説明

ポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の親水化方法

【課題】熱誘起相分離法によるポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の親水化方法であって、透水性の大きな低下を招くことなく、膜を親水化する方法を提供する。
【解決手段】熱誘起相分離法によって作製されたポリフッ化ビニリデン系多孔質膜を、濃度0.01〜3重量%のパーヒドロポリシラザン含有溶液に浸せきした後、140〜165℃の温度で加熱乾燥を行う。本発明方法によれば、ポリフッ化ビニリデン系多孔質膜を所定濃度のパーヒドロポリシラザン含有溶液に浸せきすることで、膜細孔内に溶液が有効に染み込み、これを加熱することによって膜表面および膜細孔内表面に-SiO2-基が形成され、膜表面のみならず膜全体が親水化される。また、透水性の大きな低下を招くことなく、膜が親水化されているといった特徴を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の親水化方法に関する。さらに詳しくは、熱誘起相分離法により作製されたポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の親水化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な水環境の悪化が問題となっており、低コストかつ単純な構成の水処理技術に対する要求がますます高まっている。このような水処理技術として、活性汚泥処理と膜分離処理とを組み合わせたメンブレンリアクター法(MBR)が挙げられる。この膜ロ過による浄水処理や下廃水処理は、これ迄の凝集沈殿のロ過方式と比較し、運転の維持や管理が容易であり、処理水質も良好であることから、近年水処理分野で幅広く用いられている。特に、これらの処理方式は、従来法では除去が不十分であったクリプトスポリジウム等の病原性微生物を完全に除去できることが大きな特徴として挙げられる。
【0003】
これらの膜ロ過に用いられる素材としては、微粒子や有機物等のファウリング物質に対する耐汚染性にすぐれているポリフッ化ビニリデン系樹脂が注目されている。就中、熱誘起相分離法を製膜基本原理として得られるポリフッ化ビニリデン多孔質膜は、従来の非溶媒誘起相分離法(液・液分離法)で得られる膜の課題でもあった機械的強度やマクロボイドの生成という問題が解決され、さらに化学的耐久性にもすぐれている特徴を有している(特許文献1〜2参照)。
【0004】
かかるポリフッ化ビニリデン多孔質膜は、疎水性が高いため、水処理に使用するに際しては親水化処理が必要となる。親水化処理の方法としては、特許文献3に開示されているように、膜をエタノールに浸せきした後、水で置換する方法があり、この方法によって透水性を高くすることが可能となる。また、このような前処理を不要とすべく、膜をグリセリン水溶液に浸せきさせる方法(特許文献4参照)、界面活性剤水溶液に浸せきさせる方法(特許文献5参照)、これらの特徴を組み合わせ、HLB値が8〜15の非イオン界面活性剤とグリセリンを含有させた水溶液を膜分離膜の保存液としたもの(特許文献6参照)などが提案されている。
【0005】
さらに、膜製造時に親水物質を混入させるものとしては、酸化チタンを分散させたもの(特許文献7参照)、有機化クレイを分散させたもの(特許文献8〜9参照)、有機ケイ素化合物を分散させたもの(特許文献10参照)などが提案されている。
【0006】
しかしながら、膜をグリセリン等の水溶液に浸せきさせる方法は、膜モジュールを製造した後に、乾燥した膜モジュール中の膜をエタノール浸せきなどにより親水化させ、さらにグリセリン等の水溶液に浸せきする工程が必要であり、またモジュールからのグリセリン水溶液の漏出や、乾燥が起こらないように包装することが必要とされる。さらに、湿潤させた膜は、保管時に菌発生等が生じる可能性が高く、菌発生はモジュールの透水性を低下させる要因となるため、その抑制処理も要求される。
【0007】
一方、膜製造時に酸化チタンあるいは有機化クレイ等を分散させる方法においては、膜の親水性を高めるために、親水性物質の混入量を高める必要が生じるが、これらの混入量を高くしすぎると、製膜原液の相安定性が低下し、また得られた膜の耐薬品性あるいは強度が低下するため、添加量に限界がみられる。さらに、かかる方法では、親水性物質を微細化したとしても、素材のポリフッ化ビニリデン多孔質膜自体が疎水性であるため、膜全体を親水化することができず、性能向上にはやはり限界がみられる。
【0008】
膜の親水化方法のうち、膜表面をシリカガラスに転化させるものとしては、クラリアント社により製造されているパーヒドロポリシラザンが知られている。この物質を含有する市販品としては、AZエレクトロマテリアルズ社製品アクアミカシリーズが挙げられる。アクアミカは、パーヒドロポリシラザンを主成分としており、その希釈液を膜表面に塗装することにより、塗装面の水酸基、カルボキシル基などの官能基と化学結合するとともに、アクリル系やポリウレタン系などの樹脂と相溶するために高い密着性が得られるといった特徴を有している。また、次のような反応によって、膜塗装表面がシリカ(SiO2)となることで、親水性や汚泥性を高めることを可能とする。
( SiH2NH ) + 2H2O → ( SiO2 ) + NH3 + 2H2
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公平4−33302号公報
【特許文献2】特許第2,899,903号公報
【特許文献3】特開2006−63095号公報
【特許文献4】特開2002−95939号公報
【特許文献5】特開昭63−277251号公報
【特許文献6】特開2010−88996号公報
【特許文献7】WO2006/006340
【特許文献8】特開2006−169498号公報
【特許文献9】特開2004−352824号公報
【特許文献10】特開2005−296846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、熱誘起相分離法によるポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の親水化方法であって、透水性の大きな低下を招くことなく、膜を親水化する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる本発明の目的は、熱誘起相分離法によって作製されたポリフッ化ビニリデン系多孔質膜を、濃度0.01〜3重量%のパーヒドロポリシラザン含有溶液に浸せきした後、140〜165℃の温度で加熱乾燥を行うことによって達成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の親水化方法によれば、ポリフッ化ビニ
リデン系多孔質膜を所定濃度のパーヒドロポリシラザン含有溶液に浸せきすることで、膜細孔内に溶液が有効に染み込み、これを加熱することによって膜表面および膜細孔内表面に-SiO2-基が形成され、膜表面のみならず膜全体が親水化される。従って、乾燥した膜を用いて作製したモジュールを水処理する前にエタノール浸せき等の前処理を必要とせず、即使用が可能であり、また湿潤状態を維持するためのグリセリン溶液処理あるいは処理前のグリセリン水溶液漏洩あるいは膜の乾燥を防ぐための包装や除菌の必要性もないことから、親水化工程が簡素化されているといった効果を奏する。
【0013】
また、本発明方法によって親水化されたポリフッ化ビニリデン系多孔質膜は、透水性の大きな低下を招くことなく、膜が親水化されているといった特徴を有している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明方法においては、熱誘起相分離法によって作製されたポリフッ化ビニリデン系多孔質膜が、パーヒドロポリシラザン含有溶液への浸せきおよび加熱乾燥によって親水化される。なお、本発明方法は、熱誘起タイプ以外のポリフッ化ビニリデン系多孔質膜にも適用可能であるが、熱誘起タイプのポリフッ化ビニリデン系多孔質膜に対して特に有効である。
【0015】
ポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の製造法として用いられる熱誘起相分離法は、熱可塑性樹脂を加熱溶融させた状態でフタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチルなどの溶媒や疎水性シリカなどの添加剤(無機粒子等の造孔剤)とを均質混合し、これを加熱溶融状態で中空糸状または平膜状に成形した後、成形体を成形体成分の非溶解性液体(水など)への浸漬または空気中で冷却することでポリマー層と溶媒層とを相分離させ、これを溶液浸せきして膜中の溶媒や充填剤等を抽出し、多孔質膜を製膜するものである。
【0016】
かかる熱誘起相分離法が適用されるポリフッ化ビニリデン系樹脂の例としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、トリフルオロクロロエチレン、エチレン等の少なくとも一種との共重合体が挙げられ、好ましくはフッ化ビニリデン単独重合体が用いられる。ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量Mw(GPS法によるポリスチレン換算分子量として測定)は、100,000〜300,000程度であることが好ましい。Mwがこれよりも大きくなると、球晶構造の生成が顕著となり、一方Mwがこれよりも小さくなると、機械的強度が低下するようになる。
【0017】
熱誘起相分離法を適用するポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の製造法としては、前記特許文献1〜2等に開示されている公知の方法をそのまま用いることができ、本発明ではさらに重量平均分子量Mwが100,000〜300,000のポリフッ化ビニリデン系樹脂25〜35重量%と一般式

(ここでR1、R2、R3は同一または互いに異なるC4〜C6のアルキル基であり、R4はアシル基である)で表わされるクエン酸エステル化合物75〜65重量%との混合物を溶融成形した後、クエン酸エステル化合物抽出溶媒でクエン酸エステル化合物を除去し、多孔質化してポリフッ化ビニリデン系多孔質膜を製造するといった方法により製造されたポリフッ化ビニリデン系多孔質膜を用いることもできる。かかる製造法について、以下詳述する。
【0018】
熱誘起相分離法では、一般に熱可塑性樹脂と溶媒との混合物である製膜原液中の樹脂濃度が増大すると、球晶の生成が抑制される方向に働くが、クエン酸エステル化合物を用いる製膜原液にあっては樹脂濃度が増大するとかえって球晶が生成し、また樹脂濃度が小さくなると微細な球晶構造の生成がみられるので、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は溶媒であるクエン酸エステル化合物との合計量中25〜35重量%の割合で用いられなければならない。
【0019】
前記一般記で表わされるクエン酸エステル化合物において、基R1、R2、R3は同一または互いに異なるC4〜C6のアルキル基であり、基R4はアセチル基、ベンゾイル基等のアシル基であり、例えばアセチルクエン酸トリブチル、アセチルクエン酸トリペンチル、アセチルクエン酸トリヘキシルおよびこれらの混合物が挙げられ、好ましくはアセチルクエン酸トリブチルが用いられる。
【0020】
基R1、R2、R3において、アルキル基がC3以下の炭素数を有するクエン酸アルキルエステルでは、得られるポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の断面構造中に顕著な球晶の生成が認
められ、基R4が水素原子である場合にも同様である。一方、基R1、R2、R3において、アルキル基がC7以上の炭素数を有するクエン酸アルキルエステルでは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂との相溶性が悪化したり、得られた成形体からのクエン酸アルキルエステルの抽出が困難となる。
【0021】
クエン酸エステル化合物を用いるポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の製造法においては、クエン酸エステル化合物はポリフッ化ビニリデン系樹脂との合計量中75〜65重量%の割合で用いられる。
【0022】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂とクエン酸エステル化合物との所定割合の混合物は、それを溶融成形した後、クエン酸エステル化合物抽出溶媒でクエン酸化合物を除去し、成形体を多孔質化させるという熱誘起相分離法が適用される。
【0023】
その溶融混合温度や溶融成形温度は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂が溶融し、一相に混じり合う温度以上で、かつクエン酸エステル化合物の沸点以下の温度であり、一般には約150〜200℃、好ましくは約160〜180℃である。成形される多孔質体の形状は、平膜状でも中空糸膜状でもよい。
【0024】
平膜状の場合には、溶融混合物をTダイ等のダイスからシート状に押し出し、キャストロールを経て冷却固化させる方法、あるいは溶融混合物を予め冷却固化し、その固化物を熱プレスにより再度溶融させて成形し、冷却固化させる方法などが適用される。その膜厚は、一般に0.1〜1.0mm、好ましくは0.2〜0.5mmに設定される。
【0025】
中空糸膜状の場合には、二重環状ノズルから中空糸膜状に溶融押出し、所定の空走区間を経た後、冷却浴中に浸漬して固化させる方法が一般にとられる。冷却浴としては、廉価でかつ熱容量も大きいことから水が好んで用いられるが、成形体成分が溶解しない他の溶剤あるいは空冷であってもよい。また、中空糸膜の中空部形成用の流体には、押出温度以上の沸点を有する非溶解性の液体や空気、窒素等の気体を使用することができる。その膜厚は、一般に0.05〜3.0mm、好ましくは0.2〜2.0mmであり、外径は一般に0.1〜5.0mm、好ましくは0.3〜3.0mmに設定される。
【0026】
成形体を多孔質化するために用いられる製膜溶液(クエン酸エステル化合物)抽出溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0027】
ポリフッ化ビニリデン系多孔質膜は、所定濃度のパーヒドロポリシラザン含有溶液に浸せきした後、所定温度で加熱乾燥することによって、膜表面および膜細孔内表面に-SiO2-基が形成され、膜が親水化される。
【0028】
パーヒドロポリシラザン含有溶液としては、パーヒドロポリシラザンを、例えばキシレン、ジブチルエーテル、ソルベンツ、ターペン等の有機溶媒に溶解させたものが用いられ、実際には例えばAZエレクトロマテリアルズ社製品アクアミカシリーズを使用することができる。この溶液中のパーヒドロポリシラザン濃度は、0.01〜3重量%、好ましくは0.1〜2.5重量%で用いられ、これより高い濃度で用いられると、膜の細孔が小さくなることによって透水性が低下するようになり、一方これより低い濃度で用いられる所望の親水化効果を得ることが難しくなる。なお、パーヒドロポリシラザン含有溶液中には、触媒、例えばパラジウム系触媒、アミン系触媒等を含有せしめることもできる。
【0029】
膜の加熱乾燥は、140〜165℃、好ましくは145〜155℃の温度で行われる。これより高い温度で乾燥処理が行われると、膜が収縮してしまい、一方これより低い温度では、膜の親水化が十分に行われなくなる。この際の加熱乾燥時間は、一般に約10〜90分間程度である。
【0030】
得られる親水化ポリフッ化ビニリデン系多孔質膜は、下記式で示される通水1分後に測定した膜の透水性Xが、さらにエタノール浸せき前処理を行った場合の80%以上であるというように、本発明にかかる親水化処理のみであっても、透水性の大幅な低下はみられないといった特徴を有する。
X(%) = 100×J1/J0
J1:0.1MPaGの差圧がかかった状態で通水して1分後の純水透過係数
J0:親水化ポリフッ化ビニリデン系多孔質膜をエタノールに5分間浸せきし、
その後5分間水置換したのちに、0.1MPaGの差圧がかかった状態で通水して
1分後の純水透過係数
【実施例】
【0031】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0032】
実施例1
疎水性シリカ(日本アエロジル製品アエロジルR-972)24.0重量%、フタル酸ジオクチル29.7重量%およびフタル酸ジブチル5.8重量%をヘンシェルミキサで混合した後、ポリフッ化ビニリデン(クレハ製品クレハKFポリマー♯1000)40.5重量%を添加し、再びヘンシェルミキサで混合した。この混合物を、48mm径の二軸押出機を用いて220℃で加熱混合してペレットとした後、30mm径の二軸押出機に中空糸状紡糸口金を設けた中空糸製造装置を用いて、240℃で溶融押出した後に25℃で冷却し、中空糸状に成形した。得られた中空糸を30℃の塩化メチレン中に1時間浸せきして、フタル酸ジオクチルおよびフタル酸ジブチルを抽出して脱脂した後、乾燥させた。外径0.7〜2.0mm、内径0.4〜1.2mmの疎水性シリカ含有ポリフッ化ビニリデン系中空糸膜が得られた。
【0033】
次に、50%エチルアルコール水溶液に30分間浸せきし、さらに水中に移して30分間浸せきを行い、中空糸を親水化した。次いで、40℃、5%苛性ソーダ水溶液中に1時間浸せきする処理を2回行い、さらに40℃の温水浸せきを10回行い疎水性シリカの抽出を行った。
【0034】
水洗した中空糸膜は、エアーをブローすることで水の除去を行った後、パーヒドロポリシラザンの2重量%ターペン溶液(アクアミカNP140;アミン系触媒含有)に浸せきし、その後エアーをブローさせて余分なパーヒドロポリシラザン浸せき液を除去した後、150℃、1時間の乾熱処理を行った。
【0035】
得られた親水化ポリフッ化ビニリデン多孔質膜について、透水性能およびバブルポイントの測定を行った。
〔透水性能〕
T字状3方向に開口部を有するガラス管に、中空糸膜を1本挿入して中空糸膜両端部とガラス管との間をエポキシ樹脂にて接着し、中空糸膜の有効長160mmの透水性能評価用モジュールを作製した。中空糸膜一端部より25℃の純水を供給し、中空糸膜他端部側の圧力を調整することで、平均ロ過圧力0.1MPaGで中空糸膜内から中空糸膜外への水ロ過を行った。試験開始後1分後の透水量を測定し、10秒間の水透過量を中空糸膜内側表面積、平均圧力(中空糸内側と外側の水圧差0.1MPa)で除することで、純水透過係数J1(ml/時間・cm2・0.1MPa)を算出した。次いで、モジュールの中空糸膜外側の水を除いた後に、エタノールに5分間浸せきし、さらにその後5分間水での置換を行った後、0.1MPaGの差圧がかかった状態で通水し、1分後の透過係数J0(ml/時間・cm2・0.1MPa)を測定した。これらの結果より、透過率X(%) = 100×J1/J0を算出した。
なお、本発明方法によって得られる親水化ポリフッ化ビニリデン系多孔質膜は、乾燥状態にある初期の状態、すなわちエタノールによる親水化処理を行わない状態で使用することができるが、透水性能試験では、各比較例で得られたものについても、十分に湿潤した状態で透過係数を算出し、各実施例と比較するため、エタノール浸せき処理が行われた。
〔バブルポイント〕
SUS管上部にループ状の中空糸膜(ループ頂点までの高さ30〜40mm)を挿入し、挿入箇所をエポキシ樹脂にて接着したものの中空糸膜部をエタノールに浸せきした状態で、SUS管の中空糸膜を接着していない端部より圧力を印加し、膜の表面から気泡が出る圧力(バブルポイント)を測定した。
【0036】
実施例2
実施例1において、パーヒドロポリシラザン溶液として、さらにターペン溶媒で希釈し、0.1重量%としたものが用いられた。
【0037】
比較例1
実施例1において、パーヒドロポリシラザン溶液への中空糸膜の浸せきが行われず、また乾熱処理温度が50℃に変更されて乾熱処理が行われた。
【0038】
比較例2
実施例1において、パーヒドロポリシラザン溶液として20重量%のもの(アクアミカNP110;アミン系触媒、キシレン溶媒)が用いられた。
【0039】
比較例3
実施例1において、パーヒドロポリシラザン溶液として、さらにターペン溶媒で希釈し、0.005重量%としたものが用いられた。
【0040】
比較例4
透過係数(ml/時間・cm2・0.1MPa)が10、分画分子量2万のポリフェニルサルホン膜を、パーヒドロポリシラザン(アクアミカNP110)の2重量%溶液に浸せきし、その後エアーをブローさせて余分なパーヒドロポリシラザン浸せき液を除去した後、150℃、1時間の乾熱処理を行ったところ、処理後の膜は部分的に透明化しており、透過係数が0.001以下となっていた。
【0041】
実施例および比較例1〜3についての透水性能およびバブルポイントは、下記の表に示される。

測 定 項 目 実1 実2 比1 比2 比3
透過係数(ml/時間・cm2・0.1MPa)
初期通水時 J1 4173 4050 0.7 790 1000
エタノール親水化処理後 J0 4320 4500 4988 800 4700
透過率 X(%) 96.5 90.0 0.01 98.8 21.3
バブルポイント(kPaG) 210 205 200 300 200

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱誘起相分離法によって作製されたポリフッ化ビニリデン系多孔質膜を、濃度0.01〜3重量%のパーヒドロポリシラザン含有溶液に浸せきした後、140〜165℃の温度で加熱乾燥を行うことを特徴とするポリフッ化ビニリデン系多孔質膜の親水化方法。
【請求項2】
請求項1記載の親水化方法によって親水化処理が行われたポリフッ化ビニリデン系多孔質膜。

【公開番号】特開2012−183522(P2012−183522A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50078(P2011−50078)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】