説明

ポリテトラフルオロエチレン黒色多孔質膜と、それを用いた通気膜および通気部材

【課題】黒色に染色されたポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜であって、熱および/または光による退色が従来の着色PTFE多孔質膜よりも抑制された、耐退色性に優れる黒色のPTFE多孔質膜(PTFE黒色多孔質膜)を提供する。
【解決手段】黒色に染色され、JIS Z8721に準拠して測定した主面の無彩色明度がN2以下であるPTFE黒色多孔質膜とする。このPTFE黒色多孔質膜は、水および/または粉塵を遮りながら気体を透過させる通気膜、具体的には、例えば防水通音膜、防水通気膜、防塵通気膜、に好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱および/または光による退色が従来に比べて抑えられた、黒色のポリテトラフルオロエチレン多孔質膜(ポリテトラフルオロエチレン黒色多孔質膜)に関する。本発明は、また、当該多孔質膜を用いた通気膜および通気部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、電子手帳、デジタルカメラ、ゲーム機器などの電子機器が音声機能を備えることが一般的である。これらの機器は防水構造とすることが望まれるが、音声機能を備えた電子機器の筐体には、通常、スピーカ、マイク、ブザーなどの発音部および受音部に対応する位置に開口が設けられており、この開口を通して音声が伝達される必要があるため、音声機能を確保しながら防水構造とすることが難しい。これまで、筐体に設けられた開口を防水通音膜で塞ぐことで、当該開口における通音性と防水性との両立が図られてきた。防水通音膜は、音の透過を阻害しにくい材料からなる薄膜であり、開口への当該膜の配置により、良好な通音性を得ながら筐体内部への水の侵入を抑制できる。防水通音膜には、水を遮りながら気体を透過させる通気膜が好適であり、より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔質膜を有する通気膜が好適である(特開2004-83811号公報参照)。
【0003】
ところで、PTFE多孔質膜本来の色は白色である。防水通音膜は、通常、開口を塞ぐように筐体内部に配置されるが、白色の膜は目立ちやすい。膜が目立つと、電子機器のデザイン上の障害になるとともに、ユーザーの好奇心を刺激することで、筆記具などの突き刺しによる膜の損傷が生じやすい。このため、筐体に配置したときに目立ちにくい、黒色のPTFE多孔質膜(PTFE黒色多孔質膜)が求められている。
【0004】
PTFE黒色多孔質膜は、特開平8-27304号公報に開示がある。また、黒色ではないが、グレーまたはピンクに着色されたPTFE多孔質膜が特開平7-289865号公報に記載されている。
【0005】
なお、PTFE多孔質膜を有する通気膜は、防水通音膜以外にも、水および/または粉塵を遮りながら気体を透過させる防水通気膜あるいは防塵通気膜として使用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-83811号公報
【特許文献2】特開平8-27304号公報
【特許文献3】特開平7-289865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の着色PTFE多孔質膜では、高温雰囲気への暴露あるいは光の照射(典型的には太陽光の照射)によって、着色の退色が起きやすい。本発明は、熱および/または光による退色が従来の着色PTFE多孔質膜よりも抑制された、耐退色性に優れるPTFE黒色多孔質膜の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のPTFE黒色多孔質膜は、黒色に染色され、JIS Z8721に準拠して測定した主面の無彩色明度がN2以下である。
【0009】
本発明の通気膜は、水および/または粉塵を遮りながら、気体を透過させる通気膜であって、本発明のPTFE黒色多孔質膜を有する。
【0010】
本発明の通気部材は、本発明の通気膜と、前記通気膜を支持する支持部材とを備える。
【発明の効果】
【0011】
主面の明度(無彩色明度)が所定の値以下である染色PTFE多孔質膜とすることによって、熱および/または光による退色が従来の着色PTFE多孔質膜よりも抑制された、耐退色性に優れるPTFE黒色多孔質膜となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の通気膜の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の通気膜の別の一例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の通気膜のまた別の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の通気膜のさらに別の一例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の通気部材の一例を模式的に示す斜視図である。
【図6】本発明の通気膜が耐退色性に優れることの、推定される理由を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(PTFE黒色多孔質膜)
本発明のPTFE黒色多孔質膜は、黒色に染色された染色PTFE多孔質膜であり、その主面の明度は、JIS Z8721に準拠して測定した無彩色明度にしてN2以下である。この明度は、マンセル表色系に基づいており、N0(エヌゼロ)を理想的な黒色、N10を理想的な白色として、その間を明度知覚の差がほぼ等間隔になるように分割された数値で示される。明度がN2以下であることは、N2で示される黒色か、あるいはそれよりも暗い黒色であることを意味する。以下、JIS Z8721に準拠して測定した無彩色明度を、単に「明度」という。
【0014】
このようなPTFE黒色多孔質膜は、例えば、染料を含む染色液にPTFE多孔質膜を浸漬したり、染料を含む染色液をPTFE多孔質膜に塗布したりした後、染色液に含まれる染料の溶剤を乾燥などにより除去して形成できる。浸漬および塗布の方法は特に限定されない。染料は、何ら着色処理していない白色のPTFE多孔質膜を、その主面の明度にしてN2以下に染色できる染料であり、アゾ系染料、油溶性染料などを使用できる。染色液は、通常、染料と、当該染料を希釈して染色の作業性を向上させる溶剤とを含む。PTFE多孔質膜は化学的に安定であるため、溶剤の種類は特に限定されず、染料の種類および染色の作業性などに応じて適宜選択できる。染色液における染料の濃度は、何ら着色処理していない白色のPTFE多孔質膜を、その主面の明度にしてN2以下に染色できる濃度である必要があり、通常5重量%以上である。
【0015】
黒色に染色するPTFE多孔質膜は、公知の手法により得られる。例えば、PTFEファインパウダーと成形助剤との混練物を押出成形および圧延によりシート状とし、ここから成形助剤を除去して成形体のシートとした後、得られたシートをさらに延伸して形成できる。このように作製したPTFE多孔質膜から得た本発明のPTFE黒色多孔質膜は、無数に形成されたPTFEの微細な繊維(フィブリル)間の空隙を細孔とする多孔質構造を有する。この多孔質構造における平均孔径および空孔率は、シートの延伸条件を変更することによって調整でき、その具体的な値は、本発明のPTFE黒色多孔質膜の用途に応じて選択すればよい。
【0016】
本発明のPTFE黒色多孔質膜は撥液処理されていてもよく、この場合、撥水および撥油性能に優れた多孔質膜となる。このような多孔質膜は、防水通音膜をはじめとする通気膜としての用途に好適である。撥液処理は、PTFE多孔質膜を黒色に染色した後に、公知の方法により実施できる。撥液処理に用いる撥液剤は特に限定されず、典型的には、パーフルオロアルキル基を有する高分子を含む材料である。
【0017】
(通気膜)
本発明の通気膜の構成は、本発明のPTFE黒色多孔質膜を有する限り、特に限定されない。
【0018】
図1は、本発明の通気膜の一例である。図1の通気膜1は、本発明のPTFE黒色多孔質膜11からなる。通気膜1は、PTFE黒色多孔質膜11が有する上記多孔質構造に基づき、水および/または粉塵を遮りながら、気体を透過させる特性を有する。通気膜1は黒色であり、例えば電子機器の筐体の開口に配置したときにも、白色のPTFE多孔質膜に比べて目立たない。また、通気膜1は、PTFE黒色多孔質膜11の単層構造であるため面密度を低く抑えることができる。通気膜の面密度が低いほど、当該膜における音響透過損失が小さくなることで通音性が向上する。このため通気膜1は、発音部および/または受音部を有する電子機器における筐体の開口に配置され、当該開口における通音性と防水性とを確保するための防水通音膜としての用途に特に好適である。
【0019】
もちろん通気膜1は、防水通音膜以外の用途、例えば、水および/または粉塵を遮りながら気体を透過させる特性を利用した防水通気膜あるいは防塵通気膜としての用途にも好適である。防水通気膜(防塵通気膜)は、例えば、ランプ、モータ、センサ、ECUなどの車両用電装部品の筐体に配置され、筐体内外の通気を確保するとともに、温度変化による筐体内の圧力変化を緩和させるために使用される。
【0020】
通気膜1におけるPTFE黒色多孔質膜11の平均孔径は、一般に0.01〜20μmであり、0.05〜5μmが好ましい。通気膜1を防水通音膜として使用する場合、PTFE黒色多孔質膜11の平均孔径は、防水性と通音性との両立を図る観点から、1μm以下が好ましく、0.7μm以下がより好ましく、0.5μm以下がさらに好ましい。平均孔径の下限は特に限定されないが、例えば0.1μmである。PTFE多孔質膜の平均孔径はASTM F316−86の規定に準拠して測定でき、例えば当該規定に準拠した自動測定が可能な市販の測定装置(米国Porous Material Inc.より入手可能なPerm-Porometerなど)を、PTFE多孔質膜の平均孔径の測定に利用できる。
【0021】
通気膜1を防水通音膜として使用する場合、膜としての物理的強度と通音性との両立を図る観点からは、通気膜1の面密度は1〜10g/m2が好ましく、2〜10g/m2がより好ましく、2〜7g/m2がさらに好ましい。通気膜を、良好な通音性が要求されない防水通気膜または防塵通気膜として使用する場合、通気膜1の面密度は特に限定されない。
【0022】
PTFE黒色多孔質膜11は撥液処理されていてもよく、この場合、通気膜1の撥水および撥油性能が向上する。撥液処理されたPTFE黒色多孔質膜11を用いる効果については、以降の図2、3に示す通気膜2、3、4についても同様である。
【0023】
図2は、本発明の通気膜の別の一例である。図2の通気膜2は、本発明のPTFE黒色多孔質膜11と、当該多孔質膜11を支持する通気性支持材12との積層構造を有する。通気膜2は、PTFE黒色多孔質膜11が有する上記多孔質構造に基づき、水および/または粉塵を遮りながら、気体を透過させる特性を有する。通気膜2では黒色の多孔質膜11が露出しており、例えば通気膜2を電子機器の筐体の開口に配置したときにも、PTFE黒色多孔質膜11が筐体の外部に面するようにすれば、白色のPTFE多孔質膜に比べて目立たない。通気膜2の用途は特に限定されず、防水通音膜、防水通気膜、防塵通気膜などに好適に使用できる。
【0024】
通気性支持材12の材料や構造は特に限定されないが、PTFE黒色多孔質膜11よりも通気性に優れることが好ましい。通気性支持材12は、例えば、金属もしくは樹脂またはこれらの複合材料からなる織布、不織布、メッシュ、ネット、スポンジ、フォーム、多孔体である。樹脂は、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、フッ素樹脂、超高分子量ポリエチレンである。PTFE黒色多孔質膜11と通気性支持材12とを積層する際には、熱ラミネート、加熱溶着、超音波溶着などの各種の接合方法を用いて両者を接合してもよい。
【0025】
通気膜2は、2層以上のPTFE黒色多孔質膜11および/または2層以上の通気性支持材12を有していてもよく、この場合、その積層順序は特に限定されない。ただし、電子機器の筐体の開口に配置したときに白色のPTFE多孔質膜に比べて目立たないようにするためには、図2に示すように、少なくとも一方の主面にPTFE黒色多孔質膜11が露出していることが好ましい。換言すれば、本発明の通気膜は、本発明のPTFE黒色多孔質膜と通気性支持材との積層構造を有してもよく、その場合、少なくとも一方の主面にPTFE黒色多孔質膜が露出していることが好ましい。
【0026】
通気膜2におけるPTFE黒色多孔質膜11の平均孔径は、図1に示す通気膜1の説明で例示したとおりである。通気膜2を防水通音膜として使用する場合のPTFE黒色多孔質膜11の平均孔径についても、図1に示す通気膜1の説明で例示したとおりである。通気膜2が2層以上のPTFE黒色多孔質膜11を有する場合、少なくとも1層のPTFE黒色多孔質膜11が例示した平均孔径を有すればよい。
【0027】
通気膜2を防水通音膜として使用する場合、膜としての物理的強度を通音性との両立を図る観点からは、通気膜2の面密度は(PTFE黒色多孔質膜11および通気性支持材12を含む複数層の合計で)1〜10g/m2が好ましく、2〜10g/m2がより好ましく、2〜7g/m2がさらに好ましい。
【0028】
図3は、本発明の通気膜の別の一例である。図3の通気膜3は、本発明のPTFE黒色多孔質膜11と、これとは異なる別のPTFE多孔質膜13との積層構造を有する。PTFE多孔質膜13は、無着色(即ち白色)であっても任意の色(例えば黒色)に着色されていてもよく、主面の明度がN2以下となるように黒色に染色されていても(即ち本発明のPTFE黒色多孔質膜であっても)、主面の明度がN3以上であってもよい。PTFE多孔質膜13は、PTFE黒色多孔質膜11と同様に、無数に形成されたPTFEの微細な繊維(フィブリル)間の空隙を細孔とする多孔質構造を有する。通気膜3は、PTFE黒色多孔質膜11およびPTFE多孔質膜13から選ばれる少なくとも1つのPTFE多孔質膜が有する上記多孔質構造に基づき、水および/または粉塵を遮りながら、気体を透過させる特性を有する。
【0029】
通気膜3では黒色の多孔質膜11が露出しており、例えば通気膜3を電子機器の筐体の開口に配置したときにも、PTFE黒色多孔質膜11が筐体の外部に面するようにすれば、白色のPTFE多孔質膜に比べて目立たない。即ち、本発明の通気膜は、本発明のPTFE黒色多孔質膜11と、これとは異なる別のPTFE多孔質膜13との積層構造を有していてもよく、その場合、少なくとも一方の主面に、PTFE黒色多孔質膜が露出していることが好ましい。
【0030】
通気膜3は、2層以上のPTFE黒色多孔質膜11および/または2層以上のPTFE多孔質膜13を有していてもよく、この場合、その積層順序は特に限定されない。
【0031】
通気膜3の用途は特に限定されず、防水通音膜、防水通気膜、防塵通気膜に好適に使用できる。
【0032】
通気膜3では、PTFE黒色多孔質膜11およびPTFE多孔質膜13から選ばれる少なくとも1つのPTFE多孔質膜の平均孔径が、図1に示す通気膜1の説明で例示したとおりである。通気膜3を防水通音膜として使用する場合についても同様に、PTFE黒色多孔質膜11およびPTFE多孔質膜13から選ばれる少なくとも1つのPTFE多孔質膜の平均孔径が、図1に示す通気膜1の説明で例示したとおりである。通気膜3が2層以上のPTFE黒色多孔質膜11および/またはPTFE多孔質膜13を有する場合、少なくとも1層のPTFE黒色多孔質膜11またはPTFE多孔質膜13が例示した平均孔径を有すればよい。PTFE黒色多孔質膜11の平均孔径と、PTFE多孔質膜13の平均孔径とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
通気膜3を防水通音膜として使用する場合、膜としての物理的強度と通音性との両立を図る観点からは、通気膜3の面密度は(PTFE黒色多孔質膜11およびPTFE多孔質膜13を含む複数層の合計で)1〜10g/m2が好ましく、2〜10g/m2がより好ましく、2〜7g/m2がさらに好ましい。
【0034】
図4は、本発明の通気膜の別の一例である。図4の通気膜4は、図3に示す通気膜3にさらに通気性支持材12を有している。通気膜4では黒色の多孔質膜11が露出している。通気性支持材12は、図2に示す通気膜2の説明で示したとおりである。
【0035】
本発明の通気膜は、PTFE黒色多孔質膜11、通気性支持材12、PTFE多孔質膜13以外の任意の部材を有していてもよい。このとき、PTFE黒色多孔質膜11が、本発明の通気膜における少なくとも一方の主面に露出していることが好ましい。
【0036】
(通気部材)
本発明の通気部材の一例を図5に示す。図5に示す通気部材5は、本発明の通気膜1を備える。通気膜1は円板状であり、通気膜1の周縁部にはリング状の支持部材14が取り付けられている。リング状の支持部材14を設けた形態によれば、通気膜1を補強できるとともに、その取り扱いが容易となる。また、支持部材14が電気製品の筐体への取付しろとなるため、通気膜1の筐体への取付作業性が向上する。
【0037】
支持部材の形状は、本発明の通気膜を支持できる限り特に限定されない。
【0038】
支持部材の材質も特に限定されず、典型的には樹脂もしくは金属またはこれらの複合材料からなる。
【0039】
通気膜1と支持部材14との接着方法は特に限定されず、例えば、加熱溶着、超音波溶着、接着剤による接着、両面テープによる接着などの方法を適用できる。
【実施例】
【0040】
最初に、本実施例で作製したPTFE黒色多孔質膜ならびに無着色のPTFE多孔質膜の評価方法を示す。
【0041】
[明度]
PTFE多孔質膜の明度は、JIS Z8721に準拠し、標準色表(光沢版)を用いて評価した。
【0042】
[通気度]
PTFE多孔質膜の通気度は、JIS P8117(ガーレー法)に準拠して評価した。
【0043】
[耐水圧]
PTFE多孔質膜の耐水圧は、JIS L1092に記載されている耐水度試験機(高水圧法)を用いて求めた。ただしJIS L1092に規定の面積では膜が著しく変形するため、ステンレスメッシュ(開口径2mm)を膜の加圧面の反対側に設置し、変形を抑制した状態で測定した。
【0044】
[撥液性]
コピー用紙とPTFE多孔質膜とをコピー用紙が下になるように積層し、スポイトを用いてPTFE多孔質膜に灯油を1滴垂らした後、1分間放置した。その後、多孔質膜を取り除いてコピー用紙の状態を確認し、コピー用紙が灯油で濡れている場合をPTFE多孔質膜の撥液性なし、濡れていない場合を撥液性ありとした。
【0045】
(実施例)
PTFEファインパウダー(ダイキン工業製、F104)100重量部と、成形助剤としてn−ドデカン(ジャパンエナジー製)20重量部とを均一に混合し、得られた混合物をシリンダーを用いて圧縮した後にラム押出してシート状の混合物とした。次に、得られたシート状の混合物を、一対の金属ロールを通して厚さ0.2mmに圧延し、さらに150℃の加熱により成形助剤を乾燥除去して、PTFEのシート成形体を得た。次に、得られたシート成形体を、その長手方向(圧延方向)に延伸温度260℃、延伸倍率5倍で延伸した後に、幅方向に延伸温度150℃、延伸倍率20倍で延伸し、さらに全体をPTFEの融点を超える温度である380℃で焼成して、PTFE多孔質膜を得た。得られたPTFE多孔質膜の平均孔径は0.2μm、面密度は4g/m2であった。この値は、後の染色処理および撥液処理によってもほとんど変化しなかった。
【0046】
次に、上記のように作製したPTFE多孔質膜を、黒色染料(オリエント化学工業製、VALIFAST BLACK 3810)5重量部と、染料の溶剤であるメチルエチルケトン(太平化成製)95重量部とを混合して得た染色液に数秒間浸漬した後、全体を100℃に加熱して溶剤を乾燥除去して、黒色に染色されたPTFE多孔質膜を得た。
【0047】
次に、上記のように作製したPTFE黒色多孔質膜を、撥液剤(信越化学工業製、X-70-029C)20重量部と、撥液剤の溶媒(信越化学工業製、FSシンナー)100重量部とを混合して得た撥液処理剤に数秒間浸漬した後、全体を100℃に加熱して溶媒を乾燥除去して、撥液処理されたPTFE黒色多孔質膜を得た。
【0048】
得られたPTFE黒色多孔質膜の明度はN2、通気度は16秒/100mL、耐水圧は210kPa、撥液性は「あり」であった。
【0049】
(比較例1〜3)
染料液における黒色染料の濃度を低くしたか、黒色染料による染色自体を行わなかった以外は実施例と同様にして、撥液処理されたPTFE黒色多孔質膜(比較例1、2)および撥液処理された無着色のPTFE多孔質膜(比較例3)を得た。比較例1〜3で作製したPTFE多孔質膜の評価結果を、実施例で作製したPTFE多孔質膜の評価結果と併せて、以下の表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
実施例および比較例1〜3で作製したPTFE多孔質膜の特性は、明度以外、互いにほとんど差がなかった。なお、明度N2は黒色に、明度N3およびN4はグレーに、明度N9は白色に感じた。
【0052】
次に、実施例および比較例1〜2で作製した各PTFE黒色多孔質膜を、3日間、晴天の日射に暴露した。日射への暴露は、各多孔質膜を野外で水平に保ち、静置した状態で行った。暴露開始から1日後および3日後における各PTFE黒色多孔質膜の主面の明度を以下の表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、比較例1、2で作製したPTFE黒色多孔質膜は太陽光への暴露により退色が進行したが、実施例で作製したPTFE黒色多孔質膜は退色しなかった。
【0055】
次に、実施例および比較例1〜2で作製した各PTFE黒色多孔質膜に対する高温暴露試験を行った。高温暴露試験は、以下の表3〜5に示す所定の温度に保持した恒温室内に多孔質膜を最長70日間収容して実施した。実施例で作製したPTFE黒色多孔質膜に対する明度の評価結果を表3に、比較例1で作製したPTFE黒色多孔質膜に対する明度の評価結果を表4に、比較例2で作製したPTFE黒色多孔質膜に対する明度の評価結果を表5に、それぞれ示す。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
表3〜5に示すように、比較例1、2で作製したPTFE黒色多孔質膜は90℃以上の高温への暴露により退色が進行したが、実施例で作製したPTFE黒色多孔質膜は120℃への暴露によっても退色しなかった。
【0060】
明度がN2である実施例において、光あるいは熱による退色が進行しなかった理由として、本発明者らは以下の理由を推定している。第一に、明度がN2の場合とN3以上の場合とでは、PTFE多孔質膜に付着している染料の絶対量が異なることである。付着量が多いほど、仮に光や熱によって多孔質膜の表面付近の染料が退色したとしても、その下で退色せずに残る染料の絶対量が増加する。残る染料の絶対量の増加は、退色を妨げる方向に作用する。第二に、PTFE多孔質膜に付着している染料の量と、人間の視覚に基づく明度とが、直線的な比例関係にないことがある。具体的には、図6に示すように、染料量の変化に対して明度(図6では黒色度)が大きく変化する領域があると考えられ、明度がN3以上の場合、光や熱が加わることにより、多孔質膜に付着している染料の量が比較的容易にこの変化領域に達してしまうと考えられる。換言すれば、明度がN2であることは、染料量がこの大きく変化する領域に容易に達しない閾値となっていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のPTFE黒色多孔質膜は、従来のPTFE多孔質膜と同様の用途、例えば、防水通音膜、防水通気膜、防塵通気膜に使用できる。
【符号の説明】
【0062】
1,2,3,4 通気膜
5 通気部材
11 PTFE黒色多孔質膜
12 通気性支持材
13 PTFE多孔質膜
14 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒色に染色され、
JIS Z8721に準拠して測定した主面の無彩色明度がN2以下であるポリテトラフルオロエチレン黒色多孔質膜。
【請求項2】
水および/または粉塵を遮りながら、気体を透過させる通気膜であって、
請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン黒色多孔質膜を有する通気膜。
【請求項3】
前記ポリテトラフルオロエチレン黒色多孔質膜と、通気性支持材との積層構造を有し、
少なくとも一方の主面に、前記ポリテトラフルオロエチレン黒色多孔質膜が露出している請求項2に記載の通気膜。
【請求項4】
前記ポリテトラフルオロエチレン黒色多孔質膜と、JIS Z8721に準拠して測定した主面の無彩色明度がN3以上であるポリテトラフルオロエチレン多孔質膜との積層構造を有し、
少なくとも一方の主面に、前記ポリテトラフルオロエチレン黒色多孔質膜が露出している請求項2に記載の通気膜。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の通気膜と、
前記通気膜を支持する支持部材とを備える通気部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−52180(P2011−52180A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204825(P2009−204825)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】