実施例1と同様に評価した。
[比較例5]
実施例2で得られたポリカーボネート樹脂積層体に積層する紫外線硬化樹脂からなるハードコート層として、以下の紫外線硬化性樹脂組成物を用いた。アクリル樹脂として、前記式(3)で示される化合物を90重量部、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート10重量部を配合し、この紫外線硬化樹脂層の濃度が30重量%となるようプロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈した。ここへ、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを5重量部、表面調整剤(商品名:グラノール450、共栄社化学社製)を紫外線硬化樹脂に対して重量比で0.05重量部添加したものを実施例1と同様にポリカーボネート樹脂基板の両面に塗布した。得られたポリカーボネート樹脂積層体を実施例1と同様に評価した。
[比較例6]
実施例2で得られたポリカーボネート樹脂積層体に積層する紫外線硬化樹脂からなるハードコート層として、以下の紫外線硬化性樹脂組成物を用いた。アクリル樹脂として、前記式(3)で示される化合物を20重量部、2官能ウレタンアクリレート(商品名:EB8402、ダイセルサイテック社製)70重量部、エトキシ化ビスフェノールAジアクリ
レート10重量部を配合し、この紫外線硬化樹脂層の濃度が30重量%となるようプロピレングリコールモノメチルエーテルで希釈した。ここへ、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを5重量部、表面調整剤(商品名:グラノール450、共栄社化学社製)を紫外線硬化樹脂に対して重量比で0.05重量部添加したものを実施例1と同様にポリカーボネート樹脂基板の両面に塗布した。得られたポリカーボネート樹脂積層体を実施例1と同様に評価した。
【0035】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂層の一方および/または両方の面に、紫外線硬化樹脂からなるハードコート層を積層したポリカーボネート樹脂積層体であって、
前記ポリカーボネート樹脂層が、ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂層(A)と下記式(1)の構造を含むポリカーボネート樹脂層(B)から構成されており、前記ポリカーボネート樹脂層(B)の厚みが110μm以上500μm以下、かつ前記ポリカーボネート樹脂積層体全体の厚みの40%以下で、前記ポリカーボネート樹脂積層体のマルテンス硬度が200MPa以上320MPa以下であるポリカーボネート樹脂積層体。
【化1】


(式中、Xは、炭素数1〜18のアルキル基、芳香族基、および環状脂肪族基から選ばれるものであり、R、Rは、炭素数1〜12のアルキル基であり、m、nはそれぞれ0〜4である。)
【請求項2】
前記紫外線硬化樹脂からなるハードコート層が、6官能以上のアクリレートモノマーおよびアクリレートオリゴマーを少なくとも1種以上含み、紫外線硬化樹脂100重量部に対して、その含有量が50重量部以上70重量部以下である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項3】
前記紫外線硬化樹脂からなるハードコート層が、単官能アクリレートおよび二官能アクリレートを少なくとも1種以上含み、紫外線硬化樹脂100重量部に対して、その含有量が30重量部以下である請求項1または2に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂積層体のポリカーボネート樹脂層(A)とポリカーボネート樹脂層(B)の厚みが、0.4mm以上2mm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項5】
前記紫外線硬化樹脂からなるハードコート層の厚さが、3μm以上10μm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項6】
前記ポリカーボネート樹脂積層体の(A)層の(B)層が積層されていない面にさらに(B)層を設けた、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体を用いて作製した表示体用保護板。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂積層体を用いて作製したタッチパネルの下部電極用の支持基板。


【公開番号】特開2012−250367(P2012−250367A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122574(P2011−122574)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】