説明

ポリヒドロキシカルボン酸の合成方法及びそれに用いるポリヒドロキシカルボン酸合成装置

【課題】プロセス飛散物を捕捉して、反応装置や配管の閉塞を防止し、飛散物を再利用することによって、反応効率を向上すること。
【解決手段】ポリヒドロキシカルボン酸合成における解重合工程または脱モノマー工程の少なくとも一つにおいて発生する上記酸の縮合物を含むプロセス飛散物を、原料であるヒドロキシカルボン酸を冷媒とした湿式コンデンサを用いて捕捉し、原料として再利用することを特徴とする合成法及びその方法を実施するのに適した合成装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシカルボン酸の合成方法及びそれに用いるポリヒドロキシカルボン酸合成装置に関し、とりわけポリ乳酸の合成方法及び装置に係る。
【背景技術】
【0002】
以下、ヒドロキシカルボン酸として乳酸を用いた場合を中心に記載する。ポリ乳酸は乳酸を原料として作られる脂肪族ポリエステルである。ポリ乳酸を合成する方法の一つとして、乳酸を濃縮して含有水分を低減させた後に縮合させることで乳酸オリゴマーを生成させ、これに2−エチルヘキサン酸スズ等の触媒を添加して一度解重合させることにより環状二量体(ラクチド)を生成させ、必要に応じて晶析等による精製を行った後、ラクチドに2−エチルヘキサン酸スズ等の触媒を添加して開環重合する方法がある。
【0003】
濃縮工程ではモノマーである乳酸に不純物として10〜15%程度の水分(以下、自由水)が含まれている場合があり、モノマー間におけるエステル化処理が起こり易くさせるためにこの自由水の除去が実施される。この濃縮工程では、120〜250℃での加熱及び、必要に応じて真空ポンプ等を用いた減圧により水分の除去が実施される。
【0004】
縮合工程は、モノマー間のエステル化反応によって生成される水を120〜250℃での加熱及び真空ポンプ等による減圧環境下、望ましくは10Torr以下での減圧により気化して除去する。ここでの減圧は濃縮工程におけるものとは異なり、エステル化反応を進展させるための必須条件である。この縮合工程によりモノマーから乳酸縮合物(以下、オリゴマーと呼称する)が生成する。
【0005】
縮合工程で生成したオリゴマーは解重合工程に送られ、120〜250℃での加熱及び真空ポンプ等による減圧環境下、望ましくは100Torr以下での減圧環境下において2−エチルヘキサン酸スズ等の解重合触媒との接触により、ラクチド(乳酸環状二量体エステル)が生成する。生成したラクチドは解重合工程での環境下では通常気体であることが多く、冷却・凝縮により回収される。
【0006】
解重合工程で生成したラクチドは開環重合工程に送られ、120〜250℃での加熱下において2−エチルヘキサン酸スズ等の開環重合触媒及び1−ドデカノール等の重合開始剤との接触により、ポリ乳酸が生成する。
【0007】
開環重合工程で生成したポリ乳酸には未反応モノマー及び触媒が含まれている。未反応モノマーがポリマー中に残存しているとポリマー性状の劣化及びポリマーの分解が促進される恐れがあるため、未反応モノマーを除去する必要がある。そこで、攪拌器等を用いて真空脱気処理によりポリマー表面から未反応ポリマーを蒸発させる。蒸発した未反応ポリマーは冷却・回収される。
【0008】
解重合工程及び脱モノマー工程では、排気中に含まれる乳酸、オリゴマー、ラクチド等の乳酸縮合物を含むプロセス飛散物を熱交換器を用いて冷却・回収するが、従来、これらの回収物は廃棄されるため、原料収率の低下原因の一つとなっていた。また、一般的に用いられている間接熱交換器では熱交換器内でオリゴマーやラクチドが凝固し、配管が閉塞し、冷却性能が低下するという問題があった。また、固形化したプロセス飛散物が排気下流側の真空ポンプ内に侵入し、ポンプ内壁が磨耗・腐食し、ポンプ性能が低下することで真空度が低下するという問題もあった。
【0009】
一方、ポリエチレンテレフタレート等、縮重合系ポリエステルの重合では、縮重合工程で副生成物として留去されるエチレングリコール蒸気を、冷却エチレングリコールを散布して直接冷却を行う湿式コンデンサを用いて回収し、原料として再利用するという特許文献1等の発明がある。これにより、凝縮器内の付着物を洗い流し、排気系の閉塞を避けることができる。
【0010】
【特許文献1】特開昭61−130336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
先に述べた特許文献1記載の技術では、回収されたエチレングリコール蒸気には、縮合反応(エステル化反応)に伴い発生する多量の水分及びテレフタル酸が含まれているので、原料としてそのまま再利用することはできない。そこで、蒸留塔を用いてエチレングリコールを留出する必要があるが、設備費及び運転経費が増大するという問題がある。
【0012】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、解重合工程及び/又は脱モノマー工程で発生する排気中のプロセス飛散物による排気系の閉塞及びポンプ性能低下による真空度の低下を防止すると同時に、プロセス飛散物を乳酸中に含まれる水分を用いて加水分解し、原料として再利用すると同時に乳酸の濃縮を進行させることでポリ乳酸の収率と合成の効率を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは前記目的を達成すべく、上記課題について鋭意検討した結果、いかに説明するポリヒドロキシカルボン酸特に乳酸の製造方法及び装置を見出した。即ち、本発明は、捕捉・回収したプロセス飛散物を原料ヒドロキシカルボン酸例えば乳酸中に含まれる自由水を用いて加水分解して元の原料ヒドロキシカルボン酸に戻し、原料として再利用することにより、合成プロセスの効率を向上し、コスト低減を図ることを可能とするポリヒドロキシカルボン酸の製造方法に関する。更に、本発明は原料供給系、縮合装置、解重合装置、精製装置、開環重合装置及び脱モノマー装置を備えたポリヒドロキシカルボン酸合成装置に関し、解重合装置及び脱モノマー装置上部の排気系の少なくとも一つに湿式コンデンサを設け、湿式コンデンサ内で冷却した乳酸を散布又は接触し、排気中に含まれるプロセス飛散物を洗い流して除去することにより合成装置配管等の閉塞を防止するものである
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、解重合工程及び/又は脱モノマー工程で発生する排気中のプロセス飛散物による排気系の閉塞及びポンプ性能低下による真空度の低下を防止することができる。更に、プロセス飛散物を分解し、原料として再利用することによりポリヒドロキシカルボン酸例えば、ポリ乳酸の収率と合成の効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の典型的な合成プロセスは、図1に示すように、自由水を含む原料のヒドロキシカルボン酸を濃縮装置2で濃縮し、縮合重合装置3において縮重合を行い、ついで解重合装置4で解重合を行い、精製した後、開環重合装置8で開環重合を行い、ポリヒドロキシカルボン酸を得、これを脱モノマー装置9で脱モノマーし、目的物であるポリヒドロキシカルボン酸を得る。この合成過程(縮合反応、解重合、精製、開環重合、脱モノマーなど)で、ヒドロキシカルボン酸のモノマーやオリゴマーなどのプロセス飛散物が系統内に飛散し、管壁等に付着する。本発明は、特にオリゴマーが飛散しやすい解重合工程及び/又は脱モノマー工程の飛散物を含む気体を原料モノマー及び自由水を含む冷却液体と接触することにより、飛散物を捕捉するものである。特に、飛散物に含まれるオリゴマーを前記自由水によって加水分解し、原料モノマーに戻すことにより、従来廃棄せざるを得なかった飛散物を原料として再利用することができ、合成効率を向上することができる。
【0016】
以下、図1によってその詳細を説明する。乳酸は乳酸供給装置1から供給され、乳酸濃縮装置2において水分が除去され濃縮乳酸となる。濃縮乳酸は乳酸縮合装置3に供給され、縮合反応によりオリゴマー(乳酸縮合物)となる。オリゴマーは解重合装置4に送られ、解重合反応によりラクチドとなる。ラクチドは還流器5を経てラクチド冷却器6に送られ、水分、未反応物等と分離された後、精製装置7に送られ、精製される。精製されたラクチドは開環重合装置8へ送られ、開環重合反応によりポリ乳酸となる。ポリ乳酸は脱モノマー装置9へ送られ、水分・未反応モノマー等が除去される。
【0017】
湿式コンデンサはラクチド冷却器の下流の排気系及び脱モノマー装置の下流の排気系の少なくとも一つに設置する。ラクチド冷却器の下流の排気系に湿式コンデンサ10を設ける場合、コンデンサ内に冷却された乳酸を循環させることで、排気中のプロセス飛散物を溶解、回収する。脱モノマー装置の下流の排気系に湿式コンデンサ11を設ける場合、コンデンサ内に冷却された乳酸を循環させることで、排気中のプロセス飛散物を溶解、回収する。湿式コンデンサ10及び11の排気下流側には、間接熱交換器を設置しても良い。なお、乳酸原料の一部を配管31を介して、飛散物回収槽21及び22に供給し、湿式コンデンサ10、11の飛散物捕捉液体として使用する。
【0018】
本発明において、湿式コンデンサとしては、棚段を1段又は複数設け、その上方から冷却液として原料乳酸を循環・流下させて液膜を発生させ、この液膜に排気を接触させることでプロセス飛散物を溶解・捕集する棚段型、上方にシャワーノズルを設け、冷却液として原料乳酸を噴霧して、この液滴に排気を接触させることでプロセス飛散物を溶解、捕集するシャワー型、棚段型とシャワー型を組み合わせ、棚段型を上部に、シャワー型を下部に配置したもの等があるが、いずれを用いても良い。棚段型湿式コンデンサの概略図を図2に、シャワー型湿式コンデンサの概略図を図3に、棚段型とシャワー型を組み合わせた湿式コンデンサの概略図を図4に示す。図において、23は湿式コンデンサ本体であり、24はガス入り口配管、25は非凝縮性ガス排出配管、26は乳酸供給配管、27は凝縮液排出配管、28は乳酸供給ノズル、29は棚段、30は乳酸シャワーノズルである。
【0019】
本発明において、湿式コンデンサとして、棚段を1段又は複数設け、その上方から冷却液として原料乳酸を循環・流下させて液膜を発生させ、この液膜に排気を接触させることでプロセス飛散物を溶解・捕集する棚段型、上方にシャワーノズルを設け、冷却液として原料乳酸を噴霧して、この液滴に排気を接触させることでプロセス飛散物を溶解、捕集するシャワー型等があるが、いずれを用いても良い。
【0020】
本方式は以下の利点を備えている。従来用いられてきた間接熱交換器に比べて、熱交換器内でプロセス飛散物が凝固し、閉塞することがないという長所がある。これは熱交換器内でラクチド、オリゴマー等からなるプロセス飛散物を原料乳酸で洗い流し、乳酸中に含まれる水分で加水分解することで飛散物が原料の乳酸に戻り、液体となるためである。また加水分解で乳酸に含まれる水分が消費されるため、冷却に用いた乳酸が濃縮され、これを再利用することで濃縮工程に要する時間を短縮し、エネルギーを節約することができるという合成効率向上の点での長所もある。また、特許文献1に記載のポリエステル重合の場合と異なり、冷却に用いた乳酸は濃縮されるため蒸留塔で水分と分離する必要がない。このことから、設備費用及び運転経費が抑制される。
【0021】
以下、図面により本発明の実施形態について更に詳細に説明する。このポリ乳酸合成に関する装置は反応経路上流側から、乳酸供給装置1、乳酸濃縮装置2、乳酸縮合装置3、解重合装置4、還流器5、ラクチド冷却器6、精製装置7、開環重合装置8、脱モノマー装置9の順番で配置される。
【0022】
本発明のポリ乳酸製造装置は、乳酸濃縮装置2において乳酸中に含まれる水分を蒸発させて濃縮乳酸とし、乳酸縮合装置3において濃縮乳酸を縮合して乳酸オリゴマーを生成させ、得られた乳酸オリゴマーを解重合装置4において減圧下で解重合させた後、精製装置において精製することでラクチドを得、得られたラクチドを開環重合装置8において減圧下で開環重合させた後脱モノマー装置9で未反応物等を除去することにより製造するものである。
【0023】
乳酸に含まれている水分は、可能な限り加熱して蒸発させることにより除去することが好ましい。乳酸縮合装置3において、乳酸を減圧下で加熱することにより乳酸オリゴマーを生成させる。本発明において乳酸オリゴマーとは、乳酸の2量体から分子量5万程度までの乳酸重合物を含む概念であるが、上記の乳酸縮合反応によって得られる乳酸オリゴマーの分子量は、平均分子量で通常500〜1万、好ましくは1,000〜5,000である。
【0024】
乳酸縮合反応は通常、圧力100Torr以下、望ましくは10Torr以下、さらに好ましくは1Torr以下で、通常100〜220℃、好ましくは130〜200℃で実施する。加熱時間を可能な限り短くすることで、乳酸及び乳酸オリゴマーの熱分解を抑制することができる。
【0025】
乳酸縮合反応に関しては、必要に応じて、乳酸縮合反応のための触媒を添加しても良い。触媒としては従来公知のものを使用することができ、例えば、有機スズ系の触媒、例えば乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジラウリル酸スズ、ジパルミチン酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α―ナフトエ酸スズ、β―ナフトエ酸スズ、オクチル酸スズ、及び粉末スズ等が挙げられる。
【0026】
乳酸縮合装置は、少なくとも反応器、濃縮乳酸供給口及び乳酸オリゴマー排出口を有する。反応器としては縦型でも横型でも良い。
【0027】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒体のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または反応器内部の伝熱管(コイル)を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0028】
解重合装置4には減圧装置が設置されており、通常100Torr以下、好ましくは10Torr以下の減圧環境下、通常120〜250℃、好ましくは170〜200℃で加熱することにより乳酸オリゴマーの解重合反応を実施する。当該解重合反応によりラクチドが気体として生成する。本発明においてラクチドとは、乳酸2分子から水2分子を脱水反応させることにより生じる環状エステルである。
【0029】
解重合装置4は、少なくとも反応器、乳酸オリゴマー供給口及びラクチド排出口を有する。また、通常温度計も設置される。反応器としては特に制限されず、縦型反応器、横型反応器又はタンク型反応器を用いることができる。攪拌翼としてはパドル翼、タービン翼、アンカー翼、ダブルモーション翼、ヘリカルリボン翼などを使用することができる。
【0030】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒体のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または反応器内部の伝熱管(コイル)を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0031】
解重合反応においては、必要に応じて解重合反応のための触媒を添加しても良い。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期律表IA族、IIIA族、IVA族、IIB族及びVA族からなる群から選択される金属又は金属化合物からなる触媒を使用できる。
【0032】
IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等を挙げることができる。
【0033】
IIIA族に属するものとしては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミナ、塩化アルミニウム等を挙げることができる。
【0034】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α―ナフトイエ酸スズ、β―ナフトイエ酸スズ、オクチル酸スズ等)の他、粉末スズ、酸化スズ、ハロゲン化スズ等を挙げることができる。
【0035】
IIB族に属するものとしては、例えば、亜鉛粉末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物を挙げることができる。
【0036】
IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等を挙げることができる。これらの中でも、オクチル酸スズ等のスズ系化合物又は三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物を使用するのが好ましい。
【0037】
これら触媒の使用量は、乳酸オリゴマーに対して0.01〜20重量%、好ましくは0.05〜15重量%、より好ましくは0.1〜10重量%程度である。
【0038】
解重合装置4で生成したラクチドを含む蒸気は解重合装置の外に排出され、ラクチド冷却器に供給される。ここでラクチドは冷却・凝縮されて回収された後、精製装置に移送される。
【0039】
ラクチド冷却器については、金属管を隔てて蒸気と冷媒が間接的に接触する表面凝縮器が望ましい。これはラクチドが水を含む冷媒と直接接触すると加水分解が起こり酸を生成するので、それを防止するためである。酸を生成すると、酸触媒として開環重合反応の進捗を阻害する上、冷却器等の材料腐食を引き起こす可能性がある。冷媒としてラクチドに対し不活性なもの例えば窒素ガスなどを用いる場合は上記の限りではないが、その場合、冷媒を十分乾燥させ湿分を低減する必要がある。
【0040】
精製装置7から排出されたラクチドは開環重合装置8に移送される。開環重合装置では不活性ガス雰囲気下、通常120〜250℃、好ましくは120〜200℃で加熱することによりラクチドの開環重合反応を実施する。当該開環重合反応によりポリ乳酸が生成する。
【0041】
開環重合装置8は、少なくとも反応器、ラクチド供給口及びポリ乳酸排出口を有する。また、通常温度計も設置される。反応器としては特に制限されず、縦型反応器、横型反応器又はタンク型反応器を用いることができ、2つ以上の反応器を直列配置されていても構わない。攪拌翼としてはパドル翼、タービン翼、アンカー翼、ダブルモーション翼、ヘリカルリボン翼などを使用することができる。
【0042】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒体のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または反応器内部の伝熱管(コイル)を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0043】
開環重合反応においては、必要に応じて解重合反応のための触媒を添加しても良い。触媒としては、従来公知のものを使用することができ、例えば、周期律表IA族、IIIA族、IVA族、IIB族及びVA族からなる群から選択される金属又は金属化合物からなる触媒を使用できる。
【0044】
IA族に属するものとしては、例えば、アルカリ金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)、アルカリ金属と弱酸の塩(例えば、乳酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、オクチル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、乳酸カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウム、オクチル酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコキシド(例えば、ナトリウムメトキシド、カリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムエトキシド等)等を挙げることができる。
【0045】
IIIA族に属するものとしては、例えば、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミナ、塩化アルミニウム等を挙げることができる。
【0046】
IVA族に属するものとしては、例えば、有機スズ系の触媒(例えば、乳酸スズ、酒石酸スズ、ジカプリル酸スズ、ジステアリン酸スズ、ジオレイン酸スズ、α―ナフトイエ酸スズ、β―ナフトイエ酸スズ、オクチル酸スズ等)の他、粉末スズ、酸化スズ、ハロゲン化スズ等を挙げることができる。
【0047】
IIB族に属するものとしては、例えば、亜鉛粉末、ハロゲン化亜鉛、酸化亜鉛、有機亜鉛系化合物を挙げることができる。
【0048】
IVB族に属するものとしては、例えば、テトラプロピルチタネート等のチタン系化合物、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウム系化合物等を挙げることができる。これらの中でも、オクチル酸スズ等のスズ系化合物又は三酸化アンチモン等のアンチモン系化合物を使用するのが好ましい。
【0049】
これら触媒の使用量は、ラクチドに対して1〜2000ppm、好ましくは5〜1500ppm、より好ましくは10〜1000ppm程度である。
【0050】
開環重合反応においては、分子量の調整等を目的として、必要に応じて解重合反応のための重合開始剤を添加しても良い。重合開始剤としては1−ドデカノール等のアルコール類を用いることができる。
【0051】
開環重合器8で生成したポリ乳酸は脱モノマー装置に送られる。脱モノマー装置では溶融状態を維持しつつ負圧環境を作り、未反応のラクチド等を除去する。
【0052】
脱モノマー装置9には減圧装置が設置されており、通常100Torr以下、好ましくは1Torr以下の減圧環境下、通常120〜250℃、好ましくは180〜200℃かつ開環重合器よりも高い温度で加熱することによりポリ乳酸からの脱モノマーを実施する。
【0053】
脱モノマー装置は、少なくとも反応器、ポリ乳酸供給口及びポリ乳酸排出口を有する。また、通常温度計も設置される。反応器としては特に制限されず、二軸押出機、単軸押出機又は四軸押出器横型反応機等、様々なものを用いることができる。
【0054】
反応器における加熱方法としては、当技術分野において通常用いられる方法を使用することができ、例えば、反応器外周部に熱媒のジャケットを設置し、反応器壁面を通して伝熱により反応液を加熱する方法、または反応器内部の伝熱管(コイル)を通して伝熱により加熱する方法等があり、これらを単独で使用しても組み合わせて使用しても良い。
【0055】
湿式コンデンサ10、11は解重合装置9の下流の排気系もしくは脱モノマー装置9の下流の排気系の少なくとも一つに用いられる。湿式コンデンサには解重合装置及び/又は脱モノマー装置から排出される排気が導入され、冷却器で冷却された乳酸を循環させることにより、排気に含まれるプロセス飛散物を溶解・捕集する。
【0056】
冷却された乳酸の温度は0〜100℃、好ましくは10〜30℃程度である。湿式コンデンサとしては、図2〜図4に示すように、棚段を1段又は複数設け、その上方から冷却液として乳酸を循環・流下させて液膜を発生させ、この液膜に排気を接触させることでプロセス飛散物を溶解・捕集する棚段型、上方にシャワーノズルを設け、冷却液として乳酸を噴霧して、この液滴に排気を接触させることでプロセス飛散物を溶解、捕集するシャワー型等があるが、いずれを用いても良い。
【0057】
なお、解重合工程及び/又は脱モノマー工程で発生した水蒸気が排気には含まれているため、水蒸気を凝縮・捕集するための間接熱交換器を湿式コンデンサ前段に配置することもできる。湿式コンデンサは脱モノマー工程後に行われる結晶化工程、乾燥工程及び固相脱気工程の排気系に適用してもよい。
【0058】
以下本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0059】
〔実施例1〕
乳酸濃縮装置2では、加熱により乳酸に含まれる水分を蒸発させる。加熱は窒素ガス流通下、120〜150℃で行う。
【0060】
乳酸濃縮反応では水分、乳酸が気体として発生する。これらの気体は還流器14に入り、乳酸が気体から除去され、乳酸濃縮装置2に還流される。乳酸濃縮装置2で製造された濃縮乳酸は乳酸縮合装置3へ送られる。
【0061】
乳酸縮合装置3では乳酸の縮合反応を進め、これに伴い発生する水分を蒸発させる。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で行う。乳酸縮合反応では水分、乳酸、低分子量の乳酸オリゴマー及びその分解で発生するラクチドが気体として発生する。これらは乳酸縮合装置5から減圧装置8に向かって移動する。これらの気体は還流器6に入り、乳酸、低分子の乳酸オリゴマー、ラクチドが気体から除去され、乳酸縮合装置5に還流される。
【0062】
乳酸縮合装置3で生成した乳酸オリゴマーは解重合装置4へ送られる。解重合装置4では乳酸オリゴマーの解重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で、乳酸オリゴマーを三酸化アンチモンやオクチル酸スズ等の解重合触媒に接触させて行う。この反応により生成した気体ラクチドはラクチド冷却器6において冷却・凝縮された後精製装置7に送られる。
【0063】
精製装置7で精製されたラクチドは開環重合装置8へ送られる。開環重合装置8ではラクチドの開環重合反応を進める。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃の温度で、ラクチドを三酸化アンチモンやオクチル酸スズ等の開環重合触媒及び1−ドデカノール等の重合開始剤に接触させて行う。重合開始剤の濃度が700ppmの場合、ポリ乳酸の重量平均分子量は200000程度であった。この反応により生成したポリ乳酸は脱モノマー装置9に送られる。
【0064】
脱モノマー装置9では溶融状態を維持しつつ負圧環境を作り、ポリ乳酸に含まれる未反応のラクチド等を除去する。反応は10torr以下まで減圧し、120〜250℃かつ開環重合装置よりも高い温度で行う。
【0065】
湿式コンデンサ10は解重合装置下流の排気系に、湿式コンデンサ11は脱モノマー装置9下流の排気系に用いられる。湿式コンデンサ10には解重合装置から排出される排気が導入され、冷却器19で冷却された乳酸を循環させることにより、排気に含まれるプロセス飛散物を溶解・捕集する。冷却された乳酸の温度は0〜100℃、好ましくは10〜30℃程度である。
【0066】
湿式コンデンサ11には脱モノマー装置9から排出される排気が導入され、冷却器20で冷却された乳酸を循環させることにより、排気に含まれるプロセス飛散物を溶解・捕集する。
【0067】
乳酸は、乳酸供給装置1から乳酸濃縮装置2と、配管31を経由して湿式コンデンサ10、11の冷却媒体として使用するため、回収槽21,22に送られる。分岐した乳酸は、配管32、33を経てそれぞれ回収槽21,22に供給される。ここで湿式コンデンサに未濃縮の乳酸が供給されるため、飛散物の捕捉・回収に使用されるときに乳酸の加熱・濃縮も行われ、結果として濃縮装置2でのエネルギー消費量を少なくすることができる。
【0068】
乳酸の循環は、その濃度が任意の値に上昇するまで行った後、乳酸供給装置1または乳酸濃縮装置2に戻すことで原料として再利用することができる。濃度については、粘度上昇に伴う循環不良低減の観点から、98%以下、好ましくは95%以下が望ましい。なお、解重合工程及び脱モノマー工程で発生した水蒸気が排気には含まれているため、水蒸気を凝縮・捕集するための間接熱交換器を湿式コンデンサ前段に配置しても良い。上記解重合工程及び脱モノマー工程に引き続いてポリ乳酸を合成したところ、原料収率は65%となった。
【0069】
(比較例)
従来の間接熱交換器を排気系に用いるポリ乳酸合成装置でポリ乳酸を合成したところ、原料収率は60%となった。間接熱交換器を用いた場合には、反応装置や脱モノマー装置からの飛散物を捕捉・回収・再利用することができないので、原料利用率が直接接触型である湿式コンデンサを用いた場合と比べると、低くなる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明のポリ乳酸合成に関する装置の一実施形態を示す概略図である。
【図2】本発明のポリ乳酸合成装置における湿式コンデンサの第1の構成例を示す概略図。
【図3】本発明のポリ乳酸合成装置における湿式コンデンサの第2の構成例を示す概略図。
【図4】本発明のポリ乳酸合成装置における湿式コンデンサの第3の構成例を示す概略図。
【符号の説明】
【0071】
1…乳酸供給装置、2…乳酸濃縮装置、3…乳酸縮合装置、4…解重合装置、5…還流器、6…ラクチド冷却器、7…精製装置、8…開環重合装置、9…脱モノマー装置、10、11…湿式コンデンサ、12…減圧装置、13…減圧装置、14…還流器、15…減圧装置、16…間接熱交換器、17…間接熱交換器、18…間接熱交換器、23…湿式コンデンサ本体、24…ガス入り口配管、25…非凝縮性ガス排出配管、26…乳酸供給配管、27…凝縮液排出配管、28…乳酸供給ノズル、29…棚段、30…乳酸シャワーノズル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシカルボン酸合成における解重合工程及び脱モノマー工程の少なくとも一つにおいて発生する上記酸の縮合物を含むプロセス飛散物を、原料であるヒドロキシカルボン酸を冷媒とした湿式コンデンサを用いて捕捉する工程を含むことを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の合成方法。
【請求項2】
捕捉された飛散物を、ポリヒドリキシカルボン酸合成の原料として再利用することを特徴とする請求項1記載のポリヒドロキシカルボン酸の合成方法。
【請求項3】
請求項1において、ヒドロキシカルボン酸が、乳酸であることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の合成方法。
【請求項4】
請求項1において、ヒドロキシカルボン酸が、グリコール酸であることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸の合成方法。
【請求項5】
ポリヒドロキシカルボン酸合成における解重合装置及び脱モノマー装置の少なくとも一つにおいて発生するヒドロキシカルボン酸の縮合物を含むプロセス飛散物を、ヒドロキシカルボン酸を冷媒として捕捉する湿式コンデンサを備えることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸合成装置。
【請求項6】
捕捉した飛散物をポリヒドロキシカルボン酸合成の原料として再利用することを特徴とする請求項5記載のポリヒドロキシカルボン酸合成装置。
【請求項7】
請求項5において、ヒドロキシカルボン酸が、乳酸であることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸合成装置。
【請求項8】
請求項5において、ヒドロキシカルボン酸が、グリコール酸であることを特徴とするポリヒドロキシカルボン酸合成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−238496(P2007−238496A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−62626(P2006−62626)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】