説明

ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物および成形体

【課題】
ポリフェニレンサルファイドの融点以下の温度領域(200℃近傍)での付着性ガス分の発生が少なく、レンズ等の低曇り性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物およびその成形体からなるプロジェクター部品、リアプロジェクション部品を提供する。
【解決手段】
ポリフェニレンサルファイド樹脂にアルカリ土類金属を200〜2000ppmの範囲で導入したアルカリ土類金属含有ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、無機充填材25〜400重量部を配合してなり、かつ降温結晶化温度が210℃以上であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンサルファイドの融点以下の温度領域(200℃近傍)での付着性ガス分が少なく、レンズ、ミラー等の低曇り性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物およびその成形体からなるプロジェクター部品、リアプロジェクション部品に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下PPS樹脂と略す場合もある)は高耐熱性のスーパーエンジニアリングプラスチックに属し、機械的強度、剛性、難燃性、耐薬品性、電気特性および寸法安定性などを有していることから、射出成形用を中心として、各種電気・電子部品、家電部品、自動車部品および機械部品などの用途に幅広く使用されている。
【0003】
近年、ポリフェニレンサルファイド樹脂の高い耐熱性を活かし、その組成物をプロジェクターやリアプロダクションTVのランプケース部品、レンズホルダー部品などのランプ周り部品、シャーシ部品への適用が進んでいる。しかしながら、プロジェクターやリアプロダクションTVの小型化や光源の出力上昇に伴い、プロジェクターやリアプロダクションTV内部の温度環境が一段と厳しくなり、ポリフェニレンサルファイドの融点)以下の温度領域(200℃近傍)で発生する付着性ガス分によるレンズやミラー等の曇りが問題となってきている。
【0004】
例えば特許文献1には無機充填材を配合したポリフェニレンサルファイド樹脂組成物が開示されている。特許文献1記載の方法によれば低ガス化、低臭気化されたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物が得られるが、過酷な温度環境下において、レンズやミラーの曇りを防止できる程十分な低ガス性は得られていない。
【0005】
一方、特許文献2には低不純物化し、繊維用途へ適用することができるアルカリ土類金属含有ポリフェニレンサルファイド樹脂が開示されているが、降温結晶化温度については何ら記載されていない。通常、Ca化処理されたPPS樹脂は降温結晶化温度210℃以下である。かかるPPS樹脂は繊維用には好適であるが、特に射出成形用途に用いる場合は固化速度が遅く、有用ではない。
【特許文献1】特開2007−197625号公報
【特許文献2】特開平3−7443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリフェニレンサルファイドの融点以下の温度領域(200℃近傍)での付着性ガス分の発生が少なく、レンズ等の低曇り性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物およびその成形体からなるプロジェクター部品、リアプロジェクション部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述した従来技術における問題点の解決を課題として鋭意検討した結果、ポリフェニレンサルファイド樹脂にアルカリ土類金属を導入することで優れた低曇り効果が得られることを見いだし、本発明に達成した。すなわち、本発明は以下のいずれかの構成を特徴とするものである。
1.ポリフェニレンサルファイド樹脂にアルカリ土類金属を200〜2000ppmの範囲で導入したアルカリ土類金属含有ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、無機充填材25〜400重量部を配合してなり、かつ降温結晶化温度が210℃以上であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
2.前記ポリフェニレンサルファイド樹脂のクロロホルム抽出量が1.0wt%以下であることを特徴とする1記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
3.前記無機充填材が繊維状充填材と非繊維状充填材からなることを特徴とする1または2記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
4.1〜3いずれか記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ポリフェニレンサルファイドの融点以下の温度領域(200℃近傍)での付着性ガス分の発生が少なく、レンズ等の低曇り性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物およびその成形体を得ることが可能である。かかる特性を併せ持つ事から、各種電気・電子部品、家電部品、自動車部品および機械部品などの用途に適し、特に熱的に過酷な使用条件下でレンズ曇り物質などの発生が敬遠されるプロジェクター部品、リアプロジェクション部品の材料として適するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】

(1)PPS樹脂
本発明で用いられるPPS樹脂は、下記構造式(I)で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0010】
【化1】

【0011】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。またPPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0012】
【化2】

【0013】
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる場合もある。
【0014】
本発明で用いられるPPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、流動性と強度のバランスから溶融粘度は、例えば1〜2000Pa・s(310℃、剪断速度1000/s)の範囲が好ましく、10〜1500Pa・sの範囲がより好ましい。また溶融粘度の異なる2種以上のポリアリーレンサルファイド樹脂を併用して用いてもよい。
【0015】
なお、本発明における溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した値である。
【0016】
以下に、本発明に用いるPPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造のPPSが得られれば下記方法に限定されるものではもちろんない。
【0017】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0018】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
本発明で用いられるポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5-ジクロロトルエン、2,5-ジクロロ-p-キシレン、1,4-ジブロモベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1-メトキシ-2,5-ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp-ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p-ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0019】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度のPPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0020】
[スルフィド化剤]
本発明で用いられるスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0021】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0022】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0023】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0024】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0025】
本発明において、仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0026】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0027】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0028】
[重合溶媒]
本発明では重合溶媒として有機極性溶媒を用いる。具体例としては、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドンなどのN-アルキルピロリドン類、N-メチル-ε-カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0029】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選択される。
【0030】
[分子量調節剤]
本発明においては、生成するPPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0031】
[重合助剤]
本発明においては、重合度調節のために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られるPPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、更に有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。および/または水、塩化リチウムが好ましく用いられる。
【0032】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p-トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0033】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0034】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
【0035】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
【0036】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0037】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0038】
[重合安定剤]
本発明においては、重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、本発明で使用する重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0039】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0040】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。
【0041】
次に、本発明に用いるPPS樹脂の製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明する。
【0042】
[前工程]
本発明に用いるPPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0043】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0044】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0045】
[重合反応工程]
本発明においては、たとえば有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることによりPPS樹脂を製造する。
【0046】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0047】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0048】
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0049】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選択される。
【0050】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0051】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
【0052】
(a)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)-PHA過剰量(モル)〕
(b)上記(a)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)-PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕。
【0053】
[回収工程]
本発明で用いるPPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。本発明で用いるPPS樹脂は、公知の如何なる回収方法を採用しても良い。
【0054】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要もなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0055】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm2 以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選択される。
【0056】
[後処理工程]
本発明で用いられるPPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理または有機溶媒による洗浄を施されたものであってもよい。
【0057】
酸処理を行う場合は次のとおりである。本発明でPPS樹脂の酸処理に用いる酸は、PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のようなPPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0058】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4〜8となっても良い。酸処理を施されたPPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理によるPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0059】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。本発明において使用するPPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃以上がPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が大きいため好ましい。
【0060】
熱水洗浄によりPPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量のPPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、PPS樹脂200g以下の浴比が選択される。
【0061】
また、熱水処理の雰囲気は、末端基の分解は好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えたPPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0062】
本発明で用いるポリフェニレンサルファイド樹脂は、そのクロロホルム抽出量が1.0wt%以下であることが、より優れた低曇り性を得る上で有効である。かかるポリフェニレンサルファイド樹脂を得る方法としては特に制限はないが、有機溶媒で洗浄する方法が好適な方法として挙げられる。
【0063】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。本発明でPPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0064】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中にPPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒でPPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0065】
なお本発明におけるクロロホルム抽出量は、ソックスレー抽出器を用い、PPSサンプル量10g、クロロホルム200mlを用い5時間抽出し、その抽出液を50℃で乾燥し、得られた残さを仕込みPPSサンプル量で割り返し、100をかけてパーセンテージ表記としたものである。
【0066】
本発明において用いるPPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0067】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0068】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことが可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0069】
かかる好適なPPS樹脂の製品例としては、東レ株式会社製、M3910、M3102、M2900、M2100、T1881、E2080、E2180、E2280などが挙げられる。 本発明で用いるアルカリ土類金属含有ポリフェニレンサルファイド樹脂は、アルカリ土類金属を200〜2000ppm含有していることが必須であり、300〜1700ppm含有していることがより好ましい。アルカリ土類金属の含有量が200ppm未満では優れた低曇り性が得られない。2000ppmを越える範囲ではイオン交換可能官能基が多すぎ、その熱分解により逆に曇りが増えてしまい好ましくない。
【0070】
分子中にアルカリ土類金属を含有させることにより、何故、ポリフェニレンサルファイド樹脂の融点(200℃近傍)以下の領域でのガス発生が抑制され、低曇り性が発現するかは明瞭ではないが、ポリフェニレンサルファイド樹脂はイオン交換性官能基を有していることが知られており、発明者らの検討から融点(200℃近傍)以下の領域でのガス発生は、このイオン交換性官能基の分解に起因すると推測される。このイオン交換性官能基をアルカリ土類金属でイオン交換する事により、ポリフェニレンサルファイド樹脂の融点(200℃近傍)以下の領域でのイオン交換性官能基の分解が抑制され、そのためこの温度領域でのガス発生が抑制されて、低曇り性が発現したと推測している。
【0071】
かかるアルカリ土類金属を導入する方法に特に制限は無いが、ポリフェニレンサルファイド樹脂をアルカリ土類金属を含む水により洗浄する方法が好ましく例示できる。具体的にはアルカリ土類金属塩を溶解させた水の中にポリフェニレンスルフィド樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌することも可能である。
【0072】
アルカリ土類金属としてはカルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムを用いることができ、カルシウムであることが好ましい。アルカリ土類金属塩の種類としては特に制限は無いが、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの水溶性有機カルボン酸のアルカリ土類金属塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物が好ましい例として挙げられ、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムなどの水溶性有機カルボン酸のアルカリ土類金属塩であることが好ましく、さらに酢酸カルシウムであることがより好ましい。水の温度は、室温〜200℃であることが好ましく、50〜90℃であることがより好ましい。上記水中におけるアルカリ土類金属塩の使用量は乾燥ポリフェニレンスルフィド樹脂1kgに対し0.1g〜50gであることが好ましく、0.5g〜30gであることがより好ましい。浸漬する時間としては0.5時間以上が好ましく、1.0時間以上がより好ましい。また乾燥ポリフェニレンスルフィド樹脂単位重量当たりのアルカリ土類金属塩を含む水の使用重量は浸漬する時間、温度にもよるが、乾燥ポリフェニレンスルフィド1kg当たり、上記アルカリ土類金属を含む水を5kg以上用いることが好ましく、10kg以上用いることがより好ましい。上限としては特に制限はなく、高くてもよいが、使用量と得られる効果の点から100kg以下であることが好ましい。水に対するアルカリ土類金属塩の濃度については特に制限はないが、通常1mol/L以下の範囲が選択され、0.0001〜0.1mol/Lの範囲が特に好適である。かかる洗浄は複数回行っても良い。
【0073】
なお、アルカリ土類金属の含有量は以下に従って測定することできる。白金皿を純水で洗浄後、700℃で1時間焼成しデシケーター内で乾燥する。本白金皿の重量を、化学天秤を用いて0.1mgまで精秤する。この値をAgとする。次に、ボリマー試料を白金皿の中におよそ5g採り、白金皿と試料の合計量を化学天秤で0.1mgまで精秤する。この値をBgとする。その後、ステンレスバットにボリマー試料の入った白金皿を乗せ、440℃にセットされた高温オーブン内に入れ5時間焼成し、次いで高温オーブン設定を500℃に上げ、500℃に達してから5時間焼成する。処理後、高温オーブン温度が300℃以下になるまで冷却し、300℃以下に達した後白金皿を乗せたステンレスバットを取り出し、デシケーター内で処理後の白金皿を12時間保管する。その後、白金皿をデシケーター中から取り出し、538℃で安定しているマッフル炉に入れ、6時間焼成する。処理後、白金皿をマッフル炉から取り出し、試料中に炭化物(黒色)が完全に無くなっていることを確認する。 なお、僅かでも炭化物が認められる場合は、焼成をさらに実施する。焼成終了後、マッフル炉から白金皿を取りだし、汚れのないステンレスバットに乗せデシケーター内で30分冷却する。次いで、白金皿内に純水:塩酸=1:1(以下1:1塩酸と称する)の液体を2ml加える。塩酸は特級品を使用する。その後、ホットプレートを用い1:1塩酸の入った白金皿を加熱する。加熱は溶液が緩く沸騰する程度で実施する。蒸発乾固近くまでになったら加熱を止め、白金皿を室温に冷却する。その後、TPX製50mlメスフラスコにTPX製ロートを用いて白金皿の内容物をイオン交換水で洗浄しながら数回に分けメスフラスコ内に入れ、メスフラスコの標線をイオン交換水で合わせる。このように調整した試料液を用い、イオン交換水をブランクとして原子吸光測定装置を用いて測定実施し、測定値を得る。なお、測定前には分析する金属と同じ金属を含む標準液を用い検量線を作成し、本検量線を基に金属濃度を算出する。測定値が検量線を外れる場合、試料液をXml採取し、イオン交換水で希釈しYmlにし、検量線の範囲に来るよう濃度を調整する。このように調整した試料液を用い測定した値をCppmとする。以上の数値を用い、以下に従って金属濃度を算出する。
【0074】
濃度[ppm]=C/(B−A)×50×Y/X。
【0075】
アルカリ土類金属含有量が200〜2000ppmであるアルカリ土類金属含有ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、無機充填材25〜400重量部を配合することが必須であり、40〜250重量部の範囲がより好適である。
【0076】
充填材25重量部以上では機械的強度に優れ、一方充填材400重量部以下では、優れた溶融流動性が得られるため好ましい。
【0077】
かかる無機充填材は、一般に熱可塑性樹脂に用いられるものが使用でき、繊維状充填材と非繊維状充填材に分けることができる。本発明では繊維状充填材と非繊維状充填材を併用することも、優れた低曇り性と機械的強度、溶融流動性をバランスさせる意味で好ましい態様の一つである。
【0078】
この場合、繊維状充填材と非繊維状充填材の配合比率としては、重量比で繊維状充填材:非繊維状充填材=90:10〜10:90の範囲、より好ましくは、80:20〜50:50の範囲が選択される。
【0079】
繊維状充填材の具体的としては、ガラス繊維、炭素繊維、チタン酸カリウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などが挙げられ、これらは2種類以上併用することも可能である。また、これら繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。中でもガラス繊維、炭素繊維がより好適に用いられる。
【0080】
非繊維状充填材の具体例としては、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などが挙げられ、これらは中空であってもよく、さらにはこれら充填剤を2種類以上併用することも可能である。また、これら非繊維状充填材をイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、カオリン、クレーなどの珪酸塩、アルミナ、黒鉛が特に好ましい。
【0081】
また、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、その降温結晶化温度が210℃以上である必要があり、好ましくは215℃以上、より好ましくは220℃以上であることが、より優れた射出成形性を兼備する観点から好ましい。
【0082】
ここで降温結晶化温度とは、ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を340℃×5分ホットプレスし、これを水中に急冷して得られた厚み50マイクロメートルのフィルムをサンプルとし、サンプル量10mgとし、パーキンエルマー社製DSC7を用いて、50℃から20℃/分で340℃まで昇温し、340℃で1分保持した後、20℃/分で降温した際に検出される結晶化ピーク温度を指す。この温度が高いほど結晶化速度が速いことを示す。
【0083】
通常アルカリ金属土類を200〜2000ppm含有するポリフェニレンサルファイド樹脂は、結晶化速度が遅くなる、すなわち降温結晶化温度が低くなる傾向にある。結晶化速度が遅いと、射出成形などで成形した場合、固化が遅くなるため、成形時の冷却時間が長くなり、単位時間当たりの成形片取得数が減り、経済的に不利益となる。特に、プロジェクター部品やリアプロジェクション部品の様な、比較的大型の成形品の場合、成形片を金型から離型する事自体が難しくなり、良好な成形片を得ることが困難となる場合がある。
【0084】
かかる降温結晶化温度の向上手法としては、結晶核剤を添加する方法が例示できる。結晶核剤としては、PPSに有効であることが知られている結晶核剤を用いることができ、具体的には、タルク、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、アデカスタブNA−10、アデカスタブNA−11などが例示できる。かかる結晶核剤の添加量としては、期待する効果が得られれば特に制限はないが、通常ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、0.001〜5重量部の範囲が選択される。
【0085】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに他の樹脂をブレンドして用いてもよい。かかるブレンド可能な樹脂には特に制限はないが、その具体例としては、ナイロン6,ナイロン66,ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、芳香族系ナイロンなどのポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシルジメチレンテレフタレート、ポリナフタレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、カルボキシル基やカルボン酸エステル基や酸無水物基やエポキシ基などの官能基を有するオレフィン系コポリマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエーテルエステルエラストマー、ポリエーテルアミドエラストマー、ポリアミドイミド、ポリアセタールおよびポリイミドなどが挙げられる。
【0086】
なお、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン化合物などの可塑剤、有機リン化合物などの結晶核剤、ポリオレフィン系化合物、シリコーン系化合物、長鎖脂肪族エステル系化合物、長鎖脂肪族アミド系化合物などの離型剤、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物などの酸化防止剤、熱安定剤、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸リチウムなどの滑剤、紫外線防止剤、着色剤、難燃剤および発泡剤などの通常の添加剤を添加することができる。
【0087】
さらに、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、機械的強度、靱性などの向上を目的に、エポキシ基、アミノ基、イソシアネート基、水酸基、メルカプト基およびウレイド基の中から選ばれた少なくとも1種の官能基を有するアルコキシシランを添加してもよい。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、およびγ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0088】
かかるシラン化合物の好適な添加量は、ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、0.05〜5重量部の範囲が選択される。
【0089】
本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の調製方法には特に制限はないが、各原料を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど通常公知の溶融混合機に供給して、280〜380℃の温度で混練する方法などを代表例として挙げることができる。原料の混合順序にも特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記の方法により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、さらに残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後単軸あるいは2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法などのいずれの方法を用いてもよい。また、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することももちろん可能である。
【0090】
このようにして得られる本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に射出成形用途に適している。
【0091】
以上のように、本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイドの融点以下の温度領域(200℃近傍)での付着性ガス分が少なく、レンズ等の低曇り性に優れている事から、例えばプロジェクター部品、リアプロジェクション部品に特に好適に用いられる。
【0092】
その他本発明のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の適用可能な用途としては、例えばセンサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電気・電子部品、VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;水道蛇口コマ、混合水栓、ポンプ部品、パイプジョイント、水量調節弁、逃がし弁、湯温センサー、水量センサー、水道メーターハウジングなどの水廻り部品;バルブオルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース、車速センサー、ケーブルライナーなどの自動車・車両関連部品など各種用途が例示できる。
【実施例】
【0093】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0094】
[アルカリ土類金属イオン含有量の測定]
白金皿を純水で洗浄後、700℃で1時間焼成しデシケーター内で乾燥した。本白金皿の重量を、化学天秤を用いて0.1mgまで精秤した。この値をAgとする。次に、ボリマー試料を白金皿の中におよそ5g採り、白金皿と試料の合計量を化学天秤で0.1mgまで精秤した。この値をBgとする。その後、ステンレスバットにボリマー試料の入った白金皿を乗せ、440℃にセットされた高温オーブン内に入れ5時間焼成し、次いで高温オーブン設定を500℃に上げ、500℃に達してから5時間焼成した。処理後、高温オーブン温度が300℃以下になるまで冷却し、300℃以下に達した後白金皿を乗せたステンレスバットを取り出し、デシケーター内で処理後の白金皿を12時間保管した。その後、白金皿をデシケーター中から取り出し、538℃で安定しているマッフル炉に入れ、6時間焼成した。処理後、白金皿をマッフル炉から取り出し、試料中に炭化物(黒色)が完全に無くなっていることを確認した。なお、僅かでも炭化物が認められる場合は、焼成をさらに実施する。焼成終了後、マッフル炉から白金皿を取りだし、汚れのないステンレスバットに乗せデシケーター内で30分冷却した。次いで、白金皿内に純水:塩酸=1:1(以下1:1塩酸と称する)の液体を2ml加えた。塩酸は特級品を使用した。その後、ホットプレートを用い1:1塩酸の入った白金皿を加熱した。加熱は溶液が緩く沸騰する程度で実施した。蒸発乾固近くまでになったら加熱を止め、白金皿を室温に冷却した。その後、TPX製50mlメスフラスコにTPX製ロートを用いて白金皿の内容物をイオン交換水で洗浄しながら数回に分けメスフラスコ内に入れ、メスフラスコの標線をイオン交換水で合わせた。このように調整した試料液を用い、イオン交換水をブランクとして原子吸光測定装置を用いて測定実施し、測定値を得た。なお、測定前には分析する金属と同じ金属を含む標準液を用い検量線を作成し、本検量線を基に金属濃度を算出した。測定値が検量線を外れる場合、試料液をXml採取し、イオン交換水で希釈しYmlにし、検量線の範囲に来るよう濃度を調整した。このように調整した試料液を用い測定した値をCppmとする。以上の数値を用い、以下に従って金属濃度を算出した。
【0095】
濃度[ppm]=C/(B−A)×50×Y/X。
【0096】
[クロロホルム抽出量の測定]
ソックスレー抽出器を用い、PPSサンプル(10gを秤量)、クロロホルム200mlを用い5時間抽出し、その抽出液を50℃で乾燥し、得られた残さを仕込みPPSサンプル量で割り返し、100をかけてパーセンテージ表記とした。
【0097】
[降温結晶化温度の測定]
ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を340℃×5分ホットプレスし、これを水中に急冷して得られた厚み50マイクロメートルのフィルムをサンプルとし、(10mgを秤量)パーキンエルマー社製DSC7を用いて、50℃から20℃/分で340℃まで昇温し、340℃で1分保持した後、20℃/分で降温した際に検出される結晶化ピーク温度を測定した。
【0098】
[溶融粘度の測定]
310℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機社製キャピログラフを用いて測定した。
【0099】
[曇り性の測定]
ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を熱風乾燥機にて130℃×3hr予備乾燥後、これを試験管(外径18.0mm×高さ75mm)に5g秤量、これをサンプルとし、穴径φ18.5mm×6個、深さ71mmのアルミブロックが2個入ったサイニクス社製ドライブロックバスに試験管を挿入し、サンプル上にスライドガラスを載せ、200℃×4hr加熱し、この際に発生したガスをスライドガラス上に付着させる。その後、このスライドガラスを東洋精機社製直読ヘイズメーターにてヘイズ値(曇り)を測定する。ヘイズ値が小さいほど曇りが少ないことを示す。
【0100】
[曲げ強度の測定]
曲げ強度はASTM D790に従って測定した。曲げ強度評価用試験片は、東芝機械IS80型射出成形機にて、シリンダー温度:320℃、金型温度:130℃、射出−冷却時間:13-15秒、射出速度:75%、射出圧力:充填下限圧力+10kg/cm(G)の設定条件で射出成形することにより作成した。
【0101】
(PPS−1):撹拌機および底栓弁付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8.27kg(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2.94kg(70.63モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11.45kg(115.50モル)、酢酸ナトリウム1.89kg(23.1モル)、及びイオン交換水5.50kgを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで3時間かけて徐々に加熱し、水9.77kgおよびNMP0.28kgを留出した後、反応容器を200℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0102】
その後200℃まで冷却し、p−ジクロロベンゼン10.42kg(70.86モル)、NMP9.37kg(94.50モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら0.6℃/分の速度で200℃から270℃まで昇温し、270℃で140分反応した。その後、270℃から250℃まで15分かけて冷却しながら水2.40kg(133モル)を圧入した。ついで250℃から220℃まで75分かけて徐々に冷却した後、室温近傍まで急冷し内容物を取り出した。内容物を35リットルのNMPで希釈しスラリーとして85℃で30分撹拌後、80メッシュ金網(目開き0.175mm)で濾別して固形物を得た。
【0103】
得られた固形物を同様にNMP35リットルで洗浄濾別した。得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収する操作を合計3回繰り返した。得られた固形物および酢酸カルシウム32gを70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過し、更に得られた固形物を70リットルのイオン交換水で希釈し、70℃で30分撹拌後、80メッシュ金網で濾過して固形物を回収した。
【0104】
このようにして得られた固形物を窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。得られたPPSは、溶融粘度が100Pa・s、カルシウム含有量500ppm、クロロホルム抽出量0.7wt%であった。
【0105】
(PPS−2):撹拌機および底に弁のついたオートクレーブに、47.5wt%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96wt%水酸化ナトリウム2924.98g(70.20モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)13860.00g(140.00モル)、酢酸ナトリウム2187.11g(26.67モル)、及びイオン交換水10500.00gを仕込み、常圧で窒素を通じながら240℃まで3時間かけて徐々に加熱し、水14743.16gおよびNMP280.00gを留出したのち、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.08モルであった。また、硫化水素の飛散量は仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.023モルであった。
【0106】
次に、p−ジクロロベンゼン(p−DCB)10254.40g(69.76モル)、NMP6451.83g(65.17モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、200℃から250℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、250℃で70分保持した。次いで、250℃から278℃まで0.8℃/分の速度で昇温し、278℃で78分保持した。オートクレーブ底部の抜き出しバルブを開放し、窒素で加圧しながら内容物を攪拌機付き容器に15分かけてフラッシュし、250℃でしばらく撹拌して大半のNMPを除去した。
【0107】
得られた固形物およびイオン交換水76リットルを撹拌機付きオートクレーブに入れ、70℃で30分洗浄した後、ガラスフィルターで吸引濾過した。次いで70℃に加熱した76リットルのイオン交換水をガラスフィルターに注ぎ込み、吸引濾過してケークを得た。
【0108】
得られたケークおよびイオン交換水90リットルおよび酢酸カルシウム34gを、撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持した。その後オートクレーブを冷却して内容物を取り出した。
【0109】
内容物をガラスフィルターで吸引濾過した後、これに70℃のイオン交換水76リットルを注ぎ込み吸引濾過してケークを得た。得られたケークを窒素気流下、120℃で乾燥することにより、乾燥PPSを得た。
【0110】
得られたPPS−2は、溶融粘度が90Pa・s、カルシウム含有量1200ppm、クロロホルム抽出量2.2wt%であった。
【0111】
(PPS−3):重合にて得られたケークおよびイオン交換水90リットルを、撹拌機付きオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内部を窒素で置換した後、192℃まで昇温し、30分保持する際に酢酸カルシウムを添加しないこと以外はPPS−2と同様にして重合、回収、洗浄を行った。
【0112】
得られたPPS−3は、溶融粘度が80Pa・s、カルシウム含有量0ppm、クロロホルム抽出量1.9wt%であった。
【0113】
(B−1)繊維状無機充填材:日本電気硝子社製、ガラスチョップドストランド「ECS 03 T−747H」(登録商標)
(B−2)非繊維状無機充填材:丸尾カルシウム社製、重質炭酸カルシウム「スーパーS」(登録商標)
(C−1)結晶核剤 タルク−1:竹原化学工業社製、含水珪酸マグネシウム「ハイトロン」(登録商標)平均粒径4μm、含水率0.3重量%以下
(C−2)結晶核剤 ポリエーテルエーテルケトン:“ビクトレックス” PEEK 450PF。
【0114】
[実施例1〜4]
PPSとしてPPS−1またはPPS−2を用い、表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30α型2軸押出機(L/D=45.5)を用い、スクリュー回転数300rpmでシリンダー出樹脂温度が330℃となるように温度を設定し、溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で8時間〜12時間乾燥させたペレットを用い、成形、評価に供した。
【0115】
[実施例5]
実施例1の組成物を用い、図1に示すプロジェクターシャーシを射出成形したところ、問題なく成形品を得られた。
【0116】
[比較例1]
PPSとしてPPS−3を用いた以外は実施例1と同様に表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30α型2軸押出機(L/D=45.5)を用い、スクリュー回転数300rpmでシリンダー出樹脂温度が330℃となるように温度を設定し、溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを用い、成形、評価に供した。
【0117】
実施例1と比較例1の対比から、Ca含有量の少ないPPSを用いた場合、曇り性の点で明らかに劣ることがわかる。
【0118】
[比較例2]
結晶核剤を用いないこと以外は実施例1と同様に表1に示す各成分を表1に示す割合でドライブレンドした後、日本製鋼所社製TEX30α型2軸押出機(L/D=45.5)を用い、スクリュー回転数300rpmでシリンダー出樹脂温度が330℃となるように温度を設定し、溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。120℃で一晩乾燥したペレットを用い、成形、評価に供した。
【0119】
[比較例3]
比較例2の組成物を用い、図1に示すプロジェクターシャーシを実施例1と同じ冷却時間で射出成形したところ、突き出しピンにより成形品が変形してしまった。
【0120】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、本発明は、ポリフェニレンサルファイドの融点以下の温度領域(200℃近傍)での付着性ガス分が少なく、レンズ等の低曇り性に優れたポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を提供するものであり、プロジェクター部品、リアプロジェクション部品に適する。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】実施例5および比較例3で射出成形したプロジェクターシャーシの概略模式断面図である。
【符号の説明】
【0123】
1 ランプシャーシ
2 光源
3 リフレクタ
4 コンデンサレンズ
5 赤外紫外カットフィルタ
6、11、13、14 反射ミラー
7 シャーシ
8、9 ダイクロミックミラー
10、12 リレーレンズ
15a、b、c コンデンサレンズ
16a、b、c 液晶パネル
17 ダイクロミックプリズム
18 投射レンズ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂にアルカリ土類金属を200〜2000ppmの範囲で導入したアルカリ土類金属含有ポリフェニレンサルファイド樹脂100重量部に対し、無機充填材25〜400重量部を配合してなり、かつ降温結晶化温度が210℃以上であることを特徴とするポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリフェニレンサルファイド樹脂のクロロホルム抽出量が1.0wt%以下であることを特徴とする請求項1記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機充填材が繊維状充填材と非繊維状充填材からなることを特徴とする請求項1または2記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか記載のポリフェニレンサルファイド樹脂組成物の成形体。

【図1】
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【公開番号】特開2009−275197(P2009−275197A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130459(P2008−130459)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.レーザーディスク
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】