ポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子、及び、その製造方法
【課題】ハロゲンフリー無機系難燃剤の消費が少なく、かつ、難燃剤(難燃材)とマトリックス樹脂との親和性が高くこれらの間に空隙のない、機械的性能に優れるポリスチレンと水酸化マグネシウムとからなる複合粒子の調整方法と、機械的特性の高いポリスチレンと水酸化マグネシウムとからなる複合粒子とを提供する。
【解決手段】スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行う。
【解決手段】スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン/無機系フィラー複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、特性改善もしくは新規の機能発現を目的とした複合粒子の必要性が高まっている。これら複合粒子の求められる機能は適用される部位により異なるため、さまざまな素材及び形態の複合粒子の基礎研究が盛んに行われており、その中に、機能性フィラーを分散したポリマーをベースとする複合粒子の研究が挙げられる。
【0003】
しかしながら、これら機能性フィラーを分散したポリマーをベースとする複合粒子単独では、機械的特性については充分なものが得られているとは云えない。
【0004】
ここで、ポリスチレン樹脂の高難燃グレード品として、従来、ポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤の複合体が知られている(特開昭61−171736号公報(特許文献1)等)が、このように、ハロゲンフリー無機系難燃剤をポリスチレンに配合して難燃化した場合、高難燃性を達成するためには、多量の水酸化マグネシウム等の難燃剤を添加する必要があった。
【0005】
ここで、難燃剤の大量の添加により、ポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤複合体の機械的強度は大幅に減少してしまう。このような理由から、ポリスチレンに対して、ハロゲンフリー無機系難燃剤を添加できる量には限りがあり、高難燃度化が困難であった。
【0006】
また、従来のポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤複合体では、ポリスチレンとハロゲンフリー無機系難燃剤との親和性は低く、これらの界面に空隙が生じてしまい、その結果、従来の複合体内部には多数の微細な空隙が存在していた。そのため真密度などの特性に影響を及ぼし、真密度の高い、すなわち、難燃剤(難燃材)とマトリックス樹脂との親和性が高くこれらの間に空隙のない、機械的性能に優れる理想的な複合体は得られなかった。
【0007】
一方、上述の複合体を調製する方法として、スチレンモノマーに、ハロゲンフリー無機系難燃剤を添加し、重合することで、ポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤複合体を得る化学的調製方法の採用も考えられるが、この方法を実施した場合、ポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤複合体に含有されるハロゲンフリー無機系難燃剤複合体は、調製の段階で消費されてしまうため、所望の含有量を得るためには、このような消費分を考慮して、本来の必要量以上の量のハロゲンフリー無機系難燃剤を配合する必要があった。
【特許文献1】特開昭61−171736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決する、すなわち、フィラーの消費が少なく、かつ、不ラーとマトリックス樹脂との親和性が高くこれらの間に空隙のない、機械的性能に優れるポリスチレンとフィラーとからなる複合粒子の調整方法と、機械的特性の高いポリスチレンとフィラーとからなる複合粒子とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムとを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法において、上記疎水化剤が、脂肪酸、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及び、シリコーンオイルから選ばれる1つ以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子は、請求項3に記載の通り、スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムとを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行って得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法によれば、真密度の制御が容易で、ハロゲンフリー無機系難燃剤の消費が少なく、かつ、機械的特性の高いポリスチレンと水酸化マグネシウムとからなる複合粒子の調整方法とすることができる。
【0013】
すなわち、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子では高い難燃性を得るために水酸化マグネシウムの配合量を増加させた場合であっても、得られる本発明に係る破断応力の低下が防げる。本発明によれば高い破断応力を有する複合体の調製が可能であり、あるいは、従来の破断応力を維持したまま、水酸化マグネシウムの添加量を増量し、高難燃化を達成することが可能となる。延いては、これまで限界があった、ハロゲンフリー無機系難燃剤の添加による、より高いスチレンの難燃化が可能となった。
【0014】
さらに、水酸化マグネシウムの配合量と得られた複合粒子の水酸化マグネシウム含有量が同等である。すなわち、従来より水酸化マグネシウムの配合量を減らしても同等の水酸化マグネシウム含有量を得ることが可能である。これは、本発明の化学的手法による調製方法でも、ロールによる混練りなどの物理的手法と同様に、含有成分の制御が容易になることを意味する。延いては材料及び製品設計が容易となり、開発時間が短縮されると云う効果が得られる。
【0015】
また、得られる本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の、樹脂成分と難燃剤界面との間の空隙が少なくなる。そのため、難燃剤の配合量に対応した真密度の変化が期待できる。つまり、任意の真密度を持つ複合粒子および成形体を容易に設計できる。材料及び製品設計時には、予備実験を短縮できるため、開発時間が短縮できる。延いては、他の特性に関しても、空隙部分の影響を考慮する必要がなく、水酸化マグネシウムそのものの特性が、確実に、ポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子、及び、この粒子を用いて作製した複合体に反映されると云う効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記課題解決に際し、本発明者等は、予備塊状−懸濁重合法、及び、液中乾燥法の2つのアプローチ試みた。
【0017】
[予備塊状−懸濁重合法によるアプローチ]
まず、予備塊状−懸濁重合法によるアプローチについて説明する。
本発明のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法(予備塊状−懸濁重合法による)では、スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムとを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行う。
【0018】
本発明で用いる架橋剤としては、ポリスチレン重合で用いられる一般的なもの、例えば、ジビニルベンゼンが使用でき、これらをスチレンモノマー100重量部に対して、通常、1重量部以上、100重量部以下添加するが、より好ましくは、5重量部以上、20重量部以下である
【0019】
一方、重合開始剤としても、ポリスチレン重合で用いられる一般的なもの、例えば、2,2’‐アゾビスイソブチルニトリルなどのアゾ系材料や、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリルなどの過酸化物系材料が使用でき、これらを、スチレンモノマー100重量部に対して、通常、0.1重量部以上、5重量部以下添加する。
【0020】
これらに配合する水酸化マグネシウムとしては、疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを用いる。
【0021】
ここで、疎水化剤としては、水酸化マグネシウム表面に何れかの形かで吸着し、疎水化効果を発揮する物質であるものであることが必要であり、このようなものとしては脂肪酸、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤(アルミネート系カップリング剤を含む)、及び、シリコーンオイルなどを挙げることができ、これらから1種以上選択して使用する。
【0022】
シランカップリング剤としては、特に、限定されるものではないが、例えば、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシシラン)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトシキシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトシキシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。このようなシランカップリング剤は、通常、水酸化マグネシウムに対して、0.1〜5重量%、好ましくは0.3〜1重量%の範囲で用いられる。
【0023】
また、疎水化が目的であるため、シランカップリング剤以外のカップリング剤、例えば、チタネート系カップリング剤やアルミニウム系カップリング剤もシランカップリング剤同様に用いることができる。
【0024】
また、脂肪酸としては、例えば、ブチル酸、バレリアン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マーガリン酸、アラギリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、ガドレイン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸、ネルボン酸など飽和、不飽和を問わず挙げられるが、好ましくは炭素数14〜24の飽和又は不飽和の高級脂肪酸が好ましく、例えば、オレイン酸やステアリン酸を挙げることができる。このような脂肪酸は、通常、0.5〜5.0重量%、好ましくは1〜3重量%の範囲で用いられる。
【0025】
シリコーンオイル類も用いることができ、そのようなものとしては例えばメチルハイドロジェンポリシロキサンなどが挙げられる。
【0026】
これら疎水化剤のうち、カップリング剤ではそのカップリング反応条件で水酸化マグネシウムと反応させて、表面処理を行って疎水化処理する。その他の疎水化剤では、水酸化マグネシウム表面にこれら疎水化剤が均一に塗布される条件(温度、時間、撹拌条件)で疎水化処理を行う。
【0027】
本発明で用いる水酸化マグネシウムの一般的に樹脂の難燃化用途に用いられているものをそのまま利用でき、粒径としては0.1μm以上、10μm以下である。0.1μm未満であると、疎水化処理後においても凝集しやすいため、モノマー中での分散性に乏しい。また、10μm超であると得られる複合粒子が不規則形状のものとなりやすい。
【0028】
このような予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムは、求められる特性に適合するよう上記スチレンモノマー100重量部に対して、通常、50重量部以下添加する。本発明によれば、水酸化マグネシウムの添加量は従来の水酸化マグネシウム添加ポリスチレンに比べて、従来と同じ添加率における最終成形物の破断強度低下が少ない。このような点を勘案して添加量を決定する。
【0029】
また、上記高級脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウムの他に、無水マレイン酸を、樹脂成分と水酸化マグネシウム界面の空隙を減少させる目的で添加する。添加量は上記スチレンモノマー100重量部に対して、通常、0.5重量部以上10重量部以下である。10重量部超であると、ポリスチレンの諸特性(圧縮強度や引張強度などの機械的強度等)に悪影響を及ぼす可能性があり、0.5重量部未満であると、効果が発現しにくい。
【0030】
このような原料を用い、上述のように、スチレンモノマーに架橋剤と重合開始剤とを加えて調製した混合溶液に、高級脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウムと無水マレイン酸とを加えて得た混合物に対して、例えば超音波による分散処理(例えば0.5〜20分程度)を行って上記高級脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウムを充分に分散させてから、塊状重合(予備塊状重合)を行う。
【0031】
塊状重合は、スターラーや攪拌機などで攪拌しながら、通常、45℃〜65℃の範囲で加熱しながら、予め検討を行って、粘度の上昇が生じて後工程で懸濁重合ができなくならない範囲で、例えば1分〜600分程度行う。ここで、粘度の著しい上昇が起きるまで塊状重合を行った場合、懸濁重合への移行が困難となる。
【0032】
上記塊状重合後に、懸濁重合を行う。塊状重合後に、懸濁重合を行わないと、任意の粒子形を持つ球状の微粒子を得ることができない。一方、前記のように塊状重合を行わずに、懸濁重合のみで重合を行うと、スチレン中で無水マレイン酸が分散せず、無水マレイン酸の添加効果が発現しにくく、さらに、水酸化マグネシウムが複合粒子内部で偏析してしまい、いずれにしても本発明の効果は得られない。
【0033】
ここで上記スチレンモノマー仕込量100重量部に対して、500重量部以上の水に、分散安定剤、例えば、ポリビニルアルコール(重合度500〜3000程度)、ポリビニルピロリドンなどを水100重量部に対して、0.5重量部〜3重量部添加させて調整した懸濁用溶液に対して、上記塊状重合混合物を撹拌しながら添加して懸濁させ、懸濁重合を行う。攪拌は、懸濁粒子の大きさが50μm〜1000μm程度となるような回転数で、懸濁重合終了時まで行う。その際、懸濁粒子が水性液内で互いに付着しあうことにより所定の大きさより大きくなるようであったら、再度、懸濁粒子の大きさを調整する。また、ホモミキサー(モノジナイザー)などによる乳化分散装置やマイクロチャンネル法などを用いて、1〜50μm程度の懸濁粒子を得ることもできる。懸濁重合は、懸濁液の温度は65℃以上〜80℃以下に保ち、通常、1時間以上8時間以下行う。
【0034】
懸濁重合終了後、濾過し、水、エタノール、メタノールなどで十分洗浄し、乾燥させ、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子が得られる。乾燥後は、必要に応じて解砕(複数のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウムがくっつき合って形成された二次粒子を分割して一次粒子へと戻すこと)処理を行う。
【0035】
このようなポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子は、耐火性が求められるような成形物、例えば玩具、OA機器、照明器具、台所用品に好適に用いることができる。
【0036】
[液中乾燥法によるアプローチ]
次いで、液中乾燥法によるアプローチについて説明する。
液中乾燥法の具体的な方法としては、ジクロロメタンなどの適当な疎水性溶媒にポリスチレンペレットを溶解してポリスチレン溶液を形成し、この溶液に必要に応じて疎水化した、機能性フィラーとして水酸化マグネシウムやあるいは炭酸カルシウム等を加えて拡散相を得、この拡散相をPVA水溶液中に分散させてエマルジョン化し、その後さらに加熱することで疎水性溶媒を除去し、ポリスチレンと無機フィラーとからなる複合粒子を得る方法である。
【0037】
ここで水酸化マグネシウムや炭酸カルシウムなどの親水性物質については、予め、高級脂肪酸、たとえばメチルハイドロジェンポリシロキサン(MHS)で表面処理し、熱処理を施すことで、疎水化処理したものを用いることが均一分散を達成する上で好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の複合粒子の製造方法の実施例について具体的に説明する。
【0039】
[予備塊状−懸濁重合法によるアプローチによる実施例]
<予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウム>
直径約20cm、深さ30cmの円筒状の容器であって、底部中央に長さ10cmのプロペラ状の攪拌子を備えた容器中に、疎水化剤としてメチルハイドロジェンポリシロキサン1gおよび粒径約1.2μmの水酸化マグネシウム(平角形状:難燃材)99gを容れ、30分間、攪拌(1600rpm)した。その後、150℃、2時間の熱処理を施すことで、予め疎水化剤で表面処理した疎水化水酸化マグネシウムを調製した。
【0040】
<塊状重合>
スチレンモノマー(St)20gに、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)0.2gと、架橋剤としてジビニルベンゼン(DVB)2.0gを溶解した混合溶液に、無水マレイン酸1.0g、および、上記で作製した予め疎水性の疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを2.0、6.0、10.0g加え、超音波処理を行って、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを均一に分散させた分散相とした。
【0041】
この分散相を50℃に保ちながら、所定の条件、すなわち、プロペラ状の攪拌子が200rpmとなるように攪拌しながら、予備塊状重合を2時間行った。
【0042】
<懸濁重合>
次に、分散安定剤ポリビニルアルコール(PVA)6.0gをイオン交換水450mlに溶解して得た懸濁用溶液(70℃に保たれている)を所定の条件、すなわち、プロペラ状の攪拌子が200rpmとなるように攪拌しながら、上記塊状重合後の分散相を加えて、4時間懸濁重合を行った。
【0043】
懸濁重合が終了後、減圧濾過して生成物を収集し、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後80℃の環境下で乾燥を行い、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子3種類を得た。
【0044】
<評価>
上記により得られた3種類の本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子について評価した。
【0045】
まず、走査型電子顕微鏡観察とエネルギー分散型X線分析とを行った。
スチレンモノマー100重量部に対して予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムの配合量が、それぞれ10重量部のサンプルPSG−56(本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子)、30重量部のサンプルPSG−57(本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子)、及び、50重量部のサンプルPSG−64(本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子)の走査型電子顕微鏡写真を図1、図3及び図5に、断面におけるマグネシウムの分散状態を調べたエネルギー分散型X線分析結果を図2、図4及び図6に、それぞれ示す。
【0046】
いずれの場合においても本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子は粒状形状であり、また、水酸化マグネシウムが表面部分ばかりでなく、内部にも分散している様子が確認できた。
【0047】
このことから懸濁重合に先立って行った予備塊状重合過程で、水酸化マグネシウムの粘性移動抵抗を増加させたため、偏析を比較的抑制できたことを示している。
【0048】
このように水酸化マグネシウムが均一分散された本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子を原料として用いた成形物はその内部の難燃化剤である水酸化マグネシウムが均一分散しており、安定した難燃性と、均一な機械的性質が得られることができる。
【0049】
次に、これら3種類の、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の強度(破断応力)について調べた。
【0050】
複合粒子の破断応力評価法としては、準ずるべき規格が存在しないため、独自の方法で調べた。具体的には、島津製作所社製の微小圧縮試験機(MCT−W500)を用い、最大試験力4500mN、負荷速度20mN/秒となる条件で測定した。その時、平面圧子の直径は500μmであった。
【0051】
これら評価結果を図7に示す。平松らの式(平松良雄、岡行俊、木山英郎、日本鉱業会誌、p.1024、vol.81(1965))により算出した破断応力は、水酸化マグネシウムの配合量が50重量部まで増加しても、大幅な低下は見られなかった。
【0052】
これは、疎水化処理された水酸化マグネシウムを高い配合比で配合した場合であってもその凝集体が形成されずに、ポリスチレンマトリックス内に均一に分散していること、および、樹脂成分(ポリスチレンマトリックス)と難燃剤(疎水化処理された水酸化マグネシウム)表面とが隙間なく結合していることに起因するものと考えられる。
【0053】
また、図8には、上記複合粒子中の疎水化処理水酸化マグネシウムの配合量と真密度および実際の水酸化マグネシウム含有量との関係を示す。
【0054】
複合粒子の見かけ密度は、島津製作所製の乾式自動密度計(アキュピック1330)を用いて測定した。具体的には、測定方式は乾式の定容積膨張法(ガス置換法)を用いて測定した。
【0055】
また、実際の水酸化マグネシウム含有量は、上記複合粒子を空気中・1000℃で燃焼させ、回収された酸化マグネシウム量から算出したものである。
【0056】
図8では水酸化マグネシウム配合量の増加と共に含有量も比例して増加し、配合量50重量部の場合には含有量は48重量部とほぼ等しい値を示した、このように水酸化マグネシウムが重合時に離脱せず、複合粒子に効率よく取り込まれる理由としては、粘性移動抵抗の増加、及び、疎水化剤によって水酸化マグネシウムに付与された疎水性、さらに、疎水化された水酸化マグネシウムの表面水酸基が無水マレイン酸を介してマトリックスのスチレンポリマーに化学的に結合することによる。
【0057】
ここで、疎水化剤、水酸化マグネシウム、マレイン酸、及びスチレンポリマー(スチレンコポリマー)との間の化学結合については、図9にそのモデル図を示す。
【0058】
すなわち、図9にモデル的に示すように、疎水化剤であるメチルハイドロジェンポリシロキサンは水酸化マグネシウムへ脱水素結合してこれを疎水化する。一方、スチレンポリマー(スチレンコポリマー)には無水マレイン酸を介して、水酸化マグネシウムが脱水結合する)ことによる。
【0059】
このように、真密度や機械的強度によって示される、樹脂成分と疎水化水酸化マグネシウムとの界面との高い親和性は、水酸化マグネシウムの疎水化による効果と、その疎水化水酸化マグネシウムと樹脂成分との化学的な結合に由来する。
【0060】
[液中乾燥法によるアプローチ]
ジクロロメタン(bp:約40℃)に市販のポリスチレンペレット100重量部を溶解したポリスチレン溶液に、上記と同様にして得た疎水化水酸化マグネシウム10重量部を加え、分散相とした。次いで、50℃の温度で保たれた恒温槽に、ポリビニルアルコール(PVA)を溶解した精製水の連続相を入れた容器を浸漬し、
300rpmで攪拌しながら上記分散相をこの連続相に注入し、ジクロロメタンを蒸発させて除去してポリスチレンを析出させた。
【0061】
液中乾燥終了後、減圧濾過を行って生成粒子を収集し、さらに洗浄および乾燥を行い、複合粒子を得た。同様にして、但し、ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量を30、50、あるいは、100重量部加えた複合粒子もそれぞれ得た。
【0062】
さらに、他のフィラーとして、炭酸カルシウム(充填剤)、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(酸化防止剤)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(金属不活性剤)、1,2−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム(滑剤)をそれぞれ上記同様に疎水化して、これらを複数種組み合わせて上記同様に配合して、それぞれ複合粒子を得た。
【0063】
これら複合粒子の諸特性を調査した結果を図10〜17に示す。図10は液中乾燥法で調製したポリスチレン粒子の走査型電子顕微鏡写真であり、図10(a)〜図10(d)はそれぞれ、ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が0重量部(配合なし)、10重量部、30重量部、及び、50重量部の複合粒子を示す。これらより、得られた粒子は非常に円形率の高く、表面に凹凸の少ない形状であることが判る。
【0064】
図11にはポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が100重量部の複合粒子の走査型電子顕微鏡写真を示した。図11(a)が全体像、図11(b)がその表面の拡大写真である。これらより疎水化水酸化マグネシウムがマトリックス中に非常に均一に分散している(この結果は、予備塊状−懸濁重合法の分散性より優れていた。)こと、得られた粒子はほぼ真球で、かつ、表面に凹凸の少ないことが判る。
【0065】
ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が30重量部の複合粒子についての断面の走査型電子顕微鏡写真(図12(a))とその拡大写真(図12(b))、及び、EDX(蛍光X線(エネルギー分散型マグネシウム原子))面分析(図12(c))の結果により、水酸化マグネシウムが粒子内部で広範囲に均一分散していることが判る。
【0066】
図13は予備塊状−懸濁重合法と液中乾燥法とのそれぞれで調製した複合粒子中の水酸化マグネシウム配合量(配合含有量)と実際の含有量(実測含有量)との関係を示す。いずれの結果も、水酸化マグネシウム配合量の増加と共に含有量も比例して増加し、かつ、それらはほぼ等しい値を示しているが、特に、液中乾燥法の場合において、配合量と実際の含有量の誤差が小さい。この結果は、液中乾燥法の場合、水酸化マグネシウムが離脱しにくいことを示唆し、配合量が含有量とほぼ等しいと考えることができる。
【0067】
図14は上記予備塊状−懸濁重合法(無水マレイン酸配合なし、及び、無水マレイン酸配合あり)及び、液中乾燥法でそれぞれ調製した複合粒子での圧縮強度を示す。予備塊状−懸濁重合法で調製した複合粒子は、フィラー添加量が増加するにつれて、圧縮強度は減少するが、無水マレイン酸を添加することで、減少量を抑制することができる。一方、液中乾燥法では、無水マレイン酸を含まなくても、圧縮強度の低下がほとんど見られなかった。さらに、疎水化水酸化マグネシウム配合量が100重量部の粒子の場合でも圧縮強度20MPa程度と配合なしでの23MPaと比較して僅かな減少に留まった。これは、高い疎水化水酸化マグネシウムの配合割合でも水酸化マグネシウムの凝集体は存在せずに、マトリックス中に均一に分散していること、および、樹脂成分と難燃剤との界面に破断の開始点となりうる大きな空隙が存在しないことに起因すると考えられる。
【0068】
図15(a)は予備塊状一懸濁重合法によって調製したポリスチレン/水酸化マグネシウム複合粒子、図15(b)はポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子、および、図15(c)は液中乾燥法で調製したポリスチレン/水酸化マグネシウム複合粒子の断面走査型電子顕微鏡写真をそれぞれを示す。図16(c)の液中乾燥法の場合、ポリスチレンと水酸化マグネシウムの界面との間に空隙は見られるものの、大きな空隙は存在せず、かつ、水酸化マグネシウムが均一に分散していることが確認でき、この結果は上述の考察を裏付けるものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る複合粒子PSG−56の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る複合粒子PSG−56の断面におけるマグネシウムの分散状態を調べたエネルギー分散型X線分析結果である。
【図3】本発明に係る複合粒子PSG−57の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明に係る複合粒子PSG−57の断面におけるマグネシウムの分散状態を調べたエネルギー分散型X線分析結果である。
【図5】本発明に係る複合粒子PSG−64の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明に係る複合粒子PSG−64の断面におけるマグネシウムの分散状態を調べたエネルギー分散型X線分析結果である。
【図7】本発明に係る複合粒子の破断応力測定結果を示す図である。
【図8】本発明に係る複合粒子の、疎水化処理水酸化マグネシウム配合量と、実際の含有量、見かけ密度との関係を示した図である。
【図9】本発明に係る複合粒子のモデル説明図である。
【図10】液中乾燥法で調製したポリスチレン粒子の走査型電子顕微鏡写真である。(a)〜(d)はそれぞれ、ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が0重量部(配合なし)、10重量部、30重量部、及び、50重量部の複合粒子を示す。
【図11】ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が100重量部の複合粒子の走査型電子顕微鏡写真である。(a)全体像である。(b)表面の拡大写真である。
【図12】ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が30重量部の複合粒子の走査型電子顕微鏡写真である。(a)断面写真である。(b)断面の拡大写真である。(c)EDX面分析の結果を示す写真である。
【図13】予備塊状−懸濁重合法と液中乾燥法とのそれぞれで調製した複合粒子中の水酸化マグネシウム配合量(配合含有量)と実際の含有量(実測含有量)との関係を示す図である。
【図14】予備塊状−懸濁重合法(無水マレイン酸配合なし、及び、無水マレイン酸配合あり)及び、液中乾燥法でそれぞれ調製した複合粒子での圧縮強度を示す図である。
【図15】(a)予備塊状一懸濁重合法によって調製したポリスチレン/水酸化マグネシウム複合粒子の断面の走査型電子顕微鏡写真である。(b)ポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の断面の走査型電子顕微鏡写真である。(c)液中乾燥法で調製したポリスチレン/水酸化マグネシウム複合粒子の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスチレン/無機系フィラー複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な分野において、特性改善もしくは新規の機能発現を目的とした複合粒子の必要性が高まっている。これら複合粒子の求められる機能は適用される部位により異なるため、さまざまな素材及び形態の複合粒子の基礎研究が盛んに行われており、その中に、機能性フィラーを分散したポリマーをベースとする複合粒子の研究が挙げられる。
【0003】
しかしながら、これら機能性フィラーを分散したポリマーをベースとする複合粒子単独では、機械的特性については充分なものが得られているとは云えない。
【0004】
ここで、ポリスチレン樹脂の高難燃グレード品として、従来、ポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤の複合体が知られている(特開昭61−171736号公報(特許文献1)等)が、このように、ハロゲンフリー無機系難燃剤をポリスチレンに配合して難燃化した場合、高難燃性を達成するためには、多量の水酸化マグネシウム等の難燃剤を添加する必要があった。
【0005】
ここで、難燃剤の大量の添加により、ポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤複合体の機械的強度は大幅に減少してしまう。このような理由から、ポリスチレンに対して、ハロゲンフリー無機系難燃剤を添加できる量には限りがあり、高難燃度化が困難であった。
【0006】
また、従来のポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤複合体では、ポリスチレンとハロゲンフリー無機系難燃剤との親和性は低く、これらの界面に空隙が生じてしまい、その結果、従来の複合体内部には多数の微細な空隙が存在していた。そのため真密度などの特性に影響を及ぼし、真密度の高い、すなわち、難燃剤(難燃材)とマトリックス樹脂との親和性が高くこれらの間に空隙のない、機械的性能に優れる理想的な複合体は得られなかった。
【0007】
一方、上述の複合体を調製する方法として、スチレンモノマーに、ハロゲンフリー無機系難燃剤を添加し、重合することで、ポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤複合体を得る化学的調製方法の採用も考えられるが、この方法を実施した場合、ポリスチレン/ハロゲンフリー無機系難燃剤複合体に含有されるハロゲンフリー無機系難燃剤複合体は、調製の段階で消費されてしまうため、所望の含有量を得るためには、このような消費分を考慮して、本来の必要量以上の量のハロゲンフリー無機系難燃剤を配合する必要があった。
【特許文献1】特開昭61−171736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題を解決する、すなわち、フィラーの消費が少なく、かつ、不ラーとマトリックス樹脂との親和性が高くこれらの間に空隙のない、機械的性能に優れるポリスチレンとフィラーとからなる複合粒子の調整方法と、機械的特性の高いポリスチレンとフィラーとからなる複合粒子とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムとを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子は、請求項2に記載の通り、請求項1に記載のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法において、上記疎水化剤が、脂肪酸、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、及び、シリコーンオイルから選ばれる1つ以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子は、請求項3に記載の通り、スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムとを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行って得られたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法によれば、真密度の制御が容易で、ハロゲンフリー無機系難燃剤の消費が少なく、かつ、機械的特性の高いポリスチレンと水酸化マグネシウムとからなる複合粒子の調整方法とすることができる。
【0013】
すなわち、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子では高い難燃性を得るために水酸化マグネシウムの配合量を増加させた場合であっても、得られる本発明に係る破断応力の低下が防げる。本発明によれば高い破断応力を有する複合体の調製が可能であり、あるいは、従来の破断応力を維持したまま、水酸化マグネシウムの添加量を増量し、高難燃化を達成することが可能となる。延いては、これまで限界があった、ハロゲンフリー無機系難燃剤の添加による、より高いスチレンの難燃化が可能となった。
【0014】
さらに、水酸化マグネシウムの配合量と得られた複合粒子の水酸化マグネシウム含有量が同等である。すなわち、従来より水酸化マグネシウムの配合量を減らしても同等の水酸化マグネシウム含有量を得ることが可能である。これは、本発明の化学的手法による調製方法でも、ロールによる混練りなどの物理的手法と同様に、含有成分の制御が容易になることを意味する。延いては材料及び製品設計が容易となり、開発時間が短縮されると云う効果が得られる。
【0015】
また、得られる本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の、樹脂成分と難燃剤界面との間の空隙が少なくなる。そのため、難燃剤の配合量に対応した真密度の変化が期待できる。つまり、任意の真密度を持つ複合粒子および成形体を容易に設計できる。材料及び製品設計時には、予備実験を短縮できるため、開発時間が短縮できる。延いては、他の特性に関しても、空隙部分の影響を考慮する必要がなく、水酸化マグネシウムそのものの特性が、確実に、ポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子、及び、この粒子を用いて作製した複合体に反映されると云う効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上記課題解決に際し、本発明者等は、予備塊状−懸濁重合法、及び、液中乾燥法の2つのアプローチ試みた。
【0017】
[予備塊状−懸濁重合法によるアプローチ]
まず、予備塊状−懸濁重合法によるアプローチについて説明する。
本発明のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法(予備塊状−懸濁重合法による)では、スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムとを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行う。
【0018】
本発明で用いる架橋剤としては、ポリスチレン重合で用いられる一般的なもの、例えば、ジビニルベンゼンが使用でき、これらをスチレンモノマー100重量部に対して、通常、1重量部以上、100重量部以下添加するが、より好ましくは、5重量部以上、20重量部以下である
【0019】
一方、重合開始剤としても、ポリスチレン重合で用いられる一般的なもの、例えば、2,2’‐アゾビスイソブチルニトリルなどのアゾ系材料や、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリルなどの過酸化物系材料が使用でき、これらを、スチレンモノマー100重量部に対して、通常、0.1重量部以上、5重量部以下添加する。
【0020】
これらに配合する水酸化マグネシウムとしては、疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを用いる。
【0021】
ここで、疎水化剤としては、水酸化マグネシウム表面に何れかの形かで吸着し、疎水化効果を発揮する物質であるものであることが必要であり、このようなものとしては脂肪酸、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤(アルミネート系カップリング剤を含む)、及び、シリコーンオイルなどを挙げることができ、これらから1種以上選択して使用する。
【0022】
シランカップリング剤としては、特に、限定されるものではないが、例えば、ビニルエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシシラン)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトシキシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトシキシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。このようなシランカップリング剤は、通常、水酸化マグネシウムに対して、0.1〜5重量%、好ましくは0.3〜1重量%の範囲で用いられる。
【0023】
また、疎水化が目的であるため、シランカップリング剤以外のカップリング剤、例えば、チタネート系カップリング剤やアルミニウム系カップリング剤もシランカップリング剤同様に用いることができる。
【0024】
また、脂肪酸としては、例えば、ブチル酸、バレリアン酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マーガリン酸、アラギリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、ガドレイン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸、ネルボン酸など飽和、不飽和を問わず挙げられるが、好ましくは炭素数14〜24の飽和又は不飽和の高級脂肪酸が好ましく、例えば、オレイン酸やステアリン酸を挙げることができる。このような脂肪酸は、通常、0.5〜5.0重量%、好ましくは1〜3重量%の範囲で用いられる。
【0025】
シリコーンオイル類も用いることができ、そのようなものとしては例えばメチルハイドロジェンポリシロキサンなどが挙げられる。
【0026】
これら疎水化剤のうち、カップリング剤ではそのカップリング反応条件で水酸化マグネシウムと反応させて、表面処理を行って疎水化処理する。その他の疎水化剤では、水酸化マグネシウム表面にこれら疎水化剤が均一に塗布される条件(温度、時間、撹拌条件)で疎水化処理を行う。
【0027】
本発明で用いる水酸化マグネシウムの一般的に樹脂の難燃化用途に用いられているものをそのまま利用でき、粒径としては0.1μm以上、10μm以下である。0.1μm未満であると、疎水化処理後においても凝集しやすいため、モノマー中での分散性に乏しい。また、10μm超であると得られる複合粒子が不規則形状のものとなりやすい。
【0028】
このような予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムは、求められる特性に適合するよう上記スチレンモノマー100重量部に対して、通常、50重量部以下添加する。本発明によれば、水酸化マグネシウムの添加量は従来の水酸化マグネシウム添加ポリスチレンに比べて、従来と同じ添加率における最終成形物の破断強度低下が少ない。このような点を勘案して添加量を決定する。
【0029】
また、上記高級脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウムの他に、無水マレイン酸を、樹脂成分と水酸化マグネシウム界面の空隙を減少させる目的で添加する。添加量は上記スチレンモノマー100重量部に対して、通常、0.5重量部以上10重量部以下である。10重量部超であると、ポリスチレンの諸特性(圧縮強度や引張強度などの機械的強度等)に悪影響を及ぼす可能性があり、0.5重量部未満であると、効果が発現しにくい。
【0030】
このような原料を用い、上述のように、スチレンモノマーに架橋剤と重合開始剤とを加えて調製した混合溶液に、高級脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウムと無水マレイン酸とを加えて得た混合物に対して、例えば超音波による分散処理(例えば0.5〜20分程度)を行って上記高級脂肪酸で表面処理した水酸化マグネシウムを充分に分散させてから、塊状重合(予備塊状重合)を行う。
【0031】
塊状重合は、スターラーや攪拌機などで攪拌しながら、通常、45℃〜65℃の範囲で加熱しながら、予め検討を行って、粘度の上昇が生じて後工程で懸濁重合ができなくならない範囲で、例えば1分〜600分程度行う。ここで、粘度の著しい上昇が起きるまで塊状重合を行った場合、懸濁重合への移行が困難となる。
【0032】
上記塊状重合後に、懸濁重合を行う。塊状重合後に、懸濁重合を行わないと、任意の粒子形を持つ球状の微粒子を得ることができない。一方、前記のように塊状重合を行わずに、懸濁重合のみで重合を行うと、スチレン中で無水マレイン酸が分散せず、無水マレイン酸の添加効果が発現しにくく、さらに、水酸化マグネシウムが複合粒子内部で偏析してしまい、いずれにしても本発明の効果は得られない。
【0033】
ここで上記スチレンモノマー仕込量100重量部に対して、500重量部以上の水に、分散安定剤、例えば、ポリビニルアルコール(重合度500〜3000程度)、ポリビニルピロリドンなどを水100重量部に対して、0.5重量部〜3重量部添加させて調整した懸濁用溶液に対して、上記塊状重合混合物を撹拌しながら添加して懸濁させ、懸濁重合を行う。攪拌は、懸濁粒子の大きさが50μm〜1000μm程度となるような回転数で、懸濁重合終了時まで行う。その際、懸濁粒子が水性液内で互いに付着しあうことにより所定の大きさより大きくなるようであったら、再度、懸濁粒子の大きさを調整する。また、ホモミキサー(モノジナイザー)などによる乳化分散装置やマイクロチャンネル法などを用いて、1〜50μm程度の懸濁粒子を得ることもできる。懸濁重合は、懸濁液の温度は65℃以上〜80℃以下に保ち、通常、1時間以上8時間以下行う。
【0034】
懸濁重合終了後、濾過し、水、エタノール、メタノールなどで十分洗浄し、乾燥させ、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子が得られる。乾燥後は、必要に応じて解砕(複数のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウムがくっつき合って形成された二次粒子を分割して一次粒子へと戻すこと)処理を行う。
【0035】
このようなポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子は、耐火性が求められるような成形物、例えば玩具、OA機器、照明器具、台所用品に好適に用いることができる。
【0036】
[液中乾燥法によるアプローチ]
次いで、液中乾燥法によるアプローチについて説明する。
液中乾燥法の具体的な方法としては、ジクロロメタンなどの適当な疎水性溶媒にポリスチレンペレットを溶解してポリスチレン溶液を形成し、この溶液に必要に応じて疎水化した、機能性フィラーとして水酸化マグネシウムやあるいは炭酸カルシウム等を加えて拡散相を得、この拡散相をPVA水溶液中に分散させてエマルジョン化し、その後さらに加熱することで疎水性溶媒を除去し、ポリスチレンと無機フィラーとからなる複合粒子を得る方法である。
【0037】
ここで水酸化マグネシウムや炭酸カルシウムなどの親水性物質については、予め、高級脂肪酸、たとえばメチルハイドロジェンポリシロキサン(MHS)で表面処理し、熱処理を施すことで、疎水化処理したものを用いることが均一分散を達成する上で好ましい。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の複合粒子の製造方法の実施例について具体的に説明する。
【0039】
[予備塊状−懸濁重合法によるアプローチによる実施例]
<予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウム>
直径約20cm、深さ30cmの円筒状の容器であって、底部中央に長さ10cmのプロペラ状の攪拌子を備えた容器中に、疎水化剤としてメチルハイドロジェンポリシロキサン1gおよび粒径約1.2μmの水酸化マグネシウム(平角形状:難燃材)99gを容れ、30分間、攪拌(1600rpm)した。その後、150℃、2時間の熱処理を施すことで、予め疎水化剤で表面処理した疎水化水酸化マグネシウムを調製した。
【0040】
<塊状重合>
スチレンモノマー(St)20gに、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチルニトリル(AIBN)0.2gと、架橋剤としてジビニルベンゼン(DVB)2.0gを溶解した混合溶液に、無水マレイン酸1.0g、および、上記で作製した予め疎水性の疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを2.0、6.0、10.0g加え、超音波処理を行って、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを均一に分散させた分散相とした。
【0041】
この分散相を50℃に保ちながら、所定の条件、すなわち、プロペラ状の攪拌子が200rpmとなるように攪拌しながら、予備塊状重合を2時間行った。
【0042】
<懸濁重合>
次に、分散安定剤ポリビニルアルコール(PVA)6.0gをイオン交換水450mlに溶解して得た懸濁用溶液(70℃に保たれている)を所定の条件、すなわち、プロペラ状の攪拌子が200rpmとなるように攪拌しながら、上記塊状重合後の分散相を加えて、4時間懸濁重合を行った。
【0043】
懸濁重合が終了後、減圧濾過して生成物を収集し、イオン交換水を用いて充分に洗浄し、その後80℃の環境下で乾燥を行い、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子3種類を得た。
【0044】
<評価>
上記により得られた3種類の本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子について評価した。
【0045】
まず、走査型電子顕微鏡観察とエネルギー分散型X線分析とを行った。
スチレンモノマー100重量部に対して予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムの配合量が、それぞれ10重量部のサンプルPSG−56(本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子)、30重量部のサンプルPSG−57(本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子)、及び、50重量部のサンプルPSG−64(本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子)の走査型電子顕微鏡写真を図1、図3及び図5に、断面におけるマグネシウムの分散状態を調べたエネルギー分散型X線分析結果を図2、図4及び図6に、それぞれ示す。
【0046】
いずれの場合においても本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子は粒状形状であり、また、水酸化マグネシウムが表面部分ばかりでなく、内部にも分散している様子が確認できた。
【0047】
このことから懸濁重合に先立って行った予備塊状重合過程で、水酸化マグネシウムの粘性移動抵抗を増加させたため、偏析を比較的抑制できたことを示している。
【0048】
このように水酸化マグネシウムが均一分散された本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子を原料として用いた成形物はその内部の難燃化剤である水酸化マグネシウムが均一分散しており、安定した難燃性と、均一な機械的性質が得られることができる。
【0049】
次に、これら3種類の、本発明に係るポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の強度(破断応力)について調べた。
【0050】
複合粒子の破断応力評価法としては、準ずるべき規格が存在しないため、独自の方法で調べた。具体的には、島津製作所社製の微小圧縮試験機(MCT−W500)を用い、最大試験力4500mN、負荷速度20mN/秒となる条件で測定した。その時、平面圧子の直径は500μmであった。
【0051】
これら評価結果を図7に示す。平松らの式(平松良雄、岡行俊、木山英郎、日本鉱業会誌、p.1024、vol.81(1965))により算出した破断応力は、水酸化マグネシウムの配合量が50重量部まで増加しても、大幅な低下は見られなかった。
【0052】
これは、疎水化処理された水酸化マグネシウムを高い配合比で配合した場合であってもその凝集体が形成されずに、ポリスチレンマトリックス内に均一に分散していること、および、樹脂成分(ポリスチレンマトリックス)と難燃剤(疎水化処理された水酸化マグネシウム)表面とが隙間なく結合していることに起因するものと考えられる。
【0053】
また、図8には、上記複合粒子中の疎水化処理水酸化マグネシウムの配合量と真密度および実際の水酸化マグネシウム含有量との関係を示す。
【0054】
複合粒子の見かけ密度は、島津製作所製の乾式自動密度計(アキュピック1330)を用いて測定した。具体的には、測定方式は乾式の定容積膨張法(ガス置換法)を用いて測定した。
【0055】
また、実際の水酸化マグネシウム含有量は、上記複合粒子を空気中・1000℃で燃焼させ、回収された酸化マグネシウム量から算出したものである。
【0056】
図8では水酸化マグネシウム配合量の増加と共に含有量も比例して増加し、配合量50重量部の場合には含有量は48重量部とほぼ等しい値を示した、このように水酸化マグネシウムが重合時に離脱せず、複合粒子に効率よく取り込まれる理由としては、粘性移動抵抗の増加、及び、疎水化剤によって水酸化マグネシウムに付与された疎水性、さらに、疎水化された水酸化マグネシウムの表面水酸基が無水マレイン酸を介してマトリックスのスチレンポリマーに化学的に結合することによる。
【0057】
ここで、疎水化剤、水酸化マグネシウム、マレイン酸、及びスチレンポリマー(スチレンコポリマー)との間の化学結合については、図9にそのモデル図を示す。
【0058】
すなわち、図9にモデル的に示すように、疎水化剤であるメチルハイドロジェンポリシロキサンは水酸化マグネシウムへ脱水素結合してこれを疎水化する。一方、スチレンポリマー(スチレンコポリマー)には無水マレイン酸を介して、水酸化マグネシウムが脱水結合する)ことによる。
【0059】
このように、真密度や機械的強度によって示される、樹脂成分と疎水化水酸化マグネシウムとの界面との高い親和性は、水酸化マグネシウムの疎水化による効果と、その疎水化水酸化マグネシウムと樹脂成分との化学的な結合に由来する。
【0060】
[液中乾燥法によるアプローチ]
ジクロロメタン(bp:約40℃)に市販のポリスチレンペレット100重量部を溶解したポリスチレン溶液に、上記と同様にして得た疎水化水酸化マグネシウム10重量部を加え、分散相とした。次いで、50℃の温度で保たれた恒温槽に、ポリビニルアルコール(PVA)を溶解した精製水の連続相を入れた容器を浸漬し、
300rpmで攪拌しながら上記分散相をこの連続相に注入し、ジクロロメタンを蒸発させて除去してポリスチレンを析出させた。
【0061】
液中乾燥終了後、減圧濾過を行って生成粒子を収集し、さらに洗浄および乾燥を行い、複合粒子を得た。同様にして、但し、ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量を30、50、あるいは、100重量部加えた複合粒子もそれぞれ得た。
【0062】
さらに、他のフィラーとして、炭酸カルシウム(充填剤)、テトラキス−[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(酸化防止剤)、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(金属不活性剤)、1,2−ヒドロキシステアリン酸マグネシウム(滑剤)をそれぞれ上記同様に疎水化して、これらを複数種組み合わせて上記同様に配合して、それぞれ複合粒子を得た。
【0063】
これら複合粒子の諸特性を調査した結果を図10〜17に示す。図10は液中乾燥法で調製したポリスチレン粒子の走査型電子顕微鏡写真であり、図10(a)〜図10(d)はそれぞれ、ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が0重量部(配合なし)、10重量部、30重量部、及び、50重量部の複合粒子を示す。これらより、得られた粒子は非常に円形率の高く、表面に凹凸の少ない形状であることが判る。
【0064】
図11にはポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が100重量部の複合粒子の走査型電子顕微鏡写真を示した。図11(a)が全体像、図11(b)がその表面の拡大写真である。これらより疎水化水酸化マグネシウムがマトリックス中に非常に均一に分散している(この結果は、予備塊状−懸濁重合法の分散性より優れていた。)こと、得られた粒子はほぼ真球で、かつ、表面に凹凸の少ないことが判る。
【0065】
ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が30重量部の複合粒子についての断面の走査型電子顕微鏡写真(図12(a))とその拡大写真(図12(b))、及び、EDX(蛍光X線(エネルギー分散型マグネシウム原子))面分析(図12(c))の結果により、水酸化マグネシウムが粒子内部で広範囲に均一分散していることが判る。
【0066】
図13は予備塊状−懸濁重合法と液中乾燥法とのそれぞれで調製した複合粒子中の水酸化マグネシウム配合量(配合含有量)と実際の含有量(実測含有量)との関係を示す。いずれの結果も、水酸化マグネシウム配合量の増加と共に含有量も比例して増加し、かつ、それらはほぼ等しい値を示しているが、特に、液中乾燥法の場合において、配合量と実際の含有量の誤差が小さい。この結果は、液中乾燥法の場合、水酸化マグネシウムが離脱しにくいことを示唆し、配合量が含有量とほぼ等しいと考えることができる。
【0067】
図14は上記予備塊状−懸濁重合法(無水マレイン酸配合なし、及び、無水マレイン酸配合あり)及び、液中乾燥法でそれぞれ調製した複合粒子での圧縮強度を示す。予備塊状−懸濁重合法で調製した複合粒子は、フィラー添加量が増加するにつれて、圧縮強度は減少するが、無水マレイン酸を添加することで、減少量を抑制することができる。一方、液中乾燥法では、無水マレイン酸を含まなくても、圧縮強度の低下がほとんど見られなかった。さらに、疎水化水酸化マグネシウム配合量が100重量部の粒子の場合でも圧縮強度20MPa程度と配合なしでの23MPaと比較して僅かな減少に留まった。これは、高い疎水化水酸化マグネシウムの配合割合でも水酸化マグネシウムの凝集体は存在せずに、マトリックス中に均一に分散していること、および、樹脂成分と難燃剤との界面に破断の開始点となりうる大きな空隙が存在しないことに起因すると考えられる。
【0068】
図15(a)は予備塊状一懸濁重合法によって調製したポリスチレン/水酸化マグネシウム複合粒子、図15(b)はポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子、および、図15(c)は液中乾燥法で調製したポリスチレン/水酸化マグネシウム複合粒子の断面走査型電子顕微鏡写真をそれぞれを示す。図16(c)の液中乾燥法の場合、ポリスチレンと水酸化マグネシウムの界面との間に空隙は見られるものの、大きな空隙は存在せず、かつ、水酸化マグネシウムが均一に分散していることが確認でき、この結果は上述の考察を裏付けるものである。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係る複合粒子PSG−56の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明に係る複合粒子PSG−56の断面におけるマグネシウムの分散状態を調べたエネルギー分散型X線分析結果である。
【図3】本発明に係る複合粒子PSG−57の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】本発明に係る複合粒子PSG−57の断面におけるマグネシウムの分散状態を調べたエネルギー分散型X線分析結果である。
【図5】本発明に係る複合粒子PSG−64の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】本発明に係る複合粒子PSG−64の断面におけるマグネシウムの分散状態を調べたエネルギー分散型X線分析結果である。
【図7】本発明に係る複合粒子の破断応力測定結果を示す図である。
【図8】本発明に係る複合粒子の、疎水化処理水酸化マグネシウム配合量と、実際の含有量、見かけ密度との関係を示した図である。
【図9】本発明に係る複合粒子のモデル説明図である。
【図10】液中乾燥法で調製したポリスチレン粒子の走査型電子顕微鏡写真である。(a)〜(d)はそれぞれ、ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が0重量部(配合なし)、10重量部、30重量部、及び、50重量部の複合粒子を示す。
【図11】ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が100重量部の複合粒子の走査型電子顕微鏡写真である。(a)全体像である。(b)表面の拡大写真である。
【図12】ポリスチレンペレット100重量部に対する疎水化水酸化マグネシウムの配合量が30重量部の複合粒子の走査型電子顕微鏡写真である。(a)断面写真である。(b)断面の拡大写真である。(c)EDX面分析の結果を示す写真である。
【図13】予備塊状−懸濁重合法と液中乾燥法とのそれぞれで調製した複合粒子中の水酸化マグネシウム配合量(配合含有量)と実際の含有量(実測含有量)との関係を示す図である。
【図14】予備塊状−懸濁重合法(無水マレイン酸配合なし、及び、無水マレイン酸配合あり)及び、液中乾燥法でそれぞれ調製した複合粒子での圧縮強度を示す図である。
【図15】(a)予備塊状一懸濁重合法によって調製したポリスチレン/水酸化マグネシウム複合粒子の断面の走査型電子顕微鏡写真である。(b)ポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の断面の走査型電子顕微鏡写真である。(c)液中乾燥法で調製したポリスチレン/水酸化マグネシウム複合粒子の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行うことを特徴とするポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法。
【請求項2】
上記疎水化剤が、脂肪酸、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、及び、シリコーンオイルから選ばれる1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法。
【請求項3】
スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムとを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行って得られたことを特徴とするポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子。
【請求項1】
スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行うことを特徴とするポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法。
【請求項2】
上記疎水化剤が、脂肪酸、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、及び、シリコーンオイルから選ばれる1つ以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子の製造方法。
【請求項3】
スチレンモノマー、架橋剤、重合開始剤、無水マレイン酸、及び、予め疎水化剤で表面処理した水酸化マグネシウムとを配合して塊状重合を行い、次いで懸濁重合を行って得られたことを特徴とするポリスチレン−無水マレイン酸/水酸化マグネシウム複合粒子。
【図13】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図14】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【公開番号】特開2008−138161(P2008−138161A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−99819(P2007−99819)
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】
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