説明

ポリフェニレンサルファイド樹脂の組成物、複合体およびそれらの製造方法

【課題】界面密着の剥離による強度低下が改良された、金属、セラミックス部材等の充填材を含んだPPS樹脂組成物、並びに金属、セラミックス部材等とインサート成型されたPPS樹脂複合体を提供する。
【解決手段】金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む組成物であって、該材料と該ポリフェニレンサルファイド樹脂が、式 R2−Si −(R1)(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介して密着していることを特徴とする、組成物等、およびそれら製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、金属酸化物およびセラミックスの少なくとも一種の材料とポリフェニレンサルファイド樹脂を含む組成物; 金属、金属酸化物およびセラミックスの少なくとも一種の材料を含む構造体とポリフェニレンサルファイド樹脂を含む複合体; 並びにそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂は、高い耐熱性、耐薬品性、絶縁性を持つ熱可塑性樹脂であり、自動車部品などの高温環境、さまざまな薬品が使用される環境で使用される樹脂として知られている。
【0003】
例えば、特許文献1において、精密成形性、耐衝撃性および耐摩擦性に優れたPPS樹脂組成物に関して、成形加工時の問題を解消するとともに満足な物理的特性を有する成形品を与えるPPS樹脂組成物を開発することを目的として、ポリフェニレンサルファイド樹脂にチタン酸カリウム繊維を5〜70重量%含有することを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂ポリフェニレンサルファイド樹脂が提案されている。尚、そこでは、チタン酸カリウム繊維として、ビニルシラン、エポキシシラン、アミノシランおよびメルカプトシランのうちの1種以上のシランカップリング剤によって表面処理されたチタン酸カリウム繊維を使用することが記載されている。
【0004】
また、特許文献2において、耐熱性に優れ、PPS樹脂の被覆層と金属体との両方の密着性に優れたプライマー組成物および樹脂被覆金属体を提供することを目的として、金属体面にポリフェニレンサルファイド樹脂を被覆するためのプライマー組成物であって、チタネートカップリング剤とポリフェニレンサルファイド樹脂粉とからなるプライマー組成物が提案されている。
【0005】
また、特許文献3において、寸法精度、表面平滑性および低熱膨張性を損なわずに、機械的強度を向上させ、たとえば精密部品成形用に適した樹脂組成物を提供することを目的として、ポリフェニレンサルファイドおよび芳香族ポリエステル系サーモトロピック液晶性樹脂の少なくとも1種20〜40重量%、ウィスカー5〜25重量%、球状微粒子40〜75重量%ならびにシランカップリング剤0.5〜3重量%を含有し、かつ前記ウィスカーと前記球状微粒子の合計含有量が60〜80重量%である精密部品成形用樹脂組成物が提案されている。尚、そこでは、シランカップリング剤として、ビニルシラン、フェニルシラン、アミノシラン、メタクリルシラン、エポキシシランおよびメルカプトシランが記載され、ビニルシランおよびフェニルシランが好ましいとされている。しかしながら、そこでの樹脂組成物では、密着強度の向上効果が十分でない。
【0006】
さらに、特許文献4において、脱着の衝撃によってコネクタ端面からフィラが脱落することを低減させた光コネクタフェルールの製造方法、及び光コネクタフェルール、光コネクタを提供することを目的として、シリカ粒子の表面にシランカップリング剤を塗布し、表面処理する表面処理工程と、表面処理後室温で30日以上放置して前記シランカップリング剤のシリカ表面での加水分解基の反応を進行させる熟成工程と、前記熟成工程を経たシランカップリング処理シリカ粒子とベースレジンと繊維状の充填材とを混練して樹脂組成物を生成する混練工程と、前記混練工程において生成された樹脂生成物によって光コネクタフェルールを成形するフェルール成形工程を備えることを特徴とする光コネクタフェルールの製造方法が提案されている。尚、そこでは、シランカップリング剤として、ビニル系、エポキシ系、アミノ系、イオウ系のものが記載され、ベースレジンがPPS樹脂の場合は、ビニル系シランカップリング剤が強度の観点で好ましいとされている。
【0007】
しかしながら、これらの特許文献でのPPS樹脂は、金属、金属酸化物、セラミックス等との密着性が低く、金属もしくはセラミックス部材とインサート成型された構造体および充填材を含んだ組成物の界面密着の剥離による強度低下が見られ、さらなる改良が必要とされていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭59−215353号公報
【特許文献2】特開平3−281668号公報
【特許文献3】再公表95/025770号公報
【特許文献4】特開2004−012913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、特に、界面密着の剥離による強度低下が改良された、金属、セラミックス部材等の充填材を含んだPPS樹脂組成物、並びに金属、セラミックス部材等とインサート成型されたPPS樹脂複合体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様である組成物は、請求項1に記載のように、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む組成物であって、材料とポリフェニレンサルファイド樹脂が、式(I)
R2−Si −(R1) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (I)
(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)
で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介して密着していることを特徴とするものである。
【0011】
かかる第1の態様では、PPS樹脂と接合する金属、金属酸化物またはセラミックをメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合またはウレタン結合を含むカップリング剤で表面処理することにより密着強度を従来に比べ大幅に向上させることが可能となり、組成物の強度の向上が可能となる。
【0012】
第1の態様の一つの好ましい形態として、少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介した密着が、カップリング剤の加水分解物によって材料の表面を処理することを含んでなる、組成物が挙げられる(請求項2参照)。かかる形態によれば、カップリング剤のアルコキシ基と加水分解で生成したシラノール基、およびシラノール基同士の縮合反応が進み、より強固な表面被覆層が得られ、且つ、材料表面とカップリング剤との密着を向上することが可能である。
【0013】
本発明の第2の態様である複合体は、請求項3に記載のように、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む複合体であって、構造体とポリフェニレンサルファイド樹脂が、式(II)
R2−Si −(R1) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (II)
(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)
で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介して密着していることを特徴とするものである。
【0014】
かかる第2の態様では、ポリフェニレンサルファイド複合体と構造体との密着強度を大幅に向上させることが可能となり、構造体との剥離耐性、構造体とポリフェニレンサルファイド界面のシール性を向上させることが可能である。
【0015】
第2の態様の一つの好ましい形態として、少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介した密着が、カップリング剤の加水分解物によって構造体の表面の少なくとも一部を処理することを含んでなる、複合体が挙げられる(請求項4参照)。かかる形態によれば、カップリング剤のアルコキシ基と加水分解で生成したシラノール基、およびシラノール基同士の縮合反応が進み、より強固な表面被覆層が得られ、且つ、材料表面とカップリング剤との密着を向上することが可能である。
【0016】
本発明の第3の態様である組成物の製造方法は、請求項5に記載のように、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む組成物の製造方法であって、
材料の表面を、式(III)
R2−Si −(R1) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (III)
(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)
で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理する工程、及び
処理がなされた材料と該ポリフェニレンサルファイド樹脂を溶融混練し、材料とポリフェニレンサルファイド樹脂を密着させる工程
を含むことを特徴とするものである。
【0017】
かかる第3の態様では、溶融混錬と表面処理を同時に行う工程に比べ均一に表面処理された材料とポリフェニレンサルファイドが密着することでより強度の高い組成物を得ることが可能である。
【0018】
第3の態様の一つの好ましい形態として、混合物が、カップリング剤の加水分解物を含むものである、組成物の製造方法が挙げられる(請求項6参照)。かかる形態によれば、カップリング剤のアルコキシ基と加水分解で生成したシラノール基、およびシラノール基同士の縮合反応が進み、強固な表面被覆層が得られ、且つ、材料表面とカップリング剤との密着を向上することが可能である。
【0019】
本発明の第4の態様である複合体の製造方法は、請求項7に記載のように、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む複合体の製造方法であって、
構造体の該材料の表面の少なくとも一部を、式(IV)
R2−Si −(R1) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (IV)
(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)
で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理する工程、及び
材料の処理がなされた表面に該ポリフェニレンサルファイド樹脂を接触させて、構造体とポリフェニレンサルファイド樹脂を密着させる工程
を含むことを特徴とするものである。
【0020】
かかる第4の態様では、構造体とポリフェニレンサルファイドが強固に密着した複合体が得られ、構造体とポリフェニレンサルファイド界面のシールが保たれた複合体を得ることが可能である。
【0021】
第4の態様の一つの好ましい形態として、混合物が、カップリング剤の加水分解物を含むものである、複合体の製造方法が挙げられる(請求項8参照)。かかる形態によれば、カップリング剤のアルコキシ基と加水分解で生成したシラノール基、およびシラノール基同士の縮合反応が進み、強固な表面被覆層が得られ、且つ、材料表面とカップリング剤との密着を向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】カップリング剤の加水分解物によって表面処理された構造体上にPPS樹脂を有する試験片を模式的に示す説明図である。
【図2】カップリング剤の加水分解物によって表面処理された構造体とPPS樹脂からなる試験片に荷重を加えてPPS樹脂を溶着し、次いでせん断荷重を付加して破壊時の最大荷重を測定する手順を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の組成物におけるポリフェニレンサルファイド樹脂は、ベンゼン−硫黄の交互結合を有するものであり、通常、結晶性、熱可塑性樹脂である。その重量平均分子量としては、特に限定がないが、通常15000〜40000程度であることが好ましい。また、ポリフェニレンサルファイド樹脂は、通常そのままで使用されるが、場合によっては組成物の使用目的に応じて、部分的に酸化され、或いは分岐または架橋していても良い。市販されているポリフェニレンサルファイド樹脂としては、例えば、ポリフェニレンサルファイド(ポリプラスチック(株)製、商品名:1140A1)、ポリフェニレンサルファイド(呉羽化学工業(株)製、商品名:W205)、ポリフェニレンサルファイド((株)トープレン製、商品名:LN2)等が挙げられる。
【0024】
本発明の組成物における、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料としての金属は、特に限定がないが、通常鉄、アルミニウム、マグネシウム、シリコン、チタン、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン、スズ、鉛、銀、金、およびステンレス鋼、ジュラルミン、黄銅等の合金等が挙げられ、中でも鉄、アルミニウム、シリコン、チタン、スズが好ましい。また、金属酸化物としては、特に限定がないが、通常、フェライト、酸化第一鉄、酸化第二鉄、酸化アルミニウム、酸化チタン、珪酸、酸化亜鉛、ジルコニアなどが挙げられ、中でもフェライト、酸化アルミニウム、珪酸、酸化チタンが好ましい。また、セラミックスとしては、特に限定がないが、通常タルク、モンモリロナイト、ガラス、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの水酸化物、窒化ホウ素、窒化アルミニウムなどの窒化物、リン酸塩等が挙げられ、中でもタルク、ガラス、シリカ、フェライト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、窒化ホウ素が好ましい。これらの材料は、通常1種のみで使用されるが、場合によっては組成物の使用目的に応じて2種以上の材料を組み合わせて使用されても良い。
【0025】
かかる金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料の形状としては、通常微粒子であるが、組成物の使用目的に応じてビーズ等であっても良い。その材料が微粒子の場合の形状としては、通常球状であるが、組成物の使用目的に応じて鱗片状、ウィスカー等であっても良く、またその大きさとしては粒径(球状以外の場合は相当直径)が通常0.1〜100μmであり、より好ましくは5〜60μmである。その材料が微粒子以外の場合の形状としては、鱗片状、ウィスカー等であり、その大きさ(相当直径)は通常は10〜200μmである。
【0026】
本発明の組成物におけるポリフェニレンサルファイド樹脂の含有量としては、組成物の全重量に対して、通常10〜90重量%であり、より好ましくは30〜70重量%であり、また金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料の含有量としては、通常10〜80重量%であり、より好ましくは30〜70重量%である。尚、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料は、通常ポリフェニレンサルファイド樹脂中に実質上均一に分散していることが望ましいが、組成物の使用目的に応じて不均一に分散していても良い。
【0027】
本発明の組成物には、その使用目的により必要に応じて、さらにエラストマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造核剤、離型剤等が含有されても良く、それらの合計の含有量としては、通常2〜10重量%である。
【0028】
本発明の組成物における、上記式(I)で表される少なくとも一種のカップリング剤としては、そのR1が好ましくはメトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基、およびメチル基、エチル基などのアルキレン、特に好ましくはメトキシ基、エトキシ基であり、R2が好ましくはブチル基、プロピル基、エチル基などのアルキル基の末端もしくは側鎖に、メルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を持つ化合物、特に好ましくはプロピレン鎖末端にメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を持つ化合物である。
【0029】
かかるカップリング剤の具体例としては、通常3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアネートトリメトキシシラン、3-イソシアネートトリエトキシシラン、等が挙げられ、中でも3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランが特に好ましい。
【0030】
また本発明の組成物における、そのカップリング剤に由来する有機物としては、カップリング剤の加水分解物、カップリング剤の縮合反応により生成された液状高分子量体等が挙げられ、特に加水分解物が特に好ましい。即ち、かかる少なくとも一種のカップリング剤の加水分解物によって、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料の表面を処理することを含む方法によって製造された組成物が好ましい。
【0031】
また本発明の組成物における、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料とポリフェニレンサルファイド樹脂の間に存在する、そのカップリング剤に由来する有機物の層の厚さとしては、通常0.005〜2μmであり、より好ましくは0.01〜1μmである。
【0032】
このように、本発明の組成物における、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料とポリフェニレンサルファイド樹脂が、かかるカップリング剤に由来する有機物を介して密着している状態にあることによって、その密着部分におけるせん断荷重下での初期接着強度が、好ましくは5MPa以上、特に好ましくは7MPa以上であって、界面密着の剥離による強度低下が防止されている。
【0033】
本発明の複合体におけるポリフェニレンサルファイド樹脂は、上記の本発明の組成物におけるポリフェニレンサルファイド樹脂と同様である。
【0034】
本発明の複合体における、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料の種類としては、上記の本発明の組成物における金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料と同様である。
【0035】
本発明の複合体における、かかる材料を含む構造体としては、特に限定されるものではなく、例えばターミナル、コイル、ヒートシンク、絶縁板、シャフト、磁石等が挙げられる。尚、その構造体の形状や大きさは、特に限定されるものではなく、その複合体の使用目的に応じて適宜定められるが、例えば球、平板、円柱、角柱、H型鋼等が挙げられる。
【0036】
本発明の複合体における上記式(II)で表される少なくとも一種のカップリング剤の種類に関しては、上記の本発明の組成物における式(I)で表される少なくとも一種のカップリング剤と同様である。
【0037】
また本発明の複合体おける、そのカップリング剤に由来する有機物としては、カップリング剤の加水分解物、カップリング剤の縮合反応により生成された液状高分子量体等が挙げられ、特に加水分解物が特に好ましい。即ち、かかる少なくとも一種のカップリング剤の加水分解物によって、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体の表面を処理することを含む方法によって製造された複合体が好ましい。
【0038】
また本発明の複合体における、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体とポリフェニレンサルファイド樹脂の間に存在する有機物の層の厚さとしては、通常0.005〜2μmであり、より好ましくは0.01〜1μmである。
【0039】
このように、本発明の複合体における、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体とポリフェニレンサルファイド樹脂が、かかるカップリング剤に由来する有機物を介して密着している状態にあることによって、その密着部分におけるせん断荷重下での初期接着強度が、好ましくは5MPa以上、特に好ましくは7MPa以上であって、界面密着の剥離による強度低下が防止されている。
【0040】
本発明の組成物の製造方法におけるポリフェニレンサルファイド樹脂、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料は、上記の本発明の組成物におけるポリフェニレンサルファイド樹脂と同様である。また、本発明の組成物の製造方法における上記式(III)で表される少なくとも一種のカップリング剤の種類に関しては、上記の本発明の組成物における式(I)で表される少なくとも一種のカップリング剤と同様である。
【0041】
本発明の組成物の製造方法における上記式(III)で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物としては、そのカップリング剤を加水分解することによって得られる加水分解生成物を含む反応液であるカップリング剤の加水分解物の他、そのカップリング剤加水分解物を縮合反応等に付すことによって得られる反応液等があげられるが、カップリング剤の加水分解物が好ましい。尚、その混合物中のカップリング剤の加水分解生成物の濃度としては、通常1〜50重量%であり、より好ましくは5〜30重量%である。
【0042】
本発明の組成物の製造方法での、上記式(III)で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理する工程における、処理温度は通常80〜150℃であり、より好ましくは90〜120℃であり、処理時間は通常30〜120分であり、より好ましくは40〜80分である。
【0043】
本発明の組成物の製造方法での、該処理がなされた材料とポリフェニレンサルファイド樹脂を溶融混練し、該材料とポリフェニレンサルファイド樹脂を密着させる工程における、密着させるために加えられる荷重は通常0.1〜40MPaであり、より好ましくは0.2〜30MPaであり、その荷重の付加は通常組成物全体を加圧下に置くことによってなされる。また、その密着処理の時間は通常5秒〜5分であり、より好ましくは10秒〜3分であり、密着処理の温度は通常200〜350℃であり、より好ましくは220〜320℃である。
【0044】
本発明の複合体の製造方法におけるポリフェニレンサルファイド樹脂、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料は、上記の本発明の組成物におけるポリフェニレンサルファイド樹脂と同様であり、その材料を含む構造体は、上記の本発明の複合体における構造体と同様である。また、本発明の複合体の製造方法における上記式(IV)で表される少なくとも一種のカップリング剤の種類に関しては、上記の本発明の組成物における式(I)で表される少なくとも一種のカップリング剤と同様である。
【0045】
本発明の複合体の製造方法における上記式(IV)で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物は、上記の本発明の組成物の製造方法における上記式(III)で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物と同様である。
【0046】
本発明の複合体の製造方法での、上記式(IV)で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理する工程における処理温度は通常10〜40℃であり、より好ましくは20〜30℃であり、処理時間は通常2〜60分であり、より好ましくは5〜30分である。
【0047】
本発明の複合体の製造方法での、構造体中の金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料の表面処理がなされた表面にポリフェニレンサルファイド樹脂を接触させて、該材料とポリフェニレンサルファイド樹脂を密着させる工程における、密着させるために加えられる荷重は通常0.1〜50MPaでありであり、より好ましくは0.2〜30MPaでありである。また、密着処理の時間は通常3秒〜5分であり、より好ましくは5秒〜2分であり、密着処理の温度は通常200〜350℃であり、より好ましくは220〜320℃である。
【0048】
以下に、図面を参照しながら、本発明を具体化した実施形態について、さらに説明する。
【0049】
図1には、加熱したセラミックヒータ3の上に乗せられた、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体1の、上記式(IV)表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理された表面上に、成型したPPS樹脂2を置いて、PPS樹脂を加熱溶着させ室温で徐冷して得られた試験片が記載される。
【0050】
図2には、(a)図1に記載のようにして得られた、セラミックヒータ13の上で、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体11の、上記式(IV)表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理された表面上に、成型したPPS樹脂12が溶着された試験片に、PPS樹脂12側から冶具14で荷重を掛けて、さらに加熱溶着し、次いで(b)カップリング剤に由来する有機物を介して構造体11’に密着したPPS樹脂12’に圧子15でせん断加重を付加することによる、破壊時の最大荷重の測定が記載される。
【0051】
後述する実施例における「初期強度(MPa)」とは、以下に記載する試験方法によって測定される、上記式(II)等で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介して密着された、金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体とポリフェニレンサルファイド樹脂の複合体の密着面における、せん断加重下での破断時の最大荷重を密着面積で除した値を意味する。
【0052】
その初期強度の測定方法としては、図1に示されるように、例えば220℃に加熱したセラミックヒータ3の上に乗せられた、例えば冷間圧延鋼板(SPCC)等の金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体1の、上記式(IV)表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理された表面上に、例えば4mm×5mm×10mmに成型したPPS樹脂2を置いて、例えば220℃でPPS樹脂を加熱溶着させ室温で徐冷して得られた試験片に、図2の(a)に示されるように、PPS樹脂12側から冶具14に例えば40Nの荷重を掛けてさらに加熱溶着し、次いで図2の(b)に示されるように、カップリング剤に由来する有機物を介して構造体11’に密着したPPS樹脂12’に圧子15でせん断加重を付加して、その密着面での破壊時の最大荷重が測定され、その測定された最大荷重を密着面積で除した値として、初期強度(MPa)を得る。
【実施例】
【0053】
以下に本願発明についての実施例を挙げて更に具体的に本願発明を説明するが、それらの実施例によって本願発明が何ら限定されるものではない。
【0054】
実施例1〜11
図1に示されるように、20mm×20mm×1.5mmの大きさ(アルミナ焼結板の場合には20mm×20mm×5mm)の、表1,2に記載されるSPCC、Fe−Si 合金、Al合金(A5053)、Cu、アルミナ焼結板またはソーダガラスからなる構造体1(被着体)の少なくとも一方の表面を、表1,2に記載されるカップリング剤をカップリング剤の10倍モル量の水と混合し密閉瓶中で30℃1時間マグネットスタラーを用いて予め加水分解して得られた加水分解物(即ち、カップリング剤に由来する化合物を含む混合物)を用いて、カップリング剤加水分解物が10wt%となるようメタノールで希釈した混合物中に構造体1を浸し30℃30分の条件下で浸漬処理を施し、浸漬した構造体1を110℃1時間熱風炉で加熱処理をすることでカップリング処理を施した構造体1を得た。その処理された表面に、4mm×5mm×10mmに予め成型したPPS樹脂2(ポリプラスチック(株)製、商品名:1140A1)を乗せて、セラミックヒータ3の上でカップリング処理された構造体1を220℃に加熱して、図2の(a)に示されるようにPPS樹脂12(図1のPPS樹脂2と同じ)の上に乗せた冶具14によって下方に向けて40Nの荷重を加えてPPS樹脂12をさらに溶着させることによって、金属等の構造体11(被着体:図1の構造体1と同じ)とPPS樹脂12を密着させ、次いで、図2の(b)に示されるように、金属等の構造体11’(被着体:図2の(a)の構造体11と同じ)に密着されたPPS樹脂12’(図2の(a)のPPS樹脂12と同じ)に圧子15でせん断加重を付加し、密着部分の破壊時の最大荷重を測定した。得られた最大荷重を、金属等の構造体11’(被着体)とPPS樹脂12’の密着面積で除した値を初期強度(MPa)として、表1,2に記載する。
【0055】
【表1】

【0056】
【表2】

【0057】
比較例1
カップリング剤の加水分解物による冷間圧延鋼板(SPCC)の表面処理を行わないことを除いて、実施例1と同様にして得られた、構造体(SPCC)11’(被着体)とPPS樹脂(1140A1)12’ の密着の初期強度を、表3に記載する。
【0058】
比較例2〜6
図1に示されるように、20mm×20mm×1.5mmの大きさの、表3,4に記載される冷間圧延鋼板(SPCC)、Fe−Si 7%合金、Al合金(A5053)、Cuからなる構造体1(被着体)の一方の表面を、表3,4に記載されるカップリング剤をカップリング剤の10倍モル量の水と混合し密閉瓶中で30℃1時間マグネットスタラーを用いて予め加水分解して得られた加水分解物(即ち、カップリング剤に由来する化合物を含む混合物)を用いて、カップリング剤加水分解物が10wt%となるようメタノールで希釈した混合物中に構造体1を浸し30℃30分の条件下で浸漬処理を施し、浸漬した構造体1を110℃1時間熱風炉で加熱処理をすることでカップリング処理を施した構造体1を得た。その処理された表面に、4mm×5mm×10mmに予め成型したPPS樹脂2(ポリプラスチック(株)製、商品名:1140A1)を乗せて、セラミックヒータ3の上でカップリング処理された構造体を220℃に加熱して、図2の(a)に示されるようにPPS樹脂12(図1のPPS樹脂2と同じ)の上に乗せた冶具14によって下方に向けて40Nの荷重を加えてPPS樹脂12をさらに溶着させることによって、金属等の構造体11(被着体:図1の構造体1と同じ)とPPS樹脂12を密着させ、次いで、図2の(b)に示されるように、金属等の構造体11’ (被着体:図2の(a)の構造体11と同じ)に密着されたPPS樹脂12’(図2の(a)のPPS樹脂12と同じ)に圧子15でせん断加重を付加し、密着部分の破壊時の最大荷重を測定した。得られた最大荷重を、金属等の構造体11’(被着体)とPPS樹脂12’ の密着面積で除した値を初期強度(MPa)として、表3,4に記載する。
【0059】
比較例7,8
表4に記載されるアルミナ焼結板(20mm×20mm×5mm)またはソーダガラス(20mm×20mm×1.5mm)からなる構造体1(被着体)を用いること、並びにカップリング剤の加水分解物による構造体1(被着体)の表面処理を行わないことを除いて、実施例1と同様にして得られた、構造体11’(被着体)とPPS樹脂(1140A1)12’の密着の初期強度を、表4に記載する。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】

【0062】
上記の実施例1〜11に記載される本発明の複合体は、比較例1〜8に記載される複合体に比べて、いずれも高い初期強度を有していることが、表1〜4に示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む組成物であって、該材料と該ポリフェニレンサルファイド樹脂が、式(I)
R2−Si −(R1) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (I)
(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)
で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介して密着していることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介した密着が、前記カップリング剤の加水分解物によって前記材料の表面を処理することを含んでなる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む複合体であって、該構造体と該ポリフェニレンサルファイド樹脂が、式(II)
R2−Si −(R1) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (II)
(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)
で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介して密着していることを特徴とする、複合体。
【請求項4】
前記少なくとも一種のカップリング剤に由来する有機物を介した密着が、前記カップリング剤の加水分解物によって前記構造体の表面の少なくとも一部を処理することを含んでなる、請求項3に記載の複合体。
【請求項5】
金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む組成物の製造方法であって、
該材料の表面を、式(III)
R2−Si −(R1) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (III)
(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)
で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理する工程、及び
処理がなされた材料と該ポリフェニレンサルファイド樹脂を溶融混錬し、材料とポリフェニレンサルファイド樹脂を密着させる工程
を含むことを特徴とする、組成物の製造方法。
【請求項6】
前記混合物が、前記カップリング剤の加水分解物を含むものである、請求項5に記載の組成物の製造方法。
【請求項7】
金属、金属酸化物およびセラミックスからなる群より選択される少なくとも一種の材料を含む構造体と、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む複合体の製造方法であって、
該構造体の該材料の表面の少なくとも一部を、式(IV)
R2−Si −(R1) −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− (IV)
(式中、R1は−CH、−OH、−OCH、−OCのいずれかであり、互いに同じであっても異なっていても良く、R2はメルカプト基、ウレイド基、イソシアネート基、ウレア結合を含む有機基、ウレタン結合を含む有機基のいずれかである)
で表される少なくとも一種のカップリング剤に由来する化合物を含む混合物で処理する工程、及び
該材料の該処理がなされた表面に該ポリフェニレンサルファイド樹脂を接触させて、該構造体と該ポリフェニレンサルファイド樹脂を密着させる工程
を含むことを特徴とする、複合体の製造方法。
【請求項8】
前記混合物が、前記カップリング剤の加水分解物を含むものである、請求項7に記載の複合体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−188480(P2012−188480A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51176(P2011−51176)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】