説明

ポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルム

【課題】耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れたポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムを提供すること。
【解決手段】(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を5〜55質量部、(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂を45〜95質量部、シェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、300℃、シェアレート=200(sec-1)での測定値)が30〜2000(Pa・s)である樹脂組成物からなり、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相であって、(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂が連続相であるモルフォロジーを有する、厚みが1〜100μmのフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れたポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイドは、耐熱性、誘電特性、電気絶縁性、耐薬品性、難燃性などにすぐれた結晶性スーパーエンジニアリングプラスチックである。これまでに、これらポリフェニレンサルファイドを主成分とする樹脂組成物を2軸延伸、熱処理した2軸延伸フィルムが、提案されている。(特許文献1〜8参照)
これらのフィルムは、耐熱性、誘電特性にすぐれているため、電気絶縁材料、コンデンサの誘電体をはじめ、種々の用途への応用展開がなされている。しかしながら、ポリフェニレンサルファイドは、ガラス転移温度約90℃、融点285℃の結晶性樹脂であるため、約90℃(ガラス転移温度)前後の温度領域において、機械強度、電気特性などが変化する。したがってポリフェニレンサルファイドフィルムは、高温環境下における特性安定性が望まれていた。
ポリフェニレンサルファイドの欠点として、靭性(衝撃性)があげられ、フィルムにした場合に、引き裂き易いなどの問題があった。
【0003】
以上のことから、ポリフェニレンサルファイドの特性を維持しつつ、高温特性と耐引き裂き性が改良されたフィルムが強く望まれていた。
また、ポリフェニレンサルファイドの靭性とウェルド強度を改良するために、ポリフェニレンサルファイドにポリフェニレンエーテルをアロイすることが提案されていたが、フィルム成形性に重要な樹脂組成物の溶融粘度についての記載はないし、具体的なフィルムについての例示はなく、またフィルムの耐引き裂き性についての記載もない。(特許文献9参照)
【特許文献1】特開昭56−62121号公報
【特許文献2】特開昭60−71663号公報
【特許文献3】特開昭61−98526号公報
【特許文献4】特開平1−271220号公報
【特許文献5】特開平2−91130号公報
【特許文献6】特開平2−107641号公報
【特許文献7】特開平3−134029号公報
【特許文献8】国際公開特許89/08677号公報
【特許文献9】特開2002−12764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れたポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を達成する技術を鋭意検討した結果、ポリフェニレンエーテル系樹脂とポリフェニレンサルファイド樹脂をアロイし、さらに、樹脂組成物の溶融粘度を特定範囲内に設計し、かつ特定のモルフォロジーを形成するフィルムを成形することにより、耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れたポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
[1] (A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を5〜55質量部、(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂を45〜95質量部、シェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、300℃、シェアレート=200(sec-1)での測定値)が30〜2000(Pa・s)である樹脂組成物からなり、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相であって、(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂が連続相であるモルフォロジーを有する、厚みが1〜100μmのフィルム、
[2] (C)混和剤を、(A)と(B)合計100質量部に対し、1〜20質量部含有することを特徴とする[1]に記載のフィルム、
[3]混和剤が、(C)グリシジル基、又はオキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体であることを特徴とする[2]に記載のフィルム、
[4] (D)耐衝撃付与剤を(A)と(B)合計100質量部に対し、1〜40質量部含有することを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のフィルム、
[5] (D)耐衝撃付与剤が、(D1)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体、前記ブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする[4]に記載のフィルム、
[6] (D)耐衝撃付与剤が、(D2)エチレン/α−オレフィン共重合体を含有することを特徴とする[4]または[5]に記載のフィルム、
[7] (D)成分の一部もしくは全ての成分が(A)成分の中に取り込まれているモルフォロジーを有する[4]〜[6]のいずれかに記載のフィルム、
[8] 押出しチューブラー法にて成形して得られる[1]〜[7]のいずかに記載のフィルム、
[9] Tダイ押出し法にて成形して得られる[1]〜[7]のいずかに記載のフィルム、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れたポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムを提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本願発明について具体的に説明する。
本発明の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂とは、下記(式1)の繰り返し単位構造からなり、還元粘度(0.5g/dl、クロロホルム溶液、30℃測定)が、0.15〜1.0dl/gの範囲にあるホモ重合体及び/または共重合体である。さらに好ましい還元粘度は、0.20〜0.70dl/gの範囲、最も好ましくは0.40〜0.60の範囲である。
【0009】
【化1】

【0010】
(R1、R4は、それぞれ独立して、水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニル、アミノアルキル、炭化水素オキシを表わす。R2、R3は、それぞれ独立して、水素、第一級もしくは第二級の低級アルキル、フェニルを表わす。)
このポリフェニレンエーテル系樹脂の具体的例としては、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2−メチル−6−フェニル−1,4−フェニレンエーテル)、ポリ(2,6−ジクロロ−1,4−フェニレンエーテル)等が挙げられ、さらに、2,6−ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6−トリメチルフェノールや2−メチル−6−ブチルフェノール)との共重合体のようなポリフェニレンエーテル共重合体も挙げられる。中でもポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)、2,6−ジメチルフェノールと2,3,6−トリメチルフェノールとの共重合体が好ましく、さらにポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)が好ましい。
【0011】
本発明で使用する(A)ポリフェニレンエーテルの製造方法の例として、米国特許第3306874号明細書記載の第一銅塩とアミンのコンプレックスを触媒として用い、2,6−キシレノールを酸化重合する方法がある。
米国特許第3306875号、同第3257357号および同第3257358号の各明細書、特公昭52−17880号および特開昭50−51197号および同63−152628号の各公報等に記載された方法も(A)ポリフェニレンエーテルの製造方法として好ましい。
本発明の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、重合行程後のパウダーのまま用いてもよいし、押出機などを用いて、窒素ガス雰囲気下あるいは非窒素ガス雰囲気下、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融混練することでペレット化して用いてもよい。
【0012】
本発明の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂は、種々のジエノフィル化合物により官能化されたポリフェニレンエーテルも含まれる。種々のジエノフィル化合物には、例えば無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フェニルマレイミド、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸、メチルアリレート、メチルメタクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ステアリルアクリレート、スチレンなどの化合物が挙げられる。
【0013】
さらにこれらジエノフィル化合物により官能化する方法としては、ラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で押出機などを用い、脱揮下あるいは非脱揮下にて溶融状態で官能化してもよい。あるいはラジカル発生剤存在下あるいは非存在下で、非溶融状態、すなわち室温以上、かつ融点以下の温度範囲にて官能化してもよい。この際、ポリフェニレンエーテルの融点は、示差熱走査型熱量計(DSC)の測定において、20℃/分で昇温するときに得られる温度−熱流量グラフで観測されるピークのピークトップ温度で定義され、ピークトップ温度が複数ある場合にはその内の最高の温度で定義される。
【0014】
本発明の(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂には、ポリフェニレンエーテル樹脂単独又はポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との混合物であり、さらに他の樹脂が混合されたものも含まれる。芳香族ビニル系重合体とは、例えば、アタクティックポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられる。ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との混合物を用いる場合は、耐熱性の観点から、ポリフェニレンエーテル樹脂と芳香族ビニル系重合体との合計量に対して、ポリフェニレンエーテル樹脂が70wt%以上、好ましくは80wt%以上である。
【0015】
本発明の(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂は、リニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、リニアPPSと略記する。)と架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂(以下、架橋PPSと略記する。)のどちらでもよいし、それらが混合されたものでもよい。
本発明で用いられる(B)成分であるリニアPPSは、下記一般式(2)で示されるアリーレンサルファイドの繰返し単位を通常50モル%、好ましくは70モル%さらに好ましくは90モル%以上で含む重合体である。
[−Ar−S−] (2)
(ここで、Arはアリーレン基を示し、アリーレン基としては、例えばp−フェニレン基、m−フェニレン基、置換フェニレン基(置換基としては炭素数1〜10のアルキル基、フェニル基が好ましい。)、p,p′−ジフェニレンスルホン基、p,p′−ビフェニレン基、p,p′−ジフェニレンカルボニル基、ナフチレン基等が挙げられる。ここで、Sは、硫黄元素を示す。)
【0016】
なお、リニアPPSは構成単位であるアリーレン基が1種であるホモポリマーであってもよく、加工性や耐熱性の観点から、2種以上の異なるアリーレン基を混合して用いて得られるコポリマーであってもよい。中でも、主構成要素としてp−フェニレンサルファイドの繰り返し単位を有するリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂が、加工性、耐熱性に優れ、且つ、工業的に入手が容易なことから好ましい。
【0017】
このリニアPPSの製造方法としては、通常、ハロゲン置換芳香族化合物、例えばp−ジクロルベンゼンを硫黄と炭酸ソーダの存在下で重合させる方法、極性溶媒中で硫化ナトリウムあるいは硫化水素ナトリウムと水酸化ナトリウム又は硫化水素と水酸化ナトリウムあるいはナトリウムアミノアルカノエートの存在下で重合させる方法、p−クロルチオフェノールの自己縮合等が挙げられるが、中でもN−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒やスルホラン等のスルホン系溶媒中で硫化ナトリウムとp−ジクロルベンゼンを反応させる方法が適当である。
これらの製造方法は公知であり、例えば、米国特許第2513188号明細書、特公昭44−27671号公報、特公昭45−3368号公報、特公昭52−12240号公報、特開昭61−225217号及び米国特許第3274165号明細書、さらに特公昭46−27255号公報、ベルギー特許第29437号明細書、特開平5−222196号公報、等に記載された方法及びこれらの特許等に例示された先行技術の方法によりリニアPPSを得ることが出来る。
【0018】
そして成分(B)の一つである架橋PPSは、上述のリニアPPSを重合した後に、さらに酸素の存在下でポリフェニレンサルファイド樹脂の融点以下の温度で加熱処理し酸化架橋を促進してポリマー分子量、粘度を適度に高めたものである。
そして本発明で用いる成分(B)のリニアPPSは、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下、好ましくは0.5重量%以下であり、かつ末端−SX基(Sはイオウ原子、Xはアルカリ金属又は水素原子である)が20μmol/g以上、好ましくは20〜60μmol/gであるリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂である。
【0019】
ここで、塩化メチレンによる抽出量の測定は以下の方法により求めることができる。
すなわち、リニアPPS粉末5gを塩化メチレン80mlに加え、6時間ソックスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン上澄み溶液をろ過して、秤量瓶に移す。さらに、上記の抽出に使用した容器を塩化メチレン合計60mlを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量瓶中に回収する。次に、秤量瓶を約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量より塩化メチレンによる抽出量、すなわちリニアPPS中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
【0020】
そしてここでいう−SX基の量は以下の方法により定量することができる。すなわち、リニアPPS粉末を予め120℃で4時間乾燥した後、乾燥リニアPPS粉末20gをN−メチル−2−ピロリドン150gに加えて粉末凝集塊がなくなるように室温で30分間激しく撹拌混合しスラリー状態にする。かかるスラリーを濾過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて7回洗浄を繰り返す。ここで得た濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで1Nの塩酸を加えて該スラリーのPHを4.5に調整する。次に、25℃で30分間撹拌し、濾過した後、毎回約80℃の温水1リットルを用いて6回洗浄を繰り返す。得られた濾過ケーキを純水200g中に再度スラリー化し、次いで、1Nの水酸化ナトリウムにより滴定し、消費した水酸化ナトリウム量よりリニアPPS中に存在する−SX基の量を知ることができる。
【0021】
ここで、塩化メチレンによる抽出量が0.7重量%以下、末端−SX基が20μmol/g以上を満足するリニアPPSの製造方法の具体例としては、特開平8−253587号公報に記載されているように、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させ、そして反応中に反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを反応溶液上部の液層に還流させることによりオリゴマー成分を減少させることにより、又は重合後のリニア型PPSの有機アミド系溶媒(例えば、N−メチルピロリドン)による洗浄回数を増やすことにより不要な塩化メチレンによる抽出量を減らす方法が挙げられる。
【0022】
そして本発明で用いる成分(B)の一つである架橋型PPSは、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が1重量%以下であり、且つ320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以下の架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂である。
ここで、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量の測定は以下の方法により求めることができる。すなわち、PPS粉末5gを塩化メチレン80mlに加え、6時間ソックスレー抽出を実施した後、室温まで冷却し、抽出後の塩化メチレン上澄み溶液をろ過して、秤量瓶に移す。さらに、上記の抽出に使用した容器を塩化メチレン合計60mlを用いて、3回に分けて洗浄し、該洗浄液を上記秤量瓶中に回収する。次に、秤量瓶を約80℃に加熱して、該秤量瓶中の塩化メチレンを蒸発させて除去し、残渣を秤量し、この残渣量より塩化メチレンによる抽出量、すなわちPPS中に存在するオリゴマー量の割合を求めることができる。
【0023】
そしてここでいう320℃溶融状態で捕集される揮発分の定量は以下の方法により求めることができる。すなわち、架橋型PPS粉末を0.5gを気流入り口と出口を有する密栓付き試験管に秤量し、320℃に加熱したハンダ浴に30分間浸漬しながら、試験管の気流入り口より窒素ガスを100cc/minの流速で注入し、試験管内に発生した架橋PPSに由来する揮発分を含むガスを試験管の気流出口よりパージし、パージされたガスはアセトンを入れた気流入り口と出口を有する密栓付き試験管の気流入り口より試験管内のアセトン中でバブリングさせ、揮発成分をアセトン中に溶解させる。アセトン中に溶解した架橋PPSの揮発分は、ガスクロマトグラフ質量分析器(GC−MS)を用いて、50℃〜290℃の昇温分析して検出される全成分をモノクロロベンゼンと同一感度と仮定して定量し、架橋PPS中の揮発分を知ることができる。
【0024】
この成分(B)である、塩化メチレンによる抽出量が1重量%以下であり、且つ320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以下の架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂の製造においては、その前駆体であるリニア型PPSの重合段階、洗浄工程で不要な塩化メチレンによる抽出量及び揮発分を減らす工夫が必要であり、例えば特開平8−253587号公報に記載されているように、有機アミド系溶媒中でアルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させてリニア型PPSを得る際に、反応中、反応缶の気相部分を冷却することにより反応缶内の気相の一部を凝縮させ、これを反応溶液上部の液層に還流させることによりオリゴマー成分を減少させる方法により不要な塩化メチレンによる抽出量を減らしたり、重合後のリニア型PPSの有機アミド系溶媒(例えば、N−メチルピロリドン)による洗浄回数を増やすことにより不要な塩化メチレンによる抽出量を減らすことができる。
【0025】
また、揮発分の減少化は、上記の有機アミド系溶媒による洗浄処理の他に、水洗浄処理、酸洗浄処理の回数を増やすことにより減少させることが出来るほかに、リニア型PPSを架橋型PPSとするため酸素含有ガス存在下でリニア型PPSを熱処理し酸化架橋を促進する工程でも加熱温度、時間を調整することにより揮発分を減少させることが可能である。これらの方法以外にも、塩化メチレンによる抽出量が1重量%以上であったり、320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以上有する架橋型PPSは積極的に塩化メチレンにて洗浄し、不要な塩化メチレンによる抽出量や揮発分を減らし、本発明の成分(B)である架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂として使用することができる。
【0026】
そして、上記したように本発明で供する成分(B)である架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂は、塩化メチレンによる抽出量が1重量%以下、320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以下であれば、いかなる製法で得られてもよい。
このように、本発明で供する成分(B)である架橋PPSは、塩化メチレンによる抽出量が1重量%以下、320℃溶融状態で捕集される揮発分が1000ppm以下であれば、得られた樹脂組成物を押し出し成形する際、リップと溶融樹脂の接触部位に発生する蓄積物(メヤニと呼ばれることもある。)を抑制に非常に効果的である。
本発明において、上記の成分(B)であるリニアPPS及び成分(B)である架橋PPSはいずれも、300℃における溶融粘度が、1〜10000ポイズ、好ましくは50〜8000ポイズ、より好ましくは100〜5000ポイズのものが使用できる。本発明において、溶融粘度とは、JISK−7210を参考試験法とし、フローテスター((株)島津製作所製CFT−500型)を用いて、PPSを300℃、6分間予熱した後、荷重196N、ダイ長さ(L)/ダイ径(D)=10mm/1mmで測定した値である。
【0027】
本発明における(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂の含有量は、耐熱強度と耐引き裂き性、耐薬品性、耐熱性の観点から、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)ポリニレンサルファイド樹脂の合計100質量部に対して、5〜55質量部で、好ましくは10〜50質量部で、さらに好ましくは15〜45質量部である。耐熱強度と耐引き裂き性の観点から、(A)成分の下限値は5質量部である。モルフォロジーと耐薬品性と耐熱性の観点から、上限値は、55質量部である。
本発明における成分(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂の含有量は、耐熱強度と耐引き裂き性、耐薬品性、耐熱性の観点から、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)ポリニレンサルファイド樹脂の合計100質量部に対して、45〜95質量部で、好ましくは50〜90質量部で、さらに好ましくは55〜85質量部である。耐熱性と耐薬品性の観点から、(B)成分の下限値は45質量部である。耐熱強度と耐引き裂き性の観点から、上限値は、95質量部である。
【0028】
本発明における樹脂組成物のシェア粘度(キャピラリー長さ=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、300℃、シェアレート=200(sec-1)での測定値)は、本発明における樹脂組成物のペレットを80℃×2時間乾燥後、キャピログラフ(東洋精機(株)キャピグラフ1C)を用い、キャピリーは、L=10mm、キャピラリー径=1mmで、300℃、シェアレート100〜1000(sec−1)のレンジにて測定を行い、シェアレート200(sec−1)の際のシェア粘度のことである。
このシェア粘度は、本発明における、厚みが100μm以下の薄いフィルムを安定的に生産するためには、きわめて重要である。すなわち成形性の観点から、シェア粘度は、30〜2000(Pa・s)であり、好ましくは、50〜1500(Pa・s)であり、さらに好ましくは、80〜1200(Pa・s)であり、さらにより好ましくは、100〜1000(Pa・s)である。
【0029】
本発明のフィルムは、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相であって、(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂が連続相であるモルフォロジーを有する。(B)成分が連続相を構成することにより、耐熱性と耐薬品が高いレベルで達成できる。そして、(A)成分が、分散相を構成することにより、耐熱強度と耐引き裂き性が高いレベルで達成できる。
本発明のフィルムは、厚みは、1〜100μmであり、好ましくは3〜90μmであり、さらに好ましくは5〜80μmであり、さらにより好ましくは、10〜70μmであり、特にさらにより好ましくは10〜50μmである。フィルムの機械強度の観点から、下限値は1μmである。フィルムとしての使用される機能(用途例:絶縁フィルム、コンデンサフィルムなど)の観点から、上限値は100μである。
【0030】
次に本発明の成分(C)混和剤とは、(A)成分と(B)成分の混和性を高めることのできる物質のことであって、低分子有機化合物、無機化合物、ポリマーなど、特に限定されない。ここで、混和性が高まる状態とは、組成物が、(C)成分を含まない場合に比べて、(C)成分を含むことによって、(A)成分と(B)成分間の界面張力を下げることのできる状態をいう。例えば、(A)成分と(B)成分が海−海状態になっているものを、(C)成分を含有することにより、海―島構造を示すようになる。さらには(A)成分と(B)成分が海−島状態になっているものを、(C)成分を含有することにより、さらに島状態になっている相の分散サイズを小さくできる。
【0031】
(C)混和剤の好ましい具体的な例として、グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体、シランカップリング剤、エポキシ樹脂などがあげられる。中でも、グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体が好ましく利用できる。
これら混和剤は、成分(A)であるポリフェニレンエーテル系樹脂と成分(B)のポリフェニレンサルファイド樹脂とを混合する際の乳化分散剤として作用して、本発明の樹脂組成物をフィルム成形した際に成形品の外観や強度を大幅に改良する他に、特に耐引き裂き強度の改良に優れた効果を奏するものである。そして耐引き裂き性と高い剛性を同時に満足できるものである。
【0032】
かかる成分(C)混和剤である、グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーとスチレンを主たる成分とするモノマーとの共重合体において、スチレンを主たる成分とするモノマーとは、スチレン成分が100重量%は何ら問題ないが、スチレンと共重合可能な他のモノマーが存在する場合は、その共重合体鎖が成分(A)であるポリフェニレンエーテル系樹脂との混和性を保持する上で、少なくともスチレンモノマーを65重量%以上、より好ましくは75〜95重量%含むことが必要である。 この共重合体を構成するグリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーの例として具体的には、グリシジルメタアクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、グリシジルイタコネート等が挙げられ、中でもグリシジルメタアクリレートが好ましい。また、上記のオキサゾリル基含有不飽和モノマーとしては、例えば2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的に入手でき好ましく使用することができる。
【0033】
この、グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーと共重合する他の不飽和モノマーとしては、必須成分のスチレン等の他に、共重合成分としてアクリロニトリル等のシアン化ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等が挙げられる。また、グリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマーは成分(C)の共重合体中に0.3〜20重量%、好ましくは1〜15重量%、さらに好ましくは3〜10重量%含有しなければならない。かかる成分(C)の共重合体のグリシジル基、オキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有する不飽和モノマー量は、0.3重量%以上が必要であり、20重量%以下であれば、成分(A)であるポリフェニレンエーテル系樹脂と成分(B)であるポリフェニレンサルファイド樹脂との混和性が良好となり、これにより得られた樹脂組成物を用いて成形したフィルムの外観や層剥離を大きく抑制することができる他に、耐熱性及び靱性(衝撃強度)と機械的強度とのバランスに優れた効果をもたらす。
【0034】
これら共重合可能な不飽和モノマーを共重合して得られる成分(C)である共重合体の例としては、例えば、スチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン−グリシジルメタクリレート−アクリロニトリル共重合体、スチレン−ビニルオキサゾリン共重合体及びスチレン−ビニルオキサゾリン−アクリロニトリル共重合体等が挙げられるが、成分(C)である共重合体としてエチレン系共重合体にスチレン系モノマー等がグラフトした共重合体であってもよく、例えば、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマーがグラフトしたグラフト共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体にスチレンモノマー及びアクリロニトリルがグラフトしたグラフト共重合体等が挙げられる。
【0035】
この成分(C)の共重合体の配合量は、上記の成分(A)と(B)合計100質量部に対し、1〜20質量部、好ましくは2〜15質量部、さらに好ましくは3〜10質量部が必要である。かかる成分(C)の配合量が1質量部以上であれば、成分(A)であるポリフェニレンエーテル系樹脂と成分(B)であるポリフェニレンサルファイド樹脂との混和性が良くなり、20質量部以下であれば、得られた樹脂組成物を用いてフィルム成形する際の、メヤニを大きく抑制することができる他に、フィルムの耐熱性(衝撃強度)及び靱性と機械的強度のバランスに優れた効果をもたらす。
【0036】
本発明の(D)成分は、耐衝撃付与剤である。この(D)成分を含有することによって、含有する前に比べて、耐衝撃性を向上させるものであれば、特に制限はない。
さらに本発明の(D)成分として、(D1)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体、前記ブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上があげられる。さらにこの(D1)として、これらブロック共重合体、水添ブロック共重合体に、水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、エポキシ基、オキサゾリル基、アミノ基の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を付与したブロック共重合体が利用できる。
【0037】
さらに本発明の(D)成分として、(D2)エチレン/α−オレフィン共重合体があげられる。さらにこのエチレン/α−オレフィン共重合体に水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、エポキシ基、オキサゾリル基、アミノ基の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する不飽和化合物をラジカル開始剤の存在下又は非存在下でグラフト反応させて得られる官能基が付与された共重合体や、エチレン及び/又は他のα−オレフィンと水酸基、カルボキシル基、酸無水物基、エステル基、エポキシ基、オキサゾリル基、アミノ基の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する官能基含有不飽和化合物を共重合して得られる官能基含有共重合体等が挙げられ、これらの中から目的に応じ少なくとも1種以上のものがあげられる。
【0038】
中でも、成分(D)耐衝撃付与剤として、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を含む少なくとも1個の重合体ブロックBとからなり、結合したビニル芳香族化合物の量が55〜95重量%である水添ブロック共重合体(D1−1)、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックCとからなり、結合したビニル芳香族化合物の量が1〜55重量%未満である水添ブロック共重合体(D1−2)との組み合わせ。または、上記の(D1−1)とエチレン/α−オレフィン共重合体(D2)との組み合わせ。さらには、上記の(D1−1)と(D1−2)及び(D2)の組み合わせなどで構成される。かつ(D1−1)、(D1−2)、(D2)の組み合わせから構成される耐衝撃付与剤(D)中に含まれる結合したビニル芳香族化合物の含有量が20〜55重量%であるものを用いることが好ましい。また、これら成分(D1)の重合体ブロックBの少なくとも1つが共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物とのランダム共重合体である耐衝撃付与剤も好適に使用することができる。
【0039】
この本発明における成分(D1)の構成成分として用いる(D1−1)ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を含む少なくとも1個の重合体ブロックBとからなり、結合したビニル芳香族化合物の量が55〜95重量%である水添ブロック共重合体とは、例えばA−B、A−B−A、B−A−B−A、(A−B−)4−Si、A−B−A−B−A等の構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体であり、結合したビニル芳香族化合物を55〜95重量%、好ましくは60〜90重量%含んだブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体である。
【0040】
またブロック構造に言及すると、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAとは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック又はビニル芳香族化合物を90重量%以上含有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックの構造を有しており、そしてさらに、共役ジエン化合物を含む重合体ブロックBとは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック又は共役ジエン化合物を10重量%を超え90重量%未満含有する共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックの構造を有するものである。これらのビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA、共役ジエン化合物を含む重合体ブロックBは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中の共役ジエン化合物又はビニル芳香族化合物の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで成っていてもよく、該ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック及び該共役ジエン化合物を含む重合体ブロックがそれぞれ2個以上ある場合は、各重合体ブロックはそれぞれ同一構造であってもよく、異なる構造であってもよい。
【0041】
このブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。また、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。そして共役ジエン化合物を含む重合体ブロックは、そのブロックにおける結合形態のミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えば、ブタジエンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2−ビニル結合が2〜90%が好ましく、より好ましくは8〜80%である。また、イソプレンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が2〜80%、より好ましくは3〜70%である。
【0042】
本発明で用いる成分(D1−1)である水添ブロック共重合体の数平均分子量は、5,000〜1,000,000であるものが好ましく、特に好ましくは20,000〜500,000の範囲のものであり、分子量分布〔ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定しポリスチレン換算した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比〕は10以下であるものが好ましい。
さらに、この水添ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれらの任意の組み合わせのいずれであってもよい。
このような構造をもつブロック共重合体は、上記したブロック共重合体の共役ジエン化合物を含む重合体ブロックBの脂肪族系二重結合を水素添加反応を実施し、本発明で用いる成分(D1−1)の水添ブロック共重合体として利用できる。かかる脂肪族系二重結合の水素添加率は、少なくとも20%を超えることが好ましく、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは80%以上である。
この水素添加率は、例えば核磁気共鳴装置(NMR)等を用いて知ることができる。
【0043】
また、(D1−2)ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックCとからなり、結合したビニル芳香族化合物の量が1〜55重量%未満である水添ブロック共重合体とは、例えばA−C、A−C−A、C−A−C−A、(A−C−)4−Si、A−C−A−C−A等の構造を有するビニル芳香族化合物−共役ジエン化合物ブロック共重合体であり、結合したビニル芳香族化合物を1〜55重量%未満、好ましくは1〜50重量%含んだブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体である。
【0044】
またブロック構造に言及すると、ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックAとは、ビニル芳香族化合物のホモ重合体ブロック又はビニル芳香族化合物を90重量%以上含有するビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物との共重合体ブロックの構造を有しており、さらに共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックBとは、共役ジエン化合物のホモ重合体ブロック又は共役ジエン化合物を90重量%以上含有する共役ジエン化合物とビニル芳香族化合物との共重合体ブロックの構造を有するものである。
【0045】
これらのビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロックA、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックCは、それぞれの重合体ブロックにおける分子鎖中の共役ジエン化合物、ビニル芳香族化合物の分布がランダム、テーパード(分子鎖に沿ってモノマー成分が増加又は減少するもの)、一部ブロック状又はこれらの任意の組み合わせで成っていてもよく、該ビニル芳香族化合物を主体とする重合体ブロック及び該共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックがそれぞれ2個以上ある場合は、各重合体ブロックはそれぞれ同一構造であってもよく、また異なる構造であってもよい。
【0046】
このブロック共重合体を構成するビニル芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、p−tert−ブチルスチレン、ジフェニルエチレン等のうちから1種又は2種以上を選択でき、中でもスチレンが好ましい。次に、共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン等のうちから1種又は2種以上が選ばれ、中でも、ブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましい。
【0047】
さらに、共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックは、そのブロックにおける結合形態のミクロ構造を任意に選ぶことができ、例えば、ブタジエンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2−ビニル結合が2〜90%が好ましく、より好ましくは8〜80%である。また、イソプレンを主体とする重合体ブロックにおいては、1,2−ビニル結合と3,4−ビニル結合の合計量が2〜80%、より好ましくは3〜70%である。
本発明で用いる成分(D1−2)である水添ブロック共重合体の数平均分子量は、5,000〜1,000,000であるものが好ましく、特に好ましくは20,000〜500,000の範囲のものであり、分子量分布〔ゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定しポリスチレン換算した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比〕は10以下であるものが好ましい。
【0048】
さらに、この水添ブロック共重合体の分子構造は、直鎖状、分岐状、放射状あるいはこれら任意の組み合わせのいずれであってもよい。
このような構造をもつブロック共重合体は、上記したブロック共重合体の共役ジエン化合物を主体とした重合体ブロックCの脂肪族系二重結合を水素添加反応させて、本発明で用いる成分(D1−2)の水添ブロック共重合体として利用できる。かかる脂肪族系二重結合の水素添加率は、少なくとも20%を超えることが好ましく、さらに好ましくは50%以上、特に好ましくは80%以上である。
この水素添加率は例えば核磁気共鳴装置(NMR)等を用いて知ることができる。
【0049】
さらに、(D2)エチレン/α−オレフィン共重合体とは、前記成分(D1−1)及び/又は(D1−2)と併用することにより、本発明のフィルムの耐引き裂き性向上に大きな効果を奏するものである。具体的には、エチレン・α−オレフィン共重合体、共役ジエン化合物重合体を水素添加反応して得られる水添共役ジエン化合物が挙げられる。
エチレン・α−オレフィン共重合体とは、エチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、ヘキセン−1、ヘプテン−1、オクテン−1等の直鎖状α−オレフィン;2−メチルプロペン−1、3−メチルペンテン−1、4−メチルペンテン−1、5−メチルヘキセン−1、4−メチルヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等の分岐状α−オレフィン等のオレフィン類の単独重合又は共重合体である。
【0050】
これらの中では、エチレン、プロピレン、ブテン−1、オクテン−1、4−メチルペンテン−1を過半重量含む共重合体又は単独重合体が好ましく、エチレン単独重合体、エチレン−プロピレンのブロック又はランダム共重合体、エチレン−オクテンのブロック又はランダム共重合体がさらに好ましい。
ここでエチレン・α−オレフィン共重合体は、一般に温度230℃及び荷重21.2Nの条件で測定したメルトフローレート(MFR)で表して、0.01〜400g/10分、好ましくは0.15〜60g/10分、さらに好ましくは0.3〜40g/10分である。
上記エチレン・α−オレフィン共重合体は従来公知の方法によって製造でき、市販品も広く入手可能である。本発明では、適宜これらから選んで使用することができる。
【0051】
本発明の(D)成分は、(A)と(B)合計100質量部に対し、1〜40質量部含有するものである。耐熱性と耐引き裂き性の観点から、3〜30質量部が好ましく、さらに好ましくは5〜25質量部であり、さらにより好ましくは、10〜20質量部である。
バランスに優れた成型品となり得る。
本発明の(D)成分の一部もしくは全ての成分は、フィルムの耐引き裂き性向上の観点から、(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂中に取り込まれているモルフォロジーを有していることが望ましい。
【0052】
なお、本発明のポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムにおいて(B)成分のポリフェニレンサルファイド樹脂中に分散相を形成する(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂および(D1)成分のビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体およびまたは該ブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体、及び/または(D2)エチレン/α−オレフィン共重合体の分散状態は、通常、透過型電子顕微鏡で容易に確認することができる。
【0053】
そして、これらの分散状態を確認する方法は、例えば、四塩化ルテニウム等の重金属化合物を用いてサンプルを酸化染色し、ウルトラミクロトーム等で超薄切片を切り出し、その切片を透過型電子顕微鏡で観察することにより行うことができる。また写真撮影し(例えば、10000倍)、その写真により、樹脂組成物のモルフォロジーが、海−島−湖の多次構造を示すことを確認することができる。そして、かかる海相であるマトリックスを形成する成分が(B)成分のポリフェニレンサルファイド樹脂であり、分散相を形成する島相の成分が(A)成分のポリフェニレンエーテル系樹脂であり、さらにその島相中に共存する湖相が(D1)成分のビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックAと共役ジエン化合物を主体とする少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体およびまたは該ブロック共重合体を水素添加してなる水添ブロック共重合体、及び/または(D2)エチレン/α−オレフィン共重合体と判断することができる。
【0054】
本発明のフィルムの原料となる樹脂組成物は、本発明のフィルム効果を奏するために下記に示した特定の製造方法を経て得られることが最も好ましい。
すなわち、本発明の樹脂組成物の最も好ましい製造方法とは、成分(B)であるポリフェニレンサルファイド樹脂を、45〜95質量部で含み、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を5〜55質量部で含み、且つ(C)混和剤を、成分(A)と成分(B)の合計100質量部あたり1〜20質量部で含む樹脂組成物の製造方法であって、(1)少なくとも2個のベント口及び少なくとも1個のサイド供給口を有し、280℃〜350℃に温度設定した二軸押出機を用いて、成分(A)〜成分(C)を溶融混練した後に、該二軸押出機の一つ以上のベント口を絶対真空圧95kPa以下で脱気して溶融混練することにより本発明の樹脂組成物を得ることができる製造方法である。
【0055】
そしてさらに成分(D)を含んだ本発明の樹脂組成物の製造方法においては、上記の樹脂組成物の製造方法に記載した(1)の段階の溶融混練物を得る際に成分(A)〜(C)と共に成分(D)である耐衝撃付与剤を添加することにより、成分(D)である耐衝撃付与剤を含んだ樹脂組成物を製造することができる。
中でも成分(B)であるリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂と成分(B)である架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂とを併用して得られる本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を奏するために下記に示した特定の製造方法を経て得られることが最も好ましい。
【0056】
すなわち、本発明の樹脂組成物の最も好ましい製造方法とは、1〜96重量%の(B)の一つであるリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂及び99〜4重量%の(B)の一つである架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂で構成されるポリフェニレンサルファイド樹脂を45〜95質量部、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を5〜55質量部で含み、且つ(C)混和剤を、成分(A)と成分(B)の合計100質量部あたり1〜20質量部からなる樹脂組成物の製造方法であって、(1)少なくとも2個のベント口及び少なくとも1個のサイド供給口を有し、280℃〜350℃に温度設定した二軸押出機を用いて、加熱溶融混練の第一段階において、成分(A)のポリフェニレンエーテル系樹脂全量/ポリフェニレンサルファイド樹脂=70/30(重量比)以下を満たし、且つ該ポリフェニレンサルファイド樹脂中に含有する(B)リニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂が少なくとも30重量%、好ましくは40重量%以上、より好ましくは50重量%以上と成分(C)の共重合体全量を加熱溶融混練した後に、該二軸押出機の第1ベント口を絶対真空圧95kPa以下で脱気して第一溶融混練物を得、(2)次に、(1)で得た第一溶融混練物の存在下で、該二軸押出機の第1サイド供給口より残量のポリフェニレンサルファイド樹脂を添加し、さらに加熱溶融混練した後に、該二軸押出機の第2ベント口を絶対真空圧95kPa以下で脱気することにより本発明の樹脂組成物を得ることができる製造方法である。
【0057】
そしてさらに成分(D)を含んだ本発明の樹脂組成物の製造方法においては、上記の樹脂組成物の製造方法に記載した(1)の段階の第一溶融混練物を得る際に成分(A)〜(C)と共に成分(D)である耐衝撃付与剤を添加することにより、成分(D)である耐衝撃付与剤を含んだ樹脂組成物を製造することができる。
本発明では、上記成分の他に、本発明の特徴及び効果を損なわない範囲で必要に応じて、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の安定剤、結晶核剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料や染料等の着色剤、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸塩ワックス、ステアリン酸塩ワックス等の公知の離形剤もまた、適宜添加することができる。
【0058】
本発明のポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムは、上記で得られた樹脂組成物を原料とし、押出フィルム成形により得ることもできるし、本発明の成分を押出フィルム成形機に直接投入し、混練とフィルム成形を同時に実施して得ることもできる。
本発明のポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムは、押出しチューブラー法、場合によってはインフレーション法とも呼ばれる方法にて製造することができる。円筒から出てきたパリソンがすぐに冷却してしまわないように、50〜290℃の温度範囲の中から適宜選択して、パリソンを温度制御することがフィルム厚みを均一にし、層剥離のないフィルムを製造する上で極めて重要である。多層インフレーション方法により、本発明のポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物と他の樹脂との多層フィルムを得ることができる。
【0059】
一方、本発明のポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムは、Tダイ押出成形によっても製造することができる。この場合、無延伸のまま用いてもよいし、1軸延伸してもよいし、2軸延伸することによっても得られる。フィルムの強度を高めたい場合は、延伸することにより達成することができる。また、多層Tダイ押し出し成形方法により、本発明のポリフェニレンサルファイド系樹脂組成物と他の樹脂との多層フィルムを得ることができる。
【0060】
こうして得られた本発明のポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムは、耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れ、加えて、熱収縮率が小さく、また難燃性、機械的強度、絶縁性や誘電率や誘電正接などに代表される電気特性にも優れ、耐加水分解性にも優れる特徴を有する。従って、これらの特性が要求される用途に用いることができる。例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、絶縁フィルム、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、発電機スロットライナ層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池などの絶縁ワッシャー、などが挙げられる。
【実施例】
【0061】
本発明を以下、実施例に基づいて説明する。但し本発明はその主旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
[製造例1]
<ポリフェニレンエーテル(PPE−1)の製造例>
2,6−ジメチルフェノールを酸化重合して得た還元粘度0.42のパウダー状のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。
【0062】
[製造例2]
<ポリフェニレンエーテル(PPE−2)の製造例>
2,6−ジメチルフェノールを酸化重合して得た還元粘度1.55のパウダー状のポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル)である。
(B)成分である架橋型ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS−1)
(PPS−1):溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D=10/1で6分間保持した後測定した値。)が500ポイズ、塩化メチレンによるオリゴマー抽出量が0.7重量%、320℃溶融状態で捕集される揮発分が160ppmの架橋タイプのPPS(ディーアイシーEP(株)製 登録商標DSP K−2G)。
(B)成分であるリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS−2)
特開平8−253587号公報の実施例1に準じて下記のリニア型ポリフェニレンサルファイド樹脂を得た。
【0063】
(PPS−2):溶融粘度(フローテスターを用いて、300℃、荷重196N、L/D=10/1で6分間保持した後測定した値。)が500ポイズ、塩化メチレンによる抽出量が0.4重量%、−SX基量が26μmol/gのp−フェニレンサルファイドの繰り返し単位を有するリニアタイプのPPS。
成分(C)である共重合体
【0064】
(C−1):グリシジルメタクリレートを5重量%含有するスチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(重量平均分子量110,000)。
成分(D1)である耐衝撃付与剤
(D1−1):ポリスチレンブロック−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンブロックの構造を持ち、結合スチレン量が85%、ポリブタジエン部の1,2−ビニル結合量が40%、ポリスチレン鎖の数平均分子量が44000、ポリブタジエン部の水素添加率が98%の水添ブロック共重合体。
成分(D1)である耐衝撃付与剤
(D1−2):ポリスチレンブロック−水素添加されたポリブタジエン−ポリスチレンブロックの構造を持ち、結合スチレン量が35%、ポリブタジエン部の1,2−ビニル結合量が55%、ポリスチレン鎖の数平均分子量が43000、ポリブタジエン部の水素添加率が99.2%の水添ブロック共重合体。
成分(D2)である耐衝撃付与剤
(D2−1):密度0.87、温度230℃、荷重21.2Nの条件で測定したメルトフローレートが0.7g/10分のエチレンープロピレン共重合体。
【0065】
各樹脂組成物のフィルム成形と物性評価を、以下の方法に従って実施した。
(1)フィルム成形
得られたペレットを、単軸押出し成形機(ユニオンプラスチック(株)製、スクリュー径40mm、L/D28)とコートハンガーダイ(幅400mm、ダイリップ間隔0.8mm)を用い、シリンダー温度300℃にてフィルム状に押出した。スクリューおよび引き取りロールの回転数は、厚みが70μmになるように調整した。
【0066】
(2)耐熱性
得られたフィルムを250×250mm角のサイズに切り出し、160℃の熱風オーブンに5時間セットし、以下の判定基準に基づき、耐熱性評価を実施した。
○:フィルムの変形が認められなかった。
×:フィルムの変形が認められた。
【0067】
(3)耐薬品性
得られたフィルムを50×50mm角のサイズに切り出し、トルエンの入った容器に室温にて、1時間浸漬した。容器から取り出し、フィルムの外観を観察し、以下の判定基準に基づき、耐薬品性評価を実施した。
○:フィルムの外観に全く変化がなかった。
△:フィルムがやや膨潤した状態だった。
×:フィルムが変形しているか、一部溶解した状態。
【0068】
(4)耐引き裂き性
フィルムを250×250mm角に切り出し、MD(フィルム成形時の樹脂の流れ方法)とTD(フィルム成形時の樹脂の流れ方向と直角方向)にノッチなしで、切り裂きを試みた。以下の判定基準に基づいて、耐引き裂き性の評価を実施した。
◎:MD、TDともに、力を加えても、引き裂けなかった。
○:MDは、力を加えた場合、引き裂けた。TDは、力を加えた場合、引き裂けなかった。
△:MDは、力を加えた場合、引き裂けた。TDも、力を加えた場合、引き裂けた。
×:MDは、力を加えなくても、容易に引き裂けた。TDは、力を加えた場合、引き裂けた。
【0069】
(5)耐熱強度
フィルムを150×10mm角のテープ状に切り出し、長手方向に上下につるし上端を固定し、テープの下端に錘(10g)をつるした状態にて、100℃に設定された熱風オーブンに30分間静置した。その後、フィルムの長手方法の長さを測定し、オーブンに入れる前と比較し、長さの増分を評価した。以下の判定基準に基づき、その耐熱強度を評価した。
◎:増分が、0.5mm未満。
○:増分が、0.5以上1.0mm未満。
△:増分が、1.0mm以上1.5mm未満。
×:増分が、1.5mm以上。
【0070】
(6)シェア粘度
得られたペレットを80℃×2時間乾燥後、キャピログラフ(東洋精機(株)キャピグラフ1C)を用い、キャピリーは、L=10mm、キャピラリー径=1mmで、300℃、シェアレート100〜1000(sec−1)のレンジにて測定を行った。シェアレートが200(sec−1)の時のシェア粘度を表1に記載した。
【0071】
(実施例1〜7、比較例1〜3)
温度290〜310℃、スクリュー回転数280rpmに設定した二軸押出機(ZSK−40;COPERION WERNER&PFLEIDERER社製、ドイツ国、(D:バレル内径)=40mm、L/D=(L:スクリュー長さ)/(バレル内径)=47)を用い、表1に記載の組成割合で各成分を、全量、押し出し機の第一原料供給口へ供給して加熱溶融混練し、溶融混練後の第一ベント口の真空度を変化させて脱気操作を行い、樹脂組成物をペレットとして得た。ここで得たペレットを用いて上記(1)のフィルム成形方法にてフィルム成形を実施した。フィルムの評価結果を表1に示した。
【0072】
【表1】

【0073】
モルフォロジーを観察するために、得られたフィルムをMD(溶融樹脂の流れ方向)に対し、垂直方向からの断面の観察を試みるため、エポキシ樹脂で包埋し、四塩化ルテニウムによりサンプルを酸化染色し、ウルトラミクロトームで超薄切片を切り出し、その切片を透過型電子顕微鏡(日立ハイテク(株)製、H−7500)で観察した。海―島構造もしくは、海−島−湖構造を示した。海は、(B)ポリフェニレンサルファイド系樹脂であり、島は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂であり、(D)耐衝撃付与剤は、(A)の島の内部に取り込まれたように、湖のように観察された。またその(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が形成する島の形状はほぼ円形に近い円か楕円であった。
【0074】
上記のように、海−島構造、もしくは海−島−湖構造を示したものは、表1に○を記した。比較例2は、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂と(B)ポリフェニレンサルファイドが海−海構造を示していた。表1に×を記載した。本発明における、海−島構造を形成しないと、十分なフィルム性能が発現しないことがわかる。なお、比較例1は、PPS単体であるため、観察を実施しなかった。
比較例3は、フィルム成形機のTダイから出てくる溶融樹脂のメルトフラクチャーが激しく、安定したフィルム成形ができなかった。本発明における、シェア粘度を満足しない樹脂では、満足したフィルム成形ができないことがわかる。
【0075】
表1から、本発明により得られるポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムは、耐熱性、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れることがわかる。
本発明の樹脂組成物が特定のシェア粘度を満足することが、良好なフィルム成形性といくつかのフィルム性能を同時に高いレベルで満足できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のポリフェニレンサルファイド系樹脂製フィルムは、耐熱性に優れ、耐薬品性、耐引き裂き性、耐熱強度に優れ、さらに誘電特性、電気絶縁性、難燃性、耐加水分解性などに優れた特長を有する為、例えば、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、データ系磁気テープ、APS写真フィルム、フィルムコンデンサー、モーターやトランスなどの絶縁材料、スピーカー振動板、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、TABテープ、発電機スロットライナ層間絶縁材料、トナーアジテーター、リチウムイオン電池などの絶縁ワッシャー、など電子・電気部品材料、家電OA用材料、自動車用材料、工業用材料に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂を5〜55質量部、(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂を45〜95質量部、シェア粘度(キャピラリー長=10mm、キャピラリー径=1mm、キャピログラフにより、300℃、シェアレート=200(sec-1)での測定値)が30〜2000(Pa・s)である樹脂組成物からなり、(A)ポリフェニレンエーテル系樹脂が分散相であって、(B)ポリフェニレンサルファイド樹脂が連続相であるモルフォロジーを有する、厚みが1〜100μmのフィルム。
【請求項2】
(C)混和剤を、(A)と(B)合計100質量部に対し、1〜20質量部含有することを特徴とする請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
(C)混和剤が、(C)グリシジル基、又はオキサゾリル基のいずれか一つの官能基を有するスチレン系共重合体であることを特徴とする請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
(D)耐衝撃付与剤を(A)と(B)合計100質量部に対し、1〜40質量部含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフィルム。
【請求項5】
(D)耐衝撃付与剤が、(D1)ビニル芳香族化合物と共役ジエン化合物を共重合して得られるブロック共重合体、前記ブロック共重合体をさらに水素添加反応して得られる水添ブロック共重合体、からなる群から選ばれる少なくとも1種以上を含有することを特徴とする請求項4に記載のフィルム。
【請求項6】
(D)耐衝撃付与剤が、(D2)エチレン/α−オレフィン共重合体を含有することを特徴とする請求項4または5に記載のフィルム。
【請求項7】
(D)成分の一部もしくは全ての成分が(A)成分の中に取り込まれているモルフォロジーを有する請求項4〜6のいずれかに記載のフィルム。
【請求項8】
押出しチューブラー法にて成形して得られる請求項1〜7のいずかに記載のフィルム。
【請求項9】
Tダイ押出し法にて成形して得られる請求項1〜7のいずかに記載のフィルム。

【公開番号】特開2007−169521(P2007−169521A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−370765(P2005−370765)
【出願日】平成17年12月22日(2005.12.22)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】