説明

ポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル複合繊維

【課題】生産性が良好で原糸毛羽が抑制され、布帛とするときの生産性や布帛品位が良好であるポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル複合繊維を提案する。
【解決手段】少なくとも高粘度成分1がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからなり、以下の(1)〜(2)を満足する複合繊維(1)複合繊維中にリン元素を2〜50ppm含む(2)固体31P−NMR測定における3価リンに帰属するスペクトルピーク積分値Iと5価リンに帰属するスペクトルピーク積分値Iとの比I:Iが2:98〜50:50である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生産性に優れ、原糸毛羽が抑制されていることで高次通過性に優れ安定して品位の優れた布帛を得ることのできるポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりポリトリメチレンテレフタレート(以下PTTと称する)を主成分とするポリエステル繊維は伸長回復性が高く、かつ、初期引張抵抗度(以下ヤング率あるいは弾性率と称する)が低いことによる優れたソフト性、加えて易染性により衣料用途から非衣料用途まで広範囲で盛んに検討がされている。ところが、PTTはポリエチレンテレフタレート(以降PETと称する)よりも熱や酸素による劣化が大きく、さらなる生産拡大のための品種のバリエーションアップによる高度化や布帛の高度化、向上するお客様要求の達成に大きな障害となっている。
【0003】
かかる問題点に関しては従来から検討がなされ、特許出願もなされている。例えば、重合時に3価リンを添加することにより耐熱性、色調に優れたPTTチップが提案されている(特許文献1)。しかし、重合時での添加であり、たしかにPTTを重合する工程での熱劣化は抑制でき、色調に優れたPTTチップを得ることができるものの、該チップを使用し、繊維化したところ、熱や酸素による劣化が進み、生産性、原糸毛羽、高次通過性、布帛品位いずれにおいても従来と比べて優位性は得られないことが判明した。
【0004】
また、PTT繊維の生産性の低下、布帛品位の低下を抑制するために環状ダイマーの抑制が提案され、環状ダイマーの抑制方法としてリン化合物を添加することが提案されている(特許文献2)。環状ダイマーは重合時または溶融直後に発生するものであり、重合時または溶融直後に特許文献2にて提案されている3価または5価のリンを機能させることが記載されている。たしかにこの方法により環状ダイマーの生成は抑制されるものの、PTT自体の耐熱性を向上するものではなく、熱や酸素による分解や布帛の製造過程、その後の実使用時の加熱による分解を抑制することの検討が不足しており、従来からの改善を示唆できるものではない。
【0005】
リン化合物をマスターバッチチップとして高濃度で含有させ、紡糸時にブレンドすることで特許文献2と同様に生産性の低下、布帛品位の低下を抑制することが記載されている(特許文献3)。該技術についても特許文献1と同様にマスターバッチ化する工程において、熱、酸素による分解が進み、繊維化したときには従来と変わらないものとなる。
【0006】
さらには、PTTとPETからなるサイドバイサイド型複合繊維について、PTT側、PET側に特定の重合触媒を排しチタン化合物を触媒とすることによってオリゴマ析出が抑制される繊維を提案している(特許文献4)。このなかで、チタン触媒の活性によるポリマの分解を抑制すべく、5価リンを添加し、その抑制を図っている。しかし、5価リンの添加は触媒の失活による分解の抑制はできるものの、熱や酸素による分解は抑制できず、PTT本来の耐熱性の悪さを改善するものではなく、繊維の高度化に対応できるものではなかった。
【0007】
加えて細繊度糸や単糸細繊度糸ではPTTの熱や酸素による劣化により、生産性の低下や原糸毛羽の増加、高次通過性の悪化が顕在化し、さらには布帛とした後の実使用時における熱や酸素の影響で引裂強さの低下などの問題があったが、従来の技術では解決できるものではなかった。
このように公知技術では、熱や酸素によるPTTの劣化の抑制が不十分であり、複合繊維としたとき、あるいはそれを用いた布帛としたときに、従来では達成し得なかった生産性や品位を達成する技術が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−255331号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2006−291423号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2007−191600号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2004−285499号公報(請求項5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、生産性が良好で原糸毛羽が抑制され、布帛とするときの生産性や布帛品位が良好であるポリトリメチレンテレフタレート系ポリエステル複合繊維を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記の目的を達成するため、以下の構成を採用するものである。すなわち、少なくとも高粘度成分がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからなり、複合繊維中にリン元素を2〜50ppm含み、さらに、固体31P−NMR測定における3価リンに帰属するスペクトルピーク積分値Iと5価リンに帰属するスペクトルピーク積分値Iとの比I:Iが2:98〜50:50である複合繊維である。
【0011】
その製造方法は、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルを溶融紡糸するに際し、ポリエステルの溶融直前に酸素濃度500ppm以下の雰囲気下にて3価リンを添加し、さらに、3価リンを添加後、大気に開放することなく溶融し紡糸するものである。添加する3価リンの5%熱減量温度が280℃以上であればさらに好ましいものである。
【0012】
さらに、低粘度成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからなる複合繊維は好ましい形態であり、その製造方法は、ポリエステルの溶融直前に酸素濃度500ppm以下の雰囲気下にて3価リンを添加し、5%熱減量温度が290℃以上である3価リンを添加し、3価リンを添加後、大気に開放することなく溶融し紡糸し、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルの融点よりも30〜60℃高い温度にて紡糸するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、従来技術ではなし得なかった、布帛とするときの生産性や品位が良好で加工時やその後の実使用における熱や酸素による特性低下を引き起こさないため、風合いがソフトで表面が均一で発色性に優れた布帛の品位を持続的に得ることができる。さらには、細繊度および/または単糸細繊度糸を使用することで、布帛とした際に優れたソフト性が得られるが、従来技術では加工時の熱や酸素による劣化でソフト性や発色性、引裂強さの低下が顕著で実使用に耐えられなかったが、本発明により、それらの優れた品位の低下抑制に大きな効果が得られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明におけるサイドバイサイド型複合繊維の断面形状の例
【図2】実施例における製糸プロセス
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の繊維は、少なくとも高粘度成分がPTTを主成分とするポリエステルからなる複合繊維を対象としている。高粘度成分をPTTを主成分とするポリエステルとすることで、PTTの特徴であるソフト性が最大限に活かされた複合繊維とすることができる。
【0016】
本発明でいうPTTとはテレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。PTTは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなることが好ましい。ただし、10モル%以下の割合で他の共重合成分を含むものであってもよい。共重合可能な化合物としては、例えばイソフタル酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマ酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などのジカルボン酸類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのジオール類を挙げることができる。
【0017】
また、必要に応じて、艶消し剤として二酸化チタン、滑剤としてシリカ微粒子やアルミナ微粒子、抗酸化剤としてヒンダードフェノール誘導体、着色顔料などを添加してもよい。
【0018】
固有粘度は高粘度成分として高いほうが好ましく、0.8以上であることが好ましい。より好ましくは0.9以上であるとタフネスやストレッチ性が得られやすい。生産性の観点から2.0以下が好ましく、より好ましくは1.8以下である。
【0019】
低粘度成分は任意のポリエステルを選択できるが、PTTのほか、PETやポリブチレンテレフタレート(以降PBTと称する)が好ましい。
【0020】
ここでPETとはテレフタル酸を主たる酸成分とし、エチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。PETは、90モル%以上がエチレンテレフタレートの繰り返し単位からなることが好ましい。PTTと同様に、前記のような共重合成分を含むものであってもよい。艶消し剤等の添加剤を添加してもよい。
【0021】
またPBTとは、テレフタル酸を主たる酸成分とし、ブチレングリコールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。PBTは、90%モル以上がブチレンテレフタレートの繰り返し単位からなることが好ましい。やはりPTTと同様に、前記のような共重合成分を含むものであってもよい。艶消し剤等の添加剤を添加してもよい。
【0022】
低粘度成分の固有粘度は高粘度成分よりも低いものであり、固有粘度差で0.3以上であることが好ましく、0.4以上がより好ましい。PTTやPBTの場合、固有粘度は0.4以上、1.0以下が好ましく、0.45以上、0.9以下がより好ましい。PETの場合、0.4以上0.7以下が好ましく、0.45以上、0.65以下がより好ましい。これらのポリエステルのうち、特にPETを選択すると、強伸度積の向上、U%の向上、布帛のアイロンに対する耐性が向上し好ましい。
【0023】
複合繊維の断面形状は、優れたストレッチ性を得るには捲縮糸とすることが好ましい形態であり、サイドバイサイド型複合繊維とすることが好ましい。ここでサイドバイサイド型複合繊維とは図1にて示すような形態であり、このような形態により捲縮が発現し布帛としたときに優れたストレッチ性を発揮する。サイドバイサイド型複合繊維における高粘度成分と低粘度成分の複合比率は、捲縮性能の向上のためには30:70〜70:30であることが好ましく、35:65〜65:35がより好ましいといえる。
【0024】
一方、表面の凹凸やカールのない布帛を得るには同心円芯鞘型複合繊維とすることが好適な形態であり、さらに風合いがソフトで優れた発色性の布帛を得るには芯部を形成するポリエステル成分がポリエチレンテレフタレートからなり、鞘部を形成するポリエステル成分がポリトリメチレンテレフタレートからなる同心円芯鞘型複合繊維とすることが好ましい。同心円芯鞘型複合繊維における芯成分と鞘成分の複合比率は、ソフト性と高タフネスの両立のためには芯成分:鞘成分比率を50:50〜10:90であることが好ましく、40:60〜20:80がより好ましいといえる。
【0025】
本発明の複合繊維にはリン元素が2〜50ppm含む。リン元素が2ppm以上であると熱や酸素による分解を抑制し、布帛とした後の熱によるソフト性、発色性、捲縮などの劣化を抑制することが可能となる。また、50ppm以下であることで生産性や原糸毛羽が抑制される。リン元素含有量は多ければ多いほど分解抑制には効果的であり、4ppm以上含有することがより好ましい。本発明の複合繊維はPTTを含むものであるが、熱劣化を抑制するためには特にPTT中にリンが含有されることが好ましい。PTTと他のポリエステルを複合させ、PTT中のみにリンを添加する場合は複合繊維としたときにリン元素が2〜50ppmとなるように添加することが好ましい。この場合、PTTのリン元素含有量は50ppmを超えるが、複合繊維として50ppm以下であれば生産性や原糸毛羽の増加は抑制される。PTTではない他のポリエステル側で生産性や毛羽抑制が補完できるためである。具体的にはPTTのリン元素含有量は2〜120ppmであることが好ましく、10ppm以上、100ppm以下であることがより好ましい。
【0026】
また、本発明の複合繊維は固体31P−NMR測定における3価リンに帰属するスペクトルピーク積分値Iと5価リンに帰属するスペクトルピーク積分値Iとの比I:Iが2:98〜50:50である。3価リン、5価リンそれぞれに帰属するスペクトルピークの積分値はNMR測定結果にて算出されるものであり、その詳細は後述する方法によるものである。
【0027】
3価リンに帰属するピークが存在することは、複合繊維中に3価リンが存在することを意味している。3価リンは、ポリエステル中でハイドロペルオキサイドと反応して容易に5価リンに変化するため、3価リンを単純に添加することでは達成し得えず、後述する特定の方法にて複合繊維とした後に3価リンが残存していることが重要である。3価リンはPTTの分解の原因であるハイドロペルオキサイドの酸素を取り込み、無活性化する働きをする。PTTの溶融から紡糸に至るまで3価リンが残存していることは、発生するハイドロペルオキサイドを即座に無活性化することができ、PTTの分解が抑制することが可能となる。
【0028】
さらには、繊維を使用した布帛の作成、その後の熱付与からもポリマ分解を抑制する働きを維持するため、布帛の品位向上にも効果が得られる。サイドバイサイド型複合繊維においては、布帛としたときにストレッチ性が発現するが、アイロン掛け時の過度の熱により布帛が波打ち、変形する問題があるが、このような熱付与時に効果が得られるため、3価リンを複合繊維とした後も残存していることは重要であるし、同心円芯鞘型複合繊維においては、布帛とした後に、アイロン掛け時の過度の熱による布帛の収縮により布帛組織の目ズレやタルミなど、布帛のムラ感が強くなる問題があるが、このような熱付与時に効果が得られるため、3価リンを複合繊維とした後も残存していることは重要である。
【0029】
:Iは2:98〜50:50である。Iの全体に対する割合I/(I+I)(以降3価リン比率と称する)を2%以上とすることで溶融時の分解を抑制し、さらに布帛作成や実使用時での加熱の影響を極小化させることが可能となる。より好ましくは3%(I:I=3:97)以上、最も好ましくは4%(I:I=4:96)以上である。また、3価リン比率は50%以下である。3価リン比率は高ければ高いほど好ましいが、3価リンはポリエステルに添加すると急速に5価リンに変化するため、50%が限界である。
【0030】
3価リンを複合繊維とした後でも残存させ、3価リン比率を向上させるためには、ポリエステルの溶融直前に酸素濃度500ppm以下の雰囲気下にて3価リンを添加し、3価リンを添加後、大気に開放することなく溶融し紡糸することが必要である。
【0031】
溶融直前に3価リンを添加することで、溶融時の熱や酸素による分解を抑制することができる。重合時の添加では前述のように重合時の熱、酸素の影響で3価リンが消費されるため、チップ化の時点で3価リン比率が減少し、溶融時の分解を抑制することができない。
【0032】
ここで溶融直前とは、溶融する120分前までを指しており、3価リンを添加してから溶融するまでの時間が長くなると微量に存在する酸素や水分の影響を受け、溶融後の分解が促進され、繊維化後の3価リン比率を維持することが難しくなる。このことから、3価リンの添加は溶融まで90分以下となる時点で行うのがより好ましい。もっとも好ましいのは溶融の30分前以下で添加することである。
【0033】
3価リンを添加する雰囲気は酸素濃度が500ppm以下である理由も同様であり、3価リンを効率良く機能させることが可能となるためである。酸素濃度はより好ましくは300ppm以下である。窒素や不活性気体による充満により酸素濃度を低下させることが可能であり、窒素流入と真空ポンプによる排気を同時に実施することで酸素濃度を極小化させることができる。
【0034】
さらには3価リンの添加後は大気に開放することなく溶融紡糸することが必要である。大気開放による酸素、水分の付着を防止し、3価リンを効率良く機能させることが可能となる。3価リン添加後、500ppm以下の酸素濃度を維持し溶融することが好ましい方法である。
【0035】
添加する3価リンは5%熱減量温度が280℃以上であると3価リン自身の分解が抑制されるため好ましい。PTTを溶融する際には250℃以上の加熱であるためである。低粘度成分としてPETを選択した場合、ホモPETでは270℃以上の加熱が必要となるため、3価リンの5%熱減量温度は290℃以上であることがより好ましい。
【0036】
添加するリン化合物は3価リンであり、(I)亜リン酸、(II)亜ホスホン酸、(III)亜ホスフィン酸、(IV)ホスフィンが挙げられるが、耐熱性の観点から芳香環を持ち、嵩高い化合物が好ましい。たとえば、(II)の例として、テトラメチル[1,1−ビフェニル]−4、4’−ジイルビスホスホナイト、テトラエチル[1,1−ビフェニル]−4、4‘−ジイルビスホスホナイト、テトラブチル[1,1−ビフェニル]−4、4’−ジイルビスホスホナイト、テトラヘキシル[1,1−ビフェニル]−4、4’−ジイルビスホスホナイト、テトラオクチル[1,1−ビフェニル]−4、4’−ジイルビスホスホナイト、テトラベンジル[1,1−ビフェニル]−4、4’−ジイルビスホスホナイト、テトラーt−ブチル[1,1−ビフェニル]−4、4’−ジイルビスホスホナイト、テトラフェニル[1,1−ビフェニル]−4、4’−ジイルビスホスホナイトのほか、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトなどが挙げられる。
【0037】
【化1】

【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
(上記式中、R1〜R12は水素または炭素数1〜20の炭化水素基をあらわしている)
3価リンの添加はスクリューフィーダーやテーブルフィーダーを用い、溶融直前のチップ配管から添加することが好ましい方法で、フィーダー内の酸素濃度は500ppm以下に保つことが好ましく、300ppm以下とすることがより好ましい状態である。
【0042】
3価リンを添加した後、溶融するが、プレッシャーメルターによる方法、エクストルーダーによる方法が挙げられるが、エクストルーダーによる溶融が効率と分解抑制の観点から好ましい。溶融温度は使用するポリマの融点よりも10〜40℃高温に設定し行うことが好ましい。
【0043】
溶融されたポリマは計量ポンプやろ過フィルター、口金ノズルなどを経て吐出されるが、紡糸温度は高粘度成分、低粘度成分のうち、融点の高いポリマより10〜70℃高い温度に設定することが好ましい。
【0044】
繊維化後も3価リンが残存する本発明の規定の範囲の複合繊維であれば、紡糸温度は高い設定の方が強伸度積の向上、U%の向上が図れるため好ましい。この観点から、好ましい紡糸温度は250〜290℃であり、より好ましくは260〜290℃、最も好ましくは270〜290℃である。
【0045】
特に低粘度成分としてPETを採用する場合にはPETによる強伸度積向上が望めるため、より高い紡糸温度、すなわち、PTTの融点よりも30〜60℃高い紡糸温度が好ましい。より好ましくは35〜60℃である。
【0046】
一方、溶融から吐出までの滞留時間は短時間であるほど、3価リンを残存させるには好ましい。このことから滞留時間は30分以下とすることが好ましく、20分以下がより好ましい。強伸度積向上にはポリマ温度を紡糸温度と同一とさせることも好ましい状態であるため、3分以上とすることが好ましい。
【0047】
口金ノズルにて同心円芯鞘型やサイドバイサイド型に形成されたポリマは公知の製糸装置により繊維化される。未延伸糸を一旦巻取り、その後延伸する2工程法、未延伸糸を一旦巻き取ることなく連続して延伸する紡糸直接延伸法、高速の引き取り速度で巻き取る、高速紡糸法のいずれの方法でも採用することが可能である。あるいは、部分配向繊維(POY)とすることも可能である。
【0048】
複合繊維の好ましい物性について説明する。繊維としての機能を果たすためにはタフネスが高いことが好ましい。強度×(伸度+100)/100で表される強伸度積は3.0cN/dtex以上であることが好ましい。低粘度ポリマとしてPETを用いたり、紡糸温度を上げることによりタフネスは向上し、4.0cN/dtex以上であることがより好ましい。伸度は布帛化するときの扱いやすさや、PTT繊維のソフト性の維持のために、20〜60%であることが好ましく、より好ましくは25〜55%とすることが良く、さらに好ましくは25〜45%とすることが良い。
【0049】
沸騰水収縮率は3〜12%の範囲とすると良好な風合いの布帛を容易に得ることができる。収縮応力のピーク値は0.1cN/dtex以上、ピーク温度は130〜180℃の範囲とすると捲縮性能や伸長回復性能が上がり好ましい。
【0050】
また、U%は均一性の高い布帛を得るために0.8%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.7%以下である。紡糸温度を上げることにより紡糸線上の固化点が下がり、U%を良化させやすい。
【0051】
なお、複合繊維の繊度、単糸繊度は、繊度は10〜1000dtex、単糸繊度は0.3〜30dtex程度が一般的に採用される範囲であるが、繊度を低く、単糸繊度を低くすることにより布帛の発色性やソフト性は向上し、繊度10〜400dtex、単糸繊度0.3〜10dtex、フィラメント数は10〜1000がより好ましい。繊度が低くなると繊維化する際の熱劣化が進み、布帛とした後の耐熱性も低下することから、特に56dtex以下の細繊度糸においては、布帛への熱付与による強力低下の抑制効果が顕著となる。また、単糸繊度が低くなると布帛のソフト性は向上するが、原糸毛羽は増加し、U%は悪化し、高次通過性は悪化し、布帛とした後の熱付与によるソフト性や発色性の低下、ムラ感も顕在化することから、特に単糸繊度2dtex以下の多フィラメント糸で細繊度糸において、布帛とした後の熱や酸素による品位低下を抑制する効果が顕著となる。また、フィラメント数が多くなると口金の巨大化または複雑化により熱劣化が進行する。この点においても本発明は効果的である。
【0052】
繊維化された複合繊維はパーンまたはチーズ状パッケージとして巻き取られるが、その後、仮撚、撚糸などの加工を施すことも可能であるが、3価リンが残存しているために仮撚、撚糸などの加熱に対し、PTTの分解が抑制され、ポリトリメチレンテレフタレート系複合繊維ならではの捲縮性能やソフト性を維持したままの加工が可能となる。織物、編物いずれの布帛に展開可能であり、布帛作成時の生産性の向上はもちろん、染色、熱セットなどの加熱による影響を排除することが可能となり、従来にない品位の安定した布帛を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、実施例の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)固有粘度
固有粘度[η]は、溶媒として、オルソクロロフェノールを用い、30℃で粘度を測定し、次の定義式に基づいて求められる値である。ここで、Cは溶液の濃度、ηrは相対粘度(溶媒の粘度に対する、ある濃度Cにおける溶液の粘度の比率)である。
【0054】
【数1】

【0055】
(2)リン含有量
理学電機工業製蛍光X線装置ZSX100eにて複合繊維中のリン含有量を定量した。
【0056】
(3)5%熱減量温度
SII製TG/DTA6300を用い、窒素流量500ml/min、昇温速度10℃/minにて測定し、重量減少が5%となった温度を読み取った。
【0057】
(4)リンに帰属するスペクトルピークの積分値
Chemagnetics製CMX−300を用い、室温にて固体31P−NMR測定を行った。化学シフト基準としては、85wt%リン酸水溶液(外部基準0.0ppm)、(NHHPO(外部基準1.33ppm)を用いた。得られたスペクトルピークについて、3価リンに帰属するピークの積分値(およそ1100〜160ppmの位置に相当)の合計Iと5価リンに帰属するピークの積分値(およそ50ppm以下、3価よりも低ppmに相当)の合計Iを比として表示した。なお、スピニングサイドバンドは各ピークの主ピークの積分値に合算した。
【0058】
(5)強度、伸度、強伸度積
JIS L1013(1999)に従い測定した。強伸度積は以下の式にて算出した。
(強伸度積)=(強度)×(伸度+100)/100 。
【0059】
(6)収縮応力ピーク値、収縮応力ピーク温度
200mmの試料を結んで環状にし、鐘紡エンジニアリング社製KE−2を用い、初期荷重0.044cN/dtex、初期温度30℃、昇温速度100℃/分にて収縮応力を測定し、収縮応力が最大になる温度(ピーク温度)、および、その時の収縮応力の値(ピーク値)を求めた。
【0060】
(7)U%
Zellweger社製USTER TESTER 4−CXを使用し、200m/分の速度で5分間糸を給糸しながらノーマルモードで測定を行った。
【0061】
(8)生産性
製糸量5tの連続紡糸を3回実施し、トンあたりの平均の糸切れ回数を算出した。糸切れ回数に応じ、以下の評価点数とした。
3点:糸切れ回数 0.5回/t未満
2点:糸切れ回数 0.5回/t以上、1.0回/t未満
1点:糸切れ回数 1.0回/t以上、2.0回/t未満
0点:糸切れ回数 2.0回/t以上 。
【0062】
(9)毛羽
採取した繊維をTEK製毛羽検出装置付きの整経機に掛けて、500m/分の速度で引き取りした。整経機が停止するごとに目視で毛羽の有無を確認し、長さ2mm以上の毛羽の個数をカウントした。10万m×50サンプルを測定し、10万mあたりの平均の毛羽の個数を算出した。毛羽の個数に応じ、以下の評価点数とした。
3点:0.1個/10万m未満
2点:0.1個/10万m以上、0.2個/10万m未満
1点:0.2個/10万m以上、0.4個/10万m未満
0点:0.4個/10万m以上 。
【0063】
(10)編糸切れ
採取した繊維を整経し、28Gトリコットハーフ組織として20反を編み立てした。フロント糸、バック糸とも同一の繊維を用いた。1反あたりの編糸切れ回数に応じ、以下の評価点数とした。
3点:0.3回/反未満
2点:0.3回/反以上、0.6回/反未満
1点:0.6回/反以上、1.0回/反未満
0点:1.0回/反以上 。
【0064】
(11)布帛発色性、布帛ソフト性
フロント糸、バック糸とも、各実施例及び比較例により得られた繊維を用い、28Gトリコットハーフ組織の編物生機を作成した。得られた生機を95℃にて精錬し、140℃にてプリセット後、起毛処理を施した。その後、130℃にてブルー色に染色し、ピンテンターを用い160℃にて仕上げセットを行い起毛編物を得た。得られた起毛編物を1m角に切り取り、該編物1点について、経験年数3年以上の評価者3名による官能評価を行い、該評価者3名の合議によって以下の評価点数とした。
3点:従来品と比較して明らかに優れている。
2点:従来品と比較して大幅な改善ではないものの、若干優れている。
1点:従来品と比較して優位性は見られない。
0点:従来品と比較して劣っている。
それぞれの評価の観点は以下の通りである。
布帛発色性:布帛のムラ感、発色性について目視検査により従来品(84dtex144フィラメントで固有粘度0.65のホモPET単独糸を使用したゾッキ編物)との比較評価を行った。ムラ感がなく、発色性が高いほど高点数とした。
布帛ソフト性:布帛のソフト性について触感検査により従来品(84dte144フィラメントで固有粘度0.65のホモPET単独糸を使用したゾッキ編物)との比較評価を行った。ソフト性が高いほど高点数とした。
【0065】
(12)総合評価
前述(9)〜(11)の評価点数を足し算し、以下の基準で合否を判定した。
合格:点数6点以上、かつ、(8)〜(11)の評価項目で0点の項目がないこと。
不合格:点数5点以下、または、(8)〜(11)の評価項目で0点の項目がある。
【0066】
実施例1
鞘成分として固有粘度1.10、DSCによる融点が228℃のホモPTTチップ、芯成分として固有粘度0.51、DSCによる融点が257℃であるホモPETチップを準備し、それぞれ露点温度−50℃の絶乾空気にて40ppmの水分率となるまで乾燥した。
【0067】
乾燥後、酸素濃度10ppm、25℃の窒素雰囲気下で保管し、鞘成分にエクストルーダーによる溶融の3分前に酸素濃度20ppmの雰囲気下で化学式(I)に相当する5%熱減量温度310℃であるビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトをリン元素量換算で40ppm添加した。
【0068】
エクストルーダーにて、鞘成分は255℃にて溶融、芯成分は285℃にて溶融し、紡糸温度を280℃に設定し、計量ポンプによる計量を行い、ろ過を経て口金ノズルにて同心円の芯鞘断面形状となるように吐出させた。芯鞘複合比率を鞘:芯=80:20とした。なお、溶融から吐出までの滞留時間は鞘成分が8分、芯成分が30分となるように配管長を調整した。
【0069】
吐出したポリマは図2に示す製糸装置にて繊維化した。すなわち、冷却、給油を経て1500m/分の速度、50℃の表面温度に設定された引き取りロール5にて引き取り、一旦巻き取ることなく、連続して4300m/分、150℃に設定された熱処理ロール6に引き回し、3.0倍の延伸を実施した。延伸、熱処理された糸条は4042m/分の速度に設定された常温ロール8にて張力調整し、4000m/分の速度で1.5g/dtexの張力にてチーズ状パッケージを巻き取り、84dtex−48フィラメントの同心円芯鞘型ポリトリメチレン系ポリエステル複合繊維を得た。
【0070】
得られた複合繊維はリン含有量は32ppm、NMRによる3価リン比率は10%であり、紡糸により大部分が消費されたものの、3価リンの残存が確認された。複合繊維評価は生産性、原糸毛羽、編糸切れ、布帛発色性、布帛ソフト性とも良好であった。結果を表1に示す。
【0071】
実施例2〜4
エクストルーダーでの溶融直前に添加するリン化合物として、実施例2は化学式(II)に相当する5%熱減量温度334℃のテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4‘−ジイルビスホスホナイト、実施例3は化学式(II)に相当する5%熱減量温度290℃のテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、実施例4は化学式(I)に相当する5%熱減量温度272℃のトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを用いた以外は実施例1と同様の方法にて製糸し、複合繊維を得た。得られた繊維の物性、評価結果は表1に示すとおりであった。
【0072】
実施例4については、3価リン比率は2%であり、生産性、原糸毛羽が若干劣るものであったものの、編糸切れ、布帛発色性、布帛ソフト性は良好であった。実施例2〜3についても本発明の規定範囲内であり、良好な特性を示した。
【0073】
比較例1
エクストルーダーでの溶融直前に添加するリン化合物として、5%熱減量温度242℃のビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステルホスファイトを用いた以外は実施例1と同様の方法にて製糸し、複合繊維を得た。得られた繊維は表1に示すように、リン含有量は32ppmであるものの、NMRにおける3価リンに対応するピークは観察されず、3価リンの残存は確認されなかった。用いたリン化合物の耐熱性が劣るために分解が進んだと考えられ、生産性、原糸毛羽とも十分な効果は得られず、従来からの大幅な改善は確認できなかった。
【0074】
比較例2
エクストルーダーでの溶融直前に添加するリン化合物として、5価リンを選定し、5%熱減量温度276℃のフェニルホスホン酸を用いた以外は実施例1と同様の方法にて製糸し、複合繊維を得た。添加時点で5価リンであるため、繊維化後においても3価リンに対応するピークは確認されなかった。いずれの評価も不十分な結果であり、3価リンが存在していないことが原因と考えられる。
【0075】
比較例3
特許文献1(特開2008−255331号公報)を参考に、PTTを重合した。エステル交換反応終了後に実施例3にて用いたテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4‘−ジイルビスホスホナイトを添加し、固有粘度1.10のホモPTTチップを作成した。得られたPTTを実施例1に準じ、溶融直前にリン化合物を添加しないこと以外は同一の条件にて乾燥、製糸し、複合繊維を得た。比較例2と同様に、3価リンに対応するピークは観測されず、重合時添加では不十分であった。
【0076】
比較例4
特許文献3(特開2007−191600号公報)を参考に、実施例1にて用いたビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトをリン元素量として300ppm添加した固有粘度1.10であるマスターバッチPTTを作成した。作成したマスターバッチが全体の10wt%となるように鞘成分のPTTにチップブレンドし、溶融製糸した。溶融以降の条件は実施例1と同一の条件にて製糸し、複合繊維を得た。やはり、3価リンに対応するピークは確認されず、いずの評価も不十分であった。なお、作成したマスターバッチPTTの時点で3価リンに対応するピークは観測されず、マスターバッチ方式では不十分となった。
【0077】
【表1】

【0078】
実施例5〜10、比較例5〜6
次にリンの添加量による影響について確認を行った。
鞘成分として固有粘度1.10、DSCによる融点が228℃のホモPTTチップ、芯成分として固有粘度0.51、DSCによる融点が257℃であるホモPETチップを準備し、それぞれ露点温度−50℃の絶乾空気にて40ppmの水分率となるまで乾燥した。
【0079】
乾燥後、酸素濃度10ppm、25℃の窒素雰囲気下で保管し、鞘成分、芯成分ともエクストルーダーによる溶融の3分前に酸素濃度20ppmの雰囲気下で5%熱減量温度334℃であるテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4‘−ジイルビスホスホナイトをリン元素量換算でそれぞれ表2に示す含有量を添加した。
【0080】
鞘成分はエクストルーダーにて255℃にて溶融し、芯成分はエクストルーダーにて285℃にて溶融し、紡糸温度を280℃に設定し、計量ポンプによる計量を行い、ろ過を経て口金ノズルにて同心円の芯鞘断面形状となるように吐出させた。芯鞘複合比率を鞘:芯=70:30とした。なお、溶融から吐出までの滞留時間は鞘成分が10分、芯成分が27分となるように配管長を調整した。
【0081】
吐出したポリマは図2に示す製糸装置にて繊維化した。すなわち、冷却、給油を経て1500m/分の速度、50℃の表面温度に設定された引き取りロール5にて引き取り、一旦巻き取ることなく、連続して4300m/分、150℃に設定された熱処理ロール6に引き回し、3.0倍の延伸を実施した。延伸、熱処理された糸条は4042m/分の速度に設定された常温ロール8にて張力調整し、4000m/分の速度で1.5g/dtexの張力にてチーズ状パッケージを巻き取り、84dtex−48フィラメントの同心円芯鞘型ポリトリメチレン系ポリエステル複合繊維を得た。得られた繊維に対する評価結果を表2に示す。
【0082】
リン含有量が2ppmであった実施例6では、3価リン比率が2%であり、原糸毛羽、編糸切れにおいて若干劣るものであったが、生産性、布帛発色性、布帛ソフト性とも良好であった。リン含有量が4〜50ppmであった実施例5、7、8、9、10はいずれも良好な評価結果を示し、特に実施例10ではすべての項目で極めて良好な結果を得た。
【0083】
一方、リン含有量が1ppmであった比較例5においては、3価リンに対応するピークは観測されず、いずれの評価項目においても不十分であった。リン含有量が60ppmであった比較例6では、3価リン比率は26%と高かったものの、強伸度積に若干の低下が認められ、生産性、原糸毛羽、編糸切れ、布帛発色性において十分な効果が得られなかった。多量な添加は繊維構造形成を阻害するものと考える。
【0084】
比較例7
芯成分としてイソフタル酸を7.0モル%、ビスフェノールAエチレンオイサイドを4.5モル%、それぞれ酸成分に対し共重合し、固有粘度0.52、DSDによる融点が228℃である共重合PETを準備し、芯成分の溶融温度を255℃、紡糸温度を260℃とし、溶融直前のリン添加は実施しないこと以外は実施例5と同様の条件にて複合繊維を得た。
【0085】
表2に示すように紡糸温度を低くしたことによりタフネスは低下した。一方、紡糸温度を低くしたことによりポリマの熱劣化は若干抑えられ、生産性、原糸毛羽は良好であったものの、編糸切れ、布帛発色性、布帛ソフト性において不十分であった。繊維化後に3価リンが存在していないことにより、その後の加工時の問題が顕在化したと考えられる。
【0086】
【表2】

【0087】
実施例11〜14、比較例8
次にリン添加部の酸素濃度の影響について調査した。
鞘成分にエクストルーダーによる溶融の3分前に添加するリン化合物の5%熱減量温度が310℃であるビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトを用い、リン添加部の酸素濃度を表3の通りに変更した以外は実施例1と同様の条件にて製糸し、複合繊維を得た。得られた繊維に対する評価を表3に示す。
【0088】
リン添加部の酸素濃度が低くなるにつれ、いずれの評価項目も改善する傾向であった。酸素濃度を700ppmとした比較例8においては生産性、原糸毛羽、編糸切れで若干劣り、効果が十分とはいえない結果であった。添加時の酸素の存在がその後の加熱時の酸化劣化を促進していると考えられる。繊維化後の3価リン比率の減少はリン化合物によるラジカルトラップが機能していることを示すものであるが、酸素が高濃度であるとトラップしきれず、熱劣化やその後の加工時の問題が発生すると考えられる。
【0089】
【表3】

【0090】
実施例15〜19、比較例9〜10
滞留時間、紡糸温度、芯鞘比率を表4の通り変更した以外は実施例5と同様の条件にて製糸し、複合繊維を得た。結果を表4に示す。
【0091】
鞘成分の滞留時間を4分と短縮した実施例15では3価リン比率が21%と十分な残存が確認され、いずれの評価項目においても十分な効果が認められた。
【0092】
鞘成分の滞留時間を25分とした比較例9では熱劣化、酸化劣化の進行により繊維化後の3価リンの残存が見られず、いずれの評価結果も不十分であった。
【0093】
紡糸温度を295℃とした実施例16では紡糸温度が高いにも関わらず、良好な評価結果であった。PTT自体の耐熱性が向上したことによる効果と考えられる。さらに、紡糸温度が高いことにより、U%の良化、強伸度積の向上が見られた。
【0094】
紡糸温度を270℃とした実施例17では実施例16と比べると強伸度積が若干劣るものの、実用上では十分な強伸度積が得られ、かつ、すべての評価項目において文句のない十分な効果が得られた。
【0095】
芯鞘比率を鞘:芯=90:10に変更した実施例18では鞘成分であるPTT比率を増やしたことにより伸度が若干高めであるものの、いずれの評価においても良好であった。
【0096】
鞘:芯=50:50に変更した実施例19では芯成分であるPET比率を増やしたことにより布帛ソフト性が若干劣るものの、良好な結果が得られた。
【0097】
鞘:芯=10:90に変更した比較例10では鞘成分であるPTTの滞留時間が延びたことにより、繊維化後の3価リンの残存が見られなかったこと、さらに、芯成分であるPET比率が増えたことでPETの特性が色濃くでたことにより、いずれの評価項目においても不十分な結果であった。
【0098】
【表4】

【0099】
以下では繊度、単糸繊度による影響、効果について実験を行った。
このため、布帛の評価として(13)項を追加し、総合評価としては(14)に従い判定した。
【0100】
(13)布帛の引裂強さ保持率
フロント糸、バック糸とも、実施例20〜21、比較例11〜12により得られた繊維を用い、28Gトリコットハーフ組織の編物生機を作成した。得られた生機を95℃にて精錬し、140℃にてプリセット後、起毛処理を施した。その後、130℃にてブルー色に染色し、ピンテンターを用い160℃にて仕上げセットを行い起毛編物を得た。得られた起毛編物について80℃×30%RHの条件下で2000時間のエージング処理を実施した後に、JIS L−1018のA法に準じて引裂強さを測定し、下記式により引裂強さ保持率を算出した。
引裂強さ保持率(%)=(処理後の引裂強さ/処理前の引裂強さ)×100
引裂強さ保持率に応じ、以下の評価点とした。
2点:90%以上
1点:85%以上、90%未満
0点:85%未満 。
【0101】
(14)総合評価
前述(9)〜(11)と(13)の評価点数を足し算し、以下の基準で合否を判定した。
合格:点数7点以上、かつ、(8)〜(11)、(13)の評価項目で0点の項目がないこと。
不合格:点数6点以下、または、(8)〜(11)、(13)の評価項目で0点の項目がある。
【0102】
実施例20〜22、比較例11〜13
繊度、フィラメント数、滞留時間、リン含有量を表5の通り変更した以外は実施例5と同様の条件にて製糸し、複合繊維を得た。結果を表5に示す。
【0103】
繊度を56dtex、フィラメント数を144、単糸繊度を0.4dtexとした実施例20では3価リン比率は12%であり、いずれの評価項目においても十分な効果が得られた。特に単糸繊度を低くし、耐熱性が向上したことにより布帛にした際に極めて良好なソフト性、ムラ感のない優れた発色性が得られた。さらに、布帛とした後のエージング処理後においても十分な引裂強さ保持率が得られた。
【0104】
溶融直前のリン添加を実施しないこと以外は実施例20と同様にした比較例11については、生産性、高次通過性、布帛品位共に十分な効果を得られなかった。繊維化時や布帛作成時の熱や酸素による影響が顕在化したと考える。
【0105】
繊度を11dtex、フィラメント数を3、単糸繊度を3.7dtexとした実施例21では3価リン比率は8%であり、いずれの評価項目においても十分な効果が得られ、特に布帛とした後のエージング処理後において、引裂強さ保持率に大きな効果が得られた。
【0106】
溶融直前のリン添加を実施しないこと以外は実施例21と同様にした比較例12については、生産性、高次通過性、布帛品位共に十分な効果を得られなかった。また、布帛とした後のエージング処理後において顕著な引裂強さ低下が見られた。
【0107】
繊度を33dtex、フィラメント数を48、単糸繊度を0.7とした実施例22では3価リン比率は10%であり、いずれの評価項目においても十分な効果が得られた。
【0108】
溶融直前のリン添加を実施しないこと以外は実施例22と同様にした比較例13については、いずれの評価項目でも不十分な結果であった。
【0109】
【表5】

【0110】
以下では複合形態をサイドバイサイド型複合繊維にして検証を行った。このため、複合繊維および得られた布帛の評価として(15)〜(17)項を追加し、総合評価としては(18)に従い判定した。
【0111】
(15)捲縮率
以下の式に従い算出した。
(捲縮率(%))=[(L−L)/L]×100
:カセ取り(1m×10回巻)によりサンプリングした繊維カセに処理荷重1.8×10−3cN/dtexの荷重を吊した状態で90℃熱水処理を20分間行い、温水処理後、濾紙で水分を取った後、処理荷重を外し、20℃、70%RHの恒温恒湿室にて12時間乾燥する。処理したサンプルに初荷重1.8×10−3cN/dtexを吊し、30秒後のカセ長
:L測定後、初荷重を取り除いて重荷重88.2×10−3cN/dtexを吊して30秒後のカセ長。
【0112】
(16)布帛品位
採取した繊維をタテ糸、ヨコ糸として準備し、タテ糸は糊付け処理を行ったのち、以下の条件にて織物生機を作成した。
タテ密度:110本/2.54cm
ヨコ密度:98本/2.54cm
織機 :津田駒工業社製 ウォータージェットルームZW−303
製織速度:450回転/分
得られた生機を、オープンソーパーを用いて95℃の温度で連続精錬後、120℃の温度でシリンダー乾燥した後、液流染色機を用いて120℃の温度で染色を行った。次いで、175℃の温度で仕上げと幅出し熱セットの一連の処理を行った。作成した織物布帛について、温度150℃のアイロンを300kg/mの接圧にて10秒間押し付けた。アイロンの跡について経験年数2年以上の検査員3名の合議により、表面均一性(布帛の波打ちがないか、ポリマ融解がないか、繊維の飛び出しはないか)について評価点数化した。
3点:全く問題がない
2点:布帛の波打ちは高さ1mm以下程度であり、問題はない
1点:布帛の波打ちは高さ3mm以下程度であるが、ポリマ融解や繊維の飛び出しは見られず布帛としての機能は損なわない
0点:布帛の波打ちも大きく、ポリマ融解による布帛が硬化や繊維の飛び出しが見られ、布帛として機能しない 。
【0113】
(17)捲縮耐久性
(16)で評価した布帛から20cmの複合繊維を10本抜き出し、束ね、測定サンプルとし、以下の式にて布帛捲縮率を測定した後、(15)での捲縮率を用い捲縮耐久性を求め評価した。
(布帛捲縮率(%))=[(L−L)/L]×100
:初荷重1.8×10−3cN/dtexを吊し、30秒後のサンプル長
:L2測定後、初荷重を取り除いて重荷重88.2×10−3cN/dtexを吊して30秒後のサンプル長
(捲縮耐久性)=(布帛捲縮率)/(捲縮率)×100
3点:捲縮耐久性50%以上
2点:捲縮耐久性25%以上50%未満
1点:捲縮耐久性15%以上25%未満
0点:捲縮耐久性15%未満 。
【0114】
(18)総合評価
前述(8)〜(10)、(16)、(17)の評価点数を掛け算し、以下の基準で合否を判定した。
合格:点数16点以上
不合格:点数15点以下。
【0115】
実施例23
高粘度成分として固有粘度1.52のホモPTTチップ、低粘度成分として固有粘度0.91、DSCによる融点が両者とも228℃であるホモPTTチップを準備し、それぞれ露点温度−50℃の絶乾空気にて40ppmの水分率となるまで乾燥した。乾燥後、酸素濃度10ppm、25℃の窒素雰囲気下で保管し、高粘度成分、低粘度成分ともエクストルーダーによる溶融の3分前に酸素濃度10ppmの雰囲気下で化学式(I)に相当する5%熱減量温度310℃であるビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトをリン元素量換算で30ppm添加した。エクストルーダーにて255℃にて溶融し、紡糸温度を260℃に設定し、計量ポンプによる計量を行い、ろ過を経て口金ノズルにて図1(a)のような断面形状となるように複合比率50:50のサイドバイサイド型に貼り合わせ吐出させた。なお、溶融から吐出までの滞留時間は高粘度、低粘度ポリマとも10分となるように配管長を調整した。吐出したポリマは図2に示す製糸装置にて繊維化した。すなわち、冷却、給油を経て1500m/分の速度、50℃の表面温度に設定された引取りロール7にて引き取り、一旦巻き取ることなく、連続して4300m/分、150℃に設定された熱処理ロール8に引き回し、3.0倍の延伸を実施した。延伸、熱処理された糸条は4042m/分の速度に設定された常温ロール10にて張力調整し、4000m/分の速度で1.5g/dtexの張力にてチーズ状パッケージを巻き取り、56dtex−24フィラメントのサイドバイサイド型ポリトリメチレン系ポリエステル複合繊維を得た。
【0116】
得られた複合繊維はリン含有量30ppm、NMRによる3価リン比率は8%であり、紡糸により大部分が消費されたものの、3価リンの残存が確認された。複合繊維評価は生産性、原糸毛羽、編糸切れ、布帛品位とも良好であり、また、捲縮耐久性も58%と良好であった。結果を表6に示す。
【0117】
実施例24〜26
エクストルーダーでの溶融直前に添加するリン化合物として、実施例24は化学式(II)に相当する5%熱減量温度290℃のテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、実施例25は化学式(II)に相当する5%熱減量温度344℃のテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト、実施例26は化学式(I)に相当する5%熱減量温度272℃のトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを用いた以外は実施例23と同様の方法にて製糸し、複合繊維を得た。得られた繊維の物性、評価結果は表6に示す通りであった。実施例26においては、3価リン比率は2%であり、生産性が若干劣るものであったものの、編糸切れ、布帛品位は良好であった。実施例24〜25についても本発明の規定範囲内であり、良好な特性を示した。
【0118】
比較例14
エクストルーダーでの溶融直前に添加するリン化合物として、5%熱減量温度242℃のビス(2,4−ビス(1,1−ジメチルエチル)−6−メチルフェニル)エチルエステルホスファイトを用いた以外は実施例23と同様の方法にて製糸し、複合繊維を得た。得られた繊維は表6に示すように、リン含有量は30ppmであるものの、NMRにおける3価リンに対応するピークは観察されず、3価リンの残存は確認されなかった。用いたリン化合物の耐熱性が劣るために分解が進んだと考えられ、製糸性、原糸毛羽とも十分な効果は得られず、編糸切れ、布帛品位においても不十分な結果しか得られず、従来からの大幅な改善は確認できなかった。
【0119】
比較例15
エクストルーダーでの溶融直前に添加するリン化合物として、5価リンを選定し5%熱減量温度276℃のフェニルホスホン酸を用いた以外は実施例23と同様の方法にて製糸し、複合繊維を得た。添加時点で5価リンであるため、繊維化後においても3価リンピークは確認されなかった。いずれの評価も不十分な結果であり、3価リンが存在していないことが原因と考えられる。
【0120】
比較例16
特許文献1(特開2008−255331号公報)を参考に、PTTを重合した。なお、エステル交換反応終了後に実施例25にて用いたテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトを添加し、固有粘度1.51、固有粘度0.80の2種類のホモPTTチップを作成した。得られたPTTを実施例1に準じ、溶融直前にリン化合物を添加しないこと以外は同一の条件にて乾燥、製糸し複合繊維を得た。比較例15と同様に、3価リンピークは確認されず、いずれの評価も不十分であった。なお、重合したPTTチップの時点で3価リンピークは観測されず、重合時添加では不十分となった。
【0121】
比較例17
特許文献3(特開2007−191600号公報)を参考に、実施例25にて用いたテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトをリン元素量として300ppm添加した固有粘度が0.80であるマスターバッチPTTを作成した。作成したマスターバッチが全体の10wt%となるように高粘度側、低粘度側にそれぞれチップブレンドし、溶融製糸した。溶融以降の条件は実施例1と同一の条件にて製糸し、複合繊維を得た。やはり、3価リンピークは確認されず、いずれの評価も不十分であった。なお、作成したマスターバッチPTTの時点で3価リンピークは観測されず、マスターバッチ方式では不十分となった。
【0122】
【表6】

【0123】
実施例27〜31、比較例18〜19
次にリンの添加量による影響について確認を行った。
高粘度成分として固有粘度1.10、DSCによる融点が228℃のホモPTTチップ、低粘度成分として固有粘度0.51、DSCによる融点が257℃であるホモPETチップを準備し、それぞれ露点温度−50℃の絶乾空気にて40ppmの水分率となるまで乾燥した。乾燥後、酸素濃度10ppm、25℃の窒素雰囲気下で保管し、高粘度成分にのみエクストルーダーによる溶融の3分前に酸素濃度10ppmの雰囲気下で化学式(II)に相当する5%熱減量温度344℃のテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイトをリン元素量換算でそれぞれ表7に示す添加量を計量、添加した。高粘度成分はエクストルーダーにて255℃にて溶融し、低粘度成分はエクストルーダーにて285℃にて溶融し、紡糸温度を280℃に設定し、計量ポンプによる計量を行い、ろ過を経て口金ノズルにて図1(a)のような断面形状となるように複合比率50:50のサイドバイサイド型に貼り合わせ吐出させた。なお、溶融から吐出までの滞留時間は高粘度、低粘度ポリマとも10分となるように配管長を調整した。吐出したポリマは図2に示す製糸装置にて繊維化した。すなわち、冷却、給油を経て1500m/分の速度、50℃の表面温度に設定された引取りロールにて引き取り、一旦巻き取ることなく、連続して4500m/分、150℃に設定された熱処理ロールに引き回し、3.0倍の延伸を実施した。延伸、熱処理された糸条は4275m/分の速度に設定された常温ロールにて張力調整し、4210m/分の速度で1.5g/dtexの張力にてチーズ状パッケージを巻き取り、56dtex−24フィラメントのサイドバイサイド型ポリトリメチレン系ポリエステル複合繊維を得た。得られた繊維に対する評価結果を表7に示す。
【0124】
リン含有量が5ppmであった実施例28では3価リン比率が2%であり、生産性において若干劣るものであったが、原糸毛羽、編糸切れ、布帛品位とも良好であった。リン含有量が10〜50ppmであった実施例27、29、30、31はいずれも良好な評価結果を示し、特に実施例31ではすべての項目で文句ない良好な結果を得た。本実施例は低粘度ポリマとしてPETを選定したが、布帛評価にて特に良好であり、さらに強伸度積、U%が良好であった。PTTの耐熱性向上とPETの耐熱性の高さの相乗効果であると考えられる。
【0125】
一方、リン含有量が3ppmであった比較例18においては3価リン比率が1%であり、生産性、原糸毛羽、編糸切れとも若干劣る結果となり、大幅な改善は見られなかった。リン含有量が59ppmであった比較例19では3価リン比率は26%と高かったものの、強伸度積に若干の減少が認められ、生産性、原糸毛羽で十分な効果が得られなかった。多量の添加は繊維構造形成を阻害するものと考えられる。
【0126】
【表7】

【0127】
実施例32〜35、比較例20
次にリン添加部の酸素濃度の影響について調査した。
高粘度成分にのみエクストルーダーによる溶融の3分前に酸素濃度10ppmの雰囲気下で添加するリン化合物を5%熱減量温度290℃であるテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)(1,1−ビフェニル)−4,4’−ジイルビスホスホナイトを用い、リン添加部の酸素濃度を表8の通りに変更した以外は実施例27と同様の条件にて製糸し、複合繊維を得た。得られた繊維に対する評価結果を表8に示す。
【0128】
リン添加部の酸素濃度が低くなるにつれ、いずれの評価項目も改善する傾向であった。酸素濃度を700ppmとした比較例20においては生産性、原糸毛羽、編糸切れで若干劣る結果となり、大幅な改善は見られなかった。添加時の酸素の存在がその後の加熱時の酸化劣化を促進していると考えられる。繊維化後の3価リン比率の減少はリン化合物によるラジカルトラップが機能していることを示すものであるが、酸素が高濃度であるとトラップしきれず、熱劣化やその後の加工時の問題が発生すると考えられる。
【0129】
実施例36〜37、比較例21
次にリン添加から溶融までの時間の影響について調査した。
リン添加から溶融までの時間を表8の通りとした以外は実施例33と同様の条件にて製糸し、複合繊維を得た。得られた繊維に対する評価は表8の通りである。
【0130】
溶融までの時間を30分とした実施例36では実施例33と遜色ない評価結果であり良好であった。100分とした実施例37では3価リン比率は2%と減少が見られたものの、編糸切れ、布帛品位、捲縮耐久性とも良好であった。一方、溶融までの時間を150分とした比較例21では、3価リン比率は1%まで減少し、十分な評価結果は得られなかった。溶融までに微量に存在する酸素により、その後の分解が進んだものと考えられる。
【0131】
【表8】

【0132】
実施例38〜41、比較例22
紡糸温度、滞留時間、リン添加部酸素濃度を表9のように変更した以外は実施例25と同様の条件にて製糸し、複合繊維を得た。結果を表9に示す。
【0133】
滞留時間を4分と短縮した実施例38では3価リン比率が49%と十分な残存が確認され、生産性、原糸毛羽、編糸切れとも問題なく、布帛評価も耐熱性に劣るPTTを主成分とした複合糸であるものの良好であった。
【0134】
滞留時間を20分とした実施例39では3価リン比率が5%であり、実施例31に劣る評価となったが、編糸切れ、布帛品位ともに良好であった。一方、滞留時間を30分、リン添加部の酸素濃度を200ppmとした比較例22では熱劣化、酸化劣化の進行により3価リンは確認されず、評価結果も不十分であった。
【0135】
紡糸温度を275℃、290℃とした実施例40、実施例41では紡糸温度が高いにも関わらず、良好な評価結果となり、さらに、紡糸温度が高いため、強伸度積の向上、U%の改善が見られた。特に高い紡糸温度にて繊維特性の向上との両立を図ることができる。
【0136】
実施例42
低粘度成分としてイソフタル酸を7.0モル%、ビスフェノールAエチレンオキサイドを4.5モル%、それぞれ酸成分に対し共重合し、DSCによる融点が228℃である固有粘度0.55の共重合PETを準備し、低粘度成分の溶融温度を255℃、紡糸温度を260℃とした以外は実施例27と同様の条件にて複合繊維を得た。表9に示すように、紡糸温度を低く設定したためにPTTの熱劣化が抑制され、実施例27対比、3価リン比率が向上したため強伸度積は低下したものの各評価とも良好な結果であった。
【0137】
実施例43〜44
紡糸温度、滞留時間を表9の通り変更した以外は実施例27と同一の条件にて複合繊維を得た。本発明の規定範囲内の3価リン比率を保つことで高温紡糸でも問題なく良好な布帛を得ることができた。高温紡糸は強伸度積の向上の一助となり、3価リン比率の適正化との組み合わせにより、従来にない高タフネス、高品位の複合繊維を得ることができた。
【0138】
【表9】

【0139】
実施例45〜49、比較例23〜24
次に繊度、単繊維繊度を変更した。実施例45、46では56dtex−56フィラメントとした以外はそれぞれ、実施例25、実施例27と同一の条件にて複合繊維を得た。両者ともフィラメント数を増やした影響は小さく、表10に示す通り、良好な布帛を得ることができた。単繊維繊度を小さくしたため、得られた布帛は特に柔らかく、産業上の活用可能性が広がるものであった。一方、リン添加量を4ppmとした以外は実施例46と同一の条件にした比較例23では複合繊維中のリン含有量が2ppmとなり、3価リン比率も1%と低く、単繊維繊度が小さいために生産性、毛羽、編糸切れとも劣悪であり、布帛評価も芳しくなかった。従来の方法では単繊維繊度が小さくなると良好な布帛は得られないことがわかる。
【0140】
実施例47では44dtex−44フィラメント、実施例48では33dtex−44フィラメントとし、表10の通り、リン添加量、滞留時間を調整した以外は実施例46と同様にして製糸し複合繊維を得た。両者とも繊度が小さくなり、製糸時の異常滞留の影響が大きくなるため、製糸難易度が上がるが、3価リンが残存することで良好な生産性や布帛特性を示した。
【0141】
実施例49では、22dtex−44フィラメントのサイドバイサイド型ポリトリメチレン系ポリエステル複合繊維を得るに際し、PTT側へのリン添加量を80ppmにし、さらに製糸条件を変更し、1350m/分の速度、50℃の表面温度に設定された引取りロールにて引き取り、一旦巻き取ることなく、連続して4050m/分、150℃に設定された熱処理ロールに引き回し、3.0倍の延伸を実施した。延伸、熱処理された糸条は3850m/分の速度に設定された常温ロールにて張力調整し、3790m/分の速度で1.5g/dtexの張力にてチーズ状パッケージを巻き取った。なお、これ以外の製糸条件は実施例27と同一の条件とした。生産性、毛羽とも問題なく、得られた複合繊維のリン含有量は40ppm、3価リン比率は13%であった。編糸切れについても問題なく、得られた複合繊維の得られた布帛特性は良好であった。一方、リン添加量を4ppm、滞留時間を4分とした以外は実施例49と同一の製糸条件とした比較例24では、生産性は悪く、複合繊維の採取は困難であった。何とか得られた複合繊維を編立てしたところ、編糸切れが多発した。得られた布帛のうち、編糸切れのない部分について布帛評価したが、良好な結果は得られなかった。これらのことから、特に繊度、単繊維繊度が小さい領域にて本発明の効果は顕著であった。
【0142】
【表10】

【符号の説明】
【0143】
1: 高粘度成分
2: 低粘度成分
3: 口金
4: 冷却装置
5: 給油装置
6: 交絡装置
7: 引き取りロール
8: 熱処理ロール
9: 交絡装置
10: 常温ロール
11: コンタクトロール
12: パッケージ
13: 巻取機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも高粘度成分がポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからなり、以下の(1)〜(2)を満足することを特徴とする複合繊維。
(1)複合繊維中にリン元素を2〜50ppm含む
(2)固体31P−NMR測定における3価リンに帰属するスペクトルピーク積分値Iと5価リンに帰属するスペクトルピーク積分値Iとの比I:Iが2:98〜50:50である
【請求項2】
ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルを溶融紡糸するに際し、以下の(A)〜(B)を満足することを特徴とする請求項1に記載の複合繊維の製造方法。
(A)ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルの溶融直前に酸素濃度500ppm以下の雰囲気下にて3価リンを添加する
(B)3価リンを添加後、大気に開放することなく溶融し紡糸する
【請求項3】
添加する3価リンの5%熱減量温度が280℃以上であることを特徴とする請求項2記載の複合繊維の製造方法。
【請求項4】
低粘度成分がポリエチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルからなることを特徴とする請求項1に記載の複合繊維。
【請求項5】
ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルを溶融紡糸するに際し、以下の(C)〜(F)を満足することを特徴とする請求項4に記載の複合繊維の製造方法。
(C)ポリエステルの溶融直前に酸素濃度500ppm以下の雰囲気下にて3価リンを添加する
(D)5%熱減量温度が290℃以上である3価リンを添加する
(E)3価リンを添加後、大気に開放することなく溶融し紡糸する
(F)ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルの融点よりも30〜60℃高い温度にて紡糸する

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−236170(P2010−236170A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2764(P2010−2764)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】