説明

ポリフェノール被覆した中綿及びその製造方法

【課題】寝具、インテリア製品、玩具及びペット生活用品などの内部にある中綿の中で、発生したダニの糞や死骸が、飛散して喘息などのアレルギー症を引き起こすことがない、中綿及びその製造方法を提供する。
【解決手段】タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物を含む水溶液を原綿又はカード処理した平面状綿の表面に塗布し、乾燥させることによって、中綿表面にポリフェノール高分子層を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寝具、インテリア製品、玩具及びペット生活用品等の内部に詰め物として使用される中綿において、表面にタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物からなるポリフェノール高分子層が形成されていることを特徴とする、中綿及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、冷暖房完備の気密性が高い住宅では、季節に関係なく一年中ヒョウヒダニが発生しやすい状況にある。特に、暖かく湿気が溜まりやすい布団、ベッドパッド、マット類等の中綿を用いた製品内はダニの住み処になりやすく、ハウスダストと呼ばれるダニの死骸や糞が蓄積され、これらダニアレルゲンが小児ぜんそくやアトピー性皮膚炎といったアレルギー反応を引き起こしている。
【0003】
中綿を利用する製品のダニアレルギー対策としては、薬剤の殺ダニ作用等によって対処する殺虫処理方法(特許文献1及び特許文献2)、縫い目や生地を工夫してダニ類を内部に入り込まないようにする防通過処理方法(特許文献3)、及びタンニン酸等のポリフェノールによりダニアレルゲンを人体に害のないように処理する変性処理方法(特許文献4及び5)がある。
【0004】
殺虫処理方法はダニを殺す作用によるが、薬剤でダニを殺してもダニの死骸がアレルゲンとなる。また、薬剤によるかぶれ等の二次的な問題もある。防通過処理方法では、使用する生地や製品設計に制約が生じたり、縫い目処理によって性能が左右され易いという問題がある。殺虫処理方法及び防通過処理方法に対して、変性処理方法はダニアレルゲンを人体に害のない形態に変性することから根本的な対策となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−159692号公報
【特許文献2】特開昭62−127097号公報
【特許文献3】特開平4−341218号公報
【特許文献4】特開平9−301804号公報
【特許文献5】特開2007−107149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
中綿を詰め物として使用する製品のダニアレルギー対策の中で、中綿表面にポリフェノール層を形成させてダニアレルゲンを吸着及び不活性化する変性処理方法は、ダニアレルゲンを人体に害のない形態に変性することから根本的な対策として有効である。中綿の繊維素材としては、反応性が高いヒドロキシ基を有するセルロース繊維には、架橋剤を介してタンニン酸等の低分子ポリフェノール化合物を固着させることができる。しかし、ポリエステル等の反応性の乏しい合成繊維では、架橋剤を介してポリフェノール化合物を固着させることができない。また、ポリフェノール化合物を原糸の製造段階で原料樹脂に練り込んで紡糸する方法では、ポリフェノール化合物の大部分が繊維内部に埋没し、ダニアレルゲン不活性化作用が十分に発揮されない。
【0007】
繊維素材の種類に関係なく、中綿の表面にポリフェノール層を形成するには、ポリフェノール高分子を中綿の繊維表面上にコーティングする必要がある。しかし、中綿は嵩高さと弾力感がある独特な風合いと構造を有する材料であるため、布帛やフィルム等で一般に行われる処理方法では、風合いを損なうことなく中綿の内部までコーティングすることはできない。
【0008】
本発明の目的は、寝具、インテリア製品、玩具及びペット生活用品の内部に詰め物として使用されるポリエステルも含めた様々な素材の中綿表面に、嵩高さや弾力感といった風合いを損なうことなく、ダニアレルゲンを吸着及び不活性化するポリフェノール高分子層を形成させた中綿及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題に鑑み研究を重ねた結果、本発明者は、寝具、インテリア製品、玩具及びペット生活用品の内部に詰め物として使用する、中綿の表面にタンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させたポリフェノール高分子層を形成させることにより、ダニアレルゲンを吸着及び不活性化する中綿及びその製造方法を得て本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は以下のとおりである。
【0011】
(1)中綿を構成する少なくとも一部の綿の表面に、タンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させた、ポリフェノール高分子層が形成されていることを特徴とする中綿。
【0012】
(2)タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を塗布して乾燥させることにより、タンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させた、ポリフェノール高分子層を表面に形成した綿を、少なくとも原綿の一部として用いて製綿することにより、中綿を製造することを特徴とする中綿の製造方法。
【0013】
(3)タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を霧状に発生させた空間内に、カード処理した平面状綿を走行させて、前記水溶液を前記平面状綿の表面に塗布して乾燥させることにより、表面にタンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させた、ポリフェノール高分子層が形成されていることを特徴とする中綿の製造方法。
【0014】
(4)タンニン及び炭酸ナトリウムを含有する水溶液に、ホルムアルデヒド水溶液を滴下してタンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させることを特徴とする、(2)及び(3)に記載のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液の製造方法。
【0015】
(5)タンニンが、ミモザの樹皮から抽出した縮合型タンニンであることを特徴とする(1)、(2)、(3)及び(4)に記載の中綿及び中綿の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、小児ぜんそくやアトピー性皮膚炎といったアレルギー反応を引き起こすダニアレルゲンを吸着及び不活性化する、中綿及びその製造方法を提供できる。また、この中綿を詰め物として利用することにより、寝具、インテリア製品、玩具及びペット生活用品等に抗ダニアレルゲン機能を付与できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本願発明の実施形態に係る製綿工程のフローチャート
【図2】本願発明の実施形態に係る塗布装置の側面図
【図3】本願発明の実施形態に係る塗布装置の内部上面図
【図4】本願発明の中綿のダニアレルゲン吸着・不活性化試験結果
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
タンニンとは植物に由来し、タンパク質、アルカロイド及び金属イオンと反応して、強く結合して難溶性の塩を形成する水溶性化合物の総称である。多数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ複雑な芳香族化合物で、ポリフェノール化合物の一種である。タンニンには、加水分解されないカテコール系の縮合型タンニンと、加水分解されるピロガロール系の加水分解型タンニンが存在する。
【0020】
本発明のタンニンとしては、水溶液中でホルムアルデヒドと縮合重合する際に、加水分解されない縮合型タンニンが好ましく利用できる。縮合型タンニンとしては、例えばケブラチョタンニン、ミモザタンニン、ワットルタンニン等の心材や樹皮に含まれるタンニン;バナナ、リンゴ、カキ等の未熟果実に含まれるタンニン;キャロブ豆、ブドウ等の未熟なサヤや種子に含まれるタンニンが挙げられる。タンニンは、原料から抽出した後に、乾燥して粉末化したものが好ましく用いられる。ケブラチョタンニン、ミモザタンニン、ワットルタンニン等は、革鞣用として粉末状態で流通しているため、タンニン粉末をそのまま水に溶解して用いることができる。
【0021】
上記の縮合型タンニンの中でも、特にミモザの樹皮から抽出したミモザタンニンは、優れた耐水性を有するポリフェノール高分子層を形成できるため、好ましく用いることができる。ダニアレルギーの予防手段としては、布団を定期的に洗濯することが有効である。そのため、綿表面に形成したポリフェノール高分子層が高度な耐水性を有していることが望ましい。ミモザタンニンとホルムアルデヒドをアルカリ触媒下で縮合重合させた高分子水溶液は、塗布して自然乾燥するだけでも綿表面に耐水性ポリフェノール高分子層を形成でき、摂氏105度程度で熱処理を行えば確実に高度な耐水性が得られる。それに比べてケブラチョタンニンを原料とする場合は、耐水性ポリフェノール高分子層を形成するには摂氏185度程度の高温で熱処理を行う必要があり、摂氏105度程度の熱処理では不十分である。
【0022】
本発明のタンニンとホルムアルデヒドの縮合重合において、使用するホルムアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド水溶液として市販されているホルマリンを用いることができる。タンニン水溶液にアルカリ触媒下でホルムアルデヒドを添加すると、縮合重合が進行して高分子化し、これを中綿に塗布して乾燥することによりポリフェノール高分子層を形成することができる。縮合重合を行う際のタンニン水溶液の濃度は、0.5乃至5重量パーセントの範囲で行うことが好ましい。タンニン濃度が5重量パーセントを超える高濃度になると、ホルムアルデヒドとの縮合重合過程でゲル化を起こして沈殿が生じやすくなり、中綿の表面にポリフェノール高分子層を形成するのに適さない性質となる。
【0023】
本発明のタンニンとホルムアルデヒドの縮合重合を促進させるアルカリ触媒としては、炭酸ナトリウムが好ましく用いられる。フェノールとホルムアルデヒドの縮合重合では、アルカリ触媒として水酸化ナトリウムが多用されるが、本発明で用いる炭酸ナトリウムと比較すると人体に対して有害である。寝具、インテリア製品、玩具及びペット生活用品に使用する本発明の中綿では、有害なアルカリ剤の残留を避けるため、人体に対する毒性のない炭酸ナトリウムが好ましく用いられる。タンニン水溶液に炭酸ナトリウムを添加してpHを8.5乃至10に調整することにより、ホルムアルデヒド水溶液の添加によって適度に縮合重合を進行させることができる。
【0024】
ホルムアルデヒドの添加量は、添加後に0.05乃至0.3モル/リットルの濃度となるように添加することが好ましい。また、水溶液中で斑なく縮合重合を進行させるために、タンニン水溶液を攪拌しながらホルムアルデヒド水溶液を滴下することが好ましい。ホルムアルデヒド水溶液の添加後は、縮合重合を進行させるために、溶液を3時間以上放置して熟成させることが好ましい。熟成させる温度は室温でも良く、加熱によって摂氏50度程度まで昇温した条件で行なうこともできる。
【0025】
本発明の中綿の素材は、原綿の繊維の種類に特に制限されることなく選ぶことができる。一般に多用されるポリエステル、木綿、毛及び羽毛、若しくは前記素材を混合したものを、原綿として好ましく利用できる。また、中綿の形態としては、布団綿のような平面状綿を折りたたんだ厚みと弾力性のある一般的な綿の形態でもよく、さらに前記の綿をニードルパンチ工程によって繊維同士を交絡させたフェルト状の形態でもよい。
【0026】
布団などの中綿の一般的な製綿工程では、カード機と呼ばれる装置で綿の塊から棘がついたロールで綿を少しずつ擦り取り、繊維方向が斑なく揃った平面状綿にするカード処理工程の後、成形機と呼ばれる装置で平面状綿を折りたたんで製品に合わせた大きさ及び重量の中綿に成形する。一般的な製綿工程の前段階としては、原綿を除塵するクリーナー、適度な大きさに引きちぎる解綿機、重量を計測する計量器がある。原綿は、これらの前工程を通過した後にカード機に供給される。また、成形機以降の工程としては、検針機を通過した後に巻き取り機で巻き取って終了する工程が一般的である。しかし、中綿の繊維同士を交絡させるために、成形機の後工程としてニードルパンチ工程を入れる場合もある。
【0027】
本発明の中綿の表面にポリフェノール高分子層を形成させる方法としては、原綿にタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を塗布して乾燥させる方法と、カード処理した平面状綿に前記水溶液を塗布して乾燥させる方法のいずれかの方法を選択して実施できる。即ち、上記のいずれの方法でも、中綿表面に中綿としての嵩高さや弾力感といった風合いを損なうことなく、ダニアレルゲンを吸着及び不活性化するポリフェノール高分子層を形成させることができる。
【0028】
原綿にタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を塗布して乾燥させる方法は、十分量の前記水溶液を原綿に含浸させた後に、余分な液を絞り取って乾燥させる手順で実施することができる。原綿に含浸させる溶液量は、原綿の全体を湿潤させることができる容量であることが望ましく、原綿に対して5倍量以上の溶液を添加することが好ましい。
【0029】
タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液で湿潤させた原綿から余分な溶液を絞り取る方法は、綿材料の脱水方法として利用できる方法であれば、特に制限なく実施することができる。具体的には、遠心脱水法又は圧搾脱水法などによって、溶液含有量を原綿重量の20乃至300パーセントの範囲に調整することができる。
【0030】
タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液の含浸と脱水により、前記水溶液を塗布した原綿は、自然乾燥若しくは乾燥機による強制乾燥によって表面にポリフェノール高分子層を形成させることができる。強制乾燥に利用する乾燥機としては、原綿の乾燥に適するものであれば、特に制限なく利用することができる。具体的な方法の一例としてタンブラー乾燥機を利用した場合、摂氏50度乃至90度で30分乃至1時間程度の乾燥処理を行うことにより、表面にポリフェノール高分子層を形成させた原綿を得ることができる。
【0031】
上記の方法によって、タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を塗布して乾燥させた原綿を原料して用い、リーナー、解綿機、計量器、カード機、成形機と続く一般的な工程によって製綿を行うことにより、表面にポリフェノール高分子層を形成させた中綿が得られる。
【0032】
カード処理した平面状綿に、タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を塗布して乾燥させる方法としては、図1のフローチャートに示すように、カード機と成形機の間に塗布装置を配置して噴霧塗布を行うことが好ましい。成形した中綿は厚みがあるために内部まで均一な噴霧塗布を行うことは困難であるが、カード処理を行った直後は綿が薄く均一になっているため、溶液を噴霧塗布するのに好ましい形態となる。図2及び図3に示すように、塗布装置は前記の溶液を平均粒子径10ミクロン乃至50ミクロンの微細な霧として発生できるノズルを備えていて、飛散防止フードによって霧状溶液が装置の外に飛散しない構造であることが好ましい。前記溶液を霧状に発生させた前記塗布装置内に、カード機を通過させた平面状綿を走行させることにより、平面状綿の表面に10ミクロン乃至50ミクロンの前記溶液の微細な液滴を付着させることができる。
【0033】
カード機を通過した平面状綿は薄く繊細な材料であるため、通常布帛で行われるパディング処理は不可能であり、噴霧塗布の場合でも綿に当たる風速が大きいと綿を吹き飛ばして穴を開けてしまう。こうした事情から、本発明の塗布装置では、装置天井部に備えられたノズル下面の位置から平面状綿が走行する位置までの距離が、1メートル以上離れていることが好ましい。1メートル以上の距離を設けることにより、繊細な平面状綿にダメージを与えることなく均一な塗布処理が実施できる。
【0034】
カード処理した平面状綿に、タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を噴霧塗布した後には、乾燥によって中綿表面にポリフェノール高分子層を形成させる。乾燥方法は自然乾燥でも良く、乾燥装置による強制乾燥によって行うこともできる。乾燥装置による強制乾燥を行う場合は、図1のフローチャートに示すように塗布装置と成形機の間に配置しても良いし、成形機の後工程として配置することも可能である。塗布装置と成形機の間に配置する場合では、熱風を吹き付ける方式の乾燥装置は薄い平面状綿を吹き飛ばしてしまうために好ましくなく、風を吹き付けないホットプレート方式若しくは遠赤外ヒーター加熱方式等で実施することが好ましい。乾燥装置を成形機の後ろに配置する場合では、中綿は積層されて重みを増しているため、乾燥装置の方式は熱風を吹き付ける方式も含めて特に制限なく実施することができる。
【0035】
乾燥温度には特に制限はないが、バッチ式で30分以上の長時間乾燥できる場合には、摂氏60度乃至110度で好ましく乾燥することができる。連続式で乾燥装置内の滞留時間が短い場合には、摂氏150度乃至185度の高温で乾燥することが好ましい。高温で乾燥処理を行った場合、中綿表面にポリフェノール高分子層を強固に固着できるが、タンニンの色が褐色に変化する度合が大きくなる傾向がある。ポリフェノール高分子層の着色を抑制したい場合には、摂氏150度以上の高温で1分間以上の乾燥処理を行わない方がよい。
【実施例】
【0036】
以下に、発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1]
(1)塗布溶液の調整:ミモザタンニン10グラム及び炭酸ナトリウム2グラムを水983.7グラムに溶解させ、この溶液を攪拌しながら35パーセントホルマリン水溶液を4.3グラム添加し、その後、室温で24時間静置した。この操作により、ミモザタンニン成分を1パーセント含有するタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を得た。
【0038】
(2)ポリフェノール高分子層の形成:前記のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を水で5倍に希釈し、ミモザタンニン成分を0.2パーセント含有する水溶液とした。この水溶液中にポリエステル繊維100パーセントの綿100グラムを浸漬し、前記ポリエステル綿を溶液から取り出して圧搾脱水法によって余分な液を絞り、絞った後の溶液を含んだポリエステル綿の重量を380グラムとした。前記のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を含んだポリエステル綿は、恒温乾燥器中、摂氏50度で1時間予備乾燥した後、摂氏105度で30分間の乾燥を行った。前述の処理を行ったポリエステル綿は薄い褐色となり、これを水洗して乾燥した後もポリフェノール高分子層の脱落は認められなかった。
【0039】
(3)遊離ホルムアルデヒド試験:前記のポリフェノール高分子層を形成させたポリエステル綿について、JIS L 1041に規定される遊離ホルムアルデヒド試験(アセチルアセトン法・A法)を行った結果、A−A0=0.01となり、遊離ホルムアルデヒドは検出されなかった。
【0040】
(4)ダニアレルゲン吸着・不活性化の実証試験:ダニアレルゲン溶液(アサヒビール(株)製の精製ダニ抗原rDerf2を1ミリリットル中に100ナノグラム含有する)5ミリリットル中に、前記のポリフェノール高分子層を形成させたポリエステル綿0.39グラムを浸漬し、摂氏37度で24時間保持してダニアレルゲンを吸着させた後、残留するダニアレルゲンを簡易検査キット(アサヒビール(株)製のダニスキャン)で判定した。図4に示すように、試料を入れないブランクの結果では、T(テストライン)とC(コントロールライン)に赤線が現れ、ダニアレルゲンの残存が確認されたのに対し、前記のポリエステル綿の結果ではTの赤線が消失して残留ダニアレルゲンが検出されなかった。
【0041】
[実施例2]
(1)塗布溶液の調整とポリフェノール高分子層の形成:実施例1と同様に、ミモザタンニンを原料として塗布溶液の調整を行った。得られたミモザタンニン成分を1パーセント含有するタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を、水で5倍に希釈し、ミモザタンニン成分を0.2パーセント含有する水溶液とした。この水溶液中に、ポリエステル繊維と羊毛を1:1の割合で含有する混用綿100グラムを浸漬し、前記混用綿を溶液から取り出して圧搾脱水法によって余分な液を絞り、絞った後の溶液を含んだ混用綿の重量を300グラムとした。前記のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を含んだ混用綿は、実施例1と同様の条件で乾燥を行った。ポリエステル繊維と羊毛の混用綿は元々褐色であったが、前述の処理によって褐色の色濃度は増大し、これを水洗して乾燥した後も色濃度の減少が認められなかった。
【0042】
(2)遊離ホルムアルデヒド試験:前記のポリフェノール高分子層を形成させた混用綿について、JIS L 1041に規定される遊離ホルムアルデヒド試験(アセチルアセトン法・A法)を行った結果、A−A0=0.01となり、遊離ホルムアルデヒドは検出されなかった。
【0043】
(3)ダニアレルゲン吸着・不活性化の実証試験:実施例1と同様の方法で、ダニアレルゲン溶液中に、前記のポリフェノール高分子層を形成させた混用綿を浸漬し、ダニアレルゲンを吸着させた後に残留ダニアレルゲンを簡易検査キットで判定した。その結果、残留ダニアレルゲンは検出されなかった。
【0044】
[実施例3]
(1)塗布溶液の調整:ケブラチョタンニン20グラム及び炭酸ナトリウム2グラムを水969.4グラムに溶解させ、この溶液を攪拌しながら35パーセントホルマリン水溶液を8.6グラム添加し、その後、室温で24時間静置した。この操作により、ケブラチョタンニン成分を2パーセント含有するタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を得た。
【0045】
(2)ポリフェノール高分子層の形成:前記のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を水で5倍に希釈し、ケブラチョタンニン成分を0.4パーセント含有する水溶液とした。この水溶液中にポリエステル繊維100パーセントの綿100グラムを浸漬し、前記ポリエステル綿を溶液から取り出して圧搾脱水法によって余分な液を絞り、絞った後の溶液を含んだポリエステル綿の重量を360グラムとした。前記のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を含んだポリエステル綿は、恒温乾燥器中、摂氏50度で1時間予備乾燥した後、摂氏185度で3分間の乾燥を行った。前記の処理を行ったポリエステル綿は濃い赤褐色となった。このポリエステル綿を水洗して乾燥した後の色も濃い赤褐色であり、水洗によるポリフェノール高分子層の脱落は認められなかった。
【0046】
(3)遊離ホルムアルデヒド試験:前記のポリフェノール高分子層を形成させたポリエステル綿について、JIS L 1041に規定される遊離ホルムアルデヒド試験(アセチルアセトン法・A法)を行った結果、A−A0=0.02となり、遊離ホルムアルデヒドは検出されなかった。
【0047】
(4)ダニアレルゲン吸着・不活性化の実証試験:実施例1と同様の方法で、ダニアレルゲン溶液中に、前記のポリフェノール高分子層を形成させて水洗及び乾燥を行ったポリエステル綿を浸漬し、ダニアレルゲンを吸着させた後に残留ダニアレルゲンを簡易検査キットで判定した。その結果、残留ダニアレルゲンは検出されなかった。
【0048】
[実施例4]
(1)塗布溶液の調整とポリフェノール高分子層の形成:実施例3と同様に、ケブラチョタンニンを原料として塗布溶液の調整を行った。得られたケブラチョタンニン成分を2パーセント含有するタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を、水で5倍に希釈し、ケブラチョタンニン成分を0.4パーセント含有する水溶液とした。この水溶液中に、ポリエステル繊維100パーセントの綿100グラムを浸漬し、前記ポリエステル綿を溶液から取り出して圧搾脱水法によって余分な液を絞り、絞った後の溶液を含んだポリエステル綿の重量を375グラムとした。前記のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を含んだポリエステル綿は、恒温乾燥器中、摂氏50度で1時間予備乾燥した後、摂氏105度で30分間の乾燥を行った。処理を行ったポリエステル綿は赤褐色となり、これを水洗するとポリフェノール高分子層が脱落して色濃度が低下した。
【0049】
[実施例5]
(1)塗布溶液の調整:ミモザタンニン1キログラム及び炭酸ナトリウム100グラムを水48.47リットルに溶解させ、この溶液を攪拌しながら35パーセントホルマリン水溶液を430グラム添加し、その後、室温で24時間静置した。この操作により、ミモザタンニン成分を2パーセント含有するタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液50キログラムを得た。
【0050】
(2)ポリフェノール高分子層の形成:前記のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を水で2倍に希釈し、ミモザタンニン成分を1パーセント含有する水溶液とした。遠心脱水機にポリエステル繊維100パーセントの原綿8キログラムを詰め込み、前記原綿に前記のミモザタンニン成分を1パーセント含有する水溶液を添加して湿潤させた。続いて遠心脱水法によって原綿から余分な液を絞り、絞った後の溶液を含んだポリエステル原綿の重量を12.3キログラムとした。前記のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を含んだポリエステル原綿は、自然乾燥を行った結果、ポリフェノール高分子層の形成によって褐色となった。
【0051】
(3)製綿工程:前記のポリフェノール高分子層を表面形成させたポリエステル原綿8キログラムをクリーナーに投入して除塵し、解綿機で適度な大きさにして重量を計測する計量器を通過させ、カード機に供給して幅約1メートルの平面状綿とし、成形機で重量約2キログラムの布団用中綿に成形して、検針機を通過させた後に巻き取り機で巻き取った。
【0052】
(4)遊離ホルムアルデヒド試験:前記のポリフェノール高分子層を形成させた布団用ポリエステル中綿について、JIS L 1041に規定される遊離ホルムアルデヒド試験(アセチルアセトン法・A法)を行った結果、A−A0=0.02となり、遊離ホルムアルデヒドは検出されなかった。
【0053】
(5)ダニアレルゲン吸着・不活性化の実証試験:実施例1と同様の方法で、ダニアレルゲン溶液中に前記の布団用ポリエステル中綿を浸漬し、ダニアレルゲンを吸着させた後に、残留ダニアレルゲンを簡易検査キットで判定した。その結果、残留ダニアレルゲンは検出されなかった。
【0054】
[実施例6]
(1)塗布溶液の調整:ミモザタンニン1キログラム及び炭酸ナトリウム100グラムを水48.47リットルに溶解させ、この溶液を攪拌しながら35パーセントホルマリン水溶液を430グラム添加し、その後、室温で24時間静置した。この操作により、ミモザタンニン成分を2パーセント含有するタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液50キログラムを得た。調整した前記の水溶液は、図2に示す塗布装置の液タンクに充填した。
【0055】
(2)前工程:ポリエステル原綿10キログラムをクリーナーに投入して除塵を行い、次に解綿機に移動させて適度な大きさに引きちぎり、続いて重量を計測する計量器を通過させて、カード機に投入する以前の準備を行った。
【0056】
(3)カード処理及び塗布処理:前記の前工程を通過させたポリエステル綿をカード機に供給し、綿の塊から棘がついたロールで綿を少しずつ擦り取って繊維方向が斑なく揃った幅約1メートルの平面状綿にするカード処理を行い、続いて前記の平面状綿を連続的に図2の塗布装置内に送り込んだ。単位時間当たりに塗布装置に送り込む平面状綿の量はほぼ一定とし、毎分約300グラムとした。塗布装置内では、平面状綿が通過する位置から高さ120センチメートルにある天井部に40センチメートル間隔で配置した3個のノズルから、液タンク中の前記溶液を毎分100ミリリットル噴射し、平均粒子径10乃至50ミクロンの微霧を装置内に充満させた。ノズルは、空気と液体を混合して噴射する二流体ノズルを用いた。前記の塗布処理による塗布量は、回収タンクに回収された溶液量から綿重量の25パーセントであった。
【0057】
(4)成形以降の工程:塗布装置を通過した平面状綿の乾燥処理は、下面側に縦650ミリメートル、横500ミリメートルのホットプレートを縦2列及び横3列に合計6台配置し、上面側には縦1000ミリメートル、横1000ミリメートルの遠赤外線ヒーターを縦に2台配置した、乾燥装置内を連続的に通過させることによって行った。平面状綿が通過する位置での温度は摂氏160度となるように設定した。乾燥装置を通過した平面状綿は続く成形機で折りたたまれて、重量約2キログラムの布団用中綿に成形され、検針機を通過した後に巻き取り機で巻き取られた。
【0058】
(5)遊離ホルムアルデヒド試験:前記のポリフェノール高分子層を形成させた布団用ポリエステル中綿について、JIS L 1041に規定される遊離ホルムアルデヒド試験(アセチルアセトン法・A法)を行った結果、A−A0=0.01となり、遊離ホルムアルデヒドは検出されなかった。
【0059】
(6)ダニアレルゲン吸着・不活性化の実証試験:実施例1と同様の方法で、ダニアレルゲン溶液中に前記の布団用ポリエステル中綿を浸漬し、ダニアレルゲンを吸着させた後に、残留ダニアレルゲンを簡易検査キットで判定した。その結果、残留ダニアレルゲンは検出されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、製品内部に詰め物として中綿を有する寝具、インテリア製品、玩具及びペット生活用品に利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1 平面状綿
2 ノズル
3 霧状溶液
4 飛散防止フード
5 液タンク
6 ポンプユニット
7 配管
8 回収タンク
9 ローラー
10 架台
11 ブランクの結果
12 処理したポリエステル綿の結果

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中綿を構成する少なくとも一部の綿の表面に、タンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させた、ポリフェノール高分子層が形成されていることを特徴とする中綿。
【請求項2】
タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を塗布して乾燥させることにより、タンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させた、ポリフェノール高分子層を表面に形成した綿を、少なくとも原綿の一部として用いて製綿することにより、中綿を製造することを特徴とする中綿の製造方法。
【請求項3】
タンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液を霧状に発生させた空間内に、カード処理した平面状綿を走行させて、前記水溶液を前記平面状綿の表面に塗布して乾燥させることにより、表面にタンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させた、ポリフェノール高分子層が形成されていることを特徴とする中綿の製造方法。
【請求項4】
タンニン及び炭酸ナトリウムを含有する水溶液に、ホルムアルデヒド水溶液を滴下してタンニン及びホルムアルデヒドを縮合重合させることを特徴とする、請求項2及び3記載のタンニン及びホルムアルデヒドの縮合重合物水溶液の製造方法。
【請求項5】
タンニンが、ミモザの樹皮から抽出した縮合型タンニンであることを特徴とする請求項1−4記載の中綿及び中綿の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−69035(P2011−69035A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−239805(P2009−239805)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(591032703)群馬県 (144)
【出願人】(509287544)本田繊維工業有限会社 (2)
【Fターム(参考)】