説明

ポリヌクレオチドの特性決定方法

本発明の方法は,サンプル中の標的ポリヌクレオチドの特定の特性を同定するために用いられ,以下の工程:
(i) サンプル中の各標的ポリヌクレオチドの一方の末端に,調べている特性に特異的なポリヌクレオチドシグナル配列を結合させ,
(ii) その特性が存在する場合には標的ポリヌクレオチドを標的ポリヌクレオチドと相互作用する分子と接触させ;
(iii) 工程(ii)の分子と相互作用する標的ポリヌクレオチドにポリヌクレオチドアダプター配列を結合させ,アダプターは,標的ポリヌクレオチドのシグナル配列が結合している末端と反対側の末端に結合しており;
(iv) シグナル配列とアダプターの両方を含む標的ポリヌクレオチドについてポリヌクレオチド増幅反応を行い,任意に,他の特性について工程(i)−(iv)を繰り返し;そして
(v) 増幅された産物にいずれのシグナル配列が存在するか,およびどの順番で存在するかを同定して,このことにより各標的ポリヌクレオチドの特性を決定する,
を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,後に標的ポリヌクレオチドの配列を決定するために,標的ポリヌクレオチドを読み出し可能な情報の鎖に変換する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子の研究における進歩は,部分的には,分子またはその生物学的反応を特性決定するために用いられる技術の改良により進められてきた。特に,核酸DNAおよびRNAの研究は,配列分析およびハイブリダイゼーション事象の研究に用いられる技術の開発から利益を受けてきた。
【0003】
大規模DNA配列決定のために一般的に使用される主な方法は連鎖停止法である。この方法は,最初にSangerおよびCoulsonにより開発され(Sanger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1977;74:5463−5467),4つのヌクレオチドのジデオキシ誘導体を使用して,ポリメラーゼ反応において生成しつつあるポリヌクレオチド鎖中にこれを取り込ませる。ジデオキシ誘導体が取り込まれるとポリメラーゼ反応が停止し,次に生成物をゲル電気泳動により分離し,分析して,特定のジデオキシ誘導体が鎖中に取り込まれた位置を明らかにする。
【0004】
この方法は広く用いられており,信頼性のある結果を生ずるが,遅く,労力を要し,高価であることが認識されている。
【0005】
US−A−5302509は,固体支持体上に固定化されたポリヌクレオチドを配列決定する方法を開示する。この方法は,異なる蛍光標識を有する,3’側がブロックされた塩基A,G,CおよびTを,DNAポリメラーゼの存在下で固定化されたポリヌクレオチドに取り込ませることに基づく。ポリメラーゼは標的ポリヌクレオチドに相補的な塩基を取り込むが,3’−ブロッキング基のため,さらなる付加が妨げられる。次に取り込まれた塩基上の標識を判定し,化学的切断によりブロッキング基を除去して,さらに重合反応が起こるようにする。しかし,このような様式でブロッキング基を除去する必要があるため,時間がかかり,高い効率で実施しなければならない。
【0006】
WO−A−00/39333は,標的ポリヌクレオチドの配列を,規定された配列およびそこに含まれる位置情報を有する第2のポリヌクレオチドに変換することにより,ポリヌクレオチドを配列決定する方法を記載する。標的の配列情報は,第2のポリヌクレオチド中で"拡大される"と言われ,標的分子上の個々の塩基を区別することがはるかに容易になる。これは,予め決定された核酸配列である"拡大タグ"を用いることにより行う。標的分子上の塩基,アデニン,シトシン,グアニンおよびチミンのそれぞれは,別々の拡大タグにより表され,元の標的配列は拡大された配列に変換される。次に,慣用の手法を用いて,拡大タグの順番を決定し,このことにより標的ポリヌクレオチド上の特定の配列を決定する。
【0007】
好ましい配列決定方法においては,それぞれの拡大タグは標識,例えば,蛍光標識を含み,次にこれを同定し,これを用いて拡大タグの特性決定をすることができる。
【0008】
この公開公報に開示された方法は多くの利点を有するが,標的ポリヌクレオチドを配列決定するための改良された方法がなお求められている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点にしたがえば,サンプル中に存在する標的ポリヌクレオチドの特定の特性を同定する方法は以下の各工程を含む:
(i) サンプル中の各標的ポリヌクレオチドの一方の末端に,調べている特性に特異的なポリヌクレオチドシグナル配列を結合させ,
(ii) その特性が存在する場合には標的ポリヌクレオチドを標的ポリヌクレオチドと相互作用する分子と接触させ;
(iii) 相互作用した標的ポリヌクレオチドを相互作用していない標的ポリヌクレオチドから分離し;
(iv) 任意に,工程(i)から(iii)を繰り返し;そして
(v) 分離された標的ポリヌクレオチド上にいずれのシグナル配列が存在するか,およびどの順番で存在するかを同定し,このことにより各標的ポリヌクレオチドの特性を決定する。
【0010】
本発明の方法は,標的ポリヌクレオチドの多数の特性を容易に自動化可能な簡単な様式で決定することを可能とする。好ましい態様においては,本発明の方法は,特定の特性を有する標的上に2つのポリヌクレオチド分子を取り込ませ,増幅反応を進行させて,このことにより,所望の特性を有する標的ポリヌクレオチドの数を選択的に増加させ,この特性を有しない標的を効率的に除去する。この方法は,標的ポリヌクレオチドの配列を決定するのに特に適している。
【0011】
本発明の第2の観点にしたがえば,標的ポリヌクレオチドの配列を決定する方法は以下の工程を含む:
i) 二本鎖標的ポリヌクレオチドのサンプルを処理して,5’末端および3’末端にそれぞれ異なる数の塩基を含むオーバーハングを作成し;
ii) サンプルを分割し,それぞれ個々のサンプルを二本鎖ポリヌクレオチドシグナル配列および二本鎖アダプターポリヌクレオチドと接触させ,各シグナル配列は,5’−オーバーハングにおいて特定のポリヌクレオチド配列を表し,かつ標的ポリヌクレオチドの3’末端とのハイブリダイゼーションおよびライゲーションを可能とするオーバーハングを含み,各アダプターは,シグナル配列により表される配列に相補的な配列であるオーバーハングを含み;
iii) シグナル配列およびアダプター配列にハイブリダイズするプライマーを用いてサンプルについてポリメラーゼ反応を行い,ここで,ポリメラーゼ反応の生成物は,アダプターおよび標的ポリヌクレオチドの5’−オーバーハングを形成した部分を切断して新たな5’−オーバーハングを形成することができる制限部位を含み,制限酵素を用いて任意に工程(i)から(iii)を繰り返してオーバーハングを形成し;そして
iv) 増幅産物にいずれのシグナル配列がどの順番で存在するかを同定して,このことにより標的ポリヌクレオチドの配列を決定する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の方法は,WO−A−00/39333に開示される変換方法の適用である。概要として,本発明は,特定のシグナル配列の組み込みに基づいて,同定すべき標的ポリヌクレオチドを特異的に特徴決定することを可能とする。シグナル配列はサンプル中に存在するすべての標的ポリヌクレオチド上に組み込まれるが,特定の特性を含むもののみが分離され特性決定される。
【0013】
本発明の方法は,標的ポリヌクレオチドの配列を決定するのに特に適している。本発明の方法を用いて,標的ポリヌクレオチドの一方の末端における規定された数の配列を,標的ポリヌクレオチドの他方の末端における規定されたシグナル配列に変換することができる。一連の工程により,標的の"配列決定された"末端が切断され,一方,シグナル配列末端が構築されて,規定された一連のシグナル配列が生成し,続く同定工程においてこれを決定することができる。
【0014】
"ポリヌクレオチド"との用語は当該技術分野においてよく知られており,一連の連結された核酸分子,例えばDNAまたはRNAを表すものとして用いられる。核酸模倣体,例えば,PNA,LNA(ロック核酸)および2’−O−methRNAもまた本発明の範囲内である。
【0015】
本明細書における塩基の表示A,T(U),GおよびCは,当該技術分野において理解されるように,ヌクレオチド塩基,アデニン,チミン(ウラシル),グアニンおよびシトシンを表す。ウラシルは,ポリヌクレオチドがRNAである場合にはチミンに置き換えられるか,またはdUTPを用いてDNA中に導入することができ,これも当該技術分野においてよく知られている。
【0016】
ここで,標的ポリヌクレオチドの5’および3’末端について説明する。ある態様においては,標的ポリヌクレオチドは二本鎖であり,したがって各末端は5’末端および3’末端の両方を含む。しかし,5’末端および3’末端とは,調べているまたは配列決定されつつある標的の鎖に関して記述する。また,明細書で5’末端を配列決定されつつある末端と称する場合には,これが配列決定されている3’末端であるように改変することも可能であろう。すなわち,シグナル配列およびアダプターは本明細書に記載されているものと反対側の末端にライゲーションしてもよい。
【0017】
本発明は,その最も広い観点においては,標的ポリヌクレオチドの特定の特性の同定を可能とする。特性はポリヌクレオチドの配列であってもよい。あるいは,標的ポリヌクレオチドが他の分子,例えばDNA結合蛋白質に結合するか,または相補的ポリヌクレオチドとハイブリダイズする能力であってもよい。本発明の方法はまた,標的ポリヌクレオチド配列中に存在する制限酵素部位を同定し特性決定するためにも用いることができる。
【0018】
各特性は,その特性を有する標的ポリヌクレオチドと相互作用し,かつその特性を有しないものから区別する分子を用いて反応を実施することにより同定する。分子と相互作用する標的ポリヌクレオチドは,その特性に特異的であり後の読み出し工程においてその特性を決定することを可能とするシグナル配列で標識される。
【0019】
本発明は,サンプル中のすべての標的ポリヌクレオチドにシグナル配列を取り込ませることに基づいており,このシグナル配列は調べている特定の特性を表す。次に,標的ポリヌクレオチドを分子と接触させ,相互作用するものを分離する。このようにして,シグナル配列の識別により特性を同定することが可能である。
【0020】
分子と相互作用する標的分子の分離は,種々の方法により行うことができる。例えば,分子は,標的ポリヌクレオチド/分子複合体の分離を可能とする結合成分を含んでいてもよい。適当な結合成分には,抗体およびビオチン/ストレプトアビジンが含まれる。あるいは,標的/分子複合体を複合体を形成していない成分から区別することが可能であるため,サイズ分画を行ってもよい。
【0021】
本発明の好ましい態様は,ポリヌクレオチドシグナル配列およびポリヌクレオチドアダプター配列を標的ポリヌクレオチドに取り込ませることに基づいており,このことにより,増幅反応を行って,特定の分子と反応した標的ポリヌクレオチドを増幅することができる。ポリメラーゼ反応の結果得られる産物は,標的を分子と反応させ,調べている特性を表すさらなるシグナル配列を取り込ませる工程を繰り返すことにより,さらに特性決定することができる。
【0022】
本発明の方法は,好ましくは,調べているそれぞれの推定特性について1つずつの多数の反応コンパートメントを用いて行う。各反応コンパートメントには,そのコンパートメントに特異的なシグナル配列が附随する。標的ポリヌクレオチドを含有するサンプルを分割して反応コンパートメントに入れ,各標的ポリヌクレオチドの一方の末端にシグナル配列を付加する(例えばライゲーションにより)。標的が特定の特性を有するか否かにかかわらず,コンパートメント中の標的ポリヌクレオチドのすべてにシグナル配列を結合させる。次の工程は,各標的を,特性を含む標的と特異的に相互作用する分子と反応させることにより,特性を調べることである。したがって,分子は,ポリヌクレオチド結合蛋白質,酵素または他のポリヌクレオチドでありうる。次に,分子と相互作用する標的を分離する。好ましい態様においては,分子はアダプター配列を含む。したがって,標的と分子が相互作用すると,分子(アダプターを含む)は標的に結合するかライゲートする。次に,シグナル配列とアダプターとの両方を含む標的を増幅する。
【0023】
増幅反応は,任意の適当な方法を用いて行うことができる。好ましい方法は,当該技術分野において知られる条件を用いて慣用のポリメラーゼ反応を用いることである。等温pcrおよび細菌中での増幅等の他の増幅反応も実施することができることが理解されるであろう。
【0024】
好ましい態様は,この方法を用いて標的ポリヌクレオチドを配列決定することである。これは,標的ポリヌクレオチドの一方の末端で規定された数の塩基(例えば,3または4塩基)を同定し,次にこの情報を他方の末端上のシグナル配列に変換し,このことにより,前のサイクルで組み込まれたシグナル配列を除去することなく,追加の変換サイクルが生ずるようにすることにより行うことができる。
【0025】
配列決定方法は,標的ポリヌクレオチドを取得し,これを一連の制限酵素で処理して,標的ポリヌクレオチドの各末端に規定されたオーバーハング領域を形成することにより行うことができる。オーバーハング領域は,各変換工程の間にシグナル配列およびアダプターを取り込ませることを可能とする。
【0026】
"シグナル配列"とは,核酸配列の別々の"ユニット"を含む一本鎖または二本鎖のポリヌクレオチドである。標的上のそれぞれの特性,例えば,塩基A,T(U),GおよびCは,別々の予め定義されたユニット,またはユニットの組み合わせにより表される。各ユニットは,好ましくは,2またはそれ以上のヌクレオチド塩基,好ましくは2−50塩基,より好ましくは2−20塩基,最も好ましくは4−10塩基,例えば6塩基を含む。各ユニットには少なくとも2つの異なる塩基が存在する。好ましい態様においては,各ユニットには3つの異なる塩基が存在する。ユニットは,"読み出し"工程,例えば,重合反応において検出可能なように標識したヌクレオチドを取り込ませるか,または相補的オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションを含む工程の間に,異なるユニットを区別することが可能であるように設計する。例えば,調べている特性が標的の配列である場合,標的上の各塩基は,ユニット中の特定の一連の塩基により表される。
【0027】
好ましい態様においては,各シグナル配列は,2ユニットの,標的上の4つの塩基のすべてを表す別々の配列を含む。この態様にしたがえば,2つのユニットを,一方のユニットが"0"を表し,他方が"1"を表すバイナリ系として用いることができる。標的上の各塩基は,2つのユニットの組み合わせとして特性づけることができる。例えば,図1に示されるように,アデニンは"0"+"0",シトシンは"0"+"1",グアニンは"1"+"0",チミンは"1"+"1"で表すことができる。ユニット間を区別することが必要であり,したがって,"ストップ"シグナルを各ユニット中に組み込むことができる。標的(テンプレート)ポリヌクレオチド上の塩基が奇数位置か偶数位置かによって"1"および"0"を表す異なるユニットを用いることも好ましい。
【0028】
これは以下のように表される。
奇数のテンプレート配列:
"0":ATTTTTAT(CC) (配列番号1)
"1":GTTTTTGT(CC) (配列番号2)
偶数のテンプレート配列:
"0":ACCCCCAC(TT) (配列番号3)
"1":GCCCCCGC(TT) (配列番号4)
適当なシグナル配列はWO−A−00/39333にも記載されている。
【0029】
"アダプター"とは,一本鎖または二本鎖のポリヌクレオチドである。アダプターの目的は,増幅が生ずることを可能とするのに必要な配列を提供することである。好ましい態様においては,アダプターは,標的ポリヌクレオチドの相補領域とハイブリダイズしこれにライゲーションすることができる規定されたオーバーハングを含む二本鎖ポリヌクレオチドである。相補領域は,通常は標的の,シグナル配列を組み込む末端とは反対側の末端である。アダプターは,増幅反応において必要なプライマー結合部位を提供する。好ましい態様においては,アダプターは,配列決定されつつある標的ポリヌクレオチドの一部,すなわち標的ポリヌクレオチドの5’−オーバーハング部分にハイブリダイズするよう設計する。標的上の5’−オーバーハングが4塩基であれば,アダプター上の相補的オーバーハングも4塩基である。このことにより,ライゲーションが生じて,二本鎖ポリヌクレオチドが形成される。標的の5’−オーバーハングが未知の配列である場合,通常は,(例えば)4塩基配列のすべての順列を有するアダプターの組を用いることが必要である。以下に説明するように,別々の反応において異なる配列のアダプターを用いる。
【0030】
通常は各アダプターに制限酵素認識部位が組み込まれており,後の工程の間にこれを切断することが可能である。これを用いて新たな5’−オーバーハングを作成することができる。
【0031】
好ましい態様の配列決定方法は,以下の一般的工程を含む:
消化
まず標的ポリヌクレオチドのサンプルを1またはそれ以上の制限酵素で処理し,標的中に規定された数の塩基,例えば3塩基を有するオーバーハングを生成し,これを後の手順においてシグナル配列のライゲーションに用いる(オーバーハング)。オーバーハングは標的ポリヌクレオチドの反対側の末端にも作成する(5’−オーバーハング)。このオーバーハングが,変換プロセスの間にシグナル配列により同定され(表され),アダプターにライゲーションされる。
【0032】
ライゲーション
標的ポリヌクレオチドを有するサンプルを,配列決定すべきオーバーハングのすべての順列を表す反応コンパートメント中に等分する。例えば,配列決定すべきオーバーハングが4塩基である場合,256個の反応コンパートメントを用いる。最初のコンパートメントにおいては,標的ポリヌクレオチドを例えばAAAA(配列決定すべきオーバーハングが4塩基である場合)を表すシグナル配列と接触させ,このシグナル配列をすべての標的ポリヌクレオチド上の3’−オーバーハングにライゲーションさせる。さらにオーバーハングTTTTを有するアダプターポリヌクレオチドを加えるが,これは,AAAAオーバーハングを含む標的ポリヌクレオチドにのみ特異的にライゲートし,異なるオーバーハング配列を有するポリヌクレオチドは,ライゲーションされていないオーバーハングとして残る。同じ手順を,それぞれ可能性のある4塩基配列の異なる組み合わせを表す他のコンパートメントにおいても行う。それぞれの場合において,アダプターはシグナル配列により表される配列の相補物である。
【0033】
シグナル配列がオーバーハングの塩基のすべてを表すことが好ましいが,,オーバーハング中に存在する塩基より少ない塩基を配列決定することも可能である。例えば,オーバーハングが4塩基を含む場合,シグナル配列を用いてこれらのうちの3つを表すことができる。これは以下の実施例において説明される。
【0034】
増幅
ライゲーション工程を実施した後,サンプルをプールし,ポリメラーゼ反応を実施することができる。ポリメラーゼ反応はシグナル配列およびアダプターの末端を標的とするプライマーを用いて行い,したがって,シグナル配列とアダプター配列との両方に首尾良くライゲーションした分子のみが指数的に増幅され,シグナル配列のみを含む分子は直線的増幅の結果として除去されるであろう。その結果得られるものは,標的ポリヌクレオチドの一方の末端で最初に生成した4塩基オーバーハングが標的ポリヌクレオチドの他方の末端で4塩基を表すシグナル配列で置き換えられている,変換されたポリヌクレオチドフラグメントの集団である。
【0035】
好ましい態様においては,ポリメラーゼ反応は,メチル−dCTPを用いて行い,このことにより,天然の制限酵素部位を不活性のまま残すことを確実とすることができる。追加の制限酵素部位がアダプター分子により組み込まれ,このことにより,さらなる変換サイクルを生じさせることが可能である。ポリメラーゼ反応において用いられるプライマーは,シグナル配列およびアダプター中に見いだされる配列に特異的であり,このことにより,シグナル配列とアダプターとの両方が標的ポリヌクレオチドにライゲーションされたときにのみ増幅工程が生ずることを確実とすることができる。
【0036】
シグナル配列およびアダプターの異なる組においてプライマー結合部位が異なることも好ましい。すなわち,1つの変換サイクルで用いるシグナル配列およびアダプターは,先のサイクルにおいて用いたものと異なるプライマー結合部位を含む。このことにより,正しい配列が増幅されることを確実とすることができる。
【0037】
オーバーハングは種々の方法により生成することができるが,好ましい態様においては,制限酵素,例えば,クラスIIsの制限酵素を用いる。これらの酵素は,切断される配列に対する特異性を示さず,したがって,すべてのタイプの塩基組成に対してオーバーハングを生成することができる。制限酵素の結合部位は,実際の標的ポリヌクレオチドの内側にオーバーハングが形成されるような位置とすることができる。実用的には,3−4塩基対のオーバーハングを生成する酵素を選択することが好ましい。
【0038】
クラスIIsの制限エンドヌクレアーゼは知られており,WO−A−00/39333に示されている。
【0039】
1つの態様においては,まず標的ポリヌクレオチドを,制限酵素BbvI用の認識配列を取り込むアダプターポリヌクレオチドで処理し,次に,ポリヌクレオチドを制限酵素で処理して,5’末端に特異的オーバーハングを生成する。BbvIの天然の認識部位は,最初に標的ポリヌクレオチドをメチル化により処理することにより不活性化する。最初のオーバーハングを作成した後,次の5’末端のオーバーハングは好ましくは制限酵素SfaNIを用いて作製する。これは,SfaNIの認識配列を組み込む特異的アダプター配列を5’末端にライゲーションすることにより行う。
【0040】
3’末端における最初のオーバーハングは,好ましくは,規定されたオーバーハングを組み込んだポリヌクレオチドをライゲーションすることにより作成する。規定されたオーバーハングは,最初のシグナル配列が3’末端でハイブリダイズしライゲーションすることを可能とする。別の態様においては,最初に標的ポリヌクレオチドを制限酵素MmeIおよびEarI(またはそのアイソシゾマーであるEam1104I)の認識配列を組み込んだアダプターポリヌクレオチドで処理する。次に,ポリヌクレオチドを制限酵素MmeIで処理して,標的分子から20塩基対を切り出し,これをアダプターポリヌクレオチドに結合させる。次に,制限酵素SfaNIの認識配列を含む第2のアダプターポリヌクレオチドを,Mmelにより生成したオーバーハングにより,アダプター結合標的ポリヌクレオチドにライゲーションさせる。PCR増幅を行って,2つのアダプターポリヌクレオチドにより挟まれている20bpの標的ポリヌクレオチドを含むフラグメントを増幅させる。続くEarIおよびSfaNI消化から内部部位を保護するために,dNTPミックス中の通常のdCTPをメチル化dCTPで置き換えてPCRを行う。オーバーハングにより生成したMmeIにより挟まれた標的ポリヌクレオチド(すなわち,消化からの副生成物)の増幅は,リン酸化されていない第2のアダプターを用いることにより排除することができる。5’末端の特異的オーバーハングは,PCR産物を制限酵素SfaNI(またはその同等物)で消化することにより生成する。3’末端における規定されたオーバーハングは,PCR産物を制限酵素EarI(またはEam1104I)で消化することにより生成する。シグナル配列は制限酵素部位を組み込んでおり,これは好ましくは制限酵素EarI用の部位である。図2に示されるように,次の切断および取り込みサイクルは,制限酵素EarIおよびSfaNIを用いて行う。
【0041】
変換サイクルを図3にさらに概説する。図3は,この手順に用いた256個のコンパートメントから任意に取り出した3つの反応コンパートメント中の5つの異なるフラグメントの運命を示す。フラグメントは最初に256個のコンパートメントに均等に分布している。オーバーハング"TCTA"を同定するためのコンパートメント56においては,この塩基組成物を表すシグナル配列を導入し,標的ポリヌクレオチドの左末端の3塩基の3’−オーバーハングとライゲーションさせる。このライゲーションは,ポリヌクレオチドの右側の4塩基の5’−オーバーハングとは関係なく生ずる。次に,3’TCTA−5’オーバーハングを有するフラグメントとのみライゲーションする特異的アダプターを導入し,ライゲーションを行う。アダプターのミスマッチライゲーションは,ライゲーションを"ブロッキング"アダプターの存在下で実施することにより減少させることができる。ブロッキングアダプターは,特異的アダプターとは異なるオーバーハング配列を有しており,したがって,特異的アダプターに非相補的なオーバーハングを有する標的ポリヌクレオチドにライゲーションする。次に,最終の増幅反応は,特異的アダプターとライゲーションしたフラグメントを選択的に増幅し,したがって,正しくないシグナル配列と結合している他のフラグメントを排除する。コンパートメント141および194においても同じ手順を実施するが,ただし,シグナル配列およびアダプターの組成は,ウエル中で同定すべきオーバーハング(3’−ATAG−5’および3’−CAAT−5’)にしたがって調節する。
【0042】
256個のコンパートメントからの標的ポリヌクレオチドは,好ましくは,増幅反応を行う前に1つの共通の反応チューブにプールし,このことにより,256個の別々の増幅反応を実施する不便さを回避する。
【0043】
続く変換サイクルを行った後,標的ポリヌクレオチドの5’末端の配列は減少し,標的ポリヌクレオチドの3’末端に導入されたシグナル配列は,今回"配列決定された"標的ポリヌクレオチドに対応する規定された方法で増加する。シグナル配列の種類および順番の決定はWO−A−00/39333,またはLingVitaeの名義で出願され,GB0308852.3に基づく優先権を主張する出願中の国際出願に開示された方法を用いて行うことができる。
【0044】
増幅反応は望まれないアルチファクトを生ずるかもしれず,種々の工程を行ってこれらを減少または除去することができる。例えば,異なるシグナル配列上のプライマー認識部位(および任意に異なるアダプターも)が異なる場合には,プライマーが内部シグナル配列に結合しより大きな変換された標的のフラグメントを増幅する確率を低下させることが好ましい。
【0045】
連続するまたは次のシグナル配列が異なる塩基配列を含むようにシグナル配列を設計することも好ましい。このことにより,末端シグナル配列にハイブリダイズするよう導入されたプライマーが,内部シグナル配列にハイブリダイズしないことが確実となり,増幅工程の間にフラグメントが生成する。
【0046】
制限酵素の1またはそれ以上による不完全な消化もアルチファクトの原因となりうる。高い特異性および活性を有する制限酵素を用いることにより,この問題は低減するであろう。
【0047】
アルチファクトはまた,ゲル精製により,または制限酵素で消化する前に生成物を固定化することにより,除去することができる。完全に消化されていない生成物は固定化されたまま残り,完全に消化された生成物から分離することができる。
【0048】
増幅の前に過剰のアダプターおよび標的を除去することによっても,アルチファクトの生成が減少するであろう。
【実施例】
【0049】
以下の実施例は本発明を例示する。
実施例1
BbvIを用いたサイズ制限なしでの最初の製造
NAのフラグメント化の前(または後)に標的ポリヌクレオチドをメチル化して,天然の認識部位を不活性化する。BbvIを制限酵素として用いて,M.Bbv(Megabase Research Products)を用いてその天然の部位を不活性化する。HydroShear装置(Gene Machines)を用いて標的ポリヌクレオチドを機械的剪断によりランダムにフラグメント化して,500−1000塩基対の断片とする。超音波処理と組み合わせて,さらに短いフラグメントを生成することができる。続く平滑末端アダプターライゲーションの工程の効率を高めるために,剪断されたポリヌクレオチドを任意にDNAポリメラーゼで処理して,そのエキソヌクレアーゼ機能を用いてオーバーハングをフィルインまたは除去してもよい。この目的には,一般に,T4DNAポリメラーゼおよびクレノーラージフラグメントを単独で,またはこれらを組み合わせて用いる。
【0050】
2つのポリヌクレオチドアダプターを平滑末端ライゲーションにより標的ポリヌクレオチドフラグメントに結合する。一方にはBbvI部位が組み込まれており,他方には続くシグナル配列へのライゲーション用にオーバーハングが組み込まれている。各アダプターは10−20塩基対の長さであり,これを10倍モル過剰で標的ポリヌクレオチドに加える。アダプターは,BbvIアダプターの一方の鎖を除き,リン酸化されている。さらに,このアダプターの反対側の鎖はライゲーションの間のコンカテマー化を防ぐために,3’デオキシ基を有する。ライゲーションは,製造元の推奨にしたがって平滑末端ライゲーションについて最適化された条件下で行う。
【0051】
ライゲーションしたポリヌクレオチドフラグメントをBbvIで消化する。消化の後,サイズ選択(例えば,ゲル分離またはカラム分画)を行って,過剰のアダプター,切断された末端フラグメントおよびある閾値の下および上のポリヌクレオチドフラグメントを除去する(例えば2倍のサイズ分布)。
【0052】
実施例2
MmeIおよびサイズ制限を用いた最初の製造
標的ポリヌクレオチドを,HydroShear装置(Gene Machines)を用いて機械的剪断によりランダムに500−1000塩基対の断片に分解する。超音波処理を組み合わせることにより,より短いフラグメントを生成することができる。続く平滑末端アダプターライゲーションの工程の効率を高めるために,実施例1で記載したように,剪断したポリヌクレオチドを任意にDNAポリメラーゼで処理して,オーバーハングをフィルインするかまたは除去してもよい。
【0053】
10倍モル過剰の20−40bp平滑末端アダプターを,フラグメント化された標的ポリヌクレオチドにライゲーションする。ライゲーションは,製造元の推奨にしたがって平滑末端ライゲーションについて最適化された条件下で行う。アダプターのアンチセンス鎖のみをリン酸化して,単一方向のライゲーションを確実にする(さらにアンチセンス鎖にa3’ジデオキシ基またはブロッキング基を組み込んで,コンカテマー化を防止する)。アダプターはその最も3’末端にMmeIの制限部位を,さらに上流にEarI(またはEam1104I)の制限部位を有する。サイズ排除カラムまたはアフィニティースピンカラム(例えば,MinElute PCR clean−up,Qiagen)を用いて過剰なアダプターを除去するとともに,バッファを交換すると便利である。
【0054】
最適条件下でMmeI消化を行って標的分子から20塩基対を除去し,アダプターポリヌクレオチドを結合させる。スピンカラムを用いてバッファを交換する(例えば,BioSpin−6,BioRad)。次に,制限酵素SfaNIの認識配列を含む第2のアダプターポリヌクレオチドを,MmeIにより生成したオーバーハングによりアダプター結合標的ポリヌクレオチドにライゲーションさせる(MmeIは2塩基の3’オーバーハングを生成するため,第2のアダプターは3’オーバーハングに2塩基の16すべての順列を有するアダプターのプールである)。SfaNI部位は,切断して標的配列の末端の4塩基を生ずるように配置されている。MmeIにより生成した2つのオーバーハングを含む標的ポリヌクレオチド(標的ポリヌクレオチド消化からの副生成物)が後に増幅しないように,アダプターはリン酸化しないままにする。PCR増幅を行って,2つのアダプターポリヌクレオチドに挟まれた20bp標的ポリヌクレオチドを含むフラグメントを増幅する。続くEarIおよびSfaNI消化から内部の部位を保護するために,dNTP中の通常のdCTPをメチル化dCTPに置き換えてPCRを行う。
【0055】
PCR clean−upスピンカラムを用いて過剰のプライマー,DNAポリメラーゼを除去し,バッファを交換する。
【0056】
PCR増幅した産物をEarI(またはEam1104I)およびSfaNIで消化して,シグナル配列のライゲーションおよび生化学的変換に必要なオーバーハングを生成する。PCRにおいてビオチン化プライマーを用いることにより,消化された末端フラグメントをアフィニティー(例えば,ストレプトアビジン被覆ビーズ)により除去することができる。
【0057】
実施例3
1回のサイクルにつき4つのヌクレオチドが変換されるサイクル変換の原理
標的DNA中の12塩基の配列をその対応するシグナル鎖に変換することにより,核酸塩基から読み出し可能なシグナル配列へのサイクル変換の原理を示す。変換は,サイクル方法を用いて,各サイクルで4塩基が変換され,合計で3サイクルを行う複数の工程により行った。末端生成物は,標的DNA中の関連性のある塩基配列を表す12のシグナル成分から構成されるシグナル鎖であった。この実験は図2に図解される。
【0058】
SfaNIおよびEam1104I用の内部部位を含む240bpの標的DNAフラグメントを,バクテリオファージラムダゲノム(1507−1703)からそれぞれEam1104IおよびSfaNIの制限部位を含むプライマーを用いてPCR増幅した(図2の上のフラグメント)。後に内部部位から切断されることを回避するために,PCR反応は,通常のデオキシシトシン(dCTP)の代わりにメチル化デオキシシトシンヌクレオチド(m5−dCTP)を用いて行った。PCR条件は以下のとおりである:(50μl):10mM KCl,10mM(NH42SO4,20mM Tris−HCl,0.1%Triton−X−100,pH8.8(Thermopol buffer,NewE ngland Biolabs),2mM Mg2+,200μM dNTP(−dCTP)および200μM m5−dCTP(Amersham Pharmacia Biotech),20pmolのラムダプライマー#328(5’−agactggcgatccctggcatcacccctccagcgtgttttat−3’;配列番号5)および20mpolのラムダプライマー#329(5’−gcactgataggcgtcactcttcgctgtacgctglccagatgt−3’;配列番号6)(MWGbiotech),10ngのラムダゲノム,1UのVentポリメラーゼ(New England Biolabs)。PCRサイクルはPTC−200(MJResearch)により行った。ホットスタート:95℃,5分間,以下を35サイクル:95℃,15秒間,58℃,20秒間,72℃,30秒間。完全伸長工程:72℃,5分間。
【0059】
サイクル1
フラグメントは配列決定サイクルに入り(図2,A),Eam1104IおよびSfaNI(内部部位はメチル化されて切断から保護されているため,切断はプライマー領域からのみ生ずる)で切断する。消化条件:100mM NaCl,50mM Tris−HCl,10mM MgCl2,1mM DTT,pH7.9(NEB3,New England Biolabs),1μgのメチル化PCRフラグメント,20UのEam1104I,3UのSfaNI,および37℃で1時間のインキュベーション。酵素は65℃で20分間熱不活性化した。切断したフラグメントはGibcoBRL PCR精製システム(Gibco)を用いて精製し,次に10mM Tris−HClで溶出した。切断したフラグメントは,シグナル連鎖ライゲーション用の3塩基のオーバーハングおよび特異的右手アダプターへのライゲーション用の4塩基のオーバーハングを有する点において,最初の調製または1サイクルの変換(実施例1に記載)の後に得られたフラグメントの性質に対応する。
【0060】
選択マーカーを結合させる変換工程(図2,B)は,フラグメントを特異的アダプターおよびその附随するシグナル配列とライゲーションさせることにより行った:40mM Tris−HCl,10mM MgCl2,10mM DTT,0.5mM ATP,pH7.8(リガーゼバッファ,Fermentas),1.6pmolのアダプター1(5’−ビオチン−ggctaggtgctgatgaacgcatcg−3’;配列番号7;5’−tggacgatgcgttcatcagcacctagcc−3’;配列番号8(MWG−biotech)とアニーリング,1.9pmolシグナル配列1(1),7.5Weiss−UのT4DNAリガーゼ(Fermentas)。インキュベーションは室温(22℃)で2.5時間行った。リガーゼは65℃で10分間熱不活性化した。
【0061】
実験で用いたシグナル配列は,以下のようにして作成した:シグナル成分(それぞれ1塩基を表す)は,オリゴヌクレオチド(約45塩基)をアニーリングさせ,一緒にライゲーションして所望のシグナル配列を生成することにより作成した(シグナル成分は,ライゲーションの配列を区別する異なるオーバーハングを用いて構築する)。シグナル配列をPCRにより増幅し,シグナル配列を標的DNAにライゲーションするために必要な相補的オーバーハングを生成するために,SapIで切断した。すべての標的DNAフラグメントがシグナル配列のライゲーション用に同じオーバーハングを有するため,所定の反応におけるすべてのフラグメントは,SfaNIにより生成したオーバーハングの配列にかかわらず,同じシグナル配列にライゲーションされる。したがって,特異性および選択はアダプター中に存在する。これは標的DNAのSfaNIで切断した末端にライゲーションするため,アダプターに相補的なオーバーハングを有するフラグメントのみがライゲーションされる。したがって,変換は,標的DNAがシグナル配列にライゲーションされるとともに,アダプターへのライゲーションが生ずるためにアダプターに相補的なオーバーハングを有していることが前提となる。つまり,アダプターは,ライゲーションしたシグナル配列に対応するオーバーハング配列を有するフラグメントの特異的選択を確実にする。
【0062】
塩基変換の選択工程は,フラグメントにライゲーションしたシグナル配列および特異的アダプターの両方を有するフラグメントの選択および増幅からなる(図2,C)。これはPCRを用いて以下の条件で行った(50μl):10mM KCl,10mM(NH42SO4,20mM Tris−HCl,0.1%Triton−X−100,pH8.8(Thermopol buffer,New England Biolabs),2mM Mg2+,200μM dNTP(−dCTP)および200μM m5−dCTP(Amersham Pharmacia Biotech),20pmolのアダプター1−プライマー#332(5’−ビオチン−ggctaggtgctgatgaacgcatcg−3’;配列番号9)および20pmolのシグナル配列1−プライマー#340(5’−taatacgactcactatagcatgactcgagcctcttcgcga−3’;配列番号10)(MWG−biotech),約3.5fmolのライゲーションした標的DNAおよび1UのVentポリメラーゼ(New England Biolabs)。PCRサイクルはPTC−200(MJResearch)で行った。ホットスタート:95℃,2分間,以下を20サイクル:95℃,15秒間,66℃,20秒間,72℃,30秒間。完全伸長工程:72℃,5分間。図2のウエル2は,配列決定方法の最初のサイクルの結果を示す。380bpの正しいフラグメントが生成した。
【0063】
サイクル2
次の4塩基を変換するために,PCR産物をGibcoBRL精製システム(Gibco)を用いて精製し,次にSfaNIおよびEam1104Iで切断した。この切断が生ずることが可能なのは,最初のサイクルからのシグナル配列およびアダプターがそれぞれEam1104IおよびSfaNIの部位を含むためである。この部位はプライマー領域中に存在するため,これらはPCRの間にメチル化によりブロックされない。切断反応の効率を高めるために,切断は最適切断条件下で連続的に行った。SfaNI切断:100mMNaCl,50mM Tris−HCl,10mM MgCl2,1mM DTT,pH7.9(NEB3,New England Biolabs),1μgのメチル化PCRフラグメント,4UのSfaNI。インキュベーションは37℃で1時間行った。酵素の熱不活性化は65℃で10分間行った。Micro Bio−Spin6カラム(BioRad)を用いてフラグメントを精製した。Eam1104I切断:33mM Tris酢酸,10mM酢酸マグネシウム,66mM酢酸カリウム,0.1mg/ml BSA,pH7.9(TangoY+,Fermentas),SfaNI消化PCRフラグメント,10UのEam1104I.37℃で1時間インキュベートし,次に65℃で20分間熱不活性化した。消化した生成物をGibcoBRL精製システム(Gibco)を用いて精製した。変換の最初の工程は,最初のサイクルに対応するよう行ったが,ただし,新たなシグナル配列およびこれに結合した特定のアダプター(配列の次の4塩基に対応)を加えた。可能性のある繰り越し問題を低減させるために,シグナル配列2はシグナル配列1とは異なるオーバーハングを有するように設計した。ライゲーション条件:40mM Tris−HCl,10mM MgCl2,10mM DTT,0.5mM ATP,pH7.8(リガーゼバッファ,Fermentas),0.5pmolのアダプター2(5’−ビオチン−cgacagtacgacggaccagcatcc−3’;配列番号11,5’−acgcggatgctggtccgtcgtactgtcg−3’;配列番号12にアニーリング)(MWG−biotech),1pmolのシグナル配列2(2),1Weiss−UのT4DNAリガーゼ(Fermentas)。インキュベーションは室温(22℃)で1.5時間行った。リガーゼは65℃で10分間熱不活性化した。PCR増幅は最初のサイクルと同じ条件下で行ったが,ただし以下の新たなプライマーセットを用いた(アダプター2−プライマー#347,5’−Biotin−cgacagtacgacggaccagcatcc−3’;配列番号11,およびシグナル配列2−プライマー#343,5’−taatacgactcactatagcatcgaatgaccgcctcttccact−3’;配列番号13)。前の配列決定サイクルからの残留物を増幅する危険性を最小限にするために,各配列決定サイクルについて異なるプライマーセットを用いることが好ましい。第2サイクルにおけるPCR増幅の結果を図4のウエル3に示す。523bpの正しいフラグメントが生成した。
【0064】
サイクル3
次の4塩基の変換およびPCR増幅は,サイクル2について記載したものと同じパターンにしたがった:SfaNIおよびEam1104Iで続けて切断した後,フラグメントをシグナル配列3(3)およびアダプター3(5’−ビオチン−atcgagcctggcatagcagcatca−3’;配列番号14,5’−aaactgatgctatgccaggctcgat−3’;配列番号15にアニーリング)(MWG−Biotech)とライゲーションした。PCR増幅は以下のプライマーセットを用いて行った:アダプター3−プライマー#353(5=−atcgagcctggcatagcagcatca−3=;配列番号14)およびシグナル配列3−プライマー#345(5’−taatacgactcactatagcaccgggcaggatagactcttcaggt−3’;配列番号16)。サイクル3における増幅の結果は,図4のウエル4に示される。ウエル4は,2つの弱いバンドおよび1つの比較的強いバンドが形成されることを示す。強いバンドは,予測された長さである666bpに近いところに来る。ウエル4(サイクル3)およびウエル3(サイクル2)に見られる間違ったサイズの弱いバンドは,おそらくは,繰り越し問題およびミスプライミングの結果であろう。ウエル3の弱いバンドおよびウエル4のさらに下の弱いバンドは,前のサイクルのPCRフラグメントのサイズに相当する。可能な説明としては,1つのサイクルにおけるフラグメントの不完全な切断が次のPCRサイクルにおいてテンプレートとして機能するのかもしれない。各サイクルにおける新たなプライマーセットはこの問題をある程度軽減させるが,プライマーが共通して有する酵素部位のため,ミスプライミングの危険性はなお存在する。しかし,このタイプのミスプライミングは,PCRの間によりストリンジェントなアニーリング条件(例えば,Mg2+,温度),より区別しうるポリメラーゼを使用すること,Eam1104I部位を配列鎖プライマーの3’から離すこと,新たな配列の選択,または切断前にフラグメントを固定化して(例えば,マイクロビーズ上のビオチン−ストレプトアビジン系),次のサイクルに入るフラグメントが切断されることを補償することにより排除することができる。他のタイプのミスプライミングに対する最も良い解決法は,新規なプライマー配列を選択するか,および/またはPCR条件を最適化することであろう。余分のDNA材料(例えば,過剰なアダプターまたはライゲーションしていないDNA)の存在に起因するミスプライミング事象は,アダプターの凹型鎖をチオ保護する戦略を用いることにより除去することができる。PCR前に5’−3’エキソヌクレアーゼ(例えば,T7エキソヌクレアーゼまたはラムダエキソヌクレアーゼ)により消化すると,アダプターにライゲーションしたDNAの一方の鎖のみが無傷で残る。すべての標的配列が同じ長さである態様においては,生化学的変換のプロセスの間に,サイズ選択を用いて正しくない長さのフラグメントを除去することができる。
【0065】
実施例4
1回のサイクルあたり3つのヌクレオチドが変換されるサイクル変換の原理
標的DNA中の12塩基の配列をその対応するシグナル配列に変換することにより,核酸塩基の読み出し可能なシグナル配列へのサイクル変換の原理を示す。変換は,サイクル方法による工程で,各サイクルで3塩基が変換される合計4サイクルで行う。最終生成物は,標的DNA中の関連性のある塩基配列である12シグナル成分からなるシグナル配列であった。図5に実験を図解する。
【0066】
以下のオリゴヌクレオチドをアニーリングさせることにより66bpの合成標的DNAフラグメントを生成した:#003(5’−PHO−GATCTTGGCTATTCGTCTCTTGGCTTTTCGTCTGATTGTAGACGCCAACGGGACATGATGATGAT−3’;配列番号17)および#004(5’−[PHO−CATCATCATCATCATGTCCCGTTGGCGTCTACAATCAGACGAAAAGCCAAGAGACGAATAGCCAAG−3’;配列番号18)。配列から明らかなように,標的分子はその3’末端に4つの連続するATGトリプレットを含む。アニーリングした分子は,最初の調製(実施例2に記載)の後に得られるフラグメントの性質に対応しており,シグナル配列ライゲーション用に3塩基のオーバーハングを,特異的アダプターへのライゲーション用に4塩基のオーバーハングを有する。
【0067】
選択マーカーを結合させる変換工程(図5,B)は1pmolのフラグメントを特異的アダプターおよび附随するシグナル配列とライゲーションさせることにより行った:50mM Tris−HCl,10mM MgCl2,10mM DTT,1mM ATP,25μg/ml BSA,pH7.5(リガーゼバッファ,New England Biolabs),1pmolのアダプター#005(5’−GATGTAGATGCACTCCCGGACCTC−3’;配列番号19,#0065’−GAGGTCCGGGAGTGCATCTA−3’;配列番号20)(MWG−biotech)にアニーリングさせる,1pmolのシグナル配列#001(5’−TGTGTCCGCGTGGCTCTTCTGATCTTGGCTTTTCGTCTCTTGGCTATTCGTCT−3’;配列番号21,#002にアニーリングさせる5’−PHO−ATCAGACGAATAGCCAAGAGACGAAAAGCCAAGATCAGAAGAGCCACGCGGACACA−3’;配列番号22)(MWG−biotech),100ユニットのT4DNAリガーゼ(New England Biolabs)。インキュベーションはPTC−200サーマルサイクラー(MJResearch)で22℃で1時間行った。アダプターおよびシグナル配列アダプターの両方に首尾よくライゲーションした分子の選択および増幅は,PCRを用いて以下の条件で行った(50μl):10mM KCl,10mM(NH4)SO4,20mM Tris−HCl,0.1%Triton−X−100,pH8.8(Thermopol buffer,New England Biolabs),2mM Mg2+,200μM dNTPs(Amersham Bioscience),10pmolのアダプタープライマー#006(5’−GAGGTCCGGGAGTGCATCTA−3’;配列番号23)(MWG−Biotech)および10pmolのシグナル鎖プライマー#007(5’−TGTGTCCGCGTGGCTCTTCT−3’;配列番号24)(MWG−Biotech),約1pmolのライゲーションした標的DNAおよび0.2UのVentポリメラーゼ(New England Biolabs)。PCRサイクルはPTC−200(MJReasearch)で行った。ホットスタート:95℃,2分間,95℃,15秒間,59.3℃,20秒間,72℃,20秒間からなる25サイクル,完全伸長工程:72℃,60秒間。図6のウエル2は,配列決定方法の最初のサイクルの結果を示す。142bpの正しいフラグメントが生成した。
【0068】
サイクル2
次の3塩基を変換するため,PCR産物をMinElute PCRクリーンアップキット(Qiagen)を用いて精製し,次にEam1104IおよびSfaNIで切断した。切断反応の効率を高めるために,切断は最適切断条件下で連続的に(serially)実施した。
【0069】
Eam1104I切断:25μlの反応中,33mM Tris酢酸,10mM酢酸マグネシウム,66mM酢酸カリウム,0.1mg/ml BSA,pH7.9(TangoY+,Fermentas),0.5μgのPCRフラグメント,20ユニットのEam1104I。37℃で1時間インキュベートした。MicroBio−Spin6カラム(BioRad)を用いてフラグメントを精製した。SfaNI切断:100mM NaCl,50mM Tris−HCl,10mM MgCl2,1mM DTT,pH7.9(NEB3,New England Biolabs),0.5μgのPCRフラグメント,2.5ユニットのSfaNI。50μlの反応中で37℃で15分間インキュベートした。
【0070】
消化した生成物はPAGE(ポリアクリルアミドゲル電気泳動)により精製し,破砕浸漬法を用いてゲルから精製した。MicroBio−Spin6カラムを用いてゲル粒子を除去し,MinElute Reactionクリーンアップカラム(Qiagen)を用いてDNAを精製した。
【0071】
変換工程は,同じシグナル配列およびこれに結合した特異的アダプターを用いて,最初のサイクルと対応するように行った。残りの工程は,サイクル1について記載したものと同じパターンにしたがったが,ただし,消化後,アガロースゲルおよびゲル精製キット(QiaexII,Qiagen)を用いてサンプルを精製した。第2サイクルにおけるPCR増幅の結果を図6のウエル3に示す。172bpの正しいフラグメントが生成した。
【0072】
サイクル3および4は,サイクル2について記載したものと同じパターンにしたがう。PCR増幅の結果はウエル4および5に示されており,202bpおよび232bpの正しいフラグメントが生成した。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】図1は,シグナル配列の概略図であり,標的ポリヌクレオチドの一部の規定されたシグナル配列への変換を示す。
【図2】図2は,本発明を用いて行ったポリヌクレオチド配列決定実験の概略図である。
【図3】図3は,変換プロセスにおける特定のシグナル配列を伴う種々のコンパートメントの使用の概略図である。
【図4】図4は,変換の結果を示し,3サイクルを行って標的ポリヌクレオチド上に一連のシグナル配列の塩基配列を形成することを示す。
【図5】図5は,1回のサイクルあたり3塩基配列を決定するよう実施されたポリヌクレオチド配列決定実験の概略図である。
【図6】図6は,変換の結果を示し,特定のシグナル配列が標的ポリヌクレオチド中に組み込まれることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中に存在する標的ポリヌクレオチドの特定の特性を同定する方法であって,
(i) サンプル中の各標的ポリヌクレオチドの一方の末端に,調べている特性に特異的なポリヌクレオチドシグナル配列を結合させ,
(ii) その特性が存在する場合には標的ポリヌクレオチドを標的ポリヌクレオチドと相互作用する分子と接触させ;
(iii) 相互作用した標的ポリヌクレオチドを相互作用していない標的ポリヌクレオチドから分離し;
(iv) 任意に,工程(i)から(iii)を繰り返し;そして
(v) 分離された標的ポリヌクレオチド上にいずれのシグナル配列が存在するか,およびどの順番で存在するかを同定し,このことにより各標的ポリヌクレオチドの特性を決定する,
の各工程を含む方法。
【請求項2】
工程(iii)が,
(a)分子と相互作用した標的ポリヌクレオチドにポリヌクレオチドアダプター配列を結合させ;そして
(b)シグナル配列とアダプターの両方を含む標的ポリヌクレオチドについてポリヌクレオチド増幅反応を行う,
ことにより行われる,請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記方法が,標的ポリヌクレオチドの核酸配列を決定するために行われる,請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アダプターポリヌクレオチドが,増幅工程の後の切断を可能とする制限酵素認識配列を含む,請求項2記載の方法。
【請求項5】
増幅がポリメラーゼ反応を用いて行われる,請求項2記載の方法。
【請求項6】
アダプターおよびシグナル配列が,ポリメラーゼ反応において用いられるオリゴヌクレオチドプライマー用の認識部位を含む,請求項5記載の方法。
【請求項7】
サンプルがn個の反応コンパートメントに分離され,ここで,nは,調べている異なる特性の数であり,かつ各コンパートメントについてのシグナル配列はそのコンパートメントに特異的である,請求項1−6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
制限酵素認識配列がクラスIIs酵素に特異的である,請求項4記載の方法。
【請求項9】
酵素がSfaNIまたはEarIである,請求項8記載の方法。
【請求項10】
ポリメラーゼ反応が,dCTPの代わりにメチル−dCTPを用いて行われる,請求項5記載の方法。
【請求項11】
アダプターが支持材料上に固定化されている,請求項2記載の方法。
【請求項12】
連続したシグナル配列および任意に連続したアダプターが,異なるオリゴヌクレオチドプライマーの認識部位を含む,請求項6記載の方法。
【請求項13】
標的ポリヌクレオチドの配列を決定する方法であって,
(i) 二本鎖標的ポリヌクレオチドのサンプルを処理してそれぞれの末端にオーバーハングを形成し,その一方は配列決定すべきものであり,各オーバーハングは規定された数の塩基を有しており;
(ii) サンプルを分割し,それぞれのサンプルを二本鎖ポリヌクレオチドシグナル配列および二本鎖アダプターポリヌクレオチドと接触させ,各シグナル配列は配列決定すべきオーバーハングの長さと同じ長さの特定のポリヌクレオチド配列を表し,かつ,標的ポリヌクレオチドの配列決定つつある側と反対側の末端へのハイブリダイゼーションおよびライゲーションを可能とするオーバーハングを含み,各アダプターは,配列決定されつつあるオーバーハング配列に相補的な配列のオーバーハングを含み;
(iii) シグナル配列およびアダプター配列の末端にハイブリダイズするプライマーを用いてサンプルについてポリメラーゼ反応を行い,ここで,ポリメラーゼ反応の生成物は,アダプターを切断して配列決定すべき新たなオーバーハングを形成することを可能とする制限部位を含み,
制限酵素を用いて任意に工程(i)から(iii)を繰り返してオーバーハングを生成し;そして
(iv) 増幅された産物上にいずれのシグナル配列が存在するか,およびどの順番で存在するかを同定し,このことにより標的ポリヌクレオチドの配列を決定する,
の各工程を含む方法。
【請求項14】
シグナル配列にライゲーションされるオーバーハングが少なくとも3塩基である,請求項13記載の方法。
【請求項15】
配列決定すべきオーバーハングが4塩基である,請求項13または14に記載の方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2006−523451(P2006−523451A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−506145(P2006−506145)
【出願日】平成16年4月16日(2004.4.16)
【国際出願番号】PCT/GB2004/001673
【国際公開番号】WO2004/094664
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(505387004)
【Fターム(参考)】