説明

ポリカーボネート樹脂組成物および光学部品

【課題】 機械的強度、透明性に優れ、高屈折率かつ低分散性を有するポリカーボネート樹脂組成物および当該ポリカーボネート樹脂組成物より成形してなる光学部品を提供する。
【解決手段】 末端OH濃度が5000ppm以上のポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、希土類金属から成る中心金属に酸素原子を介してカウンター金属が結合している金属クラスター(B)を0.1〜200重量部の割合で含有して成ることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物、および、当該ポリカーボネート樹脂組成物を成形して成る光学部品。本発明の好ましい態様においては、中心金属がイットリウム及びランタノイド元素から成る群より選択される少なくとも1種であり、カウンター金属が、4族元素、5族元素および13族元素から成る群より選択される少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物および光学部品に関し、詳しくは、透明性に優れ、高屈折率かつ低分散性ポリカーボネート樹脂組成物および当該樹脂組成物を成形して成る光学部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れた熱可塑性樹脂として幅広い用途がある。また、ポリカーボネート樹脂は、無機ガラスに比較して軽量で生産性にも優れているため、各種光学材料として好適に使用されている。しかしながら、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される代表的なポリカーボネート樹脂は、屈折率分散性が高い(アッベ数が低い)ため、高屈折率かつ低分散性を要求される用途への適用には制限がある。
【0003】
レンズ、プリズム、位相素子などの光学材料には、高屈折率であること及び低分散(低屈折率分散)であることが重要な物性として要求される。例えば、レンズの場合、高屈折率であることは、レンズをコンパクト化できるだけでなく、球面の収差を小さくする観点において利点がある。また、低分散であることは、色収差を小さくする観点において利点がある。
【0004】
従来、このような光学材料として、ガラスに希土類金属をドープしたものが知られている。例えば、ネオジム(Nd)の酸化物をドープしたレンズ、ホルミウム(Ho)、プラセオジム(Pr)、ジスプロシウム(Dy)等をドープした光フィルタ等が知られている。
【0005】
しかしながら、希土類金属は有機媒体中に溶解・分散され難い。そこで、希土類金属以外の元素または化合物の添加によって有機媒体の屈折率を高めることが提案されている(特許文献1〜3)。しかしながら、斯かる方法では屈折率分散が増大するという欠点がある。
【0006】
一方、有機媒体中に希土類金属を溶解・分散させる方法として、(a)ピリジン類、フェナントロリン類、キノリン類、β−ジケトン等の有機配位子と希土類金属との錯体を有機媒体中に分散させる方法、(b)希土類金属を有機包摂化合物中に取り込んだ後に有機媒体に分散させる方法、(c)希土類金属の重合性モノマーを重合させる方法が提案されている。
【0007】
そして、上記(c)の具体的な方法としては、希土類金属の(メタ)アクリル酸塩、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとフタル酸、これらと共重合可能な重合性モノマーを混合した後に重合させる方法が提案されている(特許文献4)。しかしながら、斯かる方法は、高分子材料がアクリル樹脂やスチレン樹脂などに限定され、その結果、耐熱性に劣る欠点があり、更なる改善の余地があった。
【0008】
有機媒体に希土類金属を添加する手法としては、希土類を含有するベーマイトゾルを調製後、当該ベーマイトゾルを有機樹脂と混合する方法が知られている(特許文献5)。この方法では、希土類酸化物が有機樹脂に分散した複合材料が得られる。
【0009】
しかしこの方法には、次の様な欠点がある。即ち、希土類を含有するベーマイトゾルを有機樹脂に均一に分散するのは困難であり、粒径が小さいほど凝集が避けられない。そのため、分散剤などの補助成分を多量に添加する必要が生じる。
【0010】
一般的に、粒径が小さいほど均一分散に係る補助成分の量が増え、有機媒体や希土類酸化物の含有量と同等になり、結果的に光学性能や耐候性などを悪化させてしまう。また、高い透明性を有する光学材料を得るためには、分散させるベーマイトゾルの粒径は小さいほど望ましいが、小さいゾルは合成するのが困難である。
【0011】
金属クラスターを分散させた材料としては、有機溶媒中に金属クラスターを分散した光学材料が提案されている(特許文献6)。しかしここで記載されている有機溶媒は一般的な物質、具体的には例えばプロピレングリコールα−モノメチルエーテル等に止まり、光学材料としての透明性改良については具体的な示唆すらなかった。
【0012】
一方、高屈折率光学材料の分野では、屈折率分散の異なる2種以上の光学材料を組み合わせて色消し(アクロマート又はアポクロマート)材料を作製することが知られている。斯かる技術は、光学材料の色収差を小さくする観点で重要であり、特に、望遠鏡、顕微鏡、照明光学系用、投影光学系用、光ディスク記録用などの高精細レンズに適用されている(特許文献7〜12)。
【0013】
上記の色消し材料としては、従来、光学ガラスに代表される無機媒体が一般的であり、屈折率分散が異なる2種以上の光学ガラスを組み合わせることにより作製されている。他方、軽量化、経済性、安全性の観点からは、有機媒体(例えば高分子材料)が望ましいが、無機媒体から成る透明材料と比べて、屈折率分布が多様ではないために、現状では有媒媒体を使用した色消し材料は実質的に開発されていない。
【0014】
上記の通り、有機媒体を使用した色消し材料の開発が望まれてはいるが、仮に2種以上の有機媒体を組み合わせて色消し材料を作製できたとしても、有機媒体の違いにより熱膨張率、機械的強度、吸水率等の諸物性が異なるため、組合せ構造体が実使用環境下で歪む等の問題が生じることが十分に考えられる。そのため、同一有機媒体において屈折率分散を任意に制御し、色消しがなされる材料の開発が切望されていた。
【0015】
【特許文献1】特開昭60−63214号公報
【特許文献2】特開昭60−124606号公報
【特許文献3】特開昭60−235801号公報
【特許文献4】特開2004−226913号公報
【特許文献5】特開2005−76002号公報
【特許文献6】特開2007−178921号公報
【特許文献7】特開平05−224299号公報
【特許文献8】特開平08−313814号公報
【特許文献9】特開平11−149039号公報
【特許文献10】特開平11−223765号公報
【特許文献11】特開2003−067971号公報
【特許文献12】特開2003−295460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、前記の従来技術の問題点を解決し、機械的強度、透明性に優れたポリカーボネート樹脂に希土類金属を含む組成物から成り、高屈折率かつ低分散特性を有する光学材料であって、分散剤などの補助成分を含有しなくても、希土類金属のポリカーボネート樹脂中での均一分散性が高い光学材料、および当該ポリカーボネート樹脂組成物より成形された光学部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
即ち本発明の第1の要旨は、末端OH濃度が5000ppm以上のポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、希土類金属から成る中心金属に酸素原子を介してカウンター金属が結合している金属クラスター(B)を0.1〜200重量部の割合で含有して成ることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物に存し、第2の要旨は、第1の要旨に係るポリカーボネート樹脂組成物を成形して成ることを特徴とする光学部品に存する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、機械的強度、透明性に優れた、ポリカーボネート樹脂組成物から成り、レンズ、プリズム、位相素子などとして好適な、高屈折率かつ低分散特性を有する光学材料および当該ポリカーボネート樹脂組成物より成形された光学部品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明で使用するポリカーボネート樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、芳香族−脂肪族ポリカーボネートを使用することが出来るが、これらの中では芳香族ポリカーボネートが好ましい。芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって作られる熱可塑性重合体または共重合体である。
【0020】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−P−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、これらの中ではビスフェノールAが好ましい。難燃性を高めるため、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物として、スルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物やシロキサン構造を有する両末端フェノール性OH基含有のポリマー又はオリゴマーを使用することも出来る。
【0021】
本発明で使用するポリカーボネート樹脂(A)としては、好ましくは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、または、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が挙げられる。本発明においては2種以上のポリカーボネート樹脂を併用してもよい。
【0022】
ポリカーボネート樹脂(A)の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量として、通常2000〜20000、好ましくは2500〜10000、更に好ましくは3000〜8000である。粘度平均分子量が2000未満の場合はポリカーボネート樹脂と金属クラスターとの架橋構造が過度に増加してゲル化が進行し過ぎて透明性が著しく低下する場合がある。逆に20000を超える場合には、金属クラスターとポリカーボネート樹脂の結合性が弱くなり、ポリカーボネート樹脂の結晶化や金属クラスターの二次凝集が過度に進行し透明性が著しく低下する場合がある。
【0023】
本発明においては、用いるポリカーボネート樹脂(A)の末端OH濃度が5000ppm以上であることを特徴とし、中でも10000以上であることが好ましい。このポリカーボネート樹脂の末端OH濃度が5000ppmに満たないと、金属クラスターとポリカーボネート樹脂の結合性が弱くなり、金属クラスターの二次凝集が過度に進行し透明性が著しく低下する場合がある。
【0024】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の製造方法は特に限定されず、ホスゲン法(界面重合法)、溶融法(エステル交換法)等で製造することが出来る。中でも末端OH濃度を調整する観点から、溶融法(エステル交換法)にて末端OH濃度を調整したポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。
【0025】
またポリカーボネート樹脂の分子末端をt−ブチルフェノール等の末端封止剤にて封止して製造するポリカーボネート樹脂においては、一般的に末端OH濃度が(5000ppmに満たない)低いものとなっているので、この様な場合には末端封止剤の量を適宜調整すればよい。
【0026】
更に、本発明で使用するポリカーボネート樹脂(A)としては、本発明の要件を満たす範囲であれば、バージン原料だけでなく、使用済みの製品から再生されたポリカーボネート樹脂、所謂マテリアルリサイクルされたポリカーボネート樹脂の使用も可能である。使用済みの製品としては、光学ディスク等の光記録媒体、導光板、自動車窓ガラス、自動車ヘッドランプレンズ、風防などの車両透明部材、水ボトル等の容器、メガネレンズの他、防音壁、ガラス窓、波板などの建築部材などが挙げられる。
【0027】
ただし、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は光学材料として使用するために、再生ポリカーボネート中の不純物は好ましくない。従って、リサイクル品を使用する場合には品質の管理が重要である。また、再生ポリカーボネート樹脂としては、製品の不適合品、スプルー、ランナー等から得られた粉砕品、それらを溶融して得たペレット等も使用可能である。
【0028】
本発明で使用する金属クラスター(B)は、希土類金属から成る中心金属に酸素原子を介してカウンター金属が結合している構造を有する。斯かる構造の金属金属クラスターは既に公知であり、例えば、国際公開公報WO2006/004187 A1に記載されている。一般に、金属クラスターは、数個から数百個の金属原子から形成される集団であり、同じ元素からなるバルク材料とは異なる特性を有することが知られている。本発明で使用する金属クラスター(B)は、金属クラスターの凝集が抑制されており、有機媒体中において均一な分散状態を形成し得る。なお、中心金属に対するカウンター金属(酸素原子)の数は限定されない。
【0029】
希土類金属としては、スカンジウム、イットリウム、原子番号57〜71のランタノイド(ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジム、プロムチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム及びルテチウム)が挙げられる。これらの中では、ランタン(La)、イットリウム(Y)、ガドリニウム(Gd)、エルビウム(Er)、ネオジム(Nd)、ホルミウム(Ho)、プラセオジウム(Pr)、ジスプロシウム(Dy)、ツリウム(Tm)、イッテリビウム(Yb)及びルテチウム(Lu)から成る群より選択される少なくとも1種が好ましい。これらの希土類金属は、可視光波長帯における蛍光が殆ど無く、本発明のポリカーボネート樹脂組成物によって、レンズ、プリズム、位相素子などを形成する場合、光透過性能を阻害せずに高屈折率と低分散性を実現することが容易である。
【0030】
カウンター金属としては、酸素原子を介して希土類金属に結合可能である限り特に限定されないが、通常、4族元素、5族元素および13族元素から成る群より選択される少なくとも1種が使用される。これらの中では、Al、Ga、Zr、Ta及びHfから成る群より選択される少なくとも1種が好ましい。特に、これらのカウンター金属が結合した場合、低分散性を阻害することなく高い屈折率が実現し易い。
【0031】
中心金属とカウンター金属との間の酸素原子には、炭素原子を介して又は介さずに官能基が結合していてもよい。また、通常、カウンター金属には酸素が結合しており、この酸素原子も炭素原子を介して又は介さずに官能基が結合していてもよい。
【0032】
上記の官能基(R)は、ポリカーボネート樹脂末端基との反応性などを考慮して選択できる。Rとしては、例えば、(1)ビニル基、アリール基、アミノ基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基およびシアノ基から成る群より選択される1種以上、(2)上記(1)の1種以上を置換基として有するアルキル基、(3)上記(1)の1種以上を置換基として有するアルキルシリル基、(4)上記(1)の1種以上を置換基として有するアルキルカルボキシル基、(5)上記(1)の1種以上を置換基として有するアルキルゲルミル基などが挙げられる。
【0033】
金属クラスター(B)における中心金属とカウンター金属とのモル比は、中心金属とカウンター金属の組合せで決定されるために一義的に決定できないが、中心金属:カウンター金属として、通常1:1〜1:5、好ましくは1:1.5〜1:4である。
【0034】
金属クラスター(B)の平均粒子径は、光学材料の透明性の観点から、通常0.1〜1000nm、好ましくは0.1〜50nmである。なお、金属クラスター(B)は、会合構造を形成していてもよい。
【0035】
金属クラスター(B)の使用割合は、光学材料の光透過性の観点から、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対して0.1〜200重量部から選択される。0.1重量部未満の場合は効果的な機能の発現が得られず、200重量部を超える場合は光透過性が低下する問題がある。
【0036】
金属クラスター(B)の合成方法としては、例えば、(1)希土類金属原料とカウンター金属原料とを混合した後、熱処理、粉砕する方法が挙げられる。各金属原料としては、金属塩、水酸化物、酸化物などが使用できる。塩としては、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、塩化物などの鉱酸塩;蟻酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩などの有機酸塩、アルコキシド等が含まれる。この中では、アニオン不純物が少ないという観点から、有機酸塩またはアルコキシドが好ましく、特に酢酸塩が好ましい。なお、通常、希土類金属の酢酸塩は結晶水を含むため、条件によっては、予め脱水処理を行ってから使用するのがよい。
【0037】
その他の合成方法としては、(2)希土類金属塩とカウンター金属塩とを適当な溶媒に溶解後、加水分解する方法、(3)希土類金属塩とカウンター金属のアルコキシドとを適当な溶媒中で反応させる方法などが挙げられる。
【0038】
上記の合成法の中では、ナノサイズの金属クラスターを合成し得る観点から、(3)の方法が好ましい。何れの方法においても、得られる金属クラスターの中心金属とカウンター金属とのモル比が前記の1:1〜1:5、好ましくは1:1.5〜1:4となるように各金属原料を配合する。特に、上記(3)の方法では、反応系における中心金属イオンとカウンター金属イオンとのモル比が上記に範囲となるように設定するのが好ましい。
【0039】
上記(2)又は(3)の方法において、金属クラスターの合成に使用する溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の1価アルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコール−α−モノメチルエーテル、プロピレングリコール−α−モノエチルエーテル等のグリコールエーテル;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の環状エーテル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等のエステル;アセトニトリル;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;ペンタン、ヘキサン、ヘブタン、シクロヘキサン等の炭化水素化合物などが使用できる。
【0040】
上記の溶媒の中では、後述する様に高温での反応を還流条件下で行うことが出来る観点から、沸点が高い溶媒が好ましい。すなわち、溶媒の沸点は、100℃以上、特に120℃以上であることが好ましい。斯かる高沸点溶媒としては、グリコールエーテル類が好ましく、特にプロピレングリコール−α−モノメチルエーテルが好ましい。
【0041】
上記(2)及び(3)の方法では、溶媒の還流温度まで加熱(熱処理)することが出来る。これにより、反応速度を高めることが出来る。反応温度は、中心金属とカウンター金属の組合せにより異なるが、通常0〜150℃、好ましくは20〜120℃である。反応時間は、反応温度に応じて異なるが、通常1分〜2日程度、好ましくは5分〜24時間程度である。
【0042】
金属クラスターに前記の官能基(R)を導入する方法はとしては、例えば、(a)金属クラスターを形成後にRを導入する方法、(b)カウンター金属原料(特に金属アルコキシド)にRを予め導入後、中心金属原料と反応させて金属クラスターを形成する方法が挙げられる。アルキルカルボキシル基の導入方法としては、相当する有機カルボン酸またはその無水物を金属クラスターと反応させる方法が挙げられる。アルキル基としては、例えば、置換基を有していてもよい炭素数1〜12の直鎖または分岐鎖炭化水素が挙げられる。
【0043】
上記(a)の方法において、金属クラスターと反応させる化合物としては、例えば、末端にカルボキシレート基、水酸基、アミノ基、アミド基などの活性水素を有する化合物(化合物はオリゴマー又はポリマーの場合も含む)が挙げられる。この化合物の炭素数が多すぎると、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の屈折率が低下する場合がある。
【0044】
上記(b)の方法において、カウンター金属原料と反応させる化合物としては、例えば、アルキル基、反応性を有するビニル基、アリール基、アミノ基、アクリロイル基、イミド基、エポキシ基、シアノ基(以下、前記ビニル基〜シアノ基までを総称して「反応性基」とも言う)、上記反応性基の何れかを置換基として有するアルキル基、上記反応性基の何れかを置換基として有するアルコキシシラン:RSiOR(但し、Rは上記反応性基または上前記反応性基により置換されていてもよいアルキル基を示す。R及びRは、水素、前記反応性基もしくは前記反応性基により置換されていてもよいアルキル基またはアルコキシル基を示す。Rは、アルキル基を示す。)並びに、上記反応性基の何れかを置換基として有するアルコキシゲルマン:RGeOR(但し、R〜Rは上記と同じである。)が挙げられる。その他、縮重合によりカウンター金属原料と結合可能な化合物も挙げられる。
【0045】
本発明では、熱安定性を向上させるために熱安定剤を使用することが好ましい。特に、ポリカーボネート樹脂組成物の色調が良好となる、亜リン酸エステル、リン酸エステル等のリン系熱安定剤が好ましい。
【0046】
上記の亜リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、トリノニルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリオクチルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、ジステアリールペンタエリスリトールジホスファイト、トリシクロヘキシルホスファイト、モノブチルジフエニルホスファイト、モノオクチルジフエニルホスファイト、ジステアリールペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2.6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の亜リン酸のトリエステル、ジエステル、モノエステル等が挙げられる。
【0047】
上記のリン酸エステルとしては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリス(ノニルフェニル)ホスフェート、2−エチルフェニルジフェニルホスフェート、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4−ジフエニレンホスフォナイト、クレジルジフェニルホスフェート等が挙げられる。
【0048】
上記のリン系熱安定剤の中では、ジステアリールペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、ビス(2.6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが好ましく、中でもビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールホスファイトやトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトが特に好ましい。なお、熱安定剤は、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0049】
熱安定剤の使用量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、通常0.005〜0.2重量部、好ましくは0.01〜0.1重量部である。熱安定剤の使用量が0.005重量部未満の場合は、熱安定剤としての効果が小さく、0.2重量部を超える場合は、使用量に見合う効果は見られず、また、加水分解し易くなる。
【0050】
また、本発明では、酸化防止剤、好ましくはフェノール系酸化防止剤を使用するのが好ましい。フェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−オブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4―ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’−ブチリデンビス−(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等が挙げられるが、中でも、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンが好ましい。これらの酸化防止剤は2種以上を併用してもよい。酸化防止剤の使用量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、通常200〜5000ppmである。
【0051】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には紫外線吸収剤を配合することが出来る。紫外線吸収剤は次のような機能を発揮する。すなわち、成形品を太陽光や蛍光灯のような光線下に長期間曝すと、紫外線によって黄色味を帯びる様になるが、成形品が黄色味を帯びる時期を大幅に遅らせる様に機能する。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリチル酸フェニル系、ヒンダードアミン系などが挙げられる。
【0052】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2,4−ジヒドロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ−ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ−ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−ベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシ−ベンゾフェノン等が挙げられる。
【0053】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルメチル)フェノール、2−[5−クロロ(2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル]−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェノール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール、2,2’−メチレンビス[6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラブチル)フェノール]等が挙げられる。
【0054】
サリチル酸フェニル系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサルチレート、2,4−ジターシャリーブチルフェニル−3,5−ジターシャリーブチル−4一ヒドロキシベンゾエート等が挙げられる。ヒンダードアミン系紫外線吸収剤としては、例えば、ビス(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)セバケート等が挙げられる。
【0055】
紫外線吸収剤の使用量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、通常0.01〜2重量部、好ましくは0.05〜1.5重量部、更に好ましくは0.1〜1重量部である。紫外線吸収剤の使用量が0.01重量部未満の場合は、成形品の耐候性が不十分であり、2重量部を超える場合は、成形品の黄味が強くなるので調色性に劣り、また、成形品表面にブリードアウトし易い。
【0056】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は離型剤を含有することが出来る。好ましい離型剤は、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸エステル、数平均分子量200〜15000の脂肪族炭化水素化合物から成る群より選択される少なくとも1種の化合物である。これらの中では、脂肪族カルボン酸および/または脂肪族カルボン酸エステルが好ましい。
【0057】
脂肪族カルボン酸としては、飽和又は不飽和の脂肪族モノカルボン酸、ジカルボン酸又はトリカルボン酸を挙げることが出来る。ここで脂肪族カルボン酸は、脂環式カルボン酸も包含する。このうち好ましい脂肪族カルボン酸は、炭素数6〜36のモノ又はジカルボン酸であり、炭素数6〜36の脂肪族飽和モノカルボン酸が更に好ましい。このような脂
肪族カルボン酸としては、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸、吉草酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸などが挙げられる。
【0058】
脂肪族カルボン酸エステルを構成する脂肪族カルボン酸成分としては、前記脂肪族カルボン酸と同じものが使用できる。一方、脂肪族カルボン酸エステルを構成するアルコール成分としては、飽和または不飽和の1価アルコール、飽和または不飽和の多価アルコール等が挙げられる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらのアルコールのうち、炭素数30以下の1価または多価の飽和アルコールが好ましく、更に、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが好ましい。ここで、脂肪族アルコールは、脂環式アルコールも包含する。
【0059】
上記のアルコールとしては、例えば、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリールアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2−ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。これらの脂肪族カルボン酸エステルは、不純物として脂肪族カルボン酸および/またはアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0060】
脂肪族カルボン酸エステルとしては、例えば、蜜ロウ(ミリシルパルミテートを主成分とする混合物)、ステアリン酸ステアリール、ベヘン酸ベヘニル、ベヘン酸オクチルドデシル、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、ペンタエリスリトールモノパルミテート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ペンタエリスリトールテトラステアレート等が挙げられる。
【0061】
離型剤の使用量は、ポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、通常0.01〜1重量部である。離型剤の使用量が0.01重量部未満の場合は離型効果が得られず、1重量部を超える場合は耐加水分解性が低下する。
【0062】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には視認性を高めるために着色剤を配合することが出来る。着色剤としては、無機顔料、有機顔料、有機染料などが挙げられる。
【0063】
無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、カドミウムレッド、カドミウムイエロー等の硫化物系顔料、群青などの珪酸塩系顔料、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、酸化クロム、鉄黒、チタンイエロー、亜鉛−鉄系ブラウン、チタンコバルト系グリーン、コバルトグリーン、コバルトブルー、銅−クロム系ブラック、銅−鉄系ブラック等の酸化物系顔料、黄鉛、モリブデートオレンジ等のクロム酸系顔料、紺青などのフェロシアン系顔料などが挙げられる。
【0064】
有機顔料および有機染料としては、銅フタロシアニンブルー、銅フタロシアニングリーン等のフタロシアニン系染顔料、ニッケルアゾイエロー等のアゾ系、チオインジゴ系、ペリノン系、ペリレン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系などの縮合多環染顔料、アンスラキノン系、複素環系、メチル系の染顔料などが挙げられる。特に、有機染料系の着色剤は、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性を損なうことなく着色できるために好ましい。
【0065】
着色剤の使用量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対し、通常3重量部以下、好ましくは1重量部以下、更に好ましくは0.3重量部以下である。着色剤は複数併せて使用することも出来る。
【0066】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、必要に応じ、本発明の目的を損なわない範囲で、上記成分の他に、ポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂、無機フィラー、有機または無機の微粒子状光拡散剤、難燃剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤・アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、防菌剤などを配合できる。これらは二種類以上を併用してもよい。
【0067】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、溶融混練法により製造できる。具体的には、ポリカーボネート樹脂(A)、金属クラスター(B)と、必要に応じて配合される添加成分を所定量秤量し、タンブラー、ヘンシェルミキサー等の各種混合機を使用して混合する。また、上記の成分(A)と成分(B)を予め混合した後、成分(A)及び必要に応じて配合される添加成分を混合する方法は、成分(B)の二次凝集を効果的に抑制し、ポリカーボネート樹脂中で良好な分散性を保つという観点から、好ましい。上記方法で各成分を予め混合した後、溶融混練する方法としては、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、単軸混練押出機、二軸混練押出機、ニーダー等を使用する方法が挙げられる。
【0068】
中でも、本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法としては、金属クラスター(B)と、ポリカーボネート樹脂(A)とを、クロロホルム等の、ポリカーボネート樹脂の溶解度の高い溶媒中で混合して製造する方法が好ましい。この方法によって、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中における金属クラスター濃度の調節が容易となる。この際、金属クラスター(B)は、溶媒を使用して製造された金属クラスター(B)溶液から、この製造に使用した溶媒を除去することで得られる。
【0069】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を成形して成るレンズ等の光学部品の成形方法は、熱可塑性樹脂材料から成形品を成形する従来から知られている方法が制限なく適用できる。具体的には、一般的な射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、インモールドコーティング(IMC)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法などが挙げられる。
【実施例】
【0070】
以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例において、配合量は重量部を意味する。また、使用した樹脂組成物の構成成分および使用した物性測定方法は以下の通りである。
【0071】
(A−1)芳香族ポリカーボネート樹脂:後述の製造例1に従い合成したポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:3300、末端OH基含有量:13000ppm
【0072】
(A−2)芳香族ポリカーボネート樹脂:後述の製造例2に従い合成したポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:5200、末端OH基含有量:9000ppm
【0073】
(A−3)芳香族ポリカーボネート樹脂:後述の製造例3に従い合成したポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量:11000、末端OH基含有量:4000ppm
【0074】
(A−4)芳香族ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製品「商品名:ユーピロン(登録商標)H−4000F」(以下「H−4000F」と略記する。)、粘度平均分子量:16000、末端OH基含有量:150ppm
【0075】
(B−1)金属クラスター1:後述の製造例4に従い合成した、Laに酸素を介してAlを配位してなる金属クラスター
【0076】
(B−2)金属クラスター2:後述の製造例5に従い合成した、3−グリシジドキシプロピルトリメトキシシランで修飾したLaに酸素を介してAlを配位してなる金属クラスター
【0077】
(B−3)金属クラスター3:後述の製造例6に従い合成した、3−グリシジドキシプロピルメチルジメトキシシランで修飾したLaに酸素を介してAlを配位してなる金属クラスター
【0078】
(C)安定剤:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、旭電化工業社製「商品名:アデカスタブ2112」
【0079】
(D)離型剤:ペンタエリスリトールテトラステアレート、日本油脂(株)製「商品名:ユニスターH476」
【0080】
(1)粘度平均分子量(Mv):
ウベローデ粘度計を使用し、塩化メチレン中25℃の極限粘度[η]を測定し、以下の式(1)より、粘度平均分子量(Mv)を求めた。
【0081】
[η]=1.23×10−4×(Mv)0.83 ・・・(1)
【0082】
(2)末端OH基含有量:
四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem.88 215(1965)に記載の方法)により比色定量を行った。測定値はポリカーボネート樹脂重量に対する末端OH基の重量をppm単位で表示した。
【0083】
製造例1:
還流器を備えたガラス製500mlフラスコ反応容器に、ジフェニルカーボネートと2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]及び触媒量の水酸化ナトリウムを仕込み、窒素雰囲気下、180℃で0.5時間保持した後、減圧度を100mmHgにすると同時に、25℃/hrの速度で220℃まで昇温を行った。更に、その後に減圧度を調節しながら反応を行い、粘度平均分子量:3300、末端OH濃度13000ppmのポリカーボネート樹脂を得た。
【0084】
製造例2:
25℃/hrの速度で230℃まで昇温を行った以外は、製造例1と同様にして行い、粘度平均分子量:5200、末端OH濃度9000ppmのポリカーボネート樹脂を得た。
【0085】
製造例3:
25℃/hrの速度で260℃まで昇温を行った以外は、製造例1と同様にして行い、粘度平均分子量:11000、末端OH濃度4000ppmのポリカーボネート樹脂を得た。
【0086】
製造例4:
<ランタン(La)を中心金属とする金属クラスターの作製>
プロピレングリコールα−モノメチルエーテル(PGME)206.9g中に110℃で1時間減圧脱水処理した酢酸ランタン3.26gとトリ−s−ブトキシアルミニウム7.63g(LaとAlの合計酸化物換算濃度:5重量%)とを加え、4時間、120℃にて還流し、透明な溶液を得た。得られた反応物の粒径を動的散乱法で測定し、粒径分布のピークトップが2.0nmの複合ナノ粒子であることを確認した。また、トリ−s−ブトキシアルミニウムの反応前後の27Al−NMRスペクトル変化より、Laへの酸素を介したAlの配位を確認した。またこの金属クラスターにおけるLa:Alモル比は1:3であることを、ICP分析によって確認した。
【0087】
上記のようにして、Laに酸素を介してAlを配位してなる金属クラスターがPGME中で均一に分散した透明液体試料([La−Al]/PGME)を得た。
【0088】
製造例5:
<官能基を導入してなるLaを中心金属とする金属クラスターの作製>
プロピレングリコールα−モノメチルエーテル(PGME)206.9g中に110℃で1時間減圧脱水処理した酢酸ランタン3.26gとトリ−s−ブトキシアルミニウム7.63g(LaとAlの合計酸化物換算濃度:5重量%)とを加え、4時間、120℃にて還流した結果、透明な溶液を得た。室温まで放冷後、[3−(グリシジルオキシ)プロピル]トリメトキシシラン(GPTMS)4.88gを滴下し、1時間攪拌することにより、[3−(グリシジルオキシ)プロピル]トリメトキシシランを導入した金属クラスターを含有する透明な溶液を得た。得られた反応物の粒径を動的散乱法で測定し、粒径分布のピークトップが1.8nmの複合ナノ粒子であることを確認した。
【0089】
上記のようにして、GPTMSを導入したLaに酸素を介してAlを配位して成る金属クラスターがPGME中で均一に分散した透明液体試料(GPTMS[La−Al]/PGME)を得た。
【0090】
製造例6:
<官能基を導入してなるLaを中心金属とする金属クラスターの作製>
プロピレングリコールα−モノメチルエーテル(PGME)206.9g中に110℃で1時間減圧脱水処理した酢酸ランタン3.26gとトリ−s−ブトキシアルミニウム7.63g(LaとAlの合計酸化物換算濃度:5重量%)とを加え、4時間、120℃にて還流し、透明な溶液を得た。室温まで放冷後、[3−グリシジドキシプロピルメチルジメトキシシラン(GPMDMS)6.84gを滴下し、1時間攪拌することにより、[3−グリシジドキシプロピルメチルジメトキシシランを導入した金属クラスターを含有する透明な溶液を得た。得られた反応物の粒径を動的散乱法で測定し、粒径分布のピークトップが1.5nmの複合ナノ粒子であることを確認した。
【0091】
上記のようにして、GPMDMSを導入したLaに酸素を介してAlを配位して成る金属クラスターがPGME中で均一に分散した透明液体試料(GPMDMS[La−Al]/PGME)を得た。
【0092】
<ポリカーボネート樹脂組成物の製造>
製造例4〜6で作製した透明液体試料溶液から、エバポレーターを使用してPGMEを除去し、次いで金属クラスター濃度が10重量%となるように、クロロホルム溶媒を添加し、再溶解した。得られた各金属クラスター溶液について、溶液中の金属クラスターの粒径を動的散乱法で測定し、製造例4〜6にて得られたものの粒径分布のピークトップは各々2.2nm、1.5nm、及び3.2nmの複合ナノ粒子であることを確認した。
【0093】
次いでポリカーボネート樹脂(A−1〜A−4)を、クロロホルム中にポリカーボネート樹脂濃度が10重量%となるように溶解させてPC/クロロホルム溶液とし、この溶液に、前述の金属クラスターのクロロホルム溶液を、表1に記載の重量比率となるように添加した。
【0094】
実施例1〜6及び比較例1〜3:
各種のポリカーボネート樹脂、金属クラスター、及び他の添加剤を、表1に示す割合でクロロホルム溶媒中で混合し、得られた混合溶液をガラス基板上にキャストフィルム化し、試験片を作製した。そして得られたキャストフィルムをガラス基板ごと目視により判断した。透明性は、無色透明で室温放置後にクラックが認められないものを◎、無色透明だが、室温放置後、クラックが認められるものを○、僅かに白濁が認められるものを△、全体的に白濁しているものを×、とした。
【0095】
また実施例1、2の組成に於いては、上述した混合溶液をSi基板上にスピンコートして屈折率測定用の試験片も作成した。スピンコートは、MIKASA製「SPINCOTER IH−D7」を使用し、1000rpm、30secの条件で行った。結果を表1に示す。
【0096】
参考例:
芳香族ポリカーボネート樹脂(H−4000F)の10重量%クロロホルム溶液を、実施例1と同様にしてガラス基板上およびSi基板上にフィルム製膜した後、実施例および比較例と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0097】
<評価方法>
(1)屈折率およびアッベ数:
フィルメトリクス製「Filmetrics F20」を使用し、本発明のポリカーボネート樹脂組成物をスピンコートしたSi基板を、150℃、2時間熱処理した後の屈折率の測定を行い、588nm(D線)、486nm(F線)、656nm(C線)の屈折率からアッベ数を算出した。
【0098】
【表1】

【0099】
表1の結果から明らかなように、比較例1〜3と比べて、実施例1〜6示す本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、透明性に優れている。そして参考例と比較して明らかなとおり、高アッベ数をも示す、優れたものであることがわかる。これらの結果から、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、機械的強度、透明性に優れ、高屈折率かつ低分散性を有する光学材料を提供することが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端OH濃度が5000ppm以上のポリカーボネート樹脂(A)100重量部に対し、希土類金属から成る中心金属に酸素原子を介してカウンター金属が結合している金属クラスター(B)を0.1〜200重量部の割合で含有して成ることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
中心金属がイットリウム及びランタノイド元素から成る群より選択される少なくとも1種であり、カウンター金属が、4族元素、5族元素および13族元素から成る群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
金属クラスターの平均粒子径が0.1〜1000nmである請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を成形して成ることを特徴とする光学部品。

【公開番号】特開2009−173711(P2009−173711A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11693(P2008−11693)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】