説明

ポリブチレンテレフタレートの製造方法及び製造装置

【課題】経済性に優れたポリブチレンテレフタレートの連続製造方法あるいは装置を提供することにある。
【解決手段】第1反応器において芳香族ジカルボン酸またはその誘導体とグリコール類と混合物の原料を供給して、温度を220度〜275度にして平均重合度が3から7以下のオリゴエステルを製造し、第2反応器で温度を220度〜280度、圧力を大気圧から133Paの範囲にして平均重合度20から40の低重合物を製造し、第3反応器で温度を220度〜280度、圧力を220から13.3Pa の範囲にして平均重合度70から180度まで重縮合させてポリブチレンテレフタレートを製造するポリブチレンテレフタレートの連続製造方法であって、前記第3反応器がその内部に回転する撹拌ロータであって処理液の粘度に応じた複数個の撹拌翼ブロックを有した撹拌ロータを備え前記撹拌翼の中心部に回転シャフトを持たない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリブチレンテレフタレートの連続製造方法または製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート(以下PBTと記す)樹脂は結晶化特性に優れ、機械的性質,電気特性,耐熱性などが優れているため近年、電機,電子部品,機械部品,自動車用途等に適用され、着実に需要を伸ばしている。
【0003】
PBTの製造方法として以下のような方法が考えられる。原料としてジメチルテレフタレートを主成分とするテレフタル酸ジアルキルエステルと1,4−ブタンジオール(以下、BDと記す)を主成分とするグリコールを適当な割合で混合槽に入れ、エステル交換触媒を添加,調整した後、ポンプにより所定の反応温度に設定されたエステル交換反応槽へ送る。このエステル交換反応は撹拌翼付きの撹拌槽を2から3個直列に配置し、副反応物としてでるメタノールとBDの分解により生成されるテトラヒドロフラン(以下、THFと記す)と水とを蒸留塔で分離する。次に重合触媒を添加し重合反応工程へ行く。まず、前重合工程として立形撹拌槽や横形の撹拌槽が複数台設置され、さらに最終重合工程として横形の撹拌槽が設置されている。これらの重合工程の槽には副反応物として出るBD,THF,水を除去するためにコンデンサーが設置され、減圧雰囲気で運転される。従来のPBTの連続製造工程では反応槽の数が4から6缶あり、それぞれの反応槽には撹拌翼とその動力源が装備され、また副反応物を分離除去するための蒸留塔やコンデンサーが設置されている。さらに重合工程は減圧雰囲気で運転されるために真空手段は別の装置によって操作する必要があり、製造装置の運転には高額の維持費と装置経費を必要としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の製造方法では、多くの装置を必要とし、また工場設備運転のエネルギーも大きく、経済性に劣ると考えられる。
【0005】
本発明の目的は、経済性に優れたポリブチレンテレフタレートの連続製造方法あるいは装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、PBT製造の原料をテレフタル酸(以下、TPAと記す)と1,4−ブタンジオール(BD)とし、直接エステル化反応工程,前重合反応工程,最終重合反応工程をそれぞれ一槽とすることによって達成される。
【0007】
より詳細には、上記目的は、第1反応器において芳香族ジカルボン酸またはその誘導体とグリコール類とのモル比が1:1.2〜1:3.0の範囲の原料を供給して、この第1反応器の温度を220度〜275度にして前記原料を反応させ、生成物として平均重合度が3から7以下のオリゴエステルまたはポリエステルを製造し、第2反応器に前記第1反応器から供給された前記生成物を供給し、この第2反応器の温度を220度〜280度、圧力を大気圧から133Paの範囲にして前記生成物を反応させ、平均重合度20から40の低重合物を製造し、第3反応器に前記第2反応器から供給された前記低重合物を供給し、この第3反応器の温度を220度〜280度、圧力を220から13.3Pa の範囲にして前記低重合物を反応させ、平均重合度70から180度まで重縮合させてポリブチレンテレフタレートを製造するポリブチレンテレフタレートの連続製造方法であって、前記第3反応器がその内部に回転する撹拌ロータであって処理液の粘度に応じた複数個の撹拌翼ブロクを有した撹拌ロータを備え前記撹拌翼の中心部に回転シャフトを持たないポリブチレンテレフタレートの連続製造方法により達成される。
【0008】
または、原料としての芳香族ジカルボン酸またはその誘導体とグリコール類とのモル比が1:1.2〜1:3.0の範囲である原料が供給され、その温度が220度〜275度にされて前記原料を反応させて、生成物として平均重合度が3から7以下のオリゴエステルまたはポリエステルが製造される第1反応器と、この第1反応器から供給された前記生成物が供給され、その温度が220度〜280度及び圧力が大気圧から133Paの範囲にされて前記生成物を反応させ、平均重合度20から40の低重合物が製造される第2反応器と、この第2反応器から供給された前記低重合物が供給され、その温度が220度〜
280度、圧力を220から13.3Pa の範囲にして前記低重合物を反応させ、平均重合度70から180度まで重縮合させてポリブチレンテレフタレートを製造する第3反応器とを備えたポリブチレンテレフタレートの連続製造装置であって、前記第3反応器がその内部に回転する撹拌ロータであって処理液の粘度に応じた複数個の撹拌翼ブロクを有した撹拌ロータを備え前記撹拌翼の中心部に回転シャフトを持たないポリブチレンテレフタレートの連続製造装置により達成される。
【0009】
さらには、前記第3反応器は、横形の円筒状容器本体の長手方向の一端下部および他端下部にそれぞれ被処理液の入口および出口を有し、前記本体の上部に揮発物の出口を有したことにより達成される。
【0010】
さらにまた、前記第3反応器の撹拌翼の回転数範囲を0.5rpmから10rpm とすることにより達成される。
【0011】
さらにまた、前記第1反応器,第2反応器,第3反応器の合計反応時間が4から9時間の間で運転されることにより達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1に本発明の一実施例を示す。図1は本発明のPBTの連続製造プロセスの装置講成図である。
【0013】
工業的なポリブチレンテレフタレートの製造方法として、直接エステル化法が、経済的に非常に有利である。図において1はPBTの原料であるTPAとBDを所定の割合で混合,撹拌する原料調整槽である。なお、この段階で重合反応触媒や安定剤,品質調整剤などの添加物を加える場合がある。
【0014】
重合反応触媒としては有機チタン,有機錫,有機ジルコニア等の金属化合物があげられ、使用する触媒の種類や組み合わせにより、反応速度が異なるだけでなく、生成するPBTの色相及び熱安定性等の品質に大きな影響を及ぼす。さらにこれらの反応は触媒の存在化で高温で長時間行われるために種々の副反応が伴い、重合物が着色したり、THFの含有量や末端カルボキシル基濃度が適正値以上に増加して、PBTの品質劣化及び強度の低下などの物理的性質が低下したりする。
【0015】
このような問題点を改良するには、現在最も多く工業的に使用されている有機チタンが価格や性能面で優れている。しかし、この触媒を用いても生成したポリブチレンテレフタレート重合物の着色は避けられない。このために安定剤として燐系安定剤(例えば、リン酸,トリメチルホスフェート,トリフェニルホスフェート等)を併用して改善している。また、別の製造プロセスとして、重合触媒や安定剤の投入位置を工夫して品質を安定させることが考えられる。通常のプロセスでは触媒の量はチタン金属換算濃度で20から85
ppmを安定剤の量は必要に応じてP金属濃度で0から600ppmを用いるのが好ましい。
【0016】
以上のように調整された原料はエステル化反応槽3へ原料を供給する供給ライン2を経由して供給される。エステル化反応槽(第1反応器)3の外周部には処理液を反応温度に保つためにジャケット構造(図示せず)になっており液の内部には液の加熱手段として多缶式熱交換器4が設置され外部からの熱源により処理液を加熱し、自然循環により内部の液を循環しながら反応を進行させる。ここで最も望ましい反応器の型はエステル化反応を自己の反応により生成する副反応物の蒸発作用を利用して反応器内の処理液を自然循環させるカランドリア型が望ましい。この形の反応器は外部の撹拌動力源を必要としないため装置構成が単純でしかも撹拌軸の軸封装置も不要となり反応器の制作コストが安価となる利点がある。
【0017】
このような反応器の一例として特願平8−249769号明細書に示す様な装置が望ましい。しかし、本発明においてこの装置を限定するものではなくプロセス上の理由から撹拌翼を持った反応器を使用しても差し支えない。第1反応器において、反応により生成する水は水蒸気となり、気化したBD蒸気及びTHF蒸気と共に気相部5を形成する。
【0018】
このときの推奨すべき反応条件としては温度は220度から270度で加圧条件が望ましい。気相部5のガスはその上流側に設けられた精留塔(図示せず)により水とTHF及びBDとに分離され、水とTHF系外に除去され、BDは精製工程等を経て再び系内に戻される。本発明の利点としてエステル化工程を一つの反応器で処理することにより精留塔の数を一つにすることが可能となり、精留塔の制作経費だけでなく配管やバルブの数制御装置の数などを削減でき大幅な装置コストの低減となる。
【0019】
通常エステル化に必要な反応時間は2から5時間であるが、最適反応時間は原料のTPAとBDの混合比,反応温度,圧力により最適値が決定される。エステル化反応槽3で所定の反応時間経過した処理液は所定のエステル化率に到達し、連絡管6の途中に設けたオリゴマポンプ15により初期重合槽(第2反応器)7に供給される。さらに連絡管には途中添加装置16が設けられており、必要に応じて重合触媒の添加や追加,添加剤の投入が行われる。この途中添加装置では通常用いられる各種の添加剤、例えば帯電防止剤紫外線吸収剤等を添加することは何等問題は無く、添加装置の下流の連絡管にスタティックミキサやインラインミキサ等の分散装置を設置しても良い。
【0020】
その後、初期重合槽に供給された処理液は熱交換器8により所定の反応温度に加熱され重縮合反応を行い重合度を上昇させる。このときの反応条件としては220度から280度で圧力は266Paから133Paで重合度20から40程度まで反応させる。本実施例で示した初期重合槽は撹拌翼を持たない反応器を用いて説明しているが必ずしもこの種の反応器に限られるものではない。しかし、初期重合段階においては反応は重合反応速度が反応の速度の律束となっている段階であり反応に必要な熱量を十分に供給すれば反応は順調に進行していく。この観点から処理液は撹拌翼で不必要な撹拌作用を受ける必要はなく重縮合反応によって生成するBDが系外に離脱するだけでよい。このような操作に最適な反応器としては特願平8−233855号明細書に示す様な装置が望ましい。
【0021】
反応により発生するBD及び水とTHFは減圧雰囲気に保たれた気相部9で気化し、その上流側に設けられたコンデンサーで凝縮した後に系外へ排出される。本発明の利点として初期重合工程を一つの反応器で処理することによりコンデンサーの数を一つにすることが可能となり、コンデンサーの制作経費だけでなく配管やバルブの数制御装置の数などを削減でき大幅な装置コストの低減となる。
【0022】
初期重合槽(第2反応器)7で所定の反応時間を経過した処理液は連絡管10により最終重合機(第3反応器)11に供給される。最終重合機では中心部に撹拌軸の無い撹拌翼12により良好な表面更新作用を受けながらさらに重縮合反応を進め重合度を上昇させ目的の重合度のポリマーを製造する。最終重合機(第3反応器)として最適な装置としては特願平8−233857号明細書に記載の装置が表面更新性能,消費動力特性が最も優れている。また、処理液の粘度範囲が広いので従来、2槽に分割したりして処理していたものを一台の装置で可能となり大幅な装置コストの低減となる。品質面から、重合工程全体の滞留時間は2から4時間が最適な範囲である。
【0023】
以上の装置構成においてPBTを連続製造すると従来の装置構成と比較して、反応器の数が減少しているために装置の製作経費が節約出来るのと装置数の減少に伴い装置に付随する蒸留塔やコンデンサーを減少させ、それらを連結する配管や計装部品やバルブ類を大幅に節約できると共に真空源や熱媒装置等のユーティリチィ関係費が大幅に低下するのでランニングコストが安くなる利点がある。
【0024】
表1に実験例を示す。
【0025】
実験例の極限粘度はフェノール50wt%,テトラクロロエタン50wt%を溶媒とし、オストワルド粘度計を使用し、測定温度30℃での測定結果より算出した値で、酸価はベンジルアルコールを溶媒とし230℃,5分間加熱溶解し、中和滴定して測定した値である。表1に示した如く、TPAとBDの直接エステル化の連続製造運転により製造したもので、溶融重合のみで極限粘度0.7 以上,酸価25以下の高品質のPBTが得られた。
【0026】
【表1】

【0027】
上記の実施例によれば、PBTの連続製造設備を直接エステル化工程,前重合工程,最終重合工程の3つの反応器とすることにより、装置全体の効率を向上し、製造設備のエネルギー節約により経済的に操作するものである。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるポリブチレンテレフタレートの連続製造装置の一実施例を示す構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1…原料調整槽、2…原料供給ライン、3…エステル化反応槽、4,8…熱交換器、5,9…気相部、6,10…連絡管、7…初期重合槽、11…最終重合機、12…撹拌翼、13…ポリマー、14…撹拌動力源、15…オリゴマポンプ、16…途中添加装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1反応器において芳香族ジカルボン酸またはその誘導体とグリコール類とのモル比が1:1.2〜1:3.0の範囲の原料を供給して、この第1反応器の温度を220度〜275度にして前記原料を反応させ、生成物として平均重合度が3から7以下のオリゴエステルまたはポリエステルを製造し、
第2反応器に前記第1反応器から供給された前記生成物を供給し、この第2反応器の温度を220度〜280度、圧力を大気圧から133Paの範囲にして前記生成物を反応させ、平均重合度20から40の低重合物を製造し、
第3反応器に前記第2反応器から供給された前記低重合物を供給し、この第3反応器の温度を220度〜280度、圧力を220から13.3Pa の範囲にして前記低重合物を反応させ、平均重合度70から180度まで重縮合させてポリブチレンテレフタレートを製造するポリブチレンテレフタレートの連続製造方法であって、
前記第3反応器がその内部に回転する撹拌ロータであって処理液の粘度に応じた複数個の撹拌翼ブロックを有した撹拌ロータを備え前記撹拌翼の中心部に回転シャフトを持たないポリブチレンテレフタレートの連続製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のポリブチレンテレフタレートの連続製造方法であって、
前記第3反応器は、横形の円筒状容器本体の長手方向の一端下部および他端下部にそれぞれ被処理液の入口および出口を有し、
前記本体の上部に揮発物の出口を有したポリブチレンテレフタレートの連続製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリブチレンテレフタレートの連続製造方法であって、
前記第3反応器の撹拌翼の回転数範囲を0.5rpmから10rpm とするポリブチレンテレフタレートの連続製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの連続製造方法であって、
前記第1反応器,第2反応器,第3反応器の合計反応時間が4から9時間の間で運転されるポリブチレンテレフタレートの連続製造方法。
【請求項5】
原料としての芳香族ジカルボン酸またはその誘導体とグリコール類とのモル比が1:
1.2〜1:3.0の範囲である原料が供給され、その温度が220度〜275度にされて前記原料を反応させて、生成物として平均重合度が3から7以下のオリゴエステルまたはポリエステルが製造される第1反応器と、
この第1反応器から供給された前記生成物が供給され、その温度が220度〜280度及び圧力が大気圧から133Paの範囲にされて前記生成物を反応させ、平均重合度20から40の低重合物が製造される第2反応器と、
この第2反応器から供給された前記低重合物が供給され、その温度が220度〜280度、圧力を220から13.3Pa の範囲にして前記低重合物を反応させ、平均重合度
70から180度まで重縮合させてポリブチレンテレフタレートを製造する第3反応器とを備えたポリブチレンテレフタレートの連続製造装置であって、
前記第3反応器がその内部に回転する撹拌ロータであって処理液の粘度に応じた複数個の撹拌翼ブロックを有した撹拌ロータを備え前記撹拌翼の中心部に回転シャフトを持たないポリブチレンテレフタレートの連続製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載のポリブチレンテレフタレートの連続製造装置であって、
前記第3反応器は、横形の円筒状容器本体の長手方向の一端下部および他端下部にそれぞれ被処理液の入口および出口を有し、
前記本体の上部に揮発物の出口を有したポリブチレンテレフタレートの連続製造装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載のポリブチレンテレフタレートの連続製造装置であって、
前記第3反応器の撹拌翼の回転数範囲を0.5rpmから10rpm とするポリブチレンテレフタレートの連続製造装置。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレートの連続製造装置であって、
前記第1反応器,第2反応器,第3反応器の合計反応時間が4から9時間の間で運転されるポリブチレンテレフタレートの連続製造装置。


【図1】
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【公開番号】特開2006−89761(P2006−89761A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371283(P2005−371283)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【分割の表示】特願平11−139674の分割
【原出願日】平成11年5月20日(1999.5.20)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】