説明

ポリヌクレオチドの分析方法

【課題】煩雑な操作や高価な測定装置を必要とせず、簡便に実施可能であり、しかも、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの構造(例えば、一本鎖又は二本鎖)や塩基配列に影響を受けることなく、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを分析することのできる方法を提供する。
【解決手段】前記分析方法では、(a)前記被検試料不在下における、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合する電気化学活性物質の電気応答と、(b)前記被検試料存在下における前記電気化学活性物質の電気応答とを比較する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの分析方法に関する。本明細書における前記「分析」には、分析対象物質の量を定量的又は半定量的に決定する「測定」と、分析対象物質の存在の有無を判定する「検出」(例えば、標的遺伝子の検出)との両方が含まれる。
【背景技術】
【0002】
ポリヌクレオチドの定量方法としては、塩基に由来する260nmの極大波長を利用する分光光学的定量法が一般的である。260nmにおけるOD(optical density)値が1の場合、そのポリヌクレオチド濃度は約50μg/mLである。
【0003】
一方、二本鎖DNAの分析方法として、二本鎖認識体、例えば、二本鎖DNA中の隣接する塩基対の間に挿入[すなわち、インターカレーション(intercalation)]することにより二本鎖DNAと特異的に結合する挿入剤(intercalating agent)を用いる方法が公知である。
例えば、特許文献1には、検出対象遺伝子を一本鎖に変性させた状態で含む試料溶液中に、担体を浸積させることにより、担体表面上に試料核酸を吸着させた後、続いて、核酸プローブが貯留された反応槽に、前記担体を浸積させ、プローブ溶液の温度を適当に制御することによりハイブリダイゼーションを行ない、更に、二本鎖認識体含有溶液が貯留された検出槽に、前記担体を浸積させ、担体の表面に形成された二重鎖核酸を認識して結合した二本鎖認識体に由来する電気化学的信号を検出する、遺伝子検出方法が開示されている。なお、前記公報には、検出対象遺伝子の含有量が微量である場合には、遺伝子を増幅した後、前記検出を行なうことができることも開示されている。
また、特許文献2には、二本鎖DNAに特異的に結合可能な、電気化学的に活性な遺伝子結合性物質を用いて、前記遺伝子結合性物質及び被検試料を含む、遺伝子合成反応実施前の混合液における電気化学的応答と、その遺伝子合成反応後の生成液における電気化学的応答とを比較する、遺伝子検出方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−285000号公報
【特許文献2】特許第3511596号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
260nmにおける極大波長を利用する分光光学的定量法では、各塩基が有する吸収波長を指標としているため、遺伝子増幅反応後の試料を定量する場合、dNTPなどの未反応物を取り除くための精製作業が必要である。更に、検出感度が測定セルの高路長に比例するため、比較的多くの試料を必要とする場合が多い。また、測定セルに石英が使われていることが多く、高価であるだけでなく、測定には大型の光学装置を必要とするなどの欠点がある。
また、特許文献1又は2に記載の遺伝子検出方法は、いずれも、二本鎖DNAと特異的に結合可能な電気化学活性物質を用いており、その検出対象物質は二本鎖DNAに限定される。すなわち、一本鎖ポリヌクレオチドを含む被検試料、例えば、一本鎖DNAのみからなる被検試料、二本鎖DNAと一本鎖DNAの混合物を含む被検試料、RNAを含む被検試料については、特許文献1又は2に記載の遺伝子検出方法を適用することはできない。
従って、本発明の課題は、煩雑な操作や高価な測定装置を必要とせず、簡便に実施可能であり、しかも、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの構造(例えば、一本鎖又は二本鎖)や塩基配列に影響を受けることなく、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを分析することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明による、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む可能性のある被検試料における前記ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの分析方法であって、(a)前記被検試料不在下における、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合する電気化学活性物質の電気応答と、(b)前記被検試料存在下における前記電気化学活性物質の電気応答とを比較することを特徴とする、前記分析方法により解決することができる。
本発明の分析方法の好ましい態様によれば、前記被検試料が、少なくとも一本鎖ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ポリヌクレオチドの構造(例えば、一本鎖又は二本鎖)や塩基配列に影響を受けることなく、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを分析(例えば、定量又は検出、好ましくは定量)することができる。また、様々な遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、LAMP(loop mediated isothermal amplification)法、又はRCA(Rolling cycle amplification)法などを併用することで、標的とする遺伝子の簡易な検出も可能である。更に、煩雑な操作(例えば、未反応物質の除去操作)や高価な測定装置を必要とせず、簡便に実施可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の分析方法を適用することのできる分析対象ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドは、DNA若しくはRNA又はそれらのキメラのいずれであることもでき、また、一本鎖又は二本鎖のいずれであることもできる。また、それらの1種類のみであることもできるし、それらの混合物であることもできる。また、天然に存在するポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド(例えば、遺伝子)であることも、化学合成したポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドであることも、更には、それらを酵素的に増幅して得られるポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド(例えば、標的遺伝子)であることもできる。
以下、分析対象がポリヌクレオチドである場合を例にとって本発明を説明するが、以下の説明は、分析対象がオリゴヌクレオチドである場合にも、当業者の技術常識に従って、そのまま適用することができる。
【0009】
また、本発明の分析方法を適用することのできる被検試料は、前記分析対象ポリヌクレオチドを含む可能性がある限り、特に限定されるものではなく、例えば、生物学的試料[例えば、動物の体液(例えば、血液、血清、血漿、髄液、涙液、汗、尿、膿、又は喀痰)若しくは排泄物(例えば、糞便)、臓器、組織、又は動植物それ自体若しくはそれらの乾燥体]、あるいは、環境由来の試料(例えば、河川水、湖沼水、若しくは海水、又は土壌)を挙げることができる。あるいは、ポリヌクレオチドの増幅反応、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法、LAMP(loop mediated isothermal amplification)法、又はRCA(Rolling cycle amplification)法を行った後の反応液を被検試料として用いることもできる。
【0010】
本発明の分析方法では、少なくとも一本鎖ポリヌクレオチドを含む被検試料、例えば、ポリヌクレオチドとして一本鎖ポリヌクレオチド(例えば、一本鎖DNA及び/又はRNA)のみを含む被検試料、あるいは、ポリヌクレオチドとして一本鎖ポリヌクレオチドと二本鎖ポリヌクレオチドとを含む被検試料が好ましい。例えば、前記LAMP法では、増幅産物の一部が一本鎖DNAであり、前記RCA法では、増幅産物が一本鎖DNAであるので、LAMP法又はRCA法を行った後の反応液を、このような被検試料として用いることができる。
【0011】
本発明の分析方法では、ポリヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合する電気化学活性物質(以下、リン酸基結合性電気化学活性物質と称する)を使用する。
本明細書において、「ポリヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合する」とは、ポリヌクレオチドが一本鎖であるか、二本鎖であるかを問わず、また、ポリヌクレオチドの塩基配列にも依存することなく、ポリヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識し、ポリヌクレオチドに結合することを意味する。
また、「電気化学的に活性である」とは、電気化学測定において、酸化又は還元活性を示すこと、すなわち、特定の電圧を加えた際に、電気化学活性物質の量に比例したシグナルが得られることを意味する。
【0012】
本発明の分析方法において用いるリン酸基結合性電気化学活性物質は、ポリヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合することができ、しかも、電気化学的に活性な物質である限り、特に限定されるものではないが、例えば、式(I):
【化1】

で表される化合物[ヘキスト33258(Hoechst社);2’−(4−ヒドロキシフェニル)−5−(4−メチル−1−ピペラジニル)−2,5’−ビ−1H−ベンズイミダゾール(2’-(4-hydroxyphenyl)-5-(4-methyl-1-piperazinyl)-2,5’-bi-1H-benzimidazole)]、式(II):
【化2】

で表される化合物[ヘキスト33342(Hoechst社);2’−(4−エトキシフェニル)−5−(4−メチル−1−ピペラジニル)−2,5’−ビ−1H−ベンズイミダゾール(2’-(4-ethoxyphenyl)-5-(4-methyl-1-piperazinyl)-2,5’-bi-1H-benzimidazole)]、式(III):
【化3】

で表される化合物[ヌクレアイエロー(nuclear yellow;SIGMA社);4−[5−(4−メチル−1−ピペラジニル)[2,5’−ビ−1H−ベンズイミダゾール]−2’−イル]−ベンゼンスルホンアミド(4-[5-(4-methyl-1-piperazinyl)[2,5’-bi-1H-benzimidazol]-2’-yl]-benzenesulfonamide)]、又は式(IV):
【化4】

で表される化合物[ミトキサントロン(mitoxantrone;SIGMA社);1,4−ジヒドロキシ−5,8−ビス{2−[(2−ヒドロキシエチル)−アミノ]エチル}アミノアントラセン−9,10−ジオン(1,4-dihydroxy-5,8-bis{2-[(2-hydroxyethyl)-amino]ethyl}aminoanthracene-9,10-dione)]を挙げることができる。
【0013】
或る電気化学活性物質がリン酸基結合性電気化学活性物質であるか否か、すなわち、ポリヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合するか否かは、例えば、一本鎖DNA及び一本鎖PNA(ペプチド核酸)に関する各電気化学活性を指標として判定することができる。ここで、PNAとは、天然ポリヌクレオチド(例えば、DNA又はRNA)の糖(例えば、デオキシリボース又はリボース)部分がペプチドに置換され、リン酸結合の代わりにペプチド結合によりポリヌクレオチド主鎖が形成されている人工化合物である。
具体的には、一本鎖DNAを用いた場合に電気化学的な活性を示し、しかも、一本鎖PNAを用いた場合に電気化学的な活性を示さない場合、その電気化学活性物質はリン酸基結合性電気化学活性物質であると判定することができる。前記判定は、例えば、実施例2に記載の手順に従って、実施することができる。
なお、従来公知の二本鎖DNAの電気化学的分析方法で使用される二本鎖DNA認識体、例えば、インターカレーター(intercalator)又はマイナーグルーブバインダー(minor groove binder)は、二本鎖DNAの特徴的構造を認識して結合するため、前記判定法において、一本鎖DNA又は一本鎖PNAのいずれの場合にも電気化学的な活性を示さない。
【0014】
本発明の分析方法では、被検試料を含まない液と、被検試料を含む液との各々について、各液中に同量のリン酸基結合性電気化学活性物質が存在する状態で、各液の電気化学的応答を測定し、比較する。
すなわち、本発明の分析方法は、例えば、
(1)被検試料を含まず、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合する電気化学活性物質(リン酸基結合性電気化学活性物質)を含む液の電気応答を測定する工程、
(2)被検試料とリン酸基結合性電気化学活性物質を含む液の電気応答を測定する工程、及び
(3)前記工程(1)で得られた測定値と前記工程(2)で得られた測定値とを比較する工程
を含む。
【0015】
本発明の分析方法においては、例えば、被検液(すなわち、被検試料を含まない液、あるいは、被検試料を含む液)に電位を印加した時に発生する電流値を測定することによって、電気化学的応答の測定を実施することができる。具体的には、種々の電気化学測定方法、例えば、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)、クロノアンペリメトリー(CA)、クロノクーロメトリー(CC)、又はサイクリックボルタンメトリー(CV)などを挙げることができる。
【0016】
本発明の分析方法では、以下の原理に基づいて、被検試料中における分析対象ポリヌクレオチドを分析する。
すなわち、本発明の分析方法で用いるリン酸基結合性電気化学活性物質は、ポリヌクレオチドが一本鎖であるか、二本鎖であるかを問わず、ポリヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合することができ、しかも、電気化学的に活性である。従って、被検試料中にポリヌクレオチドが含まれている場合、被検試料を含まない液における電気化学的応答と、被検試料を含む液における電気化学的応答とを比較すると、リン酸基結合性電気化学活性物質がポリヌクレオチドと結合するため、前者の電気化学的応答に比べて、後者の電気化学的応答が低下し(すなわち、電流値が低下し)、電気化学的に検出可能な差異が生じる。この電気化学的応答(すなわち、電流値)の低下率は、ポリヌクレオチドと結合するリン酸基結合性電気化学活性物質の量に依存するため、電気化学的応答の低下率から、被検液に含まれるポリヌクレオチドの総量(総質量)、あるいは、前記ポリヌクレオチド中の総塩基数又は総リン酸基数、更には被検試料に含まれるポリヌクレオチドの総量(総質量)、あるいは、前記ポリヌクレオチド中の総塩基数又は総リン酸基数を決定することができる。
なお、本発明の分析方法(特には、定量方法)では、被検試料の分析と同時に、あるいは、前記分析に先だって、予め公知濃度のポリヌクレオチドを含有する標準試料を用いた分析を実施し、ポリヌクレオチドの総量(総質量)、又はポリヌクレオチド中の総塩基数若しくは総リン酸基数と電気化学応答との関係を示す検量線又は関係式等を決定することが好ましい。
【0017】
本発明の分析方法では、ポリヌクレオチドの構造(例えば、一本鎖又は二本鎖)や塩基配列に影響を受けることなく、ポリヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合するリン酸基結合性電気化学活性物質を使用するため、被検試料に含まれるポリヌクレオチドの総量(総質量)、あるいは、前記ポリヌクレオチド中の総塩基数又は総リン酸基数を分析することができる。また、被検試料中の一本鎖ポリヌクレオチド及び/又は二本鎖ポリヌクレオチドの総量を、一本鎖ポリヌクレオチドに換算した量として決定することができる。
【0018】
更に、本発明の分析方法では、様々な遺伝子増幅法、例えば、PCR法、LAMP法、又はRCA法などを併用することで、標的遺伝子を増幅した後、そのポリヌクレオチド量を分析することにより、前記標的遺伝子の検出も可能である。本発明の分析方法は、例えば、
(1)標的遺伝子を含む可能性のある試料を用いて、前記標的遺伝子の増幅反応を実施することにより、被検試料を調製する工程、
(2)前記工程(1)で得られた前記被検試料を含まず、リン酸基結合性電気化学活性物質を含む液の電気応答を測定する工程、
(3)前記工程(1)で得られた前記被検試料とリン酸基結合性電気化学活性物質を含む液の電気応答を測定する工程、及び
(4)前記工程(2)で得られた測定値と前記工程(3)で得られた測定値とを比較する工程
を含む。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0020】
《実施例1:B型肝炎ウイルスDNA断片のリニアスイープボルタンメトリー測定》
本実施例では、各種のリン酸基結合性電気化学活性物質に関して、B型肝炎ウイルス(HBV)DNA断片の不在下及び存在下でのリニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定を行うことにより、前記DNA断片不在下及び存在下でのそれぞれの最大電流値を求め、最大電流値の減少率を算出した。リン酸基結合性電気化学活性物質としては、ヘキスト33258(Hoechst社)、ヘキスト33342(Hoechst社)、ヌクレアイエロー(SIGMA社)、及びミトキサントロン(SIGMA社)を使用した。
【0021】
具体的には、0.2mol/L−HEPES緩衝液(pH5.84)で調製した各リン酸基結合性電気化学活性物質(60μmol/L又は100μmol/L,全量300μL)を用いて、LSV測定(掃引速度=100mV/s)を行い、得られたピークの最大電流値(I)を求めた。
次に、0.2mol/L−HEPES緩衝液(pH5.84)で調製した各リン酸基結合性電気化学活性物質(60μmol/L又は100μmol/L,全量300μL)に、HBV−DNA断片[1553bp(第1329番〜第2882番の塩基からなる配列)]を30ng/μLとなるように添加し、LSV測定(掃引速度=100mV/s)を行い、得られたピークの最大電流値(Ipa)を求めた。なお、前記HBV−DNA断片としては、HBVのDNA配列を挿入したプラスミドpBR322を鋳型とするPCR法によって増幅した試料を使用した。得られた各最大電流値から、各リン酸基結合性電気化学活性物質における電流値の減少率(Ipa/I)を算出した。
【0022】
結果を表1に示す。表1において、最大電流値(Ipa,I)の単位はμAであり、電位(E,Epa)の単位はmVであり、測定物質濃度の単位はμmol/Lである。
【0023】
《表1》
測定物質 I(E) Ipa(Epa) Ipa/I 測定物質濃度
ヘキスト33258 18.90 (557) 6.79 (553) 0.36 60
ヘキスト33342 21.46 (584) 16.57 (576) 0.77 60
ヌクレアイエロー 11.24 (570) 6.09 (581) 0.54 60
ミトキサントロン 5.19 (542) 4.18 (549) 0.80 100
【0024】
《実施例2:二本鎖DNA、一本鎖DNA、及び一本鎖PNAのLSV測定》
本実施例では、各種濃度の二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、又は一本鎖PNA(ssPNA)共存下における各種リン酸基結合性電気化学活性物質のLSV測定を行うことにより、得られたピークの最大電流値(Ipa)を求め、グラフを作成した。dsDNAとしては、378bpのPCR増幅産物を使用し、ssDNA及びssPNAとしては、
配列:5'-CCG CAC ACG TC-3'(配列番号1)
からなるオリゴヌクレオチドを使用した。
【0025】
具体的には、0.2mol/L−HEPES緩衝液(pH5.84)で調製した各リン酸基結合性電気化学活性物質(60μmol/L,全量300μL)に、各種濃度のdsDNA、ssDNA、又はssPNAをそれぞれ添加し、LSV測定(掃引速度=5mV/s,掃引範囲=300mV〜700mV)を行い、得られたピークの最大電流値(Ipa)を求め、グラフを作成した。
【0026】
図1に、リン酸基結合性電気化学活性物質としてヘキスト33258を用いた場合の結果を示す。
図1において、曲線a(正方形)はdsDNAの結果であり、曲線b(三角形)はssDNAの結果であり、曲線c(円)はssPNAの結果である。図1に示すグラフの横軸は、式(1):
=M×L×n (1)
[式中、Nは総塩基数(相対値)であり、MはDNA又はPNAのモル濃度(μmol/L)であり、LはDNA又はPNAの塩基長(bp)であり、nは鎖数(個)である]
で算出される総塩基数(相対値)である。例えば、0.08μmol/L濃度のdsDNA(378bp)の場合、その総塩基数(相対値)は、
=0.08(μmol/L)×378(bp)×2(個)
より、60である。
グラフは示さないが、ヘキスト33342、ヌクレアイエロー、及びミトキサントロンについても、ヘキスト33258と同様の結果が得られた。
【0027】
《実施例3:LAMP法を利用したB型肝炎ウイルスの検出》
本実施例では、B型肝炎ウイルス(HBV)のDNAを含有する検体試料(HBV患者由来の全血)と、前記DNAを含有しない検体試料(健常者由来の全血)とを、それぞれ、LAMP法により増幅させ、リニアスイープボルタンメトリー(LSV)測定を行うことにより、前記DNA断片不在下及び存在下でのそれぞれの最大電流値を求め、その差を算出することで、標的遺伝子(HBV)の検出を行った。なお、リン酸基結合性電気化学活性物質としては、ヘキスト33258(Hoechst社)を使用した。
【0028】
具体的には、0.2mol/L−HEPES緩衝液(pH5.84)で調製したヘキスト33258(100μmol/L,全量250μL)に、前記の各検体試料を用いたLAMP法の増幅産物をそれぞれ添加し、LSV測定(掃引速度=50mV/s,掃引範囲=200mV〜800mV)を行い、グラフを作成した。
図2に結果を示す。図2において、曲線aは、HBV患者由来血液の結果であり、曲線bは、健常者由来血液の結果である。図2に示すグラフの横軸は、掃引範囲(mV)を表しており、縦軸は得られた電流値を表す。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の分析方法は、ポリヌクレオチド分析の用途に適用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0030】
配列表の配列番号1の配列で表される塩基配列は、人工的に合成したオリゴヌクレオチド配列である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】リン酸基結合性電気化学活性物質としてヘキスト33258を用いた場合の、二本鎖DNA、一本鎖DNA、及び一本鎖PNAのLSV測定の結果を示すグラフである。
【図2】B型肝炎ウイルスDNA含有又は不含試料(全血)を、それぞれ、LAMP法で増幅した後、LSV測定を実施した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む可能性のある被検試料における前記ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドの分析方法であって、(a)前記被検試料不在下における、ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチド主鎖のリン酸基を認識して結合する電気化学活性物質の電気応答と、(b)前記被検試料存在下における前記電気化学活性物質の電気応答とを比較することを特徴とする、前記分析方法。
【請求項2】
前記被検試料が、少なくとも一本鎖ポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドを含む、請求項1に記載の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−145342(P2006−145342A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334649(P2004−334649)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(395015227)
【出願人】(599027507)北斗科学産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】