説明

ポリカーボネート組成物

【課題】5mm未満の厚さで良好な物理的性質及び難燃性を有する耐衝撃性改良ポリカーボネート組成物に対するニーズが存在している。
【解決手段】上述のニーズは、ポリカーボネート、約3〜約7のpHを有する耐衝撃性改良剤、並びに臭素及び塩素を本質的に含まない難燃剤を含んでなる熱可塑性組成物で満たされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリカーボネートに関し、具体的には耐衝撃性改良ポリカーボネート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族カーボネートポリマー組成物の靭性を向上させるためには、ゴム系耐衝撃性改良剤の添加が常用されている。耐衝撃性改良ポリカーボネート組成物は、一定範囲の温度及び条件で使用できるように凍結温度(0℃)以下で延性を有することが特に望ましい。多くの用途では、組成物は難燃性も有していなければならない。残念ながら、ゴム系耐衝撃性改良剤の含有はしばしば難燃性に悪影響を及ぼす。従来は、ハロゲン化難燃剤が物理的性質への顕著な悪影響なしに難燃性を付与してきた。しかし、環境問題の点で、臭素及び塩素を含まない難燃剤を使用することが重要であると考えられる。塩素及び臭素を含まない若干の常用難燃剤は、多くの場合、物理的性質に悪影響を及ぼす量で使用しなければならない。このように、特に5mm未満の厚さでは、難燃性と望ましい物理的性質(特に延性)との組合せを得るのは難しいことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3635895号明細書
【特許文献2】米国特許第3775367号明細書
【特許文献3】米国特許第4001184号明細書
【特許文献4】米国特許第4217438号明細書
【特許文献5】米国特許第4654400号明細書
【特許文献6】米国特許第4997883号明細書
【特許文献7】米国特許第5036126号明細書
【特許文献8】米国特許第5451624号明細書
【特許文献9】米国特許第5658974号明細書
【特許文献10】米国特許第6545089号明細書
【特許文献11】ベルギー特許第1006984号明細書
【特許文献12】ドイツ特許第4024667号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第0186917号明細書
【特許文献14】欧州特許出願公開第0266596号明細書
【特許文献15】欧州特許出願公開第0272425号明細書
【特許文献16】欧州特許出願公開第0326938号明細書
【特許文献17】欧州特許出願公開第0635547号明細書
【特許文献18】欧州特許出願公開第0707045号明細書
【特許文献19】欧州特許出願公開第0780438号明細書
【特許文献20】国際公開第91/18052号パンフレット
【特許文献21】特開昭54−040852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、5mm未満の厚さで良好な物理的性質及び難燃性を有する耐衝撃性改良ポリカーボネート組成物に対するニーズが存在している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述のニーズは、ポリカーボネート、約3〜約7のpHを有する耐衝撃性改良剤、並びに臭素及び塩素を本質的に含まない難燃剤を含んでなる熱可塑性組成物で満たされる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】若干の実施例に関する温度掃引データを示すグラフである。
【図2】pHをブレンド中の異種MBSゴム含有量と関係づけるグラフである。
【図3】表3のデータについて消炎時間を予測pHと関係づけるグラフである。
【図4】表4のデータについて消炎時間をpHと関係づけるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
熱可塑性組成物は、ポリカーボネート、約3〜約7のpHを有する耐衝撃性改良剤、並びに塩素及び臭素を本質的に含まない難燃剤を含んでなる。本組成物は、約1〜約1.5mmの厚さでUL94に準拠してV1又はそれより良好な評価を達成し得る。本組成物は、ASTM D256(ノッチ付アイゾット)に従って−25℃以下の延性−脆性遷移温度を有する。
【0008】
熱可塑性組成物は、塩素及び臭素を本質的に含まないものであり得る。本明細書中で使用する「塩素及び臭素を本質的に含まない」とは、塩素又は臭素或いは塩素又は臭素含有物質を意図的に添加することなく製造された物質をいう。しかし、複数の製品を加工する設備では、若干量の相互汚染が起こって通例は重量基準でppm程度の臭素及び/又は塩素レベルを生じ得ることは言うまでもない。この点を理解すれば、「臭素及び塩素を本質的に含まない」とは、重量基準で約100ppm以下、約75ppm以下又は約50ppm以下の臭素及び/又は塩素含有量を有するものとして定義できることが容易に認められよう。この定義を難燃剤に適用する場合、それは難燃剤の全重量を基準にする。この定義を熱可塑性組成物に適用する場合、それはポリカーボネート、耐衝撃性改良剤及び難燃剤の全重量を基準にする。
【0009】
本明細書中で使用するポリカーボネートは、下記の式(I)の構造単位を有する組成物を包含する。
【0010】
【化1】

式中、R基の総数の約60%以上は芳香族有機基であり、その残部は脂肪族基、脂環式基又は芳香族基である。好ましくは、Rは芳香族有機基であり、さらに好ましくは下記の式(II)の基である。
【0011】
【化2】

式中、A及びAの各々は単環式二価アリール基であり、YはAとAとを隔てる1つ又は2つの原子を有する橋かけ基である。例示的な実施形態では、1つの原子がAとAとを隔てている。この種の基の実例は、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、メチレン、シクロヘキシルメチレン、2−[2.2.1]−ビシクロヘプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン及びアダマンチリデンである。橋かけ基Yは、炭化水素基或いは飽和炭化水素基(例えばメチレン、シクロヘキシリデン又はイソプロピリデン)であり得る。
【0012】
ポリカーボネートは、一般には酸受容体及び分子量調整剤の存在下でジヒドロシ化合物を、ホスゲン、ハロギ酸エステル、炭酸塩又は炭酸エステルのようなカーボネート前駆体と反応させることで製造できる。炭酸塩又は炭酸エステルは、置換されていても置換されていなくてもよい。本明細書中で使用する「ジヒドロキシ化合物」という用語は、例えば、下記の一般式(III)を有するビスフェノール化合物を包含する。
【0013】
【化3】

式中、R及びRは各々ハロゲン原子又は一価炭化水素基を表し、同一であっても相異なっていてもよく、p及びqは各々独立に0〜4の整数であり、Xは下記の式(IV)の基の1つを表す。
【0014】
【化4】

式中、R及びRは各々独立に水素原子又は一価線状若しくは環状炭化水素基を表し、Rは二価炭化水素基である。
【0015】
好適なジヒドロキシ化合物の若干の非限定的実例には、米国特許第4217438号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に名称又は式(一般式若しくは特定式)で開示されているジヒドロキシ置換芳香族炭化水素がある。式(III)で表すことができる種類のビスフェノール化合物の具体例の非排他的リストには、下記のものが包含される。
【0016】
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以後は「ビスフェノールA」又は「BPA」)、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−ブタン、
ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシーt−ブチルフェニル)プロパン、
2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、及び
1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン。
【0017】
また、ホモポリマーではなくカーボネートコポリマーの使用が所望される場合には、2種以上の二価フェノール、或いは二価フェノールとグリコール、ヒドロキシ−若しくは酸−末端停止ポリエステル、二塩基酸又はヒドロキシ酸とのコポリマーを使用することも可能である。ポリアリーレート及びポリエステルカーボネート樹脂又はこれらのブレンドも使用できる。枝分れポリカーボネート並びに線状ポリカーボネートと枝分れポリカーボネートのブレンドも有用である。枝分れポリカーボネートは、重合中に枝分れ剤を添加することで製造できる。
【0018】
これらの枝分れ剤は公知であり、ヒドロキシル、カルボキシル、カルボン酸無水物、ハロホルミル及びこれらの混合物であり得る3以上の官能基を含む多官能性有機化合物を包含し得る。その具体例には、トリメリト酸、トリメリト酸無水物、トリメリト酸三塩化物、トリス−p−ヒドロキシフェニルエタン、イサチン−ビスフェノール、トリス−フェノールTC(1,3,5−トリス((p−ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリス−フェノールPA(4(4(1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エチル)−α,α−ジメチルベンジル)フェノール)、4−クロロホルミルフタル酸無水物、トリメシン酸及びベンゾフェノンテトラカルボン酸がある。枝分れ剤は、約0.05〜2.0重量%のレベルで添加し得る。枝分れ剤及び枝分れポリカーボネートの製造方法は、米国特許第3635895号及び同第4001184号(その開示内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす)に記載されている。あらゆる種類のポリカーボネート末端基が想定されている。
【0019】
好ましいポリカーボネートは、ビスフェノールA(ここで、A及びAの各々はp−フェニレンであり、Yはイソプロピリデンである)に基づくものである。好ましくは、ポリカーボネートの重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定して約5000〜約100000、さらに好ましくは約10000〜約65000、最も好ましくは約15000〜約35000である。
【0020】
ポリカーボネートは、ポリカーボネート及び耐衝撃性改良剤の全重量を基準にして約95〜約99重量%の量で存在する。この範囲内では、ポリカーボネートは約94重量%以上、約95重量%以上又は約96重量%以上の量で存在し得る。やはりこの範囲内では、ポリカーボネートは約98重量%以下又は約97重量%以下の量で存在し得る。
【0021】
耐衝撃性改良剤は、アクリレート耐衝撃性改良剤又はジエンゴム耐衝撃性改良剤であり得る。好ましくは、耐衝撃性改良剤は、メタクリレート−ブタジエン−スチレン(MBS)、ポリ(ブチルアクリレート)−メチルメタクリレート、ポリ(ブチルアクリレートコシロキサン)−メチルメタクリレート及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される。ポリ(ブチルアクリレートコシロキサン)−メチルメタクリレートは、ブチルアクリレート及びシロキサンコポリマーからなるコアと、メチルメタクリレートからなるシェルとを有する耐衝撃性改良剤である。ポリ(ブチルアクリレート)−メチルメタクリレートは、ブチルアクリレートのコアとメチルメタクリレートシェルとを有する耐衝撃性改良剤である。耐衝撃性改良剤のpHは、難燃剤及び組成物の物理的性質に対して悪影響を及ぼさないようなものにすべきである。理論によって拘束されることはないが、3未満のpHを有する耐衝撃性改良剤の使用はポリカーボネートを劣化させて物理的性質の顕著な変化をもたらすことがあると考えられる。したがって、耐衝撃性改良剤は好ましくは約3〜約7のpHを有する。この範囲内では、pHは約6.5以下又は約6.0以下であり得る。やはりこの範囲内では、pHは約3.2以上、約3.4以上、又は約3.6以上であり得る。耐衝撃性改良剤がまだ所望のpHを有していない場合には、所望のpHを得るのに十分な量の酸又は塩基を添加することでそのpHを達成できる。
【0022】
一実施形態では、酸はリン含有オキシ酸である。リン含有オキシ酸は、好ましくは、一般式H(式中、m及びnは各々2以上であり、tは1以上である。)を有するマルチプロトン性リン含有オキシ酸、又は一般式(RO)(RO)(RO)Hz−3(式中、xは0又は正の整数であり得、zは3以上であり得、yは1以上であり、R、R及びRは有機基である。)を有するマルチプロトン性リン含有オキシ酸のトリエステルである。例示的な酸には、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、チオリン酸、フルオロリン酸、ジフルオロリン酸、フルオロ亜リン酸、ジフルオロ亜リン酸、フルオロ次亜リン酸及び次リン酸の1種以上がある。
【0023】
別法として、pH値の異なる耐衝撃性改良剤を混合して所望のpHを有する混合物を得ることで所望のpHを達成できる。耐衝撃性改良剤のpHは、組成物のpHに影響を及ぼすことがある。
【0024】
耐衝撃性改良剤は、ポリカーボネートの全重量を基準にして約0.5〜約5重量%の量で存在する。この範囲内では、耐衝撃性改良剤は約1重量%以上、約1.5重量%以上、又は約2重量%以上の量で存在し得る。やはりこの範囲内では、耐衝撃性改良剤は約4.5重量%以下、約4重量%以下、又は約3.5重量%以下の量で存在し得る。
【0025】
有用な難燃剤は、無機プロトン酸及び1以上の炭素原子を含む有機ブレンステッド酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属のような塩系難燃剤である。これらの塩は、塩素及び/又は臭素を含むべきでない。好ましくは、塩系難燃剤はスルホン酸塩である。スルホン酸塩の非限定的な例は、ペルフルオロアルカンスルホン酸のアルカリ金属塩、C〜Cアルキルアンモニウム塩又はアンモニウム塩である。かかる塩は上述の米国特許第3775367号に記載されており、例えば、ペルフルオロメチルブタンスルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、ペルフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、ペルフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、ペルフルオロプロパンスルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、ペルフルオロヘキサンスルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、ペルフルオロヘプタンスルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、ペルフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、ペルフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、及びジフェニルスルホン−3−スルホン酸ナトリウム、カリウム又はテトラエチルアンモニウム、並びにこれらの塩の2種以上の混合物のような塩を含む。一実施形態では、難燃剤は、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウム(KSS)、ペルフルオロブタンスルホン酸カリウム(Rimar塩)、ペルフルオロメタンスルホン酸カリウム及びこれらの1種以上を含む組合せからなる群から選択される。その他の難燃剤は、ポリ(フェニルメチルシロキサン)及びオクタフェニルテトラシクロシロキサンのようなフェニルポリシロキサンである。ペルフルオロブタンスルホン酸カリウムは3M社及びBayer社から入手でき、ジフェニルスルホン−3−スルホン酸カリウムはSeal Sands社から入手できる。
【0026】
難燃剤は、ポリカーボネートの重量を基準にして約0.005〜約2重量%の量で存在する。この範囲内では、難燃剤は約0.01重量%以上又は約0.02重量%以上の量で存在し得る。やはりこの範囲内では、難燃剤は約1.5重量%以下又は約1.0重量%以下の量で存在し得る。
【0027】
本組成物は、さらにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含み得る。PTFEは、通例はTSANとして知られる添加剤として添加される。TSANは、PTFEの水性分散液の存在下でスチレン及びアクリロニトリルを共重合させることで製造される。通例、TSANはPTFE50重量部(pbw)及び75wt%のスチレンと25wt%のアクリロニトリルとを含むスチレン−アクリロニトリルコポリマー50pbwを含んでいる。若干の場合には、ポリテトラフルオロエチレンはスチレンアクリロニトリル樹脂に封入されている。TSANの有用な量は、ポリカーボネートの全重量を基準にして約0.02〜約1.5重量%である。この範囲内では、TSANは約0.07重量%以上又は約0.1重量%以上の量で存在し得る。やはりこの範囲内では、TSANは約1.2重量%以下又は約1.0重量%以下又は約0.5重量%以下の量で存在し得る。
【0028】
本組成物は、この種の樹脂組成物中に通常配合される1種以上の各種添加剤を含み得る。かかる添加剤は、例えば、充填材又は補強材、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、帯電防止剤、離型剤、追加の樹脂及び発泡剤である。充填材又は補強材の例には、ガラス繊維、ガラスビーズ、炭素繊維、シリカ、タルク及び炭酸カルシウムがある。熱安定剤の例には、トリフェニルホスファイト、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(混合モノ−及びジ−ノニルフェニル)ホスファイト、ジメチルベンゼンホスホネート及びトリメチルホスフェートがある。酸化防止剤の例には、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート及びペンタエリトリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]がある。光安定剤の例には、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール及び2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンがある。可塑剤の例には、ジオクチル−4,5−エポキシ−ヘキサヒドロフタレート、トリス(オクトキシカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリステアリン及びエポキシ化大豆油がある。帯電防止剤の例には、グリセロールモノステアレート、ステアリルスルホン酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムがある。離型剤の例には、ペンタエリトリトールテトラステアレート、ステアリルステアレート、みつろう、モンタンろう及びパラフィンろうがある。他の樹脂の例には、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート及びポリ(アリーレンエーテル)がある。上述の添加剤の任意の組合せも使用できる。かかる添加剤は、組成物を形成するために成分を混合する際に適当な時点で混合できる。
【0029】
本組成物は、任意公知の混合方法又はブレンディング方法を用い、溶解状態又は溶融状態でポリカーボネート、耐衝撃性改良剤、難燃剤及び任意の他の添加剤を均質混合又はその他のやり方で接触させることで製造できる。通例、2つの異なる混合段階、即ち予備混合段階及び溶融混合段階が存在する。予備混合段階では、成分が一緒に混合される。この予備混合段階は、通例はタンブラーミキサー又はリボンブレンダーを用いて実施される。しかし、所望ならば、ヘンシェル(Henschel)ミキサーのような高剪断ミキサー又は類似の高強度装置を用いて予備混合物を製造することもできる。予備混合段階に続いて、予備混合物を溶融して溶融物として再び混合する溶融混合段階を実施しなければならない。別法として、予備混合段階を排除し、別々の供給系統を通して原料を溶融混合装置(例えば、押出機)の供給部に直接添加することも可能である。溶融混合段階では、成分を一軸又は二軸押出機で溶融混練し、ペレットとして押し出すのが通例である。
【実施例】
【0030】
本組成物を以下の非限定的な実施例でさらに例示する。
【0031】
以下の例で使用した材料を表1に示す。
【0032】
【表1】

「Tests for Flammability of Plastic Materials,UL94」と題するUnderwriter’s Laboratory Bulletin 94の方法に従って燃焼試験を実施した。この方法に従い、5つの試料について得られた試験結果に基づいて材料をUL94 HB、UL94 V0、UL94 V1又はUL94 V2として分類した。UL94に基づくこれらの燃焼性等級の各々に関する基準は、下記の通りである。
【0033】
HB:試料の長軸が火炎に対して水平になるように配置した5インチの試料で、試料の燃焼速度が3インチ/分未満であり、炎は4インチの試料が燃える前に消失すべきである。
【0034】
V0:長軸が火炎に対して180度となるように配置した試料で、点火炎を取り除いた後の平均有炎燃焼及び/又はいぶり時間が5秒を超えてはならず、鉛直に配置した試料のすべてが脱脂綿を発火させる燃焼粒子のドリップを生じてはならない。5試験片消炎時間(FOT)は、5枚の短冊状試験片に関する消炎時間の和であり、それぞれは50秒の最大消炎時間中に2度接炎する。
【0035】
V1:長軸が火炎に対して180度となるように配置した試料で、点火炎を取り除いた後の平均有炎燃焼及び/又はいぶり時間が25秒を超えてはならず、鉛直に配置した試料のすべてが脱脂綿を発火させる燃焼粒子のドリップを生じてはならない。5試験片消炎時間は、5枚の短冊状試験片に関する消炎時間の和であり、それぞれは250秒の最大消炎時間中に2度接炎する。
【0036】
V2:長軸が火炎に対して180度となるように配置した試料で、点火炎を取り除いた後の平均有炎燃焼及び/又はいぶり時間が25秒を超えてはならず、鉛直に配置した試料は綿を発火させる燃焼粒子のドリップを生じる。5試験片消炎時間は、5枚の短冊状試験片に関する消炎時間の和であり、それぞれは250秒の最大消炎時間中に2度接炎する。
【0037】
データの分析に際しては、平均消炎時間、消炎時間の標準偏差及び全ドリップ数を計算し、次いで統計的方法を用いて、そのデータを初回合格の確率(即ち、5枚の短冊状試験片に関する通常のUL94試験で特定の試料配合物がV0「合格」評価を得る確率「p(FTP)」)の予測値に変換した。UL試験で最高の難燃性能を得るためには、好ましくはp(FTP)ができるだけ1に近く(例えば、0.9を超え)、さらに好ましくは0.95を超える。
【0038】
例1〜5
成分を溶融ブレンドして表2示す組成物を製造した。組成物をペレット化し、次いで所定の試験片に成形した。1.1mmの厚さを有する試験片に関して難燃性を試験した。データを表2に示す。
【0039】
【表2】

表2は、数ppmの亜リン酸を添加すれば、ゴム耐衝撃性改良ポリカーボネートが1.1mmの厚さでV0評価を達成し得ることを示している。上述の難燃性試験結果の統計的分析はまた、亜リン酸の添加が消炎時間を短縮させ、したがってUL V0試験に合格する確率を増大させることも示唆している。意外にも、耐衝撃性改良剤のpHを低下させた場合(例1〜4)、組成物はpHを修正しない実施例5に比べてV0難燃性能を示すことがわかる。
【0040】
例6〜11
成分を溶融ブレンドして表3示す組成物を製造した。組成物をペレット化し、次いで所定の試験片に成形した。1.1mmの厚さを有する試験片に関して難燃性を試験した。データを表3に示す。
【0041】
【表3】

例7〜11では、MBSIIを用いて耐衝撃性改良剤組成物のpH値を調整した。図2は、表3のデータに基づき、MBS含有量をMBSIとMBSIIの混合物のpHと関係づけるグラフである。亜リン酸の不存在下では、MBSIIはMBSIより短い消炎時間を与えたが、1.2:1.8の比でのMBSIとMBSIIの組合せは最も短い消炎時間を示し、1.1mmでV0評価を達成した(例9)。
【0042】
図3は、MBSブレンドの予測pHを難燃性能と関係づけるものである。図3からわかる通り、V0評価を得るためには約3〜約7のpHが重要である。
【0043】
表3はまた、MBSIとMBSIIの組合せを用いると、配合押出し中のポリカーボネート粘度の保持率及び300℃での溶融安定性が向上することも示している。MBSI及びMBSIIの使用に由来する溶融安定性の向上は、高温粘度測定でも示された。図1は、1.2:1.8の重量比でのMBSIとMBSIIの組合せを有する例9が400℃付近の温度で最良の溶融安定性を有することを示している。
【0044】
例12〜19
成分を溶融ブレンドして表4示す組成物を製造した。組成物をペレット化し、次いで所定の試験片に成形した。1.1mmの厚さを有する試験片に関して難燃性を試験した。データを表4に示す。
【0045】
【表4】

例15、16及び17は、UL94に従ってV0評価を有している。例19は、MBSIで耐衝撃性改良したポリカーボネート組成物中に弱酸を添加すれば、(例13に比べて)難燃性能の顕著な向上が得られることをもう一度確認している。
【0046】
意外にも、同じ難燃剤パッケージを含むがいずれのMBSも含まない例12は燃焼試験でドリップを示したが、MBSを含む他のバッチはいずれもドリップを全く示さなかったことが注目される。これは、適当に調整されたpHレベル及び低い添加量レベルでは、MBSはドリップ防止機能を有し得ることを示唆している。
【0047】
図4は、表4中の例のpHを難燃性能と関係づけるグラフである。図4は、耐衝撃性改良剤又は耐衝撃性改良剤ブレンドのpHとUL94評価との間に明らかな関係があることを示している。
【0048】
例20〜25
成分を溶融ブレンドして表5示す組成物を製造した。組成物をペレット化し、次いで所定の試験片に成形した。1.1mmの厚さを有する試験片に関して難燃性を試験した。データを表5に示す。
【0049】
【表5】

例20〜25は、ペルフルオロブタンスルホン酸カリウム及びペルフルオロメタンスルホン酸カリウムを用いて同等な結果が得られることを実証している。
【0050】
以上、例示的な実施形態に関して本発明を説明してきたが、当業者であれば、本発明の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更及び同等物による構成要素の置換を行い得ることが理解されよう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために多くの修正を行うことができる。したがって、本発明はこの発明を実施するために想定される最良の形態として開示された特定の実施形態に限定されず、特許請求の範囲に含まれるすべての実施形態を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート、3〜7のpHを有する耐衝撃性改良剤、並びに臭素及び塩素を本質的に含まないフェニルポリシロキサンである難燃剤を含んでなる熱可塑性組成物。
【請求項2】
当該組成物が1〜1.5mmの厚さでV1のUL94評価を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
当該組成物が1〜1.5mmの厚さでV0のUL94評価を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
当該組成物が塩素及び臭素を本質的に含まない、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
ポリカーボネートがビスフェノールA系である、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
ポリカーボネートがポリカーボネート及び耐衝撃性改良剤の全重量を基準にして95〜99重量%の量で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
耐衝撃性改良剤がアクリレート耐衝撃性改良剤又はジエンゴム耐衝撃性改良剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
耐衝撃性改良剤が、メタクリレート−ブタジエン−スチレン、ポリ(ブチルアクリレート)−メチルメタクリレート、ポリ(ブチルアクリレートコシロキサン)−メチルメタクリレート及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
耐衝撃性改良剤がメタクリレート−ブタジエン−スチレンからなる、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
耐衝撃性改良剤が、pH値の異なる2種のメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂の混合物からなる、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
耐衝撃性改良剤が3.4〜6.0のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
耐衝撃性改良剤がポリカーボネートの全重量を基準にして0.5〜5重量%の量で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項13】
難燃剤が、ポリ(フェニルメチルシロキサン)、オクタフェニルテトラシクロシロキサン、及びこれらを含む組合せからなる群から選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
難燃剤がポリカーボネートの重量を基準にして0.005〜2重量%の量で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
当該組成物がさらに、スチレンアクリロニトリル樹脂に封入されたポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
当該組成物がさらに、補強材、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、帯電防止剤、離型剤、追加の樹脂、発泡剤及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される添加剤を含む、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
耐衝撃性改良剤が、pH値の異なる2種の耐衝撃性改良剤の組合せである、請求項1記載の組成物。
【請求項18】
耐衝撃性改良剤のpHが酸又は塩基を用いて調整されている、請求項1記載の組成物。
【請求項19】
当該組成物が、ASTM D256に従って−25℃以下の延性−脆性遷移温度を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項20】
ポリカーボネート、3〜7のpHを有するメタクリレート−ブタジエン−スチレン耐衝撃性改良剤、スチレンアクリロニトリル樹脂に封入されたポリテトラフルオロエチレン、並びに臭素及び塩素を本質的に含まないフェニルポリシロキサンである難燃剤から実質的になる熱可塑性組成物。
【請求項21】
ポリカーボネート、3〜7の総合pHを有するメタクリレート−ブタジエン−スチレン耐衝撃性改良剤の組合せ、スチレンアクリロニトリル樹脂に封入されたポリテトラフルオロエチレン、並びに臭素及び塩素を本質的に含まないフェニルポリシロキサンである難燃剤から実質的になる熱可塑性組成物。
【請求項22】
熱可塑性組成物の製造方法であって、
耐衝撃性改良剤のpHを3〜7の値に調整して調整耐衝撃性改良剤を製造し、
調整耐衝撃性改良剤、ポリカーボネート、並びに塩素及び臭素を本質的に含まないフェニルポリシロキサンである難燃剤を含む混合物を溶融混合する
ことを含んでなる方法。
【請求項23】
耐衝撃性改良剤がアクリレート耐衝撃性改良剤又はジエンゴム耐衝撃性改良剤である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
耐衝撃性改良剤が、メタクリレート−ブタジエン−スチレン、ポリ(ブチルアクリレート)−メチルメタクリレート、ポリ(ブチルアクリレートコシロキサン)−メチルメタクリレート及びこれらの2種以上の組合せからなる群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項25】
耐衝撃性改良剤がメタクリレート−ブタジエン−スチレンからなる、請求項22記載の方法。
【請求項26】
耐衝撃性改良剤が、pH値の異なる2種のメタクリレート−ブタジエン−スチレン樹脂の混合物からなる、請求項22記載の方法。
【請求項27】
耐衝撃性改良剤が3.4〜6.0のpHを有する、請求項22記載の方法。
【請求項28】
難燃剤が、ポリ(フェニルメチルシロキサン)、オクタフェニルテトラシクロシロキサン、及びこれらを含む組合せからなる群から選択される、請求項22記載の方法。
【請求項29】
混合物がさらに、スチレンアクリロニトリル樹脂に封入されたポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項22記載の方法。
【請求項30】
耐衝撃性改良剤が、pH値の異なる2種の耐衝撃性改良剤の組合せである、請求項22記載の方法。
【請求項31】
耐衝撃性改良剤のpHが酸又は塩基を用いて調整されている、請求項22記載の方法。
【請求項32】
酸が、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスフィン酸、ホスホン酸、メタリン酸、ヘキサメタリン酸、チオリン酸、フルオロリン酸、ジフルオロリン酸、フルオロ亜リン酸、ジフルオロ亜リン酸、フルオロ次亜リン酸及びフルオロ次リン酸からなる群から選択される1種以上の酸である、請求項31記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−68914(P2011−68914A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1761(P2011−1761)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【分割の表示】特願2006−547122(P2006−547122)の分割
【原出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(508171804)サビック・イノベーティブ・プラスチックス・アイピー・ベスローテン・フェンノートシャップ (86)
【Fターム(参考)】