説明

ポリカーボネート系樹脂組成物及び薄肉成形品の耐屈曲性の改善方法

【課題】繊維状補強剤を含有するにも拘わらず、薄肉成形しても、成形品の耐屈曲性を改善可能なポリカーボネート系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート系樹脂(A)と、ジエン系ゴム成分で変性されたゴム変性スチレン系樹脂(B)と、酸変性オレフィン化合物(C)と、炭素繊維(D)とで、耐屈曲性が改善された薄肉成形用ポリカーボネート系樹脂組成物を構成する。縦12cm、横4cm及び厚み1mmの薄肉成形品を、半径の異なる円柱に巻き付けて屈曲させたとき、前記成形品の破壊に至る円柱の半径は、1〜11.5cm程度であってもよい。薄肉成形体は、トナーカートリッジ、オフィスオートメーション機器筐体、又はコンピュータ筐体などとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィスオートメーション機器、家庭用電気機器などにおける各種筐体などに有用であり、薄肉成形しても耐屈曲性を改善可能なポリカーボネート系樹脂組成物、及び薄肉成形品における耐屈曲性を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オフィスオートメーション機器、携帯電子機器(例えば、ノートパソコン、電子手帳、携帯電話、ビデオカメラなど)などの筐体及びこれらの機器の構成部品(トナーカートリッジなどの各種カートリッジ、メディアドライブなど)の筐体には、薄肉化、軽量化、設計の自由度などの観点から樹脂成形品が用いられている。樹脂製筐体においては、薄肉及び軽量であることのみならず、低収縮性、高い寸法精度、剛性なども要求される。そのため、筐体用樹脂としては、収縮性、寸法精度などの点から、繊維強化ポリカーボネート系樹脂などが汎用されている。
【0003】
例えば、特公昭44−28188号公報(特許文献1)には、4,4’−ジオキシジアリルアルカン系ポリカーボネートと、ポリスチレンと、ガラス繊維とで構成された成形用樹脂組成物が開示されている。特公昭53−12946号公報(特許文献2)には、4,4’−ジオキシジアリルアルカン系ポリカーボネートと、ポリイソブチレンと、ガラス繊維とで構成された樹脂組成物が開示されている。特開平7−238213号公報(特許文献3)には、L/D≧3の強化繊維を含有する芳香族ポリカーボネート系樹脂組成物にカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するオレフィン系ワックス及びオレフィン系重合体より選ばれる少なくとも一種の化合物と複合ゴム系グラフト共重合体を配合した繊維強化熱可塑性樹脂組成物が開示されている。また、特開昭56−45944号公報(特許文献4)には、芳香族ポリカーボネート樹脂とガラス繊維とからなる樹脂組成物に、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するオレフィン系ワックスを含有させたポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。特開昭59−27947号公報(特許文献5)には、ポリカーボネートとカーボン系充填材よりなる配合物に不飽和酸変性ポリオレフィンを混合したポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。
【0004】
しかし、ポリカーボネート系樹脂自体の剛性は高いものの、繊維強化ポリカーボネート系樹脂では、繊維非強化ポリカーボネート系樹脂に比べて、剛性(耐衝撃性など)が低下し、筐体の機能が不十分となる。特に、筐体には、落下などの衝撃に伴う破損を防止するための靭性(耐屈曲性)も要求される。このような耐屈曲性も、ガラス繊維を用いた繊維強化ポリカーボネート系樹脂では低下し易い。特に、筐体などの用途では、薄肉化が必要となり、このような薄肉成形品においては、耐屈曲性の低下が顕著である。
【特許文献1】特公昭44−28188号公報(請求項1)
【特許文献2】特公昭53−12946号公報(請求項1)
【特許文献3】特開平7−238213号公報(請求項1)
【特許文献4】特開昭56−45944号公報(請求項1)
【特許文献5】特開昭59−27947号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、繊維状補強剤を含有するにも拘わらず、薄肉成形しても、成形品の耐屈曲性を改善可能なポリカーボネート系樹脂組成物及び耐屈曲性の改善方法を提供することにある。
【0006】
本発明の他の目的は、薄肉成形品における耐衝撃性を改善しつつも、変形破壊を防止して、耐屈曲性を改善可能なポリカーボネート系樹脂組成物及び耐屈曲性の改善方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリカーボネート系樹脂と、ゴム成分にスチレン系単量体がグラフトしたゴム含有スチレン系樹脂と、特定の割合の酸変性オレフィン化合物と、炭素繊維とを組み合わせると、薄肉成形品の変形破壊を防止でき、耐屈曲性を改善できることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)と、ジエン系ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフトしたゴム含有スチレン系樹脂(B)と、酸変性オレフィン化合物(C)と、炭素繊維(D)とで構成され、かつ耐屈曲性が改善された薄肉成形品を形成するためのポリカーボネート系樹脂組成物である。
【0009】
前記樹脂組成物において、縦12cm、横4cm及び厚み1mmの薄肉成形品を、半径の異なる円柱に巻き付けて屈曲させたとき、前記成形品の破壊に至る円柱の半径が、1〜11.5mm(例えば、1.5〜10mm)程度であってもよい。ゴム含有スチレン系樹脂(B)の割合は、前記酸変性オレフィン化合物(C)1重量部に対して1〜30重量部程度であり、前記炭素繊維(D)の割合は、前記酸変性オレフィン化合物(C)における酸成分量1重量部に対して5〜400重量部程度であってもよい。前記酸変性オレフィン化合物(C)は、重量平均分子量1.5×10〜30×10を有する酸変性オレフィン系樹脂であってもよい。
【0010】
また、ポリカーボネート系樹脂(A)は、粘度平均分子量1.5×10〜3×10程度を有する芳香族ポリカーボネート系樹脂、ゴム含有スチレン系樹脂(B)は、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン樹脂及びメタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン樹脂から選択された少なくとも一種、酸変性オレフィン化合物(C)は、重量平均分子量2×10〜20×10を有する酸変性オレフィン系樹脂などであってもよく、炭素繊維(D)は、平均繊維径0.5〜50μm及び平均繊維長5〜400mmを有していてもよい。
【0011】
前記樹脂組成物において、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との割合(重量比)は、(A)/(B)=80/20〜97/3程度であってもよく、ポリカーボネート系樹脂(A)及びゴム含有スチレン系樹脂(B)の総量100重量部に対して、酸変性オレフィン化合物(C)の割合は、0.1〜10重量部程度、炭素繊維(D)の割合は5〜20重量部程度であってもよい。
【0012】
また、前記樹脂組成物は、さらに、有機リン系難燃剤を含有してもよい。
【0013】
本発明には、前記ポリカーボネート系樹脂組成物で形成された薄肉成形体も含まれる。このような薄肉成形体としては、例えば、トナーカートリッジ、オフィスオートメーション機器筐体、又はコンピュータ筐体などであってもよい。
【0014】
さらに、本発明には、ポリカーボネート系樹脂(A)、ジエン系ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフトしたゴム含有スチレン系樹脂(B)、酸変性オレフィン化合物(C)、及び炭素繊維(D)を混合して樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物で形成される薄肉成形品の耐屈曲性を改善する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、ポリカーボネート系樹脂と、ジエン系ゴム成分にスチレン系単量体がグラフトしたゴム含有スチレン系樹脂と、酸変性オレフィン化合物と、炭素繊維とを組み合わせて樹脂組成物を構成するので、炭素繊維のような繊維状補強剤を含有するにも拘わらず、薄肉成形しても、成形品の耐屈曲性を改善できる。また、薄肉成形品における耐衝撃性を改善しつつも、変形破壊を有効に防止でき、耐屈曲性を改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[ポリカーボネート系樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)と、ジエン系ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフトしたゴム含有スチレン系樹脂(B)と、酸変性オレフィン化合物(C)と、炭素繊維(D)とで構成されており、薄肉成形品を形成するための樹脂組成物である。このような樹脂組成物は、薄肉成形しても、得られる薄肉成形品の耐屈曲性を改善可能である。
【0017】
まず、ポリカーボネート系樹脂組成物の構成成分について以下に説明する。
【0018】
(A)ポリカーボネート系樹脂
前記樹脂組成物を構成するポリカーボネート系樹脂(A)としては、芳香族ポリカーボネート系樹脂、例えば、二価フェノール類とカーボネート前駆体[例えば、カルボニルハライド(ホスゲンなど)、カルボニルエステル(ジフェニルカーボネートなど)またはハロホルメート(2価フェノールのジハロホルメートなど)など]とを慣用の方法(界面重縮合法、エステル交換法など)で反応させることにより得ることができるポリカーボネートなどが挙げられる。
【0019】
二価フェノール類としては、ビスフェノール類、例えば、4,4’−ジヒドロキシジフェニル;ビス(ヒドロキシフェニル)アルカン類、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)C1−6アルカン類;ビス(ヒドロキシフェニル)シクロアルカン類、例えば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどのビス(4−ヒドロキシフェニル)C5−8シクロアルカン類;9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン類;ビス(ヒドロキシフェニル)アルキルベンゼン類、例えば、1,3−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4−ビス{2−(4−ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼンなどのビス{(4−ヒドロキシフェニル)アルキル}ベンゼン類;4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステルなどが例示できる。これらの二価フェノール類は単独で又は2種以上組み合わせて使用できる。
【0020】
二価フェノール類としては、通常、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン類(ビスフェノールA)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)C5−8シクロアルカン類などを用いる場合が多い。
【0021】
ポリカーボネート系樹脂は、直鎖構造や分岐構造を有していてもよい。なお、分岐構造は、必要により、少量の三官能以上のポリフェノール類、例えば、トリス(ヒドロキシフェニル)アルカン類[1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,1−トリス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エタンなど]を用いることにより形成できる。また、ポリカーボネート系樹脂は末端にヒドロキシル基を有していてもよく、末端は封鎖されていてもよい。末端の封鎖は、単官能フェノール類(フェノール、C1−20アルキルフェノールなど)により行うことができる。ポリカーボネート系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0022】
ポリカーボネート系樹脂の分子量は、通常、粘度平均分子量で、1×10〜10×10、好ましくは1×10〜5×10(例えば、1.5×10〜3×10)、さらに好ましくは1.5×10〜2.7×10程度であってもよい。なお、粘度平均分子量は、塩化メチレンを用いて測定できる。
【0023】
(B)ゴム含有スチレン系樹脂
本発明におけるゴム含有スチレン系樹脂(B)としては、ジエン系ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフト重合したスチレン系グラフト樹脂(ジエン系ゴム−グラフトスチレン系樹脂又はジエン系ゴム強化スチレン系樹脂)を用いる。
【0024】
前記スチレン系単量体(芳香族ビニル系単量体)としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン(o−,m−又はp−メチルスチレン)、ビニルキシレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ハロスチレン(モノブロムスチレン、ジブロムスチレンなど)などが挙げられる。これらのスチレン系単量体は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのスチレン系単量体のうち、通常、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエンを用いる場合が多く、特に少なくともスチレンを用いる場合が多い。
【0025】
スチレン系単量体は共重合性単量体と併用してもよい。共重合性単量体としては、例えば、シアン化ビニル類((メタ)アクリロニトリルなど)、(メタ)アクリル系単量体[メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸C1−18アルキルエステル;ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル;(メタ)アクリル酸グリシジル;フェニルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸アリール;シクロヘキシルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸シクロアルキル;ベンジルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸アラルキルなど]、マレイミド系単量体[マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミドなど]、α,β−不飽和カルボン酸類[(メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸など]などが例示できる。これらの共重合性単量体も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、共重合性単量体の割合は、スチレン系単量体100重量部に対して、例えば、0〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、さらに好ましくは10〜60重量部程度であってもよい。スチレン系樹脂としては、シアン化ビニル類を用いた共重合体も好ましく、このようなスチレン系樹脂において、シアン化ビニル類の割合は、スチレン系単量体100重量部に対して、例えば、5〜100重量部、好ましくは10〜95重量部、さらに好ましくは20〜90重量部程度であってもよい。
【0026】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)は、慣用の方法、例えば、ジエン系ゴム成分の存在下、少なくともスチレン系単量体(及び必要により前記共重合性単量体)を、慣用の方法(塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合など)でグラフト重合することにより得ることができる。前記ジエン系ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−イソプレン共重合体、ランダム又はブロックスチレン−ブタジエン共重合体などが挙げられる。なお、ジエン系ゴム成分と、他のゴム成分、例えば、エチレン−α−オレフィン共重合ゴム(エチレン−プロピレンゴム、エチレン−ブテンゴムなど)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、エチレン−アクリル酸エステル共重合ゴム(エチレン−アクリル酸エチルゴム、エチレン−アクリル酸ブチルゴムなど)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アクリル系ゴム(ポリアクリル酸ブチルなど)、複合ゴムなどとを併用してもよい。ジエン系ゴム成分と他のゴム成分とを併用する場合、両者の割合は、ジエン系ゴム成分/他のゴム成分(重量比)=60/40〜99.9/0.1程度の範囲から選択でき、好ましくは70/30〜99/1、さらに好ましくは80/20〜95/5程度であってもよい。
【0027】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)において、共重合性単量体としては、通常、シアン化ビニル類及びメタクリル酸メチルから選択された少なくとも一種を利用する場合が多い。
【0028】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)としては、例えば、ジエン系ゴム成分にスチレン系単量体がグラフト重合した耐衝撃性ポリスチレン(HIPS樹脂)、ジエン系ゴム成分にアクリロニトリル(A)及び/又はメタクリル酸メチル(M)とスチレン系単量体(S)とがグラフト重合した重合体(ゴム成分がブタジエンゴムであるABS樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂など)、又はこれらの水素添加物が例示できる。これらのゴム含有スチレン系樹脂(B)は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)において、ゴム成分(ジエン系ゴム成分など)の含有量は、例えば、40重量%以下(例えば、2〜30重量%)、好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは5〜20重量%程度である。
【0030】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)は、通常、スチレン系樹脂のマトリックスと、このマトリックス中に粒子状に分散したゴム成分(ジエン系ゴム成分など)とで構成されている。マトリックス中に分散するゴム成分の形態は、特に制限されず、コア/シェル構造、オニオン構造、サラミ構造などを含んでいてもよい。
【0031】
分散相を構成するゴム成分(ジエン系ゴム成分など)の粒子径は、例えば、体積平均粒子径0.1〜10μm、好ましくは0.2〜7μm、特に0.5〜5μm程度の範囲から選択できる。さらに、ゴム成分(ジエン系ゴム成分など)の粒度分布において、単一のピークを示してもよく、複数のピークを示してもよい。
【0032】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)のうち、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−アクリルゴム−スチレン(AAS)樹脂、メタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン(MBS)樹脂、ブタジエンゴム−スチレン樹脂(HIPS)、及びこれらの水素添加物から選択された少なくとも一種(特に、ABS樹脂及び/又はMBS樹脂)などが好ましい。
【0033】
なお、ゴム含有スチレン系樹脂(B)のマトリックスの分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、ポリスチレン換算)は、例えば、重量平均分子量1×10〜100×10、好ましくは5×10〜50×10、特に10×10〜50×10程度である。
【0034】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)は、必要により、他のゴム強化スチレン系樹脂[例えば、アクリルゴムにアクリロニトリルとスチレン系単量体とがグラフト重合した重合体(AAS樹脂)、エチレンプロピレンゴムにアクリロニトリルとスチレン系単量体とがグラフト重合した重合体(AES樹脂)など]、非ゴム強化スチレン系樹脂[例えば、ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、スチレン−(メタ)アクリル酸系単量体共重合体(スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸メチル共重合体(MS樹脂)、メチルメタクリレート−アクリロニトリル−スチレン共重合体(MAS樹脂)など)、及び/又はスチレン−無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)など]などと組み合わせて用いてもよい。
【0035】
なお、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)とを含む組成物は、ポリマーブレンド又はポリマーアロイを形成してもよい。このような系には、必要により相溶化剤、例えば、オキサゾリン化合物、エポキシ化スチレン−ブタジエンブロック共重合体又はその水素添加物などを添加してもよい。
【0036】
(C)酸変性オレフィン化合物
酸変性オレフィン化合物(C)としては、酸変性オレフィン系ワックス[例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンワックスなどのポリオレフィン系ワックスを、不飽和ポリカルボン酸又はその酸無水物(マレイン酸、無水マレイン酸など)などで処理した変性オレフィンワックス;前記ポリオレフィン系ワックスの構成モノマー(エチレン、プロピレンなどのα−オレフィンなど)と、共重合成分としての不飽和カルボン酸又は酸無水物((メタ)アクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸など)などとの共重合により形成される変性オレフィンワックスなど]の他、酸変性オレフィン系樹脂などが使用できる。これらの変性オレフィン化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。また、前記変性オレフィン系ワックスと、変性オレフィン系樹脂とを併用してもよい。これらの変性オレフィン化合物のうち、熱可塑性樹脂組成物を効率よく改質して、強度(耐衝撃性、ウェルド強度など)、耐屈曲性を向上できる点から、少なくとも酸変性オレフィン系樹脂を用いるのが好ましい。
【0037】
酸変性オレフィン系樹脂を構成するオレフィン系樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン、メチルペンテン−1などのα−オレフィンの単独又は共重合体が利用できる。このようなオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン系樹脂(ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体など)、プロピレン系樹脂(ポリプロピレン、プロピレン−エチレンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体、プロピレン−ブテン共重合体など)などが例示できる。オレフィン系樹脂としては、エチレン系樹脂、プロピレン系樹脂などが好ましい。
【0038】
変性オレフィン系樹脂は、前記α−オレフィンと変性剤との共重合、オレフィン系樹脂に対する変性剤のグラフトなどにより得ることができる。変性剤としては、カルボキシル基又は酸無水物基を有する単量体[例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸など]が例示できる。これらの単量体も単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。変性剤としては、(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸を用いる場合が多い。
【0039】
酸変性オレフィン化合物の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、ポリスチレン換算)は、例えば、3×10〜30×10、好ましくは5×10〜25×10、さらに好ましくは8×10〜20×10程度であってもよい。なお、数平均分子量は、例えば、1×10〜10×10、好ましくは1.5×10〜7.5×10、さらに好ましくは2×10〜6×10程度であってもよい。また、酸変性オレフィン系樹脂の重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、ポリスチレン換算)は、例えば、1.5×10〜30×10、好ましくは2×10〜20×10、さらに好ましくは2.5×10〜17×10程度であってもよい。また、酸変性オレフィン系樹脂の数平均分子量は、例えば、0.8×10〜10×10、好ましくは1×10〜7.5×10、さらに好ましくは1.2×10〜5×10程度であってもよい。
【0040】
酸変性オレフィン化合物(C)の融点は、例えば、70〜170℃程度の範囲から選択でき、好ましくは80〜160℃、さらに好ましくは90〜150℃程度であってもよい。また、酸変性オレフィン系樹脂の融点は高く、例えば、100〜170℃程度の範囲から選択でき、通常、120〜170℃(例えば、125〜165℃)、好ましくは130〜165℃(例えば、135〜165℃)、さらに好ましくは140〜165℃程度であってもよい。
【0041】
酸変性オレフィン化合物(C)において、酸性基の導入量(変性量)は、例えば、0.1〜10重量%(0.5〜10重量%)、好ましくは1〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%程度であってもよい。さらに、変性オレフィン系樹脂のケン化価(KOHmg/g)は、例えば、10〜80、好ましくは10〜70(例えば、20〜70)、さらに好ましくは10〜60(例えば、20〜60)程度である。
【0042】
(D)炭素繊維
炭素繊維(D)としては、慣用の炭素繊維、例えば、ピッチ系炭素繊維、フェノール樹脂系炭素繊維、再生セルロース系炭素繊維(例えば、レーヨン系炭素繊維、ポリノジック系炭素繊維など)、セルロース系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ポリビニルアルコール系炭素繊維などが挙げられる。炭素繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの炭素繊維のうち、ピッチ系炭素繊維などが好ましい。
【0043】
炭素繊維(D)の平均繊維長は、例えば、1〜400mm、好ましくは2〜100mm、さらに好ましくは3〜50mm程度であってもよい。また、炭素繊維(D)の平均繊維径は、例えば、0.5〜50μm、好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは3〜25μm(例えば、5〜15μm)程度であってもよい。
【0044】
また、炭素繊維(D)の引張強度は、例えば、1000〜5000MPa、好ましくは1500〜4500MPa、さらに好ましくは2000〜4200MPa程度であってもよい。
【0045】
炭素繊維(D)は、市販の炭素繊維を用いてもよく、慣用の方法、例えば、慣用の紡糸法により繊維を生成し、繊維を不融化又は耐炎化処理し、さらに炭素化(又は黒鉛化)処理することなどにより製造してもよい。
【0046】
(各成分の割合)
前記樹脂組成物において、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との割合(重量比)は、例えば、(A)/(B)=80/20〜97/3、好ましくは83/17〜96/4、さらに好ましくは85/15〜95/5程度である。
【0047】
また、酸変性オレフィン化合物(C)の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との総量100重量部に対して、例えば、0.1〜10重量部程度の範囲から選択でき、例えば、0.2〜7重量部、好ましくは0.5〜5重量部、さらに好ましくは1〜3重量部(例えば、1〜2重量部)程度である。
【0048】
酸変性オレフィン化合物(C)1重量部に対するゴム含有スチレン系樹脂(B)の割合は、例えば、1〜30重量部、好ましくは2〜25重量部(例えば、3〜20重量部)、さらに好ましくは2.5〜15重量部(例えば、3〜10重量部)程度である。
【0049】
酸変性オレフィン化合物(C)中の酸の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との総量100重量部に対して、例えば、0.002〜1重量部、好ましくは0.004〜0.5重量部(例えば、0.006〜0.3重量部)、さらに好ましくは0.008〜0.1重量部(例えば、0.01〜0.08重量部)程度である。
【0050】
炭素繊維(D)の割合は、ポリカーボネート系樹脂(A)及びゴム含有スチレン系樹脂(B)の総量100重量部に対して、例えば、1〜30重量部、好ましくは2〜25重量部、さらに好ましくは5〜20重量部(例えば、7〜15重量部)程度である。
【0051】
炭素繊維(D)の割合は、酸変性オレフィン化合物(C)における酸成分量1重量部に対して、5〜400重量部(例えば、10〜400重量部)、好ましくは10〜300重量部(例えば、15〜290重量部)、さらに好ましくは20〜280重量部(例えば、20〜200重量部)程度であってもよい。なお、酸変性オレフィン化合物(C)における酸成分量1重量部に対する炭素繊維(D)の割合は、例えば、5〜180重量部、好ましくは10〜150重量部、さらに好ましくは15〜120重量部程度であってもよい。
【0052】
好ましい樹脂組成物において、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との割合(重量比)は、(A)/(B)=80/20〜97/3程度であり、ポリカーボネート系樹脂(A)及びゴム含有スチレン系樹脂(B)の総量100重量部に対して、酸変性オレフィン化合物(C)の割合は、0.1〜10重量部程度、炭素繊維(D)の割合は5〜20重量部程度である。
【0053】
また、好ましい樹脂組成物では、前記ゴム含有スチレン系樹脂(B)の割合が、前記酸変性オレフィン化合物(C)1重量部に対して1〜30重量部程度であり、前記炭素繊維(D)の割合が、前記酸変性オレフィン化合物(C)における酸成分量1重量部に対して10〜150重量部程度であってもよい。前記ゴム含有スチレン系樹脂(B)の割合が、前記酸変性オレフィン化合物(C)1重量部に対して1〜30重量部程度であり、前記炭素繊維(D)の割合が、前記酸変性オレフィン化合物(C)(特に、酸変性オレフィン化合物(C)が重量平均分子量1.5×10〜30×10を有する酸変性オレフィン系樹脂)における酸成分量1重量部に対して10〜400重量部程度であってもよい。
【0054】
(E)難燃剤
前記樹脂組成物は、さらに難燃剤(E)を含有してもよい。このような難燃剤としては、ハロゲン系難燃剤を使用してもよいが、通常、非ハロゲン系難燃剤、例えば、有機酸金属塩系難燃剤(パーフルオロアルカンスルホン酸金属塩、トリハロベンゼンスルホン酸金属塩、ジフェニルスルホン−ジスルホン酸金属塩、ジフェニルスルホンスルホン酸金属塩などの有機カルボン酸又は有機スルホン酸のアルカリ金属(Na、Kなど)塩、アルカリ土類金属塩など)、リン系難燃剤、シリコーン系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、金属酸化物(酸化アンチモンなど)など]などが使用できる。これらの難燃剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの難燃剤のうち、リン系難燃剤が好ましい。リン系難燃剤は、他の難燃剤と組み合わせて用いてもよい。
【0055】
リン系難燃剤には、有機リン系難燃剤、無機リン系難燃剤(赤リン系難燃剤、例えば、赤リン、赤リン表面を熱硬化樹脂及び/又は無機化合物で被覆した安定化赤リンなど)などが含まれる。
【0056】
これらのリン系難燃剤のうち、芳香族リン酸エステル系難燃剤などの有機リン系難燃剤が好ましい。芳香族リン酸エステル系難燃剤としては、トリフェニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、トリス(トリル)ホスフェート、トリス(キシレニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジフェニルホスフェート)、レゾルシノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ハイドロキノンビス(ジキシレニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジフェニルホスフェート)、4,4’−ビフェノールビス(ジキシレニルホスフェート)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)のビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノール類(ビスフェノールAなど)のビス(ジキシレニルホスフェート)などが例示できる。芳香族リン酸エステル系難燃剤は、ハロゲン化芳香族リン酸エステル系難燃剤も含む。ハロゲン化芳香族リン酸エステル系難燃剤としては、前記芳香族リン酸エステル系難燃剤のハロゲン化物、例えば、トリス(4−ブロモフェニル)ホスフェート、トリス(2,4−ジブロモフェニル)ホスフェート、トリス(2,4,6−トリブロモフェニル)ホスフェートなど)、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパン−トリクロロホスフィンオキシド重縮合物(重合度1〜3)のフェノール縮合物(旭電化工業(株)「アデカスタブFP-700」「アデカスタブFP-750」)などが例示できる。リン系難燃剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0057】
難燃剤は難燃助剤と組み合わせて用いてもよい。難燃助剤は、例えば、ドリップ防止剤又はフッ素系樹脂で構成できる。難燃助剤は、通常、粉粒状の形態で使用できる。フッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが例示できる。これらのうち、ポリテトラフルオロエチレン、特にフィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンなどが好ましい。
【0058】
難燃剤の使用量は、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との総量100重量部に対して、1〜50重量部、好ましくは10〜40重量部、さらに好ましくは15〜35重量部程度である。
【0059】
難燃助剤の使用量は、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との総量100重量部に対して、0.1〜5重量部、好ましくは0.3〜3重量部、さらに好ましくは0.5〜2重量部程度であってもよい。
【0060】
ポリカーボネート系樹脂組成物は、他の樹脂成分、例えば、ビニルアルコール系樹脂(ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタールなど)、アクリル系樹脂(ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体(MS樹脂)、メタクリル酸メチル−アクリル酸エステル共重合体など)、ハロゲン含有樹脂(ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、フッ素樹脂など)、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、熱可塑性エラストマー(スチレン系、オレフィン系、ポリエステル系、ポリアミド系エラストマーなど)、ゴム状重合体などを含んでいてもよい。
【0061】
また、ポリカーボネート系樹脂組成物は、さらに種々の添加剤、例えば、充填剤、安定剤[熱安定剤(亜リン酸、リン酸、亜ホスホン酸、ホスホン酸やこれらのエステルなど)、酸化防止剤(ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン類、リン系酸化防止剤など)、紫外線吸収剤(ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤など)など]、離型剤[ワックス類(ポリエチレンワックス、高級脂肪酸エステル、脂肪酸アミドなど)、シリコーンオイルなど]、帯電防止剤、着色剤などを含んでもよい。充填剤としては、前記炭素繊維(D)とは異なる他の無機充填剤[繊維状充填剤(ガラス繊維、金属繊維、ウイスカー類(チタン酸カリウム、ホウ酸アルミニウムなど)など)、板状充填剤(ガラスフレークなど)、粉粒状充填剤(ガラスビーズ、シリカ、アルミナ、チタニア、炭酸カルシウム、酸化チタン、タルクなど)など]、有機充填剤[繊維状充填剤(アラミド繊維など)、粉粒状充填剤(フェノール樹脂粒子、架橋スチレン系樹脂粒子、架橋アクリル系樹脂粒子など)]が例示できる。
【0062】
ポリカーボネート系樹脂組成物は、慣用の方法、例えば、(i)混合機(タンブラー、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、ナウタミキサー、リボンミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機など)で各成分を予備混合して溶融混練機(一軸又はベント式二軸押出機など)で溶融混練し、ペレット化手段(ペレタイザーなど)でペレット化する方法、(ii)所望の成分のマスターバッチを調製し、必要により他の成分と混合して溶融混練機で溶融混練してペレット化する方法、(iii)各成分を溶融混練機に供給して溶融混練してペレット化する方法、(iv)所定の成分(例えば、前記酸変性オレフィン化合物など)を溶融混練機の途中部で添加して混練する方法などにより調製できる。
【0063】
本発明では、ポリカーボネート系樹脂(A)と、特定のゴム含有スチレン系樹脂(B)と、酸変性オレフィン化合物(C)と、炭素繊維(D)とを組み合わせるので、薄肉成形しても、成形品の変形破壊を有効に防止でき、耐屈曲性を向上させることができる。そのため、本発明には、耐屈曲性の改善方法も含まれ、この改善方法では、ポリカーボネート系樹脂(A)、特定のゴム含有スチレン系樹脂(B)、酸変性オレフィン化合物(C)及び炭素繊維(D)を混合して、樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物で形成される薄肉成形品の耐屈曲性を改善し得る。
【0064】
耐屈曲性は、樹脂組成物で形成された薄肉成形品を円柱に沿って弧状に屈曲させたとき、成形品の破壊に至る円柱の半径で評価することができる。本発明の樹脂組成物では、樹脂組成物で形成され、縦12cm、横4cm及び厚み1mmの薄肉成形品を、半径の異なる円柱に巻き付けて屈曲させたとき、前記成形品の破壊に至る円柱の半径が、例えば、1〜11.5mm、好ましくは1.2〜11mm、(例えば、1.5〜10mm)、さらに好ましくは2〜8mm(例えば、2.5〜7.5mm)程度である。
【0065】
(成形体)
本発明の成形体は、前記ポリカーボネート系樹脂組成物で形成されており、厚みの薄い薄肉部を有する薄肉成形体である。成形体は、慣用の方法、例えば、射出成形、押出成形、ブロー成形、プレス成形、真空成形などにより前記ポリカーボネート系樹脂組成物を成形することにより得られる。
【0066】
成形体の厚み(又は薄肉部の厚み)は、例えば、0.5〜1.5mm、好ましくは0.5〜1.2mm(例えば、0.5〜1mm)、さらに好ましくは0.8〜1mm程度である。このように、成形体(又は薄肉部)の厚みが小さくても、剛性及び靱性(耐屈曲性、曲げ強度、曲げ弾性率など)を付与できる。
【0067】
成形体の引張強度は、厚さ1mmの平板状成形体について測定したとき、例えば、40〜100MPa、好ましくは45〜90MPa、さらに好ましくは50〜80MPa(例えば、55〜70MPa)程度であってもよい。
【0068】
また、ISO178に準拠した曲げ弾性率は、厚さ1mmの平板状成形体について測定したとき、5,000〜15,000MPa、好ましくは7,000〜13,000MPa、さらに好ましくは8,000〜12,000MPa(例えば、9,000〜10,000MPa)程度である。
【0069】
前記成形体は、前記ポリカーボネート系樹脂組成物で形成されているため、高い耐屈曲性を有するとともに、剛性にも優れている。そのため、例えば、各種電気及び/又は電子製品(特に、オフィス用、家庭用の各種電気及び/又は電子製品など)などの筐体を形成するのに適している。このような成形体としては、例えば、トナーカートリッジなどの各種カートリッジ、メディアドライブ、オフィスオートメーション機器筐体、コンピュータ筐体(パーソナルコンピュータ筐体、携帯電子機器筐体など)などが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のポリカーボネート系樹脂組成物及びその成形体(薄肉成形体)は、種々の用途、例えば、車輌用内装又は外装部品、精密機器(デジタルカメラ、携帯型情報端末など)のハウジング部品(筐体など)、オフィスオートメーションOA機器(パーソナルコンピュータ、プリンター、複写機、ファクシミリなど)のハウジング部品(筐体など)などに適用できる。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0072】
なお、実施例及び比較例において、成形品の特性は次のようにして評価した。
【0073】
(i)引張強さ(引張弾性率、MPa):JIS K7113に準じて引張り弾性率を測定した。
【0074】
(ii)曲げ強さ(MPa)及び曲げ弾性率(MPa):1mm厚みの平板状成形体を用いて、ISO178に準拠して曲げ試験を行い、曲げ強さ及び曲げ弾性率(FM)を測定した。
【0075】
(iii)衝撃強度(シャルピー衝撃強度、kJ/m):ISO179に従い、厚さ1mmの試験片にて23℃雰囲気下で衝撃強度を測定した。
【0076】
(iv)熱変形温度(HDT、℃):ISO 75に基づいて測定した。
【0077】
(v)耐屈曲性(屈曲半径、cm):
実施例及び比較例で得られた試験片から、ゲート方向に対して平行に幅4cmの板を切り出して、試験片を作製した。
【0078】
図1に示すように、円柱状の治具3の側面に、得られた試験片1の長さ方向における中央部2を密着させた状態で試験片1を巻き付けて屈曲させ、屈曲に伴い試験片が破壊したときの治具3の半径を屈曲半径として、耐屈曲性の指標とした。なお、屈曲に伴う試験片の破壊は、試験片の長さ方向における中央部2で観察した。
【0079】
実施例1〜17及び比較例1〜3
表1及び表2に示す割合で各成分をV型ブレンダーで混合した後、スクリュー径30mmのベント式二軸押出機[日鋼(株) 二軸押出機TEX30α]によりシリンダー温度260℃で混練、ペレット化した。得られたペレットを射出成形機[住友重機工業(株) SH100]によりシリンダー温度250℃、金型温度60℃で射出成形し、縦12cm、横12cm、厚み1mmの試験片を作製した。試験片は、各試験に応じて、適宜、切り出して用いた。
【0080】
なお、実施例及び比較例では、下記の成分を用いた。
【0081】
(i)PC系樹脂:芳香族ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製ビスフェノールA型ポリカーボネート樹脂、S3000F、粘度平均分子量20,000)
(ii)ABS:ABS樹脂(三菱A&L(株)製、AT05)
MBS:MBS樹脂(呉羽化学工業(株)製、パラロイドEXL2602)。
【0082】
(iii)C−1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(三洋化成工業(株)製、ユーメックス1010、Mw30,000、Mn8,000)
C−2:無水マレイン酸共重合ポリエチレンワックス(三菱化学(株)製、ダイヤカルナ30B、Mw20,000、Mn6,600)
C−3:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(イーストマンケミカルズ社製、エポレンE43、Mw9,100、Mn3,900)
C−4:無水マレイン酸グラフト化ポリプロピレン(アトフィナ社製、CA100、Mw78,000、Mn25,000)
C−5:無水マレイン酸共重合ポリエチレンワックス(三菱化学(株)製、ダイヤカルナ30、Mw9,000、Mn3,800)。
【0083】
(iv)炭素繊維:東邦テナックス(株)製、HTA−C6−UE L1(平均繊維径6μm、平均繊維長6mm)
(v)難燃剤:有機リン系難燃剤(アデカ(株)製、アデカスタブFP−500)
(vi)難燃助剤:ポリテトラフルオロエチレン(三井デュポンフルオロケミカル(株)製、CD141)
(vii)熱安定剤:チバスペシャルティーケミカルズ(株)製、SU168
(viii)タルク:林化成(株)製、5000S。
【0084】
結果を表1及び表2に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
【表2】

【0087】
表から明らかなように、実施例の試験片では、比較例に比べて、高い衝撃強度が得られているとともに、耐屈曲性も顕著に改善されている。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】図1は耐屈曲性の測定方法を説明するための概略側面図である。
【符号の説明】
【0089】
1…試験片
2…試験片の長さ方向における中央部
3…円柱状治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂(A)と、ジエン系ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフトしたゴム含有スチレン系樹脂(B)と、酸変性オレフィン化合物(C)と、炭素繊維(D)とで構成され、かつ耐屈曲性が改善された薄肉成形品を形成するためのポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項2】
縦12cm、横4cm及び厚み1mmの薄肉成形品を、半径の異なる円柱に巻き付けて屈曲させたとき、前記成形品の破壊に至る円柱の半径が、1〜11.5mmである請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
薄肉成形品が破壊に至るときの円柱の半径が、1.5〜10mmである請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ゴム含有スチレン系樹脂(B)の割合が、前記酸変性オレフィン化合物(C)1重量部に対して1〜30重量部であり、前記炭素繊維(D)の割合が、前記酸変性オレフィン化合物(C)における酸成分量1重量部に対して5〜400重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸変性オレフィン化合物(C)が重量平均分子量1.5×10〜30×10を有する酸変性オレフィン系樹脂である請求項1又は4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ポリカーボネート系樹脂(A)が、粘度平均分子量1.5×10〜3×10を有する芳香族ポリカーボネート系樹脂であり、ゴム含有スチレン系樹脂(B)が、アクリロニトリル−ブタジエンゴム−スチレン樹脂及びメタクリル酸メチル−ブタジエンゴム−スチレン樹脂から選択された少なくとも一種であり、酸変性オレフィン化合物(C)が、重量平均分子量2×10〜20×10を有する酸変性オレフィン系樹脂であり、炭素繊維(D)が、平均繊維径0.5〜50μm及び平均繊維長5〜400mmを有する請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム含有スチレン系樹脂(B)との割合(重量比)が、(A)/(B)=80/20〜97/3であり、ポリカーボネート系樹脂(A)及びゴム含有スチレン系樹脂(B)の総量100重量部に対して、酸変性オレフィン化合物(C)の割合が0.1〜10重量部であり、炭素繊維(D)の割合が5〜20重量部である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、有機リン系難燃剤を含有する請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1記載のポリカーボネート系樹脂組成物で形成された薄肉成形体。
【請求項10】
トナーカートリッジ、オフィスオートメーション機器筐体、又はコンピュータ筐体である請求項9記載の成形体。
【請求項11】
ポリカーボネート系樹脂(A)、ジエン系ゴム成分に少なくともスチレン系単量体がグラフトしたゴム含有スチレン系樹脂(B)、酸変性オレフィン化合物(C)及び炭素繊維(D)を混合して、樹脂組成物を製造し、この樹脂組成物で形成される薄肉成形品の耐屈曲性を改善する方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2008−38003(P2008−38003A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−213355(P2006−213355)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(501041528)ダイセルポリマー株式会社 (144)
【Fターム(参考)】